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特開2024-21544めっき皮膜、複合皮膜、摺動部品、めっき皮膜の製造方法、複合皮膜の製造方法、及び、摺動部品の製造方法
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  • 特開-めっき皮膜、複合皮膜、摺動部品、めっき皮膜の製造方法、複合皮膜の製造方法、及び、摺動部品の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024021544
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】めっき皮膜、複合皮膜、摺動部品、めっき皮膜の製造方法、複合皮膜の製造方法、及び、摺動部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 18/52 20060101AFI20240208BHJP
   C25D 15/02 20060101ALI20240208BHJP
   C23C 18/16 20060101ALI20240208BHJP
   C25D 7/00 20060101ALI20240208BHJP
   C25D 5/48 20060101ALI20240208BHJP
   C23C 28/00 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
C23C18/52 A
C25D15/02 F
C25D15/02 J
C23C18/16 Z
C25D7/00 C
C25D5/48
C23C28/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022124435
(22)【出願日】2022-08-04
(71)【出願人】
【識別番号】391028339
【氏名又は名称】日本カニゼン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】森田 顕
(72)【発明者】
【氏名】石井 均
【テーマコード(参考)】
4K022
4K024
4K044
【Fターム(参考)】
4K022AA02
4K022AA03
4K022AA04
4K022BA14
4K022BA16
4K022BA34
4K022DA04
4K022DB02
4K022EA04
4K024AA03
4K024AB01
4K024AB12
4K024BA02
4K024BA06
4K024BA09
4K024BA12
4K024BA15
4K024BB04
4K024BB05
4K024CA16
4K024GA03
4K044AA02
4K044AB02
4K044BA06
4K044BA21
4K044BB03
4K044BB11
4K044BC01
4K044CA15
4K044CA18
4K044CA53
(57)【要約】
【課題】めっき皮膜表面に結晶性リン酸塩を設けつつ、ニッケルまたはニッケル合金めっき皮膜による耐食性の向上を可能としためっき皮膜、複合皮膜、摺動部品、めっき皮膜の製造方法、複合皮膜の製造方法、及び、摺動部品の製造方法を提供する。
【解決手段】被めっき材11の表面または表面上に設けられためっき皮膜13であって、ニッケルまたはニッケル合金を含む析出金属14と、析出金属14中に分散した結晶性リン酸塩粒子15と、を備え、析出金属14中に分散した結晶性リン酸塩粒子15は、析出金属14の表面に一部を露出した粒子を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被めっき材の表面または表面上に設けられためっき皮膜であって、
ニッケルまたはニッケル合金を含む析出金属と、
前記析出金属中に分散した結晶性リン酸塩粒子と、を備え、
前記分散した結晶性リン酸塩粒子は、前記析出金属の表面に一部を露出した粒子を含む
めっき皮膜。
【請求項2】
請求項1に記載のめっき皮膜と、
前記めっき皮膜の表面または表面上に設けられた潤滑皮膜と、を備え、
前記潤滑皮膜は、脂肪酸塩を含む
複合皮膜。
【請求項3】
請求項2に記載の複合皮膜を備え、
前記複合皮膜の表面が摺動対象に摺接する面である
摺動部品。
【請求項4】
ニッケル成分が溶解し、かつ、結晶性リン酸塩粒子が分散しためっき液を用いて、無電解めっき法または電気めっき法によって、前記ニッケル成分に由来したニッケルまたはニッケル合金を含む析出金属を被めっき材の表面または表面上に析出させることで、前記析出金属の表面に前記結晶性リン酸塩粒子の一部を露出しためっき皮膜を形成する
めっき皮膜の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載のめっき皮膜の製造方法を用いて、被めっき材の表面または表面上に前記めっき皮膜を形成させた後、脂肪酸塩を含む潤滑皮膜を前記めっき皮膜の表面または表面上に形成する
複合皮膜の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の複合皮膜の製造方法を用いて、摺動部品となる被めっき材の表面または表面上に前記複合皮膜を形成する
