(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024002166
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】爪用外用剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/454 20060101AFI20231228BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20231228BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20231228BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20231228BHJP
A61P 31/10 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
A61K31/454
A61K9/08
A61K47/10
A61P17/00 101
A61P31/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022101208
(22)【出願日】2022-06-23
(71)【出願人】
【識別番号】591040753
【氏名又は名称】東和薬品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100162765
【弁理士】
【氏名又は名称】宇佐美 綾
(72)【発明者】
【氏名】西村 武広
(72)【発明者】
【氏名】八木澤 祥史
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA13
4C076BB31
4C076CC20
4C076DD37A
4C076DD37S
4C076DD38A
4C076DD39A
4C076DD43Z
4C076DD49Q
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4C086AA01
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4C086MA02
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA17
4C086MA63
4C086NA05
4C086ZA90
(57)【要約】
【課題】エフィナコナゾール又はその薬学的に許容される塩の爪透過性に優れた爪用外用剤を提供することを目的とする。
【解決手段】エフィナコナゾール又はその薬学的に許容される塩と、炭素数2~10のアルカンジオールと、を含む、爪用外用剤の提供。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エフィナコナゾール又はその薬学的に許容される塩と、
炭素数2~10のアルカンジオールと、を含む、爪用外用剤。
【請求項2】
前記アルカンジオールを、前記爪用外用剤全体に対して4質量%以上25質量%以下の割合で含む、請求項1に記載の爪用外用剤。
【請求項3】
さらに、前記アルカンジオール以外のその他の不揮発性溶剤を含む、請求項1に記載の爪用外用剤。
【請求項4】
前記アルカンジオールと前記その他の不揮発性溶剤との質量比が10:90~90:10である、請求項3に記載の爪用外用剤。
【請求項5】
さらに、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)及びジブチルヒドロキシトルエン(BHT)のうち少なくとも1種を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の爪用外用剤。
【請求項6】
エフィナコナゾール又はその薬学的に許容される塩と、炭素数2~10のアルカンジオールとを含む爪用外用剤を用いる、前記エフィナコナゾール又はその薬学的に許容される塩の爪透過性を向上させる方法。
【請求項7】
エフィナコナゾール又はその薬学的に許容される塩と、炭素数2~10のアルカンジオールと、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)及びジブチルヒドロキシトルエン(BHT)のうち少なくとも1種とを含む爪用外用剤を用いる、前記エフィナコナゾール又はその薬学的に許容される塩の安定性を向上させる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、爪用外用剤、エフィナコナゾール又はその薬学的に許容される塩の爪透過性を向上させる方法、及びエフィナコナゾール又はその薬学的に許容される塩の安定性を向上させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
