IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 旭化成株式会社の特許一覧

特開2024-2168塗料組成物、ハードコート塗膜、及びハードコート塗膜付き基材
<>
  • 特開-塗料組成物、ハードコート塗膜、及びハードコート塗膜付き基材 図1
  • 特開-塗料組成物、ハードコート塗膜、及びハードコート塗膜付き基材 図2
  • 特開-塗料組成物、ハードコート塗膜、及びハードコート塗膜付き基材 図3
  • 特開-塗料組成物、ハードコート塗膜、及びハードコート塗膜付き基材 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024002168
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】塗料組成物、ハードコート塗膜、及びハードコート塗膜付き基材
(51)【国際特許分類】
   C09D 1/00 20060101AFI20231228BHJP
   C09D 151/10 20060101ALI20231228BHJP
   C08J 7/046 20200101ALI20231228BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20231228BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
C09D1/00
C09D151/10
C08J7/046 CER
C08J7/046 CEZ
B32B27/00 101
B32B27/20 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022101210
(22)【出願日】2022-06-23
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 三冬
(72)【発明者】
【氏名】伊勢田 一也
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 恵吾
【テーマコード(参考)】
4F006
4F100
4J038
【Fターム(参考)】
4F006AA36
4F006AB24
4F006AB67
4F006BA02
4F006CA04
4F006CA08
4F100AA20
4F100AA20A
4F100AH06
4F100AH06A
4F100AK01A
4F100AK45
4F100AK51
4F100AR00C
4F100AT00B
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA07
4F100CA07
4F100CA18
4F100CB00C
4F100DE01A
4F100EH46
4F100EH46A
4F100EJ86
4F100GB32
4F100JK09
4F100JK12
4F100JK12A
4F100JL08
4F100JL11C
4F100JN02
4F100JN02A
4F100YY00A
4J038AA011
4J038CP002
4J038FA082
4J038FA092
4J038FA112
4J038HA441
4J038JC32
4J038KA06
4J038KA08
4J038MA08
4J038MA10
4J038NA01
4J038NA09
4J038NA25
(57)【要約】      (修正有)
【課題】耐摩耗性、耐クラック性及びポットライフに優れた塗料組成物等を提供する。
【解決手段】重合体ナノ粒子(A)と、加水分解性珪素化合物(b)を含むマトリクス原料成分(B’)と、溶媒とを含む塗料組成物であって、計算式(1)で与えられる加水分解性珪素化合物(b)の計算有機鎖長をαとするとき、塗料組成物の固形分100質量%に対する加水分解性珪素化合物(b)の含有量に基づいて得られる重量平均値αaveが、1.3以上2.2以下であり、重合体ナノ粒子(A)のマルテンス硬度HMA’とマトリクス原料成分(B’)のマルテンス硬度HMB'とが、HMB'/HMA’>1の関係を満たす、塗料組成物。
計算有機鎖長α=Si原子間有機鎖長/分子中のSi原子数(1)
(化合物(b)の分子構造中、加水分解性を有する部分AとA以外の部分Bとに区分する
とき、Si原子間有機鎖長は、部分Aの有機鎖長aと部分Bの有機鎖長bとの和である)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合体ナノ粒子(A)と、
加水分解性珪素化合物(b)を含むマトリクス原料成分(B’)と、
溶媒と、
を含む塗料組成物であって、
下記計算式(1)で与えられる前記加水分解性珪素化合物(b)の計算有機鎖長をαとするとき、前記塗料組成物の固形分100質量%に対する前記加水分解性珪素化合物(b)の含有量に基づいて得られる重量平均値αaveが、1.3以上2.2以下であり、
前記重合体ナノ粒子(A)のマルテンス硬度HMA’と前記マトリクス原料成分(B’)のマルテンス硬度HMB'とが、HMB'/HMA’>1の関係を満たす、塗料組成物。
計算有機鎖長α=Si原子間有機鎖長/分子中のSi原子数 (1)
(ここで、前記加水分解性珪素化合物(b)の分子構造中、加水分解性を有する部分Aと当該部分A以外の部分Bとに区分するとき、Si原子間有機鎖長は、部分Aの有機鎖長aと部分Bの有機鎖長bとの和である。前記有機鎖長aは、オルガノオキシシラン構造の数を2で除した値である。前記分子構造中のSi原子数が1である場合、前記有機鎖長bは、0となる。前記分子構造中のSi原子数が2である場合、前記有機鎖長bは、一のSi原子から他のSi原子に至るまでの最短の原子鎖を構成する原子数として与えられる。前記分子構造中のSi原子数が3以上である場合、前記有機鎖長bは、前記最短の原子鎖を構成する原子数として与えられる各値の平均値とする。)
【請求項2】
前記溶媒が、水を含み、
前記水の含有量が、塗料組成物100質量%として、40質量%以上90質量%以下である、請求項1に記載の塗料組成物。
【請求項3】
前記マトリクス原料成分(B’)が、無機酸化物(D)を含む、請求項1に記載の塗料組成物。
【請求項4】
前記無機酸化物(D)がシリカ粒子を含む、請求項3に記載の塗料組成物。
【請求項5】
前記マトリクス原料成分(B’)が、触媒(E)を含む、請求項1に記載の塗料組成物。
【請求項6】
前記加水分解性珪素化合物(b)が、下記式(b-1)で表される原子団を含有する化合物である、請求項1に記載の塗料組成物。
-R2 n2SiX3 3-n2 (b-1)
式(b-1)中、R2は、水素原子、炭素数1~10のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、又はアリール基を表し、R2は置換基を有していてもよく、X3は、加水分解性基を表し、n2は、0~2の整数を表す。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の塗料組成物を含む、ハードコート塗膜。
【請求項8】
ASTM D1044に準拠し、摩耗輪CS-10F、及び荷重500gの条件でテーバー摩耗試験を実施したとき、回転数1000回におけるヘイズと前記テーバー摩耗試験前のヘイズとの差が、2以下である、請求項7に記載のハードコート塗膜。
【請求項9】
基材と、
前記基材の片面及び/又は両面上に配され、かつ、請求項1~6のいずれか1項に記載の塗料組成物を含む、ハードコート塗膜と、
を備える、ハードコート塗膜付き基材。
【請求項10】
前記基材と前記ハードコート塗膜との間に配される接着層をさらに含む、請求項9に記載のハードコート塗膜付き基材。
【請求項11】
自動車部材用である、請求項9に記載のハードコート塗膜付き基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料組成物、ハードコート塗膜、及びハードコート塗膜付き基材に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂材料は、成形性及び軽量性に優れるが、金属やガラスなどの無機材料と比較し、硬度、バリア性、耐汚染性、耐薬品性、難燃性、耐熱性、耐候性などに劣る場合が多い。中でも、樹脂材料の硬度は、無機ガラスと比較して著しく低く、表面が傷つきやすいため、ハードコートを施して使用することが多いが、ハードコート塗膜の煤塵などへの耐汚染性や高温高湿下での性能保持、紫外線に長期間曝露された際の外観の維持が難しく、ハードコートを施した樹脂材料は、高い耐摩耗性、耐久性及び耐候性を必要とする用途には使用されていない。
【0003】
樹脂材料に耐摩耗性を付与する目的で、活性エネルギー線硬化型樹脂組成物を用いた方法(例えば、特許文献1参照)、樹脂材料に無機酸化物を添加する方法(例えば、特許文献2及び特許文献3、参照)、樹脂材料に重合体粒子を添加する方法(例えば、特許文献4参照)、及び、樹脂材料の原料にメタアクリロキシ基を有する化合物を利用する方法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-109712号公報
【特許文献2】特開2006-63244号公報
【特許文献3】特開平8-238683号公報
【特許文献4】特開2017-114949号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1や特許文献2の方法は、樹脂材料に耐摩耗性を付与する一般的な方法であるが、高い耐摩耗性を付与することは困難である。
特許文献3の方法は、ハードコート塗膜として柔軟なシリコーンポリマーと、硬質な無機酸化物微粒子と、を用いた一般的な方法であるが、マトリクス成分に該当するシリコーンポリマーが十分な硬度を有していないために耐摩耗性が十分ではない。
特許文献4の方法は、ハードコート塗膜として重合体粒子、シリコーンポリマー、無機酸化物微粒子と、を用いた方法であり、塗膜の物性に関する記載はあるが、各成分の物性に関する記載はなく、耐摩耗性が十分ではない。また、塗装法によっては、所望の膜厚が得られず、耐摩耗性が発現しない場合がある。さらに、特許文献4は、水系塗料であり、加水分解性成分を含んでいるところ、ポットライフの問題が生ずる傾向にある。
【0006】
本発明は、上記の従来技術が有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、高い耐摩耗性、耐クラック性の高い塗膜を形成でき、かつポットライフに優れた塗料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討した結果、所定の成分を満たす塗料組成物及び塗膜とすることにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は下記の態様を包含する。
[1]
重合体ナノ粒子(A)と、
加水分解性珪素化合物(b)を含むマトリクス原料成分(B’)と、
溶媒と、
を含む塗料組成物であって、
下記計算式(1)で与えられる前記加水分解性珪素化合物(b)の計算有機鎖長をαとするとき、前記塗料組成物の固形分100質量%に対する前記加水分解性珪素化合物(b)の含有量に基づいて得られる重量平均値αaveが、1.3以上2.2以下であり、
前記重合体ナノ粒子(A)のマルテンス硬度HMA’と前記マトリクス原料成分(B’)のマルテンス硬度HMB'とが、HMB'/HMA’>1の関係を満たす、塗料組成物。
計算有機鎖長α=Si原子間有機鎖長/分子中のSi原子数 (1)
(ここで、前記加水分解性珪素化合物(b)の分子構造中、加水分解性を有する部分Aと当該部分A以外の部分Bとに区分するとき、Si原子間有機鎖長は、部分Aの有機鎖長aと部分Bの有機鎖長bとの和である。前記有機鎖長aは、オルガノオキシシラン構造の数を2で除した値である。前記分子構造中のSi原子数が1である場合、前記有機鎖長bは、0となる。前記分子構造中のSi原子数が2である場合、前記有機鎖長bは、一のSi原子から他のSi原子に至るまでの最短の原子鎖を構成する原子数として与えられる。前記分子構造中のSi原子数が3以上である場合、前記有機鎖長bは、前記最短の原子鎖を構成する原子数として与えられる各値の平均値とする。)
[2]
前記溶媒が、水を含み、
前記水の含有量が、塗料組成物100質量%として、40質量%以上90質量%以下である、[1]に記載の塗料組成物。
[3]
前記マトリクス原料成分(B’)が、無機酸化物(D)を含む、[1]又は[2]に記載の塗料組成物。
[4]
前記無機酸化物(D)がシリカ粒子を含む、[3]に記載の塗料組成物。
[5]
前記マトリクス原料成分(B’)が、触媒(E)を含む、[1]~[4]のいずれかに記載の塗料組成物。
[6]
前記加水分解性珪素化合物(b)が、下記式(b-1)で表される原子団を含有する化合物である、請求項1に記載の塗料組成物。
-R2 n2SiX3 3-n2 (b-1)
式(b-1)中、R2は、水素原子、炭素数1~10のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、又はアリール基を表し、R2は置換基を有していてもよく、X3は、加水分解性基を表し、n2は、0~2の整数を表す。
[7]
[1]~[6]のいずれかに記載の塗料組成物を含む、ハードコート塗膜。
[8]
ASTM D1044に準拠し、摩耗輪CS-10F、及び荷重500gの条件でテーバー摩耗試験を実施したとき、回転数1000回におけるヘイズと前記テーバー摩耗試験前のヘイズとの差が、2以下である、[7]に記載のハードコート塗膜。
[9]
基材と、
前記基材の片面及び/又は両面上に配され、かつ、[1]~[6]のいずれかに記載の塗料組成物を含む、ハードコート塗膜と、
を備える、ハードコート塗膜付き基材。
[10]
前記基材と前記ハードコート塗膜との間に配される接着層をさらに含む、[9]に記載のハードコート塗膜付き基材。
[11]
自動車部材用である、[9]又は[10]に記載のハードコート塗膜付き基材。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、耐摩耗性、耐クラック性及びポットライフに優れた塗料組成物等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本実施形態における加水分解性珪素化合物(b)がメチルトリメトキシシランである場合の計算有機鎖長αの計算方法に係る説明図である。
図2図2は、本実施形態における加水分解性珪素化合物(b)が1,2-ビス(トリエトキシシリル)エタンである場合の計算有機鎖長αの計算方法に係る説明図である。
図3図3は、本実施形態における加水分解性珪素化合物(b)がトリス-(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレートである場合の計算有機鎖長αの計算方法に係る説明図である。
図4図4は、本実施形態における加水分解性珪素化合物(b)が3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランとUvinul3050との反応物である場合の計算有機鎖長αの計算方法に係る説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」ともいう。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の本実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0011】
[塗料組成物]
本実施形態の塗料組成物は、重合体ナノ粒子(A)と、加水分解性珪素化合物(b)を含むマトリクス原料成分(B’)と、溶媒と、を含む塗料組成物であって、下記計算式(1)で与えられる前記加水分解性珪素化合物(b)の計算有機鎖長をαとするとき、前記塗料組成物の固形分100質量%に対する前記加水分解性珪素化合物(b)の含有量に基づいて得られる重量平均値αaveが、1.3以上2.2以下であり、前記重合体ナノ粒子(A)のマルテンス硬度HMA’と前記マトリクス原料成分(B’)のマルテンス硬度HMB'とが、HMB'/HMA’>1の関係を満たす。
計算有機鎖長α=Si原子間有機鎖長/分子中のSi原子数 (1)
(ここで、前記加水分解性珪素化合物(b)の分子構造中、加水分解性を有する部分Aと当該部分A以外の部分Bとに区分するとき、Si原子間有機鎖長は、部分Aの有機鎖長aと部分Bの有機鎖長bとの和である。前記有機鎖長aは、オルガノオキシシラン構造の数を2で除した値である。前記分子構造中のSi原子数が1である場合、前記有機鎖長bは、0となる。前記分子構造中のSi原子数が2である場合、前記有機鎖長bは、一のSi原子から他のSi原子に至るまでの最短の原子鎖を構成する原子数として与えられる。前記分子構造中のSi原子数が3以上である場合、前記有機鎖長bは、前記最短の原子鎖を構成する原子数として与えられる各値の平均値とする。)
本実施形態の塗料組成物は、上述のように構成されているため、耐摩耗性、耐久性及び塗料としてのポットライフに優れる。本実施形態の塗料組成物は、高いレベルでの耐摩耗性と塗装性を発現するため、以下に限定されないが、例えば、建材、自動車部材や電子機器や電機製品等のハードコート材として有用であり、とりわけ自動車部材用とすることが好ましい。
【0012】
なお、本明細書において、本実施形態の塗料組成物を含むあらゆる塗膜を塗膜(C)と称する。すなわち、塗膜(C)は本実施形態の塗料組成物を硬化させることにより得られるあらゆる塗膜を意味する。塗膜(C)において、本実施形態の塗料組成物に由来する溶媒が残存していてもよいが、当該溶媒が除去された状態であることが好ましい。すなわち、塗膜(C)は、好ましくは、重合体ナノ粒子(A)と、マトリクス原料成分(B’)に由来するマトリクス成分(B)とを含むものである。また、本明細書において、後述する方法により測定されるマルテンス硬度HMが100N/mm2以上である塗膜(C)を特に「ハードコート塗膜」と称する場合がある。
