(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024021531
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】操出式化粧料容器
(51)【国際特許分類】
A45D 40/00 20060101AFI20240208BHJP
B65D 43/00 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
A45D40/00 Z
B65D43/00
A45D40/00 U
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022124414
(22)【出願日】2022-08-03
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000224
【氏名又は名称】弁理士法人田治米国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安藤 智紀
【テーマコード(参考)】
3E084
【Fターム(参考)】
3E084AA02
3E084AA24
3E084AB09
3E084BA01
3E084CA01
3E084CC03
3E084DA01
3E084DC03
3E084FA09
3E084LG06
(57)【要約】
【課題】下部螺旋タイプの操出式化粧料容器が逆さ落下等の衝撃を受けてもキャップ内側の天面に棒状化粧料又はスリーブの上端が衝突しないようにする。
【解決手段】操出式化粧料容器1Aが、筒型のスリーブ32内の棒状化粧料Aがスリーブ32の上端開口面32sから操出又は繰戻される下部螺旋タイプ操出構造体30、該操出構造体30の下部と嵌合する外筒20、及び該操出構造体30の上部に被さり外筒と嵌合する有底筒状のキャップ10を備える。操出式化粧料容器1Aのキャップ10は、その内側の最奥部の周囲に、キャップ内径がキャップ内側の最奥部に近づくにつれて小さくなるスロープ13を有し、好ましくは、スロープ13の外縁に隣接して段差14を有する。スロープ13におけるキャップの最小内径D1はスリーブ32の外径D2よりも小さい。
【選択図】
図5A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒型のスリーブ内の棒状化粧料が、棒状化粧料の下方にある螺旋構造によりスリーブの上端開口面から操出又は繰戻される下部螺旋タイプ操出構造体、
該操出構造体の下部と嵌合する外筒、及び
該操出構造体の上部に被さり外筒と嵌合する有底筒状のキャップを備えた操出式化粧料容器であって、
キャップ内側の最奥部の周囲に、キャップ内径がキャップ内側の最奥部に近づくにつれて小さくなるスロープが形成され、スロープにおけるキャップの最小内径がスリーブの外径よりも小さい操出式化粧料容器。
【請求項2】
キャップがスロープの外縁に隣接して段差を有し、段差におけるキャップの内径がスリーブの外径より大きい請求項1記載の操出式化粧料容器。
【請求項3】
スロープが、キャップ内側の最奥部である天面の縁部の全周に形成されている請求項1又は2記載の操出式化粧料容器。
【請求項4】
スリーブの上端開口面がスリーブの軸方向に対して傾斜している請求項1又は2記載の操出式化粧料容器。
【請求項5】
棒状化粧料の下死点において、棒状化粧料がスリーブの上端開口面から突出している請求項1又は2記載の操出式化粧料容器。
【請求項6】
スロープの高さが、スリーブの先端とスリーブの軸を含む断面におけるスリーブの傾斜高さの1/2以上である請求項1又は2記載の操出式化粧料容器。
【請求項7】
キャップの周壁の内面にキャップの軸方向に伸びたがたつき防止用の縦リブを有する請求項1又は2記載の操出式化粧料容器。
【請求項8】
キャップの周壁の内面にキャップの周方向に伸びたがたつき防止用の環状リブを有する請求項1又は2記載の操出式化粧料容器。
【請求項9】
筒型のスリーブ内の棒状化粧料が、棒状化粧料の下方にある螺旋構造によりスリーブの上端開口面から操出又は繰戻される下部螺旋タイプ操出構造体、及び
該操出構造体の上部に被さる仮キャップを備えた操出式化粧料レフィルであって、
仮キャップ内側の最奥部の周囲に、仮キャップ内径が仮キャップ内側の最奥部に近づくにつれて小さくなるスロープが形成され、スロープにおける仮キャップの最小内径がスリーブの外径よりも小さい操出式化粧料レフィル。
【請求項10】
