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特開2024-21477頭部電気信号検出用電極装置及び頭部電気信号の検出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024021477
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】頭部電気信号検出用電極装置及び頭部電気信号の検出方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/256 20210101AFI20240208BHJP
   A61B 5/266 20210101ALI20240208BHJP
【FI】
A61B5/256 130
A61B5/266
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022124318
(22)【出願日】2022-08-03
(71)【出願人】
【識別番号】304030497
【氏名又は名称】株式会社プロアシスト
(74)【代理人】
【識別番号】100102048
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 光司
(74)【代理人】
【識別番号】100146503
【弁理士】
【氏名又は名称】高尾 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】高田 裕司
【テーマコード(参考)】
4C127
【Fターム(参考)】
4C127AA02
4C127AA03
4C127AA04
4C127LL15
4C127LL22
(57)【要約】
【課題】 頭部の外耳道内で受信される生体信号を従来とは異なる原理で効率よく検出しうる頭部電気信号検出用電極装置及び頭部電気信号の検出方法を提供すること。
【解決手段】外耳道に挿入される挿入電極20と、前記挿入電極より得られる信号を外部に伝達する導電出力部30とを有し、頭部の外耳道内で受信される生体信号を検出する。挿入電極を取り付ける軸21と、この軸及び導電出力部を支持する支持部11と、この支持部に取り付けられ耳に接当し付勢する付勢弾性体12と、を有する。挿入電極は少なくとも外耳道との接触部分に変形可能な弾性部材23を有し、先端側ほど縮径しており、付勢弾性体12は耳の耳甲介腔内で耳に接当して弾性反発により挿入電極を外耳道挿入側に付勢する。
【選択図】 図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外耳道に挿入される挿入電極と、前記挿入電極より得られる信号を外部に伝達する導電出力部とを有し、頭部の外耳道内で受信される生体信号を検出するための頭部電気信号検出用電極装置であって、
さらに、前記挿入電極を取り付ける軸と、この軸及び前記導電出力部を支持する支持部と、
この支持部に取り付けられ耳に接当し付勢する付勢弾性体と、を有し、
前記挿入電極は少なくとも外耳道との接触部分に変形可能な弾性部材を有し、先端側ほど縮径しており、
前記付勢弾性体は耳の耳甲介腔内で耳に接当して弾性反発により前記挿入電極を外耳道挿入側に付勢する頭部電気信号検出用電極装置。
【請求項2】
前記付勢弾性体が耳の側面視で前記支持部の少なくとも耳の後ろ側に円弧状に配置されている請求項1記載の頭部電気信号検出用電極装置。
【請求項3】
前記付勢弾性体が、前記円弧状の縦断面において、前記支持部へ接当する基礎部から耳へ接当する部分の間に屈曲しながら張り出す張出部を有している請求項2記載の頭部電気信号検出用電極装置。
【請求項4】
前記挿入電極は、さらに当該弾性部材の表面に前記外耳道の周方向に対する一部の角度位置において前記外耳道との接触インピーダンスを低下させる良接触部を有し、前記支持部に対し前記軸周りでの回転位置を規制されている請求項1記載の頭部電気信号検出用電極装置。
【請求項5】
