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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024021572
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】蓄冷材組成物及び蓄冷体
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/06 20060101AFI20240208BHJP
【FI】
C09K5/06 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022124487
(22)【出願日】2022-08-04
(71)【出願人】
【識別番号】591089855
【氏名又は名称】三和油化工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000119232
【氏名又は名称】株式会社イノアックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100078190
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 三千雄
(74)【代理人】
【識別番号】100115174
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 正博
(72)【発明者】
【氏名】山口 拓
(72)【発明者】
【氏名】海山 千里
(72)【発明者】
【氏名】葛谷 拓嗣
(72)【発明者】
【氏名】米永 伸之
(57)【要約】
【課題】保冷対象である物品を、2~5℃程度の温度にて保冷する際に有利に用いられる蓄冷材組成物を提供すること。
【解決手段】基材としてのラウリン酸メチル及び/又はn-テトラデカンと共に、融点降下剤として、好ましくはフェノール類、アミン類、脂肪酸エステル類及び炭化水素類からなる群より選ばれる一種又は二種以上のものとを含み、融点が2.0~5.0℃となるように蓄冷材組成物を構成する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材としてのラウリン酸メチル及び/又はn-テトラデカンと、融点降下剤とを含み、融点が2.0~5.0℃であることを特徴とする蓄冷材組成物。
【請求項2】
前記融点降下剤が、フェノール類、アミン類、脂肪酸エステル類及び炭化水素類からなる群より選ばれる一種又は二種以上のものである請求項1に記載の蓄冷材組成物。
【請求項3】
前記基材と前記融点降下剤との配合割合が、質量比において基材:融点降下剤=70:30~97:3である請求項1又は請求項2に記載の蓄冷材組成物。
【請求項4】
熱可塑性エラストマーを更に含有する請求項1に記載の蓄冷材組成物。
【請求項5】
前記基材が少なくともラウリン酸メチルを含むものであり、熱可塑性エラストマー及び脂肪酸系ゲル化剤を更に含有する請求項1に記載の蓄冷材組成物。
【請求項6】
前記熱可塑性エラストマーが、スチレン系エラストマー、塩化ビニル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、エステル系エラストマー及びアミド系エラストマーからなる群より選ばれる一種又は二種以上のものである請求項4又は請求項5に記載の蓄冷材組成物。
【請求項7】
前記脂肪酸ゲル化剤が12-ヒドロキシステアリン酸である請求項5に記載の蓄冷材組成物。
【請求項8】
請求項1又は請求項2に記載の蓄冷材組成物を容器に収容せしめてなる蓄冷体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄冷材組成物及び蓄冷体に係り、特に、物品を2~5℃程度の温度にて保冷する際に有利に用いられる蓄冷材組成物、並びにそれを用いた蓄冷体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、潜熱を利用した蓄冷材組成物や蓄熱材組成物としては、様々なものが知られており、それら蓄冷材組成物や蓄熱材組成物は、保温(保冷)が必要な物品の保管や運搬等に際して、かかる物品を保温(保冷)するために用いられている。具体的に、保温(保冷)対象たる物品を所定の温度(保温温度)にて長時間、保持するに際しては、従来より公知の各種の蓄冷材組成物の中から、融点が保温温度と同一又は近似の温度を有するものが適宜に選択され、使用されている。
