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特開2024-21363温度センサ、熱処理装置、温度センサの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024021363
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】温度センサ、熱処理装置、温度センサの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01K 11/3206 20210101AFI20240208BHJP
【FI】
G01K11/3206
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022124145
(22)【出願日】2022-08-03
(71)【出願人】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100133215
【弁理士】
【氏名又は名称】真家 大樹
(72)【発明者】
【氏名】赤井 伸伍
(72)【発明者】
【氏名】鶴岡 和之
【テーマコード(参考)】
2F056
【Fターム(参考)】
2F056VF02
2F056VF12
(57)【要約】
【課題】クリーンな環境が求められる環境において、高速な測定が可能な温度センサを提供する。
【解決手段】温度センサ100において、光吸収層110は、加熱光源310からの光を吸収する。導波路層120は、光吸収層110とともに積層構造をなしており、導波方向に少なくともひとつの周期構造124を有する導波路122を含む。測定用光源210および光測定装置220は、温度センサ100の導波路122のブラッグ波長λのシフトを測定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱光源からの光を吸収する光吸収層と、
前記光吸収層とともに積層構造をなしており、導波方向に並ぶN個(N≧1)の周期構造を有する導波路を含む導波路層と、
を備えることを特徴とする温度センサ。
【請求項2】
測定に際して、前記温度センサは、前記加熱光源による加熱対象物に代えて、前記加熱対象物を設置すべき位置に置かれることを特徴とする請求項1に記載の温度センサ。
【請求項3】
N≧2であり、
前記N個の周期構造は、異なるピッチを有することを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の温度センサ。
【請求項4】
前記N個の周期構造は、加熱対象物の外形に収まる範囲において、離散的に配置されることを特徴とする請求項3に記載の温度センサ。
【請求項5】
前記光吸収層の表面には凹凸が形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の温度センサ。
【請求項6】
前記光吸収層は、多層であることを特徴とする請求項1または2に記載の温度センサ。
【請求項7】
前記光吸収層と前記導波路層の間に挿入された中間層をさらに備えることを特徴とする請求項1または2に記載の温度センサ。
【請求項8】
前記中間層は、前記加熱光源の光に対して、80%以上の透過率を有することを特徴とする請求項7に記載の温度センサ。
【請求項9】
前記中間層は、金属膜を含むことを特徴とする請求項7に記載の温度センサ。
【請求項10】
前記光吸収層の表面に形成された透明層をさらに備えることを特徴とする請求項1または2に記載の温度センサ。
【請求項11】
前記光吸収層の厚みは、100nm以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の温度センサ。
【請求項12】
加熱光源と、
加熱対象物を支持するステージと、
測定用光源と、
前記加熱対象物に代えて、前記ステージによって支持される請求項1または2に記載の温度センサであって、その導波路の入射端に、前記測定用光源の光を受ける温度センサと、
前記温度センサの前記導波路の入射端における反射光または前記温度センサの前記導波路の出射端における透過光のスペクトルを測定する光測定装置と、
を備えることを特徴とする熱処理装置。
【請求項13】
温度センサの製造方法であって、
光吸収層として機能する基材と導波路層の積層構造を形成するステップと、
前記導波路層に、導波方向に少なくともひとつの周期構造を有する導波路を形成するステップと、
を備えることを特徴とする製造方法。
【請求項14】
