(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024021417
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】ワイヤロープの検査方法及び検査装置
(51)【国際特許分類】
G01N 29/14 20060101AFI20240208BHJP
【FI】
G01N29/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022124233
(22)【出願日】2022-08-03
(71)【出願人】
【識別番号】000156938
【氏名又は名称】関西電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000822
【氏名又は名称】弁理士法人グローバル知財
(72)【発明者】
【氏名】有光 剛
(72)【発明者】
【氏名】坂尻 博章
(72)【発明者】
【氏名】森本 誠司
(72)【発明者】
【氏名】三田 翔平
(72)【発明者】
【氏名】谷上 雅人
【テーマコード(参考)】
2G047
【Fターム(参考)】
2G047AA06
2G047AB03
2G047AD08
2G047BA05
2G047BC07
2G047BC11
2G047GG20
2G047GG33
2G047GG34
2G047GH13
(57)【要約】
【課題】ワイヤロープに力が加わるタイミングをとらえ、ワイヤロープの素線切れ状態の検査方法及び検査装置を提供する。
【解決手段】ワイヤロープ4のアコースティックエミッション(AE)エネルギーの積算値を用いて、ワイヤロープ4の素線切れ状態を検査する。AEエネルギーの積算値は、ワイヤロープ4に張力が作用し始める第1タイミングから、ワイヤロープ4が端部の荷重物5を動かし始める第2タイミングから所定時間経過までの積算値である。振動加速度センサ3を用いて、ワイヤロープ4に張力が作用し始めるタイミング(第1タイミング)と、ワイヤロープ4が端部の荷重物5を動かし始めるタイミング(第2タイミング)を検出する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤロープのアコースティックエミッション(AE)エネルギーの積算値を用いて、前記ワイヤロープの素線切れ状態を検査することを特徴とする検査方法。
【請求項2】
前記AEエネルギーの積算値は、前記ワイヤロープに張力が作用し始める第1タイミングから、前記ワイヤロープが端部の荷重物を動かし始める第2タイミングから所定時間経過までの積算値であることを特徴とする請求項1に記載の検査方法。
【請求項3】
前記第1タイミングと前記第2タイミングは、振動加速度を検出する加速度センサの反応タイミングであることを特徴とする請求項2に記載の検査方法。
【請求項4】
前記ワイヤロープの素線切れ状態は、損傷率に対して、前記AEエネルギーの積算値との相関係数が0.8以上であることを特徴とする請求項1~3の何れかに記載の検査方法。
【請求項5】
前記ワイヤロープは、ダムに設置された洪水吐ゲート用ワイヤロープであることを特徴とする請求項1~3の何れかに記載の検査方法。
【請求項6】
ワイヤロープのアコースティックエミッション(AE)エネルギーの積算値を演算して、前記ワイヤロープの素線切れ状態を検査することを特徴とする検査装置。
【請求項7】
前記検査装置は、
前記ワイヤロープに取り付けられたAEセンサからAE波の信号を入力するAE波入力部と、
前記ワイヤロープの端部に繋がる荷重物に設置される振動加速度を検出する加速度センサから振動加速度を入力する振動加速度入力部と、
前記振動加速度入力部から入力した振動加速度に基づき、前記ワイヤロープに張力が作用し始める第1タイミングと前記荷重物を動かし始める第2タイミングを検知し、前記第1タイミングから、前記第2タイミングから所定時間経過までの間に、前記AE波入力部から入力した前記ワイヤロープのAE波のAEエネルギーの積算値を演算し、前記ワイヤロープの素線切れ状態を判定する判定部、を備えることを特徴とする請求項6に記載の検査装置。
【請求項8】
前記判定部は、前記ワイヤロープの素線切れ状態を、取替必要性のランクに分けて表示することを特徴とする請求項7に記載の検査装置。
【請求項9】
前記AEセンサは、巻上ドラムの下端の上下2箇所に取り付けられ、
