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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024002124
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】内燃機関用点火装置
(51)【国際特許分類】
   F02P 15/08 20060101AFI20231228BHJP
   F02P 3/04 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
F02P15/08 301D
F02P3/04 301B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022101133
(22)【出願日】2022-06-23
(71)【出願人】
【識別番号】519048584
【氏名又は名称】株式会社セイブ・ザ・プラネット
(74)【代理人】
【識別番号】100135013
【弁理士】
【氏名又は名称】西田 隆美
(72)【発明者】
【氏名】泉 光宏
(72)【発明者】
【氏名】木村 裕幸
【テーマコード(参考)】
3G019
【Fターム(参考)】
3G019AA02
3G019BA01
3G019BB13
3G019KA15
(57)【要約】      (修正有)
【課題】より確実に燃料への着火を行うとともに、残留エネルギーを早期収束する技術を提供する。
【解決手段】この内燃機関用点火装置1は、電磁結合された1次コイルL1および2次コイルL2を有するトランス20と、1次コイルL1への通電を制御する通電制御部30と、2次コイルL2の高圧側端子21とグラウンドとの間に電気的に接続される第1点火プラグ91と、2次コイルL2の低圧側端子22とグラウンドとの間に電気的に接続される第2点火プラグ92とを有する。第1点火プラグ91と第2点火プラグ92とは、内燃機関の同一の燃焼室内に配置される。これにより、2つの点火プラグ91,92において放電が行われることにより、より確実に燃料への着火を行うことができる。また、第1点火プラグ91の残留エネルギーと第2点火プラグ92の残留エネルギーとが互いに打ち消し合うことにより、迅速に残留エネルギーを収束させることができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関用点火装置であって、
電磁結合された1次コイルおよび2次コイルを有するトランスと、
前記1次コイルへの通電を制御する通電制御部と、
前記2次コイルの高圧側端子とグラウンドとの間に電気的に接続される第1点火プラグと、
前記2次コイルの低圧側端子とグラウンドとの間に電気的に接続される第2点火プラグと、
を有し、
前記第1点火プラグと、前記第2点火プラグとは、内燃機関の同一の燃焼室内に配置される、内燃機関用点火装置。
【請求項2】
請求項1に記載の内燃機関用点火装置であって、
前記燃焼室内に導入される燃料ガスは、複数種類の燃料が混合された混合ガスである、内燃機関用点火装置。
【請求項3】
請求項2に記載の内燃機関用点火装置であって、
前記燃焼室内に導入される前記燃料ガスは、水素を含む、内燃機関用点火装置。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載の内燃機関用点火装置であって、
前記燃焼室内に導入される前記燃料ガスは、難燃性燃料を含む、内燃機関用点火装置。
【請求項5】
請求項4に記載の内燃機関用点火装置であって、
前記難燃性燃料はアンモニアである、内燃機関用点火装置。
【請求項6】
内燃機関用点火装置であって、
電磁結合された1次コイルと、2つの2次コイルを有するトランスと、
前記1次コイルへの通電を制御する通電制御部と、
一方の前記2次コイルの高圧側端子とグラウンドとの間に電気的に接続される第1点火プラグと、
一方の前記2次コイルの低圧側端子とグラウンドとの間に電気的に接続される第2点火プラグと、
他方の前記2次コイルの高圧側端子とグラウンドとの間に電気的に接続される第3点火プラグと、
