IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三井化学株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024021315
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】金属製品
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/085 20060101AFI20240208BHJP
   C08F 8/46 20060101ALI20240208BHJP
   B29C 33/58 20060101ALI20240208BHJP
   C09D 123/26 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
B32B15/085 Z
C08F8/46
B29C33/58
C09D123/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022124056
(22)【出願日】2022-08-03
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浅野 彰宏
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 豊明
(72)【発明者】
【氏名】鬼木 絵美
(72)【発明者】
【氏名】岩田 拓也
【テーマコード(参考)】
4F100
4F202
4J038
4J100
【Fターム(参考)】
4F100AB00A
4F100AB03A
4F100AB10A
4F100AK08B
4F100AK51B
4F100AK53
4F100BA02
4F100CC00B
4F100EH46B
4F100GB51
4F100JA04B
4F100JA06B
4F100JA20B
4F100JL14B
4F100YY00B
4F202AM32
4F202CA30
4F202CB01
4F202CM45
4F202CM82
4J038CP081
4J038NA10
4J038PC02
4J100AA15Q
4J100AA17P
4J100BC55H
4J100CA03
4J100CA31
4J100DA09
4J100DA24
4J100FA06
4J100FA10
4J100FA19
4J100FA28
4J100FA30
4J100HA61
4J100HC30
4J100HC36
4J100HE17
4J100JA01
(57)【要約】
【課題】比較的接着性が高い樹脂の成形に用いられた場合でも、成形体へ付着しにくく、成形体の表面の平滑性を損ないにくい程度に離型性が良好であり、さらに、耐熱性にも優れた4-メチル-1-ペンテン系重合体の層を有する金属製品を提供する。
【解決手段】金属層(I)と、要件(a)~(c)を満たす4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)をグラフト変性して得られるグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)を含む組成物(X)から形成される層(II)と、を有する金属製品。
(a)示差走査熱量計(DSC)で測定した融点(Tm)が170~220℃である。
(b)DSCで測定した融解(吸熱)曲線における吸熱終了温度(TmE)が230℃以下である。
(c)DSCで測定した結晶化(発熱)曲線における発熱開始温度(TcS)が210℃以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属層(I)と
下記要件(a)~(c)を満たす4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)をグラフト変性して得られるグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)を含む組成物(X)から形成される層(II)と、
を有する金属製品。
(a)示差走査熱量計(DSC)で測定した融点(Tm)が170~220℃である。
(b)DSCで測定した融解(吸熱)曲線における吸熱終了温度(TmE)が230℃以下である。
(c)DSCで測定した結晶化(発熱)曲線における発熱開始温度(TcS)が210℃以下である。
【請求項2】
前記4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)の135℃のデカリン中で測定した極限粘度[η]が0.5~5.0dl/gの範囲にある、請求項1に記載の金属製品。
【請求項3】
前記4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)の、4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位の量(U1)が80.0~100モル%であり、エチレンまたは炭素数3~20のα-オレフィン(ただし、4-メチル-1-ペンテンを除く)から導かれる構成単位の総量(U2)が20.0~0モル%(ただし、前記U1および前記U2の合計を100モル%とする)である、請求項1に記載の金属製品。
【請求項4】
前記金属層(I)を構成する金属が、鋼およびアルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を主成分として含む金属である、請求項1に記載の金属製品。
【請求項5】
前記組成物(X)が、さらにイソシアネート化合物(C)を含む、請求項1に記載の金属製品。
【請求項6】
前記4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)を含む組成物(Y)から形成される層(III)をさらに含む、請求項1に記載の金属製品。
【請求項7】
成形用金型である、請求項1に記載の金属製品。
【請求項8】
エポキシ樹脂の成形用である、請求項1に記載の金属製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属製品に関する。
【背景技術】
【0002】
金属製品のうち、例えば樹脂の成形に用いられる金型などでは、成形した樹脂を容易に外すことができるように離型性が求められる。そこで、離型性を向上するために、離型フィルムや離型コーティング剤が用いられることがある。例えば、シリコーンを離型コーティング剤として金型の表面に塗布することで、金型からの離型を容易にすることができる。
【0003】
金型からの離型性を向上するための離型フィルムとしては、例えば、4-メチル-1-ペンテン系重合体を含む樹脂層を、フィルムもしくはプラスチック基板に積層した離型フィルムがしばしば利用されている。ここで、4-メチル-1-ペンテン系重合体を含む樹脂層を形成する際には、4-メチル-1-ペンテン系重合体と溶媒とを含む組成物が用いられることがある。
【0004】
例えば、4-メチル-1-ペンテンおよび/または3-メチル-1-ペンテンに由来する構成単位を80~99モル%含み、エチレンおよび炭素数3~4のα-オレフィンからなる群から選ばれる少なくとも1種類のオレフィンに由来する構成単位を1~20モル%含む共重合体と溶媒とを含む組成物が提案されている(例えば、特許文献1)。また、4-メチル-1-ペンテンおよび/または3-メチル-1-ペンテンに由来する構成単位を50~95モル%含み、エチレンおよび炭素数3~4のα-オレフィンからなる群から選ばれる少なくとも1種類のオレフィンに由来する構成単位を5~50モル%含む共重合体と溶媒とを含む組成物も提案されている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-227421号公報
【特許文献2】特開2015-34258号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
金型の表面にシリコーンのような離型コーティング剤を塗布すると、金型と成形される樹脂との間に離型フィルムを挟む必要がないため、離型フィルムを用いた成形に比べて、より複雑な形状への成形に対応可能である。しかしながら、金型の表面にシリコーンを塗布した場合、例えば、エポキシ樹脂およびエポキシ樹脂を含有する炭素繊維強化プラスチック(CFRP)などの極性が高く接着性が高い樹脂を成形すると、金型の表面に形成されたシリコーンの層が成形体表面に付着した状態で成形体が離型されることがある。さらに、得られた成形体への着色工程がある場合、成形体表面にシリコーンが残っているとシリコーンが着色料をはじいてしまい、成形体をうまく着色できないという問題がある。
【0007】
そこで、シリコーンの代わりに特許文献1、2に記載の組成物を金型の表面に塗布して、金型の表面に共重合体の層を形成することが考えられる。しかし、成形条件によっては、金型が高温になるため、特許文献1、2に記載の共重合体の層では耐熱性が不十分な場合があることがわかってきた。
【0008】
本発明は、比較的接着性が高い樹脂の成形に用いられた場合でも、成形体へ付着しにくく、成形体の表面の平滑性を損ないにくい程度に離型性が良好であり、さらに、耐熱性にも優れた4-メチル-1-ペンテン系重合体の層を有する金属製品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが検討を進めた結果、金属層(I)、および、特定の要件を満たすグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)を含む組成物(X)から形成される層(II)を有する金属製品によれば、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は、例えば以下[1]~[8]の事項を有する。
【0011】
[1] 金属層(I)と
下記要件(a)~(c)を満たす4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)をグラフト変性して得られるグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)を含む組成物(X)から形成される層(II)と、
を有する金属製品。
(a)示差走査熱量計(DSC)で測定した融点(Tm)が170~220℃である。
(b)DSCで測定した融解(吸熱)曲線における吸熱終了温度(TmE)が230℃以下である。
(c)DSCで測定した結晶化(発熱)曲線における発熱開始温度(TcS)が210℃以下である。
【0012】
[2] 前記4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)の135℃のデカリン中で測定した極限粘度[η]が0.5~5.0dl/gの範囲にある、[1]に記載の金属製品。
【0013】
[3] 前記4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)の、4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位の量(U1)が80.0~100モル%であり、エチレンまたは炭素数3~20のα-オレフィン(ただし、4-メチル-1-ペンテンを除く)から導かれる構成単位の総量(U2)が20.0~0モル%(ただし、前記U1および前記U2の合計を100モル%とする)である、[1]または[2]に記載の金属製品。
【0014】
[4] 前記金属層(I)を構成する金属が、鋼およびアルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を主成分として含む金属である、[1]~[3]のいずれか1つに記載の金属製品。
【0015】
[5] 前記組成物(X)が、さらにイソシアネート化合物(C)を含む、[1]~[4]のいずれか1つに記載の金属製品。
【0016】
[6] 前記4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)を含む組成物(Y)から形成される層(III)をさらに含む、[1]~[5]のいずれか1つに記載の金属製品。
【0017】
[7] 成形用金型である、[1]~[6]のいずれか1つに記載の金属製品。
【0018】
