(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024021403
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】消臭方法
(51)【国際特許分類】
A61L 9/14 20060101AFI20240208BHJP
A61L 9/01 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
A61L9/14
A61L9/01 F
A61L9/01 H
A61L9/01 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022124210
(22)【出願日】2022-08-03
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】四本 瑞世
(72)【発明者】
【氏名】緒方 浩基
(72)【発明者】
【氏名】湯淺 篤哉
(72)【発明者】
【氏名】大島 宗平
(72)【発明者】
【氏名】三塚 和弘
【テーマコード(参考)】
4C180
【Fターム(参考)】
4C180AA02
4C180AA07
4C180AA16
4C180BB06
4C180BB08
4C180BB12
4C180CB01
4C180EA58X
4C180EB05X
4C180EB06X
4C180EB16X
4C180GG07
4C180KK03
4C180LL06
(57)【要約】
【課題】アンモニア臭や酸臭を容易に消臭できる消臭方法を提供する。
【解決手段】消臭対象室11の室内の建物表面に付着したアンモニア臭及び酸臭の少なくとも1つを消す消臭方法において、消臭装置20を用いる。消臭装置20の二流体ノズルの噴霧部22から、次亜塩素酸ナトリウム溶液、次亜塩素酸水、ベタイン溶液及びクエン酸溶液の少なくとも1つを主成分とする薬液を、消臭対象室11の室内が相対湿度80%以上になるまで噴霧し、この相対湿度80%以上を一定時間(例えば30分)維持する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
室内の表面に付着したアンモニア臭及び酸臭の少なくとも1つを消す消臭方法であって、
二流体ノズルを用いて、次亜塩素酸ナトリウム溶液、次亜塩素酸水、ベタイン化合物溶液及びクエン酸溶液の少なくとも1つを主成分とする薬液を、前記室内が相対湿度80%以上になるまで噴霧し、噴霧後に到達した相対湿度80%以上を保持時間、維持することを特徴とする消臭方法。
【請求項2】
前記薬液が次亜塩素酸ナトリウム溶液の場合において、前記噴霧された次亜塩素酸ナトリウム溶液の次亜塩素酸ナトリウムと、室内空間内のアンモニア臭の原因であるアンモニアとの酸化反応と、前記噴霧された次亜塩素酸ナトリウム溶液の水酸化ナトリウムと、前記室内の酸臭の原因である酢酸との中和反応とが行なわれていることを特徴とする請求項1に記載の消臭方法。
【請求項3】
前記薬液が次亜塩素酸水の場合において、前記噴霧された次亜塩素酸水の次亜塩素酸と、前記室内のアンモニア臭の元となるアンモニアとの酸化反応が行なわれていることを特徴とする請求項1に記載の消臭方法。
【請求項4】
前記薬液がベタイン化合物溶液の場合において、前記噴霧されたベタイン化合物溶液のベタイン化合物と、前記室内のアンモニア臭の元となるアンモニアとの中和反応と、前記噴霧されたベタイン化合物溶液のベタイン化合物と、室内空間内の酸臭の原因である酢酸との中和反応とが行なわれていることを特徴とする請求項1に記載の消臭方法。
【請求項5】
前記薬液がクエン酸溶液の場合において、前記噴霧されたクエン酸溶液のクエン酸と、前記室内のアンモニア臭の元となるアンモニアとの中和反応が行なわれていることを特徴とする請求項1に記載の消臭方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、排泄臭に含まれるアンモニア臭や酸臭等を消す消臭方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、医療や介護を行なう療養病棟等の居間や病室においては、尿臭や便臭等の排泄臭が問題となっている。例えば、居室や病室等の室内に設置したポータブルトイレやおむつ交換時に発生する排泄物臭がある。更に、繰り返し行われるおむつ交換時に、おむつの排泄物から発生する臭気が残留し、室内の壁紙やカーテン等に染み付く。そして、これら臭気が染み付いた壁紙やカーテンが、病室や居室の臭気の発生源になる。
