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特開2024-21307流動性内容物を除去する塗膜を有する構造体、及び、塗料組成物
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  • 特開-流動性内容物を除去する塗膜を有する構造体、及び、塗料組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024021307
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】流動性内容物を除去する塗膜を有する構造体、及び、塗料組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 123/26 20060101AFI20240208BHJP
   C09D 183/04 20060101ALI20240208BHJP
   C09D 4/02 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
C09D123/26
C09D183/04
C09D4/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022124043
(22)【出願日】2022-08-03
(71)【出願人】
【識別番号】000208455
【氏名又は名称】大和製罐株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】502435454
【氏名又は名称】株式会社SNT
(74)【代理人】
【識別番号】100092901
【弁理士】
【氏名又は名称】岩橋 祐司
(72)【発明者】
【氏名】松川 義彦
(72)【発明者】
【氏名】金森 進一郎
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038CB171
4J038CP061
4J038DL101
4J038FA111
4J038JA57
4J038KA03
4J038NA10
4J038PB04
(57)【要約】
【課題】表面に流動性内容物の除去性に優れた塗膜をもつ構造体を提供する。
【解決手段】構造体に形成される塗膜は、(A)グラフト共重合体と、(B)25℃で液体のオイルと、を含み、グラフト共重合体は、(A1)ラジカル重合性の反応基を有する有機溶剤可溶性フッ素樹脂と、(A2)片末端にラジカル重合性の反応基を有するポリシロキサンと、(A3)(メタ)アクリル基を含有する単量体と、を共重合して形成されている。こうして得られる構造体の表面は、流動性内容物、特に、水性乳濁液の除去性に優れる。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と該基材表面に形成された塗膜とを有する構造体であって、
前記塗膜は、流動性内容物除去性の塗膜であり、
(A)グラフト共重合体と、
(B)25℃で液体のオイルと、を含んでおり、
前記グラフト共重合体は、
(A1)ラジカル重合性の反応基を有する有機溶剤可溶性フッ素樹脂と、
(A2)片末端にラジカル重合性の反応基を有するポリシロキサンと、
(A3)(メタ)アクリル基を含有する単量体と、を共重合して形成されている
ことを特徴とする構造体。
【請求項2】
前記グラフト共重合体が、
(A4)片末端に水酸基を有するポリシロキサン由来の構造を含む
ことを特徴とする請求項1記載の構造体。
【請求項3】
前記塗膜の表面が、前記オイルによって0.08~0.45の被覆率で覆われている
ことを特徴とする請求項1記載の構造体。
【請求項4】
前記塗膜の厚さが0.9~20μmであることを特徴とする請求項1記載の構造体。
【請求項5】
流動性内容物除去性の塗料組成物であって、
(a1)ラジカル重合性の反応基を有する有機溶剤可溶性フッ素樹脂、
(a2)片末端にラジカル重合性の反応基を有するポリシロキサン、
(a3)(メタ)アクリル基を含有する単量体、を共重合して形成されている