摺動部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケルまたはニッケル合金を含むめっき皮膜、当該めっき皮膜を含む複合皮膜、当該複合皮膜を備える摺動部品、めっき皮膜の製造方法、複合皮膜の製造方法、及び、摺動部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
表面処理技術の分野におけるニッケルまたはニッケル合金めっきは、一例として、耐摩耗性や耐食性等の向上を目的として用いられる。ニッケルまたはニッケル合金めっきは、金属であるため、それ自身に摺動性は無いが、油や固体潤滑剤と組み合わせることで摺動性を発揮する。めっき皮膜の摺動性を向上させる技術の一例として、特許文献1には極性の強い添加剤を含んだ油中で用いられる低摩擦摺動部材であって、粒子または薄片状のY,SiO,Ta,CeO,MoOのうち少なくとも1種を容積比で合計5~40%含む複合分散ニッケルめっき層を表面に有することを特徴とする低摩擦摺動部材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-31234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術では、油中での摺動を前提にしているため、面圧が比較的低い環境では効果が発現するが、面圧の上昇とともにその効果は限定的となる。面圧が比較的高い場合には、化成処理(リン酸塩処理)によって素材の表面に形成したリン酸塩とともに油脂や脂肪酸塩を用いる技術が効果的である。しかし、リン酸塩処理の場合、処理対象となる素材は鉄系の材料に限定され、鉄系以外の材料に対しては一般的に適用されない。また、リン酸塩処理を施した表面は、ニッケルまたはニッケル合金めっきが施された表面と比較して防錆効果が低いため、耐食性の求められる部位には適用できない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するためのめっき皮膜は、被めっき材の表面または表面上に設けられためっき皮膜であって、ニッケルまたはニッケル合金を含む析出金属と、前記析出金属中に分散した結晶性リン酸塩粒子と、を備え、前記分散した結晶性リン酸塩粒子は、前記析出金属の表面に一部を露出した粒子を含む。上記構成によれば、めっき皮膜表面に結晶性リン酸塩を設けつつ、ニッケルまたはニッケル合金を含む析出金属による耐食性の向上効果を得ることができる。
【0006】
上記課題を解決するための複合皮膜は、前記めっき皮膜と、前記めっき皮膜の表面または表面上に設けられた潤滑皮膜と、を備え、前記潤滑皮膜は、脂肪酸塩を含む。上記構成によれば、めっき皮膜が含む結晶性リン酸塩粒子と、潤滑皮膜が含む脂肪酸塩との反応により金属石鹸が形成される。このような潤滑皮膜を備えた複合皮膜によれば、ニッケルまたはニッケル合金を含む析出金属による耐食性の向上効果と、潤滑皮膜による摺動性の向上効果とを両立できる。
【0007】
上記課題を解決するための摺動部品は、前記複合皮膜を備え、前記複合皮膜の表面が摺動対象に摺接する面である。上記構成によれば、結晶性リン酸塩粒子を備えるめっき皮膜と脂肪酸塩を含む潤滑皮膜とを備える複合皮膜を摺動部品の表面に備えることで、摺動部品の耐食性及び摺動性を向上できる。
【0008】
上記課題を解決するためのめっき皮膜の製造方法は、ニッケル成分が溶解し、かつ、結晶性リン酸塩粒子が分散しためっき液を用いて、無電解めっき法または電気めっき法によって、前記ニッケル成分に由来したニッケルまたはニッケル合金を含む析出金属を被めっき材の表面または表面上に析出させることで、前記析出金属の表面に前記結晶性リン酸塩粒子の一部を露出しためっき皮膜を形成する。上記製造方法によれば、ニッケルまたはニッケル合金を含むめっきを適用可能な素材に対して結晶性リン酸塩粒子を表面に含むめっき皮膜を設けることができる。したがって、素材表面にリン酸塩を形成する技術の一例である化成処理と比較して、より多くの種類の素材に対して本めっき皮膜を適用できる。
【0009】
上記課題を解決するための複合皮膜の製造方法は、前記めっき皮膜の製造方法を用いて、被めっき材の表面または表面上に前記めっき皮膜を形成させた後、脂肪酸塩を含む潤滑皮膜を前記めっき皮膜の表面または表面上に形成する。
【0010】
上記課題を解決するための摺動部品の製造方法は、前記複合皮膜の製造方法を用いて、摺動部品となる被めっき材の表面または表面上に前記複合皮膜を形成する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、めっき皮膜表面に結晶性リン酸塩を設けつつ、ニッケルまたはニッケル合金めっき皮膜によって耐食性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、摺動部品の断面構造を表す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態について図1を参照して説明する。
[摺動部品]
