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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024021181
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】蛍光体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/64 20060101AFI20240208BHJP
   C09K 11/08 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
C09K11/64
C09K11/08 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022123839
(22)【出願日】2022-08-03
(71)【出願人】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304027279
【氏名又は名称】国立大学法人 新潟大学
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】坂野 広樹
(72)【発明者】
【氏名】豊島 広朗
(72)【発明者】
【氏名】戸田 健司
【テーマコード(参考)】
4H001
【Fターム(参考)】
4H001CF02
4H001XA08
4H001XA12
4H001XA13
4H001XA14
4H001YA63
(57)【要約】
【課題】発光強度が向上した蛍光体を提供すること。
【解決手段】MgAlSi18と同一の結晶相を有し、Euが固溶した蛍光体の製造方法。この製造方法は、Mg源と、Al源と、Si源と、Eu源とを混合して得られた原料粉末を加熱する加熱工程を含む。そして、原料粉末中のAlのモル量をMAlとし、原料粉末中のSiのモル量をMSiとしたとき、MAl/MSiの値は0.82以上1.20以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
MgAlSi18と同一の結晶相を有し、Euが固溶した蛍光体の製造方法であって、
Mg源と、Al源と、Si源と、Eu源とを混合して得られた原料粉末を加熱する加熱工程を含み、
前記原料粉末中のAlのモル量をMAlとし、前記原料粉末中のSiのモル量をMSiとしたとき、MAl/MSiの値が0.82以上1.20以下である、蛍光体の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の蛍光体の製造方法であって、
前記Mg源はMgOを含み、前記Al源はAlを含み、前記Si源はSiOを含み、前記Eu源はEuを含む、蛍光体の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の蛍光体の製造方法であって、
前記加熱工程においては、前記原料粉末を溶融させる、蛍光体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光体の製造方法に関する。より具体的には、Euが固溶した蛍光体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
白色発光ダイオード(白色LED)の普及に伴い、青色光を、より長波長の光に変換可能な蛍光体の開発が継続されている。
例えば、非特許文献1には、MgO、Al、SiOおよびEuを原料として、MgAlSi18と同一の結晶相を有し、Euが賦活された蛍光体を製造したことや、この蛍光体が青色光を赤色光に変換したこと、などが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Hu, T., Ning, L., Gao, Y. et al. Glass crystallization making red phosphor for high-power warm white lighting. Light Sci Appl 10, 56 (2021)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らの予備的検討によれば、非特許文献1に記載の蛍光体は、発光強度の向上の点で改善の余地があった。
【0005】
そこで、本発明者らは、発光強度の向上を目的の1つとして、様々な検討を行った。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、検討の結果、以下に提供される発明を完成させた。
【0007】
本発明は、以下である。
【0008】
1.
MgAlSi18と同一の結晶相を有し、Euが固溶した蛍光体の製造方法であって、
Mg源と、Al源と、Si源と、Eu源とを混合して得られた原料粉末を加熱する加熱工程を含み、
前記原料粉末中のAlのモル量をMAlとし、前記原料粉末中のSiのモル量をMSiとしたとき、MAl/MSiの値が0.82以上1.20以下である、蛍光体の製造方法。
2.
1.に記載の蛍光体の製造方法であって、
前記Mg源はMgOを含み、前記Al源はAlを含み、前記Si源はSiOを含み、前記Eu源はEuを含む、蛍光体の製造方法。
3.
