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特開2024-21381ハブユニット軸受の製造方法及びハブユニット軸受
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024021381
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】ハブユニット軸受の製造方法及びハブユニット軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/64 20060101AFI20240208BHJP
   F16C 19/18 20060101ALI20240208BHJP
   F16C 35/063 20060101ALI20240208BHJP
   B23P 15/00 20060101ALI20240208BHJP
   B23B 1/00 20060101ALI20240208BHJP
   B24B 9/00 20060101ALI20240208BHJP
   B60B 35/02 20060101ALI20240208BHJP
   B60B 35/14 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
F16C33/64
F16C19/18
F16C35/063
B23P15/00 C
B23B1/00 Z
B24B9/00 601J
B60B35/02 L
B60B35/14 V
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022124170
(22)【出願日】2022-08-03
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】高梨 晴美
(72)【発明者】
【氏名】若林 達男
【テーマコード(参考)】
3C045
3C049
3J117
3J701
【Fターム(参考)】
3C045AA10
3C049AA03
3C049AA09
3C049AB04
3C049CA01
3C049CA02
3C049CA04
3C049CB01
3J117AA02
3J117BA10
3J117DA01
3J117DA02
3J117DB08
3J117HA02
3J701AA02
3J701AA16
3J701AA25
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701AA72
3J701BA53
3J701BA56
3J701DA09
3J701DA11
3J701FA01
3J701FA13
3J701FA33
3J701FA35
3J701GA03
(57)【要約】
【課題】ハブの嵌合円筒部を研削する際に発生するバリが、嵌合円筒部に内輪を圧入する際に分離することを防止して、バリに起因する異音、焼付き、表層面の剥離などの障害を防止することができるハブユニット軸受の製造方法及びハブユニット軸受を提供する。
【解決手段】ハブユニット軸受10のハブ30は、回転フランジ32と小径段部33とを有するハブ軸31と、小径段部33に圧入固定される内輪41と、を備える。ハブ軸31は、小径段部33の嵌合円筒部33aの軸方向内側に、軸方向内側に向かうに従って漸次小径となる傾斜部34を有する。ハブ軸31は、嵌合円筒部33a及び傾斜部34を旋削する旋削工程と、該内輪軌道30a、嵌合円筒部33a、及び傾斜部34の一部を研削してだらし部34aを形成する研削工程とを有して形成される。傾斜部34に設けられた、旋削面58とだらし部34aの研削面57との境目36は、圧入前の内輪41の内径面41aの内径dより小径となる位置に設けられる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に複列の外輪軌道を有する外輪と、
軸方向外側にホイール及び制動用回転部材が取り付けられる回転フランジを有し、軸方向内側に小径段部が形成されたハブ軸、及び前記ハブ軸の前記小径段部に圧入固定される少なくとも一つの内輪を備え、外周面に前記複列の外輪軌道と対向する複列の内輪軌道を有するハブと、
