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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024021306
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】ころ軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 19/26 20060101AFI20240208BHJP
   F16C 33/34 20060101ALI20240208BHJP
   F16C 33/58 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
F16C19/26
F16C33/34
F16C33/58
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022124042
(22)【出願日】2022-08-03
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】浅田 凌太
(72)【発明者】
【氏名】前田 剛
【テーマコード(参考)】
3J701
【Fターム(参考)】
3J701AA13
3J701AA16
3J701AA23
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA62
3J701BA06
3J701BA09
3J701BA53
3J701BA54
3J701BA55
3J701BA69
3J701FA31
3J701XB01
3J701XB03
3J701XB17
(57)【要約】
【課題】エッジロードの発生を抑制できるころ軸受を提供する。
【解決手段】 内輪軌道面、外輪軌道面、及びころ13の転動面のうちの少なくとも1つに、複数の円弧をつなげることで基準対数曲線と近似する母線形状のクラウニング13b、13cを形成する。クラウニングの母線方向位置GP1~GP4におけるそれぞれのドロップ量をDP1~DP4とし、DP3-DP4=a、DP2-DP3=bとした時に、a/bを、0.55≦a/b≦0.95の範囲内に設定する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪軌道面を有する内輪と、外輪軌道面を有する外輪と、前記内輪軌道面と前記外輪軌道面の間に介在する複数のころとを備え、前記内輪軌道面、前記外輪軌道面、及び前記ころの転動面のうちの少なくとも1つにクラウニングが形成され、前記クラウニングの母線が、複数の円弧をつなげ且つ前記複数の円弧の各曲率半径を原点から離れた位置にある円弧ほど大きくした形状をなすころ軸受において、
前記クラウニングの下記母線方向位置GP1~GP4におけるそれぞれのドロップ量をDP1~DP4とし、DP3-DP4=a、DP2-DP3=bとした時に、a/bが、
0.55≦a/b≦0.95
の範囲内にあることを特徴とするころ軸受。
但し、GP1はころの面取り最大値となる点から原点側に0.1mm寄った位置、GP2はドロップ量がDP1の2/3となる位置、GP3はドロップ量がDP1の1/3となる位置、GP4はドロップ量が0.001mmとなる位置である。
【請求項2】
前記クラウニングの母線形状を、
下記式(1)における設計パラメータK1,K2,zmの初期値探索範囲と分割数を定め、
初期値探索範囲と分割数によって得られる設計パラメータK1,K2,zmの組合わせについて目的関数を求め、
目的関数が最適となる設計パラメータK1,K2,zmの組合わせを下記式(1)に代入することで定めた基準対数曲線に近似させた請求項1に記載のころ軸受。
【数1】
但し、式(1)において、Aは2Q/πLE’で表され、Qは荷重、Lは有効接触部の母線方向長さ、E’は等価弾性係数であり、aは原点Oから有効接触部の端までの長さである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内輪軌道面、外輪軌道面又はころ転動面の少なくともひとつにクラウニングが形成されたころ軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
円筒ころ軸受や円すいころ軸受のように、内輪及び外輪からなる一対の軸受軌道輪の軌道面相互間に複数のころを介在させたころ軸受においては、軸受軌道輪の軌道面に対してころの転動面が線接触する。軸受軌道輪の軌道面ところの転動面が単純な円筒面や円すい面であると、エッジロードが発生してころ軸受の疲労寿命が低下する。したがって、ころ軸受は、疲労寿命延長のために、接触圧力の分布が極力均一になるように、軸受軌道輪ところの接触状態を設定することが要求される。
【0003】
ころ軸受に形成するクラウニングの理想形状の一つに、対数関数で表された曲線がある。この対数関数で表されたクラウニング曲線(対数クラウニング曲線)としては、Lundbergによって提唱されたものが広く知られている(非特許文献1:Lundberg, G., Elastic Contact Between Two Semi-Infinite Bodies, Forschung auf den Gebiete des Ingenieurwesen, 5(1939), pp.201-211.参照)。また、このクラウニング曲線を実用的に改良したものとして、Johns-Goharの式(非特許文献2:Johns, P. M. and Gohar, R., Roller bearings under radial and eccentric loads, Tribology International, 14(1981), pp.131-136.参照)が知られている。
【0004】
しかしながら、Johns-Goharの式によるクラウニング曲線は、クラウニングの形成部分の端部における軌道面と転動面との接触圧力が多少高くなり、エッジロードの防止が不十分となる傾向があった。
【0005】
そこで、従来、軌道面と転動面との間の接触圧力の均一化を図るため、Johns-Goharの式に新たな設計パラメータを導入したクラウニング曲線を提案している(特許文献1)。このクラウニング曲線を適用したころ軸受の設計では、上記設計パラメータの初期値探索範囲と分割数を定め、初期値探索範囲と分割数によって得られる設計パラメータの組合せについて目的関数を求める。この目的関数が最適となる設計パラメータの組合せを初期値として採用し、数理的最適化手法によってさらに厳密に最適化して、クラウニング曲線を特定し、ころ軸受のクラウニングを設計する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Lundberg, G., Elastic Contact Between Two Semi-Infinite Bodies, Forschung auf den Gebiete des Ingenieurwesen, 5(1939), pp.201-211.
