(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024002149
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】抄き水再生方法並びにそれに用いられる塩水電解反応装置及び殺菌脱色反応装置
(51)【国際特許分類】
A23L 17/60 20160101AFI20231228BHJP
C02F 1/76 20230101ALI20231228BHJP
C02F 1/461 20230101ALI20231228BHJP
C02F 1/50 20230101ALI20231228BHJP
【FI】
A23L17/60 103Z
C02F1/76 A
C02F1/76 Z
C02F1/461 Z
C02F1/50 510A
C02F1/50 520J
C02F1/50 531P
C02F1/50 540B
C02F1/50 550B
C02F1/50 550C
C02F1/50 550D
C02F1/50 550H
C02F1/50 560B
C02F1/50 560F
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022101179
(22)【出願日】2022-06-23
(71)【出願人】
【識別番号】000149457
【氏名又は名称】株式会社オーツボ
(74)【代理人】
【識別番号】100177220
【弁理士】
【氏名又は名称】小木 智彦
(72)【発明者】
【氏名】大坪 誠一郎
(72)【発明者】
【氏名】上甲 勲
(72)【発明者】
【氏名】春野 卯一郎
(72)【発明者】
【氏名】松田 駿
【テーマコード(参考)】
4B019
4D050
4D061
【Fターム(参考)】
4B019LP17
4D050AA13
4D050AB03
4D050AB06
4D050BB06
4D050BC04
4D050BD02
4D050BD03
4D050BD04
4D050BD06
4D050CA06
4D050CA10
4D050CA20
4D061DA04
4D061DB10
4D061EA02
4D061EB02
4D061EB04
4D061EB14
4D061EB19
4D061EB30
4D061EB31
4D061FA06
4D061FA16
4D061FA20
(57)【要約】
【課題】小規模海苔生産施設にも導入可能な程度に安価で、かつ、抄き水排水を十分に浄化処理することができ、水道代の節減ひいては海苔の生産コストの低減に貢献し得る抄き水再生方法を提供する。
【解決手段】抄き水再生方法は、海苔製造装置20の抄き部21で海苔を抄いた後の排水(抄き水排水)に海水電解水を添加して、抄き水排水の殺菌と脱色を行い、抄き水等として再利用することを特徴としている。このように、当該抄き水再生方法においては、抄き水排水の殺菌と脱色を行うための酸化剤として海水電解水が用いられる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
海苔製造装置で海苔を抄いた後の排水に塩水電解水を添加して、前記排水の殺菌と脱色を行い、抄き水として再利用することを特徴とする抄き水再生方法。
【請求項2】
請求項1に記載の抄き水再生方法に用いられる塩水電解反応装置であって、
塩水電解反応槽と、前記塩水電解反応槽内に配置され、電圧が印加されることで、前記塩水電解反応槽内の塩水を電気分解する陽極材及び陰極材と、を備え、
前記塩水電解反応槽内の下部に、塩水電解反応時に前記陰極材の表面に析出した金属水酸化物の結晶の剥離物が沈積できる空間部が設けられていることを特徴とする塩水電解反応装置。
【請求項3】
前記陽極材が白金系の電極材料からなり、前記陰極材がチタン又はSUSからなる、請求項2に記載の塩水電解反応装置。
【請求項4】
請求項1に記載の抄き水再生方法に用いられる殺菌脱色反応装置であって、