前記挿入電極と前記支持部との間には、前記挿入電極の前記支持部からの突出長を伸長調整可能な調整機構を有している請求項4に記載の頭部電気信号検出用電極装置。
【請求項6】
前記調整機構は、前記伸長方向に並べられた複数の穴とこれに選択的に嵌合する突起とを有している請求項5記載の頭部電気信号検出用電極装置。
【請求項7】
前記調整機構は、相対回転により前記伸長方向に伸縮するねじ機構と、前記伸長方向に形成された長孔又は前記伸長方向に並べられた複数の穴及びこれに嵌合する突起と、を有している請求項5記載の頭部電気信号検出用電極装置。
【請求項8】
前記伸長方向に形成された長孔又は前記伸長方向に並べられた複数の穴は、前記軸周りの異なる2以上の角位置に設けられている請求項7記載の頭部電気信号検出用電極装置。
【請求項9】
前記長孔又は前記複数の穴は、前記軸周りの異なる2以上の角位置において、前記突起との嵌合が異なっている請求項8記載の頭部電気信号検出用電極装置。
【請求項10】
前記調整機構は、前記軸と前記支持部との間に設けられている請求項5~9のいずれかに記載の頭部電気信号検出用電極装置。
【請求項11】
前記挿入電極と前記軸との間は、異形嵌合により前記軸周りでの回転位置を規制されている請求項4~9のいずれかに記載の頭部電気信号検出用電極装置。
【請求項12】
前記良接触部が導電ポリマー、導電塗料または導電ゲルのいずれかよりなる導電被膜であり、前記弾性部材が導電材料を分散させたシリコーンゴムである請求項4~9のいずれかに記載の頭部電気信号検出用電極装置。
【請求項13】
前記頭部電気信号が、脳波、心電、または、呼吸運動、若しくは、顔の筋肉運動に伴う生体信号のいずれかである請求項1~9のいずれかに記載の頭部電気信号検出用電極装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、頭部電気信号検出用電極装置及び頭部電気信号の検出方法に関する。さらに詳しくは、外耳道に挿入される挿入電極と、前記挿入電極より得られる信号を外部に伝達する導電出力部とを有し、頭部の外耳道内で受信される生体信号を検出するための頭部電気信号検出用電極装置及び頭部電気信号の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
頭部電気信号検出用電極装置としては、例えば次の特許文献1の図2に記載の外耳道挿入型電極が知られている。同電極は、電気刺激装置から感覚刺激電流を印加する前庭電気刺激手法を用いた場合に、ゲルやペーストなしに、効率的に電気刺激を与えうることを目的としている(同文献段落番号0003-0010)。
【0003】
同電極は、同文献段落番号0015-0016に記載の如く、導電層120及び導電性柔軟層130は、同図4ABの記載の如き短冊状のものを重ね合わせて胴部113全体をこれらで覆い、導通面積の最大化を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-217986号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
かかる従来の実情に鑑みて、本発明は、頭部の外耳道内で受信される生体信号を従来とは異なる原理で効率よく検出しうる頭部電気信号検出用電極装置及び頭部電気信号の検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係る頭部電気信号検出用電極装置は、外耳道に挿入される挿入電極と、前記挿入電極より得られる信号を外部に伝達する導電出力部とを有し、頭部の外耳道内で受信される生体信号を検出するための構成であって、さらに、前記挿入電極を取り付ける軸と、この軸及び前記導電出力部を支持する支持部と、この支持部に取り付けられ耳に接当し付勢する付勢弾性体と、を有し、前記挿入電極は少なくとも外耳道との接触部分に変形可能な弾性部材を有し、先端側ほど縮径しており、前記付勢弾性体は耳の耳甲介腔内で耳に接当して弾性反発により前記挿入電極を外耳道挿入側に付勢することにある。
【0007】
