(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024021642
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】黄リン回収運用システム
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/10 20120101AFI20240208BHJP
【FI】
G06Q50/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022124628
(22)【出願日】2022-08-04
(71)【出願人】
【識別番号】593179761
【氏名又は名称】三和建商株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】500108839
【氏名又は名称】株式会社電通東日本
(74)【代理人】
【識別番号】100098936
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 晃司
(74)【代理人】
【識別番号】100098888
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 明子
(72)【発明者】
【氏名】松下 和弘
(72)【発明者】
【氏名】増田 現
【テーマコード(参考)】
5L049
【Fターム(参考)】
5L049CC11
(57)【要約】 (修正有)
【課題】国内で廃棄物と見なされてきたリン含有原料を有価資源として積極的に運用できる黄リン回収運用システムを提供する。
【解決手段】黄リン回収運用システムにおいて、粗リン酸回収設備は、廃棄物に属するリン含有原料から粗リン酸を回収する粗リン酸回収設備と、粗リン酸から黄リンを回収する黄リン回収設備を備える。粗リン酸回収設備の運営主体は産廃業者、好ましくは中間処理業者で、黄リン回収設備の運営主体とは別になっており、黄リン回収設備の運営主体は産廃業者からの買取りにより粗リン酸を入手することで、リン含有原料からの黄リンの回収が一連の処理として実現される。
【効果】黄リン回収設備を拠点として地域の中間処理業者が運営できる小規模な粗リン酸回収設備と複数連携させることで、現在の回収技術でも採算の取れる事業形態で、国内の黄リン回収量を増やすことができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃棄物に属するリン含有原料から粗リン酸を回収する粗リン酸回収設備と、前記粗リン酸から黄リンを回収する黄リン回収設備を備え、前記粗リン酸回収設備の運営主体は産廃業者で、前記黄リン回収設備の運営主体とは別になっており、前記黄リン回収設備の運営主体は産廃業者からの買取りにより粗リン酸を入手することで、リン含有原料からの黄リンの回収が一連の処理として実現されることを特徴とする黄リン回収運用システム。
【請求項2】
請求項1に記載した黄リン回収運用システムにおいて、
粗リン酸回収設備の運営主体である産廃業者は、中間処理業者であることを特徴する黄リン回収運用システム。
【請求項3】
請求項2に記載した黄リン回収運用システムにおいて、
廃プラ等の焼却の排熱が、粗リン酸回収設備における粗リン酸回収に利用されることを特徴する黄リン回収運用システム。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載した黄リン回収運用システムにおいて、
粗リン酸回収設備の運営主体を複数構築し、それぞれの粗リン酸回収設備で回収された粗リン酸が黄リン回収設備に集められることを特徴とする黄リン回収運用システム。
【請求項5】
請求項4に記載した黄リン回収運用システムにおいて、
粗リン酸回収設備には地域毎に由来を揃えた廃棄物が集められることを特徴とする黄リン回収運用システム。
【請求項6】
請求項5に記載した黄リン回収運用システムにおいて、
黄リン回収設備の運営主体は産廃の中間処理業者を兼ねて、粗リン酸回収設備も有しており、廃プラ等の焼却の排熱が、黄リン回収設備における黄リン回収にも利用されることを特徴とする黄リン回収運用システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃棄物から黄リン(工業用リン)を経済的に見合う事業形態で回収できる黄リン回収運用システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
