(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024021422
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】アルミニウム製フィン材
(51)【国際特許分類】
F28F 1/12 20060101AFI20240208BHJP
F28F 1/32 20060101ALI20240208BHJP
F28F 13/18 20060101ALI20240208BHJP
F28F 17/00 20060101ALI20240208BHJP
F28F 19/02 20060101ALI20240208BHJP
C09D 133/26 20060101ALI20240208BHJP
C09K 3/18 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
F28F1/12 G
F28F1/32 H
F28F13/18 B
F28F17/00 501A
F28F19/02 501C
C09D133/26
C09K3/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022124238
(22)【出願日】2022-08-03
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】安藤 鷹
(72)【発明者】
【氏名】竹中 真
(72)【発明者】
【氏名】館山 慶太
(72)【発明者】
【氏名】小島 徹也
【テーマコード(参考)】
4H020
4J038
【Fターム(参考)】
4H020AB01
4H020BA02
4J038AA011
4J038CG171
4J038HA441
4J038MA10
4J038NA03
4J038NA06
4J038PA07
4J038PB06
4J038PC02
(57)【要約】
【課題】着氷霜の抑制効果に優れつつ、表面の親水性の経時安定性が良好であるアルミニウム製フィン材を提供する。
【解決手段】アルミニウム板と前記アルミニウム板の少なくとも一方の表面上に、着氷霜抑制皮膜層及び親水性皮膜層をこの順に備え、前記着氷霜抑制皮膜層は、両性(メタ)アクリルアミド系樹脂を含み、前記親水性皮膜層は、親水性無機粒子を含む、アルミニウム製フィン材。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム板と前記アルミニウム板の少なくとも一方の表面上に、着氷霜抑制皮膜層及び親水性皮膜層をこの順に備え、
前記着氷霜抑制皮膜層は、両性(メタ)アクリルアミド系樹脂を含み、
前記親水性皮膜層は、親水性無機粒子を含む、アルミニウム製フィン材。
【請求項2】
前記親水性皮膜層が、ポリエチレングリコール及びポリエチレングリコール変性体の少なくとも一方をさらに含む、請求項1に記載のアルミニウム製フィン材。
【請求項3】
前記両性(メタ)アクリルアミド系樹脂が、両性アクリルアミド系樹脂である、請求項1又は2に記載のアルミニウム製フィン材。
【請求項4】
前記親水性皮膜層は、皮膜量が0.01~1.0g/m2である、請求項1又は2に記載のアルミニウム製フィン材。
【請求項5】
前記親水性無機粒子が、親水性シリカ粒子である、請求項1又は2に記載のアルミニウム製フィン材。
【請求項6】
前記アルミニウム板と前記着氷霜抑制皮膜層との間に、耐食性皮膜層をさらに備える、請求項1又は2に記載のアルミニウム製フィン材。
【請求項7】
前記アルミニウム板と前記着氷霜抑制皮膜層との間に、下地処理層をさらに備える、請求項1又は2に記載のアルミニウム製フィン材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム製フィン材に関し、特に、空調機等の熱交換器に好適に用いられるアルミニウム製フィン材に関する。
【背景技術】
【0002】
熱交換器は、ルームエアコン、パッケージエアコン、冷凍ショーケース、冷蔵庫、オイルクーラ、ラジエータなどの様々な分野の製品に用いられている。熱交換器のフィンの材料としては、熱伝導性、加工性、耐食性などに優れるアルミニウムやアルミニウム合金が一般的である。プレートフィン式やプレートアンドチューブ式の熱交換器は、フィン材が狭い間隔で並列した構造を有している。
【0003】
熱交換器のフィン材は、表面温度が露点以下になると結露水が付着した状態になる。フィン材の表面の親水性が低い場合には、付着した結露水の接触角が大きくなるため、水飛びと呼ばれる生活環境中における飛散が生ずる。また、かかる結露水が合わさって大きくなると、隣接するフィン材間にブリッジを形成し、フィン材間の通風路を閉塞し、通風抵抗が増大する。
このような水飛びの防止や通風抵抗の低減を目的として、例えば特許文献1には、フィン材の表面に親水性表面処理剤を塗布し、親水性皮膜を形成する技術が提案されている。
【0004】
一方で、空調機を暖房運転した場合等には、熱交換器の表面温度が氷点以下となり、フィン材の表面に付着した結露水は霜や氷となり、着氷霜状態となる。フィン材表面の親水性を高め過ぎると、上記着氷霜がかえって生じやすくなる。着氷霜により、フィン材間が閉塞されると熱交換器の熱交換効率が大幅に低下するため、除霜運転等が必要となる。
【0005】
そこでフィン材への着氷霜を抑制するための技術が種々検討されている。例えば特許文献2では、空気側伝熱面表面に臨界表面張力が20dyn/cm以下のフルオロアルコキシシランを化学吸着させて、最表面にCF3基を配向させた構造を有する撥水性被膜を形成することで、着霜を防止することが開示されている。また、特許文献3には、表面に撥水性被膜を形成すると共に、その表面平均粗さRaを20μm以上とすることで、部材表面に接触する水滴、雪、氷の面積を小さくし、その付着力を減少させることが開示されている。
【0006】
しかしながら、上記では、経時変化に伴う撥水性の劣化や、表面平均粗さRaを大きくした場合の撥水性被膜の強度低下による耐久性の低下が懸念される。
そこで、特許文献4では、特定の伝熱部を備える熱交換器が開示されている。この伝熱部とは、第一層と第一層よりも空気側に位置する第二層を有し、上記第二層が複数のポリマー鎖を有するポリマー層から構成されている。隣り合う上記ポリマー鎖における主鎖の第一層側の根本は、金属酸化物のネットワーク構造を有して相互に結合されている。これにより、第二層のポリマー鎖を第一層に対して垂直方向に高密度に結合させることができるので、伝熱部の表面の親水性を確実に向上できる。そのため、伝熱部の表面で凝縮水が発生した場合においても、霜が成長することを十分に遅延させることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第2520308号公報