同構成によれば、挿入電極は少なくとも外耳道との接触部分に変形可能な弾性部材を有し、先端側ほど縮径しているため、外耳道挿入側に押圧されると、生体からの電気信号を検出できる。しかも、付勢弾性体は耳の耳甲介腔内で耳に接当して弾性反発により挿入電極を外耳道挿入側に付勢され、この姿勢は安定しているので、生体からの電気信号を安定して検出することができる。
また、前記付勢弾性体が耳の側面視で前記支持部の少なくとも耳の後ろ側に円弧状に配置するとよい。少なくとも耳の後ろ側に円弧状に配置された付勢弾性体により、挿入電極を外耳道挿入側に安定的に付勢することができる。
【0008】
しかも、前記付勢弾性体が、前記円弧状の縦断面において、前記支持部へ接当する基礎部から耳へ接当する部分の間に屈曲しながら張り出す張出部を有していれば、この張出部は例えば傘のように広がって挿入電極を外耳道挿入側に安定的に付勢することができる。
【0009】
ここで、前記挿入電極は、さらに当該弾性部材の表面に前記外耳道の周方向に対する一部の角度位置において前記外耳道との接触インピーダンスを低下させる良接触部を有し、前記支持部に対し前記軸周りでの回転位置を規制させるとよい。
【0010】
発明者らの実験によれば、図7,8のグラフに示すように、外耳道との接触インピーダンスを低下させる良接触部を設けるにあたり、前記外耳道の周方向に対する全周に設ける場合に比較して、一部の角度位置に設けた方が、前記生体信号をより高強度で受信できることが判明した。また、前記良接触部の角度幅が狭くなると同信号の受信強度が向上することも判明した。
【0011】
上記特徴において、前記挿入電極と前記支持部との間には、前記挿入電極の前記支持部からの突出長を伸長調整可能な調整機構を有するとよい。挿入電極の支持部からの突出長を伸長調整可能とすることで、付勢弾性体が耳の耳甲介腔内で耳に接当して弾性反発により挿入電極を外耳道挿入側に付勢することとあいまって、挿入電極より適切な接触状態を維持することが可能となる。
【0012】
ここで、前記調整機構は、前記伸長方向に並べられた複数の穴とこれに選択的に嵌合する突起とを有するとよい。突起を篏合させる穴の選択で、上記伸長調整が可能である。
【0013】
また、前記調整機構は、相対回転により前記伸長方向に伸縮するねじ機構と、前記伸長方向に形成された長孔又は前記伸長方向に並べられた複数の穴及びこれに嵌合する突起とを有してもよい。伸長調整とこれに伴う角位置の確定を行うことができる。
【0014】
前記伸長方向に形成された長孔又は前記伸長方向に並べられた複数の穴は、前記軸周りの異なる2以上の角位置に設けてもよい。これにより、角位置を変更して、良接触部からの生体信号を検出することができる。この場合、前記長孔又は前記複数の穴は、前記軸周りの異なる2以上の角位置において、前記突起との嵌合が異なるとよい。嵌合時のクリック感で角位置を特定することができる。
【0015】
上記前記調整機構は、前記軸と前記支持部との間に設けるとよい。
【0016】
また、前記挿入電極と前記軸との間は、異形嵌合により前記軸周りでの回転位置を規制されると、良接触部による角位置の特定が確実となる。
【0017】
製作にあたっては、前記良接触部が導電ポリマー、導電塗料または導電ゲルのいずれかよりなる導電被膜であり、前記弾性部材が導電材料を分散させたシリコーンゴムとしてもよい。
【0018】
前記頭部電気信号が、脳波、心電、または、呼吸運動、若しくは、顔の筋肉運動に伴う生体信号のいずれかに用いることができる。
【0019】
一方、上記いずれかに記載の頭部電気信号検出用電極装置を用いた頭部電気信号の測定方法は、前記良接触部が導電被膜であり、この導電被膜が前記外耳道の周方向に複数個所離隔して配置され、複数の導電被膜のいずれかまたは2以上を選択して頭部電気信号を検出するとよい。この場合、前記導電被膜が2以上選択され、各導電被膜に異なる種類の頭部電気信号の検出を割り付けるとよい。脳波、心電、または、呼吸運動、若しくは、顔の筋肉運動に伴う生体信号のいずれかをより適切な形で複数同時に検出し、測定することができる。
