(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024021249
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】舶用仕切り板および舶用仕切り板の製造方法
(51)【国際特許分類】
B63B 29/02 20060101AFI20240208BHJP
【FI】
B63B29/02 Z
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022123959
(22)【出願日】2022-08-03
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 性能比較試験(令和3年11月1日~令和4年5月20日) 〔刊行物等〕 第1の船舶の建造(令和4年1月4日~令和4年8月3日) 〔刊行物等〕 第2の船舶の建造(令和4年5月9日~令和4年8月3日)
(71)【出願人】
【識別番号】594197218
【氏名又は名称】内海造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110847
【弁理士】
【氏名又は名称】松阪 正弘
(74)【代理人】
【識別番号】100136526
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100136755
【弁理士】
【氏名又は名称】井田 正道
(72)【発明者】
【氏名】佐野 仁則
(57)【要約】
【課題】他の部材との溶接時に歪みにくいコルゲート構造の舶用仕切り板を提供する。
【解決手段】船舶5において区画を仕切る際に使用される舶用仕切り板1は、コルゲート板2と、補助部材3とを備える。コルゲート板2は、横方向に交互に配列されるとともにそれぞれが縦方向に直線状に延びる凹部21および凸部22を備える。補助部材3は、コルゲート板2の凹部21内において横方向に延びるとともに、横方向の両側において凹部21の内面に溶接される。これにより、他の部材との溶接時に歪みにくいコルゲート構造の仕切り板1を提供することができる。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶において区画を仕切る際に使用される舶用仕切り板であって、
横方向に交互に配列されるとともにそれぞれが縦方向に直線状に延びる凹部および凸部を備えるコルゲート板と、
前記コルゲート板の前記凹部内において前記横方向に延びるとともに前記横方向の両側において前記凹部の内面に溶接された補助部材と、
を備えることを特徴とする舶用仕切り板。
【請求項2】
請求項1に記載の舶用仕切り板であって、
前記補助部材は、前記縦方向に垂直な板状であることを特徴とする舶用仕切り板。
【請求項3】
請求項2に記載の舶用仕切り板であって、
前記補助部材は、前記コルゲート板の厚さ方向における前記凹部の開口側端部にて、前記凹部の内面に溶接されていることを特徴とする舶用仕切り板。
【請求項4】
請求項3に記載の舶用仕切り板であって、
前記補助部材は、前記厚さ方向における前記凹部の底部から前記開口側端部に至る全長に亘って前記凹部の内面に溶接されていることを特徴とする舶用仕切り板。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1つに記載の舶用仕切り板であって、
前記横方向において前記凹部の幅は前記凸部の幅よりも小さいことを特徴とする舶用仕切り板。
【請求項6】
請求項1ないし4のいずれか1つに記載の舶用仕切り板であって、
前記コルゲート板は、プレス加工により形成された金属板であることを特徴とする舶用仕切り板。
【請求項7】
請求項1ないし4のいずれか1つに記載の舶用仕切り板であって、
前記舶用仕切り板は、上甲板よりも上側の構造物の側壁の一部であることを特徴とする舶用仕切り板。
【請求項8】
請求項1ないし4のいずれか1つに記載の舶用仕切り板であって、
前記コルゲート板の板厚は6mm以下であることを特徴とする舶用仕切り板。
【請求項9】
船舶において区画を仕切る際に使用される舶用仕切り板の製造方法であって、
a)横方向に交互に配列されるとともにそれぞれが縦方向に直線状に延びる凹部および凸部を備えるコルゲート板を準備する工程と、
b)前記コルゲート板の前記凹部内において前記横方向に延びる補助部材を、前記横方向の両側において前記凹部の内面に溶接する工程と、
