(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024021595
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】シーラントタイヤの製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 73/20 20060101AFI20240208BHJP
B29D 30/06 20060101ALI20240208BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20240208BHJP
B60C 19/12 20060101ALI20240208BHJP
C09K 3/10 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
B29C73/20
B29D30/06
B60C1/00 Z
B60C19/12 Z
C09K3/10 C
C09K3/10 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022124538
(22)【出願日】2022-08-04
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】露木 新也
(72)【発明者】
【氏名】稲本 浩典
【テーマコード(参考)】
3D131
4F213
4F215
4H017
【Fターム(参考)】
3D131AA60
3D131BC24
3D131BC51
3D131BC55
3D131LA13
3D131LA28
4F213AA45
4F213AH20
4F213AR06
4F213AR15
4F213WA58
4F213WA95
4F213WB01
4F213WM05
4F213WM15
4F213WM35
4F215AA46A
4F215AH20
4F215VA10
4F215VA11
4F215VC03
4F215VP41
4H017AA03
4H017AA04
4H017AA31
4H017AC02
4H017AD02
4H017AE01
(57)【要約】
【課題】生産性の向上を達成できるシーラントタイヤの製造方法の提供。
【解決手段】シーラントタイヤの製造方法は、シーラント材を準備する工程と、タイヤの内周面にシーラント材を塗布する工程とを含む。シーラント材の準備工程は、バッチ式混練機の混練室内でブチル系ゴムを主成分とするゴム成分を可塑化する工程SP1と、混練室内で液状ゴムをゴム成分に混合する工程SP2とを含む。液状ゴムは、小分けにされ、混練室に投入される。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面にシーラント層を有し、前記シーラント層が、ブチル系ゴムを主成分とするゴム成分と、多量の液状ゴムとを含むシーラント材を用いて形成される、シーラントタイヤの製造方法であって、
前記シーラント材を準備する工程と、
タイヤの内周面に前記シーラント材を塗布する工程と
を含み、
前記シーラント材の準備工程が、
バッチ式混練機の混練室内で前記ゴム成分を可塑化する工程と、
前記混練室内で前記液状ゴムを前記ゴム成分に混合する工程と
を含み、
前記液状ゴムが小分けにされ前記混練室に投入される、
シーラントタイヤの製造方法。
【請求項2】
前記液状ゴムの1回の投入量が、前記ゴム成分1kgに対して100g以上550g以下である、
請求項1に記載のシーラントタイヤの製造方法。
【請求項3】
前記混練室の温度が120℃以下である、
請求項1又は2に記載のシーラントタイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シーラントタイヤの製造方法に関する。詳細には、本発明は、内周面にシーラント層を有するシーラントタイヤの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パンク防止機能を備えたタイヤとして、シーラント層を内周面に有するシーラントタイヤがある。
下記特許文献1はシーラントタイヤの製造方法を提案する。この製造方法は、シーラント材をタイヤの内周面に塗布する工程を含む。シーラント材はブチル系ゴムを主成分とするゴム成分と液状ゴムとを含む。パンク時に形成される穴をシーラント材が自動的に塞ぐ。シーラントタイヤは自己修復機能を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
