(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024021423
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】造形計画支援装置、造形計画支援方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
B23K 9/04 20060101AFI20240208BHJP
B23K 31/00 20060101ALI20240208BHJP
B23K 9/12 20060101ALI20240208BHJP
B23K 9/095 20060101ALI20240208BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20240208BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20240208BHJP
B33Y 50/02 20150101ALI20240208BHJP
【FI】
B23K9/04 G
B23K9/04 Z
B23K31/00 Z
B23K9/12 331F
B23K9/095 510D
B33Y10/00
B33Y30/00
B33Y50/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022124239
(22)【出願日】2022-08-03
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】近口 諭史
(57)【要約】
【課題】複数の溶接ビードを積層する場合に、造形計画と実際の形状との乖離が生じにくい精緻な造形計画を作成する。
【解決手段】造形計画支援装置15は、溶接ビードを形成するパスの狙い位置を含む軌跡情報、及び溶接ビードを形成する溶接条件の情報を取得する造形条件取得部31と、軌跡情報と溶接条件の情報に基づいて複数の溶接ビードを積層した予測形状を求める形状予測部33と、溶接ビードの長手方向に直交する断面において、いずれかの溶接ビードの予測形状の輪郭の内側に、その溶接ビードを形成するパスの狙い位置を除く他のパスの狙い位置が含まれるか判定する判定部35と、他のパスの狙い位置が輪郭の内側に含まれる場合に、その他のパスの狙い位置を軌跡情報から削除する軌跡情報変更部37と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マニピュレータが保持する溶加材を熱源装置によって溶融させて形成する溶接ビードを繰り返し積層して造形物を製造する際の、前記造形物の造形条件を決定する造形計画支援装置であって、
前記溶接ビードを形成するパスの狙い位置を含む軌跡情報、及び前記溶接ビードを形成する溶接条件の情報を取得する造形条件取得部と、
前記軌跡情報と前記溶接条件の情報に基づいて複数の前記溶接ビードを積層した予測形状を求める形状予測部と、
前記溶接ビードの長手方向に直交する断面において、いずれかの前記溶接ビードの予測形状の輪郭の内側に、当該溶接ビードを形成するパスの狙い位置を除く他のパスの狙い位置が含まれるか判定する判定部と、
前記他のパスの狙い位置が前記輪郭の内側に含まれる場合に、当該他のパスの狙い位置を前記軌跡情報から削除する軌跡情報変更部と、
を備える造形計画支援装置。
【請求項2】
前記判定部は、前記他のパスの狙い位置が前記輪郭の内側に食い込む量に応じて、前記他のパスの狙い位置が含まれるかを判定する、
請求項1に記載の造形計画支援装置。
【請求項3】
前記形状予測部による前記予測形状の予測と、前記判定部による前記他のパスの狙い位置が含まれるかの判定とを、前記パス毎に実施する、
請求項2に記載の造形計画支援装置。
【請求項4】
前記判定部が前記他のパスの狙い位置が含まれていると判定した場合に、前記パスの個数又は前記溶接条件を変更して前記造形条件を更新する造形条件更新部を備える、
請求項1に記載の造形計画支援装置。
【請求項5】
更新後の前記造形条件の前記軌跡情報と前記溶接条件の情報とに基づいて、前記形状予測部による前記予測形状の算出と、前記判定部による前記他のパスの狙い位置が含まれるかの判定と、前記軌跡情報変更部による前記軌跡情報の変更と、前記造形条件更新部による前記造形条件の更新とを繰り返し実施する、
請求項4に記載の造形計画支援装置。
【請求項6】
前記造形条件更新部は、複数の前記パスにおける、隣り合う前記パスの狙い位置同士の間隔を、前記造形物の目標形状に応じて調整する、
請求項4に記載の造形計画支援装置。
【請求項7】
前記調整は、前記予測形状の輪郭の内側に含まれる前記他のパスの狙い位置を削除し、当該他のパスに隣り合うパスの狙い位置を、前記予測形状の輪郭に接近させる、
請求項6に記載の造形計画支援装置。
【請求項8】
前記隣り合う方向は、前記溶接ビードの積層方向又は前記溶接ビードの並び方向である、
請求項7に記載の造形計画支援装置。
【請求項9】
マニピュレータが保持する溶加材を熱源装置によって溶融させて形成する溶接ビードを繰り返し積層して造形物を製造する際の、前記造形物の造形条件を決定する造形計画支援方法であって、
前記溶接ビードを形成するパスの狙い位置を含む軌跡情報、及び前記溶接ビードを形成する溶接条件の情報を取得し、
前記軌跡情報と前記溶接条件の情報に基づいて複数の前記溶接ビードを積層した予測形状を求め、
前記溶接ビードの長手方向に直交する断面において、いずれかの前記溶接ビードの予測形状の輪郭の内側に、当該溶接ビードを形成するパスの狙い位置を除く他のパスの狙い位置が含まれるか判定し、
前記他のパスの狙い位置が前記輪郭の内側に含まれる場合に、当該他のパスの狙い位置を前記軌跡情報から削除する、
造形計画支援方法。
【請求項10】
前記他のパスの狙い位置が含まれていると判定された場合に、前記パスの個数又は前記溶接条件を変更して前記造形条件を更新する、
請求項9に記載の造形計画支援方法。
【請求項11】
マニピュレータが保持する溶加材を熱源装置によって溶融させて形成する溶接ビードを繰り返し積層して造形物を製造する際の、前記造形物の造形条件を決定する造形計画支援の手順を実行するためのプログラムであって、
コンピュータに、
前記溶接ビードを形成するパスの狙い位置を含む軌跡情報、及び前記溶接ビードを形成する溶接条件の情報を取得する手順と、
前記軌跡情報と前記溶接条件の情報に基づいて複数の前記溶接ビードを積層した予測形状を求める手順と、
前記溶接ビードの長手方向に直交する断面において、いずれかの前記溶接ビードの予測形状の輪郭の内側に、当該溶接ビードを形成するパスの狙い位置を除く他のパスの狙い位置が含まれるか判定する手順と、