図1に示すように、摺動部品10は、例えば、自動車のエンジンまたはパワートレイン等を構成する部品である。具体的に、摺動部品10は、エンジンのピストンやシリンダ、軸受け、摺動軸としてのシャフト、ブランジャポンプ、ワッシャ等の各種工業製品を構成する部品である。
【0014】
摺動部品10は、平面状、曲面状、または球面状の平滑な表面を有した被めっき材11を備える。被めっき材11は、例えば、鉄鋼(合金鋼を含む)、銅合金、アルミニウム合金等の金属材料である。なお、被めっき材11は、金属材料に限定されず、ガラス、セラミックまたは樹脂等の非金属材料でもよい。
【0015】
被めっき材11の表面または表面上には、複合皮膜12が設けられる。複合皮膜12の表面は、任意の摺動対象に摺接する面である。複合皮膜12は、被めっき材11の表面または表面上に位置するめっき皮膜13と、めっき皮膜13の表面または表面上に位置する潤滑皮膜16とを備える。なお、「対象物の「表面」に皮膜が位置する」とは、対象物の表面と皮膜とが接するように配置されることを意味する。また、「対象物の「表面上」に皮膜が位置する」とは、対象物の表面と皮膜との間に任意の層(例えば、酸化被膜や下地めっき)が介在した状態で配置されることを意味する。すなわち、「対象物の「表面または表面上」に皮膜が位置する」とは、対象物の表面と皮膜とが接するように配置されてもよいし、対象物の表面と皮膜との間に任意の層が介在してもよいことを意味する。なお、図1には、被めっき材11の表面に複合皮膜12が設けられる例を示す。
【0016】
[めっき皮膜]
めっき皮膜13は、例えば、無電解めっき法または電気めっき法によって形成される層である。めっき皮膜13は、析出金属14と、析出金属14中に分散した結晶性リン酸塩粒子15とを備える。析出金属14は、ニッケルまたはニッケル合金を含む。結晶性リン酸塩粒子15は、析出金属14の内部及び表面に位置する。すなわち、析出金属14中に分散した結晶性リン酸塩粒子15は、析出金属14の表面に一部を露出した粒子を含む。ニッケルまたはニッケル合金を含む析出金属14は、複合皮膜12において、耐食性の向上や表面硬化などを担う。なお、析出金属14は、析出金属14の表面が酸化されることで生じる酸化被膜(ニッケル酸化物)を備えてもよい。この場合、めっき皮膜13の表面は、析出金属14が酸化した酸化被膜によって構成される。
【0017】
結晶性リン酸塩粒子15は、リン酸成分と金属成分とを含む。リン酸成分は、例えば、リンのオキソ酸であるオルトリン酸、亜リン酸、及び次亜リン酸、並びに、オルトリン酸の縮合体であるピロリン酸、及びトリポリリン酸からなる群から選択される少なくとも1種である。金属成分は、例えば、鉄、亜鉛、カルシウム、マグネシウム、バリウム、マンガン、チタン、及びアルミニウムからなる群から選択される少なくとも1種である。結晶性リン酸塩粒子15は、めっき液に不溶または難溶、かつ、めっき反応を阻害しないものが好ましく、例えば、リン酸亜鉛、リン酸亜鉛鉄、リン酸亜鉛カルシウム、リン酸マンガン、リン酸チタン、リン酸カルシウム、及び縮合リン酸アルミニウムからなる群から選択される少なくとも1種である。なお、結晶性リン酸塩粒子15は、無水物であってもよいし、水和物であってもよい。ここでの「めっき液に難溶」とは、めっき液に対する溶解度が0.05g/100g以上0.1g/100g以下であることを意味する。また、ここでの「めっき液に不溶」とは、めっき液に対する溶解度が0.05g/100g未満であることを意味する。
【0018】
めっき皮膜13の形成に用いられるめっき液は、析出金属14を構成するニッケル成分と、結晶性リン酸塩粒子15とを含む。めっき皮膜13を形成するめっき法は、析出金属14と結晶性リン酸塩粒子15との共析である。めっき皮膜13を形成する共析は、ニッケル成分に由来する析出金属14を被めっき材11の表面に析出させながら、結晶性リン酸塩粒子15を析出金属14の内部及び表面に取り込ませる。
【0019】
結晶性リン酸塩粒子15の形状は、粒子であれば特段限定されず、真球状、略球状、棒状、フレーク状、板状、鱗片状など、いずれの形状であってよく、またこれらの混合物であってよい。結晶性リン酸塩粒子15の粒子径は、めっき皮膜13の厚さの要求値に対して、50%粒子径(メジアン径D50)で20%以上200%以下とすることが好ましい。上記範囲の粒子径を有した結晶性リン酸塩粒子15を用いることで、析出金属14の析出に際して結晶性リン酸塩粒子15を好適に取り込ませることができ、かつ、析出金属14に埋没し析出金属14の表面に露出しない結晶性リン酸塩粒子15を低減できる。結晶性リン酸塩粒子15の粒子径(メジアン径D50)は、一例として、0.5μm以上10μm以下である。なお、めっき皮膜13のめっき厚は、例えば、3μm以上30μm以下であるが、3μm未満でもよいし、30μm超であってもよい。
【0020】
[潤滑皮膜]
潤滑皮膜16は、例えば、石鹸処理によって形成される層である。潤滑皮膜16は、アルカリ石鹸皮膜17と、金属石鹸18とを備える。アルカリ石鹸皮膜17は、複合皮膜12の最表面を構成する。金属石鹸18は、めっき皮膜13とアルカリ石鹸皮膜17との間に位置する。
【0021】
