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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024021188
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】太陽光発電量推定装置
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/06 20240101AFI20240208BHJP
【FI】
G06Q50/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022123850
(22)【出願日】2022-08-03
(71)【出願人】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000222037
【氏名又は名称】東北電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】志田 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】糸原 達彦
(72)【発明者】
【氏名】杵鞭 健太
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 奈々穂
(72)【発明者】
【氏名】松田 勝弘
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 亮
【テーマコード(参考)】
5L049
【Fターム(参考)】
5L049CC06
(57)【要約】
【課題】太陽光発電装置を備えた需要家における太陽光発電量の推定を簡便に行うことができると共に、太陽光発電量の推定精度を高めた太陽光発電量推定装置を提供する。
【解決手段】太陽光発電システムを備えた第1の需要家における電力の計量値を第1の電力メータから取得し、太陽光発電システムを備えない第2の需要家における電力の計量値を第2の電力メータから取得する取得部と、第2の需要家での実負荷データに基づいて複数の負荷モデルを生成する負荷モデル生成部と複数の負荷モデルを格納する記憶部と、複数の負荷モデルのうち、第1の需要家における雨の日の負荷カーブと類似する負荷モデルを選択する負荷モデル選択部と、選択された負荷モデルを第1の需要家における実負荷とし、実負荷と第1の需要家における晴れの日の買電量との差分量を求め、差分量に晴れの日の売電量を加えることで、太陽光発電量を推定する発電量推定部と、を備えている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽光エネルギーを電気エネルギーに変換する太陽光発電システムを備えた第1の需要家における太陽光発電量を推定する太陽光発電量推定装置であって、
前記第1の需要家における電力の計量値を通信機能を備えた第1の電力メータを介して取得すると共に、前記太陽光発電システムを備えない第2の需要家における前記電力の計量値を通信機能を備えた第2の電力メータを介して取得する取得部と、
前記第2の需要家から取得した前記電力の計量値から得られる前記第2の需要家での実負荷データに基づいて複数の負荷モデルを生成する負荷モデル生成部と、
前記複数の負荷モデルのうち、前記第1の需要家における雨の日の前記電力の計量値から取得した雨の日の負荷カーブと類似する負荷モデルを選択する負荷モデル選択部と、
前記負荷モデル選択部で選択された前記負荷モデルを前記第1の需要家における実負荷とし、前記実負荷と前記第1の需要家における晴れの日の前記電力の計量値から取得した晴れの日の買電量との差分量を求め、前記差分量に前記第1の需要家における晴れの日の前記電力の計量値から取得した晴れの日の売電量を加えることで、前記第1の需要家における前記太陽光発電量を推定する発電量推定部と、を備える太陽光発電量推定装置。
【請求項2】
前記負荷モデル選択部は、
前記雨の日の負荷カーブと類似する前記負荷モデルとの比較において得られた類似性に関する比率を算出し、前記負荷モデルのカーブに前記類似性に関する比率を乗算することで前記負荷モデルを前記第1の需要家における前記実負荷とする、請求項1記載の太陽光発電量推定装置。
【請求項3】
前記負荷モデル生成部は、
前記複数の負荷モデルを予め作成して記憶する、請求項1記載の太陽光発電量推定装置。