【非特許文献2】Johns, P. M. and Gohar, R., Roller bearings under radial and eccentric loads, Tribology International, 14(1981), pp.131-136.
【特許文献1】特開2006-52790号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載された発明は、クラウニングを設計する際の設計パラメータの最適化手法について述べたものである。従って、ころ軸受のクラウニングの設計に際しては、この手法をコンピュータプログラムに実装し、各条件に対して個別に最適設計となるよう計算を行えばよい。
【0008】
しかしながら、クラウニングの最適な輪郭形状を算出したとしても、実際の製品では、量産性や製造誤差等の問題から、最適化された対数クラウニング曲線通りの輪郭を得ることは困難である。この対策として、異なる曲率半径を持った複数の円弧をつなげることで、最適化された対数クラウニング曲線に近似するころ母線形状を得るのが現実的である。
【0009】
このように複数円弧をつなげてクラウニングを形成すると、最適化された対数クラウニング曲線とは異なる形状となるため、対数クラウニングの目的である接触圧力の分布の均一が不十分となる場合も起こり得る。対数クラウニングに近似した複数円弧でクラウニングを形成する場合も、エッジロードの発生を抑制できるような簡単な設計手法の提案が望まれている。
【0010】
そこで、本発明は、エッジロードの発生を抑制できるころ軸受を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、本発明は、内輪軌道面を有する内輪と、外輪軌道面を有する外輪と、前記内輪軌道面と前記外輪軌道面の間に介在する複数のころとを備え、前記内輪軌道面、前記外輪軌道面、及び前記ころの転動面のうちの少なくとも1つにクラウニングが形成され、前記クラウニングの母線が、複数の円弧をつなげ且つ前記複数の円弧の各曲率半径を原点から離れた位置にある円弧ほど大きくした形状をなすころ軸受において、前記クラウニングの下記の母線方向位置GP1~GP4におけるそれぞれのドロップ量をDP1~DP4とし、DP3-DP4=a、DP2-DP3=bとした時に、a/bが0.55≦a/b≦0.95の範囲内にあることを特徴とする。
【0012】
但し、GP1はころの面取り最大値となる点から原点側に0.1mm寄った位置、GP2はドロップ量がDP1の2/3となる位置、GP3はドロップ量がDP1の1/3となる位置、GP4はドロップ量が0.001mmとなる位置である。
【0013】
このように0.55≦a/b≦0.95の範囲に設定することで、基準対数曲線と近似する母線形状のクラウニングを設計する場合も、上記の範囲内となるようにクラウニングの母線形状を定めることで、エッジロードを抑制してころ軸受の疲労寿命を高めることが可能となる。
【0014】
前記クラウニングの母線形状は、
下記式(1)における設計パラメータK1,K2,zmの初期値探索範囲と分割数を定め、初期値探索範囲と分割数によって得られる設計パラメータK1,K2,zmの組合わせについて目的関数を求め、目的関数が最適となる設計パラメータK1,K2,zmの組合わせを下記式(1)に代入することで定めることができる。
【数1】
【0015】
但し、式(1)において、Aは2Q/πLE’で表され、Qは荷重、Lは有効接触部の母線方向長さ、E’は等価弾性係数であり、aは原点Oから有効接触部の端までの長さである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、エッジロードの発生を抑制できるころ軸受を容易に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本実施形態に係る円筒ころ軸受を示す断面図である。
図2】ころに設けたクラウニングの概略形状を拡大して示す断面図である。
図3】ころに設けたクラウニングの概略形状を拡大して示す断面図である。
