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特開2024-21532濃度測定装置、異常検知方法、及び異常検知方法に用いる学習モデルの学習方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024021532
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】濃度測定装置、異常検知方法、及び異常検知方法に用いる学習モデルの学習方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/01 20060101AFI20240208BHJP
   G01N 21/33 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
G01N21/01 D
G01N21/33
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022124415
(22)【出願日】2022-08-03
(71)【出願人】
【識別番号】390033857
【氏名又は名称】株式会社フジキン
(74)【代理人】
【識別番号】100129540
【弁理士】
【氏名又は名称】谷田 龍一
(74)【代理人】
【識別番号】100137648
【弁理士】
【氏名又は名称】吉武 賢一
(72)【発明者】
【氏名】永瀬 正明
(72)【発明者】
【氏名】田中 一輝
(72)【発明者】
【氏名】石井 秀和
(72)【発明者】
【氏名】杉本 耕祐
(72)【発明者】
【氏名】滝本 昌彦
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA01
2G059BB01
2G059EE01
2G059EE11
2G059FF10
2G059GG01
2G059GG02
2G059GG03
2G059GG05
2G059HH03
2G059JJ22
2G059KK03
2G059MM01
2G059MM09
2G059MM10
2G059NN05
(57)【要約】      (修正有)
【課題】合波光のデジタル波形データの異常を検知することができる濃度測定装置、異常検知方法、及び、異常検知方法に用いる学習モデルの学習方法を提供する。
【解決手段】異なる波長の光を発する光源2,3と、発せられた光を合波する合波器5と、合波された光が通過する被測定流体Gを入れるための測定セル6と、測定セル6を通過した透過光を検出する透過光検出器7と、検出されたアナログ検出信号をデジタル信号に変換する信号変換器9と、デジタル信号を周波数解析して濃度を演算するように構成された濃度演算部13と、信号変換器9からのデジタル波形データから所定時間範囲の検知データ群を取得するように構成されたデータ取得部15と、正常なデジタル波形データを学習したオートエンコーダ16aに検知対象の検知データ群を入力し、復元された検知データ群の復元誤差が、最大値を超えるか否かを判定するように構成された判定部16と、を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
濃度測定に用いる複数の異なる周波数の光の合波光の異常を検知する異常検知方法であって、
前記合波光の正常なデジタル波形データのデジタル値を復元するように調整された学習済みの学習モデルであるオートエンコーダの復元誤差の最大値を閾値として算出する工程と、
検知対象となる合波光のデジタル波形データのデジタル値で構成される検知データ群を学習済みの前記オートエンコーダに入力し、前記オートエンコーダから出力された前記検知データ群のデジタル値の復元誤差が前記閾値を越えているか否かを判定する工程と、
を含む、前記異常検知方法。
【請求項2】
濃度測定に用いる複数の異なる周波数の光の合波光の異常を検知する異常検知方法に用いられる学習モデルの学習方法であって、
前記合波光の単一の正常なデジタル波形データから、第1所定時間範囲で第1データ群を取得し、前記第1データ群から複数の第2データ群を取得することにより、学習データ群を生成する工程と、
前記学習データ群をオートエンコーダに入力し、入力値と出力値が一致するようにニューラルネットワークの重みを調整する学習工程と、
を含む、前記学習方法。
【請求項3】
前記複数の第2データ群は、前記第1所定時間範囲より短い第2所定時間範囲の時系列データであって、データが重複する部分を含む、請求項2に記載の学習方法。
【請求項4】