を備えることを特徴とする舶用仕切り板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶において区画を仕切る際に使用される舶用仕切り板、および、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、船舶の居住区等において、スチフナ構造を有する側壁に代えて、平面部と溝部とが交互に配列されたコルゲート構造を有する側壁が用いられる場合がある(特許文献1)。コルゲート構造を有する側壁は、一般的に、上下の甲板等に溶接される際にあまり歪まないと考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、比較的小型の船舶では、居住区等の側壁として板厚が薄い鋼材が用いられる。このため、コルゲート構造を有する側壁であっても、甲板等に溶接される際に歪みが生じる場合がある。一般的には、バーナー等で側壁を加熱して歪取りが行われるが、コルゲート構造を有する側壁では、平面部を加熱しても、溝部や溝部と平面部との境界近傍が熱変形し、平面部の歪みが好適に除去できない場合がある。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、他の部材との溶接時に歪みにくいコルゲート構造の舶用仕切り板を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の態様1は、船舶において区画を仕切る際に使用される舶用仕切り板であって、横方向に交互に配列されるとともにそれぞれが縦方向に直線状に延びる凹部および凸部を備えるコルゲート板と、前記コルゲート板の前記凹部内において横方向に延びるとともに前記横方向の両側において前記凹部の内面に溶接された補助部材と、を備える。
【0007】
本発明の態様2は、態様1の舶用仕切り板であって、前記補助部材は、前記縦方向に垂直な板状である。
【0008】
本発明の態様3は、態様2の舶用仕切り板であって、前記補助部材は、前記コルゲート板の厚さ方向における前記凹部の開口側端部にて、前記凹部の内面に溶接されている。
【0009】
本発明の態様4は、態様3の舶用仕切り板であって、前記補助部材は、前記厚さ方向における前記凹部の底部から前記開口側端部に至る全長に亘って前記凹部の内面に溶接されている。
【0010】
本発明の態様5は、態様1ないし4のいずれか1つの舶用仕切り板であって、前記横方向において前記凹部の幅は前記凸部の幅よりも小さい。
【0011】
本発明の態様6は、態様1ないし4のいずれか1つ(態様1ないし5のいずれか1つ、であってもよい。)の舶用仕切り板であって、前記コルゲート板は、プレス加工により形成された金属板である。
【0012】
本発明の態様7は、態様1ないし4のいずれか1つ(態様1ないし6のいずれか1つ、であってもよい。)の舶用仕切り板であって、前記舶用仕切り板は、上甲板よりも上側の構造物の側壁の一部である。
【0013】
本発明の態様8は、態様1ないし4のいずれか1つ(態様1ないし7のいずれか1つ、であってもよい。)の舶用仕切り板であって、前記コルゲート板の板厚は6mm以下である。
【0014】
本発明の態様9は、船舶において区画を仕切る際に使用される舶用仕切り板の製造方法であって、a)横方向に交互に配列されるとともにそれぞれが縦方向に直線状に延びる凹部および凸部を備えるコルゲート板を準備する工程と、b)前記コルゲート板の前記凹部内において横方向に延びる補助部材を、前記横方向の両側において前記凹部の内面に溶接する工程と、を備える。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、他の部材との溶接時に歪みにくいコルゲート構造の舶用仕切り板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】一の実施の形態に係る舶用仕切り板が使用される船舶の側面図である。
【
図6】仕切り板の補助部材近傍の部位を拡大して示す底面図である。
【
図8】仕切り板の補助部材近傍の部位を拡大して示す底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、本発明の一の実施の形態に係る舶用仕切り板が使用される船舶5を示す側面図である。船舶5は、例えばフェリーである。船舶5は、上甲板51を含む船体52と、上甲板51よりも上側の構造物である上部構造物53と、を備える。上部構造物53は、例えば、居住区54および車両区画55、並びに、図示省略の倉庫、冷凍室、通路、階段室およびエレベータ室等を含む。なお、船舶5は、フェリーには限定されず、RO-RO船、自動車運搬船、一般貨物船、コンテナ船、バルクキャリア、タンカー等であってもよい。