仮キャップがスロープの外縁に隣接して段差を有し、段差における仮キャップの内径がスリーブの外径より大きい請求項9記載の操出式化粧料レフィル。
【請求項11】
仮キャップの周壁に仮キャップの軸方向に伸びた、仮キャップとスリーブとの嵌め合いを強くするスリットを有する請求項9又は10記載の操出式化粧料レフィル。
【請求項12】
仮キャップの周壁の内面に仮キャップの軸方向に伸びたがたつき防止用の縦リブを有する請求項9又は10記載の操出式化粧料レフィル。
【請求項13】
仮キャップの周壁の内面に仮キャップの周方向に伸びたがたつき防止用の環状リブを有する請求項9又は10記載の操出式化粧料レフィル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下部螺旋タイプの操出式化粧料容器及び該化粧料容器で用いる操出式化粧料レフィルに関する。
【0002】
口紅、リップクリーム、スティックファンデーション等の棒状化粧料の容器として操出式化粧料容器が使用されている。
【0003】
操出式化粧料容器は、棒状化粧料を囲むスリーブと、螺旋構造による操出機構を備えた操出構造体を有し、スリーブの上端から棒状化粧料が繰出又は繰戻される。操出式化粧料容器には、操出構造体における螺旋構造の違いによって上部螺旋タイプ(特許文献1)と下部螺旋タイプがある(特許文献2、特許文献3)。
【0004】
上部螺旋タイプ(特許文献1)では、棒状化粧料の周壁の厚さの中にスリーブと、螺旋溝が形成された螺旋筒とが含まれる。このタイプでは、化粧料が砲弾型に成形されることが多い。
【0005】
下部螺旋タイプでは、棒状化粧料の下方に螺旋構造が設けられる。棒状化粧料の周壁はスリーブと言われる肉薄金属製の筒状部材で形成される。周壁に螺旋筒は含まれない。そのため、下部螺旋タイプでは棒状化粧料の周壁が薄く、操出式化粧料容器をスリム化したデザインとする場合に多く用いられている(特許文献2、特許文献3)。そして下部螺旋タイプの化粧品では、美観上、棒状化粧料自体も細径とし、スリーブの上端部が斜めカットされた形状にされ、棒状化粧料の下死点において棒状化粧料の上端部をスリーブの上端部から僅かに突出させることが広く行われている。
【0006】
一方、操出式化粧料容器では、操出構造体の下部が、該操出式化粧料容器の底部外装体をなす外筒に取り付けられるが、環境配慮の観点から、操出構造体を外筒から脱着可能とすることで操出構造体をレフィル化(カートリッジ化ともいう)し、操出構造体内の化粧料を使い切ったら操出構造体を交換し、外筒やキャップを繰り返し使用できるようにすることが望まれる。特許文献1、特許文献2にも操出構造体をレフィル化することが記載されている。
【0007】
操出式化粧料容器において操出構造体をレフィル化する場合、操出構造体と外筒との嵌合強度が強すぎると操出構造体の交換が難しくなる。一方、化粧品ユーザーが容易に操出構造体を交換できる嵌合強度とすると、何らかの理由で操出式化粧料容器がキャップを下にして落下するという逆さ落下が起きた場合、操出構造体が外筒から外れて棒状化粧料がキャップ内側の天面に衝突し、棒状化粧料が傷つくことがある。
【0008】
これに対し特許文献1には、上部螺旋タイプの操出式化粧料容器において、キャップ内側の天面の縁部に段差を形成するストッパーを設けることが提案されている。上部螺旋タイプの操出式化粧料容器では操出構造体の周壁の厚さが厚く、また、特許文献1に記載の操出式化粧料容器では、棒状化粧料の下死点において、棒状化粧料が操出構造体の周壁の中に完全に潜った状態となるので、ストッパーの段差により、キャップ内側の天面方向に向かおうとする操出構造体の周壁の上端を押さえることで、操出構造体が外筒から外れきることを起こり難くし、外れた場合でも棒状化粧料がキャップの天面に衝突することを防止することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】実開平1-168206号公報
【特許文献2】特開2018-29744号公報