前記判定部は、前記ワイヤロープのAE波のAEエネルギーの積算値の演算において、巻上ドラム側で発生したAE波を除去することを特徴とする請求項7に記載の検査装置。
【請求項10】
前記ワイヤロープは、ダムに設置された洪水吐ゲート用ワイヤロープであることを特徴とする請求項6~9の何れかに記載の検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤロープの素線切れ状態の検査技術に関し、特に、洪水吐ゲートなどの水力設備におけるワイヤロープの健全性を診断する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エレベータなどの荷重物を持ち上げるためのワイヤロープの損傷を早期に発見できるようにワイヤロープの状態を監視することは重要である。ワイヤロープの撮影画像に基づき摩擦足や素線の破断の数を自動的に確認してワイヤロープの損傷を監視する技術や(例えば、特許文献1を参照)、エレベータ用ワイヤロープにおいて、破断した線材が検出部材と当接することにより発生する音響信号や検出部材の振動を検出して、音響信号や振動の検出によるアコースティックエミッション(Acoustic Emission:AE)法を用いて、ワイヤロープの損傷を監視する技術(例えば、特許文献2を参照)が知られている。
【0003】
また、電力設備においても、例えば、水力発電設備のダムにおいて、ダムのゲートを開閉するためにワイヤロープが用いられている。例えば、洪水吐ゲート用ワイヤロープでは、ワイヤロープがダム湛水池内水中部に設置されており、健全性については、現状は、設置取替から15年未満の場合は3年に1回、設置取替から15年以上の場合は1年に1回、潜水士による点検を実施して、ワイヤロープの素線切れ状態などを確認し、素線切れ率10%以上のワイヤロープに対して取替を行っている。
【0004】
しかしながら、潜水士による点検は、潜水士が誤って洪水吐ゲートの放流に吸い込まれる可能性があるといった潜水作業による事故発生リスクがある。潜水士の潜水作業時間は法令上制約があり、また、ゲート間の移動時には潜水機材の移動も必要になるため、作業効率が低下するといった問題がある。また、潜水士の人件費は高額であり、洪水吐ゲートの数が多いと点検日数も多くなるため、点検コストが増加する。さらに、潜水士の人員確保は困難であり、作業日程の調整が難しいといった問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-012903号公報
【特許文献2】国際公開第2011/158871号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の特許文献2では、AE法を用いて、ワイヤロープの破断した線材が検出部材と当接することにより発生する音響信号や検出部材の振動を検出し、ワイヤロープの損傷を監視する。検知センサとして、検出部材の振動の高周波数成分を検知するアコースティックエミッション(AE)センサが用いられる。特許文献2の技術において、エレベータ用ワイヤロープの線材の損傷又は破断は、ワイヤロープが曲げられるとき、例えば巻上機の巻上ドラム又は巻上車に巻かれるときに、最も強く引っ張られる外側位置で最初に発生する確率が高いことから、AEセンサをワイヤロープが曲がる個所に配置して、損傷又は破断を早期に検出する。
【0007】
しかしながら、ワイヤロープが巻上機に到達したときに検出するのではなく、ワイヤロープに力が加わるタイミングをとらえ、ワイヤロープの素線切れ状態を検出できる技術は知られていない。また、ダム設備における洪水吐ゲート用のワイヤロープなど、水中での点検が必要となるワイヤロープの素線切れ状態を安全に高精度に診断して、損傷又は破断を早期に検出することが要求される。
【0008】
かかる状況に鑑みて、本発明は、ワイヤロープに力が加わるタイミングをとらえ、ワイヤロープの素線切れ状態の検査方法及び検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決すべく、本発明の検査方法は、ワイヤロープのアコースティックエミッション(AE)エネルギーの積算値を用いて、ワイヤロープの素線切れ状態を検査する。
AEエネルギーの積算値を演算するとは、ワイヤロープの素線の摩擦時に発生する弾性波(AE波)を検出して電気的信号に変換し、AE波の大きさを例えば電圧値の経時変化として表したAE波形を取得し、AE波形の積分値であるAEエネルギーの積算値を用いて演算することである。