【0003】
従来、室内の壁紙やカーテン等に染み付いた臭気は、換気や活性炭吸着などパッシブな対策を用いただけでは、十分に消臭できない。そこで、アクティブな対策が行なわれていた。このアクティブな対策として、例えば、高濃度のオゾンガスの噴霧が行なわれている(例えば、特許文献1参照)。この文献においては、二流体ノズルで生成した霧に、この二流体ノズルの霧出口部にオゾンガスを供給して溶解させる。更に、霧に溶解しない残存オゾンを含む空気で上記霧(オゾン霧)を噴出させて、殺菌・脱臭対象面や空間に噴霧する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、高濃度オゾンは人体に悪影響がある。このため、消臭のために、高濃度オゾンを室内に噴霧して消臭する場合には、高濃度オゾンの漏れ防止のために目張りが必要である。更に、オゾンガス濃度の制御(入室前に基準値0.1ppm以下にまで下げる)が必要である。従って、高頻度で実施したり、手軽に実施したりすることは困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する消臭方法は、室内の表面に付着したアンモニア臭及び酸臭の少なくとも1つを消す消臭方法であって、二流体ノズルを用いて、次亜塩素酸ナトリウム溶液、次亜塩素酸水、ベタイン化合物溶液及びクエン酸溶液の少なくとも1つを主成分とする薬液を、前記室内が相対湿度80%以上になるまで噴霧し、噴霧後に到達した相対湿度80%以上を保持時間、維持する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、アンモニア臭や酸臭を容易に消臭できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態における消臭対象室の構成を説明する概念図である。
【
図2】実施形態における消臭を実行する消臭装置の構成を説明する説明図である。
【
図3】実施形態における消臭処理の処理手順を説明する流れ図である。
【
図4】実施形態における消臭方法の実験を行なった実験室の説明図である。
【
図5】実施形態における噴霧薬剤と、アンモニア及び酢酸との化学反応式を示した表である。
【
図6】実施形態において、初期湿度40%RH~50%RHにおいて水を噴霧した経過時間と、アンモニア及び酢酸の濃度との関係を示すグラフである。
【
図7】実施形態において、初期湿度60%RHにおいて水を噴霧した経過時間と、アンモニア及び酢酸の濃度との関係を示すグラフである。
【
図8】実施形態において、初期湿度40%RH~50%RHにおいて次亜塩素酸ナトリウム溶液を噴霧した経過時間と、アンモニア及び酢酸の濃度との関係を示すグラフである。
【
図9】実施形態において、初期湿度60%RHにおいて次亜塩素酸ナトリウム溶液を噴霧した経過時間と、アンモニア及び酢酸の濃度との関係を示すグラフである。
【
図10】実施形態において、初期湿度40%RH~50%RHにおいて次亜塩素酸水を噴霧した経過時間と、アンモニア及び酢酸の濃度との関係を示すグラフである。
【
図11】実施形態において、初期湿度60%RHにおいて次亜塩素酸水を噴霧した経過時間と、アンモニア及び酢酸の濃度との関係を示すグラフである。
【
図12】実施形態において、初期湿度40%RH~50%RHにおいてクエン酸の緩衝液を噴霧した経過時間と、アンモニア及び酢酸の濃度との関係を示すグラフである。
【
図13】実施形態において、初期湿度60%RHにおいてクエン酸の緩衝液を噴霧した経過時間と、アンモニア及び酢酸の濃度との関係を示すグラフである。
【
図14】実施形態において、初期湿度40%RH~50%RHにおいてベタイン化合物の希釈液を噴霧した経過時間と、アンモニア及び酢酸の濃度との関係を示すグラフである。
【
図15】実施形態において、初期湿度60%RHにおいてベタイン化合物の希釈液を噴霧した経過時間と、アンモニア及び酢酸の濃度との関係を示すグラフである。