【0003】
より具体的に、物品を0℃以下の温度にて保温(保冷)する際に用いられる蓄冷材組成物としては、一種又は二種以上の所定の無機塩を含む無機塩水溶液が広く知られている。例えば、特許文献1(特開2002-371269号公報)においては、水溶性の一価塩もしくは二価塩において、陰イオンは同一であって、対応する陽イオンが異なる塩の組み合わせからなる蓄冷剤として、塩化ナトリウム17%と塩化アンモニウム5%からなる水溶液にて構成され、融解温度が-25℃の混合保冷剤が開示されている(同文献の実施例1)。また、特許文献2(国際公開第2016/204284号)には、水との共晶点が-75℃~-40℃である金属塩(A)1~10mol%、及び水との共晶点が-30℃以上である無機塩(B)0.5~5mol%、を含む水溶液からなり、-75℃~-40℃の範囲内に融解開始温度を有することを特徴とする蓄冷材組成物として、塩化カルシウムの濃度が3.8mol%であり、且つ塩化ナトリウムの濃度が1.9mol%である水溶液からなり、融解開始温度が-49.0℃である蓄冷材組成物が開示されている(同文献の実施例1)。
【0004】
その一方、0℃を超える温度において物品を保温する際に用いられる蓄熱材組成物としては、n-パラフィンを用いた各種の蓄熱材組成物が、従来より提案されている。例えば、特許文献3(特開平3-66788号公報)においては、パラフィン類及び熱可塑性エラストマーを主成分として成ることを特徴とする蓄熱材が提案されており、また、特許文献4(特開2018-154796号公報)においては、炭素数12以上、50以下のn-パラフィンと、熱可塑性エラストマーとを含む蓄熱材組成物であって、かかる熱可塑性エラストマーがスチレン-(エチレン-スチレン-ブチレン)-スチレンブロック共重合体を含むものであることを特徴とするものが、提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002-371269号公報
【特許文献2】国際公開第2016/204284号
【特許文献3】特開平3-66788号公報
【特許文献4】特開2018-154796号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、医薬品や食品等の中には、2~5℃程度の温度にて保冷することが求められるものがある。かかる温度範囲内に融点を有するパラフィン類は存在しないことから、そのような医薬品等を2~5℃程度に保冷した状態で搬送する場合には、例えば、可撓性を有する一のケース内に無機塩水溶液を封入せしめてなる蓄冷体と、他の一のケース内にn-テトラデカン(融点:約6℃)を主成分とする組成物を封入してせしめてなる蓄熱体とを、搬送容器内において組み合わせて用いることが考えられる。しかしながら、そのような2種類の蓄冷材・蓄熱材の併用は、外気温等の使用環境に影響を受けやすく、安定した保管温度を維持し難いという問題がある。
【0007】
ここにおいて、本発明は、かかる事情を背景にして為されたものであって、その解決すべき課題とするところは、物品を2~5℃程度の温度にて保冷する際に有利に用いられる蓄冷材組成物を提供することにある。また、本発明は、そのような優れた特性を発揮する蓄冷材組成物を用いた蓄冷体を提供することも、その解決課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そして、本発明は、上記した課題を解決するために、以下に列挙せる如き各種の態様において、好適に実施され得るものである。なお、本発明の態様乃至は技術的特徴は、以下に記載のものに何等限定されることなく、明細書の記載から把握され得る発明思想に基づいて認識され得るものであることが、理解されるべきである。
【0009】
(1) 基材としてのラウリン酸メチル及び/又はn-テトラデカンと、融点降下剤とを含み、融点が2.0~5.0℃であることを特徴とする蓄冷材組成物。