ワイヤロープのAE波を単に計測するのではなく、ワイヤロープに力が加わるタイミングをとらえ、ワイヤロープが端部の荷重物を動かし始めるタイミングから所定時間経過までのAEエネルギーの積算値を用いて演算することにより、損傷又は破断を早期に検出する。ここで、ワイヤロープとしては、エレベータかごを吊り下げたり、クレーンで荷重物を吊り下げたりするためのワイヤロープやダム設備における洪水吐ゲート用のワイヤロープなど素線切れ状態の検査が必要となるワイヤロープが広く含まれる。
【0010】
本発明の検査方法において、AEエネルギーの積算値は、ワイヤロープに張力が作用し始める第1タイミングから、ワイヤロープが端部の荷重物を動かし始める第2タイミングから所定時間経過までの積算値である。
AEエネルギーの上昇は、第1タイミングから第2タイミングまでだけではなく、第2タイミング以降にも見られる場合があるため、第2タイミングから所定時間経過までの積算値を用いることにより、高精度な検査が可能となる。すなわち、AEエネルギーの始まりのタイミングとして第1タイミング(ワイヤロープに力が加わったとき)をとらえ、AEエネルギーの解放のタイミングとして第2タイミング(ワイヤロープが端部の荷重物を動かし始めるとき)から所定時間経過したタイミングをとらえることにしている。
なお、所定時間については、0.0~2.0秒であることが好ましく、0.5~1.5秒がより好ましく、さらに好ましくは0.8~1.2秒である。
【0011】
本発明の検査方法において、第1タイミングと第2タイミングは、振動加速度を検出する加速度センサ(以下、振動加速度センサともいう)の反応タイミングであることが好ましい。振動加速度センサは、ワイヤロープで動かす荷重物に取り付けるが、ワイヤロープに張力が作用し始めるタイミング(第1タイミング)と、ワイヤロープが端部の荷重物を動かし始めるタイミング(第2タイミング)で反応する。例えば、洪水吐ゲート用のワイヤロープなど素線切れ状態の検査の場合、洪水吐ゲートに振動加速度センサを取り付ける。洪水吐ゲートの場合、ダム湛水池内に水が溜まっていても、振動加速度センサで第1タイミング及び第2タイミングを検出することができる。
振動加速度センサはワイヤロープの伸びをとらえるために用いており、予め荷重物の重量やそれを動かす際のワイヤロープの長さが分かっていれば、ワイヤロープにかかる荷重、ワイヤロープの伸び率、ワイヤロープの長さなどを計測してタイミングをとらえることも可能である。
ここで、振動加速度センサは、1軸の加速度センサの場合には、その検出軸が荷重物の設置面に対して垂直となるように配置され、荷重物の振動が検出軸方向における加速度(m/s2)として検出される。振動加速度センサは、例えば2軸又は3軸の加速度センサであってもよい。また、加速度センサの種類としては、例えば静電容量型、ピエゾ抵抗型などを任意に選択できる。
【0012】
本発明の検査方法において、ワイヤロープの素線切れ状態は、損傷率に対して、AEエネルギーの積算値との相関係数が0.8以上であることが好ましい。例えば、洪水吐ゲート用のワイヤロープの場合に、現場での検証データから素線切れに伴い発生するAEエネルギーと実際に潜水士が行った点検結果(素線切れ率)に高い相関関係があることが判明している。
【0013】
次に、本発明の検査装置について説明する。本発明の検査装置は、ワイヤロープのアコースティックエミッション(AE)エネルギーの積算値を演算して、ワイヤロープの素線切れ状態を検査する。
具体的には、本発明の検査装置は、以下の1)~3)の構成を備える。
1)ワイヤロープに取り付けられたAEセンサからAE波の信号を入力するAE波入力部。
2)ワイヤロープの端部に繋がる荷重物に設置される振動加速度を検出する加速度センサから振動加速度を入力する振動加速度入力部。
3)振動加速度入力部から入力した振動加速度に基づき、ワイヤロープに張力が作用し始める第1タイミングと荷重物を動かし始める第2タイミングを検知し、第1タイミングから、第2タイミングから所定時間経過までの間に、AE波入力部から入力したワイヤロープのAE波のAEエネルギーの積算値を演算し、ワイヤロープの素線切れ状態を判定する判定部。
【0014】