シーラント材を得るために、ゴム成分に液状ゴムが混合される。シーラント材は多量の液状ゴムを含む。ゴム成分に液状ゴムを混合する際、ゴム成分がだまになりやすい。ゴム成分に多量の液状ゴムを分散させるのは難しい。
【0005】
一定の充填率を維持することでゴム成分の可塑化を促しつつシェアをかけながらゴム成分に液状ゴムを混合できる観点から、特許文献1は二軸混練押出機を使用する。
【0006】
シーラント材の塗布が終わるとタイヤは、次にシーラント材を塗布するタイヤに置き換えられる。二軸混練押出機はその設備の性質上シーラント材を製造し続ける。しかしタイヤの置換作業の間、シーラント材をタイヤに塗布することはできない。そのため、この間に製造されたシーラント材は廃棄を余儀なくされる。
【0007】
シーラント材は、ゴム成分及び液状ゴム以外に、カーボンブラックや可塑剤等の薬品を含む。二軸混練押出機はシーラント材を連続して製造する。そのため、薬品の計量を連続して行うことが求められる。薬品の連続計量を行うには、設備の導入が必要である。
シーラント材の廃棄や、設備の導入は、タイヤの製造コストの上昇を招く。
【0008】
これに対してバッチ式混練機を用いてシーラント材を製造すれば、シーラント材の製造と塗布とを切り離した運用が可能となる。バッチ式混練機の採用は、前述の、置換作業におけるシーラント材の廃棄をなくす。バッチ式混練機では、薬品の連続計量も不要である。生産性向上のために、バッチ式混練機を用いたシーラント材の製造技術、具体的には、ゴム成分に多量の液状ゴムを混合する技術の確立が求められている。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものである。本発明の目的は、生産性の向上を達成できるシーラントタイヤの製造方法の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るシーラントタイヤの製造方法は、内周面にシーラント層を有し、前記シーラント層が、ブチル系ゴムを主成分とするゴム成分と、多量の液状ゴムとを含むシーラント材を用いて形成される、シーラントタイヤの製造方法である。この製造方法は、前記シーラント材を準備する工程と、タイヤの内周面に前記シーラント材を塗布する工程とを含む。前記シーラント材の準備工程は、バッチ式混練機の混練室内で前記ゴム成分を可塑化する工程と、前記混練室内で前記液状ゴムを前記ゴム成分に混合する工程とを含む。前記液状ゴムは、小分けにされ、前記混練室に投入される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、生産性の向上を達成できるシーラントタイヤの製造方法が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係るシーラントタイヤを示す断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係るシーラントタイヤの製造方法のフローを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて、本発明が詳細に説明される。
【0014】
本発明において生タイヤとは、未架橋状態のタイヤである。生タイヤはローカバーとも呼ばれる。モールド内で生タイヤを加熱及び加圧することでタイヤが得られる。タイヤは生タイヤの架橋成形物である。
【0015】
本発明においてシーラントタイヤとは、シーラント層を内周面に有するタイヤである。シーラントタイヤは、生タイヤの架橋成形物であるタイヤと、シーラント層とを備える。シーラントタイヤは、シーラント層を構成するシーラント材がパンク時に形成される穴を自動的に塞ぐ機能を有する。シーラントタイヤは、スポンジのような制音部材をシーラント層の内周面にさらに貼り付けることもできる。
【0016】
[本発明の実施形態の概要]
[構成1]
本発明の一態様に係るシーラントタイヤの製造方法は、内周面にシーラント層を有し、前記シーラント層が、ブチル系ゴムを主成分とするゴム成分と、多量の液状ゴムとを含むシーラント材を用いて形成される、シーラントタイヤの製造方法であって、
前記シーラント材を準備する工程と、
タイヤの内周面に前記シーラント材を塗布する工程と
を含み、前記シーラント材の準備工程が、
バッチ式混練機の混練室内で前記ゴム成分を可塑化する工程と、
前記混練室内で前記液状ゴムを前記ゴム成分に混合する工程と
を含み、前記液状ゴムが小分けにされ前記混練室に投入される。
【0017】