前記他のパスの狙い位置が前記輪郭の内側に含まれる場合に、当該他のパスの狙い位置を前記軌跡情報から削除する手順と、
を実行するためのプログラム。
【請求項12】
前記他のパスの狙い位置が含まれていると判定された場合に、前記パスの個数又は前記溶接条件を変更して前記造形条件を更新する手順を更に実行する、
請求項11に記載のプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、造形計画支援装置、造形計画支援方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、3Dプリンタを用いた積層造形による部品製造のニーズが高まっており、金属材料を用いた造形の実用化に向けて研究開発が進められている。例えば特許文献1には、金属の溶接ワイヤを溶融して形成される溶接ビードを積層して、三次元構造物を造形する三次元造形装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、三次元の造形においては、三次元のCADデータに基づく形状モデルをスライスした層毎に、ビード形成の軌道を計画し、計画した軌道に沿ってトーチを移動させながらビード層を形成する。このビード層を積層することで所望の造形物が造形される。しかし、積層途中の造形物の形状は、計画形状からのずれが生じることがある。その場合、計画されたビード形成軌道(以下、「パス」ともいう)の狙い位置が、既に積層された実際の形状からすると不適切な位置になる。そのような計画に基づく造形においては、トーチを造形物にぶつけたり、造形物とトーチとの間隔が開きすぎてアークスタートのエラーを引き起こしたりするなど、造形の継続に支障をきたすおそれがある。
【0005】
引用文献1の三次元造形装置では、下層の溶接ビードに積層する上層の溶接ビードを斜め方向に積み上げてオーバーハング形状を造形する場合に、下層の溶接ビードの中心線から適切な偏移量を補正した位置に上層の溶接ビードを形成して、狙った傾斜角のオーバーハング形状を造形している。このようなオーバーハングを有する構造物を造形する際は、上記した狙い位置の微調整が特に難しい。そのため、狙い位置が実際の形状と不整合しないように造形物の造形計画を精緻に調整することが望まれている。
【0006】
そこで本発明は、複数の溶接ビードを積層する場合に、造形計画と実際の形状との乖離が生じにくい精緻な造形計画を作成できる造形計画支援装置、造形計画支援方法及びプログラムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、下記の構成からなる。
(1) マニピュレータが保持する溶加材を熱源装置によって溶融させて形成する溶接ビードを繰り返し積層して造形物を製造する際の、前記造形物の造形条件を決定する造形計画支援装置であって、
前記溶接ビードを形成するパスの狙い位置を含む軌跡情報、及び前記溶接ビードを形成する溶接条件の情報を取得する造形条件取得部と、
前記軌跡情報と前記溶接条件の情報に基づいて複数の前記溶接ビードを積層した予測形状を求める形状予測部と、
前記溶接ビードの長手方向に直交する断面において、いずれかの前記溶接ビードの予測形状の輪郭の内側に、当該溶接ビードを形成するパスの狙い位置を除く他のパスの狙い位置が含まれるか判定する判定部と、
前記他のパスの狙い位置が前記輪郭の内側に含まれる場合に、当該他のパスの狙い位置を前記軌跡情報から削除する軌跡情報変更部と、
を備える造形計画支援装置。
(2) マニピュレータが保持する溶加材を熱源装置によって溶融させて形成する溶接ビードを繰り返し積層して造形物を製造する際の、前記造形物の造形条件を決定する造形計画支援方法であって、
前記溶接ビードを形成するパスの狙い位置を含む軌跡情報、及び前記溶接ビードを形成する溶接条件の情報を取得し、
前記軌跡情報と前記溶接条件の情報に基づいて複数の前記溶接ビードを積層した予測形状を求め、
前記溶接ビードの長手方向に直交する断面において、いずれかの前記溶接ビードの予測形状の輪郭の内側に、当該溶接ビードを形成するパスの狙い位置を除く他のパスの狙い位置が含まれるか判定し、
前記他のパスの狙い位置が前記輪郭の内側に含まれる場合に、当該他のパスの狙い位置を前記軌跡情報から削除する、
造形計画支援方法。
(3) マニピュレータが保持する溶加材を熱源装置によって溶融させて形成する溶接ビードを繰り返し積層して造形物を製造する際の、前記造形物の造形条件を決定する造形計画支援の手順を実行するためのプログラムであって、
コンピュータに、
前記溶接ビードを形成するパスの狙い位置を含む軌跡情報、及び前記溶接ビードを形成する溶接条件の情報を取得する手順と、
前記軌跡情報と前記溶接条件の情報に基づいて複数の前記溶接ビードを積層した予測形状を求める手順と、
前記溶接ビードの長手方向に直交する断面において、いずれかの前記溶接ビードの予測形状の輪郭の内側に、当該溶接ビードを形成するパスの狙い位置を除く他のパスの狙い位置が含まれるか判定する手順と、
前記他のパスの狙い位置が前記輪郭の内側に含まれる場合に、当該他のパスの狙い位置を前記軌跡情報から削除する手順と、
を実行するためのプログラム。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、複数の溶接ビードを積層する場合に、造形計画と実際の形状との乖離が生じにくい精緻な造形計画を作成できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、積層造形装置の全体構成を示す概略図である。
【
図2】
図2は、造形計画支援装置の機能ブロック図である。
【
図3A】
図3Aは、造形物を構成する溶接ビードの形成パスの決定手順の一例を、溶接ビードの長手方向に直交する断面で示す説明図である。
【
図3B】
図3Bは、造形物を構成する溶接ビードの形成パスの決定手順の一例を、溶接ビードの長手方向に直交する断面で示す説明図である。
【
図3C】
図3Cは、造形物を構成する溶接ビードの形成パスの決定手順の一例を、溶接ビードの長手方向に直交する断面で示す説明図である。
【
図4】
図4は、隣接するビード間の重なりを考慮したモデルの一例を示す説明図である。
【
図5】
図5は、下層側へ溶接金属が垂れた形状を再現したモデルの一例を示す説明図である。
【
図6A】
図6Aは、溶接ビードのパスの狙い位置とモデル形状を示す説明図である。
【
図7】
図7は、造形計画支援方法の各手順を示すフローチャートである。
【
図8A】
図8Aは、造形計画支援方法の各手順を溶接ビードの長手方向に直交する断面上で示す説明図である。
【
図8B】
