(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024021488
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】粘着シート
(51)【国際特許分類】
C09J 7/20 20180101AFI20240208BHJP
【FI】
C09J7/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022124339
(22)【出願日】2022-08-03
(71)【出願人】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(74)【代理人】
【識別番号】100176407
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 理啓
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 遼
(72)【発明者】
【氏名】沖本 昌也
【テーマコード(参考)】
4J004
【Fターム(参考)】
4J004AA05
4J004AA08
4J004AA10
4J004AA14
4J004AA15
4J004AB01
4J004CA06
4J004CB03
4J004CC02
4J004CE01
4J004DA01
4J004DB02
4J004FA08
(57)【要約】
【課題】良好なエキスパンド性を示す粘着シートを提供する。
【解決手段】基材と、前記基材における片面側に積層された粘着剤層とを備える粘着シートであって、前記基材が、ポリエステル樹脂を含有する材料からなり、前記ポリエステル樹脂が、脂環構造を有するとともに、重量平均分子量が85,000以上である粘着シート。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材における片面側に積層された粘着剤層とを備える粘着シートであって、
前記基材が、ポリエステル樹脂を含有する材料からなり、
前記ポリエステル樹脂が、脂環構造を有するとともに、重量平均分子量が85,000以上である
ことを特徴とする粘着シート。
【請求項2】
前記ポリエステル樹脂は、当該ポリエステル樹脂を構成するモノマー単位として、前記脂環構造を有するジカルボン酸と、前記脂環構造を有するジオールと、不飽和脂肪酸を二量化してなるダイマー酸とを含むことを特徴とする請求項1に記載の粘着シート。
【請求項3】
前記ポリエステル樹脂を構成する全モノマー単位に対する、前記ダイマー酸の割合は、1モル%以上、10モル%以下であることを特徴とする請求項2に記載の粘着シート。
【請求項4】
前記ダイマー酸を構成する前記不飽和脂肪酸の炭素数は、10以上、30以下であることを特徴とする請求項2または3に記載の粘着シート。
【請求項5】
前記基材に対し、23℃の環境下および引張速度200mm/minで引張試験を行った場合に測定される引張弾性率は、100MPa以上、500MPa以下であることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の粘着シート。
【請求項6】
前記基材に対し、23℃の環境下および引張速度200mm/minで引張試験を行った場合に測定される破断伸度は、200%以上、800%以下であることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の粘着シート。
【請求項7】
前記基材の厚さは、20μm以上、450μm以下であることを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載の粘着シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエハ等のワークの加工に使用されるワーク加工用シートとして好適に使用できる粘着シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
シリコン、ガリウムヒ素などの半導体ウエハや各種パッケージ類は、大径の状態で製造され、チップに切断(ダイシング)され、剥離(ピックアップ)された後に、次の工程であるマウント工程に移される。この際、半導体ウエハ等の半導体材料は、基材および粘着剤層を備える粘着シート(以下、「半導体加工用シート」という場合がある。)に貼付された状態で、バックグラインド、ダイシング、洗浄、乾燥、エキスパンディング、ピックアップ、マウンティング等の加工が行われる。
【0003】
上記ピックアップの工程では、半導体チップのピックアップを容易にするために、半導体加工用シートにおける半導体チップが積層された面とは反対の面から、半導体チップを個々に突き上げることを行う場合がある。特に、ピックアップの際の半導体チップ同士の衝突を抑制するとともに、ピックアップを容易にするために、通常、半導体加工用シートを延伸(エキスパンド)させて、半導体チップ同士を離間させることが行われる。そのため、半導体加工用シートには、良好なエキスパンドを可能にする、優れた柔軟性を有することが求められる。
【0004】
特許文献1および2には、良好なエキスパンドを実現する目的のもと開発された半導体加工用シートに関する発明が開示されている。特に、引用文献1には、基材層と粘着層とを有するダイシングフィルムであって、当該基材層が、所定のランダムポリプロピレンと所定のオレフィン系エラストマーとを所定の条件で含むダイシングフィルムが開示されている。また、引用文献2には、粘着剤層と、粘着剤被塗布層と、熱可塑性エラストマー層と、樹脂層とがこの順に積層してなる粘着テープであって、上記熱可塑性エラストマー層が所定の樹脂組成物からなる粘着テープが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5494132号公報
【特許文献2】特開平11-199840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、本発明者らは、所定のポリエステル樹脂を主材として用いて構成される基材を、半導体加工用シートの基材として使用することを検討している。本発明者らは、このような半導体加工用シートにおいて、ダイシング時における切削片の発生を抑制する効果をはじめとした種々の優れた効果があることを確認している。さらに、本発明者らは、上記基材を改良することで、より優れたエキスパンド性を有する半導体加工用シートを実現できることがわかった。