シーラントタイヤの製造方法をこのように整えることにより、混練室内の液状ゴムの量が段階的に引き上げられる。そのため、ゴム成分が可塑化した状態を維持しつつゴム成分にシェアをかけながら、ゴム成分に液状ゴムが混合される。ゴム成分がだまになることが抑制され、ゴム成分への液状ゴムの分散が促される。この製造方法では、二軸混練押出機を用いた従来の製造方法で得られるシーラント材の品質と同等以上の品質を有するシーラント材が得られる。
この製造方法は、バッチ式混練機を用いるので、シーラント材の製造と塗布とを切り離した運用が可能である。二軸混練押出機を用いた従来の製造方法のような、シーラント材の廃棄は生じない。薬品の連続計量も行わないので、連続計量のための設備の導入も不要である。この製造方法は、シーラント材の品質を維持しながら、生産性の向上を達成できる。
【0018】
[構成2]
好ましくは、前述の[構成1]に記載のシーラントタイヤの製造方法において、前記液状ゴムの1回の投入量が前記ゴム成分1kgに対して100g以上550g以下である。
このようにシーラントタイヤの製造方法を整えることにより、液状ゴムの投入回数による生産性への影響が効果的に抑えられる。ゴム成分が可塑化した状態を維持しつつゴム成分にシェアをかけながら、このゴム成分に液状ゴムが混合される。シーラント材の品質を維持しながら、生産性の向上が達成される。
【0019】
[構成3]
好ましくは、前述の[構成1]又は[構成2]に記載のシーラントタイヤの製造方法において、前記混練室の温度が120℃以下である。
このようにシーラントタイヤの製造方法を整えることにより、ゴム成分の粘度が適切に維持されるので、この製造方法はゴム成分にシェアをかけながら液状ゴムを混合できる。ゴム成分の変質が抑制されるので、良好な品質を有するシーラント材が得られる。
【0020】
[本発明の実施形態の詳細]
[シーラントタイヤ]
図1は、本発明の一実施形態に係るシーラントタイヤ2(以下、タイヤ2とも呼ばれる。)の子午線断面を示す。
図1において、左右方向はタイヤ2の軸方向であり、上下方向はタイヤ2の径方向である。
図1の紙面に対して垂直な方向は、タイヤ2の周方向である。
図1においてタイヤ2はリムRに組まれている。
【0021】
タイヤ2は、トレッド4、一対のサイドウォール6、一対のビード8、カーカス10、ベルト12、インナーライナー14及びシーラント層16を備える。
タイヤ2のうち、トレッド4、一対のサイドウォール6、一対のビード8、カーカス10、ベルト12及びインナーライナー14を含む部分は、モールド内で生タイヤを加圧及び加熱することで得られるタイヤ18(以下、シーラントタイヤ2との区別のために、タイヤ本体18とも呼ばれる。)である。タイヤ2は、タイヤ本体18の内周面にシーラント層16を設けることで得られる。タイヤ2はその内周面にシーラント層16を有する。
【0022】
トレッド4はカーカス10の径方向外側に位置する。トレッド4は路面と接地する。トレッド4は架橋ゴムからなる。
それぞれのサイドウォール6はトレッド4の径方向内側に位置する。サイドウォール6はカーカス10の軸方向外側に位置する。サイドウォール6は架橋ゴムからなる。
ビード8はコア20とエイペックス22とを備える。図示されないが、コア20はスチール製のワイヤを含む。エイペックス22はコア20の径方向外側に位置する。エイペックス22は径方向外向きに先細りである。エイペックス22は硬質な架橋ゴムからなる。
カーカス10は一対のビード8の間を架け渡す。カーカス10はカーカスプライ24を備える。カーカス10が2枚以上のカーカスプライ24で構成されてもよい。カーカスプライ24はビード8で折り返される。図示されないが、カーカスプライ24は並列した多数のカーカスコードを含む。
ベルト12は径方向においてトレッド4とカーカス10との間に位置する。ベルト12は少なくとも1枚のベルトプライ26を備える。
図1に示されたベルト12は2枚のベルトプライ26で構成される。図示されないが、ベルトプライ26は並列した多数のベルトコードを含む。
このタイヤ2はトレッド4とベルト12との間にバンド(図示されず)を備えることができる。バンドは螺旋状に巻かれたバンドコードを含む。
インナーライナー14はカーカス10の内側に位置する。インナーライナー14はタイヤ本体18の内周面を構成する。インナーライナー14は、空気遮蔽性に優れた架橋ゴムからなる。インナーライナー14はタイヤ2の内圧を保持する。
シーラント層16は、トレッド4の径方向内側においてインナーライナー14の内側に位置する。
