(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024021392
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】物体検知装置、情報提供装置、運転制御装置及び車両システム
(51)【国際特許分類】
G01S 17/931 20200101AFI20240208BHJP
G01S 17/42 20060101ALI20240208BHJP
G08G 1/16 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
G01S17/931
G01S17/42
G08G1/16 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022124188
(22)【出願日】2022-08-03
(71)【出願人】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100106149
【弁理士】
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【弁理士】
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【弁理士】
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】清水 辰吾
(72)【発明者】
【氏名】新村 康介
【テーマコード(参考)】
5H181
5J084
【Fターム(参考)】
5H181AA01
5H181CC02
5H181CC03
5H181CC14
5H181LL01
5H181LL06
5H181LL09
5J084AA05
5J084AA10
5J084AA14
5J084AB16
5J084AC02
5J084BA04
5J084BA20
5J084BA36
5J084BA40
5J084BA48
5J084BB02
5J084BB04
5J084BB28
5J084EA20
5J084EA22
(57)【要約】
【課題】鏡面反射物の検知精度が高い物体検知装置を提供する。
【解決手段】物体検知装置としての処理ユニット3は、車両EVの周囲の測定領域へ向けて光を照射し、光が測定領域の物体から反射されてなる反射光情報を検出するライダ2の情報に基づいて、物体を検知する。処理ユニット3は、反射光情報を取得する反射光情報取得部31と、車両EVの移動速度を取得する車両速度取得部32と、反射光情報の時系列データに基づき、車両EVに近づいてくる接近物体を示す接近物体情報を検知する接近物体検知部35と、接近物体情報による接近物体が車両EVの移動速度のうち接近物体へ向かう方向DTOの成分の倍を示す相対速度で車両EVに近づいてくることに基づいて、測定領域における鏡面反射物SROの存在を検知する鏡面反射物検知部36と、を備える。
【選択図】
図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両(EV)の周囲の測定領域へ向けて光を照射し、前記光が前記測定領域の物体から反射されてなる反射光情報を検出する車載センサ(2,2a,2b)の情報に基づいて、物体を検知する物体検知装置であって、
前記反射光情報を取得する反射光情報取得部(31,31a,31b)と、
前記車両の移動速度を取得する車両速度取得部(32)と、
前記反射光情報の時系列データに基づき、前記車両に近づいてくる接近物体を示す接近物体情報を検知する接近物体検知部(35,35a,35b)と、
前記接近物体情報による前記接近物体が前記移動速度のうち前記接近物体へ向かう方向(DTO)の成分の倍を示す相対速度で前記車両に近づいてくることに基づいて、前記測定領域における鏡面反射物(SRO)の存在を検知する鏡面反射物検知部(36,36x)と、を備える、物体検知装置。
【請求項2】
前記鏡面反射物検知部は、前記接近物体情報が前記接近物体の半分の距離を示す物体の前記反射光情報に対するエコーから得られることに基づいて、前記鏡面反射物の存在を検知する、請求項1に記載の物体検知装置。
【請求項3】
前記鏡面反射物検知部は、前記接近物体情報が前記測定領域に前記車両の虚像(VI)を示すことに基づいて、前記鏡面反射物の存在を検知する、請求項1又は2に記載の物体検知装置。
【請求項4】
前記鏡面反射物検知部は、前記測定領域の少なくとも一部が重複し、搭載位置が異なる複数の前記車載センサの情報を用いて、前記鏡面反射物の存在を検知する、請求項1に記載の物体検知装置。
【請求項5】
前記鏡面反射物検知部は、前記測定領域の少なくとも一部が重複し、かつ、前記測定領域の広さが異なる複数の前記車載センサの情報を用いて、前記鏡面反射物の存在を検知する、請求項1又は4に記載の物体検知装置。
【請求項6】
車両(EV)の周囲の測定領域へ向けて光を照射し、前記光が前記測定領域の物体から反射されてなる反射光を検出する車載センサ(2,2a,2b)と、
前記車載センサから反射光情報を取得する反射光情報取得部(31,31a,31b)と、前記車両の移動速度を取得する車両速度取得部(32)と、前記反射光情報の時系列データに基づき、前記車両に近づいてくる接近物体を示す接近物体情報を検知する接近物体検知部(35,35a,35b)と、前記接近物体情報による前記接近物体が前記移動速度のうち前記接近物体へ向かう方向(DTO)の成分の倍を示す相対速度で前記車両に近づいてくることに基づいて、前記測定領域における鏡面反射物(SRO)の存在を検知する鏡面反射物検知部(36,36x)と、を備える、物体検知装置(3)と、
前記鏡面反射物の存在が検知された場合に、乗員へ向けて前記鏡面反射物の存在について情報提供する情報提供装置(4)と、を具備する、車両システム。
【請求項7】
前記情報提供装置は、透光性を有する壁状の前記鏡面反射物に前記車両が接近した場合に前記鏡面反射物の存在について情報提供を開始するタイミングが、遮光性を有する壁状物体に前記車両が接近した場合に前記壁状物体の存在について情報提供を開始するタイミングよりも早くなるように構成されている、請求項6に記載の車両システム。