前記導波路層の上に、第2の光吸収層を形成するステップと、をさらに備えることを特徴とする請求項13に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、温度センサに関する。
【背景技術】
【0002】
温度センサとして、熱電対を用いたものが知られている。熱電対は、2種類の異なる金属導体からなる閉回路に発生する熱起電力を利用したものである。熱電対は、耐熱性に優れ、安価であるが、測定対象物に金属材料を接触させる必要がある。そのため、不純物汚染を嫌う半導体製造プロセスで使用することができない。
【0003】
別のタイプの温度センサとして、対象物から放射される赤外線のエネルギー量から温度を測定する赤外線放射温度計(単に放射温度計ともいう)が知られている。特許文献1には、フラッシュランプにより高速光加熱する熱処理装置において、加熱対象となる半導体の表層温度を、放射温度計を用いて測定するシステムが開示されている。
【0004】
さらに別タイプの温度センサとして、周期構造が有するブラッグ波長の温度依存性を利用したグレーティングセンサが知られている(特許文献2、特許文献3)。特許文献2には、光ファイバとファイバ外径に近い内径の針管を有するファイバブラッググレーティング(FBG:Fiber Bragg Grating)センサが開示されている。特許文献3には、リッジ導波路を利用したグレーティングセンサが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008-235858号公報
【特許文献2】国際公開WO2015-079986A1号公報
【特許文献3】特開2018-59802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者は、半導体ウェハ(単にウェハという)を光加熱によって、高速加熱する熱処理装置における温度測定について検討した。熱処理装置は、ウェハにパルス光を照射する加熱光源を備える。熱処理装置の使用に先立って、加熱光源の発光強度などの条件を最適化する必要があり、そのために、ウェハの温度を正確に測定する必要がある。
【0007】
放射温度計は、熱源である加熱光源が発光体であるため、加熱光源からの迷光による測定精度低下の問題から放射温度計を使用することは難しい。
【0008】
加熱光源がパルス光を発生する場合、温度センサには、高い感度と、高速な応答性が要求される。一方で、特許文献2や特許文献3に記載のグレーティングセンサは、定常的な温度検出には適合するが、過渡的な温度変化を検出する必要がある用途には利用できない。
【0009】
本開示は係る状況においてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、クリーンな環境が求められる環境において、高速な測定が可能な温度センサの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示のある態様は、温度センサに関する。温度センサは、加熱光源からの光を吸収する光吸収層と、光吸収層とともに積層構造をなしており、導波方向に並ぶN個(N≧1)の周期構造を有する導波路を含む導波路層と、を備える。「導波路」とは、屈折率の大きな媒質をそれより屈折率の小さい媒質で挟み込み、光が全反射によって伝搬する構造をいう。
【0011】
本開示の別の態様は、温度センサの製造方法に関する。製造方法は、光吸収層として機能する基材と導波路層の積層構造を形成するステップと、導波路層に、導波方向に並ぶ少なくともひとつの周期構造を有する導波路を形成するステップと、を備える。
【0012】
なお、以上の構成要素を任意に組み合わせたもの、構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明あるいは本開示の態様として有効である。さらに、この項目(課題を解決するための手段)の記載は、本発明の欠くべからざるすべての特徴を説明するものではなく、したがって、記載されるこれらの特徴のサブコンビネーションも、本発明たり得る。
【発明の効果】
【0013】
本開示のある態様によれば、高速な温度測定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態1に係る温度センサを備える温度計測システムを模式的に示す断面図である。
図2図1の温度センサの動作を説明する図である。
図3】実施形態2に係る温度センサの断面図である。
図4図3の温度センサの動作を説明する図である。
図5】実施形態3に係る温度センサの断面図である。
図6】実施形態4に係る温度センサの断面図である。