図1に示されたシーラント層16は、インナーライナー14の内面に積層される。シーラント層16が設けられている部分では、インナーライナー14が除かれてもよい。
【0023】
[シーラント材]
シーラント層16はシーラント材を用いて形成される。シーラント層16はシーラント材を含む。シーラント材は、ブチル系ゴム及び多量の液状ゴムを含む。
【0024】
ブチル系ゴムとしては、ブチルゴム及びハロゲン化ブチルゴムが挙げられる。ハロゲン化ブチルゴムとしては、臭素化ブチルゴム及び塩素化ブチルゴムが挙げられる。
ブチル系ゴムとして、ブチルゴムが単独で用いられてもよく、ハロゲン化ブチルゴムが単独で用いられてもよい。ブチルゴムとハロゲン化ブチルゴムとが併用されてもよい。
ハロゲン化ブチルゴムとして、臭素化ブチルゴムが単独で用いられてもよく、塩素化ブチルゴムが単独で用いられてもよい。臭素化ブチルゴムと塩素化ブチルゴムとが併用されてもよい。
【0025】
シーラント材の流動性が考慮され、ブチル系ゴムとして、125℃のムーニー粘度ML1+8が20以上80以下のブチル系ゴムが好適に用いられる。ブチル系ゴムとしては、125℃のムーニー粘度ML1+8が20以上40未満のブチル系ゴム(以下、ブチル系ゴムA)及び/又は125℃のムーニー粘度ML1+8が40以上80以下のブチル系ゴム(以下、ブチル系ゴムB)が好ましい。
ブチル系ゴムAが単独で用いられてもよく、ブチル系ゴムBが単独で用いられてもよい。ブチル系ゴムAとブチル系ゴムBとが併用されてもよい。ブチル系ゴムA及びBを併用する場合、両者の配合比は適宜設定される。
シーラント材の流動性の低下を抑制する観点から、ブチル系ゴムAの使用がより好ましい。
【0026】
ブチル系ゴムAの125℃のムーニー粘度ML1+8は、より好ましくは25以上、更に好ましくは28以上であり、また、より好ましくは38以下、更に好ましくは35以下である。ブチル系ゴムAの125℃のムーニー粘度ML1+8が20未満であると、流動性が低下するおそれがあり、40以上であると、ブチル系ゴムBと併用する場合、その効果が得られないおそれがある。
【0027】
ブチル系ゴムBの125℃のムーニー粘度ML1+8は、より好ましくは45以上、更に好ましくは48以上であり、また、より好ましくは70以下、更に好ましくは60以下である。40未満であると、併用する場合、その効果が得られないおそれがある。80を超えると、シール性が低下するおそれがある。
【0028】
本発明において125℃のムーニー粘度ML1+8は、JIS K6300-1:2001に準拠し、試験温度125℃で、L形の形状を有するローターを余熱時間1分間とし、ローターの回転時間を8分間として測定される。
【0029】
前述したように、シーラント材は、ゴム成分としてブチル系ゴムを含む。ブチル系ゴムがゴム成分の主成分であればよく、シーラント材がブチル系ゴム以外のゴム成分を含んでもよい。ブチル系ゴム以外のゴム成分としては、天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、イソプレンゴム、エチレンプロピレンゴム、クロロプレンゴム及びアクリロニトリルブタジエンゴムが挙げられる。
【0030】
本発明においてブチル系ゴムがゴム成分の主成分であるとは、ゴム成分全量に対するブチル系ゴムの量の比率(すなわち、ブチル系ゴムの含有率)が50質量%以上であることを意味する。ブチル系ゴムの含有率は、80質量%以上であるのが好ましく、90質量%以上であるのがより好ましく、95質量%以上であるのがさらに好ましい。ゴム成分全量がブチル系ゴムであるのが特に好ましい。
【0031】
液状ゴムとして、液状ポリブテン、液状ポリイソブテン、液状ポリイソプレン、液状ポリブタジエン、液状ポリα-オレフィン、液状イソブチレン、液状エチレンα-オレフィン共重合体、液状エチレンプロピレン共重合体及び液状エチレンブチレン共重合体が挙げられる。これらのうち、粘着性付与の観点から、液状ポリブテンが好ましい。液状ポリブテンとしては、イソブテンを主体とし、更にノルマルブテンを反応させて得られる長鎖状炭化水素の分子構造を持った共重合体等が挙げられ、水素添加型液状ポリブテンも使用可能である。
【0032】
液状ゴムとしては、高速走行でのシーラント層16の形態保持の観点から、100℃の動粘度が550mm2/s以上625mm2/s以下である液状ゴムA又は100℃の動粘度が3540mm2/s以上4010mm2/s以下である液状ゴムBを使用するのが好ましく、液状ゴムA及び液状ゴムBを併用するのがより好ましい。