【請求項8】
車両(EV)の乗員へ向けて情報を提供する情報提供装置であって、
前記車両の周辺の鏡面反射物(SRO)に関する情報を取得する鏡面反射物情報取得部(41)と、
透光性を有する壁状の前記鏡面反射物の存在について情報提供することが可能に構成された情報提示部(42)と、を備え、
前記情報提示部は、透光性を有する壁状の前記鏡面反射物に前記車両が接近した場合に前記鏡面反射物の存在について情報提供を開始するタイミングが、遮光性を有する壁状物体に前記車両が接近した場合に前記壁状物体の存在について情報提供を開始するタイミングよりも早くなるように構成されている、情報提供装置。
【請求項9】
車両(EV)の周囲の測定領域へ向けて光を照射し、前記光が前記測定領域の物体から反射されてなる反射光を検出する車載センサ(2,2a,2b)と、
前記車載センサから反射光情報を取得する反射光情報取得部(31,31a,31b)と、前記車両の移動速度を取得する車両速度取得部(32)と、前記反射光情報の時系列データに基づき、前記車両に近づいてくる接近物体を示す接近物体情報を検知する接近物体検知部(35,35a,35b)と、前記接近物体情報による前記接近物体が前記移動速度のうち前記接近物体へ向かう方向(DTO)の成分の倍を示す相対速度で前記車両に近づいてくることに基づいて、前記測定領域における鏡面反射物(SRO)の存在を検知する鏡面反射物検知部(36,36x)と、を備える、物体検知装置(3)と、
前記物体検知装置により前記鏡面反射物の存在が検知された場合に、前記鏡面反射物との衝突を回避するように前記車両を制御する運転制御装置(5)と、を具備する、車両システム。
【請求項10】
前記運転制御装置は、透光性を有する壁状の前記鏡面反射物に前記車両が接近した場合に前記鏡面反射物との衝突の回避行動を開始するタイミングが、遮光性を有する壁状物体に前記車両が接近した場合に前記壁状物体との衝突の回避行動を開始するタイミングよりも早くなるように構成されている、請求項9に記載の車両システム。
【請求項11】
車両(EV)の運転を制御する運転制御装置であって、
前記車両の周辺の鏡面反射物(SRO)に関する情報を取得する鏡面反射物情報取得部(51)と、
透光性を有する壁状の前記鏡面反射物との衝突を回避するように前記車両を制御する運転制御部(52)と、を備え、
前記運転制御部は、透光性を有する壁状の前記鏡面反射物に前記車両が接近した場合に前記鏡面反射物との衝突の回避行動を開始するタイミングが、遮光性を有する壁状物体に前記車両が接近した場合に前記壁状物体との衝突の回避行動を開始するタイミングよりも早くなるように構成されている、運転制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この明細書による開示は、車両において鏡面反射物に対処するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、物体の位置の検知において、実際には物体が存在しない点を表す虚像点を、測距点情報から除外する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術により、除外後に残った鏡面反射物等の検知精度は向上すると考えられる。しかしながら、検知において時系列的な解析及びそれに基づく判断が不十分であるので、鏡面反射物の検知精度に向上の余地があった。
【0005】
この明細書の開示による目的のひとつは、鏡面反射物の検知精度が高い物体検知装置を提供することにある。また、目的の他のひとつは、鏡面反射物に関する情報を有効に利用する情報提供装置、運転制御装置及び車両システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ここに開示された態様のひとつは、車両(EV)の周囲の測定領域へ向けて光を照射し、光が測定領域の物体から反射されてなる反射光情報を検出する車載センサ(2,2a,2b)の情報に基づいて、物体を検知する物体検知装置であって、
反射光情報を取得する反射光情報取得部(31,31a,31b)と、
車両の移動速度を取得する車両速度取得部(32)と、
反射光情報の時系列データに基づき、車両に近づいてくる接近物体を示す接近物体情報を検知する接近物体検知部(35,35a,35b)と、
接近物体情報による接近物体が移動速度のうち接近物体へ向かう方向(DTO)の成分の倍を示す相対速度で車両に近づいてくることに基づいて、測定領域における鏡面反射物(SRO)の存在を検知する鏡面反射物検知部(36,36x)と、を備える。
【0007】
このような態様によると、鏡面反射物が存在する場合に2次的な反射に伴う反射光情報に基づき検知され得る接近物体の特徴を、時系列データによって特定することにより、鏡面反射物の存在が検知される。したがって、高い検知精度によって鏡面反射物を検知することが可能となる。
【0008】
また、開示された態様の他のひとつとして車両システムは、車両(EV)の周囲の測定領域へ向けて光を照射し、光が測定領域の物体から反射されてなる反射光を検出する車載センサ(2,2a,2b)と、
車載センサから反射光情報を取得する反射光情報取得部(31,31a,31b)と、車両の移動速度を取得する車両速度取得部(32)と、反射光情報の時系列データに基づき、車両に近づいてくる接近物体を示す接近物体情報を検知する接近物体検知部(35,35a,35b)と、接近物体情報による接近物体が移動速度のうち接近物体へ向かう方向(DTO)の成分の倍を示す相対速度で車両に近づいてくることに基づいて、測定領域における鏡面反射物(SRO)の存在を検知する鏡面反射物検知部(36,36x)と、を備える、物体検知装置(3)と、
鏡面反射物の存在が検知された場合に、乗員へ向けて鏡面反射物の存在について情報提供する情報提供装置(4)と、を具備する。
【0009】
このような態様によると、鏡面反射物が存在する場合に2次的な反射に伴う反射光情報に基づき検知され得る接近物体の特徴を、時系列データによって特定することにより、鏡面反射物の存在が検知される。したがって、高い検知精度によって鏡面反射物を検知することが可能となる。こうして検知された鏡面反射物の存在について車両の乗員へ向けて情報提供がなされるので、鏡面反射物に関する情報を有効に利用することができる。
