IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱重工業株式会社の特許一覧

特開2024-21635タービン翼のコーティング膜厚測定装置、及び、タービン翼のコーティング膜厚測定方法
<>
  • 特開-タービン翼のコーティング膜厚測定装置、及び、タービン翼のコーティング膜厚測定方法 図1
  • 特開-タービン翼のコーティング膜厚測定装置、及び、タービン翼のコーティング膜厚測定方法 図2
  • 特開-タービン翼のコーティング膜厚測定装置、及び、タービン翼のコーティング膜厚測定方法 図3
  • 特開-タービン翼のコーティング膜厚測定装置、及び、タービン翼のコーティング膜厚測定方法 図4
  • 特開-タービン翼のコーティング膜厚測定装置、及び、タービン翼のコーティング膜厚測定方法 図5
  • 特開-タービン翼のコーティング膜厚測定装置、及び、タービン翼のコーティング膜厚測定方法 図6A
  • 特開-タービン翼のコーティング膜厚測定装置、及び、タービン翼のコーティング膜厚測定方法 図6B
  • 特開-タービン翼のコーティング膜厚測定装置、及び、タービン翼のコーティング膜厚測定方法 図6C
  • 特開-タービン翼のコーティング膜厚測定装置、及び、タービン翼のコーティング膜厚測定方法 図6D
  • 特開-タービン翼のコーティング膜厚測定装置、及び、タービン翼のコーティング膜厚測定方法 図7
  • 特開-タービン翼のコーティング膜厚測定装置、及び、タービン翼のコーティング膜厚測定方法 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024021635
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】タービン翼のコーティング膜厚測定装置、及び、タービン翼のコーティング膜厚測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01B 7/06 20060101AFI20240208BHJP
【FI】
G01B7/06 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022124620
(22)【出願日】2022-08-04
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】木屋 敦詞
(72)【発明者】
【氏名】荻野 伸祐
【テーマコード(参考)】
2F063
【Fターム(参考)】
2F063AA16
2F063BA04
2F063BB02
2F063BD13
2F063CA09
2F063CA11
2F063DA02
2F063DA05
2F063DB02
2F063DC08
2F063DD02
2F063GA08
(57)【要約】
【課題】ペンシル型プローブを用いてタービン翼の表面に施工されたコーティングの膜厚測定を効率的、且つ、精度よく実施する。
【解決手段】本開示は、ロボットアームで保持されたペンシル型プローブを用いて、タービン翼に施工されたコーティングの膜厚を測定する装置等に関する。本装置は、タービン翼の表面に設定された測定対象点に対してペンシル型プローブの先端部を当てた状態で、ロボットアームによるペンシル型プローブの保持角度が変化するようにロボットアームを操作しながら、プローブの複数の検出値を時系列的に取得する。そして複数の検出値のうち膜厚が最小になる代表検出値に基づいて、膜厚が算出される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロボットアームで保持されたペンシル型プローブを用いて、タービン翼の表面に施工されたコーティングの膜厚を測定するためのタービン翼のコーティング膜厚測定装置であって、
前記ロボットアームを操作するためのロボットアーム操作部と、
前記ペンシル型プローブで検出された複数の検出値を時系列的に取得するための検出値取得部と、
前記複数の検出値のうち前記膜厚が最小になる代表検出値を特定するための代表検出値特定部と、
前記代表検出値に基づいて、前記膜厚を算出するための膜厚算出部と、
を備え、
前記ロボットアーム操作部によって、前記表面に設定された測定対象点に対して前記ペンシル型プローブの先端部を当てた状態で、前記ロボットアームによる前記ペンシル型プローブの保持角度が変化するように前記ロボットアームを操作しながら、前記検出値取得部によって前記複数の検出値が取得されるように構成される、タービン翼のコーティング膜厚測定装置。
【請求項2】
前記ロボットアーム操作部は、前記表面の法線方向から見て、前記ペンシル型プローブの後端部が予め規定された走査経路に従って移動するように、前記ロボットアームを操作する、請求項1に記載のタービン翼のコーティング膜厚測定装置。
【請求項3】
前記走査経路は、前記法線方向から見て、前記測定対象点を中心とする螺旋状に規定される、請求項2に記載のタービン翼のコーティング膜厚測定装置。
【請求項4】
前記走査経路は、 前記法線方向から見て、
第1方向に沿った第1走査経路と、
前記第1走査経路に連続し、前記第1方向に交差する第2方向に沿った第2走査経路と、
を含む、請求項2に記載のタービン翼のコーティング膜厚測定装置。
【請求項5】
前記走査経路は、 前記法線方向から見て、
第1方向に沿った第1走査経路と、
前記第1方向に交差する第2方向に沿った第2走査経路と、
を含み、
前記代表検出値特定部は、前記後端部が前記第1走査経路に沿って前記ペンシル型プローブが走査された場合に取得される前記複数の検出値から前記代表検出値として第1代表検出値を特定し、その後、前記後端部が前記第1走査経路のうち前記第1代表検出値に対応する位置を通る前記第2走査経路に沿って前記ペンシル型プローブが走査された場合に取得される前記複数の検出値から前記代表検出値として第2代表検出値を特定し、
前記膜厚算出部は、前記第2代表検出値に基づいて前記膜厚を算出する、請求項2に記載のタービン翼のコーティング膜厚測定装置。
【請求項6】
