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特開2024-21193等方静水圧成形用フィルム、等方静水圧成形用袋および等方静水圧成形方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024021193
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】等方静水圧成形用フィルム、等方静水圧成形用袋および等方静水圧成形方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/32 20060101AFI20240208BHJP
   B29C 43/10 20060101ALI20240208BHJP
   B29C 43/32 20060101ALI20240208BHJP
   H01G 13/00 20130101ALI20240208BHJP
【FI】
B32B27/32 E
B29C43/10
B29C43/32
H01G13/00 351A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022123858
(22)【出願日】2022-08-03
(71)【出願人】
【識別番号】517229604
【氏名又は名称】住化積水フィルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000844
【氏名又は名称】弁理士法人クレイア特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 真治
【テーマコード(参考)】
4F100
4F204
5E082
【Fターム(参考)】
4F100AK05A
4F100AK05B
4F100AK05C
4F100AT00
4F100BA03
4F100BA14
4F100BA22A
4F100BA22B
4F100BA22C
4F100EH232
4F100EJ371
4F100EJ37A
4F100EJ37B
4F100EJ37C
4F100GB90
4F100JK01
4F204AJ03
4F204FA13
4F204FB01
4F204FN11
4F204FQ38
5E082AB03
5E082BC38
5E082FF05
5E082FG04
5E082FG26
5E082FG46
5E082LL02
5E082MM22
(57)【要約】
【課題】突刺強度性に優れ、環境への負荷が少ない、等方静水圧成形用フィルム、等方静水圧成形用袋および等方静水圧成形方法を提供する。
【解決手段】本発明の等方静水圧成形用フィルムは、高密度ポリエチレン層を有する積層フィルムからなるものである。高密度ポリエチレン層(A)が、一軸延伸フィルムであり、高密度ポリエチレン層(B)が、一軸延伸フィルムであって、高密度ポリエチレン層(A)の延伸方向と高密度ポリエチレン層(B)の延伸方向とが、異なる方向に積層されることが好ましい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高密度ポリエチレン層(A)を有する積層フィルムからなる、等方静水圧成形用フィルム。
【請求項2】
前記高密度ポリエチレン層(A)が、一軸延伸フィルムである、請求項1に記載の等方静水圧成形用フィルム。
【請求項3】
前記積層フィルムは、高密度ポリエチレン層(B)をさらに有し、
前記高密度ポリエチレン層(B)が、一軸延伸フィルムであり、
前記高密度ポリエチレン層(A)の延伸方向と前記高密度ポリエチレン層(B)の延伸方向とが、異なる方向に積層される、請求項2に記載の等方静水圧成形用フィルム。
【請求項4】
前記積層フィルムは、ラミネート層をさらに有し、
前記ラミネート層は、ポリエチレンを含む押出樹脂層であり、前記高密度ポリエチレン層(A)と前記高密度ポリエチレン層(B)との間に積層される、請求項3に記載の等方静水圧成形用フィルム。
【請求項5】
前記積層フィルムは、ラミネート層をさらに有し、
前記ラミネート層は、接着剤樹脂膜であり、前記高密度ポリエチレン層(A)と前記高密度ポリエチレン層(B)との間に積層される、請求項3に記載の等方静水圧成形用フィルム。
【請求項6】
前記積層フィルムは、シール層をさらに有し、
前記シール層は、ポリエチレンからなる樹脂層であり、前記積層フィルムの最外層に積層される、請求項1に記載の等方静水圧成形用フィルム。
【請求項7】
前記積層フィルムは、ポリエチレン系樹脂の含有量が90重量%以上である、請求項1に記載の等方静水圧成形用フィルム。
【請求項8】
前記積層フィルムは、等方静水圧成形に使用されたフィルムのポリエチレン系樹脂を含有する、請求項1に記載の等方静水圧成形用フィルム。
【請求項9】
請求項1に記載の等方静水圧成形用フィルムを用いて作られた、等方静水圧成形用袋。
【請求項10】
請求項1に記載の等方静水圧成形用フィルムを用いて被包装物を加圧する、等方静水圧成形方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層セラミック電子部品などの製造に用いられる等方静水圧成形用のフィルム、等方静水圧成形用の袋、および等方静水圧成形の方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、積層セラミック電子部品が注目されている。セラミックを積層して構成されたセラミック電子部品は、小型化および大容量化が可能であるため、電気、自動車、通信など様々な分野でニーズが拡大しているためである。
【0003】
