(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024021371
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】鋳片の連続鋳造方法及び連続鋳造装置
(51)【国際特許分類】
B22D 11/10 20060101AFI20240208BHJP
B22D 11/115 20060101ALI20240208BHJP
B22D 11/11 20060101ALI20240208BHJP
B22D 11/20 20060101ALI20240208BHJP
B22D 41/50 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
B22D11/10 330E
B22D11/115 B
B22D11/11 D
B22D11/20 A
B22D41/50 520
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022124156
(22)【出願日】2022-08-03
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100195213
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 健治
(74)【代理人】
【識別番号】100202441
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 純
(72)【発明者】
【氏名】畠中 健
(72)【発明者】
【氏名】岡田 信宏
【テーマコード(参考)】
4E004
4E014
【Fターム(参考)】
4E004FB04
4E004MB11
4E004MB12
4E004MC05
4E004NB01
4E014DB03
(57)【要約】
【課題】鋳片の表面及び表層の品質を向上させることが可能な、鋳片の連続鋳造方法を開示する。
【解決手段】本開示の鋳片の連続鋳造方法は、浸漬ノズルから矩形の断面形状を有する鋳型へと溶鋼を吐出すること、を含み、前記浸漬ノズルは、内底と、前記内底よりも上方に存在する一対の吐出孔とを有し、前記浸漬ノズルは、一方の前記吐出孔が前記鋳型の一方の短辺に面し、他方の前記吐出孔が前記鋳型の他方の短辺に面するように、配置され、前記浸漬ノズルは、前記吐出孔の開口の図心を通り、且つ、前記浸漬ノズルの軸に沿った断面において、前記内底から前記吐出孔の下端面までの少なくとも一部に傾斜を有し、前記傾斜は、水平に対して0°超90°未満の傾斜角度αを有するものである。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳片の連続鋳造方法であって、浸漬ノズルから矩形の断面形状を有する鋳型へと溶鋼を吐出すること、を含み、
前記浸漬ノズルが、内底と、前記内底よりも上方に存在する一対の吐出孔とを有し、
前記浸漬ノズルの一方の前記吐出孔が、前記鋳型の一方の短辺に向けられ、他方の前記吐出孔が、前記鋳型の他方の短辺に向けられ、
前記浸漬ノズルが、前記吐出孔の開口の図心を通り、且つ、前記浸漬ノズルの軸に沿った断面において、前記内底から前記吐出孔の下端面までの少なくとも一部に傾斜を有し、
前記傾斜が、水平に対して0°超90°未満の傾斜角度αを有する、
鋳片の連続鋳造方法。
【請求項2】
前記浸漬ノズルから前記鋳型へと吐出された前記溶鋼に対して、電磁撹拌装置を用いて動磁場を印加すること、を含む、
請求項1に記載の鋳片の連続鋳造方法。
【請求項3】
前記浸漬ノズルから前記鋳型へと吐出された前記溶鋼に対して、電磁ブレーキ装置を用いて静磁場を印加すること、を含む、
請求項1に記載の鋳片の連続鋳造方法。
【請求項4】
前記鋳型の長辺が、600mm以上2400mm以下である、
請求項1~3のいずれか1項に記載の鋳片の連続鋳造方法。
【請求項5】
前記鋳型における前記溶鋼の湯面から前記吐出孔の上端までの浸漬深さDが、60mm以上300mm以下である、
請求項1~3のいずれか1項に記載の鋳片の連続鋳造方法。
【請求項6】
各々の前記吐出孔の開口形状が、矩形状であり、
前記開口形状の高さHが、30mm以上150mm以下であり、
前記開口形状の幅Wが、50mm以上90mm以下である、
請求項1~3のいずれか1項に記載の鋳片の連続鋳造方法。
【請求項7】
前記浸漬ノズルの内径Iが、10mm以上70mm以下である、
請求項1~3のいずれか1項に記載の鋳片の連続鋳造方法。
【請求項8】
鋳造速度が、1.2m/min以上である、
請求項1~3のいずれか1項に記載の鋳片の連続鋳造方法。
【請求項9】
鋳片の連続鋳造装置であって、矩形の断面形状を有する鋳型と、前記鋳型へと溶鋼を供給する浸漬ノズルとを有し、
前記浸漬ノズルが、内底と、前記内底よりも上方に存在する一対の吐出孔とを有し、
