(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024021581
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】空縫い目カッター
(51)【国際特許分類】
D05B 65/02 20060101AFI20240208BHJP
【FI】
D05B65/02 F
D05B65/02 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022124504
(22)【出願日】2022-08-04
(71)【出願人】
【識別番号】000003399
【氏名又は名称】JUKI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】三谷 一浩
(72)【発明者】
【氏名】白石 篤史
(72)【発明者】
【氏名】花田 剛
(72)【発明者】
【氏名】福森 英治
【テーマコード(参考)】
3B150
【Fターム(参考)】
3B150AA20
3B150CB20
3B150CD08
3B150FH04
3B150FH09
3B150GD02
3B150GD14
3B150JA03
3B150LB01
(57)【要約】
【課題】空環等のような空縫い目を誤って切ることのない空縫い目カッターを提供すること。
【解決手段】ミシン1によって形成された空縫い目2を切断する空縫い目カッター30は、固定刃40と、前記固定刃40に対して接離するよう移動する可動刃50と、前記可動刃50を移動させるよう前記可動刃50を駆動するモーター90と、前記可動刃50の軌道に存在する異物3を検出する異物検出器と、前記異物検出器によって前記異物3が検出された場合に、前記モーター90を停止する制御部200と、を備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミシンによって形成された空縫い目を切断する空縫い目カッターであって、
固定刃と、
前記固定刃に対して接離するよう移動する可動刃と、
前記可動刃を移動させるよう前記可動刃を駆動する駆動部と、
前記可動刃の軌道に存在する異物を検出する異物検出器と、
前記異物検出器によって前記異物が検出された場合に、前記駆動部を停止する制御部と、を備えることを特徴とする空縫い目カッター。
【請求項2】
前記異物検出器が、
前記可動刃の軌道に沿って前記可動刃に対して相対的に移動可能に設けられ、前記可動刃に従動且つ先行して前記固定刃に近づき、前記可動刃に従動且つ遅行して前記固定刃から離れるよう前記可動刃と一緒に移動するプローブと、
前記可動刃と前記プローブの差動を検出する差動検出器と、を有し、
前記プローブが前記異物に当たることによって生じる前記可動刃と前記プローブの差動が前記差動検出器によって検出された場合に、前記制御部が前記駆動部を停止する
ことを特徴とする請求項1に記載の空縫い目カッター。
【請求項3】
前記プローブが、前記可動刃の切刃から前記可動刃の刃先の近傍まで前記切刃を覆うカバーである
ことを特徴とする請求項2に記載の空縫い目カッター。
【請求項4】
前記差動検出器が、前記プローブの変位又は速度を検出するロータリーエンコーダーを有する
ことを特徴とする請求項2又は3に記載の空縫い目カッター。
【請求項5】
ミシンによって形成された空縫い目を切断する空縫い目カッターであって、
第1切刃、第1刃裏及びそれらが成す角の第1刃先を有する片刃型の固定刃と、
第2切刃、第2刃裏及びそれらが成す角の第2刃先を有し、前記第2刃先が前記第1刃先に向けられ、前記第2刃裏が前記第1刃裏に向けられて前記第1刃裏に当てられ、前記固定刃に対して接離するよう移動する可動刃と、
前記可動刃の軌道に沿って前記可動刃に対して相対的に移動可能に設けられ、前記可動刃に従動且つ先行して前記固定刃に近づき、前記可動刃に従動且つ遅行して前記固定刃から離れるよう前記可動刃と一緒に移動する可動カバーと、を備え、
前記可動カバーが前記第2切刃から前記第2刃先の近傍まで前記第2切刃を覆う
ことを特徴とする空縫い目カッター。
【請求項6】
前記第1切刃から前記第1刃先の近傍まで前記第1切刃を覆う固定カバーを備えることを特徴とする請求項5に記載の空縫い目カッター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被縫製物に縫い付けられることなく形成された縫い目を切断する空縫い目カッターに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、空環を切断する空環カッターを備えるミシンが開示されている。この空環カッターは、ミシンの針板に形成された開口部内に設けられている。空環とは、環縫いの始め又は終わりに被縫製物に縫い付けられることなく形成された縫い目のことをいう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
空環以外の異物が空環カッターによって誤って切られてはならない。
そこで、本発明の目的は、空環等のような空縫い目を誤って切ることのない空縫い目カッターを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1の側面によれば、ミシンによって形成された空縫い目を切断する空縫い目カッターが、固定刃と、前記固定刃に対して接離するよう移動する可動刃と、前記可動刃を移動させるよう前記可動刃を駆動する駆動部と、前記可動刃の軌道に存在する異物を検出する異物検出器と、前記異物検出器によって前記異物が検出された場合に、前記駆動部を停止する制御部と、を備える。