前記複列の外輪軌道と前記複列の内輪軌道との間に転動自在に配置された複数の転動体と、
を備えるハブユニット軸受の製造方法であって、
前記ハブ軸は、前記小径段部の嵌合円筒部の軸方向内側に連続して設けられ、軸方向内側に向かうに従って漸次小径となる傾斜部を有し、
前記嵌合円筒部及び前記傾斜部を旋削する旋削工程と、
前記嵌合円筒部、及び前記傾斜部の一部を研削し、前記傾斜部に研削によるだらし部を形成する研削工程と、
を備え、
前記傾斜部に設けられた、旋削面と前記だらし部の研削面との境目は、圧入前の前記内輪の内径より小径となる位置に設けられる、
ハブユニット軸受の製造方法。
【請求項2】
前記転動体として円すいころが使用され、
前記内輪は、前記内輪軌道の軸方向両側に小鍔部と大鍔部を有する、請求項1に記載のハブユニット軸受の製造方法。
【請求項3】
前記ハブ軸は、前記傾斜部の軸方向内側に連続して設けられ、外周面が旋削工程によって形成される加締め用筒状部をさらに備える、請求項1に記載のハブユニット軸受の製造方法。
【請求項4】
前記ハブ軸の前記傾斜部は、前記嵌合円筒部と軸方向端面との間に形成される面取り部を構成する、請求項1に記載のハブユニット軸受の製造方法。
【請求項5】
内周面に複列の外輪軌道を有する外輪と、
軸方向外側にホイール及び制動用回転部材が取り付けられる回転フランジを有し、軸方向内側に小径段部が形成されたハブ軸、及び前記ハブ軸の前記小径段部に圧入固定される少なくとも一つの内輪を備え、外周面に前記複列の外輪軌道と対向する複列の内輪軌道を有するハブと、
前記複列の外輪軌道と前記複列の内輪軌道との間に転動自在に配置された複数の転動体と、
を備えるハブユニット軸受であって、
前記ハブ軸は、前記小径段部の嵌合円筒部の軸方向内側に連続して設けられ、軸方向内側に向かうに従って漸次小径となる傾斜部を有し、
前記傾斜部には、旋削面と研削面との境目が設けられ、
前記旋削面と研削面との境目は、圧入前の前記内輪の内径より小径となる位置に設けられる、
ハブユニット軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハブユニット軸受の製造方法及びハブユニット軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などの車両の車輪を懸架装置に対して回転自在に支持するため、一般的にハブユニット軸受が広く用いられる。ハブユニット軸受では、回転輪であるハブは、車輪を構成するホイール及び制動用回転部材を回転フランジの取付面に支持固定しており、静止輪である外輪に対して転動体を介して回転する。
【0003】
ハブは、ハブ軸と内輪とを組み合わせて構成されている。ハブ軸は、回転フランジを備えると共に、軸方向中間部の外周面に、軸方向外側列の内輪軌道を形成し、さらに、軸方向内側部に小径段部を有する。小径段部には、嵌合円筒部が形成され、外周面に軸方向内側列の内輪軌道を有する内輪が、締り嵌めにより外嵌固定されている。
【0004】
ハブ軸には、シールリップが摺接する厚肉部から、軸方向外側列の内輪軌道面、及び小径段部の嵌合円筒部に亘って、旋削加工が施され、旋削された外周面に対して熱処理硬化層が形成され、その後、表面を平滑にするための研削加工が施される。
【0005】
例えば、特許文献1に記載の転がり軸受ユニットでは、ハブ軸の研削加工は、図7に示すように、ハブ軸31の回転フランジ32の軸方向外側面に磁気結合力により結合したマグネットチャック1を回転させることで、ハブ軸31を回転させる。この際、ハブ軸31の外周面をシュー2の先端部により回転自在に支持してハブ軸31のラジアル方向の位置決めを図る。そして、ダイヤモンドホイール3で成形した総型砥石4の外周面を、ハブ軸31の外周面に押し付け、ハブ軸31の外周面に対してプランジカット研削(砥石の軸方向位置が動かない研削方法)を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-23976号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、プランジカット研削は、負のすくい角を持つ砥粒によって、接線力より法線力の方が大きい加工であるため、研削面57と前加工された旋削面58の間、即ち、内輪41が嵌合する嵌合円筒部33aの軸方向内側部分にバリが発生しやすい。ダイヤモンドホイール3で成形された総型砥石4は、単石ドレスされた砥石より切れ味が悪いため、研削面57と旋削面58の間には、バリがより発生しやすくなる。