図7】実施形態5に係る温度センサの断面図である。
図8】実施形態6に係る温度センサの断面図である。
図9】実施形態7に係る温度センサの斜視図である。
図10】実施形態8に係る温度センサの断面図である。
図11】実施形態9に係る温度センサの断面図である。
図12】実施形態10に係る温度計測システムの断面図である。
図13】温度計測システムを備える熱処理装置の構成例を示す図である。
図14】温度センサの製造工程を説明する図である。
図15】変形例3に係る温度センサを示す図である。
図16】変形例4に係る温度センサを示す図である。
図17】変形例5に係る温度センサを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(実施形態の概要)
本開示のいくつかの例示的な実施形態の概要を説明する。この概要は、後述する詳細な説明の前置きとして、実施形態の基本的な理解を目的として、1つまたは複数の実施形態のいくつかの概念を簡略化して説明するものであり、発明あるいは開示の広さを限定するものではない。またこの概要は、考えられるすべての実施形態の包括的な概要ではなく、実施形態の欠くべからざる構成要素を限定するものではない。便宜上、「一実施形態」は、本明細書に開示するひとつの実施形態(実施例や変形例)または複数の実施形態(実施例や変形例)を指すものとして用いる場合がある。
【0016】
一実施形態に係る温度センサは、加熱光源からの光を吸収する光吸収層と、光吸収層とともに積層構造をなしており、導波方向に並ぶN個(N≧1)の周期構造を有する導波路を含む導波路層と、を備える。
【0017】
この構成によると、光吸収層によって、光源からの光エネルギーを高効率で熱エネルギーに変換することができる。そして、光吸収層の温度変化に起因する、導波路のブラッグ波長の変化を測定することで、温度を測定できる。光吸収層と導波路層を積層することで、高速な応答性を実現できる。
【0018】
一実施形態において、測定に際して、温度センサは、加熱光源による加熱対象物に代えて、加熱対象物を設置すべき位置に置かれるものであってもよい。これにより、加熱対象物がどのように加熱されるかを正確に測定することができ、加熱光源の動作条件の最適化などに反映させることができる。
【0019】
一実施形態において、光吸収層の加熱光源からの光に対する吸収率は、加熱対象物の加熱光源からの光に対する吸収率の±20%の範囲に収まっていてもよい。これにより、光吸収層によって、加熱対象物の熱的な状態を正確に模擬できる。
【0020】
一実施形態において、加熱対象物の表面の高さと、光吸収層の表面の高さは等しくてもよい。これにより、光吸収層によって、加熱対象物の熱的な状態を正確に模擬できる。
【0021】
一実施形態において、N≧2であってもよい。複数N個の周期構造は、異なるピッチを有してもよい。これにより、周期構造ごとに、異なるブラッグ波長を有することとなり、各周期構造のブラッグ波長のシフトを独立に測定することで、各周期構造の温度を測定することができ、同時多点測定が可能となる。
【0022】
一実施形態において、複数の周期構造は、加熱対象物の外形に収まる範囲において、離散的に配置されてもよい。
【0023】
一実施形態において、光吸収層の表面には凹凸が形成されていてもよい。加熱対象物が、表面にトランジスタなどが形成されたウェハである場合、光吸収層の表面に、加熱対象物の表面に相当する凹凸を形成することで、光吸収層によって、加熱対象物の熱的な状態を正確に模擬できる。
【0024】
一実施形態において、光吸収層は、多層であってもよい。加熱光源の光が広帯域である場合、光吸収層を多層構造とすることで、温度センサの感度を高めることができ、あるいは、応答性を改善できる。
【0025】
一実施形態において、温度センサは、光吸収層と導波路層の間に挿入された中間層をさらに備えてもよい。
【0026】
一実施形態において、中間層は、加熱光源の光に対して、80%以上の透過率を有してもよい。中間層は、ガラスであってもよい。
【0027】
一実施形態において、中間層は、金属膜を含んでもよい。金属膜の熱伝導率は、100Kcal/m・h・℃以上であってもよい。
【0028】
一実施形態において、温度センサは、光吸収層の表面に形成された透明層をさらに備えてもよい。これにより、温度センサを保護できる。
【0029】
一実施形態において、光吸収層の厚みは、100nm以上であってもよい。
【0030】