(a)グラフト共重合体と、
(b)25℃で液体のオイルと、
(c)片末端に前記グラフト共重合体と結合するための反応基を有するポリシロキサンと、
(d)前記グラフト共重合体を架橋するための硬化剤と、
(e)有機溶剤と、
を含んでいることを特徴とする塗料組成物。
【請求項6】
前記片末端に前記グラフト共重合体と結合するための反応基を有するポリシロキサンが、前記グラフト共重合体100質量部に対して、1~10質量部で配合されている
ことを特徴とする請求項5記載の塗料組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流動性内容物の除去性に優れた塗膜に関する。
【背景技術】
【0002】
流動性内容物の保存容器において、使用者がその流動性内容物を速やかに排出するため、或いは、容器内に残存させることなく最後まで綺麗に使い切るために、傾けた容器内を流動性内容物が速やかに滑り落ちるような塗膜の形成が望まれている。
【0003】
発明者は先に、ラジカル重合性の反応基を有する有機溶剤可溶性フッ素樹脂、片末端ラジカル重合性ポリシロキサン、および、メタクリレート系単量体を共重合したグラフト共重合体と、片末端反応性シリコーンオイルと、硬化剤と、有機溶剤と、を含む塗料組成物を提案し、これによる塗膜の水や油に対する滑落性を試験し、所定の滑落性を有していることを確認している(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-218462号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の従来の塗膜においても、流動性内容物(特に、乳液などの水性乳濁液)に対する除去性については、改善の余地があった(後述する比較例1参照)。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、流動性内容物(特に、乳液などの水性乳濁液)に対する除去性に優れた塗膜を有する構造体、および、塗料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者は、流動性内容物の滑落性について多くの実験を行った結果、特に、乳液などの水性乳濁液に対しては、25℃で液体のオイルを配合した塗料組成物を用いることで、所望の滑落性が得られることを見出し、本発明の完成に至った。
【0008】
すなわち、本発明の構造体は、
基材と該基材表面に形成された塗膜とを有する構造体であって、
前記塗膜は、流動性内容物除去性の塗膜であり、
(A)グラフト共重合体と、
(B)25℃で液体のオイルと、を含んでおり、
前記グラフト共重合体は、
(A1)ラジカル重合性の反応基を有する有機溶剤可溶性フッ素樹脂と、
(A2)片末端にラジカル重合性の反応基を有するポリシロキサンと、
(A3)(メタ)アクリル基を含有する単量体と、を共重合して形成されている
ことを特徴とする。
【0009】
ここで、前記グラフト共重合体が、(A4)片末端に水酸基を有するポリシロキサン由来の構造を含むことが好ましい。また、前記塗膜の表面が、前記オイルによって0.08~0.45の被覆率で覆われていることが好ましい。また、前記塗膜の厚さが0.9~20μmであることが好ましい。
【0010】
一方、本発明の流動性内容物除去性の塗料組成物は、
(a1)ラジカル重合性の反応基を有する有機溶剤可溶性フッ素樹脂、
(a2)片末端にラジカル重合性の反応基を有するポリシロキサン、
(a3)(メタ)アクリル基を含有する単量体、を共重合して形成されている
(a)グラフト共重合体と、
(b)25℃で液体のオイルと、
(c)片末端に前記グラフト共重合体と結合するための反応基を有するポリシロキサンと、
(d)前記グラフト共重合体を架橋するための硬化剤と、
(e)有機溶剤と、
を含んでいることを特徴とする。
【0011】
