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特開2024-21165IFN-γへ選択的に結合するDNAオリゴヌクレオチドを含有するドライアイ治療薬
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024021165
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】IFN-γへ選択的に結合するDNAオリゴヌクレオチドを含有するドライアイ治療薬
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/711 20060101AFI20240208BHJP
   A61P 27/04 20060101ALI20240208BHJP
   A61K 38/13 20060101ALI20240208BHJP
   A61K 31/42 20060101ALI20240208BHJP
   A61K 31/519 20060101ALI20240208BHJP
   A61K 31/436 20060101ALI20240208BHJP
   A61K 31/57 20060101ALI20240208BHJP
   C12N 15/115 20100101ALN20240208BHJP
【FI】
A61K31/711
A61P27/04
A61K38/13
A61K31/42
A61K31/519
A61K31/436
A61K31/57
C12N15/115 Z ZNA
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022123810
(22)【出願日】2022-08-03
(71)【出願人】
【識別番号】508098800
【氏名又は名称】タグシクス・バイオ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100196117
【弁理士】
【氏名又は名称】河合 利恵
(74)【代理人】
【識別番号】100140914
【弁理士】
【氏名又は名称】三苫 貴織
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】堀 美幸
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA03
4C084DA11
4C084MA17
4C084MA58
4C084NA14
4C084ZA331
4C084ZA332
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC67
4C086CB09
4C086CB22
4C086DA10
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA17
4C086MA58
4C086NA14
4C086ZA33
(57)【要約】
【課題】IFN-γを選択的に阻害することができ、生物学的汚染のおそれが無く、室温での保存が可能であるドライアイ治療薬を提供する。
【解決手段】配列番号1から3のいずれかに記載の塩基配列を有し、IFN-γへ選択的に結合するDNAオリゴヌクレオチドを有効成分として含有するドライアイ治療薬を提供する。配列番号3に記載の塩基配列を有するDNAオリゴヌクレオチドは、配列中の塩基Xが人工的に製造された塩基であり、人工的に製造された塩基が低分子化合物、中分子化合物、高分子化合物、生体高分子、または生体親和性のあるポリマーで化学修飾されていてもよい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1から3のいずれかに示される塩基配列を有し、インターフェロンγ(IFN-γ)へ選択的に結合するDNAオリゴヌクレオチドを有効成分として含有するドライアイ治療薬。
【請求項2】
配列番号3に示される塩基配列を有する前記DNAオリゴヌクレオチドの配列中の塩基Xが人工的に製造された塩基であり、前記人工的に製造された塩基が、低分子化合物で化学修飾された、請求項1に記載のドライアイ治療薬。
【請求項3】
前記低分子化合物が、グルココルチコイド、タクロリムス、シロリムス、サイクロスポリン、メトトレキサート、レフルノミドから選択される抗炎症化合物である、請求項2に記載のドライアイ治療薬。
【請求項4】
配列番号3に示される塩基配列を有する前記DNAオリゴヌクレオチドの配列中の塩基Xが人工的に製造された塩基であり、前記人工的に製造された塩基が中分子化合物、高分子化合物、生体高分子、または生体親和性のあるポリマーで化学修飾された、請求項1に記載のドライアイ治療薬。
【請求項5】
前記高分子化合物が、分子量20000以上のポリエチレングリコール(PEG)、または、分子量20000以上の生体親和性のある任意の高分子である、請求項4に記載のドライアイ治療薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IFN-γへ選択的に結合するDNAオリゴヌクレオチドを含有するドライアイ治療薬に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ドライアイは、眼表面の乾燥により引き起こされる眼疾患の総称である。ドライアイは、様々な要因により涙液層の安定性が低下する疾患であり、眼不快感や視機能異常を生じ、眼表面の障害を伴うことがあると定義されている(非特許文献1)。さらに症状が悪化した場合は角膜移植や失明に至ることもある疾患である。日本におけるドライアイの患者は、日本眼科学会によると2200万人以上と推計されており(非特許文献2)、増加傾向にある。ドライアイの発症機序として「涙液層の安定性の低下」が重要であり、涙液が不安定になる要因は、涙液量の減少、涙液表面張力の上昇、涙液の蒸発亢進、角結膜上皮の親水性(水濡れ性)低下である。臨床的にこれらは、涙液減少型ドライアイ、マイボーム腺機能不全に伴うドライアイ、IT眼症やvideo display terminal作業など環境因子によるドライアイ、眼表面のムチン異常によるドライアイとして考えられている。
【0003】
涙液減少型ドライアイはさらに、涙腺の器質的異常を伴うタイプ(いわゆるシェーグレン症候群(SS)タイプ)と、明らかな組織異常を伴わないタイプ(非SSタイプ)に分けられる。SSタイプドライアイは、涙腺、唾液腺をはじめとする全身の外分泌腺に慢性的に炎症が起こる自己免疫疾患であり、炎症により涙腺障害されることにより重篤なドライアイが発症する。非SSタイプドライアイにおいても、涙液層の安定性を低下させることで乾燥による角結膜の上皮障害を生じる。その結果、上皮表面の水濡れ性が低下し、さらに涙液層の安定性が低下する、という悪循環が炎症を引き起こして上皮障害を助長するとされている(非特許文献3)。
【0004】
ドライアイに対する根本的な治療法は未だ見つかっていない。ドライアイ診療ガイドライン(非特許文献1)では、症状改善法として、涙液を補充する人工涙液、ヒアルロン酸点眼、レバミピド(ムコスタ(登録商標))およびクアホソルナトリウム(ジクアス(登録商標))の点眼治療などの対処療法や、涙液の排出を防ぐため涙腺をプラグで塞ぐことにより涙液量を維持する涙点プラグ挿入術といった外科治療などが挙げられている。これらは、ドライアイの症状を改善するものであるが根本的な治療法ではないため、治療を中止した場合は症状が再発するという問題がある。
【0005】
日本において、「ドライアイは,様々な要因により涙液層の安定性が低下する疾患であり,眼不快感や視機能異常を生じ,眼表面の障害を伴うことがある」と定義されている(非特許文献4)。ドライアイの抗炎症薬の使用は推奨されていないが、米国ではドライアイは炎症により発症するとされている。ドライアイにおいては、涙液や角膜上皮等において炎症性サイトカインが増加しており、特にIFN-γの増加は結膜杯細胞の減少及びドライアイ症状との相関が報告されている(非特許文献5)。以上のような状況から、現状では、ドライアイにおける炎症の関与が示唆されている。
【0006】
米国や欧州においては、抗炎症薬における点眼治療として0.05%シクロスポリン(Restasis(登録商標))点眼薬やLFA-1アンタゴニストであるLifitegrast(Xiidra(登録商標))があり、その有効性が報告されている。しかしながら、これらの点眼治療においては、効果発現に時間を要すること、副作用のために治療の継続が難しいことがある等の問題がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】ドライアイ診療ガイドライン(編集:ドライアイ研究会診療ガイドライン作成委員会)、2019年5月10日発行
【非特許文献2】第21回 日本眼科記者懇談会資料、2022年6月2日
【非特許文献3】N.Yokoi, et.al.,American Jornal Ophthamology,2015,159,748-754.