【0013】
[重合体ナノ粒子(A)]
本実施形態における重合体ナノ粒子(A)を用いることにより、塗膜(C)に衝撃吸収性を付与でき、例えばハードコート塗膜のテーバー摩耗試験におけるヘイズ変化量を小さくできる。重合体ナノ粒子(A)は、その粒子サイズがnmオーダー(1μm未満)であれば形状は特に限定されない。
【0014】
[重合体ナノ粒子(A)の平均粒子径]
本実施形態における重合体ナノ粒子(A)の平均粒子径は、nmオーダー(1μm未満)であれば特に限定されず、断面SEM又は動的光散乱法により観測される粒子の大きさから求められる。重合体ナノ粒子(A)の平均粒子径は、光学特性の観点から10nm以上400nm以下であることが好ましく、より好ましくは15nm以上200nm以下であり、更に好ましくは20nm以上100nm以下である。
重合体ナノ粒子(A)の平均粒子径の測定方法としては、以下に限定されないが、例えば、後述する実施例に記載の要領で重合体ナノ粒子(A)水分散体を調製し、大塚電子株式会社製動的光散乱式粒度分布測定装置(品番:ELSZ-1000)により当該水分散体のキュムラント粒子径を測定すること等が挙げられる。
重合体ナノ粒子(A)の平均粒子径は、例えば、重合体ナノ粒子(A)の構成成分の構造及び組成比、並びに/又は重合条件等により上述した範囲に調整することができる。
【0015】
[加水分解性珪素化合物(a)]
本実施形態における重合体ナノ粒子(A)は、加水分解性珪素化合物(a)を含むことが好ましい。加水分解性珪素化合物(a)は、加水分解性を有する珪素化合物、その加水分解生成物、及び縮合物であれば、特に限定されない。
【0016】
加水分解性珪素化合物(a)は、耐摩耗性や耐候性が向上する観点から、下記式(a-1)で表される原子団を含有する化合物、その加水分解生成物、及び縮合物であることが好ましい。
-R1 n1SiX1 3-n1 (a-1)
【0017】
式(a-1)中、R1は、水素原子、炭素数1~10のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、又はアリール基を表し、R1は、ハロゲン、ヒドロキシ基、メルカプト基、アミノ基、(メタ)アクリロイル基、又はエポキシ基を含有する置換基を有していてもよく、X1は、加水分解性基を表し、n1は、0~2の整数を表す。加水分解性基は、加水分解により水酸基が生じる基であれば特に限定されず、このような基としては、例えば、ハロゲン、アルコキシ基、アシルオキシ基、アミノ基、フェノキシ基、オキシム基などが挙げられる。
【0018】
式(a-1)で表される原子団を含有する化合物としては、以下に限定されないが、例えば、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシラン、ヘキシルトリエトキシラン、オクチルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、デシルトリエトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジメトキシシラン、ジエトキシシラン、メチルジメトキシシラン、メチルジエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメトキシジフェニルシラン、ジエトキシジフェニルシラン、ビス(トリメトキシシリル)メタン、ビス(トリエトキシシリル)メタン、ビス(トリフェノキシシリル)エタン、1,1-ビス(トリエトキシシリル)エタン、1,2-ビス(トリエトキシシリル)エタン、1,1-ビス(トリエトキシシリル)プロパン、1,2-ビス(トリエトキシシリル)プロパン、1,3-ビス(トリエトキシシリル)プロパン、1,4-ビス(トリエトキシシリル)ブタン、1,5-ビス(トリエトキシシリル)ペンタン、1,1-ビス(トリメトキシシリル)エタン、1,2-ビス(トリメトキシシリル)エタン、1,1-ビス(トリメトキシシリル)プロパン、1,2-ビス(トリメトキシシリル)プロパン、1,3-ビス(トリメトキシシリル)プロパン、1,4-ビス(トリメトキシシリル)ブタン、1,5-ビス(トリメトキシシリル)ペンタン、1,3-ビス(トリフェノキシシリル)プロパン、1,4-ビス(トリメトキシシリル)ベンゼン、1,4-ビス(トリエトキシシリル)ベンゼン、1,6-ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン、1,6-ビス(トリエトキシシリル)ヘキサン、1,7-ビス(トリメトキシシリル)ヘプタン、1,7-ビス(トリエトキシシリル)ヘプタン、1,8-ビス(トリメトキシシリル)オクタン、1,8-ビス(トリエトキシシリル)オクタン、3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-クロロプロピルトリエトキシシラン、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、トリフルオロプロピルトリエトキシシラン、3-ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、3-ヒドロキシプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、ビニルトリメトキシラン、ビニルトリエトキシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、p-スチリルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-トリメトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、トリアセトキシシラン、トリス(トリクロロアセトキシ)シラン、トリス(トリフルオロアセトキシ)シラン、トリス-(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、トリス-(トリエトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、メチルトリアセトキシシラン、メチルトリス(トリクロロアセトキシ)シラン、トリクロロシラン、トリブロモシラン、メチルトリフルオロシラン、トリス(メチルエチルケトキシム)シラン、フェニルトリス(メチルエチルケトキシム)シラン、ビス(メチルエチルケトキシム)シラン、メチルビス(メチルエチルケトキシム)シラン、ヘキサメチルジシラン、ヘキサメチルシクロトリシラザン、ビス(ジメチルアミノ)ジメチルシラン、ビス(ジエチルアミノ)ジメチルシラン、ビス(ジメチルアミノ)メチルシラン、ビス(ジエチルアミノ)メチルシラン、2-[(トリエトキシシリル)プロピル]ジベンジルレゾルシノール、2-[(トリメトキシシリル)プロピル]ジベンジルレゾルシノール、2,2,6,6-テトラメチル-4-[3-(トリエトキシシリル)プロポキシ]ピペリジン、2,2,6,6-テトラメチル-4-[3-(トリメトキシシリル)プロポキシ]ピペリジン、2-ヒドロキシ-4-[3-(トリエトキシシリル)プロポキシ]ベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-[3-(トリメトキシシリル)プロポキシ]ベンゾフェノンなどが挙げられる。
【0019】
加水分解性珪素化合物(a)は、下記式(a-2)で表される化合物、その加水分解生成物、及び縮合物を含んでいてもよい。
SiX2 4 (a-2)
式(a-2)中、X2は、加水分解性基を表す。加水分解性基は、加水分解により水酸基が生じる基であれば特に限定されず、例えば、ハロゲン、アルコキシ基、アシルオキシ基、アミノ基、フェノキシ基、オキシム基などが挙げられる。
【0020】
式(a-2)で表される化合物の具体例としては、以下に限定されないが、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ(n-プロポキシ)シラン、テトラ(i-プロポキシ)シラン、テトラ(n-ブトキシ)シラン、テトラ(i-ブトキシ)シラン、テトラ-sec-ブトキシシラン、テトラ-tert-ブトキシシラン、テトラアセトキシシラン、テトラ(トリクロロアセトキシ)シラン、テトラ(トリフルオロアセトキシ)シラン、テトラクロロシラン、テトラブロモシラン、テトラフルオロシラン、テトラ(メチルエチルケトキシム)シラン、テトラメトキシシラン又はテトラエトキシシランの部分加水分解縮合物(例えば、多摩化学工業社製の商品名「Mシリケート51」、「シリケート35」、「シリケート45」、「シリケート40」、「FR-3」;三菱化学社製の商品名「MS51」、「MS56」、「MS57」、「MS56S」;コルコート社製の商品名「メチルシリケート51」、「メチルシリケート53A」、「エチルシリケート40」、「エチルシリケート48」、「EMS-485」、「N-103X」、「PX」、「PS-169」、「PS-162R」、「PC-291」、「PC-301」、「PC-302R」、「PC-309」、「EMSi48」)などが挙げられる。
【0021】
以上のとおり、本実施形態において、加水分解性珪素化合物(a)が、上記式(a-1)で表される原子団を含有する化合物、その加水分解生成物及び縮合物、並びに上記式(a-2)で表される化合物、その加水分解生成物及び縮合物より選択される1種以上を含むことが好ましい。
【0022】
[重合体ナノ粒子(A)中の加水分解性珪素化合物(a)の含有量]
本実施形態における加水分解性珪素化合物(a)の含有量とは、重合体ナノ粒子(A)中に含まれる加水分解性珪素化合物(a)の不揮発性成分100質量を基準とする割合を示し、含有量が高いほど耐摩耗性や耐候性、耐熱性が向上する観点から、含有量が高いほど好ましく、含有量は、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは60質量%以上である。重合体ナノ粒子(A)中の加水分解性珪素化合物(a)の含有量は、以下に限定されないが、例えば、重合体ナノ粒子(A)のIR解析、NMR解析、元素分析等で測定することができる。
【0023】
[官能基(e)]
本実施形態の塗料組成物において、重合体ナノ粒子(A)は、マトリクス原料成分(B’)と相互作用する官能基(e)を有することが好ましい。重合体ナノ粒子(A)が官能基(e)を有する場合、重合体ナノ粒子(A)の表面にマトリクス原料成分(B’)が吸着しやすくなり、保護コロイドとなって安定化する傾向にあるため、結果として塗料組成物の貯蔵安定性が向上する傾向にある。さらに、重合体ナノ粒子(A)が官能基(e)を有する場合、重合体ナノ粒子(A)とマトリクス原料成分(B’)との間の相互作用が強くなることで、塗料組成物の不揮発性成分濃度に対する増粘性が高まり、複雑な形状への塗装時におけるタレが抑制される傾向にあり、結果として塗膜(C)の膜厚が均一となる傾向にある。重合体ナノ粒子(A)が官能基(e)を有することは、例えば、IR、GC-MS、熱分解GC-MS、LC-MS、GPC、MALDI-MS、TOF-SIMS、TG-DTA、NMRによる組成解析、及びこれらの組み合わせによる解析等により確認することができる。
【0024】
本実施形態における官能基(e)の具体例としては、以下に限定されないが、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、アミド基、エーテル結合からなる官能基が挙げられ、相互作用の観点から水素結合を有する官能基であることが好ましく、高い水素結合性の観点から、アミド基であることがより好ましく、2級アミド基及び/又は3級アミド基であることが更に好ましい。
【0025】
官能基(e)を含有している化合物及びその反応物としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチルビニルエーテル若しくは4-ヒドロキシブチルビニルエーテル、2-ヒドロキシエチルアリルエーテル、(メタ)アクリル酸、2-カルボキシエチル(メタ)アクリレート、2-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2-ジ-n-プロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、3-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、4-ジメチルアミノブチル(メタ)アクリレート、N-[2-(メタ)アクリロイルオキシ]エチルモルホリン、ビニルピリジン、N-ビニルカルバゾール、N-ビニルキノリン、N-メチルアクリルアミド、N-メチルメタアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジメチルメタアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、N-エチルメタアクリルアミド、N-メチル-N-エチルアクリルアミド、N-メチル-N-エチルメタアクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、N-n-プロピルアクリルアミド、N-イソプロピルメタアクリルアミド、N-n-プロピルメタアクリルアミド、N-メチル-N-n-プロピルアクリルアミド、N-メチル-N-イソプロピルアクリルアミド、N-アクリロイルピロリジン、N-メタクリロイルピロリジン、N-アクリロイルピペリジン、N-メタクリロイルピペリジン、N-アクリロイルヘキサヒドロアゼピン、N-アクリロイルモルホリン、N-メタクリロイルモルホリン、N-ビニルピロリドン、N-ビニルカプロラクタム、N,N’-メチレンビスアクリルアミド、N,N’-メチレンビスメタクリルアミド、N-ビニルアセトアミド、ダイアセトンアクリルアミド、ダイアセトンメタアクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、N-メチロールメタアクリルアミド、ブレンマーPE-90、PE-200、PE-350、PME-100、PME-200、PME-400、AE-350(商品名、日本油脂社製)、MA-30、MA-50、MA-100、MA-150、RA-1120、RA-2614、RMA-564、RMA-568、RMA-1114、MPG130-MA(商品名、日本乳化剤社製)などが挙げられる。なお、本明細書中で、(メタ)アクリレートとはアクリレート又はメタアクリレートを、(メタ)アクリル酸とはアクリル酸又はメタアクリル酸を簡便に表記したものである。
【0026】
[重合体ナノ粒子(A)のコア/シェル構造]
本実施形態における重合体ナノ粒子(A)は、コア層と、コア層を被覆する1層又は2層以上のシェル層とを備えたコア/シェル構造を有することが好ましい。重合体ナノ粒子(A)は、コア/シェル構造の最外層におけるマトリクス原料成分(B’)との相互作用の観点から、前述した官能基(e)を有することが好ましい。
【0027】
[重合体ナノ粒子(A)に含んでもよいその他の化合物]
本実施形態による重合体ナノ粒子(A)は、粒子間の静電反発力をもたせることで粒子の安定性を向上させる観点から、以下に示す重合体を含んでもよい。例えば、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリ(メタ)アクリレート系、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリビニルアセテート系、ポリブタジエン系、ポリ塩化ビニル系、塩素化ポリプロピレン系、ポリエチレン系、ポリスチレン系の重合体、又はポリ(メタ)アクリレート-シリコーン系、ポリスチレン-(メタ)アクリレート系、スチレン無水マレイン酸系の共重合体が挙げられる。
【0028】
上述の重合体ナノ粒子(A)に含んでもよい重合体の中でも、静電反発に特に優れる化合物として、(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリレートの重合体又は共重合体が挙げられる。具体例としては、以下に限定されないが、メチルアクリレート、(メタ)アクリル酸、メチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、n-ブチルアクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートの重合体または共重合体が挙げられる。この際、(メタ)アルクリ酸は、静電反発力をさらに向上させるために、一部又は全部を、アンモニアやトリエチルアミン、ジメチルエタノールアミンなどのアミン類や、NaOH、KOHなどの塩基で中和してもよい。
【0029】
また、重合体ナノ粒子(A)は乳化剤を含んでもよい。乳化剤としては、特に限定されず、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルスルホン酸、アルキルスルホコハク酸、ポリオキシエチレンアルキル硫酸、ポリオキシエチレンアルキルアリール硫酸、ポリオキシエチレンジスチリルフェニルエーテルスルホン酸などの酸性乳化剤;酸性乳化剤のアルカリ金属(Li、Na、K、など)塩、酸性乳化剤のアンモニウム塩、脂肪酸石鹸などのアニオン性界面活性剤;アルキルトリメチルアンモニウムブロミド、アルキルピリジニウムブロミド、イミダゾリニウムラウレートなどの四級アンモニウム塩、ピリジニウム塩、イミダゾリニウム塩型のカチオン性界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンオキシプロピレンボロックコポリマー、ポリオキシエチレンジスチリルフェニルエーテルなどのノニオン型界面活性剤やラジカル重合性の二重結合を有する反応性乳化剤などが挙げられる。
