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特開2024-21631ワイヤレス給電システム、並びに、ワイヤレス給電式の受電側機器及び給電側機器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024021631
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】ワイヤレス給電システム、並びに、ワイヤレス給電式の受電側機器及び給電側機器
(51)【国際特許分類】
   H02J 50/12 20160101AFI20240208BHJP
【FI】
H02J50/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022124610
(22)【出願日】2022-08-04
(71)【出願人】
【識別番号】599035627
【氏名又は名称】学校法人加計学園
(74)【代理人】
【識別番号】100187838
【弁理士】
【氏名又は名称】黒住 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100220892
【弁理士】
【氏名又は名称】舘 佳耶
(74)【代理人】
【識別番号】100205589
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 和将
(72)【発明者】
【氏名】石田 弘樹
(57)【要約】      (修正有)
【課題】給電側コイルと受電側コイルとの間に金属部材が存在する場合であっても、高い効率で電力伝送を行うワイヤレス給電システムを提供する。
【解決手段】ワイヤレス給電システムにおいて、給電側機器1を、給電側コイル11を含む給電側共振回路10と、インバータ回路20とを備えたものとし、受電側機器2を、受電側コイル41を含む受電側共振回路40を備えたものとし、給電側コイル11に交流電流を流した際に発生する交流磁界によって、給電側共振回路10と受電側共振回路40とを磁気共鳴させるようにするとともに、インバータ回路20が、給電側共振回路10と受電側共振回路40とを相互インダクタンスにより互いに結合された複共振回路とみなしたときに共振電流が循環する2つの共振ループのうち、いずれか一方の共振ループで発振し続けるように電流制御を行うことで、給電側共振回路10と受電側共振回路40とのPT対称性を保存する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
給電側機器の給電側コイルから、受電側機器の受電側コイルに対して、金属部材越しに電力伝送を行うワイヤレス給電システムであって、
給電側機器が、給電側コイルを含む給電側共振回路と、給電側共振回路に交流電力を出力するインバータ回路とを備え、
受電側機器が、受電側コイルを含む受電側共振回路を備え、
給電側コイルに交流電流を流した際に発生する交流磁界によって、給電側共振回路と受電側共振回路とを磁気共鳴させ、給電側機器から受電側機器に対して電力伝送を行うようにするとともに、
インバータ回路が、給電側共振回路と受電側共振回路とを相互インダクタンスにより互いに結合された複共振回路とみなしたときに共振電流が循環し得る2つの共振ループのうち、いずれか一方の共振ループで発振し続けるように電流制御を行うことによって、
給電側共振回路と受電側共振回路とのPT対称性が保存されるようにした
ことを特徴とするワイヤレス給電システム。
【請求項2】
インバータ回路が、前記2つの共振ループのうち共振周波数が高くなる方の共振ループで発振するように電流制御を行う請求項1記載のワイヤレス給電システム。
【請求項3】
インバータ回路の駆動周波数が、100kHz以下とされた請求項2記載のワイヤレス給電システム。
【請求項4】
インバータ回路の発振を誘発してワイヤレス給電システムを起動するトリガー機構を備えた請求項3記載のワイヤレス給電システム。
【請求項5】
インバータ回路が、
給電側コイルの電流波形を検出する電流センサと、
電流センサによって検出された電流波形のゼロクロスポイントで給電側コイルに出力する電流のスイッチングを行うスイッチング回路と
を有する請求項4記載のワイヤレス給電システム。
【請求項6】
給電側コイルが、受電側コイルよりも厚く形成された請求項1~5いずれか記載のワイヤレス給電システム。
【請求項7】
受電側コイルが、アモルファス磁性材料をシート状に形成した磁性シートに重ねられた請求項6記載のワイヤレス給電システム。
【請求項8】
給電側コイルが、フェライト材からなる磁性体コアに取り付けられ、
磁性体コアが、
給電側コイルにおける、受電側コイルが配される側とは逆側の面を覆う基台部と、
給電側コイルに内挿される内側凸部と、
給電側コイルの外周部を覆う外側凸部と
を有するものとされた
請求項7記載のワイヤレス給電システム。
【請求項9】
受電側コイルを含む受電側共振回路を備え、
給電側機器の給電側共振回路に含まれる給電側コイルに交流電流を流した際に発生する交流磁界によって、その受電側共振回路が給電側共振回路と磁気共鳴し、
給電側機器から電力伝送がされるワイヤレス給電式の受電側機器であって、
受電側コイルの一面側が、金属製カバーによって覆われるとともに、
受電側コイルの他面側に、アモルファス磁性材料をシート状に形成した磁性シートが重ねられた
ことを特徴とするワイヤレス給電式の受電側機器。
【請求項10】
給電側コイルを含む給電側共振回路を備え、
給電側コイルに交流電流を流した際に発生する交流磁界によって、その給電側共振回路が、受電側機器における受電側コイルを含む受電側共振回路と磁気共鳴し、
受電側機器に電力伝送するワイヤレス給電式の給電側機器であって、
給電側共振回路に交流電力を出力するためのインバータ回路を備え、
インバータ回路が、
給電側コイルの電流波形を検出する電流センサと、
電流センサによって検出された電流波形のゼロクロスポイントで給電側コイルに出力する電流のスイッチングを行うスイッチング回路と
を有する
ことを特徴とするワイヤレス給電式の給電側機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、給電側機器の給電側コイルから、受電側機器の受電側コイルに対して、金属部材越しに電力伝送を行うワイヤレス給電システムと、このワイヤレス給電システムに好適に用いることができるワイヤレス給電式の受電側機器及び給電側機器とに関する。
【背景技術】
【0002】
電源コード等を介さずに非接触(ワイヤレス)で電力を電子機器に供給するワイヤレス給電の実用化が図られている。ワイヤレス給電における給電方式は、電波(マイクロ波)やレーザー光等でエネルギーを伝送する放射型と、電界や磁界でエネルギーを伝送する非放射型とに大別される。このうち、放射型のワイヤレス給電は、現在の技術ではエネルギー損失が大きく、電力伝送の効率アップが難しいため、研究段階に留まっているのが実情である。これに対して、非放射型のワイヤレス給電は、スマートフォン等の身近な機器で実用化されている。
【0003】
磁界でエネルギーを伝送する非放射型のワイヤレス給電は、さらに、電磁誘導方式のものと、磁気共鳴方式のものとに分類される。
【0004】
電磁誘導方式のワイヤレス給電では、給電側コイルに交流電流を流し、給電側コイルを貫く磁束に変化を与えることによって、給電側コイルの近くに配された受電側コイルを貫く磁束を変化させ、受電側コイルに誘導電流を流すことで、給電側コイルから受電側コイルへと電力伝送が行われる。例えば、特許文献1の図4には、電磁誘導方式のワイヤレス給電により充電可能とした腕時計が開示されている。同文献の腕時計では、裏蓋1の内側に配した誘導コイル14’(受電側コイル)を通じて充電を行うようになっている(同文献の段落0006を参照。)。
【0005】
これに対して、磁気共鳴方式のワイヤレス給電では、給電側コイルを含む給電側共振回路を給電側機器に設けるとともに、それと同じ共振周波数を持つ受電側コイルを含む受電側共振回路を受電側機器に設け、給電側コイルに交流電流を流すと発生する交流磁界によって給電側共振回路と受電側共振回路を共鳴させることで、電力伝送を行う。例えば、特許文献2の図5には、磁気共鳴方式のワイヤレス充電により充電可能としたヘッドホンが開示されている。同文献のヘッドホンでは、一方のヘッドホンハウジング1に内蔵した磁気共鳴コイル32(受電側コイル)を通じて充電を行うようになっている(同文献の段落0019を参照。)。
【0006】
このように、非放射型ワイヤレス給電(電磁誘導方式や磁気共鳴方式のワイヤレス給電)は、スマートフィン等、低電力向けの機器において、その需要が広がりつつある。15W以下の低電力向けの非放射型ワイヤレス給電では、Qi(チー)という国際標準規格も策定されている。このQi規格では、使用する周波数帯を110~205kHzとすることが定められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2021-056210号公報
【特許文献2】特開2021-190977号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】S.Assawawоrrarit, X.Yu, and S.Fan, “Rоbust wireless pоwer transfer using a nоnlinear parity-time symmetric circuit” Nature, 546, 387(2017)
【非特許文献2】J.Zhоu, B.Zhang, W.Xiaо, D.Qiu, and Y.Chen, IEEE Transactiоns оn Industrial Electronics, 66(5), 4097-4107(2019)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、非放射型ワイヤレス給電のアプリケーションによっては、給電側コイルと受電側コイルとの間に、金属部材が存在する場合がある。例えば、腕時計は、その裏面(文字盤とは反対側を向く面)側が金属製蓋で覆われた構造を有していることが一般的であるところ、この腕時計を、電磁誘導方式や磁気共鳴方式のワイヤレス給電に対応したものにしようとすると、上記の受電側コイルを、金属製蓋の内側に配する必要がある。このため、その腕時計(受電側機器)に充電を行う際には、ワイヤレス充電器(給電側機器)の給電側コイルの上側に受電側コイルが重なるように、腕時計をワイヤレス充電器にセットするようになる。したがって、給電側コイルと受電側コイルとの間に金属製蓋(金属部材)が存在する状態で、給電側コイルから受電側コイルに電力伝送を行うようになる。
【0010】
しかし、金属製蓋(金属部材)を挟んだ状態で、上記のQi規格における110~205kHzといった周波数帯で電力伝送を行うと、磁場が金属製蓋(金属部材)を透過しにくく、電力伝送の効率が著しく低下するという問題が生じる。というのも、金属製蓋(金属部材)への磁場の侵入深さδは、円周率をπとし、交流磁場の周波数をfとし、真空の透磁率をμとし、金属製蓋(金属部材)の導電率をσとすると、下記式0.1で表される。腕時計の金属製蓋は、通常、1mm以上の厚さを有しており、厚いものでは2mmを超えるものも珍しくないところ、金属製蓋(金属部材)の素材をステンレス鋼(導電率σが1.39×10S/mのSUS304)とし、交流磁場の周波数fを200kHzとした場合の磁場の侵入深さδを、下記式0.1を用いて求めると、0.92mmと短くなるからである。後で述べるが、そのときの電力伝送の効率は、1~2%と非常に低くなる。