アルカリ石鹸皮膜17は、脂肪酸塩を含む。脂肪酸塩は、脂肪酸と、アルカリ金属との塩である。脂肪酸は、炭素数8以上22以下の飽和脂肪酸または不飽和脂肪酸が好ましい。脂肪酸は、例えば、オクチル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、リシノール酸、あるいは12-ヒドロキシステアリン酸等である。アルカリ金属は、例えば、ナトリウム、カリウム、あるいはリチウム等である。脂肪酸塩は、上記の脂肪酸とアルカリ金属との組み合わせからなる群から選択される少なくとも1種である。
【0022】
金属石鹸18は、めっき皮膜13の結晶性リン酸塩粒子15が含む金属成分と、アルカリ石鹸皮膜17の脂肪酸塩が含む脂肪酸との反応によって形成される。金属石鹸18は、例えば、オクチル酸アルミニウム、ラウリン酸カルシウム、ラウリン酸亜鉛、ラウリン酸バリウム、ミリスチン酸カルシウム、ミリスチン酸亜鉛、パルミチン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸アルミニウム、リシノール酸カルシウム、リシノール酸亜鉛、リシノール酸バリウム、12-ヒドロキシステアリン酸カルシウム、12-ヒドロキシステアリン酸亜鉛、12-ヒドロキシステアリン酸マグネシウム、12-ヒドロキシステアリン酸アルミニウム、及び12-ヒドロキシステアリン酸バリウムからなる群から選択される少なくとも1種である。
【0023】
なお、金属石鹸18は、めっき皮膜13とアルカリ石鹸皮膜17との間において、層状に形成されてもよく、析出金属14の表面に一部を露出した結晶性リン酸塩粒子15の周囲に分布するように部分的に位置してもよい。
【0024】
潤滑皮膜16は、潤滑剤として機能することで、摺動性を高めて耐摩耗性の向上に寄与する。すなわち、複合皮膜12は、ニッケルまたはニッケル合金を含む析出金属14による耐食性の向上効果と、潤滑皮膜16による摺動性の向上効果とを両立する。
【0025】
[摺動部品の製造方法]
複合皮膜12の製造方法として、まず、無電解めっき法または電気めっき法によって、被めっき材11の表面または表面上にめっき皮膜13を形成するめっき工程を行う。めっき工程では、めっき液に含まれるニッケル成分に由来した析出金属14が被めっき材11の表面または表面上に析出するとともに、析出した析出金属14の表面及び内部に結晶性リン酸塩粒子15が取り込まれて共析する。なお、めっき処理に先立って、必須ではないが、被めっき材に付着した油分、汚れを取り除くために、アルカリ脱脂、酸性脱脂、電解脱脂、酸洗、溶剤洗浄、脱イオン水洗などを適宜組み合わせて行うことが好ましい。また、超音波照射、揺動などの物理的操作を行っても良い。被めっき材11に対する前洗浄後には、被めっき材11の表面に洗浄液が残留しないように水洗することが好ましい。また、めっき処理後には、めっき皮膜13の表面に処理液が残留しないように水洗し乾燥してもよく、水洗後は乾燥しなくてもよい。以下、めっき工程における無電解めっきまたは電気めっきの各々で用いるめっき液について説明する。
【0026】
[無電解めっき]
無電解めっき法の場合に用いるめっき液は、結晶性リン酸塩粒子15、ニッケル成分、還元剤、錯化剤、及びpH調整剤を含む。結晶性リン酸塩粒子15の添加量は、例えば、100mg/L以上20000mg/L以下、好ましくは500mg/L以上10000mg/L以下、より好ましくは1000mg/L以上5000mg/L以下である。なお、結晶性リン酸塩粒子15は、めっき液に溶解せずに分散した状態で存在する。
【0027】
ニッケル成分は、めっき液に可溶な水溶性ニッケル化合物が使用される。水溶性ニッケル化合物は、例えば、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、スルファミン酸ニッケル、及び次亜リン酸ニッケルからなる群から選択される少なくとも1種である。特に、めっき液への溶解性が良好である点で硫酸ニッケルが好ましい。ニッケル成分の濃度は、例えば、0.5g/L以上50g/L以下である。
【0028】
還元剤は、例えば、次亜リン酸、次亜リン酸塩(ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩)、ジメチルアミンボラン、及びヒドラジンからなる群から選択される少なくとも1種である。還元剤の濃度は、例えば、0.01g/L以上100g/L以下である。
【0029】
錯化剤は、例えば、モノカルボン酸、ジカルボン酸、ヒドロキシカルボン酸、アミノポリカルボン酸、エチレンジアミンジ酢酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、及びこれらのアンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩からなる群から選択される少なくとも1種である。モノカルボン酸は、例えば、酢酸、あるいは蟻酸である。ジカルボン酸は、例えば、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、マレイン酸、あるいはフマール酸である。ヒドロキシカルボン酸は、例えば、リンゴ酸、乳酸、グリコール酸、グルコン酸、あるいはクエン酸である。アミノポリカルボン酸は、例えば、エチレンジアミンテトラ酢酸、あるいはジエチレントリアミンペンタ酢酸である。他にも、ホスホン酸類、あるいはアミノ酸類等を錯化剤として用いてもよい。錯化剤の濃度は、例えば、5g/L以上180g/L以下である。