【非特許文献4】日本のドライアイの定義と診断基準の改訂(2016年版)、ドライアイ研究会、ドライアイの定義および診断基準委員会
【非特許文献5】Stephen C Pflugfelder,et.al.,Investigative Ophthalmology&Visual Science,2015、56,7545-7550.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のようにドライアイに関しての根本的な治療薬・治療法は未だ見つかっていない。患者のQOL(Quality of Life)改善のためにも、有効性の高い治療薬または治療法の開発が必要となっている。
【0009】
ドライアイでは、病変の病理学的にはリンパ球の浸潤、杯細胞の減少が認められ、慢性炎症病態を示すが、その病因は未だ不明である。
【0010】
ドライアイは、シェーグレン症候群、リウマチ、全身性エリテマトーデス等の全身性の自己免疫性疾患との併発も多いことも明らかとなっている(新藤裕実子、大野重明、アレルギー科、2003、52、518-521)。ドライアイ患者の涙液中では、IFN-γ、IL-1β、IL-6、IL-8、TNF-α等の炎症関連分子が有意に上昇していることが報告されている(Matilde Roda,et.al.,International Jornal of Molecular Sciences,2020,21,3111)。さらに、涙液中のIFN-γ量とドライアイの症状が相関している報告もあり(非特許文献4)、涙液中のIFN-γ量がドライアイのバイオマーカーとなりうるという報告もされている(David Charles Jackson,et.al.,Investigative Ophthalmology&Visual Science、2016、57,4824-4830)。ドライアイの発症にあたっては、他の自己免疫性疾患と同様に、IFN-γが中心的な役割をしているものと考えられる。また、IFN-γノックアウトマウスを用いてドライアイモデルマウスを作製した場合、ドライアイの発症が軽度であり、そのマウスにIFN-γを投与するとドライアイの症状である杯細胞数減少およびCD4陽性T細胞浸潤が増強するという報告(Xiabo Zhang,et.al.,Investigative Ophthalmology & Visual Science,2011,52,6279-6285)がある。ドライアイマウスモデルに抗IFN-γ抗体を投与することで、それらのドライアイ症状が抑制されるという報告(Xiaobo Zhang,et.al.,Experimental Eye Research,2014,118,117-124)もある。これらの報告から、ドライアイの病態にIFN-γが重要な役割をしていること示唆されている。しかしながら、これまでにIFN-γをターゲットとしたドライアイの治療薬は知られていない。
【0011】
これまで、IFN-γの作用を阻害する薬剤としては、抗体、ヤヌスキナーゼ阻害剤が開発されてきた。しかしながら、例えば抗IFN-γ抗体は、(1)生物製剤であるため、生物学的汚染などのリスクがある、(2)長期投与においては抗原性が問題となる、(3)タンパク製剤であるため、保存や輸送にコールドチェインが必要であり、1日に数回投与が必要な点眼薬には不向きである、等の課題を有している。
【0012】
上述の課題(2)に関し、一般的な抗体薬に対する抗体産生率は30%程度あるといわれている。このため、長期の治療が必要となる場合には、抗体に対する抗体が生じてアナフィラキシー反応の原因となり、治療継続が困難となるような事例がしばしば認められる。
【0013】
また、上述の課題(1)に関しては、生物製剤の製造工程において血清などがしばしば用いられるため、ウィルス等の生物学的汚染リスクが懸念される。課題(3)に関しては、常に低温での取り扱いが必要になるため、輸送、保存のコストが増すのに加え、使用する患者の利便性も低下する。
【0014】
ヤヌスキナーゼ阻害剤としては、Tofacitinib(製品名:ゼルヤンツ(登録商標))、Baricitinib(製品名:オルミエント(登録商標))、Peficitinib(製品名:スマイラフ(登録商標))、Upadacitinib(製品名:リンヴォック(登録商標))の4種が、自己免疫性疾患である関節リウマチに適用されて上市されている。これらのヤヌスキナーゼ阻害剤は、化学合成で生産できる低分子化合物であるために、抗体であることが原因となる上述した課題はないと考えられる。その一方で、ヤヌスキナーゼは、複数のサブタイプが存在し、IFN-γの受容体だけでなく、インターロイキン2(IL-2)受容体、インターロイキン4(IL-4)受容体、インターロイキン7(IL-7)受容体、インターフェロンα(IFN-α)受容体等の複数のサイトカイン受容体の細胞内ドメインに結合して活性化され、受容体シグナルを伝達する。
【0015】
このため、ヤヌスキナーゼ阻害剤は、IFN-γだけでなく、IL-2、IL-4、IL-7、IFN-α等のシグナリングを阻害する可能性がある(Yvan Jamilloux,et.al.,Autoimmunity Reviews,2019,18,11,102390)。このことは、長期投与における安全性の懸念材料となっており、易感染性等による予期せぬ副作用が発現する可能性を示唆する。また、ヤヌスキナーゼ阻害剤は水溶性が低いため緩衝剤が必要となることから、それ自体の刺激性も懸念される。
【0016】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、IFN-γを標的物質として選択的に阻害することができ、生物学的汚染の恐れが無く、室温での保存が可能であり、水溶性が高く刺激性の少ないドライアイ治療薬を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために、本発明のDNAオリゴヌクレオチドを有効成分として含有するドライアイ治療薬は、以下の態様を採用する。
【0018】
本発明の第1の態様は、配列番号1から3のいずれかに示される塩基配列を有し、インターフェロンγ(IFN-γ)へ選択的に結合するDNAオリゴヌクレオチドを含有するドライアイ治療薬を提供する。本態様に係るDNAオリゴヌクレオチドは、IFN-γへ選択的に結合しその活性を阻害することでドライアイ治療効果を発揮する。
