(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024002118
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
F16D 13/52 20060101AFI20231228BHJP
B60K 6/442 20071001ALI20231228BHJP
B60K 6/36 20071001ALI20231228BHJP
B60K 6/40 20071001ALI20231228BHJP
B60K 6/387 20071001ALI20231228BHJP
F16D 25/08 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
F16D13/52 Z
B60K6/442 ZHV
B60K6/36
B60K6/40
B60K6/387
F16D25/08 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022101122
(22)【出願日】2022-06-23
(71)【出願人】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川島 一訓
【テーマコード(参考)】
3D202
3J056
3J057
【Fターム(参考)】
3D202AA02
3D202EE08
3D202EE16
3D202EE22
3D202EE23
3D202FF06
3D202FF12
3J056AA60
3J056AA62
3J056BE05
3J056GA02
3J056GA12
3J057AA06
3J057BB04
3J057HH01
3J057JJ01
(57)【要約】
【課題】乾式多板クラッチの摩耗粉を捕捉して格納できるようにする。
【解決手段】動力伝達装置は、第1回転体と、前記第1回転体に対して径方向外側に位置する回転ドラムを有して前記第1回転体と同軸で回転する第2回転体と、動力伝達経路において前記第1回転体と前記第2回転体との間に配置されて前記第1回転体と前記第2回転体との間で動力を伝達又は遮断する乾式多板クラッチ機構と、を備え、前記回転ドラムの内周部に、前記乾式多板クラッチ機構から発生した摩耗粉を捕捉して格納する摩耗粉捕捉格納部を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1回転体と、
前記第1回転体に対して径方向外側に位置する回転ドラムを有して前記第1回転体と同軸で回転する第2回転体と、
動力伝達経路において前記第1回転体と前記第2回転体との間に配置されて前記第1回転体と前記第2回転体との間で動力を伝達又は遮断する乾式多板クラッチ機構と、
を備え、
前記回転ドラムの内周部に、前記乾式多板クラッチ機構から発生した摩耗粉を捕捉して格納する摩耗粉捕捉格納部を有する、
動力伝達装置。
【請求項2】
請求項1に記載の動力伝達装置であって、
前記摩耗粉捕捉格納部は、前記第2回転体の回転方向における前方側部が閉じて後方側部が開口した袋形状を有する、
動力伝達装置。
【請求項3】
請求項2に記載の動力伝達装置であって、
前記摩耗粉捕捉格納部の内部は、奥側の空間が前記第2回転体の回転中心側に向けて拡大している、
動力伝達装置。
【請求項4】
請求項1に記載の動力伝達装置であって、
前記摩耗粉捕捉格納部は、前記第2回転体の回転方向における後方側部の前記第2回転体の回転中心側の外面に、前記第2回転体の回転方向における後方側に向かうにつれて前記回転ドラムの前記内周部に近づくように傾斜する傾斜部を有する、
動力伝達装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1つに記載の動力伝達装置であって、
前記第2回転体は、前記摩耗粉捕捉格納部よりも前記第2回転体の回転中心に近い位置に、前記第2回転体が回転する際に前記回転ドラム内に発生する気流を排出する貫通孔を有する、
動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、クラッチの摩耗粉が、ドリブンプレートを支持する外側プレート支持部の外部に設けられた収集空間部に導かれるダスト排出構造が開示されている。
【0003】
これによれば、モータハウジング内の乾室を大気開放せずに、クラッチの摩耗粉を排出して収集可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の構造では、収集空間部は、モータハウジング内において気流が流れる流路の一部である。そのため、収集空間部に収集された摩耗粉が気流により流されてしまい、排出された先にある機能部品に影響を及ぼすおそれがある。