図8Aは、造形計画支援方法の各手順を溶接ビードの長手方向に直交する断面上で示す説明図である。
【
図8C】
図8Cは、造形計画支援方法の各手順を溶接ビードの長手方向に直交する断面上で示す説明図である。
【
図8D】
図8Dは、造形計画支援方法の各手順を溶接ビードの長手方向に直交する断面上で示す説明図である。
【
図8E】
図8Eは、造形計画支援方法の各手順を溶接ビードの長手方向に直交する断面上で示す説明図である。
【
図8F】
図8Fは、造形計画支援方法の各手順を溶接ビードの長手方向に直交する断面上で示す説明図である。
【
図8G】
図8Gは、造形計画支援方法の各手順を溶接ビードの長手方向に直交する断面上で示す説明図である。
【
図8H】
図8Hは、造形計画支援方法の各手順を溶接ビードの長手方向に直交する断面上で示す説明図である。
【
図8I】
図8Iは、造形計画支援方法の各手順を溶接ビードの長手方向に直交する断面上で示す説明図である。
【
図9A】
図9Aは、判定部が溶接ビードの積層方向に関して狙い位置を判定する基準を示す説明図である。
【
図9B】
図9Bは、判定部が溶接ビードの並び方向に関して狙い位置を判定する基準を示す説明図である。
【
図10A】
図10Aは、複数の溶接ビードを並列させて形成する場合に、狙い位置を削除した例を示す参考図である。
【
図10B】
図10Bは、複数の溶接ビードを並列させて形成する場合に、狙い位置を削除した例を示す参考図である。
【
図10C】
図10Cは、複数の溶接ビードを並列させて形成する場合に、狙い位置を削除した例を示す参考図である。
【
図11A】
図11Aは、複数の溶接ビードを並列させて形成する場合に、狙い位置を削除した他の例を示す説明図である。
【
図11B】
図11Bは、複数の溶接ビードを並列させて形成する場合に、狙い位置を削除した他の例を示す説明図である。
【
図11C】
図11Cは、複数の溶接ビードを並列させて形成する場合に、狙い位置を削除した他の例を示す説明図である。
【
図11D】
図11Dは、複数の溶接ビードを並列させて形成する場合に、狙い位置を削除した他の例を示す説明図である。
【
図12A】
図12Aは、複数の溶接ビードを並列させて形成する場合に、狙い位置を削除した他の例を示す参考図である。
【
図12B】
図12Bは、複数の溶接ビードを並列させて形成する場合に、狙い位置を削除した他の例を示す参考図である。
【
図12C】
図12Cは、複数の溶接ビードを並列させて形成する場合に、狙い位置を削除した他の例を示す参考図である。
【
図13A】
図13Aは、複数の溶接ビードを並列させて形成する場合に、狙い位置を削除した他の例を示す説明図である。
【
図13B】
図13Bは、複数の溶接ビードを並列させて形成する場合に、狙い位置を削除した他の例を示す説明図である。
【
図13C】
図13Cは、複数の溶接ビードを並列させて形成する場合に、狙い位置を削除した他の例を示す説明図である。
【
図13D】
図13Dは、複数の溶接ビードを並列させて形成する場合に、狙い位置を削除した他の例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。ここで示す積層造形装置は、あらかじめ定めた造形計画に基づいて、マニピュレータに保持された溶加材(溶接ワイヤ)を熱源装置によって溶融させて溶接ビードを形成し、形成された溶接ビードを所望の形状に繰り返し積層して、溶接ビードが積層されてなる造形物を造形する。造形計画支援装置は、このような積層造形装置により造形物を造形する際、溶接ビードのパスの狙い位置(軌跡)及び溶接条件等の造形条件を決定して、上記した造形計画を作成することを支援する。
【0011】
<積層造形装置の構成>
上記の造形計画支援装置により作成された造形計画に基づき動作させる、積層造形装置の一構成例を説明する。
図1は、積層造形装置の全体構成を示す概略図である。
積層造形装置100は、造形制御部11と造形部13とを備える。また、造形計画支援装置15は、造形制御部11に接続されて積層造形装置100の一部を構成してもよく、積層造形装置100とは離隔して設けられ、ネットワーク等の通信、又は記憶媒体を介して接続されてもよい。
【0012】
造形部13は、マニピュレータ17と、溶加材供給部19と、マニピュレータ制御部21と、熱源制御部23とを含んで構成される。
【0013】
マニピュレータ制御部21は、マニピュレータ17と熱源制御部23を制御する。マニピュレータ制御部21には不図示のコントローラが接続されて、マニピュレータ制御部21からの任意の操作がコントローラを介して操作者から指示可能となっている。
【0014】
マニピュレータ17は、例えば多関節ロボットであり、先端軸に設けたトーチ25には、溶加材Mが連続供給可能に支持される。トーチ25は、溶加材Mを先端から突出した状態に保持する。トーチ25の位置及び姿勢は、マニピュレータ17を構成するロボットアームの自由度の範囲で3次元的に任意に設定可能となっている。マニピュレータ17は、6軸以上の自由度を有するものが好ましく、先端の熱源の軸方向を任意に変化させられるものが好ましい。マニピュレータ17は、
図1に示す4軸以上の多関節ロボットの他、2軸以上の直交軸に角度調整機構を備えたロボット等、種々の形態でもよい。
【0015】
トーチ25は、不図示のシールドノズルを有し、シールドノズルからシールドガスが供給される。シールドガスは、大気を遮断し、溶接中の溶融金属の酸化、窒化などを防いで溶接不良を抑制する。本構成で用いるアーク溶接法としては、被覆アーク溶接又は炭酸ガスアーク溶接等の消耗電極式、TIG(Tungsten Inert Gas)溶接又はプラズマアーク溶接等の非消耗電極式のいずれであってもよく、造形対象に応じて適宜選定される。ここでは、ガスメタルアーク溶接を例に挙げて説明する。消耗電極式の場合、シールドノズルの内部にはコンタクトチップが配置され、電流が給電される溶加材Mがコンタクトチップに保持される。トーチ25は、溶加材Mを保持しつつ、シールドガス雰囲気で溶加材Mの先端からアークを発生する。
【0016】
溶加材供給部19は、トーチ25に向けて溶加材Mを供給する。溶加材供給部19は、溶加材Mが巻回されたリール19aと、リール19aから溶加材Mを繰り出す繰り出し機構19bとを備える。溶加材Mは、繰り出し機構19bによって必要に応じて正方向又は逆方向に送られながらトーチ25へ送給される。繰り出し機構19bは、溶加材供給部19側に配置されて溶加材Mを押し出すプッシュ式に限らず、ロボットアーム等に配置されるプル式、又はプッシュ-プル式であってもよい。
【0017】
