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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024021161
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】制振建物
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20240208BHJP
【FI】
E04H9/02 301
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022123804
(22)【出願日】2022-08-03
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大住 和正
(72)【発明者】
【氏名】中島 俊介
【テーマコード(参考)】
2E139
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AA05
2E139AC19
2E139AC26
2E139AC40
2E139AC43
2E139BD50
(57)【要約】
【課題】外部建物の内側に内部建物を構築し、これらを制振部材により連結する制振建物において、建物の高さや平面形状に制約を受けることなく、内部建物の剛性を確保し、高い制振効果を得ることである。
【解決手段】外部建物の内側に該外部建物に比べて剛性の高い内部建物を構築するとともに、該内部建物と前記外部建物との間に設けた隙間に制振部材を設け、該制振部材で、前記内部建物と前記外部建物とを連結する制振建物において、前記内部建物は、下部建物と上部建物と分割されて、前記上部建物の高さ方向中間部に、前記外部建物と一体に接続される接続構造が設けられ、前記制振部材が、少なくとも前記下部建物及び前記上部建物各々の上端近傍に設けられている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部建物の内側に該外部建物に比べて剛性の高い内部建物を構築するとともに、該内部建物と前記外部建物との間に設けた隙間に制振部材を設け、
該制振部材で、前記内部建物と前記外部建物とを連結する制振建物において、
前記内部建物は、下部建物と上部建物と分割されて、
前記上部建物の高さ方向中間部に、前記外部建物と一体に接続される接続構造が設けられ、
前記制振部材が、少なくとも前記下部建物及び前記上部建物各々の上端近傍に設けられていることを特徴とする制振建物。
【請求項2】
請求項1に記載の制振建物において、
前記接続構造が、高さ方向に複数設けられていることを特徴とする制振建物。
【請求項3】
請求項1に記載の制振建物において、
前記接続構造に、ベルトトラスが用いられていることを特徴とする制振建物。
【請求項4】
請求項1に記載の制振建物において、
前記制振部材が、前記上部建物の上端近傍と下端近傍に設けられていることを特徴とする制振建物。
【請求項5】
請求項1に記載の制振建物において、
前記下部建物と前記上部建物との間に、鉛直荷重伝達機構が設けられていることを特徴とする制振建物。
【請求項6】
請求項5に記載の制振建物において、
前記鉛直荷重伝達機構が、直動転がり支承であることを特徴とする制振建物。
【請求項7】
請求項1に記載の制振建物において、
前記接続構造に、作業床が設けられていることを特徴とする制振建物。
【請求項8】
請求項1に記載の制振建物において、
前記外部建物が、屋根架構を有するとともに、
該屋根架構と前記上部建物とが絶縁されていることを特徴とする制振建物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外部建物と、外部建物の内側に構築された高い剛性を有する内部建物とを備えた制振建物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ラーメン架構を有する外部建物の内側に剛性が高い内部建物を構築し、これらを制振部材により連結した制振建物が知られている。この制振建物は、地震力や風荷重による大きな水平力が入力された場合に、外部建物と内部建物の変形モードが異なることを利用して、制振部材により効率よく振動エネルギーを吸収するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-19479号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の制振建物は、外部建物の剛性を高めることなく耐震性を向上できることから、外部建物の梁や柱を省略するなどして、居住スペースの平面計画に自由度も確保することが可能である。ところが、超高層ビルの高さを超える超々高層ビルや、平面形状の小さい建物に対して、特許文献1の制振建物を採用しようとすると内部建物の剛性を確保できず、満足な制振効果を得ることが困難であった。