【0006】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたもので、乾式多板クラッチの摩耗粉を捕捉して格納できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様によれば、第1回転体と、前記第1回転体に対して径方向外側に位置する回転ドラムを有して前記第1回転体と同軸で回転する第2回転体と、動力伝達経路において前記第1回転体と前記第2回転体との間に配置されて前記第1回転体と前記第2回転体との間で動力を伝達又は遮断する乾式多板クラッチ機構と、を備え、前記回転ドラムの内周部に、前記乾式多板クラッチ機構から発生した摩耗粉を捕捉して格納する摩耗粉捕捉格納部を有する、動力伝達装置が提供される。
【発明の効果】
【0008】
これによれば、乾式多板クラッチ機構が回転する際に発生する遠心気流によって、乾式多板クラッチ機構の摩耗粉が回転ドラムの内周部まで移動する。そして、回転ドラムの回転の加減速に伴って、内周部に設けられた摩耗粉捕捉格納部の中に摩耗粉が移動する。これにより、摩耗粉が摩耗粉捕捉格納部に捕捉、格納される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る動力伝達装置を備えたハイブリッド車両の概略構成図である。
【
図2】
図2は、動力伝達装置の要部の断面図である。
【
図3】
図3は、
図2のIII-III線に沿う摩耗粉捕捉格納部周辺の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0011】
まず、
図1を参照しながら本発明の実施形態に係る動力伝達装置10を備えたハイブリッド車両100について説明する。
【0012】
図1は、ハイブリッド車両100の概略構成図である。
図1に示すように、ハイブリッド車両100は、エンジンENGと、エンジン始動用モータとしての回転電機MG1と、動力伝達装置10と、蓄電装置としてのバッテリBATと、駆動輪DWと、メカニカルオイルポンプMPと、電動オイルポンプEPと、油圧制御回路1と、制御装置としてのコントローラ2と、を備える。
【0013】
動力伝達装置10は、クラッチCLと、駆動用モータとしての回転電機MG2と、トルクコンバータTCと、変速機TMと、を備える。ハイブリッド車両100は、運転状況に応じてエンジンENG及び回転電機MG2の少なくとも一つの駆動力を駆動輪DWに伝達する。
【0014】
エンジンENGは、駆動輪DWを駆動する駆動源である。エンジンENGの駆動力は、クラッチCL、トルクコンバータTC、及び変速機TMを介して駆動輪DWへ伝達される。換言すれば、クラッチCL、トルクコンバータTC、及び変速機TMは、エンジンENGと駆動輪DWとを結ぶ動力伝達経路に設けられる。
【0015】
回転電機MG1は、エンジンENGを始動するためのモータである。回転電機MG1は、動力伝達経路におけるエンジンENGの下流に設けられる。具体的には、回転電機MG1は、エンジンENGとクラッチCLとの間に設けられる。回転電機MG1は、エンジンENGによって駆動されている場合、又は回生制御が行われている場合には、発電機として機能する。回転電機MG1によって発電された電気エネルギは、バッテリBATに充電される。
【0016】
クラッチCLは、乾式多板クラッチ機構である。クラッチCLは、エンジンENGと回転電機MG2とを連結し又は切り離し、動力の伝達を断接する。クラッチCLは、動力伝達経路におけるエンジンENGの下流(回転電機MG1の下流)に設けられる。具体的には、クラッチCLは、動力伝達経路において、エンジンENGの駆動力をクラッチCLに伝達する第1回転体11と、クラッチCLを締結した状態において、エンジンENGから伝達された駆動力をクラッチCLから出力する第2回転体12と、の間に設けられる。クラッチCLは、第1回転体11と第2回転体12との間で動力を伝達又は遮断する。エンジンENGの駆動力は、クラッチCLを締結した状態、すなわち、エンジンENGと回転電機MG2とがクラッチCLにより連結された状態において、トルクコンバータTC及び変速機TMを介して駆動輪DWへ伝達される。
【0017】
