(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024021238
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】巻線体、巻線体の製造方法、溶接用電極、及び製造装置
(51)【国際特許分類】
B01D 39/20 20060101AFI20240208BHJP
B23K 11/00 20060101ALI20240208BHJP
B23K 11/22 20060101ALI20240208BHJP
B60R 21/264 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
B01D39/20 A
B23K11/00 510
B23K11/22
B60R21/264
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022123942
(22)【出願日】2022-08-03
(71)【出願人】
【識別番号】000237167
【氏名又は名称】富士フィルター工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085660
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 均
(74)【代理人】
【識別番号】100149892
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 弥生
(72)【発明者】
【氏名】吉田 豊
(72)【発明者】
【氏名】松本 貴志
【テーマコード(参考)】
3D054
4D019
【Fターム(参考)】
3D054DD19
4D019AA01
4D019AA03
4D019BA02
4D019BB01
4D019CA03
4D019CB06
4D019CB07
(57)【要約】
【課題】製造工程数を増加させることなく、溶接部から終端縁までの距離をできるだけ短くして、金属線材の終端部によって他部品等を損傷させない巻線体を製造し、欠陥のある巻線体が製造されないようにする。
【解決手段】少なくとも1本の連続する金属線材20が螺旋状且つ多層状に巻きつけられた多孔の巻線体(フィルタ10)である。巻線体において、金属線材の終端部30(金属線材部分20n)は、金属線材の他の部分(金属線材部分20m)に抵抗スポット溶接されると共に、該溶接された箇所において溶断されている。終端部30(金属線材部分20n)は、金属線材の幅方向の全体が溶融した後に凝固した溶融凝固部31nを有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1本の連続する金属線材が螺旋状且つ多層状に巻きつけられた多孔の巻線体であって、
前記金属線材の終端部は、前記金属線材の他の部分に抵抗スポット溶接されると共に、該溶接された箇所において溶断されていることを特徴とする巻線体。
【請求項2】
少なくとも1本の連続する金属線材が螺旋状且つ多層状に巻きつけられた多孔の巻線体であって、
前記金属線材の終端部は、前記金属線材の他の部分に抵抗スポット溶接されると共に、
該溶接された箇所において溶断され、且つ、該溶接された箇所近傍の熱影響部が引き千切られていることを特徴とする巻線体。
【請求項3】
少なくとも1本の連続する金属線材が螺旋状且つ多層状に巻きつけられた多孔の巻線体であって、
前記金属線材の終端部は、前記金属線材の他の部分に抵抗スポット溶接されると共に、該溶接された箇所において、又は該溶接された箇所と該箇所近傍の熱影響部において、溶断されており、
前記終端部は、前記金属線材の終端縁から所定の長手方向長の範囲に亘って前記金属線材の幅方向の全体が溶融した後に凝固した溶融凝固部を有することを特徴とする巻線体。
【請求項4】
少なくとも1本の連続する金属線材が螺旋状且つ多層状に巻きつけられた多孔の巻線体であって、
前記金属線材の終端部は、前記金属線材の他の部分に抵抗スポット溶接されると共に、該溶接された箇所において、又は該溶接された箇所と該箇所近傍の熱影響部において、溶断されており、
前記終端部は、前記金属線材の厚さが該金属線材の終端縁に向かって漸減していることを特徴とする巻線体。
【請求項5】
少なくとも1本の連続する金属線材が螺旋状且つ多層状に巻きつけられた多孔の巻線体であって、
前記金属線材の終端部は、前記金属線材の他の部分に抵抗スポット溶接されると共に、該溶接された箇所と該箇所近傍の熱影響部において溶断されており、
前記終端部には、軟化した前記金属線材が前記終端縁に向かって引き延ばされたことを示す延伸痕が形成されていることを特徴とする巻線体。
【請求項6】
少なくとも1本の連続する金属線材が螺旋状且つ多層状に巻きつけられた多孔の巻線体であって、
前記金属線材の終端部は、前記金属線材の他の部分に抵抗スポット溶接されると共に、該溶接された箇所において、又は該溶接された箇所と該箇所近傍の熱影響部において、溶断されており、
前記終端部は、前記金属線材の幅方向の少なくとも一部が溶融した後に凝固した溶融凝固部を有し、該溶融凝固部の少なくとも一部が外部に露出していることを特徴とする巻線体。
【請求項7】
少なくとも1本の連続する金属線材が螺旋状且つ多層状に巻きつけられた多孔の巻線体であって、
前記金属線材の終端部は、前記金属線材の他の部分に抵抗スポット溶接されると共に、該溶接された箇所において、又は該溶接された箇所と該箇所近傍の熱影響部において、溶断されており、
前記終端部は、前記金属線材の幅方向の少なくとも一部が溶融した後に凝固した溶融凝固部を有し、前記金属線材の終端縁は前記溶融凝固部であり、該終端縁から前記金属線材の所定の長手方向長に亘って前記溶融凝固部が外部に露出していることを特徴とする巻線体。
【請求項8】
少なくとも1本の連続する金属線材が螺旋状且つ多層状に巻きつけられた多孔の巻線体であって、
前記金属線材の終端部は、前記金属線材の他の部分に抵抗スポット溶接されると共に、該溶接された箇所において、又は該溶接された箇所と該箇所近傍の熱影響部において、溶断されており、
前記終端部は、前記金属線材の幅方向の少なくとも一部が溶融した後に凝固した溶融凝固部を有し、前記溶融凝固部の少なくとも一部が外部に露出しており、前記溶融凝固部のうち外部に露出する部分は、前記金属線材の終端縁に向かって肉厚が漸減する部分を有することを特徴とする巻線体。
【請求項9】
少なくとも1本の連続する金属線材が螺旋状且つ多層状に巻きつけられた多孔の巻線体であって、
前記金属線材の終端部は、前記金属線材の他の部分に抵抗スポット溶接されると共に、該溶接された箇所において、又は該溶接された箇所と該箇所近傍の熱影響部において、溶断されており、
前記終端部と前記金属線材の他の部分とは、夫々溶融した後に凝固した溶融凝固部を有し、前記金属線材の他の部分に形成された前記溶融凝固部の少なくとも一部が外部に露出していることを特徴とする巻線体。
【請求項10】
少なくとも1本の連続する金属線材が螺旋状且つ多層状に巻きつけられた多孔の巻線体であって、
前記金属線材の終端部は、前記金属線材の他の部分に抵抗スポット溶接されると共に、該溶接された箇所において、又は該溶接された箇所と該箇所近傍の熱影響部において、溶断されており、
前記終端部と前記金属線材の他の部分とは、夫々溶融した後に凝固した溶融凝固部を有し、前記終端部に形成された前記溶融凝固部の少なくとも一部と、前記金属線材の他の部分に形成された前記溶融凝固部の少なくとも一部が、共に外部に露出していることを特徴とする巻線体。
【請求項11】
少なくとも1本の連続する金属線材が螺旋状且つ多層状に巻きつけられた多孔の巻線体であって、
前記金属線材の終端部は、前記金属線材の他の部分に抵抗スポット溶接されると共に、該溶接された箇所において、又は該溶接された箇所と該箇所近傍の熱影響部において、溶断されており、
前記終端部は、前記金属線材が溶融した後に凝固した溶融凝固部を有し、
前記終端部を構成する前記金属線材部分の幅内に形成された前記溶融凝固部が外部に露出していることを特徴とする巻線体。
【請求項12】
少なくとも1本の連続する金属線材が螺旋状且つ多層状に巻きつけられた多孔の巻線体の製造方法であって、
前記金属線材に所定のテンションを加えた状態で、前記金属線材を心棒に対して螺旋状且つ多層状に巻き付ける巻付工程と、
前記金属線材の巻き終わり部を巻き付け済みの前記金属線材部分に抵抗スポット溶接により溶接する溶接工程と、を含み、
前記溶接工程では、前記金属線材に継続して付与されている前記テンションを利用して、供給側の前記金属線材部分を巻き付け済みの前記金属線材部分から溶断することを特徴とする巻線体の製造方法。
【請求項13】