前記検出値取得部は、前記ロボットアーム操作部によって前記ロボットアームを操作しながら、前記複数の検出値を連続的に取得する、請求項1又は2に記載のタービン翼のコーティング膜厚測定装置。
【請求項7】
前記検出値取得部のサンプリング周波数、及び、前記ロボットアーム操作部の操作量は、隣接する2つの前記検出量を取得した際の前記保持角度の変化量が2度以内になるように設定される、請求項1又は2に記載のタービン翼のコーティング膜厚測定装置。
【請求項8】
前記表面が曲面である場合における前記保持角度の第1変化範囲は、前記表面が平面である場合における前記保持角度の第2変化範囲より大きい、請求項1又は2に記載のタービン翼のコーティング膜厚測定装置。
【請求項9】
前記曲面は前記タービン翼のフィレットR部、又は、入口端部である、請求項8に記載のタービン翼のコーティング膜厚測定装置。
【請求項10】
前記ペンシル型プローブは、前記先端部に直径が4mm以下の検出コイルを有する、請求項1又は2に記載のタービン翼のコーティング膜厚測定装置。
【請求項11】
前記コーティングは遮熱コーティングである、請求項1又は2に記載のタービン翼のコーティング膜厚測定装置。
【請求項12】
ロボットアームで保持されたペンシル型プローブを用いて、タービン翼の表面に施工されたコーティングの膜厚を測定するためのタービン翼のコーティング膜厚測定方法であって、
前記ロボットアームを操作しながら、前記ペンシル型プローブの複数の検出値を時系列的に取得する工程と、
前記複数の検出値のうち前記膜厚が最小になる代表検出値を特定する工程と、
前記代表検出値に基づいて、前記膜厚を算出する工程と、
を備え、
前記表面に設定された測定対象点に対して前記ペンシル型プローブの先端部を当てた状態で、前記ロボットアームによる前記ペンシル型プローブの保持角度が変化するように、前記ペンシル型プローブの後端部を傾斜するように前記ロボットアームを操作しながら、前記複数の検出値を取得する、タービン翼のコーティング膜厚測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、タービン翼のコーティング膜厚測定装置、及び、タービン翼のコーティング膜厚測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンでは、ロータに設けられたタービン翼で高温高圧の燃焼ガスを受けることによりロータが回転駆動される。タービン翼は、高温高圧の苛酷な環境に曝される。そのため、タービン翼を保護するために、タービン翼の表面には、例えば遮熱コーティング(TBC:Thermal Barrier Coating)のようなコーティングが施工されることがある。
【0003】
このように表面にコーティングが施工されたタービン翼では、品質管理のためにコーティングの膜厚を測定する検査が行われることがある。コーティングの膜厚測定は、例えば、渦電流探傷法(ECT:Eddy Current Testing)によって行われる。特許文献1には、ボイラの管寄せ管台溶接部における亀裂等を測定対象とする点で異なるが、渦電流探傷法を利用したペンシル型プローブを用いて、測定対象の内部構造を測定するための技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-173144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1のような渦電流探傷法を利用したペンシル型プローブは、タービン翼の表面に施工されたコーティングの膜厚測定に利用可能である。この種のペンシル型プローブは、その先端部に渦電流探傷センサを有しているが、その検出値は、測定対象であるタービン翼の表面形状や、タービン翼の表面に対する渦電流探傷センサの姿勢やプローブの先端形状によって微妙に変化することがある。そのため、作業員によるペンシル型プローブを用いたコーティングの膜厚測定では、例えば以下の手順による手法が用いられる。
【0006】
まずペンシル型プローブを把持する作業員は、タービン翼の表面に設定された測定対象点に対してペンシル型プローブの先端部を当てながら、ペンシル型プローブの保持角度を変化させる。このとき作業員は、ペンシル型プローブの検出値(例えば電圧値)を観察することで、保持角度の変化に伴って変動する検出値から、換算によって得られる膜厚が最も薄くなる保持角度を特定する。そして、当該特定された保持角度に対応する検出値を用いて、コーティングの膜厚を求める(すなわちペンシル型プローブの検出値のうち換算によって得られる膜厚が最小となる検出値が採用される)。
【0007】
このような作業員によるペンシル型プローブを用いたコーティングの膜厚測定では、測定対象点ごとにペンシル型プローブの保持角度を変化させながら検出値を観察する手順が必要となるため、手間がかかる。そのためタービン翼の表面に設定される測定対象点の数が多い場合や、量産品のタービン翼を対象とすると、作業員の負担が大きく、自動化や効率化が求められている。
【0008】
本開示の少なくとも一実施形態は上述の事情に鑑みなされたものであり、ペンシル型プローブを用いてタービン翼の表面に施工されたコーティングの膜厚測定を効率的、且つ、精度よく実施可能なタービン翼のコーティング膜厚測定装置、及び、タービン翼のコーティング膜厚測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の少なくとも一実施形態に係るタービン翼のコーティング膜厚測定装置は、上記課題を解決するために、
ロボットアームで保持されたペンシル型プローブを用いて、タービン翼の表面に施工されたコーティングの膜厚を測定するためのタービン翼のコーティング膜厚測定装置であって、
前記ロボットアームを操作するためのロボットアーム操作部と、
前記ペンシル型プローブで検出された複数の検出値を時系列的に取得するための検出値取得部と、
前記複数の検出値のうち前記膜厚が最小になる代表検出値を特定するための代表検出値特定部と、
前記代表検出値に基づいて、前記膜厚を算出するための膜厚算出部と、
を備え、