【特許文献3】特開2017―35197号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、下部螺旋タイプの操出式化粧料容器では、特許文献1に記載のようにキャップの内側の天面の縁部に段差を設けても、棒状化粧料の周壁であるスリーブの厚さが薄いため、その段差によって、逆さ落下時にキャップの内側天面に向かってくるスリーブを押さえることは難しい。特に、下部螺旋タイプの操出式化粧料容器では、デザイン上、スリーブの上端が斜めカットされた形状とされることが多く、その場合にはスリーブの上端の全周ではなく、先端の一点を段差で押さえなくてはならず、段差でスリーブを押さえることはなおさら難しい。スリーブがキャップ内側の天面に衝突するときに、棒状化粧料の下死点において棒状化粧料の上端部がスリーブの上端から突出していると、棒状化粧料の上端部もキャップの内側の天面に衝突し、棒状化粧料が損傷してしまう。そしてこのような棒状化粧料の損傷を、化粧品ユーザーがレフィルを外筒に装着した後、初めて使用するときに目にすると、化粧品に対する心証が大きく低下してしまう。棒状化粧料の損傷状態によっては、その後の使用感も低下する。
【0011】
また、スリーブがキャップ内側の天面に衝突することでキャップ内側の樹脂が傷つき、それにより生じた樹脂の削りカスが化粧料に混入するおそれも生じる。
【0012】
そこで、本発明の課題は、下部螺旋タイプの操出式化粧料容器に対し、逆さ落下等により操出構造体をキャップ内側の最奥部に向かわせる衝撃力が加わった場合に、キャップ内側の天面に棒状化粧料又はスリーブの上端が衝突しないようにすることに関する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、下部螺旋タイプの操出式化粧料容器に対し、操出構造体をキャップ内側の最奥部に向かわせる衝撃力が加わった場合に、操出構造体のスリーブの上端がキャップの内側の最奥部の周囲と摺接するようにキャップ内側の最奥部の周囲にスロープを形成すると、操出構造体をキャップ内側の最奥部に向かわせる衝撃力がスロープとスリーブの摩擦で和らげられ、さらに、スロープにおけるキャップの最小内径をスリーブの外径よりも小さくすると、棒状化粧料又はスリーブの上端がキャップ内側の最奥部に達しないことを見出し、本発明を完成させた。
【0014】
即ち、本発明は、筒型のスリーブ内の棒状化粧料が、棒状化粧料の下方にある螺旋構造によりスリーブの上端開口面から操出又は繰戻される下部螺旋タイプ操出構造体、
該操出構造体の下部と嵌合する外筒、及び
該操出構造体の上部に被さり外筒と嵌合する有底筒状のキャップを備えた操出式化粧料容器であって、
キャップ内側の最奥部の周囲に、キャップ内径がキャップ内側の最奥部に近づくにつれて小さくなるスロープが形成され、スロープにおけるキャップの最小内径がスリーブの外径よりも小さい操出式化粧料容器を提供する。
【0015】
また、本発明は、筒型のスリーブ内の棒状化粧料が、棒状化粧料の下方にある螺旋構造によりスリーブの上端開口面から操出又は繰戻される下部螺旋タイプ操出構造体、及び
該操出構造体の上部に被さる仮キャップを備えた操出式化粧料レフィルであって、
仮キャップ内側の最奥部の周囲に、仮キャップ内径が仮キャップ内側の最奥部に近づくにつれて小さくなるスロープが形成され、スロープにおける仮キャップの最小内径がスリーブの外径よりも小さい操出式化粧料レフィルを提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の操出式化粧料容器によれば、キャップ内側の最奥部の周囲に、キャップ内径が、キャップ内側の最奥部に近づくにつれて小さくなるスロープが形成されているので、逆さ落下等の衝撃により操出構造体がキャップ内面に衝突するときには、まず、スリーブの上端開口面から突出している棒状化粧料又はスリーブの上端がキャップ内側の最奥部の周囲のスロープに当たり、スロープと摺接する。この摺接の摩擦力が、スリーブの厚さが薄くても衝撃力を弱める。さらにスロープにおけるキャップの最小内径がスリーブの外径よりも小さいので、スリーブの上端がキャップ内側の最奥部に到達することが防止される。したがって、逆さ落下等の衝撃があった場合に、下死点にある未使用の棒状化粧料がデザイン上スリーブから突出していても、棒状化粧料の上端がキャップ内側の天面に衝突し、損傷することを起こり難くすることができる。よって、化粧料の損傷による化粧品ユーザーの心証が低下することや棒状化粧料の使用感が低下することを防止することができる。また、スリーブの上端がキャップ内面を傷つけて樹脂の削りカスが発生することも防止され、樹脂の削りカスが化粧料に混入するおそれを解消することができる。
【0017】
このスロープの効果は、スリーブの上端開口面が水平でも傾斜していても発揮される。
【0018】