積層セラミックコンデンサの製造方法として、例えば、特許文献1(特開2011-77391号公報)には、積層工程、熱圧着工程、ダイシング工程を通じてただ1つの粘着テープを工程材として用いることにより、大幅にコストを低減し歩留まりを向上させた積層セラミックコンデンサの製造方法が提案されている。
【0004】
特許文献1に記載の積層セラミックコンデンサの製造方法は、セラミックグリーンシートを数十~数百層に積層する積層工程と、積層したセラミックグリーンシートを加圧、加熱して押し固めてセラミックグリーンシート積層体を形成する熱圧着工程と、得られたセラミックグリーンシート積層体をダイシングするダイシング工程とを有する積層セラミックコンデンサの製造方法であって、積層工程、熱圧着工程、ダイシング工程を通じてただ1つの粘着テープのみを工程材として用いるものである。
【0005】
特許文献2(特開2010-110896号公報)には、薄くても静水圧プレスに耐えうる耐ピンホール性を有する、静水圧プレス用の包装材、およびその包装材を用いる静水圧プレスの方法が提案されている。
【0006】
特許文献2に記載の静水圧プレスの方法は、静水圧プレス用の包装材として、ナイロン層及び又はポリエチレンテレフタレート層を有するフィルムに二軸延伸直鎖状低密度ポリエチレン層をラミネートしたフィルムを用いる。当該フィルムを二軸延伸直鎖状低密度ポリエチレン層が内側になるように袋状にし、圧着成形したい物を袋の中に入れて密封し、静水圧プレスをかけるものである。
【0007】
また、特許文献3(特開2014-88181号公報)には、材料コストが安く、特殊な装置を用いることなく、加工日数が掛からずに生産性の向上した安価な包装袋が提案されている。
【0008】
特許文献3に記載の包装袋は、積層セラミックブロックを成形する静水圧プレスに用いる包装袋であって、基材層となる二軸延伸ポリプロピレンフィルムと、シーラント層となる直鎖状低密度ポリエチレンフィルムを、サンドイッチラミネーション法のポリエチレン樹脂を介して積層した包装材料を用いるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2011-77391号公報
【特許文献2】特開2010-110896号公報
【特許文献3】特開2014-88181号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
積層セラミック電子部品の製造は、一般に多数の内部電極が形成されたセラミックのグリーンシートを積層し、この積層体のブロックを加圧成形したうえで所定のサイズに裁断して焼成する方法が用いられる。
この場合、積層体の成形方法としては、セラミックグリーンシートを積み重ねたものを、包装袋に入れて真空パックし、この真空パックされたセラミックグリーンシートを積み重ねたものを等方静水圧プレスにより全方向から加圧処理する成形方法が行われる。
この等方静水圧成形の工程で用いられる包装袋には、静水圧の圧力が約30~400Mpaも加えられつつ、精密なセラミック電子部品を保護する必要がある。しかしながら、セラミックグリーンシートの積層体には角や凹凸があるため、従来のフィルムを用いた包装袋では、プレス中にピンホールが生じる場合があった。フィルムにピンホールが生じるとそこから水が入り、セラミックグリーンシートの積層体が濡れて不良品となるため、歩留まり低下を起こすという問題があった。
【0011】
特許文献1に記載の積層セラミック電子部品の製造方法では、セラミックグリーンシートをポリエチレン袋に入れて真空パックにして静水圧機にかけているが、この場合、ピンホールが生じる場合があり強度が十分でなかった。
また、特許文献2に記載の静水圧プレス用の包装材では、ナイロン層及びポリエチレンテレフタレート層を有するフィルムに二軸延伸直鎖状低密度ポリエチレン層をラミネートしたフィルムを用いて静水圧プレスをかけているが、この場合、層構成が複雑なフィルムを用意する必要があり、コストおよび環境の面からも好ましいものではなかった。
また、引用文献3に記載の包装材料は、二軸延伸ポリプロピレンフィルムの基材層に低密度ポリエチレン樹脂のポリエチレン樹脂層を設け、直鎖状低密度ポリエチレンフィルムのシーラント層を積層したものである。この場合も、強度が十分でなく、積層体とともに離型PET、アルミ板などを同梱した場合は、角部がフィルムに強く当たってピンホールが生じやすいという問題があった。
【0012】
また、近年様々な分野で積層セラミック電子部品のニーズが拡大して生産量が顕著に増加する中で、過酷な等方静水圧成形の工程を行う毎に、包装袋が廃棄されることになるため、その産業廃棄物の問題が発生しており、環境の面からも好ましくないという問題がある。
また、石油製品の利用が、地球温暖化の主要因とも言われており、半導体部品の生産工程においても再利用可能な素材を活用することによって、化石資源の依存度を下げることが期待されている。
そして、リサイクル可能な汎用プラスチックとしては、年間生産量が最も多い樹脂の一つであり、フィルム、袋、容器、成形品など様々な用途に再利用可能なポリエチレン樹脂の活用が注目されている。
しかしながら、再利用可能な素材は材質等に制約が生じるので、高温高圧環境で厳しい性能が求められる等方静水圧成形用フィルムは、環境に対応した製品の開発が困難であった。
【0013】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、
突刺強度性に優れ、環境への負荷が少ない、等方静水圧成形用フィルム、等方静水圧成形用袋および等方静水圧成形方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、単一の材料から構成され、分別および再利用が容易な、等方静水圧成形用フィルム、等方静水圧成形用袋および等方静水圧成形方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