【発明の効果】
【0020】
上記本発明によれば、頭部の外耳道内で受信される生体信号を従来と異なる原理で効率よく検出しうる頭部電気信号検出用電極装置及び頭部電気信号の検出方法を提供することに至った。
【0021】
本発明の他の目的、構成及び効果については、以下の発明の実施の形態の項から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】耳の部位の説明及び頭部電気信号検出用電極装置の耳への装着状態を示す図である。
図2】比較例に係る電極装置の耳への装着状態を示す斜視図である。
図3】電極装置の耳への装着状態を示す図1のA-A線断面図である。
図4】電極装置の斜視図である。
図5】電極装置の他の角度からみた斜視図である。
図6】電極装置の装着状態を示す斜視図及び弾性部材の拡大斜視図である。
図7】外耳道との接触インピーダンスを低下させる良接触部を弾性部材の表面に設ける場合において、外耳道の周方向に対する全周に設ける場合と、一部の角度位置(180度)に設ける場合(角度変更)とにおける異なる周波数における信号強度の相対比較を行ったグラフである。
図8図7の条件において一部の角度位置を90度に変更した場合のグラフである。
図9】(a)は本発明に係る電極装置の実施形態を示す斜視図、(b)は電極装置の他の角度からみた斜視図、(c)は図1のA-A線における(a)(b)に係る電極装置の耳への装着状態を示す断面図である。
図10図1のA-A線における電極装置の耳への装着状態の接当体の改変例を示す断面図であって、(a)及び(b)は断面が屈曲するもの、(c)は断面が屈曲し中空状となっているもの、(d)は断面が中実のものである。
図11】(a)は図1のA-A線における電極装置の耳への装着状態を示す軸の改変例を示す断面図、(b)は(a)のH2方向視での軸、(c)は(b)の要部拡大図である。
図12】(a)は図1のA-A線における電極装置の耳への装着状態を示す軸の他の改変例を示す断面図、(b)は(a)のH2方向視での軸、(c)は(b)のさらに他の改変例、(d)は(a)のB-B線断面図である。
図13】(a)は図1のA-A線における電極装置の耳への装着状態を示す軸と弾性部材との嵌合部分の改変例を示す断面図、(b)は(a)のC-C線断面図、(c)は(b)のさらに他の改変例である。
図14】(a)は図1のA-A線における電極装置の耳への装着状態を示す他の実施例(突起による良接触部)を示す断面図、(b)は(a)のD-D線断面図である。
図15図1のA-A線における電極装置の耳への装着状態を示すさらに他の実施例(角度変更)を示す断面図である。
図16図1のA-A線における電極装置の耳への装着状態を示すさらに他の実施例(良接触部の位置)を示す断面図である。
図17】複数の良接触部を切り替えて検出を行う例を示すシステムの構成図である。
図18】穴を軸周りの異なる2以上の角位置に設け、良接触部の角位置を切り替えて検出を行うための図12(d)相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、適宜添付図1~8を参照しながら、本発明の比較例について説明し、さらに、図9以降で、比較例の課題を解決した本発明の実施形態をさらに詳しく説明する。
【0024】
本発明に係る頭部電気信号検出用電極装置(以下、単に電極装置とする)1は、図1~3(右耳),図6(左耳)に示すように耳介Eにおいて外耳道e12に挿入されて使用される。図6の例では、電極装置1は左耳に挿入され、耳の下にリファレンス電極110を取り付け、ケーブルCを介して頭部電気信号検出装置100において信号が検出される。本発明において利用される頭部電気信号は、頭部Hにおいて外耳道e12を介して検出できる全ての信号が対象となりえ、脳波、心電、または、呼吸運動、若しくは、眼球や顎等の顔の筋肉運動に伴う生体信号のいずれかである。生体信号の種類に応じて、リファレンス電極110は頭部Hの他の部分または首より下の身体部分など、適宜変更が可能である。左右両耳に電極装置1を挿入して検出を行うことも可能である。