【0005】
本発明は、かかる課題に鑑みなされたものであって、その主な目的は、外部建物の内側に内部建物を構築し、これらを制振部材により連結する制振建物において、建物の高さや平面形状に制約を受けることなく、内部建物の剛性を確保し、高い制振効果を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するため本発明の制振建物は、外部建物の内側に該外部建物に比べて剛性の高い内部建物を構築するとともに、該内部建物と前記外部建物との間に設けた隙間に制振部材を設け、該制振部材で、前記内部建物と前記外部建物とを連結する制振建物において、前記内部建物は、下部建物と上部建物とに分割されて、前記上部建物の高さ方向中間部に、前記外部建物と一体に接続される接続構造が設けられ、前記制振部材が、少なくとも前記下部建物及び前記上部建物各々の上端近傍に設けられていることを特徴とする。
【0007】
本発明の制振建物は、前記接続構造が、高さ方向に複数設けられていることを特徴とする。
【0008】
本発明の制振建物は、前記接続構造に、ベルトトラスが用いられていることを特徴とする。
【0009】
本発明の制振建物は、前記制振部材が、前記上部建物の上端近傍と下端近傍に設けられていることを特徴とする。
【0010】
本発明の制振建物は、前記下部建物と前記上部建物との間に、鉛直荷重伝達機構が設けられていることを特徴とする。
【0011】
本発明の制振建物は、前記鉛直荷重伝達機構が、直動転がり支承であることを特徴とする。
【0012】
本発明の制振建物は、前記接続構造に作業床が設けられていることを特徴とする。
【0013】
本発明の制振建物は、前記外部建物が屋根架構を有するとともに、該屋根架構と前記上部建物とが絶縁されていることを特徴とする。
【0014】
本発明の制振建物によれば、内部建物を上部建物と下部建物に分割し、両者の高さを外部建物に比べて十分低くするため、上部建物と下部建物の両者に対して容易に、外部建物と比較して高い剛性を確保できる。
【0015】
また、上部建物の高さ方向中間部に接続構造を設けて、接続構造の高さ位置で上部建物と外部建物とを一体に接続する。すると、地震動などの外力が作用すると、上部建物は、接続構造を設けた高さ位置を支点にして、外部建物とは異なる振動モードで振動する。したがって、上部建物と外部建物との間に変形差が大きくなる範囲が生じる。
【0016】
また、下部建物も外部建物とは異なる振動モードで振動するため、外部建物との間に変形差が大きくなる範囲が生じる。これにより、この下部建物及び上部建物と外部建物との変形差が大きくなる範囲各々に制振部材を配置することで、制振建物が超高層ビルより高い超々高層ビルである場合や、敷地面積の制約により平面形状が小さい場合にも、連結制振構造による制振効果を得ることが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、外部建物の内側に内部建物を構築し、これらを制振部材により連結する制振建物において、建物の高さや平面形状に制約を受けることなく、内部建物の剛性を確保し、高い制振効果を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施の形態における制振建物を示す図である。
図2】本発明の実施の形態における上部建物と下部建物の間に介装置される鉛直荷重伝達機構の一例を示す図である。
図3】本発明の実施の形態における上部構造と外部建物を接続する接続構造を示す図である。
図4】本発明の実施の形態における制振建物に地震動などの外力が作用した状態を示す図である。
図5】本発明の実施の形態における制振部材の設置構造を示す図である。
図6】本発明の実施の形態における接続構造の他の事例を示す図である。
図7】本発明の実施の形態における接続構造の他の事例を示す図である。
図8】本発明の実施の形態における制振建物の他の事例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の制振建物について、図1図8を参照しつつ、以下に詳細を説明する。
【0020】
図1で示すように、制振建物10は、外部建物20、内部建物30、ボイド空間40、制振ダンパー50、鉛直荷重伝達機構60、及び接続構造70を備える。
【0021】
≪≪外部建物≫≫
外部建物20は、地中に設けた基礎構造80に支持された平面視矩形形状のラーメン架構よりなる高層建物である。その構造は、一般的なラーメン架構に比べて、柱21や梁22の寸法が小さく形成され、さらに、柱21間のスパンが広く、柱21及び梁22の数が少ない。したがって、外部建物20は一般的なラーメン架構に比べて、剛性が低くなっている。このような外部建物20には、天端に屋根架構24が設けられているとともに、この屋根架構24に覆われたボイド空間40が、内部に設けられている。
【0022】