爪白癬(爪水虫、爪真菌症)は、爪甲内部や爪床に存在している白癬菌が爪の組織に入り込むこと等によって引き起こされ、爪が白色や黄色に濁る、爪先端部の肥厚が起こる、爪が変形するなどの症状を特徴とする難治性の疾患である。爪白癬の治療には、経口抗真菌薬が広く使用されているが、副作用と薬物間相互作用などの理由で、経口抗真菌薬の投与が困難である場合も少なくない。そのため、副作用や薬物間相互作用が少ないという点で、爪白癬治療に用いる外用剤への期待が高まっている。
【0003】
これまで爪白癬治療に用いる外用剤としては、有効成分として、爪透過性が高いエフィナコナゾールを含む外用剤等が知られている(特許文献1~4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5623913号公報
【特許文献2】特許第6516759号公報
【特許文献3】特許第6582158号公報
【特許文献4】特開2020-128370号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
十分な有効成分を爪中に効率よく浸透させるためには、製剤処方の設計が重要である。有効成分の爪透過性は、有効成分自体の特性だけでなく、各処方成分の特性、及び、その配合比率などによっても大きく変動する。そのため、製剤処方の設計が不適切であると、有効成分の爪透過性が失われてしまう。
【0006】
本発明は、上述の事情に鑑みて為された発明であり、その目的は、エフィナコナゾール又はその薬学的に許容される塩の爪透過性に優れた爪用外用剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、種々検討した結果、上記目的は、以下の本発明により達成されることを見出した。すなわち、本発明の一態様に係る爪用外用剤は、エフィナコナゾール又はその薬学的に許容される塩と、炭素数2~10のアルカンジオールとを含む。
【0008】
また、前記爪用外用剤において、前記アルカンジオールを、爪用外用剤全体に対して4質量%以上25質量%以下の割合で含むことが好ましい。
【0009】
さらに、前記爪用外用剤が、前記アルカンジオール以外のその他の不揮発性溶剤を含むことが好ましい。
【0010】
また、前記爪用外用剤が、前記その他の不揮発性溶剤を含む場合、前記アルカンジオールと前記その他の不揮発性溶剤との質量比が10:90~90:10であることが好ましい。
【0011】
さらに、前記爪用外用剤が、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)及びジブチルヒドロキシトルエン(BHT)のうち少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0012】
また、本発明のさらなる態様に係るエフィナコナゾール又はその薬学的に許容される塩の爪透過性を向上させる方法は、エフィナコナゾール又はその薬学的に許容される塩と、炭素数2~10のアルカンジオールとを含む爪用外用剤を用いる。
【0013】
さらに、本発明のさらなる態様に係るエフィナコナゾール又はその薬学的に許容される塩の安定性を向上させる方法は、エフィナコナゾール又はその薬学的に許容される塩と、炭素数2~10のアルカンジオールと、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)及びジブチルヒドロキシトルエン(BHT)のうち少なくとも1種とを含む爪用外用剤を用いる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、エフィナコナゾール又はその薬学的に許容される塩の爪透過性に優れた爪用外用剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る実施形態について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0016】
本実施形態の爪用外用剤は、エフィナコナゾール又はその薬学的に許容される塩と、炭素数2~10のアルカンジオールとを含む。本発明者らは、このような構成によって、爪透過性に優れた爪用外用剤を提供することができることを見出した。
【0017】
[爪用外用剤]
(有効成分)
本実施形態の爪用外用剤における有効成分であるエフィナコナゾールは、(2R,3R)-2-(2,4-ジフルオロフェニル)-3-(4-メチレンピペリジン-1-イル)-1-(1H-1,2,4-トリアゾール-1-イル)ブタン-2-オールとも呼ばれる。