【0025】
電極装置1の比較例の構造を図3~5を参照しつつ説明する。電極装置1は、外耳道e12に挿入される挿入電極20と、耳介Eに支持され、挿入電極をさらに支持する支持部材10とを備えている。支持部材10は、形状を維持する支持部11と、熱や光(紫外線等)や応力によって自由に変形し、形が定まる接当体12(例えば、熱変形樹脂、柔軟樹脂、ゲル等)とを有している。
【0026】
支持部11は、上輪部11a、下輪部11b及び基礎11cを一体的に積み重ね、溝部11dに上述の接当体12を保持する。また、後述の軸21を挿通させる貫通孔11eを有している。上輪部11aの上面には、例えば三角形状の角度表示手段13を隆起形成してある。
【0027】
挿入電極20は、全体が電気的に導通している中空の軸21、付勢体22、弾性部材23及び良接触部40としての導電被膜41を備えている。また、付勢体22は、導電出力部30を形成する導通片31及び端子32に電気的に接続され、端子32の突起32aを介して電気的に接続されるケーブルを介して信号を検出する。
【0028】
軸21は、内部に貫通孔21cを有し、一端に大フランジ21a,小フランジ21bを有する。弾性部材23は、全体が導電体で形成され、例えば、導電材料を分散させたシリコーンゴムや柔軟樹脂等を用いるとよい。弾性部材23は、キノコの傘状を呈する弾性変形可能で外耳道に押圧接触する押圧部23aと、先の軸21に外嵌する軸部23bを有している。軸部23bは、中間に先の小フランジ21bと嵌合する環状の溝23cを形成して軸21からの抜けを防ぎ、軸部23bの端を大フランジ21aに突き当てて、外耳道への押圧力に耐久する。押圧部23aと軸部23bとの接続部には内開口23dが形成され、軸21の貫通孔21c及び支持部11の貫通孔11eと連携して先の音響伝達路Sを形成してある。
【0029】
支持部11に対して軸21は出退可能に摺動し、付勢体22により外耳道e12側に付勢されている。この付勢体22は、互いに出退可能に摺動し電気的に導通する外ロッド22a及び内ロッド22bと、これらの内部に拡張側に付勢するスプリング、ゴムダンパー等の付勢手段が収納されている。外ロッド22aは軸21の貫通孔21c内に固着され、内ロッド22bは、先の端子32に固着されている導通片31にさらに固着される。端子32は、支持部11の基礎11cに固定されているため、付勢体22及び導通片31を介して軸21及び押圧部23aは支持部材10に付勢状態で支持される。これらの導電部の固着は、たとえば半田付け、導電接着剤等により行うとよい。
【0030】
良接触部40としての導電被膜41は、導電ポリマー、導電塗料または導電ゲルや金属薄膜のいずれかよりなる導電被膜を用いることができる。この導電被膜41を用いることで、当該部分の外耳道e12との接触インピーダンスを部分的に低下されることができ、外耳道の周方向に対する一部の角度位置での信号検出能を高めている。
【0031】
弾性部材23は軸21の中心軸L周りで符号Rに示すように支持部材10に対して相対回転が可能である。一方、外耳道e12の中心軸は、外耳道e12が屈曲しているため、上記軸21の中心軸Lとは必ずしも一致しない。しかし、上記軸21の中心軸L周りRの回転は、外耳道e12の周方向回り成分を有するため、軸21の中心軸L周りの弾性部材23の回転を許容する本願機構は、支持部材10に対して外耳道の周方向回り成分を有する形で相対回転が可能な機構を実現しているものとみなす。
【0032】
図3~6における導電被膜41の形成される良接触部範囲Wは、軸21の中心軸L周りRで90度とされている。図7,8では、良接触部範囲Wを変更するとともに、軸21の中心軸L周りRの回転位相を90度ずつ変化させて10Hz,20Hz,30Hzと受信周波数を切り替えて信号の受信共同を測定し、相対強度表示で示した。図7はW=180度、図8はW=90度とし、それぞれ比較としてW=360度(全周)を加えた。左耳での検出であり、時計回りを基準としたため、位相角は、各良接触部の範囲の中心において、Upが0度、Rightが90度、Downが180度、Leftが270度の位置である。