【0018】
図2は、居住区54の側壁の一部を構成する舶用仕切り板(以下、単に「仕切り板1」とも呼ぶ。)を示す正面図である。仕切り板1は、居住区54において船室等の区画を仕切るために使用される。仕切り板1は、例えば、正面視において略矩形板状の部材である。以下の説明では、
図2中の左右方向を「横方向」とも呼び、
図2中の上下方向を「縦方向」とも呼ぶ。また、
図2中の紙面に垂直な方向を「厚さ方向」とも呼ぶ。縦方向、横方向および厚さ方向は、互いに垂直である。仕切り板1の横方向における長さは、例えば、2m~3mである。仕切り板1の縦方向における長さは、例えば、2m~5mである。
【0019】
居住区54が形成される際には、例えば、仕切り板1の上縁部および下縁部(すなわち、縦方向の両側の縁部)がそれぞれ、上記側壁の上側および下側の甲板に溶接される。また、仕切り板1の左右の縁部(すなわち、横方向の両側の縁部)はそれぞれ、仕切り板1の左右両側に配置される他の仕切り板(例えば、仕切り板1と同様の構造を有する板状部材)等に溶接される。この場合、仕切り板1の縦方向は、重力方向と略一致するが、必ずしも一致する必要はない。例えば、仕切り板1の縦方向は重力方向に略垂直であってもよい。
【0020】
なお、仕切り板1は、船舶5において区画を仕切るために使用されるのであれば、居住区54の側壁以外の部位に使用されてもよい。例えば、仕切り板1は、上部構造物53のうち居住区54以外の部位の側壁の一部として使用されてもよい。あるいは、仕切り板1は、上部構造物53の甲板の一部として使用されてもよい。また、仕切り板1は、船舶5のうち上部構造物53以外の部位(例えば、船体52)において、区画を仕切る際の仕切り板として使用されてもよい。
【0021】
図3は、仕切り板1を
図2中のIII-IIIの位置にて切断した断面図である。
図4は、仕切り板1を
図2中の下側から縦方向に沿って見た底面図である。
図5は、仕切り板1の一部を拡大して示す斜視図である。
図3および
図4中の左右方向および上下方向は、上述の横方向および厚さ方向である。
【0022】
仕切り板1は、コルゲート板2と、補助部材3とを備える。コルゲート板2は、それぞれが縦方向に略直線状に延びる凹部21および凸部22を備える。換言すれば、仕切り板1では、コルゲート板2の凹部21および凸部22が延びる方向が上述の縦方向である。
図2に例示するコルゲート板2では、仕切り板1の縦方向の全長に亘って延びる複数(4つ)の凹部21と複数(3つ)の凸部22とが、交互に横方向に配列される。
図2ないし
図5に示す例では、凹部21の横方向における幅は、凸部22の横方向における幅よりも小さい。例えば、凸部22の横方向における幅(以下、単に「幅」とも呼ぶ。)は、凹部21の幅の2倍~20倍である。
【0023】
凸部22は、横方向に隣接する凹部21との境界部を除き、厚さ方向に略垂直な略平板状の部位である。凹部21は、横方向の両側に隣接する2つの凸部22(すなわち、平面部)から、厚さ方向の一方側に凹む溝部である。凹部21の縦方向に垂直な断面形状は、例えば、底部(すなわち、
図3中の下部)が丸みを帯びた略三角形状である。当該断面形状は、略V字状、略U字状、略半円状または略矩形状等、様々に変更されてよい。コルゲート板2の凸部22の幅は、例えば、300mm~1000mmである。凹部21の幅は、例えば、50mm~150mmである。凹部21の深さは、例えば、30mm~100mmである。
【0024】
仕切り板1では、コルゲート板2の複数の凸部22の幅は、同じであってもよく、異なっていてもよい。複数の凹部21の幅も、同じであってもよく、異なっていてもよい。複数の凹部21の深さも、同じであってもよく、異なっていてもよい。また、複数の凹部21の形状は、同じであってもよく、異なっていてもよい。複数の凸部22の形状も、同じであってもよく、異なっていてもよい。
図2ないし
図5に例示する仕切り板1では、複数の凸部22の形状および大きさは略同じであり、複数の凹部21の形状および大きさも略同じである。
【0025】
コルゲート板2は、例えば、略平板状の金属板に対してプレス加工を施して複数の凹部21を形成することにより製造される。本実施の形態では、コルゲート板2は鉄鋼により形成されるが、他の金属(例えば、アルミニウム合金)により形成されてもよい。コルゲート板2の板厚は、特に限定されないが、例えば8mm以下であり、本実施の形態では6mm以下である。