他方の前記2次コイルの低圧側端子とグラウンドとの間に電気的に接続される第4点火プラグと、
を有し、
前記第1点火プラグと、前記第2点火プラグと、前記第3点火プラグと、前記第4点火プラグとは、内燃機関の同一の燃焼室内に配置される、内燃機関用点火装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関用点火装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関用点火コイルにおいては、コイルアセンブリの1次コイルに電流を流して磁界を発生させた後に電流を遮断することにより、自己誘導作用により2次コイルに高電圧を発生させる。このとき2次コイルに発生した高電圧によって、点火プラグにおいて放電が行われる。
【0003】
従来の内燃機関用点火装置については、例えば、特許文献1に記載されている。図4には、特許文献1に記載の内燃機関用点火装置と同様の、従来の内燃機関用点火装置1Xの簡易的な回路図が示されている。また、図5には、このような内燃機関用点火装置1Xの2次コイルの両端の電位差(2次電圧)の例が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-82193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図4および図5に示すような従来の内燃機関用点火装置1Xでは、イグナイタIgをONとして1次コイルCo1に電源Baから電圧を供給する(通電期間T1)。1次コイルCo1に電圧を一定時間供給した後に、イグナイタIgをOFFにする。すると、自己誘導作用によって、2次コイルCo2に通電期間T1とは逆向きに高電圧が発生し、点火プラグPgにおいて放電が生じる(放電期間T2)。
【0006】
放電時に、点火プラグPgの周辺の容量成分に電荷が蓄積される。このため、図5に示すように、放電後の待機期間T3において、この残留エネルギーによって2次電圧の収束に時間がかかるという問題が生じる。
【0007】
また、近年、従来の燃料よりも燃焼しやすい水素や、従来の燃料より燃焼しづらいアンモニア等の難燃性燃料の使用が模索されている。着火しやすさや燃焼速度の異なる複数種類の燃料を混合して用いる場合にも、確実に着火させることができる技術が求められている。
【0008】
本発明の目的は、より確実に燃料への着火を行うとともに、残留エネルギーを早期収束する技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本願の第1発明は、内燃機関用点火装置であって、電磁結合された1次コイルおよび2次コイルを有するトランスと、前記1次コイルへの通電を制御する通電制御部と、前記2次コイルの高圧側端子とグラウンドとの間に電気的に接続される第1点火プラグと、前記2次コイルの低圧側端子とグラウンドとの間に電気的に接続される第2点火プラグと、を有し、前記第1点火プラグと、前記第2点火プラグとは、内燃機関の同一の燃焼室内に配置される。
【0010】
本願の第2発明は、第1発明の内燃機関用点火装置であって、前記燃焼室内に導入される燃料ガスは、複数種類の燃料が混合された混合ガスである。
【0011】
本願の第3発明は、第2発明の内燃機関用点火装置であって、前記燃焼室内に導入される前記燃料ガスは、水素を含む。
【0012】
本願の第4発明は、第2発明または第3発明の内燃機関用点火装置であって、前記燃焼室内に導入される前記燃料ガスは、難燃性燃料を含む。
【0013】
本願の第5発明は、第4発明の内燃機関用点火装置であって、前記難燃性燃料はアンモニアである。
【0014】
本願の第6発明は、内燃機関用点火装置であって、電磁結合された1次コイルと、2つの2次コイルを有するトランスと、前記1次コイルへの通電を制御する通電制御部と、一方の前記2次コイルの高圧側端子とグラウンドとの間に電気的に接続される第1点火プラグと、一方の前記2次コイルの低圧側端子とグラウンドとの間に電気的に接続される第2点火プラグと、他方の前記2次コイルの高圧側端子とグラウンドとの間に電気的に接続される第3点火プラグと、他方の前記2次コイルの低圧側端子とグラウンドとの間に電気的に接続される第4点火プラグと、を有し、前記第1点火プラグと、前記第2点火プラグと、前記第3点火プラグと、前記第4点火プラグとは、内燃機関の同一の燃焼室内に配置される。