【0007】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、良好なエキスパンド性を示す粘着シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、第1に本発明は、基材と、前記基材における片面側に積層された粘着剤層とを備える粘着シートであって、前記基材が、ポリエステル樹脂を含有する材料からなり、前記ポリエステル樹脂が、脂環構造を有するとともに、重量平均分子量が85,000以上であることを特徴とする粘着シートを提供する(発明1)。
【0009】
上記発明(発明1)に係る粘着シートでは、基材が、脂環構造を有し且つ上述した重量平均分子量を有するポリエステル樹脂を含有する材料からなることにより、当該基材が優れた柔軟性を有するものとなり、粘着シートとしてのエキスパンド性が優れたものとなる。
【0010】
上記発明(発明1)において、前記ポリエステル樹脂は、当該ポリエステル樹脂を構成するモノマー単位として、前記脂環構造を有するジカルボン酸と、前記脂環構造を有するジオールと、不飽和脂肪酸を二量化してなるダイマー酸とを含むことが好ましい(発明2)。
【0011】
上記発明(発明2)において、前記ポリエステル樹脂を構成する全モノマー単位に対する、前記ダイマー酸の割合は、1モル%以上、10モル%以下であることが好ましい(発明3)。
【0012】
上記発明(発明2,3)において、前記ダイマー酸を構成する前記不飽和脂肪酸の炭素数は、10以上、30以下であることが好ましい(発明4)。
【0013】
上記発明(発明1~4)において、前記基材に対し、23℃の環境下および引張速度200mm/minで引張試験を行った場合に測定される引張弾性率は、100MPa以上、500MPa以下であることが好ましい(発明5)。
【0014】
上記発明(発明1~5)において、前記基材に対し、23℃の環境下および引張速度200mm/minで引張試験を行った場合に測定される破断伸度は、200%以上、800%以下であることが好ましい(発明6)。
【0015】
上記発明(発明1~6)において、前記基材の厚さは、20μm以上、450μm以下であることが好ましい(発明7)。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る粘着シートは、良好なエキスパンド性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について説明する。
本実施形態に係る粘着シートは、基材と、当該基材における片面側に積層された粘着剤層とを備える。当該粘着シートは、一般的な粘着シートと同様に、種々の用途に使用することができるものの、特に、半導体ウエハ等のワークの加工のために使用されるワーク加工用シートとして使用することが好適である。
【0018】
1.粘着シートの構成
(1)基材
本実施形態における基材は、ポリエステル樹脂を含有する材料からなるものであり、当該ポリエステル樹脂は、脂環構造を有するとともに、重量平均分子量が85,000以上である。
【0019】
本実施形態における基材は、上記ポリエステル樹脂を含有する材料からなることにより、非常に優れた柔軟性を有するものとなる。それにより、本実施形態に係る粘着シートは、良好なエキスパンドを行うことが可能となり、続くピックアップ工程においては、チップの裏面からの突き上げを行い易くなり、良好なピックアップも可能となる。
【0020】
特に、上記ポリエステル樹脂の重量平均分子量が85,000以上であることにより、基材フィルムは優れた機械的強度を有する。それにより、本実施形態に係る基材フィルムが、優れたエキスパンド性やピックアップ性を示すものとなる。
【0021】
また、本実施形態における基材は、脂環構造を有するポリエステル樹脂を含む材料からなることにより、当該基材を用いて構成された粘着シートでは、回転する丸刃を用いた半導体材料のダイシングに使用した場合に、切削屑の発生を良好に抑制することもできる。このような切削屑抑制効果は、本実施形態における基材に対して、電子線またはγ線といった放射線の照射を行うことなく発揮される。そのため、本実施形態における基材によれば、放射線照射の工程を含む方法により製造される従来の基材と比較して、製造コストを低く抑えて粘着シートを製造することができる。
【0022】
さらに、上記ポリエステル樹脂を材料とする本実施形態における基材は、良好な透明性を有するものともなるため、当該基材を備える粘着シートを介した半導体材料の視認や検査も行い易いものとなる。
【0023】
本実施形態に係る粘着シートの例としては、バックグラインドシート、ダイシングシート、エキスパンドシート、ピックアップシート等が挙げられる。特に、本実施形態に係る粘着シートは良好なエキスパンドが可能となるため、本実施形態に係る粘着シートは、ダイシングシート、エキスパンドシートまたはピックアップシートとして使用することが好適である。
【0024】
(1-1)ポリエステル樹脂
本実施形態における基材の材料の1つとして使用されるポリエステル樹脂の具体的な組成は、脂環構造を有し、且つ、重量平均分子量が85,000以上である限り、特に限定されない。
【0025】
前述の通り、本実施形態におけるポリエステル樹脂は、重量平均分子量が85,000以上であるが、より良好な柔軟性を有し易くなるという観点からは、当該重量平均分子量は、90,000以上であることが好ましく、特に100,000以上であることが好ましい。なお、上記重量平均分子量の上限値については特に限定されず、例えば200,000以下であってよく、特に180,00以下であってよく、さらには150,000以下であってよい。なお、本明細書における重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC法)により測定した標準ポリスチレン換算の値であり、その測定方法の詳細は、後述する試験例に記載の通りである。
【0026】
また、基材がより良好な柔軟性を有し易くなるという観点からは、上記ポリエステル樹脂が有する脂環構造は、環を構成する炭素数が6以上であることが好ましい。また、当該炭素数は、14以下であることが好ましく、特に10以下であることが好ましい。とりわけ、上記炭素数は、6であることが好ましい。また、当該脂環構造は、1つの環からなる単環式であってもよく、2つの環からなる二環式であってもよく、3つ以上の環からなるものであってもよい。