前記心棒に金属線材を供給する側を上流側、前記心棒に既に巻き付けられた前記金属線材の側を下流側とした場合に、
前記溶接工程においては、溶接用電極の上流側部位における前記金属線材部分の加圧力が、前記溶接用電極の下流側部位における前記金属線材部分の加圧力よりも大きくなるように、前記溶接用電極を前記金属線材部分に当接させることを特徴とする請求項12に記載の巻線体の製造方法。
【請求項14】
前記心棒に向けて供給される前記金属線材の延在方向を接線方向、前記心棒の軸線を通り、前記接線と前記軸線との双方に直交する仮想線を前記心棒の法線とした場合に、
前記溶接工程では、前記溶接用電極を、その中心軸線が前記法線よりも下流側となる位置に配置すると共に、前記法線と前記中心軸線の方向を一致させた状態にて、前記金属線材を前記溶接用電極によって前記法線方向に加圧して前記金属線材の巻き終わり部を巻き付け済みの前記金属線材部分に溶接することを特徴とする請求項13に記載の巻線体の製造方法。
【請求項15】
前記心棒に向けて供給される前記金属線材の延在方向を接線方向、前記心棒の軸線を通り、前記接線と前記軸線との双方に直交する仮想線を前記心棒の法線とした場合に、
前記溶接工程では、前記溶接用電極の電極先端面の法線を、前記心棒の法線よりも前記金属線材の供給側に傾倒させた状態にて、前記金属線材を前記溶接用電極によって加圧して前記金属線材の巻き終わり部を巻き付け済みの前記金属線材部分に溶接することを特徴とする請求項13に記載の巻線体の製造方法。
【請求項16】
少なくとも1本の連続する金属線材を回転する心棒に巻き付けて、前記金属線材が螺旋状且つ多層状に巻きつけられた多孔の巻線体を製造する際に使用される溶接用電極であって、
溶接時に前記金属線材の幅方向の全体を覆いうる第一の長さを有する電極先端面を備えることを特徴とする溶接用電極。
【請求項17】
前記電極先端面は、前記金属線材の長手方向の所定長を覆いうる第二の長さを有し、
該第二の長さ方向の一方側には、溶接対象となる重なり合う2つの金属線材部分を加圧しつつ該両金属線材部分に通電する加圧通電部を、第二の長さ方向の他方側には、前記電極先端面に接触した前記金属線材部分を押圧しつつ冷却する押圧冷却部を備えることを特徴とする請求項16に記載の溶接用電極。
【請求項18】
前記加圧通電部は、前記押圧冷却部よりも前記溶接用電極の先端方向に突出していることを特徴とする請求項17に記載の溶接用電極。
【請求項19】
前記押圧冷却部は、通電されないように構成されていることを特徴とする請求項17に記載の溶接用電極。
【請求項20】
少なくとも1本の連続する金属線材を螺旋状且つ多層状に巻きつけることにより多孔の巻線体を製造する製造装置であって、
一定方向に所定速度で回転すると共に、前記金属線材が螺旋状且つ多層状に巻き付けられる心棒と、
前記金属線材の巻き終わり部を巻き付け済みの金属線材部分に抵抗スポット溶接により溶接する溶接装置と、を含み、
該溶接装置は、請求項16乃至19の何れか一項に記載の溶接用電極を備えることを特徴とする製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1本の連続する金属線材が螺旋状且つ多層状に巻きつけられた多孔の巻線体、巻線体の製造方法、巻線体の製造に適した溶接用電極、及び、溶接用電極を備えた製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
少なくとも1本の連続する金属線材が、螺旋状且つ多層状に巻き付けられることにより作製される中空筒形状をした多孔の巻線体は、流体中から所定のサイズを超える異物を除去するフィルタや、流体を冷却する用途等に使用されている。
このような巻線体が記載された文献として特許文献1が挙げられる。
上記巻線体においては、金属線材の巻き終わり側の端部を溶接等により巻線体の適所に固定すると共に、金属線材を切断する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、金属線材の終端縁(切断端)は、できるだけ溶接部に近いことが望ましい。金属線材の終端縁が溶接部から大きく離間していると、以下のような問題が生じる虞がある。問題の一例は、溶接部から終端縁までの金属線材部分が他の部品等に引っ掛かることで他部品等を傷付ける虞があることである。問題の他の例は、溶接部から終端縁までの距離が長いと溶接部が剥離しやすくなることである。
仮に、金属線材を切断する工具としてニッパや鋏等を使用するならば、切断刃を金属線材の長手方向と交差する方向に作用させる必要がある。切断に際して、金属線材と巻線体との間に切断刃が挿入されることから、溶接部から終端縁までの金属線材部分は、その距離が長くなる上、切断刃の挿入により外径方向に立ち上がりやすい。このため、上述した問題を発生させないためには、溶接部から終端縁までの金属線材部分の長さを短くする後加工が必要となり、製造工程数が増加する。
【0005】
また、溶接部から終端縁までの金属線材部分の長さを短くするために、溶接部のごく近傍において、金属線材をその長手方向と交差する方向に繰り返し折り曲げることで、金属線材を切断することが考えられる。しかし、この方法では切断部が折り曲げられた方向に変形して加工硬化した状態になりやすく、他部品を傷付けるという問題は解決できない。また、切断方法としては煩雑である。
特許文献1には、金属線材の巻き終わり側の端部を溶接することが記載されているが、巻き終わり側の端部をどのように切断処理するかまでは記載されていない。
本発明は上述の事情に鑑みてなされたものであり、製造工程数を増加させることなく、溶接部から終端縁までの距離をできるだけ短くした巻線体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明は、少なくとも1本の連続する金属線材が螺旋状且つ多層状に巻きつけられた多孔の巻線体であって、前記金属線材の終端部は、前記金属線材の他の部分に抵抗スポット溶接されると共に、該溶接された箇所において溶断されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、製造工程数を増加させることなく、溶接部から終端縁までの距離をできるだけ短くした巻線体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態に係るフィルタの模式的斜視図である。
【
図2】フィルタの終端部の状態を示す模式図であり、(a)は金属線材の長手方向に沿って切断した断面図であり、(b)はフィルタの外径側から観察した斜視図である。
【
図3】フィルタの終端部付近を実物写真で示す図である。
【
図4】巻線体の製造装置のうち、主として巻付装置を模式的に示した図である。
【
図5】巻線体の製造装置のうち、特にガイド部材の下流側を模式的に示した図である。
【
図7】(a)、(b)は、電極先端面と電極先端面に接触する金属線材との関係について説明する平面図である。
【
図8】(a)、(b)は、金属線材が切断される直前の状態を示す模式図である。
【
図9】(a)、(b)は、金属線材が切断される直前の状態を示す模式図である。
【
図10】(a)、(b)は、金属線材が切断される直前の状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載される構成要素、種類、組み合わせ、形状、その相対配置などは特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する主旨ではなく単なる説明例に過ぎない。また、各実施形態に示した構成は、矛盾しない限り適宜組み合わせて実施することかできる。
【0010】
〔フィルタの概略形状〕
図1は、本発明の一実施形態に係るフィルタの模式的斜視図である。
本発明の実施形態に係る中空筒状のフィルタ10は、少なくとも一本の連続する金属線材20を、軸方向(図中上下方向)に対して一定の傾斜角度を有して、一定のピッチで螺旋状に、且つ多層状に巻き付けることにより形成される。なお、フィルタ10は少なくとも1本の連続する金属線材が螺旋状且つ多層状に巻きつけられた多孔の巻線体の一例である。ここで金属線材20が同じ方向に巻き付けられている個々の層を線材層L1、L2、L3・・・と称する。各線材層L1、L2、L3・・・を構成する金属線材は、正面視で中空筒状フィルタの軸方向(中心軸Ax1)に対して傾斜した同一方向へ延びており、また内外径方向に隣接する各線材層を構成する金属線材は互いに交差する方向に延びている(平行していない)。
【0011】