前記浸漬ノズルの一方の前記吐出孔が、前記鋳型の一方の短辺に向けられ、他方の前記吐出孔が、前記鋳型の他方の短辺に向けられ、
前記浸漬ノズルが、前記吐出孔の開口の図心を通り、且つ、前記浸漬ノズルの軸に沿った断面において、前記内底から前記吐出孔の下端面までの少なくとも一部に傾斜を有し、
前記傾斜が、水平に対して0°超90°未満の傾斜角度αを有する、
鋳片の連続鋳造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は鋳片の連続鋳造方法及び連続鋳造装置を開示する。
【背景技術】
【0002】
鋳片の連続鋳造の際は、タンディッシュや鋳型において、溶鋼中に含まれる気泡や非金属介在物を浮上分離し、鋳片の欠陥を低減し、品質を向上させる必要がある。例えば、鋳片を熱間圧延して熱延鋼板を製造する場合、鋳片の表面及び表層の品質が重視され、品質が不十分である場合には鋳片の表面を研削して手入れする必要があり、歩留低下の原因となる。連続鋳造によって製造される鋳片の品質は、鋳型内の溶鋼の流動による影響を強く受ける。そのため、鋳片の品質を向上させるためには、鋳型内の溶鋼の流動を適正に制御することが重要となる。鋳型内の溶鋼の流動に対して影響を与える因子の一つに、浸漬ノズルから鋳型内への吐出流がある。
【0003】
浸漬ノズルは中空構造を持つ耐火物製のノズルであり、上部はタンディッシュの底部に直接的又は間接的に接続され、下部は鋳型内の溶鋼に浸漬して使用される。連続鋳造において一般的に用いられている浸漬ノズルは、側壁に1対の吐出孔が設けられた二孔ノズルである。二孔ノズルを連続鋳造に用いた場合、タンディッシュから二孔ノズル内へと供給された溶鋼が、各々の吐出孔から斜め下向き、且つ、鋳型短辺に向かって吐出される。吐出孔からの吐出流の向きは吐出孔の角度によって調整され、鋳造条件に応じて適正な吐出孔角度を持つ浸漬ノズルが用いられる(例えば、特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-331004号公報
【特許文献2】特許第4665056号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように、浸漬ノズルの吐出孔から鋳型内へと吐出流が斜め下向きに吐出される。すなわち、吐出孔から吐出される吐出流の流速には、鋳型短辺に向かう水平方向の速度成分と、鉛直下向きの速度成分とが含まれ得る。ここで、本発明者の知見によると、吐出流の鉛直下向きの速度成分が大きい場合、気泡や非金属介在物等が鋳片の深くまで持ち込まれて、鋳片の品質が悪化し易い。この点、浸漬ノズルからの吐出流の向きを制御するための新たな技術が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願は上記課題を解決するための手段として、以下の複数の態様を開示する。
<態様1>
鋳片の連続鋳造方法であって、浸漬ノズルから矩形の断面形状を有する鋳型へと溶鋼を吐出すること、を含み、
前記浸漬ノズルが、内底と、前記内底よりも上方に存在する一対の吐出孔とを有し、
前記浸漬ノズルの一方の前記吐出孔が、前記鋳型の一方の短辺に向けられ、他方の前記吐出孔が、前記鋳型の他方の短辺に向けられ、
前記浸漬ノズルが、前記吐出孔の開口の図心を通り、且つ、前記浸漬ノズルの軸に沿った断面において、前記内底から前記吐出孔の下端面までの少なくとも一部に傾斜を有し、
前記傾斜が、水平に対して0°超90°未満の傾斜角度αを有する、
鋳片の連続鋳造方法。
<態様2>
前記浸漬ノズルから前記鋳型へと吐出された前記溶鋼に対して、電磁撹拌装置を用いて動磁場を印加すること、を含む、
態様1の鋳片の連続鋳造方法。
<態様3>
前記浸漬ノズルから前記鋳型へと吐出された前記溶鋼に対して、電磁ブレーキ装置を用いて静磁場を印加すること、を含む、
態様1又は2の鋳片の連続鋳造方法。
<態様4>
前記鋳型の長辺が、600mm以上2400mm以下である、
態様1~3のいずれかの鋳片の連続鋳造方法。
<態様5>
前記鋳型における前記溶鋼の湯面から前記吐出孔の上端までの浸漬深さDが、60mm以上300mm以下である、
態様1~4のいずれかの鋳片の連続鋳造方法。
<態様6>
各々の前記吐出孔の開口形状が、矩形状であり、
前記開口形状の高さHが、30mm以上150mm以下であり、
前記開口形状の幅Wが、50mm以上90mm以下である、
態様1~5のいずれかの鋳片の連続鋳造方法。
<態様7>
前記浸漬ノズルの内径Iが、10mm以上70mm以下である、
態様1~6のいずれかの鋳片の連続鋳造方法。
<態様8>
鋳造速度が、1.2m/min以上である、
態様1~7のいずれかの鋳片の連続鋳造方法。
<態様9>
鋳片の連続鋳造装置であって、矩形の断面形状を有する鋳型と、前記鋳型へと溶鋼を供給する浸漬ノズルとを有し、