ボイド空間40は、図1及び図2で示すように、外部建物20の内周壁25に囲まれた上下方向に延在する空間であり、平面視矩形形状に形成されている。自然換気を利用した換気や排気のスペースとして、また、共通室外機などの設備機器が設置され設備機器スペースとして利用されるだけでなく、内部建物30を設ける空間として、利用されている。
【0023】
≪≪内部建物、下部建物、上部建物≫≫
内部建物30は、図1で示すように、地中に設けた基礎構造80に支持された鉄筋コンクリート造の建物であり、外部建物20とは独立して構築されている。また、内部建物30は高さ方向に分割されて、下部建物30Aと上部建物30Bとを備える。
【0024】
下部建物30Aは、図2で示すように平面視矩形形状に構築され、外周壁31Aと外部建物20の内周壁25とは、間隔D1を設けて対向している。また、外周壁31Aには耐震壁が用いられて、下部建物30Aは下部連続耐震壁を備えている。
【0025】
一方、上部建物30Bも同様に、図3(a)で示すように平面視矩形形状に構築され、外周壁31Bと外部建物20の内周壁25とは、間隔D1を設けて対向している。そして、外周壁31Bには耐震壁が用いられて、上部建物30Bは上部連続耐震壁を備えている。
【0026】
このような構成の下部建物30Aと上部建物30Bとの間には、図1で示すように鉛直荷重伝達機構60が介装されている。したがって、鉛直荷重伝達機構60を介して下部建物30Aには、上部建物30Bにおける鉛直荷重の少なくとも一部が、伝達される構造となっている。また、上部建物30Bには、下端よりやや上方の高さ位置に、接続構造70が設けられている。
【0027】
接続構造70は、上部建物30Bと外部建物20とを一体に接続する機能と、上部建物30Bの変形を外部建物20の外周柱23で抑制する機能を有している。これらの機能を有していれば、いずれの構造を採用してもよいが、図3(a)(b)では、ベルトトラス71を採用する場合を事例に挙げている。
【0028】
ベルトトラス71は、図3(a)で示すように平面視で、平面視矩形形状の上部建物30Bにおける外周壁31Bの短辺と同一平面を形成するようにして、外周壁31Bから2方向に4体が張り出している。また、ベルトトラス71の設置階は複数にわたり、図3(b)では3階にわたって配置する場合を例示している。このように配置されるベルトトラス71は、上部建物30Bの外周壁31Bと外部建物20の外周柱23とを緊結し、上部建物30Bの変形を外部建物20の外周柱23で抑制している。
【0029】
上記の構成を有する内部建物30は、図1で示すように、下部建物30Aと上部建物30Bがその高さを、外部建物20に比べて十分低く構築されている。そして、前述したように、下部建物30Aには下部連続耐震壁が形成され、上部建物30Bには上部連続耐震壁が形成されている。これにより、両者には外部建物20と比較して、高い剛性が確保されている。
【0030】
したがって、下部建物30A及び上部建物30Bの固有周期は外部建物20に比べて短い。これにより、地震動などの外力が作用すると図4で示すように、下部建物30Aは基礎構造80近傍の高さ位置を支点にして、外部建物20とは異なる振動モードで振動する。このため、下部建物30Aの上端近傍と外部建物20との間に変形差が大きくなる範囲E1が生じる。
【0031】
また、上部建物30Bは接続構造70近傍の高さ位置を支点にして、外部建物20とは異なる振動モードで振動する。これにより、上部建物30Bの上端近傍と外部建物20との間に変形差が大きくなる範囲E2が生じる。したがって、この変形差が大きくなる高さ範囲E1、E2に、制振ダンパー50が設けられている。
【0032】
≪≪制振ダンパー、外部基礎、内部基礎≫≫
制振ダンパー50は、オイルダンパー、摩擦ダンパー、粘性ダンパー、粘弾性ダンパー、履歴型ダンパー、又はこれらを組み合わせたものを用いることができ、図5では、減衰こまを採用する場合を事例に挙げている。
【0033】
減衰こまは、筒型の粘性減衰装置であり、外筒と内筒との間に粘性材を封入している。これにより、地震動などの外力が作用した場合に発生する軸変形を、ロータリーボールねじを介して内筒の高速回転変形に変換し、外筒との相対速度により粘性減衰力を発生させる装置である。
【0034】
上記の制振ダンパ―50は、下部建物30A及び上部建物30Bの変形差が大きくなる高さ範囲E1、E2において、外周壁31A、31Bと外部建物20の内周壁25の両者に直接取り付けてもよいし、設置用基礎を設けて、これに取り付ける構成としてもよい。制振ダンパ―50の設置用基礎について、図5で示す上部建物30Bと外部建物20との間に設ける場合を事例に挙げて説明すると、内部基礎33Bと外部基礎26とを備える。
【0035】
外部基礎26は、図5で示すように、外部建物20の内周壁25と柱21との間に形成されているスラブ27の一部が、ボイド空間40側へ突出した平面視で長方形状の凸部であり、4つの内周壁25各々の中央近傍に設けられている。一方、内部基礎33Bは、平面視矩形形状の上部建物30Bにおける外周壁31Bの長辺に設けられた、ボイド空間40側へ突出する凸部である。これらは、外周壁31Bにおける四隅各々の近傍に設けられている。