[8] エポキシ樹脂の成形用である、[1]~[7]のいずれか1つに記載の金属製品。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、比較的接着性が高い樹脂の成形に用いられた場合でも、成形体へ付着しにくく、成形体の表面の平滑性を損ないにくい程度に離型性が良好であり、さらに、耐熱性にも優れた4-メチル-1-ペンテン系重合体の層を有する金属製品が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0020】
≪金属製品≫
本発明の金属製品は、金属層(I)と、所定の要件を満たすグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)を含む組成物(X)から形成される層(II)とを有する。
【0021】
<層(II)>
層(II)は、所定の要件を満たすグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)を含む組成物(X)から形成される。ここで、グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)は、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)をグラフト変性して得られる重合体である。以下、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)について説明した後、グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)について説明する。
【0022】
[4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)]
4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)は、下記要件(a)~(c)を満たす。なお、以下の記載において、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)またはグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)における、4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位を「構成単位(i)」と記載することがある。同様に、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)またはグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)における、エチレンまたは炭素数3~20のα-オレフィン(ただし、4-メチル-1-ペンテンを除く)から導かれる構成単位を「構成単位(ii)」と記載することがある。
【0023】
〔要件(a)〕
後述する実施例に記載の方法により、示差走査熱量計(DSC)で測定した融点(Tm)が、170~220℃であり、好ましくは180~220℃、より好ましくは189~218℃であり、さらに好ましくは201~216℃である。示差走査熱量計(DSC)で測定した融点(Tm)が前記範囲にあると、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)は耐熱性に優れる。その結果、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)の変性物であるグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)、およびグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)を含む組成物(X)から形成される層(II)の耐熱性が良好になる。
前記融点(Tm)の値は、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)の立体規則性、および、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)における構成単位(ii)の含有率に依存する傾向がある。このため後述するオレフィン重合用触媒を用い、さらには構成単位(ii)の含有率を制御することにより、融点(Tm)を調整することができる。
【0024】
〔要件(b)〕
後述する実施例に記載の方法により、示差走査熱量計(DSC)で測定した融解(吸熱)曲線における吸熱終了温度(TmE)が、230℃以下であり、好ましくは230℃未満、より好ましくは228℃以下、さらに好ましくは228℃未満である。ここで、吸熱終了温度とは、融解が終了した温度を意味する。吸熱終了温度および後述する発熱開始温度は、一般にいう、ベースラインと定常ライン接線との交点であるオンセット、オフセットとは異なる指標である。
前記吸熱終了温度は、例えば、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)を重合する際のオレフィン重合用触媒を適切に選択すること、構成単位(ii)の含有率を制御すること等により所望の値とすることができる。
【0025】
吸熱終了温度が前記範囲にある4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)は、耐熱性に優れる。このため、吸熱終了温度が前記範囲にある4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)の変性物であるグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)、およびグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)を含む組成物(X)から形成される層(II)も耐熱性に優れる傾向がある。また、吸熱終了温度が前記範囲にある4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)の変性物であるグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)は、吸熱終了温度が前記範囲にない4-メチル-1-ペンテン系重合体の変性で得られた重合体に比べて、コーティング剤の調製時に使用可能な溶媒に溶解しやすい。このため、吸熱終了温度が前記範囲にある4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)の変性物であるグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)を用いて調製されたコーティング剤等の性状が均一になりやすく、かつ、保存安定性が良好な傾向にある。
【0026】
〔要件(c)〕
後述する実施例に記載の方法により、示差走査熱量計(DSC)で測定した結晶化(発熱)曲線における発熱開始温度(TcS)が、210℃以下であり、好ましくは210℃未満、より好ましくは205℃以下、さらに好ましくは203℃以下である。
前記発熱開始温度は、例えば、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)を重合する際のオレフィン重合用触媒を適切に選択すること、構成単位(ii)の含有率を制御すること等により所望の値とすることができる。
【0027】
発熱開始温度が前記範囲にある4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)は、耐熱性に優れる。このため、発熱開始温度が前記範囲にある4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)の変性物であるグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)、およびグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)を含む組成物(X)から形成される層(II)も耐熱性に優れる傾向がある。また、発熱開始温度が前記範囲にある4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)の変性物であるグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)は、発熱開始温度が前記範囲にない4-メチル-1-ペンテン系重合体の変性で得られた重合体に比べて、コーティング剤の調製時に使用可能な溶媒に溶解しやすい。このため、発熱開始温度が前記範囲にある4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)の変性物であるグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)を用いて調製されたコーティング剤等の性状が均一になりやすく、かつ、保存安定性が良好な傾向にある。
【0028】
本発明で用いられる4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)は、要件(a)~(c)を満たすので、耐熱性を保ちつつ、溶媒への溶解性にも優れる。その結果、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)の変性物であるグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)も、耐熱性と溶媒への溶解性の両方に優れる傾向がある。また、グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)は、溶媒への溶解性に優れるため、溶媒中で溶解したままの状態を保ちやすい。このため、グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)は、要件(a)~(c)のいずれか1つ以上を満たさない4-メチル-1-ペンテン系重合体の変性で得られた重合体に比べて、溶媒に溶解された場合の保存安定性も良好である。すなわち、要件(a)~(c)を満たす4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)の変性物であるグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)を含む組成物(X)を溶解させることで、性状が均一でありかつ保存安定性の良好なコーティング剤を製造することができる。その結果、該コーティング剤を用いて形成される層(II)の性状が均一になる。また、グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)を含む組成物(X)を溶解したコーティング剤は、金属層(I)などのコーティング処理の対象となる層に容易にコーティング可能である。
【0029】
4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)は、さらに、下記要件(d)~(f)の1つ以上を満たしてもよく、好ましくは下記要件(d)~(f)の全てを満たす。
【0030】
〔要件(d)〕
後述する実施例に記載の方法により135℃デカリン中で測定した、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)の極限粘度[η]が、好ましくは0.5~5.0dl/g、より好ましくは0.65~4.6dl/g、さらに好ましくは0.8~4.4dl/gである。
極限粘度[η]の値が前記範囲にある4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)は、耐熱性が良好である。その結果、極限粘度[η]の値が前記範囲にある4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)の変性物であるグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)も、耐熱性に優れる傾向がある。また、極限粘度[η]の値が前記範囲にある4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)の変性物により得られるグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)を含む組成物(X)を溶解して得られるコーティング剤は、塗工性が良好であり、コーティング層の形成に適している。