【
図16】実施形態において、水を噴霧した90分後の相対湿度とアンモニア減少率との関係を示すグラフである。
【
図17】実施形態において、次亜塩素酸ナトリウム溶液及び次亜塩素酸水を噴霧した90分後の相対湿度とアンモニア減少率との関係を示すグラフである。
【
図18】実施形態において、クエン酸の緩衝液及びベタイン化合物の希釈液を噴霧した90分後の相対湿度とアンモニア減少率との関係を示すグラフである。
【
図19】実施形態において、水を噴霧した90分後の相対湿度と酢酸減少率との関係を示すグラフである。
【
図20】実施形態において、次亜塩素酸ナトリウム溶液及び次亜塩素酸水を噴霧した90分後の相対湿度と酢酸減少率との関係を示すグラフである。
【
図21】実施形態において、クエン酸の緩衝液及びベタイン化合物の希釈液を噴霧した90分後の相対湿度と酢酸減少率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、
図1~
図21を用いて、消臭方法を具体化した一実施形態を説明する。
図1には、本実施形態における消臭方法を用いて消臭を行なう消臭対象室11の構成を示す。この消臭対象室11として、本実施形態では、療養病棟等の居間や病室等を想定する。そして、これら居間や病室の室内を構成する建物の表面(壁、床及び天井等)に付着したアンモニアや酢酸から室内空間に漂う排泄臭(アンモニア臭や酢酸臭)を消臭する。
【0010】
(消臭対象室の説明)
消臭対象室11は、床15と4つの壁16と天井17とから構成された略直方体形状をしている。壁16の内壁には、図示しない空調機が取り付けられている。この空調機は、消臭対象室11の暖房、冷房、加湿及び除湿を行なう。空調機は、消臭対象室11の現在の温度及び湿度をそれぞれ検出する温度センサ及び湿度センサと、冷房、暖房、加湿及び除湿を行なう空調機能部を有している。
【0011】
壁16には、ドア19や窓(図示せず)等が設けられている。窓の室内側には、カーテン(図示せず)が設置されている。更に、消臭対象室11には、図示しないベッド、テーブル及び椅子等が設置されている。
そして、消臭対象室11の床15の中央には、可動式の消臭装置20を設置する。
【0012】
(消臭装置の説明)
図2に示すように、消臭装置20は、本体部21、2つの噴霧部22及び湿度計測部M1を備える。本体部21、噴霧部22及び湿度計測部M1は、車輪付きの筐体(図示せず)に固定されている。
【0013】
本体部21は、水タンク25、薬液タンク26、液体切替バルブ31、コンプレッサ35、制御ユニット40、操作部45及び表示部46を備える。水タンク25と薬液タンク26は、残量把握のために、重量計にそれぞれ載置されている。
【0014】
水タンク25は、消臭開始時に湿度が低い場合に噴霧する水が貯蔵されている。
薬液タンク26は、消臭に用いる薬液を噴霧する薬液を貯蔵する。この薬液の詳細については後述する。
【0015】
水タンク25及び薬液タンク26には、噴霧部22に供給する薬液の噴霧量(流量)を計測する図示しない流量計が設けられている。更に、水タンク25及び薬液タンク26には、それぞれ水供給管及び薬液供給管が接続されている。これら水供給管及び薬液供給管は、液体切替バルブ31に接続されている。
【0016】
液体切替バルブ31は、可撓性のある液体供給管(図示せず)を介して、2つの噴霧部22に接続されている。液体切替バルブ31は、水供給管又は薬液供給管と、液体供給管との接続を切り替えて、水又は薬液を噴霧部22に供給する。
【0017】
コンプレッサ35は、圧縮空気を生成して噴霧部22に供給する。このコンプレッサ35は、気体供給バルブ(図示せず)及び可撓性のある気体供給管(図示せず)を介して、噴霧部22に接続されている。この気体供給バルブは、通常、コンプレッサ35と噴霧部22とを接続している。
制御ユニット40、操作部45及び表示部46の詳細は後述する。
【0018】