【特許文献2】特開平10-281690号公報
【特許文献3】特開平9-228073号公報
【特許文献4】特開2019-158247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献4では、熱交換器について、具体的な着氷霜抑制に関する検討はなされていない。また、親水性が向上すれば着氷霜の抑制も向上するとは必ずしも言えず、着氷霜の抑制に関して別途試験することが必要である。
【0009】
これに対し、本発明らは、正の電荷を帯びるカチオン性基と、負の電荷を帯びるアニオン性基とを共に有する両性ポリマーを有する着氷霜抑制皮膜層を備えることで、アルミニウム製フィン材の着氷霜が効果的に抑制されることを見出した。
しかしながら、さらなる検討により、アルミニウム製フィン材の表面における親水性が、初期は良好であるものの、経時的に低下することが分かった。親水性の低下により、発生した結露水が隣接するフィン材間にブリッジを形成し、熱交換性能が低下する。また、上記結露水が表面に留まると凍結の原因となる。
【0010】
そこで本発明は、着氷霜の抑制効果に優れつつ、表面の親水性の経時安定性が良好であるアルミニウム製フィン材の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下の[1]~[7]に係るものである。
[1] アルミニウム板と前記アルミニウム板の少なくとも一方の表面上に、着氷霜抑制皮膜層及び親水性皮膜層をこの順に備え、前記着氷霜抑制皮膜層は、両性(メタ)アクリルアミド系樹脂を含み、前記親水性皮膜層は、親水性無機粒子を含む、アルミニウム製フィン材。
[2] 前記親水性皮膜層が、ポリエチレングリコール及びポリエチレングリコール変性体の少なくとも一方をさらに含む、前記[1]に記載のアルミニウム製フィン材。
[3] 前記両性(メタ)アクリルアミド系樹脂が、両性アクリルアミド系樹脂である、前記[1]又は[2]に記載のアルミニウム製フィン材。
[4] 前記親水性皮膜層は、皮膜量が0.01~1.0g/m2である、前記[1]又は[2]に記載のアルミニウム製フィン材。
[5] 前記親水性無機粒子が、親水性シリカ粒子である、前記[1]又は[2]に記載のアルミニウム製フィン材。
[6] 前記アルミニウム板と前記着氷霜抑制皮膜層との間に、耐食性皮膜層をさらに備える、前記[1]又は[2]に記載のアルミニウム製フィン材。
[7] 前記アルミニウム板と前記着氷霜抑制皮膜層との間に、下地処理層をさらに備える、前記[1]又は[2]に記載のアルミニウム製フィン材。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、フィン材表面に付着した結露水と着氷霜抑制皮膜層との相互作用により、氷核形成を抑制できる。その結果、結露水の凍結が遅延し、表面における着氷霜が好適に抑制されたアルミニウム製フィン材を提供できる。また、フィン材表面の良好な親水性を長期間にわたり維持できる。そのため、上記結露水によるブリッジの形成を防ぎ、熱交換性能の低下や凍結を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、アルミニウム製フィン材の構成の一態様を示す模式断面図である。
【
図2】
図2は、アルミニウム製フィン材の構成の一態様を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係るアルミニウム製フィン材及び着氷霜抑制剤を実施するための形態について、詳細に説明する。なお数値範囲を示す「~」とは、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0015】
<アルミニウム製フィン材>
本実施形態に係るアルミニウム製フィン材10(以下、単に「フィン材」と称することがある。)は、
図1に示すように、アルミニウム板1と、アルミニウム板1の少なくとも一方の表面上に形成された着氷霜抑制皮膜層2及び親水性皮膜層3をこの順に備える。
着氷霜抑制皮膜層2は両性(メタ)アクリルアミド系樹脂を含み、親水性皮膜層3は親水性無機粒子を含む。
【0016】
アルミニウム製フィン材10は、他の層をさらに備えていてもよく、例えば、下地処理層4や耐食性皮膜層5が挙げられる。これらの層をすべて備える場合には、アルミニウム板1と着氷霜抑制皮膜層2との間に、下地処理層4や耐食性皮膜層5を備えることが好ましく、この場合、
図2に示すように、アルミニウム板1側から順に、下地処理層4、耐食性皮膜層5、着氷霜抑制皮膜層2及び親水性皮膜層3の順で備えることが好ましい。ただし、最表層は親水性皮膜層3が好ましい。また、本発明の効果を損なわない範囲において、他の機能を有する他の層をさらに備えていてもよい。
【0017】
図1や
図2では、着氷霜抑制皮膜層2の表面上に親水性皮膜層3が直接設けられているが、これら層の間に他の層をさらに備えていてもよい。部分的に露出される着氷霜抑制皮膜層2による着氷霜抑制効果と、その上層の大部分を被覆することで得られる高い親水持続性を両立するために、着氷霜抑制皮膜層2の上に親水性皮膜層3が直接設けられていることが好ましい。
【0018】
図1や
図2では、親水性皮膜層3は、アルミニウム製フィン材10の最表面に位置しているが、親水性皮膜層3の表面上にさらに他の層を備えていてもよい。初期状態における高い親水性を発現するためには、親水性皮膜層3が最表面に位置していることが好ましい。
【0019】
なお、アルミニウム板1の少なくとも一方の面が上記構成であればよく、アルミニウム板1の両面が上記構成であってもよい。また、アルミニウム板1の両面が上記構成である場合、両面は同じ態様である必要はない。
【0020】
(着氷霜抑制皮膜層)
着氷霜抑制皮膜層2は、両性(メタ)アクリルアミド系樹脂を含む。両性(メタ)アクリルアミド系樹脂とは、両性メタクリルアミド系樹脂及び両性アクリルアミド系樹脂の少なくとも一方の樹脂を意味する。
両性とは、(メタ)アクリルアミドのアミノ基が正の電荷を帯びるカチオン性基と、アミノ基にアニオン基を導入して負の電荷を帯びるアニオン性基とから構成される。
一分子中にアニオン性基とカチオン性基とを有する両性(メタ)アクリルアミド系樹脂を用いることにより、アニオン性化合物とカチオン性化合物との混合物に比べて、沈殿せず、溶液安定性の観点から好ましい。