前記浸漬ノズルが、内底と、前記内底よりも上方に存在する一対の吐出孔とを有し、
前記浸漬ノズルの一方の前記吐出孔が、前記鋳型の一方の短辺に向けられ、他方の前記吐出孔が、前記鋳型の他方の短辺に向けられ、
前記浸漬ノズルが、前記吐出孔の開口の図心を通り、且つ、前記浸漬ノズルの軸に沿った断面において、前記内底から前記吐出孔の下端面までの少なくとも一部に傾斜を有し、
前記傾斜が、水平に対して0°超90°未満の傾斜角度αを有する、
鋳片の連続鋳造装置。
【発明の効果】
【0007】
本開示の技術によれば、浸漬ノズルの内底から吐出孔の下端面までの少なくとも一部に角度αにて傾斜が設けられることにより、溶鋼流の一部が、浸漬ノズルの内底から吐出孔に向かって上向きに矯正されながら吐出されるため、傾斜を設けない場合と比較して、吐出孔から鋳型下方へと向かう流れが弱まり、気泡や非金属介在物等が鋳片の深くまで持ち込まれ難くなり、鋳片の品質が向上し易い。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】鋳片の連続鋳造方法の流れを概略的に示している。
【
図2】浸漬ノズル及び鋳型の断面の形状であって、浸漬ノズルの吐出孔の開口の図心を通り、且つ、浸漬ノズルの軸に沿った断面の形状を概略的に示している。
【
図3】浸漬ノズル及び鋳型の断面の形状であって、水平方向に沿った断面の形状を概略的に示している。
【
図4】浸漬ノズルの内底から吐出孔の下端面までの傾斜の形状の一例を概略的に示している。(A)は傾斜角度αが一定である場合、(B)及び(C)は傾斜角度αが一定でない場合である。
【
図5】本開示の鋳片の連続鋳造方法による効果を概略的に示している。
【
図6】浸漬ノズルのうち溶鋼湯面よりも下方にある部分の形状の一例を概略的に示している。
【
図7】数値シミュレーションによる鋳片表面品質の評価例を示している。
【
図8】数値シミュレーションによる鋳片表面品質の評価例を示している。
【
図9】数値シミュレーションによる鋳片表面品質の評価例を示している。
【
図10】数値シミュレーションによる鋳片表面品質の評価例を示している。
【
図11】数値シミュレーションによる鋳片表面品質の評価例を示している。
【発明を実施するための形態】
【0009】
1.鋳片の連続鋳造方法
以下、図面を参照しつつ、本開示の鋳片の連続鋳造方法の一実施形態について説明する。
図1~6に示されるように、本開示の鋳片の連続鋳造方法は、浸漬ノズル20から矩形の断面形状を有する鋳型10へと溶鋼1を吐出すること、を含む。前記浸漬ノズル20は、内底21と、前記内底21よりも上方に存在する一対の吐出孔22とを有する。前記浸漬ノズル20の一方の前記吐出孔22は、前記鋳型10の一方の短辺に向けられ、他方の前記吐出孔22は、前記鋳型10の他方の短辺に向けられている。前記浸漬ノズル20は、前記吐出孔22の開口の図心を通り、且つ、前記浸漬ノズル20の軸に沿った断面において、前記内底21から前記吐出孔22の下端面22yまでの少なくとも一部に傾斜23を有する。前記傾斜23は、水平に対して0°超90°未満の傾斜角度αを有する。
【0010】
1.1 鋳型
鋳型10は、連続鋳造用鋳型として一般的なものであってよい。
図3に示されるように、鋳型10は、矩形の断面形状を有する。すなわち、鋳型10の開口形状が矩形状である。本願にいう「矩形」とは、実質的に矩形であればよい。すなわち、完全な矩形でなくともよく、例えば、角部が丸みを帯びていてもよい。鋳型10の断面形状は、鋳造後の鋳片5の断面形状と対応する。
図3に示されるように、鋳型10の矩形の断面形状は、長辺と短辺とを有し得る。本開示の方法がスラブの連続鋳造方法として適用される場合、鋳型10の短辺に対する鋳型10の長辺の比(長辺/短辺)は、例えば、3以上であってもよい。鋳型10の長辺は、例えば、600mm以上、又は、700mm以上であってもよく、2400mm以下、又は、1900mm以下であってもよい。鋳型10の短辺は、例えば、100mm以上、又は、200mm以上であってもよく、300mm以下、又は、250mm以下であってもよい。
【0011】
1.2 浸漬ノズル
図1~3に示されるように、浸漬ノズル20は、タンディッシュ50から供給された溶鋼1を鋳型10内へと吐出する。浸漬ノズル20は、公知の耐火物からなる。浸漬ノズル20は、後述する内底21、吐出孔22及び傾斜23を有すること以外は、従来と同様の構成を採り得る。すなわち、浸漬ノズル20において、吐出孔22よりも上流側の構成は、従来と同様であってよい。例えば、浸漬ノズル20は、吐出孔22よりも上流側において略筒状(例えば、円筒状)であってもよく、浸漬ノズル20の軸の向き(浸漬ノズル20の長手方向)は、鉛直方向と実質的に一致し得る。すなわち、浸漬ノズル20は、上流側から下流側に向かって下向きに延在する、筒状の2孔ノズルであってもよい。浸漬ノズル20の上端は、タンディッシュ50に直接的又は間接的に接続され得る。浸漬ノズル20とタンディッシュ50との接続形態は、特に限定されるものではない。