【0033】
液状ゴムAの40℃の動粘度は、シーラント層16の形態保持の観点から、20000mm2/s以上であるのが好ましい。この動粘度は、良好なシール性の保持の観点から、30000mm2/s以下であるのが好ましい。
【0034】
液状ゴムBの40℃の動粘度は、シーラント層16の形態保持の観点から、120000mm2/s以上であるのが好ましい。この動粘度は、良好なシール性の保持の観点から、200000mm2/s以下であるのが好ましい。
【0035】
本発明において液状ゴムの動粘度は、JIS K2283-2000に準拠し、100℃又は40℃の条件で測定される値で表される。
【0036】
前述したようにシーラント材は多量の液状ゴムを含む。具体的には、液状ゴムの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、50質量部以上であるのが好ましく、100質量部以上であるのがより好ましく、150質量部以上であるのがさらに好ましい。含有量が50質量部未満であると、粘着性が低下するおそれがあるからである。
液状ゴムの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、400質量部以下であるのが好ましく、300質量部以下であるのがより好ましく、250質量部以下であるのがさらに好ましい。含有量が400質量部を超えると、シーラント層16がその形態を保持できなくなるおそれがあるからである。
【0037】
液状ゴムとして、液状ゴムA及び液状ゴムBが併用される場合、良好な粘着性を有するシーラント材が得られる観点から、液状ゴムA及び液状ゴムBの配合比(液状ゴムAの含有量/液状ゴムBの含有量)は、10/90以上であるのが好ましく、30/70以上であるのがより好ましく、40/60以上であるのがさらに好ましい。この配合比は、90/10以下であるのが好ましく、70/30以下であるのがより好ましく、60/40以下であるのがさらに好ましい。
【0038】
シーラント材は架橋剤を含むことができる。架橋剤としては、特に限定されず、従来公知の化合物を使用できる。有機過酸化物架橋系においてブチル系ゴム及び液状ゴムを用いることで、粘着性、シール性、流動性、加工性が改善される。この観点から、架橋剤としては、有機過酸化物が好ましい。
【0039】
架橋剤として有機過酸化物を用いる場合、架橋剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上、さらに好ましくは5質量部以上である。0.5質量部未満では、架橋密度が低くなり、シーラント層16としてその形態を保持できなくなるおそれがある。架橋剤の含有量は、好ましくは40質量部以下、より好ましくは20質量部以下、さらに好ましくは15質量部以下である。40質量部を超えると、架橋密度が高くなり、シーラント層16が硬くなり、シール性が低下するおそれがある。
【0040】
シーラント材は架橋助剤をさらに含むことができる。架橋助剤としては、スルフェンアミド系、チアゾール系、チウラム系、チオ尿素系、グアニジン系、ジチオカルバミン系、アルデヒド-アミン系、アルデヒド-アンモニア系、イミダゾリン系、キサントゲン酸系、及びキノンジオキシム化合物(キノイド化合物)からなる群より選択される少なくとも1種を使用することができる。シーラント材は、架橋助剤として、例えば、キノンジオキシム化合物(キノイド化合物)を好適に使用可能である。有機過酸化物にさらに架橋助剤を添加した架橋系において、ブチル系ゴムや液状ゴムを用いることで、粘着性、シール性、流動性、加工性が改善される。
【0041】
架橋助剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上、さらに好ましくは3質量部以上である。0.5質量部未満では、シーラント層16としてその形態を保持できなくなるおそれがある。架橋助剤の含有量は、好ましくは40質量部以下、より好ましくは20質量部以下、さらに好ましくは15質量部以下である。40質量部を超えると、シール性が低下するおそれがある。
【0042】
シーラント材は、カーボンブラック、シリカ等の無機充填剤を含むことができる。紫外線による劣化を防止する観点から、無機充填剤としてカーボンブラックが好ましい。この場合、カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは10質量部以上である。1質量部未満では、紫外線による劣化により、シール性が低下するおそれがある。カーボンブラックの含有量は、好ましくは50質量部以下、より好ましくは40質量部以下、さらに好ましくは25質量部以下である。50質量部を超えると、シーラント材の粘度が高くなり過ぎて、シール性が悪化するおそれがある。
