(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024021240
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】ホルモース反応による単糖類の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07H 3/02 20060101AFI20240208BHJP
【FI】
C07H3/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022123945
(22)【出願日】2022-08-03
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】脇 稔
(72)【発明者】
【氏名】松井 崇行
(72)【発明者】
【氏名】長谷 陽子
【テーマコード(参考)】
4C057
【Fターム(参考)】
4C057AA19
4C057BB02
(57)【要約】
【課題】ホルモース反応を利用し、高い反応収率で長時間、単糖類を製造することが可能な方法を提供すること。
【解決手段】アルカリ水溶液中、ゼオライト触媒の存在下、70~110℃の範囲内の反応温度で、ホルムアルデヒドを原料としてホルモース反応により単糖類を合成すること特徴とする単糖類の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ水溶液中、ゼオライト触媒の存在下、70~110℃の範囲内の反応温度で、ホルムアルデヒドを原料としてホルモース反応により単糖類を合成すること特徴とする単糖類の製造方法。
【請求項2】
前記アルカリ水溶液が、アルコールを25体積%以下の濃度で含有するものであることを特徴とする請求項1に記載の単糖類の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホルモース反応による単糖類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カルシウム触媒の存在下、アルカリ水溶液中において、ホルムアルデヒドを原料として糖及び糖アルコールを合成する方法が知られている。このようなホルムアルデヒドから糖及び糖アルコールを合成する反応は、ホルモース反応と呼ばれる。ホルモース反応においては、ホルムアルデヒドが縮合を繰り返すことによって、炭素鎖が伸長するため、単糖類を含む多くの種類の糖や糖アルコールが混合物として得られ、この混合物はホルモースと呼ばれる。また、このようなホルモース反応下においては、同時に、カニッツァーロ反応に由来する副反応や生成した単糖類の分解反応が起こるため、ホルモースを含む混合物の組成は更に複雑になる。このため、このような混合物から、目的とする単糖類のみを分離し、取り出すことは極めて困難である。
【0003】
また、触媒として均一系触媒を用いてホルモース反応を行った場合、生成物と触媒との分離が容易ではないため、目的とする単糖類のみを分離し、取り出すことが更に困難となることから、触媒として不均一系触媒(固体状の触媒)の積極的な利用が求められている。このような不均一系触媒としては、例えば、重政好弘、「ホルモース合成研究の新展開」、有機合成化学、1978年、第36巻、第8号、667~683頁(非特許文献1)に、ゼオライトがホルモース反応の触媒として利用できることが記載されている。しかしながら、非特許文献1に記載のゼオライトを用いたホルモース反応は、40℃未満の温度条件下、ガンマ線の照射下で行う必要があるため、より簡便にホルモース反応を利用して単糖類を合成する方法が求められてきた。また、不均一系触媒は反応点が固体表面上に限られるため、一般的には、均一系触媒に比べて、反応性が低くなる傾向にある。さらに、不均一系触媒の表面はアモルファス(不定形)であるため、反応性を制御する(例えば、反応効率や選択性を向上させる)ことを目的とした触媒の設計が困難なことが多い。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】重政好弘、「ホルモース合成研究の新展開」、有機合成化学、1978年、第36巻、第8号、667~683頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、ホルモース反応を利用し、高い反応収率で長時間、単糖類を製造することが可能な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、アルカリ水溶液中、ゼオライト触媒の存在下、70~110℃の範囲内の反応温度で、ホルモース反応を行うことによって、高い反応収率で長時間、単糖類を製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下の態様を提供する。