【0030】
pH調整剤は、例えば、硫酸、リン酸等の無機酸、水酸化ナトリウム、及びアンモニア水からなる群から選択される少なくとも1種である。無電解めっき法におけるめっき液のpH範囲は、例えば、3.0以上12.0以下、より好ましくは4.0以上9.0以下である。無電解めっき法におけるめっき液のpHは、一例として、4.3以上6.3以下である。
【0031】
また、めっき液には、各種の添加剤を添加してもよい。添加剤の一例である安定剤は、例えば、硝酸鉛及び酢酸鉛等の鉛塩、硝酸ビスマス及び酢酸ビスマス等のビスマス塩、チオジグリコール酸及びチオ硫酸ナトリウム等の硫黄化合物からなる群から選択される少なくとも1種である。安定剤の添加量は、例えば、0.01mg/L以上100mg/L以下である。添加剤の一例であるpH緩衝剤は、例えば、ホウ酸、リン酸、亜リン酸、炭酸、これらのナトリウム塩、カリウム塩、及びアンモニウム塩からなる群から選択される少なくとも1種である。緩衝剤の添加量は、例えば、0.1g/L以上200g/L以下である。添加剤の一例である界面活性剤は、例えば、ノニオン性、カチオン性、アニオン性、両性の何れかを有した少なくとも1種が選択される。界面活性剤の添加量は、例えば、0.1mg/L以上100mg/L以下である。
【0032】
[電気めっき]
電気めっき法の場合では、ワット浴、スルファミン酸ニッケル浴等のめっき液が用いられる。これらのめっき液では、結晶性リン酸塩粒子15の他、ニッケル成分を含む。結晶性リン酸塩粒子15の添加量は、電気めっき法であっても無電解めっき法場合と同様の数値範囲を適用できる。なお、結晶性リン酸塩粒子15は、めっき液に溶解せずめっき液中に分散した状態で存在する。
【0033】
ワット浴の場合、ニッケル成分は、例えば、水溶性ニッケル化合物である硫酸ニッケル六水和物、塩化ニッケル六水和物、炭酸ニッケル四水和物からなる群から選択される少なくとも1種である。水溶性ニッケル化合物の中でも、被めっき材11への析出性に優れる点で、硫酸ニッケル六水和物または塩化ニッケル六水和物が好ましく、硫酸ニッケル六水和物と塩化ニッケル六水和物との混合物がより好ましい。ニッケル成分として硫酸ニッケル六水和物及び塩化ニッケル六水和物を混合して用いる場合、硫酸ニッケル六水和物の添加量が200g/L以上500g/L以下、かつ塩化ニッケル六水和物の添加量が70g/L以下であることが好ましい。
【0034】
スルファミン酸ニッケル浴の場合、ニッケル成分は、例えば、水溶性ニッケル化合物であるスルファミン酸ニッケル、塩化ニッケル六水和物、または、これらを混合した混合物である。また、電気めっき法の場合におけるめっき液のpHは、ワット浴及びスルファミン酸ニッケル浴の何れの場合でも3.5以上5.0以下を適用できる。
【0035】
また、めっき液には、各種の一次光沢剤及び二次光沢剤を添加してもよい。一次光沢剤は、例えば、サッカリン、ナフタレンスルホン酸ナトリウム等のベンゼン、ナフタレン等の誘導体、スルホン酸塩、及びスルホンアミドからなる群から選択される少なくとも1種である。二次光沢剤は、ブチンジオール、プロパルギルアルコール、及びクマリンからなる群から選択される少なくとも1種である。
【0036】
[結晶性リン酸塩粒子の共析量の制御方法]
ここで、めっき工程における結晶性リン酸塩粒子15のめっき皮膜13への共析量の制御方法について説明する。結晶性リン酸塩粒子15の共析量は、めっき液の液面に対する被めっき材11の表面の角度に応じて変化する。被めっき材11の表面が上方を向いた状態、かつ、めっき液の液面と平行な状態を0度、めっき液の液面と被めっき材11の表面とが垂直な状態を90度とすると、0度から90度に近づくほど結晶性リン酸塩粒子15の共析量が減少する。
【0037】
なお、めっき液の液面と被めっき材11の表面とが平行な場合では、結晶性リン酸塩粒子15等の沈殿が生じる可能性があるため、めっき液の液面に対する被めっき材11の表面の角度は、少なくとも0度以上が好ましい。また、めっき液の液面に対する被めっき材11の角度が90度超の場合は、めっき皮膜13中に結晶性リン酸塩粒子15が共析しない可能性があるため、めっき液の液面に対する被めっき材11の角度は、90度以下が好ましい。具体的に、めっき液の液面に対する被めっき材11の角度は、15度以上80度以下が好ましい。
【0038】
めっき皮膜13の表面において、析出金属14の面積と結晶性リン酸塩粒子15の面積との総和に対する結晶性リン酸塩粒子15の面積の比率は、2%以上50%以下が好ましく、4%以上42%以下であればより好ましい。結晶性リン酸塩粒子15の面積比率が上記範囲内であれば、析出金属14による耐食性の向上効果及び硬さの向上効果と、結晶性リン酸塩粒子15が脂肪酸と反応することで生じる金属石鹸18による摺動性の向上効果とを好適に発現させることができる。