【数1】
【0011】
また、金属製蓋(金属部材)を挟んだ状態で、上記のQi規格における110~205kHzといった周波数帯で電力伝送を行うと、交流磁界の磁気エネルギーが金属製蓋(金属部材)に吸収されてしまい、金属製蓋(金属部材)が温度上昇して高温になるという問題も生ずる。
【0012】
さらに、腕時計(受電側機器)に充電(電力伝送)を行う際には、通常、ワイヤレス充電器(給電側機器)の給電側コイルと、受電側機器の受電側コイルとが同軸上で重なるように、腕時計をワイヤレス充電器にセットする。しかし、ワイヤレス充電器における、腕時計をセットする部分(充電フォルダ)には、遊びが設けられていることが多い。また、腕時計によって、金属製蓋の厚さや、受電側コイルの位置等にバラつきがある場合もある。このため、給電側コイルに対する受電側コイルの位置にズレが生じたり、伝送距離にバラつきが生じる場合がある。したがって、非放射型ワイヤレス給電には、給電側コイルと受電側コイルとの位置ズレや伝送距離のバラつきに対する堅牢性が要求される。
【0013】
この点、磁気共鳴方式のワイヤレス給電装置は、電磁誘導方式のワイヤレス給電装置に比べて、給電側コイルと受電側コイルとの位置ズレや、伝送距離のバラつきに対して優れた堅牢性を有するという利点を有している。
【0014】
しかし、磁気共鳴方式のワイヤレス給電装置では、給電側コイルと受電側コイルとの相対的な位置が、伝送電力に強く影響を及ぼすため、伝送電力を常に一定に保つための制御を行う必要がある。このため、その制御のためのコンピュータが必要となるだけでなく、消費電力やコストが増大するという問題があるだけでなく、上記の腕時計のように、受電側機器や給電側機器を大型化できないアプリケーションに採用しにくいという問題もある。また、コンピュータを用いた従来の制御法では、その応答速度がコンピュータの処理能力に依存するため、給電側コイルと受電側コイルとの相対的な位置が急激に変化したときに追従できない場合もある。
【0015】
このような実状に鑑みて、近年、PT(Parity-Time)対称性の原理に基づいた磁気共鳴方式のワイヤレス給電(以下、「PT対称型のワイヤレス給電」と呼ぶことがある。)が提唱され(非特許文献1を参照。)、注目を集めている。ここで、PT対称性とは、空間座標を反転しても物理法則が変わらないことを意味する空間反転対称性と、時間の進む向きを反転しても物理法則が変わらないことを意味する時間反転対称性の2つを組み合わせた対称性を指す。
【0016】
PT対称型のワイヤレス給電では、給電側コイルと受電側コイルとの相対的な位置が変化しても伝送電力が常に一定に保たれるように発振周波数が自動的に調整される。このため、周波数追従制御のためのコンピュータが不要となり、省電力化や低コスト化を図ることができる。また、給電側コイルと受電側コイルとの相対的な位置が急激に変化しても追従できるような速い応答性能が期待できる。
【0017】
PT対称型のワイヤレス給電は、従来の磁気共鳴方式のワイヤレス給電における交流電源を負性抵抗器で置き換えたものとなっている。ただし、負の抵抗値をもつ抵抗器は実在せず、実際には、負性抵抗器と同様な電気的振る舞いをする負性抵抗回路を用いることになる。従来の磁気共鳴方式のワイヤレス給電装置のように、交流電源を用いた場合には、駆動周波数が特定の値に固定されるため、PT対称性が保存されないのに対して、その交流電源を負性抵抗回路で置き換えると、駆動周波数(発振周波数)が特定の値で固定されなくなるので、PT対称性を保存するための必要条件の1つを満たすことになる。
【0018】
負性抵抗回路は、オペアンプと複数の抵抗器のみで構成された回路で実現できることが既に知られている(非特許文献1を参照。)。ただし、上記のオペアンプと複数の抵抗器のみで構成された回路は、電力損失が大きいという欠点をもつ。電力損失が小さく、実用的な負性抵抗回路として、電流センサと、ゼロクロッシングコンパレータと、複数のトランジスタで構成したハーフブリッジ回路と、ゼロクロッシングコンパレータの出力電圧に基づいて前記トランジスタのゲート信号を生成するゲートドライバとで構成された回路が既に提案されている(非特許文献2を参照。)。
【0019】
しかし、従来のPT対称型のワイヤレス給電は、1~3MHz程度の高周波数で駆動されることから、給電側コイル及び受電側コイルとして空芯のものを用いるため、コイルの寸法を大きくする必要があり(非特許文献1及び2を参照。)、やはり、上記の腕時計のように、受電側機器や給電側機器を大型化できないアプリケーションでの採用が制限されるという欠点も有していた。
【0020】
本発明は、上記課題を解決するために為されたものであり、給電側機器の給電側コイルと、受電側機器の受電側コイルとの間に、金属部材が存在する場合であっても、高い効率で電力伝送を行うことができるワイヤレス給電システムを提供するものである。また、金属部材の温度上昇を抑えながら、金属部材越しに電力伝送を行うことができるワイヤレス給電システムを提供することも本発明の目的である。さらに、給電側コイルと受電側コイルとの相対的な位置が変化しても、伝送電力が一定に保たれるように発振周波数(駆動周波数)が自動的に調整されるワイヤレス給電システムを、消費電力やコストの増大を招くことなく提供することも本発明の目的である。さらにまた、給電側機器や受電側機器を大型化できないアプリケーションでも好適に採用することができるワイヤレス給電システムを提供することも本発明の目的である。そして、このワイヤレス給電システムで好適に用いることができるワイヤレス給電式の受電側機器及び給電側機器を提供することも本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記課題は、
給電側機器の給電側コイルから、受電側機器の受電側コイルに対して、金属部材越しに電力伝送を行うワイヤレス給電システムであって、
給電側機器が、給電側コイルを含む給電側共振回路と、給電側共振回路に交流電力を出力するインバータ回路とを備え、
受電側機器が、受電側コイルを含む受電側共振回路を備え、
給電側コイルに交流電流を流した際に発生する交流磁界によって、給電側共振回路と受電側共振回路とを磁気共鳴させ、給電側機器から受電側機器に対して電力伝送を行うようにするとともに、
インバータ回路が、給電側共振回路と受電側共振回路とを相互インダクタンスにより互いに結合された複共振回路とみなしたときに共振電流が循環し得る2つの共振ループ(以下、「ループI」及び「ループII」という。)のうち、いずれか一方の共振ループで発振し続けるように電流制御を行うことによって、
給電側共振回路と受電側共振回路とのPT対称性が保存されるようにした
ことを特徴とするワイヤレス給電システム
を提供することによって解決される。
【0022】
このように、ワイヤレス給電システムを、磁気共鳴式のものとし、且つ、インバータ回路でPT対称性が保存されるPT対称型のものとすることによって、伝送電力が一定に保たれるように、発振周波数を自動的に調整することが可能になる。
【0023】
すなわち、本発明のワイヤレス給電システムにおいては、発振周波数(駆動周波数)として、上記の2つの共振ループ(ループI及びループII)のうち、ループIで発振するとき(モードI)と、ループIIで発振するとき(モードII)との2通りを取り得るところ、電力伝送を高い効率で安定的に行うためには、インバータ回路の発振周波数(駆動周波数)を、モードIにおける共振周波数fと、モードIIにおける共振周波数fII(fII>f)のいずれかに一致させる必要がある。しかし、共振周波数f,fIIは、給電側コイルと受電側コイルとの相対的な位置や、伝送空間(給電側コイルと受電側コイルとの間の空間)にある物体の導電率に依存する。
【0024】
このため、給電側コイルと受電側コイルとの相対的な位置や、伝送空間にある物体が変わると、共振周波数f,fIIも変化する。したがって、駆動周波数を共振周波数f,fIIに一致させていたとしても、給電側コイルや受電側コイルの僅かな位置ずれ等によって、共振周波数f,fIIが変化し、駆動周波数が共振周波数f,fIIに一致しなくなってしまう。この点、本発明のワイヤレス給電システムでは、給電側コイルや受電側コイルに位置ずれが生じた場合等であっても、インバータ回路によって、その駆動周波数が、共振周波数f,fIIに追従して変化するようになっており、高い効率で安定して電力伝送を行うことができるようになっている。PT対称型のワイヤレス給電では、後述するように、負性抵抗回路を設ける必要があるところ、本発明のワイヤレス給電システムにおけるインバータ回路は、この負性抵抗回路としての機能を担っている。
【0025】
また、上記のインバータ回路を採用したことによって、コンピュータで周波数追従制御を行う必要がなくなる。このため、ワイヤレス給電システムの消費電力やコストを抑えることができる。加えて、腕時計等のように、給電側機器や受電側機器を大型化できないアプリケーションにおいても、ワイヤレス給電システムを採用することも可能になる。
【0026】
インバータ回路は、上記の機能を発揮できるものであれば、その具体的な構成を特に限定されない。このインバータ回路は、例えば、給電側コイルの電流波形を検出する電流センサと、電流センサによって検出された電流波形のゼロクロスポイントで給電側コイルに出力する電流のスイッチングを行うスイッチング回路とで構成することができる。
【0027】
本発明のワイヤレス給電システムにおいて、モードIにおける共振周波数fと、モードIIにおける共振周波数fIIのうち、いずれの共振周波数でインバータ回路を駆動し続けるかは、特に限定されないが、高い方の共振周波数fII(コイルの漏れインダクタンス成分とコンデンサのキャパシタンス成分が共振するループで発振するときの共振周波数)で駆動し続けることが好ましい。これにより、電力伝送の効率を高く維持することができる。特に、給電側コイルから受電側コイルまでの距離(伝送距離)がある場合において、電力伝送の効率を維持することができる。インバータ回路の駆動周波数は、10kHz以上とすることが好ましく、20kHz以上とすることがより好ましく、30kHz以上とすることがさらに好ましい。
【0028】
ただし、インバータ回路の駆動周波数を高くしすぎると、上記のように、給電側機器の給電側コイルと、受電側機器の受電側コイルとの間に、金属部材が存在する場合に、電力伝送の効率が著しく低下するおそれがある。また、その金属部材の温度上昇が深刻になるおそれもある。このため、インバータ回路の駆動周波数は、100kHz以下とすることが好ましい。インバータ回路の駆動周波数は、50kHz以下とすることがより好ましく、40kHz以下とすることがさらに好ましい。このように、インバータ回路を低周波数帯で駆動することによって、上記のモードII(又はモードI)が安定して選択されやすくなるというメリットもある。
【0029】
ただし、負性抵抗回路であるインバータ回路を備えた本発明のワイヤレス給電システムを、上記のように低周波数帯域(100kHz以下の駆動周波数)で安定して駆動することは、必ずしも容易ではない。このため、インバータ回路の発振を誘発してワイヤレス給電システムを起動するトリガー機構を設けることが好ましい。これにより、ワイヤレス給電システムを安定して起動することができる。
【0030】
ここで、PT対称型のワイヤレス給電システムについて説明する。ここでは、厳密さよりも分かりやすさを優先し、等価回路を用いた説明を行っている。ただし、モードI及びモードIIのそれぞれにおける発振周波数は、結合モード理論(CMT)と呼ばれる理論を用いないと厳密な数式として表すことができない。したがって、以下で登場する式1.3や式1.4も厳密なものではないので、その点に留意されたい。CMTを用いたより厳密な説明については、「発明を実施するための形態」における「PT対称型ワイヤレス給電の理論解析」で行っている。
【0031】
PT対称型のワイヤレス給電システムは、図1に示すように、一次側(給電側)の回路10,20と、二次側(給電側)の回路30とで構成される。一次側の回路10,20は、給電側コイル11を有する給電側共振回路10と、負性抵抗回路20とを備えている。上述したように、本発明のワイヤレス給電システムでは、インバータ回路を負性抵抗回路として用いているところ、図1の例では、説明の便宜上(本発明のワイヤレス給電システムの基礎となっている「PT対称型のワイヤレス給電システム」を直感的に説明する関係上)、インバータ回路を有さない構成(オペアンプと複数の抵抗器のみでなる構成)で示している(本発明のワイヤレス給電システムでは、このオペアンプ等がインバータ回路で置き換えられる。)。一方、二次側の回路30は、受電側コイル41を有する受電側共振回路40となっている。
【0032】
図1のPT対称型のワイヤレス給電システムでは、給電側コイル11に対してコンデンサが並列に接続され、受電側コイル41に対してもコンデンサが並列に接続されている。この回路構成を「Parallel-Parallelトポロジー(PPトポロジー)」と呼ぶことがある。PPトポロジー以外の回路構成としては、給電側コイル11に対してコンデンサを直列に接続し、受電側コイル41に対してコンデンサを並列に接続したものもある。この回路構成を「Serial-Parallelトポロジー(SPトポロジー)」と呼ぶことがある。また、給電側コイル11に対してコンデンサを直列に接続し、受電側コイル41に対してもコンデンサを直列に接続したものもある。この回路構成を「Serial-Serialトポロジー(SSトポロジー)」と呼ぶことがある。
【0033】
図1における負性抵抗回路20から給電側共振回路10へと入力される入力電圧Vinと入力電流Iinの関係から、負性抵抗回路20の見かけの負性抵抗Rを、下記式1.1のように定義することができる。