【0008】
[1]アルカリ水溶液中、ゼオライト触媒の存在下、70~110℃の範囲内の反応温度で、ホルムアルデヒドを原料としてホルモース反応により単糖類を合成する、単糖類の製造方法。
【0009】
[2]前記アルカリ水溶液が、アルコールを25体積%以下の濃度で含有するものである、[1]に記載の単糖類の製造方法。
【0010】
なお、本発明によって、ホルモース反応を利用して、高い反応収率で長時間、単糖類を製造することが可能となる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、本発明の単糖類の製造方法においては、触媒としてゼオライトを使用する。ゼオライトは、アルミノシリケート骨格で構成された結晶状の粉末であり、その結晶構造中の酸点又は塩基点が触媒活性点として作用するものである。この触媒活性点はゼオライトの細孔内部に存在するため、細孔内部に拡散可能な小分子の化合物(例えば、ホルムアルデヒド、グリコールアルデヒド、グリセルアルデヒド、1,3-ジヒドロキシアセトン等の炭素数が3以下のホルモース)は前記触媒活性点に接触して縮合反応が進行する。また、前記触媒活性点で選択的に縮合反応が進行するため、カニッツァーロ反応等に由来する副反応が抑制される。その結果、高い反応収率で単糖類を製造することが可能となる。一方、炭素鎖が伸長した化合物(例えば、エリトロース、エリトルロース等の炭素数が4以上のホルモース)は、ゼオライトの細孔内部に留まったり、或いは入り込むことが困難であるため、前記触媒活性点に接触することができず、縮合反応だけでなく、生成物の分解反応も抑制される。その結果、単糖類の高い反応収率が長時間維持される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ホルモース反応を利用し、高い反応収率で長時間、単糖類を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】触媒として各種ゼオライトを用いたホルモース反応における反応時間と単糖類の反応収率との関係を示すグラフである。
【
図2】触媒として各種カルシウム化合物を用いたホルモース反応における反応時間と単糖類の反応収率との関係を示すグラフである。
【
図3】触媒としてイオン交換樹脂、シリカ、活性アルミナ、又はハイドロキシアパタイトを用いたホルモース反応における反応時間と単糖類の反応収率との関係を示すグラフである。
【
図4】各種触媒を用いたホルモース反応における単糖類の反応収率の維持率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0014】
本発明の単糖類の製造方法は、アルカリ水溶液中、ゼオライト触媒の存在下、70~110℃の範囲内の反応温度で、ホルムアルデヒドを原料としてホルモース反応により単糖類を合成する方法である。
【0015】
ホルモース反応は、下記式:
【0016】
【0017】
で表される反応である。具体的には、原料のホルムアルデヒド2分子が縮合してグリコールアルデヒドが生成し、このグリコールアルデヒドがホルムアルデヒドと更に反応してグリセルアルデヒドが生成する。また、グリセルアルデヒドが異性化すると、1,3-ジヒドロキシアセトンが形成され、この1,3-ジヒドロキシアセトンがホルムアルデヒドと反応してエリトルロースが生成する。さらに、エリトルロースが異性化すると、エリトロースが形成される。したがって、ホルムアルデヒドを原料としてホルモース反応を行うことによって、グリコールアルデヒド、グリセルアルデヒド、1,3-ジヒドロキシアセトン、エリトルロース、及びエリトロースの単糖類の混合物(ホルモース)が生成物として得られる。
【0018】