【0006】
本発明の第2の側面によれば、ミシンによって形成された空縫い目を切断する空縫い目カッターが、第1切刃、第1刃裏及びそれらが成す角の第1刃先を有する片刃型の固定刃と、第2切刃、第2刃裏及びそれらが成す角の第2刃先を有し、前記第2刃先が前記第1刃先に向けられ、前記第2刃裏が前記第1刃裏に向けられて前記第1刃裏に当てられ、前記固定刃に対して接離するよう移動する可動刃と、前記可動刃の軌道に沿って前記可動刃に対して相対的に移動可能に設けられ、前記可動刃に従動且つ先行して前記固定刃に近づき、前記可動刃に従動且つ遅行して前記固定刃から離れるよう前記可動刃と一緒に移動する可動カバーと、を備え、前記可動カバーが前記第2切刃から前記第2刃先の近傍まで前記第2切刃を覆う。
【発明の効果】
【0007】
本発明の第1の側面によれば、可動刃の軌道に存在する異物が異物検出器によって検出された場合、制御部が駆動部を停止して、可動刃も停止されることから、異物が可動刃によって誤って切られることがない。
本発明の第2の側面によれば、異物が可動カバーに当たっても、可動刃の第2刃先に当たらないことから、異物が可動刃によって誤って切られることがない。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】
図2は、ミシンのアーム部の下方を示す斜視図である。
【
図3】
図3は、空縫い目カッターを示す斜視図である。
【
図4】
図4は、可動刃、可動カバー、第1のシャフト及び第2のシャフトを示す斜視図である。
【
図5】
図5は、固定刃、固定カバー、可動刃及び可動カバーを示す斜視図である。
【
図6】
図6は、固定刃、固定カバー、可動刃及び可動カバーを示す側面図である。
【
図7】
図7は、固定刃に対する相対的な可動刃及び可動カバーの動きを説明するための正面図である。
【
図8】
図8(a)は、固定刃に対する相対的な可動刃及び可動カバーの動きを説明するための正面図である。
図8(b)は、固定刃及び固定カバーに対する相対的な可動刃及び可動カバーの動きを説明するための側面図である。
【
図9】
図9は、固定刃に対する相対的な可動刃及び可動カバーの動きを説明するための正面図である。
【
図10】
図10(a)は、固定刃に対する相対的な可動刃及び可動カバーの動きを説明するための正面図である。
図10(b)は、固定刃及び固定カバーに対する相対的な可動刃及び可動カバーの動きを説明するための側面図である。
【
図11】
図11(a)は、固定刃に対する相対的な可動刃及び可動カバーの動きを説明するための正面図である。
図11(b)は、固定刃及び固定カバーに対する相対的な可動刃及び可動カバーの動きを説明するための側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、実施形態について説明する。ただし、本発明の範囲は、以下に開示された実施形態に限定されない。図面は例示のみのために提供されるため、本発明の範囲は図面の例示に限定されない。
【0010】
[1. ミシンの概要]
図面には、互いに直交する高さ方向、奥行き方向及び幅方向を表す矢印又は記号が示されている。高さ方向は上下方向ともいい、奥行き方向は前後方向ともいい、幅方向は左右方向ともいう。高さ方向は必ずしも鉛直ではないが、ミシン1が水平面に載置された場合、高さ方向が鉛直方向になる。左及び右の向きは、ミシン1の正面から見て定められる。
【0011】
図1及び
図2に示すように、ミシン1は、環縫い目、特に二重環縫い目を被縫製物に施す所謂ロックミシンである。なお、本明細書において、環縫い目とは、単環縫い目及び二重環縫い目のみならず、縁かがり縫い目も含む意である。
【0012】
ミシン1は、ミシンフレーム10、針板16、押さえ18、メインモーター20、送り歯21、針棒22、複数本の縫い針23、ルーパー25及び空縫い目カッター30を備える。
【0013】
[2. ミシンフレーム]
ミシンフレーム10は、正面から見て、コ字型に形作られている。ミシンフレーム10は縦胴部11、アーム部12及びベッド部13を有する。
【0014】
縦胴部11は、ミシンフレーム10の右部を成している。縦胴部11は、上下に延びるよう立設されている。アーム部12は、ミシンフレーム10の上部を成しているとともに、縦胴部11の上部から左に延び出ている。ベッド部13は、ミシンフレーム10の下部を成しているとともに、縦胴部11の下部から左に延び出ている。ベッド部13は、その上面に、前後左右に広がった平坦なベッド面14を有する。被縫製物は、縫製時にこのベッド面14の上において前から後ろに送られる。被縫製物とは、ミシン1によって縫いが施される対象をいい、例えば布のことをいう。
【0015】
[3. ミシンモーター]
メインモーター20は、縦胴部11の下部内に設けられている。メインモーター20は、送り用伝動機構、針棒用伝動機構及びルーパー用伝動機構に動力を出力することによって、針棒22を昇降運動させ、送り歯21を楕円運動又はボックス運動させ、ルーパー25を周回運動又は往復運動させる。
【0016】
[4. 針板、押さえ及び送り歯]
針板16はベッド部13の上面に取り付けられており、針板16の上面がベッド面14と面一とされている。針板16は複数の針穴を有し、後述の縫い針23が下降すると、縫い針23が針穴に挿入され、縫い針23が上昇すると、縫い針23が針穴から抜ける。