(1)
一局面に従う等方静水圧成形用フィルムは、高密度ポリエチレン層(A)を有する積層フィルムからなるものである。
【0015】
高密度ポリエチレンは、繰り返し単位のエチレンが直鎖状に結合した結晶性のポリエチレンであり、剛性と耐摩耗特性に優れるので、突刺強度性に優れた等方静水圧成形用フィルムとすることができる。
また、高密度ポリエチレンは、包装材をはじめとして様々な分野で活用されているので、再利用が容易であり環境への負荷が少ない等方静水圧成形用フィルムとすることができる。
【0016】
(2)
第2の発明に係る等方静水圧成形用フィルムは、一局面に従う等方静水圧成形用フィルムであって、高密度ポリエチレン層(A)が、一軸延伸フィルムであってもよい。
【0017】
これにより、薄くても突刺強度性に優れた等方静水圧成形用フィルムとすることができる。突刺強度性に優れるため、等方静水圧成形時にピンホールが生じにくく、積層セラミック電子部品等の不良品を減らすことができる。
また、熱収縮性を有するので、等方静水圧成形において温水等を用いて加熱することにより、グリーンシート積層体への追随性に優れた等方静水圧成形用フィルムとすることができる。
【0018】
(3)
第3の発明に係る等方静水圧成形用フィルムは、第2の発明に係る等方静水圧成形用フィルムであって、積層フィルムは、高密度ポリエチレン層(B)をさらに有し、高密度ポリエチレン層(B)が、一軸延伸フィルムであり、高密度ポリエチレン層(A)の延伸方向と高密度ポリエチレン層(B)の延伸方向とが、異なる方向に積層されてもよい。
【0019】
延伸に伴う配向方向の異なる層が積層されることにより、方向の異なる繊維晶の層が積層された積層フィルムとなる。したがって、引張強度および破断強度など力学的強度の高い層が網目状に構成されるので、突刺力が与えられても裂けにくく、薄くても突刺強度性に優れた等方静水圧成形用フィルムとすることができる。
また、フィルムを薄くしても強度を確保することができるので、等方静水圧成形に伴う石油製品の使用量を低減することが可能となり、環境への負荷を減らすことができる。
なお、延伸方向が異なる方向に積層されているとは、実施例に示すようにMD延伸フィルムとTD延伸フィルムとが積層された場合に限定されず、例えばMD延伸フィルム2枚を延伸軸の方向が異なるように積層する場合も含まれる。
【0020】
(4)
第4の発明に係る等方静水圧成形用フィルムは、第3の発明に係る等方静水圧成形用フィルムであって、積層フィルムは、ラミネート層をさらに有し、ラミネート層は、ポリエチレンを含む押出樹脂層であり、高密度ポリエチレン層(A)と高密度ポリエチレン層(B)との間に積層されてもよい。
【0021】
これにより、高密度ポリエチレン層(A)と高密度ポリエチレン層(B)とをポリエチレンで押出ラミネートすることができる。
接着剤を用いないため、残留溶剤の問題が生じない。また、フィルム生産時に溶剤の揮発が生じないので環境負荷の点で好ましい。さらに、接着剤の硬化に要する時間が不要となり、エージング工程に必要な電力を削減することができる。
【0022】
また、この場合、押出ラミネートで用いるポリエチレンとして、使用済みの等方静水圧成形用フィルムの材料を、押出層の一部または全部、またはシーラント層などの層に用いることができる。このようにすることで、等方静水圧成形で使用したフィルムを再利用して、等方静水圧成形用フィルムを再度作成することが可能となるため、環境に優れた循環型の製造工程を実現することができる。
【0023】
(5)
第5の発明に係る等方静水圧成形用フィルムは、第3の発明に係る等方静水圧成形用フィルムであって、積層フィルムは、ラミネート層をさらに有し、ラミネート層は、接着剤樹脂膜であり、高密度ポリエチレン層(A)と高密度ポリエチレン層(B)との間に積層されてもよい。
【0024】
これにより、ラミネート層の厚みを薄くしつつ、高いラミネート強度を確保することができる。したがって、フィルムの厚みを薄くしつつ高性能の等方静水圧成形用フィルムとすることができる。
なお、この場合の接着剤樹脂膜は、ポリウレタン系接着剤を使用してもよい。
【0025】
(6)
第6の発明に係る等方静水圧成形用フィルムは、一局面から第5の発明のいずれかに係る等方静水圧成形用フィルムであって、積層フィルムは、シール層をさらに有し、シール層は、ポリエチレンからなる樹脂層であり、積層フィルムの最外層に積層されてもよい。
【0026】
これにより、グリーンシート積層体を熱融着によって保護することができ、等方静水圧成形を容易に行うことができる。
【0027】
(7)
第7の発明に係る等方静水圧成形用フィルムは、一局面から第6の発明のいずれかに係る等方静水圧成形用フィルムであって、積層フィルムは、ポリエチレン系樹脂の含有量が90重量%以上であってもよい。
【0028】
従来、モノマテリアル化をするとフィルムの材質等に制約が生じるので、高温高圧環境で厳しい性能が求められる等方静水圧成形用フィルムは、モノマテリアル化が困難であった。しかしながら、ポリエチレン系樹脂が90重量%以上含有するのモノマテリアルの等方静水圧成形用フィルムであるため、分別および再利用が容易となる。
また、ポリエチレンは、フィルム、袋、容器、成形品など様々な用途に再利用可能であるため、環境に優れている。
【0029】
(8)
第8の発明に係る等方静水圧成形用フィルムは、一局面から第7の発明のいずれかに係る等方静水圧成形用フィルムであって、積層フィルムは、等方静水圧成形に使用されたフィルムのポリエチレン系樹脂を含有してもよい。