【0008】
一方、嵌合円筒部33aに外嵌する内輪41の内径面41aには、図8に示すように、オシュレーション研削(回転砥石5が軸方向に前後進する)が施されている。前述した様に、研削加工は法線力が高いので、内輪41の内径面41aの両端部41bはエッジロードの作用により丸まる傾向があり、バリは発生しにくい。
【0009】
このため、ハブユニット軸受の組立時に、内輪41をハブ軸31の嵌合円筒部33aに圧入嵌合すると、バリがハブ軸31から分離して毛髪状の金属片(髭バリ)となる可能性がある。この髭バリが軸受部分(軌道面と転動体の転走領域)に侵入すると、異音、焼付き、表層面の剥離などの原因となる虞がある。
【0010】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、ハブの嵌合円筒部を研削する際に発生するバリがハブ軸から分離するのを抑制し、該バリに起因する異音、焼付き、表層面の剥離などの障害を防止することができるハブユニット軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
[1] 内周面に複列の外輪軌道を有する外輪と、
軸方向外側にホイール及び制動用回転部材が取り付けられる回転フランジを有し、軸方向内側に小径段部が形成されたハブ軸、及び前記ハブ軸の前記小径段部に圧入固定される少なくとも一つの内輪を備え、外周面に前記複列の外輪軌道と対向する複列の内輪軌道を有するハブと、
前記複列の外輪軌道と前記複列の内輪軌道との間に転動自在に配置された複数の転動体と、
を備えするハブユニット軸受の製造方法であって、
前記ハブ軸は、前記小径段部の嵌合円筒部の軸方向内側に連続して設けられ、軸方向内側に向かうに従って漸次小径となる傾斜部を有し、
前記嵌合円筒部及び前記傾斜部を旋削する旋削工程と、
前記嵌合円筒部、及び前記傾斜部の一部を研削し、前記傾斜部に研削によるだらし部を形成する研削工程と、
を備え、
前記傾斜部に設けられた、旋削面と前記だらし部の研削面との境目は、圧入前の前記内輪の内径より小径となる位置に設けられる、
ハブユニット軸受の製造方法。
【0012】
[2] 内周面に複列の外輪軌道を有する外輪と、
軸方向外側にホイール及び制動用回転部材が取り付けられる回転フランジを有し、軸方向内側に小径段部が形成されたハブ軸、及び前記ハブ軸の前記小径段部に圧入固定される少なくとも一つの内輪を備え、外周面に前記複列の外輪軌道と対向する複列の内輪軌道を有するハブと、
前記複列の外輪軌道と前記複列の内輪軌道との間に転動自在に配置された複数の転動体と、
を備え、
前記ハブは、前記回転フランジと、前記複列の内輪軌道のうちの軸方向外側列の前記内輪軌道と、前記内輪軌道に対して軸方向内側列に設けられる嵌合円筒部とを有するハブ軸と、前記複列の内輪軌道のうちの軸方向内側列の前記内輪軌道を備え、前記嵌合円筒部に外嵌する内輪と、を有するハブユニット軸受であって、
前記ハブ軸は、前記小径段部の嵌合円筒部の軸方向内側に連続して設けられ、軸方向内側に向かうに従って漸次小径となる傾斜部を有し、
前記傾斜部には、旋削面と研削面との境目が設けられ、
前記旋削面と研削面との境目は、圧入前の前記内輪の内径より小径となる位置に設けられる、
ハブユニット軸受。
【発明の効果】
【0013】
本発明のハブユニット軸受の製造方法及びハブユニット軸受によれば、ハブの嵌合円筒部及び傾斜部を研削する際に発生するバリが、嵌合円筒部に内輪を圧入する際に分離することを防止して、バリに起因する異音、焼付き、表層面の剥離などの障害を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第1実施形態に係る従動輪用ハブユニット軸受の断面図である。
図2】(a)は図1に示すハブ軸の嵌合円筒部に内輪が外嵌する状態を示す断面図であり、(b)は図2(a)に円IIで囲む部分の拡大図である。