【0012】
図2に示されるように、浸漬ノズル20は、内底21と、内底21よりも上方に存在する一対の吐出孔22、22とを有する。
図2及び3に示されるように、浸漬ノズル20の一方の吐出孔22は、鋳型10の一方の短辺に向けられ、他方の吐出孔22は、鋳型10の他方の短辺に向けられている。すなわち、
図2及び3に示されるように、浸漬ノズル20の内部に供給された溶鋼1は、浸漬ノズル20の各々の吐出孔22、22から鋳型10の短辺に向かって吐出される。また、
図2に示されるように、浸漬ノズル20は、吐出孔22の開口の図心を通り、且つ、浸漬ノズル20の軸に沿った断面において、内底21から吐出孔22の下端面22yまでの少なくとも一部に傾斜23を有する。傾斜23は、水平に対して0°超90°未満の傾斜角度αを有する。傾斜23は、各々の吐出孔22、22の直下に設けられている。
【0013】
1.2.1 内底
図2に示されるように、浸漬ノズル20の内底21は、浸漬ノズル20の内部における下端となり得る。吐出孔22の開口の図心を通り、且つ、浸漬ノズル20の軸に沿った断面において、内底21は、点であってもよいし、
図2に示されるように実質的に平坦であってもよい。
【0014】
1.2.2 吐出孔
上述したように、浸漬ノズル20は、一対の吐出孔22、22が、各々、鋳型10の短辺に向けられるように、配置されている。吐出孔22は、浸漬ノズル20の側壁の一部を穿つようにして形成され得る。
図2に示されるように、吐出孔22は、その上端が端面22xによって画定され、その下端が端面22yによって画定され得る。
図2に示されるように、端面22x、22yによって吐出孔22の吐出角度βが特定される。吐出角度βは、特に限定されるものではなく、例えば、10°以上、20°以上、30°以上、又は、40°以上であってもよく、80°以下、70°以下、60°以下、又は、50°以下であってもよい。上端面22xにおける角度βと、下端面22yにおける角度βとは、互いに同じであってもよいし、異なっていてもよい。また、上端面22x及び下端面22yの各々において、角度βは、一定であってもよいし、内壁側から外壁側に向かうにつれて連続的又は断続的に変化していてもよい。
【0015】
1.2.3 傾斜
図2に示されるように、浸漬ノズル20は、内底21から吐出孔22の下端面22yまでの少なくとも一部に傾斜23を有する。傾斜23は、水平に対して0°超90°未満の傾斜角度αを有する。
図4(A)に示されるように、傾斜23の傾斜角度αは、内底21から吐出孔22の下端面22yまで一定であってもよいし、
図4(B)及び(C)に示されるように、内底21から吐出孔22の下端面22yにかけて変化していてもよい。言い換えれば、傾斜23は、吐出孔22の開口の図心を通り、且つ、浸漬ノズル20の軸に沿った断面において、直線状であってもよいし、曲線状であってもよいし、折線状であってもよいし、これらが組み合わされた形状であってもよい。中でも、曲線状である場合、傾斜23の割れ等が抑制されるものと考えられる。また、傾斜23の傾斜角度αは、内底21から吐出孔22の下端面22yに向かうにつれて、増加していてもよいし(
図4(B))、減少していてもよい(
図4(C))。特に、傾斜23の傾斜角度αが、内底21から吐出孔22の下端面22yに向かうにつれて、増加している場合(
図4(B))に、傾斜23の割れ等が一層抑制され易く、内底21に衝突した溶鋼流を上昇流に矯正し易いものと考えられる。或いは、傾斜23の傾斜角度αが、内底21から吐出孔22の下端面22yに向かうにつれて、減少している場合(
図4(C))、傾斜23と下端面22yとの接続部が比較的滑らかになり、吐出流の乱れを減少させて、流れをスムーズにする効果が期待できる。また、吐出孔22の開口の図心を通り、且つ、浸漬ノズル20の軸に沿った断面において、傾斜23が、内底21側に始点、吐出孔22の下端面22y側に終点を有するものと仮定した場合、当該始点の位置は、吐出孔22よりも上流側のノズル内壁を鉛直下向きに延長した延長線(
図4(A)~(C)における一点鎖線)上にあってもよいし、当該延長線よりも内側(当該延長線とノズル軸との間)にあってもよいし、当該延長線よりも外側(ノズル外壁側)にあってもよい。
図4(A)~(C)には、当該始点の位置が、当該延長線よりも内側にある形態を例示した。また、当該終点の位置は、吐出孔22よりも上流側のノズル内壁を鉛直下向きに延長した延長線上にあってもよいし、当該延長線よりも内側(当該延長線とノズル軸との間)にあってもよいし、当該延長線よりも外側(ノズル外壁側)にあってもよい。
図4(A)及び(B)には、当該終点の位置が、当該延長線よりも外側にある形態を例示し、