【0010】
また、開示された態様の他のひとつは、車両(EV)の乗員へ向けて情報を提供する情報提供装置であって、
車両の周辺の鏡面反射物(SRO)に関する情報を取得する鏡面反射物情報取得部(41)と、
透光性を有する壁状の鏡面反射物の存在について情報提供することが可能に構成された情報提示部(42)と、を備え、
情報提示部は、透光性を有する壁状の鏡面反射物に車両が接近した場合に鏡面反射物の存在について情報提供を開始するタイミングが、遮光性を有する壁状物体に車両が接近した場合に壁状物体の存在について情報提供を開始するタイミングよりも早くなるように構成されている。
【0011】
このような態様によると、鏡面反射部の存在が早いタイミングで情報提供される。故に、鏡面反射物が透光性を有することで目視又は車両により発見され難いという認識を乗員が持っていたとしても、乗員は当該鏡面反射物の存在にいち早く気づくことができる。また乗員は、車両が鏡面反射物を正常に検知できていることを知ることができる。このように、鏡面反射物に関する情報を有効に利用することができる。
【0012】
また、開示された態様の他のひとつとして車両システムは、車両(EV)の周囲の測定領域へ向けて光を照射し、光が測定領域の物体から反射されてなる反射光を検出する車載センサ(2,2a,2b)と、
車載センサから反射光情報を取得する反射光情報取得部(31,31a,31b)と、車両の移動速度を取得する車両速度取得部(32)と、反射光情報の時系列データに基づき、車両に近づいてくる接近物体を示す接近物体情報を検知する接近物体検知部(35,35a,35b)と、接近物体情報による接近物体が移動速度のうち接近物体へ向かう方向(DTO)の成分の倍を示す相対速度で車両に近づいてくることに基づいて、測定領域における鏡面反射物(SRO)の存在を検知する鏡面反射物検知部(36,36x)と、を備える、物体検知装置(3)と、
物体検知装置により鏡面反射物の存在が検知された場合に、鏡面反射物との衝突を回避するように車両を制御する運転制御装置(5)と、を具備する。
【0013】
このような態様によると、鏡面反射物が存在する場合に2次的な反射に伴う反射光情報に基づき検知され得る接近物体の特徴を、時系列データによって特定することにより、鏡面反射物の存在が検知される。したがって、高い検知精度によって鏡面反射物を検知することが可能となる。こうして検知された鏡面反射物との衝突を回避するように車両が制御されるので、鏡面反射物に関する情報を有効に利用することができる。
【0014】
また、開示された態様の他のひとつは、車両(EV)の運転を制御する運転制御装置であって、
車両の周辺の鏡面反射物(SRO)に関する情報を取得する鏡面反射物情報取得部(51)と、
透光性を有する壁状の鏡面反射物との衝突を回避するように車両を制御する運転制御部(52)と、を備え、
運転制御部は、透光性を有する壁状の鏡面反射物に車両が接近した場合に鏡面反射物との衝突の回避行動を開始するタイミングが、遮光性を有する壁状物体に車両が接近した場合に壁状物体との衝突の回避行動を開始するタイミングよりも早くなるように構成されている。
【0015】
このような態様によると、鏡面反射物が透光性を有することで車両により発見され難いという認識を乗員が持っていたとしても、鏡面反射部に対する回避行動が早いタイミングで開始されるので、乗員は運転制御に対する安心感を得ることができる。このように、鏡面反射物に関する情報を有効に利用することができる。
【0016】
なお、特許請求の範囲等に含まれる括弧内の符号は、後述する実施形態の部分との対応関係を例示的に示すものであって、技術的範囲を限定することを意図するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図3】マルチエコーに対応する反射光の経路を説明する図。
【
図5】車両の移動速度と距離変化との関係を説明する図。
【
図6】車両の虚像に対応する反射光の経路を説明する図。
【
図7】車両の虚像に対応する反射光を説明するグラフ。
【
図10】車両システムの処理の例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、複数の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各実施形態において対応する構成要素には同一の符号を付すことにより、重複する説明を省略する場合がある。各実施形態において構成の一部分のみを説明している場合、当該構成の他の部分については、先行して説明した他の実施形態の構成を適用することができる。また、各実施形態の説明において明示している構成の組み合わせばかりではなく、特に組み合わせに支障が生じなければ、明示していなくても複数の実施形態の構成同士を部分的に組み合せることができる。
【0019】
(第1実施形態)
図1に示すように、本開示の第1実施形態による車両システム1は、移動体としての車両EVに搭載されている。車両システム1は、車両EVの周辺の物体を検知し、検知した物体についてドライバ等の乗員へ情報提供する。また車両システム1は、検知した物体に基づいて車両EVの自動運転又は運転支援を実施する。車両システム1は、ライダ(LiDAR,Light Detection and Ranging/Laser imaging Detection and Ranging)2、処理ユニット3、情報提供装置4及び運転制御装置5を含む構成である。なお、以下の説明において、前、後、上、下、左及び右が示す各方向は、水平面上の車両EVを基準として定義される。
【0020】
ライダ2は、光源11から光を投光し、測定対象物である物体からの反射光を検出する車載センサである。ライダ2は、例えば車両EVのフロントグリル等に配置され、車両EVの前方を測定領域の物体からの反射光を検出可能である。例えばライダ2は、発光部10、走査部15、受光部20及びコントローラ25を含む構成である。
【0021】