各噴霧部22は、図示しない二流体ノズルを備える。二流体ノズルとしては、圧縮空気を用いて液体を霧状に噴出する二流体サイフォン式噴霧ノズルを用いる。具体的には、スプレーイングシステムスジャパン株式会社製のクイックフォッガー(商品名)を用いる。この二流体ノズルは、供給される圧縮空気の空気圧により、二流体ノズルの時間当たりの噴霧液量を制御することができる。本実施形態の二流体ノズルの噴霧口は、粒子径が9~11μmのミストを噴霧する。このため、各噴霧部22には、コンプレッサ35からの圧縮空気と、薬液タンクからの薬液とが供給される。本実施形態では、二流体ノズルの噴霧口が、消臭対象室11の長手方向に対向配置される1対の壁側に対向するように配置される。
【0019】
(使用する薬液)
本実施形態では、薬液として、次亜塩素酸ナトリウム溶液、次亜塩素酸水、ベタイン化合物溶液及びクエン酸溶液の少なくとも1つを主成分とする薬液を用いる。
【0020】
(制御ユニットの構成)
制御ユニット40は、湿度計測部M1に接続され、湿度計測部M1から、無線通信により、湿度計測信号を取得する。更に、制御ユニット40には、操作部45及び表示部46からなる遠隔操作部に、無線通信により接続される。操作部45は、遠隔操作により、消臭の開始指示や、噴霧開始湿度の変更操作等を行なうために用いられる。表示部46は、ディスプレイにより構成され、湿度計測部M1の湿度や設定時間等を表示する。
【0021】
制御ユニット40は、加湿制御部41、噴霧制御部42及びシステムタイマ(図示せず)を備えている。
加湿制御部41は、薬液噴霧前の加湿の有無及び加湿処理を制御する。このため、加湿制御部41は、加湿の可否を判断する噴霧開始湿度を記憶している。この噴霧開始湿度は、本実施形態では、例えば60%RH(相対湿度60%)を用いる。
【0022】
噴霧制御部42は、薬液噴霧処理を実行する。このため、噴霧制御部42は、各噴霧部22の二流体ノズルの噴霧口からの噴霧時間及び保持時間を記憶している。ここで、噴霧時間としては、この消臭対象室11の容積に応じて目標相対湿度(ここでは80%RH)以上となる時間(例えば5分)を用いる。保持時間としては、後述する実験結果に基づいて、消臭効果が十分に得られる時間(例えば30分)を用いる。この保持時間は、薬液とアンモニア及び酢酸とが十分に反応する時間であり、水を噴霧した場合に、臭気(濃度)のリバウンドが生じ始める時間である。
【0023】
(消臭処理)
次に、
図3を用いて、上述した消臭装置20を用いて実行する消臭処理について説明する。この場合、
図1に示すように、消臭対象室11の中心に消臭装置20を配置する。ここでは、消臭装置20の各噴霧部22の噴霧口が、消臭対象室11の長手方向に配置された壁16と、それぞれ対向するように配置する。そして、操作者は、操作部45を用いて、消臭処理の開始を指示する。
【0024】
この開始指示に応じて、制御ユニット40は、まず、噴霧開始湿度の判定処理を実行する(ステップS1)。具体的には、制御ユニット40の加湿制御部41は、湿度計測部M1から現在の湿度を取得し、取得した現在の湿度と、記憶している噴霧開始湿度(60%RH)とを比較する。
【0025】
そして、制御ユニット40は、必要に応じて加湿処理を実行する(ステップS2)。具体的には、現在の湿度が噴霧開始湿度より低い場合には、制御ユニット40の加湿制御部41は、液体供給管に接続している水供給管を介して水タンク25から噴霧部22に水を供給する。更に、加湿制御部41は、コンプレッサ35を駆動して、噴霧部22に圧縮空気を供給する。これにより、噴霧部22が水を噴霧することにより、消臭対象室11を加湿する。そして、加湿制御部41は、定期的に湿度計測部M1から取得した現在の湿度が噴霧開始湿度に到達した場合には、コンプレッサ35の駆動を停止することにより、水の噴霧処理を停止する。なお、現在の湿度が噴霧開始湿度以上の場合には、加湿処理を実行せずに、次の処理を実行する。
【0026】
次に、制御ユニット40は、目標相対湿度までの薬液の噴霧処理を実行する(ステップS3)。具体的には、制御ユニット40の噴霧制御部42は、液体切替バルブ31を切り替えて、水供給管の代わりに薬液供給管を液体供給管に接続して、薬液タンク26から噴霧部22に薬液を供給する。そして、噴霧制御部42は、コンプレッサ35を駆動することにより、噴霧部22に圧縮空気を供給して、噴霧部22から薬液を噴霧する。
【0027】
