(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024021685
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】エアブラスト用研創材および燃料電池用セパレータ
(51)【国際特許分類】
B24C 11/00 20060101AFI20240208BHJP
H01M 8/0202 20160101ALI20240208BHJP
H01M 8/0213 20160101ALI20240208BHJP
H01M 8/0221 20160101ALI20240208BHJP
H01M 8/0226 20160101ALI20240208BHJP
B24C 1/06 20060101ALI20240208BHJP
B24C 3/32 20060101ALI20240208BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20240208BHJP
C01B 32/21 20170101ALN20240208BHJP
【FI】
B24C11/00 D
H01M8/0202
H01M8/0213
H01M8/0221
H01M8/0226
B24C1/06
B24C3/32 D
H01M8/10 101
C01B32/21
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022124697
(22)【出願日】2022-08-04
(71)【出願人】
【識別番号】309012122
【氏名又は名称】日清紡ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】丹野 文雄
(72)【発明者】
【氏名】塚本 幸司
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 数之
【テーマコード(参考)】
4G146
5H126
【Fターム(参考)】
4G146AA02
4G146AC02B
4G146AD17
4G146AD40
5H126AA12
5H126BB06
5H126DD18
5H126EE03
5H126GG05
5H126GG06
5H126GG18
5H126JJ01
5H126JJ03
5H126JJ06
5H126JJ09
(57)【要約】
【課題】 ブラスト対象物表面に残存しにくいエアブラスト用研創材、および表面に研創材残渣の少ない燃料電池用セパレータを提供すること。
【解決手段】 新モース硬度が2.5~7.0の炭素粉末からなるエアブラスト用研創材、および当該エアブラスト用研創材で、表面の少なくとも一部が粗面化処理されている燃料電池用セパレータ。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
新モース硬度が2.5~7.0の炭素粉末からなるエアブラスト用研創材。
【請求項2】
前記炭素粉末が、コークスまたは無煙炭である請求項1記載のエアブラスト用研創材。
【請求項3】
燃料電池用セパレータの表面処理用である請求項1または2記載のエアブラスト用研創材。
【請求項4】
請求項3記載のエアブラスト用研創材で、表面の少なくとも一部が粗面化処理されている燃料電池用セパレータ。
【請求項5】
黒鉛粉末、並びに主剤、硬化剤および硬化促進剤を含むエポキシ樹脂成分を含む組成物の成形物の表面の少なくとも一部が、前記エアブラスト用研創材で粗面化処理されている請求項4記載の燃料電池用セパレータ。
【請求項6】
前記粗面化処理された表面の算術平均高さSaが、0.5~1.5μmである請求項4記載の燃料電池用セパレータ。
【請求項7】
VDA19.2の直接的/間接的測定で測定される、前記粗面化処理された表面に残った粒子径50~400μmの研創材の残渣が500個以下である請求項4記載の燃料電池用セパレータ。
【請求項8】
前記粗面化処理された表面の接触抵抗が、7mΩ・cm以下である請求項4記載の燃料電池用セパレータ。
【請求項9】
黒鉛粉末、並びに主剤、硬化剤および硬化促進剤を含むエポキシ樹脂成分を含む組成物の成形物の表面の少なくとも一部が研創材で粗面化処理されている燃料電池用セパレータであって、
VDA19.2の直接的/間接的測定で測定される、前記粗面化処理された表面に残った粒子径50~400μmの研創材の残渣が500個以下であり、
前記粗面化処理された表面の算術平均高さSaが、0.5~1.5μmである燃料電池用セパレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアブラスト用研創材および燃料電池用セパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池用セパレータは、各単位セルに導電性を持たせる役割、並びに単位セルに供給される燃料および空気(酸素)の通路を確保するとともに、それらの分離境界壁としての役割を果たすものである。