一実施形態に係る熱処理装置は、加熱光源と、加熱対象物を支持するステージと、測定用光源と、加熱対象物に代えて、ステージによって支持される温度センサであって、その導波路の入射端に、測定用光源の光を受ける温度センサと、温度センサの導波路の入射端における反射光または温度センサの導波路の出射端における透過光のスペクトルを測定する光測定装置と、を備える。
【0031】
(実施形態)
以下、本開示を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、開示を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも開示の本質的なものであるとは限らない。
【0032】
図面に記載される各部材の寸法(厚み、長さ、幅など)は、理解の容易化のために適宜、拡大縮小されている場合がある。さらには複数の部材の寸法は、必ずしもそれらの大小関係を表しているとは限らず、図面上で、ある部材Aが、別の部材Bよりも厚く描かれていても、部材Aが部材Bよりも薄いこともあり得る。
【0033】
(実施形態1)
図1は、実施形態1に係る温度センサ100を備える温度計測システム200を模式的に示す断面図である。温度センサ100は、測定用光源210および光測定装置220とともに使用され、温度計測システム200を構成する。温度計測システム200は、加熱光源310を備える熱処理装置300において、加熱光源310により光加熱される物体の温度の測定に適している。
【0034】
温度センサ100は、光吸収層110および導波路層120を備える。光吸収層110は、加熱光源310からの光(加熱光という)L1を吸収する。光吸収層110の材料は特に限定されないが、シリコン系、無機化合物系、有機系の材料を用いることができ、加熱光L1に対する吸収率が高い材料が選択される。光吸収層110の吸収率は、加熱光L1のピーク波長において、10%以上であり、より好ましくは50%以上である。光吸収層110の厚さは、光吸収層110の材料と、加熱光L1の波長に応じて、当該吸収率が得られるように定めればよく、たとえば100nm以上である。
【0035】
導波路層120は、光吸収層110とともに積層構造をなしている。導波路層120は、導波方向に少なくともひとつの周期構造124を有する導波路122を含む。周期構造124は、周期的な屈折率変化を有している。本実施形態では、周期構造の個数は1個である。
【0036】
導波路122の構成は、特に限定されず、シート状あるいは板状の構造を有してもよい。具体的には、平板状のコアを平板クラッドで挟み込んだスラブ型であってもよいし、芯状のコアをクラッドで取り囲んだ埋め込み型であってもよいし、埋め込み型において、コアの一部が露出している半埋め込み型であってもよいし、リッジ型(メサ型)であってもよい。光吸収層110は、導波路層120のクラッドを兼ねていてもよい。
【0037】
あるいは導波路122は、光ファイバであってもよい。
【0038】
周期(ピッチ)がdであり、実効屈折率がneffである周期構造124をもつ導波路122内を、光がシングルモードで伝搬する場合、式(1)で表されるブラッグ波長λの光が反射される。
λ=2neff・d …(1)
周期構造124の実効屈折率neffは、コア層の実効屈折率n1effと周期構造部の実効屈折率n2effを用いて、以下の式で表される。
eff=(n1eff+n2eff)/2
また本開示における周期間隔dは以下の式(1’)に沿って、次数の大きいブラッグ波長λを利用するために広げることが可能である。なお、mは整数とする。
mλ=2neff・(d・m) …(1’)
【0039】
周期構造124を有する導波路122の温度が変化すると、熱膨張によって、周期dが伸び縮みし、また実効屈折率neffも変化し、その結果、ブラッグ波長λがシフトする。ブラッグ波長λのシフト量Δλと温度変化ΔTとの間には、式(2)が成り立つ。
∂λ/∂T=∂λ/∂neff・∂neff/∂T+∂λ/∂d・∂d/∂T …(2)
右辺第1項は、周期dの温度変化の寄与を、右辺第2項は、実効屈折率neffの温度変化の寄与を表す。
【0040】
式(2)から、式(3)を得る。
Δλ/ΔT=λ・T …(3)
は、材料に固有の係数(比例定数)である。
【0041】
測定用光源210および光測定装置220は、温度センサ100の導波路層120のブラッグ波長λのシフト量Δλを測定し、式(2)あるいは式(3)から、温度変化ΔTを検出する。
【0042】
測定用光源210は、測定光L2を発生する。測定光L2の波長は、加熱光L1の波長とは無関係に定めることができるが、測定光L2は、ブラッグ波長λの変化範囲をカバーする波長帯のスペクトルを有する。その限りでないが、測定用光源210としては、SC(Super Continuum)光源やASE(Amplified Spontaneous Emission)光源などの、広帯域光を生成可能な光源を利用できる。