【発明の効果】
【0015】
本願の第1発明~第6発明によれば、確実に燃料への着火を行うとともに、残留エネルギーを早期収束することができる。
【0016】
本願の第2発明~第5発明によれば、燃料への着火をより確実に行う必要があるため、特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】第1実施形態に係る内燃機関用点火装置の回路図である。
図2】第1実施形態に係る内燃機関用点火装置における2次電圧波形の例を示した図である。
図3】第2実施形態に係る内燃機関用点火装置の回路図である。
図4】従来の内燃機関用点火装置の回路図である。
図5】従来の内燃機関用点火装置における2次電圧波形の例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の例示的な実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0019】
<1.第1実施形態>
<1-1.内燃機関用点火装置の構成>
本発明の一実施形態となる内燃機関用点火装置1の構成について、図面を参照しつつ説明する。図1は、第1実施形態に係る内燃機関用点火装置1の回路図である。なお、図1において、1次側の詳しい回路は省略している。
【0020】
本実施形態の内燃機関用点火装置1は、例えば、自動車等の車両の車体に搭載され、内燃機関用の点火プラグ91,92に火花放電を発生させるための高電圧を印加する装置である。図1に示すように、内燃機関用点火装置1は、トランス20と、通電制御部30と、第1点火プラグ91と、第2点火プラグ92とを有する。
【0021】
内燃機関用点火装置1が複数気筒の内燃エンジンに用いられる場合、通電制御部30の後述するバッテリ31およびECU32は複数の気筒に対して共通であってもよい。一方、トランス20、通電制御部30の後述するイグナイタ33、第1点火プラグ91および第2点火プラグ92は、それぞれの気筒に対して備えられている。例えば、4気筒の内燃エンジンにおいて、1つのバッテリ31および1つのECU32と、4組のトランス20、イグナイタ33、第1点火プラグ91および第2点火プラグ92が備えられる。
【0022】
本実施形態の内燃機関用点火装置1が用いられる内燃エンジンにおいて、各気筒の燃焼室内に導入される燃焼ガスは、複数種類の燃料が混合された混合ガスである。この混合ガスは、例えば、水素ガスと、難燃性燃料であるアンモニアとを含む。水素ガスは、ガソリン等の従来の燃料に比べて着火しやすく、燃焼速度が速い。一方、アンモニアガスは、ガソリン等の従来の燃料に比べて着火しにくく、燃焼速度が遅い。このように、着火しやすさや燃焼速度の異なる燃料が混合された燃焼ガスを用いる場合には、従来の点火装置よりもより確実に着火動作を行うことと、より迅速に点火プラグ周辺の残留エネルギーを収束させることが必要である。
【0023】
トランス20は、電磁結合された1次コイルL1および2次コイルL2を有する。2次コイルL2は、1次コイルL1よりも巻き数が大きい。2次コイルL2は、その両端部に、高圧側端子21と、低圧側端子22とを有する。
【0024】
通電制御部30は、1次コイルL1への通電を制御する。通電制御部30は、バッテリ31と、ECU(Engine Control Unit)32と、イグナイタ33とを有する。
【0025】
バッテリ31は、直流電力を充放電可能な電源装置(蓄電池)である。本実施形態では、バッテリ31は、トランス20の1次コイルL1およびイグナイタ33と、電気的に接続される。バッテリ31は、トランス20の1次コイルL1およびイグナイタ33に、直流電圧を供給する。
【0026】