其々が異なる波長の光を発する複数の光源と、
前記複数の光源が発する異なる複数の波長の前記光を合波する合波器と、
前記合波器により合波された光が通過する被測定流体を入れるための測定セルと、
前記測定セルを通過した透過光を検出するための透過光検出器と、
前記透過光検出器により検出されたアナログ検出信号をデジタル信号に変換する信号変換器と、
前記デジタル信号を周波数解析して求めた振幅スペクトルを用いて濃度を演算するように構成された濃度演算部と、
前記信号変換器によりデジタル変換されたデジタル波形データから所定時間範囲のデータ群を取得するように構成されたデータ取得部と、
正常な前記デジタル波形データを学習したオートエンコーダに検知対象の前記デジタル波形データから取得した検知データ群を入力し、復元された検知データ群の復元誤差が、前記正常なデジタル波形データの復元誤差の最大値を超えるか否かを判定するように構成された判定部と、
を備える、濃度測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸光度を利用してガス濃度を測定するための濃度測定装置であって、特に異常検知機能を備える濃度測定装置、濃度測定時の異常検知方法、及び、異常検知方法に用いる学習モデルの学習方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体製造装置に有機金属(MO)ガス等の原料ガスを供給するガス供給ラインに組み込まれ、ガス供給ラインを流れるガスの濃度を測定する濃度測定装置が知られている(特許文献1等)。
【0003】
この種の濃度測定装置は、光源からの所定波長の光を測定セルに入射し、測定セル内を通過する際にガスによる吸収を受けた光を透過光検出器で検出することにより吸光度を測定し、吸光度から濃度を求めている。
【0004】
半導体製造装置等では複数種のガスが供給されるが、ガス種によって光の波長に対する吸収の割合が異なる。そのため、複数の異なる波長の光(紫外光)を用いて吸光度が測定され得る。複数の異なる波長の光は、合波器で合波されてから測定セルに入射される。測定セルに入射した合波光は、測定セル内のガスによる吸収を受けた後、一つの透過光検出器で受光される。透過光検出器の検出信号は、増幅され、A/D変換されてから、高速フーリエ変換により周波数解析されて各周波数成分の振幅スペクトルに変換され、振幅スペクトルの振幅値が透過光の強度として出力される。吸収がある波長の振幅スペクトルの振幅は減少する。
【0005】
振幅スペクトルの振幅の変化から、ランベルト・ベールの法則に基づき、吸光度Aλを求める下記式(1)により、濃度Cが算出される。
【0006】
λ=log10(I/I)=αLC ・・・・(1)
ここで、Iは測定セルに入射する前記入射光の初期強度、Iは測定セルを通過した透過光の強度、αはモル吸光係数(m/mol)、Lは測定セルの光路長(m)、Cは濃度(mol/m)である。モル吸光係数αは物質によって決まる係数である。
【0007】
図1は、従来の濃度測定装置を示す機能ブロック図である。この濃度測定装置1Aは、複数の光源2、3と、光源2、3の其々に異なる波長の光を発光させるための発光回路4と、光源2、3の其々で発光した光を合波する合波器5と、合波器5で合波された光が入射される測定セル6と、測定セル6内を通過した光を検出する透過光検出器7と、透過光検出器7で検出した透過光の検出信号の増幅及び/又はオフセットの調整を行うための受光回路8と、受光回路8で増幅、オフセット調整されたアナログ信号をデジタル信号に変換する信号変換器9と、信号変換器9によりデジタル変換されたデジタル信号を収集し、演算処理する処理装置10Aと、を備えている。図示例の光源は2つであるが、必要に応じて3つ以上の光源が設けられる。
【0008】
光源2、3は、発光ダイオード等の発光素子で構成され、発光回路4は、複数の光源2,3の其々に異なる周波数の駆動電流を流すため、処理装置10Aからの指令信号に基づいて、駆動電流の電流値4a、周波数4b、電流オフセット4cを其々調節し、制御する機能を有する。
【0009】
測定セル6は、被測定ガスが流入出するガス入口6a及びガス出口6b、光入射窓6c、光出射窓6dを備えている。
【0010】
合波器5は、例えば特許文献1の図6と同様にハーフミラーを含み、2方向から入射する光を合波し、合波された光を2方向に出力する。合波器5から出力される2方向の光のうち一方の光は測定セル6に入射し、他方の光は測定セル6に入射せずに非入射光検出器11により参照光として検出される。合波された光を参照光として分岐する分岐器を合波器とは別体として設けることもある(特許文献1の図1)。非入射光検出器11の検出信号は、参照光として、透過光検出器7の検出信号の補正に用いられる(特許文献1)。前記補正は、下記式(2)に基づく演算処理により、なされ得る。
