(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024021499
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】電気化学計測装置
(51)【国際特許分類】
G01N 27/416 20060101AFI20240208BHJP
G01N 27/28 20060101ALI20240208BHJP
H01L 21/66 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
G01N27/416 302M
G01N27/28 301Z
H01L21/66 H
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022124356
(22)【出願日】2022-08-03
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-12-09
(71)【出願人】
【識別番号】522311004
【氏名又は名称】株式会社Doi Laboratory
(74)【代理人】
【識別番号】110001726
【氏名又は名称】弁理士法人綿貫国際特許・商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】土肥 俊郎
(72)【発明者】
【氏名】西澤 秀明
(72)【発明者】
【氏名】今井 和雄
【テーマコード(参考)】
4M106
【Fターム(参考)】
4M106AA01
4M106AA11
4M106CA01
4M106DH16
4M106DH57
(57)【要約】
【課題】ウエハ上に成膜された試料等に対し、静的及び動的測定(研磨しながら)が可能な電気化学計測装置を提供し、測定試料(金属片)や測定薬液の交換も簡便なものとし、評価効率を飛躍的に向上させ、電源や環境からのノイズを低減させることでより微小な電流の計測を可能にする。
【解決手段】ポテンショスタットを用いた電気化学計測装置10であって、外部電極との接続が不要な疑似ターフェル負荷回路を具備した電気的にシールドされた電気回路ユニット2と、底部に円形のウィンドウをもつセル容器と、前記ウィンドウと同径の研磨面を持つ研磨ヘッド及び研磨シャフトを有する回転機構と、前記回転機構を制御する回転機構制御ユニット4と、操作記憶部1と、を備えて構成される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポテンショスタットを用いた電気化学計測装置であって、
外部電極との接続が不要な疑似ターフェル負荷回路を具備した電気的にシールドされた電気回路ユニットと、底部に円形のウィンドウをもつセル容器と、前記ウィンドウと同径の研磨面を持つ研磨ヘッド及び研磨シャフトを有する回転機構と、前記回転機構を制御する回転機構制御ユニットと、操作記憶部と、を備えて構成されること
を特徴とする電気化学計測装置。
【請求項2】
前記疑似ターフェル負荷回路は、ダイオードと抵抗とを組み合わせた回路を備えて構成され、該回路のLSVでの出力がターフェルプロット形状の電流値又は電流密度となること
を特徴とする請求項1記載の電気化学計測装置。
【請求項3】
前記セル容器の前記ウィンドウは、面積が1~5cm2であり、
前記研磨シャフトは、前記ウィンドウと同径で、かつ外周部にスクリュー形状の溝を有すること
を特徴とする請求項1又は請求項2記載の電気化学計測装置。
【請求項4】
前記セル容器の下面に設置した試料に、厚さXの銅薄膜シートと、厚さYでヤング率Zの軟質有機シートの多層構造からなるリード線と、によりコンタクトを取る構成であること
を特徴とする請求項1又は請求項2記載の電気化学計測装置。
【請求項5】
前記研磨ヘッドの跳ね上げ機構と、前記跳ね上げ機構を非研磨時及び研磨時ともにロック可能なロック機構と、を備えること
を特徴とする請求項1又は請求項2記載の電気化学計測装置。
【請求項6】
静的及び動的測定において、ソフトウェアにより計測値がリアルタイムでターフェルプロットで出力される構成であること