図3】本発明の第2実施形態に係る駆動輪用ハブユニット軸受の断面図である。
図4】(a)は図3に示すハブ軸の嵌合円筒部に内輪が外嵌する状態を示す断面図であり、(b)は図4(a)に円IVで囲む部分の拡大図である。
図5】本発明の第3実施形態に係る従動輪用ハブユニット軸受の断面図である。
図6】本発明の第4実施形態に係る駆動輪用ハブユニット軸受の断面図である。
図7】従来の総型砥石によるハブ軸外周面の研削加工図である。
図8】内輪内径面の研削加工図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の各実施形態に係るハブユニット軸受の製造方法及びハブユニット軸受について図面に基づいて詳細に説明する。
また、ハブユニット軸受10の軸方向に関して「軸方向外側」とは、ハブユニット軸受10を自動車に組み付けた状態で車体の外側となる、図1の左側をいう。反対に、ハブユニット軸受10を自動車に組み付けた状態で車体の中央側、即ち、軸方向内側となる、図1の右側を「軸方向内側」という。
【0016】
(第1実施形態)
先ず、本実施形態の従動輪用ハブユニット軸受10について説明する。従動輪用ハブユニット軸受10は、図1に示すように、外輪20と、ハブ30と、外輪20の内周面とハブ30の外周面との間に転動可能に2列で配置される複数の玉(転動体)51と、この2列の複数の玉51を周方向に略等間隔にそれぞれ保持する一対の保持器52と、シールリング53a及び組合せシールリング53bと、を備える。
【0017】
外輪20は、外周面に取付フランジ21を備え、取付フランジ21を不図示の懸架装置のナックルに取付ボルトで結合固定することにより、この懸架装置に支持された状態で回転しない。外輪20の内周面には、互いに平行な2列の外輪軌道20a,20aが離間して形成されている。
【0018】
ハブ30は、外輪20の径方向内側に外輪20と同軸に配置されており、ハブ軸31と、該ハブ軸31の小径段部33に外嵌固定された内輪41とを備える。ハブ軸31は、中実に形成されており、その軸方向外側端部(図中左側)には、外周面から径方向外方に延出する回転フランジ32が形成される。回転フランジ32には、不図示のタイヤホイール及びブレーキロータなどを締結するためのハブボルト55が周方向に略等間隔で複数設けられる。
【0019】
図2も参照して、ハブ軸31は、回転フランジ32の軸方向内側の外周面に内輪軌道30aを備え、さらに、内輪軌道30aの軸方向内側端部(図中右側)には、小径段部33が形成される。小径段部33の外周面には、嵌合円筒部33a、軸方向内側に向かうに従って次第に小径となる傾斜部34、及び加締め用筒状部35が、この順で形成されている。そして、嵌合円筒部33aに内輪41を外嵌した後、加締め用筒状部35を径方向外方に加締め加工した加締め部35aにより内輪41をハブ軸31に固定する。
なお、本実施形態では、傾斜部34は、加締めでの変形をしやすくするため、内輪41が外嵌された状態で、内輪41の内径面41aと軸方向端面との間の面取り部分と対向する位置に形成されている。
【0020】
内輪41は、外周面に内輪軌道40aを備え、小径段部33の軸方向端面33bと加締め部35aとで挟持されて軸方向位置が位置決めされてハブ軸31に固定される。また、該加締め加工によって内輪41をハブ軸31に対して軸方向に押圧することで、適正な予圧が付与される。
【0021】
これにより、ハブ軸31の内輪軌道30a及び内輪41の内輪軌道40aは、外輪20の外輪軌道20a,20aにそれぞれ対応して形成され、内輪軌道30a,40a及び外輪軌道20a,20aで構成される2列の軌道には、保持器52によって転動可能に保持される複数の玉51が周方向に等間隔にそれぞれ配置されている。
【0022】
複数の玉51は、互いに所定の接触角をなして外輪軌道20a,20a及び内輪軌道30a,40aに接触して、背面組み合わせで配置される。これにより、ハブ30が外輪20に対して回転可能となる。
【0023】
シールリング53a及び組合せシールリング53bは、外輪20の軸方向外側端部とハブ軸31の軸方向中間部との間、及び外輪20の軸方向内側端部と内輪41の軸方向内側端部との間に配置され、複数の転動体51が設けられた内部空間22の軸方向両側を塞いでいる。