前記塩水電解水に含まれる次亜塩素酸ナトリウムを主成分とする酸化剤で前記排水の殺菌と脱色を行う殺菌脱色反応槽を備え、
前記殺菌脱色反応槽が、仕切り板で区切られた第1反応槽、第2反応槽、第3反応槽及び第4反応槽を順に有する、4槽構造の押し出し流れ方式の反応槽であることを特徴とする殺菌脱色反応装置。
【請求項5】
前記第1反応槽は、殺菌反応を進行させる反応槽であり、
前記第2反応槽は、易脱色性成分の脱色反応を進行させる反応槽であり、
前記第3反応槽は、難脱色性成分の残留塩素による分解反応を促進させる粒状触媒を用いた反応槽であり、
前記第4反応槽は、前記第3反応槽による処理水中に含まれる微量の残留塩素や有機物質を吸着除去する炭素系吸着材が充填された反応槽である、請求項4に記載の殺菌脱色反応装置。
【請求項6】
前記粒状触媒が、多孔質粒子の外部表面に過酸化ニッケル又は過酸化コバルトを主成分とする触媒活性金属成分を担持させたエッグシェル型の触媒である、請求項5に記載の殺菌脱色反応装置。
【請求項7】
前記第1反応槽の容量をVr1、前記第2反応槽の容量をVr2、前記第3反応槽の容量をVr3、前記第4反応槽の容量をVr4としたとき、
Vr1<Vr2<Vr4≦Vr3
なる関係を満たす、請求項4に記載の殺菌脱色反応装置。
【請求項8】
前記第3反応槽と前記第4反応槽との間に第5反応槽を更に有し、
前記第4反応槽を上向流又は下向流で通水するように切替可能となっている、請求項5に記載の殺菌脱色反応装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抄き水再生方法並びにそれに用いられる塩水電解反応装置及び殺菌脱色反応装置に関する。更に詳細には、本発明は、海苔製造装置で海苔を抄いた後の排水を浄化して抄き水等として再利用する抄き水再生方法並びにそれに用いられる塩水電解反応装置及び殺菌脱色反応装置に関する。
【背景技術】
【0002】
食用に供される乾燥海苔は、海苔養殖場において摘み取った海苔原藻を、細断し、水道水を用いて海苔製造装置に供給し、抄き工程、脱水工程、乾燥工程、剥ぎ工程を経て製品化されるのが一般的である。そして、抄き工程では、シート状の海苔1枚当たり約1L(リットル)の水が用いられているが、海苔の生産コストに占める水道料金の比率が高いため、水道水に代えて地下水を用いる試みもなされている。
しかし、抄き工程で用いる用水の水質が悪いと、海苔製品の品質が低下するとともに、不衛生にもなるため、水道水が用いられている場合が多く、海苔の生産コストの低減には至っていない。
【0003】
そこで、最近、水道代を節減すべく、海苔を抄いた後の排水(以下、単に「抄き水排水」ともいう)をオゾンで処理して殺菌と脱色を行い、その処理後の抄き水排水を抄き水として再利用することが提案されている(例えば、非特許文献1等を参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】株式会社ワイビーエム「GAS SOLUTION ウルトラファインバブル発生装置」,p3-p5,[online],[令和4年6月6日検索],インターネット〈URL;https://www.fuki-ss.co.jp/wp-content/uploads/faby-formjet.pdf〉
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、非特許文献1等で提案されている、オゾン処理を行うためのオゾン処理装置は高価であるため、現時点でのオゾン処理装置の導入は大規模海苔生産施設に留まっている。また、オゾン処理による抄き水排水の浄化処理(殺菌と脱色)は、必ずしも十分とは言えない状況である。