【0018】
本実施形態で用いることのできるエフィナコナゾールは、フリー体のエフィナコナゾールであっても、薬学的に許容されるエフィナコナゾールの塩であってもよい。薬学的に許容される塩は特に限定されず、無機塩であっても有機塩であってもよい。エフィナコナゾールの無機塩としては、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩などが挙げられ、有機塩としては、ギ酸塩、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、プロピオン酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、シュウ酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、クエン酸塩、マロン酸塩、メタンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩などが挙げられる。入手のしやすさの観点から、フリー体のエフィナコナゾールを用いることが好ましい。
【0019】
このようなエフィナコナゾール又はその薬学的に許容される塩は、公知の方法により製造したものを用いてもよく、市販の製品を使用してもよい。
【0020】
また、以下、本明細書では特に断らない限り、エフィナコナゾール又はその薬学的に許容される塩を総称して、単に「エフィナコナゾール」とも呼ぶ。
【0021】
エフィナコナゾールの含有量としては、特に限定されないが、十分な薬効を得るといった観点から、爪用外用剤全体に対して1質量%以上が好ましい。より好ましくは、5質量%以上であり、さらに好ましくは8質量%以上である。一方、上限として50質量%以下が好ましい。より好ましくは30質量%以下であり、さらに好ましくは12質量%以下である。また、爪用外用剤1g中にエフィナコナゾールを10mg以上含有することが十分な薬効を得るといった観点から好ましく、50mg以上がより好ましく、80mg以上がさらに好ましく、100mg以上が最も好ましい。一方、爪用外用剤1g中のエフィナコナゾールの含有量は500mg以下であることが好ましく、300mg以下であることがより好ましく、120mg以下であることがさらに好ましい。
【0022】
(不揮発性溶剤)
本実施形態における爪用外用剤は、炭素数2~10のアルカンジオールを含む。本実施形態で使用され得る炭素数2~10のアルカンジオールは不揮発性溶剤であり、患部に残留し有効成分であるエフィナコナゾールの溶解状態を維持する。そのため、エフィナコナゾールは溶解状態を保ちながら、爪中に浸透することができる。
【0023】
本実施形態で用いることができる炭素数2~10のアルカンジオールとしては、特に限定されないが、具体的には、炭素数2のアルカンジオールとしては、エチレングリコール、炭素数3のアルカンジオールとしては、1,3-プロパンジオール、1,2-プロパンジオール、炭素数4のアルカンジオールとしては、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオールなど、炭素数5のアルカンジオールとしては、イソペンチルジオール、1,2-ペンタンジオール、1,3-ペンタンジオールなど、炭素数6のアルカンジオールとしては、1,2-ヘキサンジオール、1,3-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオールなど、炭素数7のアルカンジオールとしては、1,2-ヘプタンジオール、2,4-ヘプタンジオール、3,4-ヘプタンジオールなど、炭素数8のアルカンジオールとしては、1,2-オクタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオールなど、炭素数9のアルカンジオールとしては、1,2-ノナンジオール、1,3-ノナンジオール、1,9-ノナンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオールなど、炭素数10のアルカンジオールとしては、1,2-デカンジオール、1,3-デカンジオール、1,10-デカンジオールなどが挙げられる。これらの中でも、爪透過性を向上させる観点から、炭素数8のアルカンジオール(オクタンジオール)を用いることが好ましい。また、2-エチル-1,3-ヘキサンジオールを用いることがより好ましい。炭素数2~10のアルカンジオールは1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0024】
本実施形態で用いることができる炭素数2~10のアルカンジオールは、公知の方法により製造したものでもよく、市販の製品でもよい。