【0019】
配列番号2に示される塩基配列は、配列番号1に記載の塩基配列の3′末端に9残基の天然型塩基からなるオリゴヌクレオチドを付加した配列である。
【0020】
配列番号3に示される塩基配列は、配列番号2に記載の塩基配列の5′末端から53番目の塩基を任意の塩基に置換した配列である。
【0021】
本発明の上記第1の態様においては、上記DNAオリゴヌクレオチドの配列中の塩基Xが人工的に製造された塩基であり、該人工的に製造された塩基が、低分子化合物で化学修飾されていてもよい。
【0022】
上記第1の態様における低分子化合物は、分子量が200~1000程度であり、グルココルチコイド、タクロリムス、シロリムス、サイクロスポリン、メトトレキサート、レフルノミドから選択される抗炎症化合物が候補として挙げられる。
【0023】
本発明の上記第1の態様においては、配列番号3に示される塩基配列を有するDNAオリゴヌクレオチドの配列中の塩基Xが人工的に製造された塩基であり、該人工的に製造された塩基が、中分子化合物、高分子化合物、生体高分子、または生体親和性のあるポリマーで化学修飾されていてもよい。本態様における中分子化合物は、分子量が1000~20000程度であり、また本態様における高分子化合物は、分子量が20000~400000程度である。
【0024】
上記態様における高分子化合物は、分子量20000以上の生体親和性のある任意の高分子であってもよい。本態様における中分子化合物または高分子化合物としては、PEG、双極性ポリマー、オリゴ糖、脂溶性ポリマー、ペプチド、オリゴヌクレオチド、抗体等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。抗体は高分子化合物に属するが、PEG、双極性ポリマー、オリゴ糖、脂溶性ポリマー、ペプチド、オリゴヌクレオチドは、その分子量によって、中分子化合物または高分子化合物に属する。中分子化合物または高分子化合物の分子量は、数平均分子量(Mn)または重量平均分子量(Mw)で定義される平均分子量で表される。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係る塩基配列を有するDNAオリゴヌクレオチドは、IFN-γへ選択的に結合する。これにより、IFN-γの活性を選択的に阻害することができる。また、本発明に係る塩基配列を有するDNAオリゴヌクレオチドを含有するドライアイ治療薬によれば、その製造に血清などを用いる必要が無いため、ウィルス等の生物学的汚染のおそれが無く製造することができる。また、本発明に係る塩基配列を有するDNAオリゴヌクレオチドは、室温での保存が可能である。このため、輸送、保存のコスト面で従来法と比較して有利であることに加え、使用する患者の利便性を向上させることができる。また、本発明に係る塩基配列を有するDNAオリゴヌクレオチドを含有するドライアイ治療薬は、その分子量から、点眼による投与が可能である。
【0026】
本発明のDNAオリゴヌクレオチドは、IL-2、IL-4、IL-7、IFN-α等のシグナリングを阻害しない一方で、IFN-γの働きのみを阻害する。これにより、本発明に係る塩基配列を有するDNAオリゴヌクレオチドを有効成分として含有するドライアイ治療薬によれば、長期投与を行う場合にも、ヤヌスキナーゼ阻害剤等と比較して、易感染性等による予期せぬ副作用を低減することができる。また、抗IFN-γ抗体と比較した場合にも、本発明のDNAオリゴヌクレオチドは抗体と比べて抗原性が低いことから、長期使用が可能な薬剤となる。さらに、本発明のDNAオリゴヌクレオチドは、生物学的汚染のおそれが無く、室温での保存が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の一実施形態に係るDNAオリゴヌクレオチドの投与前と投与後の移植皮膚組織片上の毛髪の本数の変化を示す図であり、縦軸は移植皮膚組織片あたりの毛髪本数の変化を示している。
図2A】本発明の一実施形態に係るDNAオリゴヌクレオチド投与による、毛球部毛根鞘におけるMHC classIの発現抑制を示す図である。
図2B】本発明の一実施形態に係るDNAオリゴヌクレオチド投与による、外毛根鞘におけるMHC classIの発現抑制を示す図である。
図3A】本発明の一実施形態に係るDNAオリゴヌクレオチド投与による、結合組織性毛根鞘におけるMHC classIIの発現抑制を示す図である。
図3B】本発明の一実施形態に係るDNAオリゴヌクレオチド投与による、外毛根鞘におけるMHC classIIの発現抑制を示す図である。
図4A】L929マウス線維芽細胞に本発明の一実施形態におけるサロゲートアプタマーを添加した場合の、マウスIFN-γによるSTAT1リン酸化への影響についての結果を示す図である。
図4B】L929マウス線維芽細胞にネガティブコントロールDNAを添加した場合の、マウスIFN-γによるSTAT1リン酸化への影響についての結果を示す図である。
図5】本発明の一実施形態におけるサロゲートアプタマーのマウスドライアイモデルに対する予防効果についての実験による、角膜障害を抑制する結果を示す図である。
図6】本発明の一実施形態におけるサロゲートアプタマーのマウスドライアイモデルに対する治療効果についての実験による、角膜障害を抑制する結果を示す図である。
図7A】本発明の一実施形態におけるサロゲートアプタマーのマウスドライアイモデルに対する治療効果についての実験による、眼表面結膜における杯細胞の減少を抑制する結果を示す図である。
図7B】本発明の一実施形態におけるサロゲートアプタマーのマウスドライアイモデルに対する治療効果についての実験による、眼表面結膜へのCD4陽性T細胞の浸潤を抑制する結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に、本発明に係るDNAオリゴヌクレオチドを有効成分として含有するドライアイ治療薬の実施形態について説明する。
【0029】
IFN-γをターゲットとした薬剤については、これまでに、抗IFN-γ抗体であるEmapalumabが、難治性の自己免疫性疾患である血球貪食性リンパ組織球症を適用として2018年にFDAにより承認され、Gamifantの商標名で上市されている。
【0030】
