(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024021424
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】電磁波吸収シート
(51)【国際特許分類】
H05K 9/00 20060101AFI20240208BHJP
B32B 7/025 20190101ALI20240208BHJP
H01Q 17/00 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
H05K9/00 M
B32B7/025
H01Q17/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022124240
(22)【出願日】2022-08-03
(71)【出願人】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】マクセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】豊田 将之
【テーマコード(参考)】
4F100
5E321
5J020
【Fターム(参考)】
4F100AB00C
4F100AB17C
4F100AB24C
4F100AD11A
4F100BA03
4F100BA07
4F100CB05B
4F100GB41
4F100JD05B
4F100JD08C
4F100JG01A
4F100JG04A
4F100JK17
4F100JN01A
4F100JN01B
4F100JN01C
5E321AA23
5E321BB21
5E321BB23
5E321BB31
5E321BB44
5E321CC16
5E321GG12
5J020EA03
5J020EA04
5J020EA05
5J020EA07
5J020EA08
(57)【要約】
【課題】高い透光性と可撓性、高い電磁波吸収特性を有する電磁波干渉型の電磁波吸収シートを得る。
【解決手段】いずれも透光性を有する抵抗皮膜12と誘電体層13と電磁波遮蔽層14とが順次積層されて形成された可撓性と透光性とを有する電磁波干渉型の電磁波吸収シート10であって、前記電磁波遮蔽層が金属ナノワイヤーによる膜で形成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
いずれも透光性を有する抵抗皮膜と誘電体層と電磁波遮蔽層とが順次積層されて形成された可撓性と透光性とを有する電磁波干渉型の電磁波吸収シートであって、
前記電磁波遮蔽層が金属ナノワイヤーによる膜で形成されていることを特徴とする、電磁波吸収シート。
【請求項2】
前記金属ナノワイヤーとして、銀ナノワイヤー、または、銅ナノワイヤーの少なくともいずれか一方が含まれている、請求項1に記載の電磁波吸収シート。
【請求項3】
前記電磁波遮蔽層の電気抵抗値が50Ω/sq以下である、請求項1に記載の電磁波吸収シート。
【請求項4】
電磁波吸収シート全体としての全光線透過率が70%以上である、請求項1に記載の電磁波吸収シート。
【請求項5】
前記抵抗皮膜が導電性有機高分子にカーボンナノチューブを含んで構成されている、請求項1に記載の電磁波吸収シート。
【請求項6】
前記誘電体層が透明光学粘着フィルムで構成されている、請求項1に記載の電磁波吸収シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、不所望な電磁波を吸収する電磁波吸収シートに関し、特に、いわゆる電磁波干渉型の電磁波吸収体であり、可撓性とシート全体の透光性とを有する電磁波吸収シートに関する。
【背景技術】
【0002】
電気回路などから外部へと放出される漏洩電磁波や、不所望に反射した電磁波の影響を回避するために、電磁波を吸収する電磁波吸収体が用いられている。
【0003】
近年は、携帯電話などの移動体通信や無線LAN、料金自動収受システム(ETC)などで、数ギガヘルツ(GHz)の周波数帯域を持つセンチメートル波、さらには、30ギガヘルツから300ギガヘルツの周波数を有するミリ波帯、ミリ波帯域を超えた高い周波数帯域の電磁波としてテラヘルツ(THz)帯域の周波数を有する電磁波を利用する技術の研究が進み、不要な電磁波を吸収する電磁波吸収体に対しても、ミリ波帯域からそれ以上の高い周波数帯域の電磁波を吸収可能とするものへの要望がより強くなることが考えられる。
【0004】
不要な電磁波の反射を抑えて吸収する電磁波吸収体としては、誘電体層の電磁波入射側表面に抵抗皮膜が設けられ、反対側の裏面には電磁波を反射する電磁波遮蔽層が設けられて、電磁波遮蔽層で反射して外部に放射される電磁波の位相を抵抗皮膜表面で反射する電磁波の位相から1/2波長分ずらすことで、電磁波吸収体から反射する電磁波を打ち消しあって吸収するいわゆる電磁波干渉型(λ/4型、反射型とも言う)のものが知られている。電磁波干渉型の電磁波吸収体は、磁性体粒子によって磁気的に電磁波を吸収するタイプの電磁波吸収体と比べて軽量であり、容易に製造することができるため低コスト化が可能という利点を有している。
【0005】
発明者らは、薄型に形成された電磁波干渉型の電磁波吸収体である電磁波吸収シートとして、高い可撓性と透光性とを備え、所望する周波数帯域の電磁波を良好に吸収することができる電磁波吸収シートを提案している(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開番号WO2018/163584号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来の電磁波吸収シートは、誘電体層の表面に形成される抵抗皮膜に導電性有機高分子膜を採用することで高い可撓性を備えるとともに、抵抗皮膜と誘電体層とを透光性を有する部材を用いて構成し、電磁波遮蔽層に開口率が35%以上85%以下の導電メッシュなどを用いて透光性を確保することで、ミリ波帯域以上の高周波数帯域の電磁波を良好に吸収しつつ電磁波吸収シート全体として全光線透過率が30%以上の透光性を有する。
【0008】
しかし、上記従来の電磁波吸収シートでは、電磁波吸収シートに入射する電磁波の吸収特性が、その周波数が高くなるにつれて低下し、透過減衰量が低下することが確認された。また、上記従来の電磁波吸収シートでは、電磁波吸収シートを通してその背面側を目視した際に全体的にグレーかかって見え、測定数値としての全光線透過率よりも透過光量が少ない印象を与えることが確認された。
【0009】
本開示は、上記従来の電磁波吸収シートの課題を解決し、高い透光性と可撓性、高い電磁波吸収特性を有する電磁波吸収シートを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため本願で開示する電磁波吸収シートは、いずれも透光性を有する抵抗皮膜と誘電体層と電磁波遮蔽層とが順次積層されて形成された可撓性と透光性とを有する電磁波干渉型の電磁波吸収シートであって、前記電磁波遮蔽層が金属ナノワイヤーによる膜で形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本願で開示する電磁波吸収シートは、透光性を有する誘電体層を透過した電磁波を反射する電磁波遮蔽層として、金属ナノワイヤーにより形成された膜を用いることで、電磁波吸収シートの透光性と、高い周波数の電磁波の透過減衰量の向上とを高いレベルで両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施形態にかかる電磁波吸収シートの概略構成を説明する模式図である。