【0030】
前記ラジカル重合性の二重結合を有する反応性乳化剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、エレミノールJS-2(商品名、三洋化成株式会社製)、ラテムルS-120、S-180A又はS-180(商品名、花王株式会社製)、アクアロンHS-10、KH-1025、RN-10、RN-20、RN30、RN50(商品名、第一工業製薬株式会社製)、アデカリアソープSE1025、SR-1025、NE-20、NE-30、NE-40(商品名、旭電化工業株式会社製)、p-スチレンスルホン酸のアンモニウム塩、p-スチレンスルホン酸のナトリウム塩、p-スチレンスルホン酸のカリウム塩、2-スルホエチルアクリレートなどのアルキルスルホン酸(メタ)アクリレートやメチルプロパンスルホン酸(メタ)アクリルアミド、アリルスルホン酸のアンモニウム塩、アリルスルホン酸のナトリウム塩、アリルスルホン酸のカリウム塩などが挙げられる。
【0031】
[重合体ナノ粒子(A)の弾性回復率ηITA
本実施形態における重合体ナノ粒子(A)の弾性回復率ηITAは、ISO14577-1でWelast/Wtotalの比ηITとして記載されているパラメータを、成膜した重合体ナノ粒子(A)の塗膜で測定したものであり、くぼみの全機械的仕事量Wtotalとくぼみの弾性戻り変形仕事量Welastとの比で示される。弾性回復率ηITAが高いほど、塗膜が衝撃を受けた際、元の状態に戻ることが可能であり、衝撃に対する自己修復能が高くなる傾向にある。自己修復能を効果的に発揮する観点から、重合体ナノ粒子(A)の弾性回復率ηITAは、測定条件(ビッカース四角錘ダイヤモンド圧子、荷重の増加条件2mN/20sec、荷重の減少条件2mN/20sec)において0.30以上であることが好ましく、塗膜(C)として成膜する際に基材やマトリクス原料成分(B’)の変形に追従できる観点からηITAは0.90以下であることが好ましい。重合体ナノ粒子(A)の弾性回復率ηITAは0.50以上であるとより好ましく、0.60以上であればさらに好ましい。重合体ナノ粒子(A)の弾性回復率の測定は、以下に限定されないが、例えば、遠心分離、限外濾過等の操作により重合体ナノ粒子(A)とマトリクス原料成分(B’)とを分離し、分離された重合体ナノ粒子(A)を溶媒中に分散させて得られる組成物を塗装し、乾燥させて成膜した塗膜を微小硬度計フィッシャースコープ(フィッシャー・インストルメンツ社製HM2000S)、超微小押し込み硬さ試験機(株式会社エリオニクス社製ENT-NEXUS)、ナノインデンター(東陽テクニカ社製iNano、G200)、ナノインデンテーションシステム(ブルカー社製TI980)等を用いて測定することができる。弾性回復率ηITAを上記範囲内に調整するための方法としては、以下に限定されないが、例えば、重合体ナノ粒子(A)の構成成分の構造及び組成比を調整すること等が挙げられる。
【0032】
[マトリクス原料成分(B’)]
本実施形態におけるマトリクス原料成分(B’)を用いることにより、塗膜(C)に衝撃吸収性を付与でき、例えば塗膜(C)のテーバー摩耗試験におけるヘイズ変化量を小さくできる。
【0033】
[加水分解性珪素化合物(b)]
本実施形態において、高靭性の観点から、マトリクス原料成分(B’)は、加水分解性珪素化合物(b)を含む。本明細書において、「マトリクス原料成分(B’)が加水分解性珪素化合物(b)を含む」とは、マトリクス原料成分(B’)が、加水分解性珪素化合物(b)に由来する構成単位を有する高分子を含むことを意味する。加水分解性珪素化合物(b)は、加水分解性を有する珪素化合物、その加水分解生成物及び縮合物であれば、特に限定されない。
マトリクス原料成分(B’)としては、上述した高分子以外にも、重合体ナノ粒子(A)を除く様々な成分が含まれていてもよい。その中でも、上述した高分子以外に含まれ得るその他の高分子としては、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸等の水溶性樹脂;PMMA、PAN、ポリアクリルアミド等のアクリル樹脂;ポリスチレン、ポリウレタン、ポリアミド、ポリイミド、ポリ塩化ビニリデン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリエーテル、ポリエチレン、ポリスルホン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、PTFE、PVDF、EVA等のポリマー;及びこれらのコポリマー等が挙げられる。
加水分解性珪素化合物(b)は、紫外線吸収性を有するシラン化合物(Z)を含むものであってもよい。本実施形態においては、シラノール基との反応性を有する紫外線吸収剤とシラノール基含有成分とを十分混合することによって縮合させ、シラン化合物(Z)を得ることが好ましい。このようなシラン化合物(Z)を用いる場合、耐久性試験中に紫外線吸収性の成分が遊離することによる性能低下を防止できる傾向にある。
【0034】
加水分解性珪素化合物(b)は、耐摩耗性及び耐候性が一層向上する観点から、下記式(b-1)で表される原子団を含有する化合物、その加水分解生成物、及び縮合物、並びに下記式(b-2)で表される化合物、その加水分解生成物、及び縮合物からなる群より選択される1種以上を含むことが好ましい。
-R2 n2SiX3 3-n2 (b-1)
式(b-1)中、R2は、水素原子、炭素数1~10のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、又はアリール基を表し、R2は置換基を有していてもよく、X3は、加水分解性基を表し、n2は、0~2の整数を表す。加水分解性基は、加水分解により水酸基が生じる基であれば特に限定されず、そのような基としては、例えば、ハロゲン原子、アルコキシ基、アシルオキシ基、アミノ基、フェノキシ基、オキシム基などが挙げられる。
SiX4 4 (b-2)
式(b-2)中、X4は、加水分解性基を表す。加水分解性基は、加水分解により水酸基が生じる基であれば特に限定されず、そのような基としては、例えば、ハロゲン、アルコキシ基、アシルオキシ基、アミノ基、フェノキシ基、オキシム基などが挙げられる。
【0035】
一般式(b-1)で表される原子団を含む化合物の具体例としては、以下に限定されないが、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシラン、ヘキシルトリエトキシラン、オクチルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、デシルトリエトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジメトキシシラン、ジエトキシシラン、メチルジメトキシシラン、メチルジエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメトキシジフェニルシラン、ジエトキシジフェニルシラン、ビス(トリメトキシシリル)メタン、ビス(トリエトキシシリル)メタン、ビス(トリフェノキシシリル)エタン、1,1-ビス(トリエトキシシリル)エタン、1,2-ビス(トリエトキシシリル)エタン、1,1-ビス(トリエトキシシリル)プロパン、1,2-ビス(トリエトキシシリル)プロパン、1,3-ビス(トリエトキシシリル)プロパン、1,4-ビス(トリエトキシシリル)ブタン、1,5-ビス(トリエトキシシリル)ペンタン、1,1-ビス(トリメトキシシリル)エタン、1,2-ビス(トリメトキシシリル)エタン、1,1-ビス(トリメトキシシリル)プロパン、1,2-ビス(トリメトキシシリル)プロパン、1,3-ビス(トリメトキシシリル)プロパン、1,4-ビス(トリメトキシシリル)ブタン、1,5-ビス(トリメトキシシリル)ペンタン、1,3-ビス(トリフェノキシシリル)プロパン、1,4-ビス(トリメトキシシリル)ベンゼン、1,4-ビス(トリエトキシシリル)ベンゼン、1,6-ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン、1,6-ビス(トリエトキシシリル)ヘキサン、1,7-ビス(トリメトキシシリル)ヘプタン、1,7-ビス(トリエトキシシリル)ヘプタン、1,8-ビス(トリメトキシシリル)オクタン、1,8-ビス(トリエトキシシリル)オクタン、3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-クロロプロピルトリエトキシシラン、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、トリフルオロプロピルトリエトキシシラン、3-ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、3-ヒドロキシプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、ビニルトリメトキシラン、ビニルトリエトキシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、p-スチリルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-トリメトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、トリアセトキシシラン、トリス(トリクロロアセトキシ)シラン、トリス(トリフルオロアセトキシ)シラン、トリス-(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、トリス-(トリエトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、メチルトリアセトキシシラン、メチルトリス(トリクロロアセトキシ)シラン、トリクロロシラン、トリブロモシラン、メチルトリフルオロシラン、トリス(メチルエチルケトキシム)シラン、フェニルトリス(メチルエチルケトキシム)シラン、ビス(メチルエチルケトキシム)シラン、メチルビス(メチルエチルケトキシム)シラン、ヘキサメチルジシラン、ヘキサメチルシクロトリシラザン、ビス(ジメチルアミノ)ジメチルシラン、ビス(ジエチルアミノ)ジメチルシラン、ビス(ジメチルアミノ)メチルシラン、ビス(ジエチルアミノ)メチルシラン、2-[(トリエトキシシリル)プロピル]ジベンジルレゾルシノール、2-[(トリメトキシシリル)プロピル]ジベンジルレゾルシノール、2,2,6,6-テトラメチル-4-[3-(トリエトキシシリル)プロポキシ]ピペリジン、2,2,6,6-テトラメチル-4-[3-(トリメトキシシリル)プロポキシ]ピペリジン、4―(トリエトキシシリルプロポキシ)-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン N-オキサイド、4-{3-[(トリエトキシ)シリル]プロポキシ}-1,2,2,6,6-ペンタメチルピペリジン、4―(トリエトキシシリルプロポキシ)-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン N-オキサイド、4-{3-[(トリメトキシ)シリル]プロポキシ}-1,2,2,6,6-ペンタメチルピペリジン、2-ヒドロキシ-4-[3-(トリメトキシシリル)プロポキシ]ベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-[3-(トリメトキシシリル)プロポキシ]ベンゾフェノンなどが挙げられる。
【0036】
式(b-2)で表される化合物の具体例としては、以下に限定されないが、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ(n-プロポキシ)シラン、テトラ(i-プロポキシ)シラン、テトラ(n-ブトキシ)シラン、テトラ(i-ブトキシ)シラン、テトラ-sec-ブトキシシラン、テトラ-tert-ブトキシシラン、テトラアセトキシシラン、テトラ(トリクロロアセトキシ)シラン、テトラ(トリフルオロアセトキシ)シラン、テトラクロロシラン、テトラブロモシラン、テトラフルオロシラン、テトラ(メチルエチルケトキシム)シラン、テトラメトキシシラン又はテトラエトキシシランの部分加水分解縮合物(例えば、多摩化学工業社製の商品名「Mシリケート51」、「シリケート35」、「シリケート45」、「シリケート40」、「FR-3」;三菱化学社製の商品名「MS51」、「MS56」、「MS57」、「MS56S」;コルコート社製の商品名「メチルシリケート51」、「メチルシリケート53A」、「エチルシリケート40」、「エチルシリケート48」、「EMS-485」、「N-103X」、「PX」、「PS-169」、「PS-162R」、「PC-291」、「PC-301」、「PC-302R」、「PC-309」、「EMSi48」)などが挙げられる。
【0037】
以上のとおり、本実施形態において、加水分解性珪素化合物(b)が、上記式(b-1)で表される原子団を含有する化合物、その加水分解生成物及び縮合物、並びに上記式(b-2)で表される化合物、その加水分解生成物及び縮合物より選択される1種以上を含むことが好ましい。
【0038】
本実施形態において、「重合体ナノ粒子(A)に含まれる加水分解性珪素化合物(a)」は、「マトリクス原料成分(B’)に含まれる加水分解性珪素化合物(b)」と同一種のものであってもよく、別種のものであってもよい。両者が同一種である場合であっても、重合体ナノ粒子(A)に含まれる方を加水分解性珪素化合物(a)とし、マトリクス原料成分(B’)に含まれる方を加水分解性珪素化合物(b)とすることで区別するものとする。
【0039】
[マトリクス原料成分(B’)の弾性回復率ηITB'及びマトリクス成分(B)の弾性回復率ηITB
本実施形態の塗料組成物において、マトリクス原料成分(B’)の弾性回復率ηITB'は、ISO14577-1で「Welast/Wtotalの比ηIT」として記載されているパラメータで、成膜したマトリクス原料成分(B’)の塗膜を測定したものであり、くぼみの全機械的仕事量Wtotalとくぼみの弾性戻り変形仕事量Welastとの比で示される。弾性回復率ηITB'が高いほど、塗膜が衝撃を受けた際、元の状態に戻ることが可能であり、衝撃に対する自己修復能が高い。自己修復能を効果的に発揮する観点から、マトリクス原料成分(B’)の弾性回復率ηITB'は、測定条件(ビッカース四角錘ダイヤモンド圧子、荷重の増加条件2mN/20sec、荷重の減少条件2mN/20sec)において0.60以上が好ましく、より好ましくは0.65以上である。また、塗膜にする際の基材や成分(A)の変形に追従できる観点から、ηITB'は0.95以下であることが好ましい。マトリクス原料成分(B’)の弾性回復率の測定は、以下に限定されないが、例えば、遠心分離等の操作により重合体ナノ粒子(A)とマトリクス原料成分(B’)とを分離し、分離されたマトリクス原料成分(B’)を溶媒中に溶解させた組成物を塗装し、乾燥させて成膜した塗膜を微小硬度計フィッシャースコープ(フィッシャー・インストルメンツ社製HM2000S)、超微小押し込み硬さ試験機(株式会社エリオニクス社製ENT-NEXUS)、ナノインデンター(東陽テクニカ社製iNano、G200)、ナノインデンテーションシステム(ブルカー社製TI980)等を用いて測定することができる。
なお、前述したとおり、マトリクス原料成分(B’)を加水分解縮合等により硬化させた硬化物がマトリクス成分(B)に該当する。したがって、後述する実施例に記載された方法により測定されるマトリクス原料成分(B’)の弾性回復率ηITB'の値が、対応するマトリクス成分(B)の弾性回復率ηITBによく一致するものとして、弾性回復率ηITBの値を決定することができる。すなわち、本実施形態におけるマトリクス成分(B)の弾性回復率ηITBは、0.60以上が好ましく、より好ましくは0.65以上である。また、塗膜にする際の基材や成分(A)の変形に追従できる観点から、ηITBは0.95以下であることが好ましい。
弾性回復率ηITB'及び弾性回復率ηITBを上記範囲内に調整するための方法としては、以下に限定されないが、例えば、マトリクス原料成分(B’)の構成成分の構造及び組成比を調整すること等が挙げられる。
【0040】
[無機酸化物(D)]
本実施形態におけるマトリクス原料成分(B’)は、無機酸化物(D)を含むことが好ましい。無機酸化物(D)を含むことにより、マトリクス原料成分(B’)の硬度を向上させ耐摩耗性が向上するだけでなく、粒子表面の水酸基の親水性により、塗膜の耐汚染性が向上する傾向にある。
【0041】