【0043】
シーラント材はさらに、芳香族系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、パラフィン系プロセスオイル等の可塑剤、ステアリン酸のような滑剤、老化防止剤、加工助剤、架橋助剤等の薬品を含むこともできる。薬品の選定、選定した薬品の含有量等は、シーラント材の仕様に応じて適宜決められる。
【0044】
前述の架橋剤及び架橋助剤は、前述の薬品に含まれる。シーラント材は、ブチル系ゴムを主成分とするゴム成分と、液状ゴムと、薬品とを含む。ゴム成分、液状ゴム及び薬品は、シーラント材を構成する成分である。架橋剤及び架橋助剤以外の薬品は、補助薬品とも呼ばれる。
【0045】
[シーラントタイヤの製造方法]
以上説明したタイヤ2は次のようにして製造される。前述したように、タイヤ2は、生タイヤを加硫成形して得られるタイヤ本体18の内周面にシーラント層16を設けることで得られる。シーラント層16は、タイヤ本体18の内周面にシーラント材を塗布することで得られる。
この製造方法では、タイヤ本体18は公知の方法で製造される。タイヤ本体18の製造に関する説明は省略され、タイヤ本体18を製造してからタイヤ2が得られるまでの流れが以下に説明される。
【0046】
図2は、本発明の一実施形態に係るシーラントタイヤ2の製造方法のフローを示す。
このタイヤ2の製造方法は、シーラント材を準備する工程(以下、準備工程SPとも呼ばれる。)と、タイヤ本体18の内周面にシーラント材を塗布する工程(以下、塗布工程SAとも呼ばれる。)とを含む。
【0047】
シーラント材は、ゴム成分と、液状ゴムと、架橋剤と、架橋助剤と、補助薬品とを含む。準備工程SPでは、これら成分が混合されシーラント材が準備される。
例えば、混練機において、補助薬品をゴム成分に混合した後、液状ゴムが混合されてもよい。この場合、液状ゴムを混合する過程で架橋助剤及び架橋剤が混合され、シーラント材が準備される。
混練機において、補助薬品をゴム成分に混合した後、液状ゴムを混合し、シーラント材の中間材料が準備されもよい。この場合、中間材料の保管が可能であり、塗布工程SAの前に中間材料に架橋助剤及び架橋剤が混合され、シーラント材が準備される。
補助薬品をゴム成分に混合した主材(マスターバッチとも呼ばれる。)を予め準備しておき、混練機においてこの主材に液状ゴムが混合されてもよい。この場合、液状ゴムを混合する過程において、架橋助剤及び架橋剤が主材に混合され、シーラント材が準備されてもよい。液状ゴムを主材に混合した段階で中間材料として保管し、塗布工程SAの前にこの中間材料に架橋助剤及び架橋剤が混合され、シーラント材が準備されてもよい。
架橋助剤及び架橋剤を混合する場合、架橋助剤は架橋剤よりも先に混合され、架橋剤は混合の最終段階で混合される。
【0048】
塗布工程SAでは、タイヤ本体18の内周面にシーラント材が塗布される。これにより、
図1に示されたシーラント層16を有するタイヤ2が得られる。
図示されないが、この製造方法では、インナーライナー14の内面にシーラント材がスパイラル状に塗布される。より具体的には、例えば、タイヤ本体18を回転させながら、かつ、軸方向に移動させつつ、シーラント材をノズル(図示されず)から吐出することによって、インナーライナー14の内面にシーラント材がスパイラル状に塗布される。なお、シーラント層16の厚さは、タイヤ本体18の回転速度、移動速度、ノズルの先端とインナーライナー14の内面との距離等を調整することにより調整することができる。
【0049】
図3は準備工程SPの一部のフローを示す。前述したように、準備工程SPは、ゴム成分、液状ゴム及び薬品の混合パターンとして様々なパターンを採用できるが、いずれの混合パターンにおいても、ゴム成分に液状ゴムを混合するプロセスが含まれる。
図3は、この混合プロセスのフローを示す。
準備工程SPは、ゴム成分に液状ゴムを混合するプロセスを含み、この混合プロセスは、ゴム成分を可塑化する工程(以下、可塑化工程SP1)と、液状ゴムをゴム成分に混合する工程(以下、混合工程SP2)とを含む。可塑化工程SP1及び混合工程SP2はバッチ式混練機を用いて行われる。
【0050】