このため、小規模海苔生産施設(小規模な一般個人事業主の海苔生産加工ライン)にも導入可能な程度に安価で、かつ、抄き水排水を十分に浄化処理することができ、水道代の節減ひいては海苔の生産コストの低減に貢献し得る技術の開発が望まれていた。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、小規模海苔生産施設にも導入可能な程度に安価で、かつ、抄き水排水を十分に浄化処理することができ、水道代の節減ひいては海苔の生産コストの低減に貢献し得る抄き水再生方法並びにそれに用いられる塩水電解反応装置及び殺菌脱色反応装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明に係る抄き水再生方法の構成は、
(1)海苔製造装置で海苔を抄いた後の排水に塩水電解水を添加して、前記排水の殺菌と脱色を行い、抄き水として再利用することを特徴とする。
【0008】
本発明において、塩水電解水としては、例えば、海水電解水を用いることができる。
【0009】
本発明の抄き水再生方法の上記(1)の構成は、次のような作用効果を奏する。
すなわち、塩水電解水は、安価に製造供給でき、かつ、殺菌脱色作用にも優れている。
したがって、上記(1)の構成によれば、小規模海苔生産施設(小規模な一般個人事業主の海苔生産加工ライン)にも導入可能な程度に安価で、かつ、抄き水排水を十分に浄化処理することができ、水道代の節減ひいては海苔の生産コストの低減に貢献し得る抄き水再生方法を提供することが可能となる。
【0010】
また、本発明に係る塩水電解反応装置の構成は、
(2)本発明の抄き水再生方法の上記(1)の構成に用いられる塩水電解反応装置であって、
塩水電解反応槽と、前記塩水電解反応槽内に配置され、電圧が印加されることで、前記塩水電解反応槽内の塩水を電気分解する陽極材及び陰極材と、を備え、
前記塩水電解反応槽内の下部に、塩水電解反応時に前記陰極材の表面に析出した金属水酸化物の結晶の剥離物が沈積できる空間部が設けられていることを特徴とする。
【0011】
本発明の塩水電解反応装置の上記(2)の構成は、次のような作用効果を奏する。
すなわち、塩水電解反応装置の運転作動中に塩水中のマグネシウムイオンを主成分とする水酸化マグネシウム等の金属水酸化物の結晶が陰極材の表面に析出し、長時間の運転作動中に陰極材の表面から剥がれ落ちて下部に沈積する現象が起きるが、上記(2)の構成によれば、これにうまく対処することが可能となる。
【0012】
本発明の塩水電解反応装置の上記(2)の構成においては、以下の(3)のような構成にすることが好ましい。
【0013】
(3)上記(2)の構成において、前記陽極材が白金系の電極材料からなり、前記陰極材がチタン又はSUSからなる。
【0014】
また、本発明に係る殺菌脱色反応装置の構成は、
(4)本発明の抄き水再生方法の上記(1)の構成に用いられる殺菌脱色反応装置であって、
前記塩水電解水に含まれる次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)を主成分とする酸化剤で前記排水の殺菌と脱色を行う殺菌脱色反応槽を備え、
前記殺菌脱色反応槽が、仕切り板で区切られた第1反応槽、第2反応槽、第3反応槽及び第4反応槽を順に有する、4槽構造の押し出し流れ方式の反応槽であることを特徴とする。
【0015】
本発明の殺菌脱色反応装置の上記(4)の構成においては、以下の(5)~(8)のような構成にすることが好ましい。
【0016】
(5)上記(4)の構成において、前記第1反応槽は、殺菌反応を進行させる反応槽であり、
前記第2反応槽は、易脱色性成分の脱色反応を進行させる反応槽であり、
前記第3反応槽は、難脱色性成分の残留塩素による分解反応を促進させる粒状触媒を用いた反応槽であり、
前記第4反応槽は、前記第3反応槽による処理水中に含まれる微量の残留塩素や有機物質を吸着除去する炭素系吸着材が充填された反応槽である。
【0017】
上記(5)の好ましい構成は、次のような作用効果を奏する。