本発明に用いられる原料のホルムアルデヒドとしては特に制限はなく、例えば、ホルムアルデヒド水溶液(ホルマリン)を使用することができる。本発明において、アルカリ水溶液中のホルムアルデヒドの濃度としてはホルモース反応が進行する濃度であれば特に制限はないが、例えば、0.01~0.6mol/Lが好ましく、0.05~0.5mol/Lがより好ましい。アルカリ水溶液中のホルムアルデヒドの濃度が前記下限未満になると、ホルムアルデヒドの反応性が低下し、単糖類の反応収率が低くなる傾向にあり、他方、ホルムアルデヒドの濃度が前記上限を超えると、触媒量が足りず、ホルモース反応が起こらない傾向にある。
【0019】
本発明に用いられるアルカリ水溶液としては特に制限はないが、例えば、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カルシウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化バリウム等が挙げられる。これらのアルカリ水溶液の中でも、過剰な反応の進行を抑制するという観点から、水酸化ナトリウムが好ましい。
【0020】
本発明において、アルカリ水溶液中のアルカリの濃度としてはホルモース反応が進行する濃度であれば特に制限はないが、例えば、0.03~0.3mol/Lが好ましく、0.03~0.1mol/Lがより好ましい。アルカリ水溶液中のアルカリの濃度が前記下限未満になると、縮合反応の反応性が低下し、単糖類の反応収率が低下する傾向にあり、他方、アルカリの濃度が前記上限を超えると、カニッツァーロ反応等に由来する副反応が進行しやすく、単糖類の反応収率が低下する傾向にある。
【0021】
本発明に用いられるゼオライト触媒としては特に制限はなく、例えば、下記組成式:
Mn+
1/n(AlO2)-(SiO2)x・yH2O
〔前記式中、Mは、ゼオライト触媒中に含まれるn価の陽イオンを表す。〕
で表される公知のゼオライト触媒が挙げられる。このようなゼオライト触媒として、具体的には、A型(LTA)、ZSM-5型(MFI)、モルデナイト(MOR)型、L型(LTL)、X型、LSX型(FAU)、ベータ(BEA)型、フェリエライト(FER)型、Y型(FAU)等の各種結晶構造を有するゼオライトが挙げられる。また、ゼオライト触媒に含まれる陽イオンとしては特に制限はなく、例えば、Cs+、Rb+、K+、Na+、Ba2+、Sr2+、Ca2+、Mg2+、Fe3+、Al3+、NH4
+、H+等が挙げられる。これらのゼオライト触媒の中でも、A型ゼオライト、モルデナイト型ゼオライト、ZSM-5型ゼオライト、L型ゼオライトが好ましく、単糖類の最大反応収率が高くなるという観点から、陽イオンとしてH+を含むモルデナイト型ゼオライトがより好ましく、また、単糖類の高い反応収率が長時間、維持できるという観点から、陽イオンとしてCa2+を含むA型ゼオライト、陽イオンとしてNa+又はH+を含むモルデナイト型ゼオライトがより好ましく、陽イオンとしてCa2+を含むA型ゼオライトが更に好ましい。
【0022】
また、本発明において、このようなゼオライト触媒の細孔径としては特に制限はなく、通常0.2~1.5nmであるが、分子ふるい効果を示すという観点から、0.2~1nmが好ましく、0.2~0.7nmがより好ましい。
【0023】
本発明において、前記アルカリ水溶液中のゼオライト触媒の濃度としてはホルモース反応を促進する濃度であれば特に制限はないが、例えば、1~50g/Lが好ましく、3~30g/Lがより好ましい。アルカリ水溶液中のゼオライト触媒の濃度が前記下限未満になると、ホルモース反応が十分に促進されず、単糖類の反応収率が向上しない傾向にあり、他方、ゼオライト触媒の濃度が前記上限を超えると、反応溶液中におけるホルムアルデヒドの拡散を阻害し、ホルモース反応が十分に促進されず、単糖類の反応収率が向上しない傾向にある。
【0024】
また、本発明においては、前記アルカリ水溶液にアルコールが含まれていることが好ましい。アルコールを含有する前記アルカリ水溶液を用いることによって、カニッツァーロ反応等に由来する副反応が抑制され、高い反応収率で単糖類を製造することが可能となる。このようなアルコールとしてはカニッツァーロ反応等に由来する副反応を抑制できるものであれば特に制限はないが、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコールが好ましい。
【0025】