【請求項4】
前記取得部は、
前記第1および第2の需要家における電力事業者との電力契約に関する住宅属性情報を取得し、
前記発電量推定部は、
前記住宅属性情報が類似する前記太陽光発電システムを備えた第3の需要家から取得した既得の太陽光発電量で、推定した前記太陽光発電量を除算して得られる発電量比率を算出し、前記既得の太陽光発電量と共に得られる既得の太陽光発電量カーブに前記発電量比率を乗算することで前記第1の需要家における太陽光発電量カーブを算出する、請求項1記載の太陽光発電量推定装置。
【請求項5】
前記太陽光発電量カーブは、
前記第1の需要家における最大発電時刻と前記既得の太陽光発電量カーブにおけるピーク時刻とのずれに基づいて、前記太陽光発電量カーブのピーク位置をずらすかまたは平行移動させることで補正される、請求項4記載の太陽光発電量推定装置。
【請求項6】
前記太陽光発電量カーブは、
前記太陽光発電量カーブを取得した月の実際の日射時間または日射量を、その月の平均日射時間または日射量で除算し、得られた比率を乗算することで補正される、請求項4記載の太陽光発電量推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は太陽光発電量推定装置に関し、特に、スマートメータ(登録商標)の計量値から太陽光発電量を推定する太陽光発電量推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般家庭において太陽光発電(Photovoltaic Power Generation:PV)システムが普及し、PV発電量のうち、余剰電力を買取る制度が設けられているが、通信機能を備えた電力メータであるスマートメータの計量値は、以下において「負荷」と呼称する家庭で利用する消費電力量とPV発電量の合算値となり、計量値から負荷とPV発電量を分離することができない。
【0003】
特許文献1では、太陽光発電装置を備えない需要家の買電量の計測値に基づいて、需要家が消費する電力量を推定する負荷モデルを作成し、負荷モデルから推定した電力量を、太陽光発電装置を備えた需要家の売電電力量と買電電力量の差である余剰電力量に加算することで、PV発電量を推定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-95941号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、太陽光発電装置を備えない需要家と太陽光発電装置を備えた需要家とが、天候および日射量が同等の同一地域に存在していることを前提とし、該当する太陽光発電装置を備えない需要家を探す手間がかかる。また、太陽光発電装置を備えない需要家と太陽光発電装置を備えた需要家の負荷パターンが類似していない場合には、PV発電量の推定精度が低くなる問題があった。
【0006】
本開示は上記のような問題を解決するためになされたものであり、太陽光発電装置を備えた需要家における太陽光発電量の推定を簡便に行うことができると共に、推定精度を高めた太陽光発電量推定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係る太陽光発電量推定装置は、太陽光エネルギーを電気エネルギーに変換する太陽光発電システムを備えた第1の需要家における太陽光発電量を推定する太陽光発電量推定装置であって、前記第1の需要家における電力の計量値を通信機能を備えた第1の電力メータを介して取得すると共に、前記太陽光発電システムを備えない第2の需要家における前記電力の計量値を通信機能を備えた第2の電力メータを介して取得する取得部と、前記第2の需要家から取得した前記電力の計量値から得られる前記第2の需要家での実負荷データに基づいて複数の負荷モデルを生成する負荷モデル生成部と、前記複数の負荷モデルのうち、前記第1の需要家における雨の日の前記電力の計量値から取得した雨の日の負荷カーブと類似する負荷モデルを選択する負荷モデル選択部と、前記負荷モデル選択部で選択された前記負荷モデルを前記第1の需要家における実負荷とし、前記実負荷と前記第1の需要家における晴れの日の前記電力の計量値から取得した晴れの日の買電量との差分量を求め、前記差分量に前記第1の需要家における晴れの日の前記電力の計量値から取得した晴れの日の売電量を加えることで、前記第1の需要家における前記太陽光発電量を推定する発電量推定部と、を備えている。
【発明の効果】