図1中における最外層の線材層Ln(nは自然数)を構成する金属線材部分20(n)(厚みを図示省略)の延びる方向(金属線材部分20(n)の長手方向)は実線矢印で示した方向であり、その直ぐ内側の線材層Ln-1を構成する金属線材部分20(n-1)の延びる方向(金属線材部分20(n-1)の長手方向)は破線矢印で示した方向である。
nは概ね20~20000程度(10~10000往復分程度)に設定される。
即ちフィルタ10は、金属線材20を軸方向に対して一定の傾斜角度にて螺旋状に巻付けることにより形成した一つの線材層(例えば、線材層L1)と、一つの線材層L1の外周側に重ねて、且つ該一つの線材層L1を構成する金属線材とは異なる傾斜角度にて螺旋状に金属線材を巻付けることにより形成される他の線材層(例えば、線材層L2)と、を有する。一つの線材層L1とこれと隣接する他の線材層L2を夫々構成する金属線材同士は軸方向とは非平行であり、且つ互いに交差するように構成されている。
なお、線材層を構成する金属線材の軸方向に対する傾斜角度が一つの線材層中で変化するように構成してもよい。
【0012】
このフィルタ10は、液体や気体等の各種流体中から不要な物質等を除去し、また自動車のエアバッグインフレーター用等、用途によっては同時にフィルタを通過する流体を冷却するために用いられる。また、このフィルタは、第一に、線材層が重なり合う方向、即ち、フィルタの径方向(線材層の重なる方向)に流体が通過する流路を形成するように構成される。流体は、フィルタの内径側から外径側に通過させても、外径側から内径側に通過させてもよい。ここで径方向とは厳密な意味の直径方向(半径方向)ではなく、軸方向、周方向に対して、概ね径方向という意味である。
フィルタの大きさ(内径、外径、軸方向の各寸法等)は、フィルタが組み込まれる装置の構造や大きさに応じて適宜決定される。
このフィルタの材料となる金属の種類としては、鉄、鋼、軟鋼、ステンレス鋼、ニッケル合金、銅合金、チタン合金、アルミ合金などを挙げることができる。金属の種類は、フィルタの用途に応じて最適なものが選定される。
【0013】
また、フィルタに使用される金属線材の太さ及び横断面形状(金属線材の長手方向に直交する方向における断面形状)は、フィルタの大きさ、フィルタが除去する物質、圧力損失等に応じて適宜決定される。例えば、インフレータ用フィルタに使用される金属線材の断面積は0.007~3.2mm^2程度(横断面形状が真円形状の金属素線を基準とすれば線径が0.1~2.0mm程度)とされる。
【0014】
フィルタには、横断面形状が真円形状の金属素線を所定形状に圧延した金属線材が使用される。例えば、金属線材としては、横断面形状が偏平な矩形状となるように圧延された平角線が使用される。或いは、金属線材としては、その横断面形状が長手方向全長に亘って、概略W字状、U字状、J字状、L字状、X字状、~状等の異形となるように圧延された異形線が使用される。或いは、金属線材としては、その横断面形状、外形状が、金属線材の長手方向全長に亘って一定ではないもの、言い換えれば、金属線材の長手方向の位置によって異なる横断面形状、外形状を有するように圧延された異形線が用いられる。このような異形線は、例えば金属線材の幅と同程度の長手方向長ごとに横断面形状が変化するように圧延されたものである。
【0015】
フィルタ10において、金属線材20は捩れないように巻き付けられている。
フィルタ10は、金属線材部分が互いに接触している複数の接触部を有する。フィルタ10に対しては、全ての接触部(又は複数の接触部)を一括して接合するような熱処理(例えば焼結するための熱処理)を行ってもよい。或いは、フィルタ10中の複数の接触部のうち、巻き終わり側の端部以外の部分を、接合が行われていない非接合部としてもよい。フィルタ10に対して、その全体を焼結するための熱処理を行わないならば、フィルタ10の製造コストを安価にでき、フィルタ10の製造時間を短縮できる。
【0016】
〔終端部の状態〕
本実施形態に係るフィルタ10は、金属線材の巻き終わり部(終端部30)が溶接された箇所において溶断されている点に特徴がある。即ち、フィルタ10においては終端部30の溶接と溶断が同時に行われている。
【0017】
本例において溶断(又は熱切断)とは、金属線材の厚さ方向の全部又は一部(内径側)を融点以上に加熱して、金属線材に作用するテンションを利用して金属線材を切断することである。金属線材の厚さ方向の全部が溶融した場合、溶融した箇所が切断される。金属線材の厚さ方向の一部が溶融した場合、溶融した箇所が切断されると共に、溶融した箇所に隣接する箇所であって加熱により組織に変化を生じて強度が低下している熱影響部(主として外径側)が切断される(引き千切られる)。本例は金属線材をその長手方向に力を加えて切断する点において、せん断力や金属疲労を利用した切断方法とは異なる。
【0018】
図2は、フィルタの終端部の状態を示す模式図であり、(a)は金属線材の長手方向に沿って切断した断面図であり、(b)はフィルタの外径側から観察した斜視図である。
以下、金属線材部分20nのうち、溶接用電極が当接した部分を終端部30と称する。より具体的には、終端部30は溶接用電極の圧痕33よりも終端縁35側(切断端側)の部分である。
【0019】
金属線材20の終端部30は、金属線材20の他の部分(金属線材部分20m)の適所(接合対象部21)に抵抗スポット溶接されている。本図には、最外層の線材層Lnを構成する金属線材部分20nのうち特に終端部30の周辺と、これよりも内径側に位置する線材層Lmに属する金属線材部分20mのみを示している(但し、mは自然数、m<n)。図中右側に点線にて示す金属線材部分20pは、金属線材20が溶断されることにより、金属線材部分20nから分離された部分である。同図中点線にて示す溶融部32pは、金属線材部分20pのうち、溶融した後に金属線材部分20nから分離された部分である。
【0020】
金属線材部分20nの一部である終端部30と、これが重なる金属線材部分20mとには、溶接時に溶融し、その後に凝固した溶融凝固部31(31n、31m)が形成される。溶融凝固部31において金属線材部分20n、20mは一体化されるが、便宜上、各金属線材部分20n、20mの側に位置する溶融凝固部31を、夫々、溶融凝固部31n、31mのように区別して説明する。
溶融凝固部31と溶融部32pとが、金属線材部分20pが分離する直前に溶融していた溶融部32である。
以下、金属線材が本発明に係る方法により、溶接された箇所又は熱影響部において溶断されることにより、巻線体又はフィルタに残る痕跡について詳述する。
【0021】
<終端部の溶融凝固部>
溶融凝固部31nは、金属線材部分20nの幅方向の少なくとも一部が溶融した後に凝固したものである。溶融凝固部31nは、金属線材20の幅方向の範囲内にのみ形成されることが望ましい。即ち、溶融凝固部31nは、金属線材部分20nの幅方向の端縁を超えて、端縁の外方に漏出していない(横漏れしていない)ことが望ましい。
【0022】
図示する終端部30は、金属線材部分20nの幅方向の全体(全幅或いは幅方向の全長)が溶融した後に凝固した溶融凝固部31nを有する。これは、溶接時に金属線材20の幅方向の全体が溶接用電極によって覆われたこと、及びこれにより金属線材20の幅方向の全体が溶融されたことを示す。溶融凝固部31nは、終端縁35から、金属線材の所定の長手方向長の範囲に亘って形成されている。金属線材20の幅方向の全体を溶融することによって、金属線材20を確実に溶断できる。また、終端部30の幅方向の全体を溶融させて金属線材部分20mに接合することから、必要な接合強度を確保しやすくなる。
【0023】
溶融凝固部31は溶融してから凝固しているので、他の金属線材部分よりも軟質である(但し高炭素鋼を除く)。仮に、ニッパや鋏等を用いてせん断力を利用して金属線材20を切断すると、金属線材の切断端付近は加工硬化する。しかし、本実施形態においては、金属線材を溶融又は軟化させてから引き千切るので、終端部30は加工硬化しない。即ち、巻線体に対して熱処理等を施さなくても、溶融凝固部31が他の部品等に接触して他の部品等を傷付けることを防止できる。また、金属線材をニッパや鋏等で切断する場合と異なり、切断端が金属線材の長手方向と交差する方向に立ち上がることを極力防止できる。
【0024】
終端部30は抵抗スポット溶接により接合されているので、溶融凝固部31よりも金属線材20の始端寄り(巻き始め寄り)の部位には、溶接時に電極によって加圧された痕跡(圧痕33)が残存している。圧痕33は、金属線材部分20nの幅方向の全体に形成されている。
圧痕33は、金属線材30を加圧する際の電極の接触態様に応じた形状を有する。一例として圧痕33は、電極によって加圧されなかった部分と加圧された部分とが、緩やかな段差を介して連続した形状を有する。他の例として