【0043】
測定光L2は、導波路122の入射端126に結合する。測定用光源210の出力と、導波路122の入射端の間は、ファイバ212で結合されてもよい。測定光L2のうち、ブラッグ波長λを有する成分は、反射光L2rとして反射し、入射端126から出射する。測定光L2うち、ブラッグ波長λ以外の波長を有する成分は、透過光L2tとして、出射端128から出射する。
【0044】
光測定装置220は、分光器であり、反射測定光L2rまたは透過測定光L2tのスペクトルを測定し、ブラッグ波長λを検出する。図1の例では、光測定装置220は、導波路層120の出射端128とファイバ222によって結合されており、透過測定光L2tのスペクトルを測定する。
【0045】
以上が温度センサ100の構成である。続いてその動作を説明する。
【0046】
加熱光源310が放射する加熱光L1は、光吸収層110によって吸収され、光吸収層110において熱エネルギーに変換される。光吸収層110の熱エネルギーは、光吸収層110から導波路層120に熱伝導によって伝わり、導波路層120の周期構造124の温度が変化する。これにより、光測定装置220によって測定される透過測定光L2t(もしくは反射測定光L2r)のスペクトルが変化する。図2は、図1の温度センサ100の動作を説明する図である。図2には、測定光L2、反射測定光L2rおよび透過測定光L2tのスペクトルが示される。反射測定光L2rは、ブラッグ波長λに高い強度を有しており、反対に透過測定光L2tは、ブラッグ波長λに低い強度を有している。
【0047】
光測定装置220は、ブラッグ波長λを特定し、そのシフト量Δλから、あるいはブラッグ波長λから、温度の変化量、あるいは絶対温度を算出する。
【0048】
以上が温度計測システム200の動作である。この温度計測システム200によれば、光吸収層110と導波路層120の積層構造を有する温度センサ100を利用することで、加熱光源310からの光エネルギーを高効率で、高速に熱エネルギーに変換することができる。そして、光吸収層110の温度変化に起因する、導波路122の周期構造124のブラッグ波長λの変化を測定することで、温度を測定できる。光吸収層110と導波路層120を積層することで、高速な応答性を実現できるという利点がある。
【0049】
(実施形態2)
図3は、実施形態2に係る温度センサ100Aの断面図である。温度センサ100Aにおいて、導波路層120Aの導波路122Aは、導波方向に隣接して複数n個(n≧2)の周期構造124_1~124_nを備える。複数の周期構造124_1~124_nは、異なる周期d~dを有している。複数の周期構造124_1~124_nのブラッグ波長をλB1~λBnとする。
【0050】
以上が温度センサ100Aの構成である。続いてその動作を説明する。
【0051】
図4は、図3の温度センサ100Aの動作を説明する図である。図4には、測定光L2、反射測定光L2rおよび透過測定光L2tのスペクトルが示される。ここでは、λB1<λB2<…<λB4として示すが、周期構造124の位置と、ブラッグ波長λの順番は無関係であってよい。
【0052】
温度センサ100Aを利用すると、周期構造124ごとに、ブラッグ波長λのシフト量Δλを個別に測定できる。したがって、温度センサ100Aの温度が、周期構造124ごとに異なる温度を有する場合に、位置ごとの温度を測定することが可能であり、同時多点測定が可能となる。
【0053】
(実施形態3)
図5は、実施形態3に係る温度センサ100Bの断面図である。温度センサ100Bは、光吸収層110の上側に形成された透明層130をさらに備える。透明層130は、加熱光L1に対して透明であり、光吸収層110の表面を保護する役割を果たす。たとえば透明層130の透過率は、加熱光L1に対して、80%以上であることが好ましく、ガラスなどであり得る。
【0054】
(実施形態4)
図6は、実施形態4に係る温度センサ100Cの断面図である。温度センサ100Cは、光吸収層110と導波路層120の間に挿入された中間層140をさらに備える。中間層140を挿入する目的はさまざまであるが、たとえば、導波路層120と光吸収層110の界面状態の改善を目的として挿入してもよい。あるいは中間層140は、光吸収層110から導波路層120への熱伝導を改善する目的で挿入してもよい。中間層140は、導波路層120のクラッドとして機能してもよい。
【0055】