【0021】
着氷霜抑制皮膜層を設けることにより、フィン材表面に付着した水は、着氷霜抑制皮膜層との相互作用により、水の氷核形成が抑制され、水の凍結が遅れる。その結果、霜の発生を抑制できる。
【0022】
着氷霜抑制皮膜層は、例えば両性(メタ)アクリルアミド系樹脂を含有する塗料組成物をアルミニウム板上、下地処理層上、又は耐食性皮膜層上に塗布、乾燥等により固化することで形成できる。
【0023】
着氷霜抑制皮膜層に含まれる両性(メタ)アクリルアミド系樹脂は、分子中にカチオン性基とアニオン性基とを有する両性高分子である。両性(メタ)アクリルアミド系樹脂は、1種のみを用いても、2種以上を用いてもよい。
【0024】
両性(メタ)アクリルアミド系樹脂のカチオン性基における極性基部分は、-NR3
+で表され、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、又は4級アンモニウム塩類の構造を挙げることができる。なお、Rは水素原子、炭素数1~5の直鎖状又は分岐状のアルキル基、塩等が挙げられる。
【0025】
両性(メタ)アクリルアミド系樹脂のアニオン性基における極性基部分は、不飽和モノカルボン酸、不飽和ジカルボン酸、不飽和トリカルボン酸、不飽和テトラカルボン酸、不飽和スルホン酸、不飽和ホスホン酸およびそれらの塩類等が挙げられる。
【0026】
着氷霜抑制皮膜層は、両性(メタ)アクリルアミド系樹脂に加えて、架橋剤をさらに含有することが、親水性を高める点から好ましい。
架橋剤は従来公知のものを使用できるが、例えば、オキサゾリン基、オキシラニル基(1,2-エポキシ構造)、オキセタニル基(1,3-エポキシ構造)、イソシアネート基、ブロックされたイソシアネート基等を含む架橋剤が挙げられる。中でも、オキサゾリン基、オキシラニル基がより好ましい。架橋剤を含有することによる十分な親水性が得られる場合には、フィン材において別途親水性皮膜層を設けることなく、着氷霜抑制皮膜層が親水性皮膜層の役割も兼ねることができる。
【0027】
着氷霜抑制皮膜層は、両性(メタ)アクリルアミド系樹脂に加えて、界面活性剤をさらに含有することも、親水性を高める点から好ましい。界面活性剤を含有することにより、親水性皮膜層による加工性と、親水性とをより好ましく両立できる。これは、界面活性剤の表出作用によるものだと考えられる。
【0028】
界面活性剤はアニオン型、カチオン型、ノニオン型のいずれも適用可能であり、両性界面活性剤も適用可能である。
【0029】
アニオン型界面活性剤としては、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸エタノールアミン、ラウリル硫酸アンモニウム等のアルキル硫酸エステル塩;ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテルレ裕さんナトリウム等のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩;アルキルベンゼンスルホン酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム、アルキルジフェニルエーテルジスルフォン酸ナトリウム、アルカンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩及びその他のスルホン酸塩;ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウム等の反応性界面活性剤;ステアリン酸ソーダ石けん、オレイン酸カリ石けん等の脂肪酸塩;ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸カリウム、アルケニルコハク酸ジカリウム等のその他のアニオン性界面活性剤等が挙げられる。
【0030】
ノニオン型界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル;ポリオキシエチレンアルキレンアルキルエーテル等のポリオキシアルキレン誘導体、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル等の反応性界面活性剤;ソルビタンモノラウレート等のソルビタン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル;テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット等のポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル;グリセロールモノステアレート等のグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルあるかノールアミド等が挙げられる。
【0031】
カチオン型界面活性剤としては、例えば、ステアリルアミンアセテート等のアルキルアミン塩;ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド等の第四級アンモニウム塩等が挙げられる。
【0032】
両性界面活性剤としては、例えば、カルボキシベタイン類、アミノカルボン酸類、スルホベタイン類、アミノ硫酸エステル類、イミタゾリン類が挙げられる。
【0033】
着氷霜抑制皮膜層における両性(メタ)アクリルアミド系樹脂の含有量は、固形分構成比で、80質量%以上が好ましく、85質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。また、上記含有量の上限は特に限定されず、固形分構成比で100質量%、すなわち両性(メタ)アクリルアミド系樹脂のみからなってもよい。
【0034】
着氷霜抑制皮膜層が架橋剤を有する場合、両性(メタ)アクリルアミド系樹脂100質量部に対する架橋剤の含有量は、固形分構成比で1質量部以上が好ましく、3質量部以上がより好ましく、また、10質量部以下が好ましく、8質量部以下がより好ましい。
【0035】
着氷霜抑制皮膜層が界面活性剤を有する場合、両性(メタ)アクリルアミド系樹脂100質量部に対する界面活性剤の含有量は、固形分構成比で0.1質量部以上が好ましく、0.5質量部以上がより好ましく、また、2質量部以下が好ましく、1.5質量部以下がより好ましい。
【0036】
着氷霜抑制皮膜層の皮膜量は、十分な着氷霜抑制効果を得る観点から0.01g/m2以上が好ましく、0.1g/m2以上がより好ましい。また、上限は特に限定されないが、着氷霜抑制皮膜層の皮膜量は5g/m2以下が好ましく、3g/m2以下がより好ましい。
