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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024021329
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】車両駆動制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/02 20120101AFI20240208BHJP
   F16H 48/30 20120101ALI20240208BHJP
   B60T 8/1755 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
B60W30/02
F16H48/30
B60T8/1755 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022124080
(22)【出願日】2022-08-03
(71)【出願人】
【識別番号】517175611
【氏名又は名称】ジーケーエヌ オートモーティブ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】矢口 裕
【テーマコード(参考)】
3D241
3D246
3J027
【Fターム(参考)】
3D241BA18
3D241BC01
3D241CA03
3D241CC08
3D241CC15
3D241DA04Z
3D241DA13Z
3D241DA39Z
3D241DA52Z
3D241DB02Z
3D241DB05Z
3D241DB09Z
3D241DB13Z
3D241DB32Z
3D241DC45Z
3D241DC53Z
3D246DA01
3D246EA13
3D246GB04
3D246GC16
3D246HA08A
3D246HA25A
3D246HA26A
3D246HA64A
3D246HA82A
3D246HA93A
3D246HB21A
3D246JA01
3D246JB11
3J027FA34
3J027FB04
3J027HD01
3J027HE05
3J027HF13
3J027HF41
3J027HF44
3J027HG01
3J027HH01
3J027HH06
3J027HK02
3J027HK03
3J027HK05
3J027HK06
3J027HK15
3J027HK22
3J027HK32
3J027HK33
3J027HK47
(57)【要約】
【課題】制御を簡素化でき、差動制限機能を十分に発揮することができる車両駆動制御装置を提供する。
【解決手段】差動機構と、差動機構の差動を制限するクラッチと、クラッチを作動させる第1アクチュエータ3と、車両の走行姿勢を安定化させる姿勢安定機構5と、姿勢安定機構5を作動させる第2アクチュエータ7と、車両の走行状態を検出するセンサ9と、第1アクチュエータ3と第2アクチュエータ7とに電気的に接続され、センサ9から検出された情報に基づき、第1アクチュエータ3と第2アクチュエータ7とを作動可能に制御する制御部11とを備えた車両駆動制御装置1において、制御部11が、第1アクチュエータ3の作動を制御する差動制限制御部13と、第2アクチュエータ7の作動を制御する姿勢制御部15とを有した。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転可能に配置され入力トルクが入力される入力部材と、相対回転可能に配置され前記入力部材から伝達される前記入力トルクを分配する一対の出力部材とを有する差動機構と、
前記差動機構の差動を制限するクラッチと、
前記クラッチを作動させる第1アクチュエータと、
車両の走行姿勢を安定化させる姿勢安定機構と、
前記姿勢安定機構を作動させる第2アクチュエータと、
車両の走行状態を検出するセンサと、
前記第1アクチュエータと前記第2アクチュエータとに電気的に接続され、前記センサから検出された情報に基づき、前記第1アクチュエータと前記第2アクチュエータとを作動可能に制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記第1アクチュエータの作動を制御する差動制限制御部と、前記第2アクチュエータの作動を制御する姿勢制御部とを有する車両駆動制御装置。
【請求項2】