【数2】
【0034】
下記式1.2に示すように、-Rの値が給電側共振回路10の入力端から見た等価的な抵抗成分Rよりも大きい条件において発振が起こる。この現象は、負性抵抗発振として、広く知られている。なお、下記式1.2において、kは磁気結合係数を、Rは負荷抵抗を表す。

【数3】
【0035】
図1に示した給電側共振回路10と受電側共振回路40は、図2に示すように、相互インダクタンスkL(以降、相互インダクタンスをMで表す場合がある。)で結合された複共振回路として表すことができる。図2中のLは、給電側コイル11(図1)及び受電側コイル41(図1)それぞれの自己インダクタンスを表す。L(1-k)は、給電側コイル11(図1)及び受電側コイル41(図1)それぞれの漏れインダクタンスを表す。r’及びr’は、給電側コイル11(図1)及び受電側コイル41(図1)それぞれの巻線抵抗を表す。rは、鉄損等価抵抗を表す。Cは、コンデンサのキャパシタンス(静電容量)を表す。図2の回路には、共振電流が循環し得る2つの共振ループ(ループI及びループII)が存在する。以下においては、共振電流がループIを循環するモードを「モードI」と呼び、共振電流がループIIを循環するモードを「モードII」と呼ぶことがある。
【0036】
モードIにおける共振周波数fと、モードIIにおける共振周波数fIIは、磁気結合係数kとLとCとを用いて、それぞれ下記式1.3及び下記式1.4で表すことができる。下記式1.3及び下記式1.4は、モードIが、kLと、2つの直列共振回路(L(1-k)とCが直列接続された共振回路)とが並列共振するモードであることと、モードIIがL(1-k)とCとが並列共振するモードであることとを鑑みれば、直ちに求められる。なお、図2では、原理説明を簡潔に行うため、L及びCは、給電側共振回路10及び受電側共振回路40において、それぞれ同じ値として取り扱っているが、実際には必ずしも同じ値である必要はない。

【数4】

【数5】
【0037】
図3に、実験と計算で得られた、ループIの共振周波数fで動作した場合と、ループIIの共振周波数fIIで動作した場合とのそれぞれにおける、伝送距離と発振周波数の関係を示す。図3に示された実験結果から、いずれの伝送距離においてもモードIで発振していることがわかる。しかし、モードIIで共振させるための実験条件もまた存在する。
【0038】
図4に、実験で得られた、ループI及びのループIIでの、共振インピーダンスの周波数特性を示す。この実験では、給電側共振回路10の入力端でインピーダンスの測定を行った。また、負荷抵抗Rは、受電側共振回路40から切り離されている状態で測定を行った。ループIでの共振周波数fとループIIでの共振周波数fIIの位置に双方性の共振ピークが現れた。この共振ピークの鋭さは、共振回路のQ値を反映しているため、共振ピークが鋭い方の共振ループの方がQ値は高いと言える。
【0039】
モードIとモードIIのうち、いずれが選択されるかは、これまでに明らかにされていなかった。この点、本発明者は、図4に示すような共振インピーダンスの周波数特性から、ループIとループIIのうち、Q値が高い方の共振ループが選択されることを見出した。すなわち、図4に示すような共振インピーダンスの周波数特性上では、いずれの伝送距離においても、ループIIの共振ピークよりも、ループIの共振ピークの方が高く鋭くなっている。よって、この実験例では、Q値は、ループIの方がループIIよりも高い。このとき、図3の実験結果に示したように、発振周波数として常にf(モードI)が選択される。なお、回路シミュレータにおいて試行的に鉄損等価抵抗r図2)を0.2Ωから2.2Ωまで増加させたところ、(モードI(f)からモードII(fII)へ転移することを確認した。この結果は、上記の考察と矛盾しない。また、実験においてもモードII(fII)での発振を選択できることを確認した。
【0040】
ところで、モードII(fII)で発振させると、給電側コイル11から受電側コイル41までの距離(伝送距離)がある場合において、電力伝送の効率を維持することができることは、既に述べた通りであるが、これは、以下の理由による。
【0041】
すなわち、上記式1.3及び上記式1.4におけるkは、磁気結合係数であることから、モードI(上記式1.3)では、伝送距離が大きくなると、周波数が高くなる方向へ推移するのに対して、モードII(上記式1.4)では、伝送距離が大きくなると、周波数が低くなる方向へ推移する。図3からも、その様子が読み取れる。負荷抵抗には、最適負荷抵抗値という、効率が最大になる最適値が存在する。SPトポロジーのワイヤレス給電回路において、最適負荷抵抗値は、下記式1.5により求めることができる。