すなわち、抄き水排水には雑菌が104~106個程度含まれている。本発明者らは、この抄き水排水に塩水電解水を添加した場合、有効塩素濃度 数ppm の添加量で0.5~2minの反応時間とすることにより、ほぼ完全に殺菌できることを、一連の研究で明らかにした。そして、このように、処理対象水(抄き水排水)の滞留時間を2min程度の短時間に抑えても当該抄き水排水中の雑菌を殺菌できるため、第1反応槽の容量を小さくすることが可能となる。
また、易脱色性成分は、1~2min程度の短時間で脱色される成分であるため、第2反応槽の容量を小さくすることが可能となる。そして、第2反応槽の後段に、難脱色性成分の分解反応を促進させる粒状触媒を用いた脱色反応槽(第3反応槽)を設けることにより、反応時間の短縮を図り、第2及び第3反応槽全体の容量を小さくすることが可能となる。
したがって、上記(5)の好ましい構成によれば、小規模海苔生産施設にも導入可能な程度に安価で、かつ、抄き水排水を十分に浄化処理することができ、水道代の節減ひいては海苔の生産コストの低減に貢献し得る殺菌脱色反応装置を提供することが可能となる。
【0018】
(6)上記(5)の構成において、前記粒状触媒が、多孔質粒子の外部表面に過酸化ニッケル又は過酸化コバルトを主成分とする触媒活性金属成分を担持させたエッグシェル型の触媒である。
上記(6)の好ましい構成によれば、難脱色性成分の分解反応(脱色反応)を促進させるために有効な粒状触媒を実現することができる。
【0019】
(7)上記(4)の構成において、前記第1反応槽の容量をVr1、前記第2反応槽の容量をVr2、前記第3反応槽の容量をVr3、前記第4反応槽の容量をVr4としたとき、
Vr1<Vr2<Vr4≦Vr3
なる関係を満たす。
【0020】
(8)上記(5)の構成において、前記第3反応槽と前記第4反応槽との間に第5反応槽を更に有し、
前記第4反応槽を上向流又は下向流で通水するように切替可能となっている。
上記(8)の好ましい構成によれば、逆洗時に第4反応槽を下向流とすることにより、通常運転時に上向流で活性炭に捕捉された、微量の残留塩素や有機物質等の微粒子を、粒状触媒に影響を与えることなく、殺菌脱色反応槽外に容易に排出することが可能となる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、小規模海苔生産施設(小規模な一般個人事業主の海苔生産加工ライン)にも導入可能な程度に安価で、かつ、抄き水排水を十分に浄化処理することができ、水道代の節減ひいては海苔の生産コストの低減に貢献し得る抄き水再生方法並びにそれに用いられる塩水電解反応装置及び殺菌脱色反応装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態1における抄き水再生方法を実現するための抄き水再生システムの構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施形態1における殺菌脱色反応装置の概略構成を示す縦断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施形態2における殺菌脱色反応装置の概略構成を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、好適な実施形態を用いて本発明を更に具体的に説明する。但し、下記の実施形態は本発明を具現化した例に過ぎず、本発明はこれに限定されるものではない。
【0024】
[実施形態1]
(抄き水再生方法の構成)
まず、本発明の実施形態1における抄き水再生方法の構成について、
図1を参照しながら説明する。
【0025】
図1は、本発明の実施形態1における抄き水再生方法を実現するための抄き水再生システムの構成を示すブロック図である。
【0026】
本実施形態の抄き水再生方法は、海苔製造装置で海苔を抄いた後の排水(抄き水排水)に海水電解水を添加して、前記抄き水排水の殺菌と脱色を行い、抄き水等として再利用することを特徴としている。このように、本実施形態の抄き水再生方法においては、前記抄き水排水の殺菌と脱色を行うための酸化剤として、次亜塩素酸ナトリウムを含む海水電解水が用いられる。