しかしながら、抗IFN-γ抗体は、上述のように、生物製剤であることに起因する生物学的汚染などのリスク、長期投与における抗原性、分子量の大きさに起因する経皮投与、経粘膜投与等の局所投与への不適格性、タンパク製剤であることに起因する保存や輸送条件等の課題を有している。このため、これらの課題を解決し、IFN-γを効果的に阻害する治療薬の創出が望まれている。
【0031】
本発明者らは、上述した課題を解決する手段として、本発明に係るDNAオリゴヌクレオチドをDNAアプタマーとして用いるIFN-γ阻害薬の開発を試みた。DNAアプタマーとは、DNAオリゴヌクレオチド分子内の相補配列同士が相補鎖を形成することで、一本鎖DNAオリゴヌクレオチドが二次構造や三次構造を形成し、その立体構造によって標的分子と特異的かつ強固に結合するリガンド分子である。特定配列のDNAアプタマーを結合させることより、標的分子の活性を阻害、抑制することができる一方で、亢進することも可能である。DNAアプタマーは、抗体よりも分子量が約1/10以下と小さいにも関わらず、抗体と同等の高い親和性を有し、高いターゲット選択性を持つ。このため、DNAアプタマーを用いたIFN-γ阻害薬は、オフターゲットによる副作用の発生を最小限に抑えられる。またDNAアプタマーは化学合成で生産可能であることから、課題解決の手段として適したモダリティであると考えられる。本明細書においては、「IFN-γへ選択的に結合する」とは、本実施形態に係るDNAオリゴヌクレオチドがDNAアプタマーとして、標的物質であるIFN-γに対して強固かつ特異的に結合することを含む。
【0032】
DNAアプタマーは、抗体と比較してコンパクトなサイズの三次元構造を形成するため、点眼、経皮投与、経粘膜投与等の局所投与が可能である。
【0033】
DNAアプタマーは、(1)分子量が比較的小さく、点眼薬、塗り薬、貼付剤などの経皮製剤または経粘膜剤として投与ができる可能性がある、(2)化学合成品であるため生物学的汚染リスクが低い、(3)一般に抗原性が低い、(4)DNAであるため、核酸分解酵素(ヌクレアーゼ)フリーの中性付近の条件では室温で十分な安定性がある、(5)薬物代謝酵素であるチトクロームP450の阻害活性がほとんどないことから併用の薬剤に影響を与えない、等の利点があり、その有用性が期待されている。またDNAアプタマーは、抗体を用いた長期の治療が必要となる場合の問題の一つである、抗体薬に対する抗体が産生される、といった問題も生じることはないため、長期間にわたる投与も可能となる。
【0034】
DNAアプタマーを用いて疾患を治療する具体的な手法としては、アプタマーそのものまたは修飾体の投与によってIFN-γを中和することで、自己免疫性疾患またはIFN-γの過剰産生が主たる原因であると考えられる疾患を治療する方法が想定される。
【0035】
本発明者らは、高い親和性でヒトIFN-γ特異的に結合し、その活性を阻害することができるDNAアプタマーとして、人工塩基Ds(7-(2-チエニル)イミダゾ[4,5-b]ピリジン)を塩基配列中に2つ含む、表1の配列番号1の配列を有するDNAアプタマーを見い出した。
【0036】
DNAアプタマーは、生体組織中の核酸分解酵素(ヌクレアーゼ)で速やかに分解されるため、in vitroで強い活性を示しても、in vivoで活性が発現するとは限らない。そこで、本発明者らは、3′末端に9残基の天然塩基配列を結合させた、表1の配列番号2の塩基配列を有するDNAアプタマーが、ヌクレアーゼ耐性を獲得し、生体組織中で安定になることを見い出した。配列中にDsを2つ含む配列番号2の塩基配列を有するDNAアプタマーは、ヒト頭皮組織を移植した自己免疫性のヒト化マウス円形脱毛症モデルにおいて有効性を示し、生体組織中でも安定に存在し、IFN-γを阻害できることが確認されている(特願2021-166794号明細書)。また、配列番号2で示した配列の5′末端から53番目の塩基を任意の塩基Xに置換した配列である配列番号3の配列を有するDNAアプタマーについて、Xの塩基部分にポリエチレングリコール(PEG)を付加したPEG修飾体については、SPR(Surface Plasmon Resonance)にてIFN-γとの結合能を保持していることを確認している。このことから、任意の塩基Xへの修飾は、配列番号3の配列を有するDNAアプタマーのIFN-γ結合活性に影響を与えないこと、すなわち、配列番号3の配列を有するDNAアプタマーは配列番号2の配列を有するDNAアプタマーと同等のIFN-γ阻害活性を保持することが分かった。
【0037】
本実施形態においては、表1に記載の塩基配列を有するDNAオリゴヌクレオチドをDNAアプタマーとして用いる。本実施形態は、表1に記載の塩基配列を有するDNAオリゴヌクレオチドをドライアイ治療薬として使用することを含む。
【0038】
【表1】
【0039】
表1の配列番号2で示した塩基配列は、配列番号1で示した配列の3′末端に、9残基の天然型塩基(5′-CGCGAAGCG-3′)からなるオリゴヌクレオチド(ミニヘアピン配列)を付加した配列である。表1の配列番号3で示した塩基配列は、配列番号2で示した配列の5′末端から53番目の塩基を任意の塩基Xに置換した配列である。Xは、任意の天然型塩基、任意の非天然型塩基、または、修飾塩基であるか、修飾塩基に低分子化合物、ペプチド、オリゴ核酸、オリゴ糖、タンパク質など、生体で利用されている高分子化合物(生体高分子)や、生体親和性のあるポリマーが結合されたものを表す。配列番号4の塩基配列の詳細については後述する。
【0040】
修飾塩基に結合させる高分子化合物の例としては、分子量20000以上のポリエチレングリコール(PEG)や、分子量20000以上の生体親和性のある任意の高分子が挙げられる。生体親和性のあるポリマーとは、通常、生体内では用いられていない化学合成品であって、生体内に入れても炎症や毒性反応を起こすことがない安全なものをいう。中分子化合物の例としては、分子量が1000より大きく20000より小さいペプチド、オリゴ核酸、オリゴ糖、タンパク質、PEG、生体親和性のある任意のポリマーがあげられる。
【0041】
修飾のための官能基としては、アジド基(-N)、アミノ基(-NH)、カルボキシル基(-COOH)またはその活性エステル、アルキニル基(-CC)またはアルキニル構造を含んだ環状構造、ホルミル基(-CHO)、ヒドラジド基(-NH-NH)、水酸基(-OH)、チオール基(-SH)、シアノ基(-CN)、ビニル基(-CHCH)、マレイミド基が使用可能である。