このため、セパレータには、高電気導電性、高ガス不浸透性、化学的安定性、耐熱性および親水性などの諸特性が要求される。
これらの諸特性をセパレータに付与すべく、従来、セパレータ表面をブラスト加工にて粗面化等する技術が種々開発されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、カーボン粒子と熱可塑性樹脂からなる燃料電池用セパレータの表面に、カーボン粒子等の導電性粒子をショットブラストにより付着、めり込ませ、表面の接触抵抗を低減する技術が提案されている。この技術では、ショットブラストで表面樹脂に導電性微粒子を付着またはめり込ませるので、ブラストでセパレータ中のカーボン粒子が欠落して表面が樹脂リッチとなることを抑制し、接触抵抗の低減を図ることができる一方で、導電性微粒子が燃料電池の組立て時や発電時に脱落する結果、接触抵抗が悪化してしまうという問題がある。
【0004】
また、特許文献2では、熱硬化性樹脂、人造黒鉛からなる燃料電池用セパレータをアルミナの研創材で表面処理する技術が提案されている。特許文献2の技術では、燃料電池用セパレータの表面を平均粗さ1.0~5.0μmに調整することで接触抵抗を低減させているが、この場合も燃料電池用セパレータの表面に付着、めり込んだアルミナ研創材が脱落してしまい、その他の燃料電池用部材を汚染するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005-332775号公報
【特許文献2】特開2005-197222号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、ブラスト対象物表面に残存しにくいエアブラスト用研創材、および表面に研創材残渣の少ない燃料電池用セパレータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、所定の硬度を有する炭素粉末からなるエアブラスト用研創材が、ブラスト処理後にブラスト対象物表面に残存しにくいことを見出すとともに、これにより粗面化処理された燃料電池用セパレータが、表面の研創材残渣が少なく、良好な導電性を有するとともに、ガスケットとの密着性に優れることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、
1. 新モース硬度が2.5~7.0の炭素粉末からなるエアブラスト用研創材、
2. 前記炭素粉末が、コークスまたは無煙炭である1のエアブラスト用研創材、
3. 燃料電池用セパレータの表面処理用である1または2のエアブラスト用研創材、
4. 3のエアブラスト用研創材で、表面の少なくとも一部が粗面化処理されている燃料電池用セパレータ、
5. 黒鉛粉末、並びに主剤、硬化剤および硬化促進剤を含むエポキシ樹脂成分を含む組成物の成形物の表面の少なくとも一部が、前記エアブラスト用研創材で粗面化処理されている4の燃料電池用セパレータ、
6. 前記粗面化処理された表面の算術平均高さSaが、0.5~1.5μmである4の燃料電池用セパレータ、
7. VDA19.2の直接的/間接的測定で測定される、前記粗面化処理された表面に残った粒子径50~400μmの研創材の残渣が500個以下である4の燃料電池用セパレータ、
8. 前記粗面化処理された表面の接触抵抗が、7mΩ・cm以下である4の燃料電池用セパレータ、
9. 黒鉛粉末、並びに主剤、硬化剤および硬化促進剤を含むエポキシ樹脂成分を含む組成物の成形物の表面の少なくとも一部が研創材で粗面化処理されている燃料電池用セパレータであって、
VDA19.2の直接的/間接的測定で測定される、前記粗面化処理された表面に残った粒子径50~400μmの研創材の残渣が500個以下であり、
前記粗面化処理された表面の算術平均高さSaが、0.5~1.5μmである燃料電池用セパレータ
を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のエアブラスト用研創材は、所定の硬度を有する炭素粉末からなるため、ブラスト処理時にブラスト対象物表面に残存しにくいという性質を有している。
このエアブラスト用研創材により粗面化処理されている燃料電池用セパレータは、表面に研創材の残渣が無く、優れた導電性およびガスケットとの密着性を有している。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
[1]エアブラスト用研創材