そして、噴霧制御部42は、噴霧時間が経過したときには、湿度計測部M1から取得した現在の湿度を用いて、目標相対湿度(80%RH)に到達したかを確認する。ここで、目標相対湿度に到達してなかった場合には、例えば1分程度、追加で薬液を噴霧する追加噴霧処理と、更に湿度計測部M1からの現在の湿度を用いて目標相対湿度に到達しているかの判定処理とを、繰り返して実行する。そして、目標相対湿度に到達した場合には、コンプレッサ35の駆動を停止することにより、薬液の噴霧処理を停止する。
【0028】
その後、制御ユニット40は、保持時間で目標相対湿度を保持する処理を実行する(ステップS4)。具体的には、制御ユニット40の噴霧制御部42は、システムタイマにより、時間計測を開始し、保持時間が経過するまでを計測する。この保持時間の間、噴霧制御部42は、定期的に湿度計測部M1から取得した現在の湿度に応じて、コンプレッサ35の駆動及び停止を繰り返して、消臭対象室11の相対湿度を80%に維持する。具体的には、現在の湿度が目標相対湿度より低くなった場合には、コンプレッサ35の駆動により、例えば1分程度、追加で薬液を噴霧し、目標相対湿度以上となった場合にはコンプレッサ35の駆動を停止する。
【0029】
そして、保持時間が経過した場合に、コンプレッサ35が駆動中の場合には、制御ユニット40の噴霧制御部42は、コンプレッサ35を停止する。そして、噴霧制御部42は、液体切替バルブ31を切り替えて、液体供給管に水供給管に接続する。
以上により、消臭処理が終了する。
【0030】
<実験>
上述した消臭装置20を用いた消臭方法は、以下の実験結果の知見に基づいてなされたものである。
(実験室の説明)
まず、
図4を用いて、この消臭効果を評価するために用いた実験室について説明する。
図4は、実験室50の天井を除いた展開図である。実験室50は、4つの壁51,52,53,54と、床55と、図示しない天井によって囲まれた直方体形状を有する。実験室50は、面積18.6m
2、容積40.8m
3であって、幅L1(=5.3m)、奥行W1(=3.5m)、高さH1(=2.2m)を有する。この実験室の壁54には、ドアD1が設けられている。実験室50には、上述した消臭装置20の噴霧部22の噴霧口が壁52,53をそれぞれ向くように配置される。そして、消臭装置20よりも壁52側には、机56及び2つの椅子57が配置される。更に、実験室50には、壁52,53の近傍に2つのカーテン58,59をそれぞれ配置している。各カーテン58,59は、アンモニア及び酢酸を付着させたサンプル(臭気源)である。
【0031】
ここでは、メディカルカーテンを、所定の大きさ(例えば0.3m×0.2m)の大きさに切断した2枚のサンプルを用いる。1枚のサンプルに対して、酢酸3.0mlを滴下することにより、酢酸付着カーテンを作成する。もう1枚のサンプルには、アンモニア6.0mlを滴下することにより、アンモニア付着カーテンを作成する。この滴下は、ドラフト内で実施し、滴下後のサンプルを密閉袋に入れて、実験室50に搬送する。
【0032】
そして、実験室50において、温湿度センサP1,P2,P3,P4,P5,P6,P7,P8,P9,P10を、
図4の各位置に配置した。そして、実験室50において壁52の壁54側の下端部において検知管60による各成分ガスの測定を行なう。
【0033】
(実験方法)
実験においては、サンプル(アンモニア付着カーテン及び酢酸付着カーテン)をそれぞれ2枚ずつ、実験室50内の壁52,53の近傍にそれぞれ吊り下げる。
【0034】
そして、1時間放置することにより、アンモニアと酢酸の臭気を実験室50に充満させる。このとき、消臭装置20の傍に配置した扇風機62を稼働することにより、室内のアンモニア及び酢酸の臭気の濃度を均一にする。
【0035】
このように1時間放置したときに、検知管60を用いて、アンモニア及び酢酸の濃度を測定する。初期濃度(10~30ppm)になった場合には、扇風機62を停止した後、以下の試験条件で薬液噴霧を行なう。
【0036】
カーテン設置後、噴霧直後から噴霧90分後まで、10分間隔で検知管60を用いて、実験室50のアンモニア濃度及び酢酸濃度を測定し、各成分の濃度の減衰を評価した。
噴霧する薬液は、以下の表1に示す5種類を用いた。また、各薬液と、アンモニア及び酢酸との反応系は、