中間層140は、光吸収層110から導波路層120への熱伝導を妨げず、あるいは熱伝導を改善しうる材料であることが好ましく、この観点から、中間層140は金属膜であってもよく、金属膜の熱伝導率は、100Kcal/m・h・℃以上であってもよい。中間層140は、透明材料であってもよい。
【0056】
(実施形態5)
図7は、実施形態5に係る温度センサ100Dの断面図である。この温度センサ100Dにおいて、光吸収層110Dは多層構造を有している。光吸収層110Dの各層112は、異なる波長に吸収スペクトルを有する。この構成は、加熱光L1のスペクトル幅が広い場合に有効である。
【0057】
(実施形態6)
図8は、実施形態6に係る温度センサ100Eの断面図である。この温度センサ100Eにおいて、光吸収層110Eは、加熱光L1が照射される表面と、それと導波路層120を挟んで反対側の裏面の両方に形成されている。
【0058】
この構成によれば、導波路層120の温度変化は、表面の光吸収層110Eと、裏面の光吸収層110Eの両方からの熱伝導によって引き起こされる。これにより温度検出の感度を高めることができる。
【0059】
(実施形態7)
図9は、実施形態7に係る温度センサ100Fの斜視図である。測定に際して、温度センサ100Fは、加熱光源310による加熱対象物に代えて、加熱対象物を設置すべき位置に置かれる。加熱対象物はたとえば半導体ウェハである。温度センサ100Fの外形は、加熱対象物と同じとすることができる。複数の周期構造124は、加熱対象物の外形に収まる範囲において、同一面内に離散的に配置される。
【0060】
この温度センサ100Fによれば、加熱対象物が置かれる領域の温度分布を計測することができる。
【0061】
(実施形態8)
図10は、実施形態8に係る温度センサ100Gの断面図である。これまでの実施形態では、光吸収層110の表面は平坦であったが、実施形態8において、光吸収層110Gの表面は非平坦である。具体的には光吸収層110Gの表面には凹凸114が形成されている。
【0062】
温度センサ100Gによって、加熱対象物の温度を測定する場合において、光吸収層110Gの表面の凹凸114は、加熱対象物の凹凸を模したものとすることができる。たとえば加熱対象物が、半導体集積回路が形成される半導体ウェハである場合、トランジスタやキャパシタ、配線などの凹凸を模した凹凸114を、光吸収層110Gの表層に形成してもよい。あるいは加熱対象物が、凹凸を有する光学素子である場合、この光学素子の凹凸を模した凹凸114を、光吸収層110Gの表層に形成すればよい。これにより、光吸収層110Gの状態と、加熱対象物の状態を近づけることができ、加熱対象物の温度分布を正確に測定できる。
【0063】
(実施形態9)
図11は、実施形態9に係る温度センサ100Hの断面図である。この実施形態において、光吸収層110Hは、周期構造124_1~124_nに対応する部分にだけ形成されている。
【0064】
(実施形態10)
図12は、実施形態10に係る温度計測システム200Iの断面図である。この温度計測システム200Iにおいて、光測定装置220は、透過測定光L2tではなく、反射測定光L2rを測定する。
【0065】
たとえば温度計測システム200Iは、光サーキュレータ230を備える。光サーキュレータ230は、3個(あるいは4個以上)のポートP1~P3を有しており、あるポートに入射した光を、時計回りに隣接するポートから出力する。光サーキュレータ230のポートP1,P2,P3はそれぞれ、測定用光源210、温度センサ100の入射端126、光測定装置220と接続される。光測定装置220には、温度センサ100からの反射測定光L2rが入射する。
【0066】
この構成によれば、透過測定光L2tに代えて、反射測定光L2rにもとづいて、ブラッグ波長λのシフトを測定することができる。
【0067】
(熱処理装置300の構成例)
続いて熱処理装置300の構成例を説明する。
【0068】
図13は、温度計測システム200を備える熱処理装置300の構成例を示す図である。この熱処理装置300は、加熱処理対象である半導体ウェハWFに加熱光L1を照射して、加熱する。加熱光源310は、ランプ312および駆動部314を含む。熱処理装置300は、処理チャンバ302、加熱光源310、ステージ320および温度計測システム200を備える。
【0069】
加熱光源310は、ランプ312および駆動部314を含む。駆動部314は、ランプ312に駆動電流を供給し、発光させる。ステージ320は、加熱対象物である半導体ウェハWFを、ランプ312による加熱光L1の照射位置にて支持する。
【0070】