(2) 前記融点降下剤が、フェノール類、アミン類、脂肪酸エステル類及び炭化水素類からなる群より選ばれる一種又は二種以上のものである前記態様(1)に記載の蓄冷材組成物。
(3) 前記基材と前記融点降下剤との配合割合が、質量比において基材:融点降下剤=70:30~97:3である前記態様(1)又は前記態様(2)に記載の蓄冷材組成物。
(4) 熱可塑性エラストマーを更に含有する前記態様(1)に記載の蓄冷材組成物。
(5) 前記基材が少なくともラウリン酸メチルを含むものであり、熱可塑性エラストマー及び脂肪酸系ゲル化剤を更に含有する前記態様(1)に記載の蓄冷材組成物。
(6) 前記熱可塑性エラストマーが、スチレン系エラストマー、塩化ビニル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、エステル系エラストマー及びアミド系エラストマーからなる群より選ばれる一種又は二種以上のものである前記態様(4)又は前記態様(5)に記載の蓄冷材組成物。
(7) 前記脂肪酸系ゲル化剤が12-ヒドロキシステアリン酸である前記態様(5)に記載の蓄冷材組成物。
(8) 前記態様(1)又は前記態様(2)に記載の蓄冷材組成物を容器に収容せしめてなる蓄冷体。
【発明の効果】
【0010】
このように、本発明に従う蓄冷材組成物は、基材としてのラウリン酸メチル及び/又はn-テトラデカンと共に、融点降下剤を含み、融点が2.0~5.0℃となるように調整されてなる組成物であるところから、例えば、そのような蓄冷材組成物を容器に収容せしめてなる蓄冷体にあっては、保管温度が2~5℃程度とされている医薬品等を保温(保冷)する際に有利に用いられ得るのである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
ところで、本発明に従う蓄冷材組成物は、その基本成分となる基材(基剤とも称される)として、ラウリン酸メチル[CH3(CH210COOCH3 ]及びn-テトラデカン[CH3(CH212CH3 ]のうちの何れか一種、若しくはそれらの両者を含むものである。本発明の蓄冷材組成物を調製するに際しては、従来より各種化学製品の合成、調製等に用いられているラウリン酸メチル及びn-テトラデカンであれば、如何なるものであっても使用することが可能である。尚、n-テトラデカンについては、合成品の他、石油留分の蒸留・精製によって得られるものも市販されているところ、市販されている石油留分由来のn-テトラデカンには、隣接した炭素数のn-パラフィンを不純物として含有するものもある。本発明に係る蓄冷剤組成物の調製には、そのような隣接した炭素数のn-パラフィンを不純物として含有するn-テトラデカンであっても、使用することが可能である。
【0012】
その一方、本発明の蓄冷材組成物は、基材としてのラウリン酸メチル及び/又はn-テトラデカンと共に、融点降下剤が配合されて、構成されている。
【0013】
ここで、本発明で用いられる融点降下剤とは、基材(ラウリン酸メチル及び/又はn-テトラデカン)との混合物からなる蓄冷材組成物の融点を、かかる基材の融点(ラウリン酸メチル:約5℃、n-テトラデカン:約5~6℃)より低下せしめることが可能な各種の化合物や天然物を意味するものである。また、混合物たる蓄冷材組成物の融点とは、組成物が固体から液体に変化する際における最大潜熱変化を示す温度を意味するものであるところ、組成物が固体から液体へと変化する際に複数の温度にて潜熱変化を示すことが認められる蓄冷材組成物においては、それら複数の潜熱変化のうち最大のものを示す温度を蓄冷材組成物の融点とする。
【0014】
本発明においては、上述の如き特性を有する化合物や天然物等であれば、如何なるものであっても融点降下剤として使用することが可能であるが、好ましくは、フェノール類、アミン類、脂肪酸エステル類及び炭化水素類からなる群の中から、蓄冷材組成物を構成する基材(ラウリン酸メチル及び/又はn-テトラデカン)に応じた一種又は二種以上のものが適宜に選択されて、使用される。
【0015】