本実施形態における無機酸化物(D)の具体例としては、以下に限定されないが、珪素、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、亜鉛、セリウム、スズ、インジウム、ガリウム、ゲルマニウム、アンチモン、モリブデン、ニオブ、マグネシウム、ビスマス、コバルト、銅などの酸化物が挙げられ、Si,Ce、Nb、Al、Zn、Ti、Zr、Sb、Mg、Sn、Bi、Co及びCuからなる群より選択される少なくとも1種の無機成分を含有することが好ましい。これらは形状を問わず、単独で用いてもよく、混合物として用いてもよい。無機酸化物(D)としては、前述した加水分解性珪素化合物(b)との相互作用の観点から、乾式シリカやコロイダルシリカに代表されるシリカを更に含むことが好ましく、分散性の観点から、シリカ粒子を更に含むことがより好ましく、シリカ粒子の形態としてコロイダルシリカを更に含むことが更に好ましい。無機酸化物(D)がコロイダルシリカを含む場合、水性分散液の形態であることが好ましく、酸性、塩基性のいずれであっても用いることができる。無機酸化物(D)に含まれうるコロイダルシリカに関しては、後述する。また、無機酸化物(D)は、耐候性の観点から、紫外線吸収能を有する酸化セリウム、酸化ニオブ、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化アンチモン、酸化マグネシウム、酸化錫、酸化ビスマス、酸化コバルト及び酸化銅からなる群より選択される少なくとも1種を有することが好ましく、耐候性向上性能の観点から、酸化ニオブ、酸化亜鉛、酸化チタン及び酸化ジルコニウムからなる群より選択される少なくとも1種の無機成分を含むことが好ましく、より好ましくは酸化セリウムである。以下に限定されないが、市販品を利用する場合、例えば、CIKナノテック株式会社製の酸化セリウム、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化ビスマス、酸化コバルト、酸化銅、酸化錫、酸化チタンの超微粒子マテリアル製品;多木化学社製の酸化チタン「タイノック」(商品名)、酸化セリウム「ニードラール」(商品名)、酸化錫「セラメース」(商品名)、酸化ニオブゾル、酸化ジルコニウムゾル;日産化学工業株式会社製の五酸化アンチモンの水ゾル「A-2550」が挙げられる。
【0042】
[無機酸化物(D)の平均粒子径]
本実施形態における無機酸化物(D)の平均粒子径は、塗料組成物の貯蔵安定性が良好となる観点から、2nm以上であることが好ましく、透明性が良好となる観点から、150nm以下であることが好ましい。すなわち、無機酸化物(D)の平均粒子径は、2nm以上150nm以下であることが好ましく、より好ましくは2nm以上100nm以下であり、更に好ましくは2nm以上50nm以下である。無機酸化物(D)の平均粒子径の測定方法は、以下に限定されないが、例えば、水分散コロイダルシリカに対し、透過型顕微鏡写真を用いて50,000~100,000倍に拡大して観察し、粒子として100~200個の無機酸化物が写るように撮影して、その無機酸化物粒子の長径及び短径の平均値から測定することができる。
【0043】
[無機酸化物(D)に含まれうるコロイダルシリカ]
本実施形態で好適に用いられる水を分散溶媒とする酸性のコロイダルシリカとしては、特に限定されないが、ゾル-ゲル法で調製して使用することもでき、市販品を利用することもできる。ゾル-ゲル法で調製する場合には、Werner Stober etal;J.Colloid and Interface Sci.,26,62-69(1968)、Rickey D.Badley et al;Lang muir 6,792-801(1990)、色材協会誌,61[9]488-493(1988)などを参照できる。市販品を利用する場合、例えば、スノーテックス-O、スノーテックス-OS、スノーテックス-OXS、スノーテックス-O-40、スノーテックス-OL、スノーテックスOYL、スノーテックス-OUP、スノーテックス-PS-SO、スノーテックス-PS-MO、スノーテックス-AK-XS、スノーテックス-AK、スノーテックス-AK-L、スノーテックス-AK-YL、スノーテックス-AK-PS-S(商品名、日産化学工業株式会社製)、アデライトAT-20Q(商品名、旭電化工業株式会社製)、クレボゾール20H12、クレボゾール30CAL25(商品名、クラリアントジャパン株式会社製)などが挙げられる。
【0044】
また、塩基性のコロイダルシリカとしては、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、アミンの添加で安定化したシリカがあり、特に限定されないが、例えば、スノーテックス-20、スノーテックス-30、スノーテックス-XS、スノーテックス-50、スノーテックス-30L、スノーテックス-XL、スノーテックス-YL、スノーテックスZL、スノーテックス-UP、スノーテックス-ST-PS-S、スノーテックスST-PS-M、スノーテックス-C、スノーテックス-CXS、スノーテックス-CM、スノーテックス-N、スノーテックス-NXS、スノーテックス-NS、スノーテックス-N-40(商品名、日産化学工業株式会社製)、アデライトAT-20、アデライトAT-30、アデライトAT-20N、アデライトAT-30N、アデライトAT-20A、アデライトAT-30A、アデライトAT-40、アデライトAT-50(商品名、旭電化工業株式会社製)、クレボゾール30R9、クレボゾール30R50、クレボゾール50R50(商品名、クラリアントジャパン株式会社製)、ルドックスHS-40、ルドックスHS-30、ルドックスLS、ルドックスAS-30、ルドックスSM-AS、ルドックスAM、ルドックスHSA及びルドックスSM(商品名、デュポン社製)などが挙げられる。
【0045】
また、水溶性溶媒を分散媒体とするコロイダルシリカとしては、特に限定されないが、例えば、日産化学工業株式会社製MA-ST-M(粒子径が20~25nmのメタノール分散タイプ)、IPA-ST(粒子径が10~15nmのイソプロピルアルコール分散タイプ)、EG-ST(粒子径が10~15nmのエチレングリコール分散タイプ)、EGST-ZL(粒子径が70~100nmのエチレングリコール分散タイプ)、NPC-ST(粒子径が10~15nmのエチレングリコールモノプロピルエーテール分散タイプ)、TOL-ST(粒子径が10~15nmのトルエン分散タイプ)などが挙げられる。
【0046】
乾式シリカ粒子としては、特に限定されないが、例えば、日本アエロジル株式会社製 AEROSIL、株式会社トクヤマ製レオロシールなどが挙げられる。
【0047】
また、これらシリカ粒子は、安定剤として無機塩基(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、アンモニアなど)や有機塩基(テトラメチルアンモニウム、トリエチルアミンなど)を含んでいてもよい。
【0048】
[無機酸化物(D)の形状]
さらに、本実施形態における無機酸化物(D)の形状は、以下に限定されないが、例えば、球状、角状、多面体形状、楕円状、扁平状、線状、数珠状、パール状などが挙げられ、ハードコート塗膜の硬度及び透明性の観点から、球状、数珠状又はパール状であることが特に好ましい。
【0049】
[触媒(E)]
塗料組成物は、マトリクス原料成分(B’)として触媒(E)を含んでいてもよい。触媒(E)は、塗料組成物中の反応性基同士の反応を促進するものであることが好ましく、塗料組成物が触媒(E)を含む場合、塗膜中に未反応性基が残存しにくく、硬度が高くなり耐摩耗性が向上するだけでなく、耐候性も向上する傾向にある。触媒(E)は、特に限定されないが、塗膜(C)を得る際に、溶解もしくは分散するものが好ましい。そのような触媒(E)としては、特に限定されないが、例えば、有機酸、無機酸、有機塩基、無機塩基、金属アルコキシド、及び金属キレートなどが挙げられる。これら触媒(E)は、1種単独で用いてもよく、もしくは2種以上を併用してもよい。
オルガノオキシシランのゾルゲル反応を抑制してポットライフをより向上させる観点からは、塗料組成物のpHが2.1~4.5であることが好ましく、2.7~4.5であることがより好ましく、さらに好ましくは3.3~4.5である。このような範囲となるように塗料組成物のpHを調整できる触媒を用いることが好ましい。かかる好ましい触媒の具体例としては、以下に限定されないが、無機酸と無機塩基を組み合わせた緩衝溶液又は有機酸と有機塩基を組み合わせた緩衝溶液や、オルガノオキシシランの縮合反応に特化した金属キレートを含有する触媒等が挙げられる。
塗料組成物中の触媒(E)の含有量としては、塗料組成物の不揮発性成分を100質量%として、0.1~10質量%であることが好ましく、より好ましくは0.2~5質量%であり、さらに好ましくは0.3~1.5質量%である。
【0050】
[その他の成分]
本実施形態の塗料組成物の塗装性をより向上させる観点から、塗料組成物は、マトリクス原料成分(B’)として、上述した成分に加え、必要に応じて、増粘剤、レベリング剤、チクソ化剤、消泡剤、凍結安定剤、分散剤、湿潤剤、レオロジーコントロール剤、成膜助剤、防錆剤、可塑剤、潤滑剤、防腐剤、防黴剤、静電防止剤、帯電防止剤等として機能する成分であって、加水分解性珪素化合物(b)、無機酸化物(D)及び触媒(E)に該当しないものを配合することができる。成膜性向上の観点から、湿潤剤や成膜助剤を用いることが好ましく、具体的には、特に限定されないが、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、エチレングリコールモノ-2-エチルヘキシルエーテル、2,2,4-トリメチル-1,3-ブタンジオールイソブチレート、グルタル酸ジイソプロピル、プロピレングリコール-n-ブチルエーテル、ジプロピレングリコール-n-ブチルエーテル、トリプロピレングリコール-n-ブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、メガファックF-443、F-444、F-445、F-470、F-471、F-472SF、F-474、F-475、F-477、F-479、F-480SF、F-482、F-483、F-489、F-172D、F-178K(商品名、DIC株式会社製)、SNウェット366、SNウェット980、SNウェットL、SNウェットS、SNウェット125、SNウェット126、SNウェット970(商品名、サンノプコ株式会社製)などが挙げられる。これらの化合物は、1種もしくは2種以上を併用しても構わない。
【0051】
また、用途に応じて、マトリクス原料成分(B’)として、顔料、染料、充填剤、老化防止剤、導電材、有機系の紫外線吸収剤、光安定剤、剥離調整剤、軟化剤、界面活性剤、難燃剤、酸化防止剤等として機能する成分であって、加水分解性珪素化合物(b)、無機酸化物(D)及び触媒(E)に該当しないものを含んでもよい。特に屋外用途では高い耐候性が求められることから、有機系の紫外線吸収剤、光安定剤を含むことが好ましい。有機系の紫外線吸収剤及び光安定剤の具体例としては、以下に限定されないが、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン-5-スルホン酸、2-ヒドロキシ-4-n-オクトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-n-ドデシルオキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-ベンジルオキシベンゾフェノン、ビス(5-ベンゾイル-4-ヒドロキシ-2-メトキシフェニル)メタン、2,2’-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4,4’ジメトキシベンゾフェノン(BASF社製の商品名「UVINUL3049」)、2,2’,4,4’-テトラヒドロキシベンゾフェノン(BASF社製の商品名「UVINUL3050」)、4-ドデシルオキシ-2-ヒドロキシベンゾフェノン、5-ベンゾイル-2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシ-2’-カルボキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-ステアリルオキシベンゾフェノン、4,6-ジベンゾイルレゾルチノール、などのベンゾフェノン系紫外線吸収剤;2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-5’-tert-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-tert-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-5-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-〔2’-ヒドロキシ-3’,5’-ビス(α,α’-ジメチルベンジル)フェニル〕ベンゾトリアゾール)、メチル-3-〔3-tert-ブチル-5-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-ヒドロキシフェニル〕プロピオネートとポリエチレングリコール(分子量300)との縮合物(BASF社製の商品名「TINUVIN1130」)、イソオクチル-3-〔3-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-5-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル〕プロピオネート(BASF社製の商品名「TINUVIN384」)、2-(3-ドデシル-5-メチル-2-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール(BASF社製の商品名「TINUVIN571」)、2-(2’-ヒドロキシ-3’-tert-ブチル-5’-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-tert-アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-4’-オクトキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2-〔2’-ヒドロキシ-3’-(3”,4”,5”,6”-テトラヒドロフタルイミドメチル)-5’-メチルフェニル〕ベンゾトリアゾール、2,2-メチレンビス〔4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)-6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェノール〕、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)フェノール(BASF社製の商品名「TINUVIN900」)、TINUVIN384-2、TINUVIN326、TINUVIN327、TINUVIN109、TINUVIN970、TINUVIN328、TINUVIN171、TINUVIN970、TINUVIN PS、TINUVIN P、TINUVIN99-2、TINVIN928(商品名、BASF社製)などのベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤;2-[4-[(2-ヒドロキシ-3-ドデシルオキシプロピル)オキシ]-2-ヒドロキシフェニル]-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン、2-[4-[(2-ヒドロキシ-3-トリデシルオキシプロピル)オキシ]-2-ヒドロキシフェニル]-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ビス(2-ヒドロキシ-4-ブチルオキシフェニル)-6-(2,4-ビスブチルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジン(BASF社製の商品名「TINUVIN460」)、2-(2-ヒドロキシ-4-[1-オクチロキシカルボニルエトキシ]フェニル)-4,6-ビス(4-フェニルフェニル)-1,3,5-トリアジン(BASF社製の商品名「TINUVIN479」)、TINUVIN400、TINUVIN405、TINUVIN477、TINUVIN1600(商品名、BASF社製)などのトリアジン系紫外線吸収剤;HOSTAVIN PR25、HOSTAVIN B-CAP、HOSTAVIN VSU(商品名、クラリアント社製)、などのマロン酸エステル系紫外線吸収剤;HOSTAVIN3206 LIQ、HOSTAVINVSU P、HOSTAVIN3212 