【
図2】本実施形態にかかる電磁波吸収シートの電磁波遮蔽層の表面状態を示す図である。
【
図3】本実施形態にかかる電磁波吸収シートに用いられる、電磁波遮蔽層の透過減衰量の測定結果を示す図である。
【
図4】本実施形態にかかる電磁波吸収シートの、透過減衰量の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本願で開示する電磁波吸収シートは、いずれも透光性を有する抵抗皮膜と誘電体層と電磁波遮蔽層とが順次積層されて形成された可撓性と透光性とを有する電磁波干渉型の電磁波吸収シートであって、前記電磁波遮蔽層が金属ナノワイヤーによる膜で形成されている。
【0014】
このようにすることで、本願で開示する電磁波吸収シートは、電磁波吸収シートに入射する電磁波の周波数が高い場合でも、電磁波遮蔽層における透過減衰量を高く維持することができ電磁波吸収シートを透過する電磁波を良好に吸収することができる。また、電磁波吸収シートを透過する透過光の全光線透過率を高く維持し、ヘイズ値も小さくすることができる。
【0015】
上記電磁波吸収シートにおいて、前記金属ナノワイヤーとして、銀ナノワイヤー、または、銅ナノワイヤーの少なくともいずれか一方が含まれていることが好ましい。銀ナノワイヤーと銅ナノワイヤーは金属ナノワイヤーとして実用化が進んでおり、また、電気伝導度が高い材料で形成されているため、透過減衰量が大きく、高い光学的性能を備えた電磁波吸収シートを作製することができる。
【0016】
なお、前記電磁波遮蔽層の電気抵抗値が50Ω/sq以下であることが好ましい。このようにすることで、電磁波遮蔽層で電磁波を効率よく反射することができる。
【0017】
さらに、電磁波吸収シート全体としての全光線透過率が70%以上であることが好ましい。このようにすることで、電磁波吸収シートを通して背面側の状態を目視にて容易に確認することができる。
【0018】
また、前記抵抗皮膜がカーボンナノチューブを含んで構成されていることが好ましい。このようにすることで抵抗皮膜を容易に形成することができるとともに、電波吸収体が変形した場合でもその表面抵抗値を維持することができる。また、高温多湿の環境下等でも表面抵抗値の変化を抑えることができる。
【0019】
さらに、前記誘電体層が光学透明粘着材で構成されていることが好ましい。このようにすることで、透光率の高い誘電体層を構成することができ、さらに、誘電体層と抵抗皮膜とを、また、誘電体層と電磁波遮蔽層とを、接着層などの他の部材を用いることなく積層、接着することができる。
【0020】
以下、本願で開示する電磁波吸収シートについて、図面を参照して説明する。
【0021】
(実施の形態)
図1は、本実施形態にかかる電磁波吸収シートの構成を示す模式図である。
【0022】
図1は、本実施形態にかかる電磁波吸収シートの積層構成を理解しやすくするために記載された図であり、図中に示された各層の厚さは現実に即したものではない。
【0023】
本実施形態で例示する電磁波吸収シート10は、抵抗皮膜12、誘電体層13、電磁波遮蔽層14がこの順に積層され、さらに抵抗皮膜12の電磁波1が入射する側の表面、すなわち、抵抗皮膜12において誘電体層13が配置されている側とは反対側の面に保護層11が形成されている。また、
図1に例示する電磁波吸収シート10では、電磁波遮蔽層14の背面側、すなわち、電磁波遮蔽層14において誘電体層13が配置されている側とは反対側には粘着層15が積層形成されていて、さらに粘着層15を保護し電磁波1を吸収する場所に配置される際に剥離されるセパレートフィルム16を有している。
【0024】
本実施形態にかかる電磁波吸収シート10は、電磁波干渉型(λ/4型、反射型とも称される)であり、抵抗皮膜12側から誘電体層13に入射した電磁波1が、誘電体層13の背面側に配置されている電磁波遮蔽層14との界面で反射されて、反射波として再び外部へと放出される。このとき、誘電体層13の厚さを入射した電磁波の波長λの1/4とする(d=λ/4)ことで、電磁波吸収シート10の表面に設けられた抵抗皮膜12の表面で反射した一次反射波と電磁波遮蔽層14の表面で反射した二次反射波との位相が半波長(180°)分ずれることで打ち消しあい、見かけ上電磁波吸収シート10によって電磁波1が吸収されたようになる。
【0025】
ここで、d=λ/4となるのは、誘電体層13として誘電率ε=1の物質が用いられる場合であり、誘電体層13に用いられる誘電体の誘電率がεrである場合には、d=λ/(4(εr)-1/2)となって誘電体層13の厚さdを、1/(εr)-1/2だけ薄くすることができる。誘電体層13を薄く形成することで、電磁波吸収シート10全体の薄型化を実現でき、電磁波吸収シート10の低コスト化が図れるとともに、可撓性を有する電磁波吸収シート10や弾性を有する電磁波吸収シート10をより容易に実現することができるようになる。
【0026】
誘電体層13の背面側に積層して形成される電磁波遮蔽層14は、誘電体層13との境界面である誘電体層13側の表面で、入射してきた電磁波1を反射する層である。このため、電磁波遮蔽層14は反射層と称されることもある。本実施形態にかかる電磁波吸収シート10では、電磁波遮蔽層14が金属ナノワイヤーによる膜で形成されている。
【0027】
電磁波干渉型の電磁波吸収シート10において、抵抗皮膜12は、誘電体層13の前面側である吸収する電磁波1が入射する側において、電磁波吸収シート10と空気との間のインピーダンス整合を行う。
【0028】
空気中を伝搬してきた電磁波1が電磁波吸収シート10に入射する際、電磁波吸収シート10の入力インピーダンス値が空気のインピーダンス値と異なる値であると、このインピーダンスの差によって電磁波吸収シート10に入射する電磁波1の反射量が大きくなって電磁波吸収シート10の電磁波吸収特性を低下させることとなる。このため、電磁波吸収シート10の入力インピーダンスを空気のインピーダンス(正確には真空のインピーダンス値)と等しい377Ωとして、電磁波吸収シート10への電磁波1の入射時に抵抗皮膜12の表面で反射・散乱が生じて電磁波吸収特性が低下することを防ぐことが重要となる。
【0029】
本実施形態の電磁波吸収シート10では、抵抗皮膜12を導電性有機高分子の膜として形成することで、電磁波吸収シート10としての可撓性を確保するとともに、電磁波吸収シート10が強く折り曲げられた場合でも抵抗皮膜12のひび割れなどが生じず、その結果、表面抵抗値が変化せずに良好なインピーダンス整合を維持することができる。
【0030】