【数6】
【0042】
上記式1.5から分かるように、周波数が低くなると、最適負荷抵抗値は、大きくなる方向に進む。実際の負荷抵抗値は、PT対称性を保存するために、この最適負荷抵抗値よりも大きく設定することが望ましい。その理由は、コイルの自己インダクタンスを小さく、負荷抵抗値を大きく設定すると、PT対称性が保存できる伝送距離が延びるからである(その詳細な理由の説明については、「発明を実施するための形態」における「PT対称型ワイヤレス給電の理論解析」で行っている。)。モードIIでは、伝送距離が大きくなると周波数が低くなる方法に進むため、伝送距離が大きくなると、最適負荷抵抗値が実際の負荷抵抗値に近づいて効率が上昇することになる。モードIでは、その逆になるため、伝送距離が大きくなると、効率が低下することになる。よって、伝送距離が大きいアプリケーションでは、モードIIの方が有利である。
【0043】
本発明のワイヤレス給電システムの構成に話を戻す。本発明のワイヤレス給電システムにおいては、受電側コイル及び給電側コイルに磁性体コアを設けることが好ましい。というのも、本発明のワイヤレス給電システムは、上述したように、モードIIで駆動することが好ましいところ、受電側コイル及び給電側コイルを、磁性体コアを有さない空芯コイルとすると、図2の鉄損等価抵抗rがゼロになる。このため、常時、モードIが選択されるようになり、モードIIが選択されなくなってしまう。この点、受電側コイル及び給電側コイルに磁性体コアを設けることで、rが有限の値を取るようになる。この状態ではループIIのQ値がループIのQ値よりも高くたるため、モードIIが選択されるようになる。
【0044】
ただし、上記の腕時計等、受電側機器を大型化できないアプリケーションでは、受電側機器にスペース的な余裕がない場合が多い。このため、受電側コイルは、通常、給電側コイルよりも薄く(短く)形成される。しかし、磁性体コア(例えばフェライト)までも薄くしてしまうと、磁性体コアが割れるおそれがある。このため、受電側コイルは、アモルファス磁性材料をシート状に形成した磁性シートに重ねた状態とすることが好ましい。この種の磁性シートを用いても、磁性体コアを用いた場合と同様の効果を得ることができる。加えて、この種の磁性シートは、可撓性を有しているため、薄くしても破損しにくい。このため、狭いスペース(小型の受電側機器の中)に配置することもできる。
【0045】
一方、給電側機器は、受電側機器よりも、スペース的な制約が緩い場合が多い。このため、給電側コイルは、受電側コイルを厚く(長く)形成することが好ましい。これにより、給電側コイルのQ値を大きくすることができる。また、給電側コイルには、フェライト材からなる磁性体コアを用いることができる。しかし、給電側コイルを磁性体コアに重ねただけの状態であると、給電側コイルの磁性体コアと、受電側コイルの磁性シートとのギャップが大きくなる。特に、給電側コイルを厚くした場合において、そのギャップが大きくなる。このため、給電側コイルのQ値が大きくなる一方で、上記の磁気結合係数kが小さくなり、結果的に電力伝送の効率が低下してしまう。
【0046】
このため、給電側コイルに取り付ける磁性体コアは、給電側コイルにおける、受電側コイルが配される側とは逆側の面を覆う基台部と、給電側コイルに内挿される内側凸部と、給電側コイルの外周部を覆う外側凸部とを有するものとすることが好ましい。これにより、給電側コイルに取り付けた磁性体コアの内側凸部及び外側凸部を、受電側コイルの磁性体コア(磁性シート)に近づけた状態とし、上記のギャップを小さくすることができる。したがって、給電側コイルのQ値と、磁気結合係数kの双方を大きくし、電力伝送の効率を高めることが可能になる。また、磁気結合係数kを大きくすることで、上記のPT対称性を効果的に利用することも可能になる。
【0047】
また、上記課題は、
受電側コイルを含む受電側共振回路を備え、
給電側機器の給電側共振回路に含まれる給電側コイルに交流電流を流した際に発生する交流磁界によって、その受電側共振回路が給電側共振回路と磁気共鳴し、
給電側機器から電力伝送がされるワイヤレス給電式の受電側機器であって、
受電側コイルの一面側が、金属製カバーによって覆われるとともに、
受電側コイルの他面側に、アモルファス磁性材料をシート状に形成した磁性シートが重ねられた
ことを特徴とするワイヤレス給電式の受電側機器
を提供することによっても解決される。
【0048】
さらに、上記課題は、
給電側コイルを含む給電側共振回路を備え、
給電側コイルに交流電流を流した際に発生する交流磁界によって、その給電側共振回路が、受電側機器における受電側コイルを含む受電側共振回路と磁気共鳴し、
受電側機器に電力伝送するワイヤレス給電式の給電側機器であって、
給電側共振回路に交流電力を出力するためのインバータ回路を備え、
インバータ回路が、
給電側コイルの電流波形を検出する電流センサと、
電流センサによって検出された電流波形のゼロクロスポイントで給電側コイルに出力する電流のスイッチングを行うスイッチング回路と
を有する
ことを特徴とするワイヤレス給電式の給電側機器
を提供することによっても解決される。
【0049】
これらのワイヤレス給電式の受電側機器や給電側機器は、上述した本発明のワイヤレス給電システムにおける受電側機器や給電側機器として、好適に採用することができる。
【発明の効果】
【0050】
以上のように、本発明によって、給電側機器の給電側コイルと、受電側機器の受電側コイルとの間に、金属部材が存在する場合であっても、高い効率で電力伝送を行うことができるワイヤレス給電システムを提供することが可能になる。また、金属部材の温度上昇を抑えながら、金属部材越しに電力伝送を行うことができるワイヤレス給電システムを提供することも可能になる。さらに、給電側コイルと受電側コイルとの相対的な位置が変化しても、伝送電力が一定に保たれるように発振周波数が自動的に調整されるワイヤレス給電システムを、消費電力やコストの増大を招くことなく提供することも可能になる。さらにまた、給電側機器や受電側機器を大型化できないアプリケーションでも好適に採用することができるワイヤレス給電システムを提供することも可能になる。そして、このワイヤレス給電システムで好適に用いることができるワイヤレス給電式の受電側機器及び給電側機器を提供することも可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
図1】負性抵抗回路を組み込んだPT対称性を有するワイヤレス給電システムにおける電気回路の一例を示した図である。
図2】PPトポロジーの等価回路を示した図である。
図3】実験と計算で得られた、図2のループIの共振周波数fで動作した場合と、ループIIの共振周波数fIIで動作した場合とのそれぞれにおける、伝送距離と発振周波数の関係を示したグラフである。
図4】実験で得られた、図2のループI及びのループIIでの、共振インピーダンスの周波数特性を示したグラフである。
図5】本発明のワイヤレス給電システムにおける給電側機器と受電側機器の一例を示した図である。
図6】本発明のワイヤレス給電システムの電気回路の概要を示した図である。
図7】本発明のワイヤレス給電システムにおけるインバータ回路の一例を示した図である。
図8】本発明のワイヤレス給電システムの実際の回路例を示した図である。
図9】本発明のワイヤレス給電システムにおける給電側コイルと磁性体コアの組み合わせ例を示した図である。
図10】PT対称型のワイヤレス給電システムの結合モード理論(CMT)に基づくモデルを示した図である。
図11】PT対称型のワイヤレス給電システムのSPトポロジーを示した図である。
図12図11における入力電圧uinと給電側コイル電流iL1との関係を示した図である。
図13】実験1の測定画面(給電側)を撮影した写真である。
図14】実験1の測定画面(受電側)を撮影した写真である。
図15】実験1における測定画面(電力伝送効率)を撮影した写真である。
図16】実験2の測定結果を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0052】
1.本発明のワイヤレス給電システムの実施形態
本発明のワイヤレス給電システムの好適な実施形態について具体的に説明する。
【0053】
本発明のワイヤレス給電システムは、金属部材越しに電力伝送を行う必要がある各種アプリケーションで採用することができる。例えば、電気自動車にワイヤレス給電を行う用途で使用することができる。しかし、本発明のワイヤレス給電システムは、既に述べたように、受電側機器や給電側機器を大型化できないアプリケーションにおいて、特にその真価を発揮する。このため、腕時計や、スマートフォンや、タブレットコンピュータや、ポータブル音楽プレーヤー等、小型の電子機器に電力伝送を行う用途で好適に採用することができる。以下においては、説明の便宜上、腕時計(受電側機器)をワイヤレス充電器(給電側機器)にセットし、ワイヤレス充電器から腕時計に電力伝送を行い、腕時計に充電するアプリケーションを例に挙げて説明する。
【0054】
図5は、本発明のワイヤレス給電システムにおいて、受電側機器2を腕時計とし、給電側機器1をワイヤレス充電器とした例を示した図である。図5(a)には、ワイヤレス充電器(給電側機器1)に腕時計(受電側機器2)をセットする前の状態を、図5(b)には、ワイヤレス充電器(給電側機器1)に腕時計(受電側機器2)をセットした後の状態を示している。図5においては、図示の便宜上、腕時計(受電側機器2)は、ケース2aと、裏蓋2bと、受電側コイル41と、磁性シート41aのみを示しており、ワイヤレス充電器(給電側機器1)は、ケース1aと、給電側コイル11と、磁性体コア11aのみを示している。実際の腕時計(受電側機器2)には、文字盤や、針や、針を動作させるためのメカや、当該メカに電力を供給するバッテリーのほか、後述する受電側共振回路40等が設けられる。一方、実際のワイヤレス充電器(給電側機器1)には、後述する給電側共振回路10や、インバータ回路20等が設けられる。
【0055】
図5に示すワイヤレス給電システムは、裏蓋2bが下側(ワイヤレス充電器1の側)を向く状態で、腕時計2をワイヤレス充電器1にセットし、ワイヤレス充電器1の給電側コイル11から、腕時計2の受電側コイル41に電力伝送を行って、腕時計2の上記のバッテリーに充電を行うものとなっている。腕時計2をワイヤレス充電器1にセットした状態にあっては、給電側コイル11と受電側コイル41との間に、腕時計2の裏蓋2bが位置するようになる。この裏蓋2bは、金属製(本例ではステンレス製)となっている。このため、給電側コイル11から受電側コイル41への電力伝送は、金属部材(裏蓋2b)越しに行われるようになる。