【0030】
これにより、等方静水圧成形を行った後に、使用済みのフィルムを再度原料として再利用することができるので、環境に優れた循環型の等方静水圧成形工程とすることができる。
そして、積層セラミック電子部品の製造にかかる環境負荷を低減することができる。
【0031】
(9)
他の局面に係る等方静水圧成形用袋は、一局面から第8の発明のいずれかに係る等方静水圧成形用フィルムを用いて作られたものである。
【0032】
これにより、グリーンシート積層体を容易に包装して等方静水圧成形をすることができる。
【0033】
(10)
他の局面に係る等方静水圧成形方法は、一局面から第8の発明のいずれかに係る等方静水圧成形用フィルムまたは第9の発明に係る等方静水圧成形用袋を用いて被包装物を加圧するものである。
【0034】
これにより、環境に優れた等方静水圧成形方法とすることができ、環境への負荷が少ない積層セラミック電子部品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】本実施形態の等方静水圧成形用袋の一例を示す図である。
図2】実施例1の等方静水圧成形用フィルムの構成を説明するための模式的断面図である。
図3】実施例2の等方静水圧成形用フィルムの構成を説明するための模式的断面図である。
図4】実施例3の等方静水圧成形用フィルムの構成を説明するための模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
(等方静水圧成形)
積層コンデンサ、積層インダクタ、積層アルミナ基板、積層バリスタ、積層圧電素子などの積層セラミック電子部品は、通常原料となるセラミックを等方静水圧成形することによって製造される。
例えば、積層セラミックコンデンサ(MLCC)の場合、セラミックグリーンシートを数十~数百層に積層し(積層工程)、積層したセラミックグリーンシートを加圧して押し固めて積層体成形物を形成し(加圧成形工程)、得られた積層体成形物をダイシングし(ダイシング工程)、これを焼成して(焼成工程)製造されるのが通常である。
この加圧成形工程において、熱と高圧力の相乗効果によりセラミックグリーンシートの層間を圧着することができる、等方静水圧プレス法が一般に採用されている。温水を用いて全方向から均等な圧力で加圧処理することにより、積層体内の密度のばらつきを抑えるとともに、寸法精度に優れるため、焼成後の最終製品の性能が向上する。なお、加工の目的によって、常温に近い水で等方静水圧プレスを行う冷間等方圧プレス(CIP)、または、加温した温水等で等方静水圧プレスを行う温水等方圧プレス(WIP)が適宜採用されるが、本発明の等方静水圧成形用フィルム等はいずれの方法に用いられてもよい。
【0037】
図1は、本実施形態の等方静水圧成形用袋10の一例を示す図である。
等方静水圧成形において、セラミックグリーンシートの積層体20は、専用の成形袋10に入れられる。このとき、セラミックグリーンシートの積層体20は、離型加工されたPETフィルム30等で保護されて、アルミニウム等の基板40上に載置された状態で、成形袋10に投入することができる。そして、脱気をするために真空パックにして、袋の口が熱融着等によって閉じられて、等方静水圧プレス成形機に投入される。
等方静水圧プレス成形においては、通常約30~400Mpaの圧力が加えられるが、セラミックグリーンシートの積層体20には角や凹凸があるほか、電極が埋め込まれている場合があるため、成形袋10にピンホールが生じやすいという問題がある。また、PETフィルム30の端部または基板40の端部にも強い力が加わるため、同様にピンホールの問題がある。
【0038】
また、積層体20の包装方法として、上述のように予め用意した成形袋10に積層体20を封入する方法の他に、ロール状に巻き取られた等方静水圧成形用フィルムを用いて連続的に包装する方法も考案されている。
例えば、ロールから静水圧成形用フィルムを巻き出して、加熱真空成形型などを用いてフィルムに凹形状を作り、凹形状部分に積層体20を配置したうえで、フィルム状のトップ材で蓋をして、連続的に包装する方法である。
この場合も、等方静水圧成形用フィルムには、ピンホールの問題がある。
【0039】
(積層フィルム)
本実施形態の積層フィルムは、少なくとも高密度ポリエチレンの層を有するものである。高密度ポリエチレンのフィルムは、突刺強度性に優れて再利用性に優れたフィルムである。
この高密度ポリエチレン層Aは、一軸延伸された高密度ポリエチレン系フィルムである。また、本実施形態の積層フィルムは、高密度ポリエチレン層Bをさらに有しており、この高密度ポリエチレン層Bもまた、一軸延伸された高密度ポリエチレンフィルム系である。
そして、一軸延伸された高密度ポリエチレン層Aと高密度ポリエチレン層Bとは、その延伸方向が異なる方向となるように積層されている。この場合、高密度ポリエチレン層Aの延伸方向と高密度ポリエチレン層Bの延伸方向がなす角度は、25°以上が好ましく、45°以上がより好ましく、60°以上がさらに好ましく、90°が最も好ましい。
これにより、方向の異なる繊維晶の高密度ポリエチレンフィルムが積層されるので、力学的強度の高い層が網目状に構成された積層フィルムとなり、薄くても突刺強度性に優れた方静水圧成形用フィルムとすることができる。
【0040】
(高密度ポリエチレン層A,B)
本実施形態の高密度ポリエチレン層Aは、縦方向延伸(MD延伸)されたフィルムとすることが好ましい。この場合の延伸倍率の下限は、2倍以上が好ましく、3倍以上がより好ましく、4倍以上がさらに好ましい。これにより十分な強度を確保することができる。また、延伸倍率の上限は、8倍以下とすることが好ましく、7倍以下とすることがより好ましい。これにより、加熱して静水圧成形する場合にも収縮の影響を受けにくい。