熱源制御部23は、マニピュレータ17による溶接に要する電力を供給する溶接電源である。熱源制御部23は、溶加材Mを溶融、凝固させるビード形成時に供給する溶接電流及び溶接電圧を調整する。また、熱源制御部23が設定する溶接電流及び溶接電圧等の溶接条件に連動して、溶加材供給部19の溶加材供給速度が調整される。
【0018】
溶加材Mを溶融させる熱源としては、上記したアークに限らない。例えば、アークとレーザーとを併用した加熱方式、プラズマを用いる加熱方式、電子ビーム又はレーザーを用いる加熱方式等、他の方式による熱源を採用してもよい。電子ビーム又はレーザーにより加熱する場合、加熱量を更に細かく制御でき、形成するビードの状態をより適正に維持して、積層構造物の更なる品質向上に寄与できる。また、溶加材Mの材質についても特に限定するものではなく、例えば、軟鋼、高張力鋼、アルミ、アルミ合金、ニッケル、ニッケル基合金など、造形物Wの特性に応じて、用いる溶加材Mの種類が異なっていてよい。
【0019】
造形制御部11は、上記した各部を統括して制御する。
【0020】
上記した構成の積層造形装置100は、造形物Wの造形計画に基づいて作成された造形プログラムに従って動作する。造形プログラムは、多数の命令コードにより構成され、造形物の形状、材質、入熱量等の諸条件に応じて、適宜なアルゴリズムに基づいて作成される。この造形プログラムに従って、トーチ25を移動させつつ、送給される溶加材Mを溶融及び凝固させると、溶加材Mの溶融凝固体である線状の溶接ビードBがベース27上に形成される。つまり、マニピュレータ制御部21は、造形制御部11から提供される所定のプログラムに基づいて、マニピュレータ17と熱源制御部23を駆動させる。マニピュレータ17は、マニピュレータ制御部21からの指令により、溶加材Mをアークで溶融させながらトーチ25を移動させて溶接ビードBを形成する。このようにして溶接ビードBを順次に形成、積層することで、目的とする形状の造形物Wが得られる。
【0021】
<造形計画支援装置の構成>
図2は、造形計画支援装置15の機能ブロック図である。造形計画支援装置15は、造形条件取得部31と、形状予測部33と、判定部35と、軌跡情報変更部37と、造形条件更新部39とを含んで構成される。各部の詳細については後述するが、概略的な機能は次のとおりである。
【0022】
造形条件取得部31は、溶接ビードを形成するパスの狙い位置を含む軌跡情報、及び溶接ビードを形成する溶接条件の情報を含む造形条件を取得する。造形条件は、造形物に対応して作成された造形計画、又は造形プログラムから抽出することでもよい。
形状予測部33は、取得した軌跡情報と溶接条件の情報に基づいて複数の溶接ビードを積層した予測形状を求める。つまり、溶接ビードを形成するパスの狙い位置と、狙い位置で形成される溶接ビードの予測形状を求める。
判定部35は、溶接ビードの長手方向に直交する断面において、いずれかの溶接ビードの予測形状の輪郭の内側に、その溶接ビードのパスの狙い位置を除く他のパスの狙い位置が含まれるかを判定する。
軌跡情報変更部37は、上記した他のパスの狙い位置が輪郭の内側に含まれる場合に、当該他のパスの狙い位置の情報を、取得した軌跡情報から削除する。
造形条件更新部39は、判定部35が他のパスの狙い位置が含まれていると判定した場合に、パスの個数又は溶接条件を変更して造形条件を更新する。
【0023】
更新された造形条件により修正された造形計画は、造形制御部11に出力される。造形制御部11が、この造形計画に基づいて造形部13を駆動制御することで、より適正な形状に造形された造形物が得られるようになる。
【0024】
上記の造形計画支援装置15は、例えば、PC(Personal Computer)などの情報処理装置を用いたハードウェアにより構成される。造形計画支援装置15の各機能は、不図示の制御部が不図示の記憶装置に記憶された特定の機能を有するプログラムを読み出し、これを実行することで実現される。制御部としては、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processor Unit)等のプロセッサ、又は専用回路等を例示できる。記憶装置としては、揮発性の記憶領域であるRAM(Random Access Memory)、不揮発性の記憶領域であるROM(Read Only Memory)等のメモリ、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)等のストレージを例示できる。
【0025】
また、造形計画支援装置15は、上記した形態のほか、前述したように、ネットワーク等を介して遠隔地から造形制御部11に接続される他のコンピュータでもよい。
【0026】
<造形計画とモデル>
図3A,
図3B,
図3Cは、積層体を構成する溶接ビードの形成パスの決定手順の一例を、溶接ビードの長手方向に直交する断面で示す説明図である。
まず、造形物の形状を例えばCADデータ等の形状データから取得する。そして、
図3Aに示すように、作製する造形物の目標形状Soを所定の溶接ビードのビード高さHに応じて複数の層L1,L2,L3,L4にスライスする。分割の層数、ビード高さは任意に設定でき、形状を分割する具体的な方法は特に限定されず、公知の手段を採用できる。
【0027】
分割した各層L1,L2,L3,L4を、
図3Bに示すように、溶接ビードの断面形状に対応するように、複数の矩形ビードモデルBM0に分割する。これにより、それぞれの層L1,L2,L3,L4が複数の矩形ビードモデルBM0に分割される。この矩形ビードモデルBM0の分割時においては、各矩形ビードモデルBM0でビード長手方向の直交断面におけるビード断面積を一定にする等、条件を指定してもよい。
【0028】
分割された複数の矩形ビードモデルBM0を、
図3Cに示すように、一例として示す単純な幾何図形である半円形状に当てはめる。ここでは、各矩形ビードモデルBM0を底辺41と円弧43を有し、実際の溶接ビードの形状に近い半円形状のビードモデルBMに変更する。当てはめるビードモデルBMの形状は任意であるが、予め溶接条件とビード形状との関係をデータベースとして管理している場合には、そのデータベースを参照して適切な形状のモデルを設定してもよい。
【0029】
そして、得られた半円形状のビードモデルBMの代表位置として、例えば底辺41の中点を溶接ビードの狙い位置Pに設定する。中点である狙い位置Pは、
図3Cの奥行き方向に連続するビードモデルBMの長手方向に沿った点群となる線であり、この線が溶接ビードを形成するパスPSとなる。パスPSは、複数のビードモデルBMそれぞれに設定される。パスPSには、溶接ビードを形成する狙い位置の情報と、溶接ビードの計画高さ(ビード高さH)の情報が含まれる。なお、ビードモデルBMを造形形状の全体に当てはめてパスPSを求める以外にも、造形形状の一部を部分的に生成したパスPSを並列に複製して、造形形状全体のパスPSを求めることでもよい。