保護層11は、抵抗皮膜12の表面、すなわち、電磁波吸収シート10において電磁波1が入射する側の最表面に形成され、抵抗皮膜12を保護する部材である。電磁波吸収シート10の抵抗皮膜12は、表面に水分が付着するとその表面抵抗値が変化する場合がある。また、抵抗皮膜12として導電性有機高分子膜を採用しているため、表面に尖った部材が接触した場合や硬い材質のもので擦られた場合に傷がついてしまい、抵抗皮膜12の表面抵抗値が変化してしまうおそれがある。このため、抵抗皮膜12の表面を保護層11で覆うことで、抵抗被膜12を保護して、インピーダンス整合状態を維持することが重要である。本実施形態で例示する電磁波吸収シート10では、保護層11として、ポリエチレンテレフタレート(PET)で形成された膜を使用している。
【0031】
粘着層15は、電磁波吸収シート10を所定の場所に容易に貼り付けることができるように、電磁波遮蔽層14の背面側に形成される層である。粘着層15は、粘着性の樹脂ペーストを塗布することで容易に形成できる。
【0032】
なお、粘着層15は、本実施形態にかかる電磁波吸収シート10において必須の部材ではない。電磁波吸収シート10を所定の場所に配置するに当たっては、電磁波吸収シート10が貼り付けられる部材側に接着のための部材が配置されていてもよく、また、電磁波吸収シート10を所定の場所に配置する際に、電磁波吸収シート10と配置場所との間に接着剤を供給する、または、両面テープなどの接着部材を用いる、などの従来周知の各種接着方法を採用することができる。
【0033】
本実施形態にかかる電磁波吸収シート10では、保護層11、抵抗皮膜12、誘電体層13、電磁波遮蔽層14、粘着層15を、いずれも光を透過させる材料で構成することで電磁波吸収シート10全体として所定の透光性を有している。また、上述のように、抵抗皮膜12が導電性有機高分子を主体として形成されるとともに、保護層11、誘電体層13、粘着層15を樹脂材料で形成し、さらに、電磁波遮蔽層14が樹脂製バインダー内に金属ナノチューブを含む層として形成されているため、電磁波吸収シート10全体としての可撓性が確保されている。
【0034】
[各部材の詳細について]
次に、本実施形態にかかる電磁波吸収シート10を構成する各層についての詳細を説明する。
【0035】
<抵抗皮膜>
本実施形態にかかる電磁波吸収シート10において、抵抗皮膜12は、導電性有機高分子で構成される。
【0036】
導電性有機高分子としては、共役導電性有機高分子が用いられ、ポリチオフェンやその誘導体、ポリピロールやその誘導体を用いることが好ましい。
【0037】
抵抗皮膜としては、主鎖がπ共役系で構成されている有機高分子を使用することができ、ポリアセチレン系導電性高分子、ポリフェニレン系導電性高分子、ポリフェニレンビニレン系導電性高分子、ポリアニリン系導電性高分子、ポリアセン系導電性高分子、ポリチオフェンビニレン系導電性高分子、および、これらの共重合体等を用いることができる。
【0038】
なお、抵抗皮膜に用いられる導電性有機高分子として、ポリアニオンをカウンターアニオンとして用いることができる。ポリアニオンとしては特に限定されないが、上述した抵抗皮膜1に用いられる共役導電性有機高分子に、化学酸化ドープを生じさせることができるアニオン基を含有するものが好ましい。このようなアニオン基としては、例えば、一般式-O-SO3X、-O-PO(OX)2、-COOX、-SO3Xで表される基等(各式中、Xは水素原子またはアルカリ金属原子を示す。)が挙げられ、中でも、共役導電性有機高分子へのドープ効果に優れることから、-SO3X、および、-O-SO3Xで表される基が特に好ましい。
【0039】
上記導電性有機高分子は、1種を単独で使用してもよいし2種以上を併用してもよい。上記例示した材料の中でも、透明性と導電性とがより高くなることから、ポリピロール、ポリ(3-メトキシチオフェン)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(2-アニリンスルホン酸)、ポリ(3-アニリンスルホン酸)から選ばれる1種または2種からなる重合体が好ましい。
【0040】
特に、共役系の導電性有機高分子とポリアニオンの組み合わせとしては、ポリ(3、4-エチレンジオキシチオフェン:PEDOT)と、ポリスチレンスルホン酸(PSS)を用いることが好ましい。
【0041】
また、本実施形態にかかる電磁波吸収シート10の抵抗皮膜12においては、導電性有機高分子の電気伝導度を制御して、電磁波吸収シートの入力インピーダンスを空気中のインピーダンス値と整合させるために、ドーパントを併用することができる。ドーパントとしては、ヨウ素、塩素等のハロゲン類、BF3、PF5等のルイス酸類、硝酸、硫酸等のプロトン酸類や、遷移金属、アルカリ金属、アミノ酸、核酸、界面活性剤、色素、クロラニル、テトラシアノエチレン、TCNQ等が使用できる。抵抗皮膜の表面抵抗値は、導電性有機高分子とドーパントとの配合割合によって調整することができる。導電性有機高分子とドーパントとの好ましい配合割合は、一例として質量比で導電性高分子:ドーパント=1:2~1:4とすることができる。
【0042】
さらに、抵抗皮膜を形成する材料としては、他にポリフッ化ビニリデン、水溶性ポリエステルを含むことが好ましい。これらを含むことで、抵抗皮膜の耐候性が向上するため、抵抗皮膜の表面抵抗値の経時的な変化を抑えることができ、抵抗被膜を保護する保護層の材料や厚さの設計裕度を広げることができる。
【0043】
ポリフッ化ビニリデンは、導電性有機高分子をコーティングする際の組成物に加えることで、導電性有機高分子膜の中でバインダーとしての機能を果たし、成膜性を向上させるとともに基材との密着性を高めることができる。
【0044】
また、水溶性ポリエステルは導電性高分子との相溶性が高いため、抵抗皮膜を形成する導電性有機高分子のコーティング組成物に水溶性ポリエステルを加えることで抵抗皮膜1内において導電性高分子を固定化させ、より均質な皮膜を形成することができる。この結果、水溶性ポリエステルを用いることで、より厳しい高温高湿環境下におかれた場合でも表面抵抗値の変化が小さくすることができる。
【0045】
抵抗皮膜における導電性有機高分子の含有量は、抵抗皮膜組成物に含まれる固形分の全質量に対して、10質量%以上35質量%以下であることが好ましい。含有量が10質量%を下回ると、抵抗皮膜の導電性が低下する傾向にある。このため、インピーダンス整合をとるために抵抗皮膜の表面電気抵抗値を所定の範囲とした結果、抵抗皮膜の膜厚が大きくなることによって、電磁波吸収シート全体が厚くなったり光学特性が低下したりする傾向がある。一方、含有量が35質量%を超えると、導電性有機高分子の構造に起因して抵抗皮膜をコーティングする際の塗布適正が低下して、良好な抵抗皮膜を形成しづらくなり、抵抗皮膜のヘイズが上昇して、やはり光学特性が低下する傾向にある。
【0046】
また抵抗被膜がカーボンマイクロコイル、カーボンナノチューブ、グラフェン、カーボンナノストラクチャー等のカーボン材料を含む構成でも良い。
【0047】
カーボンマイクロコイルは、主としてアセチレンの触媒活性化熱分解法によって得られる一種の気相成長カーボンファイバーであり、コイル径がミクロンオーダーの3D-ヘリカル/らせん構造をなしている材料である。コイル径は1~10μmであり、該コイルを形成するカーボンファイバー径は0.1~1μmであり、コイルの長さは1~10mmであることが好ましい。
【0048】