図4(C)には、当該終点の位置が、当該延長線上にある形態を例示した。
【0016】
傾斜23の傾斜角度αは、0°超90°未満である。
図4(A)~(C)に示されるように、傾斜23は、内底21から吐出孔22の下端面22yまでの少なくとも一部存在している。当該傾斜23は、特に、内底21から吐出孔22の下端面22に至るまで設けられていることが好ましく、内底21から吐出孔22の下端面22に至るまで傾斜角度αが0°となる部分や90°となる部分を実質的に有しないことが好ましい。鋳片の連続鋳造時、溶鋼1は、例えば、タンディッシュ50から浸漬ノズル20の内部へと高速で流れ込む。本発明者の知見によると、仮に傾斜角度αが0°や90°である場合(すなわち、傾斜23が存在しない場合)、
図5(A)に示されるように、吐出流の向きが、吐出孔22の角度βに沿った向き(角度βを有する端面22x、22yに沿った向き)よりも下向きとなり易い。これに対し、傾斜角度αが0°超90°未満である場合、
図5(B)に示されるように、浸漬ノズル20の内底21に衝突した溶鋼流が、傾斜23によって上向きに矯正され、この上向きの溶鋼流が吐出流を押し上げることで、傾斜23が存在しない場合と比較して、吐出流の向きが相対的に上向くこととなる。このように、本開示の方法によれば、浸漬ノズル20の内底21から吐出孔22の下端面22yまで角度αにて傾斜23が設けられることにより、浸漬ノズル20の内底21から吐出孔22に向かって溶鋼流が上向きに矯正されながら吐出されるため、傾斜23が設けられない場合と比較して、吐出孔22から鋳型下方へと向かう流れが弱まり、気泡や非金属介在物等が鋳片の深くまで持ち込まれ難く、鋳片の品質が向上し易い。特に、傾斜角度αが、10°以上、20°以上、又は、30°以上であり、且つ、80°以下、75°以下、又は、70°以下である場合に、より優れた効果が発揮され易い。
【0017】
1.2.4 寸法
浸漬ノズル20の寸法は、特に限定されるものではなく、連続鋳造条件等に応じて最適なものを選択すればよい。以下、浸漬ノズル20の寸法の一例を示す。
【0018】
(ノズル内径I)
図6に示されるように、浸漬ノズル20は、内径Iを有し得る。ノズルの内径Iとは、吐出孔22よりも上流側における内径をいう。浸漬ノズル20の内径Iは、特に限定されるものではないが、例えば、10mm以上、又は、30mm以上であってもよく、70mm以下、又は、50mm以下であってもよい。
【0019】
(ノズル外径O)
図6に示されるように、浸漬ノズル20は、外径Oを有し得る。ノズルの外径Oとは、吐出孔22よりも上流側における外径をいう。浸漬ノズル20の外径Oは、特に限定されるものではないが、例えば、50mm以上、又は、70mm以上であってもよく、100mm以下、又は、90mm以下であってもよい。
【0020】
(吐出孔の高さH及び幅W)
図6に示されるように、浸漬ノズル20の各々の吐出孔22の開口形状は、例えば、矩形状であってもよい。この場合、当該開口形状の高さHは、例えば、30mm以上、又は、50mm以上であってもよく、150mm以下、又は、90mm以下であってもよい。また、当該開口形状の幅Wは、例えば、50mm以上、又は、60mm以上であってもよく、140mm以下、又は、90mm以下であってもよい。
【0021】
(傾斜高さh)
図6に示されるように、浸漬ノズル20の傾斜23は、内底21から吐出孔22の下端までの間に高さhを有し得る。傾斜23の高さhは、上述の傾斜角度αが確保される限り、特に限定されるものではない。傾斜23の高さhは、例えば、10mm以上、又は、20mm以上であってもよく、30mm以下、又は、40mm以下であってもよい。
【0022】
(浸漬深さD)
図6に示されるように、浸漬ノズル20の下端は、鋳型10内の溶鋼1の湯面よりも下方に浸漬され、溶鋼1の湯面から吐出孔22の上端までに、浸漬深さDが存在し得る。浸漬深さDは、特に限定されるものではない。ただし、浸漬ノズル20の吐出孔22の位置が、溶鋼1の湯面に近過ぎると、吐出流が湯面を乱す等して、湯面におけるパウダーの巻き込み等を引き起こす虞がある。本開示の方法においては、このような問題を回避する観点から、鋳型10における溶鋼1の湯面から浸漬ノズル20の吐出孔22の上端までの浸漬深さDが、60mm以上、70mm以上、80mm以上、又は、85mm以上であってもよい。一方で、浸漬ノズル20の吐出孔22の位置が、溶鋼1の湯面から遠過ぎる(浸漬深さDが大き過ぎる)と、吐出孔22から下方に向かう吐出流によって、気泡や金属介在物が鋳片の深くに持ち込まれ易くなる虞がある。本開示の方法においては、このような問題を回避する観点から、鋳型10における溶鋼1の湯面から浸漬ノズル20の吐出孔22の上端までの浸漬深さDが、300mm以下、200mm以下、150mm以下、又は、100mm以下であってもよい。
【0023】
(ノズル長さ)