【0056】
このような金属部材越しの電力伝送では、高い電力伝送効率を実現することが難しく、また、金属部材(裏蓋2b)の発熱を抑えることが難しいところ、本発明のワイヤレス給電システムは、これらの課題を解決するものとなっている。また、腕時計2は、裏蓋2bの素材や厚さが一様ではない。加えて、ワイヤレス充電器1は、腕時計2をある程度位置決めできるようにはなっているものの、その位置決めに多少の遊びが確保されている。このため、ワイヤレス充電器1にセットした腕時計2の水平位置にも、多少のズレが生じ得る。これらのバラつきやズレは、電力伝送効率を低下させる原因となるところ、本発明のワイヤレス給電システムは、この課題も解決している。
【0057】
図6は、本発明のワイヤレス給電システムの電気回路の概要を示した図である。本実施形態のワイヤレス給電システムは、図6に示すように、一次側(給電側)の回路10,20,30と、二次側(受電側)の回路40,50,60,70とで構成されている。一次側の回路10~30は、ワイヤレス充電器1(給電側機器)の側に設けられ、二次側の回路40~70は、腕時計2(受電側機器)の側に設けられる。
【0058】
一次側の回路10~30は、給電側コイル11を有する給電側共振回路10と、インバータ回路20と、直流電源30とを備えている。
直流電源30は、その下流側のインバータ回路20に直流電流を出力するものとなっている。直流電源30としては、商用電源(例えばAC100V)から出力される交流電流を整流して直流電流に変換するものや、バッテリー等が例示される。
インバータ回路20は、直流電源30から入力された直流電流を、適切な周波数(給電側共振回路10と受電側共振回路40との共振周波数に一致する周波数)の交流電流に変換して、給電側共振回路10に交流電力を出力するものとなっている。
給電側共振回路10は、受電側共振回路40と磁気共鳴(共振)させる回路となっている。本実施形態のワイヤレス給電システムでは、コイルL(給電側コイル11)とコンデンサCとを直列に接続することによって、給電側共振回路10を構成している。給電側コイル11は、受電側コイル41に電力伝送を行うためのものである。
【0059】
一方、二次側の回路40~70は、受電側コイル41を有する受電側共振回路40と、整流回路50と、DC-DCコンバータ60と、負荷70とを備えている。
受電側共振回路40は、給電側共振回路10と磁気共鳴(共振)させる回路となっている。本実施形態のワイヤレス給電システムでは、コイルL(受電側コイル41)とコンデンサCとを接続したものを、受電側共振回路40として利用している。コイルL(受電側コイル41)とコンデンサCは、直列に接続してもよいが、本実施形態のワイヤレス給電システムでは、並列に接続している。これにより、受電側共振回路40の出力電圧uC2を高くして、後述する負荷70(バッテリー)の充電電圧以上の電圧を出力しやすくなる。このため、後述するDC-DCコンバータ60で昇圧を行う必要がなくなり、DC-DCコンバータ60をシンプルに構成することができる。これに対して、受電側共振回路40の出力電圧uC2が目的の電圧まで上昇しない場合、後述するDC-DCコンバータ60で目的の電圧まで昇圧することになる。このため、複雑なスイッチング回路をDC-DCコンバータ60に組み込む必要が生じ、DC-DCコンバータ60が腕時計2のケース2aの中に納まらなくなるおそれがある
整流回路50は、受電側共振回路40から出力された交流電流を整流し、直流電流に変換し、DC-DCコンバータ60に出力するものとなっている。整流回路50としては、全波整流回路等を採用することができる。
DC-DCコンバータ60は、整流回路50から出力された直流電圧を目的の直流電圧に変換するものとなっている。本実施形態のワイヤレス給電システムにおいては、負荷70としてバッテリーを想定しているところ、このバッテリー70に、その充電電圧以上の電圧が入力されるように、DC-DCコンバータ60で電圧を調節する。既に述べたように、本実施形態のワイヤレス給電システムでは、受電側共振回路40から高い出力電圧uC2が出力されるようにしているため、このDC-DCコンバータ60では、昇圧を行う必要がない。このDC-DCコンバータ60は、例えば、「リニアレギュレータ」という1つの電子部品で実現することができるDC-DCコンバータ60は、ワイヤレス給電システムのアプリケーションによっては省略することができる。
負荷70は、伝送された電力を使用又は貯留するものとされる。本実施形態においては、負荷70として、腕時計2を駆動するバッテリーを想定している。
【0060】
本実施形態のワイヤレス給電システムは、上記の構成を採用しているところ、給電側コイル11に交流電流を流した際に発生する交流磁界によって、給電側共振回路10と受電側共振回路40とを磁気共鳴させ、ワイヤレス充電器1(給電側機器)から腕時計2(受電側機器)に対して裏蓋2b(金属部材)越しに電力伝送を行うものとなっている。
【0061】
ただし、ワイヤレス充電器1(給電側機器)の駆動周波数が、給電側共振回路10と受電側共振回路40との共振周波数からズレると、給電側共振回路10と受電側共振回路40とのPT対称性が破れ、電力伝送効率が大幅に低下するおそれがある。この点、本実施形態のワイヤレス給電システムでは、インバータ回路20が、給電側共振回路10と受電側共振回路40とを相互インダクタンスにより互いに結合された複共振回路とみなしたときに共振電流が循環し得る2つの共振ループ(ループI及びループII)のうち、いずれか一方の共振ループで発振し続けるように電流制御を行うことによって、給電側共振回路10と受電側共振回路40とのPT対称性が保存されるようにしている。
【0062】
インバータ回路20についてさらに詳しく説明する。図7は、インバータ回路20の一例を示した図である。本実施形態のワイヤレス給電システムにおいて、インバータ回路20は、図7に示すように、電流センサ21と、発信器22と、トリガー機構23と、ゲートドライバ24と、スイッチング回路25と、位相進み補償回路26と、ゼロクロッシングコンパレータ27とで構成している。位相進み補償回路26及びゼロクロッシングコンパレータ27は、フィードバック線20a上に配置されている。
【0063】
電流センサ21は、給電側コイル11の電流波形を検出するものとなっている。
発振器22は、インバータ回路20を駆動するためのものとなっている。発信器22としては、交流電源が用いられる。後述するトリガー機構23によって、ワイヤレス給電システムを安定して起動できるようにすることを考慮すると、発信器22は、振幅が100mV以上の正弦波形で交流電圧を出力するものとすることが好ましい。
トリガー機構23は、インバータ回路20の発振を誘発させ、ワイヤレス給電システムを安定して起動するためのものとなっている。本実施形態のワイヤレス給電システムにおいては、トリガー機構23として、モーメンタリスイッチ(トリガーボタンを押した一瞬だけスイッチがONになる機構のスイッチ)を用いている。
ゲートドライバ24は、発信器22又はフィードバック線20aから入力された電圧信号に基づいて、スイッチング回路25におけるトランジスタ(FETI及びFETII)のゲート信号を生成するためのものである。このゲートドライバ24は、上記のゲート信号の生成のほか、スイッチング回路27を構成する複数のトランジスタのON/OFFが切り替わる間の時間(デッドタイム)の生成も担っている。
【0064】
スイッチング回路25は、給電側コイル11に供給する電流iL1のスイッチングを行う。本実施形態においては、このスイッチング回路27を、複数のトランジスタ(図5中のFETI及びFETII)をハーフブリッジ配置することによって構成している。FETI及びFETIIは、NPN構造とPNP構造のいずれであってもよいが、ここでは、NPN構造のものを用いている。
位相進み補償回路26は、給電側コイル11を流れる電流iL1を検出するための電流センサ21に接続される。スイッチング回路25を構成するトランジスタ(図5中のFETI及びFETII)のゲード信号とiL1との間の位相差はゼロであることが望ましい。ただし、実際の回路では、必ず遅延が生じる。このため、位相進み補償回路26によってこの遅延を補償し、ゲード信号とiL1との間の位相差がゼロになるようにしている。
【0065】
このインバータ回路20は、以下のように動作する。
[1] このインバータ回路20の駆動前においては、スイッチング回路25を構成するFETI及びFETIIのゲート信号がいずれもOFFになっており、直流電源30から給電側コイル11には、電流が流れない状態となっている。
[2] この状態から、モーメンタリスイッチ23をONにすると、発振器22からの交流電流がゲートドライバ24に入力され、ゲートドライバ24から、スイッチング回路25のFETIを駆動するためのゲード信号が出力される。このゲード信号によって、FETIのドレインからソースに電流が流れる状態となり、直流電源30からの電流が給電側コイル11に流れる。このときには、給電側コイル11に直列に接続されたコンデンサCが充電される。直流電源30から出力される電流は、本来、直流であるものの、給電側共振回路10に、コンデンサC及びコイルL(給電側コイル11)が設けられているため、その電流は、振動を開始し、交流となる。この電流(直流電源30から給電側コイル11に流れる電流)の波形は、電流センサ21によって監視されている。
【0066】
[3] 直流電源30から給電側コイル11に流れる電流がゼロクロスすると、そのことがゼロクロッシングコンパレータ27によって検出され、フィードバック線20aを通じてゲートドライバ24に入力される。すると、ゲートドライバ24は、スイッチング回路25のゲート信号を反転させる。すなわち、FETIのゲート信号をOFFにし、FETIIのゲート信号をONにする。このため、直流電源30から給電側コイル11には電流が流れなくなる。このため、コンデンサCが放電され、電流センサ21には、先ほどと逆向きに交流電流が流れる。
[4] その交流電流が再びゼロクロスすると、そのことがゼロクロッシングコンパレータ27によって検出され、フィードバック線20aを通じてゲートドライバ24に入力される。すると、ゲートドライバ24は、スイッチング回路25のゲート信号を反転させる。すなわち、FETIIのゲート信号をOFFにし、FETIのゲート信号をONにする。このため、直流電源30からの電流が再び給電側コイル11に流れるようになる。
[5] 再び、上記[3]に移行し、以降、インバータ回路20が停止されるまで、このサイクルが繰り返される。
【0067】