熱処理装置300は、温度計測システム200とともに使用される。温度計測システム200は、加熱処理中に、半導体ウェハWFの温度を直接測定するのではなく、半導体ウェハWFのレプリカに相当する温度センサ100の温度を測定することにより、加熱処理中における半導体ウェハWFの温度を間接的に測定する。たとえば温度計測システム200は、実際の加熱処理に先立って使用される。
【0071】
温度計測システム200は、上述のように、温度センサ100、測定用光源210、光測定装置220を備える。
【0072】
温度センサ100は、加熱処理に先立って、加熱処理のプロセス条件の最適化のために、ステージ320上の加熱光L1の照射位置に、半導体ウェハWFに代えて載置される。プロセス条件は、加熱光源310の出力、ショット数、パルス間隔、ステージ320の位置などが例示される。温度センサ100の構成は上述した通りである。温度センサ100は、上述のいずれの構成をも用いることができるが、ここでは図9の温度センサ100Fと同じものを用いている。
【0073】
測定用光源210は、ファイバ212を介して、温度センサ100の導波路122の入射端126と接続される。光測定装置220は、ファイバ222を介して、温度センサ100の導波路122の出射端128と接続される。
【0074】
以上が熱処理装置300の構成である。この熱処理装置300と温度計測システム200の組み合わせによれば、加熱処理に先だって、加熱処理中におけるウェハWFの面内温度分布を正確に測定することができる。測定結果は、ウェハWFを実際に加熱処理する際の、加熱光源310の動作条件(発光輝度、ショット数など)の最適化に反映させることができる。
【0075】
図13の熱処理装置300では、温度センサ100が、半導体ウェハWFのレプリカとしての機能を果たす。したがって、温度センサ100の、より具体的には光吸収層110の熱的な特性は、半導体ウェハWFの熱的な特性と近いことが望ましい。そこで、光吸収層110の材料と、光吸収層110の材料は同一とすることが望ましい。あるいは完全に同一でなくてもよく、たとえば2つの材料の吸収率の差が、20%以内であることが好ましい。また、ステージ320上に載置した状態において、半導体ウェハWFの表面高さと、光吸収層110の表面高さは揃っていることが好ましい。
【0076】
(製造方法)
温度センサ100の製造方法を説明する。
【0077】
図14は、温度センサ100の製造工程を説明する図である。工程S100において、基材400の上に、導波路素材410が形成される。続く工程S110において、導波路素材410の上にレジスト420が塗布され、工程S120において、レジスト420が露光され、パターニングされる。レジスト420のパターンは、上述の周期構造124に対応する。なお、図14では、導波路素材410の全体にわたって周期構造124が形成される場合を説明するが、実際には、周期構造124は部分的に形成されうる。レジスト420のパターニングには、二光束干渉露光装置を用いることができる。
【0078】
続く工程S130では、エッチングによって、導波路素材410に、周期構造124が形成される。続く工程S140において、周期構造124の凹部に、導波路素材410と屈折率が異なる材料430が埋め込まれる。
【0079】
そして工程S150において、周期構造124の上に、カバー層440が形成される。なお、周期構造124の凹部に埋め込まれた素材の屈折率が導波路素材410よりも小さい場合は、カバー層と周期構造124の凹部に埋め込まれた素材は同一でもよい。
【0080】
たとえば、基材400とカバー層440の一方を、光吸収材料とした場合、図1の温度センサ100を製造することができる。温度センサ100によって、Siウェハの温度を間接測定したい場合、光吸収材として、Siが好適であり、GaAsウェハの温度を間接測定したい場合、光吸収材として、GaAsが好適である。たとえば基材400をSiとし、カバー層440は、別の材料としてもよい。たとえば基材400を光吸収層110とし、カバー層440を透明層140としてもよい。
【0081】
あるいは、基材400とカバー層440の両方を、光吸収材料としてもよい。その場合、図8の温度センサ100Eを製造することができる。
【0082】
製造方法に関する変形例を説明する。
(i)工程S140は省略することができる。
(ii)工程S150は省略することができる。その場合、基材400が光吸収層となる。
【0083】