図2(b)には、電極によって加圧されなかった部分と加圧された部分との間に段差が形成されておらず、圧痕33は両部分の外径側表面の傾斜角度(又は肉厚)の変化点として認識される例を示す。
【0025】
<終端部の薄肉化>
終端部30の肉厚は全体として、金属線材20の他の部分の厚さtよりも薄肉である。これは、溶融部32の適所にて金属線材が溶断されて終端縁35が形成されたことを示す。このような特徴は、ニッパ等を用いて金属線材を切断した場合、つまり、溶接箇所と切断端とが金属線材の長手方向に離間している場合には現れない。
終端部30は、溶融凝固部31nの形成範囲において、金属線材20の肉厚が金属線材20の終端縁35に向かって薄肉化された部分(肉厚が漸減した部分)を有する。特に、溶融凝固部31nのうち外部に露出する部分は、その肉厚が終端縁35に向かって漸減している。これは、終端部30が溶融又は軟化して終端縁35の方向に延伸されたこと、及び、終端部30付近の金属線材20のうち外径側に位置する肉厚の一部が溶断により巻線体側に残らずに消失したこと(金属線材部分20pが金属線材部分20nから分離したこと)を示す。
特に
図2(b)には、終端部30の肉厚が全体として終端縁35に向かって一様に漸減している例を示す。
【0026】
ここで、金属線材部分20nの溶融部(後に溶融凝固部31nとなる部分)は、溶融した金属材料の表面張力によって凝集し、球状等、角が取れた形状に変形してから凝固した終端縁35を形成する場合がある。例えば、終端部30の下流側部位の肉厚は終端縁に向かって漸減するが、終端縁近傍(終端部の上流側部位)の肉厚が局所的に増大する箇所が出現する場合がある。溶断時の条件によっては、終端部30の上流側部位は、下流側部位よりも肉厚が大きい部分を有しうる。
【0027】
<延伸痕>
終端部30には、軟化した金属線材部分20nが金属線材20の終端縁35に向かって引き延ばされたことを示す延伸痕37が形成されている。或いは、延伸痕37は、軟化した金属材料が終端縁35に向かって引き千切られたように切断されたことを示す。軟化した部分とは、溶接時の加熱により強度の低下した部分であり、熱影響部である。
金属線材20を所定の巻線体形状とするために、金属線材にはその巻き付け時に所定のテンションが印加される。延伸痕37は、巻き付け時に印加されたテンションを利用して金属線材が溶断されたことを示す。
即ち、延伸痕37は、溶接に伴って軟化した金属線材部分20nが、金属線材部分20nに作用するテンションにより、上流方向(金属線材の供給側)に向けて引き伸ばされつつ切断された結果、その痕跡が金属線材部分20nに残存したものである。延伸痕37は引き伸ばされた痕である点で、金属線材20の他の部分に残された圧延の痕跡とは目視により区別可能である。
【0028】
<溶融凝固部が露出>
終端部30に形成された溶融凝固部31nは、その少なくとも一部が外部に露出している。
図2(b)中、露出した溶融凝固部31nを斜線にて示す。溶融凝固部31nのうち少なくとも金属線材の終端縁35寄りの部位が外部に露出している。終端縁35は溶融凝固部31nである。本図において、金属線材部分20n中、終端縁35は金属線材部分20mに溶接されており、溶接により接合された箇所と終端縁35との距離はゼロである。終端縁35から、金属線材の所定の長手方向長に亘って、溶融凝固部31nが露出している。金属線材部分20nの幅方向の範囲内に形成された溶融凝固部31nが外部に露出している。外部に露出した溶融凝固部31nは終端部30の外径側の表面を構成する。
これは、金属線材部分20nのうち外径側に位置する肉厚の一部が延伸及び溶断により消失したことを示す。特に、加熱時に溶融された溶融部の一部である溶融部32pを伴って金属線材部分20pが金属線材部分20nから分離したことを示す。或いは、溶接により、金属線材部分20nの表面に形成された熱影響部(非溶融部)のうち少なくとも終端縁35寄りの一部が、引き千切られたことを示す。
溶融凝固部31が金属線材部分20nの幅方向の全域に亘って形成されている場合、終端部30は、終端部30の幅方向の全域に亘って溶融凝固部31が露出した部分を有する。溶融凝固部31のうち、特に終端縁35寄りの部位は、幅方向の全域に亘って溶融凝固部31が露出する。これは、金属線材部分20pが金属線材の長手方向に沿って引き千切られたことを示す。なお、溶融凝固部31n、31mは、金属線材部分20nに作用するテンションに耐えうる接合力を発揮する大きさを有する。
【0029】
<接合対象部>
金属線材部分20mのうち終端部30と接合される箇所を接合対象部21と称する。接合対象部21は、終端部30と接合された箇所(被接合部)と、終端部30となる金属線材部分20nに重なることで金属線材部分20nと接合される可能性のあった箇所と、を含む概念として説明する。
接合対象部21は、金属線材部分20mの幅方向wの少なくとも一部が溶融して凝固した溶融凝固部31mを有する。
図2(b)中、露出した溶融凝固部31mを斜線にて示す。
本例においては、溶融凝固部31mの少なくとも一部が外部に露出している。即ち、終端部30に形成された溶融凝固部31nの少なくとも一部と、接合対象部21に形成された溶融凝固部31mの少なくとも一部とが、共に外部に露出している。外部に露出した溶融凝固部31n、31mは巻線体の外径側の表面を構成する。
これは、金属線材部分20pが、加熱時に溶融された溶融部32の一部(溶融部32p)を伴って金属線材部分20nから分離されたことで、溶融凝固部31mが露出したことを示す。
【0030】
〔実物写真〕
図3は、フィルタの終端部付近を実物写真で示す図である。本図で使用されている金属線材20の厚さは0.2mmである。
図中矢印Aよりも右側は、溶融凝固部31が露出している部分である。図示するようにフィルタの終端部30の周辺を撮影した実物写真にも、
図2(b)に示す各特徴が現れていることが理解できる。
【0031】
〔巻線体の製造装置〕
図4は、巻線体の製造装置のうち、主として巻付装置を模式的に示した図である。
図5は、巻線体の製造装置のうち、特にガイド部材の下流側を模式的に示した図である。
図5は、
図4に示す製造装置を図中左側から見た図に相当する。
【0032】
巻線体の製造装置100は、少なくとも巻付装置130と溶接装置150とを備える。
【0033】
巻付装置130は、一定方向に所定速度にて回転する心棒131と、心棒131に向けて金属線材20を所定のテンションで繰り出すと共に、心棒131の軸線Ax2に沿って所定速度にて往復移動して金属線材20をガイドするガイド部材132と、を備える。
心棒131は概略円柱状又は円筒状であり、一般的にステンレス鋼、銅合金、アルミニウム合金などの金属から形成される。
なお、巻付装置130の上流側にはテンションユニットが配置されており、テンションユニットが金属線材20に対して所定のテンションを付与する。
【0034】
溶接装置150は、金属線材20の巻き終わり側の適所を、巻き付け済みの金属線材20の適所に抵抗スポット溶接により接合し、固定する。
溶接装置150は、被溶接物に接触してこれを加圧しつつ被溶接物に溶接電流Iを流す電極(溶接用電極)160と、電極160に電力を供給する電源155と、電源155と接続されて溶接電流Iの受け口となるコンタクト電極157とを備える。また、溶接装置150は、電極160を保持する溶接ヘッド151と、溶接ヘッド151を駆動する第一駆動手段153と、コンタクト電極157を被溶接物に対して接近又は離間させる第二駆動手段159とを備える。
ここで、
図5中、ガイド部材132から心棒131に向けて延在する金属線材20の方向に(心棒131の)接線TLを規定し、軸線Ax2を通り接線TLと軸線Ax2の双方に直交する仮想線を(心棒131の)法線NLと規定する。また、軸線Ax2、接線TL、及び法線NLの夫々に沿った方向に、X軸、Y軸、及びZ軸を規定する。
また、金属線材20の供給方向を基準として、ガイド部材132側を上流側、心棒131側或いは心棒131に既に巻き付けられた側を下流側と言う。本例に示す溶接装置150は、電極160を心棒131の法線NL方向に加圧する。
【0035】
第一駆動手段153は、電極160を保持した溶接ヘッド151を心棒131の軸線Ax2方向(X方向)に沿って往復移動させ、心棒131の接線TL方向(Y方向)に往復移動させ、心棒131に対して図中Z方向に接近又は離間移動させる。第一駆動手段153は電極160をX-Y方向に駆動して、金属線材部分20nと金属線材部分20mとが重なる部位に電極160を移動させる。第一駆動手段153は、少なくとも電極160をX-Y方向に移動させる手段として、好ましくはサーボモータ又はステッピングモータを含み構成される。サーボモータ又はステッピングモータによって、電極160を少なくともX-Y方向に精密に位置決めできるならば、電極160をZ方向に往復移動させる手段として位置決め精度を要求されないエアシリンダを用いてもよい。