上記[2]でモーメンタリスイッチ23をONした際には、FETIのゲート信号が一瞬だけ流れ、次の瞬間には、モーメンタリスイッチ23がOFFになり、発振器22とゲートドライバ24とが切り離される。しかし、それ以降は、上記[3],[4]で、フィードバック線20aがゲートドライバ24と接続され、フィードバック線20aを介してゲートドライバ24に信号(FETIとFETIIとを切り替える信号)が入力され、インバータ回路20の発振が持続する仕組みとなっている。
【0068】
このように、インバータ回路20は、給電側コイル11に流れる電流iL1がゼロクロスしたときに、スイッチング回路25を構成するFETI及びFETIIのゲート信号を切り替えるものとなっている。給電側コイル11と受電側コイル12(図6)との相対的な位置が変化した場合や、給電側コイル11と受電側コイル12との間に介在される裏蓋2b(図6)の素材や厚さが変わった場合には、給電側共振回路10から見た共振周波数が変化することになるが、インバータ回路20を上記のように構成することによって、その変化後の共振周波数でインバータ回路20が駆動される(インバータ回路20の駆動周波数が共振周波数に追従する)ようになる。すなわち、インバータ回路20の駆動周波数が共振周波数に一致した状態が維持され、給電側共振回路10と受電側共振回路20とのPT対称性が保存される。このため、高い効率で電力伝送を行うことができる。
【0069】
インバータ回路20には、さらに別の回路を組み込むことができる。例えば、ゲートドライバ24とFETIのゲートとを結ぶラインや、ゲートドライバ24とFETIIのゲートとを結ぶラインには、スナバ回路(図示省略)を組み込むこともできる。これにより、ゼロクロッシングコンパレータ27のゼロクロス検出の際に生じるチャタリングノイズを取り除き、ノイズの重畳の少ない交流電力を負荷に供給することができる。このスナバ回路は、例えば、コンデンサと、抵抗と、ダイオードとを組み合わせて実現することができる。
【0070】
また、位相進み補償回路28とゼロクロッシングコンパレータ24とを結ぶラインには、直流オフセット調整回路(図示省略)を組み込むこともできる。これにより、電流センサ21が検出した給電側コイル11の電流波形の直流オフセット電圧を調整することが可能になる。すなわち、スイッチング回路25を構成するFETI及びFETIIのゲード信号のデューティ比が1:1(50%)から外れると、伝送電力が低下するため、同デューティ比は、50%であることが望ましいところ、この直流オフセット調整回路によって、同デューティ比を50%になるように調整することができる。この直流オフセット調整回路は、コンパレータや抵抗器を組み合わせて実現することができる。
【0071】
参考までに、本発明のワイヤレス給電システムの実際の回路例を図8に示す。
【0072】
ところで、インバータ回路20の発振周波数としては、図2のループIで発振するとき(モードI)と、ループIIで発振するとき(モードII)との2通りを取り得ることや、高い方の共振周波数fII(コイルの漏れインダクタンス成分とコンデンサのキャパシタンス成分が共振するループで発振するときの共振周波数)で発振し続けた方が、電力伝送効率を高くできることについては、既に述べた通りである。この点、本実施形態のワイヤレス給電システムにおいては、インバータ回路20の発振周波数(駆動周波数)が、30~40kHzとなるようにしており、共振周波数fIIが選択されやすくしている。このような低周波数帯域であれば、電力伝送時における腕時計2の裏蓋2b(金属部材)の発熱を抑えることもできる。
【0073】
また、ループIとループIIのうち、Q値が高くなる方のループのモードが選択されることは、既に述べた通りであるが、本実施形態のワイヤレス給電システムにおいては、ループIIで発振するモードIIが選択されやすくするために、図5(a)に示すように、給電側コイル11を磁性体コア11aに取り付けるとともに、受電側コイル41に磁性シート41aを重ねている。これにより、鉄損等価抵抗rを有限の値にして、ループIIのQ値がループIのQ値より高くなるようにすることができる。加えて、腕時計2のケース2a内に配置される磁性シート41aは、給電側コイル11と受電側コイル41とに生ずる交流磁界が腕時計2の他の回路に悪影響を及ぼさないようにするための磁気シールドとしての機能も期待できる。
【0074】
ここで、受電側コイル41を磁性体コアに取り付けるのではなく、受電側コイル41に磁性シート41aを重ねた理由は、それを腕時計2のケース2a内に配置しなければならないというスペース的な制約による。また、そのスペース的な制約から、受電側コイル41だけでなく、それを取り付ける磁性体コアを薄くすると、その磁性体コアが衝撃等で破損するおそれがあり、耐衝撃性を確保できないという懸念による。この点、アモルファス磁性材料をシート状に形成した磁性シート41aであれば、上記のスペース的な問題と、耐衝撃性の問題との双方を解決することができる。
【0075】
アモルファス磁性材料をシート状に形成した磁性シート41aとしては、いわゆる「箔材」を用いることができ、具体的には、コバルト系アモルファスからなるものや、鉄系アモルファスからなるものや、「ファインメット」(登録商標)等のナノ結晶軟磁性材料からなるものが例示される。磁性シート41aの厚さは、特に限定されないが、通常、0.05~1mm程度とされる。本実施形態のワイヤレス給電システムにおいては、東芝マテリアル株式会社製のコバルト系アモルファスからなるシート「SS/DSシリーズ」を用いて磁性シート41aを構成している。それぞれのシートは、0.09mmの厚さを有するところ、これを3枚重ねたものを磁性シート41aとしており、その全体の厚さは、0.27mmとなっている。
【0076】
一方、受電側コイル11を取り付ける磁性体コア11aは、フェライト材等で形成することができる。図9に、給電側コイル11と磁性体コア11aの組み合わせ例を示す。図9(a)に示すように、給電側コイル11を、受電側コイル41と同様に薄く形成すると、給電側コイル11のQ値が小さくなり、電力伝送効率が悪化する。この点、給電側コイル11を配置するワイヤレス充電器1(給電側機器)は、腕時計2(受電側機器)よりもスペース的な制約が緩い場合が多い。この点、図9(b)に示すように、給電側コイル11を厚く形成することで、給電側コイル11のQ値を大きくすることができる。しかし、磁性体コア11aが単純な板状であると、給電側コイル11の磁性体コア11aと、受電側コイル41の磁性シート41aとのギャップGが大きくなる。特に、給電側コイル11aを厚くした場合において、そのギャップGが大きくなる。このため、上述した磁気結合係数k図2)が小さくなり、結果的に電力伝送の効率が低下してしまう。
【0077】
このため、給電側コイル11を取り付ける磁性体コア11aは、図9(c)に示すように、基台部11aと、内側凸部11aと、外側凸部11aとで構成することが好ましい。基台部11aは、給電側コイル11における、受電側コイル41が配される側とは逆側の面を覆う部分となっており、内側凸部11aは、給電側コイル11に内挿する部分となっており、外側凸部11aは、給電側コイル11の外周部を覆う部分となっている。これにより、給電側コイル11を厚くしても、磁性体コア11aの内側凸部11a及び外側凸部11aを、受電側コイル41の磁性シート41aに近づけた状態とし、上記のギャップGを小さくすることができる。したがって、給電側コイル11のQ値を大きくしながらも、磁気結合係数kを大きくし、電力伝送の効率を高めることができる。また、磁気結合係数kを大きくすることで、上記のPT対称性を効果的に利用することも可能になる。
【0078】
2.本発明のワイヤレス給電システムの理論解析
続いて、本発明のワイヤレス給電システムの理論解析を行う。本発明のワイヤレス給電システムは、上述したPT対称型のワイヤレス給電システムに該当するものである。図10に、PT対称型のワイヤレス給電システムの結合モード理論(CMT)に基づくモデルを示す。
【0079】
図10において、エネルギーモードa=Aj(ωt+θ は、共振回路の波動関数として表しており、n=1は、給電側共振回路を、n=2は、受電側共振回路を示している。|aは、各共振回路に蓄えられているエネルギーの大きさに対応している。角周波数ωは、2つの共振回路が結合したときの発振周波数を表し、2つの共振回路の相互作用の強さに依存する。θは、aの位相であり、θ-θがaとaとの間の位相差に相当する。aの振幅Aは、発振が定常状態に達する過程で徐々に大きくなるため、時間の関数として扱う必要がある。利得レートg10と負荷損失レートΓは、それぞれ負性抵抗と負荷抵抗から供給される。Γ10及びΓ20は、それぞれ給電側共振回路及び受電側共振回路の固有損失レートを示す。κは、カプラ間の結合レートを示す。これらのレートg10,Γ,Γ10,Γ20,κは、全てs-1の単位を持つ。利得レートと、全ての損失レートの和が釣り合っている(g10=Γ10+Γ20+Γ)という条件と、2つの共振回路が強く結合している(κ>Γ20+Γ)という条件とが満たされていれば、PT対称性が保存され、伝送電力が伝送距離に依存しなくなる。なお、従来の磁気共鳴型ワイヤレス給電給装置のように、駆動周波数が固定されている状況では、これら2つの条件を満たすことはできないので、PT対称型のワイヤレス給電システムでは、電源回路として、発振周波数が固定されない負性抵抗回路の使用が必要になる。
【0080】
J.Zhоuらは、PT対称型のワイヤレス給電のSSトポロジーを研究している(非特許文献2)。彼らは、理論解析と実験結果を通じて、伝送電力と効率が伝送距離に依存しないことを示してきた。しかし、SPトポロジーについては、同様の理論解析はまだ行われていない。本発明のワイヤレス給電システムでは、SPトポロジーを採用しているため(図6を参照)、SPトポロジーについての理論解析を示し、伝送電力が伝送距離に対して独立していることを示す。また、低周波において、長い伝送距離にわたってPT対称性を保存するための方法も理論的に説明する。
【0081】
PT対称型のワイヤレス給電システムのSPトポロジーを図11に示す。パルス波形を有する入力電圧uinは、給電側コイルに流れる電流iL1の符号関数として下記式2.1で表される。ここで、VDCは、負性抵抗回路20の直流電源電圧である。給電側共振回路10は、コンデンサとコイルが直列に接続されて構成されているため、抵抗と、コイルと、コンデンサとが直列に接続された回路(RLC直列回路)とみなすことができる。RLC直列回路では、パルス波形の電圧を入力されると、正弦波電流が流れる。このため、iL1及びuinの波形は図12に示すようになる。