【0008】
本開示に係る太陽光発電量推定装置によれば、太陽光発電システムを備えた需要家における太陽光発電量の推定を簡便に行うことができると共に、推定精度を高めた太陽光発電量推定装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本開示に係る太陽光発電量推定装置が接続されたネットワークシステムの構成を示す概略図である。
図2】本開示に係る太陽光発電量推定装置の構成を示すブロック図である。
図3】本開示に係る太陽光発電量推定装置における太陽光発電量の推定処理を説明するフローチャートである。
図4】実負荷データに基づいて負荷モデルを作成する処理を説明するフローチャートである。
図5】太陽光発電量の推定処理を説明する概念図である。
図6】太陽光発電量の推定処理を説明する概念図である。
図7】太陽光発電量の推定処理を説明する概念図である。
図8】太陽光発電量の推定処理を説明する概念図である。
図9】PV発電量カーブの頂点位置をずらす補正を説明する概念図である。
図10】PV発電量カーブを平行移動する補正を説明する概念図である。
図11】PV発電量カーブの天候差の補正を説明する概念図である。
図12】一般的な発電量カーブの補正を説明する概念図である。
図13】一般的な発電量カーブの補正を説明する概念図である。
図14】一般的な発電量カーブの補正を説明する概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<実施の形態1>
図1は本開示に係る太陽光発電量推定装置100が接続されたネットワークシステム1000の構成を示す概略図である。図1に示すようにネットワークシステム1000には、太陽光発電システムを備えたPV設置需要家1(第1の需要家)および太陽光発電システムを備えないPV非設置需要家10(第2の需要家)が、それぞれスマートメータ2(第1の電力メータ)およびスマートメータ20(第2の電力メータ)を介してインターネット等の公衆網NWに接続されている。
【0011】
スマートメータ2および20は、通信機能を備えた電力メータであり、PV設置需要家1およびPV非設置需要家10における電力の計量値を公衆網NWを介して太陽光発電量推定装置100に送信することができる。
【0012】
スマートメータ2の計量値は、家庭で利用する消費電力量(負荷)とPV発電量の合算値となり、計量値から負荷とPV発電量を分離することができない。
【0013】
PV設置需要家1およびPV非設置需要家10に電力を供給する電力事業者は、より正確な発電計画および売電計画を立てるために、PV設置需要家1におけるPV発電量を知得することを求めており、そのために太陽光発電量推定装置100が設けられている。
【0014】
図2は太陽光発電量推定装置100の構成を示すブロック図である。図1に示すように太陽光発電量推定装置100は、データおよび情報取得部101、負荷モデル選択部102、PV発電量推定部103、負荷モデル生成部104および負荷モデルデータベースDB(記憶部)を備えている。
【0015】
データおよび情報取得部101は、公衆網NWを介してスマートメータ2および20から電力の計量値のデータを収集すると共に、PV設置需要家1およびPV非設置需要家10の住宅属性情報を取得する。住宅属性情報とは、住所、契約電力量、PV発電のための太陽電池パネルの発電容量、パワーコンディショナーの電力容量などの電力事業者との電力契約に関する情報を含んでいる。また、これら以外の情報を含むこともでき、電力事業者から取得することができる。
【0016】
負荷モデル選択部102は、PV非設置需要家10での実負荷データに基づいて事前に作成し、負荷モデルデータベースDBに格納された負荷モデルを選択し、選択した負荷モデルからPV設置需要家1の実負荷カーブを推定し、PV発電量推定部103に入力する。
【0017】
PV発電量推定部103は、負荷モデル選択部102から入力された実負荷カーブを用いてPV発電量を推定する。
【0018】
負荷モデル生成部104は、PV非設置需要家10での実負荷データに基づいて負荷モデルを生成し、負荷モデルデータベースDBに格納する。
【0019】
