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特開2024-21419強化ガラスの測定方法、強化ガラスの測定装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024021419
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】強化ガラスの測定方法、強化ガラスの測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/45 20060101AFI20240208BHJP
   G01N 21/17 20060101ALI20240208BHJP
   G01L 1/00 20060101ALI20240208BHJP
   G01L 1/24 20060101ALI20240208BHJP
   G01B 11/06 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
G01N21/45 A
G01N21/17 A
G01L1/00 B
G01L1/00 G
G01L1/24 Z
G01B11/06 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022124235
(22)【出願日】2022-08-03
(71)【出願人】
【識別番号】393008902
【氏名又は名称】有限会社折原製作所
(71)【出願人】
【識別番号】522310801
【氏名又は名称】上海易梵工▲業▼▲設▼▲備▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】折原 秀治
(72)【発明者】
【氏名】折原 芳男
(72)【発明者】
【氏名】ジャン ファオシャオ
【テーマコード(参考)】
2F065
2G059
【Fターム(参考)】
2F065AA30
2F065BB01
2F065DD03
2F065FF51
2F065GG22
2F065GG23
2F065HH12
2F065JJ08
2F065QQ31
2G059AA02
2G059BB10
2G059EE09
2G059FF01
2G059GG02
2G059HH02
2G059JJ12
2G059KK04
(57)【要約】      (修正有)
【課題】厚さ200μm以下の強化ガラスの屈折率分布等を精度よく測定可能な強化ガラスの測定方法を提供する。
【解決手段】本強化ガラスの測定方法は、光源からの光を、光供給部材を介して、圧縮応力層を有する表面層内、及び表面層内より深い部分に入射させる光供給工程と、表面層導波光、及び、表裏面間導波光を、光取出し部材を介して、強化ガラスの外へ出射させる光取出し工程と、強化ガラスの外へ出射した光に含まれる、二種の光成分を、表面層導波光に基づく第1輝線列、表裏面間導波光に基づく第2輝線列、に変換する光変換工程と、二種の輝線列を撮像する撮像工程と、得られた画像から二種の輝線列の夫々の輝線の位置を測定する位置測定工程と、第1と第2の輝線列とを分離する分離工程と、二種の光成分に対応した強化ガラスの表面の屈折率、中心の屈折率、及び表面から深さ方向の屈折率分布、の少なくとも1つを算出する算出工程と、を有する。
【選択図】図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源からの光を、光供給部材を介して、被測定体である強化ガラスの少なくとも圧縮応力層を有する表面層内、及び前記表面層内より深い部分に入射させる光供給工程と、
前記表面層内を伝播した表面層導波光、及び、前記表面層内を抜け出た光が前記強化ガラスの表面と裏面との間で伝搬する表裏面間導波光を、光取出し部材を介して、前記強化ガラスの外へ出射させる光取出し工程と、
前記強化ガラスの外へ出射した光に含まれる、前記強化ガラスと前記光取出し部材との境界面に対して平行及び垂直に振動する二種の光成分を、前記表面層導波光に基づく第1輝線列、及び前記表裏面間導波光に基づく第2輝線列、を含む二種の輝線列に変換する光変換工程と、
前記二種の輝線列を撮像する撮像工程と、
前記撮像工程で得られた画像から前記二種の輝線列の夫々の輝線の位置を測定する位置測定工程と、
前記第1輝線列と前記第2輝線列とを分離する分離工程と、
前記位置測定工程及び前記分離工程で得られた測定結果に基づいて、前記二種の光成分に対応した前記強化ガラスの表面の屈折率、前記強化ガラスの中心の屈折率、及び前記強化ガラスの表面から深さ方向の屈折率分布、の少なくとも1つを算出する算出工程と、を有する、強化ガラスの測定方法。
【請求項2】
前記分離工程では、
前記強化ガラスの厚さの1/2の深さにおける屈折率又は前記強化ガラスが強化される前の屈折率と、前記光供給部材及び前記光取出し部材の屈折率と、で決まる臨界角に相当する境界位置を把握し、
前記境界位置よりも入射する光の入射角の大きい側が前記第1輝線列であると判定する、請求項1に記載の強化ガラスの測定方法。
【請求項3】
前記分離工程では、前記第2輝線列の性質を利用して、前記境界位置を把握する、請求項2に記載の強化ガラスの測定方法。
【請求項4】
前記第2輝線列の性質は、前記第2輝線列の輝線間隔が近似的に1次関数であることである、請求項3に記載の強化ガラスの測定方法。
【請求項5】
前記分離工程では、
強化される前の前記強化ガラスを測定して、強化される前の前記強化ガラスの屈折率に依存する境界位置を把握し、
強化された後の前記強化ガラスを測定する際に、前記境界位置の情報を利用して、前記境界位置よりも入射する光の入射角の大きい側が前記第1輝線列であると判定する、請求項1に記載の強化ガラスの測定方法。
【請求項6】
前記撮像工程よりも前に、前記光源からの光を前記二種の光成分に分離する、請求項1に記載の強化ガラスの測定方法。
【請求項7】
前記分離には、前記二種の光成分のうち前記境界面に平行に振動する光成分を透過させる領域と、前記境界面に垂直に振動する光成分を透過させる領域と、を有する板状部材を用いる、請求項6に記載の強化ガラスの測定方法。
【請求項8】
前記算出工程では、前記二種の光成分に対応した屈折率分布の差と、前記強化ガラスの光弾性定数とに基づいて、前記強化ガラスの表面から深さ方向の応力分布を算出する、請求項1乃至7の何れか一項に記載の強化ガラスの測定方法。
【請求項9】
前記第2輝線列に基づいて、前記強化ガラスの厚さを算出する、請求項8に記載の強化ガラスの測定方法。
【請求項10】
算出された前記強化ガラスの厚さは、前記応力分布の算出に使用される、請求項9に記載の強化ガラスの測定方法。
【請求項11】
互いに異なる複数の波長の光を前記強化ガラスに順次入射させ、
前記算出工程では、夫々の前記波長での輝線列の位置に基づいて、前記強化ガラスの表面の屈折率、前記強化ガラスの中心の屈折率、及び前記強化ガラスの表面から深さ方向の屈折率分布、の少なくとも1つを算出する、請求項1乃至7の何れか一項に記載の強化ガラスの測定方法。
【請求項12】
前記光供給部材及び前記光取出し部材は一体構造部材であり、
前記一体構造部材の周囲に、前記一体構造部材の前記強化ガラスと接する面と平行かつ同じ高さの面を備えた固定部材が設けられている、請求項1乃至7の何れか一項に記載の強化ガラスの測定方法。
【請求項13】
前記光供給部材及び前記光取出し部材は一体構造部材であり、
前記一体構造部材の前記強化ガラスと接する面は、光を供給または取出す領域より広い、請求項1乃至7の何れか一項に記載の強化ガラスの測定方法。
【請求項14】
前記光供給部材及び前記光取出し部材の前記強化ガラスと接する面と前記強化ガラスとの間に、液体又はジェルが充填されている、請求項1乃至7の何れか一項に記載の強化ガラスの測定方法。
【請求項15】
前記液体又は前記ジェルの屈折率は、前記強化ガラスの屈折率±0.01以内である、請求項14に記載の強化ガラスの測定方法。
【請求項16】
光源からの光を、被測定体である強化ガラスの少なくとも圧縮応力層を有する表面層内、及び前記表面層内より深い部分に入射させる光供給部材と、
前記表面層内を伝播した表面層導波光、及び、前記表面層内を抜け出た光が前記強化ガラスの表面と裏面との間で伝搬する表裏面間導波光を、前記強化ガラスの外へ出射させる光取出し部材と、
前記強化ガラスの外へ出射した光に含まれる、前記強化ガラスと前記光取出し部材との境界面に対して平行及び垂直に振動する二種の光成分を、前記表面層導波光に基づく第1輝線列と、前記表裏面間導波光に基づく第2輝線列とを含む二種の輝線列に変換する光変換部材と、
前記二種の輝線列を撮像する撮像素子と、
前記撮像素子で得られた画像から前記二種の輝線列の夫々の輝線の位置を測定する位置測定部と、
前記第1輝線列と前記第2輝線列とを分離する分離部と、