【0025】
また、炭素数2~10のアルカンジオールの含有量としては、特に限定されないが、爪用外用剤全体に対して2質量%以上であることが好ましい。2質量%以上であることにより、爪透過性に優れた爪用外用剤をより確実に得ることができる。より好ましくは4質量%以上であり、さらに好ましくは8質量%以上である。一方、上限として25質量%以下が好ましい。25質量%以下であることにより、粘度が高いオクタンジオールなどであっても、爪用外用剤の粘度の上昇が抑えられ、爪用外用剤を容器から排出しやすいといった利点がある。より好ましくは16質量%以下であり、さらに好ましくは12質量%以下である。
【0026】
また、本実施形態において、爪用外用剤は、炭素数2~10のアルカンジオール以外のその他の不揮発性溶剤をさらに含むことが好ましい。それにより、より確実に爪透過性を向上させることができる。前記その他の不揮発性溶剤としては、特に限定されないが、患部に残留し有効成分であるエフィナコナゾールの溶解状態を維持する化合物であり、例えば、ラウロマクロゴール、ベンジルアルコール、N-メチル-2-ピロリドン、炭酸プロピレン、アジピン酸ジイソプロピル、ミリスチン酸イソプロピル、セバシン酸ジエチル、トリアセチン、中鎖脂肪酸トリグリセリド、オレイルアルコール、乳酸アルキルなどが挙げられる。その他の不揮発性溶剤は1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いることもできる。本実施形態では、前記その他の不揮発性溶剤として、ラウロマクロゴールを含むことが爪透過性を向上させる観点から好ましい。
【0027】
本実施形態において、不揮発性溶剤として炭素数2~10のアルカンジオールと、前記その他の不揮発性溶剤とを併用する場合、爪用外用剤に含まれる不揮発性溶剤の合計の含有量は、特に限定されないが、爪用外用剤全体に対して35質量%以下であることが好ましい。一方、下限としては、特に限定されないが、10質量%以上であることが好ましい。不揮発性溶剤が上記含有量範囲であることにより患部への塗布が容易になるといった利点がある。また10質量%以上であることは、有効成分であるエフィナコナゾールを十分に溶解させることができるといった観点から好ましい。
【0028】
また、本実施形態において、不揮発性溶剤として炭素数2~10のアルカンジオールと、前記その他の不揮発性溶剤とを併用する場合、炭素数2~10のアルカンジオールとその他の不揮発性溶剤との質量比が10:90~90:10であることが好ましい。それにより、爪透過性に優れた爪用外用剤をより確実に得ることができる。炭素数2~10のアルカンジオールとその他の不揮発性溶剤との質量比は、15:85~85:15であることがより好ましく、30:70~70:30であることがさらに好ましく、40:60~50:50であることが最も好ましい。
【0029】
さらに、本実施形態における爪用外用剤には、薬学的に許容可能な添加剤が含有されていてもよい。具体的には、例えば、抗酸化剤、安定剤、揮発性溶剤、緩衝剤、溶解補助剤、保存剤、増粘剤などの任意の成分を含有していてもよい。また、必要に応じて、爪用外用剤はさらに薬学的に許容される1つ以上の溶媒を含んでいてもよい。
【0030】
(抗酸化剤)
本実施形態における爪用外用剤が抗酸化剤を含むことにより、エフィナコナゾール由来の類縁物質の増加を抑制し、爪用外用剤の保存安定性を向上させることができるという利点がある。前記抗酸化剤としては、特に限定されないが、例えば、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、没食子酸プロピル、αトコフェロール等を例示することができる。これらの中でも爪用外用剤がBHA及びBHTのうち少なくとも1種を含むことが好ましく、このような構成により、エフィナコナゾール由来の類縁物質の増加を抑制し、爪用外用剤の保存安定性をより確実に向上させることができるという利点がある。前記抗酸化剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0031】
本実施形態において、爪用外用剤が抗酸化剤を含む場合、抗酸化剤の含有量は、特に限定されないが、爪用外用剤全体に対して0.01質量%以上であることが好ましい。より好ましくは0.05質量%以上であり、さらに好ましくは0.1質量%以上である。一方、上限として5質量%以下であることが好ましい。より好ましくは1質量%以下であり、さらに好ましくは0.5質量%以下である。抗酸化剤の含有量が、爪用外用剤全体に対して0.01質量%以上5質量%以下であることにより、エフィナコナゾール由来の類縁物質の増加を抑制し、爪用外用剤の安定性をより確実に向上させることができるといった利点がある。