本発明において、前記アルカリ水溶液中のアルコールの濃度は25体積%以下であることが必要である。アルカリ水溶液中のアルコールの濃度が前記上限を超えると、ホルムアルデヒドの縮合によるグリコールアルデヒドの生成速度が遅くなり、単糖類の反応収率が向上しない傾向にある。また、カニッツァーロ反応等に由来する副反応を十分に抑制するという観点から、アルカリ水溶液中のアルコールの濃度としては、5体積%以上が好ましく、10体積%以上がより好ましい。
【0026】
本発明の単糖類の製造方法は、前記アルカリ水溶液(好ましくは、アルコールを25体積%以下の濃度で含有する前記アルカリ水溶液)中、前記ゼオライト触媒の存在下で、ホルムアルデヒドを原料としてホルモース反応により単糖類を合成する方法である。具体的には、前記アルカリ水溶液と前記ゼオライト触媒と原料のホルムアルデヒドとを含有する原料分散液(好ましくは、この原料分散液に、更にアルコールを25体積%以下の濃度で含有するもの)を攪拌しながら、所定の温度で加熱してホルモース反応を行うことによって、単糖類を製造することができる。
【0027】
本発明の単糖類の製造方法においては、前記ホルモース反応における反応温度が70~110℃であることが必要である。ホルモース反応における反応温度が前記下限未満になると、ホルモース反応が十分に進行せず、単糖類の高い反応収率が得られない場合があり、他方、反応温度が前記上限を超えると、カニッツァーロ反応に由来する副反応および生成した単糖類の分解反応が著しく進行し、単糖類の反応収率が向上しない傾向にある。また、単糖類の反応収率が高くなるという観点から、前記ホルモース反応における反応温度としては、70~110℃が好ましく、90~110℃がより好ましい。
【0028】
また、本発明の単糖類の製造方法においては、単糖類の高い反応収率を長時間維持できることから、前記ホルモース反応の反応時間としては、単糖類の反応収率が最大となる反応時間以降であれば特に制限はなく、適宜設定することができるが、生成した単糖類の分解反応の影響を低減するという観点から、単糖類の反応収率が最大となる反応時間付近(例えば、30~300分間)が好ましい。
【0029】
また、本発明の単糖類の製造方法においては、ガンマ線等のエネルギー線を照射する必要がなく、遮光条件下においても、前記ホルモース反応を進行させることができる。
【実施例0030】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、ホルモース反応後の単糖類の反応収率は、以下の2,4-ジニトロフェニルヒドラジン(DNPH)誘導体化-液体クロマトグラフ(HPLC)法により測定した。
【0031】
<反応収率>
下記式:
【0032】
【0033】
で表されるホルモース反応において生成するホルモース(糖や糖アルコールの混合物)中の化合物のうち、グリコールアルデヒドを「C2化合物」、グリセルアルデヒドと1,3-ジヒドロキシアセトンとをまとめて「C3化合物」、エリトロースとエリトルロースとをまとめて「C4化合物」とする。
【0034】
ホルモース反応終了後に室温まで冷却した反応液に、2、4-ジニトロフェニルヒドラジン(DNPH)を添加して、下記式:
【0035】
【0036】
で表される反応により、各カルボニル化合物とDNPHとを反応させて各DNPH誘導体を形成させ、これらのDNPH誘導体を高速液体クロマトグラフィ(日本分光株式会社製、検出器:UV検出器)を用いて定量し、生成した前記C2化合物、前記C3化合物及び前記C4化合物の濃度を求めた。なお、生成した前記C2化合物、前記C3化合物及び前記C4化合物の濃度が微量である場合でも、前記DNPH誘導体を形成させることによって、紫外可視吸収に対する検出感度が向上するため、生成した前記C2化合物、前記C3化合物及び前記C4化合物の濃度を高速液体クロマトグラフィ(検出器:UV検出器)を用いて求めることが可能となる。
【0037】
このようにして求めた、前記C2化合物、前記C3化合物及び前記C4化合物の濃度を、下記式(1):
生成物収量=2×〔C2濃度〕+3×〔C3濃度〕+4×〔C4濃度〕 (1)
(前記式中、〔C2濃度〕は、生成した前記C2化合物の濃度[mmol/L]、〔C3濃度〕は、生成した前記C3化合物の濃度[mmol/L]、〔C4濃度〕は、生成した前記C4化合物の濃度[mmol/L]を示す。)
に示したように、炭素の濃度に換算してそれらを足し合わせ、炭素原子数換算の生成物収量[mmol/L]を求めた。
【0038】
この生成物収量を用いて、下記式(2):