【0039】
なお、めっき皮膜13の表面における結晶性リン酸塩粒子15の面積比率は、例えば、めっき皮膜13の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で撮像した際のSEM画像(反射電子像)から求めることができる。また、反射電子像ではなくEDSにより結晶性リン酸塩粒子15固有の元素を検出することによっても、めっき皮膜13の表面における結晶性リン酸塩粒子15の面積比率を求めることができる。
【0040】
[石鹸処理]
めっき工程が完了した後、被めっき材11の表面または表面上に形成されためっき皮膜13に潤滑皮膜16を形成する石鹸処理工程を行う。具体的に、水(例えばイオン交換水)または有機溶剤からなる溶媒に脂肪酸塩を溶解させた水溶液を、刷毛塗り、浸漬、スプレー等の方法でめっき皮膜13の表面に付着させる。このとき、水溶液中の脂肪酸がめっき皮膜13の表面に露出した結晶性リン酸塩粒子15と反応することで、めっき皮膜13の表面を覆うように金属石鹸18が形成される。その後、溶媒を蒸発させることでめっき皮膜13とアルカリ石鹸皮膜17との境界に金属石鹸18が形成された潤滑皮膜16が形成される。
【0041】
なお、石鹸処理工程で用いる水溶液の濃度は、一例として、10g/L以上200g/L以下であるが、使用する脂肪酸塩の種類や反応時間や温度等の諸条件に合わせて決めればよい。石鹸処理工程で用いる水溶液の温度は、反応速度を高める観点から、一例として、60度以上90度以下が好ましい。反応時間は、一例として、1分以上30分以下であるが、潤滑皮膜16の厚さの要求値などに応じて適宜決定すればよい。溶媒を蒸発させる方法としては特に制限されないが、例えば、自然乾燥、減圧乾燥、対流型熱乾燥(例えば、自然対流型熱乾燥、強制対流型熱乾燥)、輻射型乾燥(例えば、近赤外線乾燥、遠赤外線乾燥)等が挙げられる。また、これら複数を組み合わせてもよい。以上の手順によって、被めっき材11上に複合皮膜12が形成されることで、摺動部品10が製造される。
【0042】
[実施形態の効果]
上記実施形態によれば、以下に列挙する効果を得ることができる。
(1)めっき皮膜13の構成によれば、めっき皮膜13の表面に結晶性リン酸塩粒子15を設けつつ、ニッケルまたはニッケル合金を含む析出金属14による耐食性の向上効果や、硬さの向上効果を得ることができる。
【0043】
(2)リン酸塩を素材表面に形成するための技術の一例である化成処理(リン酸塩処理)は、適用対象が主として鉄系の材料に限定される。この点、析出金属14の表面に結晶性リン酸塩粒子15の一部を露出しためっき皮膜13であれば、ニッケルまたはニッケル合金を含むめっきを適用可能な素材に対して適用できる。したがって、化成処理と比較して、より多くの種類の素材に対してめっき皮膜13を適用できる。
【0044】
(3)析出金属14の表面に結晶性リン酸塩粒子15の一部を露出しためっき皮膜13の表面または表面上に、脂肪酸塩を含む潤滑皮膜16を形成することで、結晶性リン酸塩粒子15と脂肪酸塩との反応によりめっき皮膜13とアルカリ石鹸皮膜17との間に金属石鹸18が形成される。このような潤滑皮膜16を備えた複合皮膜12によれば、ニッケルまたはニッケル合金を含む析出金属14による耐食性の向上効果と、潤滑皮膜16による摺動性の向上効果とを両立できる。
【0045】
(4)結晶性リン酸塩粒子15を表面に含むめっき皮膜13と、脂肪酸塩を含む潤滑皮膜16とを備える複合皮膜12を摺動部品10の表面に形成することで、摺動部品10の耐食性及び摺動性を向上できる。
【0046】
(5)めっき皮膜13の表面における結晶性リン酸塩粒子15の面積比率を2%以上50%以下とすることで、析出金属14による耐食性の向上効果及び硬さの向上効果と、金属石鹸18による摺動性の向上効果とを好適に発現させることができる。
【0047】
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。
・潤滑皮膜16は、摺動部品10の用途に応じて任意の材質に変更できる。例えば、脂肪酸塩を含む潤滑皮膜16に代えて、層状格子構造物を含む固体潤滑剤からなる層を設けてもよい。層状格子構造物は、例えば、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、グラファイト、窒化ホウ素、雲母等である。なお、この場合、金属石鹸18を形成するような反応は生じない。
【0048】
・めっき皮膜13は、潤滑皮膜16を割愛して摺動部品10以外の用途に適用してもよい。例えば、潤滑皮膜16に代えて、めっき皮膜13の表面または表面上に各種の塗装皮膜を設けてもよい。この場合、めっき皮膜13は、塗装皮膜の下地として機能する。
【0049】
・めっき皮膜13の機械的強度や耐食性が十分であれば、めっき皮膜13の表面における結晶性リン酸塩粒子15の面積比率は、2%以上50%以下に限定されず、例えば、50%超でもよい。
【0050】