本発明のエアブラスト用研創材は、新モース硬度が2.5~7.0炭素粉末からなることを特徴とする。新モース硬度とは、10段階による硬さの基準であったモース硬度の指標を、さらに細かく15段階の硬度に分類しなおして定義した硬度の指標であり、修正モース硬度とも呼ばれる。
【0011】
本発明において、新モース硬度が上記範囲外であると、ブラスト対象物の表面に残渣として残りやすく、燃料電池用セパレータのエアブラスト用研創材として用いた場合、粗面化処理表面の接触抵抗の低減化が不十分となり、また、ガスケットとの密着力が不十分となる。
新モース硬度は、好ましくは2.5~6.0、より好ましくは2.5~5.5、より一層好ましくは2.5~5.0の範囲である。
炭素粉末としては、上記新モース硬度を満たす限り特に制限はなく、本発明においては、石炭、木炭、無煙炭、ガラス状カーボン、コークスが挙げられ、中でも無煙炭、コークスが好ましく、コークスがより好ましい。
【0012】
本発明のエアブラスト用研創材の平均粒径(d=50)は、一般的な研創材の範囲であれば特に限定されるものではないが、燃料電池用セパレータの表面処理用研創材として用いることを考慮すると、50~400μmが好ましく、55~300μmがより好ましく、58~200μmがより一層好ましく、60~190μmがさらに好ましい。
【0013】
[2]燃料電池用セパレータ
本発明に係る燃料電池用セパレータは、燃料電池用セパレータ組成物の成形物の少なくとも一部の表面が、上述したエアブラスト用研創材により粗面化処理されてなるものである。
本発明において、燃料電池用セパレータ組成物は、燃料電池用セパレータの製造に用いられる従来公知の組成物から適宜選択することができ、例えば、黒鉛粉末、並びに主剤、硬化剤および硬化促進剤を含むエポキシ樹脂成分を含む組成物を好適に用いることができる。
【0014】
黒鉛粉末としては、特に限定されるものではなく、天然黒鉛、人造黒鉛のいずれを用いてもよい。
人造黒鉛粉末としては、従来、燃料電池用セパレータに用いられるものから適宜選択して用いることができる。その具体例としては、針状コークスを焼成した人造黒鉛、塊状コークスを焼成した人造黒鉛等が挙げられる。
一方、天然黒鉛粉末としても、従来、燃料電池用セパレータに用いられるものから適宜選択して用いることができる。その具体例としては、塊状天然黒鉛、鱗片状天然黒鉛等が挙げられる。
なお、これらの黒鉛粉末は、単独で用いても2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0015】
黒鉛粉末の平均粒径d50は、特に限定されるものではないが、導電性を高める(接触抵抗を低下させる)ことを考慮すると、10~200μmが好ましく、15~140μmがより好ましく、20~80μmがより一層好ましい。
なお、本発明における平均粒径d50は、レーザ回折法による粒度分布測定におけるメジアン径として表される。
【0016】
エポキシ樹脂成分を構成する主剤としては、エポキシ基を有するものであれば特に制限されるものではなく、例えば、o-クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、トリスフェノール型エポキシ樹脂、臭素化エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ビフェニルノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられ、これらはそれぞれ単独で、または2種以上組み合わせて用いることができる。これらの中でも、o-クレゾールノボラック型エポキシ樹脂単独、ビフェニル型エポキシ樹脂単独、これらの混合物が好ましい。
本発明で用いるエポキシ樹脂のエポキシ当量は、特に限定されるものではないが、180~209g/eqが好ましい。
【0017】
また、硬化剤としては、フェノール樹脂が好ましい。その具体例としては、ノボラック型フェノール樹脂、クレゾールノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂、アラルキル変性フェノール樹脂、ビフェニルノボラック型フェノール樹脂、トリスフェノールメタン型フェノール樹脂等が挙げられ、これらは単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、ノボラック型フェノール樹脂が好ましい。
本発明で用いるフェノール樹脂の水酸基当量は、特に限定されるものではないが、95~140g/eqが好ましく、100~115g/eqがより好ましい。
【0018】
硬化促進剤としては、エポキシ基と硬化剤との反応を促進するものであれば特に制限されるものではなく、ホスフィン化合物、アミン化合物、イミダゾール化合物等が挙げられるが、これらの中でも、本発明では、2位にアリール基を有するイミダゾール化合物を用いることが好ましい。アリール基の具体例としては、フェニル基、トリル基、ナフチル基等が挙げられるが、フェニル基が好ましい。2位にアリール基を有するイミダゾール化合物の具体例としては、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール等が挙げられる。