極限粘度[η]は、例えば、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)を製造する際の重合工程における水素の添加量により調整することが可能である。
【0031】
〔要件(e)〕
4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)における、4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位を「構成単位(i)」、エチレンまたは炭素数3~20のα-オレフィン(ただし、4-メチル-1-ペンテンを除く)から導かれる構成単位を「構成単位(ii)」とすると、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)は、好ましくは下記(e1)および(e2)を満たす。
(e1)4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)における構成単位(i)の量(U1)は、好ましくは80.0~100モル%、より好ましくは85.0~99.0モル%、さらに好ましくは90.0~98.5モル%である(ただし、構成単位(i)と構成単位(ii)との合計を100モル%とする)。
(e2)4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)における、構成単位(ii)の量(U2)は、好ましくは0~20.0モル%、より好ましくは1.0~15.0モル%、さらに好ましくは1.5~10.0モル%である(ただし、構成単位(i)と構成単位(ii)との合計を100モル%とする)。
なお、U1およびU2は、実施例記載の方法により求められる。U1およびU2が前記範囲にある4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)は、耐熱性に優れる。このため、U1およびU2が前記範囲にある4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)の変性物であるグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)、および、グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)を含む組成物(X)から形成される層(II)も耐熱性に優れる傾向にある。
【0032】
前記構成単位(ii)を導くα-オレフィンは、直鎖状のα-オレフィンとすることができる。前記構成単位(ii)を導くα-オレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン、1-エイコセン等が挙げられる。
これらの中でも耐熱性の観点から、炭素数が6~18の直鎖状のα-オレフィンが好ましい。具体的には、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン等が好ましく、中でも、1-デセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセンが特に好ましい。
前記構成単位(ii)は、エチレンおよび炭素数3~20のα-オレフィンからなる群から選択される1種のみに由来するものであってもよく、また、エチレンおよび炭素数3~20のα-オレフィンからなる群から選択される2種以上に由来するものであってもよい。
【0033】
ここで、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)としては、構成単位(i)および構成単位(ii)のみからなる共重合体が挙げられる。この場合、構成単位(i)と構成単位(ii)との合計は100モル%である。
【0034】
4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)は、本発明の目的を損なわない程度の少量、具体的には4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)を構成する全ての構成単位のモル数の合計を100モル%としたときに、10モル%以下、好ましくは5モル%以下、より好ましくは3モル%以下であれば、構成単位(i)および構成単位(ii)の他に、4-メチル-1-ペンテン、エチレン、および炭素数3~20のα-オレフィン以外の他のモノマーから導かれる構成単位をさらに含んでいてもよい。
4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)に含まれる他のモノマーから導かれる構成単位は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0035】
このような他のモノマーの好ましい具体例としては、スチレン、ビニルシクロペンタン、ビニルシクロヘキサン、ビニルノルボルナン等の環状構造を有するビニル化合物;酢酸ビニル等のビニルエステル類;無水マレイン酸等の不飽和有機酸またはその誘導体;ブタジエン、イソプレン、ペンタジエン、2,3-ジメチルブタジエン等の共役ジエン類;1,4-ヘキサジエン、1,6-オクタジエン、2-メチル-1,5-ヘキサジエン、6-メチル-1,5-ヘプタジエン、7-メチル-1,6-オクタジエン、ジシクロペンタジエン、シクロヘキサジエン、ジシクロオクタジエン、メチレンノルボルネン、5-ビニル-2-ノルボルネン、5-エチリデン-2-ノルボルネン、5-メチレン-2-ノルボルネン、5-イソプロピリデン-2-ノルボルネン、6-クロロメチル-5-イソプロペニル-2-ノルボルネン、2,3-ジイソプロピリデン-5-ノルボルネン、2-エチリデン-3-イソプロピリデン-5-ノルボルネン、2-プロペニル-2,2-ノルボルナジエン等の非共役ポリエン類が挙げられる。
【0036】
ここで、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)が、他のモノマーから導かれる構成単位を含む場合、構成単位(ii)と他のモノマーから導かれる構成単位との合計含有量が、前記構成単位(ii)の含有量の範囲を満たすことが好ましい。この場合、構成単位(i)と構成単位(ii)と他のモノマーから導かれる構成単位との合計は100モル%である。
【0037】
〔要件(f)〕
後述する実施例に記載の方法により、示差走査熱量計(DSC)で求めた結晶化温度(Tc)が、好ましくは110~220℃、より好ましくは120~210℃、さらに好ましくは130~200℃である。結晶化温度は、例えば、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)を重合する際のオレフィン重合用触媒を適切に選択すること、構成単位(ii)の含有率を制御すること等により所望の値とすることができる。
結晶化温度が前記範囲にある4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)は、耐熱性の観点から好ましい。また、結晶化温度が前記範囲にある4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)を含む組成物(後述する組成物(Y))から得られるコーティング剤等は、性状や保存安定性が良好になる傾向にある。その結果、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)の変性物であるグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)についても、耐熱性に優れるとともに、グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)を含む組成物(X)から得られるコーティング剤等は、性状や保存安定性が良好になる傾向にある。したがって、組成物(X)を用いて形成される層(II)の性状が均一になる。
【0038】
[4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)の製造方法]
4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)は、オレフィン重合用触媒の存在下、4-メチル-1-ペンテンと、上述した構成単位(ii)を導く特定のオレフィン、さらに必要に応じて前記他のモノマーとを、公知の方法により重合することにより得ることができる。
【0039】
4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)の製造の際に使用可能なオレフィン重合用触媒の例として、メタロセン触媒を挙げることができる。好ましいメタロセン触媒としては、国際公開第01/53369号、国際公開第01/27124号、特開平3-193796号公報、特開平02-41303号公報、国際公開第06/025540号、あるいは、国際公開第2014/123212号に記載のメタロセン触媒が挙げられる。
【0040】
4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)は、一旦前記触媒等で製造した4-メチル-1-ペンテン系重合体を、押出機やミキサー等の中で熱処理することにより、要件(a)~(c)を満たすように調製した4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)であってもよい。また、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)は、市販の4-メチル-1-ペンテン系重合体(例えば、三井化学株式会社製TPX(登録商標)等)を、押出機やミキサー等の中で熱処理することにより、要件(a)~(c)を満たすように調製した4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)であってもよい。
【0041】
[グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)]
グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)の材料となる4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)は、要件(a)~(c)を満たせば特に限定されない。グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)の材料となる4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)がエチレンまたは炭素数3~20のα-オレフィン(ただし、4-メチル-1-ペンテンを除く)から導かれる構成単位(構成単位(ii))を含む場合、構成単位(ii)の含有量、および構成単位(ii)を導くα-オレフィンとして好ましいものは、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)と同様である。
【0042】
4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)を変性してグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)を製造する際には、官能基を有するエチレン性不飽和モノマーが用いられる。変性に使用されるエチレン性不飽和モノマーは、好ましくは不飽和カルボン酸および/またはその誘導体である。不飽和カルボン酸および/またはその誘導体としては、カルボン酸基を1以上有する不飽和化合物、カルボン酸基を有する化合物とアルキルアルコールとのエステル、無水カルボン酸基を1以上有する不飽和化合物等を挙げることができる。
【0043】
不飽和化合物が有する不飽和基としては、ビニル基、ビニレン基、不飽和環状炭化水素基等を挙げることができる。不飽和カルボン酸および/またはその誘導体は、1種単独で使用することもできるし、2種以上を組み合せて使用することもできる。これらエチレン性不飽和モノマーの中では、不飽和ジカルボン酸またはその酸無水物が好適であり、特にマレイン酸、ナジック酸またはこれらの酸無水物が好ましい。
