(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024002137
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】エレベータのかご及びエレベータ
(51)【国際特許分類】
B66B 5/00 20060101AFI20231228BHJP
B66B 11/02 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
B66B5/00 C
B66B11/02 C
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022101158
(22)【出願日】2022-06-23
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-10-17
(71)【出願人】
【識別番号】000112705
【氏名又は名称】フジテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114421
【弁理士】
【氏名又は名称】薬丸 誠一
(72)【発明者】
【氏名】武田 佳祐
【テーマコード(参考)】
3F304
3F306
【Fターム(参考)】
3F304DA16
3F304DA18
3F306AA05
3F306CB04
3F306CB42
(57)【要約】
【課題】軽量化及び調整作業の簡略化を実現することができるエレベータのかご及びエレベータを提供する。
【解決手段】エレベータのかご3は、かご室を構成する壁34に形成される非常口40と、一側端部50aを固定端、他側端部50bを自由端として非常口40の枠41に回転自在に取り付けられる内開き式の扉50と、扉50の他側端部50bの所定高さ位置にて扉50を枠41に固定するためのロック機構部60と、扉50の上部及び下部の少なくとも一方にて扉50を枠41に固定するための弾性係合部70とを備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
かご室を構成する壁に形成される非常口と、
一側端部を固定端、他側端部を自由端として非常口の枠に回転自在に取り付けられる内開き式の扉と、
扉の他側端部の所定高さ位置にて扉を枠に固定するためのロック機構部と、
扉の上部及び下部の少なくとも一方にて扉を枠に固定するための弾性係合部とを備える
エレベータのかご。
【請求項2】
ロック機構部は、
扉側の構成として、
扉のかご室内の面に形成される開口孔と、
開口孔の奥側に位置してかご室内から回転操作可能な回転軸と、
回転軸から突出するロック片と、
かご室外から回転軸を回転操作可能な操作部と、
ロック状態からロック解除状態への切替え後に接触し、そこからさらに回転軸を回転操作すると、相対変位により接触点が移動して扉を開く方向に力を発生させる作用部及び傾斜カム部のいずれか一方とを備え、
枠側の構成として、
ロック片を係止する係止部と、
作用部及び傾斜カム部のいずれか他方とを備える
請求項1に記載のエレベータのかご。
【請求項3】
開口孔及び回転軸は、かご室内から回転軸を回転操作するための工具の引き抜き方向における工具との係合部を備えない
請求項2に記載のエレベータのかご。
【請求項4】
作用部及び傾斜カム部のいずれか一方は、操作部と一体的に設けられる
請求項2に記載のエレベータのかご。
【請求項5】
作用部及び傾斜カム部のいずれか他方は、係止部と一体的に設けられる
請求項2に記載のエレベータのかご。
【請求項6】
弾性係合部は、一方が扉側に、他方が枠側に取り付けられ、片方又は両方が弾性変位部を有して弾性係合する一対の部材で構成され、
片方又は両方の部材は、位置調整可能なブラケットを介して扉側又は枠側に取り付けられる
請求項1に記載のエレベータのかご。
【請求項7】
かご室を構成する壁に形成される非常口と、
一側端部を固定端、他側端部を自由端として非常口の枠に回転自在に取り付けられる内開き式の扉と、
扉の他側端部の所定高さ位置にて扉を枠に固定するためのロック機構部とを備え、
ロック機構部は、
扉側の構成として、
扉のかご室内の面に形成される開口孔と、
開口孔の奥側に位置してかご室内から回転操作可能な回転軸と、
回転軸から突出するロック片と、
かご室外から回転軸を回転操作可能な操作部と、