ここで、前記片末端に前記グラフト共重合体と結合するための反応基を有するポリシロキサンが、前記グラフト共重合体100質量部に対して、1~10質量部で配合されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、塗膜が、フッ素樹脂鎖、ポリシロキサン鎖、および、アクリル樹脂を有するグラフト共重合体と、25℃で液体のオイルと、を含んでいることによって、流動性内容物(特に、乳液などの水性乳濁液)に対する優れた除去性を発現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】比較例2、比較例1,実施例1-1、実施例3-3の各ガラス容器の内部における乳液の滑落状態を撮影した写真。
図2】乳液の滑落性の評価直後および翌日に各ガラス容器を撮影した写真。
図3】実施例1-1のガラス容器を倒立状態にして容器の底の部分を撮影した写真。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<塗膜を有する構造体>
本実施形態の塗膜を有する構造体は、流動性内容物である水性懸濁液(例えば乳液)の保存容器であり、用途に応じてガラス製、樹脂製を選択できる。具体的な用途は、各種の化粧品、洗剤、食用品などの保存である。水性懸濁液が接触する容器内面には、25℃で液体のオイルを含む塗料組成物による塗膜が形成されている。そのため、塗膜の表面にオイルの一部が露出して、流動性内容物に対する滑落性が発揮される。
【0015】
塗膜の表面がオイルによって覆われる程度を、式(1)のオイルの被覆率Fで表す。
【0016】
【数1】
【0017】
ここで、θは、本実施形態の塗膜表面での水接触角であり、θは、オイル上での水接触角であり、θは、本実施形態の塗料組成物からオイルを除いたもので形成した塗膜表面上での水接触角である。水接触角θとθが同じである場合、被覆率Fは1.0であり、容器内面の全体がオイルで覆われていることになる。本実施形態では、特に限定されないが、被覆率Fが0.08~0.45の範囲にあることが好ましく、塗料組成物中のオイルの量を設定することで、被覆率Fを調整することができる。
【0018】
塗膜は、具体的に、(A)グラフト共重合体と、(B)25℃で液体のオイルと、を含んでいる。塗膜を構成するグラフト共重合体は、
(A1)ラジカル重合性の反応基を有する有機溶剤可溶性フッ素樹脂と、
(A2)片末端にラジカル重合性の反応基を有するポリシロキサンと、
(A3)(メタ)アクリル基を含有する単量体と、を共重合して形成されている。
本書において、「(メタ)アクリル基」は、「アクリル基」および「メタクリル基」の両方を包含する用語である。
【0019】
流動性内容物は、外部からの力で容易にその形状が変化するようなもの(形態保持性を示さないもの)を指し、流動性を示すものであり、例えば、乳液等の化粧液、液体洗剤、水性糊、食用のソース・ケチャップ類などである。すなわち、流動性内容物の粘度が、L4スピンドルを用いたB型粘度計により、所望の回転数(1,12,60rpmのいずれか)、温度25℃で300秒間測定したときに、以下の範囲内であるものとする。
回転数( 1rpm):9,000~24,000mPa・s
回転数(12rpm):1,750~ 3,600mPa・s
回転数(60rpm): 700~ 1,200mPa・s
【0020】
<塗料組成物>
容器内面に塗膜を形成する塗料組成物は、(a)グラフト共重合体と、(b)25℃で液体のオイルと、(c)片末端にグラフト共重合体と結合するための反応基を有するポリシロキサンと、(d)グラフト共重合体を架橋するための硬化剤と、(e)有機溶剤と、必要により適宜の添加剤を含む。
【0021】
(a)グラフト共重合体:
グラフト共重合体は、塗膜形成用樹脂の一つであり、ラジカル重合性の反応基を有する有機溶剤可溶性フッ素樹脂と、片末端にラジカル重合性の反応基を有するポリシロキサンと、(メタ)アクリル基を含有する単量体と、を共重合して形成される。ここでは、グラフト共重合体の構成として、フッ素樹脂鎖が主鎖となって、ポリシロキサン鎖および(メタ)アクリル樹脂が側鎖を形成するものを説明するが、これに限られるものではない。
【0022】
(a1)ラジカル重合性の反応基を有する有機溶剤可溶性フッ素樹脂