【0044】
4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)をエチレン性不飽和モノマーでグラフト変性させてグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)を製造する方法は、特に限定されず、溶液法、溶融混練法等、従来公知のグラフト重合法を採用することができる。例えば、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)を溶融し、エチレン性不飽和モノマーを添加してグラフト変性させる方法、あるいは4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)を溶媒に溶解して溶液とし、そこへエチレン性不飽和モノマーを添加してグラフト変性させる方法等がある。
【0045】
グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)のグラフト変性量は、変性後のグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)の質量を100質量%とすると、好ましくは、0.1~5.0質量%、より好ましくは0.4~3.0質量%、さらに好ましくは0.8~2.0質量%である。グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)のグラフト変性量が前記範囲にあると、金属層(I)と層(II)との密着性が優れるとともに、成形体からの剥離性、特に比較的接着性の高い樹脂を含む成形体からの剥離性に優れる傾向にある。
【0046】
[組成物(X)]
組成物(X)は、グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)を含み、任意にイソシアネート化合物(C)等の他の成分をさらに含む。組成物(X)から形成される層(II)には、組成物(X)に含まれるイソシアネート化合物(C)等の他の成分が含まれ得る。なお、組成物(X)に含まれるグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)は、1種類でもよく、また、2種類以上であってもよい。
【0047】
組成物(X)を100質量%とした場合、組成物(X)におけるグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)の含有量は、好ましくは20~100質量%、より好ましくは50~100質量%、さらに好ましくは80~100質量%である。組成物(X)中のグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)の含有量が前記範囲であると、層(II)と金属層(I)との密着性が良好となる。また、組成物(X)がイソシアネート化合物(C)を含む場合、組成物(X)中のグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)の含有量が20質量%以上(ただし、組成物(X)を100質量%とする)であると、グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)とイソシアネート化合物(C)との間の反応が効果的であり、金属層(I)と層(II)との間の密着性が良好になる。
【0048】
[イソシアネート化合物(C)]
組成物(X)は、イソシアネート化合物(C)を含むことが好ましい。イソシアネート化合物(C)は、イソシアネート基を有する化合物であれば、特に限定されないが、金属層(I)と層(II)との間の密着性を向上させる観点から、1分子内に2以上のイソシアネート基を有する多官能イソシアネート化合物であることが好ましい。
【0049】
1分子内に2つのイソシアネート基を有する2官能イソシアネート化合物としては、例えば、メチレンジイソシアネート、ジメチレンジイソシアネート、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジプロピルエーテルジイソシアネート、2,2-ジメチルペンタンジイソシアネート、3-メトキシヘキサンジイソシアネート、オクタメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルペンタンジイソシアネート、ノナメチレンジイソシアネート、デカメチレンジイソシアネート、3-ブトキシヘキサンジイソシアネート、1,4-ブチレングリコールジプロピルエーテルジイソシアネート、チオジヘキシルジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート;
m-フェニレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、ジメチルベンゼンジイソシアネート、エチルベンゼンジイソシアネート、イソプロピルベンゼンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、1,4-ナフタレンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、2,6-ナフタレンジイソシアネート、2,7-ナフタレンジイソシアネート、メタキシリレンジイソシアネート、パラキシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート;および
水添キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン4,4'-ジイソシアネート等の脂環式ジイソシアネートが挙げられる。
【0050】
イソシアネート化合物(C)は、2官能イソシアネート化合物の3量体であるビウレット体又はイソシアヌレート体であってもよく、トリメチロールプロパン等のポリオールと2官能イソシアネート化合物との付加体(すなわち、アダクト体)であってもよく、メタノール等のアルコールと2官能イソシアネート化合物との付加体(すなわち、アロファネート体)であってもよい。
【0051】
これらの中でも、耐黄変、密着性および耐熱性の観点から、イソシアネート化合物(C)は、脂肪族イソシアネート化合物であることが好ましく、1分子内に2以上のイソシアネート基を有する脂肪族イソシアネート化合物であることがより好ましく、脂肪族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネートのイソシアヌレート体、脂肪族ジイソシアネートとアルコールとのアロファネート体、又は脂肪族ジイソシアネートとポリオールとのアダクト体であることがさらに好ましく、脂肪族ジイソシアネート、又は脂肪族ジイソシアネートのイソシアヌレート体であることが特に好ましい。
【0052】
イソシアネート化合物(C)は、市販品であってもよく、市販品としては、例えば、タケネートD103H、D204、D160N、D170N、D165N、D178NL、D110N、D370N等のタケネート(登録商標)シリーズ(三井化学株式会社製)、およびコロネートHX、HXR、HXL、HXLV、HK、HK-T、HL、2096(日本ポリウレタン工業株式会社製)が挙げられる。
【0053】
組成物(X)がイソシアネート化合物(C)を含む場合、その含有量は、グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)100質量部に対して、通常、0.001~2.00質量部であり、0.001~1.50質量部であることが好ましい。
イソシアネート化合物(C)は、組成物(X)中に1種単独で含まれていてもよく、2種以上含まれていてもよい。
【0054】
〔組成物(X)に含まれるその他の成分〕
組成物(X)は、本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて、酸化防止剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、帯電防止剤、スリップ剤、レベリング剤、強化剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、滑剤、染料、顔料、天然油、合成油、ワックス、充填剤等を含有することができる。なお、組成物(X)から形成される層(II)にも、組成物(X)に含まれるその他の成分が含まれ得る。
組成物(X)にその他の成分を含む場合、その他の成分の配合量は、本発明の目的を損なわない任意の量とすることができるが、その他の成分の配合量の総量は、組成物(X)100質量部に対して通常0.005~5質量部、好ましくは0.01~3質量部程度である。
【0055】
酸化防止剤としては、公知の酸化防止剤が使用可能である。具体的には、ヒンダードフェノール化合物、イオウ系酸化防止剤、ラクトーン系酸化防止剤、有機ホスファイト化合物、有機ホスフォナイト化合物、あるいはこれらを数種類組み合わせたものが使用できる。
【0056】
滑剤としては、例えばラウリル酸、パルミチン酸、オレイン酸、ステアリン酸等の飽和または不飽和脂肪酸のナトリウム、カルシウム、マグネシウム塩等が挙げられ、これらは単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。またかかる滑剤の配合量は、組成物(X)100質量部に対して通常0.01~3質量部、好ましくは0.1~2質量部程度であることが望ましい。
【0057】
スリップ剤としては、ラウリル酸、パルミチン酸、オレイン酸、ステアリン酸、エルカ酸、ヘベニン酸等の飽和または不飽和脂肪酸のアミド、あるいはこれらの飽和または不飽和脂肪酸のビスアマイドを用いることが好ましい。これらのうちでは、エルカ酸アミドおよびエチレンビスステアロアマイドが特に好ましい。これらの脂肪酸アミドは、グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)100質量部に対して0.01~5質量部の範囲で配合することが好ましい。
【0058】
アンチブロッキング剤としては、微粉末シリカ、微粉末酸化アルミニウム、微粉末クレー、粉末状、もしくは液状のシリコーン樹脂、テトラフルオロエチレン樹脂、微粉末架橋樹脂、例えば架橋されたアクリル、メタクリル樹脂粉末等を挙げることができる。これらのうちでは、微粉末シリカおよび架橋されたアクリル、メタクリル樹脂粉末が好ましい。
【0059】
また後述するように組成物(X)を溶解したコーティング剤を用いて層(II)を形成する場合には、組成物(X)にレベリング剤を添加するのも好ましい態様である。コーティング剤を用いて形成した層(II)の表面粗さを小さくするためのレベリング剤としてはフッ素系ノニオン界面活性剤、特殊アクリル樹脂系レベリング剤、シリコーン系レベリング剤等を用いることができ、溶媒と相溶性が良いものが好ましく、添加量は組成物(X)中のグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)に対して1~50,000ppmの範囲である。
【0060】
強化剤としては、ケイ素、チタン、アルミニウム、ジルコニウム等の金属の酸化物、多官能アルコキシ化合物あるいはそのオリゴマー、粘土鉱物を組成物(X)中のグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)100質量部に対して、例えば5~50質量部、配合することもでき、組成物(X)から形成される層(II)の硬度や弾性率を高めることができる。添加量が5質量部未満では効果が低すぎ、50質量部を超えると層(II)の透明性または機械強度が損なわれることがある。
【0061】
〔組成物(X)の製造方法〕
組成物(X)は、グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)と、イソシアネート化合物(C)等の他の成分を混合することにより製造され得る。また、組成物(X)自体は製造せずに、組成物(X)に含まれる全成分を溶媒に溶解させることにより、組成物(X)を溶解したコーティング剤を製造し、該コーティング剤を乾燥させることにより結果的に組成物(X)が製造されてもよい。