【0032】
(安定剤)
本実施形態で使用され得る安定剤としては、特に限定されないが、例えば、エデト酸ナトリウム水和物、エデト酸二カリウム、エチレンジアミンコハク酸、ジエチレントリアミン五酢酸、エチレンジアミンヒドロキシエチル三酢酸三ナトリウム、ヒドロキシエタンジホスホン酸、及び、フィチン酸等が挙げられる。これらの中でも、エデト酸ナトリウム水和物を用いることが好ましい。また、これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。本実施形態において、爪用外用剤が安定剤を含む場合、安定剤の含有量は、安定剤の種類、他の配合成分の種類及び含有量等に応じて適宜設定できる。
【0033】
(揮発性溶剤)
本実施形態で使用され得る揮発性溶剤としては、特に限定されないが、爪用外用剤が塗布されたときに、常温にて爪の表面から蒸発する化合物であり、例えば、揮発性シリコーン等を用いることができる。前記揮発性シリコーンとしては、環状揮発性シリコーンまたは直鎖状ポリシロキサンを例示することができる。前記環状揮発性シリコーンとして、シクロメチコンとして一般に知られているポリジメチルシクロシロキサン、シクロペンタシロキサン、シクロテトラシロキサン、及びデカメチルシクロペンタシロキサンなどが挙げられる。また、前記直鎖状ポリシロキサンとして、ヘキサメチルジシロキサン、及びオクタメチルトリシロキサンなどが挙げられる。また、揮発性溶剤としては、揮発性シリコーン以外にも、アセトン、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、2-ブタノール、エタノール、酢酸エチル、n-ヘプタン、イソブタノール、1-プロパノール、2-プロパノールなどを例示することもできる。上記揮発性溶剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0034】
本実施形態において、爪用外用剤が揮発性溶剤を含む場合、揮発性溶剤の含有量は、特に限定されないが、爪用外用剤全体に対して50質量%以上が好ましい。より好ましくは60質量%以上であり、さらに好ましくは65質量%以上である。一方、上限として80質量%以下が好ましい。より好ましくは75質量%以下であり、さらに好ましくは70質量%以下である。揮発性溶剤の含有量が、爪用外用剤全体に対して50質量%以上80質量%以下であることにより、有効成分であるエフィナコナゾール及びその他の添加剤を十分に溶解させることができるという利点がある。
【0035】
(緩衝剤)
本実施形態で使用され得る緩衝剤としては、特に限定されないが、例えば、無水クエン酸、酒石酸、乳酸、リン酸、酢酸、リンゴ酸及びそれらの塩等を例示することができる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。本実施形態において、爪用外用剤が緩衝剤を含む場合、緩衝剤の含有量は、緩衝剤の種類、他の配合成分の種類及び含有量等に応じて適宜設定できる。また、緩衝剤の含有量を調整することで爪用外用剤のpHを調整することができる。
【0036】
(溶媒)
本実施形態で使用され得るその他の溶媒としては、特に限定されないが、例えば、水などが挙げられる。当該溶媒として1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。本実施形態において、爪用外用剤が当該溶媒を含む場合、溶媒の含有量は、溶媒の種類、他の配合成分の種類及び含有量等に応じて適宜設定できる。
【0037】
(爪用外用剤のpH)
本実施形態において、爪用外用剤のpHは、特に限定されないが、5.0以上6.0以下であることが好ましい。爪用外用剤のpHが当該範囲内であることにより、エフィナコナゾール由来の類縁物質の増加を抑制し、爪用外用剤の安定性をより確実に担保することができるといった利点がある。より好ましくは5.1以上5.7以下であり、さらに好ましくは5.3以上5.5以下である。爪用外用剤のpHは上記緩衝剤の含有量を調整すること等により、調整することができる。
【0038】
(爪用外用剤の表面張力)
本明細書において、爪用外用剤の表面張力は、20℃において、接触角計により測定する。本実施形態において、爪用外用剤の表面張力は、特に限定されないが、25dyn/cm以下であることが好ましい。上記範囲の表面張力を有することにより、爪用外用剤が容器から排出されやすく、さらに、爪全体、爪と指の隙間へも十分に広がることができる。一方、表面張力の下限は特に限定されないが、通常10dyn/cm以上程度である。
【0039】
(爪用外用剤の動粘度)