【数7】
【0082】
給電側及び受電側コイル電流iL1,iL2と、給電側及び受電側コイル電圧uL1,uL2の関係は、相互インダクタンスMを考慮して、下記式2.2で表される。

【数8】
【0083】
L1,uL2と給電側及び受電側コンデンサ電圧uC1,uC2は、キルヒホッフの法則から、下記式2.3で表わすことができる。ここで、r及びrは、それぞれ、給電側コイル及び受電側コイルの抵抗成分を表わしている。

【数9】
【0084】
C1,uC2とiL1及び受電側コンデンサ電流iC2の関係は、下記式2.4のように表わされる。ただし、下記式2.4において、-iC2は、キルヒホッフの法則によって導かれる(iL2-uC2/R)で表わしている。

【数10】
【0085】
上記式2.1~2.4から、下記式2.5の状態方程式が得られる。ここで、ζ=L-Mである。

【数11】
【0086】
下記表1に、図10のCMTパラメータと図11の回路パラメータとの対応関係を示す。下記表1において、kは、磁気結合係数である。また、ωとωは、給電側共振回路と受電側共振回路の間に相互作用がない状態での、各共振回路での固有の共振角周波数である。

【表1】
【0087】
給電側共振回路及び受電側共振回路に蓄えられた電気エネルギーがコイルとコンデンサの間を循環することを考慮すると、コイル電流iLnとコンデンサ電圧uCnの波動関数は、Aを用いて、下記式2.6a及び下記式2.6bで表わすことができる。

【数12】

【数13】
【0088】
は、発振が開始されてから定常状態に至る時間領域(過渡領域)において時間関数として扱われるべきであるから、aの導関数は、下記式2.7で表わすことができる。

【数14】
【0089】
上記式2.5に上記式2.6a及び上記式2.6bを代入することにより、dA/dt及びA(ω+dθ/dt)を、下記式2.8a~2.8dで表わすことができる。

【数15】

【数16】

【数17】

【数18】
【0090】
の変化の時間スケールは、発振周波数の周期τ=2π/ωよりも十分に長い。これは、ステップ応答に対するAの時定数2L/rがτよりも十分に長いことからもわかる。このことから、上記式2.8a~2.8dの最後の項の交流成分は、Aへの影響が小さいので、無視できると考えられる。よって、符号関数と余弦関数の積の交流成分を無視すると、下記式2.9a~2.9dのように近似することができる。

【数19】

【数20】

【数21】

【数22】
【0091】
上記式2.8a~2.8dは、上記表1の対応関係により、下記式2.10a~2.10dに書き換えることができる。ここで、VDC/(π(2L1/2)及び位相差θ-θは、それぞれ、G及びφと定義した。また、これらの式から、k=M/(L)を用いて、L,Lを消去している。

【数23】

【数24】

【数25】

【数26】
【0092】
の導関数は、上記式2.10a~2.10dを上記式2.7に代入することにより、下記式2.11a及び下記式2.11bで表わすことができる。ここで、1-k は、1に近似した。さらに、ω=ωであることが、PT対称性を保つための必要条件であるため、2つの共振回路の固有の共振角周波数をωで統一している。

【数27】

【数28】
【0093】
は、無次元のパラメータであり、s-1の次元を持つ他のCMTパラメータ(ω,G,Γ10,Γ20,Γ,κ)とは次元が異なる。さらに、kの大きさは、2κ/ωに等しいため、他のパラメータよりもはるかに小さくなる。したがって、kを含む項は、aの微分値に殆ど影響を及ぼさないので、無視した。このような処理により、SPトポロジーの状態方程式である上記式2.5を、CMTでの数式表現である下記式2.12の結合モードモデルに変換することができる。

【数29】
【0094】
次に、発振が開始されて十分に時間が経過した状態(定常状態)について考える。定常状態では、Aが飽和し、利得レートと損失レートとの関係は、G/|a|-Γ10=Γ20+Γの式を常に満たす。ここで、G/|a|は利得レートg10(表1)に相当する。上記式2.12をG/|a|-Γ10=Γ20+Γに代入すると、下記式2.13に示す関係式が得られる。

【数30】
【0095】
上記式2.12の特性方程式は、下記式2.14で示される。

【数31】
【0096】
上記式2.14の虚数部がゼロになる条件から、下記式2.15a及び下記式2.15bで表わされる2つの発振モード(モードI及びモードII)の発振角周波数を特定することができる。下記式2.15aで表わされるωは、上述したループI(モードI)における共振周波数f(上記式1.2)に対応する角周波数をより正確に表したものであり、下記式2.15bで表わされるωは、上述したループII(モードII)における共振周波数fII(上記式1.3)に対応する角周波数をより正確に表したものである。