1.または2.に記載の蛍光体の製造方法であって、
前記加熱工程においては、前記原料粉末を溶融させる、蛍光体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、発光強度が向上した蛍光体が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<蛍光体の製造方法>
本実施形態の蛍光体の製造方法は、MgAlSi18と同一の結晶相を有し、Euが固溶した蛍光体を製造するためのものである。ちなみに、MgAlSi18の結晶相や結晶構造についての情報は、前述の非特許文献1や公知の情報を参考にすることができる。
本実施形態の蛍光体の製造方法は、Mg源と、Al源と、Si源と、Eu源とを混合して得られた原料粉末を加熱する加熱工程を含む。この原料粉末中の、Alのモル量をMAlとし、Siのモル量をMSiとしたとき、MAl/MSiの値は、0.82以上1.20以下である。
【0011】
本発明者らは、非特許文献1に記載の蛍光体の発光強度を向上させるため、蛍光体の原料組成を変更することを検討した。
検討の結果、原料粉末中のAlのモル量とSiのモル量との比であるMAl/MSiの値が、発光強度と関係しているらしいことを見出した。そして、さらに検討を進め、MAl/MSiの値を、MgAlSi18の式から導かれる化学量論比の0.8よりも大きくする(しかし、大きくしすぎない)ことにより、製造される蛍光体の発光強度が高まることを見出した。つまり、Al源をやや多めに用いて蛍光体を製造することで、発光強度を向上させることができることを見出した。
ちなみに、本発明者らによる確認の限り、非特許文献1に記載の蛍光体粒子の調製例において、MAl/MSiの値は0.67程度である。
【0012】
Al源をやや多めに用いて蛍光体を製造することで、発光強度を向上させることができる理由は必ずしも明らかではない。しかし、一般にAl3+のほうがSi4+よりもイオン半径が大きいため、Al源をやや多めに用いることにより格子体積が増大すると考えられる。この格子体積の増大が発光強度の向上に関係している可能性がある。
【0013】
以下、本実施形態の蛍光体の製造方法に関する説明を続ける。
【0014】
(原料粉末について)
原料粉末としては、蛍光体の製造に関する技術分野でこれまで知られている種々の材料を用いることができる。
Mg源は、好ましくはMgOを含む。より好ましくは、Mg源としてはMgOのみが用いられる。その他のMg源としては、Mg(OH)、MgCO、MgF等が挙げられる。
Al源は、好ましくはAlを含む。より好ましくは、Al源としてはAlのみが用いられる。その他のAl源としてはAlN、Al(OH)、AlOOH、Al(NO等が挙げられる。
Si源は、好ましくはSiOを含む。より好ましくは、Si源としてはSiOのみが用いられる。その他のSi源としてはSi、HSiO、Si(OCOCH等が挙げられる。
Eu源は、好ましくはEuを含む。より好ましくは、Eu源としてはEuのみが用いられる。その他のEu源としてはEuN等が挙げられる。
【0015】
前述のように、原料粉末のMAl/MSiの値は、0.82以上1.20以下である。この値は、好ましくは0.90以上1.20以下、より好ましくは0.90以上1.10以下、さらに好ましくは0.90以上1.00以下である。
【0016】
Al源およびSi源以外の原料粉末の使用比率については、最終的に得ようとする蛍光体の化学組成を踏まえて、適宜調整すればよい。
【0017】
原料粉末の調製に際しては、Mg源と、Al源と、Si源と、Eu源とをできるだけ均一に混合することが好ましい。
混合方法としては、乾式混合する方法、原料各成分と実質的に反応しない不活性溶剤(例えばアセトンなどの有機溶剤)中で湿式混合した後に溶媒を除去する方法、などが挙げられる。混合装置としては、V型混合機、ロッキングミキサー、ボールミル、振動ミルなどが挙げられる。実験室レベルでは乳鉢(メノウ乳鉢など)による混合であってもよい。ちなみに、原料が空気により化学変化してしまうものを含む場合には、混合は、不活性雰囲気下で行うことが好ましい。
【0018】
(加熱工程について)
上記のようにして準備された原料粉末を加熱することで、蛍光体を製造することができる。
【0019】
加熱の具体的方法や、加熱の程度は、最終的に所望の蛍光体が得られる限り特に限定されないが、本発明者らの知見として、特に本実施形態においては、加熱工程において原料粉末を溶融させることが好ましい。つまり、本実施形態においては、原料粉末が蛍光体に変換されるにあたって、溶融状態を経ることが好ましい。