LIQ(商品名、クラリアント社製)、などのアニリド系紫外線吸収剤;アミルサリシレート、メンチルサリシレート、ホモメンチルサリシレート、オクチルサリシレート、フェニルサリシレート、ベンジルサリシレート、p-イソプロパノールフェニルサリシレート、などのサリシレート系紫外線吸収剤;エチル-2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリレート(BASF社製の商品名「UVINUL3035」)、(2-エチルヘキシル)-2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリレート(BASF社製の商品名「UVINUL3039」、1,3-ビス((2’-シアノ-3’,3’-ジフェニルアクリロイル)オキシ)-2,2-ビス-(((2’-シアノ-3’,3’-ジフェニルアクリロイル)オキシ)メチル)プロパン(BASF社製の商品名「UVINUL3030)、などのシアノアクリレート系紫外線吸収剤;2-ヒドロキシ-4-アクリロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メタクリロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-5-アクリロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-5-メタクリロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-(アクリロキシ-エトキシ)ベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-(メタクリロキシ-エトキシ)ベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-(メタクリロキシ-ジエトキシ)ベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-(アクリロキシ-トリエトキシ)ベンゾフェノン、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メタクリロキシエチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール(大塚化学株式会社製の商品名「RUVA-93」)、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メタクリロキシエチル-3-tert-ブチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メタクリリルオキシプロピル-3-tert-ブチルフェニル)-5-クロロ-2H-ベンゾトリアゾール、3-メタクリロイル-2-ヒドロキシプロピル-3-〔3’-(2’’-ベンゾトリアゾリル)-4-ヒドロキシ-5-tert-ブチル〕フェニルプロピオネート(日本チバガイギー株式会社製の商品名「CGL-104」)などの分子内にラジカル重合性の二重結合を有するラジカル重合性紫外線吸収剤;UV-G101、UV-G301、UV-G137、UV-G12、UV-G13(日本触媒株式会社製の商品名)などの紫外線吸収性を有する重合体;ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)サクシネート、ビス(2,2,6,6-テトラメチルピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)2-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-2-ブチルマロネート、1-〔2-〔3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピニルオキシ〕エチル〕-4-〔3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピニルオキシ〕-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケートとメチル-1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル-セバケートの混合物(BASF社製の商品名「TINUVIN292」)、ビス(1-オクトキシ-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、TINUVIN123、TINUVIN144、TINUVIN152、TINUVIN249、TINUVIN292、TINUVIN5100(商品名、BASF社製)などのヒンダードアミン系光安定剤;1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジルメタクリレート、1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジルアクリレート、2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルメタクリレート、2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルアクリレート、1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-イミノピペリジルメタクリレート、2,2,6,6,-テトラメチル-4-イミノピペリジルメタクリレート、4-シアノ-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルメタクリレート、4-シアノ-1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジルメタクリレートなどのラジカル重合性ヒンダードアミン系光安定剤;ユーダブルE-133、ユーダブルE-135、ユーダブルS-2000、ユーダブルS-2834、ユーダブルS-2840、ユーダブルS-2818、ユーダブルS-2860(商品名、日本触媒株式会社製)などの光安定性を有する重合体;シラノール基、イソシアネート基、エポキシ基、セミカルバジド基、ヒドラジド基含有化合物との反応性を有する紫外線吸収剤等が挙げられ、これらは1種もしくは2種以上を併用しても構わない。なお、シラノール基含有化合物との反応性を有する紫外線吸収剤が当該シラノール基含有化合物と反応した結果、加水分解性を有する珪素化合物となる場合、前述の加水分解性珪素化合物(b)に含まれるものとして後述する重量平均値αaveを算出することとする。
【0052】
[溶媒]
本実施形態の塗料組成物は、溶媒を含む。溶媒としては、特に限定されず、一般的な溶媒を用いることができる。溶媒としては、以下に限定されないが、例えば、水;エチレングリコール、ブチルセロソルブ、イソプロパノール、n-ブタノール、2-ブタノール、エタノール、メタノール、変性エタノール、2-メトキシ-1-プロパノール、1-メトキシ-2-プロパノール、ジアセトンアルコールグリセリン、モノアルキルモノグリセリルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテルテトラエチレングリコールモノフェニルエーテルなどのアルコール類;トルエンやキシレンなどの芳香族炭化水素類;ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素類;酢酸エチル、酢酸n-ブチルなどのエステル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類;ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミドなどのアミド類;クロロホルム、塩化メチレン、四塩化炭素などのハロゲン化合物類;ジメチルスルホキシド、ニトロベンゼン;などが挙げられ、これらは1種又は2種以上を併用しても構わない。その中で、溶媒除去時の環境負荷低減の観点から、水、アルコール類を含む方が特に好ましい。
本実施形態において、種々の基材への塗装性及び塗膜の製膜性の観点から、溶媒が、水を含み、前記水の含有量が、塗料組成物100質量%として、40質量%以上90質量%以下であることが好ましい。
【0053】
[マルテンス硬度]
本実施形態におけるマルテンス硬度は、ISO14577-1に準拠した硬度であり、測定条件(ビッカース四角錘ダイヤモンド圧子、荷重の増加条件2mN/20sec、荷重の減少条件2mN/20sec)において2mNでの押し込み深さから算出される値である。本実施形態におけるマルテンス硬度は、例えば、微小硬度計フィッシャースコープ(フィッシャー・インストルメンツ社製HM2000S)、超微小押し込み硬さ試験機(株式会社エリオニクス社製ENT-NEXUS)、ナノインデンター(東陽テクニカ社製iNano、G200)、ナノインデンテーションシステム(ブルカー社製TI980)を用いて測定でき、押し込み深さが浅い程マルテンス硬度は高く、深い程マルテンス硬度は低い。
【0054】
[重合体ナノ粒子(A)の硬度HMAとマトリクス原料成分(B’)の硬度HMB'
本実施形態の塗料組成物において、重合体ナノ粒子(A)のマルテンス硬度HMAと、マトリクス原料成分(B’)のマルテンス硬度HMB'とは、下記式(1)の関係を満たす。
HMB'/HMA>1 式(1)
なお、塗膜(C)は本実施形態の塗料組成物を硬化させてなるものであり、したがって、塗膜(C)は重合体ナノ粒子(A)とマトリクス成分(B)とを含む。マトリクス成分(B)は、マトリクス原料成分(B’)を加水分解縮合等により硬化させた硬化物に該当することから、後述する実施例に記載された方法により測定されるマトリクス原料成分(B’)のマルテンス硬度HMB'の値が、対応するマトリクス成分(B)のマルテンス硬度HMBによく一致するものとして、マルテンス硬度HMBの値を決定することができる。したがって、式(1)は、式(2)のように書き換えることができる。
HMB/HMA>1 式(2)
式(2)は、柔軟な重合体ナノ粒子(A)が硬質なマトリクス成分(B)中に存在することを表しており、このように硬度が3次元的に傾斜をもつことで、塗膜(C)は、従来の塗膜では発現しなかったような耐摩耗性を付与することができる。この要因としては、以下に限定する趣旨ではないが、柔軟なナノ粒子が衝撃を吸収し、硬質なマトリクス成分が変形を抑制しているためと推察される。
HMAの範囲としては50N/mm2以上2000N/mm2以下が好ましく、100N/mm2以上800N/mm2以下がより好ましく、100N/mm2以上350N/mm2以下が更に好ましい。
HMB'の範囲としては100N/mm2以上4000N/mm2以下が好ましく、150N/mm2以上4000N/mm2以下がより好ましく、150N/mm2以上2000N/mm2以下が更に好ましい。
本実施形態の塗料組成物における各マルテンス硬度は、例えば、遠心分離、限外濾過等の操作により重合体ナノ粒子(A)とマトリクス原料成分(B’)とを分離し、分離された各成分に対し、後述する実施例に記載の方法に基づいて測定することができる。
重合体ナノ粒子(A)は、かかる硬化の過程においてその組成は変化しないことが通常である。したがって、後述する実施例に記載された方法により測定される塗料組成物中の重合体ナノ粒子(A)のマルテンス硬度HMAの値は、塗膜(C)中の重合体ナノ粒子(A)のマルテンス硬度HMAによく一致するものとして、塗膜(C)におけるマルテンス硬度HMAの値を決定することができる。
上記HMA及びHMB'の値は、それぞれ、重合体ナノ粒子(A)及びマトリクス原料成分(B’)の構成成分の構造及び組成比等により、前述した大小関係となるように調整できるが、特にこの方法に限定されるものではない。
【0055】
[他の硬度]
上述した本実施形態におけるマルテンス硬度の大小関係は、他の硬度を指標として測定値の大小関係を確認することによっても推定することができる。他の硬度としては、材料に力が加えられた際の、材料の変形のしにくさを示す指標であれば特に限定されず、微小硬度計やナノインデンテーション測定機器に代表される押し込み硬度計で測定されるビッカース硬度、インデンテーション硬度や、剛体振り子型物性試験器に代表される振り子型粘弾性で測定される対数減衰率で表現される指標を挙げることができる。その他、走査型プローブ顕微鏡(SPM)で測定される、凝着力、位相、摩擦力、粘弾性、吸着力、硬さ及び弾性率で表現される指標を挙げることもできる。これらの指標において、マトリクス原料成分(B’)の硬度が重合体ナノ粒子(A)の硬度よりも高いことが確認されれば、マルテンス硬度や凝着力についても、マトリクス原料成分(B’)(マトリクス成分(B))の方が重合体ナノ粒子(A)よりも硬質であることが推定される。
【0056】
[重量平均値αave
本実施形態の塗料組成物において、下記計算式(1)で与えられる前記加水分解性珪素化合物(b)の計算有機鎖長をαとするとき、記塗料組成物の固形分100質量%に対する前記加水分解性珪素化合物(b)の含有量に基づいて得られる重量平均値αaveは、1.3以上2.2以下である。
計算有機鎖長α=Si原子間有機鎖長/分子中のSi原子数 (1)
(ここで、前記加水分解性珪素化合物(b)の分子構造中、加水分解性を有する部分Aと当該部分A以外の部分Bとに区分するとき、Si原子間有機鎖長は、部分Aの有機鎖長aと部分Bの有機鎖長bとの和である。前記有機鎖長aは、オルガノオキシシラン構造の数を2で除した値である。前記分子構造中のSi原子数が1である場合、前記有機鎖長bは、0となる。前記分子構造中のSi原子数が2である場合、前記有機鎖長bは、一のSi原子から他のSi原子に至るまでの最短の原子鎖を構成する原子数として与えられる。前記分子構造中のSi原子数が3以上である場合、前記有機鎖長bは、前記最短の原子鎖を構成する原子数として与えられる各値の平均値とする。)
計算有機鎖長αは、加水分解性珪素化合物(b)の化学構造から計算することができ、加水分解性珪素化合物(b)が100%加水分解、縮合することを想定し、1分子中の珪素原子と珪素原子との間に含まれる有機基の鎖長を反映した数値といえる。
本実施形態におけるオルガノオキシシラン構造は、アルコキシシランやアリールオキシシラン等が挙げられ、好ましくはアルコキシシランである。
以下、加水分解性珪素化合物(b)に該当し得るメチルトリメトキシシラン、1,2-ビス(トリエトキシシリル)エタン、トリス-(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレートを例として(ただし、加水分解性珪素化合物(b)はこれらに限定されない。)、これらの計算有機鎖長αの算出方法について説明する。
【0057】
(計算有機鎖長αの計算例1)
例えば、加水分解性珪素化合物(b)がメチルトリメトキシシランである場合の計算有機鎖長αの計算方法について、図1を用いて説明する。
メチルトリメトキシシランが有する3つのメトキシ基(図1における部分A)が全て加水分解した場合、加水分解性珪素化合物(b)が有するシラノール基は3つとなる。3つのシラノール基全てが他の加水分解性珪素化合物と縮合した場合、1つのシラノール基由来の部分に着目すると、メチルトリメトキシシランにおけるSi原子と他の分子中のSi原子の間に存在する酸素原子は1つである。シラノール基の数が3であることから、このような酸素原子の合計は3となる。ここで、少なくとも2分子が縮合に関与することから、上記の「3」を「2」で除した値「1.5」が有機鎖長aとなる。
次いで、図1において示されている部分A以外の部分が、メチルトリメトキシシランにおける部分Bとなる。ここで、メチルトリメトキシシランにおいてSi原子の数は1であるから、有機鎖長bは、0となる。
したがって、加水分解性珪素化合物(b)がメチルトリメトキシシランである場合の計算有機鎖長αは、図1に示すように、1.5(=(3/2+0)/1)と算出される。
【0058】
(計算有機鎖長αの計算例2)
加水分解性珪素化合物(b)が1,2-ビス(トリエトキシシリル)エタン(分子内に2つのSi原子を有する。)である場合の計算有機鎖長αの計算方法について、図2を用いて説明する。
1,2-ビス(トリエトキシシリル)エタンが有するエトキシ基(図2における部分A)は、加水分解することでシラノール基となる。これらが縮合すると、前述したメチルトリメトキシシランの場合と同様に、1つのシラノール基由来の部分に着目すると、1,2-ビス(トリエトキシシリル)エタンにおけるSi原子と他の分子中のSi原子の間に存在する酸素原子は1つである。シラノール基の数が6であることから、このような酸素原子の合計は6となる。ここで、少なくとも2分子が縮合に関与することから、上記の「6」を「2」で除した値「3」が有機鎖長aとなる。
次いで、図2において示されている部分A以外の部分が、1,2-ビス(トリエトキシシリル)エタンにおける部分Bとなる。ここで、1,2-ビス(トリエトキシシリル)エタンにおけるSi原子の数は2であるから、有機鎖長bは、一のSi原子から他のSi原子に至るまでの最短の原子鎖を構成する原子数として与えられる。図2に示すように、この場合の原子数は2となる。
したがって、加水分解性珪素化合物(b)が1,2-ビス(トリエトキシシリル)エタンである場合の計算有機鎖長αは、図2に示すように、2.5(=(6/2+2)/2)と算出される。
【0059】
(計算有機鎖長αの計算例3)
加水分解性珪素化合物(b)がトリス-(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート(分子内に3つのSi原子を有する。)である場合の計算有機鎖長αの計算方法について、図3を用いて説明する。
トリス-(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレートが有するメトキシ基(図3における部分A)は、加水分解することでシラノール基となり、さらに縮合により各々1つの酸素原子がSi原子間に存在することになる。図3のとおり、加水分解によりシラノール基となるメトキシ基の数は9であることから、このような酸素原子の合計は9となる。ここで、少なくとも2分子が縮合に関与することから、上記の「9」を「2」で除した値「4.5」が有機鎖長aとなる。
次いで、図3において示されている部分A以外の部分が、トリス-(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレートにおける部分Bとなる。ここで、トリス-(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレートにおけるSi原子の数は3であるから、有機鎖長bは、一のSi原子から他のSi原子に至るまでの最短の原子鎖を構成する原子数として与えられる各値の平均値である。図3に示すように、上記最短の原子鎖を構成する原子数は、どのようにカウントしても9となるから、上記平均値も9となる。
したがって、加水分解性珪素化合物(b)がトリス-(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレートである場合の計算有機鎖長αは、図3に示すように、4.5(=(9/2+9)/2)と算出される。
【0060】