回転電機MG2は、駆動輪DWを駆動する駆動源である。回転電機MG2は、回転電機MG1によって発電される電気エネルギとバッテリBATに充電された電気エネルギとの少なくとも一方によって駆動輪DWを駆動する。回転電機MG2は、動力伝達経路におけるエンジンENGの下流に設けられる。具体的には、回転電機MG2は、クラッチCLとトルクコンバータTCとの間に設けられる。回転電機MG2の駆動力は、トルクコンバータTC及び変速機TMを介して駆動輪DWへ伝達される。回転電機MG2は、エンジンENGによって駆動されている場合、又は回生制御が行われている場合には、発電機として機能する。なお、回転電機MG2は、最高出力が回転電機MG1の最高出力よりも大きくなるように形成される。
【0018】
バッテリBATは、例えばリチウムイオン二次電池によって構成される。バッテリBATに代えて、キャパシタ等を蓄電装置として設けてもよい。バッテリBATには、回転電機MG1がエンジンENGによって駆動されて発電した電気エネルギと、回転電機MG1及び回転電機MG2が回生制御されて発電した電気エネルギとが充電される。バッテリBATは、回転電機MG1及び回転電機MG2を駆動するための電気エネルギを供給する。
【0019】
トルクコンバータTCは、流体としての油を介してエンジンENG又は回転電機MG2からの駆動力を増幅して変速機TMへ伝達する。トルクコンバータTCは、動力伝達経路における回転電機MG2の下流に設けられる。具体的には、トルクコンバータTCは、回転電機MG2と変速機TMとの間に設けられる。トルクコンバータTCは、ロックアップクラッチLUを有する。
【0020】
ロックアップクラッチLUは、締結されると回転電機MG2と駆動輪DW(具体的には、変速機TM)とを直結させる。ロックアップクラッチLUが締結された状態、すなわち、回転電機MG2と変速機TMとがロックアップクラッチLUにより連結された状態では、エンジンENG又は回転電機MG2の駆動力の駆動輪DWへの動力伝達効率を高めることができる。
【0021】
変速機TMは、トルクコンバータTCから伝達されるエンジンENG及び回転電機MG2の駆動力を変速して駆動輪DWへ伝達する。変速機TMは、動力伝達経路におけるトルクコンバータTCの下流に設けられる。具体的には、変速機TMは、トルクコンバータTCと駆動輪DWとの間に設けられる。変速機TMは、ベルト無段変速機であってもよいし、有段変速機であってもよい。
【0022】
メカニカルオイルポンプMPは、油を油圧制御回路1に圧送(供給)する。メカニカルオイルポンプMPは、エンジンENGの駆動力により駆動される。
【0023】
電動オイルポンプEPは、メカニカルオイルポンプMPとともに、或いは単独で油圧制御回路1に油を圧送(供給)する。電動オイルポンプEPは、メカニカルオイルポンプMPから油圧制御回路1への油の供給が停止又は不足した場合に不足分の油を補うように駆動要求に基づいて一時的に油圧制御回路1に油を供給する。電動オイルポンプEPは、ポンプ駆動用モータPMにより駆動される。
【0024】
油圧制御回路1は、複数の流路及び複数の油圧制御弁で構成される。油圧制御回路1は、メカニカルオイルポンプMPや電動オイルポンプEPから供給される油を調圧して動力伝達装置10の各部位に供給する。また、油圧制御回路1は、コントローラ2からの指令に基づき、クラッチCL及びロックアップクラッチLU等の油圧制御を行う。
【0025】
コントローラ2は、各種センサ等から出力される信号に基づき、エンジンENG、油圧制御回路1、回転電機MG1、及び回転電機MG2を制御する。コントローラ2は、エンジンENGを停止するとともにクラッチCLを解放して回転電機MG2の駆動力によって走行する電動走行モードと、エンジンENGの駆動力で回転電機MG1に発電させるとともにクラッチCLを解放して回転電機MG2の駆動力によって走行するシリーズハイブリッド走行モードと、クラッチCLを締結してエンジンENG及び回転電機MG2の駆動力によって走行するパラレルハイブリッド走行モードと、のいずれかを選択してハイブリッド車両100を走行させる。
【0026】
次に、
図2を参照しながら動力伝達装置10について説明する。
【0027】
【0028】
図2に示すように、動力伝達装置10は、クラッチCL、回転電機MG2、及びトルクコンバータTCを収容するケース20を備える。
図2には示されていないが、変速機TMもケース20に収容される。
【0029】
ケース20のエンジンENG側の開口部には、ケース20の奥側から順に、第1カバー21、第2カバー22が設けられる。第1カバー21及び第2カバー22は、それぞれケース20にボルト締結で固定される。
【0030】
第2カバー22は、ベアリング90を介して第1回転体11を回転自在に支持する。本実施形態の第1回転体11は、エンジンENGの出力回転が伝達される入力軸である。