【0024】
次に、ハブ軸31の製造方法について説明する。図2に示すように、ハブ軸31は、回転フランジ32の軸方向内側の側面32aから、内輪軌道30aを介して、嵌合円筒部33a、傾斜部34、及び加締め用筒状部35を含む小径段部33の外周面までが、旋削加工されて外周面の概略形状が形成される(旋削工程)。嵌合円筒部33aの外径D2は、加締め用筒状部35の外径D1より大径に形成され、嵌合円筒部33aと加締め用筒状部35とは、傾斜部34により滑らかに連続する。
【0025】
そして、内輪軌道30aを含む、回転フランジ32の軸方向内側の側面32aから傾斜部34までの外周面に、高周波焼き入れなどにより熱処理硬化層(図示せず)が形成される。また、内輪軌道30aを含む、回転フランジ32の軸方向内側の側面32aから傾斜部34の一部までの外周面に、図7に示すような総型砥石4によってプランジカット研削加工が施される(研削工程)。
【0026】
その際、総型砥石4の軸方向内側の端面は、傾斜部34の軸方向外側の一部をだらして研削するように設定されている。これにより、傾斜部34の軸方向外側の一部には、嵌合円筒部33aから傾斜部34に滑らかに連続する断面曲面状のだらし部34aが形成される。
【0027】
この結果、傾斜部34には、研削面57と旋削面58が存在する。即ち、傾斜部34には、研削面57と旋削面58との境目36が形成され、境目36の旋削面側には、バリ(図示せず)が形成される。
【0028】
バリが形成される境目36の軸方向位置は、境目36の外径D3が、圧入前の内輪41の内径面41aの内径dより小径となる位置に設定される。即ち、嵌合円筒部33a、境目36、加締め用筒状部35の各外径及び圧入前の内輪41の内径面41aの内径には、以下の関係がある。
【0029】
嵌合円筒部33aの外径D2>圧入前の内輪41の内径面41aの内径d>境目36の外径D3>加締め用筒状部35の外径D1
【0030】
そして、内輪41は、嵌合円筒部33aに圧入され、加締め用筒状部35を径方向外方に加締め加工して加締め部35aを形成することでハブ軸31に固定される。その際、内輪41の内径dが、バリが形成される境目36の外径D3より大きいので、内輪41の圧入時に内輪41の内面が境目36に形成されるバリに接触することがない。従って、該バリがハブ軸31から分離して毛髪状の金属片(髭バリ)となる虞はなく、バリによる異音、焼付き、表層面の剥離などの障害が生じることが防止できる。
【0031】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態の駆動輪用ハブユニット軸受10Aについて、図3及び図4を参照して説明する。
第2実施形態の駆動輪用ハブユニット軸受10Aは、内周面に雌スプライン37が形成される中空に形成されたハブ軸31を備え、ハブ軸31の雌スプライン37には、図示しないスプライン軸の雄スプラインが嵌合する。
【0032】
また、本実施形態のハブ軸31は、第1実施形態の加締め用筒状部35(図2参照)を備えておらず、ハブ軸31の軸方向内側端面31aは、小径段部33の嵌合円筒部33aに嵌合する内輪41の軸方向内側端面41cよりも軸方向外側寄りに位置している。したがって、内輪41は、例えば、内輪41の軸方向内側端面41cにスプライン軸の軸方向外向き端面が当接されて、内輪41がハブ軸31に対して軸方向に位置決め固定される。
【0033】
このようなハブ軸31では、嵌合円筒部33aの軸方向内側、即ち、小径段部33の嵌合円筒部33aとハブ軸31の軸方向内側端面31aとの間に、傾斜面としての面取り部34が形成される。
【0034】
このため、図4に示すように、本実施形態のハブ軸31は、回転フランジ32の軸方向内側の側面32aから内輪軌道30aを介して、嵌合円筒部33a、傾斜面である面取り部34までの外周面が、旋削加工されて外周面の概略形状が形成される(旋削工程)。嵌合円筒部33aの外径D2は、面取り部34の軸方向内端(ハブ軸31の軸方向内側端面31a)の外径D1より大径に形成されている。
【0035】