前記センサは、複数設けられ、
前記差動制限制御部と前記姿勢制御部とは、複数の前記センサの検出情報のうち、それぞれに入力を設定された検出情報を取得する請求項1に記載の車両駆動制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、車両の走行状態によって、前記差動制限制御部と前記姿勢制御部とのうちいずれか一方の制御部の制御を優先する制御判断部を有し、
他方の制御部によって制御されるアクチュエータは、少なくとも通常より小さい作動量を付加される請求項1又は2に記載の車両駆動制御装置。
【請求項4】
前記差動制限制御部と前記姿勢制御部とは、それぞれが独立した制御部として構成されている請求項1又は2に記載の車両駆動制御装置。
【請求項5】
前記差動制限制御部と前記姿勢制御部とは、統合された1つの制御部として構成されている請求項1又は2に記載の車両駆動制御装置。
【請求項6】
前記姿勢安定機構は、前記一対の出力部材の回転を制動するブレーキである請求項1又は2に記載の車両駆動制御装置。
【請求項7】
前記差動制限制御部は、前記入力トルクと、前記一対の出力部材におけるトルク比とに基づき、前記第1アクチュエータの作動を制御する請求項1又は2に記載の車両駆動制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両駆動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両駆動制御装置としては、回転可能に配置され入力トルクが入力される入力部材と、相対回転可能に配置され入力部材から伝達される入力トルクを分配する一対の出力部材とを有する差動機構を備えている。また、差動機構の差動を制限するクラッチと、クラッチを作動させる第1アクチュエータと、第1アクチュエータと電気的に接続され、第1アクチュエータを作動可能に制御する第1制御部とを備えたものが知られている(特許文献1参照)。
【0003】
この車両駆動制御装置では、第1アクチュエータを作動させ、クラッチを締結させることにより、差動機構の差動を制限し、一対の出力部材から分配されるトルクを制御し、車両の直進安定性を保持している。このような車両駆動制御装置において、第1制御部は、予め定められた基準差動制限力を、車速に応じて補正し、補正された差動制限力となるように、第1アクチュエータの作動を制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-215432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記特許文献1のような従来の車両駆動制御装置では、車両の走行姿勢を安定化させる、例えば、ブレーキなどの姿勢安定機構を備えている。また、従来の車両駆動制御装置では、姿勢安定機構を作動させる第2アクチュエータを備えている。さらに、従来の車両駆動制御装置では、第2アクチュエータと電気的に接続され、第2アクチュエータを作動可能に制御する第2制御部を備えている。
【0006】
しかしながら、従来の車両駆動制御装置では、第1制御部において、差動制限制御に関するセンサ情報に加えて、車両姿勢制御に関するセンサ情報に基づき、第1アクチュエータの作動を制御していた。このため、第2制御部とは別に、第1制御部が車両姿勢制御を行うので、差動制限機能を十分に発揮できないことがあった。加えて、第1制御部において、車両姿勢制御を行うと、制御が複雑化していた。
【0007】
そこで、この発明は、制御を簡素化でき、差動制限機能を十分に発揮することができる車両駆動制御装置の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本実施形態に係る車両駆動制御装置は、回転可能に配置され入力トルクが入力される入力部材と、相対回転可能に配置され前記入力部材から伝達される前記入力トルクを分配する一対の出力部材とを有する差動機構と、前記差動機構の差動を制限するクラッチと、前記クラッチを作動させる第1アクチュエータと、車両の走行姿勢を安定化させる姿勢安定機構と、前記姿勢安定機構を作動させる第2アクチュエータと、車両の走行状態を検出するセンサと、前記第1アクチュエータと前記第2アクチュエータとに電気的に接続され、前記センサから検出された情報に基づき、前記第1アクチュエータと前記第2アクチュエータとを作動可能に制御する制御部とを備え、前記制御部は、前記第1アクチュエータの作動を制御する差動制限制御部と、前記第2アクチュエータの作動を制御する姿勢制御部とを有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、制御を簡素化でき、差動制限機能を十分に発揮することができる車両駆動制御装置を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態に係る車両駆動制御装置が適用された車両の動力系の一例を示す概略図である。