【0027】
本実施形態の抄き水再生方法のかかる構成は、次のような作用効果を奏する。
すなわち、海水電解水は、安価に製造供給でき、かつ、殺菌脱色作用にも優れている。
したがって、かかる構成によれば、小規模海苔生産施設(小規模な一般個人事業主の海苔生産加工ライン)にも導入可能な程度に安価で、かつ、抄き水排水を十分に浄化処理することができ、水道代の節減ひいては海苔の生産コストの低減に貢献し得る抄き水再生方法を提供することが可能となる。
【0028】
以下、更に詳細に説明する。
本実施形態の抄き水再生方法は、例えば、
図1に示す抄き水再生システムによって実現することができる。
図1に示す抄き水再生システムは、抄き部21を有する海苔製造装置20と、抄き部21で海苔を抄いた後の排水(抄き水排水)の殺菌と脱色を行う海水電解水を生成するための海水電解反応装置22と、前記抄き水排水に前記海水電解水を添加して、前記抄き水排水の殺菌と脱色を行う殺菌脱色反応装置1と、を備える。そして、殺菌脱色反応装置1で殺菌と脱色が行われた前記抄き水排水(再生水)は、水道水などと同じ貯水槽(貯水タンク)23に一旦貯留され、水道水の代用として各種の用途に再利用される。例えば、再生水は、貯水槽23から海苔製造装置20の抄き部21に送水され、抄き水として再利用される。また、貯水槽23内の再生水は、例えば、洗浄用途、その他の用途として再利用することもできる。
海水電解反応装置22と殺菌脱色反応装置1の詳細については、後述する。
【0029】
(海水電解反応装置の構成)
次に、本発明の実施形態1における海水電解反応装置の構成について説明する。
【0030】
図1に示す海水電解反応装置22は、上記した本実施形態の抄き水再生方法に用いられるものである。より具体的には、当該海水電解反応装置は、前記抄き水排水の殺菌と脱色を行う酸化剤としての海水電解水を生成するために用いられる。
【0031】
本実施形態の海水電解反応装置は、海水電解反応槽と、前記海水電解反応槽内に配置され、電圧が印加されることで、前記海水電解反応槽内の海水を電気分解する陽極材及び陰極材と、を備え、
前記海水電解反応槽内の下部に、海水電解反応時に前記陰極材の表面に析出したマグネシウムイオンを主成分とする水酸化マグネシウム等の金属水酸化物の結晶の剥離物が沈積できる空間部が設けられていることを特徴としている。
【0032】
<海水について>
海水としては、海苔養殖海域の海水を用いることができる。海水中の塩類濃度は通常約3wt.%であるが、そのまま用いてもよいし、水道水で希釈して用いてもよい。但し、塩類濃度が低下すると電解反応における電流効率が低くなるため、実用上、塩類濃度は約1~3wt.%の範囲にあることが望ましく、更には約2~3wt.%の範囲にあることが望ましい。
【0033】
<海水電解反応装置の構造について>
海水電解反応装置は、モノポーラ式(単極式)とバイポーラ式(双極式、複極式)のいずれの方式でも対応できる。また、海水電解反応槽への海水の通液は、上向流式でも横流式でもよく、海水電解反応が行われる適用現場の設置スペースやメンテナンスのし易さ等を考慮して選定することができる。但し、いずれの方式を採用した場合でも、運転作動中に海水中のマグネシウムイオンを主成分とする水酸化マグネシウム等の金属水酸化物の結晶が陰極材の表面に析出し、長時間の運転作動中に陰極材の表面から剥がれ落ちて下部に沈積する現象が起きるため、海水電解反応槽内の下部に一定容量のスペース(空間部)をとった電解槽構造とすることが重要である。
【0034】
<電極材料について>
海水電解反応に用いる電極の陽極材としては、チタン基盤に白金メッキしたものや白金焼付けしたものなどの白金系の電極材料を用いることができる。また、電極の陰極材としては、チタン又はSUS(ステンレス鋼)を用いることができる。
【0035】