【0033】
図7,8を比較すると次のことが窺える。Wが360度、180度、90度と低下するに従って、信号レベルはより向上する。また、回転位相において、Up(0度)が概ね他より高く、Down(180度)が最低である。これらより、検出強度は、回転位相により異なって方向性を有し、良接触部範囲Wを狭くして方向性を高めた方が受信共同が増すことが窺える。なお、脳波が外耳道e12からみて上方に位置する脳から発生したものと考えると、上記推論が妥当となる。同様に、他の生体信号の発生部位に合わせて回転位相を合わせると、より信号レベルの高い信号を検出することが可能となることが窺える。
【0034】
次に、耳介Eの構造を図1~3を参照しながら説明し、耳介Eへの電極装置1の保持状態について説明する。耳介Eは外周である耳輪e1の下に耳垂e2が一し、前側は耳輪脚e3につながり、耳介Eの輪郭が形成される。耳輪e1上部の内側からはじまる隆起部である対輪脚e4は対耳輪e5につながり、さらに下部の対珠e6を経て、珠間切痕e7を介して耳珠e8に至る。窪みである耳甲介艇e9は、対輪脚e4及び対耳輪e5と耳輪脚e3との間に形成される。他の窪みである耳甲介腔e10は、対耳輪e5、耳輪脚e3、対珠e6及び耳珠e8の間に形成される。耳甲介腔e10の前方にある外耳孔e11を介して外耳道e12に至り、さらに、図示省略する鼓膜に至る。
【0035】
上述のとおり、回転位相が検出信号の検出能に影響を与え、また、Wを限定することでインピーダンス低下範囲が狭まることから、より確実に外耳道e12に良接触部40を押圧接触させることが望ましい。本比較例では、支持部材10の支持部11において、上輪部11aが下輪部11bより小さいことから、窪みである耳甲介艇e9及び耳甲介腔e10に挿入しやすい。しかも、溝部11dに保持された円弧状またはC型の接当体12が、耳甲介艇e9及び耳甲介腔e10内で変形するので、傾きにくくて抜けにくい。この状態で挿入電極20を付勢体22の付勢力で押し込むので、良接触部40が外耳道e12により確実に接触することとなる。
【0036】
次に、図9~18を参照しながら本発明の実施形態と改変例について説明する。上記比較例では、支持部11に設ける接当体12としては、熱や光や応力によって自由に変形し、形が定まる熱変形樹脂、柔軟樹脂、ゲル等を用いた。また、支持部11に対して軸21は出退可能に摺動し、付勢体22により外耳道e12側に弾性部材23と共に付勢されていた。しかし、摺動可能な軸21に付勢体22を取付けるのは製造工程が複雑となり、また、外耳道e12側に弾性部材23を安定的に当接させにくい。
【0037】
そこで、本発明では、課題1として接当体12による押圧、課題2として支持部11と軸21との軸長手方向への相対位置の調整及び固定、また、課題3として弾性部材23の軸21の中心軸L周りでの角度位置の固定(良接触部による特定角度での検査)を解決した。なお、以下の各実施形態において、上記比較例と同様の部材には同一の符合を附してある。
【0038】
課題1の接当体12による押圧については、図9,10にその態様が示されている。図9及び図10(a)に第一態様を示す。この態様では、接当体12が、耳の耳甲介腔内で耳に接当して弾性反発により挿入電極23を外耳道挿入側に付勢する付勢弾性体として構成されている。この接当体12は、符合H1で示す耳の側面視で支持部11の少なくとも耳の後ろ側に円弧状に配置され、さらに詳しく説明すると、符合H1で示す耳の側面視で支持部11に弾性収縮しながら巻き付いて、溝部11dに収まって抜けないように構成されている。符合H1方向の断面図においては、耳の後ろ側に相当する後方部BPで、支持部11へ接当する基礎部12aから耳へ接当する部分の間に屈曲しながら張り出す張出部12bを備えている。この張出部12bは、図9(a)(c)に示すように、後方部BPから前方部FPに向かうにしたがって張出量が少なくなり、前方部12cが最も断面が小さくなっている。この張出部12bは傘のように広がり、弾性変形で挿入電極23を外耳道挿入側に付勢する。