前記ロボットアーム操作部によって、前記表面に設定された測定対象点に対して前記ペンシル型プローブの先端部を当てた状態で、前記ロボットアームによる前記ペンシル型プローブの保持角度が変化するように前記ロボットアームを操作しながら、前記検出値取得部によって前記複数の検出値が取得されるように構成される。
【0010】
本開示の少なくとも一実施形態に係るタービン翼のコーティング膜厚測定方法は、上記課題を解決するために、
ロボットアームで保持されたペンシル型プローブを用いて、タービン翼の表面に施工されたコーティングの膜厚を測定するためのタービン翼のコーティング膜厚測定方法であって、
前記ロボットアームを操作しながら、前記ペンシル型プローブの複数の検出値を時系列的に取得する工程と、
前記複数の検出値のうち前記膜厚が最小になる代表検出値を特定する工程と、
前記代表検出値に基づいて、前記膜厚を算出する工程と、
を備え、
前記表面に設定された測定対象点に対して前記ペンシル型プローブの先端部を当てた状態で、前記ロボットアームによる前記ペンシル型プローブの保持角度が変化するように、前記ペンシル型プローブの後端部を傾斜するように前記ロボットアームを操作しながら、前記複数の検出値を取得する。
【発明の効果】
【0011】
本開示の少なくとも一実施形態によれば、ペンシル型プローブを用いてタービン翼の表面に施工されたコーティングの膜厚測定を効率的、且つ、精度よく実施可能なタービン翼のコーティング膜厚測定装置、及び、タービン翼のコーティング膜厚測定方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】一実施形態に係るコーティング膜厚測定装置を示す斜視図である。
図2図1のコーティング膜厚測定装置の内部構成を示すブロック図である。
図3】一実施形態に係るコーティング膜厚測定方法を示すフローチャートである。
図4図3のステップS102におけるペンシル型プローブを示す模式図である。
図5図4のZ方向に沿った断面図である。
図6A】測定対象点がある表面におけるペンシル型プローブの後端部の走査経路の一例を示す模式図である。
図6B】測定対象点がある表面におけるペンシル型プローブの後端部の走査経路の他の例を示す模式図である。
図6C】測定対象点がある表面におけるペンシル型プローブの後端部の走査経路の他の例を示す模式図である。
図6D】測定対象点がある表面におけるペンシル型プローブの後端部の走査経路の他の例を示す模式図である。
図7】タービン翼を模式的に示す斜視図である。
図8図7の各測定対象点におけるX方向及びY方向における保持角度の変化範囲を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0014】
図1は一実施形態に係るコーティング膜厚測定装置1を示す斜視図であり、図2図1のコーティング膜厚測定装置1の内部構成を示すブロック図である。
【0015】
コーティング膜厚測定装置1は、タービン翼2の表面に施工されたコーティング3の膜厚tを測定するための装置である。タービン翼2は、例えばガスタービンの動翼又は静翼であり、その表面にはコーティング3が施工される。コーティング3は、例えば遮熱コーティング膜(TBC:Thermal Barrier Coating)であり、タービン翼の基材となる金属部材上に、例えば、耐酸化性に優れるMCrAlY(MはCo、Ni、CoNi等)合金をボンドコートとして施工した後、熱伝導率が低いZrO2系セラミックス(YSZ:8wt%のY2O3で部分安定化したZrO2:Yttria Partially Stabilized Zirconia)をトップコートとして被覆したものである。
【0016】
図1に示すように、コーティング膜厚測定装置1は、ロボットアーム4と、ロボットアーム4に保持されたペンシル型プローブ6と、演算装置8とを備える。
【0017】
ロボットアーム4は、演算装置8からの制御信号に基づいて駆動可能である。ロボットアーム4の先端部分にはペンシル型プローブ6が保持されており、演算装置8からの制御信号に基づいてロボットアーム4の姿勢を変化させることにより、ロボットアーム4の先端部分に保持されたペンシル型プローブ6の位置や方向を調整可能である。
【0018】
尚、図1では図示を省略しているが、ロボットアーム4の先端部分にはペンシル型プローブ6を保持するための保持機構(例えば、ペンシル型プローブ6をロボットアーム4に脱着可能に保持するクリップのような把持機構)が設けられる。またロボットアーム4とペンシル型プローブ6とが一体的に構成されていてもよい。
【0019】
ペンシル型プローブ6は、ロボットアーム4によって保持される本体部6aと、測定時にタービン翼2に対して接触される先端部6bとを備える。先端部6bは本体部6aに比べて小径に構成されており、先端部6bには渦電流探傷センサが設けられる。典型的には先端部6bは直径が4mm以下である。渦電流探傷センサは、被測定対象である金属部材との距離を測定信号として検出可能である。従って、ロボットアーム4によってペンシル型プローブ6が移動されることで、先端部6bがタービン翼2の表面に接触させられると、渦電流探傷センサでは、接触しているタービン翼2の表面における基材(金属部材)との距離に対応する測定信号が検出される。
尚、本体部6aのうち先端部6bと反対側には、後端部6dが設けられる。図1では、後端部6dがロボットアーム4によって保持されるペンシル型プローブ6が例示されているが、ロボットアーム4は、本体部6aを保持してもよい。
【0020】
演算装置8は、コーティング膜厚測定装置1の動作に関する各種演算を実施するための処理ユニットであり、例えば、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、及びコンピュータ読み取り可能な記憶媒体等から構成されている。そして、各種機能を実現するための一連の処理は、一例として、プログラムの形式で記憶媒体等に記憶されており、このプログラムをCPUがRAM等に読み出して、情報の加工・演算処理を実行することにより、各種機能が実現される。尚、プログラムは、ROMやその他の記憶媒体に予めインストールしておく形態や、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体に記憶された状態で提供される形態、有線又は無線による通信手段を介して配信される形態等が適用されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記憶媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリ等である。