【0042】
本明細書において「天然型塩基」とは、アデニン、グアノシン、シトシン、チミンのいずれかをいう。本明細書において「非天然型塩基」とは、人工的に合成され、天然型塩基に類似した性質を有する塩基をいい、本明細書中では「人工塩基」と記載することもある。本明細書において「修飾塩基」とは、修飾のために活性化された官能基を1つまたは2つ以上有する側鎖構造を付加された塩基をいい、「人工的に製造された塩基」の一種である。修飾の例としては、天然型塩基に対し、メチル化、脱アミノ化、原子位置の入れ替え、リン酸部位の酸素のチオ化、塩基部分への水溶性または脂溶性置換基の導入を行ったものが挙げられる。具体的には修飾化ピリミジン、修飾化プリン、他の複素環塩基等が挙げられる。配列番号1から3の配列中のDsは、人工塩基である、7-(2-チエニル)イミダゾ[4,5-b]ピリジンを示している。人工塩基としては、Dsそのものの他に、Dsに側鎖を導入した塩基を用いてもよい。以下、本実施形態においては、表1の配列番号1,2,3,4で示した配列を有するDNAアプタマーを、それぞれ、「アプタマー1」、「アプタマー2」、「アプタマー3」、「アプタマー4」と称する。
【0043】
本実施形態に係るDNAアプタマーの有用性に関し、本明細書においては、ヒト頭皮組織片を移植した免疫寛容マウスの自己免疫性脱毛モデルに対し、表1に記載のDNAアプタマー(アプタマー2)を移植皮内注射することで、毛髪の再生を促し、さらなる脱毛を抑制する結果を確認した(実施例4)。詳細は後述する。
【0044】
このモデルにおける、アプタマー2の活性発現のメカニズムを病理学的に解析した結果、アプタマー2はMHC classIおよびIIの発現をほぼ完全に抑制していた。詳細な結果は後述する。つまりアプタマー2は、IFN-γの活性を阻害することで、自己免疫性の発現のもととなる、MHC classIおよびIIの産生を抑制して自己免疫性を改善したことで、円形脱毛症の症状を改善したものと考えられる。このことは、アプタマー2が、円形脱毛症のみならず、本発明の課題であるIFN-γの過剰産生が原因の一つと推定されるドライアイにおいても、DNAアプタマーを用いたIFN-γ阻害剤の提供が問題解決の手段となり得ることを示している。
【0045】
IFN-γ活性を阻害するDNAアプタマーがドライアイの治療に有効かどうかについては、ヒトでの有効性を確認する前に、疾患動物モデルで有効性を確認することが必要である。現在までに確立されている、ヒトのドライアイの病態に近い動物モデルとして汎用されているマウスドライアイモデル(湿度20%の乾燥環境およびスコポラミン投与によるドライアイ誘発モデル)が知られている(Terry G.Coursey,et.al.,Translational Vision Science & Technology、2018、7、24:以下、「参考文献1」という。)。しかしながら、上述した、ヒトIFN-γ特異的に結合するDNAアプタマーは、マウスIFN-γに対しては結合活性を示さなかった。このため、マウスモデルでは、上述のDNAアプタマーの有効性を確認することができない。
【0046】
そこで、本発明者らは、上述のDNAアプタマーの物性と高い類似性を示し、マウスIFN-γに結合してその活性を阻害するアプタマーをサロゲート(代理)アプタマーとして取得することを検討した。
【0047】
サロゲートアプタマーが、上述のDNAアプタマーの物性と高い類似性を示すためのクライテリアは以下のとおりである。
(1)DNAアプタマーである。
(2)アプタマーの塩基配列内に人工塩基Dsを2個含有し、その他の塩基は天然塩基である。
(3)アプタマーの塩基数が、上述のDNAアプタマーが有する57残基の±10%以内(51残基~62残基)である。
(4)アプタマーの塩基配列の3′末端に9残基のミニヘアピン配列を有する。
上記クライテリアを満たすアプタマーは、上述のDNAアプタマーと構造が類似することから、その物性も類似するものと推定される。
【0048】
上記クライテリアを満たすサロゲートアプタマーを探索した結果、塩基数62残基で、Dsを2個含有し、3′末端にミニヘアピン配列を持つ、表1の配列番号4に記載の配列を有するDNAアプタマー(アプタマー4)が得られた(実施例5)。詳細は後述する。得られたDNAアプタマーは、マウスIFN-γへの結合能を示すKD値が2.47nMであり、アプタマー2のヒトIFN-γへの結合能(KD値;33pM)の1/100程度の高い結合能を有していた。またマウスIFN-γに対してモル濃度で5倍量入れることでアプタマーが競合阻害し、マウスIFN-γの活性をほぼ完全に抑制した。この結果から、探索によって得られたDNAアプタマーは、サロゲートアプタマーとして機能するための活性を十分に有していることが確認された。
【0049】
得られたサロゲートアプタマーを、湿度20%の乾燥環境およびスコポラミン投与により誘発したドライアイマウス(参考文献1)に対し、ドライアイ誘発と同時またはドライアイ誘発3日後から点眼投与した。その結果、サロゲートアプタマーは、非投与群と比較して、マウスの角膜障害スコアの上昇を抑制した(実施例6、7)。
【0050】
眼組織の病理組織学的な評価を行った結果、眼表面結膜における杯細胞の密度は、アプタマー投与群では非投与群と比較して高く、正常群と違いが見られなかった。さらに眼表面結膜へのCD4陽性T細胞の密度が、アプタマー投与群では非投与群と比較して低く、正常群と違いが見らなかった。以上から、サロゲートアプタマー投与により眼表面結膜の炎症が抑えられたことが示された(実施例7)。
【0051】
本発明のDNAアプタマーは、ヒト組織中でヒトIFN-γに対する阻害作用を示すこと、ならびに、当該DNAアプタマーとサロゲートアプタマーの物性の類似性の高さから、サロゲートアプタマーの場合と同様に、当該DNAアプタマーはヒトのドライアイの発症抑制作用を持ち、ドライアイ治療薬として有用であることが類推される。
【0052】