図2】本実施形態に係る車両駆動制御装置が適用された車両の動力系の他例を示す概略図である。
図3】本実施形態に係る車両駆動制御装置の差動制限制御部と姿勢制御部とが独立した制御部として構成された場合のブロック図である。
図4】本実施形態に係る車両駆動制御装置の差動制限制御部と姿勢制御部とが統合された1つの制御部として構成された場合のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を用いて本実施形態に係る車両駆動制御装置について詳細に説明する。なお、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率と異なる場合がある。
【0012】
まず、図1を用いて本実施形態に係る車両駆動制御装置1が適用される車両の動力系の一例について説明する。
【0013】
図1に示すように、車両の動力系は、エンジンや電動モータなどの駆動源101と、駆動源101からの駆動力を前輪側と後輪側とに伝達するトランスファ103と、後輪側プロペラシャフト105とを備えている。また、後輪側の左右輪の差動を許容するデファレンシャル装置としてのリヤデフ107と、後車軸109,109と、後輪111,111とを備えている。さらに、前輪側プロペラシャフト113と、前輪側の左右輪の差動を許容するデファレンシャル装置としてのフロントデフ115と、前車軸117,117と、前輪119,119などを備えている。
【0014】
この車両の動力系では、駆動源101からトランスミッション121を介して入力される駆動力がトランスファ103に伝達される。トランスファ103に伝達された駆動力は、常時、後輪側プロペラシャフト105を介してリヤデフ107に伝達され、後車軸109,109を介して後輪111,111に駆動力が配分される。
【0015】
一方、トランスファ103に伝達された駆動力は、例えば、トランスファ103に設けられた断続機構(不図示)で断続される。トランスファ103の断続機構が接続状態であると、前輪側プロペラシャフト113を介してフロントデフ115に伝達され、前車軸117,117を介して前輪119,119に駆動力が配分され、車両が前後輪駆動の4輪駆動状態となる。トランスファ103の断続機構が接続解除状態であると、前輪側プロペラシャフト113からフロントデフ115への動力伝達が遮断され、前輪119,119側に駆動力が伝達されず、車両が後輪駆動の2輪駆動状態となる。
【0016】
次に、図2を用いて本実施形態に係る車両駆動制御装置1が適用される車両の動力系の他例について説明する。
【0017】
図2に示すように、車両の動力系は、前輪側の主駆動系と、後輪側の副駆動系とに大別される。
【0018】
主駆動系は、電動モータからなる主駆動源201と、減速機構203と、前輪側の左右輪の差動を許容するデファレンシャル装置としてのフロントデフ205と、前車軸207,207と、前輪209,209などを備えている。主駆動系では、主駆動源201から減速機構203を介して駆動力がフロントデフ205に伝達され、前車軸207,207を介して前輪209,209に駆動力が配分される。
【0019】
副駆動系は、電動モータからなる副駆動源211と、減速機構213と、後輪側の左右輪の差動を許容するデファレンシャル装置としてのリヤデフ215と、後車軸217,217と、後輪219,219などを備えている。副駆動系では、副駆動源211から減速機構213を介して駆動力がリヤデフ215に伝達され、後車軸217,217を介して後輪219,219に駆動力が配分される。
【0020】
この車両の動力系では、車両が、主に主駆動源201によって駆動され、前輪駆動の2輪駆動状態となる。副駆動源211は、主にジェネレータとして機能して電源に充電させ、例えば、悪路走行時などに、駆動源として機能して、車両を前後輪駆動の4輪駆動状態とし、車両の走行をアシストする。