また、本実施形態の高密度ポリエチレン層Aは、厚さの下限値が20μm以上が好ましく、30μm以上がより好ましく、40μm以上がさらに好ましい。また、厚さの上限値は100μm以下が好ましく、80μm以下がより好ましく、60μm以下がさらに好ましい。これにより、十分な強度を確保することができるとともに、環境およびコストの点で優れる。
【0041】
この高密度ポリエチレン層Aの製造方法の一例としては、例えば、密度0.955g/cm以上0.965g/cm以下の高密度ポリエチレンを押出温度240℃にてTダイから吐出し、95℃の冷却ロールで未延伸原反を製膜したうえで、120℃のピンチロールで圧接して縦方向に2倍以上8倍以下に延伸することで、縦一軸フィルムを得ることができる。
この原料のポリエチレンは、密度が0.94g/cm以上とすることが好ましく、MI10/MI2.16の値が10以下のポリエチレンを用いることが好ましい。また、原料のポリエチレンは、上記範囲内で低密度ポリエチレンなど他の樹脂を適宜混合した樹脂組成物であってよく、またエチレン以外の他のαオレフィンとの共重合体を適宜用いてもよい。
【0042】
本実施形態の高密度ポリエチレン層Bは、横方向延伸(TD延伸)されたフィルムとすることが好ましい。この場合の延伸倍率の下限は、3倍以上が好ましく、5倍以上がより好ましく、8倍以上がさらに好ましい。これにより十分な強度を確保することができる。また、延伸倍率の上限は、20倍以下とすることが好ましく、13倍以下とすることがより好ましい。これにより、加熱して静水圧成形する場合にも収縮の影響を受けにくい。
また、本実施形態の高密度ポリエチレン層Bは、厚さが5μm以上50μm以下が好ましく、10μm以上30μm以下がより好ましく、15μm以上22μm以下がさらに好ましい。これにより、十分な強度を確保することができるとともに、環境およびコストの点で優れる。
また、本実施形態の積層フィルムは、高密度ポリエチレン層Bを2層以上設けることがより好ましく、2層設けることが最も好ましい。これにより十分な強度を確保することができる。なお、高密度ポリエチレン層Bを2層以上設ける場合は、高密度ポリエチレン層Bの延伸軸の方向は同じ向きに揃えることが好ましい。
これにより、方向の異なる繊維晶の層が網目状に積層されるので、薄くても突刺強度性に優れた等方静水圧成形用フィルムとすることができる。なお、この場合の一軸延伸フィルムは、上記作用および効果を奏する範囲での設計変更が可能であり、例えば二軸延伸フィルムの一方の延伸倍率が他方の延伸倍率よりも著しく大きい場合なども含まれる。そのような延伸倍率の具体例としては、例えば一方の延伸量が他方の4倍以上の差を有する場合などが挙げられる。
【0043】
この高密度ポリエチレン層Bの製造方法の一例としては、例えば、密度0.95g/cm以上0.97g/cm以下の高密度ポリエチレン100重量部と、密度0.913g/cm以上0.928g/cm以下の低密度ポリエチレン20重量部以上40重量部以下と、を混合して原料ポリエチレンとし、フィルムダイから吐出して、未延伸原反を製膜したうえで、100℃以上140℃以下のテンター内で10倍以上20倍以下に延伸することで、横一軸延伸フィルムを得ることができる。
この原料ポリエチレンは、低密度ポリエチレンを混合しなくてもよいが、低密度ポリエチレンを混合することにより、透明性が向上し引裂きにくいフィルムにすることができる。また、原料ポリエチレンは、エチレン以外の他のαオレフィンとの共重合体を適宜用いてもよい。
【0044】
また、本実施形態の積層フィルムでは、高密度ポリエチレン層Aが1枚と、厚みの異なる高密度ポリエチレン層Bが2枚と、を積層する場合について例示したが、この構成に限定されるものではない。
すなわち、高密度ポリエチレン層Aの厚さと同程度の高密度ポリエチレン層Bを用いて、各1枚のフィルムを延伸軸が異なるように積層してもよい。この場合、高密度ポリエチレン層Bの好ましい厚さは、高密度ポリエチレン層Aの好ましい厚さと同じである。
また、積層の順序も特に限定されるものではなく、本実施形態では高密度ポリエチレン層A、高密度ポリエチレン層B、シール層の順で積層したが、高密度ポリエチレン層Aと高密度ポリエチレン層Bの順序は反対でも良い。また、高密度ポリエチレン層Bを2枚以上用いる場合、高密度ポリエチレン層Bが高密度ポリエチレン層Aを挟むように積層してもよい。
なお、本明細書では便宜上、縦方向延伸フィルムで形成した層をAとし、横方向延伸フィルムで形成した層をBとして説明するが、縦方向延伸フィルムで形成した層をBとして縦方向延伸フィルムで形成した層をAとしてもよい。
また、上記のほかに、バリア層・離型処理層など、他の機能を有する層を適宜設けることが可能である。これらの層は、ポリエチレン系の樹脂で構成されることが好ましいが、本発明の目的および効果の範囲において適宜設計を変更してもよい。
【0045】
(ラミネート層11,12)
本実施形態の積層フィルムは、高密度ポリエチレン層A,Bがラミネート層11,12を介して積層されている。また、高密度ポリエチレン層Bが2層以上の場合も、ラミネート層11,12を介して積層されている。
この積層方法としては、押出ラミネート法による押出樹脂層11を設ける方法と、接着剤を塗布して接着剤樹脂膜12により接着する方法と、を適宜採用することができる。
【0046】
押出樹脂層11により押出ラミネートする方法としては、例えば、原料ポリエチレンを約320℃で溶融しながら押出機から押し出して、高密度ポリエチレン層Aと溶融した押出樹脂層11と高密度ポリエチレン層Bとを互いに積層することで、積層フィルムを得ることができる。