前記位置測定部及び前記分離部で得られた測定結果に基づいて、前記二種の光成分に対応した前記強化ガラスの表面の屈折率、前記強化ガラスの中心の屈折率、及び前記強化ガラスの表面から深さ方向の屈折率分布、の少なくとも1つを算出する算出部と、を有する、強化ガラスの測定装置。
【請求項17】
前記分離部は、
前記強化ガラスの厚さの1/2の深さにおける屈折率又は前記強化ガラスが強化される前の屈折率と、前記光供給部材及び前記光取出し部材の屈折率と、で決まる臨界角に相当する境界位置を把握し、
前記境界位置よりも入射する光の入射角の大きい側が前記第1輝線列であると判定する、請求項16に記載の強化ガラスの測定装置。
【請求項18】
前記分離部は、前記第2輝線列の性質を利用して、前記境界位置を把握する、請求項17に記載の強化ガラスの測定装置。
【請求項19】
前記第2輝線列の性質は、前記第2輝線列の輝線間隔が近似的に1次関数であることである、請求項18に記載の強化ガラスの測定装置。
【請求項20】
前記分離部は、
強化される前の前記強化ガラスを測定して、強化される前の前記強化ガラスの屈折率に依存する境界位置を把握し、
強化された後の前記強化ガラスを測定する際に、前記境界位置の情報を利用して、前記境界位置よりも入射する光の入射角の大きい側が前記第1輝線列であると判定する、請求項16に記載の強化ガラスの測定装置。
【請求項21】
前記算出部は、前記二種の光成分に対応した屈折率分布の差と、前記強化ガラスの光弾性定数とに基づいて、前記強化ガラスの表面から深さ方向の応力分布を算出する、請求項16乃至20の何れか一項に記載の強化ガラスの測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強化ガラスの測定方法及び強化ガラスの測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
厚さが200μm以下の超薄板ガラスは、可撓性を有するガラスである。このような超薄板ガラスは、ガラスの特質である、透明性、絶縁性、化学的安定性、温度安定性、ガス透過性の低さを兼ね備え、それらの要素が要求される多くの製品に利用されている。超薄板ガラスが利用されている製品の例としては、タッチパネルセンサー、薄膜電池用の基材、携帯型電子デバイス、半導体インターポーザ、屈曲性ディスプレイ、指紋センサ用カバーガラス、太陽電池、可撓性プリント基板用の可撓性電子製品などが挙げられる。
【0003】
そして、製品の新機能に対する需要増大、多様な新用途の開発により、新たな特性(例えば可撓性)を備える、より薄くて軽いガラス基材が求められている。しかし、ガラス基材は、厚さが薄くなるとともに、強度が弱くなる。そのため、薄いガラス基材は、化学強化を施して強度を上げて使われることが多い。
【0004】
例えば、特許文献1には、可撓性の超薄板化学強化ガラスが開示されている。当該ガラスは、厚さが500μm未満であり、30μm未満のイオン交換層の深さDOLを有し、表面圧縮応力CSが100MPaから700MPaであり、かつ中心引張応力CTが120MPa未満であり、かつ、DOL、CSおよびCTが特定の関係を満たす。
【0005】
また、特許文献2には、ガラスの厚さが0.4mm以下であり、30μm未満のDOLを有し、CSが100MPaから700MPaであり、かつCTが120MPa未満であり、かつ、DOL、CSおよびCTが特定の関係を満たす超薄板化学強化ガラスが提案されている。
【0006】
通常これらの化学強化ガラスの表面層は、少なくともガラス表面側に存在しイオン交換による圧縮応力が発生している圧縮応力層を含み、ガラス内部側に該圧縮応力層に隣接して存在し引張応力が発生している引張応力層を含んでもよい。
【0007】
化学強化ガラスにはイオン交換がしやすく、化学強化工程で、短時間で、表面応力値が高く、応力層の深さが深くできるガラスとして、ナトリウム含有のアルミノシリケート系のガラスが多く使われる。
【0008】
このアルミナシリケート系ガラスを高温の硝酸カリウム溶融塩に浸漬して、化学強化処理を施す。カリウムイオンが溶融塩中の濃度が高いために、ガラス中のナトリウムイオンと溶融塩中のカリウムイオンが交換される。カリウムイオンはナトリウムイオンより大きさが大きいため、ガラス表面に大きな圧縮応力が発生し、ガラスの強度を上げる。そして、化学強化処理を施されたガラスは、硝酸カリウム溶液塩に接しているガラス表面は一番カリウムイオン濃度が高く、ガラス表面から深さ方向に濃度は下がっていく。
【0009】
ここで、ガラスの屈折率は、ナトリウムイオンがカリウムイオンにイオン交換されるとより高くなる。つまりガラス表面は一番屈折率が高く、ガラス表面から深さとともに下がる特徴を持っている。
【0010】
このような化学強化ガラスの表面層の応力を測定する技術としては、例えば、化学強化ガラスの表面層の屈折率が内部の屈折率より高い場合に、光導波効果と光弾性効果とを利用して、表面層の圧縮応力を非破壊で測定する技術(以下、非破壊測定技術とする)が挙げられる。この非破壊測定技術では、単色光を化学強化ガラスの表面層に入射して光導波効果により複数のモードを発生させ、各モードで光線軌跡が決まった光を取出し、凸レンズで各モードに対応する輝線に結像させる。なお、結像させた輝線は、モードの数だけ存在する。
【0011】
又、この非破壊測定技術では、表面層から取出した光は、出射面に対して、光の振動方向が水平と垂直の二種の光成分についての輝線を観察できるように構成されている。そして、次数の一番低いモード1の光は表面層の一番表面に近い側を通る性質を利用し、二種の光成分のモード1に対応する輝線の位置から、夫々の光成分についての屈折率を算出し、その二種の屈折率の差とガラスの光弾性定数から化学強化ガラスの表面付近の応力を求めている(例えば、特許文献3参照)。
【0012】
又、化学強化ガラスの表面層の応力分布の測定に関し、上記の非破壊測定技術の原理を元に、全てのモードに対応する輝線の位置に基づいてガラスの表面からの屈折率分布を求め、更に、光弾性効果に基づいて応力分布を求める方法が提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【0013】
一方、上記の非破壊測定技術の原理を元に、モード1とモード2に対応する輝線の位置から、外挿でガラスの最表面での応力(以下、表面応力値とする)を求め、かつ、表面層の屈折率分布は直線的に変化すると仮定し、輝線の総本数から、圧縮応力層の深さを求める方法が提案されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0014】
又、一般的に外力が加わらなければ、応力の総和は0である。従って、化学強化により形成された応力を深さ方向に積分した値が、化学強化されていない中心部分でバランスをとるように略均等に引張応力が発生する。上記の非破壊測定技術により測定した表面応力値と圧縮応力層の深さを元に、ガラス内部の引張応力CTを定義し、CT値で強化ガラスの強度を管理する方法が提案されている(例えば、特許文献5参照)。この方法では、引張応力CTを『CT=(CS×DOL)/(t×1000-2×DOL)』で計算している。ここで、CSは表面応力値(MPa)、DOLは圧縮応力層の深さ(単位:μm)、tは板厚(単位:mm)である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特表2017-429304号公報
【特許文献2】特表2016-508954号公報
【特許文献3】特開昭53-136886号公報
【特許文献4】特開2016-142600号公報
【特許文献5】特表2011-530470号公報
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】Yogyo-Kyokai-Shi(窯業協会誌)87{3}1979
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
図1は、厚さ0.8mmの強化ガラスの輝線の画像であり、図2は、厚さ0.04mmの強化ガラスの輝線の画像である。図1及び図2は、いずれも表面層導波光を利用した表面応力計であるFsm6000(有限会社折原製作所製)で撮影した輝線の画像である。図1及び図2に示すような輝線の列(以降、輝線列とする)は、強化ガラスによる表面から深い部分へかけて、屈折率が下がることにより発生する。強化ガラス工程で交換するイオンが表面から拡散するため、表面付近ではその濃度勾配が高く深くなると徐々に低くなり、ガラス表面からの深さがガラス厚さの1/2となる深さの点であるガラス中心では、ほぼ平坦となる。
【0018】
図1に示す通常の厚さの強化ガラスにおいて、輝線列の画像は左側が入射する光の入射角が大きく、次数の小さなモードの輝線である。屈折率が表面ほど高い屈折率分布で発生する表面層導波光に基づく輝線列は、図1の左方向の次数の低い表面付近を通るモードの輝線より、深い部分を通る次数の高いモードの輝線の方が輝線の間隔が狭くなっている。