発光部10は、測定領域へ向けて光を発光する。発光部10は、例えば光源11及び投光光学系12を含む構成である。光源11は、1つであっても複数設けられていてもよい。光源11は、例えばレーザダイオード(LD,Laser Diode)等のレーザ発振素子であってよい。光源11は、LEDであってもよい。光源11は、コントローラ25からの電気信号に応じた発光タイミングにて、発光可能である。発光される光の波長は、近赤外光等の可視光以外の波長であってよい。
【0022】
投光光学系12は、光源11から発光された光を集光し、測定領域へ向けてビーム状の投光ビームを投光する。投光光学系12は、1つ又は複数のレンズを含む構成である。
【0023】
走査部15は、発光部10からの投光ビームを測定領域の範囲で走査する。走査部15は、走査ミラー16を含む構成である。走査ミラー16は、駆動モータ及び反射体を含む構成である。駆動モータは、コントローラ25からの電気信号に応じた回転量及び回転速度にて、反射体の回転軸を駆動する。反射体は、投光ビームを測定領域へ向けて反射する反射面を有するミラーである。反射面は、例えば平面状に形成されている。
【0024】
受光部20は、投光ビームが測定領域の物体に反射されて戻ってくる反射光を受光する、受光部20は、受光光学系21、受光素子22及びデコーダ23を含む構成である。受光光学系21は、反射光を集光し、受光素子22に入射させる。受光光学系21は、1つ又は複数のレンズを含む構成である。
【0025】
受光素子22は、受光光学系21によって集光された反射光を受光する。受光素子22は、例えば単一光子アバランシェフォトダイオード(SPAD,Single Photon Avalanche Diode)センサであってよい。受光素子22は、複数のSPADを検出面上に高度に集積化された状態で、2次元配列して形成されている。
【0026】
SPADは、1つの光子を受光すると、アバランシェ倍増による電子倍増動作(いわゆるガイガーモード)により、1つの電気パルスを生成する。すなわち、SPADは、アナログ信号からデジタル信号へのAD変換回路を介さずに、換言すると直接的に、デジタル信号としての電気パルスを発生させることができる。したがって、受光結果は高速に読み出し可能である。
【0027】
デコーダ23は、SPADが生成した電気パルスを出力するために設けられ、選択回路及びクロック発振器を含む構成である。選択回路は、電気パルスを取り出す対象となるSPADを、順次選択していく。選択されたSPADは、電気パルスをコントローラ25へ出力する。選択回路がSPADを1回ずつ選択し終えると、1回のサンプリングが終了する。このサンプリング周期は、クロック回路から出力されるクロック周波数に応じたものとなる。
【0028】
コントローラ25は、ライダ2の動作を制御する。具体的に、コントローラ25は、発光部10における光源11の発光と、走査部15における走査ミラー16の向きとを、連動するように制御する。さらにコントローラ25は、受光部20から出力された電気パルスに基づいた反射光情報を、処理ユニット3に出力する。コントローラ25は、メモリ及びプロセッサを少なくとも1つずつ有したコンピュータにより実現されていてもよい。コントローラ25は、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等によって実現されていてもよい。
【0029】
処理ユニット3は、ライダ2から取得した反射光情報を処理し、測定領域の物体を検知する物体検知装置である。処理ユニット3は、メモリ3a及びプロセッサ3bを少なくとも1つずつ有したコンピュータを含む構成であってよい。メモリ3aは、プロセッサ3bにより読み取り可能なプログラム及びデータ等を非一時的に記憶する、例えば半導体メモリ、磁気媒体、及び光学媒体等のうち、少なくとも1種類の非遷移的実態的記憶媒体であってよい。さらにメモリ3aとして、例えばRAM(Random Access Memory)等の書き換え可能な揮発性の記憶媒体が設けられていてもよい。プロセッサ3bは、例えばCPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、及びRISC(Reduced Instruction Set Computer)-CPU等のうち、少なくとも1種類をコアとして含む。
【0030】
処理ユニット3が検知した物体の情報は、情報提供装置4及び運転制御装置5に対して出力される。
【0031】
情報提供装置4は、処理ユニット3が検知した物体の情報を、ドライバ等の乗員に対して情報提供する。情報提供装置4は、メモリ4a及びプロセッサ4bを少なくとも1つずつ有したコンピュータを含む構成であってよい。メモリ4aは、プロセッサ4bにより読み取り可能なプログラム及びデータ等を非一時的に記憶する、例えば半導体メモリ、磁気媒体、及び光学媒体等のうち、少なくとも1種類の非遷移的実態的記憶媒体であってよい。さらにメモリ4aとして、例えばRAM(Random Access Memory)等の書き換え可能な揮発性の記憶媒体が設けられていてもよい。プロセッサ4bは、例えばCPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、及びRISC(Reduced Instruction Set Computer)-CPU等のうち、少なくとも1種類をコアとして含む。
【0032】
情報提供装置4は、HMI(Human Machine Interface)機能を実現するために、さらにディスプレイ4cを含む構成であってよい。ディスプレイ4cは、画像を表示可能な、コンビネーションメータ、ナビゲーションユニット、CID(Center Information Display)、ヘッドアップディスプレイ(HUD,Head Up Display)等であってよい。
【0033】
情報提供装置4においてコンピュータは、処理ユニット3が検知した物体の情報及びその他の情報に基づき、表示コンテンツを生成する。ディスプレイ4cは、コンピュータから出力される映像信号に基づき、表示コンテンツを表示する。
【0034】