【0027】
また、基材がより良好な柔軟性を有し易くなるという観点から、上記ポリエステル樹脂は、当該ポリエステル樹脂を構成するモノマー単位として、脂環構造を有するジカルボン酸を含むことが好ましい。また、同様の観点から、上記ポリエステル樹脂は、当該ポリエステル樹脂を構成するモノマー単位として、脂環構造を有するジオールを含むことが好ましい。このようなジカルボン酸およびジオールは、いずれか一方のみがポリエステル樹脂に含まれてもよいものの、より良好な柔軟性を有し易くなるという観点からは、ポリエステル樹脂がこのようなジカルボン酸およびジオールの両方を含むことが好ましい。
【0028】
上述したジカルボン酸の構造は、脂環構造を有するとともに、2つのカルボキシ基を有するものであれば、特に限定されない。例えば、ジカルボン酸は、脂環構造に2つのカルボキシ基が結合してなる構造であってもよく、そのような脂環構造とカルボキシ基との間に、さらにアルキル基等が挿入されてなる構造であってもよい。このようなジカルボン酸の好ましい例としては、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-デカヒドロナフタレンジカルボン酸、1,5-デカヒドロナフタレンジカルボン酸、2,6-デカヒドロナフタレンジカルボン酸、2,7-デカヒドロナフタレンジカルボン酸等が挙げられ、これらの中でも、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸を使用することが好ましい。これらのジカルボン酸は、アルキルエステル等の誘導体であってもよい。このようなアルキエステル誘導体としては、例えば、炭素数が1以上、10以下のアルキルエステルであってよい。より具体的な例としては、ジメチルエステル、ジエチルエステル等が挙げられ、特にジメチルエステルが好ましい。
【0029】
本実施形態におけるポリエステル樹脂が、それを構成するモノマー単位として、脂環構造を有するジカルボン酸を含む場合、当該ポリエステル樹脂を構成する全モノマー単位に対する、脂環構造を有するジカルボン酸モノマーの割合は、30モル%以上であることが好ましく、35モル%以上であることがより好ましく、特に40モル%以上であることが好ましく、さらには45モル%以上であることが好ましい。また、当該割合は、50モル%以下であることが好ましく、49モル%以下であることがより好ましく、特に48モル%以下であることが好ましく、さらには47モル%以下であることが好ましい。これらの範囲であることで、本実施形態における基材がより優れた柔軟性を有し易いものとなる。
【0030】
また、本実施形態におけるポリエステル樹脂が、それを構成するモノマー単位として、脂環構造を有するジカルボン酸を含む場合、当該ポリエステル樹脂を構成する環構造を有するジカルボン酸全体に対する、脂環構造を有するジカルボン酸の割合は、60%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、特に80%以上であることが好ましく、さらには90%以上であることが好ましい。上記割合が60%以上であることで、本実施形態における基材がより優れた柔軟性を有し易いものとなる。なお、当該割合の上限値については特に限定されず、例えば、100%以下であってもよい。なお、上記環構造を有するジカルボン酸には、脂環構造を有するジカルボン酸の他、芳香環構造を有するジカルボン酸などが含まれる。
【0031】
上述したジオールの構造は、脂環構造を有するとともに、2つのヒドロキシ基を有するものであれば、特に限定されない。例えば、ジオールは、脂環構造に2つのヒドロキシ基が結合してなる構造であってもよく、そのような脂環構造とヒドロキシ基との間に、さらにアルキル基等が挿入されてなる構造であってもよい。このようなジオールの好ましい例としては、1,2-シクロヘキサンジオール(特に1,2-シクロヘキサンジメタノール)、1,3-シクロヘキサンジオール(特に1,3-シクロヘキサンジメタノール)、1,4-シクロヘキサンジオール(特に1,4-シクロヘキサンジメタノール)、2,2-ビス-(4-ヒドロキシシクロヘキシル)-プロパン等が挙げられ、これらの中でも、1,4-シクロヘキサンジメタノールを使用することが好ましい。
【0032】
本実施形態におけるポリエステル樹脂が、それを構成するモノマー単位として、脂環構造を有するジオールを含む場合、当該ポリエステル樹脂を構成する全モノマー単位に対する、当該ジオールモノマーの割合は、35モル%以上であることが好ましく、特に40モル%以上であることが好ましく、さらには45モル%以上であることが好ましい。また、当該割合は、50モル%以下であることが好ましく、特に49モル%以下であることが好ましく、さらには48モル%以下であることが好ましい。これらの範囲であることで、本実施形態における基材がより優れた柔軟性を有し易いものとなる。
【0033】
本実施形態におけるポリエステル樹脂は、基材がより優れた柔軟性を有し易くなるという観点から、当該ポリエステル樹脂を構成するモノマー単位として、不飽和脂肪酸を二量化してなるダイマー酸を含むことも好ましい。ここで、当該不飽和脂肪酸の炭素数は、10以上であることが好ましく、特に15以上であることが好ましい。また、上記炭素数は、30以下であることが好ましく、特に25以下であることが好ましい。このようなダイマー酸の例としては、オレイン酸、リノール酸等の炭素数18の不飽和脂肪酸を二量化して得られる炭素数36のジカルボン酸、エルカ酸等の炭素数22の不飽和脂肪酸を二量化して得られる炭素数44のジカルボン酸等が挙げられる。なお、上記ダイマー酸を得る際には、上述した不飽和脂肪酸を三量化してなるトリマー酸も少量生じる場合がある。本実施形態におけるポリエステル樹脂は、上記ダイマー酸とともに、このようなトリマー酸を含んでいてもよい。また、二量化後に残存する不飽和二重結合を水素添加によって飽和化した水添ダイマー酸を、柔軟性、耐衝撃性の点から好適に用いることができる。
【0034】