具体的に、本発明において融点降下剤として使用可能なフェノール類としては、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール[ブチル化ヒドロキシトルエン:BHT]、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、2,4-ジメチル-6-tert-ブチルフェノール、t-ブチルヒドロキシアニソール[BHA]、4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、4,4’-メチレンビス(2,3-ジ-tert-ブチルフェノール)、4,4’-チオビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)等を例示することが出来る。
【0016】
また、アミン類としては、N-n-ブチル-p-アミノフェノール、アルキルジフェニルアミン、α-ナフチルアミン、N-フェニル-α-ナフチルアミン、フェノチアジン等を例示することが出来る。
【0017】
さらに、脂肪酸エステル類としては、カプロン酸メチル、カプリル酸メチル、ペラルゴン酸メチル、カプリン酸メチル、ミリスチン酸メチル、ペンタデシル酸メチル、パルミチン酸メチル、ステアリン酸メチル、オレイン酸メチル、リノール酸メチル、リノレン酸メチル、カプロン酸エチル、カプリル酸エチル、ペラルゴン酸エチル、カプリン酸エチル、ミリスチン酸エチル、ペンタデシル酸エチル、パルミチン酸エチル、ステアリン酸エチル、オレイン酸エチル、リノール酸エチル、リノレン酸エチル、カプロン酸プロピル、カプリル酸プロピル、ペラルゴン酸プロピル、カプリン酸プロピル、ミリスチン酸プロピル、ペンタデシル酸プロピル、パルミチン酸プロピル、ステアリン酸プロピル、オレイン酸プロピル、リノール酸プロピル、リノレン酸プロピル、カプロン酸ブチル、カプリル酸ブチル、ペラルゴン酸ブチル、カプリン酸ブチル、ミリスチン酸ブチル、ペンタデシル酸ブチル、パルミチン酸ブチル、ステアリン酸ブチル、オレイン酸ブチル、リノール酸ブチル、リノレン酸ブチル、カプロン酸2-エチルヘキシル、カプリル酸2-エチルヘキシル、ペラルゴン酸2-エチルヘキシル、カプリン酸2-エチルヘキシル、ミリスチン酸2-エチルヘキシル、ペンタデシル酸2-エチルヘキシル、パルミチン酸2-エチルヘキシル、ステアリン酸2-エチルヘキシル、オレイン酸2-エチルヘキシル、リノール酸2-エチルヘキシル、リノレン酸2-エチルヘキシルの他、ネオペンチルアルコール又はトリメチロールプロパンと各種脂肪酸との合成エステル等を例示することが出来る。
【0018】
さらにまた、炭化水素類としては、各種の脂肪族炭化水素や芳香族炭化水素、並びにそれらの混合物である鉱物油等を例示することが出来る。
【0019】
上述の如き融点降下剤は、蓄冷材組成物を構成する基材との関係において、特に以下の組み合わせにて使用することが好ましい。具体的には、基材としてラウリン酸メチルのみを用いる場合には2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール[BHT]又は鉱物油を、基材としてn-テトラデカンのみを用いる場合にはBHT、n-デカン、n-ウンデカン又はn-ドデカンを、各々、融点降下剤として用いることが好ましい。
【0020】
本発明に従う蓄冷材組成物において、融点降下剤の配合量(添加量)は、基材及び融点降下剤の種類や、目的とする組成物の融点(2.0~5.0℃の範囲内に設定された温度)等に応じて、適宜に決定されることとなるが、融点降下剤の配合量(添加量)が少なすぎると、組成物の融点を目的とする温度に調整することが出来ない恐れがある。その一方、融点降下剤の配合量(添加量)が多すぎると、組成物が蓄冷材として要求される特性を十分に発揮し得ない恐れがある。このため、本発明の蓄冷材組成物における基材(ラウリン酸メチル及び/又はn-テトラデカン)と融点降下剤との配合割合は、質量比において、基材:融点降下剤=70:30~97:3であることが好ましく、基材:融点降下剤=80:20~95:5であることがより好ましい。
【0021】
本発明に係る蓄冷材組成物には、上述してきた基材及び融点降下剤と共に、組成物をゲル化せしめることが可能なゲル化剤を添加(配合)せしめることが好ましい。そのようなゲル化剤を添加(配合)せしめることにより、例えば、蓄冷材組成物を所定のケース内に封入して使用する場合、ケースから蓄冷材組成物が漏出することを有利に防止することが可能となる。