【0026】
補助部材3は、コルゲート板2の凹部21内に溶接される部材である。
図2に示す例では、各凹部21内において、3つの補助部材3が略等間隔にて縦方向に並んで配置され、仕切り板1全体において、9つの補助部材3が略均等に互いに離間して(すなわち、互いに接続されることなく独立して)配置される。各凹部21は、3つの補助部材3により縦方向に略4等分されている。凹部21内に設けられる補助部材3の数および配置は、様々に変更されてよい。例えば、1つの凹部21に1つの補助部材3のみが設けられてもよい。また、複数の凹部21のそれぞれにおける補助部材3の数および配置は、同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0027】
図4に示すように、補助部材3は、コルゲート板2の凹部21の内部において横方向に延び、横方向の両側において凹部21の内面に溶接される。
図4では、図の理解を容易にするために、補助部材3に平行斜線を付す。
図4および
図5に示す例では、補助部材3は、縦方向に垂直な略平板状のリブである。縦方向に沿って見た補助部材3の形状は、コルゲート板2の凹部21の上記断面形状と略同じである。換言すれば、縦方向に沿って見た状態では、補助部材3は、底部(すなわち、厚さ方向においてコルゲート板2の凸部22から離れた側の端部)が丸みを帯びた略三角形状であり、凹部21の底部から凹部21の上端(すなわち、開口)に至る略全体に亘って広がる。
【0028】
本実施の形態では、補助部材3は鉄鋼により形成されるが、他の金属(例えば、アルミニウム合金)により形成されてもよい。好ましくは、補助部材3は、コルゲート板2と同じ材料により形成される。補助部材3の板厚は、特に限定されないが、例えば8mm以下であり、本実施の形態では6mm以下である。補助部材3の板厚は、コルゲート板2の板厚と同じであってもよく、コルゲート板2の板厚よりも厚くても薄くてもよい。
【0029】
図4に示す例では、補助部材3の全体は、厚さ方向においてコルゲート板2の凹部21の内側に存在し、凹部21よりも外側に延出しない。換言すれば、補助部材3の
図4中における上端は、コルゲート板2の凸部22の
図4中における上面(すなわち、厚さ方向に略垂直な平板状の部位の上面)と厚さ方向の同じ位置、または、当該上面よりも
図4中における下側(すなわち、凹部21の底部に近い側)に位置する。なお、補助部材3の当該上端は、コルゲート板2の凸部22の当該上面よりも
図4中の上側に位置していてもよい。換言すれば、補助部材3の当該上部は、コルゲート板2の凹部21から
図4中の上方に突出していてもよい。
【0030】
図6は、仕切り板1のうち、
図4中の1つの補助部材3近傍の部位を拡大して示す図である。
図6では、補助部材3とコルゲート板2とを溶接した溶接部35(すなわち、溶接痕)に平行斜線を付して示す(後述する
図8においても同様)。
図6に示す例では、溶接部35は、厚さ方向における補助部材3の底部から上端に至る全長に亘って、補助部材3の両側の側縁部(すなわち、横方向の両側の縁部)に沿って設けられる。換言すれば、補助部材3は、
図6中の上下方向における凹部21の底部から凹部21の上端近傍の側部(すなわち、開口側端部)に至る全長に亘って、凹部21の内面に溶接される。したがって、
図6中の上下方向(すなわち、厚さ方向)における補助部材3の上端よりも下側では、補助部材3と凹部21の内面との間に実質的な間隙は存在しない。
【0031】
補助部材3は、必ずしも、厚さ方向における凹部21の底部から開口側端部に至る全長に亘って凹部21の内面に溶接される必要はなく、例えば、厚さ方向の一部においてのみ凹部21の内面と溶接されてもよい。当該厚さ方向の一部は、好ましくは、凹部21の開口側端部である。換言すれば、補助部材3は、少なくとも厚さ方向における凹部21の開口側端部にて凹部21の内面に溶接されることが好ましい。
【0032】
次に、
図7を参照しつつ、仕切り板1の製造方法について説明する。まず、凹部21および凸部22を備えるコルゲート板2が準備される(ステップS11)。ステップS11では、例えば、略平板状の金属板に対してプレス加工を施して複数の凹部21を形成することにより、コルゲート板2が製造されて準備される。また、補助部材3の材料となる金属板が切断されることにより、凹部21の縦方向に垂直な断面形状と略同形状の複数の補助部材3が形成されて準備される。
【0033】