ECU32は、車体のトランスミッションやエアバックの作動等を総合的に制御する既存のコンピュータである。ECU32は、イグナイタ33に対して点火信号を出力し、イグナイタ33のON/OFF動作を制御する。
【0027】
イグナイタ33は、1次コイルL1の通電を制御する。イグナイタ33は、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)などのスイッチング素子である。イグナイタ33は、ECU32から供給される点火信号に従ってON/OFFし、1次コイルL1の通電を制御する。
【0028】
第1点火プラグ91および第2点火プラグ92は、内燃機関の燃焼室の内部に配置され、内燃機関の燃焼室で着火動作を実現するための装置である。第1点火プラグ91と、第2点火プラグ92とは、プラグ仕様およびプラグギャップが同じである。第1点火プラグ91および第2点火プラグ92は、1つの燃焼室内に間隔を空けて配置される。
【0029】
第1点火プラグ91は、トランス20の2次コイルL2の高圧側端子21と、グラウンドとの間に電気的に接続される。すなわち、第1点火プラグ91の一端は、高圧側端子21に接続され、第1点火プラグ91の他端は、接地される。
【0030】
第2点火プラグ92は、トランス20の2次コイルL2の低圧側端子22と、グラウンドとの間に電気的に接続される。すなわち、第2点火プラグ92の一端は、低圧側端子22に接続され、第2点火プラグ92の他端は、接地される。
【0031】
ECU32からの点火信号に従って、イグナイタ33がONになると、1次コイルL1の両端に電圧がかかり、1次側の回路に電流が生じる。これにより、トランス20内に磁束が形成される。その後、ECU32からの点火信号に従って、イグナイタ33がOFFになると、トランス20内に形成された磁束による電磁誘導により、2次コイルL2の両端部に、バッテリ31によって供給された電圧とは逆向きの高電圧が誘起される。これにより、低圧側端子22に対して高圧側端子21が大きくマイナス電位となる。
【0032】
その結果、第1点火プラグ91と接続される高圧側端子21が、絶対値の大きなマイナス電位となるとともに、第2点火プラグ92と接続される低圧側端子22が、絶対値の大きなプラス電位となる。このため、第1点火プラグ91および第2点火プラグ92のギャップにおいて放電が起こり、火花が発生する。これにより、内燃機関に充填された燃料に点火される。
【0033】
<1-2.内燃機関用点火装置における2次側電圧の変化>
続いて、図2を参照しつつ、本実施形態の内燃機関用点火装置1における2次側の電圧の変化について説明する。図2は、本実施形態の内燃機関用点火装置1における2次電圧波形の例を示した図である。具体的には、図2は、内燃機関用点火装置1についてのシミュレーション結果である。以下では、2次電圧として、2次コイルL2の高圧側端子21における電圧を第1プラグ電圧V1、2次コイルL2の低圧側端子22における電圧を第2プラグ電圧V2として説明する。
【0034】
内燃機関では、クランクシャフトの回転に合わせて吸気バルブ・排気バルブの開閉と、点火プラグの放電とを行うことにより、吸入・圧縮・燃焼・排気のサイクルを行う。内燃機関用点火装置1は、圧縮上死点付近で点火プラグを放電させることで、燃焼室内において圧縮された燃料ガスを燃焼させる。内燃機関用点火装置1は、点火プラグ91,92の放電を行うために、
通電期間T1:1次コイルL1の通電
放電期間T2:点火プラグ91,92における放電
待機期間T3:残留エネルギー回収
を、ピストンの動きに合わせて行う。
【0035】
ここで、まず、図4に示す従来の内燃機関用点火装置1Xにおける2次電圧Vxの変化について、図5を参照しつつ説明する。内燃機関用点火装置1Xにおいて、点火プラグPgは、2次コイルCo2の高圧側端子とグラウンドとの間に接続される。以下では、2次コイルCo2の高圧側端子における電圧を2次電圧Vxと称する。すなわち、2次電圧Vxは、点火プラグPgの両端にかかる電圧となる。内燃機関用点火装置1の使用開始直後、すなわち、通電期間T1の前は、2次電圧Vxは0[V]である。
【0036】