ロック状態からロック解除状態への切替え後に接触し、そこからさらに回転軸を回転操作すると、相対変位により接触点が移動して扉を開く方向に力を発生させる作用部及び傾斜カム部のいずれか一方とを備え、
枠側の構成として、
ロック片を係止する係止部と、
作用部及び傾斜カム部のいずれか他方とを備える
エレベータのかご。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1項に記載のかごを備える
エレベータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非常口装置を備えるエレベータのかご及びエレベータに関する。
【背景技術】
【0002】
エレベータでは、故障等の何らかの原因でかごが昇降路の途中で動かなくなった場合にかご内に乗客が閉じ込まれる事態を想定して、かごの壁や天井に非常口が設けられる。また、1つの昇降路内に複数台のかごが横並びに設置されるエレベータでは、隣り合うかごの対向する側壁に非常口が設けられ、いずれかのかごが昇降路の途中で動かなくなった場合、隣のかごを救出かごとして不具合かごの側方に停止させ、各かごの扉を開いて非常口を開放し、2つの非常口に足場板を掛け渡し、不具合かご内の乗客を救出かごへ乗り移らせて救出する、という救出作業が行われる。
【0003】
ここで、非常口の扉は、がたつきがあると通常運行時の振動や騒音の原因となるため、閉扉時は固定(ロック)され、かつ、不用意に開かれると危険であるため、かご室内からは専用の工具や鍵がなければ開けられないように施錠(ロック)される。たとえば、特許文献1には、扉のかご室内の面に形成される開口孔と、開口孔の奥側に位置してかご室内から回転操作可能な回転軸と、回転軸に取り付けられるロック片と、回転軸の回転に連動して上下動する上下一対のロックバーとを備え、閉扉時は、ロック片によるロック及びロックバーの先端部によるロックの3点ロックで扉を固定し、解錠時は、開口孔に専用の鍵を差し込み、鍵を回して回転軸を回転操作することにより、3点ロックを解除する非常口装置が記載されている。なお、扉のかご室外の面において、回転軸にはレバーが取り付けられ、レバーを回して回転軸を回転操作することにより、かご室外からも3点ロックを解除することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記従来の非常口装置においては、上下のロック部を作動させるリンク機構を設けることにより、非常口の扉ひいてはかごの重量増加を招くという問題がある。また、上記従来の非常口装置においては、非常口の扉をかごの側壁と面一に調整するたびに各ロック部の調整を行う必要があり、組立、据付時における調整作業が煩雑になるという問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、軽量化及び調整作業の簡略化を実現することができるエレベータのかご及びエレベータを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るエレベータのかごは、
かご室を構成する壁に形成される非常口と、
一側端部を固定端、他側端部を自由端として非常口の枠に回転自在に取り付けられる内開き式の扉と、
扉の他側端部の所定高さ位置にて扉を枠に固定するためのロック機構部と、
扉の上部及び下部の少なくとも一方にて扉を枠に固定するための弾性係合部とを備える
エレベータのかごである。
【0008】
ここで、本発明に係るエレベータのかごの一態様として、
ロック機構部は、
扉側の構成として、
扉のかご室内の面に形成される開口孔と、
開口孔の奥側に位置してかご室内から回転操作可能な回転軸と、
回転軸から突出するロック片と、
かご室外から回転軸を回転操作可能な操作部と、
ロック状態からロック解除状態への切替え後に接触し、そこからさらに回転軸を回転操作すると、相対変位により接触点が移動して扉を開く方向に力を発生させる作用部及び傾斜カム部のいずれか一方とを備え、
枠側の構成として、
ロック片を係止する係止部と、
作用部及び傾斜カム部のいずれか他方とを備える
との構成を採用することができる。
【0009】
また、この場合、
開口孔及び回転軸は、かご室内から回転軸を回転操作するための工具の引き抜き方向における工具との係合部を備えない
との構成を採用することができる。
【0010】
あるいは、この場合、
作用部及び傾斜カム部のいずれか一方は、操作部と一体的に設けられる
との構成を採用することができる。
【0011】
あるいは、この場合、