【0036】
そして、外部基礎26と上部建物30Bの外周壁31Bとは、間隔D2(<D1)を有して対向している。また、内部基礎33Bと外部建物20の内周壁25とは、間隔D3(>D2,<D1)を有して対向している。このとき、間隔D2は、極大地震よりも小さい通常想定される地震・風で生じる外部建物20と上部建物30Bとの水平方向への相対変位量を上回るが、極大地震で生じる外部建物20と上部建物30Bとの水平方向への相対変位量は下回るように設定されている。
【0037】
この間隔D2を超えない大きさに、制振ダンパー50の伸長ストローク量および収縮ストローク量の最大量Sが設定されている。この制振ダンパー50は、変形差が大きくなる高さ範囲E2に含まれる階層ごとに、上部建物30Bの四隅から外部建物20に向かう2方向に延びるようにして、合計8体が略水平に配置され、上部建物30Bと外部建物20とを連結している。
【0038】
その取付構造は、上部建物30Bと外部建物20との間で、制振ダンパー50の一端を外部建物20に設けた外部基礎26の側面に、ヒンジ51を介して回動可能に取り付けられている。また、制振ダンパー50の他端は、上部建物30Bに設けた内部基礎33Bの側面にヒンジ51を介して回動可能に取り付けられている。
【0039】
下部建物30Aと外部建物20との間に取り付ける制振ダンパー50も、同様に、一端を外部建物20に設けた外部基礎26の側面に、ヒンジ51を介して回動可能に取り付けられている。他端は、下部建物30Aに設けた内部基礎33Aの側面にヒンジ51を介して回動可能に取り付けられている。また、上部建物30Bと同様に、外部基礎26と下部建物30Aの外周壁31Aとは、間隔D2(<D1)を有して対向している。また、内部基礎33Aと外部建物20の内周壁25とは、間隔D3(>D2,<D1)を有して対向している。
【0040】
なお、本実施形態では、制振ダンパー50を平面的に配置するものとしたが、上部建物30Bと外部建物20もしくは下部建物30Aと外部建物20の、異なる高さの位置を結ぶように設置することもできる。
【0041】
上記の構成を有する制振建物10は、地震などの外力が作用すると図4で示すように、下部建物30Aに対して外部建物20が、水平方向何れの方向に相対移動しても、両者の変形差が大きくなる高さ範囲E1に設けられた制振ダンパー50により、効率よく振動エネルギーを吸収することができる。同様に、上部建物30Bに対して外部建物20が、水平方向何れの方向に相対移動しても、両者の変形差が大きくなる高さ範囲E2に設けられた制振ダンパー50により、効率よく振動エネルギーを吸収することができる。
【0042】
これにより、制振建物10の高さが超高層ビルより高い超々高層ビルである場合や、敷地面積の制約により平面形状が小さい場合にも、連結制振構造による高い制振効果を得ることが可能となる。
【0043】
また、制振ダンパー50の設置階において、図5で示すように、外部建物20に、上部建物30Bに向けて突出する凸部である外部基礎26が設けられ、外部基礎26と上部建物30Bの外周壁31Bとの間隔D2は、制振ダンパー50の収縮ストローク量又は伸長ストローク量の最大量Sよりも狭く設定されている。これらは、下部建物30Aについても同様である。
【0044】
これにより、極大地震発生時に、外部建物20の外部基礎26と内部建物30とを衝突させて、制振ダンパー50の収縮ストローク量又は伸長ストローク量を、最大量S未満に抑えることができる。したがって、制振ダンパー50のストローク長を従前と同様に設定でき、また、外部建物20と内部建物30との間隔D1も、従前と同様に設定できる。このため、建築計画に支障が生じることがなく、経済的にもデメリットは生じない。また、制振ダンパー50の大型化によるコストの増加を防止することもできる。
【0045】
また、図1で示すように外部建物20は、十分な耐震性を確保するために高い剛性を持たせる必要がない。したがって、通常のラーメン構造より柱21や梁22の数を少なくするだけでなく、各部材の径を細くすることもできる。これにより、居住ユニット28を開放的なものとし、居住性を向上することができる。
【0046】
さらに、内部建物30を構成する下部建物30A及び上部建物30Bの内部は、外周壁31A、31Bに開口を多数設ける必要のない設備を設ける空間として利用することができる。例えば、下部建物30Aは、立体駐車機32などを設置できる。
【0047】
立体駐車機32は騒音源となるが、下部建物30Aは、外周壁31Aを耐震壁とし、また、外部建物20に対して独立して設けている。このため、外部建物20への振動及び騒音を遮断することが可能となる。なお、立体駐車機32への車両の出入りは、例えば、外部建物20の地上階に設けられた出入口を通して行えばよい。
【0048】