【0019】
一方、図2に示す超薄の強化ガラスにおいては、そのようになっておらず、途中から輝線間隔が広くなっている。これは、表面層導波光に基づく輝線列以外に、どこかで干渉が起き新たな輝線が生じていると思われ、図2の全ての輝線列を使って、屈折率分布、および、応力分布を算出しても、正しい結果が得られない。
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、厚さ200μm以下の強化ガラスの屈折率分布等を精度よく測定可能な強化ガラスの測定方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本強化ガラスの測定方法は、光源からの光を、光供給部材を介して、被測定体である強化ガラスの少なくとも圧縮応力層を有する表面層内、及び前記表面層内より深い部分に入射させる光供給工程と、前記表面層内を伝播した表面層導波光、及び、前記表面層内を抜け出た光が前記強化ガラスの表面と裏面との間で伝搬する表裏面間導波光を、光取出し部材を介して、前記強化ガラスの外へ出射させる光取出し工程と、前記強化ガラスの外へ出射した光に含まれる、前記強化ガラスと前記光取出し部材との境界面に対して平行及び垂直に振動する二種の光成分を、前記表面層導波光に基づく第1輝線列、及び前記表裏面間導波光に基づく第2輝線列、を含む二種の輝線列に変換する光変換工程と、前記二種の輝線列を撮像する撮像工程と、前記撮像工程で得られた画像から前記二種の輝線列の夫々の輝線の位置を測定する位置測定工程と、前記第1輝線列と前記第2輝線列とを分離する分離工程と、前記位置測定工程及び前記分離工程で得られた測定結果に基づいて、前記二種の光成分に対応した前記強化ガラスの表面の屈折率、前記強化ガラスの中心の屈折率、及び前記強化ガラスの表面から深さ方向の屈折率分布、の少なくとも1つを算出する算出工程と、を有する。
【発明の効果】
【0021】
開示の技術によれば、厚さ200μm以下の強化ガラスの屈折率分布等を精度よく測定可能な強化ガラスの測定方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】厚さ0.8mmの強化ガラスの輝線の画像である。
図2】厚さ0.04mmの強化ガラスの輝線の画像である。
図3】第1実施形態に係る強化ガラスの測定装置を例示する図である。
図4】モードについて説明する図である。
図5】強化ガラスの屈折率分布を例示する図である。
図6】複数のモードが存在する場合の各モードの光線軌跡を説明した図である。
図7】複数のモードに対応する輝線列を例示する図である。
図8】表面層導波光の最大のモードの導波光、および、その導波光より入射角が小さな角度で入射する光の進み方を説明する図である。
図9】ガラス厚さd、屈折率nのガラス板の表裏面間で干渉する場合のモードの条件を導くための図である。
図10】強化ガラスからの光取出し部材である光学プリズムを通り、強化ガラスの外部に光が取り出される図である。
図11】厚さの厚い強化ガラスの輝線列を撮影した写真である。
図12】本実施形態に係る測定方法を例示するフローチャートである。
図13】強化ガラスの測定装置1の演算部70の機能ブロックを例示する図である。
図14】第2実施形態に係る強化ガラスの測定装置を例示する図である。
図15】第2実施形態の変形例に係る強化ガラスの測定装置を例示する図である。
図16】第3実施形態に係る強化ガラスの測定装置を例示する図(その1)である。
図17】第3実施形態に係る強化ガラスの測定装置を例示する図(その2)である。
図18】第4実施形態に係る強化ガラスの測定装置を例示する図である。
図19】第5実施形態に係る強化ガラスの測定装置を例示する図である。
図20】分割偏光板を入射側から見た状態を例示する図である。
図21】強化ガラスの測定装置7で得られた輝線列の画像の例である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して発明を実施するための形態について説明する。各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
【0024】
〈第1実施形態〉
図3は、第1実施形態に係る強化ガラスの測定装置を例示する図である。図3に示すように、強化ガラスの測定装置1は、光源10と、光供給部材20と、光取出し部材30と、光変換部材40と、偏光部材50と、撮像素子60と、演算部70とを有する。
【0025】
200は、被測定体となる超薄の強化ガラスである。強化ガラス200は、例えば、厚さが200μm以下の超薄のガラスに化学強化法により強化処理が施されたガラスであり、少なくとも表面210側に屈折率分布を有する表面層を備えている。
【0026】
(光源)
光源10は、光供給部材20から強化ガラス200の表面層に光線Lを入射するように配置されている。干渉を利用するため、光源10の波長は、単純な明暗表示になる単波長であることが好ましい。
【0027】
光源10としては、例えば、容易に単波長の光が得られるNaランプを用いることができ、この場合の波長は589.3nmである。又、光源10として、Naランプより短波長である水銀ランプを用いてもよく、この場合の波長は、例えば水銀I線である365nmである。但し、水銀ランプは多くの輝線があるので、365nmラインだけを透過させるバンドパスフィルタを通して使用することが好ましい。他の単波長性の高い光源として、半導体レーザや、DPSS(Diode Pumped Solid State)レーザなどのレーザ光源を用いても良い。
【0028】
又、光源10としてLED(Light Emitting Diode)を用いても良い。近年、多くの波長のLEDが開発されているが、LEDのスペクトル幅は半値幅で10nm以上あり、単波長性が悪く、温度により波長が変化する。そのため、バンドパスフィルタを通して使用することが好ましい。
【0029】
光源10をLEDにバンドパスフィルタを通した構成にした場合、Naランプや水銀ランプほど単波長性はないが、紫外域から赤外域まで任意の波長を使うことができる点で好適である。なお、光源10の波長は、強化ガラスの測定装置1の測定の基本原理には影響しないため、上に例示した波長以外の光源を用いても構わない。
【0030】
但し、光源10として紫外線を照射する光源を用いることで、測定の分解能を向上できる。すなわち、測定対象となる超薄の強化ガラス200の表面層は数μm~数十μm程度の厚さであるため、光源10として紫外線を照射する光源を用いることにより多くの本数の干渉縞が得られ、分解能が向上する。一方、光源10として紫外線よりも長波長の光を照射する光源を用いると、干渉縞の本数が減るため分解能が低下する。
【0031】
また、特定の波長のみ透過する強化ガラスの場合、その透過する波長の光源を選ぶことが望ましい。
【0032】
また、光源10と光供給部材20との間に、拡散板で光源10からの光の均一性を高めたり、レンズで集光して実質的な光の強度を上げたりしても良い。
【0033】
(光の取出しと輝線の撮像)
被測定体である強化ガラス200は、表面210が光供給部材20及び光取出し部材30と光学的に接触した状態で載置されている。光供給部材20は、光源10からの光を強化ガラス200に入射させる機能を備えている。光取出し部材30は、強化ガラス200の表面層および表裏面間を伝播した光を、強化ガラス200の外に出射させる機能を備えている。
【0034】
光供給部材20及び光取出し部材30としては、例えば、光学ガラス製のプリズムを用いることができる。この場合、強化ガラス200の表面210において、光線がこれらプリズムを介して光学的に入射及び出射するために、これらプリズムの屈折率は強化ガラス200の屈折率よりも大きくする必要がある。又、各プリズムの傾斜面において、入射光及び出射光が略垂直に通過するような屈折率を選ぶことが望ましい。
【0035】
例えば、プリズムの傾斜角が60°で、強化ガラス200の屈折率が1.52の場合は、プリズムの屈折率は1.72とすることができる。なお、光供給部材20及び光取出し部材30として、プリズムに代えて、同様の機能を備えた他の部材を用いてもよい。又、光供給部材20及び光取出し部材30を一体構造としてもよい。
【0036】
光取出し部材30から出射された光の方向には撮像素子60が配置されており、光取出し部材30と撮像素子60との間に、光変換部材40と偏光部材50が挿入されている。
【0037】
光変換部材40は、光取出し部材30から出射された光線を輝線列に変換して撮像素子60上に集光する機能を備えている。光変換部材40としては、例えば、凸レンズを用いることができるが、同様の機能を備えた他の部材を用いてもよい。
【0038】