太陽光発電量推定装置100のデータおよび情報取得部101は、公衆網NWとの接続のためのハードウェアインターフェースおよび受信装置を含んで構成され、負荷モデル選択部102、PV発電量推定部103および負荷モデル生成部104は、コンピュータを用いて構成することができ、コンピュータがプログラムを実行することで実現される。すなわち、これらは、処理回路により実現される。処理回路には、CPU、DSP(Digital Signal Processor)などのプロセッサが適用され、記憶装置に格納されるプログラムを実行することで各部の機能が実現される。また、負荷モデルデータベースDBは、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)などの大容量の記憶装置に構築される。
【0020】
次に、図2を参照しつつ、図3に示すフローチャートを用いて太陽光発電量推定装置100におけるPV発電量の推定処理について説明する。また、図4に示すフローチャートを用いて、PV非設置需要家10での実負荷データに基づいて負荷モデルを作成する処理について説明する。
【0021】
まず、データおよび情報取得部101において、PV設置需要家1(以下では住宅Nと呼称する場合あり)のスマートメータ2を介してデータを収集する(ステップS1)。このデータは、住宅Nの、例えば30分または1時間ごとに取得した負荷データの変化の1日の負荷カーブ、または、1週間分の負荷カーブの平均値などである。また、住宅Nの、例えば30分または1時間ごとに取得したPV発電量の1日の発電量カーブ、または、1週間分の発電量カーブの平均値などである。また、雨の日の住宅Nの、例えば30分または1時間ごとに取得した負荷データの変化の1日の負荷カーブ、または、1週間分の負荷カーブなどである。なお、これらのデータは、PV発電量の推定に先だって予め取得されているものとする。
【0022】
また、データおよび情報取得部101は、住宅Nの住宅属性情報を取得する(ステップS2)。これには、住宅Nの住所、契約電力量、PV発電のための太陽電池パネルの発電容量、パワーコンディショナーの電力容量などを含んでいる。これらの情報は、予め電力事業者が取得していた情報を用いることができる。
【0023】
また、データおよび情報取得部101は、住宅Nが属する地域の天気情報を取得する。これは、ステップS1で負荷カーブおよび発電量カーブを取得した際の天気情報を、気象庁の発表データなどから取得できる。
【0024】
そして、データおよび情報取得部101は、PV発電量の推定を行う時点での住宅Nが属する地域の天気情報、ここでは晴れか、雨かを取得する(ステップS4)。なお、晴れの日とは気象庁が定義する雲量が0~8の状態を指し、雨の日とは雲量が9以上の状態を指す。また、曇りの日とは雲量が9以上で日射量も少ない状態を指し、雨の日として扱う。
【0025】
ここで、PV設置需要家1でのPV発電量の推定に先だって行われる、PV非設置需要家10での実負荷データに基づいて負荷モデルを作成する処理について、図4に示すフローチャートを用いて説明する。
【0026】
この処理では、太陽光発電量推定装置100のデータおよび情報取得部101が、PV非設置需要家10のスマートメータ20を介して、データを収集する(ステップS11)。このデータは、PV非設置需要家の、例えば30分または1時間ごとに取得した負荷データの変化の1日の負荷カーブ、または、1週間分の負荷カーブなどである。
【0027】
太陽光発電システムを備えていないので、スマートメータ20からは負荷データのみが取得される。また、PV非設置需要家10は、特定の住宅を対象とせず、太陽光発電システムを備えていない複数の地域の複数の住宅を対象としており、年間を通じて、季節ごと、月ごとなどに取得される。
【0028】
また、データおよび情報取得部101は、PV非設置需要家10の住宅属性情報を取得する(ステップS12)。これには、PV非設置需要家10の住所、契約電力量、PV発電のための太陽電池パネルの発電容量、パワーコンディショナーの電力容量などを含んでいる。これらの情報は、予め電力事業者が取得していた情報を用いることができる。
【0029】
負荷モデル生成部104は、データおよび情報取得部101で取得した負荷カーブのデータおよび住宅属性情報を用いて負荷モデルを生成する(ステップS13)。この負荷モデルは、例えば、1週間分の負荷カーブを平均することで得ることができ、季節ごと、月ごとなどに生成し、住宅属性情報と共に負荷モデルデータベースDBに保存しておく。なお、負荷モデルは、同じ地域の、住宅属性情報が類似する複数のPV非設置需要家10から取得した、複数の負荷カーブを平均して得ることもできる。