例えば、水酸基を有するブロック共重合型のフッ素樹脂と、イソシアネート基を有するラジカル重合単量体との反応生成物を用いる。フッ素樹脂の水酸基の一部とイソシアネート基とがウレタン結合している。このような水酸基およびラジカル重合性の反応基の両方をもつブロック共重合型のフッ素樹脂としては、例えば、式(2)の市販品のセントラル硝子社製の「セフラルコート」と、式(3)の2-イソシアネートエチルメタクリレートとの反応生成物を利用できる。グラフト共重合体に対する配合量は、特に限定されないが、2~66質量%であることが好ましい。
【0023】
【化1】
【0024】
【化2】
【0025】
式(2)の水酸基及びカルボキシル基を有するブロック共重合型のフッ素樹脂は、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)由来の部分と、ビニル基を有する単量体由来の部分とが、交互にブロック共重合して構成されている。一般的なフッ素樹脂は有機溶剤に不溶性であるが、ブロック共重合型のフッ素樹脂は、有機溶剤可溶性を示すフッ素樹脂の代表例である。他にAGC社製「ルミフロン」(登録商標)などを使用してもよい。
式(3)のイソシアネート基を有するラジカル重合単量体は、ラジカル重合性の反応基として、(メタ)アクリル基を含有するが、これに代えてビニル基を含有するものでもよい。このようなイソシアネート基が、式(2)のフッ素樹脂に含まれる水酸基及びカルボキシル基の一部と結合してグラフト構造を形成している。
【0026】
(a2)片末端にラジカル重合性の反応基を有するポリシロキサン
ラジカル重合性の反応基として、(メタ)アクリル基、ビニル基などを挙げることができる。例えば、片末端が(メタ)アクリル基で変性されたポリジメチルシロキサン(PDMS)を用いる。グラフト共重合体に対する配合量は、特に限定されないが、4~40質量%であることが好ましい。
【0027】
(a3)(メタ)アクリル基を含有する単量体
例えば、メチルメタクリレート(MMA)のような(メタ)アクリル酸エステルの単量体を用いる。グラフト共重合体に対する配合量は、特に限定されないが、5~94質量%であることが好ましい。このような単量体としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、i-プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、i-ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、又はベンジル(メタ)アクリレート等の炭化水素基をもつ(メタ)アクリレート系単量体を挙げることができる。また、フルオロアルキル基を含む(メタ)アクリレート系単量体を用いてもよい。また、水酸基を含む2-ヒドロキジエチル(メタ)アクリレートなどの単量体を用いてもよい。
なお、(a)グラフト共重合体として、市販品のT&K TOKA社製の疎水性樹脂「ZX-007-L」を用いてもよい。
【0028】
(b)25℃で液体のオイル
25℃で液体のオイルとは、常温(25℃)で流動性を示すものである。形成される塗膜表面にオイルが滲出し、塗膜の非粘着性を更に向上させることが目的であるため、オイル自体の表面張力が小さいことが好ましく、25℃における表面張力が30mN/m以下であることが好ましく、20mN/m以下であることがより好ましい。このような条件を満たすためには、分子間相互作用の小さいオイルであることが求められるため、本実施形態のオイルとしては、フッ素オイル、シリコーンオイル、或いは、アルカン(炭素数15~100)、高級脂肪酸(炭素数5~50)、脂肪酸エステル、ポリオールエステル、ポリグリコール、ポリエーテル、ポリフェニルエーテルなどの炭化水素系オイルを挙げることができる。これらを単独で用いるほか、混合して用いることができる。
【0029】
フッ素オイルとしては、これに限定されないが、パーフルオロポリエーテル(PFPE)、パーフルオロアルキルポリエーテル、フッ化モノマー(例えば、テトラフルオロエチレン(TFE)、3フッ化エチレン、フッ化ビニリデン、クロロテトラフルオロエチレン(CTFE)、フッ化アクリルモノマーなど)のテロマー、その他特定のフッ素化炭化水素化合物等を例示できる。