【0037】
着氷霜抑制皮膜層は、本発明の効果を損なわない範囲で、他の任意成分を含有させてもよい。他の任意成分としては、例えば皮膜層の物性などを改善するための各種の塗料添加物が挙げられる。また、着氷霜抑制皮膜層を形成する過程においては、塗装性、作業性等の観点から、水系溶媒や水溶性有機溶剤等を用いてもよい。
塗料添加物としては、例えば、表面調整剤、湿潤分散剤、沈降防止剤、酸化防止剤、消泡剤、防錆剤、抗菌剤、防カビ剤等が挙げられる。これらの塗料添加物は、1種が含まれていても、2種以上が含まれていてもよい。
【0038】
着氷霜抑制皮膜層の厚さは特に限定されないが、着氷霜抑制皮膜層の密度を1g/cm3と仮定すると、良好な着氷霜抑制性を得る点から厚さは0.01μm以上が好ましく、0.1μm以上がより好ましく、0.3μm以上がさらに好ましい。また、上限は特に限定されないが、5μm以下が好ましく、3μm以下がより好ましい。
着氷霜抑制皮膜層の厚みは、着氷霜抑制皮膜層の形成に用いる塗料組成物の濃度やバーコーターNo.の選択などによって調整することができる。
【0039】
(親水性皮膜層)
親水性皮膜層は、親水性無機粒子を含む。
親水性無機粒子とは、表面に疎水化処理を行っていない無機粒子又は表面に親水化処理を行った無機粒子を意味する。親水性無機粒子は、疎水性無機粒子と比べて水性媒体に対する分散性に優れる。
【0040】
親水性無機粒子は、親水性無機粒子のみからなる親水性皮膜層を、皮膜量0.05g/m2以上となるように形成した場合の、水の初期接触角が25°以下となることが好ましい。なお、親水性皮膜層が後述するポリエチレングリコール等を含む場合には、ポリエチレングリコール等を水で洗い流し、親水性無機粒子のみからなる親水性皮膜層として、上記水の初期接触角を測定してもよい。
なお、上記皮膜量は、親水性皮膜層による効果を得るための必須の皮膜量ではなく、無機粒子が親水性であるか否かを判断する際に目安とできる皮膜量である。
【0041】
親水性皮膜層は、例えば親水性無機粒子を含有する塗料組成物を着氷霜抑制皮膜層又は耐食性皮膜層上に塗布、乾燥等により固化することで形成できる。
【0042】
親水性無機粒子となる無機材料は、例えば、シリカ(SiO2)、酸化チタン(TiO2)、アルミナ(Al2O3)等が挙げられる。また、これらのうち2種以上を含む無機材料を用いてもよく、例えば、ゼオライト(アルミノシリケート)等も挙げられる。親水性無機粒子は1種を用いても、2種以上を用いてもよい。
【0043】
親水性無機粒子の形状は特に限定されず、球状、平板状、扁平状、針状、円盤状等、特に限定されない。また、球状粒子が結合したパールネックレス状等でもよい。
【0044】
親水性無機粒子の大きさも特に限定されないが、動的光散乱法により求められる一次粒子のメジアン径(D50)は、分散性の観点から1μm以下が好ましく、300nm以下がより好ましい。また、メジアン径(D50)の下限は特に限定されないが、例えば1nm以上である。
【0045】
親水性皮膜層における親水性無機粒子の含有量は、高い親水性の経時安定性の観点から、固形分構成比で、50質量%以上が好ましく、55質量%以上がより好ましく、60質量%以上がさらに好ましい。また、上限は特に限定されず、100質量%、すなわち親水性無機粒子のみからなる親水性皮膜層であってもよい。親水性皮膜層が、親水性無機粒子以外の成分も含む場合には、親水性無機粒子の上記含有量は、例えば95質量%以下が好ましい。
【0046】
親水性皮膜層は、親水性無機粒子に加えて、潤滑性を高める樹脂を含有してもよい。それにより、フィン材表面の摩擦係数が低減されて潤滑になり、フィン材をフィンに加工する際のプレス成形性等が向上する。
【0047】
潤滑性を高める樹脂として、例えば、親水基を有する樹脂が挙げられる。親水基としては、例えば水酸基(ヒドロキシ基)、カルボキシル基、スルホン酸基、ポリエーテル基等が挙げられる。
【0048】
水酸基を有する樹脂は、ポリエチレングリコール(PEG)やポリビニルアルコール(PVA)等が挙げられる。カルボキシル基を有するものとしては、ポリアクリル酸(PAA)等が挙げられる。ヒドロキシ基とカルボキシル基を有するものとしては、カルボキシメチルセルロース(CMC)等が挙げられる。スルホン酸基を有するものとしては、スルホエチルアクリレート等が挙げられる。ポリエーテル基を有するものとしては、ポリエチレングリコール(PEG)やその変性化合物等が挙げられる。これらの他に、親水基を有する単量体の2種以上の共重合体も適用できる。
【0049】
上記の中でも、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)及びポリエチレングリコール変性体(PEG変性体)の少なくとも一方をさらに含むことが好ましい。
なお、PEG変性体とは、例えば、分子内にウレタン結合を有するもの、分子内にグリシジルエーテル基を含むもの、分子の末端の-OH基の一方又は両方が-CH3基に置換されたメチルエーテル、分子内にアミンを有するもの等が挙げられる。
【0050】
親水性皮膜層におけるPEG及びPEG変性体の合計の含有量は、良好な潤滑性の観点から、固形分構成比で、5質量%以上が好ましく、8質量%以上がより好ましく、10質量%以上がより好ましい。また、親水性無機粒子による効果を良好に発揮する観点から、上記合計の含有量は、50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましい。
【0051】
親水性皮膜層は、潤滑性を高める樹脂と共に水溶性の増粘剤を用いてもよい。水溶性の増粘剤は、潤滑性を高める樹脂の固定化に寄与する。水溶性の増粘剤は特に限定されず、従来公知のものを使用できるが、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)が挙げられる。
【0052】
親水性皮膜層における水溶性の増粘剤の合計の含有量は、固形分構成比で0.5質量%以上が好ましく、1質量%以上が好ましく、また、5質量%以下が好ましい。
【0053】