続いて、コルゲート板2が、厚さ方向と重力方向とが略一致するように載置される。そして、複数の補助部材3が、コルゲート板2の凹部21内に順次溶接されて固定される(ステップS12)。ステップS12では、各補助部材3は、自身の横方向の両側において、凹部21の内面に溶接される。これにより、仕切り板1の製造が完了する。
【0034】
その後、縦方向が重力方向と略一致するように仕切り板1が立てられ、仕切り板1の上端部および下縁部(すなわち、縦方向の両端部)がそれぞれ、上側および下側の甲板を構成する部材に溶接され、仕切り板1の左右の縁部がそれぞれ、仕切り板1の左右両側に配置される部材に溶接される。これにより、居住区54の一部を構成するブロックが形成される。なお、当該ブロックを形成する際の仕切り板1と他の部材との溶接順序は、適宜変更されてよい。
【0035】
次に、仕切り板1の特性に関する実験について説明する。当該実験では、仕切り板1を上述のように他の部材に溶接する際に生じる仕切り板1の歪みについて評価した。また、仕切り板1に歪みが生じた場合の歪取り(すなわち、歪み修正)について評価した。
【0036】
実験に用いた仕切り板1は、縦方向および横方向の大きさがそれぞれ2.05mおよび2.63mの略矩形状である。コルゲート板2では、4つの凸部22と3つの凹部21とが横方向に交互に配列されている。コルゲート板2の凸部22の幅は500mmであり、凹部21の幅は100mmであり、凹部21の深さは60mmである。なお、仕切り板1の横方向の一方の端部に位置する凸部22の幅は500mmよりも大きい。
【0037】
各凹部21には、3つの補助部材3が、凹部21を縦方向に略4等分するように等間隔に配置され、凹部21の内面に溶接されている。縦方向に沿って見た補助部材3の形状は、凹部21の縦方向に垂直な断面形状と略同じく、底部が丸まった略三角形状である。補助部材3と凹部21との溶接は、
図6に示す例と略同様に、厚さ方向における凹部21の底部から開口側端部に至る略全長に亘って行われ、補助部材3の両側縁部は略全長に亘って凹部21の内面に溶接されている。コルゲート板2の板厚は4.5mmであり、補助部材3の板厚は6mmである。
【0038】
実験では、仕切り板1と、上述の上側および下側の甲板や側方に隣接する他の仕切り板との溶接を模擬するために、略矩形状の仕切り板1の4つの辺において、仕切り板1のエッジをL型のアングル材に溶接した。具体的には、仕切り板1の厚さ方向の両側において、仕切り板1の各エッジを、L型のアングル材の一方の平面部外面における幅方向の中央部に溶接した。仕切り板1とアングル材との溶接脚長は約4mmである。
【0039】
そして、凸部22における痩せ馬および撓み(すなわち、縦撓み)を、4つの凸部22に略均等に配置した12ヶ所の測定点にて測定した。具体的には、痩せ馬および撓みの測定は、各凸部22において、隣接する凹部21の中心線(すなわち、凹部21の横方向の中央において縦方向に延びる仮想直線)から横方向に300mm離れた仮想直線上にて、縦方向の一方の端縁から400mmおよび1000mm離れた測定点、並びに、縦方向の他方の端縁から400mm離れた測定点にて行った。
【0040】
実験では、また、凹部21の深さを、3つの凹部21に略均等に配置した12ヶ所の測定点にて測定した。具体的には、凹部21の深さの測定は、各凹部21の中心線上において、縦方向の一方の端縁から250mmおよび750mm離れた測定点、並びに、縦方向の他方の端縁から300mmおよび800mm離れた測定点にて行った。
【0041】
上記アングル材の溶接前後の仕切り板1を比較すると、アングル材の溶接によって凹部21の深さはほとんど変化しなかった。また、アングル材の溶接による痩せ馬の平均変化量(すなわち、12ヶ所の測定点における変化量の算術平均)は、約0.7mmと小さかった。アングル材の溶接による縦撓みの平均変化量(すなわち、12ヶ所の測定点における変化量の算術平均)も、約1.2mmと小さかった。
【0042】
上記測定結果から、コルゲート板2の凹部21に補助部材3を取り付けることにより、補助部材3を取り付けない場合に発生する凹部21の熱変形(例えば、凹部21が横方向に広がるような変形)が抑制され、これに伴って、凸部22の熱変形(例えば、痩せ馬や縦撓み)も抑制されたことが分かる。
【0043】