【0030】
図2に示す造形条件取得部31は、上記のように演算してパスPSの情報を取得してもよく、他のコンピュータ等により求めたものを読み込んでよい。
【0031】
ここで、ビードモデルBMの他のモデル形状の例を説明する。
図4は、隣接するビード間の重なりを考慮したモデルの一例を示す説明図である。
図4は、溶接ビードの長手方向に直交する断面における3つのモデル形状を示している。各モデルは、基準となるパスPS1のモデルBM1の断面形状が台形であり、モデルBM1にはパスPS2のモデルBM2が隣接して設けられ、モデルBM2にはパスPS3のモデルBM3が隣接して設けられている。モデルBM2,BM3は、
図4の左側に配置されるモデルに一部をオーバーラップさせている。具体的には、モデルBM2,BM3は、基本的にモデルBM1と同じ台形形状であり、モデルBM1側とは反対側となる台形の底辺の一端を中心に、断面形状をそのままに維持して時計回りに所定角度を回転させて、台形の底辺を傾斜させている。そして、モデルBM2がモデルBM1と重なる部分はモデルBM1の領域とし、モデルBM1に含まれないモデルBM2の下方領域をモデルBM2の領域に含ませる。同様に、モデルBM3がモデルBM2と重なる部分はモデルBM2の領域とし、モデルBM2に含まれないモデルBM3の下方領域をモデルBM3の領域に含ませる。
【0032】
その結果、モデルBM2の形状は、モデルBM1の一方の斜辺に寄り添う多角形状(5角形)となり、モデルBM3の形状は、モデルBM2の一方の斜辺に寄り添う多角形状(5角形)となる。このように、各BM1,BM2,BM3は、実際の溶接ビードの断面形状により近似した形状となる。
【0033】
図5は、下層側へ溶接金属が垂れた形状を再現したモデルの一例を示す説明図である。
図5も溶接ビードの長手方向に直交する断面におけるモデル形状を示している。
ベース27に積層された断面形状が台形のモデルBM1と、モデルBM1より上層のモデルBM2,BM3,・・・,BMn(nは整数)のうち、上層の台形のビードモデルBM2,BM3,・・・,BMnについては、底辺45の両端部に、下方へ延びる垂れ部47a,47bを追加している。垂れ部47a,47bの断面形状は、それぞれ底辺45の端部を一辺とする三角形であり、前述した溶接ビードの溶接条件と軌跡情報(パス)に応じて、その形状と面積が設定される。垂れ部47aと垂れ部47bとは、互いに同じ形状でも異なる形状でもよい。また、垂れ部47a,47bは、一対を設ける以外にも、台形のモデルの底辺45のいずれか一方の端部のみに設けてもよい。
【0034】
垂れ部47a,47bを設けたモデルBM2,BM3,・・・,BMnを、造形計画用のビードモデルに設定することで、溶接ビードのビード高さが、溶接ビードに生じる溶融金属の垂れ下がりによる影響が加味される。これにより、オーバーハング部などの溶接ビードの溶融金属が垂れやすい条件下でも、溶接ビードの輪郭の予測形状と実際の形状とが整合されやすくなる。
【0035】
また、モデルの形状は、溶接条件に応じて決定することもできる。溶接条件としては、溶接電流、溶接電圧、トーチの移動速度(運棒速度)、溶加材の送給速度等が挙げられる。
【0036】
例えば、ビード高さHは式(1)から求め、ビード幅LWは式(2)から求めてもよい。
H =C1+C2Wf+C3Ts+C4Wf
2+C5Ts
2+C6WfTs ・・・式(1)
LW=D1+D2Wf+D3Ts+D4Wf
2+D5Ts
2+D6WfTs ・・・式(2)
Ts:トーチ移動速度
Wf:溶加材送給速度
C1~C6:係数
D1~D6:係数
【0037】
モデル形状は、一例として、溶接条件と、溶着断面積、ビード高さ、ビード幅等のパラメータとを関連づけて保存したデータベースから、設定される溶接条件に最も近いモデル形状を探索してもよい。また、上記したデータベースを基に近似式を作成して、その近似式を用いてモデル形状を決定してもよい。
【0038】
<造形計画支援方法>
次に、造形計画支援装置15による造形計画支援方法の手順を説明する。
図6Aは、溶接ビードのパスの狙い位置とモデル形状を示す説明図である。造形計画に基づいて求めた狙い位置が、ベース27上の1層目ではP1-a,P1-b,P1-c、2層目ではP2-a,P2-b,P2-c、3層目ではP3-a,P3-b,P3-cであるとする。各狙い位置に対して、溶接条件に応じた溶接ビードのモデル形状をそれぞれ求めると、1層目ではBM1a,BM1b,BM1c、2層目ではBM2a,BM2b,BM2c、3層目ではBM3a,BM3b,BM3cとなる。これらの各モデル形状の積層高さは、目標形状に対応する狙い位置の高さと不整合となることがある。
【0039】
その場合、本造形計画支援方法では、造形計画に基づく狙い位置で適正な溶接ビードの形成ができるよう、過剰な積層高さを是正するために、2層目の狙い位置とそのモデルを削除する。
【0040】
図6Bは、
図6Aに示すモデルを適正化した結果を示す説明図である。
図6Bに示すように、2層目の狙い位置とそのモデルを削除することで、モデル全体の積層高さが低くなり、造形計画に近い溶接ビードの形成が可能になる。
【0041】
本造形計画支援方法は、概略的には上記した手順を実施することであり、以下、その詳細を説明する。
図7は、造形計画支援方法の各手順を示すフローチャートである。
前述したように、
図2に示す造形条件取得部31は、造形しようとする造形物の軌跡情報、溶接条件を含む造形条件の情報を取得する(S1)。この造形条件の情報は、所定のアルゴリズムにより生成してもよく、作成済みの造形計画の情報、造形プログラムから抽出してもよい。
【0042】
図8A~
図8Iは、造形計画支援方法の各手順を溶接ビードの長手方向に直交する断面上で示す説明図である。ここで造形対象とする造形物の形状は、
図8Aに示す目標形状51であり、この目標形状51は、5つに層分解されてモデルBM1~BM5からなるとする。また、各モデルBM1~BM5の積層方向SDは、鉛直方向から傾斜した方向としているが、この傾斜角度は任意である、
【0043】
図8Aに示す目標形状51を造形するため、形状予測部33は、取得した軌跡情報と溶接条件の情報を基にして、
図8Bに示すように、目標形状51の各モデルBM1~BM5に対応して、形成する溶接ビードのパスの狙い位置P1~P5を求め、各狙い位置P1~P5で形成される溶接ビードB1~B5の形状を予測する(S2)。この場合、溶接ビードB5の予測結果がモデルBM5の積層高さを大きく超過して、不適切な積層状態であるといえる。
【0044】