本実施形態におけるポリエステル樹脂が、それを構成するモノマー単位として、上記ダイマー酸を含む場合、当該ポリエステル樹脂を構成する全モノマー単位に対する、当該ダイマー酸の割合は、1モル%以上であることが好ましく、特に2モル%以上であることが好ましく、さらには3モル%以上であることが好ましい。また、当該割合は、10モル%以下であることが好ましく、特に8モル%以下であることが好ましく、さらには7モル%以下であることが好ましい。これらの範囲であることで、ポリエステル樹脂が所望の柔軟性を有し易くなり、その結果、本実施形態における基材がより優れた柔軟性を有し易いものとなる。
【0035】
本実施形態におけるポリエステル樹脂は、それを構成するモノマー単位として、上述したジカルボン酸、ジオールおよびダイマー酸以外のモノマーを含有してもよい。そのようなモノマーの例としては、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸;フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸等が挙げられる。また、脂環構造を有するジオール以外のジオール成分を含有してもよい。例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、デカンジオール;ビスフェノールA、ビスフェノールS等のエチレンオキサイド付加物;トリメチロールプロパン等を含有してもよい。
【0036】
但し、本実施形態におけるポリエステル樹脂においては、より優れた柔軟性を実現し易いという観点から、脂環構造を有するモノマー(前述した、脂環構造を有するジカルボン酸や脂肪構造を有するジオール)が、芳香環構造を有するモノマーよりも多く含まれていることが好ましい。特に、本実施形態におけるポリエステル樹脂を構成するモノマー単位のうち、脂環構造を有するモノマー単位に対する芳香環構造を有するモノマー単位のモル比は、1未満であることが好ましく、0.5以下であることがより好ましく、0.2以下であることがより好ましく、0.1以下であることがより好ましく、0.05以下であることがより好ましく、0.03以下であることがより好ましく、0.01以下であることがより好ましく、特に0.005以下であることが好ましく、さらには0.001以下であることが好ましく、0であることが最も好ましい。
【0037】
本実施形態におけるポリエステル樹脂の製造方法は、重量平均分子量が上述した範囲となる限り特に限定されず、公知の触媒を使用し、公知の方法によって製造することができる。例えば、ジカルボン酸とグリコールを直接エステル化反応し、得られたオリゴマーを減圧下で重合する方法、ジメチルエステル等のエステル化物とグルコールをエステル交換反応し、得られたオリゴマーを減圧下で重合する方法のいずれでもよい。また、重量平均分子量を上述した範囲に調整する為に、前述した方法(溶液重合)で得られたポリエステル樹脂を減圧下または不活性ガス流通下において融点以下の温度に加熱することで反応させる固相重合を行ってもよい。
【0038】
本実施形態における基材を構成する材料中におけるポリエステル樹脂の含有量は、55質量%以上であることが好ましく、特に60質量%以上であることが好ましく、さらには65質量%以上であることが好ましい。上記含有量が55%以上であることで、本実施形態における基材がより良好な柔軟性を有し易いものとなる。なお、上記含有量の上限値については特に限定されず、例えば100%以下である。
【0039】
(1-2)その他の成分
本実施形態における基材を作製するため材料は、上述したポリエステル樹脂以外のその他の成分を含有してもよい。特に、当該材料には、一般的な粘着シートの基材に用いられる成分を含有させてもよい。
【0040】
そのような成分の例としては、難燃剤、可塑剤、滑剤、酸化防止剤、着色剤、赤外線吸収剤、紫外線吸収剤、イオン捕捉剤等の各種添加剤が挙げられる。これらの添加剤の含有量としては、特に限定されないものの、基材が所望の機能を発揮する範囲とすることが好ましい。
【0041】
なお、柔軟性を付与するという観点から、上記材料には、熱可塑性エラストマー等のエラストマーを添加してもよい。しかしながら、本願実施形態における基材は、このようなエラストマーを添加しない場合であっても、十分な柔軟性を発揮するものとなる。
【0042】
また、本実施形態における基材を作製するため材料は、塩素原子等のハロゲン原子を含有する成分を実質的に含有しないことが好ましい。ハロゲン原子は、半導体加工用シートにて取り扱われる半導体材料や半導体装置に悪影響を与える可能性があり、ハロゲン原子を含有する成分を実質的に含有しない材料から基材が構成されることで、そのような問題を回避することができる。なお、上述した「実質的に含有しない」とは、ハロゲン原子を含有する成分の含有量が、材料の全成分に対して、1.0質量%以下であることを指し、特に質量0.1%以下であることを指し、さらには0.01質量%であることを指す。
【0043】
(1-3)基材の構成
本実施形態における基材の層構成としては、前述したポリエステル樹脂を含有する材料からなる層(以下、「樹脂層A」という場合がある。)を備える限り、単層であってもよく、複数層であってもよい。製造コストを低減できる観点からは、本実施形態における基材は、単層(樹脂層Aのみ)であることが好ましい。一方、複数層とする場合、樹脂層Aを複数積層してもよく、あるいは、樹脂層Aと、それ以外の層とを積層してもよい。
【0044】
また、基材における粘着剤層が積層される面には、当該粘着剤層との密着性を高めるために、プライマー処理、コロナ処理、プラズマ処理等の表面処理が施されてもよい。
【0045】
(1-4)基材の製法
本実施形態における基材の製造方法は、前述したポリエステル樹脂を含有する材料を用いる限り、特に限定されず、例えば、Tダイ法、丸ダイ法等の溶融押出法;カレンダー法;乾式法、湿式法等の溶液法などを使用することができる。これらの中でも、効率良く基材を製造する観点から、溶融押出法またはカレンダー法を採用することが好ましい。
【0046】
単層からなる基材を溶融押出法により製造する場合、基材の材料(前述したポリエステル樹脂を含有する材料)を混練し、得られた混練物から直接、または一旦ペレットを製造したのち、公知の押出機を用いて製膜すればよい。
【0047】
また、複数層からなる基材を溶融押出法により製造する場合、各層を構成する成分をそれぞれ混練し、得られた混練物から直接、または一旦ペレットを製造したのち、公知の押出機を用いて、複数層を同時に押出して製膜すればよい。