【0021】
演算装置8によって実施される演算処理には、ロボットアーム4の駆動制御、ペンシル型プローブ6を用いた測定実施、及び、ペンシル型プローブ6で得られた測定結果の取得及び演算等が含まれる。図2に示すように、演算装置8は、これらの機能を実現するためのブロック構成として、ロボットアーム操作部10と、検出値取得部12と、記憶部14と、代表検出値特定部16と、膜厚算出部18とを備える。
【0022】
ロボットアーム操作部10は、ロボットアーム4を操作するための構成である。具体的にはロボットアーム操作部10は、ロボットアーム4が備えるモータや伝達部材に対して制御信号を送信することにより、これらの部位が駆動し、ロボットアーム4の位置及び方向が可変となる。これにより、ロボットアーム4の先端部分に保持されたペンシル型プローブ6は、コーティング3の膜厚測定に適した位置や方向に調整される。
【0023】
検出値取得部12は、ペンシル型プローブ6で検出された複数の検出値Vdを時系列的に取得するための構成である。複数の検出値Vdは、例えば、所定のサンプリング周波数で連続的に取得される(言い換えると、所定の時間間隔で時系列的に取得される)。後述するように検出値取得部12による複数の検出値Vdの取得は、ロボットアーム操作部10によるロボットアーム4の操作と同期して行われる。
【0024】
検出値取得部12で取得された複数の検出値Vdは、例えば、不図示のメモリ等の記憶部14に読み出し可能に記憶される。後述するように、検出値取得部12では、測定対象位置ごとに複数の検出値Vdが取得されるため、記憶部14には、複数の検出値Vdが測定対象点MPを示す位置情報と関連付けられて記憶される。
【0025】
代表検出値特定部16は、複数の検出値Vdから代表値Vrを特定するための構成である。前述したように、記憶部14には、測定対象点MPと複数の検出値Vdとが関連付けられて記憶されており、これらの複数の検出値Vdからいずれか一つが代表検出値Vrとして特定される。ここで、ペンシル型プローブ6で取得された検出値Vdとコーティング3の膜厚tとの間には相関があり、その相関関係を予め取得することで、検出値Vdはコーティング3の膜厚tに換算することが可能である。代表検出値特定部16は、複数の検出値Vdの各々を膜厚tに換算した場合に、得られる膜厚tが最小になる検出値Vdを代表検出値Vrとして特定する。
【0026】
膜厚算出部18は、代表検出値特定部16で特定された代表検出値Vrに基づいて、コーティング3の膜厚tを算出するための構成である。前述したように、ペンシル型プローブ6で取得された検出値Vd(又は代表検出値Vr)とコーティング3の膜厚tとの間には相関がある。そのため、当該相関を予め取得しておくことで、代表検出値Vrに基づいてコーティング3の膜厚tを算出できる。ペンシル型プローブ6は、測定対象点MPに対して先端部6bを当てた際に、ロボットアーム4による保持角度θによって検出値Vdにバラツキが生じる。本実施形態では、後述するように、ロボットアーム4の操作によって保持角度θを変化させながら取得した複数の検出値Vdから特定された代表検出値Vrから膜厚tを算出することで、測定対象点MPにおけるコーティング3の膜厚tを精度よく算出できる。
【0027】
<コーティング膜厚測定方法>
続いて上記構成を有するコーティング膜厚測定装置1を用いて実施されるコーティング膜厚測定方法について説明する。図3は一実施形態に係るコーティング膜厚測定方法を示すフローチャートである。
【0028】
まずタービン翼2の表面に、コーティングの膜厚測定が行われる測定対象点MPを設定する(ステップS100)。測定対象点MPは、タービン翼2の表面から、ロボットアーム4に保持されたペンシル型プローブ6がアクセス可能な限りにおいて、任意に選定可能である。
【0029】
続いて測定対象点MPに対して、ペンシル型プローブ6の先端部6bが当たるように、ロボットアーム4を操作する(ステップS101)。例えば、記憶部14には、測定対象となるタービン翼2に対応するCADデータが記憶されており、オペレータがディスプレイに表示されたCADデータ上で測定対象点MPを選択する。そしてロボットアーム操作部10は、ペンシル型プローブ6の先端部6bが、選択された測定対象点MPに当たるように、ロボットアーム4に対して制御信号を送信する。ロボットアーム4には、例えば、レーザ変位計(不図示)のような測距装置が搭載されており、実際のタービン翼2との距離を測定しながら、ペンシル型プローブ6の先端部6bが、選択された測定対象点MPに当たるように操作される。
【0030】
続いてロボットアーム4のペンシル型プローブ6の保持角度θを変化させながら、ペンシル型プローブ6の複数の検出値を時系列的に取得する(ステップS102)。ステップS102では、ロボットアーム操作部10によるロボットアーム4の操作と、検出値取得部12による複数の検出値の取得とが同期して行われる。
【0031】
ここで図4図3のステップS102におけるペンシル型プローブ6を示す模式図であり、図5図4のZ方向に沿った断面図である。尚、以下の説明では、タービン翼2の表面に沿った第1方向を「X方向」、タービン翼2の表面に沿って第1方向に直交する第2方向を「Y方向」、及び、タービン翼2の表面の法線方向を「Z方向」と称する。
【0032】