親水性皮膜層は、親水性無機粒子と、任意でのPEGやPEG変性体等の潤滑性を高める樹脂と、水溶性の増粘剤の他、本発明の効果を損なわない範囲において、他の任意成分を含んでいてもよい。他の任意成分としては、例えば皮膜層の物性などを改善するための各種の塗料添加物が挙げられる。塗料添加物としては、例えば、架橋剤、界面活性剤、表面調整剤、湿潤分散剤、沈降防止剤、酸化防止剤、消泡剤、防汚剤、防錆剤、抗菌剤、防カビ剤等が挙げられる。これらの塗料添加物は、1種が含まれていても、2種以上が含まれていてもよい。また、親水性皮膜層を形成する過程においては、塗装性、作業性等の観点から、水系溶媒や水溶性有機溶剤等を用いてもよい。
【0054】
親水性皮膜層の皮膜量は、親水性の十分な経時安定性を得る観点から0.01g/m2以上が好ましく、0.03g/m2以上がより好ましく、0.05g/m2以上がさらに好ましい。また、親水性皮膜層の皮膜量の上限は特に限定されないが、5g/m2以下が好ましく、3g/m2以下がより好ましく、1g/m2以下がさらに好ましい。
【0055】
親水性皮膜層の厚さは特に限定されないが、親水性皮膜層の密度を1g/cm3と仮定すると、良好な親水性の経時安定性を得る点から、厚さは0.01μm以上が好ましく、0.1μm以上がより好ましく、0.3μm以上がさらに好ましい。また、上限は特に限定されないが、5μm以下が好ましく、3μm以下がより好ましい。
親水性皮膜層の厚みは、親水性皮膜層の形成に用いる塗料組成物の濃度やバーコーターNo.の選択などによって調整することができる。
【0056】
(アルミニウム板)
アルミニウム板は、アルミニウムからなる板と、アルミニウム合金からなる板とを含む概念であり、アルミニウム製フィン材に従来用いられているアルミニウム板を使用できる。
アルミニウム板としては、熱伝導性及び加工性に優れることから、JIS H 4000:2014に規定されている1000系のアルミニウムが好ましい。より具体的には、アルミニウム板として合金番号1050、1070、1200のアルミニウムがより好ましい。但し上記記載は、アルミニウム板として、2000系ないし9000系のアルミニウム合金や、その他のアルミニウム板を用いることを何ら排除するものではない。
【0057】
アルミニウム板は、フィン材の用途や仕様などに応じて適宜所望する厚さとする。熱交換器用のフィン材については、フィンの強度等の点から、厚さは0.08mm以上が好ましく、0.1mm以上がより好ましい。一方、フィンへの加工性や熱交換効率等の点から、厚さは0.3mm以下が好ましく、0.2mm以下がより好ましい。
【0058】
(耐食性皮膜層)
耐食性皮膜層は必須ではないが、所望により、アルミニウム板の耐食性を高めるために、アルミニウム板の上に形成される層であり、疎水性樹脂を含有することが好ましい。
アルミニウム板の表面に下地処理層が形成されている場合には、耐食性皮膜層は下地処理層の上に形成されることが好ましい。また、アルミニウム板の上又は下地処理層の上に着氷霜抑制皮膜層が形成されている場合には、その上に耐食性皮膜層を形成してもよい。
【0059】
耐食性皮膜層は、例えば疎水性樹脂を含有する塗料組成物をアルミニウム板上、下地処理層上、又は着氷霜抑制皮膜層上に塗布、乾燥等により固化することで形成できる。
【0060】
耐食性皮膜層によって、結露水などの水分、酸素、塩化物イオンをはじめとするイオン種などがアルミニウム板に浸入し難くなり、アルミニウム板の腐食や臭気を発生するアルミニウムの酸化物の生成などが抑制される。
【0061】
耐食性皮膜層における疎水性樹脂は、従来公知の物を用いることができる。例えば、ポリエステル系、ポリオレフィン系、メラミン系、エポキシ系、ウレタン系、アクリル系の各種樹脂が挙げられ、これらの1種または2種以上を混合したものを適用できる。
【0062】
耐食性皮膜層には、上記の他に、本発明の効果を損なわない範囲において、他の任意成分を含有させてもよい。任意成分としては、例えば皮膜の物性などを改善するための各種の塗料添加物等が挙げられる。塗料添加物としては、例えば、水溶性有機溶剤、架橋剤、界面活性剤、表面調整剤、湿潤分散剤、沈降防止剤、酸化防止剤、消泡剤、防錆剤、抗菌剤、防カビ剤等が挙げられる。これらの塗料添加物は、1種が含まれていても、2種以上が含まれていてもよい。
また、耐食性皮膜層を形成する過程においては、塗装性、作業性等の観点から、水系溶媒や水溶性有機溶剤等を用いてもよい。
【0063】
耐食性皮膜層における疎水性樹脂の皮膜量は特に限定されないが、アルミニウム板に十分な耐食性を付与する観点から、0.05g/m2以上が好ましく、0.2g/m2以上
がより好ましい。一方、フィンの熱交換効率の低下を抑制する観点から、疎水性樹脂の付着量は15g/m2以下が好ましく、3g/m2以下がより好ましい。
【0064】
耐食性皮膜層の厚みは、良好な耐食性を得る観点から0.05μm以上が好ましい。また、成膜性が良く、割れなどの欠陥が低減されると共に、耐食性皮膜層の伝熱抵抗が低く抑えられ、良好なフィンの熱交換効率が得られるという観点から15μm以下が好ましい。
なお、耐食性皮膜層の厚みや疎水性樹脂の付着量は、耐食性皮膜層の成膜に用いる塗料組成物の濃度やバーコーターNo.の選択などによって調整することができる。
【0065】
(下地処理層)
下地処理層は必須ではないが、所望により、アルミニウム板の上に形成される層である。下地処理層により、アルミニウム板の耐食性を高めることができ、また、フィン材が耐食性皮膜層を備える場合には、アルミニウム板と耐食性皮膜層との間に下地処理層を設けることにより、両層の密着性を高めることができる。
【0066】
下地処理層は、アルミニウム板に耐食性を付与できればよく、従来公知のものを用いることができる。例えば、無機酸化物又は無機-有機複合化合物からなる層を用いることができる。
無機酸化物や無機-有機複合化合物を構成する無機材料としては、主成分としてクロム(Cr)、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)が好ましい。
【0067】
下地処理層となる無機酸化物からなる層は、例えば、アルミニウム板にリン酸クロメート処理、リン酸ジルコニウム処理、酸化ジルコニウム処理、クロム酸クロメート処理、リン酸亜鉛処理、リン酸チタン酸処理等を行うことによって形成できる。但し、無機酸化物の種類は、これらの処理で形成されるものに限定されない。
【0068】
下地処理層となる無機-有機複合化合物からなる層は、例えば、アルミニウム板に塗布型クロメート処理や、塗布型ジルコニウム処理等を行うことによって形成できる。このような無機-有機複合化合物の具体例としては、例えば、アクリル-ジルコニウム複合体などが挙げられる。
【0069】
下地処理層の膜厚等は特に限定されず、適宜設定すればよいが、単位面積あたりの付着量がCr、Zr、Ti等の金属換算で1~100mg/m2となるように形成されることが好ましく、膜厚は1~100nmが好ましい。