【0021】
図1図2に示す車両の動力系において、車両駆動制御装置1は、差動機構(不図示)と、クラッチ(不図示)と、第1アクチュエータ3とを備えている。差動機構とクラッチと第1アクチュエータ3とは、デファレンシャル装置に適用されている。また、車両駆動制御装置1は、姿勢安定機構5と、第2アクチュエータ7と、センサ9と、制御部11とを備えている。
【0022】
差動機構は、デフケースからなる入力部材と、ピニオンシャフトと、ピニオンと、一対のサイドギヤからなる出力部材とを備えている。
【0023】
入力部材は、キャリアなどの静止系部材に回転可能に支持されている。入力部材は、駆動源からの駆動力によって回転駆動される。入力部材には、ピニオンシャフトと、ピニオンと、一対の出力部材などが収容されている。
【0024】
ピニオンシャフトは、入力部材に収容され、入力部材と一体に回転駆動される。ピニオンシャフトの端部には、ピニオンが支承されている。
【0025】
ピニオンは、入力部材に複数収容されている。ピニオンは、ピニオンシャフトに支承されて入力部材の回転によって公転する。ピニオンは、噛み合っている一対の出力部材に差回転が生じると回転駆動されるようにピニオンシャフトに自転可能に支持されている。ピニオンは、入力部材に入力された駆動力を一対の出力部材に伝達する。
【0026】
一対の出力部材は、入力部材に相対回転可能に収容されている。一対の出力部材は、それぞれピニオンと噛み合っている。一対の出力部材は、左右の車軸に一体回転可能に連結された一対の出力軸が一体回転可能に連結されている。
【0027】
このような差動機構は、駆動源からの入力トルクが入力部材に入力される。入力部材に入力された入力トルクは、ピニオンを介して一対の出力部材に伝達される。一対の出力部材に伝達された入力トルクは、左右の車輪に分配して出力される。差動機構における差動は、クラッチによって制限される。
【0028】
クラッチは、例えば、入力部材と一方の出力部材との間に配置された複数の外側クラッチ板と、複数の内側クラッチ板とを備えた多板クラッチとなっている。複数の外側クラッチ板は、入力部材と一体回転可能で軸方向移動可能に配置されている。複数の内側クラッチ板は、複数の外側クラッチ板に対して軸方向に交互に配置され、一方の出力部材と一体回転可能で軸方向移動可能に配置されている。
【0029】
クラッチは、滑り摩擦を伴い伝達トルクを中間制御可能な制御型の複数のクラッチ板からなる摩擦クラッチとなっている。クラッチは、締結量に応じて、出力部材と一方の出力部材とを接続し、差動機構における差動を制限する。差動機構の差動を摩擦的に制限する機構を有するデファレンシャル装置は、リミテッドスリップデファレンシャル(LSD)と称される。
【0030】
なお、クラッチは、例えば、入力部材と一対の出力部材との間に配置されたコーンクラッチなどの摩擦クラッチであってもよく、差動制限力を発生できるクラッチであれば、どのようなクラッチであってもよい。クラッチは、第1アクチュエータによって作動される。
【0031】
第1アクチュエータ3は、例えば、電動モータ(不図示)の回転を、カム機構(不図示)で軸方向推力に変換する電動モータ式アクチュエータからなる。第1アクチュエータ3は、電動モータが、制御部11に電気的に接続されている。電動モータは、制御部11によって制御された通電により、モータ軸の回転位置や回転速度が制御される。第1アクチュエータ3は、モータ軸の回転をカム機構で軸方向推力に変換し、クラッチを、制御部11によって制御された通電量に応じて締結させる。
【0032】
なお、第1アクチュエータ3は、電磁式アクチュエータ、油圧式アクチュエータなどであってもよく、通電によって作動するアクチュエータであれば、どのようなアクチュエータであってもよい。
【0033】
姿勢安定機構5は、複数の車輪と車軸との間にそれぞれ設けられ、車輪の回転、すなわち出力部材の回転を制動するブレーキとなっている。姿勢安定機構5は、車両の走行時に、例えば、車両に横すべりが生じたときに、車輪の回転を制動し、車両の走行姿勢を保持する。姿勢安定機構5は、第2アクチュエータ7によって作動される。
【0034】