偏光部材50は、強化ガラス200と光取出し部材30との境界面に対して平行及び垂直に振動する二種の光成分のうち一方を選択的に透過する機能を備えている。偏光部材50としては、例えば、回転可能な状態で配置された偏光板等を用いることができるが、同様の機能を備えた他の部材を用いてもよい。
【0039】
撮像素子60の直前に、場所により偏光軸が異なる偏光部材を用い撮像素子60の撮像エリアにより、異なる光成分の輝線画像を撮像できるようにしても良い。また、そのエリアは、撮像素子を2つのエリアに分けても、撮像素子の画素ごとでも良い。ここで、強化ガラス200と光取出し部材30との境界面に対して平行に振動する光成分はS偏光であり、垂直に振動する光成分はP偏光である。
【0040】
なお、強化ガラス200と光取出し部材30との境界面は、光取出し部材30を介して強化ガラス200の外に出射した光の出射面と垂直である。そこで、光取出し部材30を介して強化ガラス200の外に出射した光の出射面に対して垂直に振動する光成分はS偏光であり、平行に振動する光成分はP偏光であると言い換えてもよい。
【0041】
撮像素子60は、光取出し部材30から出射され、光変換部材40及び偏光部材50を経由して受光した光を電気信号に変換する機能を備えている。より詳しくは、撮像素子60は、例えば、受光した光を電気信号に変換し、画像を構成する複数の画素毎の輝度値を画像データとして、演算部70に出力することができる。撮像素子60としては、例えば、CCD(Charge Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)等の素子を用いることができるが、同様の機能を備えた他の素子を用いてもよい。
【0042】
(演算機能)
演算部70は、撮像素子60から画像データを取り込み、画像処理や数値計算をする機能を備えている。演算部70は、これ以外の機能(例えば、光源10の光量や露光時間を制御する機能等)を有する構成としてもよい。演算部70は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、メインメモリ等を含むように構成することができる。
【0043】
この場合、演算部70の各種機能は、ROM等に記録されたプログラムがメインメモリに読み出されてCPUにより実行されることによって実現できる。演算部70のCPUは、必要に応じてRAMからデータを読み出したり、格納したりできる。但し、演算部70の一部又は全部は、ハードウェアのみにより実現されてもよい。又、演算部70は、物理的に複数の装置等により構成されてもよい。演算部70としては、例えば、パーソナルコンピュータを用いることができる。
【0044】
(機能概要)
強化ガラスの測定装置1では、光源10から光供給部材20を通して厚さ200μm以下の超薄の強化ガラス200の表面層に入射した光線Lは表面層内、あるいは強化ガラス200の表裏面間を伝播する。そして、光線Lが表面層内および、表裏面間を伝播すると、光導波効果によりモードが発生し、幾つかの決まった経路を進んで光取出し部材30により、強化ガラス200の外へ取出される。
【0045】
そして、光変換部材40及び偏光部材50により、撮像素子60上に、表面層内の導波光と表裏面間の導波光の夫々について、モード毎にP偏光及びS偏光の輝線となって結像される。撮像素子60上に発生した、夫々のモードの数のP偏光及びS偏光の輝線の画像データは、演算部70へと送られる。演算部70では、撮像素子60から送られた画像データから、撮像素子60上のP偏光及びS偏光の輝線の位置を算出する。
【0046】
このような構成により、強化ガラスの測定装置1では、P偏光及びS偏光の輝線の位置に基づいて、強化ガラス200の表面層における表面から深さ方向の、P偏光及びS偏光の夫々の屈折率分布を算出することができる。又、算出したP偏光及びS偏光の夫々の屈折率分布の差と、強化ガラス200の光弾性定数とに基づいて、強化ガラス200の表面層における表面から深さ方向の応力分布を算出することができる。
【0047】
以下、強化ガラスの測定装置1における屈折率分布の測定及び応力分布の測定等に関し、より詳しく説明する。
【0048】
(表面層導波光のモードと輝線)
図4及び図5等を参照し、強化ガラス200の表面層に光線を入射したときの、光線の軌跡とモードについて説明する。
【0049】
図4において、強化ガラス200は、表面210から深さ方向に屈折率分布を有している。図4において表面210からの深さをxとし、深さ方向の屈折率分布をn(x)とすると、深さ方向の屈折率分布n(x)は、例えば、図5に示す曲線のようになる。つまり、強化ガラス200では、通常、表面及び裏面の両面について同じ条件で化学強化処理がされている。表面210の屈折率は高く、深くなるにつれ低くなり、圧縮応力層が終了する深さ(圧縮応力層の最深部)より深い部分では、緩やかに屈折率が低くなっていき、ガラス厚さの1/2の深さであるガラス中心で、屈折率が最低となる。ガラス中心より深くなると、裏面での化学強化のため、再び屈折率が高くなり、裏面では、表面と同じ屈折率になる。そして、その屈折率のカーブの形状は、ガラス中心に関して対象となっている。また、ガラス厚さに比べ、圧縮層が十分浅い場合は、原理的にはガラス中心が屈折率の最低点となるが、実際には、そのガラス中心付近は、ほぼ一定の元のガラスの屈折率と同じになる。
【0050】
このように、強化ガラス200の表面層では、内部方向に進むにつれ屈折率が低くなる。そのため、図4において、表面210に対して浅い角度で入射した光線Lは(図4の例では、強化ガラス200より大きな屈折率を持つ光供給部材20を介して入射している)、光線軌跡が徐々に表面210と平行に近づき、最深点xtで深さ方向から表面210の方向に反転する。そして光線軌跡が反転した光線は、入射した点から反転する点までの光線軌跡の形状と相似な形状で表面210へと向かい、表面210で少なくとも一部は反射し、再び強化ガラス200の内部へ進む。
【0051】
再び強化ガラス200の内部に進んだ光線は、それまでの光線軌跡と同じ形状の軌跡を通り深さxtで反転して表面210に戻り、これを繰り返し、光線は表面210と最深点xtとの間を往復しつつ進んでいく。そして、表面210から幅xtである限定された空間を光が進行していくため、光は有限値の離散的なモードとしてだけ伝播し得る。
【0052】
すなわち、複数のある決まった経路の光線だけが、強化ガラス200の表面層を伝わることができる。この現象は光導波効果と呼ばれており、光ファイバー内に光線が進む原理でもある。表面210を光導波効果により伝わる光のモード、及びそのモードの光線軌跡は、表面210から深さ方向の屈折率分布で決まる。
【0053】
図6は、複数のモードが存在する場合の各モードの光線軌跡を説明した図である。図6の例では、モード1、モード2、及びモード3の3つのモードを示しているが、更に高次のモードを有してもよい。次数の一番低いモード1は、光線軌跡が表面210で反射するときの表面210との角度が一番浅い(出射角の余角が一番小さい)。又、モード毎に光線軌跡の最深点が異なり、モード1の最深点xt1は一番浅い。モードの次数が大きくなるにつれ、表面210での反射するときの表面210となす角度は大きくなる(出射角の余角が大きくなる)。又、モード2の最深点xt2はモード1の最深点xt1よりも深く、モード3の最深点xt3はモード2の最深点xt2よりも更に深くなる。
【0054】
ここで、光線の所定面に対する入射角は、入射する光線と所定面の法線とのなす角である。これに対し、光線の所定面に対する入射角の余角は、入射する光線と所定面とのなす角である。すなわち、光線の所定面に対する入射角がθであれば、光線の所定面に対する入射角の余角はπ/2-θである。又、光線の所定面に対する出射角と出射角の余角との関係についても同様である。
【0055】
なお、図6では入射光を1本の光線で表しているが、入射光はある広がりを持っている。その広がりを持った光も、夫々同じモードでは表面210から出射する光の余角は同じである。そして、生じたモード以外の光は打ち消し合うため、表面210からは各モードに対応した光以外は出射しない。
【0056】
又、図3において、光供給部材20、光取出し部材30、及び強化ガラス200は奥行き方向には同じ形状である。そのため、光変換部材40で集光された光は、光変換部材40の焦点面である撮像素子60に、そのモードに対応した光が奥行き方向に輝線となって結像される。
【0057】
そして、モード毎に出射角の余角が異なるため、図7に示すように、輝線がモード毎に順に並び、輝線列となる。なお、輝線列は通常は明線の列となるが、図3における光供給部材20と光取出し部材30が接し一体になっている場合、出射光に対して光源からの直接光が参照光として作用し、暗線の列となる場合もある。しかし、明線の列となる場合も暗線の列となる場合も、各線の位置は全く同じである。
【0058】