この場合の原料ポリエチレンは、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、他のオレフィンとの混合物を適宜用いることができる。特に、使用済みの等方静水圧成形用フィルムの材料を原料ポリエチレンに混合することにより、環境に優れた循環型の製造工程を実現することができる。
押出ラミネートを行うにあたり、接着性を改良するために、各フィルムには表面処理を行ってもよい。具体的には、コロナ処理、プラズマ処理、アンカーコート処理、プライマーコート処理等を行ってもよい。なお、モノマテリアルの観点からは、アンカーコート処理およびプライマーコート処理を行わない接着剤レスの押出樹脂層11とすることが好ましい。
また、押出樹脂層11の厚みとしては、5μm以上50μm以下が好ましく、10μm以上40μm以下がより好ましい。これにより、十分な接着性とともにフィルムの硬さを備えることができる。
【0047】
接着剤樹脂膜12によりドライラミネートする方法としては、例えば、高密度ポリエチレン層Aにポリウレタン系の接着剤をローラ等で適宜塗布し、高温乾燥機で乾燥させる。そして、接着剤樹脂膜12が形成された高密度ポリエチレン層Aと高密度ポリエチレン層Bとを互いに接着することで、積層フィルムを得ることができる。
この場合のラミネート用接着剤は、ポリ酢酸ビニル系接着剤、ポリアクリル酸エステル系接着剤、シアノアクリレート系接着剤、エチレン共重合体系接着剤、セルロース系接着剤、ポリエステル系接着剤、ポリアミド系接着剤、ポリイミド系接着剤、アミノ樹脂系接着剤、フェノール樹脂系接着剤、エポキシ系接着剤、ポリウレタン系接着剤、(メタ)アクリル酸系接着剤、シリコーン系接着剤、を用いることができる。このうち、ポリエチレンに対する接着性および接着剤樹脂膜12の柔軟性の点から、ポリウレタン系接着剤を好適に使用することができる。また、ポリウレタン系接着剤は、水性型、溶液型、エマルジョン型、分散型などのいずれの形態でもよいが、生産性やコストの点で溶剤型を用いることが好ましい。
また、押出樹脂層11の厚みとしては、5μm以上50μm以下が好ましく、10μm以上40μm以下がより好ましい。これにより、十分な接着性とともにフィルムの硬さを備えることができる。
【0048】
また、接着剤樹脂膜12によりドライラミネートする他の方法としては、有機溶剤を使用しない接着剤等を使用した、無溶剤ドライラミネート法を用いることも可能である。これにより、乾燥工程が不要となり溶剤の放出もなくなるので環境に優れた積層フィルムとすることができる。この場合の接着剤としては、例えば水性型、ホットメルト型、フィルム型、反応型を好適に使用することができる。
また、ラミネート層11,12によりラミネートする更に他の方法としては、ラミネート用フィルムを用いて熱融着する、熱ラミネート法を用いることも可能である。この場合のラミネート用フィルムとしては、低密度ポリエチレンまたは直鎖低密度ポリエチレンのフィルムを好適に使用することができる。これにより、モノマテリアルにすることができ、溶剤の放出もないので、環境に優れた積層フィルムとすることができる。
【0049】
(シール層14,15,16)
本実施形態の積層フィルムは、最外層に熱融着可能なシール層を有している。これにより、セラミックグリーンシートの積層体20を効率よくかつ確実に包装するとともに、高温高圧のかかる等方静水圧成形においても止水が維持されて積層体20が濡れて不良となるのを防止することができる。
本実施形態のシール層は、ポリエチレンからなる樹脂層であり、押出機で押出成形した押出シール層15であってもよいし、別途用意した原反フィルムを利用したフィルムシール層16であってもよい。また、押出シール層15またはフィルムシール層16の形成にあたっては、必要に応じて、アンカーコート剤または接着剤を塗布することによるACシール層14を設けてもよい。
【0050】
押出シール層15の場合、原料ポリエチレンとしては、低密度ポリエチレンまたは直鎖低密度ポリエチレンを用いることが好ましい。これにより、防湿性に優れつつヒートシール性に優れた積層フィルムとすることができる。また、押出シール層15は、高密度ポリエチレン層A,Bに直接押出ラミネートして貼着することができる。また、押出シール層15は2層以上設けてもよく、その場合、ポリエチレン以外の樹脂の層を設けることもできる。
フィルムシール層16の場合、原反フィルムとしては直鎖低密度ポリエチレンを用いることが好ましい。これにより、防湿性に優れつつヒートシール性に優れた積層フィルムとすることができる。フィルムシール層16と高密度ポリエチレン層A,Bとは、ラミネート層11,12によって積層される。
シール層14,15,16の融点は特に限定されないが、最外層となるシール層15,16は、その融点が押出樹脂層11よりも低いことが好ましい。これにより製袋加工時の内層の染み出しを防止することができる。
【0051】
(モノマテリアル)
本実施形態の等方静水圧成形用フィルムは、ポリエチレン系樹脂からなるモノマテリアルのフィルムである。これまではフィルムの材質に制約があるため、高温高圧環境で厳しい性能と安定した特性が求められる等方静水圧成形用フィルムは、モノマテリアル化が困難であった。
本実施形態の等方静水圧成形用フィルムの積層フィルムによれば、高密度ポリエチレンの層が含まれるので、機械的強度に優れる。さらに、一軸延伸の高密度ポリエチレン層Aと、一軸延伸の高密度ポリエチレン層Bとが、延伸方向が異なる方向に積層されることで、耐ピンホール性に特に優れている。