カーボンナノチューブは、具体的には例えばアーク放電法、レーザー蒸発法、熱分解法等の気相成長法によって得ることができる。本実施形態にかかる電磁波吸収シートの抵抗皮膜として用いられるカーボンナノチューブとしては、単層および多層のいずれであってもよい。高強度、柔軟性、電導性の点では単層カーボンナノチューブが好ましい。直径が0.5~500nm、長さが30μm以下のものを使用することができる
グラフェンは、例えば剥離転写法、SiC熱分解法、化学気相成長法、カーボンナナノチューブを切開する方法等によって得ることができる。本実施形態にかかる電磁波吸収シートの抵抗皮膜として用いられるグラフェンとしては、所望するアスペクト比を容易に得られること、および、電磁波吸収シートにおける配向性の観点から、鱗片形状の紛体状グラフェンを用いることが好ましい。
【0049】
カーボンナノストラクチャーは架橋カーボンナノチューブによるネットワーク構造を有し、導電性の観点から用いることが好ましい。
【0050】
なお、上記したカーボン材料を分散させる樹脂としては、水溶性ポリエステル樹脂を用いることができる。
【0051】
なお、抵抗皮膜12は、上述のように抵抗皮膜形成用塗料としてのコーティング組成物を基材の上に塗布して乾燥することにより形成することができる。
【0052】
抵抗皮膜形成用塗料を基材の上に塗布する方法としては、例えば、バーコート法、リバース法、グラビアコート法、マイクログラビアコート法、ダイコート法、ディッピング法、スピンコート法、スリットコート法、スプレーコート法等の塗布方法を用いることができる。塗布後の乾燥は、抵抗皮膜形成用塗料の溶媒成分が蒸発する条件であればよく、100~150℃で5~60分間行うことが好ましい。溶媒が抵抗皮膜に残っていると強度が劣る傾向にある。乾燥方法としては、例えば、熱風乾燥法、加熱乾燥法、真空乾燥法、自然乾燥等により行うことができる。また、必要に応じて、塗膜にUV光(紫外線)やEB(電子線)を照射して塗膜を硬化させることで抵抗皮膜12を形成してもよい。
【0053】
なお、抵抗皮膜12を形成するために用いられる基材としては特に限定されないが、透明性を有する透明基材が好ましい。このような透明基材の材質としては、例えば、樹脂、ゴム、ガラス、セラミックス等の種々のものが使用できる。
【0054】
<誘電体層>
本実施形態にかかる電磁波吸収シート10の誘電体層13としては、透光性を有し可撓性を確保することができる透明な樹脂材料を使用することができる。特に、誘電体層13として、透明でかつ粘着性を有する材料である透明光学粘着フィルム(OCAフィルム:Optical Clear Adhesive Film)を好適に用いることができる。
【0055】
より具体的には、シリコーン系OCAであるMHM-SI(商品名:日榮新化株式会社製)、アクリル系OCAであるMHM-FW(商品名:日榮新化株式会社製)、ウレタン系OCAであるFree Crystal (商品名:バンドー化学株式会社製)、を用いることができる。
【0056】
なお、上述の各材料の中でシリコーンOCAは、耐熱性、耐寒性の観点で他の材料よりも優れている。このため、シリコーンOCAを用いて作製された電磁波吸収シートは、使用場所として環境温度上の制約が少ない点で好ましい材料である。
【0057】
本実施形態にかかる電磁波吸収シート10において、誘電体層13が粘着性を有することで、樹脂製材料の薄膜として形成される抵抗被膜12と誘電体層13との接着を、誘電体層13上に抵抗被膜12を積層して必要に応じて所定の圧力で押圧することによって実現できる。このため、誘電体層13が粘着性を有していない場合に必要な、抵抗被膜12と誘電体層13とを貼り合わせる工程(例えば、ラミネート加工工程など)が不要となり、電磁波吸収シート10の製造を簡素化して製造コストを低減することができる。
【0058】
また、誘電体層13として粘着性を有するフィルムを用いることで、誘電体層13と電磁波遮蔽層14との接着も容易に行うことができる。特に、誘電体層13が粘着性を有することによって電磁波遮蔽層14を誘電体層13の背面側に密接した状態で配置することができる。誘電体層13が有する粘着性としては、180°ピール粘着力試験法による測定結果として、8~35N/25mmであることが好ましい。粘着力が8N/25mm以下の場合は誘電体層13と電磁波遮蔽層14とが剥離しやすくなってしまい、35N/mm以上であると粘着が強すぎて貼り直し時のリワーク性が低下して、電磁波吸収シート10の製造上の制約が大きくなる。
【0059】
なお、誘電体層13は、1種の材料で1層の構成として形成することができ、また、同種、異種の材料を2層以上積層した構成とすることもできる。誘電体層13の形成には、塗布法やプレス成型法、押出成型法などを用いることができる。
【0060】
本実施形態にかかる電磁波吸収シート10では、誘電体層13として用いられる誘電体の誘電率εrの値や、誘電体層13の厚みを調整することで、当該誘電体層13を備えた電磁波吸収シート10でミリ波帯域以上の高い周波数帯域の電磁波1を吸収可能なように制御することができる。また、誘電体層13が粘着性を有することで、抵抗皮膜12と誘電体層13、さらには、後述する電磁波遮蔽層14と誘電体層13とを密着して配置することができる。電磁波干渉型の電磁波吸収シート10では、各層間に隙間があるとこの隙間部分が誘電率を持ってしまって誘電体層13の誘電率が所定の値からずれて、吸収する電磁波1の周波数が変動するという不都合が生じるが、本実施形態の粘着性を有する誘電体層13では、そのような不都合な事態が生じることを良好に回避することができる。
【0061】
<電磁波遮蔽層>
本実施形態にかかる電磁波吸収シート10の電磁波遮蔽層14は、誘電体層13を介して電磁波吸収シート10の反対側に配置された、抵抗皮膜側12から入射した電磁波1を反射させる部材である。
【0062】
電磁波吸収シート10として可撓性と透光性とを有することを確保するために、本実施形態にかかる電磁波吸収シート10では電磁波遮蔽層14として金属ナノワイヤーにより形成された膜を用いている。
【0063】
ここで、金属ナノワイヤーとは、直径がナノメートルオーダー、すなわち、数ナノメートルから数百ナノメートルまでの針状金属であり、一般的に長さは太さの1000倍程度以上のものである。また、本明細書において「金属ナノワイヤーにより形成された膜」とは、金属ナノワイヤーと樹脂製のバインダー成分とを含んだ金属ナノワイヤーインクを塗工、乾燥させることによって形成された膜をいい、金属ナノワイヤーと樹脂成分とその他適宜分散剤などを含んでいるものをいう。
【0064】
金属ナノワイヤーの含有量は、電磁波遮蔽層14を構成する樹脂製バインダーを含む全固形分中0.1質量%~0.5質量%が好ましい。金属ナノワイヤーの含有量が0.1質量%より少ないと、電磁波遮蔽層14の電気抵抗値が高くなりすぎるため、電磁波反射層14表面での電磁波1の反射(二次反射波)がしにくくなり、電磁は遮蔽層14を透過する電磁波が多くなるため電磁波吸収量(透過減衰量)が低くなる。金属ナノワイヤーの含有量が0.5質量%より多いと、電磁波遮蔽層14の電気抵抗値が低くなり、電磁波1の反射量(二次反射量)が多くなって透過減衰量が大きくなるが、全光線透過率が低くなってしまい、電磁波吸収シート10全体としての透光性が低くなる。