下地処理層の付着量や膜厚は、下地処理層の成膜に用いる化成処理液の濃度や、成膜処理時間を調節することによって調整することができる。
【0070】
下地処理層を形成する前に、アルミニウム板の表面をアルカリ性脱脂液を用いて予め脱脂してもよく、これにより下地処理の反応性が向上し、さらに、形成された下地処理層の密着性も向上する。
【0071】
(アルミニウム製フィン材の特性)
本実施形態に係るアルミニウム製フィン材は、その表面に結露水が付着した場合でも、結露水と着氷霜抑制皮膜層と相互作用により、氷核形成を抑制できる。その結果、結露水の凍結が遅延し、フィン材の表面における着氷霜を好適に抑制できる。また、良好な親水性が、初期のみならず経時安定性をもって実現できることから、結露水によるブリッジの形成を防ぎ、熱交換性能の低下や凍結を防ぐことができる。
【0072】
フィン材の着氷霜抑制効果は、下記方法により評価できる。
アクリル製の筒の内側上部に、冷媒流路、ペルティエ素子及び空気流路を備える銅板を配設し、この装置を温度10℃、相対湿度55%の環境下に配設する。銅板上であって上記筒内部の空気と接する位置にフィン材を配設する。次いで、上記筒内部に1.5m/秒の風速で送風する。
上記工程後、上記筒内部への送風を同じ風速で続けながら、上記銅板を冷却し、表面温度を-7.5℃とし、意図的にフィン材の表面に結露水を付着させる。
フィン材の結露水が付着する側にデジタルマイクロスコープを設置し、フィン材表面の結露水及び霜の様子を観察する。冷却を開始してから霜が形成され始めるまでの時間を「着氷霜遅延時間」として計測し、着氷霜抑制効果の評価を行う。
上記方法による着氷霜遅延時間は20分超が好ましく、30分超がより好ましい。
【0073】
フィン材を熱交換器に用いる上で、親水性も重要なパラメータである。そのため、フィン材表面に純水を滴下した際の初期の接触角により親水性を評価できる。
具体的には、室温において、フィン材の表面に約2μLの純水を滴下し、その液滴(純水)の接触角を初期接触角として、接触角測定器を用いて測定する。
液滴(純水)の初期接触角は、30°以下が好ましく、25°以下がより好ましく、20°以下がさらに好ましく、10°以下が特に好ましい。なお、下限は特に限定されないが、通常2°以上である。
【0074】
フィン材の親水性に関する経時安定性として、乾湿サイクルを経た後のフィン材表面に純水を滴下した際の接触角により評価できる。
乾湿サイクルは、具体的には、フィン材の表面に加工油を塗油して200℃で10分間加熱し、室温に戻す。次いで、(i)流量0.1mL/分のイオン交換水にフィン材を8時間晒す、及び、(ii)次いで80℃で16時間乾燥させる、なる工程を1サイクルとして、かかる工程を14サイクル行う。その後、室温に戻して、フィン材の表面に約2μLの純水を滴下し、その液滴(純水)の接触角を経時接触角として、接触角測定器を用いて測定する。
【0075】
液滴(純水)の経時接触角は、30°以下が好ましく、25°以下がより好ましく、20°以下がさらに好ましく、10°以下が特に好ましい。なお、下限は特に限定されないが、通常2°以上である。
【0076】
フィン材は、排水性も重要である。排水性は、フィン材の表面に水滴(純水)を滴下し、フィン材の片端を持ちあげて傾斜させた際に上記水滴が落下し始める時の、フィン材と水平面とのなす角度(滑落角)を測定することで評価できる。
接触角と同様、初期滑落角と、乾湿サイクルを経た後の経時滑落角で評価できるが、初期滑落角、経時滑落角共に、角度に依らず滑落することが好ましく、滑落する角度が50°以下がより好ましく、30°以下がさらに好ましく、20°以下がよりさらに好ましく、10°以下が特に好ましい。
【0077】
フィン材の加工性の指標として、摩擦係数が挙げられる。摩擦係数が高いと、熱交換器製造時にアルミニウム製フィン材を金型でプレスする際に、金型の摩耗の原因となる。フィン材に対し、バウデン試験機を用い、荷重200gで位置を変えながら3往復の摺動を行って得られた値の平均値を摩擦係数とする。
摩擦係数は、0.25以下が好ましく、0.2以下がより好ましく、0.15以下がさらに好ましく、0.1以下が特に好ましい。
上記摩擦係数は、例えば、親水性皮膜層にPEGやPEG変性体等の潤滑性を高める成分を添加することにより小さくできる。
【0078】
<アルミニウム製フィン材の製造方法>
本実施形態に係るアルミニウム製フィン材の製造方法の一例について説明するが、かかる態様に限定されず、本実施形態の効果を妨げない範囲において、他の製造方法により製造することもできる。
また、下記一例は、アルミニウム板の表面に、下地処理層、耐食性皮膜層、着氷霜抑制皮膜層、及び親水性皮膜層をこの順に形成する場合についての説明であるが、下地処理層、耐食性皮膜層の形成は任意である。また、各層の順序も適宜変更できる。
【0079】
アルミニウム板の表面上に下地処理層を公知の方法により形成する。その表面上に耐食性皮膜層を公知の方法により形成する。
【0080】
次いで、耐食性皮膜層上に、両性(メタ)アクリルアミド系樹脂を含む塗料組成物を塗布、乾燥し、焼き付けることにより着氷霜抑制皮膜層を形成する。
焼き付けの温度は、耐食性皮膜層が剥離しなければ特に限定されないが、例えば、100℃以上が好ましく、200℃以上がより好ましい。また、耐食性皮膜層の樹脂が酸化するのを防ぐ観点から焼き付けの温度は400℃以下が好ましく、300℃以下がより好ましい。なお、上記焼き付けの温度は、焼き付けを行う炉の温度である。
【0081】
焼き付けの時間も、耐食性皮膜層が剥離しなければ特に限定されないが、例えば、3秒以上が好ましく、10秒以上がより好ましい。また、耐食性皮膜層の樹脂が酸化するのを防ぐ観点から焼き付けの時間は2時間以下が好ましく、1時間以下がより好ましい。
【0082】
両性(メタ)アクリルアミド系樹脂を含む塗料組成物には、界面活性剤等、その他の成分を含んでいてもよい。界面活性剤を含有することで、表面張力を任意に調整し、塗工性を向上させることができる。
【0083】
両性(メタ)アクリルアミド系樹脂を含む塗料組成物の溶媒は特に限定されないが、例えば水、アルコール、脂肪族ケトン類等が挙げられる。中でも、水やアルコールが好ましく、アルコールとしては、ブタノール、エタノール等が好ましい。
溶媒は1種を用いても、2種以上を混合して用いてもよく、例えば、水とアルコールとの混合溶媒とする場合には、水100質量部に対して、アルコールは1~20質量部とすることが基材への塗工性の観点から好ましい。