【0017】
押さえ18は、ベッド部13から垂下するとともに、昇降可能に設けられている。押さえ18が下降されて、針板16上の被縫製物の上から被縫製物を押さえる。これにより、被縫製物が押さえ18と針板16の間に挟まれる。押さえ18が上昇されて被縫製物から離れると、被縫製物が開放される。
【0018】
送り歯21は、押さえ18の下方において針板16の穴の内側に配置されている。送り歯21は、ベッド部13の内側にて送り用伝動機構に連結されていて、送り用伝動機構によって楕円運動可能又はボックス運動可能に設けられている。送り用伝動機構がメインモーター20に連結されており、メインモーター20の回転運動が送り用伝動機構によって送り歯の楕円運動又はボックス運動に変換される。これにより、被縫製物が送り歯21によって前から後ろへ送られる。なお、楕円運動とは、前後に長く上下に短い楕円軌跡に沿って送り歯21が周回することをいう。ボックス運動とは、前後に長く上下に短い長方形軌跡に沿って送り歯21が周回することをいう。
【0019】
[5. 針棒、縫い針及びルーパー]
針棒22は、アーム部12の内側から外側へ下方に延び出ている。針棒22は、アーム部12の内部において例えばクランク機構のような針棒用伝動機構に連結されていて、針棒用伝動機構によって上下に往復可能に設けられている。針棒用伝動機構がメインモーター20に連結されており、メインモーター20の回転運動が針棒用伝動機構によって針棒22の昇降運動に変換される。
【0020】
複数の縫い針23は、針棒22の下端に取り付けられているとともに、針棒22の下端から下方に延びている。これら縫い針23は、左右方向に間隔を置いて配列されている。各糸9が各糸巻きから各縫い針23まで案内されて、各縫い針の穴に通されている。
図1において縫い針23の本数は2であるが、3又は4であってもよい。
【0021】
ルーパー25は、針棒22の下方においてベッド部13の内側に配置されている。ルーパー25は、ベッド部13の内側にてルーパー用伝動機構に連結されていて、ルーパー用伝動機構によって周回運動可能又は往復運動可能に設けられている。ルーパー用伝動機構がメインモーター20に連結されており、メインモーター20の回転運動がルーパー用伝動機構によってルーパー25の周回運動又は往復運動に変換される。
【0022】
[6. 縫い目及び空縫い目の形成]
メインモーター20が送り歯21、針棒22及びルーパー25を駆動すると、縫い針23が上下運動し、ルーパー25が周回運動又は往復運動し、送り歯21が楕円運動又はボックス運動する。被縫製物は、送り歯21の楕円運動又はボックス運動によって送られる。縫い針23及びルーパー25は、被縫製物の送り中に互いに協働して、環縫い目、特に二重環縫い目を被縫製物に施す。具体的には、縫い針23が被縫製物を下方に貫通する度に、ルーパー25が各縫い針23から各糸9を捕捉することによって各糸9のループを形成するとともに、これらループ及び前回の縫い針23の下降時のループを絡ませる。二重環縫い目は、これらループが連なったものである。
【0023】
二重環縫い目は、被縫製物に縫い付けられるのみならず、被縫製物に縫い付けられずにも形成される。つまり、縫製の初期若しくは終期又はこれら両方において、被縫製物が針棒22の下方に存在しない状態で、縫い針23が被縫製物を貫通することなく、縫い針23とルーパー25が互いに協働して、二重環縫い目を形成する。被縫製物に縫い付けられることなく形成された二重環縫い目を空縫い目(からぬいめ)といい、それを“空環(からかん)”と略称する。空環の形成の前若しくは後又はこれらの両方には、空環に連なる二重環縫い目が縫い針23及びルーパー25によって被縫製物に縫い付けられる。
【0024】
空環は、空縫い目カッター30によって切断される。以下、空縫い目カッター30について詳細に説明する。
【0025】
[7. 空縫い目カッター]
図3は、空縫い目カッター30を示す斜視図である。
図4は、空縫い目カッター30の可動刃50、可動カバー70及びシャフト34,36を示す斜視図である。
図5は、空縫い目カッター30の固定刃40、可動刃50、固定カバー60及び可動カバー70を示す斜視図である。
図6は、空縫い目カッター30の固定刃40、可動刃50、固定カバー60及び可動カバー70を示す側面図である。
【0026】
空縫い目カッター30は、フェイルセーフの設計思想に基づいて設計された安全機構付きのカッターである。空縫い目カッター30は、ブラケット31~33、第1のシャフト34、コイルスプリング35、第2のシャフト36、トーションスプリング37、固定刃40、可動刃50、固定カバー60、可動カバー70、待機ステーション80、モーター90、伝動機構100、変位検出器150、制御部200(
図1参照)及び操作ボタン210(
図1参照)を備える。ここで、異物検出器は、可動カバー70、第2のシャフト36及び変位検出器150を有する。この異物検出器は、ベッド面14の上方における可動刃50の軌道に存在する異物を検出する。異物とは、糸及び空環のように細く又は薄い可撓物以外のことをいう。
【0027】
[7-1. ブラケット]
図3に示すように、ブラケット31~33は、ベッド部13の内側においてベッド部13に取り付けられている。第1のブラケット31は、幅方向に延びるよう、針板16の後部の下方に配置されている。第2のブラケット32は第1のブラケット31の後ろにおいて第1のブラケット31と一体に設けられ、第1のブラケット31から後方に延び出ている。第3のブラケット33は、第2のブラケット32の後部の右下に配置されている。