【0065】
本実施形態にかかる電磁波吸収シート10の電磁波遮蔽層14に用いられる金属ナノワイヤーの材質は金属である。具体的には鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、カドミウム、オスミウム、イリジウム、白金、金が挙げられ、導電性と光学特性の観点から銅、銀が好ましく、銀がより好ましい。
【0066】
また、金属ナノワイヤーの形状は、短軸方向の長さと長軸方向の長さの比(以下、これをアスペクト比と称することがある。)は10以上が好ましい。アスペクト比が大きすぎると取扱が困難となるので上記比は10000以下が好ましく、1000以下がより好ましい。
【0067】
さらに、金属ナノワイヤーは、直線状金属ナノワイヤーであることが好ましい。直線状金属ナノワイヤーとは形状が棒状であることを意味する。しかし分岐している形状や、粒子を数珠状に繋げた形状の金属ナノワイヤーを用いることもできる。
【0068】
金属ナノワイヤーの短軸方向の長さ(太さ)は1nm以上1μm以下が好ましく、10nm以上500nm以下がより好ましい。短軸方向の長さが大きすぎると光の透過率が低下し、小さすぎると合成が困難となる。一方、長軸方向の長さは1μm以上1mm以下であることが好ましく、10μm以上100μm以下であることがより好ましい。長軸方向の長さが短すぎると電磁波遮蔽層14の導電性が低下し、長すぎると取扱が困難となるからである。
【0069】
金属ナノワイヤーの形状や大きさは走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)によって拡大(一例として3万倍)して確認することができる。上述した本実施形態にかかる電磁波吸収シート10の電磁波遮蔽層14に用いられている金属ナノワイャ一の短軸径と長軸径との値は、走査型電子顕微鏡を用いて、SEM像によって300個の金属ナノワイヤーを観察してその平均値から求めたものである。
【0070】
金属ナノワイヤーの形状としては、例えば円柱状、直方体状、断面が多角形となる柱状など任意の形状をとることができるが、高い透明性が必要とされる用途では、円柱状や断面の多角形の角が丸まっている断面形状であることが好ましい。金属ナノワイヤーの断面形状は、基材上に金属ナノワイヤー水分散液を塗布、乾燥し、膜の断面を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察することにより調べることができる。
【0071】
金属ナノワイヤーは公知の方法によって合成することができる。例えば溶液中で硝酸銀を還元する方法や、前駆体表面にプローブの先端部から印加電圧又は電流を作用させプローブ先端部で金属ナノワイヤーをひき出し、該金属ナノワイヤーを連続的に形成する方法等が挙げられる。溶液中で硝酸銀を還元する方法としては具体的には金属複合化ペプチド脂質から成るナノファイバーを還元する方法や、ポリオール還元と呼ばれる方法であって、エチレングリコール中で過熱しながら還元する方法、クエン酸ナトリウム中で還元する方法等が挙げられる。中でも、エチレングリコール中で過熱しながら還元する方法が最も容易に結晶性の高い金属ナノワイヤーを入手できるので好ましい。
【0072】
図2に、本実施形態にかかる電磁波吸収シートの電磁波遮蔽層に用いられた銀ナノワイヤー膜の表面形状を示す。
【0073】
図2は、銀ナノワイヤーインクを基材であるPETフィルム上にバーコーターを用いて塗工し乾燥したものの表面を、走査型電子顕微鏡(SEM)により3万倍に拡大して撮影したものである。なお、
図2の左下枠外に示した目盛りは、1目盛りが1μmである。
【0074】
図2に示した銀ナノワイヤーにより形成された膜は、星光PMC株式会社製の銀ナノワイヤーインクT-AG402(製品名)と、同じく星光PMC株式会社製の添加剤T-AG403(製品名)と、純水とを、配合比率:T-AG402/T-AG403/純水=75.00/0.58/24.42で混合して、銀濃度が0.3wt%の銀ナノワイヤーインクを作製し、基材であるPETフィルム(一例として、東洋紡株式会社製コスモシャイン(登録商標:商品名)A4160)上にバーコーター:#16で塗工、その後120℃で2分間乾燥させて形成した。
【0075】
図2に示すように、銀ナノワイヤーで形成された膜では、針状の銀ナノワイヤーがランダムな方向を向いて略平面的に配置されていることが分かる。このため、電磁波遮蔽層の全面にわたって、形状や大きさが異なる小さな(多角形としての一辺または円としての径が3~10μm)開口が多数形成されている。また銀ナノワイヤーの線径はナノメートルサイズと可視光線の波長より小さいサイズの針状銀粒子からなる一方、導電メッシュの線径は数十マイクロメートル程度と可視光線の波長より大きく、銀ナノワイヤーの線径は導電メッシュの線径の1/100~1/1000と極めて小さい。
【0076】
このように、線径が極めて小さい銀ナノワイヤーを使用し、また、形状と大きさが異なる微小な開口が多数形成されることで、全光線透過率を高く維持することができる一方、電磁波遮蔽層を透過する電磁波を効果的に反射することができる。また、上述の導電メッシュが濃いグレーであるのに対し、銀ナノワイヤーは白っぽく見えるために、電磁波吸収シートの見た目が明るくなる。
【0077】
さらに、銀ナノワイヤーで形成された膜は、銀ナノワイヤーインクを塗布、乾燥することによって作製されているため、銀ナノワイヤーの位置にかかわらず膜の表面が平滑面となる。これに対し、導電メッシュは、メッシュを形成する導電線と導電性により形成される空隙部分とに厚みの差が生じて導電線が浮き出るようになるため、電磁波吸収シートの背面が平滑な面とはならないことによって、例えば、電磁波吸収シートを所定の場所に貼着するための接着層がしっかりと固定できないなどの不都合が生じる可能性がある。
【0078】
次に、金属ナノワイヤーにより形成された膜による電磁波遮蔽層と、従来の導電メッシュによる電磁波遮蔽層とを比較するために、それぞれの電磁波遮蔽層単体における電磁波の透過率を測定した。
【0079】
図3は、電磁波遮蔽層単体における電磁波の透過減衰量の測定結果を示す図である。
【0080】
図3では、抵抗値を3Ω/sq、5Ω/sq、10Ω/sq、40Ω/sqに設定した銀ナノワイヤーにより形成された電磁波遮蔽層と、従来技術である電磁波遮蔽層としての導電メッシュに対して、150GHzから450GHzの電磁波を照射して、照射した電磁波のエネルギー量に対する電磁波遮蔽層を透過した電磁波のエネギーとの差を透過減衰量としてdBで示している。
【0081】
なお、銀ナノワイヤーにより形成された膜の抵抗値については、膜厚を制御して抵抗値の測定値が2Ω/sq、5Ω/sq、10Ω/sq、40Ω/sqとなるように調整した。また、従来例である導電メッシュは、セーレン株式会社製の導電メッシュTu-4X-13227(商品名)を用いて形成した。この導電メッシュは、線径27μm、ピッチが縦・横いずれも170μmの格子状で、ワイヤーの表面は黒化処理がなされている。
【0082】