本発明の検査装置において、判定部は、ワイヤロープの素線切れ状態を、取替必要性のランクに分けて表示することが好ましい。例えば、取替必要状態、要注意状態、取替不要状態の3状態のランクに分けて表示することができる。判定結果のランクは、青色、黄色、赤色などの色分けでユーザに分かりやすく表示することができる。
【0015】
本発明の検査装置において、AEセンサは、巻上ドラムの下端の上下2箇所に取り付けられ、判定部は、ワイヤロープのAE波のAEエネルギーの積算値の演算において、巻上ドラム側で発生したAE波を除去することが好ましい。巻上ドラム側で発生したAE波をノイズとして除去することによりAEエネルギーの計測精度が向上する。
【0016】
本発明の検査方法や検査装置では、ワイヤロープがダムに設置された洪水吐ゲート用ワイヤロープであることが好ましい。洪水吐ゲートは、洪水の流入に対し、ダムと貯水池の安全を確保するために設けられた放流設備の総称であり、発電用ダムなどでは余水吐とも呼ばれるものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明のワイヤロープの素線切れ状態の点検装置及び点検方法によれば、ワイヤロープに力が加わるタイミングをとらえ、ワイヤロープの素線切れ状態を検査でき、ワイヤロープの損傷度合を早期に効率よく安全に判定できるといった効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図3】ダム設備における洪水吐ゲート用ワイヤロープの説明図
【
図8】振動加速度センサを用いたAEエネルギー計測の仕組みの説明図(1)
【
図9】振動加速度センサを用いたAEエネルギー計測の仕組みの説明図(2)
【
図10】現場での測定データ(AE波の計測数が少ない現場)
【
図11】現場での測定データ(AE波の計測数が多い現場)
【
図12】AEエネルギーの積算値と素線切れ率(1ヨリ損傷率)の相関を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態の一例を、図面を参照しながら詳細に説明していく。なお、本発明の範囲は、以下の実施例や図示例に限定されるものではなく、幾多の変更及び変形が可能である。
【実施例0020】
本発明の実施形態について、ワイヤロープに繋げる荷重物としてダムの洪水吐ゲートを想定して説明を行う。なお、荷重物としては、エレベータかご、クレーンで吊り下げる重量物その他ワイヤロープを用いて吊り下げる、又は、移動する物が含まれる。
まず、
図1~3を参照しながら、本発明の一実施形態における検査システムの機能ブロック図について説明する。検査システム10は、検査装置1、AEセンサ2、及び、振動加速度センサ3から構成されている。検査の対象となるワイヤロープ4は、その一端がダムの洪水吐ゲート5(荷重物)に取り付けられ、他端が巻上機6に巻き付けられ、巻上機6の制御によって洪水吐ゲートの開閉が制御される。
【0021】
AEセンサ2は、ワイヤロープが変形し破断したとき、ワイヤロープの材料である金属同士の摩擦時に発生する弾性波(AE波)を検出するものであり、ワイヤロープの表面に取付けられる。取付方法は、特に限定されるものではなく、テープ等で固定することでよい。AEセンサ2では、AE波を検出して電気的信号に変換し、検査装置1に検出した信号データを送る。
【0022】
振動加速度センサ3は、洪水吐ゲート5に取付け固定される。振動加速度センサ3は、具体的には、振動加速度を検出する加速度センサであり、1軸の加速度センサの場合、その検出軸が洪水吐ゲート5の設置面に対して垂直となるように配置される。振動加速度センサ3は、洪水吐ゲート5の振動を検出軸方向における加速度として検出し、検査装置1に検出した信号データを送る。
【0023】
検査装置1では、ワイヤロープ4に取り付けられたAEセンサ2からAE波の信号をAE波入力部12から入力する。また、洪水吐ゲート5に設置される振動加速度を検出する加速度センサから振動加速度を振動加速度入力部13から入力する。AE波入力部12から入力したAE波の信号データと、振動加速度入力部13から入力した振動加速度の信号データは、検査装置1の判定部14において演算される。
ここで、検査装置1は、可搬型コンピュータや、パーソナルコンピュータ等の検査装置であってもよい。検査装置の機能(AE波入力部12、振動加速度入力部13、判定部14)は、例えば、マイクロプロセッサ(例えばCPU等)がメモリに格納されたプログラムを読み出して実行することにより実現してもよい。或いは、専用の回路等のハードウェアにより実現してもよいし、ソフトウェアとハードウェアとを組み合わせて実現してもよい。また、検査装置1の機能の一部(例えば、判定部14の機能を分けたもの)を、検査装置1と通信できる他のコンピュータにより実現してもよい。