図5に示している。
【0037】
【0038】
次亜塩素酸水は、次亜塩素酸濃度200ppmの次亜塩素酸ナトリウム溶液を、3%塩酸を添加することにより弱酸性に調整して生成したものである。この次亜塩素酸水の溶液中には、解離型のClOよりも、非解離型のHClOの存在比率が多くなる。次亜塩素酸ナトリウム溶液と次亜塩素酸水の消臭効果に関する消臭メカニズムは、主に酸化反応と考えられる。ただし、含まれる成分(解離型、非解離型やpHの違い(弱アルカリ、弱酸性))による影響を確認した。
【0039】
また、クエン酸の緩衝液(クエン酸溶液)及びベタインの50倍希釈液(ベタイン化合物溶液)は、アンモニアなどのアルカリ性の悪臭との酸アルカリ反応(中和反応)により臭いを低減させる。ベタイン化合物溶液は、両面界面活性剤のため、アルカリ性の悪臭だけでなく、メチルメルカプタン、硫化水素、酢酸など酸性の悪臭にも効果を示すと考えられる。
【0040】
(噴霧条件)
初期(噴霧前)の相対湿度は、約30%RH、40~50%RH、約60%RHの3条件を用いる。実験室50の温度は25℃~28℃に設定した。
【0041】
実験室50は、断熱性が高く、密閉度が高いため、噴霧直後から90分経過後までの相対湿度の変化は、ほとんど認められなかった。そして、何れの薬液においても、噴霧後の相対湿度が80%RH程度となるように噴霧を行なった。本実験では、実験室50の容量と、噴霧部22からの噴霧速度から、4分間の噴霧で目標相対湿度(80%RH)に到達したため、4分間の噴霧を行なった。なお、この場合、何れの薬液においても、薬液の使用量は、320g前後であった。
【0042】
(実験結果)
図6~
図15に、噴霧直後(計測開始から60分経過後)から90分後(計測開始から150分後)までの各成分の濃度変化を示す。
図6及び
図7は、水を噴霧した場合であって、それぞれ噴霧前が40~50%RHの場合、噴霧前が約60%RHの場合を示す。
図8及び
図9は、表1の次亜塩素酸ナトリウム溶液を噴霧した場合であって、それぞれ噴霧前が40~50%RHの場合、噴霧前が約60%RHの場合を示す。
図10及び
図11は、表1の次亜塩素酸水を噴霧した場合であって、それぞれ噴霧前が40~50%RHの場合、噴霧前の約60%RHの場合を示す。
図12及び
図13は、表1のクエン酸の緩衝液を噴霧した場合であって、それぞれ噴霧前が40~50%RHの場合、噴霧前が約60%RHの場合を示す。
図14及び
図15は、表1のベタイン化合物の50倍希釈液を噴霧した場合であって、それぞれ噴霧前が40~50%RHの場合、噴霧前が約60%RHの場合を示す。
【0043】
水を噴霧した場合、噴霧前の相対湿度に関わらず、噴霧直後,アンモニア、酢酸ともに、一時的に濃度は下がるが、時間経過に伴なって上昇する傾向があった。この水噴霧の場合では、空気中の臭気成分が水に溶けることで空気中の濃度が下がった後、リバウンドにより濃度が上昇していると考えられる。
【0044】
一方、各薬剤を噴霧した場合では、噴霧薬剤の種類に関わらず、噴霧直後において、アンモニア及び酢酸の濃度が下がっている。更に、何れの薬液においても、水噴霧で認められたリバウンドは、
図8~
図15における噴霧前が40~50%RHの場合及び噴霧前が約60%RHの場合には、認められなかった。なお、噴霧前が30%RHの場合には、噴霧後の相対湿度が低いため、噴霧した薬剤がカーテンに付着した悪臭成分と十分反応できず、時間経過に従って、アンモニア及び酢酸の濃度が徐々に上昇していた。
【0045】
(アンモニア減少率についての考察)
また、
図16~
図18には、噴霧してから90分経過後の相対湿度と、アンモニア減少率とを示している。相対湿度は、温湿度センサP1~P10によって計測された湿度の平均値である。アンモニア減少率は、噴霧直前のアンモニアの初期濃度に対する、このときのアンモニアの濃度の割合である。なお、これらアンモニアの濃度は、
図4における検知管60において検査されたアンモニアの濃度である。ここで、
図16は、水を噴霧した場合、
図17は、次亜塩素酸ナトリウム溶液及び次亜塩素酸水を噴霧した場合、
図18は、クエン酸の緩衝液及びベタイン化合物の50倍希釈液を噴霧した場合を示している。
【0046】
図16~