DNAアプタマーとしては、表1に記載の配列のいずれかを有するDNAオリゴヌクレオチドをそのまま用いることも可能であり、またはそれらのDNAアプタマーの活性に影響を与えない部位を修飾したものを用いることも可能である。DNAアプタマーの修飾体の例としては、PEG、ペプチド、オリゴヌクレオチド等の中分子または高分子化合物を化学的な方法で結合させたもの、同じDNAアプタマー同士を化学的な方法で多量体化したもの、DNAアプタマーの配列の一部を変換または修飾したものが挙げられる。本実施形態に係るDNAオリゴヌクレオチドを修飾してDNAアプタマーとして用いる場合には、修飾部分としては塩基部分が好ましい。既存の方法を用いて、人工塩基または修飾塩基を修飾することができ、また3′末端、5′末端を修飾することもできる。
【0053】
DNAアプタマーのPEG修飾体は、体内動態改善を目的として、タンパク質、ペプチド、アプタマーを含むオリゴ核酸に一般的に用いられているPharmacokinetics(PK)-Pharmacodynamics(PD)プロファイルの改善のために用いられており、これまで多くのPEG修飾アプタマーが開発されている。PEG修飾アプタマーのターゲットタンパク質に対しての結合活性が保持されている場合、体内でPEG修飾前のアプタマーと同等な活性を示し、また、PEG修飾による毒性発現も殆ど無いことが知られている(C.Simone Fishburn,Journal of Pharmaceutical Sciences,2008,97,4167-4183;Katarina D.Kovacevic,et.al.,Advanced Drug Delivery Reviews,2018,134,36-50)。
【0054】
全身投与用の製剤としては、注射用製剤として、凍結乾燥紛末が入ったバイアル、アプタマー溶液が入ったバイアル、プレフィルドシリンジとして製剤化が可能である。
【0055】
本実施形態のDNAアプタマーは、そのDNAアプタマーまたはその溶液を吸着または包含したナノ粒子や、DNAアプタマーを造粒材とともに適切な大きさに造粒した粉体を吸入用デバイスに入れることで、吸入用製剤として製造することが可能である。
【0056】
本実施形態のDNAアプタマーは、その高い水溶性を利用してそのまま緩衝液等の適当な溶媒に溶解させることで、点眼薬として使用することが可能である。
【0057】
局所投与法の1つとして、粘膜を経由する投与法が考えられる。本実施形態のDNAアプタマーは、生体親和性の高い緩衝液等の溶剤に溶解させて、膀胱内投与等の経粘膜投与剤として使用可能である。
【0058】
注射用製剤、吸入用製剤および点眼薬としては、本実施形態のDNAアプタマーを脂肪性ナノ粒子、PLGA(Polylactic-co-Glycolic Acid)のような生分解性ポリマーのナノ粒子、金ナノ粒子等に封入又は接着して、生理的食塩水、生理的緩衝液等に分散または溶解したものを使用することが可能である。
【0059】
本実施形態のDNAアプタマーは、溶液、軟膏、クリーム、ローション、乳液、エマルジョン、ジェル、生分解性マイクロニードル、ハップ剤等の経皮局所投与剤としての適用が可能である。
【0060】
経皮投与剤を製造する工程では、吸収促進剤として、エタノールのような低級アルコール類、エチレングリコールのような多価アルコール類、脂肪酸、酢酸エチルのようなエステル類、界面活性剤、イオン性液体等を使用することが考えられる。また、経皮投与剤の製造にあたっては、ポリ乳酸のような生分解性ポリマーやリポソームを用いてのナノパーティクル化による製造工程が適用可能であり、これらの工程は、目的に応じて適宜組み合わせることが可能である。
【0061】
本実施形態のDNAアプタマーは、物理的経皮吸収促進法であるIontophoresis、Electroporation、Thermalporation、Sonophoresis、Microneedle array patch、Needleless syringe、マイクロポンプ等の方法に対応するデバイスを用いる投与製剤としても使用することが可能である。
【0062】
本実施形態に係るDNAアプタマーは、選択的にIFN-γを阻害できることから、IFN-γの関わる実験のための研究用試薬として使用することが可能である。例えば、in vitro、in vivoを問わず、着目した生理的現象にIFN-γが関わっている可能性について、本実施形態に係るDNAアプタマーを作用させる試験により評価検討を行い、生理的現象の原因の考察を行うことができる。また、本実施形態に係るDNAアプタマーの、細胞培養培地への試薬としての添加や動物への投与により、IFN-γを阻害する反応系を含む幅広い試験に使用することができる。
【実施例0063】
実施例1:DNAアプタマーの合成
アプタマー1およびアプタマー2は、国際公開第2013/073602号および国際公開第2016/143700号に記載されている方法で化学合成した。
【0064】
実施例2:アプタマー3の合成例
国際公開第2013/073602号および国際公開第2016/143700号に記載の方法を用い、配列番号3の配列のXの位置に、Amino-Modifier C6-dT Amiditeを導入して、アプタマー3を合成した。その他のX置換体に関しては、市販の人工塩基または修飾塩基のアミダイトを用いることにより合成できる。
【0065】
実施例3:PEG修飾DNAアプタマーの合成
実施例2で製造した、Xの塩基部分に1級アミン側鎖を有するアプタマー3(1eq)と、市販のNHS-PEG(40000)(1.5eq)とをpH7~8のリン酸バッファー中で混合し、室温下1日撹拌した。反応液を濃縮し、生成した修飾体を逆相HPLCで精製し、アプタマー3のPEG修飾体を得た。得られたアプタマー3のPEG修飾体については、SPR(Surface Plasmon Resonance)にてIFN-γとの結合能を保持していることを確認した。
【0066】
実施例4:ヒト化マウス円形脱毛症モデルを用いた治療効果の確認
工程1 ヒト化マウス円形脱毛症モデルの作製
A.Gilhar,et.al.,Journal of Investigative Dermatology,2013,133,844-847に記載の方法に従い、マウスに移植したヒト頭皮組織へのヒト活性化リンパ球の皮内注射により誘発される円形脱毛症モデルのヒト化マウスを作製した。
【0067】
工程2