【0039】
【0040】
により、ホルムアルデヒド消費量に対する前記生成物収量の割合を求め、これを単糖類の反応収率[%]とした。
【0041】
(実施例1)
テフロン(登録商標)製の耐圧容器に、陽イオンとしてCa
2+を含むA型ゼオライト(東ソー株式会社製「ゼオラムA-5」)300mgと、ホルムアルデヒドと、水酸化ナトリウム水溶液(NaOH濃度:8mol/L)と、メタノールとを、ホルムアルデヒドの濃度が0.3mol/L、水酸化ナトリウムの濃度が0.045mol/L、メタノールの濃度が25体積%となるように仕込み、攪拌してゼオライトを均一に分散させ、総量10mlの原料分散液を調製した。この原料分散液を、遮光条件下、攪拌しながら、100℃に加熱して、40~300分間、ホルモース反応を行った。反応終了後、反応液を室温まで冷却し、前記方法に従って、単糖類の反応収率を求めた。各反応時間の単糖類の反応収率を
図1に示す。
【0042】
(実施例2)
Ca
2+を含むA型ゼオライトの代わりに、陽イオンとしてNa
+を含むモルデナイト(富士フイルム和光純薬株式会社製「合成ゼオライトHS-642」)300mgを用いた以外は実施例1と同様にして、ホルモース反応を行い、単糖類の反応収率を求めた。各反応時間の単糖類の反応収率を
図1に示す。
【0043】
(実施例3)
Ca
2+を含むA型ゼオライトの代わりに、陽イオンとしてH
+を含むモルデナイト(富士フイルム和光純薬株式会社製「合成ゼオライトHS-690」)300mgを用いた以外は実施例1と同様にして、ホルモース反応を行い、単糖類の反応収率を求めた。各反応時間の単糖類の反応収率を
図1に示す。
【0044】
(実施例4)
Ca
2+を含むA型ゼオライトの代わりに、陽イオンとしてNH
4
+を含むZSM-5型ゼオライト(富士フイルム和光純薬株式会社製「ゼオライトZSM-5」)300mgを用いた以外は実施例1と同様にして、ホルモース反応を行い、単糖類の反応収率を求めた。各反応時間の単糖類の反応収率を
図1に示す。
【0045】
(実施例5)
Ca
2+を含むA型ゼオライトの代わりに、陽イオンとしてK
+を含むL型ゼオライト(富士フイルム和光純薬株式会社製「合成ゼオライトHS-500」)300mgを用いた以外は実施例1と同様にして、ホルモース反応を行い、単糖類の反応収率を求めた。各反応時間の単糖類の反応収率を
図1に示す。
【0046】
(比較例1-1~1-3)
フラスコに、酢酸カルシウム〔Ca(OAc)
2〕と、ホルムアルデヒドと、水酸化ナトリウム水溶液(NaOH濃度:8mol/L)と、メタノールとを、酢酸カルシウムの濃度が0.03mol/L、ホルムアルデヒドの濃度が0.3mol/L、水酸化ナトリウムの濃度が0.045mol/L、メタノールの濃度が0体積%(比較例1-1)、25体積%(比較例1-2)又は35体積%(比較例1-3)となるように仕込み、攪拌して均一に溶解させ、総量6mlの原料溶液を調製した。この原料溶液を攪拌しながら、50℃に加熱して、40~300分間、ホルモース反応を行った。反応終了後、反応液を室温まで冷却し、前記方法に従って、単糖類の反応収率を求めた。各反応時間の単糖類の反応収率を
図2に示す。
【0047】
(比較例2)
酢酸カルシウムの代わりに、酸化カルシウム〔CaO〕を、酸化カルシウムの濃度が0.03mol/Lとなるように仕込んだ以外は比較例1-2と同様にして、ホルモース反応を行い、単糖類の反応収率を求めた。各反応時間の単糖類の反応収率を
図2に示す。
【0048】
(比較例3)
酢酸カルシウムの代わりに、炭酸カルシウム〔CaCO
3〕を、炭酸カルシウムの濃度が0.03mol/Lとなるように仕込んだ以外は比較例1-2と同様にして、ホルモース反応を行い、単糖類の反応収率を求めた。各反応時間の単糖類の反応収率を
図2に示す。
【0049】
(比較例4)
フラスコに、陽イオンとしてCa
2+を含むイオン交換樹脂(Alfa Aesar社製「Amberlite IR-120(H)」)300mgと、ホルムアルデヒドと、水酸化ナトリウム水溶液(NaOH濃度:8mol/L)と、メタノールとを、ホルムアルデヒドの濃度が0.3mol/L、水酸化ナトリウムの濃度が0.045mol/L、メタノールの濃度が25体積%となるように仕込み、攪拌してイオン交換樹脂を均一に分散させ、総量6mlの原料分散液を調製した。この原料分散液を、遮光条件下、攪拌しながら、100℃に加熱して、40~300分間、ホルモース反応を行った。反応終了後、反応液を室温まで冷却し、前記方法に従って、単糖類の反応収率を求めた。各反応時間の単糖類の反応収率を