【0031】
第1回転体11(以下、入力軸11ともいう。)におけるトルクコンバータTC側の端部には、クラッチCLのクラッチハブ70が溶接、ボルト締結等で固定される。クラッチハブ70は、外周側に設けられてトルクコンバータTC側に向かって延びる筒状部70aを有する。筒状部70aの外周部には、スプライン結合によって軸方向に移動可能にクラッチCLの複数のドライブプレート81が取り付けられる。
【0032】
クラッチCLのドリブンプレート82を保持するクラッチドラム71は、第2回転体12に取り付けられる。本実施形態の第2回転体12は、回転電機MG2のロータである。
【0033】
第2回転体12(以下、ロータ12ともいう。)は、第1フレーム13と、第2フレーム14と、コア15と、で構成される。
【0034】
ロータ12は、入力軸11に対して径方向外側に位置する回転ドラム12aを有し、入力軸11と同軸に回転する。回転ドラム12aは、第1フレーム13における外周側に設けられた筒状部13aと、第2フレーム14における外周側に設けられた筒状部14aと、で構成される。回転ドラム12aにおける内周側を筒状部13aが構成し、外周側を筒状部14aが構成している。回転ドラム12aの外周部には、コア15が固定される。
【0035】
クラッチドラム71は、回転ドラム12aの内側において、第1フレーム13に設けられる。クラッチドラム71は、溶接、ボルト締結等で第1フレーム13に固定される。クラッチドラム71は、外周側に設けられてエンジンENG側に向かって延びる筒状部71aを有する。筒状部71aの内周部には、スプライン結合によって軸方向に移動可能にクラッチCLの複数のドリブンプレート82が取り付けられる。
【0036】
回転電機MG2のステータ16は、コア15に対して径方向外側において、その内周面がコア15の外周面と対向するように、コア15と同軸にケース20に固定される。
【0037】
第1カバー21は、本体部23と、アクチュエータ支持部24と、を有する。第1カバー21における内周側をアクチュエータ支持部24が構成し、外周側を本体部23が構成している。本体部23とアクチュエータ支持部24とは、ボルト締結で固定される。
【0038】
第1カバー21は、ベアリング91を介してロータ12を回転自在に支持する。具体的には、第1カバー21は、第2フレーム14の内周側に設けられてエンジンENG側に向かって延びる筒状部14bの外周部を支持する。
【0039】
筒状部14bは、その内周面が入力軸11の外周面と対向するように、入力軸11と同軸に第1カバー21に支持される。筒状部14bと入力軸11との間には、径方向の荷重を受けるニードルベアリング92が設けられる。
【0040】
第1カバー21のアクチュエータ支持部24には、クラッチCLを作動させるアクチュエータ30のピストンケース31が固定される。ピストンケース31にはピストン32が挿入されている。
【0041】
アクチュエータ支持部24、ピストンケース31、及びピストン32で形成される油室に油圧制御回路1から締結圧が供給されると、ピストン32がニードルベアリング93を介してピストンアーム33を押圧する。そして、ピストン32は、ピストンアーム33と第2フレーム14との間に設けられたリターンスプリング34を圧縮しながらトルクコンバータTC側に向けて移動する。クラッチCLは、ニードルベアリング93及びピストンアーム33を介してピストン32から伝達される押圧力によって締結状態になる。
【0042】
ニードルベアリング93は、ピストン32がピストンアーム33の回転に伴って連れ回ることを防止している。
【0043】
クラッチCLが締結された状態では、エンジンENGから入力軸11に伝達された駆動力がロータ12から出力される。つまり、入力軸11とロータ12との間で動力が伝達される状態となる。
【0044】
ロータ12から出力された動力は、第1フレーム13の筒状部13aにおけるトルクコンバータTC側の端部に設けられた動力伝達部13bから、トルクコンバータTCのポンプインペラ40に伝達される。
【0045】
タービンランナ41は、ポンプインペラ40と対向して配置される。また、ステータ42は、ポンプインペラ40とタービンランナ41との間に配置される。
【0046】
ポンプインペラ40に伝達された動力は、タービンランナ41から出力軸43を介して変速機TMに入力される。
【0047】
出力軸43におけるエンジンENG側の端部は、第1フレーム13における内周側に設けられてエンジンENG側に向かって延びる筒状部13cの中まで延伸している。筒状部13cと出力軸43との間には、径方向の荷重を受けるニードルベアリング94が設けられる。