作用部及び傾斜カム部のいずれか他方は、係止部と一体的に設けられる
との構成を採用することができる。
【0012】
また、本発明に係るエレベータのかごの他態様として、
弾性係合部は、一方が扉側に、他方が枠側に取り付けられ、片方又は両方が弾性変位部を有して弾性係合する一対の部材で構成され、
片方又は両方の部材は、位置調整可能なブラケットを介して扉側又は枠側に取り付けられる
との構成を採用することができる。
【0013】
また、別の本発明に係るエレベータのかごは、
かご室を構成する壁に形成される非常口と、
一側端部を固定端、他側端部を自由端として非常口の枠に回転自在に取り付けられる内開き式の扉と、
扉の他側端部の所定高さ位置にて扉を枠に固定するためのロック機構部とを備え、
ロック機構部は、
扉側の構成として、
扉のかご室内の面に形成される開口孔と、
開口孔の奥側に位置してかご室内から回転操作可能な回転軸と、
回転軸から突出するロック片と、
かご室外から回転軸を回転操作可能な操作部と、
ロック状態からロック解除状態への切替え後に接触し、そこからさらに回転軸を回転操作すると、相対変位により接触点が移動して扉を開く方向に力を発生させる作用部及び傾斜カム部のいずれか一方とを備え、
枠側の構成として、
ロック片を係止する係止部と、
作用部及び傾斜カム部のいずれか他方とを備える
エレベータのかごである。
【0014】
また、本発明に係るエレベータは、
上記いずれかのかごを備える
エレベータである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ロック機構部及び弾性係合部は独立した構成であり、両者を連結するリンク機構は不要である。このため、本発明によれば、軽量化を実現することができる。
【0016】
また、本発明によれば、ロック機構部及び弾性係合部は独立した構成であり、両者の相対的な調整作業は不要であり、個別に調整すればよいだけである。このため、本発明によれば、調整作業の簡略化を実現することができる。
【0017】
また、別の本発明によっても、軽量化及び調整作業の簡略化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1(a)は、本実施形態に係るエレベータの水平断面図である。
図1(b)は、救出作業時におけるエレベータの水平断面図である。
【
図2】
図2は、かご室内から見たかごの要部の斜視図である。
【
図3】
図3は、かご室外から見たかごの要部の斜視図である。
【
図4】
図4は、
図3のB部であって、ロック状態にあるロック機構部の斜視図である。
【
図5】
図5(a)は、
図2のA部であって、ロック状態にあるロック機構部の正面図である。
図5(b)は、
図3のB部であって、ロック状態にあるロック機構部の正面図である。
【
図6】
図6(a)は、
図3のC部であって、上部の弾性係合部の斜視図である。
図6(b)は、
図3のD部であって、下部の弾性係合部の斜視図である。
図6(c)は、2つのパーツに分離した弾性係合部の平面図である。
図6(d)は、弾性係合部の取付位置調整構造の説明図である。
【
図7】
図7は、
図3のB部であって、ロック解除状態にあるロック機構部の斜視図である。
【
図8】
図8(a)は、
図2のA部であって、ロック解除状態にあるロック機構部の正面図である。
図8(b)は、
図3のB部であって、ロック解除状態にあるロック機構部の正面図である。
【
図9】
図9は、
図3のB部であって、扉開操作状態にあるロック機構部の斜視図である。
【
図10】
図10(a)は、
図2のA部であって、扉開操作状態にあるロック機構部の正面図である。
図10(b)は、
図3のB部であって、扉開操作状態にあるロック機構部の正面図である。
【
図11】
図11は、
図3のB部であって、ロック機構部による扉開操作により扉が開いた状態の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る一実施形態として、かごに非常口装置を備えるエレベータについて説明する。
【0020】
図1(a)に示すように、エレベータ1は、昇降路2と、かご3とを備える。昇降路2は、階層を有する建物内において上下方向に延びる。かご3は、駆動機構(図示しない)の駆動により、昇降路2内を昇降し、駆動機構の駆動停止により、指定された階床に停止する。
【0021】