・被めっき材11とめっき皮膜13との間に各種の下地めっき皮膜を設けてもよい。言い換えれば、被めっき材11は、めっき皮膜13の下地となる下地めっき皮膜を備えてもよい。この場合、被めっき材11の表面は、下地めっき皮膜によって構成される。例えば、結晶性リン酸塩粒子15の粒子径に対して十分厚いニッケルまたはニッケル合金めっき皮膜が求められる場合、結晶性リン酸塩粒子15を含まず、かつ、ニッケルまたはニッケル合金を含む下地めっき皮膜を設けてもよい。この場合、めっき皮膜13の機械的強度や耐食性をさらに向上させることができる。なお、下地めっき皮膜は、析出金属14と同種のめっき皮膜でなくてもよい。
【0051】
[実施例]
以下、実施例1~7及び比較例1~4について説明する。なお、各実施例及び各比較例は上記の実施形態を限定するものではない。
【0052】
[基材及びめっき前処理]
実施例1~7及び比較例1~4では、基材として50mm×50mm×t3.0mmの冷間圧延鋼板SPCC-SB(株式会社パルテック製)を用いた。また、めっき処理の前工程として、アルカリ脱脂、脱イオン水洗、電解脱脂、脱イオン水洗、酸洗(17%塩酸)、脱イオン水洗の順に基材の表面清浄化を行った。
【0053】
[実施例1]
スターラーで撹拌した状態の無電解めっき液に基材を浸漬させることで、90℃にて膜厚が約5μmになるまで無電解めっきした。このとき、めっき液の液面に対する被めっき材の表面の角度を45度とした。その後、めっき処理後の試料を水洗、乾燥して第1の試験片と第2の試験片とを作製した。めっき液として、中高リン型無電解ニッケルめっき液「SE-666」(日本カニゼン社製)に、4.0g/Lのリン酸マンガン粒子「PL-55A」(日本パーカライジング社製)を添加したものを用いた。
【0054】
そして、第2の試験片に対してパルーブ235(日本パーカライジング社製)を用いて石鹸処理を施した。パルーブ235は、脂肪酸塩の一例であるステアリン酸ナトリウムを主体とする石鹸処理剤である。石鹸処理の処理条件は、70g/Lのパルーブ235を添加した80℃の水溶液に試験片を2分間浸漬させた後、自然乾燥させた。
【0055】
[実施例2]
4.0g/Lのリン酸マンガン粒子に代えて、2.0g/Lのリン酸マンガン粒子を添加した点を除き、実施例1と同様に無電解めっきした。その後、めっき処理後の試料を水洗、乾燥して第1の試験片と第2の試験片とを作製した。そして、実施例1と同様に第2の試験片に対して石鹸処理を施した。
【0056】
[実施例3]
4.0g/Lのリン酸マンガン粒子に代えて、2.5g/Lのリン酸チタン粒子(フジミインコーポレーテッド社製)を添加した点を除き、実施例1と同様に無電解めっきした。その後、めっき処理後の試料を水洗、乾燥して第1の試験片と第2の試験片とを作製した。そして、実施例1と同様に第2の試験片に対して石鹸処理を施した。
【0057】
[実施例4]
4.0g/Lのリン酸マンガン粒子に代えて、1.5g/Lの縮合リン酸アルミニウム粒子「K-WHITE#84」(テイカ社製)を添加した点を除き、実施例1と同様に無電解めっきした。その後、めっき処理後の試料を水洗、乾燥して第1の試験片と第2の試験片とを作製した。そして、実施例1と同様に第2の試験片に対して石鹸処理を施した。
【0058】
[実施例5]
0.5g/Lのリン酸マンガン粒子「PL-55A」(日本パーカライジング社製)を添加したワット浴を用意した。そして、ワット浴をスターラーで攪拌しながら基材を浸漬した。ワット浴は、280g/Lの硫酸ニッケル、40g/Lの塩化ニッケル、及び、20g/Lのホウ酸を含み、pHを4.5とした。この状態で、50℃にて電流密度が2A/dmである直流電解で膜厚が約5μmになるまで電気めっきした。このとき、めっき液の液面に対する被めっき材の表面の角度を45度とした。その後、めっき処理後の試料を水洗、乾燥して第1の試験片と第2の試験片とを作製した。そして、実施例1と同様に第2の試験片に対して石鹸処理を施した。
【0059】
[実施例6]
0.5g/Lのリン酸マンガン粒子に代えて、1.0g/Lのリン酸亜鉛四水和物(富士フィルム和光純薬社製、化学用)を添加した点を除き、実施例5と同様に電気めっきした。その後、めっき処理後の試料を水洗、乾燥して第1の試験片と第2の試験片とを作製した。そして、実施例1と同様に第2の試験片に対して石鹸処理を施した。
【0060】
[実施例7]
0.5g/Lのリン酸マンガン粒子に代えて、3.0g/Lのリン酸三カルシウム(富士フィルム和光純薬社製、化学用)を添加した点を除き、実施例5と同様に電気めっきした。その後、めっき処理後の試料を水洗、乾燥して第1の試験片と第2の試験片とを作製した。そして、実施例1と同様に第2の試験片に対して石鹸処理を施した。
【0061】
[比較例1]
めっき液に分散粒子を添加しなかった点を除き、実施例1と同様に無電解めっきした。その後、めっき処理後の試料を水洗、乾燥して第1の試験片と第2の試験片とを作製した。そして、実施例1と同様に第2の試験片に対して石鹸処理を施した。
【0062】
[比較例2]
ワット浴に分散粒子を添加しなかった点を除き、実施例5と同様に無電解めっきした後、めっき処理後の試料を水洗、乾燥して第1の試験片と第2の試験片とを作製した。そして、実施例1と同様に第2の試験片に対して石鹸処理を施した。