を特徴とする請求項請求項1又は請求項2記載の電気化学計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CMPスラリーと加工対象材料との電気化学反応を評価する電気化学計測装置に関し、特に、動的な計測が可能な電気化学計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの微細化・高速化に伴い、低抵抗の銅(Cu)を配線材料として採用したCu/低誘電率(Low-k)絶縁膜構造の超LSIデバイスが現在の主流となっている。まず、Low-k膜にフォトリソグラフィー技術により配線用の溝を形成し、次いでCuがLow-k膜中へ拡散することを防止するため、バリアメタルとしてTaやTaNなどを形成し、その後Cuを全面に成膜して溝に埋め込んだ後、化学的機械的研磨(CMP)により不要な部分を除去・平坦化する。通常はCuを研磨する一段目CMP、次いでバリアメタルを研磨する二段目CMPの二段階研磨が行われるが、これら被研磨対象材料の研磨速度比が平坦化性能に大きく影響する。
【0003】
Cuの研磨は、酸化剤により酸化された水溶性Cu錯体を反応系外へ除去するエッチング作用と、同じく酸化された水に不溶もしくは難溶性Cu錯体を機械的に除去する作用と、の両方をバランスさせ行うが、これらの作用はCMPスラリーに用いられる化学成分により設計される。
【0004】
これまでにもCuの研磨挙動やスラリー中の化学成分の反応解析に電気化学測定が活用されてきており、電位-電流特性(一般にターフェルプロットと称する)を評価することは必要不可欠である。実際に、
図5に示したようなポテンショスタットによるターフェルプロットにより腐食電位を測定し、CMPスラリーの腐食性評価などが行われている(非特許文献1)。
【0005】
電気化学反応“その場”観察の一例として、CMPスラリー中 で電極が回転中(研磨中)と停止中(静的挙動)を測定することでCu 表面の保護状態・保護層の強度を評価できる。例えば、酸化剤として過酸化水素水を加えたアルカリ性スラリーCu-1と、これにBTA(ベンゾトリアゾール)を微量添加したスラリーCu-2の比較が行われている(
図6、非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Serdar Aksu, Fiona M. Doyle "The Role of Glycine in the Chemical Mechanical Planarization of Copper", Journal of The Electrochemical Society (Volume 149, Number 6) 2002
【非特許文献2】嶋 昇平, 福永 明, 辻村 学 ”In-situ電気化学的評価によるCMPスラリーと配線用金属との表面反応の評価及び表面層の物性評価", エバラ時報(通号 218) 2008.1 p.16~22
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、市場にある電気化学評価装置は適当な研磨機構を備えた装置が少なく、例外的にテフロン(登録商標)でコーティングされたバルク棒の回転電極等の特殊な電極を必要とするなど、実際の半導体プロセスに近い金属膜を研磨しながら測定するのは困難であった。また、電気化学測定はノイズ不良やコンタクト不良が測定データに現れることが多々あり、扱いが難しいため、評価手法として広くは採択されていない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされ、ウエハ上に成膜された試料等に対し、静的及び動的測定(研磨しながら)が可能な電気化学計測装置を提供し、測定試料(金属片)や測定薬液の交換を簡便なものとし、評価効率を飛躍的に向上させ、電源や環境からのノイズを低減させることでより微小な電流の計測を可能にする。
【0009】
本発明は、一実施形態として以下に記載するような解決手段により、前記課題を解決する。
【0010】
本発明は、ポテンショスタットを用いた電気化学計測装置であって、外部電極との接続が不要な疑似ターフェル負荷回路を具備した電気的にシールドされた電気回路ユニットと、底部に円形のウィンドウをもつセル容器と、前記ウィンドウと同径の研磨面を持つ研磨ヘッド及び研磨シャフトを有する回転機構と、前記回転機構を制御する回転機構制御ユニットと、操作記憶部と、を備えて構成されることを要件とする。
【0011】
なお、前記疑似ターフェル負荷回路は、ダイオードと抵抗とを組み合わせた回路を備えて構成され、該回路のLSV(Linear Sweep Voltammetry)での出力がターフェルプロット形状の電流値又は電流密度となることが好ましい。また、前記セル容器の前記ウィンドウは、面積が1~5cm2であり、前記研磨シャフトは、前記ウィンドウと同径で、かつ外周部にスクリュー形状の溝を有することが好ましい。また、前記セル容器の下面に設置した試料に、厚さXの銅薄膜シートと、厚さYでヤング率Zの軟質有機シートの多層構造からなるリード線と、によりコンタクトを取る方式であることが好ましい。また、前記研磨ヘッドの跳ね上げ機構と、前記跳ね上げ機構を非研磨時及び研磨時ともにロック可能なロック機構と、を備えることが好ましい。また、静的及び動的測定において、ソフトウェア(測定プログラム)により計測値がリアルタイムでターフェルプロットで出力される構成であることが好ましい。