第一駆動手段153は、溶接ヘッド151を法線NL方向に沿って駆動して、電極160により被溶接部を加圧する。溶接ヘッド151は、電極160の中心軸線Ax3と加圧方向Pとを一致させた状態で電極160を保持するが、溶接ヘッド151は必要に応じて中心軸線Ax3を加圧方向Pに対して傾斜させた状態で電極160を保持することができる。
電源155は、溶接電流Iの大きさ、電流の印加時間、印加サイクル、及び波形等を適切に制御して電極160に供給する。
コンタクト電極157と第二駆動手段159には、周知の適宜のものが使用される。
電極160の形状等については後述する。
【0036】
〔フィルタの製造方法〕
フィルタ10を作製するには、まず巻付装置130を構成する心棒131の適所に金属線材20の一端(始端、巻き始め)を係止する。金属線材20に対して0.01~20[kgf]の張力を与えた状態にて、心棒131を、中心軸Ax2を中心として一定方向に所定速度で回転させると共に、金属線材20を供給するガイド部材132を心棒131の中心軸Ax2に沿って所定の速度で往復移動させる。この動作により、金属線材20は心棒131の外周に中心軸Ax2に対して所定角度θだけ傾斜しつつ、所定のピッチで螺旋状に且つ多層状に巻付けられる。また、隣接する線材層を構成する金属線材同士(金属線材の部分同士)が互いに交差して網目を形成する。また、各網目は径方向に規則的な配置で重なり合って、設定された所望の濾過精度を実現する。
例えば、心棒131の外周に直接巻き付けられる第1の金属線材層では、各金属線材20が心棒131の軸方向に対して所定角度θだけ時計回り方向へ傾斜しているとすると、第1の金属線材層の外周に巻き付けられる第2の金属線材層を構成する金属線材20は、心棒131の軸方向に対して所定角度θだけ反時計回り方向に傾斜する。その後、金属線材20を所定回数(所定階層数)巻付けた後、心棒131の回転を停止させ、金属線材20の他端部(終端部、巻き終わり側)を、巻き付け済みの金属線材20の適所に対して抵抗スポット溶接により接合し、固定する。
【0037】
溶接装置150は、電極160とコンタクト電極157とを巻線体11に接触させる。電源155は、
図8(a)等に示されるように、電極160が金属線材部分20nを金属線材部分20mに所定の加圧力で押圧している状態で、所定の溶接電流Iを印加する。溶接電流Iは、金属線材部分同士を互いに接合するために十分な電流よりも大きな電流に設定される。
金属線材部分20nは、巻き付け時に付与されていたテンションTpが引き続き付与された状態で金属線材部分20mに溶接される。溶接電流Iは、金属線材部分20nが上記テンションに耐えられなくなる程度に金属線材部分20nを溶融させる大きさに設定される。
【0038】
電極160の直下に位置する金属線材の部分が、該部分に作用しているテンションにより切断される。電極160の上流側に位置する金属線材部分20pは、電極160に通電されている期間中に巻線体11から分離される。このとき、金属線材部分20nに作用するテンションに耐えうる接合力を発揮する大きさの溶融凝固部31n(
図2参照)が巻線体11側に残存するように、金属線材20pが巻線体11から分離される。金属線材に作用するテンションを利用して金属線材を切断するため、切断時には電極160、心棒131、及びテンションユニットの何れも動作せず、電極160が溶接部を押さえつけたまま固定している。また、金属線材に作用するテンションを利用して金属線材を溶断するので、溶接と切断とを同時に行うことができ、製造工程を簡略化できる。
【0039】
金属線材が溶断された後、電源155は通電を停止する。電極160は、金属線材部分20n、20mの溶融部32が冷却され、再凝固するまで加圧状態を維持する。溶融部32が冷却・再凝固した後、電極160及びコンタクト電極157を巻線体11から離間させて、巻線体11を心棒131から取り外す。
【0040】
金属線材の溶断には、巻き付け時から継続して金属線材に印加されているテンションを利用することが望ましい。しかし、金属線材を溶断可能であれば、溶接部を電極160によって固定しているので、電極160よりも上流側に位置する金属線材に付与されているテンションを、巻き付け時よりも溶断時の方が大きくなるように制御してもよい。テンションを巻き付け時と溶断時とで変化させる場合は、ガイド部材132よりも上流側に位置するテンションユニットにおいて金属線材のテンションを調整する。
上記実施形態は金属線材の溶断後に通電を停止する例であるが、金属線材部分20pは、電極160への通電が停止された後、且つ、電極が金属線材を加圧している期間中に、巻線体11から分離されてもよい。
【0041】
心棒131の軸方向に対する金属線材20の角度(巻付け角度)、及び軸方向に隣接する金属線材20同士の間隔(ピッチ)は、心棒131の回転速度とガイド部材132の移動速度との比率を適宜調節することにより変更することができる。金属線材の太さ、巻付け角度、ピッチ、巻付け回数を適宜変更することにより、フィルタを通過する流体の圧力損失を適切な値に制御することができる。
フィルタ10の内径は心棒131の外径に相当する大きさとなり、フィルタ10の外径は金属線材20の厚さと巻き付け回数に応じて適宜に調整される。
以上の方法により製造された巻線体は、その全体への焼結処理が実施されることなく、そのままの状態でフィルタとして使用される。
あるいは、必要ならば、心棒131から取り外された巻線体に対して焼結等の熱処理を施すことにより、隣接する金属線材部分が互いに接触した各接触部を冶金的に接合した後、フィルタとして使用するようにしてもよい。
【0042】
〔電極の形状〕
図6は、電極の一例を示す斜視図である。
図7(a)、(b)は、電極先端面と電極先端面に接触する金属線材との関係について説明する平面図である。
【0043】
電極160は、溶接時に金属線材と接触し得る電極先端面161を有する。
電極先端面161は、金属線材20を、金属線材の所定の長手方向長に亘ってその幅方向の全体を覆いうる形状及び大きさを有する。即ち、電極先端面161は、溶接時に金属線材の幅方向(長さW)の全体を覆いうる第一の長さLe1と、金属線材の長手方向の所定長を覆うと共に第一の長さよりも長い第二の長さLe2とを有する。
ただし、電極先端面161の長さLe1は、非溶接対象である他の金属線材部分とは接触しない長さに設定される。ここで言う「非溶接対象である他の金属線材部分」とは、電極先端面161と接触する金属線材部分20n(終端部30)と同方向に伸びる金属線材部分であって、巻線体11の外径側の表面を構成し(外径側に露出し)、且つ巻線体11の軸方向において終端部30と隣接する部分であり、必ずしも線材層Lnに属する金属線材部分であることを意味しない(
図1参照)。
【0044】
電極先端面161の長さLe1は、金属線材20の幅方向の全体を溶融して、金属線材の溶断を確実に行いうる長さに設定される。従って、長さLe1は、金属線材20の幅方向長wよりも長くなるように設定される。
電極先端面161の長さLe2は、電極160の上流部に位置する金属線材部分を溶断させうる溶融部を形成し、且つ、上流側の金属線材部分が分離した後には金属線材20の終端部の固定に必要な溶融部を巻線体側に残存させうる長さに設定される。金属線材部分20nの幅方向の全体を溶融させて金属線材部分20mに接合できるので、接合強度を確保できる。
図示する電極160は、概略矩形状の電極先端面161を有した直方体状であるが、電極160の各部の形状はこれに限られない。また、図には中心軸線Ax3に直交する電極先端面161を有する電極が示されているが、中心軸線Ax3と電極先端面161とは直交していなくてもよい(例:
図9(b))。
【0045】
電極160がこれよりも上流側に位置する金属線材20の部分を分離させることができ、且つ、金属線材20の残部を巻線体に固定できるならば、金属線材20は電極先端面161内でどのような姿勢(角度)を取ってもよい。
例えば電極先端面161が長方形状である場合、
図7(a)に示すように金属線材20の長手方向が電極先端面161の長手方向(長さLe1方向)と一致するように、金属線材20を電極先端面161に接触させてもよい。
或いは、
図7(b)に示すように金属線材20の長手方向が電極先端面161の長手方向(長さLe1方向)と一致しないように、金属線材20を傾斜させて電極先端面161に接触させてもよい。電極先端面が矩形状でない場合も同様である。
このように、電極160は、金属線材20の長手方向が電極先端面161の長手方向に概ね沿った状態で金属線材20を加圧できればよい。
【0046】