本明細書において、爪用外用剤の動粘度は、20℃において、コーンプレート型粘度計により測定する。本実施形態において、爪用外用剤は、患部に塗布しやすいといった観点から、動粘度が1mm2/s以上5mm2/s以下であることが好ましい。
【0040】
(爪用外用剤の製造方法)
本実施形態における爪用外用剤は、エフィナコナゾール又はその薬学的に許容される塩と、炭素数2~10のアルカンジオールと、必要に応じて、さらに、前記その他の不揮発性溶剤、揮発性溶剤、抗酸化剤、安定剤、緩衝剤、及び溶媒等とを混合攪拌して、調製することができる。混合する順序は、特に限定されるものではなく、例えば逐次投入してもよいし、安定剤と溶媒とをあらかじめ溶解し、攪拌・混合した後に、エフィナコナゾール、不揮発性溶剤、揮発性溶剤、抗酸化剤等を混合してもよい。
【0041】
なお、爪用外用剤の製造方法において、「エフィナコナゾール又はその薬学的に許容される塩」、「炭素数2~10のアルカンジオール」、「その他の不揮発性溶剤」、「揮発性溶剤」などの各構成要素の説明は、上述したものが援用される。
【0042】
(形態)
本実施形態における爪用外用剤の形態は、特に限定されず、例えば液状製剤、半固形製剤等を挙げることができる。前記液状製剤としては外用液剤などが例示でき、前記半固形製剤としては軟膏剤、クリーム剤、ゲル剤などが例示できるが、これらの中でも外用液剤であることが好ましい。
【0043】
(用途)
本実施形態における爪用外用剤は、エフィナコナゾールを含有することから、爪白癬治療薬として使用することができる。本実施形態における爪用外用剤を爪白癬患者の治療部位に少なくとも2週間にわたって1日1回、0.2mL程度、塗布することが好ましい。
【0044】
(容器)
本実施形態における爪用外用剤を充填し得る容器としては、特に限定されるものではなく一般的に用いられるものが使用できる。また、爪用外用剤の保存安定性の観点から、遮光した気密容器であることが好ましい。
【0045】
[爪透過性を向上させる方法]
本発明の一実施形態において、エフィナコナゾール又はその薬学的に許容される塩と、炭素数2~10のアルカンジオールとを含む爪用外用剤を用いる、前記エフィナコナゾール又はその薬学的に許容される塩の爪透過性を向上させる方法を提供する。
【0046】
本実施形態のエフィナコナゾール又はその薬学的に許容される塩の爪透過性を向上させる方法によれば、爪用外用剤の有効成分である、エフィナコナゾールの爪透過性を向上させることができる。したがって、本実施形態のエフィナコナゾール又はその薬学的に許容される塩の爪透過性を向上させる方法は、爪透過性の優れた爪用外用剤を設計するうえで有用である。
【0047】
本明細書において、エフィナコナゾールの爪透過性は、後述の実施例に示す方法により測定する。本実施形態において、爪用外用剤の爪透過速度が0.20μg/cm2/day以上であることが好ましく、0.25μg/cm2/day以上であることがより好ましく、0.28μg/cm2/day以上であることがさらに好ましい。
【0048】
[安定性を向上させる方法]
本発明の一実施形態において、エフィナコナゾール又はその薬学的に許容される塩と、炭素数2~10のアルカンジオールとブチルヒドロキシアニソール(BHA)及びジブチルヒドロキシトルエン(BHT)のうち少なくとも1種とを含む爪用外用剤を用いる、前記エフィナコナゾール又はその薬学的に許容される塩の安定性を向上させる方法を提供する。
【0049】
本実施形態のエフィナコナゾール又はその薬学的に許容される塩の安定性を向上させる方法によれば、爪用外用剤の有効成分である、エフィナコナゾール由来の類縁物質の増加を抑制し、爪用外用剤の保存安定性を向上させることができる。
【0050】
本明細書において、エフィナコナゾール又はその薬学的に許容される塩の安定性は、爪用外用剤を70℃で4日間保存した後に、後述の実施例に示す方法により測定したときに、エフィナコナゾールに対する相対保持時間が約0.18の位置に検出される未知類縁物質量を算出することにより評価することができる。本実施形態における爪用外用剤は、70℃で4日間保存した後の前記未知類縁物質量が、0.2%以下であることが安定性の観点から好ましい。より好ましくは0.15%以下であり、さらに好ましくは0.10%以下である。
【0051】
上記爪透過性を向上させる方法、及び、上記安定性を向上させる方法において、「エフィナコナゾール又はその薬学的に許容される塩」、「炭素数2~10のアルカンジオール」、「その他の不揮発性溶剤」、「揮発性溶剤」などの各構成要素の説明は、上述したものが援用される。
【0052】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【実施例0053】