次に、仕切り板1の歪取りについて検証した。上述のように、アングル材を溶接しても仕切り板1の歪みは小さかったため、仕切り板1とアングル材との溶接部にさらに溶接を行い、当該多層溶接により、仕切り板1に強引に歪みを生じさせた後、歪取りを行った。当該多層溶接により歪みを生じさせた結果、上述の12ヶ所の測定点における痩せ馬の最大値は4.6mmになった。また、当該12ヶ所の測定点における縦撓みの最大値は11mmであった。
【0044】
続いて、仕切り板1が居住区54の側壁として使用される状態に合わせて、仕切り板1の縦方向が重力方向と略一致するように仕切り板1を載置した後、仕切り板1の所定の部位をバーナー等で焼いて歪取りを行った。その結果、上述の12ヶ所の測定点における痩せ馬の最大値は1mmまで減少し、縦撓みの最大値も1mmまで減少した。
【0045】
上記測定結果から、コルゲート板2の凹部21に補助部材3を取り付けることにより、補助部材3を取り付けない場合に比べて凹部21の熱変形が抑制され、歪取りのための入熱が凹部21の熱変形等によって逃がされたり、意図しない部位の熱変形となって現れたりすることが抑制された結果、凸部22の形状が所望の方向に矯正されたことが分かる。
【0046】
以上に説明したように、船舶5において区画を仕切る際に使用される舶用仕切り板1は、コルゲート板2と、補助部材3とを備える。コルゲート板2は、横方向に交互に配列されるとともにそれぞれが縦方向に直線状に延びる凹部21および凸部22を備える。補助部材3は、コルゲート板2の凹部21内において横方向に延びるとともに、横方向の両側において凹部21の内面に溶接される。
【0047】
上記構造を有する仕切り板1が甲板や他の仕切り板等に溶接される際には、補助部材3の近傍においてコルゲート板2の凹部21の熱変形が制限され、その結果、仕切り板1の縦方向の略全長に亘って、凹部21の熱変形が抑制される。また、凹部21の変形抑制に伴って、コルゲート板2の凸部22の熱変形も抑制される。その結果、仕切り板1を甲板や他の仕切り板等と溶接する際に、仕切り板1に歪みが生じることを抑制することができる。すなわち、他の部材との溶接時に歪みにくいコルゲート構造の仕切り板1を提供することができる。また、仕切り板1に歪みが生じた場合であっても、歪取りの際に凹部21の熱変形が抑制されるため、好適な歪取りを実現することができる。
【0048】
上述のように、補助部材3は、縦方向に垂直な板状であることが好ましい。これにより、補助部材3の構造を簡素化することができ、補助部材3を容易に準備することができる。また、コルゲート板2に対する補助部材3の固定を容易とすることができる。
【0049】
上述のように、補助部材3は、コルゲート板2の厚さ方向における凹部21の開口側端部にて、凹部21の内面に溶接されていることが好ましい。このように、凹部21のうち比較的熱変形しやすい部位である凸部22との接続部近傍に補助部材3を溶接することにより、凹部21の熱変形を好適に抑制することができる。その結果、仕切り板1を甲板や他の仕切り板等と溶接する際に、仕切り板1に歪みが生じることを好適に抑制することができる。
【0050】
上述のように、補助部材3は、厚さ方向における凹部21の底部から開口側端部に至る全長に亘って凹部21の内面に溶接されていることがさらに好ましい。これにより、凹部21の熱変形をさらに抑制することができ、その結果、甲板や他の仕切り板等との溶接時に仕切り板1に歪みが生じることを、より一層抑制することができる。
【0051】
上述のように、横方向において凹部21の幅は凸部22の幅よりも小さいことが好ましい。これにより、補助部材3を小型化することができるため、コルゲート板2に対する補助部材3の溶接に要する作業量を低減することができる。また、補助部材3による仕切り板1の重量増大を抑制することもできる。
【0052】
上述のように、補助部材3の全体は、厚さ方向においてコルゲート板2の凹部21の内側に存在し、凹部21よりも外側に延出しないことが好ましい。これにより、仕切り板1の表面に余分な突起部が設けられること防止することができる。その結果、仕切り板1の表面に内張等を取り付ける場合、取り付け作業を容易とすることができる。また、補助部材3による仕切り板1の重量増大を抑制することもできる。
【0053】
上述のように、コルゲート板2は、プレス加工により形成された金属板であることが好ましい。プレス加工により形成されるコルゲート板2は板厚が比較的薄く、他の部材との溶接時の入熱により比較的歪みが生じやすい。したがって、歪みの抑制が可能な上述の仕切り板1の構造が特に適している。
【0054】