第2アクチュエータ7は、例えば、油圧機構(不図示)の油圧によって、ピストン(不図示)を作動させる油圧式アクチュエータからなる。第2アクチュエータ7は、油圧機構が、制御部11に電気的に接続されている。油圧機構は、制御部11によって制御された通電により、ピストンを作動させる油圧が制御される。第2アクチュエータ7は、ピストンを作動し、姿勢安定機構5を、制御部11によって制御された通電量に応じて締結させる。
【0035】
なお、第2アクチュエータ7は、電磁式アクチュエータ、電動モータ式アクチュエータなどであってもよく、通電によって作動するアクチュエータであれば、どのようなアクチュエータであってもよい。
【0036】
センサ9は、例えば、駆動源からの入力トルクを検出するトルクセンサ、アクセルの状況を検出するアクセルセンサ、車軸や車輪の回転を検出する回転センサ、駆動源やトランスミッションの状況を検出する駆動センサ、車速センサなどを備えている。なお、車速センサから直接車速を検知してもよいが、前後左右車輪に設けられた回転センサが検知した回転に基づいて車速を演算してもよい。
【0037】
センサ9は、上述した各種センサの他に、例えば、姿勢安定機構5の状況を検出するブレーキセンサ、グリップ限界センサ、左右輪差回転センサ、車両の横傾斜状況を検出する横傾斜センサ、車両の横加速度を検出する横加速度センサなどを備えている。
【0038】
センサ9は、上述した各種センサの他に、例えば、加減速フィールセンサ、操舵角センサ、前後輪差回転センサ、ヨーモーメントセンサ、油温センサ、外気温センサ、加速度センサなどを備えている。
【0039】
このような複数のセンサ9は、制御部11と電気的に接続され、制御部11が、各種センサ情報を受信可能となっている。制御部11は、必要なセンサ情報を選択して算出、演算又は記録チャートとの対比が可能であり、車両に搭載された各機構に制御情報を出力して各機構の作動を制御する。制御部11は、差動制限制御部13と、姿勢制御部15と、制御判断部17とを備えている。
【0040】
ここで、従来の差動制限制御部では、例えば、車速センサ、左右輪差回転センサ、ヨーモーメントセンサなど、様々なセンサの情報に基づき、第1アクチュエータの作動を制御していた。従来の差動制限制御部では、様々な状況に応じて、差動機構の差動制限を行うので、運転者は高い運転技術を有していなくても、走行が困難な路面において、車両を走行させることができる。
【0041】
しかしながら、高い運転技術を有する、或いは熟練の運転者では、様々な状況に応じて差動機構の差動制限を行う従来の差動制限制御部が介在すると、意図しない動作で車両が予期せぬ挙動を示し、車両を思い通りに走行することができないことがあった。このような運転者には、第1アクチュエータ3と差動制限制御部を有さない機械式LSDの方が挙動を感覚的に把握し易いので好まれる。このため、従来の差動制限制御部を有する電子制御LSDであっても、機械式LSDのような挙動を示す車両が望まれていた。
【0042】
そこで、差動制限制御部13は、機械式LSDに近似した制御を行う。ここで、機械式LSDにおける差動制限特性は、一対の出力部材のトルク比(トルクバイアスレシオ:TBR)によって評価される。TBRは、低回転側のトルクと、高回転側のトルクとの比で表される。目標とするTBRとなるように必要なクラッチのロック率は、(TBR-1)/(TBR+1)の式によって求められる。機械式LSDでは、入力トルクがTであって、クラッチのロック率がCであるときのクラッチのクラッチトルクは、T×Cの式によって求めることができる。
【0043】
そこで、差動制限制御部13は、機械式LSDの差動制限特性を有するように、第1アクチュエータ3の作動を制御する。差動制限制御部13は、トルクセンサから駆動源からの入力トルクの検出値が入力される。差動制限制御部13には、入力トルクに対する一対の出力部材のトルク比(TBR)が記憶されている。
【0044】
差動制限制御部13は、入力トルクから選択されたTBRに応じて、クラッチにおけるロック率を算出する。差動制限制御部13は、入力トルクと算出されたロック率とからクラッチにおけるクラッチトルクを算出する。差動制限制御部13は、算出されたクラッチトルクとなるように、第1アクチュエータ3における電動モータへの通電を制御し、クラッチの締結量を制御する。差動制限制御部13によるクラッチのクラッチトルクの制御により、所望のTBRを有する機械式LSDと近似する差動制限特性を得ることができる。
【0045】