また、本発明の操出式化粧料レフィルの仮キャップも上記と同様のスロープを有しているので、逆さ落下等の衝撃でレフィルの仮キャップ内側の最奥部にスリーブの上端が衝突することを防止することができ、したがって、この衝突で棒状化粧料が損傷することを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、実施例の操出式化粧料容器1Aの組立図である。
【
図2】
図2、棒状化粧料が下死点にある、外筒に操出構造体を嵌めた状態の実施例の操出式化粧料容器1Aの側面図である。
【
図3A】
図3Aは、キャップを嵌めた状態の実施例の操出式化粧料容器1Aの部分断面図である。
【
図3B】
図3Bは、キャップ内面にスリーブが突き当たった状態の実施例の操出式化粧料容器1Aの部分断面図である。
【
図3C】
図3Cは、キャップ内面にスリーブが斜めに突き当たった状態の実施例の操出式化粧料容器1Aの上端部の部分断面図である。
【
図4】
図4は、キャップ内面に上端部が水平なスリーブが突き当たった状態の実施例の操出式化粧料容器1A’の上端部の部分断面図である。
【
図5A】
図5Aは、実施例の操出式化粧料容器1Bの部分断面図である。
【
図5B】
図5Bは、実施例の操出式化粧料容器1Bの作用を説明する部分断面図である。
【
図5C】
図5Cは、実施例の操出式化粧料容器1Bの作用を説明する部分断面図である。
【
図6】
図6は、実施例の操出式化粧料容器1Cの部分断面図とその横断面図である。
【
図7】
図7は、実施例の操出式化粧料容器1Dの部分断面図とその横断面図である。
【
図8】
図8は、実施例の操出式化粧料容器1Eの部分断面図である。
【
図9】
図9は、実施例の操出式化粧料容器1Fの部分断面図である。
【
図10】
図10は、実施例の操出式化粧料レフィル2Aの部分断面図である。
【
図11】
図11は、実施例の操出式化粧料レフィル2Aの仮キャップ50Aの斜視図である。
【
図12】
図12は、実施例の操出式化粧料レフィル2Bの部分断面図である。
【
図13】
図13は、実施例の操出式化粧料レフィル2Bの仮キャップ50Bの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を、図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、各図中、同一符号は同一又は同等の構成要素を表している。
【0021】
(全体構成)
図1は、本発明の一実施例の操出式化粧料容器1Aの組立図である。同図に示したように、この操出式化粧料容器1Aは、操出構造体30と、操出構造体30の下部と嵌合する外筒20と、操出構造体30の上部に被さり、外筒20と嵌合する有底筒状のキャップ10とを備えている。
図2は、
図1に示した外筒20に操出構造体30を嵌め、棒状化粧料が下死点にある状態の操出式化粧料容器1Aの側面図である。
【0022】
操出構造体30では、棒状化粧料Aが、横断面が円形の筒型のスリーブ32に囲まれている。操出構造体30の基部の袴部40とスリーブ32との相対回動により、棒状化粧料Aがスリーブ32の上端開口面32sから繰り出され又は繰り戻される。
【0023】
操出構造体30の操出機構は下部螺旋タイプであり、例えば、特許文献2、特許文献3に記載されている公知の下部螺旋タイプの操出機構とすることができる。したがって、棒状化粧料Aを囲む周壁の厚さはスリーブ32の厚さとなっている。
【0024】
(スリーブ)
本実施例の容器1Aのスリーブ32は薄肉金属製の筒状部材で形成されている。スリーブ32の上端開口面32sは平面で、スリーブ32の中心軸Ls に対して傾斜している。そのため、スリーブ32の上端開口面32sは楕円形となっている。また、本実施例においてスリーブ32の軸方向に対する上端開口面32sの傾斜角α(
図3A)は、好ましくは45°以上90°未満であり、これに応じてスリーブ32の上端開口面32sの面積や傾斜高さH1(即ち、スリーブ32の上端開口面32sの上端32aと下端32bのスリーブの軸方向の距離)が定まり、例えば傾斜角αが60°の場合には好ましい傾斜高さH1が6.0~7.7mmとなる。
【0025】
なお、本発明においてスリーブ32の上端開口面32sの形状は特に制限はなく、上端開口面32sを屈曲面としてもよい。また、本発明においてスリーブ32の上端開口面32sは水平(スリーブの軸Lsに対して垂直)でもよく傾斜していてもよく、傾斜の程度は、棒状化粧料Aの使い勝手やデザイン上の観点から適宜定めることができる。
【0026】