本発明の制振建物及び建物の制振構造は、上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の変更が可能であることはいうまでもない。
【0049】
≪≪制振建物の他の実施例:接続構造≫≫
例えば、図1では、上部建物30Bと外部建物20を一体に接続する接続構造70を、上部建物30Bの下端よりやや上方の1地点に設ける場合を事例に挙げたが、これに限定するものではない。図6で示すように、接続構造70を、上部建物30Bの高さ方向中間部の2地点に設ける構成としてもよい。もしくは、図7で示すように、接続構造70を、上部建物30Bの中層階に設ける構造としてもよい。
【0050】
つまり、接続構造70は、上部建物30Bの上端及び下端を除く高さ方向中間部であれば、その位置や数量はいずれでもよい。なお、図7で示すように、接続構造70を上部建物30Bの中層階に設けると、上部建物30Bの上層階近傍だけでなく下層階近傍にも、外部建物20との変形差が大きくなる高さ範囲E3が生じる場合がある。この場合には、この高さ範囲S3にも、制振ダンパー50を設ける。
【0051】
また、接続構造70にベルトトラス71を採用する場合を例示したが、上部建物30Bと外部建物20を一体に接続できれば、その構造はいずれでもよい。例えば、上部建物30Bの外周壁31Bと同様に、鉄筋コンクリート造の耐震壁を採用するなどしてもよい。
【0052】
さらに、ベルトトラス71は、図3(a)で示すように、平面視で2方向に4体張り出す構成としたが、4方向に張り出させて放射状に設けてもよい。また、ベルトトラス71の設置階も、複数もしくは単数のいずれでもよい。
【0053】
≪≪制振建物の他の実施例:鉛直荷重伝達機構≫≫
図1では、上部建物30Bと下部建物30Aとの間に鉛直荷重伝達機構60を設け、この鉛直荷重伝達機構60を利用して上部建物30Bの鉛直荷重の一部を、下部建物30Aで支持する場合を例示した。しかし、図8で示すように、鉛直荷重伝達機構60を省略し、上部建物30Bを接続構造70を介して外部建物20で支持する構成としてもよい。
【0054】
また、図1では、鉛直荷重伝達機構60として直動転がり支承61を採用する場合を事例に挙げている。しかし、上部建物30Bと下部建物30Aを絶縁し、上部建物30Bにおける鉛直荷重の一部を伝達できれば、すべり支承や積層ゴムなどを採用してもよい。もしくは、制振装置を採用してもよい。
【0055】
なお、直動転がり支承61は、図2及び図3(b)で示すように、下部建物31の屋根部34に設置された一対の下リニアレール611と、上部建物30Bの床版35に設置され、一対の下リニアレール611に直交する一対の上リニアレール612とを有する。
【0056】
また、下リニアレール611と上リニアレール612との交差部に介装される4台のリニアブロック613を有する。そして、図2で示すように、4台のリニアブロック613は、下リニアレール611及び上リニアレール612の両者に沿って移動自在に構成されているため、上部建物30Bの鉛直荷重のみを下部建物31に伝達できる。
【0057】
≪≪制振建物の他の実施例:作業床≫≫
さらに、上部建物30Bと外部建物20を一体に接続する接続構造70について、例えば、図7で示すように下端に作業床72を設けて、ボイド空間40に作業空間を形成してもよい。
【0058】
≪≪制振建物の他の実施例:吹抜け≫≫
加えて、外部建物20の上端には、図1で示すように屋根架構24を設け、上部建物30Bの上方に吹抜け41を確保している。しかし、屋根架構24を設ける場合に、その高さ位置は上部建物30Bと絶縁されていればいずれでもよく、例えば図8で示すように、屋根架構24をボイド空間40内に設けて、屋根架構24を上部建物30Bの直上に配置し、吹抜け41を省略してもよい。
【0059】
≪≪制振建物の他の実施例:下部建物≫≫
また、下部建物30Aは図1で示すように、地中に設けた基礎構造80に支持されて、外部建物20とは独立して構築されている。しかし、図8で示すように、外部建物20の低層階の梁22と、下部建物30Aの低層階の梁36とを連続して構築し、外部建物20と下部建物30Aの低層階とを、構造的に接続された一体構造としてもよい。
【符号の説明】
【0060】
10 制振建物
20 外部建物
21 柱
22 梁
23 外周柱
24 屋根架構
25 内周壁
26 外部基礎
27 スラブ
28 居住ユニット
30 内部建物
30A 下部建物
30B 上部建物
31A 外周壁
31B 外周壁
32 立体駐車機
33A 内部基礎
33B 内部基礎
34 屋根部
35 床版
36 梁
40 ボイド空間
41 吹抜け
50 制振ダンパー
51 ヒンジ
60 鉛直荷重伝達機構
61 直動転がり支承
611 下リニアレール
612 上リニアレール
613 リニアブロック
70 接続構造
71 ベルトトラス
72 作業床
80 基礎構造
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8