ここで、機械式LSDでは、一方の駆動輪が空転したときに、高回転側(空転側)のトルクが0となることを防止するために、クラッチに予圧を付与して、クラッチにイニシャルトルクを生じさせることがある。そこで、差動制限制御部13には、クラッチに予圧が付与されている場合、クラッチで生じるイニシャルトルクが記憶されている。差動制限制御部13は、算出されたクラッチトルクにイニシャルトルクを加えて補正し、補正されたクラッチトルクとなるように、第1アクチュエータ3における電動モータへの通電を制御する。
【0046】
差動制限制御部13には、入力トルクに対する一対の出力部材の複数種類のトルク比(TBR)が記憶されていてもよい。差動制限制御部13が複数種類のTBRを有することにより、複数種類の機械式LSDと近似する差動制限特性を得ることができる。このため、車両の走行状況に合わせて、複数種類の差動制限特性から最適な差動制限特性を選択することで、車両の走行安定性を向上することができる。なお、差動制限特性の選択は、差動制限制御部13が自動的に選択してもよいし、運転者が選択できるようにしてもよい。
【0047】
差動制限制御部13には、クラッチが最大の締結量となるときの最大クラッチトルクが記憶されている。差動制限制御部13は、算出されたクラッチトルクと最大クラッチトルクとを比較し、小さい値のクラッチトルクとなるように、第1アクチュエータ3の作動を制御する。クラッチの最大クラッチトルクを設定することにより、過大な電流を電動モータに通電することがなく、第1アクチュエータ3を保護することができる。
【0048】
このような差動制限制御部13では、クラッチのクラッチトルクを、機械式LSDの差動制限特性に近似するように制御するので、高い運転技術を有する、或いは熟練の運転者が好む車両の走行状態とすることができる。加えて、差動制限制御部13は、入力トルクに基づいて第1アクチュエータ3の作動を制御するので、複雑なセンサ情報の入力や各種センサ情報に基づく制御を必要としない。このため、従来のデファレンシャル装置に、容易に差動制限制御部13を組み込むことができ、互換性を向上することができる。
【0049】
なお、差動制限制御部13は、車両の加速と減速とを検出するセンサからの情報が入力されるようにしてもよい。この場合には、差動制限制御部13に、車両が加速しているときのTBRと、車両が減速しているときのTBRとが記憶されている。差動制限制御部13は、車両の加減速に合わせて、それぞれのTBRとなるように、クラッチのクラッチトルクを算出する。差動制限制御部13は、算出されたクラッチトルクとなるように、第1アクチュエータ3の作動を制御する。このため、車両の加減速に合わせて、差動制限特性を変更することで、さらに車両の走行安定性を向上することができる。
【0050】
加えて、差動制限制御部13は、車両姿勢制御に関するセンサ以外の他のセンサ情報によって差動機構の差動制限制御を行ってもよい。この場合には、差動制限制御部13に、各種センサ情報に基づく、クラッチのクラッチトルクが記憶されている。差動制限制御部13は、車両の状況に合わせて、決定されたクラッチトルクとなるように、第1アクチュエータ3の作動を制御する。このため、車両の状況に合わせて、電子制御LSDと同じ制御をすることで、高い運転技術を有しない運転者であっても、車両の走行安定性を向上することができる。なお、このような制御は、運転者が選択できるようにすればよい。
【0051】
姿勢制御部15は、例えば、横傾斜センサ、横加速度センサなど、車両の走行時における車両姿勢に関するセンサ情報が入力される。姿勢制御部15には、各種センサ情報に基づく、姿勢安定機構5で必要なブレーキの締結量が記憶されている。加えて、姿勢制御部15は、駆動源と電気的に接続され、車両姿勢制御が必要である場合、駆動源の出力を制御する。姿勢制御部15には、様々な車両姿勢に応じた駆動源の出力量が記憶されている。
【0052】
姿勢制御部15は、入力された各種センサ情報から姿勢安定機構5で必要なブレーキの締結量を決定する。姿勢制御部15は、決定されたブレーキの締結量となるように、第2アクチュエータ7における油圧機構への通電を制御し、姿勢安定機構5を作動させる。このとき、姿勢制御部15は、同時に、駆動源で必要な出力量となるように、駆動源の出力を制御する。姿勢制御部15による車両姿勢制御により、車両の走行時における車両姿勢を安定化することができる。
【0053】