【0039】
軸21はその径よりやや小さな貫通孔11eに強制的に嵌め込まれ、適切な突出量で位置決めされるが、後述の相対位置調整機構を設けても良い。連通部32bは軸21に導通し、端子32と挿入電極20の弾性部材23とを導通させる。
【0040】
図10(b)は接当体12の改変例であり、張出部12bが、断面において第一屈曲部12b1,第二屈曲部12b2で二度折り返されて反発力が向上している。断面が屈曲するもの、図10(c)は断面において環状部12eが中空部12fを備え、上下に一対の張出部12b、12bを構成する。図10(d)断面において中実の弾性変形可能な接当体12を構成する。
【0041】
図11,12は、課題2である支持部11と軸21との軸長手方向への相対位置の調整及び固定に関するものである。図11では、軸21の軸方向に長手方向を配向して設けられた異形スリット21eと、異形スリット21eの拡大部分である穴21e1~5と、これらに嵌合する支持部11側の嵌合ピン(突起)11gとにより機構が構成されている。なお、本明細書において、軸21の穴は、底のある穴のほか、貫通した孔であってもよく、前者は後者を含むものとする。
【0042】
図12(a)(b)(d)に示す例では、軸21の伸長方向に並べられた複数の穴21gに対し、符合H2方向に形成された貫通孔11hを通るプランジャー(突起)11iが嵌合して、軸21の中心軸周りの相対回転位置を規制する。貫通孔11eに固定的に設けられたねじ筒11jの内面には雌ねじ部11kが形成され、軸21のの外面の雄ねじ部21fと螺合して、軸21と支持体11との軸21の中心軸周りでの相対回転により、軸21の伸長方向に対する突出位置が調整、固定されることとなる。これらの機構により、先の良接触部の角位置を適切に保ちながら、弾性部材23の突出量を調整することができる。なお、プランジャー11iは先端の突起が弾性的に出退するものであればよく、ボールプランジャーやピンプランジャーなどを利用することができる。
【0043】
図12(c)の例では、複数の穴21gの代わりに伸長方向に長手方向を配向した長穴21hを用いている。伸長方向のピッチは雌ねじ部のピッチで規定し、角位置のみこの長穴21hで規定している。
【0044】
図13は、課題3である弾性部材23の軸21の中心軸L周りでの角度位置の固定(良接触部による特定角度での検査)に関する。図13(a)(b)に示すように、大フランジ21aよりも先端側の軸21は、半円軸部21iとして形成されている。また、弾性部材23の軸部23bはこの半円軸部21iに嵌合するように形成され、両者の軸21の中心軸周りでの相対回転が規制されている。図13(c)に示すように、大フランジ21aよりも先端側の軸21を異形軸部21jとして形成し、同様に両者の軸21の中心軸周りでの相対回転を規制してもよい。
【0045】
本発明は本来の趣旨を逸脱しない限り種々の改変が可能である。以下に、本発明の別の実施形態を列挙する。上記比較例・実施形態では良接触部40として導電被膜41を設けた。しかし、図14(a)(b)に示すように、たとえば突起部42を設けて局所的に押圧力を高めて、導電被膜41の代わりに良接触部40としてもよい。なお、図中、符号22cは付勢体の外ロッド22a内に収納された付勢手段としてのスプリングである。
【0046】
上記比較例・実施形態では、支持部材10に対する挿入電極20の傾斜角度は一定であった。しかし、図15に示すように、例えば支持部11の貫通孔11eと軸21との間に変形スリーブ14を介在させて、支持部材10に対する挿入電極20の傾斜角度を変更可能としてもよい。同図では、変形スリーブ14にゴムや弾性樹脂等の可撓性部材を用いる他、熱硬化性樹脂等の固化部材を用いて、傾斜角度を変更後保持させるようにしてもよい。同図では断面内の傾斜θのみの変更を表示したが、紙面垂直方向への傾斜変更も可能である。