【0062】
[層(II)の厚さ]
本発明の金属製品に含まれる層(II)の厚さは、好ましくは25μm以下であり、より好ましくは0.01~20μm、さらに好ましくは0.03~10μmである。
層(II)の厚さは、例えば、層(II)を形成する際に用いられるコーティング剤中のグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)の濃度によって調整され得る。コーティング剤に含まれるグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)の濃度が低いほど、得られる層(II)の厚さが薄くなる傾向がある。
【0063】
<金属層(I)>
金属層(I)を構成する金属として、例えば、アルミニウム、鋼、鉄、ニッケル、銅、亜鉛などの金属の単体、あるいはこれらの金属を主成分とする合金、たとえばステンレス鋼、黄銅などが挙げられる。好ましくは、金属層(I)を構成する金属は、鋼およびアルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を主成分として含む金属である。
金属層(I)の表面には予め化成処理、クロメート処理等の化学処理、メッキ処理、アクリル系プライマーあるいはウレタン系プライマー等によるプライマー処理やスパッタリング処理やプラズマ処理などの表面処理が施されていてもよく、塗装または印刷等が施されていてもよい。これらの処理等の1種が金属層(I)の表面に施されていてもよく、また、これらの処理等の2種以上が金属層(I)の表面に施されていてもよい。金属層(I)の形状および厚さは特に限定されない。
【0064】
<層(III)>
本発明の金属製品は、金属層(I)、層(II)の他に、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)を含む組成物(Y)から形成される層(III)をさらに含み得る。ここで、組成物(Y)は、後述するように、グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)を含まず、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)を含む組成物である。このため、組成物(Y)を用いて形成される層(III)は、グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)を含む組成物(X)を用いて形成される層(II)よりも離型性に優れる傾向がある。
【0065】
[組成物(Y)]
組成物(Y)は、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)を含み、任意に他の成分(ただし、イソシアネート化合物(C)を除く)をさらに含むが、グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)を含まない。組成物(Y)に含まれるその他の成分は、組成物(X)に含まれるイソシアネート化合物(C)以外のその他の成分と同様である。また、組成物(Y)に含まれるその他の成分の含有量は、含有量の基準をグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)もしくは組成物(X)の全量から、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)もしくは組成物(Y)の全量に置き換える以外は、組成物(X)と同様である。組成物(Y)から形成される層(III)には、組成物(Y)に含まれる4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)と他の成分が含まれ得る。なお、組成物(Y)に含まれる4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)は、1種類でもよく、また、2種類以上であってもよい。
【0066】
組成物(Y)中の4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)の含有量は、好ましくは50~100質量%、より好ましくは60~100質量%、さらに好ましくは70~100質量%である。組成物(Y)中の4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)の含有量が前記範囲であると、離型性に優れる。
【0067】
〔組成物(Y)の製造方法〕
組成物(Y)は、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)と、任意に他の成分を混合することにより製造され得る。また、組成物(Y)自体は製造せずに、組成物(Y)に含まれる全成分を溶媒に溶解させることにより、組成物(Y)を溶解したコーティング剤を製造し、該コーティング剤を乾燥させることにより結果的に組成物(Y)が製造されてもよい。
【0068】
[層(III)の厚さ]
本発明の金属製品に含まれる層(III)の厚さは、好ましくは25μm以下であり、より好ましくは0.01~20μm、さらに好ましくは0.03~10μmである。
層(III)の厚さは、例えば、層(III)を形成する際に用いられるコーティング剤中の4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)の濃度によって調整され得る。コーティング剤に含まれる4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)の濃度が低いほど、得られる層(III)の厚さが薄くなる傾向がある。
【0069】
<金属製品>
本発明の金属製品は、上述した金属層(I)と、層(II)と、任意に層(III)を有している。
本発明の金属製品中に含まれる層(II)は、1層であっても2層以上であってもよい。さらに、本発明の金属製品は、層(III)を含む場合、層(III)を1層含んでもよく、また、層(III)を2層以上含んでもよい。本発明の金属製品に層(II)が2層以上含まれる場合は、上述した層(II)の要件を満たす限り、これら層(II)は同一でも異なっていてもよい。同様に、本発明の金属製品に層(III)が2層以上含まれる場合は、上述した層(III)の要件を満たす限り、これら層(III)は同一でも異なっていてもよい。
また、本発明の金属製品に含まれる金属層(I)は、その表面等にプライマー層等の他の層が設けられていてもよい。さらに本発明の金属製品は、金属層(I)、層(II)、層(III)以外の層を有していてもよい。
本発明の金属製品が後述するように樹脂成形用の金型として用いられる場合等は、本発明の金属製品としては、その金属製品の最外層に層(II)もしくは層(III)のいずれかを有し、金属層(I)に直接接している層が層(II)であることが好ましい一形態である。
【0070】
≪金属製品の製造方法≫
本発明のある態様に係る金属製品は、例えば以下の製造方法により好適に製造できる。すなわち、
前記グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)、溶媒(D)、および任意にイソシアネート化合物(C)と組成物(X)に含まれるその他の成分を混合することにより、組成物(X)を溶解したコーティング剤を準備する工程(S1)と、
金属層(I)の表面の一部もしくは全体に、組成物(X)を溶解したコーティング剤を付着させ、溶媒(D)を除去することにより層(II)を形成する工程(S2)と、
を含む方法等により、本発明の金属製品が製造され得る。なお、工程(S2)の後に、さらに、下記の工程(S3)が1回以上行われてもよい。
層(II)の表面の一部もしくは全体に、組成物(X)を溶解したコーティング剤を付着させ、溶媒(D)を除去することにより層(II)を形成する工程(S3)。
【0071】
また、本発明のある態様に係る金属製品は、例えば以下の製造方法により好適に製造できる。すなわち、
前記4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)、溶媒(D)、および任意に組成物(Y)に含まれるその他の成分を混合することにより、組成物(Y)を溶解したコーティング剤を準備する工程(S11)と、
前記グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)、溶媒(D)、および任意にイソシアネート化合物(C)と組成物(X)に含まれるその他の成分を混合することにより、組成物(X)を溶解したコーティング剤を準備する工程(S12)と、
基材層(I)の表面の一部もしくは全体に、組成物(X)を溶解したコーティング剤または、組成物(Y)を溶解したコーティング剤を付着させ、溶媒(D)を除去することにより層(II)または層(III)を形成する工程(S13)と、
層(II)または層(III)の表面の一部もしくは全体に、組成物(X)を溶解したコーティング剤または、組成物(Y)を溶解したコーティング剤を付着させ、溶媒(D)を除去することにより層(II)または層(III)を形成する工程(S14)と、
を含む方法等により、本発明の金属製品が製造され得る。なお、工程(S14)は1回以上行われてもよいが、工程(S13)または工程(S14)のいずれかにより、層(II)が1層以上製造される必要がある。
【0072】
[組成物(X)を溶解したコーティング剤]
組成物(X)を溶解したコーティング剤は、前記組成物(X)を溶媒(D)に溶解させたものである。このため、前記コーティング剤は、前記コーティング剤の調製のために使用される組成物(X)に含まれる成分と溶媒(D)とを含む。例えば、組成物(X)がグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)を100質量%含む場合、前記コーティング剤は、グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)を溶媒(D)に溶解させたものである。また、コーティング剤の調製に用いられる組成物(X)がグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)の他にその他の成分を含む場合、得られるコーティング剤には、これらの物質が含まれる。
【0073】
組成物(X)を溶解したコーティング剤におけるグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)の含有量は、通常、0.01~50質量%であり、好ましくは0.05~30質量%、より好ましくは0.07~25質量%、さらに好ましくは0.1~20質量%、特に好ましくは0.2~20質量%、最も好ましくは0.3~20質量%である。前記コーティング剤における溶媒(D)の含有量は、通常、50~99.99質量%であり、好ましくは70~99.95質量%、より好ましくは75~99.93質量%、さらに好ましくは80~99.9質量%、特に好ましくは80~99.8質量%、最も好ましくは80~99.7質量%である。
【0074】
前記コーティング剤におけるグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)および溶媒(D)の含有量が前記範囲内であることにより、ハンドリング性とコーティング剤から層(II)を形成する際の溶媒の除去のしやすさとのバランスが良好となる。
【0075】
[組成物(Y)を溶解したコーティング剤]
組成物(Y)を溶解したコーティング剤は、前記組成物(Y)を溶媒(D)に溶解させたものである。このため、前記コーティング剤は、前記コーティング剤の調製のために使用される組成物(Y)に含まれる成分と溶媒(D)とを含む。
【0076】
組成物(Y)を溶解したコーティング剤における4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)の含有量は、組成物(X)を溶解したコーティング剤におけるグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)の含有量と同様である。