【0030】
負荷モデルを予め作成して負荷モデルデータベースDBに保存しておくことで、住宅NのPV発電量の推定に際して、条件に合うPV非設置需要家10を探して負荷モデルを作成する必要がなく、PV発電量の推定を簡便に行うことができる。
【0031】
ここで、図3のフローチャートの説明に戻る。ステップS4で取得したPV発電量の推定を行う時点での住宅Nが属する地域の天気情報が晴れの場合(Yesの場合)はステップS5に移行し、雨の場合(Noの場合)はステップS7に移行する。
【0032】
ステップS5は負荷モデル選択部102において実行され、負荷モデルデータベースDBに保存された負荷モデルのうち、住宅属性情報が住宅Nと類似する負荷モデルを複数選び、雨の日の住宅Nの負荷カーブとの比較を行う。そして、パターンマッチングなどの手法を用いて最も類似する負荷モデルを選択する。また、その比較で得られた類似性に関する比率αを算出しておく。例えば、類似性が80%とされる場合は比率αは0.8とする。
【0033】
そして、最も類似する負荷モデルのカーブに比率αを乗算することで住宅Nの実負荷を推定する。このように、負荷モデルから住宅Nの実負荷を推定することで、住宅Nでの負荷の実測値を使う場合よりも、ばらつきを低減できる。
【0034】
次に、PV発電量推定部103は、負荷モデル選択部102から入力された実負荷カーブと買電量および売電量を用いてPV発電量を推定する(ステップS6)。
【0035】
この推定処理の概念について図5図8を用いて説明する。図5は、推定された住宅Nの実負荷カーブのグラフと、実負荷カーブで規定される1日の消費電力量を表す棒グラフを示している。実負荷カーブのグラフでは横軸が時刻であり、縦軸が電力量であり、正方向が発電量、負方向が負荷(消費電力量)である。
【0036】
図6は、晴れの日の住宅Nの買電量と売電量を表す電力カーブのグラフと、図5に示した実負荷カーブで規定される1日の消費電力量と晴れの日の住宅Nの買電量を表す棒グラフを示している。
【0037】
図6において、電力カーブのグラフでは、PV発電量を正方向に突出する破線で示しており、売電量を正方向に突出する実線で示している。PV発電量は、太陽が昇る時間帯から増え、正午の時間帯で最大となり、太陽が沈む時間帯で0となる。このため、PV発電量が最大となる時間帯は買電量が0となり、その期間の負荷はPV発電で補われる。PV発電で補われる負荷を斜線のハッチング領域として示している。PV発電で補われる負荷と売電量とを足し合わせるとPV発電量となる。PV発電で補われる負荷をPV発電量の一部と呼称する。
【0038】
図6の棒グラフでは、実負荷カーブで規定される1日の消費電力量と買電量とを示しており、1日の消費電力量から買電量を差し引くことで、差分量としてPV発電量の一部を得ることができる。
【0039】
図7は、PV発電量、売電量およびPV発電量の一部を表す電力カーブのグラフと、売電量およびPV発電量の一部を表す棒グラフを示している。
【0040】
図7において、電力カーブのグラフでは、売電量とPV発電量の一部を足し合わせることでPV発電量が得られることが模式的に示されており、棒グラフでも売電量とPV発電量の一部とを足し合わせることでPV発電量となることが示されている。
【0041】
図6および図7を用いて説明した処理をまとめると、実負荷カーブで規定される1日の消費電力量(負荷)-買電量+売電量の演算によりPV発電量を得ることができる。これがステップS6での推定処理である。
【0042】
また、図7においては、住宅Nの1日のPV発電量の棒グラフと、住宅属性情報が住宅Nと類似するPV設置需要家から取得した一般的なPV発電量の棒グラフを示している。ここでは、住宅NのPV発電量が一般的なPV発電量よりも低いものとして示しており、住宅NのPV発電量をW1、一般的なPV発電量をW2とした場合に、W1÷W2により発電量比率Yが得られる。一般的なPV発電量とは、住宅Nとは異なるPV設置需要家(第3の需要家)から既に取得された既得のPV発電量であり、複数のPV設置需要家から取得して住宅属性情報ごとに分類されグループ化され、グループごとに平均するなどして一般化されている。また、発電量だけでなく発電量カーブも蓄積され、同様に一般化されている。
【0043】