図4】解析結果を示す表である。
図5】クラウニングの母線形状をy-z座標系上に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明のころ軸受の実施形態を、図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0019】
図1は、本発明の実施形態の円筒ころ軸受を示す断面図である。この円筒ころ軸受は、図1に示すように、内輪11と、外輪12と、内輪軌道面11a及び外輪軌道面12aの相互間に転動自在に介在させる複数のころ(円筒ころ)13,13,…と、軸受周方向に所定の間隔を隔てて円筒ころ13,13,…を保持する保持器14とを備える。この実施形態では、各円筒ころ13,13,…の転動面13a,13a,…にカットクラウニング13b,13cを設け、内輪11の軌道面11a及び外輪12の軌道面12aはそれぞれ円筒面状に形成してある。ころ13の軸方向両端の外周には面取り13dが設けられている。
【0020】
図2は、円筒ころ13の母線の延在方向をy軸とし、母線直交方向(ころの径方向)をz軸とするy-z座標系上に、円筒ころ13のクラウニングの概略形状を表した図である。このy-z座標系は、円筒ころ13の母線上であって、内輪11又は外輪12と、円筒ころ13との有効接触部の中央を原点Oとしている。有効接触部とは、円筒ころ13にカットクラウニング13b,13cを形成しないと想定した場合の内輪11又は外輪12と円筒ころ13との接触部位である。また、円筒ころ13,13,…の各クラウニング13b,13cは、通常、有効接触部の中央を通るz軸に関して線対称に形成されるので、図2では、一方のクラウニング13bのみを示している。
【0021】
本実施形態のクラウニング13bの母線形状は、量産性および製造誤差を考え、図2に示すように、曲率半径の異なる複数(2つ以上、好ましくは3つ以上、より好ましくは4つ以上)の円弧を滑らかにつなぎ、かつこれら複数の円弧の各曲率半径を、原点Oから離れた位置にある円弧ほど大きくすることで得られる。例えば、クラウニング13bの母線形状を、原点O側から順に第一円弧C1、第二円弧C2、および第三円弧C3で滑らかにつないだ形とし、かつ第一円弧C1の曲率半径をr1、第二円弧C2の曲率半径をr2、第三円弧C3の曲率半径をr3として、r1<r2<r3とする。このように曲率半径の異なる複数の円弧を滑らかにつなぐことで、破線で示す基準対数曲線(基準となる対数関数で表された曲線)に近似した母線形状のクラウニングが得られる。このように本実施形態におけるクラウニングの母線形状は、基準対数曲線とは異なる形状を有する。なお、図2では、y軸の縮尺に比べ、z軸の縮尺を大きくしている。
【0022】
ここでいう「滑らかにつなぐ」は、隣接する二つの輪郭線を、共通接線を有するように接続することを意味する。隣接する円弧同士を滑らかにつなぐ他、最も原点側に位置する第一円弧C1を円筒ころ13のストレート部と滑らかにつなげ、最も原点Oから離れた位置にある円弧(第三円弧C3)を面取り13dと滑らかにつなげる。
【0023】
本実施形態では、図3に示すように、クラウニング13bの4つの母線方向位置GP1~GP4をゲージポイントとして設定する。このゲージポイントGP1~GP4におけるそれぞれのドロップ量をDP1~DP4とし、DP3-DP4=a、DP2-DP3=bとした時に、a/bが、0.55≦a/b≦0.95の範囲となるようにクラウニングの母線形状が定められる。
【0024】
なお、GP1はころ13の面取り13dの最大径となる点Mから原点O側に距離N(本実施形態では0.1mm)だけ寄った位置であり、GP2はドロップ量がDP1の2/3となる位置、GP3はドロップ量がDP1の1/3となる位置、GP4はドロップ量が0.001mmとなる位置である。後で述べる基準対数曲線は、3つの設計パラメータによって定められるため、複数の点のドロップ量を与えてクラウニングの母線形状を定めるためには、3点以上のゲージポイントを設定することが望まれる。これを受けて、本実施形態では4つのゲージポイントGP1~GP4を設定している。