【0047】
図16に示すように、外耳道e12の屈曲部に沿う位置に導電被膜43等の良接触部40を位置させてもよい。同形態によれば、押圧力と屈曲部への密着とが相まって、接触インピーダンスをより低下させうることが期待できる。
【0048】
図17に示すように、良接触部40を複数位相箇所に設け、これを選択的に利用してもよい。同例では、良接触部として導電被膜41を用い、各導電被膜をW=90度以下の範囲として符合41a~dに示す4つの位相箇所に設けている。各導電被膜41a~dの間は図示しないが絶縁し、先の軸21は電気信号の絶縁体とし、個別のケーブルでスイッチボックス101に誘導し、スイッチボックス101を切り替えて頭部電気信号検出装置100において選択的に用いてもよい。また、検出装置100は複数100a,100b設け、同時に複数の導電被膜41a~dを選択して計測してもよい。この場合、各導電被膜に異なる種類の頭部電気信号の検出を割り付けてもよい。また、前述のとおり、左右の耳で、各電極装置1,1及び複数の導電被膜41a~dを適宜選択し、組合せて検出を行ってもよい。
【0049】
上記比較例・実施形態では、端子32を用いてケーブルCを接続した。しかし、端子32を用いずに、例えば導通片31等にケーブルCを直接接続してもよい。
【0050】
良接触部範囲Wは90度、180度に限らず適宜改変が可能である。複数の導電被膜41を設ける場合は、互いに連通しないように絶縁する必要がある。また、軸21の中心軸L方向に対する導電被膜41の形成範囲も適宜変更が可能である。
【0051】
上記図12に示す例では、軸21の伸長方向に並べられた複数の穴21gまたは長孔21hは軸21の中心軸周りにおける1つの角位置のみに設けられた。しかし、図18に示すように複数の穴21g1~3(又は長穴)を、異なる角位置θ1~3に対応させて複数角位置に設けても良い。この場合、穴21g1よりも穴21g2は浅く、また、穴21g3は穴の直径が小さくなっており、プランジャー11iとの嵌合を異ならせてある。嵌合を異ならせることで、嵌合時のクリック感が変化し、角位置を確認することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、頭部電気信号検出用電極装置及び頭部電気信号の検出方法として利用することができる。脳波及び脳波以外の筋電も同時に検出できることから、睡眠状態の検査装置等に用いることも可能である。
【符号の説明】
【0053】
1:電極装置(頭部電気信号検出用電極装置)、10:支持部材、11:支持部、11a:上輪部、11b:下輪部、11c:基礎、11d:溝部、11e:貫通孔、11g:嵌合ピン、11h:貫通孔、11i:プランジャー、11j:ねじ筒、11k:雌ねじ部、12:接当体(付勢弾性体)、12a:基礎部、12b:張出部、12b1:第一屈曲部,12b2:第二屈曲部,12c:前方部、12e:環状部、12f:中空部、13:角度表示手段、14:変形スリーブ、20:挿入電極、21:軸、21a:大フランジ、21b:小フランジ、21c:貫通孔、21e:異形スリット、21f:雄ねじ部、21g:穴、21h:長穴、21i:半円軸部、21j:異形軸部、22:付勢体、22a:外ロッド、22b:内ロッド、22c:スプリング、23:弾性部材、23a:押圧部、23b:軸部、23c:溝、23d:内開口、30:導電出力部、31:導通片、32:端子、32a:突起、32b:連通部、40:良接触部、41、41a~d:導電被膜、42:突起、43:導電被膜、100:頭部電気信号検出装置、110:リファレンス電極、C:ケーブル、E:耳介、e1:耳輪、e2:耳垂、e3:耳輪脚、e4:対輪脚、e5:対耳輪,e6:対珠、e7:珠間切痕、e8:耳珠、e9:耳甲介艇、e10:耳甲介腔、e11:外耳孔、e12:外耳道、H:頭部、S:音響伝達路、W:良接触部範囲、FP:前方部、BP:後方部
図1
図2
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