【0022】
本発明において使用可能なゲル化剤としては、基材(ラウリン酸メチル及び/又はn-テトラデカン)及び融点降下剤の混合物をゲル化せしめることが可能なものであれば、如何なるものであっても用いることが出来るが、有利には、40~50℃程度の環境下においてもゲル状態を維持することが可能なものが用いられる。そのようなゲル化剤としては、熱可塑性エラストマーが好ましく、また、基材として少なくともラウリン酸メチルを用いる場合(基材として、ラウリン酸メチルのみを用いる場合、並びにラウリン酸メチル及びn-テトラデカンを用いる場合)には、熱可塑性エラストマー及び脂肪酸系ゲル化剤を併用することが好ましい。
【0023】
ここで、本発明においてゲル化剤として使用可能な熱可塑性エラストマーとしては、スチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、塩化ビニル系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー、エステル系熱可塑性エラストマー、アミド系熱可塑性エラストマー等を例示することが出来、それらの中でも、特にスチレン系熱可塑性エラストマーが有利に用いられる。また、脂肪酸系ゲル化剤としては、アラキジン酸、ヘンイコシル酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、ステアリン酸、マルガリン酸、パルミチン酸、ペンタデシル酸、ミリスチン酸、ラウリン酸等の脂肪酸、それら脂肪酸の誘導体(例えば、12-ヒドロキシステアリン酸)、ヒマシ硬化油等を例示することが出来る。なお、本明細書における脂肪酸の誘導体とは、脂肪酸において、その構造や性質を大幅に変えない程度の改変(例えば、原子の置換、官能基の導入等)が為された全てのものを意味するものであり、かかる改変が実際の化学反応として行なわれたものであるか否かは問わない。
【0024】
上述の如きゲル化剤を本発明の蓄冷材組成物に配合するに際して、その配合量が少なすぎると、ゲル化剤の配合効果を十分に享受し得ない恐れがある。その一方、ゲル化剤の配合量が多すぎると、組成物が蓄冷材として要求される特性を十分に発揮し得ない恐れがある。このため、本発明の蓄冷材組成物にゲル化剤を用いる場合、蓄冷材組成物におけるゲル化剤(2種以上のゲル化剤を用いる場合は、それらの総量)が占める割合が、5~20質量%となるように配合することが好ましい。
【0025】
また、本発明に係る蓄冷材組成物には、上述したゲル化剤の他にも、酸化防止剤、難燃剤、着色剤、顔料、帯電防止剤、老化防止剤等の、従来より蓄冷材組成物に添加(配合)されている各種の添加剤を、本発明の目的を阻害しない限りにおいて使用することが可能である。
【0026】
本発明に従う蓄冷材組成物は、基材(ラウリン酸メチル及び/又はn-テトラデカン)と融点降下剤と共に、必要に応じてゲル化剤等の添加剤を用いて、それらを従来より公知の手法に従って混合せしめることにより、調製することが可能である。なお、ゲル化剤を配合する場合、混合の過程でゲル化が進行し、基材と融点降下剤との十分な混合が図れない恐れがあるところから、先ずは基材と融点降下剤とを混合した後にゲル化剤を添加して、更に混合する手法や、常温以上の温度にて混合する手法等が有利に採用される。
【0027】
上述の如き本発明に従う蓄冷材組成物は、通常、所定の容器に収容せしめられて、蓄冷体として使用される。本発明の蓄冷材組成物を収容する容器としては、従来より蓄冷材組成物の収容容器として使用されているものであれば、特に限定されることなく、使用することが可能である。そのような容器としては、具体的には、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド等からなるプラスチック製容器、アルミニウム等からなる金属製容器、アルミニウム製等の金属プレートがプラスチックにインサートされてなるプラスチック-金属製複合容器の他、2枚のラミネートフィルムの周縁が熱融着等で接合(シール)されて袋状とされた、柔軟な袋状容器等を、例示することが出来る。なお、上述したラミネートフィルムとしては、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリアミド等からなる合成樹脂フィルムや、かかる合成樹脂フィルムにアルミ箔がラミネートされてなるフィルム、更には、合成樹脂フィルムにアルミ等の金属が蒸着されてなるフィルム等を、例示することが出来る。