【0030】
本実施形態では、脂肪酸エステルである中鎖脂肪酸トリグリセリドを用いる。その一般式を式(4)に示す。炭素数は限定されるものではない。
【0031】
【化3】
なお、R1,R2,R3は、炭素数5~11の炭化水素鎖であり、炭素の二重結合を含んでいてもよい。
【0032】
このオイルの添加量は、前述した範囲の被覆率Fを満足させるために、上記のグラフト共重合体100質量部に対して20質量部を超え、84質量部以下であることが好ましい。この量が少ないと、被覆量Fが小さくなり、容器内面に良好な滑落性を確保できない場合がある。また、多過ぎると、成形性が損なわれたり、或いは容器特性に悪影響を及ぼしたりする場合がある。
【0033】
(c)片末端に塗料組成物中のグラフト共重合体と結合するための反応基を有する片末端反応性ポリシロキサン
例えば、片末端がカルビノール基で変性されたポリジメチルシロキサン(PDMS)を用いてもよい。この結果、塗膜を構成するグラフト共重合体には、(A4)片末端に水酸基を有するポリシロキサン由来の構造が含まれることになる。または、片末端が(メタ)アクリル基で変性されたポリジメチルシロキサンを用いてもよい。このようなシリコーンオイルの添加量は、限定されるものではないが、上記のグラフト共重合体100質量部に対して1~10質量部であることが好ましい。1質量部未満では滑落性が不十分になる場合があり、10質量部より多くても滑落性が向上せず、経済的でない場合がある。また、このようなシリコーンオイルの分子量は、撥水性よりもグラフト共重合体との反応性を優先して、比較的小さいものを用いる。シリコーンオイルの分子量が小さい方が、グラフト共重合体との密着性が高まるとともに、グラフト共重合体との相溶性もよくなる。なお、片末端反応性ポリシロキサンの動粘度(25℃)は、特に限定されないが、例えば、2~1000cSt(=mm/s)であることが好ましい。
【0034】
(d)グラフト共重合体を架橋するための硬化剤
硬化剤として、硬化後の塗膜を柔らかくするものが好ましい。金属などとは違って樹脂の場合、柔らかい方が削れにくい、つまり耐磨耗性がよくなる。例えば、イソシアネート基を有する硬化剤が好ましい。また、イソシアネート基の代わりに、エポキシ基、アミノ基等の反応基を有する硬化剤を用いてもよい。このような硬化剤の添加量は、上記のグラフト共重合体100質量部に対して20~80質量部である。このような硬化剤を使用すれば、塗膜の残存率が高くなり、塗膜で被覆された製品を長期間使用することが可能になる。塗膜としての耐久性の向上に有効である。基材に応じて、ヘキサメチレンジイソシアネートを用いることができる。しかし、基材が樹脂の場合は、ブロックタイプの一液型加熱硬化剤を使用できないので、代わりに、二液型常温硬化剤を用いてもよい。二液型の常温硬化の際、メチルポリシリケート等の硬化剤を併用してもよい。また、硬化を促進するため、硬化触媒を使用してもよい。
【0035】
(e)有機溶剤
有機溶剤の目的として溶質を十分に溶解させることができるものであればよい。このような有機溶剤の配合量は、上記のグラフト共重合体100質量部に対して30~800質量部である。
【0036】
(f)その他
塗料組成物に、容器の用途等に応じて、それ自体公知の各種添加剤、例えば酸化防止剤、紫外線吸収剤、充填剤、レベリング剤(スプレー塗装時のはじき防止用)が配合されていてもよく、さらに、透明性が要求されない用途においては、顔料乃至染料等の着色剤を配合することもできる。さらに、結晶性の添加剤(酸化チタンなどの無機酸化物や各種ワックス類)を配合することも可能である。
ただし、このような添加剤の配合量は、組成物中の25℃で液体のオイルの量が前述した範囲に維持され、しかも塗膜の成形性が損なわれず、さらに、容器内面の滑落性が損なわれない程度の少量とする。
【0037】
塗料組成物を容器内面に塗布後、加熱による乾燥等を施して作製された塗膜の厚さは、特に限定されないが、0.9~20μmであるとよい。塗膜の厚さが0.9μm未満であると、柔らかい塗膜が作製されても、薄いために長期間の使用で塗膜が削れてしまう場合がある。逆に、20μm以上であると、現実的に使用する年数以上の過剰の膜厚となるため、経済的ではない場合がある。