運転制御装置5は、車両EVの複数の運動アクチュエータと連携して、車両EVの運転を制御する。複数の運動アクチュエータは、車両EVを駆動するパワートレイン、車両EVを制動するブレーキアクチュエータ、車両EVを操舵するステアリングアクチュエータ等を含んでいてよい。
【0035】
運転制御装置5を用いて実現される運転は、SAE J3016に規定される自動運転レベル3以上の自動運転であってよい。また、運転制御装置5を用いて実現される運転は、自動運転レベル1又は2の運転であってよく、これは運転支援と称されてよい。
【0036】
運転制御装置5は、メモリ5a及びプロセッサ5bを少なくとも1つずつ有したコンピュータを含む構成であってよい。メモリ5aは、プロセッサ5bにより読み取り可能なプログラム及びデータ等を非一時的に記憶する、例えば半導体メモリ、磁気媒体、及び光学媒体等のうち、少なくとも1種類の非遷移的実態的記憶媒体であってよい。さらにメモリ5aとして、例えばRAM(Random Access Memory)等の書き換え可能な揮発性の記憶媒体が設けられていてもよい。プロセッサ5bは、例えばCPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、及びRISC(Reduced Instruction Set Computer)-CPU等のうち、少なくとも1種類をコアとして含む。
【0037】
運転制御装置5は、処理ユニット3が検知した物体の情報及びその他の情報に基づき、車両EVの運転を制御する。例えば運転制御装置5は、物体との衝突を回避するために、車両EVを制動することが可能である。
【0038】
図2は、車両システム1の機能のうち、鏡面反射物SROへの対処に関する機能についての、機能的なアーキテクチャを示す図である。ここで、処理ユニット3は、反射光情報取得部31、車両速度取得部32、マルチエコー検知部33、車両虚像検知部34、接近物体検知部35及び鏡面反射物判定部36を、プログラムを実行する少なくとも1つのプロセッサ3bにより実現される機能ブロックとして含む構成である。
【0039】
ここでいう鏡面反射物SROとは、投光ビームを物体の表面において鏡面反射する性質を有する、静的な物体である。鏡面反射物SROは、例えばコンビニエンスストア、ショールームなどにおいて、建物の外壁面を構成する大型の透明なガラス板である。
【0040】
反射光情報取得部31は、反射光情報をライダ2から取得する。ライダ2から取得する反射光情報は、受光部20が出力する反射光の強度データそのものであってもよく、コントローラ25によりノイズ除去のためのフィルタ処理、複数回のサンプリングに対する平均化処理ないし統計的処理がなされたデータであってもよい。
【0041】
車両速度取得部32は、ライダ2を搭載した車両EVの移動速度を、車両速度センサ6から取得する。この車両EVの移動速度は、自車速と称されてもよい。
【0042】
マルチエコー検知部33は、反射光情報取得部31によって取得された反射光情報からマルチエコーに相当する反射光を検知する。マルチエコー検知部33は、発光部10による所定の方向への発光に対して、当該方向から時間差を生じて戻る複数回の反射光を検知する。
【0043】
すなわち、マルチエコー検知部33は、
図3に示すような、車両EVが向かう方向に鏡面反射物SROが存在すると仮定した場合に出現する特徴的な反射光を検知する。車両EVが向かう方向に鏡面反射物SROが存在する場合、ライダ2から発光された投光ビームが鏡面反射物SROとの間を1往復してライダ2に受光される反射光(第1反射光RL1)が存在し得る。
【0044】
加えて、第1反射光RL1と同じ方向において、投光ビームが鏡面反射物SROとの間を1往復した際に、車両EVに反射されてさらに鏡面反射物SROとの間を1往復してライダ2に受光される反射光(第2反射光RL2e)が存在し得る。通常、第2反射光RL2eの反射強度のピーク値は、第1反射光RL1の反射強度のピーク値よりも小さくなる。
【0045】
図4は、発光部10が発光した時刻が0である場合の、第1反射光RL1及び第2反射光RL2eが検出される時刻と、反射強度との関係を示すグラフである。鏡面反射物SROが存在する場合に、例えば第1反射光RL1における反射強度ピークの時刻はt1であるとする。そうすると、反射強度ピークの時刻がt2である第2反射光RL2eが検出され得る。t2がt2の実質的に2倍であると、第2反射光RL2eはエコーであるといえる。
【0046】
ライダ2が物体の距離を測定することを機能に含む場合、反射光が検出される時刻に基づき、ToF(Time of Flight)方式により測定される物体の距離がより重要となる。時刻t1,t2を距離換算して表現すると、第1反射光RL1による物体の距離がLの場合、第2反射光RL2eによる物体の距離は、実質的に2倍である2・Lである。
【0047】
本実施形態において、「実質的に2倍である」とは、2倍の値に対して90~110%程度の測定的な誤差を含むことを許容していることを意味する。
【0048】
さらにマルチエコー検知部33は、
図5に示すように、マルチエコーを継続的に検知する。継続的な検知結果に対して接近物体検知部35は、反射光の時系列データと、車両速度取得部32によって取得された車両EVの移動速度に基づき、エコーが車両EVに近づいてくる接近物体を示す接近物体情報を表しているか否かを判断する。
【0049】
図5(a)は、あるタイミングでのサンプリングにおける車両EVの移動速度及び第1反射光RL1及び第2反射光RL2eを示す図である。
図5(b)は、(a)のタイミングから所定時間経過後のサンプリングにおける車両EVの移動速度及び第1反射光RL1及び第2反射光RL2eと、距離変化との関係を示す図である。
【0050】
第2反射光RL2eは、車両EVと鏡面反射物SROとの間を2往復する反射光である。したがって、車両EVが鏡面反射物SROに移動速度vで近づいている場合、第2反射光RL2eが示す物体は、車両EVに対して移動速度vの実質的に2倍の相対速度2・vで車両EVに近づいてくるように見える接近物体と推定される。
【0051】