そして、本実施形態の等方静水圧成形用フィルムは、モノマテリアルのフィルムであることから、積層セラミック電子部品の製造過程で発生するフィルムの廃棄物を容易に分別および再利用することができる。また、ポリエチレンは、汎用プラスチックとして年間生産量が最も多い樹脂の一つであり、フィルム、袋、容器、成形品など様々な用途に使用されているため、原料として再利用の幅が広い。
この場合、モノマテリアルの等方静水圧成形用フィルムとしては、積層フィルムにおけるポリエチレン系樹脂の含有量が90重量%以上であることが好ましく、95重量%以上であることがより好ましく、98重量%以上であることがさらに好ましい。純度が高くなることにより、ポリエチレン系樹脂としての性能が高まるので、原料として再利用可能な製品の幅が広がる。
【0052】
さらに、本実施形態で分別されたポリエチレン系樹脂を、押出樹脂層11またはシール層15,16の一部などに再度利用することによって、環境に優れた循環型の成形工程とすることができる。そして、積層セラミック電子部品の製造にかかる環境負荷を低減することができる。押出層11またはシール層15,16など層の一部に再利用する方法としては、例えば、材料ペレットに混合してポリエチレン樹脂として循環的に再利用する方法がある。
【実施例0053】
(実施例1)
高密度ポリエチレン層Aとして、縦一軸延伸のポリエチレンフィルムの原反を1本用意した。また、高密度ポリエチレン層Bとして、横一軸延伸のポリエチレンフィルムの原反を2本用意した。そして、低密度ポリエチレンを用いた押出ラミネート法により、「高密度ポリエチレン層A/押出樹脂層11/高密度ポリエチレン層B/押出樹脂層11/高密度ポリエチレン層B」の順に積層して、積層フィルムを得た。
押出ラミネートにあたっては、高密度ポリエチレン層A,Bの表面はコロナ放電を施し、110mmφ押出機を有する押出ラミネーターにより、低密度ポリエチレンをダイ下温度320℃、エアーギャップ150mm、加工速度130m/分の条件で押し出してラミネーションを行った。なお、押出ラミネートにあたっては、アンカーコートなどの接着剤は使用しなかった。
【0054】
上記のようにして得られた積層フィルムは、さらに低密度ポリエチレンを押出ラミネートにより積層してシール層15を形成して、等方静水圧成形用フィルム(総厚146μm)を得た。
シール層15を形成する場合の押出ラミネートの条件は、押出樹脂層11の条件と同様である。
【0055】
各層の作製に用いた原料の詳細は以下の通りである。
・高密度ポリエチレン層A:東京インキ株式会社製、PE3K-BT、密度0.950g/cm、厚さ50μm、縦一軸延伸の高密度ポリエチレンフィルム
・高密度ポリエチレン層B:デンカ株式会社製、カラリヤン、密度0.945g/cm、厚さ18μm、横一軸延伸の高密度ポリエチレンフィルム
・押出樹脂:東ソー社製、ペトロセン203、低密度ポリエチレン、密度0.919g/cm、MFR(190℃2160g) 8g/10分
・低密度ポリエチレン:東ソー社製、ペトロセン212、密度0.919g/cm、MFR(190℃2160g) 13g/10分
【0056】
このようにして得られた等方静水圧成形用フィルムの構成は、図2に示すように、「高密度ポリエチレン層A(50μm)/押出樹脂層11(15μm)/高密度ポリエチレン層B(18μm)/押出樹脂層11(15μm)/高密度ポリエチレン層B(18μm)/シール層15(30μm)」となっている。
実施例1の等方静水圧成形用フィルムは、接着剤が一切用いられないため、ポリエチレン系樹脂のみで構成される完全なモノマテリアルのフィルムである。
【0057】
(実施例2)
実施例1の押出ラミネートの代わりに、ドライラミネートを行った。
ドライラミネートにあたっては、高密度ポリエチレン層Aのフィルムを巻き出しながらロールによりドライラミネート用接着剤を塗布し、乾燥機を用いて80℃5秒の加熱乾燥を行って接着剤樹脂膜12を形成した。次に、高密度ポリエチレン層Aのフィルムと圧着してロール状に巻き取ってエージングした。
【0058】
上記のようにして得られた積層フィルムは、さらにアンカーコート剤を塗布したうえで、低密度ポリエチレンを押出ラミネートにより積層することで、シール層14およびシール層15を形成し、等方静水圧成形用フィルム(総厚121μm)を得た。
【0059】
各層の作製に用いた原料の詳細は以下の通りである。
・接着剤:2液硬化型ウレタン系接着剤、三井化学社製、主剤A616、硬化剤65
・アンカーコート剤:2液硬化型ウレタン系接着剤、三井化学製、主剤A3210、硬化剤A3072
【0060】
このようにして得られた等方静水圧成形用フィルムの構成は、図3に示すように、「高密度ポリエチレン層A(50μm)/接着剤樹脂膜12(2μm)/高密度ポリエチレン層B(18μm)/接着剤樹脂膜12(2μm)/高密度ポリエチレン層B(18μm)/シール層14(1μm)/シール層15(30μm)」となっている。
実施例2の等方静水圧成形用フィルムは、層間に接着剤が用いられるが、ポリエチレン系樹脂が96重量%用いられたモノマテリアルフィルムであり、リサイクル性に優れている。
【0061】
(実施例3)
実施例2のシール層15の厚みを20μmとして、さらにシール層16として直鎖低密度ポリエチレンフィルムを押出ラミネートで積層した。
シール層16の作製に用いた原料の詳細は以下の通りである。
・直鎖低密度ポリエチレンフィルム:スカイフィルム社製、HR543、密度0.918g/cm、MFR(190℃2160g) 3.8g/10分、無延伸LLDPEフィルム
【0062】