電磁波吸収特性は、アドバンステスト社のTHZ-TDS TAS7500SP(製品名)を用いて、送信アンテナと受信アンテナとの間に試料であるそれぞれの電磁波吸収層を主面が垂直になるように配置して、入射波に対する反射波の減衰量を求めてdBで表示した。
【0083】
図3において、符号31で示した実線が抵抗値3Ω/sq、符号32で示した実線が抵抗値5Ω/sq、符号33で示した実線が抵抗値10Ω/sq、符号34で示した実線が抵抗値40Ω/sqのいずれも銀ナノワイヤーにより形成された膜の透過減衰量を示している。また、
図3において符号35の破線が、上述した導電メッシュの透過減衰量を示している。
【0084】
図3から明らかなように、銀ナノワイヤーにより形成された膜では、膜の抵抗値が小さいほど透過減衰量が大きい、すなわち、銀ナノワイヤーで形成された膜でより多くの電磁波が反射されていて銀ナノワイヤーで形成された膜を透過する電磁波が少ないことがわかる。また、抵抗値が3Ω/sqから40Ω/sqの範囲では、膜に入射する電磁波の周波数が150GHz程度から450GH程度までの周波数帯域において電磁波の透過減衰量の値がほぼ一定となっていて、電磁波の透過減衰量が周波数に依存しないことがわかる。
【0085】
これに対して、導電メッシュで形成された電磁波遮蔽層の場合は、抵抗値が40Ω/sqの銀ナノワイヤーにより形成された膜よりも電磁波の透過減衰量が小さく、また、入射する電磁波の周波数が大きくなるにつれて、電磁波の透過減衰量が小さくなっていることがわかる。
【0086】
このように、銀ナノワイヤーにより形成された膜は、従来の導電メッシュと比較して膜を透過する電磁波の量が小さく(透過減衰量が大きく)なる。このことは、銀ナノワイヤーにより形成された電磁波遮蔽層の表面で反射する電磁波(二次反射波)が多くなることを意味する。つまり、銀ナノワイヤーにより形成された膜を電磁波干渉型の電磁波吸収シートの電磁波遮蔽層に用いることで、誘電体層を透過し電磁波遮蔽層の表面で反射する電磁波の反射量が大きくなるため、電磁波吸収シートの抵抗皮膜表面で反射した電磁波(一次反射波)との干渉により、より多くの電磁波を打ち消すことができるようになる。したがって、電磁波遮蔽層として金属ナノワイヤーにより形成された膜を用いることで、電磁波干渉型の電磁波吸収シートとしてより効率よく電磁波を吸収すること、すなわち、反射減衰量を大きくすることができる。さらに、電磁波遮蔽層を透過する電磁波の量が小さくなることから、電磁波吸収シートを通過する電磁波の吸収量、すなわち、電磁波の透過減衰量も大きくなることがわかる。
【0087】
なお、従来の導電メッシュを電磁波遮蔽層に用いた場合は、積層される誘電体層が電磁波遮蔽層のワイヤー間に入り込むことによって、誘電体層の実質的な厚さが所望する厚さに対して小さくなってしまう不具合が生じることがある。特に、誘電体層を上記に例示したOCAで構成した場合には、誘電体層が有する接着性を利用して電磁波遮蔽層との間に両者を接着する部材を配置しなくて良いという利点があるが、電磁波吸収シートとして各層を積層形成する際に加えられる押圧力が大きい場合に、導電メッシュの間に誘電体層であるOCAが入り込んでしまい、誘電体層の厚さが変化して吸収周波数が変化してしまう恐れがあった。この問題に対しては、シート形成時の押圧力を調整して誘電体層の厚さが変化しないように対策する必要があった。
【0088】
これに対し、銀ナノワイヤーにより形成された膜を用いた電磁波遮蔽層では、誘電体層としてOCAを用いた場合を含めて、OCAなどの誘電体が電磁波遮蔽層を形成する銀ナノワイヤーの間に入り込むことがなくなり、誘電体層の厚さが変化して吸収周波数が変化してしまう恐れがなくなった。
【0089】
金属ナノワイヤーにより形成された電磁波遮蔽層の透過率(全光線透過率)は、透光性を確保する観点からは、金属ナノワイヤーの量を少なくして透過率を大きな値にすることが好ましい。一方、電磁波遮蔽層としてその表面で電磁波を確実に反射して電磁波吸収シートとしての反射減衰量を大きくする観点からは、金属ナノワイヤーの量を多くして表面抵抗値を低くする方が好ましい。この場合には、電磁気遮蔽層の透過率(全光線透過率)は小さくなる。
【0090】
発明者らの検討によると、全光線透過率が70%以上95%以下であることが好ましく、全光線透過率が75%以上90%以下であることがより好ましいことが確認できた。
【0091】
<保護層>
本実施形態にかかる電磁波吸収シートでは、抵抗皮膜の表面である電磁波の入射面側に保護層が設けられている。
【0092】
保護層を設けることで、抵抗皮膜として用いられている導電性有機高分子やカーボン材料が空気中の湿度の影響を受けてその表面抵抗値が変化することや、抵抗被膜である導電性有機高分子膜が物理的に傷つけられてしまうことを効果的に防止することができる。
【0093】
本実施形態の電磁波吸収シートの保護層としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)製の膜を用いることができ、例えば、表面被膜である導電性有機高分子膜上に所定の厚さでPET膜を塗布、乾燥することによって、または、PETフィルムを抵抗皮膜の上に重ねることで、表面被膜上に形成された保護層を得ることができる。また、他の所定の下地膜上にPET膜を等乾燥してポリエチレンテレフタレートの薄膜を形成し、これを下地膜から剥がして、抵抗皮膜の表面に貼り付けることによって、表面皮膜上に保護層を積層することができる。
【0094】
本実施形態にかかる電磁波吸収シートでは、PETフィルムに抵抗被膜を塗布、乾燥して形成し、この抵抗被膜を誘電体層と貼り合わせることで、抵抗被膜の誘電体層とは反対の側である電磁波の入射面側にPETフィルムからなる保護層を形成することが好ましい。特に、誘電体層が透明光学粘着フィルム(OCAフィルム)の場合いには、抵抗被膜と誘電体層を直接張り合わせることができるので有利である。
【0095】
本実施形態にかかる電磁波吸収シートとして利用可能な保護層としては、上述したポリエチレンテレフタレート以外に、ポリエチレン2.0、ポリ塩化ビニル8.0などを用いることができる。
【0096】
また、形成される保護層の膜厚は、10μm以上150μm以下とすることが好ましい。保護層の膜厚が10μmより薄いと、抵抗皮膜の表面を保護する保護機能が十分に果たせない可能性がある。保護層の厚さとして150μmあれば必要十分であり、150μmよりも厚い保護層を有する場合には、保護層によって電磁波吸収シートの可撓性が制限される弊害が生じる。また、保護層の厚さが必要以上に厚い場合には、抵抗皮膜の表面に保護層を積層・貼着する工程が大がかりなものとなる懸念があり、製造の容易性や製造コストの観点からも、必要以上に厚い保護層は好ましくないと考えられる。
【0097】
<粘着層>
本実施形態にかかる電磁波吸収シートを所定の位置に容易に配置できるように、電磁波遮蔽層の背面に形成される接着層としては、粘着テープなどの粘着層として利用される公知の材料、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤等を用いることができる。また被着体に対する粘着力の調節、糊残りの低減のために、粘着付与剤や架橋剤を用いることができる。被着体に対する粘着力は5N/10mm~12N/10mmが好ましい。粘着力が5N/10mmより小さいと、電磁波吸収シートが被着体から容易に剥がれてしまったり、ずれてしまったりすることがある。また、粘着力が12N/10mmより大きいと、電磁波吸収シートを被着体から剥離しにくくなる。