(実施例1~4、比較例1)
まず、本実施例で使用した、爪用外用剤の構成要素を以下に示す。
【0054】
(有効成分)
・エフィナコナゾール
(不揮発性溶剤)
・ラウロマクロゴール
・2-エチル-1,3-ヘキサンジオール
・ベンジルアルコール
・N-メチル-2-ピロリドン
・炭酸プロピレン
(揮発性溶剤)
・デカメチルシクロペンタシロキサン
・無水エタノール
(抗酸化剤)
・ブチルヒドロキシアニソール(BHA)
(緩衝剤)
・無水クエン酸
(安定剤)
・エデト酸ナトリウム水和物
(溶媒)
・精製水
各成分を、下記表1に示す割合で配合し、実施例1~4、比較例1の爪用外用剤を製造した。表1に示される爪用外用剤の組成に関する数値は、全て質量%である。
【0055】
【0056】
(pH測定)
実施例1の爪用外用剤について、pHメーターを用いてpHを測定したところ、pHは5.4であった。
【0057】
(動粘度測定)
実施例1の爪用外用剤について、コーンプレート型粘度計を用いて20℃で動粘度を測定したところ、動粘度は3.7mm2/sであった。
【0058】
(表面張力測定)
実施例1の爪用外用剤について、接触角計を用いて20℃で表面張力を測定したところ、表面張力は20dyn/cmであった。
【0059】
(爪透過性)
得られた実施例1~4、比較例1の爪用外用剤について、エフィナコナゾールの爪透過性を評価した。具体的には、冷凍保存されているヒト爪を室温で解凍した後、水に浸潤させたものを爪サンプルとして用いた。レセプター液として、マクロゴールを添加したリン酸緩衝液を用いた。フランツ型拡散セルとネイルアダプターを準備し、準備した爪サンプルをネイルアダプターに挟み、フランツ型拡散セル内にレセプター液を充填した。ネイルアダプターをフランツ型拡散セルに設置し、これを32℃で攪拌しながら一晩インキュベートした。
【0060】
各実施例の爪用外用剤をそれぞれ、前記爪サンプルに2μL添加し、翌日から14日後まで、1日1回、500μLずつサンプリングし、サンプリング後はレセプター液を補充した。サンプリングした液をタンデム質量分析法(ESI法、ポジティブモード)で解析し、エフィナコナゾールの透過量を測定した。なお、爪透過速度は、試験開始12~14日後の3時点の累積透過量より算出した。測定した爪透過速度を表2に示す。
【0061】
【0062】
表2の結果より、炭素数2~10のアルカンジオールを含む実施例1~4の爪用外用剤は、優れた爪透過性を示すことが明らかとなった。一方、比較例1の爪用外用剤は炭素数2~10のアルカンジオールを含んでおらず、十分な爪透過性が得られないことがわかった。
【0063】
(実施例5~9)
実施例5~6として、抗酸化剤としてBHAの含有量を変化させて、実施例7~9として、抗酸化剤としてBHAに替えてジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、没食子酸プロピル又はαトコフェロールを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例5~9の爪用外用剤を調製した。
【0064】
実施例5~9の爪用外用剤の組成を表3に示し、実施例1の爪用外用剤の組成を再掲する。表3に示される爪用外用剤の組成に関する数値は、全て質量%である。
【0065】
【0066】
(類縁物質量測定)
得られた実施例1、5~9の爪用外用剤について、温度70℃で4日間保存した後、液体クロマトグラフィー法にて、エフィナコナゾールに由来する未知類縁物質を測定した。
【0067】
本測定に使用した液体クロマトグラフィーの測定条件は、以下の通りである。
・検出器:紫外吸光光度計(測定波長260nm)
・カラム:内径4.6mm、長さ25cmのステンレス管に5μmの液体クロマトグラフィー用オクタデシルシリル化シリカゲルを充填した。
・カラム温度:40℃付近の一定温度
・移動相A:ギ酸アンモニウム1.9gを水1000mLに溶かし、ギ酸を加えてpH4.0に調整した。
・移動相B:アセトニトリル
・移動相の送液:移動相A及び移動相Bの混合比を、試料注入後の時間によって、表4のように変えて濃度勾配を制御した。
【0068】
【0069】
・流量:毎分1.5mL
そして、エフィナコナゾールに対する相対保持時間が約0.18の位置に検出される未知類縁物質の量について、クロマトグラム上に得られたエフィナコナゾールに由来する全ピーク面積を100とし、未知類縁物質の割合(%)を算出した。その結果を表5に示す。
【0070】
【0071】
表5の結果より、抗酸化剤としてBHA又はBHTを含む実施例1、5~7では、実施例8~9と比較するとエフィナコナゾール由来の類縁物質の増加が抑制されており、より優れた保存安定性を示すことがわかった。