通電期間T1が開始され、1次コイルCo1へ通電が開始されると、1次コイルCo1に電圧が供給されるのに伴って2次コイルCo2に電圧(ON時電圧)が生じる。1次コイルCo1への通電が継続すると、トランス内の磁束の形成に伴って2次電圧Vxは、ON時電圧から次第に小さくなる。
【0037】
通電期間T1が終了し、1次コイルCo1への電力供給が遮断されると、2次コイルCo2には、ON時電圧と逆向き(マイナス)の高電圧が発生する。これにより、点火プラグPgに高電圧が印加され、点火プラグPgのギャップにおいて放電が生じる(放電期間T2)。その後、放電に伴ってトランス20に形成された磁束が弱まり、次第に2次電流(2次コイルCo2および点火プラグPgを流れる電流)の絶対値が小さくなる。これにより、点火プラグPgにおける放電が終了する。
【0038】
放電期間T2において、点火プラグPgに電流が流れることにより、点火プラグPg周辺の容量成分には、電荷が蓄積される。具体的には、点火プラグPgの接地側には正の電荷、2次コイルCo2側には負の電荷が蓄積される。
【0039】
このため、待機期間T3では、点火プラグPg周辺の寄生容量に蓄積された残留エネルギーにより、しばらく、2次電圧Vxはマイナス電位となる。2次電圧Vxは、残留エネルギーの収束に伴って、0[V]へと収束する。
【0040】
続いて、本実施形態の内燃機関用点火装置1における第1プラグ電圧V1および第2プラグ電圧V2の変化に空いて、図2を参照しつつ説明する。
【0041】
まず、内燃機関用点火装置1の使用開始直後、すなわち、通電期間T1の前には、2次コイルL2、第1点火プラグ91および第2点火プラグ92のいずれにも電荷の蓄積はなく、これらの全ての回路内の電位は0[V]である。すなわち、第1プラグ電圧V1および第2プラグ電圧V2も0[V]である。
【0042】
通電期間T1が開始され、1次コイルL1へ通電が開始されると、1次コイルL1に電圧が供給されるのに伴って2次コイルL2の両端に電位差が生じる。ここで、通電開始直後に2次コイルL2に発生する電圧を2*Von[V]とすると、第1点火プラグ91の他端と、第2点火プラグ92の他端とが接地されており0[V]であるため、第1プラグ電圧V1がVon[V]となるとともに、第2プラグ電圧V2が-Von[V]となる。このように、通電期間T1の始めに、生じる電圧をON時電圧と称する。
【0043】
1次コイルL1への通電が継続すると、トランス20内の磁束の形成に伴って2次コイルL2の両端の電位差が、2*Von[V]から次第に小さくなる。これに従って、第1プラグ電圧V1と第2プラグ電圧V2の絶対値もVon[V]から次第に小さくなる。
【0044】
通電期間T1が終了し、1次コイルL1への電力供給が遮断されると、2次コイルL2には、ON時電圧と逆向きの高電圧が発生する。これにより、第1点火プラグ91に高電圧のマイナス電圧が印加され、第1点火プラグ91のギャップにおいて放電が生じる。また、第2点火プラグ92に高電圧のプラス電圧が印加され、第2点火プラグ92のギャップにおいて放電が生じる(放電期間T2)。
【0045】
ここで、放電期間T2における2次コイルL2に生じる最大の電圧の値を-2*Vd[V]とする。したがって、第1プラグ電圧V1が-Vd[V]、第2プラグ電圧V2がVd[V]となる。
【0046】
放電期間T2において、第1点火プラグ91および第2点火プラグ92に電流が流れることにより、第1点火プラグ91周辺の容量成分および第2点火プラグ92周辺の容量成分には、電荷が蓄積される。具体的には、第1点火プラグ91の他端側(接地側)には正の電荷、一端側(高圧側端子21側)には負の電荷が蓄積される。一方、第2点火プラグ92の他端側(接地側)には負の電荷、一端側(低圧側端子22側)には正の電荷が蓄積される。
【0047】
放電期間T2が終了して待機期間T3となると、第1点火プラグ91周辺の容量成分に蓄積された電荷と、第2点火プラグ92周辺の容量成分に蓄積された電荷とが互いに打ち消し合うように、電荷が移動する。これにより、第1点火プラグ91周辺の寄生容量に蓄積された残留エネルギーと、第2点火プラグ92周辺の寄生容量に蓄積された残留エネルギーとがいずれも発散される。