バッチ式混練機としては、市販のバッチ式混練機が用いられる。詳述しないが、バッチ式混練機(以下、単に、混練機とも呼ばれる。)は、ゴム成分、薬品等が投入される、混練室を有する。混練室内にはローターが設けられ、ローターを回転させることでゴム成分に液状ゴム他が混合される。混練により混錬室の温度は上昇する。過度な温度上昇を避けるために、混練室には冷却装置が設けられる。このような混練機として、例えば、ニーダールーダーが挙げられる。
【0051】
可塑化工程SP1では、混練機の混練室にゴム成分が投入される。補助薬品をゴム成分に混合した主材が予め準備される場合は、ゴム成分を含む主材が混練室に投入される。
ゴム成分の投入後、混練室内のローターを回転させて、ゴム成分の素練りが開始される。可塑化工程SP1では、ローターの回転速度は段階的に引き上げられる。
【0052】
前述したように、シーラント材はゴム成分と液状ゴムを含む。混合工程SP2では、素練りしたゴム成分に液状ゴムが投入されるが、ゴム成分の可塑化が不十分な状態で液状ゴムをゴム成分に混合すると、ゴム成分がだまになりやすい。だまが一旦形成されると、このだまは消えにくい。
可塑化工程SP1では、混練室内の温度と、ローターの回転トルクとを確認するとともに、混練室内の材料の状態を目視で観察して、ゴム成分の可塑化の状態が判断される。
【0053】
ゴム成分の可塑化が進むと、ローターの回転トルクは徐々に低下し、やがて安定する。回転トルクの安定状態が、数分間、具体的には、1分以上続くことを確認することで、ローターの回転が停止される。これにより、ゴム成分の可塑化工程SP1は終了し、混合工程SP2が開始される。
【0054】
混合工程SP2では、液状ゴムが混錬室に投入される。液状ゴムの投入後、ローターの回転が再開される。これにより、液状ゴムがゴム成分に混合される。
【0055】
前述したように、シーラント材における液状ゴムの含有量は、好ましくは、ゴム成分100質量部に対して50質量部以上である。シーラント材を得るために、多量の液状ゴムがゴム成分に混合される。そのため、多量の液状ゴムを一度に投入すると、可塑化したゴム成分にシェアがかからず、液状ゴムをゴム成分に十分に混合できない恐れがある。液状ゴムがゴム成分に分散したシーラント材が形成されなければ、シーラント層16は本来の機能を発揮できない。
【0056】
この製造方法では、混合工程SP2において、液状ゴムは小分けにされ混練室に投入される。言い換えれば、ゴム成分に混合される液状ゴム全量を複数回に分けて、液状ゴムが混練室に投入される。この混合工程SP2は、全ての投入量を同量で設定してもよく、投入量を徐々に増やすように設定してもよく、投入量を徐々に減らすように設定してもよい。投入量は、シーラント材の仕様に応じて適宜設定される。
液状ゴムとして複数の液状ゴムを用いる場合は、それぞれの液状ゴムを複数回に分けて、液状ゴム全量が投入される。例えば、液状ゴムとして、前述の液状ゴムA及び液状ゴムBを使用する場合、液状ゴムA全量を複数回に分けて、液状ゴムAが混練室に投入され、液状ゴムB全量を複数回に分けて、液状ゴムBが混練室に投入される。液状ゴムAを投入してから液状ゴムBが投入されてもよく、液状ゴムBを投入してから液状ゴムAが投入されてもよく、液状ゴムAと液状ゴムBとが交互に投入されてもよい。
【0057】
混合工程SP2では、液状ゴムを投入すると、前述したように、ローターの回転が再開される。これにより、液状ゴムの混合、言い換えれば、混合工程SP2の第一ステップが開始される。
【0058】
混合工程SP2では、ローターは一定の回転速度で回転させられる。混合工程SP2でのローターの回転速度は、可塑化工程SP1でのローターの最終到達回転速度よりも早い回転速度に設定される。具体的には、混合工程SP2でのローターの回転速度は、可塑化工程SP1でのローターの最終到達回転速度の1.2倍から1.3倍の回転速度に設定される。
【0059】
混合工程SP2においても、混練室内の温度と、ローターの回転トルクを確認するとともに、混練室内の材料の状態を目視で観察して、混合状態が確認される。
【0060】
ローターの回転トルクは、液状ゴムを投入し混合を再開すると大きく低下するが、しばらくすると回転トルクが上昇に転じる。その後、回転トルクは安定するか、徐々に低下する。回転トルクの安定状態又は低下傾向が少なくとも30秒間続くことを確認したら、ローターの回転が停止される。
【0061】
ローターの回転を停止すると、次の液状ゴムが混練室に投入される。そして、液状ゴムの混合が再開される。この製造方法の混合工程SP2では、液状ゴムの投入が最終ステップまで複数回繰り返される。
【0062】