車両虚像検知部34は、反射光情報取得部31によって取得された反射光情報から車両EVの虚像VIを検知する。車両虚像検知部34は、発光部10の各方向への発光に対する反射光から、車両EVの虚像VIに相当する反射光を検知する。
【0052】
すなわち、車両虚像検知部34は、
図6に示すような、車両EVが向かう方向に鏡面反射物SROが存在すると仮定した場合に出現する特徴的な反射光を検知する。車両EVが向かう方向に鏡面反射物SROが存在する場合、ライダ2から発光された投光ビームが鏡面反射物SROとの間を1往復してライダ2に受光される反射光(第1反射光RL1)が存在し得る。
【0053】
加えて、第1反射光RL1の別の方向において、投光ビームが鏡面反射物SROに反射されて、車両EVの車体においてライダ2の搭載位置とはずれた位置に反射され、さらに鏡面反射物SROに反射されてライダ2に受光される反射光(第2反射光RL2v)が存在し得る。
【0054】
ここで、
図7に示されるように、物体の反射位置をx軸によって示すための座標系が定義されている。x軸は、走査部15による走査方向に対応しており、例えば車両EVの左右方向に一致する。x軸における位置xは、ライダ2に入射してくる反射光の方向に対応している。物体が存在する方向に対応するこの位置xによって、反射光情報に係るデータが規定されてよく、処理されてよい。
【0055】
図7(a)は、第1反射光RL1の反射強度ピークを示す時刻t1における位置xと反射強度との関係を示すグラフである。
図7(b)は、第2反射光RL2vの反射強度ピークを示す時刻t2における位置xと反射強度との関係を示すグラフである。
【0056】
第1反射光RL1は、鏡面反射物SROの実像に対応する反射光である。第1反射光RL1は、
図7(a)に示されるように、車両EVの車幅に対して十分狭い幅W1をもつシャープな強度分布を示す。一方、第2反射光RL2vは、車両EVの虚像VIに対応する反射光である。第2反射光RL2vは、
図7(b)に示されるように、車両EVの車幅又は車幅よりも僅かに小さな幅W2をもつワイドな強度分布を示す。
【0057】
車両虚像検知部34は、
図7(b)に示されるような強度分布をもつ反射光が得られている場合に、車両EVの虚像VIが検知されたと判断する。例えば、幅W2が車幅の80%以上105%以下の場合に、車両EVの虚像VIが検知されたと判断するようにしてもよい。
【0058】
さらに車両虚像検知部34は、車両EVの虚像VIを継続的に検知する。継続的な検知に対して接近物体検知部35は、反射光の時系列データと、車両速度取得部32によって取得された車両EVの移動速度に基づき、虚像VIを示す反射光が車両EVに近づいてくる接近物体を示す接近物体情報を表しているか否かを判断する。
【0059】
図8に示すように、車両EVが鏡面反射物SROの真正面から当該鏡面反射物SROに移動速度vで近づいている場合、第2反射光RL2vが示す物体は、車両EVに対して移動速度vの実質的に2倍の相対速度2・vで車両EVに近づいてくるように見える接近物体と推定される。
【0060】
一方、
図9に示すように、車両EVが鏡面反射物SROの斜め方向から当該鏡面反射物SROに移動速度vで近づいている場合には、鏡面反射物SROに対する垂直方向成分を考える必要がある。この垂直方向成分は、移動速度vのうち、虚像VIへ向かう方向DTOの成分であるといえる。ここで、車両EVの前方と方向DTOとがなす角度がθであるとする。この成分がv・cosθであるとすると、第2反射光RL2vが示す物体は、車両EVに対して移動速度vの実質的に2倍の相対速度2・v・cosθで車両EVに近づいてくるように見える接近物体と推定される。
【0061】
もっとも、鏡面反射物SROの真正面から当該鏡面反射物SROに移動速度vで近づいている場合は、θ=0であるといえる。したがって、この場合も、第2反射光RL2vが示す物体は、車両EVに対して移動速度vのうち虚像VIへ向かう方向DTOの成分の実質的に2倍の相対速度で車両EVに近づいてくるように見える接近物体であるといえる。
【0062】
鏡面反射物判定部36は、マルチエコー検知部33の検知結果及び車両虚像検知部34の検知結果のうち、少なくとも一方に基づいて、鏡面反射物SROが存在しているか否かを判断する。鏡面反射物判定部は、鏡面反射物検知部と称されてもよい。本実施形態では、マルチエコー検知部33の検知結果及び車両虚像検知部34の検知結果の両方から鏡面反射物SROの存在が検知される。
【0063】
換言すると、鏡面反射物判定部36は、上述の接近物体が移動速度のうち当該接近物体へ向かう方向DTOの成分の倍を示す相対速度で車両EVに近づいてくることを示すことに基づいて、鏡面反射物SROの存在を検知しているといえる。鏡面反射物SROが検知された時点で、この接近物体は、誤検知された物体であると判断されることになる。
【0064】
鏡面反射物判定部36は、鏡面反射物SROの存在を検知した場合に、鏡面反射物SROに関する情報を生成し、情報提供装置4及び運転制御装置5に出力する。このとき、処理ユニット3が反射光情報に基づき検知した別の物体の情報も、併せて出力されてよい。
【0065】
ここで、
図2に示すように情報提供装置4は、鏡面反射物情報取得部41及び情報提示部42を、プログラムを実行する少なくとも1つのプロセッサ4bにより実現される機能ブロックとして含む構成である。
【0066】
鏡面反射物情報取得部41は、処理ユニット3から出力された鏡面反射物SROに関する情報を取得する。このとき、別の物体の情報も、併せて取得してよい。
【0067】
情報提示部42は、鏡面反射物情報取得部41が取得した鏡面反射物SROに関する情報に基づき、鏡面反射物SROの存在について車両EVの乗員に情報提供するための、表示コンテンツを生成する。生成された表示コンテンツは、ディスプレイ4cによって表示される。また、別の物体の情報についても、同様にディスプレイ4cによって表示されるようにしてよい。
【0068】
こうした情報提供は、例えば車両EVの手動運転中に、ドライバへ鏡面反射物SROの存在を通知する意味で、警告と称されてもよい。あるいは、情報提供は、例えば車両EVの自動運転中に、乗員へ車両システム1が鏡面反射物SROを正常に検出できていることを通知することを意図していてもよい。