図2は、棒状化粧料Aが下死点にある操出構造体30の下部を外筒20に嵌合させ、キャップ10を外した状態の実施例の操出式化粧料容器1Aの側面図である。本発明ではデザイン上の点から、下死点において未使用の棒状化粧料Aをスリーブ32の上端開口面32sから突出させることができ、下死点における、スリーブ32の上端32aからのスリーブの軸Ls方向の棒状化粧料Aの突出量HA を、例えば0.5mm以上とすることができる。一方、突出量HA を大きくすると、棒状化粧料Aがキャップの内側面に接触して傷つくことを防止するためにスロープ13の高さH2(
図3A)を大きくすることが必要となるので、突出量HA は2.0mm以下とすることが好ましく、1.0mm以下とすることがより好ましい。
【0027】
なお、未使用の棒状化粧料が下死点においてスリーブ内に潜った位置にある操出式化粧料容器では、キャップを嵌めた状態で棒状化粧料が下死点に繰り戻されている限り、逆さ落下等で棒状化粧料がキャップの内側天面に衝突する虞は殆どないが、キャップを嵌めた状態で繰戻が不完全なために棒状化粧料が下死点になく、スリーブから露出している場合がある。この場合には、逆さ落下等で棒状化粧料がキャップ内側の天面に衝突する虞がある。よって、未使用の棒状化粧料が下死点においてスリーブ内に潜った位置にある操出式化粧料容器においても本発明は有用である。
【0028】
外筒20に操出構造体30を嵌合させた状態では外筒20とスリーブ32との相対回動により、
図2に破線で示すように、棒状化粧料Aがスリーブ32の上端開口面32sから繰り出され又は繰り戻される。
【0029】
(キャップのスロープ)
図3Aは、棒状化粧料Aが下死点にある操出構造体30にキャップ10を被せ、外筒20に嵌めた状態の部分断面図である。同図において、ハッチングを付した部分は、スリーブ32の中心軸Lsとスリーブ32の上端32aを通る断面を表している。なお、
図3Aにはスロープ13がキャップ10と一体に形成されている態様を示しているが、本発明において、スロープ13はキャップ10の内側に嵌め込む別部材として構成してもよい。
【0030】
同図に示すように、本実施例の操出式化粧料容器1Aは、キャップ10内側の最奥部である天面12の周囲、より具体的には天面12の縁部の全周にスロープ13を有している。したがって、キャップ10の軸Lcに垂直な面でスロープ13を切ったときの該スロープ13の横断面形状は軸Lc方向の任意の位置で円となる。このようにスロープ13がキャップ内側の天面12の縁部の全周に設けられていることにより、逆さ落下等において、まずスリーブ32の上端32aの一点がキャップ10の内面に当たる場合でも、まず上端32aを必ずスロープ13に当て、スロープ13と摺接させ、衝撃力を緩和させることが可能となる。
【0031】
キャップ10を操出構造体30に被せ、外筒20と嵌合させた状態で、スロープ13の下端13bはスリーブ32の上端32aと略当接する位置にある。スロープ13の下端13bとスリーブ32の上端32aとの距離を短くすることにより、キャップ10が無用に長くなることを防止できる。
【0032】
スロープ13の傾斜では、キャップ内径がキャップ内側の最奥部に近づくにつれて小さくなっている。したがって、逆さ落下等により操出構造体30に衝撃が加わり、
図3Bに示すように操出構造体30の袴部40が外筒20から外れ、操出構造体30がキャップ内側の天面12に向かう移動量が増えても、スリーブ32の上端32aがスロープ13と摺接し、摩擦により衝撃力が弱まる。
【0033】
スロープ13における最小内径D1はスリーブ32の外径D2よりも小さく(
図3A)、傾斜しているスロープ13の範囲内にスロープ13の内径がスリーブの外径D2と等しくなる箇所が存在する。そこで、逆さ落下等の衝撃によりスリーブ32がキャップ内側の天面12方向に向かっても、スロープ13における内径がスリーブ32の外径D2と等しくなる箇所に達すると、それ以上スリーブ32は天面12方向に進むことができない。仮に、がたつき等によりスリーブ32がキャップ10内に傾いて侵入しても、
図3Cに示すように、スリーブ32の上端開口面における上端32aがスロープ13の傾斜内に入り、スリーブ32の上端開口面における下端32bがキャップ10の内壁に当たると、スリーブ32はそれ以上進み難くなり、仮にさらにその状態でスリーブ32が進み続けても、スロープ13における内径がスリーブ32の外径D2と等しくなる箇所に達すると、それ以上スリーブ32は天面12方向に進むことができない。通常は、スリーブ32の上端32aとスロープ13との摩擦により、