この不適切な積層状態をなくすために、判定部35は、予測形状と狙い位置(パス生成位置)とを比較する(S3)。まず、
図8Bに示すように、いずれかの溶接ビード、ここでは1層目の溶接ビードB1の予測形状の輪郭の内側に、この溶接ビードB1の狙い位置P1を除く他の狙い位置が含まれるかを判定する(S4)。この場合、狙い位置P1の他に、狙い位置P2が溶接ビードB1の予測形状の輪郭の内側に含まれている。つまり、予測形状の輪郭の内側には、パス生成位置が複数点存在している。
【0045】
そこで、軌跡情報変更部37は、パス生成位置の削除と移動を行う(S5)。具体的には、
図8Cに示すように、狙い位置P2を削除する。また、3層目の狙い位置P3を、1層目の溶接ビードB1の予測形状の輪郭と交差する位置まで、溶接ビードの積層方向SDと平行に移動する。
【0046】
そして、形状予測部33は、
図8Dに示すように、移動後の狙い位置P3に前述した溶接条件で形成する溶接ビードB3の形状を再び予測する。判定部35は、この溶接ビードB3の予測形状の輪郭の内側に、狙い位置P3を除く他の狙い位置が含まれていないかを判定する(S4)。この場合、他の狙い位置が含まれておらず、更に上層が存在するため、処理を続行する(S6)。つまり、
図8Eに示すように、上層となる4層目の狙い位置P4を、前述したように予測した溶接ビードB3の輪郭と交差する位置まで積層方向SDに沿って移動する(S7)。
【0047】
以降は、最上層までこの処理を繰り返す。
図8Fでは、移動後の狙い位置P4に前述した溶接条件で形成する溶接ビードB4の形状を再び予測する。そして、溶接ビードB4の予測形状の輪郭の内側に他のパス生成位置が存在しないことを確認したら、
図8Gに示すように、上層となる5層目の狙い位置P5を移動させる。さらに、
図8Hに示すように、移動後の狙い位置P5に前述した溶接条件で形成する溶接ビードB5の形状を再び予測する。そして、溶接ビードB5の予測形状の輪郭の内側に他のパス生成位置が存在しないことを確認する。
【0048】
以上の処理により、当初の計画では5層構造であったところ、
図8Hに示す4層構造に変更される。これにより、溶接ビードが積層された予測形状は、
図8Bと比較して目標形状51により近似された形状になる。
【0049】
さらに、
図8Iに示すように、変更後の目標形状51の造形に、溶接ビードの過不足が生じないよう、各狙い位置P1,P3,P4,P5の位置を微調整することが好ましい。一般に、目標形状51は最終的な製品形状に余肉分を加えた形状に設定される。
図8Iに示す最上層の溶接ビードB5は、目標形状51からの製品形状を切り出し可能となる程度に、目標形状51の上部領域(モデルBM5の部分)を含んでいる。
【0050】
造形条件更新部39は、最初に造形条件取得部31が取得した造形条件による造形計画を、
図8H又は
図8Iに示す狙い位置P1,P3,P4,P5をパス生成位置とする造形計画に更新する。このように、CADデータ等から求めた造形物の形状を層分割して生成した際、各層の高さ、パス間隔等のパラメータが、設定された溶接条件と整合しない場合でも、分割する層数、パス数を調整することで、造形物の目標形状を精度よく再現できる。
【0051】
なお、上記の手順では、溶接条件を変更せずにパスを変更していたが、パスの変更と併せて溶接条件を変更してもよい。その場合、種々の積層状況に応じて溶接条件を変更することで、ビード幅、ビード高さ等の各種ビード形状のパラメータが調整可能となり、積層形状を目標形状51に、より簡単に近似できるようになる。
【0052】
そして、更新後の造形条件の軌跡情報と溶接条件の情報とに基づいて、形状予測部33による予測形状の算出と、判定部35による他のパスの狙い位置が含まれるかの判定と、軌跡情報変更部37による軌跡情報の変更と、造形条件更新部39による造形条件の更新と、を繰り返し実施するのが好ましい。この造形条件の更新を繰り返し行うことで、最適なパスの個数、層数、溶接条件の探索を自動的に、且つ広範囲に実施できる。
【0053】
判定部35が、予測形状の輪郭の内側に他の層の狙い位置(パス生成位置)が存在しないかを判定する際、輪郭位置を境界として内側か外側かを判定することに限らない。
図9Aは、判定部35が溶接ビードの積層方向SDに関して狙い位置を判定する基準を示す説明図である。1層目の溶接ビードの狙い位置P1で形成される溶接ビードB1の予測形状の輪郭の内側には、2層目の溶接ビードの狙い位置P2が含まれている。その場合、狙い位置P2と輪郭との積層方向SDに沿った長さ、即ち、狙い位置P2の溶接ビードB1の予測形状内への食い込み量Dhが、所定値以上又は所定範囲であるときに、内側に存在すると判定してもよい。
【0054】
例えば、狙い位置P2が予測形状の内側に存在しても、輪郭線のごく近傍に存在する場合、仮に狙い位置P2を削除しても溶接ビードの積層状態に大きな影響は及ばず、寧ろ、目標形状からのずれが拡大する。その場合には、狙い位置P2を輪郭の内側と見做さないようにする。これにより、パスの過剰な削除を抑制でき、再度溶接ビードの予測形状を演算する無駄な工程を省略できる。よって、処理速度を向上できる。
【0055】
上記した事項は、溶接ビードの積層方向に限らず、溶接ビードの並び方向についても同様に実施できる。
図9Bは、判定部35が溶接ビードの並び方向LDに関して狙い位置を判定する基準を示す説明図である。ここでは、1層目の溶接ビードを、並び方向LDに沿って複数列で形成する場合に、一列目の溶接ビードB1-1の狙い位置をP1-1、2列目の溶接ビードB1-2の狙い位置をP1-2、3列目の溶接ビードP1-3の狙い位置をP1-3とする。溶接ビードB1-1の予測形状の輪郭の内側に、2列目の狙い位置P1-2が含まれている。その場合、狙い位置P2と輪郭との並び方向LDに沿った長さ、即ち、狙い位置P2の溶接ビードB1の予測形状内へ食い込む、食い込み量をDwと定義する。この食い込み量Dwが、所定値以上又は所定範囲であるときに、狙い位置P2が輪郭の内側に存在すると判定してもよい。その場合、上記した積層方向SDの場合と同様に、無駄な演算を省略でき、処理速度を向上できる。
【0056】
<パス生成位置の他の調整例>
上記のような溶接ビードの狙い位置(パス生成位置)の調整は、その処理順序によって積層結果が変化する場合がある。
図10A~
図10Cは、複数の溶接ビードを並列させて形成する場合に、狙い位置を削除した例を示す参考図である。
図10Aに示すように、ベース27の凹部27aにおいて狙い位置P1,P2,P3,P4の順で溶接ビードを形成する場合、溶接ビードB1の予測形状の輪郭の内側には、狙い位置P1以外に、狙い位置P3が含まれる。また、溶接ビードB2の予測形状の輪郭の内側には、狙い位置P2以外に、狙い位置P4が含まれる。そこで、