図8は、一般的なPV発電量カーブを表す電力カーブのグラフと、一般的なPV発電量カーブに発電量比率Yを乗算することで得られる住宅NのPV発電量カーブを表す電力カーブのグラフを示している。ここで、一般的なPV発電量カーブは、一般的なPV発電量と共に、季節ごと、月ごとなどに1ヶ月の平均値として取得される。従って、発電量比率Yは1ヶ月ごとに取得することができる。
【0044】
このように、一般的なPV発電量カーブに発電量比率Yを乗算することで住宅NのPV発電量カーブを得ることができるので、簡便に住宅NのPV発電量カーブを推定できる。
【0045】
ここで、図3のフローチャートの説明に戻る。ステップS7は負荷モデル選択部102において実行され、負荷モデルデータベースDBに保存された負荷モデルのうち、住宅属性情報が住宅Nと類似する負荷モデルを複数選び、雨の日の住宅Nの負荷カーブとの比較を行う。そして、パターンマッチングなどの手法を用いて最も類似する負荷モデルを選択する。また、その比較で得られた類似性に関する比率αを算出しておく。例えば、類似性が80%とされる場合は比率αは0.8とする。
【0046】
そして、最も類似する負荷モデルのカーブに比率αを乗算することで住宅Nの実負荷を推定する。
【0047】
次に、PV発電量推定部103は、負荷モデル選択部102から入力された実負荷カーブと買電量および売電量を用いてPV発電量を推定する(ステップS8)。ここで、ステップS8の推定処理は、ステップS6と同じ演算を行うが、雨の日であるので、売電量は0であり、負荷=買電量であるのでPV発電量もほぼ0となる。なお、雨の日であっても光があれば、PV発電は起きるが、発電量は極めて少ない。
【0048】
以上説明したように、太陽光発電量推定装置100は、負荷モデルデータベースDBに保存された負荷モデルの中から住宅属性情報が住宅Nと類似する負荷モデルを選択し、雨の日の住宅Nの負荷カーブとの比較を行って最も類似する負荷モデルを選択するので、住宅NのPV発電量の推定のために、同一時刻に同一地域のPV非設置需要家10からデータを取得する必要がなく、PV発電量の推定を簡便に行うことができる。また、負荷モデルと雨の日の住宅Nの負荷カーブとの比較を行って最も類似する負荷モデルを選択するので、住宅Nの負荷パターンにあった負荷モデルを選択でき、PV発電量の推定精度が高くなる。つまり、住宅Nの太陽光発電量を推定するにあたり、予め作成した負荷モデルと住宅Nの負荷カーブとの比較を行う過程で雨の日の負荷カーブを用いるようにしたので、このとき住宅NにおけるPV発電量はほぼ0であり、従って、売電量=0および負荷=買電量の条件での負荷カーブのデータを選択することが可能となる。
【0049】
ここで、図7を用いた説明では発電量比率YはW1÷W2により取得する例を示したが、発電量比率Yは、太陽光パネルの角度、面積、パワーコンディショナーの容量等から求めることもできる。すなわち、太陽光パネルの面積およびパワーコンディショナーの容量から基本的な発電量を求めることができ、太陽光パネルの設置角度が、その住宅の緯度などから求められる最適な角度、例えば太陽光に対して垂直からどれだけずれているかによって、最適な角度であった場合に対しての減少率から求めることができる。この場合、太陽光パネルの面積×パワーコンディショナーの容量×太陽光パネルの角度による補正値によりW2を算出し、W1÷W2とすることができる。
【0050】
<変形例1>
ここで、図8に示した住宅NのPV発電量カーブは、最大発電時刻を中心とした左右対称のカーブとして示したが、より現実的には、最大発電時刻は住宅によって異なる。例えば、一般的なPV発電量カーブが7時から18時までPV発電する場合のカーブで、発電ピークが12時だとしても、住宅Nの太陽光パネルが真南よりも東向きまたは西向きに設置される場合には最大発電時刻がずれる場合がある。このような場合、最大発電時刻のずれ量を求め、PV発電量カーブの頂点位置をずらす補正をすることで、より現実に近いPV発電量カーブを得ることができる。
【0051】
この例を図9に示す。図9では、一般的なPV発電量カーブを破線で示し、住宅Nの補正後のPV発電量カーブを実線で示している。一般的なPV発電量カーブでは12時が最大発電時刻であるが、補正後の住宅NのPV発電量カーブでは11時が最大発電時刻であり、カーブが左右対称とはなっていない。これは、住宅Nの太陽光パネルが真南よりも東向きであり、11時が最大発電時刻となっているような場合に有効である。
【0052】
<変形例2>