【0011】
cor=Icell×(Iref,0/Iref) ・・・(2)
上式(2)において、Icorは補正後の透過光の光強度、Icellは透過光検出器で検出された透過光の濃度測定時の強度、Iref,0は非入射光検出器で検出された非入射光の初期強度、Irefは非入射光検出器で検出された非入射光の濃度測定時の強度である。
【0012】
受光回路8は、固定増幅部8a、オフセット調整部8b、及び可変増幅部8cを含む。それらは、透過光及び参照光の検出信号のそれぞれを、固定増幅し、オフセットを調整し、且つ可変増幅する。オフセット調整部8bによるオフセット調整量(即ちオフセット電圧)、及び可変増幅部8cの増幅率は、処理装置10Aからの指令信号に基づいて決定される。
【0013】
信号変換器9は、受光回路8で調整された透過光及び参照光のアナログ検知信号を、デジタル信号に変換する。
【0014】
処理装置10Aは、信号変換器9からのデジタル信号を収集するデータ収集部10a、高速フーリエ変換による周波数解析する解析部10b、及び、周波数解析により得られた振幅スペクトルの振幅値を強度出力12として出力するスペクトル出力部10cを備えている。処理装置10Aは更に濃度演算部13を備え、濃度演算部13は、強度出力12を用いて、上記したランベルト・ベールの式に基づいて、被測定ガスGの濃度を演算する。処理装置10Aは、MPU(Micro Processor Unit)が用いられている。符号14は、クロック発生回路である。
【0015】
上記濃度測定装置においては、測定感度を高めるため、振幅スペクトルの出力、即ち強度出力ができるだけ大きくなるように、強度出力の目標値が設定される。その際、信号変換器9を構成するA/D変換器の定格を越えない範囲で、強度出力の目標値が設定される。そして、受光回路8では、強度出力が設定された目標値になるように、強度出力を確認しながら、受光回路8に入力されたアナログ信号の増幅及びオフセットのためのパラメータ(増幅率、オフセット電圧)が調整されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】国際公開第WO2017/029791号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、上記従来の濃度測定装置において、信号変換器を構成するA/D変換器の入力信号が定格の範囲内であって、且つ、デジタル変換したデジタル波形のデジタル値の最大値以下の範囲内であっても、デジタル波形のサチュレーションが不規則に発生することがあった。即ち、合波光のアナログ波形データがA/D変換器の定格の範囲内であっても、デジタル波形がランダムにサチュレーションを起こす場合があった。このような場合に、サチュレーションを検知しようとしても、発光回路の電流値等を調整するパラメータ次第で、どの辺りのデジタル値でサチュレーションが発生するか分からなかった。また、合波光のアナログ波形データがA/D変換器の定格の範囲内であっても、ランダムにサチュレーションを起こす場合、A/D変換器が出力するデジタル値が例えば0~65535digitsで変動するため、検知する基準値を固定値とすることができなかった。
【0018】
本発明は、上記異常を検知することができる濃度測定装置、異常検知方法、及び、異常検知方法に用いる学習モデルの学習方法を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記目的を達成するため、本発明の一態様に係る異常検知方法は、濃度測定に用いる複数の異なる周波数の光の合波光の異常を検知する異常検知方法であって、前記合波光の正常なデジタル波形データのデジタル値を復元するように調整された学習済みの学習モデルであるオートエンコーダの復元誤差の最大値を閾値として算出する工程と、検知対象となる合波光のデジタル波形データのデジタル値で構成される検知データ群を学習済みの前記オートエンコーダに入力し、前記オートエンコーダから出力された前記検知データ群のデジタル値の復元誤差が前記閾値を越えているか否かを判定する工程と、を含む。
【0020】