図3Bに示すように、スロープ13における内径がスリーブ32の外径D2と等しくなる前にスリーブ32の天面12方向への進入が止まる。そこでこの進入が止まったときのスロープ下端13bからのスリーブ32の上端32aのキャップ10の軸Lc方向の距離を進入量H3とすると、進入量H3と棒状化粧料の突出量HA との和がスロープ13の高さH2に達しないように、スロープ13の高さH2、棒状化粧料Aの突出量HA、キャップ10の軸Lc 方向に対する傾斜角β、スリーブの外径D2、スロープ13の下端よりも下方(外筒側)のキャップの内径D3等を適宜定める。これにより、逆さ落下時などにおける棒状化粧料Aの損傷を抑制することができる。
【0034】
より簡便には、スロープ13の高さH2を高くし、スロープ13の斜面の長さを長くするほど、スリーブの上端部が斜めにカットされた形状であるか否かに関わらず、スリーブ32の上端32aあるいは棒状化粧料Aの上端At が、キャップ内側の天面12の小径部に到達することを防止できる。仮に、スリーブの上端部が斜めにカットされている場合(即ち、スリーブ32の傾斜高さH1が0より大きい場合)において、進入量H3を多く見積もってスリーブ32の全周がスロープ13に達したときにスリーブ32の進入が止まるとすると、進入量H3はスリーブ32の傾斜高さH1と等しくなるが、実際にはその1/2程度の進入量H3となることが好ましい。そこで、スロープ13の高さH2を、スリーブ32の傾斜高さH1の1/2以上とすることが好ましい。一方、スロープ13の高さH2を過度に高くすることはキャップ10を無駄に大きくすることになる。そこで、スロープ13の高さH2はスリーブ32の傾斜高さH1の4/5以下とすることが好ましく、3/4以下とすることがより好ましい。即ち、スリーブ32の傾斜高さH1と、スロープ13の高さH2に次式の関係を持たせることが好ましい。
1/2H1≦H2≦4/5H1
【0035】
一方、
図4に示す操出化粧料容器1A’のように、スリーブ32の上端部が水平(即ち、スリーブ32の傾斜高さH1=0)で、棒状化粧料Aがスリーブ32から突出している場合に、逆さ落下等でスリーブ32がキャップ内側の天面12に向かったときに、スリーブ32の上端32aがスロープ13に当たって摺接しつつ進み、スロープ13部分の内径がスリーブ32の外径D2以下となると、それ以上スリーブ32は天面12方向に進行しなくなる。よって、棒状化粧料Aの上端At が天面12に衝突して大きく損傷することを防止することができる。
【0036】
キャップ10の軸Lc に対するスロープ13の傾斜角βの大きさに関し、逆さ落下等によりスリーブ32がキャップ内側の天面12方向に進行してくるのを、スリーブ32の上端をスロープ13に突き当てて止めるためには傾斜角βは大きい方が好ましいが、スリーブ32の上端とスロープ13との摩擦力を高めてスリーブ32の進行を止めるためには傾斜角βは小さい方が好ましく、傾斜角βは、スリーブ32の上端32aとスロープ13との摩擦力を十分に高められる程度の角度とすることが好ましい。傾斜角βが大き過ぎると、逆さ落下等によりキャップ内側の天面12に向かってくる、スリーブ32の上端開口面32sからの棒状化粧料Aの突出部分が衝突して損傷してしまう。また、スリーブ32の上端もスロープ13と衝突する。スリーブ32の上端32aがスロープ13と衝突すると、スリーブ32が金属製でキャップ10が樹脂製の場合に、スロープ13を形成する樹脂がスリーブ32で削られ、樹脂の削りカスが棒状化粧料Aに異物として混入してしまう虞がある。そこで、傾斜角βは、スロープ13の傾斜面とスリーブ32の上端開口面32sとのなす角度γが90°以上となるように定めることが好ましく、この角度γと上端開口面32sの傾斜角αとの和が180を超えない限り、角度γは105°以上としてもよい。
【0037】
(段差)
図5Aに示した操出式化粧料容器1Bは、
図3Aに示した上述した操出式化粧料容器1Aに対し、キャップ10が、スロープ13の外縁に隣接して段差14を有する点が異なっており、他は同様に構成されている。
【0038】
段差14は、後述するがたつき防止用のリブ15(
図6)、16(
図7)をキャップ10の内面の周壁に設けてスリーブ32がキャップ内でがたついたり、キャップ内側の天面方向に斜めに進入したりすることを防止する場合に特に有用である。この場合、スリーブ32の上端開口面から突出している棒状化粧料Aの損傷防止の点から、段差14におけるキャップの内径D4はスリーブ32の内径D5より大きくすることが好ましい。また、がたつきが抑えられることでスリーブ32が天面12方向へまっすぐ進む状態で逆さ落下等が起きた場合に、スリーブ32がまず段差14に当たるように、段差14におけるキャップの内径D4をスリーブの外径D2よりも小さくすること(即ち、D2>D4>D5)がより好ましい。段差14とがたつき防止用のリブの併用によりスロープ13の高さH2を低くすることができる。