【0048】
ロックアップクラッチLUは、ロータ12の第1フレーム13に取り付けられた複数のドライブプレート51と、タービンランナ41に固定されたクラッチハブ50と、クラッチハブ50に取り付けられた複数のドリブンプレート52と、を備える。
【0049】
クラッチハブ50は、内周側に設けられてエンジンENG側に向かって延びる筒状部50aを有する。筒状部50aは、その外周面が筒状部13aのトルクコンバータTC側の端部における内周面と対向する。筒状部50aの外周部には、スプライン結合によって軸方向に移動可能に複数のドリブンプレート52が取り付けられる。
【0050】
筒状部13aのトルクコンバータTC側の端部における内周部には、スプライン結合によって軸方向に移動可能に複数のドライブプレート51が取り付けられる。つまり、ロータ12は、ロックアップクラッチLUのクラッチドラムとしての機能を有する。
【0051】
ロックアップクラッチLUが締結されると、ロータ12とタービンランナ41とが直結された状態となる。
【0052】
ところで、本実施形態のクラッチCLは、上述したように、乾式多板クラッチ機構である。そのため、ドライブプレート81及びドリブンプレート82の摩耗粉がケース20内で飛散してしまうと、ケース20に収容された様々な機能部品に影響を及ぼすことが考えられる。そこで、本実施形態の動力伝達装置10は、ロータ12の回転ドラム12aに、クラッチCLの摩耗粉を捕捉して格納する摩耗粉捕捉格納部60を備える(
図2参照)。
【0053】
以下、
図2~
図4を参照しながら、摩耗粉捕捉格納部60について説明する。
【0054】
図3は、
図2のIII-III線に沿う摩耗粉捕捉格納部60周辺の断面図である。
図4は、
図3の矢視IVである。
図3及び
図4では、第1フレーム13、第2フレーム14、及び摩耗粉捕捉格納部60を示し、その他の構成については記載を省略している。
【0055】
図2に示すように、摩耗粉捕捉格納部60は、ロータ12の回転ドラム12aの内周部に設けられる。
図2では、摩耗粉捕捉格納部60が1つ示されているが、摩耗粉捕捉格納部60は、回転ドラム12aの周方向に複数設けてもよい。摩耗粉捕捉格納部60を複数設ける場合は、回転ドラム12aの周方向において均等に配置することが好ましい。
【0056】
摩耗粉捕捉格納部60は、
図3、
図4に示すように、ロータ12の回転方向における前方側部が閉じて後方側部が開口した袋形状を有する。
【0057】
摩耗粉捕捉格納部60の内側(袋形状の中)におけるロータ12の回転中心側の面には、凹部60aが形成されている。
図3に示すように、凹部60aは、袋形状の底部側(ロータ12の回転方向における前方側)に位置する。つまり、摩耗粉捕捉格納部60の内部は、奥側の空間(袋形状の中における底部側の空間)が、ロータ12の回転中心側に向けて拡大した形状となっている。
【0058】
また、
図3、
図4に示すように、摩耗粉捕捉格納部60は、ロータ12の回転方向における後方側部のロータ12の回転中心側の外面に、傾斜部60bを有する。傾斜部60bは、ロータ12の回転方向における後方側に向かうにつれて回転ドラム12aの内周部に近づくように傾斜している。
【0059】
次に、
図2、
図3を参照しながらクラッチCLの摩耗粉が摩耗粉捕捉格納部60に補足して格納される様子について説明する。
【0060】
図2に示すように、本実施形態の動力伝達装置10は、入力軸11に、ケース20の内部と外部とを連通させる貫通孔11aが設けられ、ロータ12の第2フレーム14における摩耗粉捕捉格納部60よりも回転中心に近い位置に、回転ドラム12aの内側と外側とを連通させる貫通孔14cが設けられ、第1カバー21に、ケース20の内部と外部とを連通させる貫通孔21aが設けられる。なお、
図2には示されていないが、第1カバー21と第2カバー22との間の空間は大気開放されている。
【0061】
動力伝達装置10では、クラッチCLが回転することで遠心気流が発生し、この遠心気流によって、
図2に白抜き矢印で示すような、貫通孔11aから吸い込まれ、クラッチCL、及び貫通孔14cを通って貫通孔21aから排出される空気の流れが発生する。
【0062】
クラッチCLの摩耗粉は、
図3に白抜き矢印Aで示すように、遠心気流によって回転ドラム12aの内周部まで移動する。このとき、摩耗粉捕捉格納部60におけるロータ12の回転中心側の外面に当接した摩耗粉は、白抜き矢印Bで示すように、傾斜部60bにガイドされて回転ドラム12aの内周部まで移動する。つまり、傾斜部60bを設けることで、摩耗粉を効率よく回転ドラム12aの内周部まで移動させることができる。