制御判断部17は、車両の走行状況に応じて、差動制限制御部13が行う制御と、姿勢制御部15が行う制御とのうちいずれか一方を優先させる。言い換えれば、制御判断部17は、車両の走行状況に応じて、差動制限制御(第1アクチュエータ3の作動制御)と車両姿勢制御(第2アクチュエータ7の作動制御)とのうちどちらを優先させるかを判断する。
【0054】
制御判断部17は、例えば、車両の走行時において、車両の横すべりが大きい場合、姿勢制御部15が行う制御を優先させる。このとき、制御判断部17は、差動制限制御部13が制御する第1アクチュエータ3への通電量を、通常よりも小さくさせる。このため、第1アクチュエータ3の作動量が小さくなり、クラッチで発生されるクラッチトルクが、通常より小さくなり、差動機構における差動制限力が、通常より小さくなる。従って、車両は、差動制限制御より車両姿勢制御が優先され、車両の走行姿勢が安定化される。このように制御判断部17を有することにより、車両の走行状況に応じた制御を優先することができ、車両の走行安定性を向上することができる。
【0055】
図3に示すように、制御部11では、姿勢制御部15において、差動制限制御部13の差動制限制御に関するセンサ以外のセンサから入力されるセンサ情報が入力される。姿勢制御部15は、入力されたセンサ情報を演算し、第2アクチュエータ7の制御(車両姿勢制御)と、駆動源などの制御(車両姿勢以外の制御)とを決定する。姿勢制御部15は、決定された制御情報に基づき、必要であれば補正値などによって出力を演算し、第2アクチュエータ7や各機構の作動を制御する。
【0056】
一方、差動制限制御部13では、姿勢制御部15の第2アクチュエータ7の作動制御(車両姿勢制御)に関するセンサ以外のセンサからセンサ情報が入力される。差動制限制御部13は、入力されたセンサ情報を演算し、第1アクチュエータ3の制御(差動制限制御:LSDトルク制御)を決定する。差動制限制御部13は、決定された制御情報に基づき、必要であれば補正値などによって出力を演算し、第1アクチュエータ3の作動を制御する。
【0057】
このように制御部11は、差動制限制御部13において、差動制限制御を行い、姿勢制御部15において、車両姿勢制御を行うことで、差動制限制御部13が、車両姿勢制御を行うことがない。このため、差動制限制御部13による差動機構の差動制限機能を十分に発揮することができる。加えて、差動制限制御部13の制御を簡素化することができる。
【0058】
ここで、図4に示すように、差動制限制御部13と姿勢制御部15とを、統合された一つの制御部11aとしてもよい。この制御部11aでは、姿勢制御部15において、差動制限制御部13の差動制限制御に関するセンサ以外のセンサから入力されるセンサ情報が入力される。姿勢制御部15は、入力されたセンサ情報を演算し、第2アクチュエータ7の制御(車両姿勢制御)と、駆動源などの制御(車両姿勢以外の制御)とを決定する。このとき、姿勢制御部15は、車両姿勢制御の制御情報を、差動制限制御部13に出力する。姿勢制御部15は、決定された制御情報に基づき、必要であれば補正値などによって出力を演算し、第2アクチュエータ7や各機構の作動を制御する。
【0059】
一方、差動制限制御部13では、姿勢制御部15の第2アクチュエータ7の作動制御(車両姿勢制御)に関するセンサ以外のセンサからセンサ情報が入力される。差動制限制御部13は、入力されたセンサ情報を演算し、第1アクチュエータ3の制御(差動制限制御:LSDトルク制御)を決定する。差動制限制御部13は、決定された制御情報に基づき、必要であれば補正値や姿勢制御部15からの車両姿勢制御の制御情報などによって出力を演算し、第1アクチュエータ3の作動を制御する。
【0060】
このような制御部11aでは、差動制限制御部13において、車両姿勢制御に関するセンサからのセンサ情報に基づくことなく、第1アクチュエータ3の作動制御(差動制限制御)を行う。差動制限制御部13には、姿勢制御部15の第2アクチュエータ7の作動制御(車両姿勢制御)の制御情報のみが入力される。差動制限制御部13は、第1アクチュエータ3の作動制御(差動制限制御)を行いつつ、入力された姿勢制御部15の第2アクチュエータ7の作動制御(車両姿勢制御)の制御情報によって、必要であれば出力を補正する。このため、制御部11aでは、差動制限制御部13による差動機構の差動制限機能を十分に発揮しつつ、車両全体の姿勢制御部15による車両姿勢制御の一貫性を保持することができる。
【0061】