〔電極による金属線材の加圧〕
図8~
図10は、金属線材が切断される直前の状態を示す模式図である。本図は、被溶接物である金属線材を電極で加圧し、電極に通電することで溶融部が形成された状態を示す。
【0047】
<電極による金属線材の加圧1>
図8(a)、(b)に示す電極160は、
図6に相当する電極であり、中心軸線Ax3に直交する電極先端面161を有した電極である。
【0048】
図8(a)は、電極160の中心軸線Ax3と法線NLとの位置を一致させた状態で、金属線材部分20n、20mを電極160で中心軸線Ax3に沿った加圧方向Pに加圧して、両金属線材部分を溶接している様子を示す。
溶融部32は、法線NLを中心として上流側(図中右側)と下流側(図中左側)に均等に形成される。
図示する溶融部32は金属線材部分20nの外径側表面に到達していないが、溶接電流Iの大きさを含む溶接条件次第では、金属線材部分20nは外径側の表面まで溶融され、溶融部32が電極先端面161と接触する。なお、
図8(b)~
図10においても同様に、金属線材部分20nは外径側の表面まで溶融されてもよい。
【0049】
金属線材20は、その長手方向に作用するテンションTpによって、溶融部32の上流部において溶断する。そして、電極160の上流側に位置する金属線材部分20pが巻線体11から分離される。電極160の下流側に位置する金属線材部分20nにもテンションTn=Tpが作用するが、ほどけようとする力がZ方向の成分を有し、且つ電極160によってZ方向に加圧されているために溶融部32の下流部(図中法線NLの左側)では溶断せず、該部位は最終的に巻線体11に接合されて終端部30となる。
【0050】
金属線材20にテンションが掛けられた状態でスポット溶接するため、電極160が加圧を開始した時点では、溶融部32の上流側と下流側には同等のテンションTp=Tnが作用する。
このため、法線NLの上流側と下流側に均等に溶融部32が形成される本例においては、金属線材20が溶融部32の下流部と上流部の双方で溶断する可能性がある。このような事態を防止するために、
図8(a)では電極160が金属線材部分20n、20mを加圧した後、テンションTp>Tnとなるように、テンションユニットを動作させることが望ましい。このようにすることで、溶融部32の下流部及び金属線材部分20n中の未溶融部が金属線材部分20nに作用するテンションTnによって引きちぎられないようにし、且つ金属線材部分20pを巻線体11から分離できる。
【0051】
図8(b)は、電極160の中心軸線Ax3を法線NLよりも下流側に配置した状態で、金属線材部分20n、20mを電極160で中心軸線Ax3に沿った加圧方向Pに加圧して、両金属線材を溶接している様子を示す。本図では法線NLが電極先端面161の外側に位置しているが、法線NLが電極先端面161の面内に位置するように電極160を配置してもよい。
電極160の中心軸線Ax3を法線NLよりも下流側に位置させたので、電極160による金属線材部分20n、20mの加圧力は、電極160の上流部において比較的大きくなり、電極160の下流部において比較的小さくなる。この加圧力は、法線NLからの距離に応じて連続的に変化する。
【0052】
電極160の上流側部位では十分な加圧力により金属線材部分20n、20m間の電気抵抗が十分に小さくなって溶接電流Iが効率よく流れる。電極160の下流側部位は加圧力が上流側部位よりも小さいために、電気抵抗が大きくなる。このため、金属線材部分20n、20m間に流れる溶接電流Iは、上流側部位よりも小さくなる。金属線材部分20n、20m間に形成される溶融部32は、上流側で比較的大きく、下流側で比較的小さくなる。従って、電極160の上流部に位置する金属線材部分20pを溶断させやすくなると共に、電極160の下流部に位置する金属線材部分20nの不要な溶断を防止し、金属線材部分20n、20m間において必要な接合強度を確保できる。
【0053】
金属線材20は、その表面に酸化被膜を形成している場合が殆どであるので、電極160の上流側部位において加圧力が比較的大きくなることを利用して、電極160の上流側部位において金属線材の酸化被膜を破壊し、当該部位における電気抵抗を効果的に低減させることができる。
【0054】
なお、中心軸線Ax3と法線NLとの距離、及び、電極160が金属線材20に加える加圧力によっては、電極先端面161のうちの下流側部位では溶接電流Iが流れないようにすることもできる。この場合、電極先端面161のうち通電しない部分は、金属線材部分20n、20mを押圧しつつ冷却する押圧冷却部として機能する。逆に、電極先端面161のうち通電する部分は、金属線材部分20n、20mを加圧しつつ通電する加圧通電部として機能する。押圧冷却部は、金属線材部分20n、20mを押圧して、金属線材部分20nに作用するテンションTnによって金属線材部分20nが金属線材部分20mから離間しないように保持する。
【0055】
<電極による金属線材の加圧2>
図9(a)、(b)は、電極先端面161を接線TLに対して傾斜させた状態で、金属線材部分20n、20mを加圧する例を示す。
【0056】
図9(a)は、
図6に示すような、中心軸線Ax3に直交する電極先端面161を有した電極160を使用する例である。
本例は、加圧方向Pが法線NLの方向に一致しており、電極先端面161と中心軸線Ax3との交点が法線NL上にある。しかし、法線NLに対して電極160の中心軸線Ax3が上流側に角度φだけ傾倒しているために、電極160による金属線材部分20n、20mの加圧力は、電極160の上流部において大きくなり下流部において小さくなる。
従って、
図8(b)と同様の理由から、金属線材部分20n、20m間に形成される溶融部32は、上流側で比較的大きく、下流側で比較的小さくなる。本例は、
図8(b)と同様の効果を得られる。
なお、加圧方向Pを中心軸線Ax3の方向に一致させてもよい。
【0057】
図9(b)は、中心軸線Ax3と直交しない電極先端面161を有した電極160を使用する例である。この電極160においては、電極先端面161と直交する軸線Ax4が中心軸線Ax3に対して角度λだけ上流側に傾斜している。
本例は、加圧方向Pが法線NLの方向に一致しており、電極先端面161と中心軸線Ax3との交点が法線NL上にある。しかし電極先端面161の上流側部位が電極160の先端方向に突出しているために、電極160による金属線材の加圧力は、電極160の上流部において大きくなり、下流部において小さくなる。
従って、
図8(b)と同様の理由から、金属線材部分20n、20m間に形成される溶融部32は、上流側で比較的大きく、下流側で比較的小さくなる。本例は、
図8(b)と同様の効果を得られる。
なお、加圧方向Pを軸線Ax4の方向に一致させてもよい。
【0058】
<電極による金属線材の加圧3>
図10(a)、(b)に示す電極160は、上流側部位に金属線材部分20n、20mを加圧しつつ通電する加圧通電部163を備え、下流側部位に金属線材部分20n、20mを押圧しつつ冷却する押圧冷却部165を備える。
【0059】
図10(a)に示す電極160は、その全体が導体から一体的に構成されている。加圧通電部163は押圧冷却部165よりも電極160の先端方向に突出している。また、加圧通電部163と押圧冷却部165との間に段差164が形成されている。加圧通電部163側の電極先端面161と押圧冷却部165側の電極先端面161は、夫々概略矩形状であり、何れも中心軸線Ax3に対して直交する平坦面である。
本図には、中心軸線Ax3と法線NLとの位置を一致させた状態で、金属線材部分20n、20mを電極160で中心軸線Ax3に沿った加圧方向Pに加圧して、両金属線材を溶接している様子を示す。
加圧通電部163が電極160の先端方向に突出しているため、仮に電極160の中心軸線Ax3と法線NLとの位置を一致させたとしても、加圧通電部163が金属線材部分を加圧する力を、押圧冷却部165が金属線材部分を押圧する力よりも大きくできる。加圧通電部163と押圧冷却部165との間に段差があるので、加圧通電部163が金属線材を加圧する加圧力と、押圧冷却部165が金属線材部分を押圧する押圧力とを段階的に(非連続的に)異ならせることができる。また、加圧通電部163の中心軸線Ax5は、法線NLよりも上流側となる。
そのため、加圧通電部163では十分な加圧力により金属線材部分20n、20m間の電気抵抗が十分に小さくなって溶接電流Iが効率よく流れる。押圧冷却部165では押圧力が加圧通電部163よりも明らかに小さくなるために電気抵抗が大きくなり、溶接電流Iを流さないようにできる。
【0060】