【数32】

【数33】
【0097】
上記式2.13の関係と、上記式2.14の実数部がゼロになる条件から、受電側共振回路に蓄えられたエネルギーは、下記式2.16のように導出される。

【数34】
【0098】
上記式2.6b及び上記式2.16を用いることにより、伝送電力Pは、下記式2.17で導出される。

【数35】
【0099】
同様の処理を経ることで、給電側共振回路及び受電側共振回路の固有電力損失(負荷抵抗以外で消費される電力を指す)は、それぞれ、2Γ10|a及び2Γ20|aと導出される。したがって、伝送効率ηは、上記式2.13の関係を用い、下記式2.18で表すことができる。

【数36】
【0100】
上記式2.17及び上記式2.18から、送信電力と効率は、結合レートκに依存しないことが分かる。κはkに比例(表1を参照。)し、前記kの値は伝送距離により決定されることから、上記式2.17及び上記式2.18がκに依存しないことは、伝送距離に対しても依存しないことを意味する。つまり、SPトポロジーにおいて、PT対称性が保存されている条件下では、送信電力と効率が理論上、伝送距離に依存せず一定となることが分かる。また、給電側コイル及び受電側コイルの位置ずれが生じた場合においてもkが低下するが、このケースでも送信電力と効率は、理論上、一定に保たれるため、位置ずれに対しても堅牢性をもつワイヤレス給電システムの実現が期待できる。
【0101】
PT対称性が保存されない条件(κ<Γ20+Γ)の場合、発振角周波数ωは、ωと一致する。このときの送信電力と効率は、下記式2.19及び下記式2.20に示すように、結合レートκに強く依存する。よって、送信電力と効率は、伝送距離の変化に対して、大きく変化する。

【数37】

【数38】
【0102】
PT対称性が保存される条件(κ>Γ20+Γ)、及び、PT対称性が保存されない条件(κ<Γ20+Γ)から、保存/非保存の境界である臨界結合レートκは、κ=Γ20+Γで表すことができる。この臨界結合レートκは、下記式2.21に示すように、臨界磁気結合係数kmCへ変換することができる。ここで、Qは、受電側コイルのQ値である。kmCは、伝送距離に換算できるため、下記式2.21から、PT対称性が保存できる限界の伝送距離(臨界伝送距離)を知ることができる。

【数39】
【0103】
実際のワイヤレス給電システムでは、上記式2.21における第2項の方が第1項よりも大きな値を持つため、長い伝送距離にわたってPT対称的に保存するためには、ωをできるだけ大きく設定する必要がある。ただし、負荷抵抗値Rには、下記式2.22に示すように、伝送効率が最大になる最適値が存在する。よって、Rの値を、この最適値を超えて無制限に大きくすると、伝送効率が著しく低下してしまう問題が発生してしまう。

【数40】
【0104】
よって、長い伝送距離にわたってPT対称的を維持するためには、ωをできるだけ大きく設定することが重要になる。ただし、ωとCは、トレードオフの関係にあり、どちらか一方を大きくすると、他方が小さくなるため、ωとCの値のみを調整するだけでは、ωを大きくすることはできない。
【0105】
ωは、(C/L1/2へ変換することができる。よって、受電側コイルの自己インダクタンスLを小さくすれば、ωが大きくなり、低周波においても長い伝送距離にわたってPT対称的を保存できるという結論を得る。
【0106】
また、駆動周波数を、上記式2.15aで表される共振周波数ωか、上記式2.15bで表される共振周波数ωのいずれかに一致させれば、PT対称性が保存される。しかし、上記式2.15a,2.15bにおける結合レートκは、受電側コイルと給電側コイルとの相対的な位置に依存する。このため、上述した腕時計のアプリケーション等では、ワイヤレス充電器(給電側機器)に対して腕時計(受電側機器)をセットする位置が多少ズレただけで、共振周波数ω,ωが変化する。
【0107】
また、上記式2.15a,2.15bにおける受電側固有損失レートΓ20は、伝送空間(受電側コイルと給電側コイルとの間の空間)に介在される導電物体に依存する。このため、上述した腕時計のアプリケーション等では、裏蓋の材質や厚さが変わると、共振周波数ω,ωが変化する。このため、共振周波数ω,ωのいずれかに一致するように、駆動周波数を狙い打ちすることは、非常に難しい。
【0108】
この点、負性抵抗回路として、上記のインバータ回路20を採用すれば、共振周波数ω,ωに一致するように駆動周波数が勝手に調整される。したがって、ワイヤレス充電器(給電側機器)に対して腕時計(受電側機器)をセットする位置がズレたり、腕時計の裏蓋の材質や厚さが変わったりした場合であっても、PT対称性を保存され、ワイヤレス充電器(給電側機器)から腕時計(受電側機器)に適切に電力伝送を行い続けることができる。
【0109】
3.実験
本発明のワイヤレス給電システムの有効性を確かめるため、以下の実験1及び実験2を行った。
【0110】
3.1 実験1
まず、本発明のワイヤレス給電システムの伝送性能(電力伝送効率)を確かめる実験(実験1)を行った。本実験は、図6に示したものからDC-DCコンバータ60を取り除いた回路を用いて行った。給電側コイル11と受電側コイル41との間には、厚さ2mmのステンレス板からなる裏蓋2bを配置した。この状態でインバータ回路20による電流制御を行ったときの、給電側の出力電圧(図6における給電側コイル11の起電力uC1に一致する。)と、出力電流(図6における給電側コイル11の電流iL1に一致する。)と、出力電力とを測定するとともに、受電側の出力電圧(図6におけるuOUT)及び電流(図6におけるiOUT)並びに出力電力を測定した。
【0111】
図13(a)に、給電側の出力電圧及び出力電流の波形を示す。同図における下側の波形が、給電側の出力電圧の波形であり、同図における上側の波形が、給電側の出力電流の波形である。このときのインバータ回路20の駆動周波数は、35.64kHzであった。図13(b)に、給電側の出力電圧、出力電流及び出力電力の測定値を示す。給電側の出力電圧は、2.080Vであり、出力電流は、348.30mAであり、出力電力は、0.486Wであった。
【0112】
また、図14(a)に、受電側の出力電圧、出力電流及び出力電力の波形を示す。同図における最上段の波形が、受電側の出力電圧の波形であり、同図における最下段の波形が、受電側の出力電流の波形であり、同図における中段の波形が、受電側の出力電力の波形である。図14(b)に、受電側の出力電圧、出力電流及び出力電力の測定値を示す。受電側の出力電圧は、3.724Vであり、出力電流は、18.76mAであり、出力電力は、0.0698Wであった。
【0113】
さらに、図15に、電力伝送効率の測定値を示す。図15に示されるように、本発明のワイヤレス給電システムの電力伝送効率として、14.33%が得られた。これに対し、従来技術を用いた場合(駆動周波数を200kHzで決め打ちした場合)の電力伝送効率は、1~2%程度である。このことから、本発明のワイヤレス給電システムは、従来技術よりも、非常に高い効率で電力伝送できることが分かった。
【0114】
3.2 実験2
続いて、本発明のワイヤレス給電システムを用いて、腕時計の裏蓋(ステンレス製)越しにワイヤレス給電を行った場合に、その裏蓋がどの程度温度上昇するのかを確認する実験(実験2)を行った。本実験は、図5(b)に示す状態の裏蓋2bの温度を、放射温度計(図示省略)にて測定することにより行った。本実験実施時の室温は、20.4℃であった。ワイヤレス給電システムの回路は、実験1と同じものを用いた。
【0115】
図16に実験2の測定結果を示す。図16に示すように、本発明のワイヤレス給電システムでは、通電開始(電力伝送開始)から30分経過後における裏蓋2bの温度上昇が5℃に抑えられており、通電開始から60分経過後でも裏蓋2bの温度上昇が7℃に抑えられていた。これに対し、従来技術を用いた場合(駆動周波数を200kHzで決め打ちした場合)の裏蓋2bの温度上昇は、通電開始から60分経過後で19℃であった。このことから、本発明のワイヤレス給電システムは、従来技術よりも、裏蓋(給電側コイルと受電側コイルとの間に配した金属部材)の温度上昇を大幅に抑えることができることが分かった。
【符号の説明】
【0116】
1 ワイヤレス充電器(給電側機器)
1a ケース
2 腕時計(受電側機器)
2a ケース
2b 裏蓋(金属部材)
10 給電側共振回路
11 給電側コイル
11a 磁性体コア(磁芯)
11a 基台部
11a 内側凸部
11a 外側凸部
20 インバータ回路(負性抵抗回路)
20a フィードバック線
21 電流センサ
22 発信器
23 トリガー機構
24 ゲートドライバ
25 スイッチング回路
26 位相進み補償回路
27 ゼロクロッシングコンパレータ
30 直流電源
40 受電側共振回路
41 受電側コイル
41a 磁性シート
50 整流回路
60 DC-DCコンバータ
70 バッテリー(負荷抵抗)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16