かご3は、かご室30と、出入口36と、扉37とを備える。かご室30は、床31、壁32(前壁33、側壁34及び後壁35)及び天井(図示しない)により構成される。床31、壁32及び天井は、1枚又は複数枚に分割されたパネルにより構成される。出入口36は、前壁33に形成される。扉37は、横方向にスライドして出入口36を開閉する。扉37は、両開き式又は片開き式である。
【0022】
かご3は、非常口装置4を備える。非常口装置4は、非常口40と、扉50とを備える。非常口40は、かご3の側壁34に形成される。より詳しくは、非常口40は、1つの昇降路2内に複数台のかご3が横並びに設置されるエレベータ1において、隣り合うかご3,3の対向する側壁34,34に形成される。扉50は、一側端部を中心に回転して非常口40を開閉する。扉50は、片開き式であり、かつ、かご室30内に扉50が開く内開き式である。作業者が、かご室30内から扉50の他側端部を引く、又は、かご室30外からかご室30内へ扉50の他側端部を押すと、扉50が一側端部を中心にして開かれ、非常口40が開放される。
【0023】
非常口装置4は、故障等の何らかの原因で複数台の中のいずれかのかご3が昇降路2の途中で動かなくなった場合、
図1(b)に示すように、隣のかご3を救出かご3Aとして不具合かご3Bの側方に停止させ、各かご3A,3Bの扉50を開いて非常口40を開放し、2つの非常口40,40に足場板46を掛け渡し、不具合かご3B内の乗客を救出かご3Aへ乗り移らせて救出する、という救出作業を可能にするためのものである。
【0024】
図2及び
図3に示すように、非常口40(ハッチングを付した部分)は、枠41内に形成される。枠41は、左右の縦枠42,42と、上枠43と、下枠44とを備え、非常口40の縦縁部、上縁部及び下縁部の4辺を縁取る枠である。扉50は、ヒンジ51を介して上枠43の一端部及び下枠44の一端部に回転自在に取り付けられる。これにより、扉50の一側端部50aは固定端となり、扉50の他側端部50bは自由端となる。
【0025】
下枠44には、フラップ45が回転自在に取り付けられる。フラップ45は、常時は扉50に沿うように立てられて収納されているが、救出作業時に倒され、この上に足場板46の端部が掛けられる。
【0026】
非常口装置4は、ロック機構部60と、上下の弾性係合部70,70とを備える。ロック機構部60は、施錠装置であり、扉50の他側端部50bの所定高さ位置(本実施形態においては、高さ方向中央部)にて扉50を枠41に固定するためのものである。弾性係合部70は、扉50の上部及び下部にて扉50を枠41に固定するためのものである。
【0027】
図4及び
図5に示すように、ロック機構部60は、扉50側の構成として、開口孔61aと、回転軸62と、ロック片63と、操作部としてのレバー64と、作用部64aとを備え、枠41側の構成として、係止部67bと、傾斜カム部67cとを備える。
【0028】
開口孔61aは、扉50の所定高さ位置(本実施形態においては、扉50の他側端部50bの高さ方向中央部)において扉50のかご室30内の面に形成される。本実施形態においては、開口孔61aは、扉50に形成された孔に装着されるガイド環61の内孔である。
【0029】
回転軸62は、ピン形状であり、開口孔61aと同軸にかつ開口孔61aと所定間隔を有して扉50のかご室30外の面側に配置される。回転軸62は、扉50のかご室30外の面に取り付けられるブラケット65に回転自在に支持される。回転軸62の開口孔61a側の端部には、専用の工具の先端部と軸回り方向において係合可能となるよう、四角形、六角形、プラス形状、マイナス形状、楕円形等の非円形状の孔又は突起(図示しない)が形成される。すなわち、工具は、軸部と、軸部を回転操作するためのグリップ部とを備え、軸部の先端部は、四角形、六角形、プラス形状、マイナス形状、楕円形等の非円形状の突起又は孔を備え、これが回転軸62の開口孔61a側の端部と軸回り方向において係合する。これにより、回転軸62は、開口孔61aの奥側に位置しながらも、かご室30内から回転操作が可能となる。なお、開口孔61a及び回転軸62は、工具の引き抜き方向における工具との係合部を備えない。このため、工具は、軸回り方向における回転軸62との係合が抵抗なく解除され、引き抜かれる。
【0030】
ロック片63は、回転軸62に軸回り方向に回転不能に取り付けられ、回転軸62と一体的に回転する。ロック片63は、回転軸62から軸直交方向に突出し、施錠装置のロック片として機能する。
【0031】