(殺菌脱色反応装置の構成)
次に、本発明の実施形態1における殺菌脱色反応装置の構成について、
図2を参照しながら説明する。
【0036】
図2は、本発明の実施形態1における殺菌脱色反応装置の概略構成を示す縦断面図である。
【0037】
図2に示す殺菌脱色反応装置1は、上記した本実施形態の抄き水再生方法に用いられるものである。より具体的には、当該殺菌脱色反応装置1は、前記抄き水排水に海水電解水を添加して、前記抄き水排水の殺菌と脱色を行うために用いられる。
【0038】
図2に示すように、殺菌脱色反応装置1は、海水電解水に含まれる次亜塩素酸ナトリウムを主成分とする酸化剤で前記抄き水排水の殺菌と脱色を行う、上端が開口した直方体状の殺菌脱色反応槽2を備えている。殺菌脱色反応槽2は、仕切り板3,4,5,6で区切られた第1反応槽7、第2反応槽8、第3反応槽9及び第4反応槽10を順に有する、4槽構造の押し出し流れ方式の反応槽である。
【0039】
仕切り板3,5は、その下端部が開口している。また、仕切り板4,6は、その上端部が開口しており、仕切り板6の開口下縁は仕切り板4の開口下縁よりも低くなっている。これにより、前記抄き水排水が、第1反応槽7から第4反応槽10まで、上下方向にジグザグ状に流れるようにされている(
図2の矢印A,B,Cを参照)。そして、第1反応槽7から第4反応槽10まで通水して、殺菌と脱色が行われた前記抄き水排水は、仕切り板6を乗り越えて(
図2の矢印Dを参照)処理水貯槽11に一旦溜められ、抄き水として再利用される。
なお、本発明において、処理水貯槽は、殺菌脱色反応槽には含まれない。したがって、本実施形態においても、処理水貯槽11は、殺菌脱色反応槽2と別個に設けてもよい。
【0040】
このように、本実施形態においては、殺菌と脱色を行う殺菌脱色反応槽2を、仕切り板3,4,5,6で分割して多槽構造とした、押し出し流れ方式の殺菌脱色反応装置1が用いられる。
【0041】
以下、更に詳細に説明する。
第1反応槽7は、殺菌反応を進行させる反応槽である。
より具体的には、第1反応槽7は、前記抄き水排水に海水電解水を添加・混合して殺菌処理を行う反応槽である。
前記抄き水排水には雑菌が104~106個程度含まれている。本発明者らは、この抄き水排水に海水電解水を添加した場合、有効塩素濃度 数ppm の添加量で0.5~2minの反応時間とすることにより、ほぼ完全に殺菌できることを、一連の研究で明らかにした。そして、このように、処理対象水(抄き水排水)の滞留時間を2min程度の短時間に抑えても当該抄き水排水中の雑菌を殺菌できるため、第1反応槽7の容量を小さくすることが可能となる。
【0042】
第2反応槽8は、易脱色性成分の脱色反応を進行させる反応槽である。
より具体的には、第2反応槽8は、塩素系酸化剤の酸化脱色反応を進行させるための反応槽である。このように、第2反応槽8での目的は、有効塩素の酸化反応による脱色反応を促進させることである。
【0043】
抄き水排水中の赤色着色物質の脱色反応には、殺菌反応と同程度の反応時間で進む脱色反応と、長時間を要する脱色反応と、の2種類の脱色反応があることも今回の研究で明らかとなった。そして、このことから、本発明者らは、抄き水排水中には、1~2min程度の短時間で脱色される成分(易脱色性成分)と2min程度の短時間の反応時間では脱色が困難な成分(難脱色性成分)が含まれると判断した。したがって、第2反応槽8では、易脱色性成分の脱色を行うことを主目的とした。
【0044】
難脱色性成分を目的水質まで脱色するためには、反応時間を長くするために大容量の反応槽構造とする必要があり、そうすると、装置全体が大型化して小規模海苔生産施設への導入が困難になる(実用性が低い)と、本発明者らは判断した。
そこで、本発明者らは、装置全体の容量を小さくする目的から、難脱色性成分の脱色反応の促進に有効な触媒を探索する実験を行い、有効な触媒を見出した。そして、その結果を踏まえて、第2反応槽8の後段に、触媒を用いた脱色反応槽を設けることにより、反応時間の短縮を図ることとした。