上述したとおり、本実施形態において、計算有機鎖長αや重量平均値αaveは、加水分解性珪素化合物(b)に対して計算されるものであり、珪素を含有する化合物であっても加水分解性を有しないもの等、加水分解性珪素化合物(b)に該当しないその他の成分については、計算有機鎖長αは0として重量平均値αaveを算出する。
【0061】
本実施形態の塗料組成物において、重量平均値αaveは、塗料組成物の固形分100質量%に対する前記加水分解性珪素化合物(b)の含有量に基づいて得られる重量比率に、前述した方法で算出した計算有機鎖長αを掛け合わせ、得られた数値を全て足し合わせたものである。なお、重量平均値αaveの算出の際に考慮する「塗料組成物の固形分」としては、本実施形態の塗料組成物に含まれ得る重合体ナノ粒子(A)、加水分解性珪素化合物(b)、無機酸化物(D)及び触媒(E)のみを対象とするものであり、後述する「不揮発性成分」とは区別される。すなわち、本実施形態において、「塗料組成物の固形分100質量%」とは、本実施形態の塗料組成物に含まれ得る重合体ナノ粒子(A)、加水分解性珪素化合物(b)、無機酸化物(D)及び触媒(E)の合計量を100質量%とすることを意味する。
【0062】
計算有機鎖長αが大きい加水分解性珪素化合物の縮合物として得られる硬化樹脂は、一般的に、架橋点間距離が長くなるため、硬化時の収縮が緩和される傾向にある。そのような硬化樹脂を含む塗膜としては、高い硬度と回復率が得られやすく、耐摩耗性も向上する傾向にある。一方で、計算有機鎖長αが小さい加水分解性珪素化合物は、一般的に、分子量が小さいことや溶媒への可溶性が高いことから、加水分解反応と縮合反応が短時間での硬化により容易であり、耐久性試験時に塗膜の変質が発生しがたく、耐クラック性が向上する。したがって、耐摩耗性と耐クラック性の観点から、重量平均値αaveの値を調整することが重要となる。
重量平均値αaveの値が1.3以上である場合、塗料中に有機基数の小さい加水分解性珪素化合物(b)や加水分解性珪素化合物(b)以外の成分の比率が減ることとなり、ハードコート塗膜の硬度が増加し、耐摩耗性が向上する。加えて、有機基数の小さい加水分解性珪素化合物(b)が減ることになり、塗料中でのゾルゲル反応による架橋が進行しにくく塗料組成物の貯蔵安定性であるポットライフが向上する。
重量平均値αaveの値が2.2以下の場合、塗料中へ有機基数の大きい加水分解性珪素化合物(b)が減ることとなり、加水分解反応と縮合反応が速くなる。したがって硬化時に未反応の架橋部位が減少するため、耐久性試験時の樹脂における化学反応は発生せず、耐クラック性が向上する。
耐摩耗性の観点から、重量平均値αaveは1.3以上であり、好ましくは1.4以上であり、より好ましくは1.5以上である。
また、耐クラック性の観点から、重量平均値αaveは2.2以下であり、好ましくは2.1以下である。
【0063】
重量平均値αaveは、具体的には、後述する実施例に記載の要領に基づいて各仕込み量から算出することもできるし、後述の加水分解性珪素化合物(b)の含有量の特定方法から得られた数値を用いて算出することもできる。なお、本実施形態において、「塗料組成物の固形分」とは、重合体ナノ粒子(A)、加水分解性珪素化合物(b)、無機酸化物(D)及び触媒(E)を意味し、固形分100質量%とは、重合体ナノ粒子(A)、加水分解性珪素化合物(b)、無機酸化物(D)及び触媒(E)の総量を100質量%とすることを意味する。
【0064】
[塗料組成物の不揮発性成分濃度]
塗料組成物は、塗装性と貯蔵安定性の観点から好ましい不揮発性成分濃度は8~30質量%、より好ましくは10~21質量%である。不揮発性成分濃度は、具体的には、後述する実施例に記載の要領に基づいて測定することができる。
【0065】
[塗料組成物の粘度]
本実施形態において、塗装性の観点から、塗料組成物の20℃における粘度としては、好ましくは0.1~100000mPa・s、好ましくは1~10000mPa・sである。
【0066】
[塗料組成物のpH]
本実施形態において、耐摩耗性と貯蔵安定性の観点から、pHが2.1~4.5であることが好ましく、2.7~4.5であることがより好ましく、さらに好ましくは3.3~4.5である。。pHは後述する実施例に記載の方法に基づいて測定することができる。
【0067】
[不揮発性成分濃度100質量%に対する加水分解性珪素化合物(b)の含有量]
本実施形態において、塗料組成物の不揮発性成分濃度100質量%に対する加水分解性珪素化合物(b)の含有量は、耐摩耗性と貯蔵安定性の観点から、10質量%以上90質量%以下が好ましく、15質量%以上80質量%以下がより好ましい。ここでいう加水分解性珪素化合物(b)の含有量も、塗料組成物調製時の各原料の仕込み量から、揮発性成分を除いた重量中の完全加水分解縮合換算重量の割合から算出した値で特定される。上記含有量は、後述する実施例に記載の要領に基づいて各仕込み量から算出することもできるし、以下に限定されないが、例えば、塗膜(C)のIR解析、NMR解析、元素分析等で測定することもできる。
【0068】
<塗料組成物の製造方法>
本実施形態の塗料組成物の製造方法は、特に限定されないが、例えば、上述の式(1)を満たすように重合体ナノ粒子(A)とマトリクス原料成分(B’)とを適宜選択し、これらを混合し、必要に応じ、固形分濃度を調整するために水やエタノール等の溶媒を加えたり、pHを調整するためにトリエチルアミン等のpH調整剤を加えたりすることにより、本実施形態の塗料組成物を得ることができる。なお、マトリクス原料成分(B’)を準備する際、重量平均値αaveが1.3以上2.2以下となるようにするべく、例えば、加水分解性珪素化合物(b)の各々について計算有機鎖長αを算出した上、各加水分解性珪素化合物の配合比を調整することができる。
【0069】
[塗膜(C)]
本実施形態の塗膜(C)(ハードコート塗膜)は、本実施形態の塗料組成物を含む。すなわち、塗膜(C)は本実施形態の塗料組成物を成膜した(硬化させてなる)ものである。塗膜(C)において、重合体ナノ粒子(A)は、マトリクス成分(B)に分散していることが好ましい。本実施形態における「分散」とは、重合体ナノ粒子(A)を分散相とし、マトリクス成分(B)を連続相とし、重合体ナノ粒子(A)がマトリクス成分(B)中へ均一または構造を形成しながら分布することである。上記分散は、塗膜(C)の断面SEM観察によって確認することができる。本実施形態の塗膜(C)においては、重合体ナノ粒子(A)が、マトリクス成分(B)に分散していることにより、高い耐摩耗性を有する傾向にある。
【0070】
[塗膜(C)の膜厚]
本実施形態において、塗膜(C)の耐摩耗性を一層発現させる観点と、基材の変形への追従性を十分に確保する観点から、膜厚を適宜調整することが好ましい。具体的には、塗膜(C)の膜厚は、耐摩耗性の観点から1.0μm以上であることが好ましく、より好ましくは3.0μm以上である。更に、塗膜(C)の膜厚は、耐候性及び基材追従性の観点から100.0μm以下であることが好ましく、より好ましくは50.0μm以下であり、さらに好ましくは20.0μm以下である。
【0071】
[塗膜(C)のマルテンス硬度HM]
塗膜(C)のマルテンス硬度HMは、耐摩耗性の観点から160N/mm2以上であることが好ましく、高いほど衝撃に対し変形が少なく、破壊を伴う傷付きが少ない点で有利となる傾向にある。塗膜(C)のマルテンス硬度HMは、より好ましくは180N/mm2以上であり、更に好ましくは200N/mm2以上であり、耐屈曲性の観点から、好ましくは400N/mm2以下であり、より好ましくは350N/mm2以下である。塗膜(C)のマルテンス硬度HMを上記範囲内に調整するための方法としては、以下に限定されないが、例えば、本実施形態の塗料組成物を、基材上に塗装し、熱処理、紫外線照射、赤外線照射などによって塗膜化することが挙げられる。特に、重合体ナノ粒子(A)とマトリクス原料成分(B’)の合計量に対するマトリクス原料成分(B’)の含有量を増やすと、塗膜(C)のマルテンス硬度HMは上がる傾向にあり、マトリクス原料成分(B’)の含有量を減らすと塗膜(C)のマルテンス硬度HMは下がる傾向にある。
【0072】
[テーバー摩耗試験におけるヘイズ変化量]
本実施形態におけるテーバー摩耗試験とは、ASTM D1044に記載の方法で測定される方法に準じており、摩耗輪CS-10F、荷重500gの条件下で測定を実施する。ヘイズ変化量が小さいほど耐摩耗性に優れた材料となり、試験前におけるヘイズに対する500回転におけるヘイズ変化量、すなわち回転数500回におけるヘイズと前記テーバー摩耗試験前のヘイズとの差が10以下であれば、ECE R43のリアクオーターガラスの規格に適合し、4以下であれば、ANSI/SAE Z.26.1の規格に適合し、自動車用窓材として好適に使用可能である。また、1000回転におけるヘイズ変化量、すなわち、回転数1000回におけるヘイズと前記テーバー摩耗試験前のヘイズとの差が10以下であれば、自動車窓の規格に適合し、自動車用窓材として好適に使用でき、2以下であればANSI/SAE Z.26.1、ECE R43、JIS R3211/R3212の規格に適合し、全ての自動車窓材に好適に使用可能である。回転数1000回におけるヘイズと前記テーバー摩耗試験前のヘイズとの差は、2以下であれば好ましい。ヘイズ変化量を上記範囲内に調整するための方法としては、以下に限定されないが、例えば、本実施形態の塗料組成物を、基材上に塗装し、熱処理、紫外線照射、赤外線照射などによって塗膜化することが挙げられる。
【0073】
[塗膜(C)の弾性回復率ηIT
塗膜(C)の弾性回復率ηITは、くぼみの全機械的仕事量Wtotalとくぼみの弾性戻り変形仕事量Welastとの比であり、ISO14577-1で「Welast/Wtotalの比ηIT」として記載されているパラメータである。弾性回復率ηITが高いほど、塗膜が変形した際、元の状態に戻ることが可能であり、変形に対する自己修復能が高い。自己修復能を効果的に発揮する観点から、弾性回復率ηITは、測定条件(ビッカース四角錘ダイヤモンド圧子、荷重の増加条件2mN/20sec、荷重の減少条件2mN/20sec)において0.50以上であることが好ましく、この範囲であれば値が大きいほど好ましい。より具体的には、弾性回復率ηITが0.55以上であるとより好ましく、更に好ましくは0.60以上であり、より更に好ましくは0.65以上である。本実施形態における塗膜の弾性回復率の測定は、以下に限定されないが、例えば、塗膜(C)の表面を、微小硬度計フィッシャースコープ(フィッシャー・インストルメンツ社製HM2000S)、超微小押し込み硬さ試験機(株式会社エリオニクス社製ENT-NEXUS)、ナノインデンター(東陽テクニカ社製iNano、G200)、ナノインデンテーションシステム(ブルカー社製TI980)、などを用いて押し込み試験を行うことで測定することができる。弾性回復率ηITを上記範囲内に調整するための方法としては、以下に限定されないが、例えば、本実施形態の塗料組成物を、基材上に塗装し、熱処理、紫外線照射、赤外線照射などによって塗膜化することが挙げられる。
【0074】
[ハードコート塗膜の製造方法]
本実施形態のハードコート塗膜の製造方法は、特に限定されないが、例えば、本実施形態の塗料組成物を、後述する基材に塗装し、熱処理、紫外線照射、赤外線照射などによって塗膜化することにより得ることができる。さらに、前記塗装方法としては、以下に限定されないが、例えばスプレー吹付法、フローコート法、刷毛塗法、ディップコーティング法、スピンコーティング法、スクリーン印刷法、キャスティング法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法などが挙げられる。湾曲した基材に塗布する場合は、特にノズルフローコート法、ディップコート法、スプレー吹付法が好ましい。なお、前記塗装された本実施形態の塗料組成物は、好ましくは室温~250℃、より好ましくは40℃~150℃での熱処理や紫外線、赤外線照射などにより塗膜化することができる。
【0075】
[ハードコート塗膜付き基材]
本実施形態に係るハードコート塗膜付き基材は、基材と、基材の片面及び/又は両面に形成された本実施形態のハードコート塗膜と、を含む。ハードコート塗膜付き基材は、少なくとも基材の片面及び/又は両面に有する。
本実施形態のハードコート塗膜付き基材は、上述のように構成されているため、高い耐摩耗性と高い耐久性を有する。本実施形態のハードコート塗膜付き基材は、高いレベルでの耐摩耗性と耐汚染性を発現するため、以下に限定されないが、例えば、建材、自動車部材や電子機器や電機製品等のハードコートとして有用であり、とりわけ自動車部材用とすることが好ましい。すなわち、建材、自動車部材、電子機器、電機製品等の少なくとも一部を基材として本実施形態のハードコート塗膜が形成されていることが好ましく、自動車部材の少なくとも一部を基材として本実施形態のハードコート塗膜が形成されていることがより好ましい。
【0076】
[基材]
本実施形態における基材としては、特に限定されないが、樹脂、陶器、金属、ガラス等が挙げられる。基材の形状としては、以下に限定されないが、例えば、板状、凹凸を含む形状、曲面を含む形状、中空の形状、多孔体の形状、それらの組み合わせ等が挙げられる。また、基材の種類は問わず、例えば、シート、フィルム、繊維などが挙げられる。基材は、透明性の観点から、透明樹脂及び/又はガラスを含むことが好ましく、成形性の観点から透明樹脂が好ましい。すなわち、透明樹脂を含む基材と、本実施形態の塗料組成物を含むハードコート塗膜と、を有するハードコート塗膜付き基材は、より優れた耐擦過性、成形性、耐候性を有する傾向にある。基材として用いられる透明樹脂としては、以下に限定されないが、例えば、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂が挙げられる。基材として用いられる熱可塑性樹脂としては、以下に限定されないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ABS樹脂、塩化ビニル樹脂、メタクリル酸メチル樹脂、ナイロン、フッ素樹脂、ポリカーボネート、ポリエステル樹脂などが挙げられる。また基材として用いられる熱硬化性樹脂としては、以下に限定されないが、例えば、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、珪素樹脂、シリコーンゴム、SBゴム、天然ゴム、熱硬化性エラストマーなどが挙げられる。
【0077】
[透明性]
本実施形態のハードコート塗膜付き基材の透明性は、外観変化の観点から、全光線透過率で評価することができる。本実施形態において、ハードコート塗膜付き基材の全光線透過率は、80%以上が好ましく、採光確保の観点から85%以上がより好ましく、材料越しにおける視認性確保の観点から90%以上がとりわけ好ましい。
【0078】
[接着層]
本実施形態に係るハードコート塗膜付き基材は、基材とハードコート塗膜との間に、接着層をさらに有していてもよい。接着層としては、一般的に使用される接着層を用いることができ、特に限定されず、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、ゴム・エラストマーなどが挙げられ、その中でもアクリル系樹脂、アクリルウレタン系樹脂、ウレタン系樹脂、シリコーン系樹脂などが好ましい。また、上記接着層は、必要に応じて、任意の適切な添加剤を含んでもよい。添加剤としては、以下に限定されないが、例えば、架橋剤、粘着付与剤、可塑剤、顔料、染料、充填剤、老化防止剤、導電材、紫外線吸収剤、無機酸化物、光安定剤、剥離調整剤、軟化剤、界面活性剤、難燃剤、酸化防止剤などが挙げられる。架橋剤は、以下に限定されないが、例えば、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、アジリジン系架橋剤、アミン系架橋剤過酸化物系架橋剤、メラミン系架橋剤、尿素系架橋剤、金属アルコキシド系架橋剤、金属キレート系架橋剤、金属塩系架橋剤などが挙げられる。
【0079】
本実施形態において、ハードコート塗膜の少なくとも1つの表面上に機能層をさらに有してもよい。機能層としては、以下に限定されないが、例えば、反射防止層、防汚層、偏光層、衝撃吸収層などが挙げられる。
【0080】
[ハードコート塗膜付き基材の製造方法]
本実施形態のハードコート塗膜付き基材の製造方法は、特に限定されないが、例えば、本実施形態の塗料組成物を、前記基材に塗装し、熱処理、紫外線照射、赤外線照射などによって塗膜化することにより得ることができる。さらに、前記塗装方法としては、以下に限定されないが、例えばスプレー吹付法、フローコート法、刷毛塗法、ディップコーティング法、スピンコーティング法、スクリーン印刷法、キャスティング法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法などが挙げられる。湾曲した基材に塗布する場合は、特にノズルフローコート法、ディップコート法、スプレー吹付法が好ましい。なお、前記塗装された本実施形態の塗料組成物は、好ましくは室温~250℃、より好ましくは40℃~150℃での熱処理や紫外線、赤外線照射などにより塗膜化することができる。さらに、この塗装は、すでに成型した基材だけでなく、防錆鋼板を含むプレコートメタルのように、成型加工する前にあらかじめ平板に塗装することも可能である。
【0081】
[ハードコート塗膜の表面加工]