上述のように、仕切り板1は、上甲板51よりも上側の構造物(すなわち、上部構造物53)の側壁の一部であることが好ましい。上部構造物53の側壁は板厚が比較的薄く、他の部材との溶接時の入熱により比較的歪みが生じやすい。したがって、歪みの抑制が可能な上述の仕切り板1は、上部構造物53の側壁に特に適している。
【0055】
仕切り板1は、上述のように、他の部材との溶接時の入熱による歪みを抑制することができる。したがって、仕切り板1の構造は、コルゲート板2の板厚が6mm以下である場合に特に適している。さらには、仕切り板1の構造は、コルゲート板2の板厚が4.5mm以下である場合に特に適している。
【0056】
上述の仕切り板1の製造方法は、横方向に交互に配列されるとともにそれぞれが縦方向に直線状に延びる凹部21および凸部22を備えるコルゲート板2を準備する工程(ステップS11)と、コルゲート板2の凹部21内において横方向に延びる補助部材3を、横方向の両側において凹部21の内面に溶接する工程(ステップS12)と、を備える。これにより、上述のように、他の部材との溶接時に歪みにくいコルゲート構造の仕切り板1を提供することができる。また、好適な歪取りを実現可能なコルゲート構造の仕切り板1を提供することができる。
【0057】
上記仕切り板1および仕切り板1の製造方法では、様々な変更が可能である。
【0058】
上述のように、コルゲート板2の板厚は特に限定されず、6mm以上であってもよく、8mm以上であってもよい。また、補助部材3の板厚も特に限定されず、6mm以上であってもよく、8mm以上であってもよい。
【0059】
補助部材3は、横方向の両側において凹部21の内面に溶接されるのであれば、厚さ方向のいずれの位置で凹部21の内面に溶接されてもよい。例えば、補助部材3の両側縁部は、凹部21の開口側端部近傍にて凹部21の内面に溶接され、凹部21の底部近傍では凹部21の内面に溶接されていなくてもよい。この場合、縦方向に沿って見た補助部材3の形状は、例えば、
図8に示すように、コルゲート板2の凹部21の上半分と略同形状の略台形とされてもよい。これにより、溶接部35の長さを短くして補助部材3の取り付けに要する作業量を低減することができる。また、補助部材3と凹部21の底部との間に空隙36が存在するため、仕切り板1を側壁として使用する場合等に、補助部材3上に流れ込んだ水等は空隙36から下方へと排出され、補助部材3上に溜まることが抑制される。
【0060】
補助部材3の形状は、必ずしも縦方向に略垂直な板状である必要はなく、様々に変更されてよい。例えば、補助部材3は、凹部21内にて横方向に延びる略円柱状、略円筒状、略角柱状等の棒状部材であってもよい。また、補助部材3は、凹部21の開口側端部近傍にて厚さ方向に略垂直に広がる略平板状の部材であってもよい。この場合、補助部材3の横方向の両側縁部が凹部21の開口側端部近傍に溶接されることにより、凹部21の開口は、縦方向の一部にて補助部材3により閉塞される。
【0061】
仕切り板1では、補助部材3が設けられる凹部21の幅は、凸部22の幅と同じであってもよく、凸部22の幅よりも大きくてもよい。
【0062】
仕切り板1では、凹部21内に溶接される補助部材3に加えて、
図3および/または
図4中の凸部22におけるコルゲート板2の下側(すなわち、凸部22の内側)にも、横方向に延びて横方向の両側において凸部22の内面に溶接される補助部材が設けられてもよい。
【0063】
コルゲート板2は、必ずしもプレス加工により形成される必要はなく、他の方法により形成されたものであってもよい。
【0064】
仕切り板1では、コルゲート板2の各凹部21内に補助部材3が設けられる必要はなく、複数の凹部21のうち一部の凹部21の内側のみに補助部材3が設けられてもよい。
【0065】
上述のように、仕切り板1では、コルゲート板2の凹部21および凸部22の形状および数は、上記例には限定されず、様々に変更されてよい。例えば、コルゲート板2は、補助部材3が設けられる1つの凹部21、および、当該凹部21の横方向両側に配列される2つの凸部22のみにより構成されてもよい。
【0066】
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わされてよい。
【符号の説明】
【0067】
1 仕切り板
2 コルゲート板
3 補助部材
5 船舶
21 凹部
22 凸部
51 上甲板
53 上部構造物
S11~S12 ステップ
【手続補正書】
【提出日】2023-11-15
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶において区画を仕切る際に使用される舶用仕切り板であって、