【0012】
本発明によれば、静的及び動的測定(研磨しながら)が可能な電気化学計測装置であって、ウエハ上に成膜された試料等の幅広い測定試料が適用可能で、セル容器の底面に1~5cm
2の円形のウィンドウを設けて裏面側に薄片試料をセットし、該ウィンドウと同径の研磨ヘッドとスクリュー形状溝を有する研磨シャフトを用いた独自の回転機構を備え、跳ね上げ式の研磨ヘッドを採用することで、簡便に研磨ヘッドをセル底面の試料に接触固定させて研磨を行うことができる(
図1(A):本装置の構成)。また、電源や環境からのノイズを低減させることでより微小な電流の計測が可能にするための、遮蔽ユニットであるノイズ対策用シールドカバーを備えることもできる。
【0013】
また、測定試料(作用極)との接続においては銅薄膜シート/軟質有機シートの多層構造リード線を用いることで、表面の粗い試料であってもオーミックなコンタクトが取れる。また、シールドされた電気回路ユニット内に組み込んだ疑似ターフェル負荷回路(
図1(C)回路図、
図1(D)疑似ターフェル負荷回路を用いた測定結果)を用いることで、環境由来のノイズの影響や測定不具合時の原因特定が容易に行えるため、経験の浅い技術者であっても円滑に測定評価を行うことができる。また、ノイズ対策用シールドカバーを装着することが可能で、電源や環境からのノイズを低減して測定精度の向上を図ることができる。そのため、本方式では測定試料(金属片)や測定薬液の交換も簡便で、評価効率と信頼性を飛躍的に向上させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ウエハ上に成膜された試料等に対し、静的及び動的測定(研磨しながら)が可能な電気化学計測装置を提供でき、測定試料(金属片)や測定薬液の交換を簡便なものとなり、評価効率が飛躍的に向上し、電源や環境からのノイズを低減させることでより微小な電流の計測が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本装置の構成 (A)装置全体構成、(B)ノイズ対策用シールドカバー、(C)疑似ターフェル負荷回路、(D)疑似ターフェル負荷回路の測定結果
【
図3】静的測定と動的(ダイナミック)測定によるターフェルプロットの例
【
図4】ノイズ対策用シールドカバー使用時の測定結果
【
図5】研磨中のその場電気化学測定可能な研磨装置の例:非特許文献1
【
図6】Cu,Ru,Taのスラリー中の電気化学変化の静的・動的測定例:非特許文献2
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る電気化学計測装置10は、操作記憶部1(一例として、パソコン)、電気回路ユニット2、電解槽ユニット3、回転機構制御ユニット4を備えて構成される。
【0017】
電気回路ユニット2内には、疑似ターフェル負荷回路を搭載し、この回路は2つダイオードを逆方向に並列接続したものに抵抗を直列に接続した構成からなる。ダイオードの順方向特性は立ち上がり電圧より大きな電圧ではダイオードの内部抵抗が小さくなり、立ち上がり電圧より小さい電圧では0Vに近づくにしたがって内部抵抗が大きくなる。この特性を利用して最小電流値近傍では電位に対して電流が大きく変化し、6桁程度の電流変化範囲までが計測可能となり、ターフェル形状の電流値特性が得られる。この特性を得るため、本発明ではSiダイオードと1kΩの抵抗を用いた。
【0018】
従来の電気化学測定においては、対象の金属試料(作用極)を特殊な治具に収納して作成する必要があった。本装置では、セル容器(電解槽セル)及び回転加圧のできる小型CMP駆動機構(回転機構)を備えた電解槽ユニット3により計測を行う。
【0019】
まず、電解槽セルの裏面から試料を設置する。本装置の測定対象は金属片、半導体・絶縁体基板上に製膜された金属膜あるいは半導体膜である。試料サイズは試料の設置口(約φ1.5cm)よりも大きければよいが、次に述べる銅箔膜シートと導通をとる必要から、推奨サイズは2×2~2×4cm2である。次に、試料ホルダー中央に試料を設置し、銅箔膜シートとOリングで電解槽セル底下面の試料口にシールされた状態で固定する。この時、銅箔膜シートの一部が試料表面と接触した状態で試料ホルダーと電解槽セルを固定することにより、銅箔膜シートと試料表面はOリングの外の適当な場所で導通される。次に、電解槽セルを電解槽ユニット3のステージに取り付け、電極保持ユニットに参照電極、対極を取り付け、電解槽ユニット3に装着する。電解槽セルにスラリーを入れ、参照電極と対極が液中に十分浸かった状態にしておく。