また、本発明の一態様に係る学習モデルの学習方法は、濃度測定に用いる複数の異なる周波数の光の合波光の異常を検知する異常検知方法に用いられる学習モデルの学習方法であって、前記合波光の単一の正常なデジタル波形データから、第1所定時間範囲で第1データ群を取得し、前記第1データ群から複数の第2データ群を取得することにより、学習データ群を生成する工程と、前記学習データ群をオートエンコーダに入力し、入力値と出力値が一致するようにニューラルネットワークの重みを調整する学習工程と、を含む。
【0021】
前記複数の第2データ群は、前記第1所定時間範囲より短い第2所定時間範囲の時系列データであって、データが重複する部分を含み得る。
【0022】
また、本発明の一態様に係る濃度測定装置は、其々が異なる波長の光を発する複数の光源と、前記複数の光源が発する異なる複数の波長の前記光を合波する合波器と、前記合波器により合波された光が通過する被測定流体を入れるための測定セルと、前記測定セルを通過した透過光を検出するための透過光検出器と、前記透過光検出器により検出されたアナログ検出信号をデジタル信号に変換する信号変換器と、前記デジタル信号を周波数解析して求めた振幅スペクトルを用いて濃度を演算するように構成された濃度演算部と、前記信号変換器によりデジタル変換されたデジタル波形データから所定時間範囲のデータ群を取得するように構成されたデータ取得部と、正常な前記デジタル波形データを学習したオートエンコーダに検知対象の前記デジタル波形データから取得した検知データ群を入力し、復元された検知データ群の復元誤差が、前記正常なデジタル波形データの復元誤差の最大値を超えるか否かを判定するように構成された判定部と、を備える。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、上記構成のオートエンコーダを用いた異常検知により、従来検知が困難であった上記のようなサチュレーションを検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】従来の濃度測定装置を示す機能ブロック図である。
図2】本発明に係る濃度測定装置の第1実施形態を示す機能ブロック図である。
図3】信号変換器から出力された合波光の正常なデジタル波形データから、所定時間範囲で取り出したデジタル波形の一例を示すグラフである。
図4図4のデジタル波形データから学習データを取り出す説明を付記したグラフである。
図5図4の波形データから、サンプリング番号1~32で得られたデジタル値の1組のデータの一例である。
図6】本発明の構成要素であるオートエンコーダのニューラルネットワークの一例を説明する説明図である。
図7図6の学習済みオートエンコーダに入力した学習データの入力波形と出力波形を重ねて表示したグラフである。
図8】一組の学習データの入力値、出力値、絶対誤差、及び平均絶対誤差を表わした表の一例である。
図9】信号変換器から出力された合波光の異常なデジタル波形データから、所定時間範囲で取り出したデジタル波形の一例を示すグラフである。
図10図9のデジタル波形データから取得したデータ群を学習済みオートエンコーダに入力し、出力した復元データの波形グラフの拡大図である。
図11図9の異常なデジタル波形データから得られた、学習済みオートエンコーダの入力値、出力値、絶対誤差、平均絶対誤差を表わした一組のデータの一例である。
図12】合波光のデジタルデータから異常を判定するアルゴリズムを示すフローチャートである。
図13】本発明に係る濃度測定装置の第2実施形態を示す機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明に係る濃度測定装置の実施形態について、以下に図2図13を参照して説明する。なお、従来技術と同一又は類似の構成要素に同符号を付している。
【0026】
図2を参照して、本発明の第1実施形態に係る濃度測定装置1は、其々が異なる波長の光を発する複数の光源2,3と、複数の光源2,3が発する異なる複数の波長の光を合波する合波器5と、合波器5により合波された光が通過する被測定ガスGを入れるための測定セル6と、測定セル6を通過した透過光を検出するための透過光検出器7と、透過光検出器7で検出した透過光の透過光信号の増幅及び/又はオフセットを調整するための受光回路8と、受光回路8で調整されたアナログ信号8sをデジタル信号9sに変換する信号変換器9と、信号変換器9によりデジタル変換されたデジタル信号を演算処理する処理装置10と、を備えている。
【0027】