【0048】
ここで、上述の通り、第1点火プラグ91と、第2点火プラグ92とは、プラグ仕様およびプラグギャップが同じである。このため、第1点火プラグ91周辺の寄生容量に蓄積された残留エネルギーと、第2点火プラグ92周辺の寄生容量に蓄積された残留エネルギーとは、ほぼ同等である。このため、双方の残留エネルギーがバランス良く相殺される。
【0049】
なお、第1点火プラグ91周辺の寄生容量と、第2点火プラグ92周辺の寄生容量との間で電荷の移動があることにより、一時的に2次コイルL2に電流が流れ、第1プラグ電圧V1および第2プラグ電圧V2が一時的に振動する。
【0050】
このような電荷の移動により、第1点火プラグ91周辺の寄生容量に蓄積された残留エネルギーと、第2点火プラグ92周辺の寄生容量に蓄積された残留エネルギーとは、いずれも、放電期間T2の終了後すぐに、大部分が解消されて、僅かとなる。そして、残った残留エネルギーによって第1プラグ電圧V1は、比較的小さなマイナス電位となり、第2プラグ電圧V2は、比較的小さなプラス電位となる。その後、第1プラグ電圧V1および第2プラグ電圧V2はともに0[V]へと収束する。
【0051】
図4および図5に示す従来の内燃機関用点火装置1Xのように、点火プラグを1つだけ有する場合には、待機期間T3においても、残留エネルギーが大きく残る。これに対して、本実施形態の内燃機関用点火装置1では、1つの2次コイルL2に2つの点火プラグ91,92が接続されることにより、迅速に残留エネルギーを収束させることができる。
【0052】
なお、従来、本実施形態の内燃機関用点火装置1と同等の回路構成を有するD-DLI(Distributor Less Ignition with Double ended coil)システムが知られている。D-DLIシステムでは、第1点火プラグ91と、第2点火プラグ92とが、半周期異なる2つの気筒のそれぞれの燃焼室内に配置される。すなわち、第2点火プラグ92は、第1点火プラグ91の配置された気筒の裏気筒に配置される。
【0053】
このため、第1点火プラグ91において圧縮上死点付近で放電を行おうとすると、第2点火プラグ92は排気上死点付近で放電が行われる。このとき、圧縮上死点付近では、燃焼室内の圧力が高く、第1点火プラグ91が放電するための要求電圧も大きく、放電後の残留エネルギーも大きい。一方、排気上死点付近では、燃焼室内の圧力が低く、第2点火プラグ92が放電するための要求電圧も大きく、放電後の残留エネルギーは小さい。
【0054】
したがって、放電後に、第1点火プラグ91周辺の寄生容量と、第2点火プラグ92周辺の寄生容量との間で残留エネルギーが相殺されたとしても、第1点火プラグ91周辺の残留エネルギーはある程度残留するという問題がある。
【0055】
これに対して、本実施形態の内燃機関用点火装置1では、1つの2次コイルL2に2つの点火プラグ91,92が接続されることにより、迅速に残留エネルギーを収束させることができる。
【0056】
また、本実施形態の内燃機関用点火装置1では、第1点火プラグ91と第2点火プラグ92との双方が同じ燃焼室内に配置されている。このため、燃焼室内において、同じタイミングで、2箇所で同時に放電が生じる。このため、着火しやすさや燃焼速度の異なる複数種類の燃料を混合して用いる場合にも、より確実に着火することができる。したがって、従来の燃料よりも燃焼しやすい水素や、従来の燃料より燃焼しづらいアンモニア等の難燃性燃料を含む混合燃料を用いることができる。
【0057】
<2.第2実施形態>
続いて、本発明の第2実施形態となる内燃機関用点火装置1Aの構成について、図面を参照しつつ説明する。図3は、第2実施形態に係る内燃機関用点火装置1Aの回路図である。
【0058】
図3に示すように、内燃機関用点火装置1Aは、トランス20Aと、通電制御部30Aと、第1点火プラグ91Aと、第2点火プラグ92Aと、第3点火プラグ93Aと、第4点火プラグ94Aとを有する。通電制御部30Aは、第1実施携帯にかかる通電制御部30と同等であるため、説明を省略する。
【0059】