【0084】
両性(メタ)アクリルアミド系樹脂を含む塗料組成物における固形分濃度は、塗料安定性の点から、1質量%以上が好ましく、3質量%以上がより好ましい。また、固形分濃度は、基材への塗工性の点から40質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましい。
【0085】
両性(メタ)アクリルアミド系樹脂を含む塗料組成物を塗布した際の膜厚は、塗工性の点から1μm以上が好ましく、5μm以上がより好ましい。また、膜厚は溶媒の揮発性の点から40μm以下が好ましく、20μm以下がより好ましい。なお、ここでの膜厚は、乾燥前の膜厚であり、例えばバーコーターを用いて塗料組成物を塗布する場合には、バーコーターNo.の選択等により調整できる。
【0086】
次に、着氷霜抑制皮膜層の表面上に、親水性無機粒子を含む塗料組成物を塗布、乾燥し、焼き付けることにより親水性皮膜層を形成する。
焼き付けの温度は、着氷霜抑制皮膜層が剥離しなければ特に限定されないが、例えば、100℃以上が好ましく、200℃以上がより好ましい。また、着氷霜抑制皮膜層が酸化するのを防ぐ観点から焼き付けの温度は400℃以下が好ましく、300℃以下がより好ましい。なお、上記焼き付けの温度は、焼き付けを行う炉の温度である。
【0087】
焼き付けの時間も、着氷霜抑制皮膜層が剥離しなければ特に限定されないが、例えば、3秒以上が好ましく、10秒以上がより好ましい。また、着氷霜抑制皮膜層の樹脂が酸化するのを防ぐ観点から焼き付けの時間は2時間以下が好ましく、1時間以下がより好ましい。
【0088】
耐食性皮膜層、着氷霜抑制皮膜層、及び親水性皮膜層の塗布は、バーコーターやロールコート法等により行う。特に、アルミニウム板がコイル状であれば、ロールコート装置等を適用して、連続的に、脱脂、塗装、加熱、巻取り等を行うことが生産性上好ましい。また、耐食性皮膜層、着氷霜抑制皮膜層、及び親水性皮膜層の焼き付け温度は、それぞれ用いる樹脂等の成分に応じて設定すればよく、例えば、120~270℃の範囲とすることが好ましい。
【実施例0089】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではなく、その趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0090】
(実施例1)
アルミニウム板として、厚さが0.1mmのJIS H 4000:2014に規定されている合金番号1070の規格を用いた。アルミニウム板の一方の表面上にリン酸クロメート処理により下地処理層を形成した。
次いで、両性ポリアクリルアミド樹脂を水に溶解させた塗料組成物を調製した。この塗料組成物における両性ポリアクリルアミド樹脂の固形分濃度は5質量%であり、両性ポリアクリルアミド樹脂の化合物固形分重量比、すなわち固形分における両性ポリアクリルアミド樹脂の割合は100質量%である。
上記塗料組成物を下地処理層の表面上に、バーコーターを用いて塗布した。その後乾燥させ、225℃で焼き付けることによって着氷霜抑制皮膜層を形成した。着氷霜抑制皮膜層の皮膜量は0.2~0.3g/m2であった。
次いで、親水性シリカ粒子を水に分散させた塗料組成物を調製した。この塗料組成物における親水性シリカ粒子の固形分濃度は2質量%であり、親水性シリカ粒子の化合物固形分重量比、すなわち固形分における親水性シリカ粒子の割合は100質量%である。
上記塗料組成物を、形成した着氷霜抑制皮膜層の表面上に、バーコーターを用いて塗布した。その後乾燥させ、225℃で焼き付けることによって親水性皮膜層を形成し、アルミニウム製フィン材を得た。親水性皮膜層の皮膜量は0.08g/m2であった。
【0091】
(実施例2)
アルミニウム板として、厚さが0.1mmのJIS H 4000:2014に規定されている合金番号1070の規格を用いた。アルミニウム板の一方の表面上にリン酸クロメート処理により下地処理層を形成した。次いで、ポリアクリル酸アンモニウムを含む耐食性皮膜層1を、下地処理層の表面上に形成した。
次いで、耐食性皮膜層1の表面上に、実施例1と同様にして着氷霜抑制皮膜層及び親水性皮膜層を形成し、アルミニウム製フィン材を得た。ただし、親水性皮膜層を形成する塗料組成物における親水性シリカ粒子の固形分濃度は1質量%とし、親水性皮膜層の皮膜量は0.04g/m2とした。
【0092】
(実施例3~5)
親水性皮膜層を形成する塗料組成物における親水性シリカ粒子の固形分濃度を表1に記載の濃度に変更し、同表1に記載の親水性皮膜層の皮膜量とした以外は、実施例2と同様にしてアルミニウム製フィン材を得た。
【0093】
(実施例6~15)
着氷霜抑制皮膜層の形成までは実施例2と同様に行った。次いで、親水性シリカ粒子、ポリエチレングリコール(PEG)、及びカルボキシメチルセルロース(CMC)を、表1に記載の化合物固形分重量比となるように水に分散させた塗料組成物を調製した。この塗料組成物における固形分濃度は同表1に示すとおりである。
上記塗料組成物を、形成した着氷霜抑制皮膜層の表面上に、バーコーターを用いて塗布した。その後乾燥させ、160℃で焼き付けることによって親水性皮膜層を形成し、アルミニウム製フィン材を得た。親水性皮膜層の皮膜量は表1に示すとおりである。
【0094】
(実施例16)
耐食性皮膜層1をケイ酸ナトリウムを含む耐食性皮膜層2に変更した以外は実施例7と同様にして、アルミニウム製フィン材を得た。
【0095】
(実施例17)
耐食性皮膜層2をエポキシ系樹脂を含む耐食性皮膜層3に変更し、また、着氷霜抑制皮膜層を形成する塗料組成物を、両性ポリアクリルアミド樹脂及び界面活性剤であるジアルキルスルホコハク酸ナトリウムを固形分重量比で100/0.3となるようにした以外は、実施例16と同様にしてアルミニウム製フィン材を得た。
【0096】
(比較例1)
親水性皮膜層を形成しなかった以外は実施例1と同様にしてアルミニウム製フィン材を得た。
【0097】
(比較例2)
着氷霜抑制皮膜層を形成する塗料組成物を、両性ポリアクリルアミド樹脂、及び親水性シリカ粒子を固形分重量比で80/20となるように、水で溶解、分散させたものとし、また、親水性皮膜層を形成しなかった以外は、実施例1と同様にしてアルミニウム製フィン材を得た。
【0098】
上記で得られたアルミニウム製フィン材の耐食性皮膜層、着氷霜抑制皮膜層及び親水性皮膜層の構成を表1にまとめて示す。表1中、「-」とは、その皮膜層が形成されていないことを意味する。