【0028】
[7-2. シャフト、コイルスプリング及びトーションスプリング]
図3及び
図4に示すように、第1のシャフト34は、円柱状に設けられている。第1のシャフト34は、ベッド部13の内側において、奥行き方向に延在するように第2のブラケット32に取り付けられている。第1のシャフト34は、針板16の後方の下に配置されている。
【0029】
第1のシャフト34のラジアル荷重が第2のブラケット32に受けられ、第1のシャフト34はその中心軸の回りに回転可能に第2のブラケット32に支持されている。第1の中心軸は前後方向に延在するところ、以下では、第1のシャフト34の中心軸に対して平行な方向を軸方向といい、第1のシャフト34の中心軸に対して直交する方向を径方向といい、第1のシャフト34の中心軸の回りの方向を周方向という。軸方向は奥行き方向に対して平行である。
【0030】
第1のシャフト34が後述の伝動機構100に連結され、モーター90の動力が伝動機構100によって第1のシャフト34に伝達される。これにより、第1のシャフト34が回転する。
【0031】
コイルスプリング35は、第1のシャフト34の周囲に巻かれている。コイルスプリング35は、第2のブラケット32から反力を取って、第1のシャフト34を前方に付勢する。これにより、後述の可動刃50が固定刃40の後ろから可動刃50に押し当てられる。
【0032】
第2のシャフト36は、その一部がリング状に設けられ、他の一部が半筒状に設けられている。第2のシャフト36は、ベッド部13の内側において、第1のシャフト34と同軸となるように第1のシャフト34に外装されている。第2のシャフト36のラジアル荷重が第1のシャフト34に受けられ、第2のシャフト36が第1のシャフト34に対して相対的に周方向に回転可能に第1のシャフト34に支持されている。
【0033】
トーションスプリング37は、第1のシャフト34の周囲に巻かれている。トーションスプリング37の一端は第1のシャフト34に掛けられ、トーションスプリング37の他端は第2のシャフト36に掛けられている。第1のシャフト34のトルクがトーションスプリング37によって第2のシャフト36に伝達され、第2のシャフト36が第1のシャフト34と一緒に回転する。但し、抵抗力が第1のシャフト34の回転中に第2のシャフト36に与えられると、第2のシャフト36が停まり又は第2のシャフト36の回転速度が低下し、トーションスプリング37が捻れる。
【0034】
第2のシャフト36が後述の変位検出器150に連結されている。第2のシャフト36の変位及び回転速度が変位検出器150されるとともに、第1のシャフト34と第2のシャフト36の差動が変位検出器150によって検出される。第1のシャフト34と第2のシャフト36の差動とは、第1のシャフト34の回転速度と第2のシャフト36の回転速度の差のこと、又は第1のシャフト34の変位と第2のシャフト36の変位の差のことをいう。通常、第2のシャフト36が第1のシャフト34と一緒に回転するため、第1のシャフト34と第2のシャフト36の差動がゼロである。但し、抵抗力が第1のシャフト34の回転中に第2のシャフト36に与えられると、第1のシャフト34と第2のシャフト36の差動がゼロを超える。
【0035】
[7-3. 固定刃]
図6に示すように、片刃型の固定刃40は、刃表41、刃裏42、鎬筋43、切刃44、刃先45及び峰46を有する。刃表41は固定刃40の表(おもて)側であり、刃裏42は固定刃40の裏側である。切刃44は、刃表41の先端側において刃表41に対して傾斜するよう、鎬筋43から刃先45まで刃付けされている。切刃44のことを刃面ともいう。刃先45は、切刃44と刃裏42の成す鋭角である。
【0036】
図3、
図5及び
図6に示すように、固定刃40は、ベッド部13内において第1のブラケット31に取り付けられ、針板16の後端の下方に配置されている。固定刃40が第1のブラケット31に取り付けられた状態の固定刃40の姿勢に関しては、刃先45が上方に向けられ、峰46が下方に向けられ、刃表41が前方に向けられ、刃裏42が後方に向けられ、刃先45が幅方向及び径方向に延在する。
【0037】
図2に示すように、スリット14aが針板16の後端に沿ってベッド部13のベッド面14に形成されており、固定刃40がスリット14aの下方において針板16の後端に沿って配置されている。
【0038】
[7-4. 固定カバー]
図3、
図5及び
図6に示すように、固定カバー60は、ベッド部13内において第1のブラケット31及び固定刃40に取り付けられている。固定カバー60は、針板16の後端の下方に配置されているとともに、固定刃40の前に配置されている。固定カバー60は、固定刃40の刃表41から刃先45の近傍まで刃表41及び切刃44を覆う。固定カバー60は、固定刃40の刃先45よりも上方に張り出しており、固定カバー60の上且つ後ろのエッジ61は、固定刃40の刃先45に沿う。固定カバー60のエッジ61は、固定刃40の刃先45の上に位置するとともに、固定刃40の刃先45及び刃裏42よりも僅かに前に位置する。また、固定カバー60は、可動刃50の軌道面から前へ僅かに離れている。可動刃50の軌道面とは、可動刃50の旋回により可動刃50の刃先55が描く面のことをいう。
【0039】