本実施形態のハードコート塗膜は、耐候性の観点から、表面をシリカ加工してシリカ層を形成してもよい。シリカ層の形成方法としては、特に限定されないが、具体例としては、シリコーン又はシラザンを蒸着/硬化させるPECVDによるシリカ加工、155nm紫外線照射によって表面をシリカに改質させるシリカ加工技術が挙げられる。特に、表面を劣化させることなく酸素や水蒸気を通しにくい層を作製できることから、PECVDによる表面加工が好ましい。PECVDに用いることのできるシリコーン又はシラザンは、以下に限定されないが、具体的には、オクタメチルシクロテトラシロキサン、テトラメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ヘキサメチルジシロキサン、ビニルメトリキシラン、ビニルメトキシシラン、ジメチルジメトキシラン、TEOS、テトラメチルジシロキサン、テトラメチルテトラビニルシクロテトラシロキサン、ヘキサメチルジシラザンなどが挙げられ、これらを1種もしくは2種以上を併用しても構わない。
【0082】
[ハードコート塗膜及びハードコート塗膜付き基材の用途]
本実施形態のハードコート塗膜及びハードコート塗膜付き基材は、優れた耐摩耗性と耐久性を有する。したがって、ハードコート塗膜及びハードコート塗膜付き基材の用途としては、特に限定されないが、例えば、建材、車両用部材や電子機器、電機製品などが挙げられる。
建材用途としては、以下に限定されないが、例えば、建設機械の窓ガラス、ビルや家屋、温室などの窓ガラス、ガレージおよびアーケードなどの屋根、照明や信号機等の照灯類、壁紙表皮材、看板、浴槽や洗面台のようなサニタリー製品、台所用建材外壁材、フローリング材、コルク材、タイル、クッションフロア、リノリウムのような内装用床材、が挙げられる。
車両用部材としては、以下に限定されないが、例えば、自動車、航空機、列車の各用途で使用される部品が挙げられる。具体的な例としては、フロント、リア、フロントドア、リアドア、リアクォーター、サンルーフ等の各ガラス、フロントバンパーやリアバンパー、スポイラー、ドアミラー、フロントグリル、エンブレムカバー、ボディー等の外装部材、センターパネル、ドアパネル、インストルメンタルパネル、センターコンソールなどの内装部材、ヘッドランプやリアランプ等のランプ類の部材、車載カメラ用レンズ部材、照明用カバー、加飾フィルム、さらには種々のガラス代替部材が挙げられる。
電子機器や電機製品としては、以下に限定されないが、例えば、携帯電話、携帯情報端末、パソコン、携帯ゲーム機、OA機器、太陽電池、フラットパネルディスプレイ、タッチパネル、DVDやブルーレイディスク等の光ディスク、偏光板や光学フィルター、レンズ、プリズム、光ファイバー等の光学部品、反射防止フィルムや配向フィルム、偏光フィルム、位相差フィルム等の光学フィルム等が好ましく挙げられる。
本実施形態のハードコート塗膜及びハードコート塗膜付き基材は、上記の他、機械部品や農業資材、漁業資材、搬送容器、包装容器、遊戯具および雑貨など、様々な領域への適用が可能である。
【実施例0083】
以下、実施例及び比較例により本実施形態を詳細に説明するが、本実施形態はこれらの例によって限定されるものでない。
【0084】
後述する実施例及び比較例における、各種の物性は下記の方法で測定した。
【0085】
(1)厚みの測定
各層の厚みは、大塚電子株式会社製反射分光膜厚計(品番:FE-3000)を用いて測定した。
【0086】
(2)重合体ナノ粒子(A)の平均粒子径
後述する方法により得られた重合体ナノ粒子(A)水分散体を用いて大塚電子株式会社製動的光散乱式粒度分布測定装置(品番:ELSZ-1000)によりキュムラント粒子径を測定し、重合体ナノ粒子(A)の平均粒子径とした。
【0087】
(3)無機酸化物(D)の一次平均粒子径
透過型顕微鏡写真を用いて50,000~100,000倍に拡大して観察し、粒子として100~200個の無機酸化物が写るように撮影して、その無機酸化物粒子の長径及び短径の平均値を測定し、その値を無機酸化物(D)の一次平均粒子径とした。
【0088】
(4)計算有機鎖長α
メチルトリメトキシシラン、1,2-ビス(トリエトキシシリル)エタン及びトリス-(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレートの計算有機鎖長αは、それぞれ、図1~3に示すように算出した。
ジメチルジメトキシシラン及びテトラエトキシシランは分子中のSi原子の数が各々1であるから、図1と同様にして計算有機鎖長αを算出した。
1,2-ビス(トリメトキシシリル)ヘキサンは分子中のSi原子の数が2であるから、図2と同様にして計算有機鎖長αを算出した。3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランとUvinul3050との反応物に該当するシラン化合物(Z1)についても、図4に示すとおり、分子中のSi原子の数が2であり、計算有機鎖長αは12(=(6/2+21)/2)と算出した。
【0089】
(5)重量平均値αave
塗料組成物の固形分100質量%に対する加水分解性珪素化合物(b)の含有量に基づいて得られる重量平均値αaveを算出した。
いずれの実施例及び比較例についても、塗料組成物に含まれる不揮発性成分の全てが重合体ナノ粒子(A)、加水分解性珪素化合物(b)、無機酸化物(D)及び触媒(E)のいずれかに該当することから、加水分解性珪素化合物(b)の重量比率は、塗料組成物を乾燥させて得られた不揮発性成分の質量を基準として算出した。
なお、計算に用いる加水分解性珪素化合物(b)の含有量の値としては、完全加水分解縮合換算重量とした。ここで、完全加水分解縮合換算重量は、仕込みに用いた加水分解性珪素化合物の加水分解性基が100%加水分解してSiOH基となり、さらに完全に縮合してシロキサンになった場合の重量とした。
【0090】
(6)ヘイズの測定
ヘイズは、日本電色工業株式会社製濁度計(品番:NDH5000SP)を用いて、積層体(接着層付き基材及びハードコート層)を対象としてJIS K7136に規定される方法により測定した。
【0091】
(8)重合体ナノ粒子(A)のマルテンス硬度HMAの測定
重合体ナノ粒子(A)のマルテンス硬度HMAは、重合体ナノ粒子(A)の水分散体を、バーコーターを用いて膜厚が3μmになるようにガラス基材(材質:白板ガラス、厚み:2mm)上に塗布し、130℃2時間かけて乾燥することにより、得られた塗膜を用いて測定した。測定は、フィッシャー・インストルメンツ社製フィッシャースコープ(品番:HM2000S)を用いた押し込み試験(試験条件;圧子:ビッカース四角錘ダイヤモンド圧子、荷重の増加条件:2mN/20sec、荷重の減少条件:2mN/20sec)により微小硬度を測定し、ISO14577-1準拠のインデンテーション試験法に基づき、重合体ナノ粒子(A)のマルテンス硬度HMAを測定した。
【0092】
(9)マトリクス原料成分(B’)のマルテンス硬度HMB'の測定
成分(B’)のマルテンス硬度HMB'は、成分(B’)を固形分濃度8質量%として水/エタノール/酢酸(組成比77質量%/20質量%/3質量%)へ溶解又は分散させ、得られた溶液はバーコーターを用いて膜厚が3μmになるようにガラス基材(材質:白板ガラス、厚み:2mm)上に塗布し、130℃で2時間かけて乾燥することにより、得られた塗膜を用いて測定した。測定は、フィッシャー・インストルメンツ社製フィッシャースコープ(品番:HM2000S)を用いた押し込み試験(試験条件;圧子:ビッカース四角錘ダイヤモンド圧子、荷重の増加条件:2mN/20sec、荷重の減少条件:2mN/20sec)により微小硬度を測定し、ISO14577-1準拠のインデンテーション試験法に基づき、HMB'を計測した。後述するとおり、マトリクス成分(B)は、対応する成分(B’)の加水分解縮合物に該当する。このことから、上記のようにして測定された成分(B’)のマルテンス硬度HMB'の値は、マトリクス成分(B)のマルテンス硬度HMBによく一致するものとして、マルテンス硬度HMB'の値をマルテンス硬度HMBの値とした。
【0093】
(10)積層体におけるハードコート層の耐摩耗性の評価
積層体におけるハードコート層の耐摩耗性の評価は、安田精機株式会社製テーバー式アブレーションテスター(No.101)を用い、ASTM D1044の規格に準拠して行った。すなわち、摩耗輪CS-10F、及び荷重500gの条件でテーバー摩耗試験を実施し、当該試験前のヘイズ、回転数1000回におけるヘイズを各々、日本電色工業株式会社製濁度計(品番:NDH5000SP)を用いて、JIS R3212に規定される方法により測定し、試験前のヘイズとの差をとることによって、積層体におけるハードコート層の耐摩耗性を下記のように評価した。
(評価基準)
○:試験前後のヘイズ差が2以下である。
×:試験前後のヘイズ差が2を超える。
【0094】
(11)積層体におけるハードコート層の耐クラック性評価
積層体におけるハードコート層の耐クラック性の評価は、エスペック株式会社製HAST チャンバーを用い、120℃100RH%環境下で1時間静置した。その後、乾燥機にて、120℃環境下で1時間静置した。その後、外観を目視で確認して、積層体におけるハードコート層の耐クラック性を下記のように評価した。
(評価基準)
◎:全くクラックが無い
〇:ブツが起点となったクラックが2、3点目視で確認できる
〇’:端部の一部に線上のクラックが見られる
△:端部全体に線状のクラックが見られるが、使用には耐えうる
×:全面にクラックが見られ、使用には耐えられない
【0095】
(12)ポットライフの評価
後述する方法で得られた塗料組成物を室温条件下で24時間静置した。調製後24時間経過した後の水系塗料組成物について目視で沈降の有無を評価するとともに、400メッシュのステンレス金網でろ過した際の残渣について目視で以下のように評価した。
(評価基準)
○:目視にて沈降がなく、塗工液を400メッシュのステンレス金網でろ過した際の残渣がわずかにみられる。
△:目視にてわずかな沈降が確認され、塗工液を400メッシュのステンレス金網でろ過した際に残渣が見られるが、使用には耐えうる。
×:目視にて明らかな沈降が確認され、使用に耐えられない。
【0096】
(13)耐候性評価
積層体の耐候性は、キセノンアーク(スガ試験機社製、製品名SX-75)による紫外線照射を、ANSI/SAE Z26.1の規格の条件に従って行い、2000MJ/m2照射前後の積層体のΔb値により、下記のように評価した。評価結果がSあるいはAであれば実用上問題ない。
S:Δb < 1
A:Δb = 1~4
B:Δb > 4
【0097】
<接着層付き基材(F-1)の調製>
[複合体粒子水分散体の調製]
後述する積層体の作製に用いた接着層付き基材(F-1)の原料として、複合体粒子水分散体1を以下のとおりに合成した。
還流冷却器、滴下槽、温度計及び攪拌装置を有する反応器に、イオン交換水960g、無機酸化物として水分散性コロイダルシリカ「スノーテックス(登録商標)PS-SO」(商品名、日産化学工業株式会社製、固形分15質量%、一次平均粒子径:15nm)778g、10%ドデシルベンゼンスルホン酸水溶液22g、2%過硫酸アンモニウム水溶液25g、アクリル酸ブチル45g、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル45g、N,N-ジエチルアクリルアミド23g、アクリル酸1g、及び反応性乳化剤(商品名「アデカリアソープ(登録商標)SR-1025」、(株)ADEKA製、固形分25%水溶液)3gを加えた。その後、80℃の環境下で一般的な乳化重合の方法で重合を行った。重合後、25%アンモニア水溶液でpH9に調整し、100メッシュの金網で濾過し、複合体粒子水分散体1を得た。複合体粒子水分散体1に含まれる、エマルション粒子と無機酸化物との質量比(エマルション粒子/無機酸化物)は1/1であり、エマルション粒子と無機酸化物との複合体の平均粒子径は80nmであり、その複合体の固形分は12質量%であった。
【0098】
[水系塗料組成物の調製]
エマルション粒子と無機酸化物との複合体として複合体粒子水分散体1を56.0g、硬化剤として水分散性ブロックポリイソシアネート(旭化成株式会社製WS50-30W(商品名))5.0g、界面活性剤として10%ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液を1.0g、及び水19.1gを、室温条件下で混合することで、A液を得た。
次に、有機系紫外線吸収剤としてTinuvin(登録商標)400(商品名、BASFジャパン株式会社製)0.54g、光安定剤としてTinuvin(登録商標)123(商品名、BASFジャパン株式会社製)0.10g、及び水溶性有機溶剤としてイソプロパノール18.3gを室温条件下で混合することで、B液を得た。
前記A液を攪拌した状態でB液を室温条件下で5分間かけて滴下し、混合することで、水系塗料組成物を得た。水系塗料組成物の固形分濃度は9質量%であった。また、水系塗料組成物中の各成分の固形分比率(質量部)は、複合体粒子/ブロックポリイソシアネート/Tinuvin400/Tinuvin123=100/26.8/8/1.5であった。また、水系塗料組成物に含まれる溶剤の組成(質量部)は、水/イソプロパノール=80/20であり、エマルション粒子中に含まれる水酸基のモル数とブロックポリイソシアネート中に含まれるイソシアネート基のモル数との比(X=イソシアネート基モル数/水酸基モル数)は0.6であった。
[接着層付き基材の作製]
次いで、前述の水系塗料組成物を、バーコーターを用いてポリカーボネート基材上に塗布し、130℃で2時間乾燥することで、膜厚5.0μmの接着層をポリカーボネート基材上に形成した。このようにして接着層付き基材(F-1)を得た。
【0099】
<重合体ナノ粒子(A)の調製>
後述するハードコート層の作製において用いた重合体ナノ粒子(A)を以下のとおりに調製した。
還流冷却器、滴下槽、温度計及び攪拌装置を有する反応器に、イオン交換水1500g、10%ドデシルベンゼンスルホン酸水溶液45g、メチルトリメトキシシラン105g、フェニルトリメトキシシラン23g、及びテトラエトキシシラン27gを加えた。その後、50℃の環境下で一般的な乳化重合の方法で重合を行った。重合後、温度を80℃とした後、更に2%過硫酸アンモニウム水溶液43g、アクリル酸ブチル11g、N,N-ジエチルアクリルアミド12g、アクリル酸1g、及び3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン1gを用いて、一般的な乳化重合の方法で重合を行った。重合後、100メッシュの金網で濾過し、重合体ナノ粒子(A)の水分散体を得た。得られた重合体ナノ粒子(A)はコアシェル構造を有するものであり、その平均粒子径は60nmであり、固形分は5.9質量%であった。また、上述の測定方法に従い測定した重合体ナノ粒子(A)のマルテンス硬度HMAは150N/mm2であった。
【0100】
<マトリクス原料成分(B’)の調製>
後述するハードコート層の作製において用いたマトリクス原料成分(B’)を以下のとおりに調製した。
【0101】
[マトリクス原料成分(B’-1)の調製]
加水分解性珪素化合物(b)として、メチルトリメトキシシラン「KBM-13」(商品名、信越化学工業株式会社製)45g、トリス-(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート「KBM-9659」(商品名、信越化学工業株式会社製)15g、無機酸化物(D)として水分散性コロイダルシリカ「スノーテックス(登録商標)OXS」(商品名、日産化学工業株式会社製、固形分10質量%、一次平均粒子径:5nm)74gを室温条件下で混合し、マトリクス原料成分(B’-1)を得た。
【0102】
[マトリクス原料成分(B’-2)の調製]
加水分解性珪素化合物(b)として、メチルトリメトキシシラン「KBM-13」(商品名、信越化学工業株式会社製)46g、トリス-(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート「KBM-9659」(商品名、信越化学工業株式会社製)15g、無機酸化物(D)として水分散性コロイダルシリカ「スノーテックス(登録商標)OXS」(商品名、日産化学工業株式会社製、固形分10質量%、一次平均粒子径:5nm)75gを室温条件下で混合し、マトリクス原料成分(B’-2)を得た。
【0103】
[マトリクス原料成分(B’-3)の調製]
加水分解性珪素化合物(b)として、メチルトリメトキシシラン「KBM-13」(商品名、信越化学工業株式会社製)30g、トリス-(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート「KBM-9659」(商品名、信越化学工業株式会社製)11g、1,2-ビス(トリエトキシシリル)エタン(表中「BTSE」と表記する。)7g、1,2-ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン「KBM-3066」(商品名、信越化学工業株式会社製)13g、無機酸化物(D)として水分散性コロイダルシリカ「スノーテックス(登録商標)OXS」(商品名、日産化学工業株式会社製、固形分10質量%、一次平均粒子径:5nm)74gを室温条件下で混合し、マトリクス原料成分(B’-3)を得た。
【0104】
[マトリクス原料成分(B’-4)の調製]
加水分解性珪素化合物(b)として、メチルトリメトキシシラン「KBM-13」(商品名、信越化学工業株式会社製)30g、トリス-(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート「KBM-9659」(商品名、信越化学工業株式会社製)11g、1,2-ビス(トリエトキシシリル)エタン7g、1,2-ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン「KBM-3066」(商品名、信越化学工業株式会社製)13g、無機酸化物(D)として水分散性コロイダルシリカ「スノーテックス(登録商標)OXS」(商品名、日産化学工業株式会社製、固形分10質量%、一次平均粒子径:5nm)75gを室温条件下で混合し、マトリクス原料成分(B’-4)を得た。