ステップS102におけるロボットアーム4の操作は、ロボットアーム4に保持されたペンシル型プローブ6の先端部6bを測定対象点MPに当てながら、保持角度θを変化するように行われる。ロボットアーム4によって操作されるペンシル型プローブ6は、初期状態として、ステップS101で述べたように、先端部6bが測定対象点MPに対して初期(任意)の保持角度θで当たっている。ステップS102では、このような初期状態にあるペンシル型プローブ6の先端部6bが測定対象点MPに当たった状態を維持しながら、保持角度θが変化するように操作される。
【0033】
またステップS102では、このようにペンシル型プローブ6の保持角度θが変化するようにロボットアーム4が操作される間に、ペンシル型プローブ6で検出された検出値Vdが検出値取得部12によって取得される。このような検出値取得部12による複数の検出値Vdの取得は、ロボットアーム操作部10によってロボットアーム4を操作しながら連続的に行われてもよい。この場合、検出値取得部12は、所定のサンプリング周波数で複数の検出値Vdを時系列的に取得することにより、互いに異なる保持角度θに対応する複数の検出値Vdが取得される。検出値取得部12によって取得される検出値Vdは、記憶部14に対して逐次記憶される(ステップS103)。
【0034】
尚、複数の検出値にそれぞれ対応する保持角度θは、検出値取得部12のサンプリング周波数、及び、ロボットアーム操作部10の操作量に基づく。この場合、複数の検出値Vdのうち隣接する2つの検出値Vdに対応する保持角度の変化量が2度以内になるように設定されてもよい。つまり、保持角度θが2度以内の変化量で変化するごとに検出値Vdが取得されるように、検出値取得部12のサンプリング周波数、及び、ロボットアーム操作部10の操作量を設定してもよい。これにより、より多くの異なる保持角度θに対応する検出値Vdを取得し、続く工程において、より精度のよい代表検出値Vrを特定することができる。
【0035】
尚、ステップS102では、検出値取得部12による検出値Vdの取得は、非連続的に行われてもよい。この場合、まずロボットアーム4によってペンシル型プローブ6の保持角度θを所定量だけ変化させ、その後、保持角度θを維持しながら検出値Vdを取得する。このような工程を繰り返し実施することにより、連続的に検出値Vdの取得を行う場合と略同等の複数の検出値Vdを取得することができる。
【0036】
続いて代表検出値特定部16は、記憶部14に記憶された複数の検出値Vdから代表検出値Vrを特定する(ステップS104)。ステップS104では、各検出値Vdを膜厚tに換算し、換算結果である膜厚tの算出値が最小である検出値が代表検出値Vrとして特定される。
【0037】
続いてステップS104で特定された代表検出値Vrに基づいて、膜厚tを算出する(ステップS105)。代表検出値Vrは、前述のように、膜厚tの換算値が最小となる検出値Vdであるため、ステップS105では、代表検出値Vrに基づいた膜厚tの換算値を、コーティング3の膜厚tの測定結果として採用する。ペンシル型プローブ6は、先端部6bに渦電流探傷センサが設けられるため、測定対象点MPに対して先端部6bを当てた際に、ロボットアーム4による保持角度θによって先端部6bの表面に対する当たり方が変化し、その検出値Vdにバラツキが生じる。本実施形態では、膜厚tの換算値が最小となる換算結果を、コーティング3の膜厚tの測定結果として採用することで、このような保持角度θによる測定誤差を抑え、精度のよい膜厚測定が可能となる。
【0038】
続いて上記のコーティング膜厚測定方法の各ステップにおける詳細な実施形態について説明する。幾つかの実施形態では、ステップS102におけるロボットアーム4の操作は、測定対象点MPがある表面の法線方向(Z方向)から見て、ペンシル型プローブ6の後端部6dが表面上に規定された走査経路に従って移動するように行われてもよい。
【0039】
図6A図6Dは、それぞれ測定対象点MPがある表面におけるペンシル型プローブ6の後端部6dの走査経路30A~30Dを示す模式図である。
【0040】
図6Aに示す走査経路30Aは、第1方向(X方向)に沿った第1走査経路32aと、第1走査経路32aに続き、第1方向に交差する第2方向(Y方向)に沿った第2走査経路32bとを含む。第2走査経路32bは第1走査経路32aより短く設定される。このような走査経路30Aでは、X方向に沿った第1走査経路32aでは、保持角度θのY方向成分(以下、適宜「保持角度θy」と称する)が固定された状態で、保持角度θのX方向成分(以下、適宜「保持角度θx」と称する)が変化される。そして続くY方向に沿った第2走査経路32bでは、保持角度θxが固定された状態で、保持角度θyが変化される。このような第1走査経路32a及び第2走査経路32bを繰り返す走査経路30Aに沿ってペンシル型プローブ6の後端部6dを移動させることで、保持角度θを広い範囲にわたって変化させることができる。保持角度θの変化範囲が大きくなると、より多くの検出値Vdから代表検出値Vrを選定できるため、コーティング3の膜厚tの算出精度を効果的に向上できる。
【0041】
また図6B及び図6Cに示す走査経路30B及び30Cは、法線方向(Z方向)から見て、測定対象点MPを中心とする螺旋状に規定される。より具体的には、図6Bに示す走査経路30Bは、測定対象点MPを中心として曲率が連続的に変化する螺旋状に規定される。また図6Cに示す走査経路30Cは、測定対象点MPを中心として、直線的に延在する経路が組み合わされた螺旋状に規定される。このような螺旋状の走査経路30B、30Cによってもペンシル型プローブ6の保持角度θを広い範囲にわたって変化させることができる。
【0042】
また図6Dに示す走査経路30Dは、第1方向(X方向)に沿った第1走査経路34aと、第1方向に交差する第2方向(Y方向)に沿った第2走査経路34bとを含む。この実施形態では、まずペンシル型プローブ6の後端部6dが第1走査経路34aに沿って移動するように操作されながら、複数の検出値が取得される。このとき第1走査経路34aでは、Y方向における保持角度θyが固定された状態で、X方向における保持角度θxが変化される。そして代表検出値特定部16は、後端部6dが第1走査経路34aに沿って走査された場合に取得される複数の検出値Vdから第1代表検出値Vr1を特定する。つまり第1走査経路34aに沿ってペンシル型プローブ6の後端部6dを走査した場合に取得した複数の検出値Vdから、膜厚tが最小になる検出値である第1代表検出値Vr1を特定する。