浸漬ノズル20は、上端から下端までに長さを有し得る。下端は、鋳型10内の溶鋼1に浸漬される。上端は、タンディッシュ50に直接的又は間接的に接続され得る。浸漬ノズル20の全長(不図示)は、鋳型10へと溶鋼1を適切に供給可能な長さであればよく、例えば、500mm以上、又は、700mm以上であってもよく、1000mm以下、又は、800mm以下であってもよい。
【0024】
1.3 その他の構成や条件
本開示の鋳片の連続鋳造方法においては、上述の鋳型10及び浸漬ノズル20とともに、種々の部材や装置が併用され得る。例えば、電磁撹拌装置30、電磁ブレーキ装置40、タンディッシュ50等である。また、連続鋳造時、鋳型10に対して振動(オシレーション)を付与してもよい。また、鋳型10の下流側にロールや鋳片5を冷却するためのスプレーノズル等が配置されていてもよい。
【0025】
1.3.1 電磁撹拌装置
図1に示されるように、本開示の鋳片の連続鋳造方法は、浸漬ノズル20から鋳型10へと吐出された溶鋼1に対して、電磁撹拌装置30を用いて動磁場を印加すること、を含むものであってもよい。電磁撹拌装置30は、鋳型10内の溶鋼1に対して動磁場を印加して、溶鋼1にローレンツ力すなわち電磁力を発生させて、溶鋼1を流動させるものである。例えば、電磁撹拌装置30からの動磁場によって、水平断面において、鋳型10内の溶鋼1に旋回流が付与され得る。電磁攪拌により溶鋼1の凝固シェル界面に流動を発生させることで、溶鋼1中の気泡が凝固シェル界面に捕捉されて気泡性欠陥となること等が抑制され得る。すなわち、より高品質な鋳片5が得られ易い。電磁撹拌装置30は、例えば、後述の電磁ブレーキ装置40よりも上方に配置され得る。また、電磁撹拌装置30は、例えば、溶鋼1の湯面よりも下方に配置され得る。電磁撹拌装置30の中心位置(高さ方向において撹拌推力が最も大きくなる位置)から溶鋼1の湯面位置までの距離は、例えば、50mm以上200mm以下であってもよい。このような電磁撹拌装置30は、連続鋳造用の電磁撹拌装置として一般的なものをいずれも採用可能である。例えば、電磁撹拌装置30は、磁性体のコアを有するものであってよい。具体的には、電磁撹拌装置30は、磁性体のコアに銅製のコイルが巻きつけられ、コイルに電流を印加することによって磁場を発生させるように構成されたものであってもよい。
【0026】
1.3.2 電磁ブレーキ装置
図1に示されるように、本開示の鋳片の連続鋳造方法は、浸漬ノズル20から鋳型10へと吐出された溶鋼1に対して、電磁ブレーキ装置40を用いて静磁場を印加すること、を含むものであってもよい。電磁ブレーキ装置40は、浸漬ノズル20からの吐出流に対して鋳型10の厚み方向に静磁場を印加して、吐出流に制動力を付与するものである。例えば、電磁ブレーキ装置40からの静磁場によって、浸漬ノズル20からの吐出流の少なくとも一部が、電磁ブレーキによって減速され得る。或いは、当該吐出流の少なくとも一部が、電磁ブレーキによって跳ね返され、湯面へと向かう上昇流が生じ得る。電磁ブレーキ装置40は、例えば、電磁撹拌装置30よりも下方に配置され得る。電磁ブレーキ装置40の中心位置(高さ方向において磁束密度が最大となる位置)から、電磁撹拌装置30の中心位置(高さ方向において撹拌推力が最も大きくなる位置)までの距離は、例えば、400mm以上600mm以下であってもよい。このような電磁ブレーキ装置40は、連続鋳造用の電磁ブレーキ装置として一般的なものをいずれも採用可能である。例えば、上記の静磁場は、永久磁石により印加されてもよいし、鉄心にコイルを巻いて通電する電磁石によって印加されてもよい。特に、電磁ブレーキ装置40が、鉄心にコイルを巻いて通電する電磁石を備える場合、磁場強度の変更が容易となる。
【0027】
1.3.3 モールドパウダー
図1に示されるように、本開示の鋳片の連続鋳造方法においては、鋳型10内の溶鋼1の湯面にモールドパウダー2が供給されてもよい。溶鋼1の湯面にモールドパウダー2が供給されることで、溶鋼1の酸化等が抑制され、また、鋳型10内壁と凝固シェルとの間の潤滑性等が確保され得る。モールドパウダーは、鋼種等に応じて、公知のモールドパウダーの中から最適なものを選択すればよい。
【0028】
1.3.4 タンディッシュ
図1に示されるように、本開示の鋳片の連続鋳造方法においては、タンディッシュ50から浸漬ノズル20を介して鋳型10へと溶鋼1が供給され得る。中間容器としてのタンディッシュ50を用いることで、溶鋼1中の非金属介在物等が浮上除去され易くなる。タンディッシュ50は、公知のものをいずれも採用可能である。
【0029】
1.3.5 鋳造速度
本開示の鋳片の連続鋳造方法は、低速鋳造から高速鋳造まで、いずれの鋳造速度にも対応可能である。鋳造速度は、特に限定されるものではないが、例えば、0.7m/min以上、0.9m/min以上、又は、1.2m/min以上であってもよく、2.0m/min以下、1.8m/min以下、又は、1.6m/min以下であってもよい。