【0048】
(1-5)基材の物性等
本実施形態における基材の、23℃の環境下および引張速度200mm/minで引張試験を行った場合に測定される引張弾性率は、500MPa以下であることが好ましく、特に450MPa以下であることが好ましく、さらには400MPa以下であることが好ましい。上記引張弾性率が500MPa以下であることで、本実施形態における基材がより良好な柔軟性を有し易いものとなる。また、上記引張弾性率は、100MPa以上であることが好ましく、特に200MPa以上であることが好ましく、さらには300MPa以上であることが好ましい。また、上記引張弾性率が100MPa以上であることで、本実施形態における基材が適度な強度を有し易いものとなり、当該基材を備える粘着シートが良好な取り扱い性を有するものとなるとともに、所望の半導体加工を良好に行い易くなる。
【0049】
本実施形態における基材の、23℃の環境下および引張速度200mm/minで引張試験を行った場合に測定される破断点応力は、60MPa以下であることが好ましく、特に50MPa以下であることが好ましく、さらには45MPa以下であることが好ましい。上記破断点応力が60MPa以下であることで、本実施形態における基材がより良好な加工性を有するものとなる。また、上記破断点応力は、15MPa以上であることが好ましく、特に20MPa以上であることが好ましく、さらには25MPa以上であることが好ましい。上記破断点応力が15MPa以上であることで、本実施形態における基材が適度な強度を有し易いものとなり、当該基材を備える粘着シートが良好な取り扱い性を有するものとなるとともに、所望の加工を良好に行い易くなる。さらに、上記破断点応力が15MPa以上であることで、本実施形態における基材がより良好なエキスパンド性を有するものとなる。
【0050】
本実施形態における基材の、23℃の環境下および引張速度200mm/minで引張試験を行った場合に測定される破断伸度は、200%以上であることが好ましく、250%以上であることがより好ましく、特に300%以上であることが好ましく、さらには350%以上であることが好ましい。上記破断伸度が200%以上であることで、本実施形態における基材が所望の伸長性を有し易いものとなり、当該基材を備える粘着シートが優れたエキスパンド性やピックアップ性を実現し易いものとなる。また、上記破断伸度は、800%以下であることが好ましく、700%以下であることがより好ましく、特に600%以下であることが好ましく、さらには500%以下であることが好ましい。上記破断伸度が800%以下であることで、基材の加工性がより優れたものとなり、所望の粘着シートを製造し易いものとなる。
【0051】
なお、以上の引張弾性率、破断点応力および破断伸度の測定方法の詳細は、後述する試験例に記載の通りである。
【0052】
本実施形態における基材の厚さは、20μm以上であることが好ましく、特に25μm以上であることが好ましく、さらには50μm以上であることが好ましい。また、基材の厚さは、450μm以下であることが好ましく、特に400μm以下であることが好ましく、さらには300μm以下であることが好ましい。基材の厚さが20μm以上であることで、基材を備える粘着シートが適度な強度を有し易いものとなり、粘着シート上に固定される対象を良好に支持し易いものとなる。その結果、ダイシングの際におけるチッピングの発生等を効果的に抑制することが可能となる。また、基材の厚さが450μm以下であることで、基材がより良好な加工性を有するものとなる。
【0053】
(2)粘着剤層
本実施形態における粘着剤層を構成する粘着剤としては、被着体に対する十分な粘着力(特に、半導体材料の加工を行うために十分となるような粘着力)を発揮することができる限り、特に限定されない。粘着剤層を構成する粘着剤の例としては、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、ポリビニルエーテル系粘着剤等が挙げられる。これらの中でも、所望の粘着力を発揮し易いという観点から、アクリル系粘着剤を使用することが好ましい。
【0054】
上記粘着剤層を構成する粘着剤は、活性エネルギー線硬化性を有しない粘着剤であってもよいものの、活性エネルギー線硬化性を有する粘着剤(以下、「活性エネルギー線硬化性粘着剤」という場合がある。)であることが好ましい。粘着剤層が活性エネルギー線硬化性粘着剤から構成されていることで、活性エネルギー線の照射により粘着剤層を硬化させて、粘着シートの被着体に対する粘着力を容易に低下させることができる。特に、活性エネルギー線の照射によって、加工後の半導体材料を当該粘着シートから容易に分離することが可能となる。
【0055】
粘着剤層を構成する活性エネルギー線硬化性粘着剤としては、活性エネルギー線硬化性を有するポリマーを主成分とするものであってもよいし、活性エネルギー線非硬化性ポリマー(活性エネルギー線硬化性を有しないポリマー)と少なくとも1つ以上の活性エネルギー線硬化性基を有するモノマーおよび/またはオリゴマーとの混合物を主成分とするものであってもよい。
【0056】
活性エネルギー線硬化性を有するポリマーは、側鎖に活性エネルギー線硬化性を有する官能基(活性エネルギー線硬化性基)が導入された(メタ)アクリル酸エステル重合体(以下「活性エネルギー線硬化性重合体」という場合がある。)であることが好ましい。この活性エネルギー線硬化性重合体は、官能基含有モノマー単位を有するアクリル系共重合体と、その官能基に結合する官能基を有する不飽和基含有化合物とを反応させて得られるものであることが好ましい。なお、本明細書において、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸及びメタクリル酸の両方を意味する。他の類似用語も同様である。さらに、「重合体」には「共重合体」の概念も含まれるものとする。
【0057】
上記活性エネルギー線硬化性重合体の重量平均分子量は、1万以上であることが好ましく、特に15万以上であることが好ましく、さらには20万以上であることが好ましい。また、当該重量平均分子量は、250万以下であることが好ましく、特に200万以上であることが好ましく、さらには150万以下であることが好ましい。
【0058】