リン鉱石を電気炉で分解して得られる黄リンからは、各種のリン化合物が製造されており、これらのリン化合物は現在では半導体製造等の各種工業において必須的な化学品になっている。
【0003】
ところで、リン鉱石は日本では産出されないことから、調達をほぼ輸入に頼っている。リン鉱石は世界的に見ても産出される地域は限定されているため、その時々の世界情勢によって価格が大きく変動する。また、経済的に採掘可能なリン資源は今世紀末には枯渇するとの指摘もある。そのため、輸入に頼らない方法でリン資源を確保する手段が求められている。
それに応えて、下水汚泥や鉄鋼スラグ等、国内にあるリン含有原料からリンを回収することが提案されている。
【0004】
リン回収の用途が肥料の場合には、特許文献1に記載のように、実操業可能な効率の良い回収技術が既に確立されているが、付加価値の高い黄リンとして回収する場合には、下水汚泥や鉄鋼スラグに含まれるリン成分を粗リン酸として一旦濃縮回収した後に、その粗リン酸から黄リンを製造することになり、従来は粗リン酸から黄リンを製造することが難しかったが、最近では実験室レベルではあるが技術的に確立されつつある。
【0005】
しかしながら、下水汚泥や鉄鋼スラグを受け入れてから、最終的な黄リンの製造まで一貫して一つの運営主体が実施するとなると、現在のリン回収技術では、これらの設備の構築コストやランニングコストの負担が過大となり、採算の取れる事業の継続は難しいのが実情である。特に、最近では、下水汚泥などリン含有廃棄物の発生量が減少傾向にあることもあり、地域によっては量の確保が難しくなっていることから、量的効果でコストを下げることも難しく、より過酷な状況になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するために為されたものであり、現在のリン回収技術を利用しても、リン回収システムを構成する設備の連携に特徴を持たせることで、採算が取れる事業の継続を可能とする黄リン回収運用システムを提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を達成するために、[1]の発明は、廃棄物に属するリン含有原料から粗リン酸を回収する粗リン酸回収設備と、前記粗リン酸から黄リンを回収する黄リン回収設備を備え、前記粗リン酸回収設備の運営主体は産廃業者で、前記黄リン回収設備の運営主体とは別になっており、前記黄リン回収設備の運営主体は産廃業者からの買取りにより粗リン酸を入手することで、リン含有原料からの黄リンの回収が一連の処理として実現されることを特徴とする黄リン回収運用システムである。
【0009】
[2]の発明は、[1]の発明に係る黄リン回収運用システムにおいて、粗リン酸回収設備の運営主体である産廃業者は、中間処理業者であることを特徴する黄リン回収運用システムである。
【0010】
[3]の発明は、[2]の発明に係る黄リン回収運用システムにおいて、廃プラ等の焼却の排熱が、粗リン酸回収設備における粗リン酸回収に利用されることを特徴する黄リン回収運用システムである。
【0011】
[4]の発明は、[1]から[3]のいずれかの発明に係る黄リン回収運用システムにおいて、粗リン酸回収設備の運営主体を複数構築し、それぞれの粗リン酸回収設備で回収された粗リン酸が黄リン回収設備に集められることを特徴とする黄リン回収運用システムである。
【0012】
[5]の発明は、[4]の発明に係る黄リン回収運用システムにおいて、粗リン酸回収設備には地域毎に由来を揃えた廃棄物が集められることを特徴とする黄リン回収運用システムである。
【0013】
[6]の発明は、[5]の発明に係る黄リン回収運用システムにおいて、黄リン回収設備の運営主体は産廃の中間処理業者を兼ねて、粗リン酸回収設備も有しており、廃プラ等の焼却の排熱が、黄リン回収設備における黄リン回収にも利用されることを特徴とする黄リン回収運用システムである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の黄リン回収運用システムは、現在のリン回収技術を利用しても、システムを構成する設備の連携に特徴を有しており、採算が取れる事業の継続を可能とする。従って、国内で廃棄物と見なされてきたリン含有原料を有価資源として積極的に運用できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施の形態に係る黄リン回収運用システムの粗リン酸回収設備と、黄リン回収設備の連携のイメージ図である。