【0043】
続いて、第2走査経路34bが第1代表検出値Vr1に対応する位置を通るように設定される。そしてペンシル型プローブ6の後端部6dが第2走査経路34bに沿って移動するように操作されながら、複数の検出値Vdが取得される。このとき第2走査経路34bでは、X方向における保持角度θxが固定された状態で、Y方向における保持角度θyが変化される。そして代表検出値特定部16は、後端部6dが第2走査経路34bに沿って走査された場合に取得される複数の検出値Vdから第2代表検出値Vr2を特定する。そして膜厚算出部18は、このように特定された第2代表検出値Vr2に基づいて膜厚tを算出する。
【0044】
このように走査経路30Dを用いる実施形態では、第1走査経路34a及び第2走査経路34bという2つの走査経路を利用して、少ない操作で代表検出値Vrを特定することで、効率的にコーティング3の膜厚測定が可能となる。
【0045】
続いてステップS102における保持角度θの変化範囲について説明する。ステップS102では、ペンシル型プローブ6の保持角度θが変化されながら複数の検出値の取得が行われるが、このときの保持角度θの変化範囲は、測定対象点MPが位置するタービン翼2の部位に対応して設定されてもよい。
【0046】
例えば測定対象点MPが設定された表面が曲面である場合における保持角度θの変化範囲は、当該表面が平面である場合における保持角度の変化範囲より大きく設定されてもよい。一般的に、測定対象点MPが曲面上にある場合は、測定対象点MPが平面にある場合に比べて、ペンシル型プローブ6の姿勢による検出値への影響が大きくなる傾向がある。そのため、測定対象点MPが曲面上にある場合におけるペンシル型プローブ6の保持角度θの変化範囲を、測定対象点MPが平面上にある場合におけるペンシル型プローブ6の保持角度θの変化範囲に比べて大きく設定する。つまり、測定対象点MPが曲面上にある場合には、ペンシル型プローブ6の保持角度θを変化させる範囲を広げる。これにより、ペンシル型プローブ6の姿勢による影響が大きな曲面上にある測定対象点MPにおいても、ペンシル型プローブ6の保持角度θを変化した際に得られる複数の検出値Vdから代表検出値Vrを的確に特定し、精度のよい膜厚測定が可能となる。
【0047】
ここで図7及び図8を参照して、タービン翼2において測定対象点MPが設定される部位による保持角度θの変化量の設定例について具体的に説明する。図7はタービン翼2を模式的に示す斜視図であり、図8図7の各測定対象点MPにおけるX方向及びY方向における保持角度θの変化範囲を示す図である。
【0048】
図7では、タービン翼2の表面に設定された幾つかの測定対象点MPが示されている。具体的には、タービン翼2の翼面2aに設けられた測定対象点MP1、フィレット部2bに設けられた測定対象点MP2、リーディングエッジ2cに設けられた測定対象点MP3、フィレット入口端部2dに設けられた測定対象点MP4が示されている。略平面である翼面2aに設定された測定対象点MP1では、保持角度θの変化範囲は、X方向においてΔθx1(=14°)であり、Y方向においてΔθy1(=14°)である。
【0049】
X方向に曲率を有する曲面であるフィレット部2bに設定された測定対象点MP2では、保持角度θの変化範囲はX方向においてΔθx2(=20°)であり、平面の場合(Δθx1)より大きく設定される。尚、曲率を有さないY方向における変化範囲Δθy2は、平面の場合(Δθy1=14°)と等しく設定されている。
【0050】
Y方向に曲率を有する曲面であるリーディングエッジ2cに設定された測定対象点MP3では、保持角度θの変化範囲はY方向においてΔθy3(=30°)であり、平面の場合(Δθy1)より大きく設定される。尚、曲率を有さないX方向における変化範囲Δθx3は、平面の場合(Δθx1=14°)と等しく設定されている。
【0051】
X方向及びY方向に曲率を有する曲面であるフィレット入口端部2dに設定された測定対象点MP4では、保持角度θの変化範囲はX方向においてΔθx4(=20°)であり、平面の場合(Δθx1)より大きく設定され、且つ、Y方向においてΔθy4(=30°)であり、平面の場合(Δθy1)より大きく設定される。
【0052】
尚、X方向に曲率を有する曲面における保持角度θの変化量Δθx2及びΔθx4(=20°)が、Y方向に曲率を有する曲面における保持角度θの変化量Δθy3及びΔθy4(=30°)に比べて小さいのは、ペンシル型プローブ6の周囲への干渉を避けるためである。
【0053】
このように測定対象点MPが設定される表面が有する曲率に応じて、保持角度θの変化範囲を設定することで、タービン翼2のフィレット部2b、リーディングエッジ2c及びフィレット入口端部2dのような曲面においても、精度のよいコーティング3の膜厚測定が可能となる。
【0054】
以上説明したように、コーティング膜厚測定装置1を用いたコーティング膜厚測定方法によれば、ロボットアーム4によってペンシル型プローブ6の保持角度θを変化させながら取得された複数の検出値Vdから特定される代表検出値Vrに基づいて、タービン翼2の表面に施工されたコーティング3の膜厚を自動的に測定することができる。ペンシル型プローブ6は、タービン翼2の表面に設定された測定対象点MPに対して先端部を当てながら、ロボットアーム4による保持角度θが変化するように操作される。このとき、ペンシル型プローブ6では時系列的に複数の検出値Vdの取得が行われる。ペンシル型プローブ6の検出値は所定の演算により膜厚tへの換算が可能であり、これら複数の検出値Vdから、換算によって得られる膜厚tが最小になる代表検出値Vrが特定される。そして特定された代表検出値Vrに基づいて、コーティング3の膜厚tが算出される。このような自動化された操作及び演算によって、タービン翼2の表面に施工されたコーティング3の膜厚測定を、効率的、且つ、精度よく実施できる。