光源2,3は、図示例では発光ダイオードが用いられるが、レーザーダイオード等の他の発光素子を用いることもできる。処理装置10からの指令信号に基づいて、発光回路4により、駆動電流の電流値4a、周波数4b、電流オフセット4cが其々調節され、制御される。光源2,3の波長は、図示例では紫外領域の波長が利用されるが、紫外領域以外の波長領域の光も利用可能である。
【0028】
合波器5は、ハーフミラー5aを含み、2方向から入射する光を合波し、合波された光を2方向に出力する。合波器5から出力される2方向の光のうち一方の光は測定セル6に入射し、他方の光は測定セル6に入射せずに非入射光検出器11により検出される。
【0029】
透過光検出器7及び非入射光検出器11は、図示例ではフォトダイオードが利用されているが、フォトトランジスター等の他の光センサーを用いることもできる。
【0030】
発光回路4及び受光回路8におけるオフセット調整は、オペレーションアンプのオフセット電圧の調整により行うことができる。受光回路8における可変増幅部8cは、オペレーションアンプに設けた可変抵抗を調整することにより増幅率の調整をすることができる。
【0031】
処理装置10は、図1と同様に、信号変換器9からのデジタル信号を収集するデータ収集部10a、高速フーリエ変換による周波数解析する解析部10b、周波数解析により得られた振幅スペクトルの振幅値を強度出力12として出力するスペクトル出力部10c、及び、デジタル信号9sを周波数解析して求めた振幅スペクトルを用いて被測定ガスGの濃度を演算する濃度演算部13を備える。濃度演算部13における濃度演算及び参照光を用いた濃度補正演算は、上記特許文献1等により公知であるので、詳細な説明を省略する。
【0032】
処理装置10は、MPU(Micro Processor Unit)により構成されている。データ収集部10aは、バッファメモリ等の記憶装置により構成され、信号変換器9からサンプリングされた合波光のデジタルデータを記録し得る。解析部10b、スペクトル出力部10c、濃度演算部13は、処理装置10に内蔵されるか外部接続された記憶装置に記憶されたプログラムにより構築され得る。処理装置10は、内蔵された記憶装置に記録されたプログラムに従い、信号変換器9から収集したデジタル信号を、高速フーリエ変換し、振幅値の強度を出力して、濃度を演算する。前記プログラムを記録した記録装置は処理装置10に外部接続されていてもよい。処理装置10は、MPUに限らず、マイクロコンピュータ、MCU(Micro Controller Unit)等の他のコンピュータシステムとしてもよい。
【0033】
処理装置10は、更に、信号変換器9によりデジタル変換されたデジタル波形データから所定時間範囲のデータ群を取得するデータ取得部15と、正常な前記デジタル波形データを用いて学習済みのオートエンコーダ16aに検知対象の前記デジタル波形データから取得した検知データ群を入力し、復元された検知データ群の復元誤差が、前記学習済みの正常なデジタル波形データの復元誤差の最大値を超えるか否かを判定する判定部16と、を備える。
【0034】
データ取得部15は、バッファメモリ等の記憶装置により構成され、データ収集部10aから所定時間範囲で抽出して取得した合波光のデジタル波形データの検知データ群を記録し得る。オートエンコーダ16aを含む判定部16の演算処理を実行する判定プログラムは、処理装置10に内蔵されるか外部接続された記憶装置に記憶され、処理装置10により実行される。
【0035】
次に、データ取得部15及び判定部16におけるプロセスの一例を説明する。
【0036】
図3は、信号変換器9から出力された合波光の正常なデジタル波形データから、所定時間範囲で取り出したデジタル波形の一例を示すグラフである。具体的には、データ収集部10aから時系列で取り出したデジタル波形データのグラフである。図3の横軸はサンプリング番号である。図3の縦軸は振幅のデジタル値(digits)である。図3のデジタル波形データのサンプリング番号は1~1024である。
【0037】
図4を参照して、サンプリングデータ1024個のデジタル波形データを、時系列で連続する32個のサンプリングデータで区切り、1点ずつ時間軸方向(サンプリング数が増加する方向)にスライドさせることで、993組(=1024-31)のデータ群が得られる。即ち、サンプリングデータ1024個を順にd(0)~d(1023)で表すとすると、d(0)~d(31)を1組とし、d(1)~d(32)を次の1組、d(2)~d(33)を次の1組、d(3)~d(34)を次の1組、というように、連続する32個のデータを1組として、933組のデータ群を作成する。サンプリングデータの個数は、適宜設定され得る。
【0038】