その結果、第2及び第3反応槽8,9全体の容量を小さくすることが可能となった。
【0045】
したがって、本実施形態の殺菌脱色反応装置1の構成によれば、小規模海苔生産施設にも導入可能な程度に安価で、かつ、抄き水排水を十分に浄化処理することができ、水道代の節減ひいては海苔の生産コストの低減に貢献し得る殺菌脱色反応装置を提供することが可能となる。
【0046】
第3反応槽9は、難脱色性成分の残留塩素による分解反応を促進させる粒状触媒12を用いた反応槽である。
より具体的には、第3反応槽9は、塩素系酸化剤の酸化脱色反応を促進させるための反応槽(触媒を用いた脱色反応槽、触媒反応槽)である。
【0047】
<触媒を用いた脱色反応槽について>
粒状触媒12としては、過酸化ニッケルや過酸化コバルト系の触媒が有効であることも今回の研究で確認できた。この系統の触媒は、水中に含まれるメタノールやエタノール、あるいはフェノール等の有機物の分解触媒として有効であることが確認され、実用化されている。今回、前記抄き水排水中の難脱色性成分の脱色反応を促進させるための粒状触媒を試作し、試作触媒を用いた脱色効果の確認実験を繰り返し行うことで、有効触媒の探索研究を行った。その結果、本目的に適用可能な触媒調製条件が確認できた。
【0048】
<触媒について>
前記抄き水排水の浄化装置としての実用化を図るためには、短時間の接触で効果を出す必要がある。そこで、本発明者らは、触媒反応槽(第3反応槽9)での滞留時間は1~5min程度にする必要があると判断した。そして、粒状触媒の細孔内部への反応物質の拡散には長時間を要することから、多孔質粒子の外部表面に触媒活性成分を担持させた触媒が望ましいと判断し、有効触媒の調製に取り組んだ。その結果、多孔質粒子である粒径2~5mmの合成ゼオライトの外部表面に過酸化ニッケル又は過酸化コバルトを主成分とする触媒活性金属成分を担持させたエッグシェル型の触媒が有効であることが確認できた。
【0049】
第4反応槽10は、第3反応槽9による処理水中に含まれる微量の残留塩素と有機物質を吸着除去する炭素系吸着材が充填された反応槽である。
より具体的には、第4反応槽10は、触媒反応処理水中に残留する微量の残留塩素や有機物を吸着除去する活性炭13が充填された反応槽(活性炭吸着反応槽)である。
【0050】
<活性炭吸着反応槽について>
活性炭吸着反応槽(第4反応槽10)に充填される活性炭13としては、粒状活性炭、繊維状活性炭のいずれも用いることができるが、吸着速度が速く、小容量でも高い除去効果が得られる繊維状ものが好ましい。
また、活性炭を基材に用い、その表面に触媒機能を有する金属を担持させた触媒、例えば、活性炭粒子表面に鉄酸化物とコバルト酸化物を一定の割合で担持させた次亜塩素酸ナトリウム分解触媒を用いることもできる。
【0051】
本実施形態の殺菌脱色反応装置1は、第1反応槽7の容量をVr1、第2反応槽8の容量をVr2、第3反応槽9の容量をVr3、第4反応槽10の容量をVr4としたとき、
Vr1<Vr2<Vr4≦Vr3
なる関係を満たしている。
これらの関係は、海水電解水を用いた抄き水排水の浄化実験を繰り返し行うことで知り得た上記のような技術的知見に基づいて求めたものである。
【0052】
<再生水の塩分濃度について>
本実施形態においては、抄き水排水の殺菌と脱色を行うために海水電解水が用いられるため、殺菌と脱色が行われた前記抄き水排水(再生水)に塩分が供給される。抄き水排水の量と海水電解水の量の比率を調整することで、任意の塩分濃度の再生水(抄き水)を調製することができ、海苔に若干の塩味を加えることができる。
【0053】
<再生水の塩素濃度について>
海苔製品の品質に対して、抄き水の塩素濃度が影響することが知られている。電解次亜水を添加した再生水には、残留塩素が含まれている。上述した粒状触媒12や活性炭13には、脱色効果に加えて、残留塩素除去効果があることも知られており、粒状触媒12等によって残留塩素濃度を低減することで、海苔製品の品質への影響を小さく抑えることができる。