【0028】
そして、そのようにして得られる蓄冷材組成物にあっては、融点が2.0~5.0℃となるように調整されてなる組成物であるところから、保管温度が2~5℃程度とされている医薬品等を保温(保冷)する際に、有利に用いられ得るのである。
【実施例0029】
以下に、本発明の実施例を幾つか示し、本発明の特徴を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。また、本発明には、以下の実施例の他にも、更には、上記した具体的記述以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加え得るものであることが、理解されるべきである。
【0030】
なお、以下の実施例において、蓄冷材組成物の調製に用いたn-テトラデカン、ラウリン酸メチル、n-ウンデカン、n-ドデカン、n-デカン、BHT[2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール]、鉱物油(ISO VG32)、鉱物油(ISO VG2)及び12-ヒドロキシステアリン酸は、何れも市販品であり、また、表2に示すセプトン1020、セプトン2002及びセプトン4033は、何れも、株式会社クラレ製のスチレン系熱可塑性エラストマーの製品名である。
【0031】
また、蓄冷材組成物の融点(℃)及び融解潜熱(J/g)は、何れも、組成物を試料として用いた示差走査熱量測定(DSC)の結果より、判断乃至は算出したものである。加えて、融解潜熱は、2~5℃の温度範囲におけるDSCの結果より算出したものであり、その絶対値が大きいほど、蓄冷材として優れた特性(保冷性能)を発揮することを意味するものである。
【0032】
-実施例1~実施例10-
下記表1に示す各成分を、そこに示す量的割合において量り取り、その量り取った各成分を常温で混合することにより、10種類の蓄冷材組成物を調製した(実施例1~実施例10)。各蓄冷材組成物の融点及び融解潜熱を、下記表1に示す。
【0033】
【表1】
【0034】
かかる表1に示される融点及び融解潜熱からも明らかなように、本発明の構成に従う蓄冷材組成物にあっては、何れも、蓄冷材として優れた特性(保冷性能)を有するものであることが認められる。特に、実施例2、実施例5並びに実施例7の組成に係る蓄冷材組成物においては、融解潜熱の絶対値が35以上と大きく、特に優れた保冷性能を発揮することが認められた。
【0035】
-実施例11~実施例19-
ゲル化剤によるゲル化を確認すべく、以下の実験を行った。下記表2に示す各成分を、そこに示す量的割合において量り取り、先ず、常温で基材(ラウリン酸メチル又はn-テトラデカン)と融点降下剤(BHT)とを十分に混合した後、かかる混合物にゲル化剤(12-ヒドロキシステアリン酸等)を添加し、更に混合することにより、9種類の蓄冷材組成物を調製した(実施例11~実施例19)。各蓄冷材組成物の融点及び融解潜熱を下記表2に示す。調製して得られた、ゲル状を呈する各蓄冷材組成物を、40℃で24時間、50℃で24時間、保管し、各温度で保管した後の蓄冷材組成物の状態を目視で観察した。その結果を、下記表2に併せて示す。
【0036】
【表2】
【0037】
かかる表2の結果より明らかなように、n-テトラデカンを基材とする蓄冷材組成物(実施例11~実施例13)にあってはスチレン系熱可塑性エラストマーを配合することにより、また、ラウリン酸メチルを基材とする蓄冷材組成物(実施例14~実施例16)にあってはスチレン系熱可塑性エラストマー及び脂肪酸系ゲル化剤(12-ヒドロキシステアリン酸)を配合することにより、50℃においてもゲル状を呈することが認められる。その一方、ラウリン酸メチルを基材とする蓄冷材組成物において、スチレン系熱可塑性エラストマーのみを配合せしめても、40℃、50℃ではゲル状とならず、液状を呈することが認められたのである。