そして、回転フランジ32の軸方向内側の側面32aから面取り部34までの外周面に、高周波焼き入れなどにより熱処理硬化層(図示せず)が形成される。さらに、回転フランジ32の軸方向内側の側面32aから面取り部34の一部までの外周面に、図7に示すような総型砥石4によりプランジカット研削加工が施される(研削工程)。
【0036】
その際、総型砥石4の軸方向内側の端面は、面取り部34の軸方向外側部分をだらして研削してだらし部34aを形成する。従って、面取り部34には、研削面57と旋削面58が存在する。そして、研削面57と旋削面58との境目36の旋削面側には、バリ(図示せず)が形成される。
【0037】
ただし、本実施形態においても、バリが形成される境目36の軸方向位置は、境目36の外径D3が、圧入前の内輪41の内径面41aの内径dより小径となる位置に設定される。即ち、嵌合円筒部33a、境目36の各外径及び圧入前の内輪41の内径面41aの内径には、以下の関係がある。
【0038】
嵌合円筒部33aの外径D2>圧入前の内輪41の内径面41aの内径d>境目36の外径D3
【0039】
従って、本実施形態の駆動輪用ハブユニット軸受10Aは、内輪41の内径dが、バリが形成される境目36の外径D3より大きいので、内輪41の圧入時に内輪41の内面が境目36に形成されるバリに接触することがない。従って、該バリがハブ軸31から分離する虞はなく、バリによる異音、焼付き、表層面の剥離などの障害が生じることが防止できる。
その他の構成及び作用については、第1実施形態の従動輪用ハブユニット軸受10と同様である。
【0040】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態に係る従動輪用ハブユニット軸受10Bについて図5を参照して説明する。本実施形態の従動輪用ハブユニット軸受10Bは、転動体として円すいころ61を使用する点において、第1実施形態の従動輪用ハブユニット軸受10と主に異なる。
【0041】
図5に示すように、本実施形態の従動輪用ハブユニット軸受10Bは、外輪20と、ハブ30と、外輪20の内周面とハブ30の外周面との間に転動可能に2列で配置される転動体である複数の円すいころ61と、この2列の複数の円すいころ61を周方向に略等間隔にそれぞれ保持する一対の保持器62と、外輪20の軸方向外側端に配置されるシールリング53と、を備える。
【0042】
外輪20は、第1実施形態と同様に、外周面に取付フランジ21を備え、取付フランジ21を不図示の懸架装置のナックルに取付ボルトで結合固定することにより、この懸架装置に支持された状態で回転しない。また、外輪20の内周面には、2列の外輪軌道20a,20aが離間して形成されているが、これら2列の外輪軌道20aは、軸方向に関して互いに離れる方向に向かうほど直径が大きくなる方向に傾斜している。
【0043】
ハブ30は、回転フランジ32と小径段部33とを有するハブ軸31と、該ハブ軸31に嵌合固定され1対の内輪63A、63Bとを備え、外輪20の径方向内側に外輪20と同軸に配置されている。1対の内輪63A、63Bは、それぞれ内輪軌道63aを備える。2列の内輪軌道63aは、外輪20の2列の外輪軌道20aに対向して形成されている。2列の内輪軌道63aは、軸方向に関して互いに離れる方向に向かうほど直径が大きくなる方向に傾斜している。
【0044】
即ち、本実施形態のハブ軸31は、外周面に内輪軌道を有さずに、代わりに、回転フランジ32よりも軸方向内側の外周面から軸方向内側端面まで小径段部33が形成される。また、小径段部33には、第1実施形態と同様に、円筒面状の嵌合円筒部33aを有するとともに、軸方向内側に向かうに従って次第に小径となる傾斜部34、及び加締め用筒状部35が、この順で形成されている(図5では、図示せず)。そして、小径段部33に一対の内輪63A、63Bを外嵌した後、小径段部33の加締め用筒状部35を径方向外方に加締め加工した加締め部35aにより一対の内輪63A、63Bは、ハブ軸31に軸方向に位置決め固定される。
【0045】
なお、内輪63A、63Bは、全体が筒状に構成され、軸方向中間部の外周面に内輪軌道63aを有する。また、内輪63A、63Bは、軸方向に関して内輪軌道63aの大径側に隣接する大径側端部から径方向外側に突出した大鍔部63bと、軸方向に関して内輪軌道63aの小径側に隣接する小径側端部から径方向外側に突出した小鍔部63cとを有する。