【0024】
判定部14は、第1タイミング検知部14a、第2タイミング検知部14b、AEエネルギー積算値演算部14c、素線切れ状態判定部14d、判定結果表示部14eから構成される。第1タイミング検知部14aでは、振動加速度入力部13から入力した振動加速度に基づき、ワイヤロープ4に張力が作用し始める第1タイミングを検知して、AEエネルギー積算値演算部14cと第2タイミング検知部14bに検知信号を送る。第2タイミング検知部14bでは、第1タイミングが検知された後、ワイヤロープ4が洪水吐ゲートを動かし始める第2タイミングを検知して、AEエネルギー積算値演算部14cに検知信号を送る。AEエネルギー積算値演算部14cでは、第1タイミングからAE波入力部12から取得したAE波形の積分値を計算し、第2タイミングから所定時間経過(ここでは1秒経過)までの間のAE波形の積分値をAEエネルギーの積算値として演算する。そして、素線切れ状態判定部14dで、AEエネルギー積算値演算部14cで演算したAEエネルギーの積算値を用いて、ワイヤロープ4の素線切れ状態を判定する。判定結果表示部14eは、素線切れ状態を検査装置1に表示するものであり、例えば色分けでランプに表示し、或いは、ディスプレイに表示する。判定結果の表示は、取替必要性のランクに分けて表示され、具体的には、取替必要状態、要注意状態、取替不要状態の3状態のランクに分けて表示する。判定結果のランクは、例えば青色が取替不要状態、黄色が要注意状態、赤色が取替必要状態の色分けとし、ユーザに分かりやすく表示する。なお、判定結果は表示するだけでなく記録も行える。
【0025】
図2は、検査システム10の使用状態における各要素の接続について示している。AEセンサ2はワイヤロープ4に当接し、振動加速度センサ3は洪水吐ゲート5に配置される。上述したとおり、振動加速度センサ3の検出軸が洪水吐ゲート5の設置面に対して垂直となるように配置される。ワイヤロープ4に素線切れ箇所7が発生すると、AE波(擦れ音)8が発生する。AEセンサ2は、このAE波8を検出して電気的信号(例えば電圧値)に変換する。AEセンサ2は、検査装置1と信号ケーブル2aにより接続され、電気的信号に変換されたAE波は、検査装置1のAE波入力部12に送られる。検査装置1では、AE波の大きさ(電圧値)の経時変化を取得する。振動加速度センサ3は、検査装置1と信号ケーブル3aにより接続され、洪水吐ゲート5の振動における検出軸方向における加速度が、検査装置1の振動加速度入力部13に送られる。検査装置1では、その振動加速度が上昇したタイミングから第1及び第2タイミングを取得する。
【0026】
図3は、ダム設備における洪水吐ゲート用ワイヤロープを示すものである。ダム湛水池20には水が溜まっており、巻上機6を制御して洪水吐ゲート用ワイヤロープ4を動作させることにより、洪水吐ゲート5の開閉や流量調節を行う。従来は、ダム湛水池20の水中内に潜水士が潜ってワイヤロープ4の損傷の有無を検査している。
検査システム10では、巻上機6側にAEセンサ2を設置できる作業空間を確保し、気中部から水中部の洪水吐ゲート用ワイヤロープの素線切れ状態を検査する。洪水吐ゲート用ワイヤロープ4に素線切れがあると、ゲート動作時の緊張により、素線が動き、擦れ易くなるため、切れていない状態に比べてAE波が大きく長く発生することから、AE波を捉えて、ワイヤロープ4の損傷状態を確認する。
【0027】
次に、
図4を参照して、検査方法のフローについて説明する。
図2で示したとおり、検査装置1と、AEセンサ2と、振動加速度センサ3と、ワイヤロープ4の各要素の接続が行われた状態で、AEセンサ2からAE波の信号を入力し(ステップS01)、振動加速度センサ3から振動加速度を入力する(ステップS02)。ステップS01とステップS02は、順番に記載されているが、入れ替えてもよく、また、AEセンサ2と振動加速度センサ3は別個のセンサであり同時に行える。