トランス20Aは、電磁結合された1次コイルL1Aと、第一2次コイルL2Aと、第二2次コイルL3Aとを有する。第一2次コイルL2Aと、第二2次コイルL3Aとはいずれも、1次コイルL1Aよりも巻き数が大きい。第一2次コイルL2Aは、その両端部に、第一高圧側端子21Aと、第一低圧側端子22Aとを有する。第二2次コイルL3Aは、その両端部に、第二高圧側端子23Aと、第二低圧側端子24Aとを有する。
【0060】
第1点火プラグ91A、第2点火プラグ92A、第3点火プラグ93Aおよび第4点火プラグ94Aは、内燃機関の燃焼室の内部に配置され、内燃機関の燃焼室で着火動作を実現するための装置である。第1点火プラグ91Aと、第2点火プラグ92Aとは、プラグ仕様およびプラグギャップが同じである。また、第3点火プラグ93Aと、第4点かプラグ94Aとは、プラグ仕様およびプラグギャップが同じである。第1点火プラグ91A、第2点火プラグ92A、第3点火プラグ93Aおよび第4点火プラグ94Aは、1つの燃焼室内に間隔を空けて配置される。
【0061】
第1点火プラグ91Aは、トランス20Aの第一2次コイルL2Aの第一高圧側端子21Aと、グラウンドとの間に電気的に接続される。すなわち、第1点火プラグ91Aの一端は、第一高圧側端子21Aに接続され、第1点火プラグ91Aの他端は、接地される。
【0062】
第2点火プラグ92Aは、トランス20Aの第一2次コイルL2Aの第一低圧側端子22Aと、グラウンドとの間に電気的に接続される。すなわち、第2点火プラグ92Aの一端は、第一低圧側端子22Aに接続され、第2点火プラグ92Aの他端は、接地される。
【0063】
第3点火プラグ93Aは、トランス20Aの第二2次コイルL3Aの第二高圧側端子23Aと、グラウンドとの間に電気的に接続される。すなわち、第3点火プラグ93Aの一端は、第二高圧側端子23Aに接続され、第3点火プラグ93Aの他端は、接地される。
【0064】
第4点火プラグ94Aは、トランス20Aの第二2次コイルL3Aの第二低圧側端子24Aと、グラウンドとの間に電気的に接続される。すなわち、第4点火プラグ94Aの一端は、第二低圧側端子24Aに接続され、第4点火プラグ94Aの他端は、接地される。
【0065】
ECU32からの点火信号に従って、イグナイタ33がONになると、1次コイルL1Aの両端に電圧がかかり、1次側の回路に電流が生じる。これにより、トランス20A内に磁束が形成される。その後、ECU32からの点火信号に従って、イグナイタ33がOFFになると、トランス20A内に形成された磁束による電磁誘導により、第一2次コイルL2Aおよび第二2次コイルL3Aの両端部に、バッテリ31によって供給された電圧とは逆向きの高電圧が誘起される。これにより、第一低圧側端子22Aに対して第一高圧側端子21Aが大きくマイナス電位となるとともに、第二低圧側端子35Aに対して第二高圧側端子23Aが大きくマイナス電位となる。
【0066】
その結果、第1点火プラグ91Aと接続される第一高圧側端子21Aが、絶対値の大きなマイナス電位となるとともに、第2点火プラグ92Aと接続される第一低圧側端子22Aが、絶対値の大きなプラス電位となる。このため、第1点火プラグ91Aおよび第2点火プラグ92Aのギャップにおいて放電が起こり、火花が発生する。これにより、内燃機関に充填された燃料に点火される。
【0067】
同時に、第3点火プラグ93Aと接続される第二高圧側端子23Aが、絶対値の大きなマイナス電位となるとともに、第4点火プラグ94Aと接続される第二低圧側端子24Aが、絶対値の大きなプラス電位となる。このため、第3点火プラグ93Aおよび第4点火プラグ94Aのギャップにおいて放電が起こり、火花が発生する。これにより、内燃機関に充填された燃料に点火される。
【0068】
このような内燃機関用点火装置1Aにおいて、放電期間T2が終了して待機期間T3となると、第1点火プラグ91A周辺の容量成分に蓄積された電荷と、第2点火プラグ92A周辺の容量成分に蓄積された電荷とが互いに打ち消し合うように、電荷が移動する。これにより、第1点火プラグ91A周辺の寄生容量に蓄積された残留エネルギーと、第2点火プラグ92A周辺の寄生容量に蓄積された残留エネルギーとがいずれも発散される。