このようにして得られた等方静水圧成形用フィルムの構成は、図4に示すように、「高密度ポリエチレン層A(50μm)/接着剤樹脂膜12(2μm)/高密度ポリエチレン層B(18μm)/接着剤樹脂膜12(2μm)/高密度ポリエチレン層B(18μm)/シール層14(1μm)/シール層15(20μm)/シール層16(30μm)」となっている。
実施例3の等方静水圧成形用フィルムは、層間に接着剤が用いられるが、ポリエチレン系樹脂が96重量%用いられたモノマテリアルフィルムであり、リサイクル性に優れている。
【0063】
(実施例4)
実施例1の積層フィルム(シール層を除く)において、押出樹脂層11および高密度ポリエチレン層Bを設けなかった以外は、実施例1と同様にして積層フィルムを得た。
【0064】
(実施例5)
実施例1の積層フィルム(シール層を除く)において、高密度ポリエチレン層Bを高密度ポリエチレン層Aとし、縦一軸延伸のポリエチレンフィルム(50μm)2枚を同じ軸方向となるように押出ラミネートで積層した。
そして、押出樹脂層11および高密度ポリエチレン層Bを設けなかった以外は、実施例1と同様にして積層フィルムを得た。
【0065】
(比較例1)
無延伸の低密度ポリエチレンフィルム(100μm)を用意し、実施例1と同様に評価した。フィルムの詳細は以下の通りである。
・無延伸低密度ポリエチレンフィルム:宇部丸善ポリエチレン株式会社製、Z481、厚さ100μmのLDPEフィルム
【0066】
(比較例2)
1軸延伸の低密度ポリエチレンフィルム(50μm)を用意し、実施例1と同様に評価した。
・1軸延伸低密度ポリエチレンフィルム:宇部丸善ポリエチレン株式会社製、Z481をMD方向延伸倍率2.5倍に延伸した、厚さ50μmのLDPEフィルム
【0067】
<突刺強度試験>
フィルム構成が与える強度の影響を確認するため、シール層を除いた積層フィルムの突刺強度試験を行った。すなわち、各実施例で得られた等方静水圧成形用フィルムのうちシール層を除いた積層フィルム(図の鍵括弧部分のみ)と、比較例のフィルムとについて、突刺強度試験を行った。
突刺強度試験は、JISZ1707(2019)に準拠する方法で行われ、具体的には、株式会社島津製作所製-テンシロン万能試験機(型式:オートグラフAGS-X)を使用し、23℃、50%RH条件下で、先端の丸い針(直径1mmφ、R=0.5mm)を突刺速度50mm/分で、固定した積層フィルムに突き刺し、針が貫通する際の強度(N)を測定して行った。
その結果を表1に示す。なお、実施例2および実施例3は、シール層の構成のみ異なるため、表1の結果は同じ値となる。
【0068】
【表1】
【0069】
実施例と比較例との比較から、高密度ポリエチレン層を有する積層フィルムは、突刺強度が高い結果が得られた。
実施例4と実施例5とを比較すると、実施例4の方が実施例5よりも延伸フィルムの厚みが薄いにもかかわらず、突刺強度は高い結果が得られた。したがって、延伸軸が同じ方向となるようにフィルムを貼り合せた場合と比較して、延伸軸の方向が異なる方向となるようにフィルムを貼り合せることによって、突刺強度の高い積層フィルムが得られることが確認された。
また、実施例1と実施例2とを比較すると、ドライラミネートを用いた接着剤樹脂膜12よりも押出ラミネートを用いた押出樹脂層11の方が、突刺強度が高い結果が得られた。実施例1は接着剤も一切使用されないので環境にも優れる。
【0070】
<製袋加工評価試験>
実施例1,2,3で得られた等方静水圧成形用フィルム(シール層を含む)を、長方形(200mm×200mm)に切り出して、三方シール製袋機(トタニ技研社製BH-60HVLL)を使用して縦シールを行った際の外観・シール適性等を観察した。
製袋加工時に、押出ラミネート層等の染み出し、張り合わせ時のシワの発生状況等を確認し、何ら認められなかったものを◎、問題ない範囲のものを〇、実用に耐え得るものを△、問題があったものは×とした。
また、ヒートシール部分をテンシロン万能試験機を用いた引張試験(JIS-Z1707)を行い、シール強度を測定した。なお、シール部分を15mm幅×100mm長さの短冊状に切り出し、引張速度200mm/分で測定した際の破断強度をシール強度とした。
その結果を表2に示す。
【0071】
【表2】
【0072】
実施例2と3との比較から、最外層のシール層には、直鎖低密度ポリエチレン層を設けることにより、シール強度および製袋加工性に優れることが分かった。
また、実施例1と2との比較から、層間にドライラミネートを使用した方が押出樹脂のシミ出し防止など製袋加工性の点では優れていることが確認された。
【0073】
本発明においては、成形袋10,等方静水圧成形用袋10が「等方静水圧成形用袋」に相当し、ラミネート層11、12が「ラミネート層」に相当し、押出樹脂層11が「押出樹脂層」に相当し、接着剤樹脂膜12が「接着剤樹脂膜」に相当し、ACシール層14,押出シール層15,フィルムシール層16が「シール層」に相当し、高密度ポリエチレン層Aが「高密度ポリエチレン層(A)」に相当し、高密度ポリエチレン層Bが「高密度ポリエチレン層(B)」に相当する。
【0074】
本発明の好ましい一実施の形態は上記の通りであるが、本発明はそれだけに制限されない。本発明の精神と範囲から逸脱することのない様々な実施形態が他になされることは理解されよう。さらに、本実施形態において、本発明の構成による作用および効果を述べているが、これら作用および効果は、一例であり、本発明を限定するものではない。
【符号の説明】
【0075】
10 成形袋
11 押出樹脂層(ラミネート層)
12 接着剤樹脂膜(ラミネート層)
14 ACシール層(シール層)
15 押出シール層(シール層)
16 フィルムシール層(シール層)
20 積層体
30 PETフィルム
40 基板
A,B 高密度ポリエチレン層


図1
図2
図3
図4