振動加速度センサ3からの振動加速度に基づき、ワイヤロープ4に張力が作用し始める第1タイミングを検知したかを判断する(ステップS03)。第1タイミングを検知したタイミングで、AE波形の積分を開始し、AEエネルギーの積算を開始する(ステップS04)。そして、第1タイミングの後であって、振動加速度センサ3からの振動加速度に基づき、ワイヤロープ4が洪水吐ゲートを動かし始める第2タイミングを検知したかを判断する(ステップS05)。第2タイミングを検知した後、所定時間(例えば1秒)経過するまで待ち(ステップS06)、AEエネルギーの積算を終了する(ステップS07)。AEエネルギーの積算値を演算して(ステップS08)、ワイヤロープの素線切れ状態を判定し(ステップS09)、処理を終了する。
【0028】
図5は、ワイヤロープの素線切れ状態の判定フローの一例を示している。AEエネルギーの積算値に応じて、取替必要性のランクに分けて表示する。AEエネルギーの積算値と素線切れ率(1ヨリ損傷率と呼ぶ)の相関関係については後で説明するが、例えば、AEエネルギーの積算値が90未満(#1)である場合、素線切れ率が5%未満となり、青色でランプ表示され「取替不要」と判定される(S12,S15)。また、AEエネルギーの積算値が90以上160未満(#2)である場合、素線切れ率が5%以上10%未満となり、黄色でランプ表示され「要注意」と判定され(S13,S16)、AEエネルギーの積算値が160以上(#3)である場合、素線切れ率が10%以上となり、赤色でランプ表示され「取替必要」と判定される(S14,S17)。
【0029】
ワイヤロープのAE計測について、
図6を参照して説明する。
図6(1)、(2)は、ワイヤロープに素線切れが無い場合におけるAE波の発生イメージを模式化したものである。一方、
図6(3)、(4)は、ワイヤロープに素線切れが有る場合におけるAE波の発生イメージを模式化したものである。
図6(1)と
図6(3)は、共に、ワイヤロープ4に力が加わっていない無負荷時のイメージであり、
図6(2)と
図6(4)は、共に、ワイヤロープ4に張力が加わった張力発生時のイメージであり、張力発生時には、図の矢印の方向に引っ張られ、無負荷時に比べてワイヤロープの長さが伸びた状態を表している。
図6(2)に示すように、ワイヤロープに素線切れが無い場合には、AE波(擦れ音)11aは小さく短いが、
図6(4)に示すように、ワイヤロープに素線切れが有る場合には、AE波(擦れ音)11b、11cは大きく長くなる。
【0030】
ここで、ワイヤロープの構造例、例えば、船舶用、クレーン用、機械用、その他一般の6×37(日本産業規格:JIS)のワイヤロープの構造について、
図7を参照して説明する。ワイヤロープの構造は、素線を数多く組み合わせた複雑な構造であり、繊維心入り又はロープ心入りの心綱4a、心綱4aの周囲のストランド4bの数と形、ストランド4b中の素線4cの数と配置等によって様々な種類がある。例えば、6×37のワイヤロープの場合、
図7に示すように37本の素線4cを合わせたストランド4bを6本、心綱4aの周りに所定のピッチでより合わせて構成される。
図7において、(1)は6×37のワイヤロープの構造を示し、(2)はワイヤロープの断面を示す。
図7(1)では、ワイヤロープの1ピッチとして1ヨリ長さ4dを示すが、この1ヨリ長さの間で素線切れを確認してワイヤロープの取替が必要か否かを判断する。例えば、1ヨリ長さ間の素線切りが無しであれば、異常がないと判断できる。また、1ヨリ長さにおいて、総素線数(6×37=222本)に対する素線切れ本数の割合を「損傷率」と定義すると、例えば1ヨリ長さ間の素線切れ本数が22本になれば、損傷率が10%となる。例えば損傷率が10%以上になれば、ワイヤロープの劣化ランク判定として、機能停止または損壊に直結する不具合と判定できる。
【0031】
従来、潜水士を含む人による目視点検やワイヤロープの画像により劣化診断を行っているところ、1ヨリ長さ間の損傷率とAEエネルギーの積算値との相関関係を用いて、上述の検査装置1により、AEエネルギーの積算値を用いてワイヤロープの素線切れ状態を判定し、事故発生リスクの低減ならびに点検効率化(点検コスト削減)を図る。
【0032】
図8、9は、振動加速度センサを用いたAEエネルギー計測の仕組みを示している。