レバー64は、回転軸62に軸回り方向に回転不能に取り付けられ、回転軸62と一体的に回転する。レバー64は、かご室30外から回転軸62を回転操作するためのものである。レバー64は、中間部位にて回転軸62に取り付けられる。これにより、レバー64は、一方に延びる部分と、他方に延びる部分とを備える。一方に延びる部分は、グリップ部となる。他方に延びる部分は、先端にスイッチキー66が取り付けられる。スイッチキー66は、レバー64がロック方向に回転したときに、検出スイッチ68により検出される。これにより、エレベータ1の制御部は、ロック機構部60のロック状態(扉50が閉じて枠41に固定された状態)を電気的に検出することができる。
【0032】
作用部64aは、レバー64と一体的に設けられる。より詳しくは、作用部64aは、レバー64のグリップ部のうち、ロック解除方向側の側縁からロック解除方向に突出する突片である。
【0033】
係止部67bは、回転軸62の軸直交面(すなわち垂直面)に沿う係止面を有する。係止面は、係止部67bの外面に設けられる。係止部67bは、基部67aにて枠41に取り付けられるブラケット67の一部であり、基部67aから突出する板状部である。係止部67bは、係止面にてロック片63を係止する。
【0034】
傾斜カム部67cは、回転軸62の軸直交面に対して傾斜する傾斜カム面を有する。傾斜カム面は、傾斜カム部67cの内面に設けられる。傾斜カム部67cは、ブラケット67の一部であり、係止部67bから突出する板状部である。より詳しくは、傾斜カム部67cは、係止部67bから下方に突出し、先端に向かうにつれて手前(扉50から遠ざかるよう)に傾斜する。そして、傾斜カム部67cは、レバー64の作用部64aが下から上に向かって進入するのに対応して、作用部64aの先端の軌跡上に傾斜カム面を位置させている。これにより、作用部64a及び傾斜カム部67cは、ロック機構部60のロック状態からロック解除状態への切替え後に接触し、そこからさらに回転軸62を回転操作すると、相対変位により接触点が移動する。このとき、作用部64aには回転軸62の軸方向に反力が加わり、これが扉50を開く方向への力となる。すなわち、レバー64の作用部64a及び傾斜カム部67cは、レバー64の回転力を利用して扉50を開く方向に力を発生させる変換手段である。
【0035】
図6に示すように、弾性係合部70は、ボールキャッチ(やドアキャッチ)であり、凸部材71と、凹部材72とを備える。凸部材71は、扉50(の他側縁部50b上)に取り付けられる。凹部材72は、枠41に取り付けられる。あるいは、これらは、逆に取り付けられるようにしてもよい。凹部材72は、一対の凸部と、凸部間の凹部とを備える。凹部の対向箇所には一対のボール73,73が遊動自在に配置され、凸部にはバネ等の弾性体が内挿される。ボール73は、弾性体による弾発力が付勢され、弾性変位部として機能する。これにより、凸部材71の凸部は、凹部材72の凹部に弾性保持され、凸部材71及び凹部材72は、弾性係合する。そして、両者に互いに離間する方向に力が加えられると、弾発力に抗してボール73が退避し、弾性係合が解除され、両者は離間する。
【0036】
凹部材72は、位置調整可能なブラケット74を介して枠41に取り付けられる。すなわち、ブラケット74には、上下方向及び前後方向のいずれか一方に沿った長孔74aが形成され、枠41には、上下方向及び前後方向のいずれか他方に沿った長孔42aが形成され、ブラケット74は、これらの長孔42a,74aに挿入されるボルトとナットの締結具で枠41に締結固定されるようになっており、上下方向及び前後方向に位置調整が可能となる。前後方向の位置調整は、扉50(のかご室30内の面)とかご3の側壁34(のかご室30内の面)とを面一にするために必要な調整である。上下方向の位置調整は、凸部材71に対する凹部材72の位置調整である。上下方向の位置調整は必ず必要というわけではない。これらの位置調整機能は、凸部材71にも設けるようにしてもよいし、あるいは、凹部材72にではなく、凸部材71に設けるようにしてもよい。
【0037】
本実施形態に係るエレベータ1の構成は、以上のとおりである。次に、非常口装置4の使用方法として、かご室30内から解錠し、扉50を開くまでの流れについて説明する。
【0038】
まず、
図4及び
図5に示すロック状態から、作業者(救出者)は、開口孔61aに専用の工具を差し込み、工具を90度程度回して回転軸62を回転操作する。すると、
図7及び