【0039】
また、段幅dは、棒状化粧料Aの段差による損傷防止と、逆さ落下等でスリーブ32が段差14に当たるようにする点から次の関係を有することが好ましい。
(D3-D2)/2<d<(D3-D5)/2
【0040】
逆さ落下等において、スリーブ32の上端32aがキャップ内側の天面12に衝突することを、段差14がスリーブ32の上端32aを押さえることのみで防止することはできない。強い衝撃に対してスリーブ32の上端32aは容易に段差14を乗り越えて天面12方向に進む。しかしながら、キャップ10にスロープ13と段差14の双方が形成されていると、逆さ落下等において、スリーブ32の上端32aが、まず段差14にあたり、次いで
図5Bに示すように、段差14を乗り越えてスロープ13に当たり、スロープ13と摺接するので、スリーブ32の上端32aがスロープ13に当たるときの衝撃が弱まる。よって、例えば、
図5Cに示すように、逆さ落下等において操出構造体30が袴部40から外れ、キャップ10内で操出構造体30が大きく傾いても、スリーブ32の上端32aがキャップ内側の天面12に衝突することを確実に防止することができる。
【0041】
(がたつき防止用の縦リブ)
図6に示した操出式化粧料容器1Cは、
図5Aに示した操出式化粧料容器1Bに対し、キャップ10の周壁の内面にキャップの軸Lc 方向に伸びたスリーブのがたつき防止用の縦リブ15を、キャップ10に一体成形したものである。この操出式化粧料容器1Cにおいて、縦リブ15は、スロープ13の直下からキャップ10の下端近傍まで伸びている。また、同図のA-A断面図に示すように、縦リブ15はキャップ10の周壁の内面に所定間隔に設けられている。
【0042】
縦リブ15を設けることにより、逆さ落下等において操出構造体30が袴部40から外れても、操出構造体30がキャップ10内でがたついて大きく傾くことはない。したがって、操出構造体30のスリーブ32の上端32aがスロープ13に当たってからその進入が止まるまでの進入量を縦リブ15が無い場合に比して短くすることができる。よって、その分キャップ10を短尺とし、操出式化粧料容器1Cを小型化することができる。
【0043】
(がたつき防止用の環状リブ)
図7に示した操出式化粧料容器1Dは、
図5Aに示した操出式化粧料容器1Bに対し、キャップ10の周壁の内面に、周方向に伸びたがたつき防止用の環状リブ16を、キャップ10に一体成形したものである。このように環状リブ16を設けることによっても縦リブ15を設ける場合と同様に、キャップ10内での操出構造体30のがたつきを抑え、スリーブ32の上端32aの進入量を短くすることができるので、キャップ10を短尺化し、操出式化粧料容器1Dを小型化することができる。
【0044】
(変形態様)
本発明は、種々の変形態様をとることができる。例えば、
図8に示す操出式化粧料容器1Eは、
図5Aに示した操出式化粧料容器1Bに対し、スロープ13を屈曲面としたものであり、
図9に示す操出式化粧料容器1Fはスロープ13を曲面とし、キャップ10の内側の最奥部に平坦な天面を設けず、最奥部とその周囲とをお椀型に形成したものである。
これらの図において、破線はスリーブが逆さ落下等により最奥部に向かって突進し、スロープ13に突き当たり、止まった位置を表している。このように本発明においてスロープ13よりも最奥部寄りの形状は、棒状化粧料Aの形状や突出量HA に応じて適宜変更することができる。
【0045】
(操出式化粧料レフィル)
上述した本発明の種々の操出式化粧料容器のキャップの構成は、該操出式化粧料容器の操出構造体を付替用パーツとして提供する操出式化粧料レフィルのキャップにも適用することができる。
【0046】
図10は、上述した操出式化粧料容器1A~1Fの操出構造体30と同様の下部螺旋タイプの操出構造体30に仮キャップ50Aを被せた操出式化粧料レフィル2Aの部分断面図であり、ハッチングを付した部分が断面を表している。
図11はこの仮キャップ50Aの斜視図である。
【0047】
操出式化粧料レフィル2Aは、操出構造体30の下部が嵌合する外筒がない。したがって、仮キャップ50Aの軸Lc方向の長さは外筒に達する長さとすることが不要であり、その分、仮キャップ50Aは短尺に形成されている。仮キャップ50Aは、操出構造体30が上端開口面32s側から仮キャップ50Aに押し込まれることで、操出構造体30の上部に保持されている。