また、住宅Nが建つ地域では、12時が太陽の中天時刻ではなく11時が太陽の中天時刻であるような場合は、最大発電時刻のずれ量を求め、PV発電量カーブを平行移動する補正をすることで、より現実に近いPV発電量カーブを得ることができる。
【0053】
この例を図10に示す。図10では、一般的なPV発電量カーブを破線で示し、住宅Nの補正後のPV発電量カーブを実線で示している。一般的なPV発電量カーブでは12時が最大発電時刻であるが、補正後の住宅NのPV発電量カーブでは11時が最大発電時刻であるように、全体として1時間手前にシフトしたカーブとなっており、11時をピークとして左右対称となっている。
【0054】
<変形例3>
図8に示した住宅NのPV発電量カーブに日射量の補正を行う。例えば、現在が2月で推定した発電量カーブが1月のものである場合、1月の実際の日射時間(または日射量)/1月の平均日射時間(または日射量)を計算し、得られた比率を住宅NのPV発電量カーブに乗算することで、一般的な発電量カーブを取得した月の天候(日射時間)と、住宅NのPV発電量カーブを推定した月の天候(日射時間)の差を補正することができる。
【0055】
この例を図11に示す。図11において、住宅NのPV発電量カーブを実線で示し、住宅Nの補正後のPV発電量カーブを破線で示している。図11では補正後のPV発電量カーブが、全体的に少し大きくなっている。
【0056】
1月の実際の日射時間(または日射量)は、気象庁の公開情報などから入手でき、1月の実際の日射時間(1日平均)/1月の平均日射時間(1日分)を計算する。この比率は、1月における実際の「晴れ率」と、一般的なPV発電量カーブを取得した月の「晴れ率」との比率に相当する。
【0057】
すなわち一般的なPV発電量カーブが、30日中に晴れの日が20日の月、例えば1年前の1月において取得されていた場合で、今年の1月における実際の晴れが30日中15日であった場合は比率は75%となる。
【0058】
実際には、M月の実際の日射時間(または日射量)/M月の平均日射時間(また日射量)の計算は、毎時刻に対して、実施される。
【0059】
<変形例4>
図11では、住宅NのPV発電量カーブに対して補正を行う例を示したが、一般的な発電量カーブを補正しても、最終的に得られる住宅NのPV発電量カーブは同じとなる。
【0060】
一般的な発電量カーブを補正する例を図12に示す。図12においては、一般的なPV発電量カーブを実線で示し、雨の多い月の補正後のPV発電量カーブおよび晴れの多い月の補正後のPV発電量カーブを破線で示している。雨の多い月は一般的なPV発電量カーブよりも全体的に小さいカーブとなり、晴れの多い月は一般的なPV発電量カーブよりも全体的に大きいカーブとなり、形状も変形している。
【0061】
これらのカーブは、一般的なPV発電量カーブ×(住宅NのPV発電量カーブを取得した月の平均日射量/標準的な日射量)により算出できる。
【0062】
<変形例5>
一般的な発電量カーブを補正する例としては、住宅ごとのPV発電容量により補正することができる。すなわち、PVシステムは需要家ごとに異なり、PV発電容量も太陽光パネルの面積、パワーコンディショナーの容量等で異なる。従って、PV発電容量ごとに一般的な発電量カーブを補正することが望ましい。
【0063】
この例を図13に示す。図13においては、一般的なPV発電量カーブを実線で示し、需要家AのPV発電容量で補正したカーブおよび需要家BのPV発電容量で補正したカーブを破線で示している。需要家AはPV発電量が大きく、一般的なPV発電量カーブよりも大きなカーブとなっている。需要家BはPV発電量が小さく、一般的なPV発電量カーブよりも小さなカーブとなっている。
【0064】
これらのカーブは、一般的なPV発電量カーブ×{(雨の日の負荷の1日合計-晴れの日の負荷(買電量)の1日合計+売電量の1日合計)/一般的なPV発電量の1日合計}により算出できる。
【0065】
<変形例6>
一般的な発電量カーブを補正する例としては、太陽光パネルの設置方向により補正することができる。すなわち、住宅ごとに太陽光パネルの設置方向が異なる場合が多く、太陽光パネルの設置方向ごとに一般的な発電量カーブを補正することが望ましい。
【0066】
この例を図14に示す。図14においては、一般的なPV発電量カーブを実線で示し、需要家Cの太陽光パネルの設置方向で補正したカーブおよび需要家Dの太陽光パネルの設置方向で補正したカーブを破線で示している。
【0067】