一方、活性エネルギー線硬化性粘着剤が、活性エネルギー線非硬化性ポリマー成分と少なくとも1つ以上の活性エネルギー線硬化性基を有するモノマーおよび/またはオリゴマーとの混合物を主成分とする場合、当該活性エネルギー線非硬化性ポリマー成分としては、例えば、不飽和基含有化合物を反応させる前の上記アクリル系共重合体を使用することができる。また、活性エネルギー線硬化性のモノマーおよび/またはオリゴマーとしては、例えば、多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル等を使用することができる。
【0059】
上記活性エネルギー線非硬化性ポリマー成分としてのアクリル系重合体の重量平均分子量は、1万以上であることが好ましく、特に15万以上であることが好ましく、さらには20万以上であることが好ましい。また、当該重量平均分子量は、250万以下であることが好ましく、特に200万以上であることが好ましく、さらには150万以下であることが好ましい。
【0060】
なお、活性エネルギー線硬化性粘着剤を硬化させるための活性エネルギー線として紫外線を用いる場合には、当該粘着剤に対して、光重合開始剤を添加することが好ましい。また、当該粘着剤には、活性エネルギー線非硬化性ポリマー成分またはオリゴマー成分や、架橋剤等を添加してもよい。
【0061】
上記粘着剤層の厚さは、1μm以上であることが好ましく、特に2μm以上であることが好ましく、さらには3μm以上であることが好ましい。また、粘着剤層の厚さは、50μm以下であることが好ましく、特に40μm以下であることが好ましく、さらには30μm以下であることが好ましい。粘着剤層の厚さが1μm以上であることで、本実施形態に係る粘着シートが所望の粘着性を発揮し易いものとなる。また、粘着剤層の厚さが50μm以下であることで、硬化後の粘着剤層から被着体を分離する際に、分離し易いものとなる。
【0062】
(3)剥離シート
本実施形態に係る粘着シートでは、粘着剤層における基材とは反対側の面(以下、「粘着面」という場合がある。)を被着体に貼付するまでの間、当該面を保護する目的で、当該面に剥離シートが積層されていてもよい。
【0063】
上記剥離シートの構成は任意であり、プラスチックフィルムを剥離剤等により剥離処理したものが例示される。当該プラスチックフィルムの具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステルフィルム;およびポリプロピレンやポリエチレン等のポリオレフィンフィルムが挙げられる。上記剥離剤としては、シリコーン系、フッ素系、長鎖アルキル系等を用いることができ、これらの中でも、安価で安定した性能が得られるシリコーン系が好ましい。
【0064】
上記剥離シートの厚さについては特に制限はなく、例えば、20μm以上、250μm以下であってよい。
【0065】
(4)その他
本実施形態に係る粘着シートでは、粘着剤層における基材とは反対側の面に接着剤層が積層されていてもよい。この場合、当該粘着シートは、ダイシング・ダイボンディングシートとして使用することができる。当該シートでは、接着剤層における粘着剤層とは反対側の面に半導体材料を貼付し、当該半導体材料とともに接着剤層をダイシングすることで、個片化された接着剤層が積層されたチップを得ることができる。当該チップは、この個片化された接着剤層によって、当該チップが搭載される対象に対して容易に固定することが可能となる。上述した接着剤層を構成する材料としては、熱可塑性樹脂と低分子量の熱硬化性接着成分とを含有するものや、Bステージ(半硬化状)の熱硬化型接着成分を含有するもの等を用いることが好ましい。
【0066】
また、本実施形態に係る粘着シートでは、粘着剤層における粘着面に保護膜形成層が積層されていてもよい。この場合、当該粘着シートは、保護膜形成兼ダイシング用シートとして使用することができる。このようなシートでは、保護膜形成層における粘着剤層とは反対側の面に半導体材料を貼付し、当該半導体材料とともに保護膜形成層をダイシングすることで、個片化された保護膜形成層が積層されたチップを得ることができる。当該半導体材料としては、片面に回路が形成されたものが使用されることが好ましく、この場合、通常、当該回路が形成された面とは反対側の面に保護膜形成層が積層される。個片化された保護膜形成層は、所定のタイミングで硬化させることで、十分な耐久性を有する保護膜をチップに形成することができる。保護膜形成層は、未硬化の硬化性接着剤からなることが好ましい。
【0067】
2.粘着シートの製造方法
本実施形態に係る粘着シートの製造方法は特に限定されない。例えば、剥離シート上に粘着剤層を形成した後、当該粘着剤層における剥離シートとは反対側の面に基材の片面を積層することで粘着シートを得ることが好ましい。
【0068】
上述した粘着剤層の形成は、公知の方法により行うことができる。例えば、粘着剤層を形成するための粘着性組成物、および所望によりさらに溶媒または分散媒を含有する塗布液を調製する。そして、剥離シートの剥離性を有する面(以下、「剥離面」という場合がある。)に上記塗布液を塗布する。続いて、得られた塗膜を乾燥させることで、粘着剤層を形成することができる。
【0069】
上述した塗布液の塗布は公知の方法により行うことができ、例えば、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法等により行うことができる。なお、塗布液は、塗布を行うことが可能であればその性状は特に限定されず、粘着剤層を形成するための成分を溶質として含有する場合もあれば、分散質として含有する場合もある。また、剥離シートは工程材料として剥離してもよいし、被着体に貼付するまでの間、粘着剤層を保護していてもよい。
【0070】
粘着剤層を形成するための粘着性組成物が前述した架橋剤を含有する場合には、上記の乾燥の条件(温度、時間など)を変えることにより、または加熱処理を別途設けることにより、塗膜内のポリマー成分と架橋剤との架橋反応を進行させ、粘着剤層内に所望の存在密度で架橋構造を形成することが好ましい。さらに、上述した架橋反応を十分に進行させるために、粘着剤層と基材とを貼り合わせた後、例えば23℃、相対湿度50%の環境に数日間静置するといった養生を行ってもよい。
【0071】
3.粘着シートの使用方法