【
図4】
図1の黄リン回収運用システムの全体の構成図である。
【
図5】
図4の別例の黄リン回収運用システムの全体の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施の形態に係る黄リン回収運用システムを以下で説明する。
この黄リン回収運用システムは、
図1に示すように、粗リン酸回収設備と、黄リン回収設備とを備えて構成されており、粗リン酸回収設備で廃棄物に属するリン含有原料から粗リン酸を回収し、黄リン回収設備で回収された粗リン酸から黄リンを回収し、その黄リンを従来のリン鉱石由来のものの代替品として各種メーカーに販売する。
それぞれの設備の運営主体は別会社になっているが、業務提携されており、黄リン回収設備の運営会社が粗リン酸を全量買取りにより入手することで、リン含有原料からの黄リンの回収が一連の処理として実現される。
【0017】
図2に示すように、粗リン酸回収設備では、リン含有原料のうち特に国内に存在する廃棄物に属するものを活用することを特徴とする。
リンは主に有機汚泥に多く含まれており、由来により下水汚泥やし尿汚泥に分かれるがいずれも利用できる。また、畜産農家から出される鶏等の家畜の糞尿も利用できる。
また、液晶製造の際にも高濃度のリンが大量に使用されており、この洗浄廃水も濃縮されて汚泥として排出されるが、このような廃液処理後のものも利用できる。
更に、製鋼工程では徹底的な脱リン処理がなされて、溶鉄中のリンは大部分が鉄鋼スラグ中に分配除去されているが、このような鉄鋼スラグも利用できる。
【0018】
下水汚泥は下水道法が適用される処理施設から発生した場合には産業廃棄物になり、それ以外の上記した廃棄物を含めて、粗リン酸回収設備で使用するリン含有原料は全て産業廃棄物で賄うことが想定されている。
産業廃棄物の処理は、廃掃法の適用を受けることになり、専門の産廃業者に処分費用を払って委託することになる。処理は「収集運搬」と「中間処理」と「最終処分」に分かれており、このうち「中間処理」は、収集運搬した産業廃棄物を減容して最終処分し易くするために、破砕・溶融・焼却・選別などを行っている。
この「中間処理」を扱う業者が、粗リン酸回収設備を備えて、廃棄物から粗リン酸を回収することにすれば、廃掃法の適用を受けて、処分費用を受取った上で原料を入手でき、粗リン酸を回収して減容させた残りの廃棄物は「最終処分」の業者に渡すことになり、正に、「中間処理」そのものを実施する際に、並行して粗リン酸が回収されることになる。
【0019】
リン含有原料から粗リン酸を回収する技術自体は、既にコスト面から実用的なものが確立されている。例えば、汚泥や糞尿は減容化の過程で焼却されるが、その焼却灰から酸やアルカリを利用した抽出によりリンをリン酸として回収するのが主流になっており、特開2021-62989号では、NaOH、KOH等のアルカリを利用した抽出が提案され、特開2015-199614号では、リンを含有する下水汚泥焼却灰を、リン酸、塩酸などからなる群から選ばれる少なくとも1種の酸で処理し、得られた液をさらに硫酸で処理した後、濾過して、下水汚泥焼却灰に含有するリン及びアルミニウムを溶解してリン濃度を高めた粗製リン酸溶液を得ることが提案されており、いずれも利用できる。
また、熱法では焼却灰を焼成して、リンを気化させたりする手法が利用できる。
更に、鉄鋼スラグの場合でも酸を使用した抽出による手法が利用できる。
【0020】
リン含有原料の種類や粗リン酸の回収技術に応じて、粗リン酸回収設備を構築することになるが、搬送の効率を考慮すると近隣の地域から同種のリン含有原料が集められることになる。農村部ではし尿汚泥や重金属を殆ど含まない下水汚泥、更には鶏等の家畜の糞尿等が集まり、工業地域では洗浄廃水由来の汚泥や鉄鋼スラグが集まり、都市部では重金属を含む下水汚泥といったリン含有原料が集まる。
重金属が含まれている場合には、回収される粗リン酸から重金属を分離するために、粗リン酸回収設備に付帯設備を設けることが必要になり、複雑化するが、大量に集め易いことから量的効果によりそのデメリットを補うことができると考えられる。
【0021】
粗リン酸回収設備には汚泥等の焼却設備も付帯されており、汚泥は焼却された焼却灰にする。その焼却の際には、殆どの場合補助燃料が必要になるが、中間処理業者は通常は廃プラ等の高温ガスが発生するものも受け入れて廃棄処理している場合が多く、その焼却の際に出る排熱を利用することで、リン回収システムのうち粗リン酸の回収に係る設備を熱のリサイクル構造が組み込まれた形で構築できる。