図18から、次亜塩素酸ナトリウム溶液、次亜塩素酸水、ベタイン化合物の希釈液を噴霧した際、噴霧後の相対湿度が低いとアンモニア減少率は低いが、噴霧後の相対湿度が高くなるほど、アンモニア減少率が高くなる。そして、80%RH以上にすることで、アンモニア減少率は、80~90%以上に上昇した。従って、室内全体の環境表面を消臭する際、相対湿度を80%RH以上にすることが重要である。
【0047】
また、
図18に示すように、クエン酸の緩衝液は、噴霧後の相対湿度が80%以上において、アンモニア減少率は80~100%と高かった。クエン酸の緩衝液の噴霧においては、アンモニア以外の新たな臭気がわずかに発生したが、反応生成物は不明である。
【0048】
以上により、アンモニアの消臭効果においては、噴霧後の相対湿度が高いほど消臭効果が高くなる傾向が認められた。そして、次亜塩素酸ナトリウム溶液を80%RHになるまで噴霧することで、アンモニア濃度の初期に対する減少率は80%以上となる。更に、噴霧薬剤を、次亜塩素酸水、クエン酸の緩衝液、ベタイン化合物の希釈液に変更しても、同様のアンモニア消臭効果が認められた。
【0049】
従って、アンモニア濃度が20%未満となるように、アンモニア臭を消臭するためには、次亜塩素酸ナトリウム溶液、次亜塩素酸水、クエン酸の緩衝液、ベタイン化合物の希釈液を噴霧して、目標相対湿度を80%RH以上にする。この場合、実験室50内を目標相対湿度80%RHにした時間が短い場合には、アンモニアと薬液の成分との化学反応が不十分である。そこで、空間を目標相対湿度80%RHとした時間を一定時間(保持時間)保持することにより、アンモニアを低減できる。ここで、
図6及び
図7に示すように、水噴霧のときのアンモニア濃度のリバウンドが、噴霧から約30分後(経過時間90分)に生じている。水濃度のリバウンドは、化学反応ではないが、物質同士が接触した反応時間であるため、リバウンドが生じるまでの時間を保持時間として用いる。
【0050】
(酢酸減少率についての考察)
図19~
図21には、噴霧後90分経過後の噴霧直前に対する酢酸減少率と相対湿度(噴霧90分後の値)の関係を示している。ここで、
図19は、水を噴霧した場合、
図20は、次亜塩素酸ナトリウム溶液及び次亜塩素酸水を噴霧した場合、
図21は、クエン酸の緩衝液及びベタイン化合物の50倍希釈液を噴霧した場合を示している。
【0051】
図19~
図21から、酢酸においては、ベタイン化合物の希釈液を噴霧した際、噴霧後の相対湿度の影響(噴霧後の相対湿度が高いほど消臭効果が高い)が確認された。特に、80%RH以上にすることで、酢酸減少率は、90%付近に上昇した。また、次亜塩素酸ナトリウム溶液では、80%RH以上では、酢酸減少率が80%に上昇した。次亜塩素酸水は、酢酸減少率にばらつきがあった。
【0052】
更に、クエン酸の緩衝液を噴霧した場合には、噴霧後の相対湿度が63%~80%において、酢酸減少率が80%~93%と、酢酸の消臭効果も高かった。なお、この場合、新たな臭気がわずかに発生したが、アンモニアの反応と同様に、反応生成物は不明である。
【0053】
以上により、ベタイン化合物の希釈液の噴霧では、酢酸においても、噴霧後の相対湿度と消臭効果においても相関性が認められた。そして、相対湿度80%RHになるまで噴霧することで、酢酸濃度の初期に対する減少率は80%以上となった。
【0054】
従って、酢酸濃度が20%未満となるように酢酸臭を消臭するためには、次亜塩素酸ナトリウム溶液、次亜塩素酸水、クエン酸の緩衝液、ベタイン化合物の希釈液を噴霧して、80%RH以上にする。この場合においても、アンモニアの場合と同様、実験室50内を目標相対湿度80%RHにした時間が短い場合には、酢酸の成分との化学反応が不十分である。そこで、空間を目標相対湿度80%RHとした時間を一定時間(保持時間)保持することにより、酢酸を低減する。この場合においても、
図6及び
図7に示す水噴霧のときの酢酸濃度のリバウンドが生じるまでの時間を保持時間として用いる。
【0055】
(作用)