図10Bに示すように、前述した手順に従って狙い位置P3,P4を削除すると、溶接ビードB1,B2が残り、溶接ビードB3,B4が共に削除される。すると、
図10Cに示すように、狙い位置P1,P2の位置をビード幅の中央に寄せて調整しても、溶接ビードB1と溶接ビードB2との間に未溶着領域53が生じてしまう。
【0057】
その場合、パス数を増加させることで、未溶着領域53の発生を防止できる。
図11A~
図11Dは、複数の溶接ビードを並列させて形成する場合に、狙い位置を削除した他の例を示す説明図である。ここでは、
図10Aの場合よりもパス数を1つ増やしている。
図11Aに示すように、ベース27の凹部27aにおいて狙い位置P1,P2,P3,P4,P5の順で溶接ビードを形成する場合、溶接ビードB1の予測形状の輪郭の内側には、狙い位置P1以外に、狙い位置P3が含まれる。そこで、
図11Bに示すように、前述した手順に従って狙い位置P3を削除する。次に、同様にして
図11Cに示すように、狙い位置P4を削除する。すると、溶接ビードB1,B2,B5が残り、溶接ビードB3,B4が削除される。そして、
図11Dに示すように、狙い位置P1,P2,P5の位置をそれぞれビード幅の中央に寄せて調整する。これによれば、溶接ビードB1,B2,B5によって、ベース27の凹部27aが隙間なくビードで充填される。
【0058】
上記したように、パス数を4としたときに適正な解が存在しない場合、パス数を変更することで、
図11Dに示すような適正解が得られる。また、パス数の削除の影響を加味しつつ、パス数の調整が行える。そのため、必要な溶接ビードの残体積を把握でき、溶接条件を微調整した上で適切なビード形状を逐次生成できる。適正なパス数は、前述した狙い位置の調整の手順を繰り返し実行することで、最も効率のよいパス数、層数の把握、適切な溶接条件を自動で探索できる。
【0059】
図12A~
図12Cは、複数の溶接ビードを並列させて形成する場合に、狙い位置を削除した他の例を示す参考図である。
図12Aに示すように、ベース27の凹部27aにおいて狙い位置P1,P2,P3,P4,P5の順で溶接ビードを形成する場合、溶接ビードB1の予測形状の輪郭の内側には、狙い位置P1以外に、狙い位置P3が含まれる。また、溶接ビードB2の予測形状の輪郭の内側には、狙い位置P2以外に、狙い位置P4が含まれる。そこで、
図12Bに示すように、前述した手順に従って狙い位置P3,P4を一括して削除すると、溶接ビードB1,B2及びB3が残り、溶接ビードB4,B5が共に削除される。なお、溶接ビードB3については、予測形状の輪郭の内側に狙い位置P5が含まれるため、削除せずにそのまま保持している。すると、
図12Cに示すように、狙い位置P5,P2の位置をビード幅の中央に寄せて調整しても、溶接ビードB3と溶接ビードB2との間に未溶着領域53が生じてしまう。このように、溶接ビードの予測形状を一括して求めた後にパス数を調整すると、パスが過剰に削除されてしまい、中央付近を埋める溶接ビードが消失してしまう。
【0060】
その場合、1つの溶接ビードの予測形状を生成するごとに、パス生成位置の削除を実施するか否かを判定するとよい。
図13A~
図13Dは、複数の溶接ビードを並列させて形成する場合に、狙い位置を削除した他の例を示す説明図である。
図13Aに示すように、ベース27の凹部27aにおいて狙い位置P1,P2,P3,P4,P5の順で溶接ビードを形成する場合、溶接ビードB1の予測形状の輪郭の内側には、狙い位置P1以外に、狙い位置P3が含まれる。そこで、
図13Bに示すように、前述した手順に従って狙い位置P3を削除する。次に、同様にして
図13Cに示すように、狙い位置P4を削除する。すると、溶接ビードB1,B2,B5が残り、溶接ビードB3,B4が削除される。そして、
図13Dに示すように、狙い位置P1,P2,P5の位置をそれぞれビード幅の中央に寄せて調整する。これによれば、溶接ビードB1,B2,B5によって、ベース27の凹部27aが隙間なくビードで充填される。
【0061】
このように、パスを削除するタイミングを変更することで、
図13Dに示すような適正解が得られる。この場合も、必要な溶接ビードの残体積を把握でき、溶接条件を微調整した上で適切なビード形状を逐次生成できる。
【0062】
また、削除したパスの狙い位置に隣り合うパスの狙い位置を、予測形状の輪郭に交差する位置に接近させることで、狙い位置とビード表面との位置が乖離して溶接ビードが想定通りに形成されない事態を回避でき、マニピュレータの空振り、及びマニピュレータと他部材との干渉を抑制できる。
【0063】
このように、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせること、及び明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0064】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) マニピュレータが保持する溶加材を熱源装置によって溶融させて形成する溶接ビードを繰り返し積層して造形物を製造する際の、前記造形物の造形条件を決定する造形計画支援装置であって、
前記溶接ビードを形成するパスの狙い位置を含む軌跡情報、及び前記溶接ビードを形成する溶接条件の情報を取得する造形条件取得部と、
前記軌跡情報と前記溶接条件の情報に基づいて複数の前記溶接ビードを積層した予測形状を求める形状予測部と、
前記溶接ビードの長手方向に直交する断面において、いずれかの前記溶接ビードの予測形状の輪郭の内側に、当該溶接ビードを形成するパスの狙い位置を除く他のパスの狙い位置が含まれるか判定する判定部と、
前記他のパスの狙い位置が前記輪郭の内側に含まれる場合に、当該他のパスの狙い位置を前記軌跡情報から削除する軌跡情報変更部と、
を備える造形計画支援装置。
この造形計画支援装置によれば、造形条件取得部が取得した軌跡情報と溶接条件の情報に基づき、形状予測部が溶接ビードの予測形状を求め、判定部が、予測形状の輪郭の内側に他のパスの狙い位置が含まれると判定した場合に、軌跡情報変更部は、他のパスの狙い位置を軌跡情報から削除する。これにより、積層された溶接ビードの予測形状が目標形状に整合しない場合でも、層数、パス数を自動的に調整して、適正な積層形状が得られるようになる。
【0065】
(2) 前記判定部は、前記他のパスの狙い位置が前記輪郭の内側に食い込む量に応じて、前記他のパスの狙い位置が含まれるかを判定する、(1)に記載の造形計画支援装置。
この造形計画支援装置によれば、他のパスの狙い位置が輪郭の近傍に存在する場合に、パスを過剰に削除することが抑制され、演算処理を軽減できる。