【0098】
また接着層の厚さは、20μm~100μmが好ましい。接着層の厚さが20μmより薄いと、粘着力が小さくなり、電磁波吸収シートが被着体から容易に剥がれたり、ずれたりすることがある。接着層の厚さが100μmより大きいと、電磁波吸収シートを被着体から剥離しにくくなる。また接着層の凝集力が小さい場合は、電磁波吸収シートを剥離した場合、被着体に糊残りが生じる場合がある。また、電磁波吸収シート全体としての可撓性を低下させる要因となる。
【0099】
なお、本実施形態にかかる電磁波吸収シートに用いられる接着層としては、電磁波吸収シートを被着物体に剥離不可能に貼着する接着層とすることができるとともに、剥離可能な貼着を行う接着層とすることもできる。また、前述のように、本実施形態にかかる電磁波吸収シートにおいて、接着層を備えた構成とすることは必須の要件ではなく、電磁波吸収シートを所望する部材に対して、従来一般的な各種の接着方法を用いて接着することができる。
【0100】
(実施例)
以下、本実施形態で説明する電磁波吸収シートについて、実際に電磁波吸収シートを作製した具体例を説明する。
【0101】
<電磁波吸収シートの作製>
まず、抵抗皮膜の形成に当たって、以下の成分を添加、混合して抵抗皮膜液を調整した。
【0102】
(1)導電性高分子分散体 36.7部
ヘレウス社製導電性高分子(PEDOT-PSS):PH-1000(製品名)
固形分濃度 1.2質量%
(2)PVDF分散液 5.6部
アルケマ社製:LATEX32(商品名)
固形分濃度 20質量%、 溶媒 水
(3)水溶性ポリエステル水溶液 0.6部
互応化学工業社製:プラスコートZ561(商品名)
固形分濃度 25質量%
(4)有機溶媒(ジメチルスルホキシド) 9.9部
(5)水溶性溶媒(エタノール) 30.0部
(6)水 17.2部。
【0103】
上記作製した抵抗皮膜液を、基材としての厚さ50μmのポリエチレンテレフタレート上にバーコート法によって塗布し、その後100℃で3分加熱し成膜した。
【0104】
その後、基材のポリエチレンテレフタレートの抵抗皮膜層を塗布した側とは反対側の面に、日榮新化株式会社製のシリコーンOCAを貼り合わせた。なお、本実施形態にかかる電磁波吸収シートは、吸収する電磁波の中心波長を300GHzと設定しているため、シリコーンOCAからなる誘電体層の厚さは90μmとした。
【0105】
電磁波遮蔽層は、銀ナノワイヤーにより形成された膜を用いて形成した。具体的には、上記と同様に、星光PMC株式会社製の銀ナノワイヤーインクT-AG402(製品名)と、同じく星光PMC株式会社製の添加剤T-AG403(製品名)と、純水とを、配合比率:T-AG402/T-AG403/純水=75.00/0.58/24.42で混合して、銀濃度が0.3wt%の銀ナノワイヤーインクを作製し、基材であるPETフィルム(一例として、東洋紡株式会社製コスモシャイン(登録商標:商品名)A4160)上にバーコーター:#16で塗工、その後120℃で2分間乾燥させて形成した。
【0106】
なお、銀ナノワイヤーにより形成された電磁波遮蔽層として、銀ナノワイヤーにより形成され膜の厚さを調整して、抵抗値が3Ω/sqの膜、抵抗値が10Ω/sqの膜、抵抗値が40Ω/sqの膜、抵抗値が60Ω/sqの膜の4種類を作製した。
【0107】
比較例として、導電メッシュを用いた電磁波遮蔽層を作製した。導電メッシュは、上述したセーレン株式会社製の導電メッシュTu-4X-13227(商品名)を用いて、シリコーンOCAに貼り合わせた。
【0108】
(電磁波吸収特性の測定)
上記作製した4種類の抵抗値(3Ω/SQ、10Ω/SQ、40Ω/SQ、60Ω/SQ)を有する銀ナノワイヤーにより形成された電磁波遮蔽層を有する電磁波吸収シートと、比較例として導電メッシュにより形成された電磁波遮蔽層を有する電磁波吸収シートの電磁波吸収特性について、アドバンステスト社のTHZ-TDS TAS7500SP(製品名)を用いて測定し、送信アンテナから電磁波吸収シートに照射された電磁波の強度に対する受信アンテナで受信された電磁波の強度の低減度合いをdBで表した。なお、電磁波吸収特性としては、電磁波吸収シートの前面、すなわち、保護層が形成されている側に送信アンテナとともに受信アンテナを配置して、電磁波吸収シートで反射される反射波の減衰量である反射減衰量を測定するとともに、電磁波吸収シートの背面側、すなわち、電磁波遮蔽層が形成されている側に受信アンテナを配置して送信アンテナから送信された電磁波が電磁波吸収シートを透過する際の電磁波吸収量である透過減衰量を測定した。
【0109】
実施例として示した銀ナノワイヤーを用いた電磁波吸収シートと、電磁波遮蔽層として導電メッシュを用いて作成した比較例の電磁波吸収シートとにおける、電磁波吸収シートを透過する電磁波の透過減衰特性を、
図4に示す。
【0110】
図4において、符号41で示す実線が抵抗値3Ω/sqの銀ナノワイヤーにより形成された膜を電磁波遮蔽層として用いた電磁波吸収シートの透過減衰量を、符号42で示す実線が抵抗値10Ω/sqの銀ナノワイヤーにより形成された膜を電磁波遮蔽層として用いた電磁波吸収シートの透過減衰量を、符号43で示す細実線が抵抗値40Ω/sqの銀ナノワイヤーにより形成された膜を電磁波遮蔽層として用いた電磁波吸収シートの透過減衰量を、それぞれ示している。また、符号44として示す破線が、比較例である導電メッシュを電磁波遮蔽層として用いた電磁波吸収シートの透過減衰量を示している。
【0111】
図4に示すように、銀ナノワイヤーにより形成された膜を電磁波遮蔽層とした電磁波吸収シートの透過減衰特性41、42、43では、電磁波の周波数が300GHz以上の領域での透過減衰量が-20dB以上となっていて、導電メッシュを電磁波遮蔽層とした電磁波吸収シートの透過減衰量44の約-10dBよりも大きいことがわかる。また、銀ナノワイヤーにより形成された膜を電磁波遮蔽層とした電磁波吸収シートの透過減衰量41、42、43では、150GHzの電磁波の透過減衰量よりも450GHz以上のより高い周波数の電磁波に対する透過減衰量が大きくなっているのに対し、導電メッシュを電磁波遮蔽層とした電磁波吸収シートの透過減衰量44は、150GHzの電磁波よりも450GHz以上の電磁波に対する透過減衰量が小さい値となっていることが確認できる。
【0112】
このように、電磁波遮蔽層として銀ナノワイヤーにより形成された膜の抵抗値が40Ω/sqよりも小さい電磁波吸収シートの場合には、より効率よくシートを透過する電磁波を吸収できることが理解できる。なお、
図4での図示は省略するが、抵抗値が60Ω/sqの銀ナノワイヤーにより形成された膜を電磁波遮蔽層とする電磁波吸収シートの透過減衰量は-10dB程度であり、比較例である導電メッシュを電磁波遮蔽層として用いた電磁波吸収シート同程度であることが確認された。
【0113】
(光学特性の測定)
次に、上記作製した電磁波遮蔽層として銀ナノワイヤーにより形成された膜を用いた実施形態にかかる電磁波吸収シートと、比較例としての導電メッシュを電磁波遮蔽層として用いた電磁波吸収シートについての光学特性として、全光線透過率と、透過光のヘイズ値をそれぞれ測定した。