【0038】
本実施形態では、塗料組成物に含まれる各組成が溶媒中での分散状態を維持し、6ヶ月以上の静置後も、分離しないことを条件とする。
【実施例0039】
以下、実施例に基づいて本発明についてさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例の内容に限定されるものではない。
【0040】
表1は、各試験片に用いた塗料組成物の配合表である。基材は、25mm幅×76mm長さ、厚さ1.0mmのスライドガラス、又は、80mm幅×110mm長さ、厚さ0.2mmの透明ポリエステルシートのいずれかを用いた。
【0041】
【表1】
【0042】
ベース樹脂であるグラフト共重合体の材料を以下に示す。
・セントラル硝子社製のセフラルコート(CF-803)および2-イソシアネートエチルメタクリレートとの反応生成物(36.2質量部)
・片末端が(メタ)アクリル基で変性された数平均分子量5000のポリジメチルシロキサン(10.5質量部)
・メチルメタクリレート(MMA)、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、ヘプタデカフルオロデシルメタクリレート、メタクリル酸、tert-ブチル=2-エチルペルオキシヘキサノアート(合わせて25.0質量部)
・溶媒:キシレン/酢酸ブチル/IPA=20/70/5
このような材料からなるグラフト共重合体は、水酸基価:120、不揮発分:45%である。
【0043】
片末端反応性シリコーンオイルには、信越化学工業社製のカルビノール変性シリコーンオイル(X-22-170BX)を用いた。分子量が2800で、水酸基価が20g/molである。
【0044】
表1では、基材に応じて、硬化剤としてヘキサメチレンジイソシアネートのみを用いたもの、及び、ヘキサメチレンジイソシアネートおよびメチルポリシリケートの2種類を用いて常温硬化のために硬化触媒(1%ジブチル錫ジラウレート溶液)も併用したもの、とがある。
【0045】
中鎖脂肪酸トリグリセリドには、理研ビタミン社製のアクターM-1を用いた。表面張力が27.6mN/m(25℃)であり、動粘度(計算値)が21cStであり、平均分子量(ケン化価からの計算値、中央値)が501である。
【0046】
表1では、基材に応じて、有機溶剤として、芳香族系炭化水素溶剤(比誘電率1.8)を使用したもの、及び、基材の結晶化による白濁を回避するために、ケトン類溶剤(比誘電率16.1)を使用したもの、とがある。
【0047】
基材にスライドガラスを用いるケースについては、表1の材料を撹拌混合して塗料組成物を調製し、基材へワイヤーバー12番で塗布した後、200℃で10分間乾燥加熱処理をして塗膜を作製した。また、基材に透明ポリエステルシートを用いるケースについては、表1の材料を撹拌混合して塗料組成物を調製し、基材へワイヤーバー12番で塗布した後、25℃で4日間の常温乾燥処理をして、塗膜を作製した。
【0048】
なお、比較例(1)では、オイルを添加しない以外は、実施例(1-1)と同様に塗膜を作製した。また、比較例(2)の試験片は基材(スライドガラス)のみとした。
【0049】
また、比較例(3)では、オイルを添加しない点および有機溶剤の質量部以外は、実施例(4-1)と同様に塗膜を作製した。比較例(4)では、オイルを少なくした点(20質量部)および有機溶剤の質量部以外は、実施例(4-1)と同様に塗膜を作製した。また、比較例(5)の試験片は基材(透明ポリエステルシート)のみとした。
【0050】
<評価項目>
それぞれの塗膜に対して、次の項目を評価した。
水の接触角 : 塗膜の上に純水10μLを載せて、接触角計Drop MasterDMs-401(協和界面科学株式会社製)を用いて測定した。
油の接触角 : 塗膜の上にオレイン酸10μLを載せて、上記接触角計で測定した。