【0069】
また、情報提示部42は、ディスプレイ4cによって情報提供を開始するタイミングを制御してもよい。例えば情報提示部42は、物体との衝突余裕時間(TTC、Time to collision)が所定の提示閾値より少なくなったタイミングで、当該物体の存在についての情報提供を開始してもよい。衝突余裕時間は、現在の相対速度が維持された場合に車両が物体と衝突するまでの時間である。
【0070】
この場合に、透光性を有する鏡面反射物SROと他の物体とで、提示閾値の設定を異ならせてもよい。他の物体とは、例えば、遮光性を有する壁状物体であってよい。鏡面反射物SROの提示閾値は、遮光性を有する壁状物体等の他の物体の提示閾値よりも大きな値に設定されてよい。そうすると、鏡面反射物SROの存在について情報提供が開始されるタイミングは、遮光性を有する壁状物体の存在について情報提供が開始されるタイミングよりも早くなる。
【0071】
さらに、情報提供は、例えば車両EVの自動運転中に、乗員へ車両システム1が鏡面反射物SROを正常に検出できていることを通知することを意図する場合、鏡面反射物SROの提示閾値は、後述する鏡面反射物SROの回避行動閾値よりも大きく設定される。
【0072】
図2に示すように運転制御装置5は、鏡面反射物情報取得部51及び運転制御部52を、プログラムを実行する少なくとも1つのプロセッサ5bにより実現される機能ブロックとして含む構成である。
【0073】
鏡面反射物情報取得部51は、処理ユニット3から出力された鏡面反射物SROに関する情報を取得する。このとき、別の物体の情報も、併せて取得してよい。
【0074】
運転制御部52は、鏡面反射物情報取得部51が取得した鏡面反射物SROに関する情報に基づき、車両EVの運転を制御する。運転制御部52は、鏡面反射物SROの存在、又は別の物体の存在が検知された場合に、鏡面反射物SRO又は別の物体との衝突を回避すべく、車両EVを制動する。
【0075】
ここで、運転制御部52は、制動を開始するタイミングを制御する。例えば運転制御部52は、物体との衝突余裕時間が所定の回避行動閾値よりも少なくなったタイミングで、当該物体との衝突を回避するように制動を開始してもよい。
【0076】
この場合に、透光性を有する鏡面反射物SROと他の物体とで、回避行動閾値の設定を異ならせてもよい。他の物体とは、例えば、遮光性を有する壁状物体であってよい。鏡面反射物SROの回避行動閾値は、遮光性を有する壁状物体等の他の物体の回避行動閾値よりも大きな値に設定されてよい。そうすると、鏡面反射物SROとの衝突を回避するように制動が開始されるタイミングは、遮光性を有する壁状物体との衝突を回避するように制動が開始されるタイミングよりも早くなる。
【0077】
次に、車両EVにおいて鏡面反射物SROに対処する機能を実現するための処理方法の例を、
図10のフローチャートを用いて説明する。ステップS11~17に示される一連の処理は、車両システム1により、実行される。
【0078】
S11では、ライダ2において発光部10が発光される。S11の処理後、S12へ進む。
【0079】
S12では、ライダ2において反射光が受光される。反射光情報を取得した処理ユニット3において、マルチエコー検知部33、車両虚像検知部34及び接近物体検知部35によって反射光情報が処理される。S12の処理後、S13へ進む。
【0080】
S13では、鏡面反射物判定部36は、マルチエコー検知部33がマルチエコーを検知したか否かを判断する。S13にて肯定判定が下された場合、S14へ進む。S13にて否定判定が下された場合、S11へ戻る。
【0081】
S14では、鏡面反射物判定部36は、車両虚像検知部34が車両EVの虚像VIを検知したか否かを判断する。S14にて肯定判定が下された場合、S15へ進む。S14にて否定判定が下された場合、S11へ戻る。
【0082】
S15では、鏡面反射物判定部36は、接近物体検知部35が倍速で距離変化する接近物体を検知したか否かを判定する。S15にて肯定判定が下された場合、S16へ進む。S15にて否定判定が下された場合、S11へ戻る。
【0083】
S16では、鏡面反射物判定部36は、S13~35の判定結果に基づき、鏡面反射物SROが存在していると判定する。鏡面反射物SROに関する情報が情報提供装置4及び運転制御装置5へ出力される。S16の処理後、S17へ進む。
【0084】
S17では、情報提供装置4は、乗員へ向けた鏡面反射物SROの存在を示す表示コンテンツを、ディスプレイ4cに表示する。運転制御装置5は、鏡面反射物SROとの衝突を回避するように制動を行う。S17を以って一連の処理を終了する。
【0085】
以上説明した第1実施形態によると、鏡面反射物SROが存在する場合に2次的な反射に伴う反射光情報に基づき検知され得る接近物体の特徴を、時系列データによって特定することにより、鏡面反射物SROの存在が検知される。したがって、高い検知精度によって鏡面反射物SROを検知することが可能となる。
【0086】
また、第1実施形態によると、接近物体情報が接近物体の半分の距離を示す物体の反射光情報に対するエコーから得られることに基づいて、鏡面反射物SROの存在が検知される。エコーを生じさせ易い鏡面反射物SROの特性を的確に判断することで、鏡面反射物SROの検知精度をさらに向上させることができる。
【0087】
また、第1実施形態によると、接近物体情報が測定領域に車両EVの虚像VIを示すことに基づいて、鏡面反射物SROの存在が検知される。車両EVの虚像VIを生じさせ易い鏡面反射物SROの特性を的確に判断することで、鏡面反射物SROの検知精度をさらに向上させることができる。
【0088】
また、第1実施形態によると、検知された鏡面反射物SROの存在について車両EVの乗員へ向けて情報提供がなされるので、鏡面反射物SROに関する情報を有効に利用することができる。
【0089】
また、第1実施形態によると、鏡面反射物SROの存在が早いタイミングで情報提供される。故に、鏡面反射物SROが透光性を有することで目視又は車両EVにより発見され難いという認識を乗員が持っていたとしても、乗員は当該鏡面反射物SROの存在にいち早く気づくことができる。また乗員は、車両EVが鏡面反射物SROを正常に検知できていることを知ることができる。このように、鏡面反射物SROに関する情報を有効に利用することができる。