【0030】
1.3.6 鋼種
本開示の鋳片の連続鋳造方法において適用される鋼種に特に制限はない。鋳片の用途等に応じて適切な鋼種が選択されればよい。
【0031】
2.鋳片の連続鋳造装置
本開示の技術は、鋳片の連続鋳造装置としての側面も有する。
図1に示されるように、本開示の鋳片の連続鋳造装置100は、矩形の断面形状を有する鋳型10と、前記鋳型10へと溶鋼1を供給する浸漬ノズル20とを有する。前記浸漬ノズル20は、内底21と、前記内底21よりも上方に存在する一対の吐出孔22、22とを有する。前記浸漬ノズル20の一方の前記吐出孔22は、前記鋳型10の一方の短辺に向けられ、他方の前記吐出孔22は、前記鋳型10の他方の短辺に向けられている。前記浸漬ノズル20は、前記吐出孔22の開口の図心を通り、且つ、前記浸漬ノズル20の軸に沿った断面において、前記内底21から前記吐出孔22の下端面22yまでの少なくとも一部に傾斜23を有する。前記傾斜23は、水平に対して0°超90°未満の傾斜角度αを有する。
【0032】
2.1 基本構成
連続鋳造装置100の基本構成である鋳型10や浸漬ノズル20については、上述した通りである。例えば、連続鋳造方法において説明した寸法や条件が、連続鋳造装置100における寸法や条件として採用され得る。すなわち、鋳型10の長辺や短辺の長さや、浸漬深さDや、吐出孔22の高さH及び幅Wや、浸漬ノズル20の内径Iや外形O等が、上述した所定の寸法を有し得る。
【0033】
2.2 任意構成
連続鋳造装置100においては、鋳型10及び浸漬ノズル20とともに、種々の部材や装置が併用され得る。例えば、電磁撹拌装置30、電磁ブレーキ装置40、タンディッシュ50等である。また、鋳型10を振動させるための振動付与装置が用いられてもよい。また、鋳型10の下流側にロールや鋳片5を冷却するためのスプレーノズル等があってもよい。これら任意構成についても、上述したものと同様のものが採用され得る。連続鋳造装置100は、湾曲型連続鋳造装置であってもよいし、垂直曲げ型連続鋳造装置であってもよい。
【0034】
3.連続鋳造用の浸漬ノズル
本開示の技術は、鋳片の連続鋳造用の浸漬ノズルとしての側面も有する。すなわち、本開示の浸漬ノズル20は、内底21と、前記内底21よりも上方に存在する一対の吐出孔22、22とを有し、前記吐出孔22の開口の図心を通り、且つ、前記浸漬ノズル20の軸に沿った断面において、前記内底21から前記吐出孔22の下端面22yまでの少なくとも一部に傾斜23が設けられ、前記傾斜23が、水平に対して90°未満の傾斜角度αを有するものである。浸漬ノズル20の構成については、上述した通りであり、ここでは詳細な説明を省略する。
【0035】
4.効果
以上の通り、本開示の技術によれば、浸漬ノズル20の内底21から吐出孔22の下端面22yまでの少なくとも一部に角度αにて傾斜23が設けられることにより、溶鋼流の一部が、浸漬ノズル20の内底21から吐出孔22に向かって上向きに矯正されながら吐出されるため、傾斜が設けられない場合と比較して、吐出孔22から鋳型10の下方へと向かう流れが弱まり、気泡や非金属介在物等が鋳片5の深くまで(相対的に下流まで)持ち込まれ難くなり、鋳片5の欠陥が低減されて、鋳片5の品質が向上し易い。
【実施例0036】
以下、実施例を示しつつ本発明についてさらに説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱せず、その目的を達する限りにおいて、種々の条件を採用可能とするものである。
【0037】
1.従来の浸漬ノズルを用いた場合の評価
浸漬ノズルと鋳片品質との関係を把握するため、従来の浸漬ノズル(外径O:150mm、内径I:85mm、吐出孔の幅W:85mm、吐出孔の角度β:45°、傾斜角度α:90°)について、吐出孔高さHと鋳片品質との関係についての数値シミュレーションによる評価を行った。シミュレーションは特開2015-157309号公報(特許第6379515号公報)に開示されている手法、すなわち電磁場シミュレーションにより得た電磁力分布を用いた熱流動シミュレーションにより行った。気泡性欠陥の評価方法も、同公報に記載された方法と同様とした。尚、「(鋳片表面から2mm~15mm深さに含まれる気泡体積率)×10
6」を「ブローホール指数」として求めた。浸漬ノズル以外については、鋳型長辺:1250mm、鋳型短辺:248mm、鋳片引き抜き速度(鋳造速度):1.4m/minとし、電磁攪拌を設定電流値620Aで印加する条件とした。浸漬ノズルのその他の寸法や形状は下記表1に示される通りである。また、パラメータO、I、W、β、α、H、及び、Dは、各々、
図2及び6にて示されたものに相当する。
【0038】
【0039】
図7に、数値シミュレーションにより得られた鋳片表面品質の評価例を示す。