図8に示すように、回転軸62と一体化されたロック片63が係止部67bから外れ、解錠される。ここまでは従来も同様である。なお、
図7及び
図8において、工具は記載していない。後述する
図9ないし
図11においても同様である。
【0039】
しかし、上述のとおり、扉50及びかご3の側壁34とは面一になっており、扉50を掴むところがない。このため、解錠されたとはいえ、扉50を開くのは容易ではない。そこで、作業者は、そこからさらに工具を所定角度(たとえば10度程度)回して回転軸62を回転操作する。すると、
図9及び
図10に示すように、レバー64の作用部64aが傾斜カム67cから反力を受ける。この反力は、上下の弾性係合部70,70の弾性保持力を上回る力である。このため、弾性係合部70,70による弾性係合が解除され、
図11に示すように、扉50は、かご室30内に僅かに開く。そこで、作業者は、扉50の他側端部50bを持って扉50を引く。これにより、扉50が一側端部50aを中心にして開かれ、非常口40が開放される。
【0040】
なお、その後の救出作業は、上述のとおりであるが、簡単に説明しておく。まず、作業者は、自分が乗っているかご3のフラップ45を倒し、次に対向する不具合かご3Bのフラップ45を倒し、足場板46を掛け渡す。次に、作業者は、不具合かご3Bの非常口装置4のレバー64を回し、扉50を開く。そして、しかる後、作業者は、不具合かご3B内の乗客を救出かご3Aへ乗り移らせて救出する。
【0041】
以上のとおり、本実施形態によれば、ロック機構部60及び上下の弾性係合部70,70による3点で扉50を枠41にしっかりと固定することができる。
【0042】
また、本実施形態によれば、ロック機構部60及び弾性係合部70は独立した構成であり、両者を連結するリンク機構は不要である。このため、本実施形態によれば、軽量化を実現することができる。
【0043】
また、本実施形態によれば、ロック機構部60及び弾性係合部70は独立した構成であり、両者の相対的な調整作業は不要であり、個別に調整すればよいだけである。このため、本実施形態によれば、調整作業の簡略化を実現することができる。
【0044】
そして、これらの作用効果は、弾性係合部70を設けず、ロック機構部60だけを設ける場合であっても同様である。
【0045】
また、本実施形態によれば、回転軸62の回転操作を利用して扉50を開操作する機構が設けられる。このため、本実施形態によれば、かご室30内において側壁34と面一であるために掴むところがない扉50であっても、かご室30内から容易に開くことができる。これは、開口孔61a及び回転軸62が、かご室30内から回転軸62を回転操作するための工具の引き抜き方向における工具との係合部を備えない構成であるために、工具を引いて扉50を開くことができない場合に、特に効果的である。
【0046】
また、本実施形態によれば、レバー64の作用部64aは、レバー64と一体的に設けられ、また、傾斜カム部67cは、係止部67bと一体的に設けられる。このため、本実施形態によれば、部品点数及び組立工数ひいては製造コストを削減することができ、また、部品レイアウトの自由度を高めることができる。
【0047】
また、本実施形態によれば、弾性係合部70の凹部材72は、枠41に対して位置調整可能なブラケット74を介して枠41に取り付けられる。このため、本実施形態によれば、調整作業(特に弾性係合部70の出代調整)を簡単かつ短時間で行うことができる。
【0048】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0049】
上記実施形態においては、弾性係合部70は、扉50の上部と下部とに設けられる。しかし、本発明は、これに限定されるものではない。弾性係合部は、扉の上部及び下部の少なくとも一方に設けられるものであってよい。
【0050】
また、上記実施形態においては、弾性係合部70は、扉50の他側縁部50bの上部及び下部に設けられる。しかし、本発明は、これに限定されるものではない。弾性係合部は、扉の上縁部や下縁部に設けられるものであってもよい。
【0051】
また、上記実施形態においては、弾性係合部70は、ボールキャッチ(やドアキャッチ)の形態である。しかし、本発明は、これに限定されるものではない。弾性係合部は、たとえば、i)扉側又は枠側のいずれか一方に設けられる弾性片と、いずれか他方に設けられる受圧面とを備え、弾性片が受圧面に弾性力を付勢することにより、弾性片と受圧面とが弾性係合する構造、ii)扉側又は枠側のいずれか一方に設けられる係合凸部と、いずれか他方に設けられる係合凹部とを備え、係合凸部及び係合凹部の少なくとも一方が弾性変位可能であり、係合凸部と係合凹部とが凹凸的に弾性係合する構造など、各種の形態の弾性係合部を採用することができる。