前記コーティング剤における4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)および溶媒(D)の含有量が前記範囲内であることにより、ハンドリング性とコーティング剤から層(III)を形成する際の溶媒の除去のしやすさとのバランスが良好となる。
【0077】
〔溶媒(D)〕
溶媒(D)は、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)、グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)、およびイソシアネート化合物(C)を溶解することができれば特に制限はないが、有機系溶媒を好適に用いることができる。溶媒(D)としては、例えば、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル等を挙げることができる。さらに、これらの溶媒を2種類以上混合した混合溶媒も、溶媒(D)として使用され得る。これらの中でも、トルエン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、およびこれらの溶媒と酢酸エチルとの混合溶媒等を好適に用いることができる。なお、組成物(X)を溶解したコーティング剤の製造に使用される溶媒(D)は、組成物(Y)を溶解したコーティング剤の製造に使用される溶媒(D)と同じであっても、異なっていてもよい。
【0078】
〔組成物(X)を溶解したコーティング剤の製造方法〕
組成物(X)を溶解したコーティング剤の製造方法は特に限定されず、通常用いられる方法で製造することができる。例えば、溶媒(D)にグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)を添加し、溶媒(D)の沸点以下の温度で、所定の時間攪拌することで、組成物(X)を溶解したコーティング剤を製造することができる。ここで、グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)は前記要件(a)~(c)を満たす4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)の変性物であるため、比較的低い温度の溶媒(D)にも溶解可能である。
【0079】
組成物(X)がイソシアネート化合物(C)を含む場合、イソシアネート化合物(C)は、グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)を溶解した溶媒(D)に添加され得る。また、イソシアネート化合物(C)は、グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)を溶解する前の溶媒(D)に添加されてもよい。この場合、イソシアネート化合物(C)を溶解した溶媒(D)にグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)が添加され得る。さらに、グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)とイソシアネート化合物(C)とが同時に溶媒(D)に添加され得る。また、コーティング剤がグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)およびイソシアネート化合物(C)以外の前記その他の成分を含む場合、前記その他の成分が添加されるタイミングも任意である。
【0080】
〔組成物(Y)を溶解したコーティング剤の製造方法〕
組成物(Y)を溶解したコーティング剤の製造方法は特に限定されず、例えば、溶媒(D)に4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)を添加し、溶媒(D)の沸点以下の温度で、所定の時間攪拌することで、組成物(Y)を溶解したコーティング剤を製造することができる。また、別途準備した4-メチル-1-ペンテン系重合体を熱処理して、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)を調製した後、得られた4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)を溶媒(D)に添加し、溶媒(D)の沸点以下の温度で、所定の時間攪拌することでも、組成物(Y)を溶解したコーティング剤を製造することができる。
【0081】
コーティング剤が4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)以外の前記その他の成分を含む場合、前記その他の成分が添加されるタイミングは、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)を添加する前であってもよく、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)の添加後であってもよく、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)の添加と同時であってもよい。
【0082】
[層(II)もしくは層(III)を形成する工程]
以下、層(II)もしくは層(III)を形成する工程(工程(S2)、(S3)、(S13)もしくは(S14))で行われる処理の例を説明する。工程(S2)または工程(S13)では、具体的には、コーティング剤を、金属層(I)の表面に付着させ、コーティング剤中の溶媒(D)の沸点に近い温度に加熱することでコーティング剤中の溶媒(D)をある程度、除去する。コーティング剤を塗布する方法は、特に限定されないが、はけやブラシを用いた塗布、スプレーによる吹き付け、スクリーン印刷法、フローコーティング、スピンコート、ディッピングによる方法や、バーコーター、Tダイ、バー付きTダイ、ドクターナイフ、ロールコート、ダイコート等を用いてロールや平板に塗布する方法等が挙げられる。
工程(S3)または(S14)では、直近に行われた工程で得られた層(II)もしくは層(III)の表面に、コーティング剤を付着させ、コーティング剤中の溶媒(D)の沸点に近い温度に加熱することで、コーティング剤中の溶媒(D)をある程度、除去する。
【0083】
なお本願でいう溶媒の除去とは、コーティング剤中から溶媒(D)を完全に取り去ることのみを意味するものではなく、コーティング剤中に含まれている4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)またはグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)を層として形成し得る程度に溶媒(D)を取り去ることも含む。具体的には、組成物(X)を溶解したコーティング剤を用いて作製した層(II)、または、組成物(Y)を溶解したコーティング剤を用いて作製した層(III)の質量100%に対して、溶媒が0.001~0.5質量%程度になるまで、溶媒を取り去ることが含まれる。溶媒を除去する方法は特に限定されず、放置することで乾燥してもよいが、一般的には30~220℃で加熱し乾燥することで除去される。また、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)またはグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)の熱劣化や熱分解を防ぐために、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)またはグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)の融点(Tm)以下の温度で溶媒(D)を除去することが好ましい。一方、乾燥温度が低すぎると乾燥時間が長くなるため生産性が悪化し、高すぎると発泡や劣化等の問題が生じる。発泡を防ぎながら短時間で乾燥させるために、2段階以上もしくは連続的に温度を上昇させながら乾燥してもよい。また、乾燥工程の後に水、メタノール、エタノール、アセトン、塩化メチレン等の4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)およびグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)が溶解しにくい溶媒に浸漬する工程、あるいはその溶媒の蒸気雰囲気下に曝す工程を経ることによって層(II)または層(III)に残留する溶媒を低減することもできる。乾燥後の層(II)または層(III)中に残留する溶媒は、0.5質量%以下、好ましくは0.05質量%以下さらに好ましくは0.01質量%以下である。
【0084】
≪金属製品の用途≫
本発明の金属製品に形成された層(II)と層(III)のいずれも離型性と耐熱性とに優れるため、成形用金型、加圧版などの樹脂成形用の金属製品として特に好適に用いることができる。本発明の金属製品は、エポキシ樹脂および炭素繊維強化プラスチック(CFRP)など、比較的接着性が高い樹脂の成形に用いられた場合でも、成形体からの剥離が容易であり、かつ、成形体の表面の平滑性を損ないにくいので、接着性が高い樹脂の成形用の金型に特に適している。
【0085】
<成形体の製造方法>
本発明の金属製品の用途が成形用金型である場合、本発明の金属製品は、以下のような成形体の製造に好適に使用され得る。例えば、
成形対象の樹脂を、本発明に係る金属製品である2つの金型の間に、前記2つの金型の各々が有する層(II)または層(III)が前記樹脂と接するように、真空バック内に配置する工程(1)と、
前記真空バック内を減圧しつつ加熱することにより、前記樹脂を成形する工程(2)と、
工程(2)により得られた樹脂の成形体を、前記2つの金型の各々から取り外す工程(3)と、
を含む、成形体の製造方法などに、本発明の金属製品が使用され得る。
【0086】
また、金型と加圧板のいずれもが本発明の金属製品であってもよい。この場合、例えば、
本発明に係る金属製品である金型に含まれる層(II)が、前記金型に含まれる金属層(I)と成形対象の樹脂との間に位置し、かつ、本発明に係る金属製品である加圧板に含まれる層(II)が、前記加圧板に含まれる金属層(I)と成形対象の樹脂との間に位置するように、前記金型、前記加圧板、および樹脂を配置する工程(11)と、
前記金型と前記加圧板との間に位置する樹脂を、加熱および加圧することにより、成形する工程(12)と、
工程(12)により得られた樹脂の成形体を、前記金型から取り外す工程(13)と、
を含む、成形体の製造方法などに、本発明の金属製品が使用され得る。
なお、前記製造方法において、成形対象の樹脂が金型および加圧板の表面にある層(II)と接していてもよいが、金型および加圧板のうちの1つ以上が表面に層(III)を有していてもよい。金型および加圧板のうちの1つ以上の表面に層(III)が形成されている場合、樹脂は層(III)に接した状態で成形され得る。
【0087】
これらの製造方法で使用される樹脂は特に限定されず、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂のいずれにも使用可能である。また、これらの製造方法で使用される樹脂は、接着性が比較的低い樹脂であってもよく、接着性が高い樹脂であってもよい。接着性の高い樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、多官能エポキシ樹脂、可撓性エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂等のエポキシ樹脂が使用され得る。さらに、これらのエポキシ樹脂のいずれかを含む炭素繊維強化プラスチック(CFRP)などの成形にも、上記の方法が使用され得る。上記方法などの成形方法により本発明の金属製品を金型などとして使用した場合、上記の接着性の高い樹脂の成形に用いられた場合でも、成形体の離型性が良好である。すなわち、本発明の金属製品は、上記接着性の高い樹脂の成形に特に好適に使用することができる。
【実施例0088】
以下、本発明を実施例に基づき更に詳細に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0089】
<重合体の物性の測定方法>
[組成]