【0048】
仮キャップ50Aには、上述した操出化粧料容器1A~1Fのキャップ10の種々の変形態様を設けることができるが、特に、スロープ53の外縁に隣接して段差54を設けることが好ましい。即ち、仮キャップ50Aを操出構造体30に装着する場合、仮キャップ50Aは外筒と嵌合させないため、段差54が無いと仮キャップ50Aへの操出構造体30の押し込み深さにはばらつきがでやすい。過度に押し込んだり、逆さ落下の衝撃が加わったりすると、スリーブ32の上端開口面32sから突出している棒状化粧料Aが天面52に突き当たることで傷ついてしまう。また、操出構造体30のスリーブ32の上端32aが仮キャップ内側の天面52に当たり、スリーブ32で天面52が削れ、その削りカスが棒状化粧料Aに混入することも懸念される。これに対し、段差54を設け、スリーブ32の上端32aが段差54に当たるまで押し込むことで、操出構造体30の仮キャップ50Aへの押し込み深さを一定にすることができる。
【0049】
なお、仮キャップ50Aに段差54は形成するが、スロープ53を形成しなかった場合、操出構造体30の仮キャップ50Aへの押し込みや逆さ落下等により、スリーブ32の上端32aが段差54を乗り越え、スリーブ32の上端開口面32sから突出している棒状化粧料Aが天面52に突き当たることで傷ついてしまう。また、逆さ落下等によりスリーブ32の上端32aが天面52に衝突し、天面52から削りカスが生じることも懸念される。これに対し、スロープ53と段差54の双方を形成することにより、操出構造体30の仮キャップ50Aへの押し込み量を一定にし、仮にスリーブ32の上端32aが段差54を乗り越えても、スリーブ32から突出している棒状化粧料Aが天面52に突き当たって傷つくことやスリーブ32の上端32aが天面52を削ることを抑制することが可能となる。
【0050】
また、操出構造体30に仮キャップ50Aが確実に保持され、不用意に仮キャップ50Aが外れないようにするため、
図6に示したがたつき防止用の縦リブ15や
図7に示したがたつき防止用の環状リブ16を仮キャップ50Aに設けることも好ましい。
【0051】
さらに、操出構造体30のスリーブ32と仮キャップ50Bとの嵌め合いを強くするために、
図12、
図13に示す操出式化粧料レフィル2B、仮キャップ50Bのように、仮キャップ50Bの周壁に仮キャップ50Bの軸Lc方向に伸びたスリット55を設けても良い。スリット55は、周壁の内面と外面を連通させるもので、仮キャップ50Bの軸Lcの周りに放射状に形成されている。このスリット55は、スリーブのがたつきを防止する機能も有する。
【0052】
(樹脂材料)
本発明の操出式化粧料容器や操出式化粧料レフィルを形成する樹脂は、公知の操出式化粧料容器や操出式化粧料レフィルと同様とすることができるが、操出式化粧料レフィルを形成する仮キャップは、操出構造体30の押し込みにより操出構造体30に保持されるようにする点及びスリット55の有無等の点から必要な樹脂の硬さに応じて、ポリエチレン、ポリプロピレン、ABS等の樹脂を適宜選択して使用することが好ましい。
【符号の説明】
【0053】
1A、1A’、1B、1C、1D、1E、1F 下部螺旋タイプの操出式化粧料容器
2A、2B 操出式化粧料レフィル
10 キャップ
11 ストッパー
11a 段差
12 キャップ内側の天面
13 スロープ
13b スロープ下端
14 段差
15 縦リブ
16 環状リブ
20 外筒
30 操出構造体
31 周壁
32 スリーブ
32a 上端
32b 下端
32s 上端開口面
33 螺旋溝
34 ガイド筒
40 袴部
50A、50B 仮キャップ
52 仮キャップ内側の天面
53 スロープ
54 段差
55 スリット
A 棒状化粧料
At 上端
d 段幅
D1 スロープにおけるキャップの最小内径
D2 スリーブの外径
D3 スロープの下端よりも下方のキャップの内径
D4 段差におけるキャップの内径
D5 スリーブの内径
Ls スリーブの中心軸
Lc キャップの軸
H1 スリーブの上端開口面の傾斜高さ
H2 スロープの高さ
H3 スロープ下端からのスリーブの進入量
HA スリーブの上端からの棒状化粧料の突出量
α スリーブの上端開口面のスリーブの軸に対する傾斜角
β キャップの軸に対するスロープの傾斜角
γ スロープの傾斜面とスリーブの上端開口面とのなす角度