このように、輝線は、モードが成り立つときに明線又は暗線で発現する。参照光の明暗により輝線の干渉色が変わる場合があっても、本実施形態に係る屈折率分布や応力分布の計算には全く影響がない。そこで、本願では、明線であっても暗線であっても便宜上輝線と表現する。
【0059】
ところで、表面層内を伝わった光線が屈折して強化ガラス200の外に出射される際の出射角の余角は、その光線の表面層内での光線軌跡の最深点での強化ガラス200の屈折率、すなわち実効屈折率nnに等しい屈折率を持つ媒質が光取出し部材30に接していたときの臨界屈折光のそれに等しい。各モードでの最深点は、そのモードでの光線が全反射する点とも解釈できる。
【0060】
そして、これらの表面層導波光の各モードでの光線軌跡や、発生する輝線の位置は、強化ガラスの屈折率分布および、光学プリズムの屈折率や形状、光源波長で決まる。例えば、式(1)は、各モードの光線軌跡を満足する式である。式(1)は、特許文献4において式4として示されている。
【0061】
【数1】
【0062】
式(1)のn(x)は、本願の図5で示す強化ガラスの深さ方向の屈折率分布であり、屈折率分布が決まれば、各モードの光線軌跡は決まり、輝線の位置も決まる。すなわち、原理的には各モードの輝線位置が分かれば、逆算して、そのモードでの屈折率分布を算出することができる。完全な解析解を得ることは難しいが、近似的な解析や数値的な解析により、表面層導波光に基づく輝線列の位置より、各モードに対応した、深さと屈折率として、離散的ではあるが、屈折率分布を算出することができる。また、内挿法や関数近似で全体の屈折率分布を得ることができる。そして、近年の一般的に使われているPC(パーソナルコンピュータ)の計算能力は高く、その計算は短時間で可能である。
【0063】
このような原理や方法に基づき、強化ガラスの測定装置1では、表面層導波光のP偏光及びS偏光の輝線の位置から、強化ガラス200の表面層における表面から深さ方向にわたる、P偏光及びS偏光の夫々の屈折率分布を算出することができる。
【0064】
これにより、算出したP偏光及びS偏光の夫々の屈折率分布の差と、強化ガラス200の光弾性定数とに基づいて、強化ガラス200の表面層における表面から深さ方向にわたる応力分布を算出することができる。
【0065】
ただし、本実施形態で対象とする被測定体となる超薄の強化ガラスでは、表面層導波光に基づく輝線列以外に、表面層導波光以外の導波光に基づく輝線列も生じる。表面層導波光以外の導波光の輝線は、屈折率分布あるいは応力分布の算出には使用できない。そのため、発生する全輝線列から、屈折率分布あるいは応力分布を算出することができる表面層導波光に基づく輝線列を分離する必要がある。次に、この表面層導波光以外の導波光の輝線について説明する。
【0066】
(ガラスの表裏面間での導波光)
上記説明の表面層内を伝わる導波光のモードが成り立ち、一番深い部分を通る、すなわち一番高次の導波光より、さらに入射角が小さな角度で入射する光について考える。
【0067】
図8は、表面層導波光の最大のモードの導波光、および、その導波光より入射角が小さな角度で入射する光の進み方を説明する図である。表面層導波光のモードは、入射角が小さくなると、モード数が大きくなり、深い点を通る。
【0068】
図8において、軌跡1は、表面層導波光の最大モードの軌跡である導波光の中で強化層内の1番深い点を通る光の軌跡である。軌跡3は、より入射角が小さくなり、強化ガラスの厚さの1/2の深さであるガラス中心を超えて裏面へと進む光である。この軌跡の場合、表面(P_F1)から入射した光は、徐々にガラス面と平行に近くなるよう進んでいくが、最低の屈折率であるガラス中心に達しても、ガラス面と平行にならず、ガラス中心を突き抜け、裏面の強化層へ入る。そして、裏面の強化層内では、表面の強化層内と対称の軌跡を描き、裏面(P_B1)で反射し、同様の軌跡を描き、表面(P_F2)へ戻る。
【0069】
表面(P_F2)に戻った光は、表面(P_F2)で入射してくる光と干渉し、干渉の条件を満たす軌跡の光のみがガラス内に存在でき、表面層の導波光同様に、ガラスの表裏面間での導波光となり、複数のモードが存在する。
【0070】
すなわち、ガラスへの入射角が大きいときは、表面層、すなわち強化層内の導波光、入射角が小さいときは、ガラス表裏面間での導波光となる。入射角が小さいときの導波光を、以降では表裏面間導波光と称する場合がある。
【0071】
一方、軌跡2は、強化ガラスの厚さの1/2の深さであるガラス中心で、ちょうどガラスの表面及び裏面と平行に光が進むような軌跡を描く入射角の光を示している。これは、表裏面間導波光の仮想のモード0の光の軌跡である。また、後述するが、モード0の位置は、表面層導波光と表裏面間導波光との境界位置でもある。
【0072】
輝線列は、例えば、図2のように入射角が大きい方が左である場合、表裏面間導波光のモード0の位置を挟み、入射角が大きい左側に表面層導波光に基づく輝線列、入射角の小さい右側に表裏面間導波光に基づく輝線列が現れる。以降、前者を表面層導波光に基づく第1輝線列(又は単に第1輝線列)、後者を表裏面間導波光に基づく第2輝線列(又は単に第2輝線列)と称する。
【0073】
このように、超薄の強化ガラスで発生する表裏面間導波光に基づく第2輝線列は、表面層導波光に基づく第1輝線列とは重ならない。つまり、表裏面間導波光のモード0の位置を境界位置として、境界位置の一方側に第1輝線列、他方側に第2輝線列が並ぶ。そこで、境界位置を把握し、境界位置よりも入射する光の入射角の大きい側が第1輝線列であると判定し、全輝線列から、第1輝線列を分離することができる。そして、分離した第1輝線列に基づいて、屈折率分布や応力分布の算出が可能である。
【0074】
境界位置は、強化ガラス200の厚さの1/2の深さにおける屈折率又は強化ガラス200が強化される前の屈折率と、光供給部材20及び光取出し部材30の屈折率と、で決まる臨界角に相当する位置となる。また、表裏面間導波光の特定の輝線のモードの次数が特定できれば、モード0の位置である境界位置も分かり、第1輝線列と第2輝線列とを分離することが可能となる。
【0075】
すなわち、何らかの方法で、表面層導波光に基づく第1輝線列と表裏面間導波光に基づく第2輝線列の境界位置が分かれば、境界位置よりも入射する光の入射角の大きい方が表面層導波光に基づく第1輝線列であると判定し、全輝線列から、表面層導波光に基づく第1輝線列を分離することができる。
【0076】
また、表裏面間導波光に基づく第2輝線列は、厚い強化ガラスでも原理的には発生するはずであるが、ガラス厚さが厚くなると干渉性が悪くなるため実質的には発生しない。すなわち、表裏面間導波光に基づく第2輝線列は、超薄の強化ガラスに特有の現象である。
【0077】
(表裏面間導波光に基づく第2輝線列)
図5で示したように、強化ガラスの屈折率は深さ方向で変化しているが、その変化量は、通常の強化ガラスでは、ガラスの屈折率1.4~2.0に対して、最大でも0.01程度と小さい。そのため、表裏面間導波光のモードを考えるには、ガラスの深さ方向の屈折率は一定であると考えても差し支えない。
【0078】
図9は、ガラス厚さd、屈折率nの強化ガラスの表裏面間で干渉する場合のモードの条件を導くための図である。また、強化ガラスへの光は、屈折率nの光供給部材である光学プリズムから入射している。
【0079】
屈折率nの光学プリズムから強化ガラスの点g1に入射角Ψで入射した光Lp1は、屈折率nと屈折率nの違いにより屈折し、入射角ρで強化ガラスの内部に入り、裏面の点g2に達し、裏面の点g2で反射し表面の点g3に戻る。表面の点g3に戻った光は、さらに反射し、この反射した光と光学プリズムからより入射した光Lp2とが干渉し、同位相となる条件の光だけが、表裏面間導波光として進んでいく。
【0080】
モードが成り立つ条件は、一般的に知られている表裏面間で生じる干渉と同義の現象であり、入射する光を波長λとし、強化ガラスの内部の入射角の余角をΘとすると、式(2)のようになる。式(2)において、kはモード数であり、正の整数である。
【0081】
【数2】
【0082】
一般に、sin関数をテイラー展開すると、式(3)のようになる。
【0083】
【数3】
【0084】
通常は波長λが厚さdより非常小さいため、モードが低い次数においてsin関数のテイラー展開である式(3)の1次までを使い、式(1)をΘについての式にすると、式(4)のような簡単な式が得られる。
【0085】
【数4】
【0086】
一方、カメラ上に結像する輝線の間隔と入射角の余角Θの関係について調べる。図10は、強化ガラスからの光取出し部材である光学プリズムを通り、強化ガラスの外部に光Lgが取り出される図である。まず、光学プリズムからの出射角ψ*の変化dψ*と光学プリズム内部の入射角ψの正接での変化dsinψの比を考え、Ψ*とΨ´はスネルの式、Ψ´とΨは1次の関係であることから、式(5)が得られる。図10において、nairは、空気中の屈折率で通常は1である。