[7-5. 可動刃]
図6に示すように、片刃型の可動刃50は、刃表51、刃裏52、鎬筋53、切刃54、刃先55及び峰56を有する。刃表51は可動刃50の表(おもて)側であり、刃裏52は可動刃50の裏側である。切刃54は、刃表51の刃先55側において刃表51に対して傾斜するよう、鎬筋53から刃先55まで刃付けされている。切刃54のことを刃面ともいう。刃先55は、切刃54と刃裏52が成す鋭角である。
【0040】
図3、
図5及び
図6に示すように、可動刃50は、固定刃40の刃裏42に近接して固定刃40の後ろに配置されている。可動刃50は、ベッド部13内において第1のシャフト34を介して第2のブラケット32に取り付けられ、周方向に旋回可能となっている。具体的には、
図3及び
図4に示すように、可動刃50が第1のシャフト34の前端に固定され、第2のブラケット32に対する第1のシャフト34の相対的な回転により可動刃50が周方向に旋回する。可動刃50は第1のシャフト34の前端から径方向外方へ設けられている。
【0041】
図3、
図5及び
図6に示すように、可動刃50が第1のシャフト34を介して第2のブラケット32に旋回可能に取り付けられた状態の可動刃50の姿勢に関しては、刃表51が後方に向けられ、刃裏52が前方に向けられ、刃先55が周方向において固定刃40の刃先45の方へ向けられ、刃先55が径方向に延在する。可動刃50の刃裏52と固定刃40の刃裏42は軸方向において互いに向き合い、可動刃50の刃裏52がコイルスプリング35の弾性力によって固定刃40の刃裏42に押し当てられている。
【0042】
可動刃50が固定刃40に対して接離するよう固定刃40に対して相対的に旋回可能であるため、可動刃50及び固定刃40が開閉可能である。具体的には、可動刃50が固定刃40の方へ振り下ろされるよう左に旋回することによって、可動刃50及び固定刃40が閉じられる。可動刃50が固定刃40から振り上げられるよう右へ旋回することによって、可動刃50及び固定刃40が開かれる。
【0043】
可動刃50及び固定刃40が開かれた状態では、
図2に示すように可動刃50がスリット14aから上方に突き出ており、その際の可動刃50の位置が待機位置且つ初期位置である。可動刃50及び固定刃40が閉じられた状態では、可動刃50がスリット14aに進入する。
【0044】
図6に示すように、可動刃50の軌道面は、固定カバー60から後ろに離れている。つまり、可動刃50の軌道面は、固定カバー60の上且つ後ろのエッジ61から後ろに離れている。そのため、可動刃50が固定刃40の方へ振り下げられるよう左へ旋回しても、可動刃50が固定カバー60に当たらない。
【0045】
[7-6. 可動カバー]
図3及び
図4に示すように、可動カバー70と第2のシャフト36が一体形成され、可動カバー70が第2のシャフト36の前端から径方向外方へ設けられている。第2のシャフト36が第1のシャフト34に対して相対的に周方向に回転可能であるため、可動カバー70が可動刃50に対して相対的に周方向に旋回可能である。可動カバー70の旋回軌道は可動刃50の旋回軌道に沿っている。第1のシャフト34のトルクがトーションスプリング37によって第2のシャフト36に伝達されるため、可動カバー70が可動刃50と一緒に旋回する。具体的には、可動刃50が固定刃40の方へ振り上げられるよう左へ旋回する際に、可動カバー70が可動刃50に従動且つ先行して可動刃50と一緒に振り下げられる。可動刃50が固定刃40から振り上げられるよう右へ旋回する際には、可動カバー70が可動刃50に従動且つ遅行して可動刃50と一緒に振り上げられる。但し、抵抗力が可動刃50の旋回中に可動カバー70に与えられると、可動カバー70が停止し又は可動カバー70の旋回速度が低下し、トーションスプリング37が捻れる。抵抗力が解消されると、トーションスプリング37の捻れが解消される。
【0046】
可動刃50及び固定刃40が開かれた状態では、
図2に示すように可動カバー70がスリット14aから上方に突き出ており、その際の可動カバー70の位置が待機位置且つ初期位置である。可動刃50及び固定刃40が開かれた状態では、可動カバー70がスリット14aに進入する。
【0047】
図4~
図6に示すように、可動カバー70は、可動刃50の後ろに配置されていて、可動刃50の刃表51から刃先55の近傍まで刃表51及び切刃54を覆う。可動カバー70は、周方向において可動刃50の刃先55よりも固定刃40の方へ張り出している。固定刃40及び固定カバー60寄りの可動カバー70のエッジ71(このエッジ71は可動カバー70の前のエッジでもある。)は、可動刃50の刃先55から固定刃40の方へ離れている。可動カバー70の軌道面は、可動刃50の軌道面から後ろへ僅かに離れている。可動カバー70の軌道面とは、可動カバー70の旋回により可動カバー70のエッジ71が描く面のことをいう。
【0048】
可動カバー70の軌道面は、固定刃40の刃先45及び固定カバー60の後ろのエッジ61から後ろへ僅かに離れている。そのため、可動カバー70が固定刃40及び固定カバー60に接近するよう左へ旋回しても、可動カバー70が固定刃40及び固定カバー60に当たらない。
【0049】
可動カバー70は、ベッド面14の上方における可動刃50の軌道に存在する異物を探るプローブである。プローブは、検知部材又は探査子ともいう。
【0050】
[7-7. 待機ステーション]