混合工程SP2では、混練室内の液状ゴムの量が段階的に引き上げられる。ゴム成分に混合される液状ゴムの量が段階的に増えていくので、ゴム成分が可塑化した状態を維持しつつゴム成分にシェアをかけながら、ゴム成分に液状ゴムが混合される。そのため、ゴム成分がだまになることが抑制され、ゴム成分への液状ゴムの分散が促される。
この混合工程SP2は、液状ゴムをゴム成分に良好に分散させる。二軸混練押出機を用いた従来の製造方法で得られるシーラント材の品質と同等以上の品質を有するシーラント材が得られる。
この製造方法は、バッチ式混練機を用いるので、シーラント材の製造と塗布とを切り離した運用が可能である。二軸混練押出機を用いた従来の製造方法のような、シーラント材の廃棄は生じない。薬品の連続計量も行わないので、連続計量のための設備の導入も不要である。この製造方法は、シーラント材の品質を維持しながら、生産性の向上を達成できる。
【0063】
この製造方法では、液状ゴムの1回の投入量は、ゴム成分1kgに対して100g以上550g以下であるのが好ましい。
液状ゴムの1回の投入量がゴム成分1kgに対して100g以上に設定されることにより、液状ゴムの投入回数による生産性への影響が効果的に抑えられる。この観点から、液状ゴムの1回の投入量はゴム成分1kgに対して200g以上であるのがより好ましい。
液状ゴムの1回の投入量がゴム成分1kgに対して550g以下に設定されることにより、ゴム成分が可塑化した状態を維持しつつゴム成分にシェアをかけながら、このゴム成分に液状ゴムが混合される。ゴム成分に液状ゴムが良好に分散したシーラント材が得られる。シーラント材の品質を維持しながら、生産性の向上が達成される。この観点から、液状ゴムの1回の投入量はゴム成分1kgに対して450g以下であるのがより好ましい。
【0064】
前述したように、混練により混錬室の温度は上昇する。温度が上昇するとゴム成分の粘度が低下する。この場合、ゴム成分にシェアをかけながら液状ゴムを混合することが難しくなる。混錬室の温度が過度に上昇し120℃を超えると、ゴム成分の性状が変化することも懸念される。ゴム成分の変質はシーラント材の品質を低下させる。
【0065】
この製造方法では、混練室の温度は120℃以下であるのが好ましい。ゴム成分の粘度が適切に維持されるので、この製造方法はゴム成分にシェアをかけながら液状ゴムを混合できる。ゴム成分の変質が抑制されるので、良好な品質を有するシーラント材が得られる。この観点から、混練室の温度は100℃以下であるのがより好ましい。
【0066】
混練室の温度が低すぎると、ゴム成分の可塑化を促すことが困難となる。この場合、ゴム成分がだまになりやすく、ゴム成分と液状ゴムとを十分に混ぜ合わせることができない恐れがある。
ゴム成分の可塑化を効果的に促すことができる観点から、混練室の温度は50℃以上であるのが好ましく、60℃以上であるのがより好ましい。
【0067】
この製造方法では、可塑化工程SP1において、ゴム成分又は主材が混練室に投入される。ゴム成分又は主材の投入量が少ないと、ゴム成分の可塑化を促すことも、ゴム成分にシェアをかけることも難しい。逆に投入量が多いと混錬室の温度が過度に上昇する恐れがある。そのため、混錬室の内部容積に占める、この混錬室に投入されるゴム成分又は主材の体積の比率(以下、充填率とも呼ばれる。)が調整されるのが好ましい。具体的には、充填率は20%以上70%以下であるのが好ましい。
充填率が20%以上に設定されることにより、ゴム成分にシェアをかけながらゴム成分の可塑化を促すことができる。この観点から、充填率は30%以上であるのがより好ましい。
充填率が70%以下に設定されることにより、混錬室の温度が過度に上昇することが抑制される。ゴム成分の変質が抑えられるので、良好な品質を有するシーラント材が得られる。この観点から、充填率は50%以下であるのがより好ましい。
【0068】
以上説明したように、本発明によれば、生産性の向上を達成できるシーラントタイヤの製造方法が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
以上説明された、生産性の向上を達成できるシーラント材の製造技術は、種々のシーラントタイヤの製造に適用されうる。
【符号の説明】
【0070】
2・・・シーラントタイヤ
4・・・トレッド
6・・・サイドウォール
8・・・ビード
10・・・カーカス
12・・・ベルト
14・・・インナーライナー
16・・・シーラント層
18・・・タイヤ(タイヤ本体)
20・・・コア
22・・・エイペックス
24・・・カーカスプライ
26・・・ベルトプライ