【0087】
【数5】
【0088】
これより、モードkと仮想のモード0(Θ=0)とのψ*の差は、式(6)のようになる。
【0089】
【数6】
【0090】
ψとΘの関係をスネルの式から、cos関数のテイラー展開である式(7)の2次までを使い導くと、式(8)が得られる。
【0091】
【数7】
【0092】
【数8】
【0093】
一方、ΘとΘでのψの正接の変化Δsinψは、式(8)を使うと式(9)のようになる。
【0094】
【数9】
【0095】
光変換部材である焦点距離fのレンズで結像すると、結像面での輝線の仮想のモード0からの位置は、式(10)で示せるため、式(11)が得られる。
【0096】
【数10】
【0097】
【数11】
【0098】
さらにΘに式(4)を使い、(k-0.5)にかかる係数をまとめてBとすると、式(12)及び式(13)のようになり、次数kの二乗の簡単な式となる。
【0099】
【数12】
【0100】
【数13】
【0101】
ここで、式(13)そのものはk=1以上の場合に成り立つ式であるが、式(12)において、仮想のモード0の場合は、D0-0=0となる。
【0102】
式(12)及び式(13)より、次数が大きくなるほど、徐々に輝線の間隔は広くなる。この関係を使い、全輝線列中における表裏面間導波光に基づく第2輝線列を特定することができる。
【0103】
(表裏面間導波光に基づく第2輝線列の具体的な分離方法)
式(13)から、ある次数の輝線と、その次数より次数が1つ低い輝線との間隔Dk-(k-1)は、式(14)のようになる。つまり、表裏面間導波光に基づく第2輝線列の輝線間隔は、近似的にモードkの1次関数で表すことができる。ただし、式(12)のkが1以上であるため、式(14)そのものが成り立つのは、kが2以上の場合であるが、kが1の場合は、D0-0=0より、D1-0=0.25である。
【0104】
【数14】
【0105】
さらに隣接する輝線の間隔の比RMは式(15)のようになり、Bは消去され、次数kだけの値となる。
【0106】
【数15】
【0107】
ただし、式(15)は、kが3以上の場合に成り立ち、kが2の場合は、RM=8となる。実際に計算した値を表1に示す。
【0108】
【表1】
【0109】
次に、図2は超薄の強化ガラスの輝線列の例であるが、この輝線列には、表面層導波光に基づく第1輝線列と、表裏面間導波光に基づく第2輝線列が含まれており、両者は並んでいる。前述した、輝線列における輝線の間隔の比を使って、表裏面間導波光の輝線列を分離する方法を説明する。
【0110】
まず、図2の輝線列の全ての輝線に左から順に番号を付け輝線番号とする。そして、測定された輝線の位置である、この画像の一番左からの撮像素子上の距離である位置、輝線の間隔Dk-(k-1)、輝線の間隔の比RMを計算し、表2に示す。
【0111】
【表2】
【0112】
前述したように、表裏面間導波光は、表1のように次数で輝線の間隔の比が決まっているので、この理論的な輝線の間隔の比と、表2の実際の測定値を見比べると、輝線番号6が、表裏面間導波光のモード3であることが分かる。
【0113】
より客観的な方法では、例えば、ある輝線番号を表裏面間導波光のモード1と仮定し、仮定したモード1の輝線番号で、モード3以降全てで、測定したRMと表1のRMの理論値との差の二乗を平均する。これを、すべての輝線番号で表裏面間導波光モード1と仮定した場合で計算し、差の二乗の平均値が一番小さい場合が、輝線番号がモード1であると判断できる。表裏面間導波光のモード1の位置が確定すれば、それより左の輝線列は、表面層導波光に基づく第1輝線列であることがわかる。
【0114】
また、モード0とモード1との間隔D1-0は、モード1とモード2との間隔D2-1の1/8であることを利用し、D2-1からモード0の位置を特定することができる。
【0115】
例えば、表2の場合、輝線番号4がモード1、輝線番号5がモード2となる。また、表2より、輝線番号4のモード1と輝線番号5のモード2との間隔は0.076mmであるから、0.076÷8=0.0095mmだけ、輝線番号4よりずれた点である4.3255mmが仮想のモード0となる。
【0116】
このように、表裏面間導波光に基づく第2輝線列の性質を利用して、境界位置であるモード0の位置を把握することができる。ここでいう表裏面間導波光に基づく第2輝線列の性質は、第2輝線列の輝線間隔が近似的にモードkの1次関数であることである。そして、境界位置であるモード0の位置を把握できれば、境界位置よりも入射する光の入射角の大きい側が第1輝線列であると判定し、全輝線列から、第1輝線列を分離することができる。
【0117】
(境界位置とCT値の計算)
図11は、厚さの厚い強化ガラスの輝線列を撮影した写真である。図11において、矢印に示す境界位置は、輝度が急激に変化している位置であり、これは図3に示す強化ガラス200の厚さの1/2の深さにおける屈折率と、光供給部材20及び光取出し部材30の屈折率とで決まる臨界角で生じるものである。
【0118】
境界位置は、強化ガラスのように深さにより屈折率が変わる場合、一番低い屈折率で決まり、通常それは強化ガラスの厚さの1/2の深さであるガラス中心である。また、逆に考えると、境界位置はガラス中心の屈折率を反映していることになる。通常、強化ガラスの中の一番低い屈折率は、強化ガラスが強化される前の元のバルクの屈折率でもある。すなわち、強化ガラスの境界位置の屈折率は、強化される前の強化ガラス(未強化のガラス)の屈折率である。
【0119】
そこで、強化ガラスの測定装置1を用い、未強化のガラスを測定して、未強化のガラスの屈折率に依存する境界位置を把握することができる。すなわち、未強化のガラスは、屈折率分布を有していないので、強化ガラスの測定装置1を用いて測定しても輝線列は現れないが、未強化のガラスの屈折率に依存する境界位置は、輝度が急激に変化する位置として把握することができる。
【0120】
未強化のガラスの屈折率に依存する境界位置を情報として記憶しておくことで、強化ガラスを測定する際に、あらかじめ記憶された境界位置の情報を利用することができる。すなわち、強化ガラスを測定する際に、あらかじめ記憶された境界位置よりも入射する光の入射角の大きい側が表面層導波光に基づく第1輝線列であると判定することができる。なお、この場合、未強化のガラスと強化ガラスは、強化ガラスの測定装置1における光学的な位置関係を変更しない状態で測定する必要がある。
【0121】
一方、図8において、図11の境界位置に相当する光線の軌跡は、破線で示す軌跡2である。この境界位置での光線の軌跡は、仮想で、実際には存在しないが、ガラス中心をガラス面に平行に進む光であり、また、表裏面間導波光の仮想のモード0の光線軌跡とも一致する。
【0122】
超薄の強化ガラスでは、表裏面間導波光に基づく第2輝線列が発生するために、全輝線列中に境界位置が明確に表れないが、前述したように表裏面間導波光に基づく第2輝線列より、境界位置である仮想のモード0の位置を特定することができる。
【0123】
そして、表裏面間導波光のモード0の輝線位置、すなわち表面層導波光の境界位置は、ガラス中心の屈折率を示す。ガラス中心に応力があると、光弾性効果によりP偏光及びS偏光の夫々の仮想のモード0の輝線位置に差が発生する。そのため、P偏光及びS偏光での表裏面間導波光のモード0の位置差から屈折率差を求め、光弾性定数を用いガラス中心の応力であるCTを直接求めることができる。
【0124】
(ガラス厚さの算出)
表裏面間導波光に基づく第2輝線列に基づいて、強化ガラス200の厚さdを算出することができる。すなわち、次数と輝線間隔が測定されると、式(12)において、波長λ、屈折率n、n(cosΨはn、nから算出)は既知であるので、強化ガラス200の厚さdを算出することができる。ここで算出した強化ガラス200の厚さdは、屈折率分布や応力分布の算出に使用されてもよい。
【0125】
(表面層導波光に基づく第1輝線列からの屈折率分布及び応力分布を算出する方法)
すでに説明したように、全輝線列より、表面層導波光に基づく第1輝線列が分離できれば、この表面層導波光に基づく第1輝線列の位置より、近似的な解析や数値的な解析を行い、屈折率分布を算出することができる。さらに、算出したP偏光及びS偏光の夫々の屈折率分布の差と、強化ガラス200の光弾性定数とに基づいて、強化ガラス200の表面層における表面から深さ方向にわたる応力分布を算出することができる。
【0126】
また、この応力分布に、表裏面間導波光に基づく第2輝線列より求めたガラス中心の応力値を加え、ガラス厚さ全域での応力分布を算出することができる。ただし、算出される屈折率分布あるいは応力分布のデータ数は、輝線の本数分であり離散的である。そのため、夫々の点の間を直線近似したり、複数の点を使って近似曲線を算出したりすることで、任意の位置において応力分布を得ることができる。その近似曲線は2次関数や3次関数などのほか、拡散現象での分布を表す誤差関数などが使われる。