本実施形態に係る粘着シートは、半導体ウエハといった半導体材料の加工のために使用することができる。この場合、当該粘着シートの粘着面を半導体材料に貼付した後、粘着シート上にて半導体材料の加工を行うことができる。当該加工に応じて、粘着シートは、バックグラインドシート、ダイシングシート、エキスパンドシート、ピックアップシート等として使用することができる。ここで、半導体材料の例としては、半導体ウエハ、半導体パッケージ等が挙げられる。
【0072】
本実施形態に係る粘着シートは、前述した通り、当該基材が良好な柔軟性を有することにより、良好なエキスパンドが可能となる。そのため、当該粘着シートは、特にダイシングシート、エキスパンドシートまたはピックアップシートとして使用することが好適である。
【0073】
なお、本実施形態に係る粘着シートが前述した接着剤層を備える場合には、当該粘着シートは、ダイシング・ダイボンディングシートとして使用することができる。さらに、本実施形態に係る粘着シートが前述した保護膜形成層を備える場合には、当該粘着シートは、保護膜形成兼ダイシング用シートとして使用することができる。
【0074】
また、本実施形態に係る粘着シートにおける粘着剤層が、前述した活性エネルギー線硬化性粘着剤から構成される場合には、使用の際に、次のような活性エネルギー線を照射することも好ましい。すなわち、粘着シート上にて半導体材料の加工が完了し、加工後の半導体材料を粘着シートから分離する場合に、当該分離の前に粘着剤層に対して活性エネルギー線を照射することが好ましい。これにより、粘着剤層が硬化して、加工後の半導体材料に対する粘着シートの粘着力が良好に低下し、加工後の半導体材料の分離が容易となる。
【0075】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【実施例0076】
以下、実施例等により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0077】
〔実施例1〕
(1)基材の作製
撹拌機、留出管および減圧装置を装備した反応器内に、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸ジメチル(trans体比率98%)11.1kg、1,4-シクロヘキサンジメタノール8.8kg、および5%テトラブチルチタネートを含むエチレングリコール溶液0.04kgを仕込み、窒素フロー下で200℃まで加熱した後、230℃まで1時間かけて昇温した。そのまま2時間保持してエステル交換反応を行った後、エルカ酸由来ダイマー酸(炭素数44,クローダ社製,製品名「PRIPOL1004」)3.9kg、20%トリメチルホスフェートを含むエチレングリコール溶液0.018kgを系内に投入し、引き続き230℃で1時間エステル化反応を行った。続いて、重縮合触媒として二酸化ゲルマニウム300ppmを添加撹拌後、1時間で133Pa以下まで減圧し、この間に内温を230℃から270℃へと引き上げ、133Pa以下の高真空下で所定の粘度となるまで撹拌して重縮合反応を行った。得られたポリマーをストランド状に水中に押出してカットし、ペレット状にした。得られたペレットを、減圧装置を装備したドラム型の反応器内に仕込み、133Pa以下の減圧下、170℃で固相重合をして目的とするポリエステル樹脂を得た。なお、当該固相重合の時間は、5時間45分とした。
【0078】
このように得られたポリエステル樹脂を、85℃で4時間以上乾燥させた後、Tダイを設置した単軸押出機のホッパーに投入した。そして、シリンダー温度250℃、ダイス温度250℃の条件下、上記ポリエステル樹脂を溶融混錬させた状態でTダイから押出し、冷却ロールにて冷却させることにより、厚さ80μmのシート状の基材を得た。
【0079】
なお、上記ポリエステル樹脂は、当該樹脂を構成するモノマーとして、1,4-シクロヘキサンジメタノールを50モル%、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルを45.4モル%、およびエルカ酸由来のダイマー酸4.6モル%含むものであった。さらに、上記ポリエステル樹脂の重量平均分子量を後述する方法によって測定したところ、131000であった。
【0080】
(2)粘着性組成物の調製
アクリル酸n-ブチル95質量部と、アクリル酸5質量部とを、溶液重合法により重合させて、(メタ)アクリル酸エステル重合体を得た。このアクリル系重合体の重量平均分子量(Mw)を後述する方法により測定したところ、50万であった。
【0081】
上記の通り得られた(メタ)アクリル酸エステル重合体100質量部(固形分換算,以下同じ)と、ウレタンアクリレートオリゴマー(Mw:8,000)120質量部と、イソシアネート系架橋剤(東ソー株式会社製,製品名「コロネートL」)5質量部と、光重合開始剤(IGM Resinns B.V社製,製品名「Omnirad184」)4質量部とを混合し、活性エネルギー線硬化性の粘着性組成物を得た。
【0082】
(3)粘着剤層の形成
上記工程(2)で得られた粘着性組成物を、厚さ38μmのポリエチレンテレフタレートフィルムの片面がシリコーン系剥離剤により剥離処理された剥離シート(リンテック株式会社製,製品名「SP-PET381031」)の剥離処理面に塗布し、得られた塗膜を100℃で1分間乾燥させた。これにより、剥離シートにおける剥離面上に、厚さ10μmの粘着剤層が形成されてなる積層体を得た。
【0083】
(4)粘着シートの作製
上記工程(1)で得られた基材の片面と、上記工程(3)で得られた積層体における粘着剤層側の面とを貼り合わせることで、粘着シートを得た。
【0084】
ここで、前述したポリエステル樹脂の重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて以下の条件で測定(GPC測定)した標準ポリスチレン換算の重量平均分子量である。
<測定条件>
・測定装置:Viscotek社製,TDA302(RIにて測定)
・GPCカラム:東ソー株式会社製
TSK gel GMHHR-M 2本
・測定溶媒:クロロホルム
・測定温度:40℃
【0085】
また、前述したアクリル系重合体の重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて以下の条件で測定(GPC測定)した標準ポリスチレン換算の重量平均分子量である。
<測定条件>
・測定装置:東ソー株式会社製,HLC-8320
・GPCカラム(以下の順に通過):東ソー株式会社製
TSK gel superH-H
TSK gel superHM-H