図5は、サンプリング番号1~32で得られたデジタル値の1組のデータの一例である。このような32点の時系列データからなる993組のデータ群を学習データ群として、機械学習モデルであるオートエンコーダ16aに入力し、オートエンコーダ16aの出力値が入力値と一致するように、オートエンコーダ16aにディープラーニングにより学習させる。
【0039】
図6は、オートエンコーダ16aのニューラルネットワークを説明する説明図である。オートエンコーダ(自己符号化)では、入力層に32個のノードがあり、1組32個のデジタル値(入力x)が其々入力される。オートエンコーダ16aの入力層には、993組のデータ群が学習データとして入力される。入力された993個のデータ群のデジタル値(入力x)は、圧縮され、復元されて出力層に出力される。出力層にも32のノードがある。オートエンコーダ16aは、入力xと出力yとが一致するように、両者を比較して復元誤差を求め、誤差逆伝播によりエンコーダとデコーダの2つのニューラルネットワークの重みwを調整する。図6に示した学習モデルにおける重みの意味は公知であり、重みをどのようにして決定するかに関しては公知の方法を用いることができる(例えば、特開2021-9441号公報参照)。
【0040】
図7は、学習済みオートエンコーダ16aに入力した学習データの入力波形と出力波形を重ねて表示したグラフである。学習済みオートエンコーダ16aにより復元された出力波形は、入力波形をほぼ復元できているが、図7の部分拡大図に示すように、完全な復元ではなく、僅かに誤差が生じている。この誤差は、オートエンコーダ16aによる復元時にノイズが除去されるために生じる。
【0041】
図8は、993組の学習データ群のうちの一組の学習データ(データ番号441~472)の入力値、出力値、絶対誤差、及び平均絶対誤差を表わした表の一例である。平均絶対誤差(MAE)は、出力層の評価関数または損失関数として用いられる関数であり、各データに対して予測値(出力値)と正解値の差(=誤差)の絶対値を計算し、その総和をデータ数で割った値(=平均値)を出力する関数である。
【0042】
本発明では、正解値=入力値であるから、オートエンコーダ16aへの入力値(in(i):i=1~32)と、その入力値によりオートエンコーダ16aから出力される出力値(out(i):i=1~32)との差(in(i)-out(i))の絶対値が、「絶対誤差」(Δ(i))である。この32個の絶対誤差の総計を、1組のデータ数32で割った値が、平均絶対誤差として図8に表示されている。
【0043】
この平均絶対誤差を上記した993組の全データで計算し、計算した993組の平均絶対誤差の中で最大値をとる平均絶対誤差を算出し、その平均絶対誤差の最大値を異常検知の閾値に設定する。例えば、図8に示した平均絶対誤差495.61が、993組の平均絶対誤差の中で最大値である場合には、495.61を閾値に設定する。
【0044】
図9は、信号変換器9から出力された合波光の異常なデジタル波形データから、所定時間範囲で取り出したデジタル波形の一例を示すグラフである。図9の縦軸と横軸は図3と同じである。図9の下部の6つの横長の楕円で囲んだ部分と、右端の縦長の楕円で囲んだ部分に異常がある。
【0045】
図9のデジタル波形データは、上記と同様に、サンプリング数1024点のデジタル波形データであり、これをサンプリング数32点で区切り、1点ずつ時間軸方向(サンプリング番号が増加する方向)にスライドさせることで、993組のデータ群が検知データ群の例として得られる。
【0046】
学習済みオートエンコーダ16aに、図9のデジタル波形データから取得した993組の上記データ群を入力し、出力した復元データの波形グラフの拡大図が図10に示されている。図10は、入力波形と出力波形を重ねて表示している。図10は、図9で示した異常個所が正確に復元できておらず、復元誤差が大きいことを示している。
【0047】
図11は、図9の異常なデジタル波形データから得られた、学習済みオートエンコーダの入力値、出力値、絶対誤差、平均絶対誤差を表わした一組のデータの一例である。図11において、平均絶対誤差が600.25と示されている。例えば上記閾値が495.61に設定されている場合、図11に示されている一組のデータの平均絶対誤差600.25は、閾値495.61を超えているため、異常と判定する。
【0048】