待機ステーション80は、ベッド部13のベッド面14から上へ突出するようベッド部13に設けられている。待機ステーション80は、スリット14aの右部をその上から覆う。待機ステーション80は中空を有するよう箱状に設けられおり、その中空の下がスリット14aの右部に通じている。待機ステーション80はその左側面にスリット81を有し、そのスリット81が待機ステーション80の中空に通じている。
【0051】
可動刃50及び固定刃40が開かれた状態では、可動刃50及び可動カバー70がスリット14aの右部から待機ステーション80の中空へ進入し、その際の可動刃50及び可動カバー70の位置が待機位置且つ初期位置である。その状態から可動刃50及び可動カバー70が固定刃40の方へ旋回すると、可動刃50及び可動カバー70がスリット81から待機ステーション80の外へ進出する。
【0052】
[7-8. モーター]
駆動部としてのモーター90は、第3のブラケット33に取り付けられている。モーター90はその出力軸にピニオンを有する。モーター90は出力歯車を介して伝動機構100に連結されており、伝動機構100にトルクを出力する。
【0053】
モーター90は、制御部200によって制御される。
【0054】
[7-9. 伝動機構]
伝動機構100は、モーター90のトルクを第1のシャフト34に伝達して、モーター90の回転運動を第1のシャフト34の回転運動に変換する減速機である。つまり、伝動機構100は、モーター90の回転速度を減速して第1のシャフト34に出力するとともに、モーター90のトルクを増大して第1のシャフト34に出力する。
【0055】
伝動機構100は、第1のダブルギア110、第2のダブルギア120、第3のダブルギア130及び歯車140を有する。ダブルギア110,120,130はそれらの回転軸が互いに平行となるよう第3のブラケット33に回転可能に支持されている。
【0056】
第1のダブルギア110は、互いに同軸となった大ギア111及び小ギア112を有する。第2のダブルギア120は、互いに同軸となった大ギア121及び小ギア122を有する。第3のダブルギア130は、互いに同軸となった大セクタギア131及び小セクタギア132を有する。第1のダブルギア110の大ギア111がモーター90の出力歯車に噛み合う。第1のダブルギア110の小ギア112が第2のダブルギア120の大ギア121に噛み合う。第2のダブルギア120の小ギア122が第3のダブルギア130の大セクタギア131に噛み合う。第3のダブルギア130の小セクタギア132が歯車140に噛み合う。歯車140は、第1のシャフト34と同軸になるよう第1のシャフト34に取り付けられている。
【0057】
[7-10. 変位検出器]
変位検出器150は、第2のシャフト36の変位を検出する。つまり、変位検出器150は、可動カバー70の変位を検出する。また、変位検出器150は、第2のシャフト36の回転速度及び可動カバー70の旋回速度を検出する速度検出器でもある。
【0058】
変位検出器150は、歯車151,152及びロータリーエンコーダー153を有する。歯車151は、第2のシャフト36と同軸になるよう第2のシャフト36に取り付けられている。歯車152は、歯車151と噛み合っている。歯車152は、回転可能に第3のブラケット33に取り付けられている。ロータリーエンコーダー153は、歯車152に連結されている。歯車152が回転すると、ロータリーエンコーダー153がパルス信号を制御部200に出力し、これにより可動カバー70の変位又は旋回速度が変位検出器150によって検出されて制御部200によって認識される。
【0059】
[7-11. 操作ボタン]
操作ボタン210は、ミシンフレーム10に、具体的にはミシンフレーム10の外面に、より具体的には縦胴部11の前面に設けられている。操作ボタン210はタクタイルスイッチ、モーメンタリースイッチ、ドームスイッチ、メンブレンスイッチ、感圧スイッチ、タッチセンサ、タッチパネル又は静電センサを有する。使用者が操作ボタン210の押下又は接触等の操作をすると、その旨の操作信号が操作ボタン210によって制御部200に出力される。
【0060】
[7-12. 制御部]
制御部200は、CPU、RAM、ROM、信号処理回路及びモータードライバーを有する。CPUは、RAMを作業領域として、ROMに記録されたプログラムに従った処理を実行して、プログラムに従って信号処理回路及びモータードライバを制御する。信号処理回路は、ロータリーエンコーダー153の出力信号を処理する。モータードライバは、モーター90を駆動する。
【0061】
制御部200は、変位検出器150によって検出された変位又は速度、つまりロータリーエンコーダー153の出力信号たるパルス信号を監視する。ここで、制御部200がモーター90をオープンループ方式又はクローズドループ方式で制御することから、制御部200がモーター90の変位又は回転速度、つまり可動刃50の変位又は旋回速度を認識する。そのため、制御部200がロータリーエンコーダー153からパルス信号を入力することによって、可動刃50と可動カバー70の差動が変位検出器150によって検出されて制御部200により認識される。よって、変位検出器150は、可動刃50と可動カバー70の差動を検出する差動検出器でもある。可動刃50と可動カバー70の差動とは、可動刃50の旋回速度と可動カバー70の旋回速度の差のこと、又は可動刃50の変位と可動カバー70の変位の差のことをいう。
【0062】