また、海苔製品の品質に影響のない範囲で敢えて残留塩素を残すことで、当該再生水を海苔製造装置やその周辺機器その他の設備の洗浄等に用いることも可能となる。
【0054】
[実施形態2]
(殺菌脱色反応装置の構成)
次に、本発明の実施形態2における殺菌脱色反応装置の構成について、
図3を参照しながら説明する。
【0055】
図3は、本発明の実施形態2における殺菌脱色反応装置の概略構成を示す縦断面図である。
【0056】
図3に示す本実施形態の殺菌脱色反応装置14は、上記実施形態1の殺菌脱色反応装置1と比べて、第3反応槽9よりも後段の構成だけが異なり、その他の構成は上記実施形態1と同じである。このため、その他の構成については、同じ参照符号を付してそれらの詳細な説明は省略し、
図2及び上記実施形態1の説明を援用する。
【0057】
図3に示す殺菌脱色反応装置14も、上記実施形態1の抄き水再生方法に用いられるものである。
【0058】
図3に示すように、殺菌脱色反応槽2は、仕切り板3,4,5,15,16で区切られた第1反応槽7、第2反応槽8、第3反応槽9、第5反応槽17及び第4反応槽10を順に有する、5槽構造の押し出し流れ方式の反応槽である。なお、
図3中、参照符号18は処理水貯槽を示している。
仕切り板3,5は、その下端部が開口しており、仕切り板4は、その上端部が開口している。
仕切り板15,16の上端部と下端部は、それぞれ、開閉可能となっている。また、仕切り板5の下端縁と仕切り板15との間も開閉可能となっている。なお、仕切り板15の上端部を開けたとき(
図3の状態)、その開口下縁は仕切り板4の開口下縁よりも低くなっている。
【0059】
かかる構成によれば、仕切り板15の下端部と仕切り板16の上端部を開け、仕切り板15の上端部と仕切り板16の下端部を閉じ、かつ、仕切り板5の下端縁と仕切り板15との間を閉じることにより、
図2に示す上記実施形態1の殺菌脱色反応装置1と同じように抄き水排水を流すことができる(第5反応槽17を経由させずに、第4反応槽10を上向流で通水させることができる)。
また、仕切り板15の上端部と仕切り板16の下端部を開け、仕切り板15の下端部と仕切り板16の上端部を閉じ、かつ、仕切り板5の下端縁と仕切り板15との間を開けることにより(
図3の状態)、第5反応槽17を経由させて、第4反応槽10を下向流で通水させることができる(
図3の矢印A,B,C,E,Fを参照)。
【0060】
このように、本実施形態の殺菌脱色反応装置14は、第3反応槽9と第4反応槽10との間に第5反応槽17を更に有し、かつ、第4反応槽10を上向流又は下向流で通水するように切替可能となっている。
そして、逆洗時に第4反応槽10を下向流とすることにより(
図3の状態)、通常運転時に上向流で活性炭13に捕捉された、微量の残留塩素や有機物質等の微粒子を(
図2を参照)、粒状触媒12に影響を与えることなく、殺菌脱色反応槽2外に容易に排出することが可能となる。
【0061】
なお、上記実施形態においては、塩水電解水が海水電解水である場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明は必ずしもこのような構成に限定されるものではない。塩水を電気分解したものであれば、例えば、食塩水電解水等であってもよい。
塩水電解水は、上記実施形態の海水電解反応装置と同じ構造の電解反応装置を用いて生成することができる。
【符号の説明】
【0062】
1,14 殺菌脱色反応装置
2 殺菌脱色反応槽
3,4,5,6,15,16 仕切り板
7 第1反応槽
8 第2反応槽
9 第3反応槽
10 第4反応槽
11,18 処理水貯槽
12 粒状触媒
13 活性炭
17 第5反応槽
20 海苔製造装置
21 抄き部
22 海水電解反応装置
23 貯水槽