導波路素材を、光吸収層よりも屈折率の小さい素材で作製する場合は、基材400とカバー層440は光を閉じ込めるクラッド層そして機能しないため、導波路素材よりも屈折率の低い素材で作製する必要がある。また、その際は作製したクラッド層上部に光吸収層を成膜することで、温度センサとして機能する。
【0084】
(変形例)
上述した実施形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組み合わせにいろいろな変形例が可能なことが当業者に理解される。以下、こうした変形例について説明する。
【0085】
(変形例1)
図13の熱処理装置300では、半導体ウェハWFの加熱処理と、温度測定は同時に行わないこととしたが、本開示はそれに限定されない。処理チャンバ302内において、ランプ312からの光照射条件が、半導体ウェハWFに対するそれと実質的に等しい場所がある場合には、温度センサ100をその場所に固定しておき、温度センサ100を利用して、常時、温度測定を行うようにしてもよい。この場合、加熱処理中の加熱光源310の不具合などを検出できる。
【0086】
(変形例2)
導波路122として光ファイバを使用した場合は、導波路中の非線形光学散乱を用いた温度センサ100を構成してもよい。
【0087】
(変形例3)
図1に示すように、測定用光源210と導波路122の入射端126の間を、ファイバ212を介して接続する構成では、ファイバ212と入射端126の接着部分に、加熱光源310からの光が直接照射されると、接着部分の信頼性が低下するおそれがある。
【0088】
図15は、変形例3に係る温度センサ100Hを示す図である。温度センサ100Hは、保護部材150を備える。保護部材150は、導波路122の入射端126とファイバ212の接着部分を保護する目的で設けられる。保護部材150はたとえば、アルミなどの金属膜が好ましいが、その限りでなく、加熱光源310から光が、接着部分に直接照射されるのを防ぐ構成を有していればよい。これにより、接着部分を保護でき、信頼性を高めることができる。
【0089】
(変形例4)
図16は、変形例4に係る温度センサ100Iを示す図である。この温度センサ100Iは、複数の導波路122_1,122_2…を備える。各導波路122は、直列に接続される複数の周期構造124を有している。複数の導波路122_1~122_5それぞれの入射端には、測定光L2が入射する。たとえば、ビームスプリッタなどの図示しない分岐手段によって測定光L2を複数の経路に分岐し、分岐後のビームを、複数の導波路122_1~122_5に供給することができる。
【0090】
複数の導波路122_1~122_5の出射端から出射される光は、個別に測定してもよいし、ファイバカップラ等の合波手段(不図示)によって合波した後に測定してもよい。
【0091】
なお、各導波路122の入射端には、図15に示した保護部材150を設けるとよい。同様に、各導波路122の出射端にも、保護部材152を設けるとよい。
【0092】
(変形例5)
図17は、変形例5に係る温度センサ100Jを示す図である。この温度センサ100Jは、図16の温度センサ100Iと同様に複数の導波路122を備えるが、入射端は1個である点で異なっている。入射端に入射した測定光は、温度センサ100Jの内部に形成された分岐手段154によって複数の導波路122に分岐する。
【0093】
また複数の導波路122を導波後の光は、合波手段156によって合波され、出射端から取り出される。
【0094】
なお、温度センサ100Jにおいても、入射端および出射端には、保護部材150,152を設けるとよい。
【0095】
本開示に係る実施形態について、具体的な用語を用いて説明したが、この説明は、理解を助けるための例示に過ぎず、本開示あるいは請求の範囲を限定するものではない。本発明の範囲は、請求の範囲によって規定されるものであり、したがって、ここでは説明しない実施形態、実施例、変形例も、本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0096】
100 温度センサ
110 光吸収層
120 導波路層
122 導波路
124 周期構造
126 入射端
128 出射端
130 透明層
140 中間層
150,152 保護部材
200 温度計測システム
210 測定用光源
220 光測定装置
230 光サーキュレータ
300 熱処理装置
302 処理チャンバ
310 加熱光源
312 ランプ
314 駆動部
320 ステージ
L1 加熱光
L2 測定光
L2r 反射測定光
L2t 透過測定光
WF 半導体ウェハ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17