【0127】
(浸液)
強化ガラスの測定装置1において、屈折率分布及び応力分布の算出には、正確な輝線位置の測定が求められる。そのためには、光供給部材20及び光取出し部材30と強化ガラス200とが安定に光学的な接触をする必要があり、光供給部材20及び光取出し部材30と強化ガラス200との間に、液体又はジェルを充填することもある。
【0128】
特に超薄の強化ガラス200は、可撓性が高いため自重で曲がり、光供給部材20及び光取出し部材30との密着性が悪くなる。しかし、光供給部材20及び光取出し部材30と強化ガラス200との間に液体又はジェルを充填することにより、液体又はジェルの表面張力で、光供給部材20及び光取出し部材30と強化ガラス200との密着性が高くなり、安定に光学的な接触をすることができる。
【0129】
また、この液体又はジェルの屈折率は、光供給部材20及び光取出し部材30の屈折率と強化ガラス200の屈折率との間の屈折率で、かつ、できるだけ光供給部材20及び光取出し部材30の屈折率に近い屈折率か、あるいは、強化ガラス200の屈折率とほぼ同じ屈折率が望ましい。充填する液体又はジェルの屈折率が強化ガラス200の屈折率とほぼ同じ場合、充填する液又はジェルの屈折率は、強化ガラス200の屈折率±0.02以内であることが望ましく、強化ガラス200の屈折率±0.01以内であることがより望ましい。
【0130】
光供給部材20及び光取出し部材30を一体構造の光学プリズムとした場合で、充填する液体の屈折率が強化ガラス200の屈折率とほぼ同じ場合には、強化ガラス200内で導波光が発生する際の、光学プリズム側の反射する面が、強化ガラス200と液体の屈折率がほぼ同じとなる。これにより、光学的な境がなくなり、光は、強化ガラス200の表面ではなく、一体構造の光供給部材20及び光取出し部材30の面で反射することになる。その結果、強化ガラス200の表面が多少荒れていても、コントラストの強い、シャープな輝線画像が得られ、正確に輝線位置を測定することができる。
【0131】
(測定のフロー)
次に、図12及び図13等を参照しながら測定のフローについて説明する。図12は、本実施形態に係る測定方法を例示するフローチャートである。図13は、強化ガラスの測定装置1の演算部70の機能ブロックを例示する図である。
【0132】
まず、ステップS401(光供給工程)では、光源10からの光を、光供給部材20を介して、強化ガラス200の少なくとも圧縮応力層を有する表面層内、及び表面層内より深い部分に入射させる。
【0133】
次に、ステップS402(光取出し工程)では、強化ガラス200の表面層内を伝播した表面層導波光、及び、表面層内を抜け出た光が強化ガラス200の表面と裏面との間で伝搬する表裏面間導波光を、光取出し部材30を介して、強化ガラス200の外へ出射させる。
【0134】
次に、ステップS403(光変換工程)では、光変換部材40は、強化ガラス200の外へ出射した光に含まれる、強化ガラス200と光取出し部材30との境界面に対して平行及び垂直に振動する二種の光成分(P偏光とS偏光)を、表面層導波光に基づく第1輝線列と、表裏面間導波光に基づく第2輝線列とを含む二種の輝線列に変換する。
【0135】
次に、ステップS404(撮像工程)では、撮像素子60は、光変換工程により変換された二種の輝線列を撮像する。
【0136】
次に、ステップS405(位置測定工程)では、演算部70の位置測定部71は、撮像工程で得られた画像から二種の輝線列の夫々の輝線の位置を測定する。
【0137】
次に、ステップS406(分離工程)では、演算部70の分離部72は、位置測定工程で得られた全輝線列を、表面層導波光に基づく第1輝線列と、表裏面間導波光に基づく第2輝線列とを分離する。
【0138】
次に、ステップS407(算出工程)では、演算部70の算出部73は、位置測定工程及び分離工程で得られた測定結果に基づいて、二種の光成分に対応した強化ガラス200の表面の屈折率、強化ガラス200の中心の屈折率、及び強化ガラス200の表面から深さ方向の屈折率分布、の少なくとも1つを算出する。
【0139】
演算部70の算出部73は、さらに、二種の光成分に対応した屈折率分布の差と、強化ガラス200の光弾性定数とに基づいて、強化ガラス200の表面から深さ方向の応力分布を算出してもよい。
【0140】
また、屈折率分布のプロファイルと応力分布のプロファイルとは類似しているので、ステップS407で、算出部73は、P偏光及びS偏光に対応した屈折率分布のうち、P偏光に対応した屈折率分布、S偏光に対応した屈折率分布、P偏光に対応した屈折率分布とS偏光に対応した屈折率分布との平均値の屈折率分布、の何れかを応力分布として算出してもよい。
【0141】
さらに、演算部70は、図13の構成に加えて、表裏面間導波光に基づく第2輝線列からCT値を算出するCT値算出部や、屈折率分布や応力分布からDOL値を算出するDOL値算出部等を備えていてもよい。
【0142】
以上のように、本実施形態に係る強化ガラスの測定装置及び強化ガラスの測定方法によれば、全輝線列から、表面層導波光に基づく第1輝線列と、表裏面間導波光に基づく第2輝線列を分離し、二種の光成分に対応した表面層導波光に基づく第1輝線列から、強化ガラスの表面から深さ方向の屈折率分布を算出することができる。又、二種の光成分の屈折率分布の差とガラスの光弾性定数とに基づいて、強化ガラスの表面から深さ方向の応力分布を算出することができる。さらに、表裏面間導波光に基づく第2輝線列からガラス中心の応力値を算出することができる。すなわち、厚さ200μm以下の超薄の強化ガラスの屈折率分布等を非破壊で精度よく測定可能である。
【0143】
〈第2実施形態〉
第2実施形態では、強化ガラスが、光供給部材、および光取出し部材である、プリズム面に安定して密着するための部材を備えた例を示す。なお、第2実施形態において、既に説明した実施の形態と同一構成部についての説明は省略する場合がある。
【0144】
図14は、第2実施形態に係る強化ガラスの測定装置を例示する図である。図14に示すように、強化ガラスの測定装置2は、光供給部材と光取出し部材を兼用した一体構造部材である光学プリズム23と、固定部材25a及び25bとを有している。被測定体となる強化ガラス200は、光学プリズム23の1面23aに接している。固定部材25a及び25bは、光学プリズム23の周囲において、光学プリズム23と離隔した位置に設けられている。
【0145】
固定部材25a及び25bの強化ガラス200と接する面は、光学プリズム23の強化ガラス200と接触する1面23aと高さが同じであり、かつ平行に設置されている。固定部材25a及び25bの材料としては、金属、ガラス、樹脂などを用いることが好ましい。
【0146】
超薄の強化ガラス200は、可撓性が高いため、光学プリズム23の1面23aより強化ガラス200の大きさが大きい場合、強化ガラス200の自重により反ってしまう。そのため、何ら対策を施さないと、強化ガラス200は、光学プリズム23の1面23aに平行に密着できなく、間隙が発生してしまい、光学プリズム23からの光の入射、あるいは取出しが十分できなくなる場合がある。
【0147】
しかし、強化ガラスの測定装置2では、光学プリズム23の周囲に、光学プリズム23の強化ガラス200と接する1面23aと平行かつ同じ高さの面を備えた固定部材25a及び25bが設けられている。つまり、強化ガラスの測定装置2では、固定部材25a及び25bを設け、強化ガラス200の光学プリズム23と接する領域よりも周囲の領域を固定部材25a及び25bで支持している。そのため、強化ガラス200が自重により反ることなく、光学プリズム23の1面23aに安定に密着し、光学的に接触させることができる。
【0148】
なお、光学プリズム23と強化ガラス200の間に、液体やジェルを充填させても良い。この場合、さらに安定に光学的な接触をすることができる。
【0149】
〈第2実施形態の変形例〉
図15は、第2実施形態の変形例に係る強化ガラスの測定装置を例示する図である。図15に示すように、強化ガラスの測定装置3は、光供給部材と光取出し部材を兼用した一体構造部材である光学プリズム24を有している。被測定体となる強化ガラス200は、光学プリズム24の1面24aに接している。
【0150】
光学プリズム24は、光を供給する幅Sの領域の周囲に、幅Qの固定部材26a及び26bを備えている。つまり、光学プリズム24の強化ガラス200と接する1面24aは、光を供給または取出す領域より広い。固定部材26a及び26bは、図14の固定部材25a及び25bと同様の機能を有する。これにより、強化ガラス200が自重により反ることなく、光学プリズム24の1面24aに安定に密着し、光学的に接触させることができる。
【0151】