【0105】
[マトリクス原料成分(B’-5)の調製]
加水分解性珪素化合物(b)として、メチルトリメトキシシラン「KBM-13」(商品名、信越化学工業株式会社製)57g、トリス-(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート「KBM-9659」(商品名、信越化学工業株式会社製)19g、無機酸化物(D)として水分散性コロイダルシリカ「スノーテックス(登録商標)OXS」(商品名、日産化学工業株式会社製、固形分10質量%、一次平均粒子径:5nm)37gを室温条件下で混合し、マトリクス原料成分(B’-5)を得た。
【0106】
[マトリクス原料成分(B’-6)の調製]
加水分解性珪素化合物(b)として、メチルトリメトキシシラン「KBM-13」(商品名、信越化学工業株式会社製)58g、トリス-(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート「KBM-9659」(商品名、信越化学工業株式会社製)19g、無機酸化物(D)として水分散性コロイダルシリカ「スノーテックス(登録商標)OXS」(商品名、日産化学工業株式会社製、固形分10質量%、一次平均粒子径:5nm)37gを室温条件下で混合し、マトリクス原料成分(B’-6)を得た。
【0107】
[マトリクス原料成分(B’-7)の調製]
加水分解性珪素化合物(b)として、メチルトリメトキシシラン「KBM-13」(商品名、信越化学工業株式会社製)30g、トリス-(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート「KBM-9659」(商品名、信越化学工業株式会社製)11g、1,2-ビス(トリエトキシシリル)エタン7g、1,2-ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン「KBM-3066」(商品名、信越化学工業株式会社製)13g、無機酸化物(D)として水分散性コロイダルシリカ「スノーテックス(登録商標)OXS」(商品名、日産化学工業株式会社製、固形分10質量%、一次平均粒子径:5nm)59gと水分散酸化セリウムゾル「ニードラールB-10」(商品名、多木化学株式会社製、一次平均粒子径8nm、固形分10質量%)15gを室温条件下で混合し、マトリクス原料成分(B’-7)を得た。
【0108】
[シラン化合物(Z1)の調製]
後述するマトリクス原料成分(B’-8)の調製に用いたシラン化合物(Z1)を以下のとおりに合成した。攪拌機、コンデンサー及び温度計を備えた100mLフラスコに3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン「KBE-9007N」(商品名、信越化学工業株式会社製)20g、水酸基含有ベンゾフェノン系化合物「Uvinul3050」(商品名、BASFジャパン社、固形分100質量%)10gを仕込み、120℃にて3時間攪拌して得られた固形物をシラン化合物(Z1)とした。シラン化合物(Z1)の構造を図4に示す。
【0109】
[マトリクス原料成分(B’-8)の調製]
加水分解性珪素化合物(b)として、メチルトリメトキシシラン「KBM-13」(商品名、信越化学工業株式会社製)42g、トリス-(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート「KBM-9659」(商品名、信越化学工業株式会社製)15g、シラン化合物(Z1)を2g、無機酸化物(D)として水分散性コロイダルシリカ「スノーテックス(登録商標)OXS」(商品名、日産化学工業株式会社製、固形分10質量%、一次平均粒子径:5nm)74gを室温条件下で混合し、マトリクス原料成分(B’-8)を得た。
【0110】
[マトリクス原料成分(B’-9)の調製]
加水分解性珪素化合物(b)として、トリス-(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート「KBM-9659」(商品名、信越化学工業株式会社製)45g、1,2-ビス(トリエトキシシリル)エタン7g、無機酸化物(D)として水分散性コロイダルシリカ「スノーテックス(登録商標)OXS」(商品名、日産化学工業株式会社製、固形分10質量%、一次平均粒子径:5nm)75gとを室温条件下で混合し、マトリクス原料成分(B’-9)を得た。
【0111】
[マトリクス原料成分(B’-10)の調製]
加水分解性珪素化合物(b)として、メチルトリメトキシシラン「KBM-13」(商品名、信越化学工業株式会社製)35g、テトラエトキシシラン「KBE-04」(商品名、信越化学工業株式会社製)35g、無機酸化物(D)として水分散性コロイダルシリカ「スノーテックス(登録商標)OXS」(商品名、日産化学工業株式会社製、固形分10質量%、一次平均粒子径:5nm)175gとを室温条件下で混合し、マトリクス原料成分(B’-10)を得た。
【0112】
[マトリクス原料成分(B’-11)の調製]
加水分解性珪素化合物(b)として、メチルトリメトキシシラン「KBM-13」(商品名、信越化学工業株式会社製)81g、ジメチルジメトキシシラン「KBM-22」(商品名、信越化学工業株式会社製)4g、無機酸化物(D)として水分散性コロイダルシリカ「スノーテックス(登録商標)OXS」(商品名、日産化学工業株式会社製、固形分10質量%、一次平均粒子径:5nm)25gとを室温条件下で混合し、マトリクス原料成分(B’-11)を得た。
【0113】
[マトリクス原料成分(B’-12)の調製]
加水分解性珪素化合物(b)として、メチルトリメトキシシラン「KBM-13」(商品名、信越化学工業株式会社製)15g、トリス-(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート「KBM-9659」(商品名、信越化学工業株式会社製)30g、1,2-ビス(トリエトキシシリル)エタン7g、1,2-ビス(トリエトキシシリル)エタン7g、テトラエトキシシラン「KBE-04」(商品名、信越化学工業株式会社製)9g、無機酸化物(D)として水分散性コロイダルシリカ「スノーテックス(登録商標)OXS」(商品名、日産化学工業株式会社製、固形分10質量%、一次平均粒子径:5nm)75gとを室温条件下で混合し、マトリクス原料成分(B’-12)を得た。
【0114】
なお、ハードコート層組成物中のマトリクス原料成分(B’-1)に由来するハードコート層中のマトリクス成分を成分(B-1)と称する。ハードコート層中のマトリクス成分(B-1)~(B-12)は、マトリクス原料成分(B’-1)~(B’-12)の加水分解縮合物であるといえる。
【0115】
上記マトリクス原料成分の調製に用いた加水分解性珪素化合物(b)について計算有機鎖長αを算出した結果を次の表1に示す。これらの中でも、メチルトリメトキシシラン、1,2-ビス(トリエトキシシリル)エタン、トリス-(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート及びシラン化合物(Z1)について計算有機鎖長αを算出した結果を、それぞれ、図1~4に示す。
【0116】
【表1】
【0117】
[実施例1]
重合体ナノ粒子(A)とマトリクス成分(B-1)が固形分質量比で(A):(B-1)=20:80となるように、上記で調製した重合体ナノ粒子(A)水分散体と、上記で調製したマトリクス原料成分(B’-1)とを混合して混合物を得た。さらに、触媒(E)として1M規定の酢酸と1M規定酢酸Naとを体積比1:1となるように混合して得た溶液10gを準備し、これを混合物に添加した。次に、エタノール濃度20質量%の水溶液を溶媒とし、固形分濃度が10質量%となるように混合物(重合体ナノ粒子、マトリクス原料成分及び触媒を含む混合物)を添加し、塗料組成物(1)を得た。次いで、バーコーターを用いてハードコート層組成物を接着層付き基材(F-1)における接着層へ塗布した後、130℃で2時間乾燥し、膜厚4.0μmのハードコート層を有する、積層体を得た。実施例1の塗料組成物、及び積層体について各種評価を行った。その結果を表2に示す。
【0118】
[実施例2]
重合体ナノ粒子(A)とマトリクス成分(B-2)が固形分質量比で(A):(B-2)=20:80となるように、上記で調製した重合体ナノ粒子(A)水分散体と、上記で調製したマトリクス原料成分(B’-2)とを混合して混合物を得た。次に、エタノール濃度20質量%の水溶液を溶媒とし、固形分濃度が10質量%となるように混合物を添加し、塗料組成物(2)を得た。塗料組成物(1)に代えて塗料組成物(2)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、積層体を得た。実施例2の塗料組成物、及び積層体について各種評価を行った。その結果を表2に示す。
【0119】
[実施例3]
重合体ナノ粒子(A)とマトリクス成分(B-3)が固形分質量比で(A):(B-3)=20:80となるように、上記で調製した重合体ナノ粒子(A)水分散体と、上記で調製したマトリクス原料成分(B’-3)とを混合して混合物を得た。さらに、触媒(E)として1質量%のドデシルベンゼンスルホン酸水溶液(DBS)を40g準備し、これを混合物に添加した。次に、エタノール濃度20質量%の水溶液を溶媒とし、固形分濃度が10質量%となるように混合物(重合体ナノ粒子、マトリクス原料成分及び触媒を含む混合物)を添加し、塗料組成物(3)を得た。塗料組成物(1)に代えて塗料組成物(3)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、積層体を得た。実施例3の塗料組成物、及び積層体について各種評価を行った。その結果を表2に示す。
【0120】
[実施例4]
重合体ナノ粒子(A)とマトリクス成分(B-4)が固形分質量比で(A):(B-4)=20:80となるように、上記で調製した重合体ナノ粒子(A)水分散体と、上記で調製したマトリクス原料成分(B’-4)とを混合して混合物を得た。さらに、触媒(E)としてエタノールで1質量%に希釈したアルミ系触媒DX-9740(商品名、信越化学株式会社製、固形分100質量%)を25g準備し、これを混合物に添加した。次に、エタノール濃度20質量%の水溶液を溶媒とし、固形分濃度が10質量%となるように混合物(重合体ナノ粒子、マトリクス原料成分及び触媒を含む混合物)を添加し、塗料組成物(4)を得た。塗料組成物(1)に代えて塗料組成物(4)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、積層体を得た。実施例4の塗料組成物、及び積層体について各種評価を行った。その結果を表2に示す。
【0121】
[実施例5]
重合体ナノ粒子(A)とマトリクス成分(B-5)が固形分質量比で(A):(B-5)=10:90となるように、上記で調製した重合体ナノ粒子(A)水分散体と、上記で調製したマトリクス原料成分(B’-5)とを混合して混合物を得た。さらに、触媒(E)として1M規定の酢酸と1M規定酢酸Naとを体積比1:1となるように混合して得た溶液10gを準備し、これを混合物に添加した。次に、エタノール濃度20質量%の水溶液を溶媒とし、固形分濃度が10質量%となるように混合物(重合体ナノ粒子、マトリクス原料成分及び触媒を含む混合物)を添加し、塗料組成物(5)を得た。塗料組成物(1)に代えて塗料組成物(5)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、積層体を得た。実施例5の塗料組成物、及び積層体について各種評価を行った。その結果を表2に示す。
【0122】
[実施例6]
重合体ナノ粒子(A)とマトリクス成分(B-6)が固形分質量比で(A):(B-6)=10:90となるように、上記で調製した重合体ナノ粒子(A)水分散体と、上記で調製したマトリクス原料成分(B’-6)とを混合して混合物を得た。さらに、触媒(E)としてエタノールで1質量%に希釈したアルミ系触媒DX-9740(商品名、信越化学株式会社製、固形分100質量%)を25g準備し、これを混合物に添加した。次に、エタノール濃度20質量%の水溶液を溶媒とし、固形分濃度が10質量%となるように混合物(重合体ナノ粒子、マトリクス原料成分及び触媒を含む混合物)を添加し、塗料組成物(6)を得た。塗料組成物(1)に代えて塗料組成物(6)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、積層体を得た。実施例6の塗料組成物、及び積層体について各種評価を行った。その結果を表2に示す。
【0123】
[実施例7]
重合体ナノ粒子(A)とマトリクス成分(B-7)が固形分質量比で(A):(B-7)=20:80となるように、上記で調製した重合体ナノ粒子(A)水分散体と、上記で調製したマトリクス原料成分(B’-7)とを混合して混合物を得た。さらに、触媒(E)として1M規定の酢酸と1M規定酢酸Naとを体積比1:1となるように混合して得た溶液10gを準備し、これを混合物に添加した。次に、エタノール濃度20質量%の水溶液を溶媒とし、固形分濃度が10質量%となるように混合物(重合体ナノ粒子、マトリクス原料成分及び触媒を含む混合物)を添加し、塗料組成物(7)を得た。塗料組成物(1)に代えて塗料組成物(7)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、積層体を得た。実施例7の塗料組成物、及び積層体について各種評価を行った。その結果を表2に示す。
【0124】
[実施例8]
重合体ナノ粒子(A)とマトリクス成分(B-8)が固形分質量比で(A):(B-8)=20:80となるように、上記で調製した重合体ナノ粒子(A)水分散体と、上記で調製したマトリクス原料成分(B’-8)とを混合して混合物を得た。さらに、触媒(E)として1M規定の酢酸と1M規定酢酸Naとを体積比1:1となるように混合して得た溶液10gを準備し、これを混合物に添加した。次に、エタノール濃度20質量%の水溶液を溶媒とし、固形分濃度が10質量%となるように混合物(重合体ナノ粒子、マトリクス原料成分及び触媒を含む混合物)を添加し、塗料組成物(8)を得た。塗料組成物(1)に代えて塗料組成物(8)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、積層体を得た。実施例8の塗料組成物、及び積層体について各種評価を行った。その結果を表2に示す。
【0125】
[比較例1]
重合体ナノ粒子(A)とマトリクス成分(B-9)が固形分質量比で(A):(B-9)=20:80となるように、上記で調製した重合体ナノ粒子(A)水分散体と、上記で調製したマトリクス原料成分(B’-9)とを混合して混合物を得た。次に、エタノール濃度20質量%の水溶液を溶媒とし、固形分濃度が10質量%となるように混合物を添加し、塗料組成物(9)を得た。塗料組成物(1)に代えて塗料組成物(9)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、積層体を得た。比較例1の塗料組成物、及び積層体について各種評価を行った。その結果を表3に示す。
【0126】
[比較例2]
重合体ナノ粒子(A)とマトリクス成分(B-10)が固形分質量比で(A):(B-10)=10:90となるように、上記で調製した重合体ナノ粒子(A)水分散体と、上記で調製したマトリクス原料成分(B’-10)とを混合して混合物を得た。次に、エタノール濃度20質量%の水溶液を溶媒とし、固形分濃度が10質量%となるように混合物を添加し、塗料組成物(10)を得た。塗料組成物(1)に代えて塗料組成物(10)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、積層体を得た。比較例2の塗料組成物、及び積層体について各種評価を行った。その結果を表3に示す。
【0127】
[比較例3]
重合体ナノ粒子(A)とマトリクス成分(B-11)が固形分質量比で(A):(B-11)=20:80となるように、上記で調製した重合体ナノ粒子(A)水分散体と、上記で調製したマトリクス原料成分(B’-11)とを混合して混合物を得た。次に、エタノール濃度20質量%の水溶液を溶媒とし、固形分濃度が10質量%となるように混合物を添加し、塗料組成物(11)を得た。塗料組成物(1)に代えて塗料組成物(11)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、積層体を得た。比較例3の塗料組成物、及び積層体について各種評価を行った。その結果を表3に示す。
【0128】
[比較例4]
重合体ナノ粒子(A)とマトリクス成分(B-12)が固形分質量比で(A):(B-12)=20:80となるように、上記で調製した重合体ナノ粒子(A)水分散体と、上記で調製したマトリクス原料成分(B’-12)とを混合して混合物を得た。次に、エタノール濃度20質量%の水溶液を溶媒とし、固形分濃度が10質量%となるように混合物を添加し、塗料組成物(12)を得た。塗料組成物(1)に代えて塗料組成物(12)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、積層体を得た。比較例4の塗料組成物、及び積層体について各種評価を行った。その結果を表3に示す。
【0129】
【表2】
【0130】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0131】
本発明によって提供される、塗料組成物、ハードコート塗膜、及びハードコート塗膜付き基材は、例えば、建材、自動車部材、電子機器及び電機製品などのハードコートとして有用である。
図1
図2
図3
図4