次亜塩素酸ナトリウム溶液を相対湿度80%以上となるまで噴霧し、その後、一定時間、この相対湿度を保持する。これにより、次亜塩素酸ナトリウム溶液中の次亜塩素酸ナトリウムとアンモニアとの酸化反応が生じるとともに、次亜塩素酸ナトリウム溶液の水酸化ナトリウムと、前記室内の酸臭の原因である酢酸との中和反応が生じる。従って、アンモニア及び酢酸の気中の濃度が下がるとともに、消臭対象室11の表面である床15、壁16及び天井17等に付着したアンモニア及び酢酸が減少する。
【0056】
本実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)本実施形態では、薬液を相対湿度80%以上となるまで噴霧し、その後、保持時間、この相対湿度を保持する。ここで、薬液として、次亜塩素酸ナトリウム溶液、次亜塩素酸水、ベタイン化合物溶液及びクエン酸溶液の少なくとも1つを主成分とする薬液を用いる。これにより、アンモニア及び酢酸の濃度を低減することができるので、消臭対象室11におけるアンモニア臭及び酢酸臭等を含む排泄臭を低減することができる。ここで、薬液噴霧による消臭は、薬液噴霧により除菌よりも化学反応に時間が掛ると考えられるため、相対湿度80%以上を一定時間維持することにより、より確実に消臭を行なうことができる。
【0057】
(2)本実施形態では、薬液噴霧により相対湿度80%以上になった後、保持する保持時間として30分を用いる。この保持時間は、薬液とアンモニア及び酢酸とが十分に反応する時間であり、この保持時間として、水噴霧のときのアンモニア濃度や酢酸濃度のリバウンドが生じるまでの時間を用いる。水濃度のリバウンドは、物質同士が接触した反応時間であるため、薬液と、臭いの元になるアンモニア及び酢酸との反応を十分に行なうことにより消臭することができる。
【0058】
(3)本実施形態では、薬液として、次亜塩素酸ナトリウム溶液、次亜塩素酸水、ベタイン化合物溶液及びクエン酸溶液の少なくとも1つを主成分とする薬液を噴霧する。いずれの薬液においても、高濃度オゾンの噴霧に比べて、人体への影響は少ないため、消臭対象室11のドアD1と壁との境界部分に目張り等を設ける必要がない。従って、消臭を手軽に行なうことができる。
【0059】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0060】
・上記実施形態においては、噴霧後の相対湿度80%を一定時間(保持時間)、保持した。ここで、保持時間として30分を用いたが、保持時間は、この時間に限られない。
図8~
図15においては、薬液の噴霧直後に濃度の減少が認められ、その後の濃度変化はほとんど認められない。このことから、保持時間は、アンモニア臭や酢酸臭の濃度が、噴霧後の長期間で一定となる値まで低下する時間(30分よりも短い時間)を用いてもよい。更に、例えば、消臭対象室11の大きさ、消臭対象室11の室温、臭気の濃さ(アンモニアや酢酸の濃度)等に応じて、保持時間を変更してもよい。
【0061】
・上記実施形態においては、次亜塩素酸ナトリウム溶液を噴霧してアンモニアを消臭する場合、アルカリ性のほうが好ましい。例えば、次亜塩素酸ナトリウム溶液においては、実験で用いた8.9のpHに限られず、pH6.5~9.5の範囲を用いることが好ましい。
【0062】
・上記実施形態においては、噴霧開始湿度まで水を噴霧(加湿)した後、薬液噴霧を行なって目標相対湿度80%RHとして、一定時間保持した。消臭開始時の湿度が噴霧開始湿度より低い場合において、水の代わりに薬液噴霧をしてもよい。この場合、水タンク25や液体切替バルブ31を設けない消臭装置20を用いることができる。
・上記実施形態においては、消臭の実験に用いた薬液を1種類、噴霧した。上記消臭実験に用いた複数の薬液を混合しても問題がない場合には混合して用いてもよい。
【符号の説明】
【0063】
D1…ドア、H1…高さ、L1…幅、M1…湿度計測部、P1,P2,P3,P4,P5,P6,P7,P8,P9,P10…温湿度センサ、W1…奥行、11…消臭対象室、15,55…床、16,51,52,53,54…壁、17…天井、19…ドア、20…消臭装置、21…本体部、22…噴霧部、25…水タンク、26…薬液タンク、31…液体切替バルブ、35…コンプレッサ、40…制御ユニット、41…加湿制御部、42…噴霧制御部、45…操作部、46…表示部、50…実験室、56…机、57…椅子、58,59…カーテン、60…検知管、62…扇風機。