【0090】
また、第1実施形態によると、検知された鏡面反射物SROとの衝突を回避するように車両EVが制御されるので、鏡面反射物SROに関する情報を有効に利用することができる。
【0091】
また、第1実施形態によると、鏡面反射物SROが透光性を有することで車両EVにより発見され難いという認識を乗員が持っていたとしても、鏡面反射物SROに対する回避行動が早いタイミングで開始されるので、乗員は運転制御に対する安心感を得ることができる。このように、鏡面反射物SROに関する情報を有効に利用することができる。
【0092】
(第2実施形態)
図11に示すように、第2実施形態は第1実施形態の変形例である。第2実施形態について、第1実施形態とは異なる点を中心に説明する。
【0093】
第2実施形態では、複数(例えば2つ)のライダ2a,2bからの反射光情報に基づき、鏡面反射物SROが検知される。2つのライダ2a,2bは、共通の鏡面反射物SROを測定可能なように、測定領域の少なくとも一部を重複されている。
【0094】
2つのライダ2a,2bは、互いに搭載位置を異ならせていてもよい。例えばライダ2aが車両EVの右前方部に搭載され、ライダ2bが車両EVの左前方部に搭載されていてもよい。すなわち、ライダ2a,2bの搭載位置が車両EVの左右方向に互いにずれていてもよい。また例えばライダ2aがフロントグリルに搭載され、ライダ2bが車室内においてフロントウインドシールドのうち上部に取り付けられていてもよい。すなわち、ライダ2a,2bの搭載高さが互いに異なっていてもよい。
【0095】
2つのライダ2a,2bは、1つのモジュールを構成するように同じ個所に搭載されていてもよい。この場合、例えばライダ2aが広い測定領域を比較的低精度に測定する仕様であり、ライダ2bが狭い測定領域を比較的高精度に測定する仕様であってよい。すなわち、ライダ2a,2bの測定領域の広さが互いに異なっていてもよい。
【0096】
第2実施形態の処理ユニット3は、ライダ2aに対応した反射光情報取得部31a、マルチエコー検知部33a、車両虚像検知部34a及び接近物体検知部35aと、ライダ2bに対応した反射光情報取得部31b、マルチエコー検知部33b、車両虚像検知部34b及び接近物体検知部35bとを、それぞれ個別に含む構成であってよい。車両速度取得部32は、ライダ2a,2b間で共通に設けられてよい。ライダ2aの反射光情報の処理と、ライダ2bの反射光情報の処理とを並行して実行するために、各ライダ2a,2bに個別に対応したコンピュータがそれぞれ設けられていてもよい。
【0097】
第2実施形態の鏡面反射物判定部36xは、2つのライダ2a,2bの反射光情報を用いて、鏡面反射物SROの存在を検知する。鏡面反射物判定部36xは、両方のライダ2a,2bについて、マルチエコー及び虚像VIを検知し、かつ、接近物体情報が確認された場合にのみ、鏡面反射物SROが存在すると判断するようにしてもよい。
【0098】
以上説明した第2実施形態によると、測定領域の少なくとも一部が重複し、搭載位置が異なる複数のライダ2a,2bの情報を用いて、鏡面反射物SROの存在が検知される。搭載位置の違いにより鏡面反射物SROの見え方が異なる複数のライダ2a,2bが用いられることで、鏡面反射物SROの検知精度をさらに向上させることができる。
【0099】
また、第2実施形態によると、測定領域の少なくとも一部が重複し、かつ、測定領域の広さが異なる複数のライダ2a,2bの情報を用いて、鏡面反射物SROの存在が検知される。測定領域の広さの違いにより鏡面反射物SROの見え方が異なる複数のライダ2a,2bが用いられることで、鏡面反射物SROの検知精度をさらに向上させることができる。
【0100】
(他の実施形態)
以上、複数の実施形態について説明したが、本開示は、それらの実施形態に限定して解釈されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲内において種々の実施形態及び組み合わせに適用することができる。
【0101】
例えばライダ2,2a,2bは、SPADセンサを用いたライダでなくてもよい。
【0102】
物体検知装置は、ライダ2及び処理ユニット3を両方含む構成であってもよい。
【0103】
情報提供装置4は、ディスプレイ4cに視覚的情報を表示する装置に限らず、スピーカによって聴覚的情報を提示する装置、又は視覚的情報及び聴覚的情報を複合的に提示する装置であってもよい。
【0104】
車両システム1は、情報提供装置4及び運転制御装置5のうちいずれか1つに、鏡面反射物SROに関する情報を用いる構成であってもよい。
【0105】
鏡面反射物SROに関する情報は、車両システム1外の他車両、路側機、データセンタ等にV2X通信、セルラ通信等を用いて提供されてもよい。
【0106】
本開示に記載の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサを構成する専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の装置及びその手法は、専用ハードウエア論理回路により、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の装置及びその手法は、コンピュータプログラムを実行するプロセッサと一つ以上のハードウエア論理回路との組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【符号の説明】
【0107】
1:車両システム、2,2a,2b:ライダ(車載センサ)、3:処理ユニット(物体検知装置)、4:情報提供装置、5:運転制御装置、31,31a,31b:反射光情報取得部、32:車両速度取得部、35,35a,35b:接近物体検知部、36,36x:鏡面反射物判定部(鏡面反射物検知部)、41,51:鏡面反射物情報取得部、42:情報提示部、52:運転制御部、EV:車両、DTO:接近物体へ向かう方向、SRO:鏡面反射物