【0055】
その他、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上記した実施形態を適宜組み合わせてもよい。
【0056】
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
【0057】
(1)一態様に係るタービン翼のコーティング膜厚測定装置は、
ロボットアーム(例えば上記実施形態のロボットアーム4)で保持されたペンシル型プローブ(例えば上記実施形態のペンシル型プローブ6)を用いて、タービン翼(例えば上記実施形態のタービン翼2)の表面に施工されたコーティング(例えば上記実施形態のコーティング3)の膜厚を測定するためのタービン翼のコーティング膜厚測定装置であって、
前記ロボットアームを操作するためのロボットアーム操作部(例えば上記実施形態のロボットアーム操作部10)と、
前記ペンシル型プローブで検出された複数の検出値を時系列的に取得するための検出値取得部(例えば上記実施形態の検出値取得部12)と、
前記複数の検出値のうち前記膜厚が最小になる代表検出値を特定するための代表検出値特定部(例えば上記実施形態の代表検出値特定部16)と、
前記代表検出値に基づいて、前記膜厚を算出するための膜厚算出部(例えば上記実施形態の膜厚算出部18)と、
を備え、
前記ロボットアーム操作部によって、前記表面に設定された測定対象点(例えば上記実施形態の測定対象点MP)に対して前記ペンシル型プローブの先端部を当てた状態で、前記ロボットアームによる前記ペンシル型プローブの保持角度(例えば上記実施形態の保持角度θ)が変化するように前記ロボットアームを操作しながら、前記検出値取得部によって前記複数の検出値が取得されるように構成される。
【0058】
上記(1)の態様によれば、ロボットアームによってペンシル型プローブの保持角度を変化させながら取得された複数の検出値から特定される代表検出値に基づいて、タービン翼の表面に施工されたコーティングの膜厚を自動的に測定することができる。ペンシル型プローブは、タービン翼の表面に設定された測定対象点に対して先端部を当てながら、ロボットアームによる保持角度が変化するように操作される。このとき、ペンシル型プローブでは時系列的に複数の検出値の取得が行われる。ペンシル型プローブの検出値は所定の演算により膜厚への換算が可能であり、これら複数の検出値から、換算によって得られる膜厚が最小になる代表検出値が特定される。そして特定された代表検出値に基づいて、コーティングの膜厚が算出される。コーティング膜厚測定装置では、このような自動化された操作及び演算によって、タービン翼の表面に施工されたコーティングの膜厚測定を、効率的、且つ、精度よく実施できる。
【0059】
(2)他の態様では、上記(1)の態様において、
前記ロボットアーム操作部は、前記表面の法線方向から見て、前記ペンシル型プローブの後端部が予め規定された走査経路(例えば上記実施形態の走査経路30A~30D)に従って移動するように、前記ロボットアームを操作する。
【0060】
上記(2)の態様によれば、ペンシル型プローブの後端部が予め規定された走査経路に従って移動するようにロボットアームが操作される。これにより、ペンシル型プローブの保持角度は、走査経路に対応する範囲で好適に変化させる。
【0061】
(3)他の態様では、上記(2)の態様において、
前記走査経路は、前記法線方向から見て、前記測定対象点を中心とする螺旋状に規定される。
【0062】
上記(3)の態様によれば、ペンシル型プローブの後端部の走査経路が、測定対象点を中心とする螺旋状に規定される。これにより、ペンシル型プローブの保持角度を広い範囲にわたって変化させ、代表検出値を特定するための複数の検出値を好適に取得できる。そして、このように取得された複数の検出値から特定された代表検出値を用いてコーティングの膜厚を算出することで、精度のよい測定結果を効率的に得ることができる。
【0063】
(4)他の態様では、上記(2)の態様において、
前記走査経路は、 前記法線方向から見て、
第1方向に沿った第1走査経路(例えば上記実施形態の第1走査経路32a)と、
前記第1走査経路に連続し、前記第1方向に交差する第2方向に沿った第2走査経路(例えば上記実施形態の第2走査経路32b)と、
を含む。
【0064】
上記(4)の態様によれば、ペンシル型プローブの後端部の走査経路が、互いに交差する第1走査経路及び第2走査経路を含んで規定される。これにより、ロボットアームによるペンシル型プローブの操作量を抑えつつ、ペンシル型プローブの保持角度を効果的に変化させ、代表検出値を特定するための複数の検出値を好適に取得できる。そして、このように取得された複数の検出値から特定された代表検出値を用いてコーティングの膜厚を算出することで、精度のよい測定結果を効率的に得ることができる。
【0065】
(5)他の態様では、上記(2)の態様において、
前記走査経路は、 前記法線方向から見て、
第1方向に沿った第1走査経路(例えば上記実施形態の第1走査経路34a)と、
前記第1方向に交差する第2方向に沿った第2走査経路(例えば上記実施形態の第2走査経路34b)と、
を含み、
前記代表検出値特定部は、前記後端部が前記第1走査経路に沿って前記ペンシル型プローブが走査された場合に取得される前記複数の検出値から前記代表検出値として第1代表検出値を特定し、その後、前記後端部が前記第1走査経路のうち前記第1代表検出値に対応する位置を通る前記第2走査経路に沿って前記ペンシル型プローブが走査された場合に取得される前記複数の検出値から前記代表検出値として第2代表検出値を特定し、
前記膜厚算出部は、前記第2代表検出値に基づいて前記膜厚を算出する。
【0066】
上記(5)の態様によれば、第1走査経路に沿ってペンシル型プローブの後端を走査することで保持角度を変化させながら取得した複数の検出値から第1代表検出値が特定される。そして第1代表検出値を通るように規定される第2走査経路に沿ってペンシル型プローブの後端を走査することで保持角度を変化させながら取得した複数の検出値から第2代表検出値が特定される。このように特定された第2代表検出値に基づいてコーティング膜厚を算出することで、限られた走査経路による保持角度の変化によって精度のよいコーティング膜厚を効率的に自動測定できる。