4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)中の構成単位(i)の量(4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位の量、U1)、および、構成単位(ii)の総量(α-オレフィンから導かれる構成単位の総量、U2)は、以下の装置および条件により、13C-NMRスペクトルより算出した。
【0090】
日本電子(株)製ECP500型核磁気共鳴装置を用い、溶媒としてo-ジクロロベンゼン/重ベンゼン(80/20容量%)混合溶媒、試料濃度55mg/0.6mL、測定温度120℃、観測核は13C(125MHz)、シーケンスはシングルパルスプロトンデカップリング、パルス幅は4.7μ秒(45°パルス)、繰り返し時間は5.5秒、積算回数は1万回以上、27.50ppmをケミカルシフトの基準値として測定した。得られた13C-NMRスペクトルにより、4-メチル-1-ペンテン、α-オレフィンの組成を定量化した。
なお、グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)中の構成単位(i)および構成単位(ii)の総量は、グラフト変性に用いた4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)の構成単位(i)および構成単位(ii)の総量と同じである。
【0091】
[極限粘度[η]]
極限粘度[η]は、デカリン溶媒を用いて、135℃で測定した。すなわち、試料である4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)またはグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)を約20mg計り取り、デカリン15mLに溶解し、135℃のオイルバス中で比粘度ηspを測定した。このデカリン溶液にデカリン溶媒を5mL追加して希釈後、同様にして比粘度ηspを測定した。この希釈操作をさらに2回繰り返し、濃度(C)を0に外挿したときのηsp/Cの値を極限粘度として求めた(下式参照)。
[η]=lim(ηsp/C) (C→0)
【0092】
[グラフト変性量]
グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)のグラフト変性量(すなわち、変性後のグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)の質量を100質量%とした場合における、変性に使用されたエチレン性不飽和モノマーから導かれる構成単位の含有量)は、以下の方法で求めた。まず、試料とするグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)を250℃、予熱5分、プレス3分で処理してプレスフィルムを作製し、該プレスフィルムに対して、フーリエ変換赤外分光光度計(日本分光株式会社製、FT-IR410型)により、透過法でIR測定を行った。下記実施例では、グラフト変性に無水マレイン酸を用いたため、1860cm-1と4321cm-1のピーク強度より、グラフト変性量を算出した。
【0093】
[融点(Tm)、吸熱終了温度(TmE)、発熱開始温度(TcS)、結晶化温度(Tc)]
4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)とグラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)のいずれについても、セイコーインスツル(株)製のDSC測定装置(DSC220C)を用い、ASTM D3418に準拠して発熱および吸熱曲線を求め、以下のように融点(Tm)、結晶化温度(Tc)、吸熱終了温度(TmE)および発熱開始温度(TcS)を求めた。
【0094】
試料約5mgを測定用アルミパンにつめ、10℃/分の加熱速度で20℃から280℃に昇温し、280℃で5分間保持した後、10℃/分の冷却速度で20℃まで降温し、20℃で5分間保持した後、再度10℃/分の加熱速度で20℃から280℃に昇温した。1回目の降温時に発現した結晶化ピークを、結晶化温度(Tc)とした。結晶化ピークが複数検出された場合は、温度が最大のものを結晶化温度(Tc)とした。2回目の昇温時に発現した融解ピークを、融点(Tm)とした。融解ピークが複数検出された場合は、温度が最大のものを融点(Tm)とした。
【0095】
前記融解(吸熱)曲線の、吸熱が終了したときの温度を吸熱終了温度(TmE)とした。また、前記結晶化(発熱)曲線の、発熱が開始されたときの温度を発熱開始温度(TcS)とした。
【0096】
前記開始および終了点は、吸熱または発熱の、開始または終了時に熱量が一定になるベースラインに対し、ベースラインから曲線が乖離して熱量に差が出始めたことが確認できる点である。
【0097】
<調製例1:(8-オクタメチルフルオレン-12’-イル-(2-(アダマンタン-1-イル)-8-メチル-3,3b,4,5,6,7,7a,8-オクタヒドロシクロペンタ[a]インデン))ジルコニウムジクロライドの調製>
国際公開第2014/123212号の予備実験5(段落0346~0348)に記載の方法を用いて、(8-オクタメチルフルオレン-12’-イル-(2-(アダマンタン-1-イル)-8-メチル-3,3b,4,5,6,7,7a,8-オクタヒドロシクロペンタ[a]インデン))ジルコニウムジクロライドを合成した。
【0098】
<製造例1:重合体1の製造>
充分窒素置換した容量1.5Lの攪拌翼付SUS製オートクレーブに、23℃で4-メチル-1-ペンテン500mLとヘプタン220mLを装入した。このオートクレーブに、1-デセン30mLと、トリイソブチルアルミニウム(TIBAL)の1.0mmol/mLトルエン溶液0.3mLとを続けて装入し、攪拌を開始した。次に、オートクレーブに水素を140mL装入し、オートクレーブを内温60℃まで加熱した。
その後、液体状のメチルアルミノキサンをアルミニウム原子換算で0.039mmol含み、さらに、前記調製例1で得られた(8-オクタメチルフルオレン-12’-イル-(2-(アダマンタン-1-イル)-8-メチル-3,3b,4,5,6,7,7a,8-オクタヒドロシクロペンタ[a]インデン))ジルコニウムジクロライドを0.00013mmol含むトルエン溶液2mLを、窒素でオートクレーブに圧入し、重合を開始した。
重合反応中、オートクレーブ内温が60℃になるように温度調整した。重合開始10分後、オートクレーブにメタノール5mLを窒素で圧入して重合を停止し、オートクレーブを大気圧まで脱圧した。アセトンに反応溶液を攪拌しながら注ぎ、重合体1を析出させた。得られた重合体1を130℃、減圧下で10時間乾燥した。重合体1の各種物性を表1に示す。
【0099】
<製造例2:重合体2の製造>
[合成例2-1:オレフィン重合触媒の製造]
30℃下、充分に窒素置換した200mLの攪拌機を付けた三つ口フラスコ中に、窒素気流下で精製デカン30mLおよび粒子状でありD50が28μm、アルミニウム原子含有量が43質量%である固体状ポリメチルアルミノキサン(国際公開第2014/123212号に記載の方法を用いて合成)をアルミニウム原子換算で14.65mmol装入し、懸濁液とした。その懸濁液に、前記調製例1で得られた(8-オクタメチルフルオレン-12’-イル-(2-(アダマンタン-1-イル)-8-メチル-3,3b,4,5,6,7,7a,8-オクタヒドロシクロペンタ[a]インデン))ジルコニウムジクロライド50.0mg(0.0586mmol)を4.58mmol/Lのトルエン溶液として撹拌しながら加えた。1時間後、攪拌を止め、得られた混合物をデカンテーション法によりデカン100mLで洗浄した後、デカンを加え50mLのスラリー液とした(ジルコニウム原子担持率98%)。
【0100】
[合成例2-2:予備重合触媒成分の調製]
合成例2-1で調製したスラリー液に、25℃、窒素気流下でトリイソブチルアルミニウム(TIBAL)のデカン溶液(アルミニウム原子換算で0.5mmol/mL)を1.0mL装入した。15℃に冷却した後、4-メチル-1-ペンテン10mLを60分かけて反応器内に装入した。4-メチル-1-ペンテンの装入開始時点を予備重合開始とした。予備重合開始から2.0時間後に攪拌を止め、得られた混合物をデカンテーション法によりデカン100mLで3回洗浄した。予備重合触媒成分はデカンスラリー(9.5g/L、ジルコニウム原子換算で0.56mmol/L)とした。
【0101】
[重合体2aの製造]
室温、窒素気流下で、内容積1Lの攪拌機を付けたSUS製重合器に、精製デカンを425mL挿入し40℃まで昇温した。40℃到達後、トリイソブチルアルミニウム(TIBAL)のデカン溶液(アルミニウム原子換算で0.5mmol/mL)を0.8mL(アルミニウム原子換算で0.4mmol)装入し、次いで前記合成例2-2の予備重合触媒成分のデカンスラリーをジルコニウム原子換算で0.00175mmol装入した。水素を23.75NmL装入し、次いで、4-メチル-1-ペンテン230mLとリニアレン168(出光興産製、1-ヘキサデセンと1-オクタデセンの混合物)22.4mLとの混合液を2時間かけて重合器内へ連続的に一定の速度で装入した。前記混合液の装入開始時点を重合開始とし、45℃で4.5時間保持した。重合開始から1時間後および2時間後にそれぞれ水素を23.75NmL装入した。重合開始から4.5時間経過後、室温まで降温し、脱圧した後、ただちに白色固体を含む重合液を濾過して固体状物質を得た。この固体状物質を減圧下、80℃で8時間乾燥し、重合体2aを得た。収量は142gであった。
重合体2a中の構成単位の含有量を求めたところ、4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位の含有量は96.5モル%、α-オレフィンから導かれる構成単位の含有量は3.5モル%であった。重合体2aの融点(Tm)は201℃であり、極限粘度[η](135℃デカリン中)は4.2dl/gであった。
【0102】
[重合体2の製造]
重合体2aに、耐熱安定剤としてフェノール系安定剤Irganox1010 0.02phr(チバBASF製)を配合し、東洋精機製作所社製ラボプラストミルのミキサーを使用して、樹脂温度280℃、スクリュー回転数150rpmで混錬することにより、重合体2を得た。
重合体2中の構成単位の量は、重合体2aと同じである。重合体2の融点(Tm)は201℃であり、極限粘度[η](135℃デカリン中)は1.0dl/gであった。重合体2のその他の物性を表1に示す。
【0103】
<製造例3:重合体3の製造>
充分窒素置換した容量1.5Lの攪拌翼付SUS製オートクレーブに、23℃で4-メチル-1-ペンテン500mLとヘプタン230mLを装入した。このオートクレーブに、1-デセン15mLと、トリイソブチルアルミニウム(TIBAL)の1.0mmol/mLトルエン溶液0.3mLとを続けて装入し、攪拌を開始した。次に水素を140mL装入し、オートクレーブを内温60℃まで加熱した。
その後、予め調製しておいた液体状のメチルアルミノキサンをアルミニウム原子換算で0.06mmol含み、さらに、前記調製例1で得られた(8-オクタメチルフルオレン-12’-イル-(2-(アダマンタン-1-イル)-8-メチル-3,3b,4,5,6,7,7a,8-オクタヒドロシクロペンタ[a]インデン))ジルコニウムジクロライドを0.0002mmol含むトルエン溶液2mLを、窒素でオートクレーブに圧入し、重合を開始した。
重合反応中、オートクレーブ内温が60℃になるように温度調整した。重合開始30分後、オートクレーブにメタノール5mLを窒素で圧入して重合を停止し、オートクレーブを大気圧まで脱圧した。アセトンに反応溶液を攪拌しながら注ぎ、重合体3を析出させた。得られた重合体3を130℃、減圧下で10時間乾燥した。得られた重合体3の各種物性を表1に示す。
【0104】
<製造例4:重合体4の製造>
得られた重合体2を100重量部、無水マレイン酸を2重量部、有機過酸化物として、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3を0.02重量部、配合し、東洋精機製作所社製ラボプラストミルのミキサーを使用して、樹脂温度280℃、スクリュー回転数150rpmで混錬することにより、重合体4を得た。重合体4中の構成単位の量は、重合体2と同じである。得られた重合体4の各種物性を表1に示す。