制御部200は、操作ボタン210から操作信号を入力したら、モーター90を制御する。具体的には、制御部200がモーター90を所定回転速度で正転させると、可動刃50がモーター90の動力により固定刃40の方へ振り下げられるよう左へ旋回する。その後、制御部200がモーター90を所定回転速度で逆転させると、可動刃50がモーター90の動力により固定刃40から振り上げられるよう右へ旋回する。このように制御部200がモーター90を制御する際の空縫い目カッター30の動作について、以下に詳細に説明する。
【0063】
[7-13. 空縫い目カッターの動作]
(1)待機
使用者が操作ボタン210を操作する前、
図7に示すように、可動刃50及び可動カバー70がスリット14aの右部から待機ステーション80の中空へ挿入されている。その際、制御部200が操作ボタン210から転送される信号を監視する。
【0064】
(2) 正常動作
使用者が空縫い目2をスリット14aの上を奥行き方向に横切らせるよう空縫い目2をベッド部13のベッド面14上にセットする。そして、使用者が操作ボタン210の押下又は接触等の操作をすると、制御部200が操作ボタン210からの操作信号の入力を検出する。そのような検出は制御部200によるモーター90の駆動開始のトリガーとなるため、制御部200がモーター90を所定回転速度で正転させる。
【0065】
そうすると、
図7、
図8、
図9及び
図10の順に示すように、可動刃50がモーター90の動力により固定刃40の方へ振り下げられるよう左へ旋回するとともに、可動カバー70が可動刃50に従動且つ先行して固定刃40の方へ振り下げられる。モーター90の正転中、制御部200が、ロータリーエンコーダー153のパルス信号、つまり変位検出器150によって検出された差動を監視する。具体的には、制御部200は、変位検出器150によって検出された差動を所定閾値と比較する。なお、変位検出器150によって検出された差動は、可動刃50の変位と可動カバー70の変位の差と、可動刃50の旋回速度と可動カバー70の旋回速度の差と、可動カバー70の変位と、可動カバー70の旋回速度とを表す。
【0066】
図7~
図8に示すように可動刃50及び可動カバー70の振り下げ中に可動カバー70が空縫い目2に接触するまでは、可動刃50及び可動カバー70は互いに等しい旋回速度で旋回し、可動刃50と可動カバー70の差動はゼロである。そのため、制御部200は、変位検出器150によって検出された差動を所定閾値未満と判定する。
【0067】
可動カバー70が空縫い目2に接触するとともに
図9に示すようにスリット14aに進入した後は、可動カバー70が空縫い目2から抵抗力を受けるため、可動カバー70の旋回速度が可動刃50の旋回速度よりも小さくなり、可動刃50と可動カバー70の差動はゼロよりも大きくなる。しかしながら、可動カバー70がスリット14aに進入した後は、制御部200は、制御部200が変位検出器150によって検出された差動の監視を中断する。そのため、可動カバー70がスリット14aに進入した後は、制御部200がモーター90を停止せずに、可動刃50及び可動カバー70の振り下げが継続される。
【0068】
図10に示すように、可動刃50が可動カバー70とともにスリット14aに進入すると、可動刃50と固定刃40が閉じて、可動刃50及び固定刃40が剪断により空縫い目2を切断する。
【0069】
そして、制御部200がモーター90を停止し、可動刃50及び固定刃40が閉じた状態で可動刃50及び可動カバー70が停止する。
【0070】
その後、制御部200がモーター90を所定回転速度で逆転させる。そうすると、可動刃50がモーター90の動力により固定刃40から振り上げられるよう右へ旋回するとともに、可動カバー70が可動刃50に従動且つ遅行して固定刃40から振り上げられる。可動刃50及び可動カバー70がスリット14aから抜けて、待機ステーション80の内側に進入すると、制御部200がモーター90を停止する。そのため、可動刃50及び固定刃40が開いた状態で可動刃50及び可動カバー70が停止する。
【0071】
(3) 異物検出時の動作
図11に示すように、異物3が可動刃50の軌道に存在する場合について説明する。
使用者が操作ボタン210の押下又は接触等の操作をすると、制御部200がモーター90を所定回転速度で正転させる。可動刃50がモーター90の動力により固定刃40の方へ振り下げられるよう左へ旋回するとともに、可動カバー70が可動刃50に従動且つ先行して固定刃40の方へ振り下げられる。モーター90の正転中、制御部200が変位検出器150によって検出された差動を所定閾値と比較する。
【0072】
可動カバー70が異物3に当たると、可動刃50が旋回し続けるのに対して、可動カバー70が停止し、又はその可動カバー70の旋回速度が大きく低下する。そのため、可動刃50と可動カバー70の差動は大きくなるとともに、所定閾値以上になる。このことは、異物検出器が異物3を検出することに相当する。
【0073】
可動刃50と可動カバー70の差動が所定閾値以上になると、制御部200は、変位検出器150によって検出された差動を所定閾値以上と判定する。その結果、制御部200がモーター90を停止する。そのため、可動刃50、特にその刃先55が異物3に当たることなく、可動刃50が停止する。そのため、異物3の損傷を防止できる。
【0074】