【0066】
(3) 前記形状予測部による前記予測形状の予測と、前記判定部による前記他のパスの狙い位置が含まれるかの判定とを、前記パス毎に実施する、(1)又は(2)に記載の造形計画支援装置。
この造形計画支援装置によれば、パス毎に予測と判定を逐次実施するため、予測形状の余分な生成を回避できる。また、予測形状を一括して生成する場合に比べて、不用意に溶接ビードが削除されることがなく、必要な充填体積が確実に確保できる調整が可能となる。
【0067】
(4) 前記判定部が前記他のパスの狙い位置が含まれていると判定した場合に、前記パスの個数又は前記溶接条件を変更して前記造形条件を更新する造形条件更新部を備える、(1)~(3)のいずれか1つに記載の造形計画支援装置。
この造形計画支援装置によれば、実際の積層形状が造形物の目標形状により近くなる造形条件が自動的に得られる。
【0068】
(5) 更新後の前記造形条件の前記軌跡情報と前記溶接条件の情報とに基づいて、前記形状予測部による前記予測形状の算出と、前記判定部による前記他のパスの狙い位置が含まれるかの判定と、前記軌跡情報変更部による前記軌跡情報の変更と、前記造形条件更新部による前記造形条件の更新とを繰り返し実施する、(4)に記載の造形計画支援装置。
この造形計画支援装置によれば、造形条件の更新を繰り返し行うことで、最適なパスの個数、層数、溶接条件の探索を自動的に、且つ広範囲に実施できる。
【0069】
(6) 前記造形条件更新部は、複数の前記パスにおける、隣り合う前記パスの狙い位置同士の間隔を、前記造形物の目標形状に応じて調整する、(4)に記載の造形計画支援装置。
この造形計画支援装置によれば、パスの狙い位置の削除により変更された溶接ビードの積層形状を、目標形状により近づけることができる。
【0070】
(7) 前記調整は、前記予測形状の輪郭の内側に含まれる前記他のパスの狙い位置を削除し、当該他のパスに隣り合うパスの狙い位置を、前記予測形状の輪郭に接近させる、(6)に記載の造形計画支援装置。
この造形計画支援装置によれば、削除したパスの狙い位置に隣り合うパスの狙い位置を、予測形状の輪郭に近づけることで、狙い位置とビード表面との位置が乖離して溶接ビードが想定通りに形成されない事態を回避でき、マニピュレータの空振り、及びマニピュレータと他部材との干渉を抑制できる。
【0071】
(8) 前記隣り合う方向は、前記溶接ビードの積層方向又は前記溶接ビードの並び方向である、(7)に記載の造形計画支援装置。
この造形計画支援装置によれば、溶接ビードの積層方向と並び方向に応じて、より適正な溶接ビードの積層形状が得られる。
【0072】
(9) マニピュレータが保持する溶加材を熱源装置によって溶融させて形成する溶接ビードを繰り返し積層して造形物を製造する際の、前記造形物の造形条件を決定する造形計画支援方法であって、
前記溶接ビードを形成するパスの狙い位置を含む軌跡情報、及び前記溶接ビードを形成する溶接条件の情報を取得し、
前記軌跡情報と前記溶接条件の情報に基づいて複数の前記溶接ビードを積層した予測形状を求め、
前記溶接ビードの長手方向に直交する断面において、いずれかの前記溶接ビードの予測形状の輪郭の内側に、当該溶接ビードを形成するパスの狙い位置を除く他のパスの狙い位置が含まれるか判定し、
前記他のパスの狙い位置が前記輪郭の内側に含まれる場合に、当該他のパスの狙い位置を前記軌跡情報から削除する、
造形計画支援方法。
この造形計画支援方法によれば、取得した軌跡情報と溶接条件の情報に基づき、溶接ビードの予測形状を求め、予測形状の輪郭の内側に他のパスの狙い位置が含まれると判定した場合に、他のパスの狙い位置を軌跡情報から削除する。これにより、積層された溶接ビードの予測形状が目標形状に整合しない場合でも、層数、パス数を自動的に調整して、適正な積層形状が得られるようになる。
【0073】
(10) 前記他のパスの狙い位置が含まれていると判定された場合に、前記パスの個数又は前記溶接条件を変更して前記造形条件を更新する、(9)に記載の造形計画支援方法。
この造形計画支援方法によれば、実際の積層形状が造形物の目標形状により近くなる造形条件が自動的に得られる。
【0074】
(11) マニピュレータが保持する溶加材を熱源装置によって溶融させて形成する溶接ビードを繰り返し積層して造形物を製造する際の、前記造形物の造形条件を決定する造形計画支援の手順を実行するためのプログラムであって、
コンピュータに、
前記溶接ビードを形成するパスの狙い位置を含む軌跡情報、及び前記溶接ビードを形成する溶接条件の情報を取得する手順と、
前記軌跡情報と前記溶接条件の情報に基づいて複数の前記溶接ビードを積層した予測形状を求める手順と、
前記溶接ビードの長手方向に直交する断面において、いずれかの前記溶接ビードの予測形状の輪郭の内側に、当該溶接ビードを形成するパスの狙い位置を除く他のパスの狙い位置が含まれるか判定する手順と、
前記他のパスの狙い位置が前記輪郭の内側に含まれる場合に、当該他のパスの狙い位置を前記軌跡情報から削除する手順と、
を実行するためのプログラム。
このプログラムによれば、取得した軌跡情報と溶接条件の情報に基づき、溶接ビードの予測形状を求め、予測形状の輪郭の内側に他のパスの狙い位置が含まれると判定した場合に、他のパスの狙い位置を軌跡情報から削除する。これにより、積層された溶接ビードの予測形状が目標形状に整合しない場合でも、層数、パス数を自動的に調整して、適正な積層形状が得られるようになる。
【0075】
(12) 前記他のパスの狙い位置が含まれていると判定された場合に、前記パスの個数又は前記溶接条件を変更して前記造形条件を更新する手順を更に実行する、(11)に記載のプログラム。
このプログラムによれば、実際の積層形状が造形物の目標形状により近くなる造形条件が自動的に得られる。
【符号の説明】
【0076】
11 造形制御部
13 造形部
15 造形計画支援装置
17 マニピュレータ
19 溶加材供給部
19a リール
19b 繰り出し機構
21 マニピュレータ制御部
23 熱源制御部
25 トーチ
27 ベース
27a 凹部
31 造形条件取得部
33 形状予測部
35 判定部
37 軌跡情報変更部
39 造形条件更新部
41 底辺
43 円弧
45 底辺
47a,47b 垂れ部
51 目標形状
53 未溶着領域
100 積層造形装置
B,B1,B2,B3,B4,B5,B1-1,B1-2,B1-3 溶接ビード
BM0 矩形ビードモデル
BM1,BM2,BM3、BMn モデル
Dh,Dw 食い込み量
H ビード高さ
L1,L2,L3,L4 層
LD 並び方向
M 溶加材
P 位置
P1,P2,P3,PS,PS1,PS2,PS3 パス
SD 積層方向
S0 目標形状
W 造形物