【0067】
(6)他の態様では、上記(1)から(5)のいずれか一態様において、
前記検出値取得部は、前記ロボットアーム操作部によって前記ロボットアームを操作しながら、前記複数の検出値を連続的に取得する。
【0068】
上記(6)の態様によれば、ロボットアームの操作によってペンシル型プローブの保持角度を変化させながら、ペンシル型プローブの検出値が連続的に取得される。これにより、ペンシル型プローブの異なる保持角度に対応する複数の検出値を効率的に取得できる。
【0069】
(7)他の態様では、上記(1)から(6)のいずれか一態様において、
前記検出値取得部のサンプリング周波数、及び、前記ロボットアーム操作部の操作量は、隣接する2つの前記検出量を取得した際の前記保持角度の変化量が2度以内になるように設定される。
【0070】
上記(7)の態様によれば、隣接する2つの検出量を取得する際の保持角度の変化量が2度以内となるように、検出値を取得するためのサンプリング周波数、及び、ロボットアームによる操作量が設定される。これにより、異なる保持角度に対応する複数の検出値を十分な分解能で取得でき、これらの検出値からコーティングの膜厚を精度よく算出できる。
【0071】
(8)他の態様では、上記(1)から(7)のいずれか一態様において、
前記表面が曲面である場合における前記保持角度の第1変化範囲は、前記表面が平面である場合における前記保持角度の第2変化範囲より大きい。
【0072】
一般的に、測定対象点が曲面上にある場合は、測定対象点が平面にある場合に比べて、ペンシル型プローブの姿勢による検出値への影響が大きくなる傾向がある。そのため上記(8)の態様では、測定対象点が曲面上にある場合におけるペンシル型プローブの保持角度の変化範囲を、測定対象点が平面上にある場合におけるペンシル型プローブの保持角度の変化範囲に比べて大きく設定する。つまり、測定対象点が曲面上にある場合には、ペンシル型プローブの保持角度を変化させる範囲を広げる。これにより、ペンシル型プローブの姿勢による影響が大きな曲面上にある測定対象点においても、ペンシル型プローブの保持角度を変化した際に得られる複数の検出値から代表検出値を的確に特定し、精度のよい膜厚測定が可能となる。
【0073】
(9)他の態様では、上記(8)の態様において、
前記曲面は前記タービン翼のフィレット部(例えば上記実施形態のフィレット部2b)、又は、フィレット入口端部(例えば上記実施形態のフィレット入口端部2d)である。
【0074】
上記(9)の態様によれば、タービン翼のうちフィレット部やフィレット入口端部のような局面を有する部位においても、コーティングの膜厚を効率的、且つ、精度よく測定できる。
【0075】
(10)他の態様では、上記(1)から(9)のいずれか一態様において、
前記ペンシル型プローブは、前記先端部に直径が4mm以下の検出コイルを有する。
【0076】
上記(10)の態様によれば、上記態様は、先端部に直径が約4mm以下の検出コイルを有するペンシル型プローブを用いた自動化測定に適する。
【0077】
(11)他の態様では、上記(1)から(10)のいずれか一態様において、
前記コーティングは遮熱コーティングである。
【0078】
上記(11)の態様によれば、タービン翼の表面に施工された遮熱コーティングの膜厚を、効率的、且つ、精度よく測定できる。
【0079】
(12)一態様に係るタービン翼のコーティング膜厚測定方法は、
ロボットアーム(例えば上記実施形態のロボットアーム4)で保持されたペンシル型プローブ(例えば上記実施形態のペンシル型プローブ6)を用いて、タービン翼(例えば上記実施形態のタービン翼2)の表面に施工されたコーティング(例えば上記実施形態のコーティング3)の膜厚を測定するためのタービン翼のコーティング膜厚測定方法であって、
前記ロボットアームを操作しながら、前記ペンシル型プローブの複数の検出値を時系列的に取得する工程と、
前記複数の検出値のうち前記膜厚が最小になる代表検出値を特定する工程と、
前記代表検出値に基づいて、前記膜厚を算出する工程と、
を備え、
前記表面に設定された測定対象点に対して前記ペンシル型プローブの先端部を当てた状態で、前記ロボットアームによる前記ペンシル型プローブの保持角度(例えば上記実施形態の保持角度θ)が変化するように、前記ペンシル型プローブの後端部を傾斜するように前記ロボットアームを操作しながら、前記複数の検出値を取得する。
【0080】
上記(12)の態様によれば、ロボットアームによるペンシル型プローブの操作によって取得される検出値に基づいて、タービン翼の表面に施工されたコーティングの膜厚を自動的に測定することができる。ペンシル型プローブは、タービン翼の表面に設定された測定対象点に対して先端部を当てた状態で、ロボットアームによるペンシル型プローブの保持角度が変化するように、ロボットアームによって操作される。このとき、ペンシル型プローブでは時系列的に複数の検出値が得られる。ペンシル型プローブの検出値は所定の演算により膜厚への換算が可能であり、これら複数の検出値から、換算によって得られる膜厚が最小になる代表検出値が特定される。そして特定された代表検出値に基づいて、コーティングの膜厚が算出される。このような自動化された操作及び処理により、タービン翼の表面に施工されたコーティングの膜厚測定を、効率的、且つ、精度よく実施できる。
【符号の説明】
【0081】
1 コーティング膜厚測定装置
2 タービン翼
2a 翼面
2b フィレット部
2c リーディングエッジ
2d フィレット入口端部
3 コーティング
4 ロボットアーム
6 ペンシル型プローブ
6a 本体部
6b 先端部
6d 後端部
8 演算装置
10 ロボットアーム操作部
12 検出値取得部
14 記憶部
16 代表検出値特定部
18 膜厚算出部
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図6D
図7
図8