モーター90の停止直後、制御部200がモーター90を所定回転速度で逆転させる。そうすると、可動刃50がモーター90の動力により待機ステーション80に向かって旋回するとともに、可動カバー70が可動刃50に従動且つ遅行して待機ステーション80に向かって旋回する。可動刃50及び可動カバー70が待機ステーション80の内側に進入すると、制御部200がモーター90を停止する。そのため、可動刃50及び固定刃40が開いた状態で可動刃50及び可動カバー70が停止する。
【0075】
(4) フェイルセーフ
何かしらの理由により、例えば制御部200又はロータリーエンコーダー153の誤作動又は故障により、可動カバー70が異物3に当たっても、モーター90が停止しない虞がある。そのような場合、可動カバー70が異物3に当たるため、可動刃50の刃先55が異物3に当たらない。可動カバー70が異物3に当たった後、抵抗力が異物3から可動カバー70を介して可動刃50に作用するため、モーター90が通電していてもそのモーター90が強制的に停止される。その抵抗力が小さく、異物3がモーター90の動力によって固定刃40の方へ押されても、異物3が固定カバー60に当たり、固定刃40の刃先45に当たらない。そのため、異物3が誤って切断されることがない。
【0076】
[8. 有利な技術的効果]
(1) 異物3がモーター90の正転中に異物検出器によって検出された場合、すなわち、可動カバー70が異物に当たることにより可動刃50と可動カバー70の差動が生じて、その差動がロータリーエンコーダー153によって検出された場合、制御部200がモーター90を停止し、モーター90を逆転する。そのため、可動刃50、特にその刃先55が異物3に当たらず、異物3が可動刃50によって誤って切られることがない。
【0077】
(2) 可動カバー70が可動刃50に従動且つ先行して振り下げられる。そのため、異物3が可動刃50及び可動カバー70の軌道に存在しても、可動カバー70が異物3に当たるのみで、可動刃50の刃先55が異物3に当たらない。よって、異物3が可動刃50によって誤って切られることがない。
【0078】
(3) 異物3が誤ってスリット14aに進入しても、異物3が固定カバー60に当たるだけで、固定刃40の刃先45に当たらない。よって、異物3が固定刃40によって誤って切られることがない。
【0079】
(4) フェイルセーフが実現される。つまり、使用者が操作ボタン210を押すことなくモーター90が誤作動により動作したものとしても、また、モーター90の正転中に制御部200又はロータリーエンコーダー153の誤作動又は故障により異物3が誤って検出されなくても、可動カバー70が異物3に当たるため、異物3が可動刃50によって誤って切られることがない。
【0080】
(5) 待機時、可動刃50が待機ステーション80の内側に隠れているため、異物、糸及び空縫い目等が可動刃50によって誤って傷つくことがない。
【0081】
(6) 固定刃40がスリット14aの下に配置されるため、異物、糸及び空縫い目等が固定刃40によって誤って傷つくことがない。
【0082】
[9. 変形例]
なお、本発明は上記実施形態に限られるものではない。上記実施形態が例えば以下のように変更されてもよい。
【0083】
(1) 上記実施形態では、固定カバー60が固定刃40の切刃44から刃先45の近傍まで切刃44を覆う。それに対して、固定刃40が針板16の下方に配置され、固定カバー60の代わりに針板16が固定刃40の切刃44から刃先45の近傍まで切刃44を覆ってもよい。この場合、針板16の後ろのエッジがスリット14aの縁を成すとともに、そのエッジが固定刃40の刃先45に沿う。針板16の後ろのエッジは、固定刃40の刃先45の上に位置するとともに、固定刃40の刃先45及び刃裏42よりも僅かに前に位置する。
【0084】
(2) 上記実施形態では、可動刃50が旋回可能に設けられているが、可動刃50がガイドによって高さ方向に直線的に移動可能に設けられてもよい。この場合、可動カバー70は、可動刃50に対して相対的に高さ方向に直線的に移動可能に可動刃50に取り付けられ、バネ等によって上に向けてストッパに押し当てられている。そして、可動刃50が例えばモーター及び電磁ソレノイド等のような駆動部によって下方へ駆動されると、可動カバー70が可動刃50に従動且つ先行して下降する。可動カバー70が異物に当たれば、可動刃50の刃先55が異物に当たらない。その上、可動カバー70と可動刃50の差動が生じ、その差動が差動検出器によって検出されて、制御部200が駆動部を停止するとともに駆動部に逆動作行わせるため、可動刃50が異物から上方へ離れる。可動カバー70が異物に当たらなければ、空縫い目が固定刃40及び可動刃50によって切断される。
【0085】
(3) 上記実施形態では、異物検出器が可動カバー70及びロータリーエンコーダー153及びを用いたものであるが、異物検出器が反射型又は透過型の光センサーを用いたものであってもよい。この場合、光センサーが例えば可動刃50に軌道に沿って光を投光し、異物が可動刃50の軌道に存在すれば、光センサーから発した光が異物によって遮断されるため、異物が光センサーによって検出される。
【符号の説明】
【0086】
1 ミシン
30 空縫い目カッター
40 固定刃
42 刃裏(第1刃裏)
44 切刃(第1切刃)
45 刃先(第1刃先)
50 可動刃
52 刃裏(第2刃裏)
54 切刃(第2切刃)
55 刃先(第2刃先)
60 固定カバー
70 可動カバー(プローブ)
90 モーター(駆動部)
150 変位検出器(差動検出器)
153 ロータリーエンコーダー
200 制御部