図7に示されるブローホール指数は、鋳片表皮下における疵個数の程度を表す指標であり、値が小さいほど表面品質が良好であることを示す。
図7より、ブローホール指数は、吐出孔高さHによって大きく変化しており、吐出孔高さHが80mmの場合に最も良好となることが分かる。ただし、浸漬深さDが107~117mmの場合、一般的な鋳造条件と比較して非常に浅く、鋳片表面品質が悪化し易い傾向にある。この点、鋳片の表面品質をさらに向上可能な浸漬ノズル形状について、さらに検討を行った。
【0040】
2.傾斜角度αを変更した場合
図7に示された各ケースについて、さらに品質向上を志向し、上述の吐出孔の内側直下に傾斜を設けた条件で数値シミュレーションを実施した。
図8に各吐出孔高さHにおけるブローホール指数の傾斜角度αの依存性をそれぞれ示す。ここで、傾斜角度αが90°である場合が従来のノズル形状であり、ブローホール指数が
図7に示した値と一致する。
図8より、ブローホール指数は傾斜角度αによって変化しており、いずれの吐出孔高さHにおいても、0°超90°未満の傾斜角度αを設けることで、従来と比較して鋳片の品質が向上することが分かる。
【0041】
3.浸漬深さDを変更した場合
浸漬深さDを変更した場合において、吐出孔の直下の傾斜角度αの影響について評価した。評価には上記の浸漬ノズルc(吐出孔高さH:70mm)を用いた。
図9に、浸漬深さDが85mmの場合、117mmの場合、及び、200mmの場合の各々について、ブローホール指数を示す。
図9より、浸漬深さDを変更した場合においても、傾斜角度αが60°であるノズルを用いた場合のほうが、傾斜角度αが90°である従来のノズルを用いた場合よりも、ブローホール指数が低位となることが分かる。すなわち、浸漬深さDを変更した場合でも、ノズルの吐出孔の直下に傾斜を設けることにより、鋳片の品質向上効果が得られることが分かる。
【0042】
4.鋳型幅を変更した場合
鋳型幅(長辺)を変更した場合において、吐出孔の直下の傾斜角度αの影響について検討した。評価には上記の浸漬ノズルd(吐出孔高さH:80mm)を用い、浸漬深さDは117mmとした。
図10に、鋳型幅(長辺)が700mmの場合、1250mmの場合、及び、1900mmの場合の各々について、ブローホール指数を示す。
図10より、鋳型幅(長辺)を変更した場合においても、傾斜角度αが60°であるノズルを用いた場合のほうが、傾斜角度αが90°である従来のノズルを用いた場合よりも、ブローホール指数が低位となることが分かる。すなわち、鋳型幅(長辺)を変更した場合でも、ノズルの吐出孔の直下に傾斜を設けることにより、鋳片の品質向上効果が得られることが分かる。
【0043】
5.鋳造速度を変更した場合
鋳造速度を変更した場合において、吐出孔の直下の傾斜角度αの影響について検討した。評価には上記の浸漬ノズルd(吐出孔高さH:80mm)を用い、浸漬深さDは117mmとした。
図11に、鋳造速度が1.2m/minの場合、1.4m/minの場合、及び、1.6m/minの場合の各々について、ブローホール指数を示す。
図11より、鋳造速度を変更した場合においても、傾斜角度αが60°であるノズルを用いた場合のほうが、傾斜角度αが90°である従来のノズルを用いた場合よりも、ブローホール指数が低位となることが分かる。すなわち、鋳造速度を変更した場合でも、ノズルの吐出孔の直下に傾斜を設けることにより、鋳片の品質向上効果が得られることが分かる。
【0044】
6.まとめ
以上の結果から、鋳片の連続鋳造時、以下の要件(1)~(4)を満たす浸漬ノズルを用いることで、傾斜角度αが90°(又は0°)である従来の浸漬ノズルを用いた場合よりも、鋳片の品質が向上することが分かった。これは、以下のメカニズムによるものと考えられる。すなわち、浸漬ノズルの内底から吐出孔の下端面までの少なくとも一部に角度α(0°<α<90°)にて傾斜が設けられることにより、溶鋼流の一部が、浸漬ノズルの内底から吐出孔に向かって上向きに矯正されながら吐出されるため、傾斜が設けられない場合(α=90°又はα=0°である場合)と比較して、吐出孔から鋳型下方へと向かう流れが弱まり、気泡や非金属介在物等が鋳片の深くまで持ち込まれ難くなり、鋳片の欠陥が低減されて、鋳片の品質が向上したものと考えられる。
【0045】
(1)浸漬ノズルが、内底と、前記内底よりも上方に存在する一対の吐出孔とを有する。
(2)浸漬ノズルの一方の吐出孔が、鋳型の一方の短辺に向けられ、他方の吐出孔が、鋳型の他方の短辺に向けられる(すなわち、浸漬ノズル内に供給された溶鋼が、浸漬ノズルの吐出孔から鋳型短辺に向かって吐出される)。
(3)浸漬ノズルが、吐出孔の開口の図心を通り、且つ、浸漬ノズルの軸に沿った断面において、内底から吐出孔の下端面までの少なくとも一部に傾斜を有する。
(4)傾斜が、水平に対して0°超90°未満の傾斜角度αを有する。