需要家Cのカーブはピーク位置が一般的なPV発電量カーブのピーク位置よりも前にずれており、需要家Dのカーブはピーク位置が一般的なPV発電量カーブのピーク位置よりも後ろにずれている。
【0068】
これらのカーブは、時刻tのPV発電量=時刻(t+Δt)の一般的なPV発電量により算出できる。ここで、Δtは売電量の時間的偏りから算出することができる。すなわち、太陽光パネルの設置方向が真南よりもずれることで売電量に時間的偏りが生じるので、その偏りを反映させることで、一般的な発電量カーブを補正することができる。
【0069】
検証によると、変形例4~6の補正を実施することで、補正しない場合の誤差18~26%から約14%を低減させることができ、誤差を4~14%にできることが判った。すなわち、変形例4~6の補正を実施することで、一般的なPV発電量カーブを用いて需要家の1ヶ月平均のPV発電量カーブを約4~14%の誤差で推定できることが判った。
【0070】
なお、本開示は、その開示の範囲内において、実施の形態を適宜、変形、省略することが可能である。
【0071】
以下、本開示の諸態様を付記としてまとめて記載する。
【0072】
(付記1)
太陽光エネルギーを電気エネルギーに変換する太陽光発電システムを備えた第1の需要家における太陽光発電量を推定する太陽光発電量推定装置であって、
前記第1の需要家における電力の計量値を通信機能を備えた第1の電力メータを介して取得すると共に、前記太陽光発電システムを備えない第2の需要家における前記電力の計量値を通信機能を備えた第2の電力メータを介して取得する取得部と、
前記第2の需要家から取得した前記電力の計量値から得られる前記第2の需要家での実負荷データに基づいて複数の負荷モデルを生成する負荷モデル生成部と、
前記複数の負荷モデルのうち、前記第1の需要家における雨の日の前記電力の計量値から取得した雨の日の負荷カーブと類似する負荷モデルを選択する負荷モデル選択部と、
前記負荷モデル選択部で選択された前記負荷モデルを前記第1の需要家における実負荷とし、前記実負荷と前記第1の需要家における晴れの日の前記電力の計量値から取得した晴れの日の買電量との差分量を求め、前記差分量に前記第1の需要家における晴れの日の前記電力の計量値から取得した晴れの日の売電量を加えることで、前記第1の需要家における前記太陽光発電量を推定する発電量推定部と、を備える太陽光発電量推定装置。
【0073】
(付記2)
前記負荷モデル選択部は、
前記雨の日の負荷カーブと類似する前記負荷モデルとの比較において得られた類似性に関する比率を算出し、前記負荷モデルのカーブに前記類似性に関する比率を乗算することで前記負荷モデルを前記第1の需要家における前記実負荷とする、付記1記載の太陽光発電量推定装置。
【0074】
(付記3)
前記負荷モデル生成部は、
前記複数の負荷モデルを予め作成して記憶する、付記1記載の太陽光発電量推定装置。
【0075】
(付記4)
前記取得部は、
前記第1および第2の需要家における電力事業者との電力契約に関する住宅属性情報を取得し、
前記発電量推定部は、
前記住宅属性情報が類似する前記太陽光発電システムを備えた第3の需要家から取得した既得の太陽光発電量で、推定した前記太陽光発電量を除算して得られる発電量比率を算出し、前記既得の太陽光発電量と共に得られる既得の太陽光発電量カーブに前記発電量比率を乗算することで前記第1の需要家における太陽光発電量カーブを算出する、付記1記載の太陽光発電量推定装置。
【0076】
(付記5)
前記太陽光発電量カーブは、
前記第1の需要家における最大発電時刻と前記既得の太陽光発電量カーブにおけるピーク時刻とのずれに基づいて、前記太陽光発電量カーブのピーク位置をずらすかまたは平行移動させることで補正される、付記4記載の太陽光発電量推定装置。
【0077】
(付記6)
前記太陽光発電量カーブは、
前記太陽光発電量カーブを取得した月の実際の日射時間または日射量を、その月の平均日射時間または日射量で除算し、得られた比率を乗算することで補正される、付記4記載の太陽光発電量推定装置。
【符号の説明】
【0078】
1 PV設置需要家、2,20 スマートメータ、10 PV非設置需要家、100 太陽光発電量推定装置、101 データおよび情報取得部、102 負荷モデル選択部、103 PV発電量推定部、104 負荷モデル生成部、DB 負荷モデルデータベース、NW 公衆網。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14