図3に示す。
【0050】
(比較例5)
Ca
2+を含むイオン交換樹脂の代わりに、シリカ(Thermo Scientific社製「シリカゲル」)300mgを用いた以外は比較例4と同様にして、ホルモース反応を行い、単糖類の反応収率を求めた。各反応時間の単糖類の反応収率を
図3に示す。
【0051】
(比較例6)
Ca
2+を含むイオン交換樹脂の代わりに、活性アルミナ(富士フイルム和光純薬株式会社製「活性アルミナ」)300mgを用いた以外は比較例4と同様にして、ホルモース反応を行い、単糖類の反応収率を求めた。各反応時間の単糖類の反応収率を
図3に示す。
【0052】
(比較例7)
Ca
2+を含むイオン交換樹脂の代わりに、ハイドロキシアパタイト(シグマアルドリッチジャパン社製「ヒドロキシアパタイト」)300mgを用いた以外は比較例4と同様にして、ホルモース反応を行い、単糖類の反応収率を求めた。各反応時間の単糖類の反応収率を
図3に示す。
【0053】
<最大反応収率、反応開始から300分後の反応収率、反応収率の維持率>
図1~
図3に示した結果に基づいて、単糖類の最大反応収率及び反応開始から300分後の単糖類の反応収率を求めた。それらの結果を表1に示す。また、下記式(3):
【0054】
【0055】
により、最大反応収率に対する反応開始から300分後の反応収率の割合を求め、これを単糖類の反応収率の維持率[%]とした。その結果を表1及び
図4に示す。
【0056】
【0057】
表1及び
図4に示したように、ホルモース反応において、触媒としてゼオライトを用いた場合(実施例1~5)には、ゼオライトの構造に含まれる陽イオンの種類や結晶構造によらず、単糖類の反応収率が高く維持されることがわかった(維持率:80%以上)。これはゼオライトに特徴的な細孔構造に起因する可能性が考えられる。
【0058】
一方、触媒として酢酸カルシウムを用いた場合(比較例1-1)には、反応開始から135分で単糖類の反応収率が最大となり、それ以降では時間の経過とともに反応収率が大きく減少し、ゼオライトを用いた場合(実施例1~5)に比べて、反応収率の維持率が大きく低下した。また、副反応を抑制するためにメタノールを添加した場合(比較例1-2~1-3)には、反応開始から60~80分で単糖類の反応収率が最大となり、それ以降では時間の経過とともに反応収率が減少し、ゼオライトを用いた場合(実施例1~5)に比べて、反応収率の維持率が低下した。
【0059】
触媒として酸化カルシウムを用いた場合(比較例2)には、反応開始から120分で単糖類の反応収率が最大となり、それ以降では時間の経過とともに反応収率が大きく減少し、ゼオライトを用いた場合(実施例1~5)に比べて、反応収率の維持率が大きく低下した。また、触媒として炭酸カルシウムを用いた場合(比較例3)には、ホルモース反応が進行しなかった。
【0060】
触媒としてCa2+を含むイオン交換樹脂を用いた場合(比較例4)には、反応初期に単糖類の反応収率が最大となり、それ以降では時間の経過とともに副反応が進行するため、反応収率が減少し、ゼオライトを用いた場合(実施例1~5)に比べて、反応収率の維持率が低下した。また、触媒としてゼオライトに類似のシリカ(比較例5)又は活性アルミナ(比較例6)を用いた場合には、反応開始から180分で単糖類の反応収率が最大となり、それ以降では時間の経過とともに副反応が進行するため、反応収率が減少し、ゼオライトを用いた場合(実施例1~5)に比べて、反応収率の維持率が低下した。さらに、触媒としてカルシウムを主成分とするハイドロキシアパタイトを用いた場合(比較例7)には、反応開始から60分で単糖類の反応収率が最大となり、それ以降では時間の経過とともに副反応が進行するため、反応収率が大きく減少し、ゼオライトを用いた場合(実施例1~5)に比べて、反応収率の維持率が大きく低下した。
以上説明したように、本発明によれば、ホルモース反応を利用し、高い反応収率で長時間、単糖類を製造することが可能となる。したがって、本発明の単糖類の製造方法は、ホルムアルデヒドを原料として、単糖類を高収率で、安定的に製造することができるため、酵素反応による多糖類からオリゴ糖および単糖類を製造する方法の代替法として有用である。