【0052】
また、上記実施形態においては、回転軸62とロック片63とは別体である。しかし、本発明は、これに限定されるものではない。回転軸とロック片とは一体であってもよい。
【0053】
また、上記実施形態においては、回転軸62とレバー64とは別体である。しかし、本発明は、これに限定されるものではない。回転軸と操作部とは一体であってもよい。
【0054】
また、上記実施形態においては、レバー64と作用部64aとは一体である。しかし、本発明は、これに限定されるものではない。作用部は、操作部とは別体(別パーツ)であって、操作部と一体化するものや、操作部とは完全に分けられて別の箇所に取り付けられるものであってもよい。
【0055】
また、上記実施形態においては、係止部67bと傾斜カム部67cとは一体である。しかし、本発明は、これに限定されるものではない。傾斜カム部は、係止部とは別体(別パーツ)であって、係止部と一体化するものや、係止部とは完全に分けられて別の箇所に取り付けられるものであってもよい。この場合、係止部は、枠に形成される孔や開口であってもよい。
【0056】
また、上記実施形態においては、作用部64aは扉50側に設けられ、傾斜カム部67cは枠41側に設けられる。しかし、本発明は、これに限定されるものではない。作用部は枠側に設けられ、傾斜カム部は扉側に設けられるものであってもよい。
【0057】
また、上記実施形態においては、かご3は2機であり、非常口装置4は各かご3に1台ずつ設けられる。しかし、本発明は、これに限定されるものではない。かごは3機以上であってもよく、この場合、両隣りにかごが配置されるその間のかごについては、左右の側壁にそれぞれ非常口装置を設けるようにしてもよい。
【0058】
また、上記実施形態においては、非常口装置4は、かご3の側壁34に設けられる。しかし、本発明は、これに限定されるものではない。非常口装置は、かごの後壁に設けられるものであってもよい。
【符号の説明】
【0059】
1…エレベータ、2…昇降路、3…かご、3A…救出かご、3B…不具合かご、30…かご室、31…床、32…壁、33…前壁、34…側壁、35…後壁、36…出入口、37…扉、4…非常口装置、40…非常口、41…枠、42…縦枠、42a…長孔、43…上枠、44…下枠、45…フラップ、46…足場板、50…扉、50a…一側端部、50b…他側端部、51…ヒンジ、60…ロック機構部、61…ガイド環、61a…開口孔、62…回転軸、63…ロック片、64…レバー(操作部)、64a…作用部、65…ブラケット、66…スイッチキー、67…ブラケット、67a…基部、67b…係止部、67c…傾斜カム部、68…検出スイッチ、70…ボールキャッチ(弾性係合部)、71…凸部材、72…凹部材、73…ボール、74…ブラケット、74a…長孔
【手続補正書】
【提出日】2023-08-02
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
かご室を構成する壁に形成される非常口と、
一側端部を固定端、他側端部を自由端として非常口の枠に回転自在に取り付けられる内開き式の扉と、
扉の他側端部の所定高さ位置にて扉を枠に固定するためのロック機構部と、
ロック機構部から独立した構成であり、扉の上部及び下部の少なくとも一方にて扉を枠に固定するための弾性係合部とを備え、
ロック機構部は、
扉側の構成として、
扉のかご室内の面に形成される開口孔と、
開口孔の奥側に位置してかご室内から回転操作可能な回転軸と、
回転軸から突出するロック片と、
かご室外から回転軸を回転操作可能な操作部と、
ロック状態からロック解除状態への切替え後に接触し、そこからさらに回転軸を回転操作すると、相対変位により接触点が移動して扉を開く方向に力を発生させる作用部及び傾斜カム部のいずれか一方とを備え、
枠側の構成として、
ロック片を係止する係止部と、
作用部及び傾斜カム部のいずれか他方とを備える
エレベータのかご。
【請求項2】
かご室を構成する壁に形成される非常口と、
一側端部を固定端、他側端部を自由端として非常口の枠に回転自在に取り付けられる内開き式の扉と、
扉の他側端部の所定高さ位置にて扉を枠に固定するためのロック機構部とを備え、
ロック機構部は、