【0105】
<製造例5:重合体5の製造>
重合体2の代わりに重合体3を用いた以外は重合体4の製造と同様の方法で重合体5を得た。重合体5中の構成単位の量は、重合体3と同じである。得られた重合体5の各種物性を表1に示す。
【0106】
【表1】
【0107】
<製造例6:変性RT18の製造>
重合体2の代わりに、TPX(登録商標)R18(三井化学株式会社製、4-メチル-1-ペンテン重合体、融点232℃、密度833kg/m、MFR(260℃、5kg荷重)26g/10分)を用いた以外は重合体4の製造と同様の方法で変性RT18を得た。得られた変性RT18は、融点232℃、グラフト変性量1.5質量%であった。
【0108】
<原材料>
以下の調製例で使用した原材料は以下のとおりである。
・「4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)」:前記製造例1~3により製造された重合体1~3
・「グラフト変性4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)」:前記製造例4、5により製造された重合体4、5
・「RT18」:三井化学株式会社製TPX(登録商標)4-メチル-1-ペンテン重合体、融点(Tm)232℃、密度833kg/m、MFR(260℃、5kg荷重)26g/10分
・「変性RT18」:前記製造例6により製造。
・「イソシアネート化合物(C)」:タケネートD170N(三井化学株式会社製、ヘキサメチレンジイソシアネートの3量体(HDIのイソシアヌレート変性体)、イソシアネート基含有量20.7質量%)
・「溶媒(D)」:メチルシクロヘキサン(和光純薬工業株式会社製)
【0109】
<組成物(X)を溶解したコーティング剤の調製>
[調製例1:組成物(X1a)を溶解したコーティング剤の調製]
10gの重合体4に対して(すなわち、重合体4の質量を100質量%として)、酸化防止剤としてのトリ(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)フォスフェートを0.1質量%、耐熱安定剤としてのn-オクタデシル-3-(4’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-ブチルフェニル)プロピオネートを0.1質量%添加し、固形分濃度が6.25質量%になるように、溶媒(D)としてメチルシクロヘキサン(和光純薬工業株式会社製)を添加して、90℃、3時間、200rpmで攪拌した。その後、固形分濃度が5質量%になるよう酢酸エチル(和光純薬工業株式会社製)を添加して60℃、15分、200pmで撹拌することで、重合体4を含む組成物(X1a)を溶解したコーティング剤を調製した。
【0110】
[調製例2:組成物(X1)を溶解したコーティング剤の調製]
組成物(X1a)を溶解したコーティング剤を23℃へ降温後、タケネートD170N(三井化学株式会社製)を0.01質量%(ただし、コーティング剤中の重合体4の質量を100質量%とする)添加して5分間、200rpmで攪拌し、重合体4とイソシアネート化合物(C)とを含む組成物(X1)を溶解したコーティング剤を調製した。
【0111】
[調製例3:組成物(X2a)を溶解したコーティング剤の調製]
重合体4の代わりに重合体5を用いた以外は組成物(X1a)を溶解したコーティング剤の調製と同様の方法で組成物(X2a)を溶解したコーティング剤を調製した。
【0112】
[調製例4:組成物(X2)を溶解したコーティング剤の調製]
組成物(X1a)を溶解したコーティング剤の代わりに組成物(X2a)を溶解したコーティング剤を用いた以外は、組成物(X1)を溶解したコーティング剤の調製と同様の方法で、組成物(X2)を溶解したコーティング剤を調製した。
【0113】
<組成物(Y)を溶解したコーティング剤の調製>
[調製例5:組成物(Y1)を溶解したコーティング剤の調製]
10gの重合体1に対して(すなわち、重合体1の質量を100質量%として)、酸化防止剤としてのトリ(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)フォスフェートを0.1質量%、耐熱安定剤としてのn-オクタデシル-3-(4’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-ブチルフェニル)プロピオネートを0.1質量%添加し、固形分濃度がコーティング剤の5質量%になるように、溶媒(D)としてメチルシクロヘキサン(和光純薬工業株式会社製)を添加して、90℃、3時間、200rpmで攪拌して重合体1を含む組成物(Y1)を溶解したコーティング剤を製造した。
【0114】
[調製例6:組成物(Y2)を溶解したコーティング剤の調製]
重合体1の代わりに重合体2を用いた以外は、組成物(Y1)を溶解したコーティング剤の調製と同様の方法で、組成物(Y2)を溶解したコーティング剤を製造した。
【0115】
[調製例7:組成物(Y3)を溶解したコーティング剤の調製]
重合体1の代わりに重合体3を用いた以外は、組成物(Y1)を溶解したコーティング剤の調製と同様の方法で、組成物(Y3)を溶解したコーティング剤を製造した。
【0116】
<比較例で使用したコーティング剤の調製>
[調製例8:組成物(CX1)を溶解したコーティング剤の調製]
重合体4の代わりに「変性RT18」を用いた以外は、組成物(X1a)を溶解したコーティング剤の調製と同様の方法で、組成物(CX1)を溶解したコーティング剤を製造した。
【0117】
[調製例9:組成物(CY1)を溶解したコーティング剤の調製]
重合体1の代わりに「RT18」を用いた以外は、組成物(Y1)を溶解したコーティング剤の調製と同様の方法で、組成物(CY1)を溶解したコーティング剤を製造した。
【0118】
[コーティング剤の保存安定性]
上記で得られたコーティング剤の各々に対し、調製直後から240時間、室温(23℃)で保管した後、目視で下記評価基準にて評価を行った。各コーティング剤についての評価結果を、該コーティング剤を使用して作成された層を含む金属製品に対応付けて、表2および表3に示す。
(評価基準)
○:コーティング剤が可視光線下、目視で透明であり、かつ流動性があった。
△:コーティング剤が白濁しているが流動性があった。
×:流動性が見られなかった。
【0119】
<実施例1>
[金属製品の作製]
塗布した組成物の乾燥後に得られる組成物からなる層の厚さが0.1μmとなるように、アプリケーターの設定を調整した。組成物(X1a)を溶解したコーティング剤を25℃で、鋼製の金型(表2では、「鋼」と記載)に塗布してアプリケーターで均一に伸ばした後、80℃で60秒乾燥させ、層(II)を作製した。
その後、層(II)の上に、組成物(Y1)を溶解したコーティング剤を塗布してアプリケーターで均一に伸ばした後、100℃で3時間乾燥し、層(III)を作製し、金属製品を得た。
【0120】
[テープ剥離試験]
得られた金属製品の表面(金属層(I)と反対側の最外層)に対し、粘着テープ(ニチバン(株)製、セロテープ(登録商標))を貼り付けた後、これを速やかに90度の方向に引っ張って剥離させ、金属製品の最外層の耐剥離性を下記評価基準にて評価した。結果を表2に示す。
(評価基準)
○:最外層は剥離しなかった。
×:最外層は剥離した。
【0121】
[碁盤目試験]
得られた金属製品の表面(金属層(I)と反対側の最外層)に対し、JIS K5400に記載されている碁盤目試験の方法に準じて、碁盤目を付けて試験片を作製した。粘着テープ(ニチバン(株)製、セロテープ(登録商標))を試験片の碁盤目上に貼り付けた後、これを速やかに90度の方向に引っ張って剥離させ、碁盤目100個のうちで剥離されなかった碁盤目の個数を数え、金属製品の最外層の耐剥離性の指標とした。すなわち、剥離されなかった個数が多いほど、最外層が剥離しにくい金属製品であることを意味する。実施例1の金属製品では、碁盤目100個の全てが剥離され、残った碁盤目は0個であった。得られた試験結果を表2に示す。
【0122】
[繊維強化樹脂(CFRP)成形時の評価]
得られた金属製品を用い、以下の成形方法によりCFRP樹脂の成形を行って、金属製品からの成形体の剥離しやすさ、および成形体の表面の平滑性の評価を行った。
【0123】
〔CFRP樹脂の成形方法〕
炭素繊維にエポキシ樹脂を含侵させたプリプレグを4層重ねて厚さ1mmとして、実施例で得られた金属製品を金型として用いて、真空バッグ成形にてCFRP樹脂成形体を作製した。成形は、昇温1℃/minで115℃まで昇温して3h保持し、昇温1℃/minで180℃まで昇温して3h保持して、室温まで炉冷した。
【0124】
〔CFRP樹脂成形体の剥離性〕
CFRP樹脂成形体が付着した状態の金属製品から、CFRP樹脂成形体を手で剥がし、その際の金属製品からのCFRP樹脂成形体の剥離性を、以下の評価基準で評価した。評価結果を表2に示す。
(評価基準)
○:手で引っ張るとCFRP樹脂成形体が簡単に剥がれた。
×:CFRP樹脂成形体が金属製品に密着しており、手では剥がせなかった。
【0125】
〔CFRP樹脂成形体の表面状態〕
CFRP樹脂成形体の剥離性評価後の、CFRP樹脂成形体の表面状態を観察し、以下の評価基準で評価した。評価結果を表2に示す。
(評価基準)
○:CFRP樹脂成形体の表面に、しわが目視で発見されず、凹凸も目視で発見されなかった。
×:CFRP樹脂成形体の表面に、しわか凹凸のいずれか1つ以上が目視で発見された。
【0126】
<実施例2~7>
層(II)および層(III)の作製時に用いたコーティング剤を、表2に示す組成物を溶解したものに変えた他は、実施例1と同様に金属製品の作製と評価を行った。得られた結果を表2に示す。
【0127】
<実施例8~11>
金属層(I)としてアルミニウム製の金型(表3では「アルミニウム」と記載)を用い、層(II)および層(III)の作製時に用いたコーティング剤を、表3に示す組成物を溶解したものに変えた他は、実施例1と同様に金属製品の作製と評価を行った。得られた結果を表3に示す。
【0128】
<比較例1>
実施例1の金属製品を作製する際に用いた鋼製の金型を、層(II)と層(III)のいずれも作製せずに金型として用い、実施例1と同様にCFRP樹脂を成形した。CFRP樹脂の成形時の評価結果を表3に示す。
【0129】
<比較例2>
実施例8の金属製品を作製する際に用いたアルミニウム製の金型を、層(II)と層(III)のいずれも作製せずに金型として用い、実施例1と同様にCFRP樹脂を成形した。CFRP樹脂の成形時の評価結果を表3に示す。
【0130】
<比較例3>
層(II)および層(III)の作製時に用いたコーティング剤を、表2に示す組成物を溶解したものに変えた他は、実施例1と同様に金属製品の作製と評価を行った。しかしながら、組成物(CX1)を溶解したコーティング剤と組成物(CY1)を溶解したコーティング剤のいずれも保存安定性が悪く、良好な層を形成できなかった。このため、テープ剥離試験と碁盤目試験を行うことはできなかった。また、金属層の上にコーティング剤の層が形成されていないので、CFRP樹脂の成形も行うことはできなかった。得られた結果を表3に示す。評価を行っていない項目については表3では「評価不可」と記載している。
【0131】
【表2】
【0132】
【表3】
【0133】
実施例1~11のいずれにおいても、得られた金属製品の層(III)はテープ剥離試験では剥離されず、CFRPのような接着性の高い樹脂を成形した場合であっても、成形体の剥離性が良好であり、かつ、得られた成形体の表面状態も良好であった。イソシアネート(C)を含まない組成物(X)から層(II)を鋼上に作製した実施例1~3では碁盤目試験により碁盤目が剥離されたが、実施例1~3においてもCFRPのような接着性の高い樹脂の成形体の表面に金属製品の層(III)が剥離することなく、表面状態の良好な成形体が得られた。また、金属層(I)として鋼を用いた場合であっても、イソシアネート(C)を含む組成物(X)から層(II)を作製した実施例4~7では、碁盤目試験で剥離が見られず、接着性がより高くなった。
一方、金属層(I)に層(II)が形成されていない比較例1、2を用いてCFRPを成形した場合には、成形体の離型性が悪く、得られた成形体の表面状態も悪かった。