【0022】
いずれの方式で回収されるものも所謂粗リン酸で不純物は多く、当然ながら品質は劣っているが、黄リン回収運用システムを稼働させるのに重要な回収物になっており、上記したように、全量が黄リン回収設備の会社に引き取られる。
従って、中間処理業者が、粗リン酸の回収事業にも参入し易くなっている。
なお、
図1では省略されているが、実際の業務遂行には、汚泥等を運搬する「運搬」業者や、粗リン酸を回収した後に最終処分を委託する「最終処分」業者も関わっている。
【0023】
黄リン回収設備は、
図3に示すように、この回収された粗リン酸から不純物を除去した上で黄リンとして回収する。
粗リン酸から黄リンを回収する技術も既に提案されている。例えば、粗リン酸からHAP(水酸化リン酸カルシウム)を製造し、それをリン鉱石の代替原料とする。高温で還元してリン酸から黄リンを製造する方法としては、炭素材を用いる方法が知られており、再表2021/131231では、更に進んで、高純度の液状のリンを高効率に得られる手法として、液状のリン酸化合物を加熱して生じるリン酸化物を炭素材と接触させることにより、リン酸化物を還元してガス状のリンを生成し、このガス状のリンを凝縮して液状のリンを得る反応を、非酸化性ガス流通下の流通式反応により行うに当たり、発生ガス量を制御するなどして、リン酸化物の還元反応を炭素材充填層内で行い、続くリンの凝縮を、炭素材充填層に接して当該炭素材充填層の下流に配した凝縮促進部材充填層内で実質的に行わせることが提案されている。
いずれかの回収技術を選択し、それに応じて黄リン回収設備を構築することになる。
【0024】
その回収技術を利用しても、熱源が必要になるが、粗リン酸を購入するだけでなく、自らも、廃プラ等の高温ガスが発生するものも処理する場合には、廃プラ等の焼却の際に出る排熱を利用することで、黄リン回収運用システムのうち黄リンの回収に係る設備も熱のリサイクル構造が組み込まれた形で構築できる。
【0025】
リン回収システムの黄リン回収能力を、生産量10,000t/年(=32t/日)と想定した場合に、リン回収率≒25%とすると、下水汚泥焼却灰処理量は
10,000t÷25%=40,000t/年(=128t/日)になる。
【0026】
上記の試算によれば、黄リン回収設備の会社1社に対して、粗リン酸回収設備の会社7社が連携して、一つのリン回収システムを構築していれば、粗リン酸回収設備の会社1社当たりの下水汚泥焼却灰処理量は、
128t÷7社=18.3t/日となり、地域の中間処理業者が運営できる小規模な粗リン酸回収設備を用いての操業が可能となる。また、上記したように、汚泥等の受入れには処理費用を受取れると共に、回収した粗リン酸は全量購入してもらえることから事業の安定した継続を確保できる。
【0027】
一方、黄リン回収設備の会社は、粗リン酸の安定した受入れ量を継続して確保できる。黄リン回収設備の会社は、自ら廃棄物を処理しなければ、廃掃法の適用を受けないので、建設用地の確保や、関連法令の許可取得や、設備建設の期間を短縮でき、この黄リン回収事業に参入し易くなっている。
図4に示すように、重金属等の不純物の含有が少ない粗リン酸となるリン含有原料を集められる地域に粗リン酸回収設備を設置できる会社と連携すれば、純度の高く、付加価値の高い黄リンを容易に回収することができる。
【0028】
また、
図5に示すように、重金属等を多く含有する下水汚泥が排出される都市部でも、集まり易さのメリットがあり、同様に拠点を設けることができる。更に、工場地帯は同種の工場が密集していることが多いので、そこに粗リン酸回収設備を設置すれば、洗浄廃水由来の汚泥や鉄鋼スラグをまとまった量で効率良く集めることができる。
地域別に排出されるリン含有原料に含まれる不純物には共通性があるので、このように地域別にリン含有原料を集めて処理することで結果的に効率的な設備の稼働が可能になっている。
このような仕組みで、黄リンの回収コストを抑えつつ、高純度に精製された黄リンを回収できる。
【0029】
このような仕組みを全国的に広げることで、黄リンの国内における回収量を増やすことができる。
回収した黄リンは、金属処理表面材、半導体液晶エッチング剤、食品・食品添加剤、難燃剤、可塑剤、医薬品、化粧品、農薬、食用油精製材としての用途での販売が期待されている。