【0025】
本発明者がa/bの値を変えたクラウニングについて解析を行ったところ、図4に示すように、0.55≦a/b≦0.95の範囲であれば、エッジロードを緩和でき、この範囲外であればエッジロードの緩和効果が不十分となることが判明した。従って、0.55≦a/b≦0.95の範囲に設定することで、ころ軸受の長寿命化を図ることができる。
【0026】
これにより、クラウニングの母線形状を複数の円弧を用いることで基準対数曲線に近似させた場合でも、0.55≦a/b≦0.95の範囲内にあれば、基準対数曲線と一致するクラウニングと同等にエッジロードの緩和効果を得ることができる。また、この許容範囲を基礎とすることでクラウニングの製造誤差(公差)を定めることもできる。
【0027】
以下、基準対数曲線の定め方を図5に基づいて説明する。この対数曲線は、特許文献1に記載されるように、対数関数を用いた下記の式(1)に基づいて求めることができる。
【数1】
【0028】
但し、K1はクラウニングの曲率の程度を表すパラメータである。Aは、2Q/πLE’で表され、Qは荷重、Lは有効接触部の母線方向長さ、E’は等価弾性係数である。また、zmはころの有効長さの端におけるクラウニングのドロップ量の最適値であり、クラウニング13bの最大ドロップ量の最適値を意味する。図5中のP1点が、クラウニング13bの最大ドロップ量の最適値zmを示す位置である。aは原点Oから有効接触部の端までの長さである。K2は上記aに対するクラウニング長さの割合を表すパラメータである。図5のクラウニング13bでは、原点Oは有効接触部の中央であるので、a=L/2となる。また、クラウニング13bの始点O1の座標は(a-K2a,0)であるから、式(1)におけるyの範囲は、y>(a-K2a)である。
【0029】
式(1)のz(y)は、円筒ころ13の母線方向位置yにおけるクラウニング13bのドロップ量である。式(1)において、Q、L、E’及びaの値は設計条件として与えられる。また、原点Oからクラウニング13bの始点O1までの領域は、円筒面状に形成されるストレート部であるから、0≦y≦(a-K2a)のとき、z(y)=0となる。なお、K2=1の場合、始点O1が原点Oと一致するので、式(1)はストレート部のないフルクラウニングを表すことになる。クラウニングとしてこのようなフルクラウニングを設けることもできる。
【0030】
この式(1)に、荷重Q等の設計条件と、適当な設計パラメータK1,K2,zmを与えることにより、基準となる理想的な一つのクラウニング曲線が特定される。この設計パラメータK1,K2,zmは、各パラメータが取りうる範囲内で、目的関数の最適化計算を行うことで特定される。つまり、設計パラメータK1,K2,zmの初期値探索範囲と分割数を定め、初期値探索範囲と分割数によって得られる設計パラメータK1,K2,zmの組合わせについて目的関数を求め、目的関数が最適となる設計パラメータK1,K2,zmを求めて、これを式(1)に代入することで、基準対数曲線が定まる。
【0031】
設計パラメータK1,K2,zmを決定する手法としては、勾配法、焼きなまし法、遺伝的アルゴリズム、直接探索法などの数値的な最適化手法を用いることができる。
【0032】
勾配法は、山登り法又は傾斜法としても知られている手法で、最も大きい導関数(勾配)の方向に解を探っていく方法である(例えば、G.N.Vanderphan, "Numerical Optimization Techniques for Engineering Design: with Applications",McGraw-Hill,Inc.,New York(1984)参照)。
【0033】
焼きなまし法(SA,Simulated Annealing)は、焼きなましとアナロジーから考案されたもので、エネルギーを最小化する手法である(例えば、W.H.Press,et al,Numerical Recipes in FORTRAN:the art of scientific computing,2nd ed.,Cambridge University Press,Cambridge(1992)参照)。