【0069】
また、放電期間T2が終了して待機期間T3となると、第3点火プラグ93A周辺の容量成分に蓄積された電荷と、第4点火プラグ94A周辺の容量成分に蓄積された電荷とが互いに打ち消し合うように、電荷が移動する。これにより、第3点火プラグ93A周辺の寄生容量に蓄積された残留エネルギーと、第4点火プラグ94A周辺の寄生容量に蓄積された残留エネルギーとがいずれも発散される。
【0070】
ここで、上述の通り、第1点火プラグ91Aと、第2点火プラグ92Aとは、プラグ仕様およびプラグギャップが同じである。このため、第1点火プラグ91A周辺の寄生容量に蓄積された残留エネルギーと、第2点火プラグ92A周辺の寄生容量に蓄積された残留エネルギーとは、ほぼ同等である。このため、双方の残留エネルギーがバランス良く相殺される。
【0071】
また、第3点火プラグ93Aと、第4点火プラグ94Aとは、プラグ仕様およびプラグギャップが同じである。このため、第3点火プラグ93A周辺の寄生容量に蓄積された残留エネルギーと、第4点火プラグ94A周辺の寄生容量に蓄積された残留エネルギーとは、ほぼ同等である。このため、双方の残留エネルギーがバランス良く相殺される。
【0072】
このような電荷の移動により、4つの点火プラグ91A,92A,93A,94Aのそれぞれの周辺の寄生容量に蓄積された残留エネルギーは、いずれも、放電期間T2の終了後すぐに、大部分が解消されて、僅かとなる。すなわち、本実施形態の内燃機関用点火装置1では、2つの点火プラグ91A,92Aが1つの第一2次コイルL2Aに接続されるとともに、2つの点火プラグ93A,94Aが1つの第二2次コイルL3Aに接続されることにより、いずれの点火プラグ91A,92A,93A,94Aについても、迅速に残留エネルギーを収束させることができる。
【0073】
本実施形態の内燃機関用点火装置1Aでは、第1実施形態の内燃機関用点火装置1に比べて、さらに多数の点火プラグ91A,92A,93A,94Aが同じ燃焼室内に配置されている。これにより、放電箇所、すなわち、発熱箇所の数が多くなる。
【0074】
その結果、燃焼室内においてさらに着火しやすい。このため、着火しやすさや燃焼速度の異なる複数種類の燃料を混合して用いる場合にも、さらに確実に着火することができる。したがって、従来の燃料よりも燃焼しやすい水素や、従来の燃料より燃焼しづらいアンモニア等の難燃性燃料を含む混合燃料を用いることができる。特に、混合燃料の場合に、燃焼室内の場所によって混合比に偏りがある場合でも、確実に着火することができる。 また、発熱箇所が多くなることにより、燃焼室内における燃焼速度を早めることができる。
【0075】
<3.変形例>
以上、本発明の例示的な実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態には限定されない。
【0076】
本発明の内燃機関用点火装置は、自動車等の車両のみならず、発電機等の様々な装置や産業機械に搭載されて、内燃機関の点火プラグに電気火花を発生させて燃料を点火させるために使用されるものであればよい。
【0077】
上記の内燃機関用点火装置の細部の形状や構造は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜に変更してもよい。また、上記の実施形態や変形例に登場した各要素を、矛盾が生じない範囲で、適宜に組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0078】
1,1A 内燃機関用点火装置
20,20A トランス
21 高圧側端子
22 低圧側端子
21A 第一高圧側端子
22A 第一低圧側端子
23A 第二高圧側端子
24A 第二低圧側端子
30 通電制御部
91,91A 第1点火プラグ
92,92A 第2点火プラグ
93A 第3点火プラグ
94A 第4点火プラグ
L1,L1A 1次コイル
L2 2次コイル
L2A 第一2次コイル
L3A 第二2次コイル
図1
図2
図3
図4
図5