電極160は、加圧通電部163側の金属線材部分20n、20m間のみに溶融部32を形成する。押圧冷却部165は、金属線材部分20n、20mを押圧しつつ冷却する。押圧冷却部165は、金属線材部分20n、20mを押圧して、金属線材部分20nに作用するテンションTnによって金属線材部分20nが金属線材部分20mから離間しないように保持する。従って、電極160の上流側部位に位置する金属線材20の部分のみを溶断させることが可能となる。
金属線材20は、その表面に酸化被膜を形成している場合が殆どであるので、加圧力の大きい側である加圧通電部163において金属線材の酸化被膜を破壊し、当該部位における電気抵抗を効果的に低減させることができる。
【0061】
図10(b)に示す電極160は、加圧通電部163と押圧冷却部165との間に配置された絶縁部材167を備える。電極160の先端面は、その全体が中心軸線と直交する平坦面である。加圧通電部163側の先端面は通電可能な電極先端面161であり、押圧冷却部165側の先端面は通電しない押圧面169である。
加圧通電部163と押圧冷却部165とは、同一材料から構成できる。押圧冷却部165は、熱伝導性の高い材料から構成されることが望ましい。なお、押圧冷却部165自体を絶縁体から構成することにより、絶縁部材167を省略することができる。
本図には、中心軸線Ax3と法線NLとの位置を一致させた状態で、金属線材部分20n、20mを電極160で中心軸線Ax3に沿った加圧方向Pに加圧して、両金属線材を溶接している様子を示す。
溶融部32は、加圧通電部163側の金属線材部分20n、20m間のみに形成される。
押圧冷却部165の機能は
図10(a)に示す電極と同様である。
【0062】
本例によれば、金属線材部分20nのうち電極160の上流側部位に位置する部分のみを溶断することができる。
なお、
図10(a)と同様に、加圧通電部163を押圧冷却部165よりも先端側に突出させてもよい。
【0063】
〔効果〕
本実施形態に係るフィルタ10は、終端部30が溶接された箇所において溶断されている。即ち、フィルタ10の製造時には、終端部30の溶接と溶断が同時に行われる。
従って本実施形態によれば、製造工程数を増加させることなく、溶接部から終端縁までの距離をできるだけ短くした巻線体を提供できる。溶接部から終端縁までの距離をできるだけ短く、特に距離ゼロとすることにより、金属線材の終端部によって他部品等を損傷させない巻線体が製造されると共に、溶接部が剥離した欠陥のある巻線体の発生を防止できる。
【0064】
〔本発明の実施態様例と作用、効果のまとめ〕
<巻線体>
<<第一の実施態様>>
本態様は、少なくとも1本の連続する金属線材20が螺旋状且つ多層状に巻きつけられた多孔の巻線体(フィルタ10)である。巻線体において、金属線材の終端部30(金属線材部分20n)は、金属線材の他の部分(金属線材部分20m)に抵抗スポット溶接されると共に、該溶接された箇所において溶断されている。ここで終端部を、溶接用電極の圧痕33よりも終端縁35寄りの部分と規定する。
本態様によれば、製造工程数を増加させることなく、溶接部から終端縁までの距離をできるだけ短くした巻線体が提供される。なお、終端縁を溶接部とすることも可能である。
このような巻線体は、金属線材の切断に関わる痕跡として第三~第十一の実施態様に示すような外形的特徴を有する。
【0065】
<<第二の実施態様>>
本態様は、少なくとも1本の連続する金属線材20が螺旋状且つ多層状に巻きつけられた多孔の巻線体(フィルタ10)である。巻線体において、金属線材の終端部30(金属線材部分20n)は、金属線材の他の部分(金属線材部分20m)に抵抗スポット溶接されると共に、該溶接された箇所において溶断され、且つ、該溶接された箇所近傍の熱影響部が引き千切られている。ここで終端部を、溶接用電極の圧痕33よりも終端縁35寄りの部分と規定する。
本態様によれば、製造工程数を増加させることなく、溶接部から終端縁までの距離をできるだけ短くした巻線体が提供される。なお、終端縁を溶接部とすることも可能である。
このような巻線体は、金属線材の切断に関わる痕跡として第三~第十一の実施態様に示すような外形的特徴を有する。
【0066】
<<第三の実施態様>>
本態様に係る巻線体(フィルタ10)において終端部30(金属線材部分20n)は、金属線材の幅方向の全体が溶融した後に凝固した溶融凝固部31nを有することを特徴とする。
より具体的には、溶融凝固部は、金属線材の終端縁から所定の長手方向長に亘って形成されている。
本態様によれば、幅方向の全体を溶融させているので、当該部位において金属線材の溶断を確実に行いうる。また、終端部を、その幅方向の全体を溶融させて金属線材の他の部分に接合するので、接合強度を確保できる。
【0067】
<<第四の実施態様>>
本態様に係る巻線体(フィルタ10)において終端部30(金属線材部分20n)は、金属線材の厚さが金属線材の終端縁35に向かって漸減していることを特徴とする。
本態様に係る巻線体が有する上記外形的特徴は、終端部付近の金属線材のうち特に外径側に位置する肉厚の一部が溶断により巻線体側に残らなかったことを示す。また、終端部が溶融又は軟化により終端縁の方向に延伸された場合にも、このような外形的特徴が現れる。
ニッパや鋏等では溶接箇所で金属線材を切断できないため、本態様に係る特徴はニッパや鋏等によりせん断力を利用した切断方法には現れない特徴である。即ち、金属線材がスポット溶接された箇所で切断されなければ、圧痕の全体が金属線材に残るので、金属線材をニッパや鋏等で切断した場合は、肉厚は終端部に向かって漸減しない。
【0068】
<<第五の実施態様>>
本態様に係る巻線体(フィルタ10)において終端部30(金属線材部分20n)には、軟化した金属線材が終端縁35に向かって引き延ばされたことを示す延伸痕37が形成されていることを特徴とする。
金属線材を所定の巻線体形状とするために、金属線材にはその巻き付け時に所定のテンションが印加される。延伸痕は、巻き付け時に印加されたテンションを利用して金属線材が溶断されたことを示す。
【0069】
<<第六の実施態様>>
本態様に係る巻線体(フィルタ10)において終端部30(金属線材部分20n)は、金属線材の幅方向の少なくとも一部が溶融した後に凝固した溶融凝固部31nを有し、該溶融凝固部の少なくとも一部が外部に露出していることを特徴とする。
通常、スポット溶接において外部に現れる溶融凝固部は溶接不良であることを示すため、スポット溶接が行われた場合、一般的に溶融凝固部は外部に露出しない。しかし、本態様においては金属線材を溶断していることから溶融凝固部の少なくとも一部が外部に露出する。
【0070】
<<第七の実施態様>>
本態様に係る巻線体(フィルタ10)において終端部30(金属線材部分20n)は、金属線材の幅方向の少なくとも一部が溶融した後に凝固した溶融凝固部31nを有し、金属線材の終端縁35は溶融凝固部であり、終端縁から金属線材の所定の長手方向長に亘って溶融凝固部が外部に露出していることを特徴とする。
本態様においては、金属線材を溶断することから、溶融凝固部が外部に露出する。加熱時に溶融された溶融部の一部が巻線体から分離しているため、終端縁から所定の長手方向長に亘って、溶融凝固部が外部に露出する。
【0071】
<<第八の実施態様>>
本態様に係る巻線体(フィルタ10)において終端部30(金属線材部分20n)は、金属線材の幅方向の少なくとも一部が溶融した後に凝固した溶融凝固部31nを有し、溶融凝固部の少なくとも一部が外部に露出しており、溶融凝固部のうち外部に露出する部分は、金属線材の終端縁35に向かって肉厚が漸減する部分を有することを特徴とする。
本態様に係る巻線体が有する上記外形的特徴は、終端部が終端縁の方向に延伸されたこと、及び、終端部付近の金属線材のうち外径側に位置する肉厚の一部が溶断により巻線体側に残らなかったことを示す。
このような特徴は、鋏やニッパ等、せん断力を利用して金属線材を切断した場合には現れない。
【0072】
<<第九の実施態様>>
本態様に係る巻線体(フィルタ10)において、終端部30(金属線材部分20n)と金属線材の他の部分(金属線材部分20m)とは、夫々溶融した後に凝固した溶融凝固部31(31n、31m)を有し、金属線材の他の部分に形成された溶融凝固部31mの少なくとも一部が外部に露出していることを特徴とする。
本態様に係る巻線体が有する上記特徴は、上流側の金属線材部分20pが、加熱時に溶融された溶融部の一部(溶融部32p)を伴って金属線材部分20nから分離したことを示す。
【0073】
<<第十の実施態様>>
本態様に係る巻線体(フィルタ10)において、終端部30(金属線材部分20n)と金属線材の他の部分(金属線材部分20m)とは、夫々溶融した後に凝固した溶融凝固部31(31n、31m)を有し、終端部に形成された溶融凝固部31nの少なくとも一部と、金属線材の他の部分に形成された溶融凝固部31mの少なくとも一部が、共に外部に露出していることを特徴とする。