【0020】
静的特性の計測を行う場合は後述する跳ね上げ機構によって回転機構を電解槽ユニット3から上方に持ち上げておく。パソコン1の測定プログラムを立ち上げることにより測定可能になるので、測定開始ボタンにより測定を開始することで静的電気化学測定が行われ、ターフェルプロットが得られる。
【0021】
また、電解槽ユニット3は、研磨シャフト及び研磨シャフトを回転駆動する駆動モータを有する回転機構を備えている。本実施形態においては、
図2に示すように、跳ね上げ式の(すなわち跳ね上げ機構を有する)回転機構を採用することで、簡便に研磨ヘッドをセル底面の試料に接触固定させて研磨を行う構成が実現されている。一例として、研磨ヘッドは、研磨シャフトの先端に研磨パッドが貼り付けられて構成されている(すなわち、研磨パッドにおいて、研磨シャフトへの貼り付け面と逆側の面が研磨面となる)。また、研磨ヘッドの跳ね上げ機構を非研磨時及び研磨時ともにロック可能なロック機構を備えている。試料表面を研磨しながら電気化学測定を行う場合は、跳ね上げ機構のロックを解除して研磨ヘッドを電解槽ユニット3内に挿入する。この時、ステージの高さを調整するマイクロメーターによってステージを上下させることによって、研磨ヘッド(研磨パッド)が試料に接触する所望の荷重値を設定する。また、回転機構の制御を行う回転機構制御ユニット4にて回転速度を設定して研磨シャフトを回転させることによって、電解槽ユニット3内で試料・研磨パッド・スラリーによるCMP環境が形成される。研磨シャフトは外周部にスクリュー形状の溝(例えば、概略、開口部幅2~5mm、深さ1~5mm、ピッチ2~6mmのR形状溝、矩形状溝、V形状溝あるいは任意形状で、巻き数3~10程度)があるので当該研磨シャフトを回転させるとスラリーの循環を良好にすることができる。この状態にしてからパソコン1の測定プログラムを立ち上げることにより動的測定が可能になるので、測定開始ボタンにより測定を開始することで動的電気化学測定が行われ、ターフェルプロットが得られる。
【実施例0022】
本装置を用いて、測定試料としてシリコン基板上に形成したCuメッキ膜を用い、市販CMPスラリーに過酸化水素水を添加したものをスラリーとして電解槽ユニット3に供給した状態で静的電気化学測定を行った。測定開始電圧は-0.3V、測定終了電圧は+0.3V、電圧ステップは0.03Vで行った。得られたターフェルプロットを
図3の静的測定曲線として示す。
【0023】
同じく本装置を用い、前記静的電気化学測定の状態で、研磨シャフト先端の研磨ヘッドに研磨パッド(不織布)を貼り付け、跳ね上げ機構のロックを解除して研磨ヘッドを電解槽セルに挿入し、回転速度は10rpm、荷重10g/cm
2の条件で測定試料を研磨状態にし、動的電気化学測定を行った。測定開始電圧は-0.3V、測定終了電圧は+0.3V、電圧ステップは0.03Vで行った。得られたターフェルプロットを
図3の動的(ダイナミック)測定曲線として示す。
【0024】
図3に示された静的電気化学測定で得られたターフェルプロットでは、正負の電圧が大きくなる領域において、スラリー中の酸化剤の影響でCu表面に不働態膜が形成されたことに起因して電流値の増加が抑制されており、電流が飽和する傾向が表れている。一方、
図3の動的電気化学測定で得られたターフェルプロットには飽和傾向が見られず、電圧が大きくなるにつれて電流値も大きくなっている。これは、研磨に伴ってCu表面の不働態層が除去されて断続的に露出していることを表していることが考えられる。また、静的ターフェルプロットに対して動的ターフェルプロットの最小ピーク位置がプラス側にシフトし、最小電流値も小さくなっているが、この最小電流値をとる電位は一般に腐食電位と呼ばれ、電気化学的な反応機構を議論する上で重要な現象が観測できている。
【0025】
このように、スラリーに酸化剤、反応抑制剤、pH調整剤等を添加した時の効果や、研磨条件による不働態層の除去能率等の検討に貴重な情報を提供できる。
以上の通り、本発明の装置では、跳ね上げ式の研磨ヘッドを備える独自の回転・研磨機構を採用することで、簡便に研磨ヘッドをセル底面の試料に接触固定させて研磨を行うことができ、また、測定試料や測定薬液の交換も簡便で評価効率が飛躍的に向上し、表面の粗い試料であってもオーミックなコンタクトが取れ、電源や環境からのノイズを低減して測定精度の向上を図れるため、経験の浅い技術者であっても円滑に測定評価を行うことができる。