作製した円形脱毛症モデルのヒト化マウスを3群に分け、それぞれに、Vehicle(PBS)、Dexamethasone+Minoxidil (Positive control)、アプタマー2を投与した。Vehicle群に対しては、PBS15μLを2日に1回移植皮膚に皮内投与した。アプタマー2を投与する群(以下、「アプタマー投与群」という)に対しては、アプタマー2のPBS溶液15μLを2日に1回移植皮膚に皮内投与し、アプタマー2の溶液の濃度を12nMから300nMまで143日間で徐々に増加させた。Dexamethasone+Minoxidilを投与する群に対しては、Dexamethasone2mgと5%Minoxidilを含む投与液40μLを、1日1回、移植皮膚に塗布した。
【0068】
実施例4での投与後の結果を図1に示す。図1は投与前と投与開始から143日後の移植皮膚組織片上の毛髪の本数の変化を示したもので、縦軸は移植皮膚組織片あたりの毛髪本数の変化を示している。Vehicle群(図1の「Vehicle」)では、PBSの投与期間中にさらに脱毛が進行したが、Positive control群(図1の「Dexamethasone+Minoxidil」)およびアプタマー投与群(図1の「Aptamer」)では、更なる脱毛を抑制するとともに、毛髪の再生が観察された。
【0069】
毛包組織の病理学的解析結果からは、Positive control群とアプタマー投与群とで、顕著なCD8陽性T細胞の浸潤抑制が観察された。このことから、Positive control群およびアプタマー投与群では、炎症反応の抑制により脱毛の進行が抑えられ、毛髪の再生が促進されたと考えられる。
【0070】
更に、実施例4での投与後における毛包組織の病理学的解析によりMHCの発現を調べた。図2Aは毛球部毛根鞘におけるMHC classIの発現について、図2Bは外毛根鞘におけるMHC classIの発現について、図3Aは結合組織性毛根鞘におけるMHC classIIの発現について、外毛根鞘におけるMHC classIIの発現について、結果を示している。縦軸は、MHC classI(図2Aおよび図2B)またはclassII(図3Aおよび図3B)の発現量を、それぞれのVehicle群(図2A図2B図3A図3Bの「Vehicle」)における発現量を1とした場合の相対値として示している。
【0071】
MHC classIおよびIIともに、アプタマー投与群(図2A図2B図3A図3Bの「Aptamer」)のみで発現抑制が見られた。このことは、炎症を抑制し、毛髪再生を促進したメカニズムが、Positive control群(図2A図2B図3A図3Bの「Dexamethasone+Minoxidil」)とアプタマー投与群とでは異なることを示している。Positive control群では、グルココルチコイド受容体の活性化による直接的な炎症抑制が示され、アプタマー投与群では、自己免疫性の原因となるMHC classIおよびclassIIの産生を抑制することで、炎症が抑制されたものと考えられる。換言すると、アプタマー投与群においては、毛包組織が免疫寛容の破綻から回復しており、より根本的な治療効果が得られたと考えられる。この結果は、本実施形態に係るDNAアプタマーが、自己免疫性の皮膚疾患だけでなく、他の組織に生じる自己免疫性疾患やハンナ型間質性膀胱炎のようなIFN-γの過剰産生が主たる原因であると考えられる疾患についても、同様なメカニズムで炎症反応を抑制できる可能性があることを示している。
【0072】
本実施形態に係るDNAアプタマーを含有する治療薬を用いると、脱毛を抑制し、毛髪の再生が促進されることを確認できた。また、病理学的解析の結果、本実施形態に係るDNAアプタマーを投与することで、MHC classIおよびIIの発現をほぼ完全に抑制できることを確認できた。
【0073】
実施例5:マウスIFN-γアプタマー(サロゲートアプタマー)の製造
工程1
マウスIFN-γをターゲットとしたSELEX法を行い、アプタマーを取得した。得られたマウスIFN-γアプタマーは、塩基数62残基で、Dsを2個含有し、3′末端にミニヘアピン配列を持つ、配列番号4に記載の配列を有するDNAアプタマー(表1のアプタマー4)である。マウスIFN-γへの結合能をSPR法により測定した結果、KD値は2.47nMであった。
【0074】
工程2
得られたアプタマーがマウスIFN-γの活性を阻害することを検証した。L929マウス線維芽細胞に、2ng/mLマウスIFNγと同時に各種モル濃度のアプタマー4をそれぞれ添加し、37℃で15分間インキュベーション後、抗リン酸化STAT1抗体を用いたフローサイトメトリー法により、アプタマー4によるSTAT1リン酸化の阻害を確認した。
結果を図4Aおよび図4Bに示す。図4AはL929マウス線維芽細胞にアプタマー4を添加した場合の結果を示す図であり、図4BはL929マウス線維芽細胞にネガティブコントロールDNAを添加した場合の結果を示す図である。図4A中の「Aptamer」は本実施形態に係るサロゲートアプタマーを、図4B中の「Nc DNA」はネガティブコントロールDNAを、それぞれ表している。図4Aおよび図4B中の「1eq」、「5eq」、「10eq」、「50eq」、「100eq」は、マウスIFN-γのモル濃度に対するアプタマーのモル濃度を示す(例として、100eqはアプタマー:IFN-γ=100:1を表す)。アプタマー4をマウスIFN-γに対してモル濃度で5倍量添加することで、STAT1のリン酸化をほぼ完全に阻害した(図4A)。これに対し、ネガティブコントロールDNAを添加した系では、ネガティブコントロールDNAをマウスIFN-γに対して100倍量添加しても、STAT1のリン酸化は阻害されなかった(図4B)。この結果から、得られたアプタマー4はマウスIFN-γの活性を阻害し、サロゲートアプタマーとしての活性を十分に有していることが確認された。
【0075】
実施例6:マウスドライアイモデルにおけるサロゲートアプタマーの予防効果の検討
工程1 ドライアイマウスの作製
乾燥環境およびスコポラミン投与により誘発したドライアイマウス(Terry G.Coursey,et.al.,Translational Vision Science & Technology、2018、7、24)を作製した。正常マウスを湿度20%にしたケージに入れ、乾燥ストレス付与、および、スコポラミン臭化水素酸塩水和物0.5mg/mLを1日4回腹腔内投与することで眼表面の乾燥状態を引き起こし、角膜上皮障害および角結膜上皮の炎症が惹起される。
【0076】
工程2