このようにして、データ取得部15において、合波光のデジタル波形データの検知データ群を取得し(S1)、判定部16において、学習済みのオートエンコーダ16aに検知データ群を入力し(S2)、出力値の復元誤差(平均絶対誤差)を計算し(S3)、出力値の復元誤差(平均絶対誤差)が閾値を越えているか否かを判定し(S4)、閾値を越えているデータ部分については異常と判断し、閾値を越えていないデータ部分については正常と判断することができる。
【0049】
図12は、ステップS1~S4のアルゴリズムを示すフローチャートである。処理装置10は、処理装置10に内蔵されるか外部接続された記憶装置に記憶されたプログラムに従い、ステップS1~S4の処理を実行する。ステップS4において復元誤差が閾値を越えた場合は、異常を知らせるアラーム等の警告を発するようにプログラムを構成することもできる。
【0050】
判定部16において異常と判定された場合は、発光回路4における駆動電流の電流値4a、周波数4b、電流オフセット4c、受光回路8におけるオフセット調整部8bによるオフセット電圧、及び可変増幅部8cの増幅率の何れか又は複数のパラメータが再調整される。
【0051】
上記実施形態では、閾値を定めるための復元誤差、及び閾値と比較する検知データ群の復元誤差として、平均絶対誤差を用いているが、それに限らず、平均平方二乗誤差(RMSE)、平均二乗誤差(MSE)、或いは、相対絶対誤差、相対二乗誤差を用いることもできる。
【0052】
図9の異常なデジタル波形は、信号変換器9を構成するA/D変換器の入力信号が定格(図示例では0~3.3V)の範囲内であって、且つ、デジタル変換したデジタル波形のデジタル値の最大値以下の範囲内(16bitで0~65535 digits)であっても、不規則に発生することがあった。即ち、合波光のアナログ波形データがA/D変換器の定格の範囲内であっても、ランダムにサチュレーションを起こす場合があった。このような場合に、サチュレーションを検知しようとしても、発光回路4の電流値4a等を調整するパラメータ次第で、どの辺りのデジタル値でサチュレーションが発生するか分からず、また、デジタル値が0~65535digitsで変動するため、検知する基準値を固定値とすることができなかった。オートエンコーダを用いた異常検知により、そのようなサチュレーションを検知することができる。
【0053】
上記したように、学習データ群は、単一の正常なデジタル波形データから取得することができるため、大量の学習データを収集する必要が無い。
【0054】
上記例のように、学習データ群は、単一の正常なデジタル波形データから、第1所定時間範囲(上記例ではサンプリング数1024)で第1データ群を取得し、第1データ群から複数の第2データ群を取得して得られる。検知データ群も同様に、デジタル波形データから、第1所定時間範囲(上記例ではサンプリング数1024)で第1データ群を取得し、第1データ群から複数の第2データ群を取得して得られる。データ取得部15は、データ収集部10aから時系列の第1データ群及び第2データ群を取得する。
【0055】
複数の第2データ群は、第1所定時間範囲より短い第2所定時間範囲(上記例ではサンプリング数32)の時系列データであって、データが重複する部分を含む。例えば、上記したサンプルデータの組「d(0)~d(31)」と「d(1)~d(32)」とは、d(1)~d(31)が重複する。
【0056】
上記実施形態では、複数の第2データ群は、重複するデータ部分を含んでいるが、重複しないようなデータ群とすることもできる。
【0057】
図13は、本発明の第2実施形態に係る濃度測定装置の機能ブロック図を示している。第2実施形態の濃度測定装置1は、合波された光を参照光として分岐する分岐器17を合波器5とは別体として備えている点が上記第1実施形態と相違し、その他の構成は上記第1実施形態と同様であるので、詳細な説明を省略する。
【0058】
本発明は、上記実施形態に限定解釈されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の変更が可能である。例えば、上記実施形態においては、2つの光源を備えているが、3以上の光源を備え、其々の光源が異なる波長の光は発する構成とすることもできる。また、参照光による補正処理を行わない構成とすることもできる。
【符号の説明】
【0059】
1 濃度測定装置
2、3 光源
4 発光回路
5 合波器
6 測定セル
7 透過光検出器
8 受光回路
9 信号変換器
10 処理装置
11 非入射光検出器
15 データ取得部
16 判定部
16a オートエンコーダ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図9
図10
図11
図12
図13