【0099】
【0100】
(評価:着氷霜抑制性)
アクリル製の筒の内側上部に、冷媒流路、ペルティエ素子及び空気流路を備える銅板を配設し、この装置を温度10℃、相対湿度55%の環境下に配設した。銅板上であって上記筒内部の空気と接する位置にフィン材を配設した。次いで、上記筒内部に1.5m/秒の風速で送風した。
上記工程後、上記筒内部への送風を同じ風速で続けながら、上記銅板を冷却し、表面温度を-7.5℃とし、意図的にフィン材の表面に結露水を付着させた。
フィン材の結露水が付着する側にデジタルマイクロスコープを設置し、フィン材表面の結露水及び霜の様子を観察した。冷却を開始してから霜が形成され始めるまでの時間を「着氷霜遅延時間」として計測し、着氷霜抑制効果の評価を行った。
評価基準は下記のとおりであり、結果を表1の「着氷霜抑制」に示す。なお、表中「-」とは未測定であることを意味する。
◎ 非常に良好(合格):着氷霜遅延時間が30分超
○ 良好(合格):着氷霜遅延時間が20分超30分以下
△ 不良(不合格):着氷霜遅延時間が20分以下
【0101】
(評価:親水性)
室温において、アルミニウム製フィン材の表面に約2μLの純水を滴下し、液滴(純水)の接触角を、接触角測定器(協和界面科学社製、CA-05型)を用いて測定した。
結果を表1の「親水性、接触角、初期」に示すが、30°以下であれば良好であり合格と言え、25°以下が非常に良好、20°以下が極めて良好である。
【0102】
また、親水性の経時安定性の評価のために、フィン材の表面に加工油を塗油して200℃で10分間加熱し、室温に戻した。次いで、(i)流量0.1mL/分のイオン交換水にフィン材を8時間晒す、及び、(ii)次いで80℃で16時間乾燥させる、なる工程を1サイクルとして、かかる工程を14サイクル行った。その後、室温に戻して、フィン材の表面に約2μLの純水を滴下し、その液滴(純水)の接触角を経時接触角として、接触角測定器を用いて測定した。
結果を表1の「親水性、接触角、経時」に示すが、30°以下であれば良好であり合格と言え、25°以下が非常に良好、20°以下が極めて良好である。なお、同表1の「親水性、評価」では、「親水性、接触角、経時」における接触角が10°以下のものを特に良好として「◎」で示し、10°超30°以下のものを「○」で示し、30°超の不合格のものを「△」で示した。
【0103】
(評価:水滑落性)
室温において、フィン材の表面に水滴(純水)を滴下し、フィン材の片端を持ちあげて傾斜させた際に上記水滴が落下し始める時の、フィン材と水平面とのなす角度を滑落角として測定した。
結果を表1の「水滑落性、滑落角、初期」に示すが、角度に依らず滑落すれば合格と言え、滑落角が小さいほど好ましい。
【0104】
また、水滑落性の経時安定性の評価のために、上記(評価:親水性)の経時接触角を測定する際と同様の工程を14サイクル行い、その後、室温に戻して、フィン材の表面に純水を滴下し、その液滴(純水)の滑落を経時接触角として測定した。
結果を表1の「水滑落性、滑落角、経時」に示すが、滑落角が10°超であり、滑落したものを合格として「○」で示し、滑落角が10°以下のものを「◎」で示した。また、経時のみならず、初期の辞典で滑落しなかったものは不合格として「×」で示し、「-」は未測定を意味する。
【0105】
(評価:加工性)
フィン材に対し、バウデン試験機を用い、荷重200gで位置を変えながら3往復の摺動を行って摩擦係数を求め、その平均値をフィン材の摩擦係数とした。
結果を表1の「加工性、摩擦係数」に示すが、摩擦係数が0.1超0.25以下であれば良好であり合格として「○」で示し、0.1以下であれば特に良好であるとして「◎」で示した。また、摩擦係数が0.1以下のものは不合格として「△」で示し、「-」は未測定を意味する。
【0106】
上記結果から、両性(メタ)アクリルアミド系樹脂を含む着氷霜抑制皮膜層と、親水性無機粒子を含む親水性皮膜層を備えた本実施形態に係るアルミニウム製フィン材とすることにより、着氷霜の形成を効果的に抑制しつつ、表面の親水性の良好な経時安定性も実現できた。また、本実施形態に係るアルミニウム製フィン材は、親水性皮膜層に、PEGといった潤滑性を高める成分を添加することにより、良好な着氷霜抑制性や親水性を損なうことなく、摩擦係数を低下できる。その結果、熱交換器製造時にフィン材のプレスに用いる金型の摩耗を防止できる。
アニオン型界面活性剤としては、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸エタノールアミン、ラウリル硫酸アンモニウム等のアルキル硫酸エステル塩;ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩;アルキルベンゼンスルホン酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム、アルキルジフェニルエーテルジスルフォン酸ナトリウム、アルカンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩及びその他のスルホン酸塩;ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウム等の反応性界面活性剤;ステアリン酸ソーダ石けん、オレイン酸カリ石けん等の脂肪酸塩;ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸カリウム、アルケニルコハク酸ジカリウム等のその他のアニオン性界面活性剤等が挙げられる。
ノニオン型界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル;ポリオキシエチレンアルキレンアルキルエーテル等のポリオキシアルキレン誘導体、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル等の反応性界面活性剤;ソルビタンモノラウレート等のソルビタン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル;テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット等のポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル;グリセロールモノステアレート等のグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルアルカノールアミド等が挙げられる。