【0063】
[比較例3]
4.0g/Lのリン酸マンガン粒子に代えて、2.0g/Lの酸化イットリウム粒子(富士フィルム和光純薬社製、99.99%)を添加した点を除き、実施例1と同様に無電解めっきした。その後、めっき処理後の試料を水洗、乾燥して第1の試験片と第2の試験片とを作製した。そして、実施例1と同様に第2の試験片に対して石鹸処理を施した。
【0064】
[比較例4]
基材に対して化成処理(リン酸塩処理)を行うことで基材表面にリン酸塩を析出させた。なお、化成処理の前工程として、アルカリ脱脂、脱イオン水洗、表面調整剤「プレパレン55」(日本パーカライジング社製、0.2%水溶液)を用いて表面調整を行った。前工程後の化成処理では、処理液としてリン酸マンガンを含む「パルホスM1A」(日本パーカライジング社製、14%水溶液)を用いた。化成処理では、98℃にて10分間、基材を処理液に浸漬処理することにより、基材にリン酸マンガン皮膜を析出させて第1の試験片と第2の試験片とを作製した。このときのリン酸マンガン皮膜の皮膜重量は、6.4g/mであった。そして、実施例1と同様に第2の試験片に対して石鹸処理を施した。
【0065】
[結晶性リン酸塩粒子の面積比率測定]
実施例1~7及び比較例1~4における第1の試験片について、めっき処理または化成処理された基材表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で取得したSEM画像を観察した。実施例1~7では、取得したSEM画像からめっき皮膜13の表面において析出金属14の面積と結晶性リン酸塩粒子15の面積との総和に対する結晶性リン酸塩粒子15の面積の比率を測定した。比較例3では、取得したSEM画像からめっき皮膜13の表面において析出金属14の面積と酸化イットリウム粒子の面積との総和に対する酸化イットリウム粒子の面積の比率を測定した。比較例4では、基材表面においてリン酸マンガン皮膜が占める面積の比率を測定した。各サンプルの面積比率の測定結果を表1に示す。
【0066】
[耐食性評価]
実施例1~7及び比較例1,2,4について、第1の試験片の表面にカッターナイフで疵をつけた状態で、塩水噴霧試験(JIS Z2371)を3時間行った後、基材の材料である鉄の赤錆の発錆度合いに基づいて耐食性を評価した。疵部及び疵部以外の部分の全面に錆が確認されたものを不良(×)とした。疵部からの発錆と、疵部以外の部分からの部分的な発錆が確認されたものを並(△)とした。疵部のみから発錆が確認されたものを良(〇)とした。疵部のみからのわずかな発錆が確認されたものを最良(◎)とした。耐食性の評価結果を表1に示す。
【0067】
[摺動性評価]
実施例1~7及び比較例1~4について、第2の試験片に対してボールオンディスク法により摺動性を評価した。ボールオンディスク法による摩擦試験の試験条件としては、直径10mmのSUJ2C製の球体を、荷重19.6N、摺動円直径10mm、回転速度300rpmにて試験片上で回転させた状態で回転時の摩擦力を測定した。評価方法としては、摩擦力から換算される摩擦係数μが0.1を超えるまでの時間に基づいて摺動性を評価した。摩擦係数μが0.1を超えるまでの時間が2000秒未満のものを不良(×)、2000秒以上4000秒未満のものを並(△)、4000秒以上6000秒未満のものを良(〇)、6000秒以上のものを最良(◎)とした。摺動性の評価結果を表1に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
表1に示すように、実施例1~7では、めっき皮膜13の表面における結晶性リン酸塩粒子15の面積比率が4%以上42%以下であった。比較例1,2では、めっき皮膜13中に分散粒子が存在していないため0%とした。比較例3では、めっき皮膜13の表面における酸化イットリウム粒子の面積比率が20%程度であった。比較例4では、基材の全面にリン酸マンガン皮膜が析出していたため、粒子状ではないものの評価結果を100%とした。
【0070】
耐食性評価において、実施例1~7及び比較例1,2では、疵部のみからの発錆が確認された。これに対して、比較例4では、基材表面の全面から発錆が確認された。したがって、めっき皮膜13の表面に結晶性リン酸塩粒子15が存在する場合でも、めっき皮膜13におけるニッケルまたはニッケル合金からなる析出金属14の防錆効果によって、耐食性が向上することが確認された。
【0071】
摺動性評価において、実施例1~7及び比較例4では、比較例1~3と比較して優れた摺動性が確認された。したがって、石鹸処理に伴ってめっき皮膜13の表面に存在する結晶性リン酸塩粒子15が反応して金属石鹸18を形成することで、摺動性の向上に寄与することが確認された。以上より、析出金属14に結晶性リン酸塩粒子15が分散しためっき皮膜13に石鹸処理を施すことで、析出金属14の防錆効果と、金属石鹸18による摺動性の向上効果とを両立できることが確認された。
【符号の説明】
【0072】
10…摺動部品
11…被めっき材
12…複合皮膜
13…めっき皮膜
14…析出金属
15…結晶性リン酸塩粒子
16…潤滑皮膜
17…アルカリ石鹸皮膜
18…金属石鹸
図1