扉側の構成として、
扉のかご室内の面に形成される開口孔と、
開口孔の奥側に位置してかご室内から回転操作可能な回転軸と、
回転軸から突出するロック片と、
かご室外から回転軸を回転操作可能な操作部と、
ロック状態からロック解除状態への切替え後に接触し、そこからさらに回転軸を回転操作すると、相対変位により接触点が移動して扉を開く方向に力を発生させる作用部及び傾斜カム部のいずれか一方とを備え、
枠側の構成として、
ロック片を係止する係止部と、
作用部及び傾斜カム部のいずれか他方とを備える
エレベータのかご。
【請求項3】
開口孔及び回転軸は、かご室内から回転軸を回転操作するための工具の引き抜き方向における工具との係合部を備えない
請求項1又は請求項2に記載のエレベータのかご。
【請求項4】
作用部及び傾斜カム部のいずれか一方は、操作部と一体的に設けられる
請求項1又は請求項2に記載のエレベータのかご。
【請求項5】
作用部及び傾斜カム部のいずれか他方は、係止部と一体的に設けられる
請求項1又は請求項2に記載のエレベータのかご。
【請求項6】
弾性係合部は、一方が扉側に、他方が枠側に取り付けられ、片方又は両方が弾性変位部を有して弾性係合する一対の部材で構成され、
片方又は両方の部材は、位置調整可能なブラケットを介して取り付けられる
請求項1に記載のエレベータのかご。
【請求項7】
請求項1又は請求項2に記載のかごを備える
エレベータ。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0007
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0008
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0008】
本発明に係るエレベータのかごは、
かご室を構成する壁に形成される非常口と、
一側端部を固定端、他側端部を自由端として非常口の枠に回転自在に取り付けられる内開き式の扉と、
扉の他側端部の所定高さ位置にて扉を枠に固定するためのロック機構部と、
ロック機構部から独立した構成であり、扉の上部及び下部の少なくとも一方にて扉を枠に固定するための弾性係合部とを備え、
ロック機構部は、
扉側の構成として、
扉のかご室内の面に形成される開口孔と、
開口孔の奥側に位置してかご室内から回転操作可能な回転軸と、
回転軸から突出するロック片と、
かご室外から回転軸を回転操作可能な操作部と、
ロック状態からロック解除状態への切替え後に接触し、そこからさらに回転軸を回転操作すると、相対変位により接触点が移動して扉を開く方向に力を発生させる作用部及び傾斜カム部のいずれか一方とを備え、
枠側の構成として、
ロック片を係止する係止部と、
作用部及び傾斜カム部のいずれか他方とを備える
エレベータのかごである。
また、別の本発明に係るエレベータのかごは、
かご室を構成する壁に形成される非常口と、
一側端部を固定端、他側端部を自由端として非常口の枠に回転自在に取り付けられる内開き式の扉と、
扉の他側端部の所定高さ位置にて扉を枠に固定するためのロック機構部とを備え、
ロック機構部は、
扉側の構成として、
扉のかご室内の面に形成される開口孔と、
開口孔の奥側に位置してかご室内から回転操作可能な回転軸と、
回転軸から突出するロック片と、
かご室外から回転軸を回転操作可能な操作部と、
ロック状態からロック解除状態への切替え後に接触し、そこからさらに回転軸を回転操作すると、相対変位により接触点が移動して扉を開く方向に力を発生させる作用部及び傾斜カム部のいずれか一方とを備え、
枠側の構成として、
ロック片を係止する係止部と、
作用部及び傾斜カム部のいずれか他方とを備える
エレベータのかごである。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0012
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0012】
また、本発明に係るエレベータのかごの他態様として、
弾性係合部は、一方が扉側に、他方が枠側に取り付けられ、片方又は両方が弾性変位部を有して弾性係合する一対の部材で構成され、
片方又は両方の部材は、位置調整可能なブラケットを介して取り付けられる
との構成を採用することができる。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0013
【補正方法】削除
【補正の内容】