このような車両駆動制御装置1では、回転可能に配置され入力トルクが入力される入力部材と、相対回転可能に配置され入力部材から伝達される入力トルクを分配する一対の出力部材とを有する差動機構を備えている。また、車両駆動制御装置1は、差動機構の差動を制限するクラッチと、クラッチを作動させる第1アクチュエータ3とを備えている。さらに、車両駆動制御装置1は、車両の走行姿勢を安定化させる姿勢安定機構5と、姿勢安定機構5を作動させる第2アクチュエータ7とを備えている。また、車両駆動制御装置1は、車両の走行状態を検出するセンサ9を備えている。さらに、車両駆動制御装置1は、第1アクチュエータ3と第2アクチュエータ7とに電気的に接続され、センサ9から検出された情報に基づき、第1アクチュエータ3と第2アクチュエータ7とを作動可能に制御する制御部11を備えている。そして、制御部11は、第1アクチュエータ3の作動を制御する差動制限制御部13と、第2アクチュエータ7の作動を制御する姿勢制御部15とを有する。
【0062】
制御部11は、差動制限制御部13において、第1アクチュエータ3の作動を制御する差動制限制御を行い、姿勢制御部15において、第2アクチュエータ7の作動を制御する車両姿勢制御を行う。このため、差動制限制御部13は、車両姿勢制御を行うことがなく、差動制限制御部13による差動機構の差動制限機能を十分に発揮することができる。加えて、差動制限制御部13の制御を簡素化することができる。
【0063】
従って、このような車両駆動制御装置1では、制御を簡素化でき、差動制限機能を十分に発揮することができる。
【0064】
また、センサ9は、複数設けられている。そして、差動制限制御部13と姿勢制御部15とは、複数のセンサ9の検出情報のうち、それぞれに入力を設定された検出情報を取得する。
【0065】
このため、差動制限制御部13と姿勢制御部15とが、同じセンサ9の検出情報に基づいて、第1アクチュエータ3の作動と第2アクチュエータ7の作動とを、制御することがない。従って、車両全体において、差動制限制御と車両姿勢制御との一貫性を保持することができる。
【0066】
さらに、制御部11は、車両の走行状態によって、差動制限制御部13と姿勢制御部15とのうちいずれか一方の制御部の制御を優先する制御判断部17を有する。そして、他方の制御部によって制御されるアクチュエータは、少なくとも通常より小さい作動量を付加される。
【0067】
このため、車両の走行状況に応じた制御を優先することができ、車両の走行安定性を向上することができる。
【0068】
また、差動制限制御部13と姿勢制御部15とは、それぞれが独立した制御部として構成されている。
【0069】
このため、差動制限制御と車両姿勢制御とを独立して行うことができ、差動制限機能と車両姿勢安定機能とを十分に発揮することができる。
【0070】
さらに、差動制限制御部13と姿勢制御部15とは、統合された1つの制御部として構成されている。
【0071】
このため、差動制限機能と車両姿勢安定機能とを十分に発揮しつつ、差動制限制御と車両姿勢制御との互いの制御情報を認識することができる。
【0072】
また、姿勢安定機構5は、一対の出力部材の回転を制動するブレーキである。
【0073】
このため、車両の走行状況に応じて、車輪の回転を精度よく制御することができ、車両の走行安定性を保持することができる。
【0074】
さらに、差動制限制御部13は、入力トルクと、一対の出力部材におけるトルク比とに基づき、第1アクチュエータ3の作動を制御する。
【0075】
このため、差動制限制御部13が行う第1アクチュエータ3の作動制御によって、車両が機械式LSDと近似する差動制限特性を有することができる。
【0076】
以上、本実施形態を説明したが、本実施形態はこれらに限定されるものではなく、本実施形態の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。
【0077】
例えば、本実施形態においては、姿勢制御部が、駆動源の出力を制御しているが、これに限らず、姿勢制御部が、第2アクチュエータの作動を制御し、異なる制御部が、駆動源の出力を制御してもよい。
【符号の説明】
【0078】
1 車両駆動制御装置
3 第1アクチュエータ
5 姿勢安定機構
7 第2アクチュエータ
9 センサ
11,11a 制御部
13 差動制限制御部
15 姿勢制御部
17 制御判断部
図1
図2
図3
図4