サロゲートアプタマーを、ドライアイ誘発開始日からマウスの両目に1日に3回、5日間の点眼投与を行った(0.01mg/mLまたは1mg/mL、3μL/回)。ドライアイマウスのコントロール群としては非投与群(ドライアイマウス)を、また正常マウスのコントロール群としてはNormal群(正常マウス)を用い、それぞれのコントロール群に対してはサロゲートアプタマーを投与しなかった。図5は、ドライアイ誘発5日後に、フルオレセイン誘導体であるオレゴングリーンデキストランを各群のマウスに点眼し、その1分後に洗眼して、角膜上皮に残存したオレゴングリーンデキストランをスコア化することで角膜上皮障害を評価した結果を示している。非投与群(ドライアイマウス)では、Normal群(正常マウス)と比較して角膜上皮障害スコアが有意に増加したのに対し、アプタマー投与群(1mg/mL)では、非投与群と比較して角膜上皮障害スコアが低値を示した。このことから、アプタマー投与群は、非投与群と比較して、マウスの角膜上皮障害を抑制し、ドライアイの発症を抑制する効果を示すことが分かった。
【0077】
実施例7:マウスドライアイモデルにおけるサロゲートアプタマーの治療効果の検討
工程1
実施例6の工程1と同様の方法でマウスのドライアイを誘発し、ドライアイ誘発3日後から、サロゲートアプタマー、または、比較対照として既存薬であるRestasisおよびXiidraを、ドライアイマウスに対し、1日に3回、7日間の点眼投与を行った(1mg/mL、3μL/回)。ドライアイマウスのコントロール群としては非投与群(ドライアイマウス)を、また正常マウスのコントロール群としてはNormal群(正常マウス)を用いた。図6は、ドライアイ誘発10日後(すなわち、7日間のサロゲートアプタマーまたは既存薬の投与終了後)にフルオレセイン誘導体であるオレゴングリーンデキストランを各群のマウスに点眼し、その1分後に洗眼して、角膜上皮に残存したオレゴングリーンデキストランをスコア化することで角膜上皮障害を評価した結果である。非投与群(ドライアイマウス)では、Normal群(正常マウス)と比較して角膜上皮障害スコアが有意に増加したのに対し、アプタマー投与群は、既存薬投与群の一つであるXiidra投与群と同様に、非投与群(ドライアイマウス)と比較して角膜上皮障害スコアが低値を示したことから、アプタマー投与群は、非投与群(ドライアイマウス)と比較して、マウスの角膜上皮障害を改善し、ドライアイの治療効果を示すことが分かった。
【0078】
工程2
マウス角膜上皮障害評価後(7日間のサロゲートアプタマーまたは既存薬の投与終了後であるドライアイ誘発10日後)に眼を摘出し、角結膜上皮の病理組織学的な評価を行った。図7Aは、ドライアイ誘発10日後のマウス眼組織より作製した切片を過ヨウ素酸シッフ(PAS)染色し、結膜上皮の杯細胞密度を評価した結果を示している。非投与群(ドライアイマウス)は、Normal群(正常マウス)と比較してPAS染色された杯細胞密度が有意に低下したのに対し、アプタマー投与群では杯細胞密度がNormal群(正常マウス)と同程度となった。既存薬投与群(RestasisおよびXiidra)においても非投与群と比較して杯細胞密度の低下が抑制されたが、アプタマー投与群よりその抑制効果は弱いものであった。さらに眼組織切片を抗CD4抗体による免疫組織学的染色により評価した結果を図7Bに示す。非投与群(ドライアイマウス)は、Normal群(正常マウス)と比較して結膜上皮へのCD4陽性T細胞浸潤が有意に増加しているのに対し、アプタマー投与群ではCD4陽性T細胞浸潤が抑制された。また既存薬投与群(RestasisおよびXiidra)においても非投与群と比較してCD4陽性T細胞浸潤が抑制されたが、アプタマー投与群よりその抑制効果は弱いものであった。
【0079】
上記実施例4及び実施例6における結果は、本実施形態に係るDNAアプタマーによりIFN-γの活性が強力に阻害されたことにより生じたものであると考えられる。このため、本実施形態に係るDNAアプタマーを用いて、円形脱毛症をはじめとする自己免疫性疾患やドライアイのようなIFN-γの過剰産生が主たる原因であると考えられる疾患に対する、これまでにない有効な治療薬および治療法を提供することができる。
【0080】
また上記実施例の結果から、本実施形態に係るDNAアプタマーは、IFN-γに対して高い特異性で結合していると考えられる。薬理学的性質上、複数のサイトカインシグナルの抑制を免れないヤヌスキナーゼ阻害剤(Yvan Jamilloux,et.al.,Autoimmunity Reviews,2019,18,102390)と比較した場合、IFN-γ活性を選択的に抑制する本実施形態に係るDNAアプタマーは、副作用の発現の可能性を低くすることができる。
【0081】
DNAアプタマーは、一般的に、抗DNAアプタマー抗体の産生の可能性が低い。このため、本実施形態に係るDNAアプタマーは、慢性炎症性疾患の治療において長期にわたる投与が可能となる。
【0082】
本実施形態に係るDNAアプタマーは、化学合成による製造が可能である。このため、品質が安定し、且つ、生物学的汚染リスクが低い、安全な薬剤として提供することができる。
【0083】
本実施形態に係るDNAアプタマーは、生物製剤と比較して、安価で製造することが可能である。また生物製剤の場合、その保存及び輸送に低温条件が必要であるのに対し、DNAアプタマーは室温でも安定である。このため、本実施形態に係るDNAアプタマーを含有する製剤の輸送、保存において、コールドチェインを必ずしも必要としない。
【0084】
本実施形態に係るDNAアプタマーを経皮投与製剤とすることで、投与の侵襲性が無く、副作用の懸念が低く、使いやすい治療薬を提供することができる。
【0085】
本実施形態に係るDNAアプタマーを含有する治療薬を注射剤として全身投与することで、全身性の自己免疫性疾患やドライアイのようなIFN-γの過剰産生が主たる原因であると考えらえる疾患への適応が可能である。また注射剤とする場合にも、室温での保存が可能なプレフィルドシリンジ等、患者が使いやすい製剤とすることが可能である。
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図5
図6
図7A
図7B
【配列表】
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