横方向に交互に配列されるとともにそれぞれが縦方向に直線状に延びる凹部および凸部を備えるコルゲート板と、
前記コルゲート板の前記凹部内のみに設けられる補助部材と、
を備え、
前記補助部材は、前記凹部内において前記横方向に延びるとともに前記横方向の両側において前記凹部の内面に溶接され、
前記凸部内には、前記補助部材は設けられないことを特徴とする舶用仕切り板。
【請求項2】
請求項1に記載の舶用仕切り板であって、
前記補助部材は、前記縦方向に垂直な板状であることを特徴とする舶用仕切り板。
【請求項3】
請求項2に記載の舶用仕切り板であって、
前記補助部材は、前記コルゲート板の厚さ方向における前記凹部の開口側端部にて、前記凹部の内面に溶接されていることを特徴とする舶用仕切り板。
【請求項4】
請求項3に記載の舶用仕切り板であって、
前記補助部材は、前記厚さ方向における前記凹部の底部から前記開口側端部に至る全長に亘って前記凹部の内面に溶接されていることを特徴とする舶用仕切り板。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1つに記載の舶用仕切り板であって、
前記横方向において前記凹部の幅は前記凸部の幅よりも小さいことを特徴とする舶用仕切り板。
【請求項6】
請求項1ないし4のいずれか1つに記載の舶用仕切り板であって、
前記コルゲート板は、プレス加工により形成された金属板であることを特徴とする舶用仕切り板。
【請求項7】
請求項1ないし4のいずれか1つに記載の舶用仕切り板であって、
前記舶用仕切り板は、上甲板よりも上側の構造物の側壁の一部であることを特徴とする舶用仕切り板。
【請求項8】
請求項1ないし4のいずれか1つに記載の舶用仕切り板であって、
前記コルゲート板の板厚は6mm以下であることを特徴とする舶用仕切り板。
【請求項9】
船舶において区画を仕切る際に使用される舶用仕切り板の製造方法であって、
a)横方向に交互に配列されるとともにそれぞれが縦方向に直線状に延びる凹部および凸部を備えるコルゲート板を準備する工程と、
b)前記コルゲート板の前記凹部内のみに補助部材を設ける工程と、
を備え、
前記b)工程において、前記補助部材は、前記凹部内において前記横方向に延びるとともに前記横方向の両側において前記凹部の内面に溶接され、
前記凸部内には、前記補助部材は設けられないことを特徴とする舶用仕切り板の製造方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0006
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0006】
本発明の態様1は、船舶において区画を仕切る際に使用される舶用仕切り板であって、横方向に交互に配列されるとともにそれぞれが縦方向に直線状に延びる凹部および凸部を備えるコルゲート板と、前記コルゲート板の前記凹部内のみに設けられる補助部材と、を備える。前記補助部材は、前記凹部内において前記横方向に延びるとともに前記横方向の両側において前記凹部の内面に溶接される。前記凸部内には、前記補助部材は設けられない。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0014
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0014】
本発明の態様9は、船舶において区画を仕切る際に使用される舶用仕切り板の製造方法であって、a)横方向に交互に配列されるとともにそれぞれが縦方向に直線状に延びる凹部および凸部を備えるコルゲート板を準備する工程と、b)前記コルゲート板の前記凹部内のみに補助部材を設ける工程と、を備える。前記b)工程において、前記補助部材は、前記凹部内において前記横方向に延びるとともに前記横方向の両側において前記凹部の内面に溶接される。前記凸部内には、前記補助部材は設けられない。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0062
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0062】
本発明の関連技術に係る仕切り板1では、凹部21内に溶接される補助部材3に加えて、
図3および/または
図4中の凸部22におけるコルゲート板2の下側(すなわち、凸部22の内側)にも、横方向に延びて横方向の両側において凸部22の内面に溶接される補助部材が設けられてもよい。