【0034】
遺伝的アルゴリズム(GA,Genetic Algorithm)は、生物進化の過程をモデル化した手法で、進化的アルゴリズム(Eas,Evolutionary Algorithm)又は進化的計算(Evolutionary Computation)とも呼ばれ、多点同時探索法であることから多峰性関数にも適用できるメリットがある(例えば、D.E.Goldberg,Genetic Algorithms in Search,Optimization & Machine Learning,Addison-Wesley Publishing Company,Inc.,Reading(1989)参照)。
【0035】
直接的探索法は、導関数の計算が困難である場合に、導関数を計算しないで目的関数の値だけを利用する最適化手法である。直接的探索法の代表的なものとしては、Rosenbrock法がある。Rosenbrock法は、探索方向のベクトルをより良い方向に回転させて最適値を見出す手法である(例えば、杉江日出澄ら,”FORTRAN77による数値計算法”,培風館,1986 参照)。
【0036】
また、上記の数値的な最適化手法に含まれるものもあるが、線形計画法、非線形計画法、実験計画法、モンテカルロ法なども最適化手法として挙げられる。
【0037】
このように最適化手法として種々のものが提案されているが、目的関数の勾配を求める必要がないというメリットがあることから、式(1)の設計パラメータの最適化には、直接探索法のひとつであるRosenbrock法を採用することが好ましい。Rosenbrock法は、一般的に初期値依存性があり、適当な初期値を与える必要がある。そこで、最適値が含まれると推定される設計パラメータの範囲、即ち初期値探索範囲を与え、この初期値探索範囲を複数に分割して得られる設計パラメータのすべての組合せについて目的関数を求める。そして、目的関数が最適となる設計パラメータの組合せを初期値として採用する。初期値を探索する際に得られた設計パラメータと目的関数の関係は、設計パラメータに公差を与える際に利用することができる。
【0038】
なお、目的関数としては、内輪軌道面、外輪軌道面又はころ転動面に負荷される最大接触圧力、ミーゼスの相当応力、トレスカの相当応力、転動疲労寿命のうち少なくともいずれかひとつを使用することができる。最大接触圧力、ミーゼスの相当応力又はトレスカの相当応力を目的関数とする場合は、これらの値が最小になるように設計パラメータを決定する。転動疲労寿命を目的関数とする場合は、転動疲労寿命が最長になるように設計パラメータを決定する。
【0039】
設計パラメータのうち、ころの有効長さの端におけるクラウニングのドロップ量の最適値zmは、以下の式(2)から簡易的に求めることもできる。
【数2】
【0040】
但し、x(%)は基本動定格荷重に対する設計荷重の割合、d(mm)はころの直径、L(mm)はころの有効長さを意味する。
【0041】
基準対数曲線としては、以上に述べた対数曲線以外にも、クラウニングの母線形状を特定する公知の対数曲線を広く用いることができる。
【0042】
上記実施形態において、クラウニングは、ころの転動面と外輪又は内輪の軌道面とのいずれに設けてもよい。ころの転動面と外輪又は内輪の軌道面との両方にクラウニングを形成する場合、上記各母線方向位置におけるドロップ量を、転動面側と軌道面側とに分配して、各面に形成するクラウニング曲線を特定すればよい。また、ころ軸受の製品の検査においては、転動面側のクラウニングのドロップ量と、軌道面側のクラウニングのドロップ量との和を算出し、この和の値が、0.55≦a/b≦0.95を満たすか否かを判断すればよい。
【符号の説明】
【0043】
11 内輪
11a 内輪軌道面
12 外輪
12a 外輪軌道面
13 ころ(円筒ころ)
13a ころ転動面
13b、13c クラウニング(カットクラウニング)
図1
図2
図3
図4
図5