詳細なメカニズムは必ずしも明らかではないが、原料粉末が溶融することによって、所望の結晶相が生成されやすくなると、本発明者らは考えている。
【0020】
原料粉末を溶融させる手段の一例として、集光炉を挙げることができる。例えば、凹面鏡によりハロゲンランプから発せられた光および熱を集光して高温を得、この高温により原料粉末を溶融させる手段を挙げることができる。本発明者らの知見として、例えば鏡面研磨したアルミニウム製の楕円ミラー(直径755mm)を用いて、6kWのキセノンランプから発せられる光を集光することで、焦点部分においては1500℃から2000℃の高温を得ることができる。
【0021】
念のため述べておくと、加熱の具体的方法は、集光炉のみに限定されない。所望の蛍光体が得られる限り、加熱は、例えば従来用いられている電気炉を用いてもよい。
【0022】
加熱工程は、意図せぬ酸化を防ぐため、好ましくは不活性雰囲気下または還元雰囲気下で行われる。具体的には、加熱工程は、窒素ガスや貴ガスなどの不活性ガスで満たされた不活性雰囲気下で行われるか、または、不活性ガスと還元性ガス(水素ガスなど)の混合ガスで満たされた還元雰囲気下で行われることが好ましい。
【0023】
ちなみに、所望の結晶相を得る観点では、加熱により溶融した原料粉末は、自然冷却ではなく急冷されることが好ましい。具体的な方法としては、集光炉において原料粉末を溶融させる際に、チラー(冷却水循環装置)で循環された水により冷却されたステージ上に原料粉末を静置して、その原料粉末に光を照射する方法が挙げられる。
ちなみに、冷却速度は、(加熱終了時の試料の温度-室温)/加熱終了後に試料が室温になるまでの時間、で定量化することができる。本実施形態においては、冷却速度は10~1000℃/秒が好ましく、200~600℃/秒がより好ましく、300~500℃/秒が好ましい。
【0024】
(アニール処理について)
本実施形態においては、加熱工程で得られた蛍光体にアニール処理を施すことが好ましい。これにより、蛍光体の性能の一層の向上を図ることができる場合がある。詳細は不明であるが、アニール処理により、例えば蛍光体中の結晶化が進行すると推測される。
【0025】
アニール処理における加熱温度は、好ましくは1000℃以上1300℃以下、より好ましくは1050℃以上1250℃以下である。
アニール処理の時間は、好ましくは5分以上10時間以下、より好ましくは8分以上1時間以下である。
アニール処理を実施する装置は特に限定されない。アニール処理は、例えば従来の管状炉を用いて行うことができる。
アニール処理も、加熱工程と同様、好ましくは不活性雰囲気下または還元雰囲気下で行われる。
【0026】
(製造される蛍光体の組成について)
本実施形態の蛍光体の製造方法で製造される蛍光体の組成は、好ましくは、MgAlSiEuで表される。ここで、添え字のa、b、c、dおよびeはそれぞれ以下のとおりである。
a:好ましくは1.8≦a≦2.2、より好ましくは1.8≦a≦2.1、さらに好ましくは1.9≦a≦2.1
b:好ましくは4.0<b≦5.0、より好ましくは4.1≦b≦5.0、さらに好ましくは4.1≦b≦4.5
c:好ましくは4.3≦c<5、より好ましくは4.3≦c≦4.9、さらに好ましくは4.4≦c≦4.8
d:好ましくは15.0≦d<18.0、より好ましくは15.0≦d≦17.8、さらに好ましくは16.0≦d≦17.8
e:好ましくは0.01≦e≦0.1、より好ましくは0.01≦e≦0.08、さらに好ましくは0.01≦e≦0.05
【0027】
最終的に得られる蛍光体の組成を最適化すること、また、そのために原料組成を最適化することにより、発光強度やその他の発光特性をより一層高められる場合がある。
【0028】
参考までに、本実施形態の蛍光体の製造方法で製造される蛍光体の格子体積Vは、好ましくは0.7740nm以上0.7770nm以下、より好ましくは0.7740nm以上0.7760nm以下、さらに好ましくは0.7740nm以上0.7750nm以下である。
また、本実施形態の蛍光体の製造方法で製造される蛍光体の格子定数は、a:好ましくは0.9765nm以上0.9772nm以下、より好ましくは0.9768nm以上0.9771nm以下、c:好ましくは0.9360nm以上0.9380nm以下、より好ましくは0.9365nm以上0.9375nm以下である。
【0029】
(蛍光体の用途)