【0063】
摩耗粉は空気に対して相対質量が大きい。そのため、遠心気流によって回転ドラム12aの内周部に当接した摩耗粉は、回転ドラム12aに対して相対的に静止した状態となる。一方、質量のない空気は、
図2に示すように、貫通孔14cから排出される。
【0064】
さらに、回転ドラム12aの減速時において、回転ドラム12aの内周部に静止していた摩耗粉は、
図3に白抜き矢印Cで示すように、自身の慣性によって摩耗粉捕捉格納部60の中に移動する。回転ドラム12aの回転変化によっては、摩耗粉捕捉格納部60の中に入らずにクラッチCL側に摩耗粉が落下することもあるが、回転ドラム12aの回転が加減速を繰り返すことで、最終的には、摩耗粉捕捉格納部60内に摩耗粉が補足、格納される。
【0065】
また、上述したように、摩耗粉捕捉格納部60は、凹部60aを有することで、奥側の空間が、ロータ12の回転中心側に向けて拡大した形状となっている。つまり、摩耗粉捕捉格納部60は、凹部60aに摩耗粉が溜まり易く、且つ、出口が狭くなっていることで、摩耗粉捕捉格納部60に補足、格納された摩耗粉が、摩耗粉捕捉格納部60から漏出し難くなっている。
【0066】
以上のように構成された動力伝達装置10の主な作用効果についてまとめて説明する。
【0067】
(1)動力伝達装置10は、第1回転体(入力軸)11と、第1回転体11に対して径方向外側に位置する回転ドラム12aを有して第1回転体11と同軸で回転する第2回転体(ロータ)12と、動力伝達経路において第1回転体11と第2回転体12との間に配置されて第1回転体11と第2回転体12との間で動力を伝達又は遮断するクラッチCLと、を備え、回転ドラム12aの内周部に、クラッチCLから発生した摩耗粉を捕捉して格納する摩耗粉捕捉格納部60を有する。
【0068】
これによれば、クラッチCLが回転する際に発生する遠心気流によって、クラッチCLの摩耗粉が回転ドラム12aの内周部まで移動する。そして、回転ドラム12aの回転の加減速に伴って、内周部に設けられた摩耗粉捕捉格納部60の中に摩耗粉が移動する。これにより、摩耗粉が摩耗粉捕捉格納部60に捕捉、格納される。
【0069】
(2)摩耗粉捕捉格納部60は、第2回転体(ロータ)12の回転方向における前方側部が閉じて後方側部が開口した袋形状を有する。
【0070】
これによれば、第2回転体(ロータ)12の回転が減速する際に、摩耗粉が慣性によって摩耗粉捕捉格納部60内に移動する。よって、第2回転体(ロータ)12の回転が加速した際に回転ドラム12aの内周部に移動した摩耗粉を、効率よく捕捉、格納できる。
【0071】
(3)摩耗粉捕捉格納部60の内部は、奥側の空間が第2回転体(ロータ)12の回転中心側に向けて拡大している。
【0072】
これによれば、摩耗粉捕捉格納部60に捕捉、格納された摩耗粉が、摩耗粉捕捉格納部60から漏出し難い。
【0073】
(4)摩耗粉捕捉格納部60は、第2回転体(ロータ)12の回転方向における後方側部の第2回転体(ロータ)12の回転中心側の外面に、第2回転体(ロータ)12の回転方向における後方側に向かうにつれて回転ドラム12aの内周部に近づくように傾斜する傾斜部60bを有する。
【0074】
これによれば、摩耗粉を効率よく回転ドラム12aの内周部まで移動させることができる。
【0075】
(5)第2回転体(ロータ)12は、摩耗粉捕捉格納部60よりも第2回転体(ロータ)12の回転中心に近い位置に、第2回転体(ロータ)12が回転する際に回転ドラム12a内に発生する気流を排出する貫通孔14cを有する。
【0076】
これによれば、気流を貫通孔14cから排出するので、摩耗粉捕捉格納部60に収集された摩耗粉が気流により流されてしまうことを抑制できる。
【0077】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0078】
例えば、上記実施形態では、動力伝達装置10が、クラッチCLと、回転電機MG2と、トルクコンバータTCと、変速機TMと、を備える態様について説明した。しかしながら、動力伝達装置10は、回転電機MG2と、トルクコンバータTCと、変速機TMと、を備えていなくてもよい。
【符号の説明】
【0079】
10 動力伝達装置
11 第1回転体(入力軸)
12 第2回転体(ロータ)
12a 回転ドラム
14c 貫通孔
60 摩耗粉捕捉格納部
60b 傾斜部
CL クラッチ(乾式多板クラッチ機構)