【0046】
また、図示の例では、外輪20の内周面とハブ30の外周面との間に存在する内部空間22の軸方向外側の開口部は、外輪20の軸方向外側端部の内周面と軸方向外側の内輪63Aの大鍔部63bの外周面との間に組み付けられた組合せシールリング53により塞がれている。さらに、外輪20の軸方向内側の開口部は、外輪20の軸方向内側端部に内嵌固定された非磁性材製のキャップ65により塞がれている。また、軸方向内側の内輪63Bを構成する大鍔部63bの外周面に、回転速度検出装置を構成する円環状のエンコーダ66が外嵌固定されている。
【0047】
なお、本実施形態のハブ軸31の製造方法は、図2で説明した第1実施形態のハブ軸31の製造方法と同じであり、旋削された、嵌合円筒部33a、傾斜部34、及び加締め用筒状部35を含む小径段部33の外周面のうち、嵌合円筒部33aと傾斜部34の一部が研削加工され、傾斜部34に形成された、研削面57と旋削面58との境目36の外径は、圧入前の内輪63A,63Bの内径面よりも小さい。これにより、内輪63A,63Bの圧入時に内輪63A,63Bの内面が境目36に形成されるバリに接触することがなく、該バリがハブ軸31から分離する虞はなく、バリによる異音、焼付き、表層面の剥離などの障害が生じることが防止できる。
その他の構成及び作用については、第1実施形態の従動輪用ハブユニット軸受10と同様である。
【0048】
(第4実施形態)
本実施形態の駆動輪用ハブユニット軸受10Cについて、図6を参照して説明する。なお、第4実施形態の駆動輪用ハブユニット軸受10Cでは、第3実施形態の従動輪用ハブユニット軸受10Bと同様に、転動体として円すいころ61が使用されており、また、第2実施形態の駆動輪用ハブユニット10Aと同様に、ハブ軸31の雌スプライン37には、図示しないスプライン軸の雄スプラインが嵌合する。ただし、ハブ30は、軸方向外側の内輪軌道63aは、ハブ軸31に形成され、軸方向内側の内輪軌道63aは、内輪63Bに形成されており、ハブ軸31の小径段部33は、軸方向外側の内輪軌道63aよりも軸方向内側において形成されている。
【0049】
また、ハブ軸31は、第2実施形態と同様に、ハブ軸31の軸方向内側端面31aが、小径段部33の嵌合円筒部33aに嵌合する内輪63Bの軸方向内側端面63dよりも軸方向外側に位置するように形成されている。さらに、嵌合円筒部33aの軸方向内側、即ち、小径段部33の嵌合円筒部33aとハブ軸31の軸方向内側端面31aとの間に、傾斜面としての面取り部34が形成される。
【0050】
したがって、第2実施形態と同様に、旋削加工及び研削加工が施されることで、面取り部34に形成される研削面57と旋削面58との境目36の外径D3が、圧入前の内輪63Bの内径dより小径となる位置に設定され、内輪63Bの圧入時に内輪63Bの内径面が境目36に形成されるバリに接触することがない。従って、該バリがハブ軸31から分離する虞はなく、バリによる異音、焼付き、表層面の剥離などの障害が生じることが防止できる。
その他の構成及び作用については、第1実施形態の従動輪用ハブユニット軸受10と同様である。
【0051】
特に、第3及び第4実施形態のような、転動体として円すいころを備えたハブユニット軸受10B,10Cでは、内輪63A,63Bの小鍔部63cや大鍔部63bのフープストレスが高いため、バリの分離が起きやすい。バリが一対の内輪63A,63Bの突合せ面の間に入ると予圧も不安定になり、また、バリが一対の内輪63A,63Bの突合せ面の間で粉砕されると、バリがグリースの流動によって軌道面に入りやすい。このため、本発明は、円すいころを備えたハブユニット軸受10B,10Cにおいて特に好適に適用可能である。
【0052】
尚、本発明は、前述した各実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。
【0053】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 内周面に複列の外輪軌道を有する外輪と、