本実施形態の蛍光体の製造方法で製造される蛍光体の用途は、特に限定されない。
蛍光体の好ましい用途の一例としては、波長変換部材への適用が考えられる。具体的には、白色発光ダイオードにおいて、青色光をより低波長の光に変換して白色光を得るための波長変換部材への適用が考えられる。
【0030】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
【実施例0031】
本発明の実施態様を、実施例および比較例に基づき詳細に説明する。念のため述べておくと、本発明は実施例のみに限定されない。
【0032】
<原料>
以下の原料を準備した。
MgO:関東化学株式会社製、純度99.99%
Al:株式会社高純度化学研究所製、γ相、純度99.9%
SiO:関東化学株式会社製、沈降性、非晶質、純度99.9%
Eu:信越化学工業株式会社製、99.99%
【0033】
<蛍光体の製造>
以下手順で行った。
【0034】
(1)原料の混合
上記の原料を、アセトンとともに、メノウ乳鉢を用いて、砕きつつ十分に混合して混合物を得た。その後、混合物からアセトンを揮発させた。このようにして原料粉末を得た。
原料の混合において、混合比率は、原料粉末中の各元素のモル量が、相対量において後掲の表に示される値となるようにした。
【0035】
(2)加熱・溶融
上記(1)で得られた原料粉末を、集光炉の焦点部分に設置されたサンプルステージ(銅板)の上に静置した。そして、アルゴン/水素混合ガスの還元性雰囲気下で原料粉末を加熱し、溶融させた。
ここで、集光炉としては、鏡面研磨したアルミニウム製の楕円ミラー(直径755mm)の凹部内に、6kWのキセノンランプを備えた装置を用いた。ちなみに、この装置は電流値が140Aに設定されたときに試料温度が2000℃となるように設計されており、この装置により原料粉末を1500℃から2000℃に加熱可能である。
また、サンプルステージとしては、チラー(冷却水循環装置)で循環された水により、サンプルステージ上の試料を急冷可能なものを用いた。
【0036】
加熱は電流値を140Aに設定して10秒程度行い、セットした原料粉末が十分に溶融したことを確認した。その後、加熱(光照射)をストップした。試料はサンプルステージと接触している部分から急速に冷却された。加熱終了直後に赤熱していた試料は、約5秒間で無色透明な球体に変化した。直後に試料は室温まで冷却されていたため、冷却速度は約400℃/秒と見積もられる。
以上により、ガラス状態の蛍光体を得た。
【0037】
(3)アニール処理および粉砕
上記(2)で得られたガラス状態の蛍光体を、そのまま、管状炉内にセットした。そして、アルゴン/水素混合ガスの還元性雰囲気下で、1150℃、15分、の条件で加熱した。このようにしてアニール処理を行なった。アニール処理終了後、蛍光体を室温まで放冷した。このようにして得られた蛍光体を、各種評価のために、乳鉢を用いて粉砕した。粉砕条件は各蛍光体でできるだけ同じとなるように留意した。
以上により、実施例1および比較例1から3の蛍光体を得た。
【0038】
<X線粉末回折測定>
X線回折装置を用いて、得られた蛍光体のXRDパターンを得た。
得られたXRDパターンを、ソフトウェアを用いて解析することで、実施例1および比較例1から3の蛍光体粉末は、MgAlSi18と同一の結晶相を含むことを確認した。
また、得られたXRDパターンの解析から、格子定数aおよびc、ならびに、格子体積Vを求めた。
【0039】
<発光強度の評価>
日本分光社製の分光蛍光光度計、FP-6500/6600を用いて、蛍光体に波長450nmの励起光(キセノンランプから発せられる連続波長光を回折格子で単色化した光)を当てたときの発光スペクトルを得た。そして、580nmから640nmの波長範囲の最大強度を読み取った。
実施例1における最大強度を1.00として、実施例1および比較例1から3の最大強度を規格化した。これら規格化された最大強度を、発光強度の値として採用した。
【0040】
各種情報をまとめて下表に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
上表に示されるとおり、MAl/MSiの値が0.95(0.82以上1.2以下)である原料粉末を用いて製造した実施例1の蛍光体は、MAl/MSiの値が0.82未満の原料粉末を用いて製造した比較例1および2の蛍光体や、MAl/MSiの値が1.2より大きい原料粉末を用いて製造した比較例3の蛍光体に比べて、良好な発光強度を示した。