光学プリズム24は、例えば、光を供給する幅Sの領域と、固定部材26a及び26bとが一体に形成されたものであってもよい。あるいは、光学プリズム24は、図14に示す光学プリズム23のような三角形の光学プリズムに、固定部材26a及び26bとなる同じ屈折率の薄い光学ガラス板を張り付けて形成してもよい。
【0152】
なお、光学プリズム24と強化ガラス200の間に、液体やジェルを充填させても良い。この場合、さらに安定に光学的な接触をすることができる。
【0153】
〈第3実施形態〉
第3実施形態では、第2の実施形態と同様に、強化ガラスが、光供給部材、および光取出し部材である、光学プリズムの1面に安定して密着するための部材を備えた例を示す。なお、第3実施形態において、既に説明した実施の形態と同一構成部についての説明は省略する場合がある。
【0154】
図16は、第3実施形態に係る強化ガラスの測定装置を例示する図(その1)である。図16に示すように、強化ガラスの測定装置4は、光供給部材と光取出し部材を兼用した光学プリズム23と、固定部材80とを有している。
【0155】
固定部材80は、下面80aが平坦な面であり、吸着などにより超薄の強化ガラス200を下面80aに密着させている。そのため、強化ガラス200が自重により反ることなく、光学プリズム23の1面23aに安定に密着し、光学的に接触させることができる。
【0156】
なお、光学プリズム23と強化ガラス200の間に、液体やジェルを充填させても良い。この場合、さらに安定に光学的な接触をすることができる。
【0157】
また、図17に示す強化ガラスの測定装置5のように、上面81aが平坦な面である固定部材81を用い、固定部材81の上面81aに強化ガラス200を乗せ、その上に光学プリズム23を乗せてもよい。このような形態でも、強化ガラス200が自重により反ることなく、光学プリズム23の1面23aに安定に密着し、光学的に接触させることができる。
【0158】
なお、光学プリズム23と強化ガラス200の間に、液体やジェルを充填させても良い。この場合、さらに安定に光学的な接触をすることができる。
【0159】
〈第4実施形態〉
第4実施形態では、複数の波長の光源を使い、より精度の高い屈折率分布等を測定できる強化ガラスの測定装置の例を示す。なお、第4実施形態において、既に説明した実施の形態と同一構成部についての説明は省略する場合がある。
【0160】
図18は、第4実施形態に係る強化ガラスの測定装置を例示する図である。図18に示すように、強化ガラスの測定装置6は、光源10A及び10Bと、光導入部材15とを有している。
【0161】
光源10A及び10Bは、複数の異なる波長の光を出射する機能を備えた光源である。具体的には、光源10A及び10Bは、互いに波長の異なる光源であり、光導入部材15により、光源10A及び10Bの何れの光源からの光も、光供給部材20を介して強化ガラス200の表面層に光線Lとして入射するように配置されている。干渉を利用するため、光源10A及び10Bの波長は、夫々、単純な明暗表示になる単波長であることが好ましい。
【0162】
光導入部材15としては、例えば、ハーフミラーやダイクロイックミラーを用いることができる。光導入部材15としてダイクロイックミラーを用いた場合は、透過効率或いは反射効率を高くできる。
【0163】
光源10A及び10Bは、電気的方法により、何れか一方のみが点灯するように制御されている。又、機械的なシャッター等を用いて、光源10A及び10Bの何れか一方の光のみを透過させても良い。光源10A及び10Bからの光を同じ光軸で、光供給部材20に照射し、かつ切り替えられることが可能であれば、光源10Aと光源10Bの位置を機的に移動させる等のように、他の方法を用いても良い。
【0164】
光源10A及び10Bを用い、互いに異なる複数の波長の光を強化ガラス200に順次入射させることで、算出工程では、夫々の波長での輝線列の位置に基づいて、強化ガラス200の表面の屈折率、強化ガラス200の中心の屈折率、及び強化ガラス200の表面から深さ方向の屈折率分布、の少なくとも1つを算出することができる。
【0165】
輝線の位置や輝線の間隔は光源の波長に依存し、波長が異なると輝線の位置や間隔も異なる。輝線の位置は、その輝線の位置に対応した屈折率とその深さを反映したものであり、輝線の数が多いほど、深さと屈折率のデータ数が増え、屈折率分布、応力分布の測定精度が増す。しかし、超薄の強化ガラスでは、強化層の深さをあまり深くできず、生じる輝線の数も少ないが、この複数の波長の光源を使い、異なる波長での輝線列を測定することで、実質的に輝線数を増やし、精度の高い屈折率分布や応力分布を測定することが可能となる。
【0166】
光源10A及び10Bの一方の波長は、他方の波長の1.5~2.5倍であることが好ましい。例えば、光源10AをHgランプの波長である365nmとした場合、光源10BはNaランプの波長である589nmとすることが可能である。光源10A及び10Bの一方の波長を他方の波長の1.5~2.5倍に設定することで、2つの波長の輝線列の内、片方の波長の輝線列の中間あたりに片方の波長の輝線列が入り、無駄なく多くの深さにおいて屈折率のデータが得られる。
【0167】
〈第5実施形態〉
第5実施形態では、分割偏光板を備えた強化ガラスの測定装置の例を示す。なお、第5実施形態において、既に説明した実施の形態と同一構成部についての説明は省略する場合がある。
【0168】
図19は、第5実施形態に係る強化ガラスの測定装置を例示する図である。図19に示すように、強化ガラスの測定装置7は、偏光部材50に代えて、分割偏光板90が撮像素子60の入射側に接して配置されている点が、強化ガラスの測定装置1(図3参照)と相違する。
【0169】
図20は、分割偏光板90を入射側から見た状態を例示する図である。図20に示すように、分割偏光板90は、光源10からの光を二種の光成分に分離する。分割偏光板90は、例えば、撮像素子60の撮像エリアに対応する領域91及び92の2つの領域を有する板状部材である。領域91は二種の光成分(P偏光又はS偏光)のうち一方を透過させる領域であり、領域92は他方を透過させる領域である。
【0170】
図21は、強化ガラスの測定装置7で得られた輝線列の画像の例である。図21の上側はP偏光の輝線の像、図21の下側はS偏光の輝線の像である。図21に示す画像からP偏光及びS偏光の輝線の位置を測定することができる。
【0171】
強化ガラスの測定装置7は、強化ガラスの測定装置1(図3参照)と異なり、偏光部材50を回転させる機構を備えていないため、装置構造を簡素化することができる。又、強化ガラスの測定装置1(図3参照)と異なり、偏光部材50を回転させて2回に分けて輝線の画像を撮像する必要がないため、測定時間を短縮することができる。
【0172】
以上、好ましい実施形態及び変形例について詳説したが、上述した実施形態及び変形例に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施形態及び変形例に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0173】
例えば、上記の各実施形態では、光源を強化ガラスの測定装置の構成要素として説明したが、強化ガラスの測定装置は光源を有していない構成としてもよい。この場合、強化ガラスの測定装置は、例えば、光供給部材20と、光取出し部材30と、光変換部材40と、偏光部材50と、撮像素子60と、演算部70とを有する構成とすることができる。光源は、強化ガラスの測定装置の使用者が適宜なものを用意して使用することができる。
【0174】
また、本発明の説明で、被測定体である、超薄の強化ガラスの厚さを200μm以下としているが、表裏面間導波光に基づく第2輝線列の発生する要因は、厚さ以外に、ガラスの屈折率、ガラスの表裏面の平坦度、平行性などもかかわり、厚さが200μm以上でも発生することがあり、そのような厚さの強化ガラスにおいても本発明は有効である。
【0175】
又、上記の各実施形態及び変形例は、適宜組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0176】
1,2,3,4,5,6,7 強化ガラスの測定装置
10,10A,10B 光源
15 光導入部材
20 光供給部材
23,24 光学プリズム
23a,24a 1面
25a,25b,26a,26b,80,81 固定部材
30 光取出し部材
40 光変換部材
50 偏光部材
60 撮像素子
70 演算部
71 位置測定部
72 分離部
73 算出部
80a 下面
81a 上面
90 分割偏光板
91、92 領域
200 強化ガラス
210 強化ガラスの表面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図15
図16
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図18
図19
図20
図21