TSK gel superH2000
・測定溶媒:テトラヒドロフラン
・測定温度:40℃
【0086】
〔実施例2〕
ポリエステル樹脂のペレットを作製する際における固相重合の時間を3時間に変更した以外は、実施例1と同様にして基材を作製し、当該基材を用いて実施例1と同様にして粘着シートを得た。
【0087】
なお、上記ポリエステル樹脂は、当該樹脂を構成するモノマーとして、1,4-シクロヘキサンジメタノールを50モル%、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルを45.4モル%、およびエルカ酸由来のダイマー酸4.6モル%含むものであった。さらに、上記ポリエステル樹脂の重量平均分子量を前述した方法によって測定したところ、99,500であった。
【0088】
〔実施例3〕
ポリエステル樹脂のペレットを作製する際における1,4-シクロヘキサンジカルボン酸とダイマー酸の割合を変更するとともに、固相重合の時間を3時間30分に変更した以外は、実施例1と同様にして基材を作製し、当該基材を用いて実施例1と同様にして粘着シートを得た。
【0089】
なお、上記ポリエステル樹脂は、当該樹脂を構成するモノマーとして、1,4-シクロヘキサンジメタノールを50モル%、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルを44.5モル%、およびエルカ酸由来のダイマー酸5.5モル%含むものであった。さらに、上記ポリエステル樹脂の重量平均分子量を前述した方法によって測定したところ、105,000であった。
【0090】
〔実施例4〕
ポリエステル樹脂のペレットを作製する際における固相重合の時間を4時間に変更した以外は、実施例3と同様にして基材を作製し、当該基材を用いて実施例1と同様にして粘着シートを得た。
【0091】
なお、上記ポリエステル樹脂は、当該樹脂を構成するモノマーとして、1,4-シクロヘキサンジメタノールを50モル%、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルを44.5モル%、およびエルカ酸由来のダイマー酸モル5.5%含むものであった。さらに、上記ポリエステル樹脂の重量平均分子量を前述した方法によって測定したところ、110,000であった。
【0092】
〔比較例1〕
ポリエステル樹脂のペレットを作製する際における固相重合の時間を45分間に変更した以外は、実施例1と同様にして基材を作製し、当該基材を用いて実施例1と同様にして粘着シートを得た。
【0093】
なお、上記ポリエステル樹脂は、当該樹脂を構成するモノマーとして、1,4-シクロヘキサンジメタノールを50モル%、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルを45.4モル%、およびエルカ酸由来のダイマー酸4.6モル%含むものであった。さらに、上記ポリエステル樹脂の重量平均分子量を前述した方法によって測定したところ、74,500であった。
【0094】
〔比較例2〕
ポリエステル樹脂のペレットを作製する際に、固相重合を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして基材フィルムを作製し、当該基材フィルムを用いて実施例1と同様にして粘着シートを得た。
【0095】
なお、上記ポリエステル樹脂は、当該樹脂を構成するモノマーとして、1,4-シクロヘキサンジメタノールを50モル%、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルを45.4モル%、およびエルカ酸由来のダイマー酸4.6モル%含むものであった。さらに、上記ポリエステル樹脂の重量平均分子量を前述した方法によって測定したところ、67,500であった。
【0096】
〔試験例1〕(基材の引張物性の測定)
実施例および比較例で作製した基材を15mm×150mmの試験片に裁断した。このとき、150mmの辺が基材のMD方向(基材の製造時の流れ方向)と平行となり、且つ、15mmの辺が基材のTD方向(上記MD方向に垂直な方向)と平行となるように裁断を行った。そして、当該試験片について、JIS K7127:1999に準拠して、引張弾性率、破断伸度および破断点応力を測定した。
【0097】
具体的には、上記試験片を、引張試験機(島津製作所製,製品名「オートグラフAG-Xplus 100N」)にて、チャック間距離100mmに設定した後、23℃の環境下、200mm/minの速度で、基材のMD方向に試験片を引っ張る引張試験を行い、引張弾性率(MPa)、破断伸度(%)および破断点応力(MPa)を測定した。結果を表1に示す。
【0098】
〔試験例2〕(エキスパンド性の評価)
実施例および比較例で製造した粘着シートから剥離シートを剥離し、露出した粘着剤層の露出面を、厚さ40μmのシリコンウエハの片面に貼付した後、粘着シートにおける上記露出面の周縁部(シリコンウエハとは重ならない位置)に、ダイシング用リングフレームを付着させた。次いで、ダイシングソー(株式会社ディスコ社製,製品名「DFD6362」)を用いて以下の条件にて、当該シリコンウエハのダイシングを行った。
・被着体:シリコンウエハ
・ウエハサイズ:直径6インチ,厚さ40μm
・ダイシングブレード:株式会社ディスコ社製,製品名「27HECC」,ダイヤモンドブレード
・ブレード回転数:50,000rpm
・ダイシングスピード:100mm/sec
・切り込み深さ:基材表面より、25μmの深さまで切り込み
・ダイシングサイズ:8mm×8mm
【0099】
続いて、粘着シートにおける粘着剤層に対して、粘着シートにおける基材側の面から紫外線を照射し(照度:230mW/cm2,光量:190mJ/cm2)、粘着シートの粘着剤層を硬化させた。
【0100】
その後、ダイシングによって得られたチップおよびリングフレームが貼付された粘着シートを、エキスパンド装置(JCM社製,製品名「ME-300B」)に設置し、リングフレームを1mm/secの速さで、引き落とし量が40mmとなるまで引き落としを行った。
【0101】
そして、破断が生じたときの引き落とし量(mm)を記録した。その結果を、限界引き落とし量として表1に示す。
【0102】
【0103】
表1から明らかなように、実施例で製造した粘着シートは、優れたエキスパンド性を示すものであった。