軸方向外側にホイール及び制動用回転部材が取り付けられる回転フランジを有し、軸方向内側に小径段部が形成されたハブ軸、及び前記ハブ軸の前記小径段部に圧入固定される少なくとも一つの内輪を備え、外周面に前記複列の外輪軌道と対向する複列の内輪軌道を有するハブと、
前記複列の外輪軌道と前記複列の内輪軌道との間に転動自在に配置された複数の転動体と、
を備えるハブユニット軸受の製造方法であって、
前記ハブ軸は、前記小径段部の嵌合円筒部の軸方向内側に連続して設けられ、軸方向内側に向かうに従って漸次小径となる傾斜部を有し、
前記嵌合円筒部及び前記傾斜部を旋削する旋削工程と、
前記嵌合円筒部、及び前記傾斜部の一部を研削し、前記傾斜部に研削によるだらし部を形成する研削工程と、
を備え、
前記傾斜部に設けられた、旋削面と前記だらし部の研削面との境目は、圧入前の前記内輪の内径より小径となる位置に設けられる、
ハブユニット軸受の製造方法。
この構成によれば、ハブの嵌合円筒部及び傾斜部を研削する際に、傾斜部の旋削面と研削面との境目に発生するバリが、嵌合円筒部に内輪を圧入する際に分離することが防止されて、バリに起因する異音、焼付き、表層面の剥離などの障害を防止することができる。
【0054】
(2) 前記転動体として円すいころが使用され、
前記内輪は、前記内輪軌道の軸方向両側に小鍔部と大鍔部を有する、(1)に記載のハブユニット軸受の製造方法。
この構成によれば、内輪63A,63Bの小鍔部63cや大鍔部63bのフープストレスが高く、バリの分離が起きやすい、円すいころが使用されるハブユニット軸受に好適に適用できる。
【0055】
(3) 前記ハブ軸は、前記傾斜部の軸方向内側に連続して設けられ、外周面が旋削工程によって形成される加締め用筒状部をさらに備える、(1)に記載のブユニット軸受の製造方法。
この構成によれば、内輪を加締め部によってハブ軸に固定する構成においても、傾斜部の旋削面と研削面との境目に発生するバリが、嵌合円筒部に内輪を圧入する際に分離することが防止できる。
【0056】
(4) 前記ハブ軸の前記傾斜部は、前記嵌合円筒部と軸方向端面との間に形成される面取り部を構成する、(1)に記載のハブユニット軸受の製造方法。
この構成によれば、内輪の軸方向端面を他の部材で押さえつけて、内輪をハブ軸に固定する構成においても、傾斜部の旋削面と研削面との境目に発生するバリが、嵌合円筒部に内輪を圧入する際に分離することが防止できる。
【0057】
(5) 内周面に複列の外輪軌道を有する外輪と、
軸方向外側にホイール及び制動用回転部材が取り付けられる回転フランジを有し、軸方向内側に小径段部が形成されたハブ軸、及び前記ハブ軸の前記小径段部に圧入固定される少なくとも一つの内輪を備え、外周面に前記複列の外輪軌道と対向する複列の内輪軌道を有するハブと、
前記複列の外輪軌道と前記複列の内輪軌道との間に転動自在に配置された複数の転動体と、
を備えるハブユニット軸受であって、
前記ハブ軸は、前記小径段部の嵌合円筒部の軸方向内側に連続して設けられ、軸方向内側に向かうに従って漸次小径となる傾斜部を有し、
前記傾斜部には、旋削面と研削面との境目が設けられ、
前記旋削面と研削面との境目は、圧入前の前記内輪の内径より小径となる位置に設けられる、
ハブユニット軸受。
この構成によれば、ハブの嵌合円筒部及び傾斜部を研削する際に、傾斜部の旋削面と研削面との境目に発生するバリが、嵌合円筒部に内輪を圧入する際に分離することが防止されて、バリに起因する異音、焼付き、表層面の剥離などの障害を防止することができる。
【符号の説明】
【0058】
10、10B 従動輪用ハブユニット軸受(ハブユニット軸受)
10A、10C 駆動輪用ハブユニット軸受(ハブユニット軸受)
20 外輪
20a 外輪軌道
21 取付フランジ
30 ハブ
30a,40a、63a 内輪軌道
31 ハブ軸
33 小径段部
33a 嵌合円筒部
34 傾斜部、面取り部
34a だらし部
35 加締め用筒状部
36 旋削面と研削面との境目
41、63A、63B 内輪
51 玉(転動体)
57 研削面
58 旋削面
61 円すいころ(転動体)
d 内輪の内径
D1 加締め用筒状部の外径
D2 嵌合円筒部の外径
D3 境目の外径
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8