本態様に係る巻線体が有する上記特徴は、上流側の金属線材部分20pが、加熱時に溶融された溶融部の一部(溶融部32p)を伴って金属線材部分20nから分離したことを示す。また、本態様においては、金属線材を溶断することから、溶融凝固部31nが外部に露出する。
【0074】
<<第十一の実施態様>>
本態様に係る巻線体(フィルタ10)において終端部30は、金属線材20が溶融した後に凝固した溶融凝固部31nを有し、終端部を構成する金属線材部分20nの幅内に形成された溶融凝固部が外部に露出していることを特徴とする。
外部に露出した溶融凝固部は巻線体の外径側の表面を構成する。本態様に係る巻線体が有する外形的特徴は、終端部付近の金属線材のうち外径側に位置する肉厚の一部が溶断により巻線体側に残らなかったことを示す。また、少なくとも巻線体の外径側の表面を構成する溶融凝固部は横漏れしたものではない。
【0075】
<巻線体の製造方法>
<<第十二の実施態様>>
本態様は、少なくとも1本の連続する金属線材20が螺旋状且つ多層状に巻きつけられた多孔の巻線体(フィルタ10)の製造方法である。
本態様は、金属線材に所定のテンションを加えた状態で、金属線材を心棒131に対して螺旋状且つ多層状に巻き付ける巻付工程と、金属線材の巻き終わり部(金属線材部分20n、終端部30)を巻き付け済みの金属線材部分20mに抵抗スポット溶接により溶接する溶接工程と、を含む。
溶接工程では、金属線材に継続して付与されているテンションを利用して、供給側の金属線材部分を巻き付け済みの金属線材部分から溶断することを特徴とする。
本態様においては、金属線材に作用するテンションを利用して金属線材を溶断するため、溶接と切断とを同時に行うことができ、巻線体の製造工程を簡略化できる。
溶断時に金属線材に作用させるテンションは、巻付工程において金属線材に付与されたテンションと同一の大きさでもよいし、異なる大きさでもよい。
本態様によれば、製造工程数を増加させることなく、溶接部から終端縁までの距離をできるだけ短くした巻線体を提供できる。
【0076】
<<第十三の実施態様>>
本態様に係る製造方法において、心棒131に金属線材20を供給する側を上流側、心棒に既に巻き付けられた金属線材の側を下流側とした場合に、溶接工程においては、溶接用電極160の上流側部位における金属線材部分20nの加圧力が、溶接用電極の下流側部位における金属線材部分の加圧力よりも大きくなるように、溶接用電極を金属線材部分に当接させることを特徴とする(
図8(b)~
図10)。
本態様によれば、加圧力の大きい上流側部位において溶融部を大きくし、加圧力の小さい下流側部位において溶融部を小さくする。その結果、上流側部位における金属線材部分を溶断しやすくなる。また、下流側部位における金属線材部分の不要な溶断を防止できる。
【0077】
<<第十四の実施態様>>
本態様に係る製造方法において、心棒131に向けて供給される金属線材20の延在方向を接線TL方向、心棒の軸線Ax2を通り接線と軸線との双方に直交する仮想線を心棒の法線NLとした場合に、溶接工程では、溶接用電極160を、その中心軸線Ax3が法線よりも下流側となる位置に配置すると共に、法線と中心軸線の方向を一致させた状態にて、金属線材(金属線材部分20n)を溶接用電極によって法線方向に加圧して金属線材の巻き終わり部を巻き付け済みの金属線材部分20mに溶接することを特徴とする(
図8(b))。
本態様によれば、溶接用電極の中心軸線を法線よりも下流側に配置するので、溶接用電極の上流側部位における加圧力を、溶接用電極の下流側部位における加圧力よりも大きくできる。従って、第十一の実施態様と同様の効果を奏する。
【0078】
<<第十五の実施態様>>
本態様に係る製造方法において、心棒131に向けて供給される金属線材20の延在方向を接線TL方向、心棒の軸線Ax2を通り接線と軸線の双方に直交する仮想線を心棒の法線NLとした場合に、溶接工程では、溶接用電極160の電極先端面161の法線Ax3、Ax4を、心棒の法線NLよりも金属線材の供給側に傾倒させた状態にて、金属線材を溶接用電極によって加圧して金属線材の巻き終わり部を巻き付け済みの金属線材部分20mに溶接することを特徴とする。
本態様においては、電極先端面の法線を傾けることで、溶接用電極の上流側部位における加圧力を、溶接用電極の下流側部位における加圧力よりも大きくする。本例も、第十一の実施態様と同様の効果を奏する。
【0079】
<溶接用電極>
<<第十六の実施態様>>
本態様に係る溶接用電極160は、少なくとも1本の連続する金属線材20を回転する心棒131に巻き付けて、金属線材が螺旋状且つ多層状に巻きつけられた多孔の巻線体(フィルタ10)を製造する際に使用される溶接用電極である。
溶接用電極160は、溶接時に金属線材の幅方向の全体を覆いうる第一の長さLe1を有する電極先端面161を備えることを特徴とする(
図6~
図10)。
本態様によれば、金属線材の幅方向の全体を溶融させられるので、金属線材の溶断を確実に行いうる。本態様によれば、製造工程数を増加させることなく、溶接部から終端縁までの距離をできるだけ短くした巻線体を提供できる。本態様によれば、金属線材の例えば終端部30を、その幅方向の全体を溶融させて金属線材の他の部分(金属線材部分20m)に接合できるので、接合強度を確保できる。
【0080】
<<第十七の実施態様>>
本態様に係る溶接用電極160において電極先端面161は、金属線材20の長手方向の所定長を覆いうる第二の長さLe2を有し、第二の長さ方向の一方側には、溶接対象となる重なり合う2つの金属線材部分20n、20mを加圧しつつ両金属線材部分に通電する加圧通電部163を、第二の長さ方向の他方側には、電極先端面に接触した1の金属線材部分を押圧しつつ冷却する押圧冷却部135を備えることを特徴とする(
図10、
図9(b))。
本態様によれば、加圧通電部において金属線材を溶断する一方で、押圧冷却部において金属線材を溶断させないようにできる。
【0081】
<<第十八の実施態様>>
本態様に係る溶接用電極160において加圧通電部163は、押圧冷却部165よりも溶接用電極の先端方向に突出していることを特徴とする(
図10(a)、
図9(b))。
本態様によれば、加圧通電部を押圧冷却部よりも溶接用電極の先端方向に突出させることで、加圧通電部による金属線材部分の加圧力及び溶融部を大きくし、押圧冷却部による金属線材部分の加圧力及び溶融部を小さくできる。その結果、加圧通電部側における金属線材部分を溶断しやすくなる。また、押圧冷却部において金属線材部分の不要な溶断を防止できる。
【0082】
<<第十九の実施態様>>
本態様に係る溶接用電極160において押圧冷却部165は、通電されないように構成されていることを特徴とする(
図10(b))。
本態様によれば、加圧通電部において金属線材を溶接及び溶断する一方で、押圧冷却部において金属線材を溶断させないようにできる。
【0083】
<巻線体の製造装置>
<<第二十の実施態様>>
本態様は、少なくとも1本の連続する金属線材20を螺旋状且つ多層状に巻きつけることにより多孔の巻線体(フィルタ10)を製造する製造装置100である。
製造装置は、一定方向に所定速度で回転すると共に、金属線材が螺旋状且つ多層状に巻き付けられる心棒131と、金属線材の巻き終わり部(金属線材部分20n)を巻き付け済みの金属線材部分20mに抵抗スポット溶接により溶接する溶接装置150とを含む。
該溶接装置は、第十四乃至十七の何れかの実施態様に記載の溶接用電極160(図)を備えることを特徴とする。
本製造装置は、第十四乃至十七の実施態様に記載された効果を奏する。
【符号の説明】
【0084】
L…線材層、w…金属線材の幅、t…金属線材の厚さ、Le1、Le2…電極先端面の長さ、Tn、Tp…テンション、Ax1…フィルタの中心軸、Ax2…心棒の軸線、Ax3…電極の中心軸線、Ax4…電極先端面と直交する軸線、Ax5…加圧通電部の中心軸線、10…フィルタ、20…金属線材、20n、20m…金属線材部分、20p…(分離された)金属線材部分、21…(金属線材部分20mの)接合対象部、30…終端部、31、31n、31m…溶融凝固部、32…溶融部、32p…(分離された)溶融部、33…圧痕、35…終端縁、37…延伸痕、100…製造装置、130…巻付装置、131…心棒、132…ガイド部材、150…溶接装置、151…溶接ヘッド、153…第一駆動手段、155…電源、157…コンタクト電極、159…第二駆動手段、160…電極(溶接用電極)、161…電極先端面、163…加圧通電部、164…段差、165…押圧冷却部、167…絶縁部材、169…押圧面