図8において、上のグラフの縦軸はAEエネルギー(S・V)、下のグラフの縦軸は振動加速度(V)を表し、横軸は共に時間経過(s)を表している。振動加速度センサで計測した振動加速度と、AEセンサで計測したAE波からAEエネルギーを算出する。この振動加速度とAEエネルギーを照らし合わせることにより、ワイヤロープに張力が加わった点を捉え、AEエネルギーの開始タイミング(第1タイミング)とする。第1タイミングの後、ワイヤロープは更に力が加わり、ワイヤロープが絞られて長さが伸びていく。振動加速度センサでは、ワイヤロープに張力が加わり始める際にワイヤロープ端部が動き、荷重物に振動を与えることで加速度が上昇し、次に、ワイヤロープが荷重物を動かし始めるタイミング(第2タイミング)においても加速度が上昇する。AEエネルギーは第2タイミングの後も上昇を続けて、その後一定になる(ワイヤロープが伸びきった状態)。第2タイミングの後も上昇を続ける時間は、凡そ1秒である。振動加速度センサによる振動加速度が一気に上昇するタイミングは第1タイミングと第2タイミングの2回あり、この第2タイミングの後も所定時間が経過するまでAEエネルギーは上昇していく。
【0033】
AEエネルギーの積算値は、ワイヤロープに張力が加わり始める際にワイヤロープ端部が動いて荷重物に振動を与える第1タイミングから、ワイヤロープ端部が荷重物を動かし始め荷重物に振動を与える第2タイミング(更に所定時間経過)までのAEエネルギーの積算値を演算し、ワイヤロープの素線切れ状態を判定する。ここで、AEエネルギーは、時間(S)とAEセンサでAE波が変換された電圧(V)の積で求められる。
洪水吐ゲートをワイヤロープで動かす場合、
図9に示すとおり、ゲート全閉時はゲート扉体とワイヤロープ端部のソケットは接触していないが、ゲート開操作時にワイヤロープの緊張に伴いソケットがゲート扉体と接触し、その際の振動加速度で第1タイミング(始点)を検知する。その後、洪水吐ゲートが開くタイミング(放流開始タイミング)については第2タイミングから更に所定時間経過するタイミング(終点)を捉えて、AEエネルギーの積算を終了する。始点と終点の間は、ワイヤロープの固有振動や環境(風、波浪)等で発生する定常エネルギーによる定常波に加えて、素線切れAEエネルギーが加わることになる。
【0034】
図10は、洪水吐ゲートの現場での測定データの一例を示している。この現場では、潜水士による点検ではワイヤロープの素線切れ本数は0本であったものである。
図10(1)のグラフによれば、AEセンサで捉えたAE波の振幅(dB)の計測点が少なかったのが分かる。また、
図10(2)のグラフによれば、振動加速度が捉えた第1及び第2タイミングと所定の経過時間からAEエネルギーの積算値を演算すると小さい値となった。
【0035】
一方、
図11は、洪水吐ゲートの他の現場での測定データであるが、この現場では、潜水士による点検ではワイヤロープの素線切れ本数は28本であったが、
図11(1)のグラフによれば、AEセンサで捉えたAE波の振幅(dB)の計測点が多く、また、
図11(2)のグラフによれば、振動加速度が捉えた第1及び第2タイミングと所定の経過時間からAEエネルギーの積算値を演算すると大きい値となった。
【0036】
AEエネルギーの積算値(積算AEエネルギーともいう)と、ワイヤロープの素線切れ状態の指標となる1ヨリ損傷率との相関関係について、下記表1に示すダム現場(7地点)における洪水吐ゲート(17ゲート)に取り付けられたワイヤロープの1ヨリ損傷率(潜水士の点検作業によるもの)に対する、積算AEエネルギー値を調査し、2つの変数の相関関係を確認した。ワイヤロープは、表1に示すとおり、2種類(6×37、6×61)のワイヤロープで、素線径(mm)が異なるものであり、合計40本のワイヤロープに対して、積算AEエネルギーと1ヨリ損傷率の相関関係を確認した。また、何れの場合も、第2タイミングから1秒前後、AEエネルギーの上昇を確認した。
図12は、積算AEエネルギーと1ヨリ損傷率の相関関係を示している。
図12から、積算AEエネルギー(S・V)と1ヨリ損傷率(%)の2つの変数間には正の相関で、相関係数Rが0.87(決定係数R
2=0.7584)であり、高い相関関係があることが示された。
【0037】
【0038】
以上説明したとおり、本発明のワイヤロープの検査装置および検査方法によれば、第1タイミング(ワイヤロープに張力が作用し始めるタイミング)から、第2タイミング(ワイヤロープが端部の荷重物を動かし始めるタイミング)から更に所定時間が経過するまでの積算AEエネルギーと1ヨリ損傷率の相関関係を用いて、ワイヤロープの素線切れ状態を判定することができる。上記の積算AEエネルギーと1ヨリ損傷率の相関関係は、相関係数R=0.87であり、高い相関関係があることを確認した。