油の滑落角 : 測定機器として上記接触角計を用いた。塗膜の上にオレイン酸10μLを載せて、水平状態から試料面を傾けたとき、オレイン酸の滑落した角度を測定した。90度傾けても滑落しない場合は、「滑落せず」とした。
油の滑落速度 : 測定機器として上記接触角計を用いた。塗膜の上にオレイン酸10μLを載せて、水平状態から試料面を傾斜させて、まずオレイン酸の滑落角を検出し、続けて、その角度を固定して、滑落速度を測定した。
乳液の滑落速度 : 測定機器として上記接触角計を用いた。予め45度傾斜させた試料ステージ上に載せた試料の塗膜の上に市販の乳液(モイスタージュ(登録商標) エッセンスミルクWb(しっとり) クラシエホームプロダクツ株式会社製)50μLの液滴を滑落させ、液滴の挙動を高速度カメラで60フレーム/秒ごとに静止画で撮影する。撮影時のズーム倍率は「W2」とする。水滴の前進側の接触線が15分間に5mm移動できた場合のみ、滑落したものと評価する。液滴の滑落時間(秒)を横軸、液滴の移動距離(mm)を縦軸としてグラフにプロットし、原点を通る一次関数を仮定して最小自乗法でフィッティングしたときの傾きを滑落速度(mm/sec)とする。この滑落速度を滑落性の指標とした。前記滑落速度の値が大きい程、内容物の滑落性が優れている。
【0051】
表2にこれらの評価結果を示す。
【0052】
【表2】
【0053】
表2の評価結果が示す通り、全ての実施例における乳液の滑落速度は、オイルを含まないもの(比較例(1),比較例(3))に対して、非常に速くなることが分かった。また、比較例(4)から分かるように、オイルの配合が少ないと、乳液が滑落せず、オイルの配合は20質量部を超えることが好ましいことが分かった。
【0054】
次に、比較例(2)、比較例(1),実施例(1-1)、実施例(3-3)の各配合の塗料組成物を用いて、ガラス容器に内面流し塗りを実施した。比較例(2)のガラス容器は「塗膜なし」とする。それぞれの容器内面に形成された塗膜の膜厚は、以下の通り。
比較例(1) の配合 ・・・膜厚30.1μm
実施例(1-1)の配合 ・・・膜厚46.1μm
実施例(3-3)の配合 ・・・膜厚 2.6μm
【0055】
それぞれのガラス容器に市販の乳液(モイスタージュ(登録商標) エッセンスミルクWb(しっとり) クラシエホームプロダクツ株式会社製)10gを充填した後、キャップをして密閉状態にして、次の要領で、容器の倒置、正置の反転作業を合計6回繰り返して、乳液に対する塗膜の滑落性の評価を行った。比較例(2)については反転作業を2回だけ繰り返した。
1回目:正置→倒置→しばらく放置
2回目:倒置→正置→しばらく放置
3回目:正置→倒置→しばらく放置
4回目:倒置→正置→しばらく放置
5回目:正置→倒置→しばらく放置
6回目:倒置→正置→しばらく放置
【0056】
図1は、各ガラス容器の外観を撮影した写真であり、評価前および反転作業ごとに撮影した写真である。3回目の反転作業を終えた時点の比較例(1)、実施例(1-1)、実施例(3-3)を比べると、容器の底(写真の上部)の乳液の残留量は、比較例(1)が一番多く、実施例(1-1)、実施例(3-3)の順に少なくなっていることが分かる。また、5回目の反転作業を終えた時点で比べると、容器の底の乳液の残留量は、やはり比較例(1)が一番多く、実施例(3-3)では少量が残っているだけであり、実施例(1-1)では殆どが下方に落ちていて容器の底には残存していないことが分かる。
【0057】
図2は、この滑落性の評価直後および翌日に各ガラス容器の外観を撮影した写真である。比較例(2)、比較例(1)では、評価直後も翌日も同程度に多くの乳液が内壁に残存している。一方、実施例(1-1),実施例(3-3)では、評価直後においても内壁に残存している乳液は少ないが、翌日には更に減少していて、内壁に残存している乳液は殆ど無くなっている。
【0058】
図3は、実施例(1-1)のガラス容器を倒立状態(5回目)にして容器の底の部分を撮影した写真である。実施例(1-1)の容器の底面には乳液が殆ど残っていないことが分かる。
以上のことから、実施例(1-1)の容器の塗膜が4通りのガラス容器の中で最も乳液に対する除去性に優れていると言える。
図1
図2
図3