【0114】
なお、全光線透過率とヘイズ値については、日本電色株式会社製のHazeMeterNDH2000(製品名)を用い、JIS K7105に準拠して測定した。光源は、LightCを用いた。
【0115】
また、もう一つの比較例(導電メッシュ2)として、上記比較例である導電メッシュを用いて実際に作成した電磁波吸収シート(導電メッシュ1)と線形は同じままピッチのみを69.5μmとした導電メッシュを用いた場合の表面抵抗値と透過減衰量についてのシミュレーションを行った。
【0116】
抵抗値が、それぞれ3Ω/sqの銀ナノワイヤーにより形成された膜、10Ω/sqの銀ナノワイヤーにより形成された膜、40Ω/sqの銀ナノワイヤーにより形成された膜、60Ω/sqの銀ナノワイヤーにより形成された膜、を電磁波遮蔽層として用いた実施形態にかかる電磁波吸収シートと、電磁波遮蔽層としての導電メッシュを用いて作成した第1の比較例(導電メッシュ1)、さらに、導電メッシュのピッチを変更した第2の比較例(導電メッシュ2)についての測定結果、計算結果を表1に示す。
【0117】
【0118】
表1に示すように、電磁波吸収シートの全光線透過率、透過光のヘイズ値ともに、抵抗値が10Ω/sqから60Ω/sqの銀ナノワイヤーにより形成された膜を電磁波遮蔽層とした電磁波吸収シートは、導電メッシュを電磁波遮蔽層として用いた比較例(導電メッシュ1)の電磁波吸収シートよりも良好であることがわかった。
【0119】
一方、抵抗値が3Ω/sqの銀ナノワイヤーを電磁波遮蔽層として用いた電磁波吸収シートの場合には、電磁波遮蔽層に導電メッシュを用いた電磁波吸収シートと比較して、光学的な性能は低下するものの、300GHzの電磁波に対する透過減衰量の値が極めて高く、電磁波吸収シートにおける反射減衰量の値も高いことがわかる。また、抵抗値が3Ω/SQの銀ナノワイヤー膜を電磁波遮蔽層として用いた電磁波吸収シートの透過減衰量-40dBは、導電メッシュを用いてそのピッチを69.5μmとした場合(導電メッシュ2)の透過減衰量-30dBよりも極めて大きいことが確認できた。なお、電磁波遮蔽層としてピッチが69.5μmの導電メッシュを用いた場合には、全光線透過率が約37%と光学特性か低くなる。したがって、電磁波遮蔽層として金属ナノワイヤーにより形成された膜を用いた場合には、電磁波遮蔽層として導電メッシュを用いた場合には実現できないレベルで、電磁波吸収シートを透過する電磁波の透過減衰量と、電磁波吸収シートを通して背面側を見た場合の光学特性とが両立されることが理解できる。
【0120】
以上説明したように、銀ナノワイヤーにより形成された膜を電磁波遮蔽層として用いた場合、電磁波遮蔽層の抵抗値を10Ω/SQから60Ω/sqの範囲とすることで、電磁波遮蔽層として導電メッシュを用いた場合よりも、全光線透過率やヘイズ値といった光学特性が優れた電磁波吸収シートを実現できる。
【0121】
また電磁波遮蔽層の抵抗値を3Ω/sqから40Ω/sqの範囲とすることで、電磁波吸収シートを透過する電磁波に対する透過減衰量、さらに、電磁波吸収シートで反射される電磁波に対する反射減衰量が、電磁波遮蔽層として導電メッシュを用いた場合と比較して、優れた特性となる。
【0122】
さらに電磁波遮蔽層の抵抗値を10Ω/sqから40Ω/sqの範囲とすることで、全光線透過率やヘイズ値等の光学特性と、透過減衰量、反射減衰量の電磁波吸収特性とのバランスが取れた実用性の高い電磁波吸収シートを実現することができる。
【0123】
このように、本実施形態にかかる電磁波吸収シートでは、誘電体層を透過した電磁波を反射する電磁波遮蔽層として銀ナノワイヤーにより形成された膜を用いることで、従来の導電メッシュを電磁波遮蔽層として用いた電磁波吸収シートと比較して、反射減衰量、および、透過減衰量として示される電磁波吸収特性や、全光線透過率、ヘイズ値として示される光学特性が優れたものを作製することができる。特に、電磁波遮蔽層としての金属ナノワイヤーにより形成された膜の抵抗値を調整することで、電磁波吸収特性や光学特性を調整できるために、使用目的に応じた良好な特性を発揮しうる電磁波吸収シートを作製することができる。
【0124】
また、電磁波遮蔽層として導電メッシュを用いた従来の電磁波吸収シートと比較して、電磁波遮蔽層に金属ナノワイヤーにより形成された膜を用いることで、誘電体層として自身が接着性を有するOCAを用いた場合をはじめとして、誘電体層を形成する誘電材料が電磁波遮蔽層の中に入り込んで誘電体層の厚さが所定のものから変化してしまうという事態を回避できるため、抵抗皮膜、誘電体層、電磁波遮蔽層を積層する製造工程における制御条件を簡易化することができ、より低コストで電磁波吸収シートを作製することができる。
【0125】
なお、上記実施例として作製された電磁波吸収シートでは、厚さ50μmの保護層を備えることで、電磁波吸収シートの表面がこすられた場合でも抵抗皮膜の表面が削られることなくその表面抵抗値が維持できること、さらに、保護層自体もそのような摩擦に十分耐えうることが、白ネルの布をHEIDON社の摺動試験機にセットして、加重2000g、摺動速度4500mm/min、摺動幅25mm、摺動回数1000パス(約10分間)の条件で行った摺動試験の結果確認できた。
【0126】
また、上記実施例として作製した電磁波吸収シートを、水平に配置された直径が6mmのアルミ製の円筒型棒(マンドレル)上に保護層の側が表向きになるようにして被せ、シートの両端に300gの錘を付けて30秒間維持する可撓性試験を行ったところ、試験の前後でのシート表面の見た目や表面抵抗値に変化は認められず、電磁波吸収特性の変化も生じなかった。このことから、上記実施例の電磁波吸収シートは、高い可撓性を有することが確認できた。
【0127】
以上説明したように、本実施形態にかかる電磁波吸収シートは、抵抗被膜と誘電体層と電磁波遮蔽層とが積層された電磁波干渉型の電磁波吸収シートとして、電磁波遮蔽層を金属ナノワイヤーにより形成された膜を用いることで、可撓性と透光性とを備え、特に300GHz以上の高い周波数の電磁波を良好に吸収することができる。
【0128】
電磁波吸収シート全体として可撓性を有するために、電磁波吸収シートを所定位置に配置する際の取り扱い性が向上し、実用性の高い電磁波吸収シートとすることができる。また、電磁波吸収シートとして透光性を有することで、窓や透明な壁などに配置して反対側を見通すことができる。
【産業上の利用可能性】
【0129】
本願で開示する電磁波吸収シートは、電磁波遮蔽層を金属ナノワイヤーにより形成された膜で構成することによって、シート全体としての可撓性と透光性とを有し、特に300GHz以上の高い周波数の電磁波を良好に吸収することができる。また、電磁波吸収シートの製造コストを下げることができるため、ミリ波帯域よりも高い周波数帯域の電磁波が用いられる今後の電磁波利用分野において、不所望な電磁波を良好に吸収することができる電磁波吸収シートとして有用である。
【符号の説明】
【0130】
1 電磁波
10 電磁波吸収シート
11 保護膜
12 抵抗皮膜
13 誘電体層
14 電磁波遮蔽層
15 粘着層