【0019】
また、本発明で用いる組成物には、上記各成分に加え、内部離型剤等の任意成分を適宜配合することもできる。
内部離型剤としては、従来、セパレータの成形に用いられている各種内部離型剤から適宜選択すればよく、その具体例としては、ステアリン酸系ワックス、アマイド系ワックス、モンタン酸系ワックス、カルナバワックス、ポリエチレンワックス等が挙げられ、これらはそれぞれ単独で、または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0020】
本発明で用いる組成物において、エポキシ樹脂成分(主剤、硬化剤および硬化促進剤)の配合量は特に限定されるものではなく、黒鉛粉末100質量部に対して10~50質量部が好ましく、20~40質量部がより好ましい。
この場合、主剤に対して硬化剤を0.98~1.08当量配合することが好ましく、0.99~1.05当量配合することがより好ましい。
また、硬化促進剤の使用量は特に限定されるものではなく、主剤と硬化剤との混合物100質量部に対して、0.1~5質量部が好ましく、0.5~2質量部がより好ましい。
さらに、内部離型剤を用いる場合、その使用量は、特に限定されるものではないが、黒鉛粉末100質量部に対して0.01~3.0質量部が好ましく、0.05~1.5質量部がより好ましい。
【0021】
本発明で用いる組成物は、例えば、黒鉛粉末、主剤、硬化剤および硬化促進剤のそれぞれを任意の順序で所定割合混合して調製すればよい。この際、混合機としては、例えば、プラネタリミキサ、リボンブレンダ、レディゲミキサ、ヘンシェルミキサ、ロッキングミキサ、ナウターミキサ等を用いることができる。
なお、内部離型剤を用いる場合、その配合順序も任意である。
【0022】
上記組成物は、例えば、所定の型に入れ、圧縮成形することで、成形体(セパレータ前駆体)を得ることができる。使用する型としては、成形体の表面の一方の面または両面にガス流路となる溝を形成できる、燃料電池用セパレータ作製用の金型等が挙げられる。
圧縮成形の条件は、特に限定されるものではないが、型温度が150~190℃、成形圧力30~60MPa、好ましくは30~50MPaである。
圧縮成形時間は、特に限定されるものではなく、3秒から1時間程度で適宜設定することができる。
なお、圧縮成形後、熱硬化を促進させる目的で、さらに150~200℃で1~600分程加熱してもよい。
【0023】
本発明では、得られた成形体(燃料電池用セパレータ前駆体)に対し、本発明のエアブラスト用研創材による粗面化処理を施す。
この場合、上述したエアブラスト用研創材をそれぞれ単独で用いて粗面化処理しても、2種以上組み合わせて粗面化処理してもよい。
エアブラスト処理時の吐出圧力は、研創材の粒径等に応じて変動するものであるため一概に規定できないが、0.1~1MPaが好ましく、0.15~0.5MPaがより好ましい。
エアブラスト処理時の搬送速度も一概には規定できないが、0.1~5m/分が好ましく、0.3~2m/分がより好ましく、0.5~1.5m/分がより一層好ましい。
【0024】
粗面化処理は、成形体の一部の面に施しても、全面に施してもよいが、全面に施すことが好ましい。また、粗面化処理は、片面に施しても、両面に施してもよい。
なお、成形体の一部に粗面化処理を施す場合、少なくとも片面における、ガスケットとのシール部の表面、並びにガス流路となる溝の底面および山頂部を粗面化処理することが好ましい。
【0025】
上記粗面化処理がなされた本発明の燃料電池用セパレータは、粗面化処理された表面に残った研創材の残渣が少ないという特徴を有しており、例えば、VDA19.2の直接的/間接的測定で測定される、粗面化処理された表面に残った粒子径50~400μmの研創材の残渣が500個以下、好ましくは400個以下、より好ましくは300個以下という特徴を有する。なお、本発明において、上記粒子数は、VDA19.2の直接的/間接的測定に準拠した表面清浄度パーティクルモニタを用い、粗面化処理された表面における任意の3箇所からモニタ専用のテープリフトパッドで付着した研創材を採取し、50~400μmの粒子数を測定した総量である。例えば、ガス流路部、シール部および冷却流路部を有する燃料電池用セパレータでは、ガス流路部、シール部および冷却流路部からそれぞれ1か所ずつテープリフトパッドで表面に付着した研創材を採取し、50~400μmの粒子数を測定すればよい。
【0026】
本発明の燃料電池用セパレータにおいて、粗面化処理された表面の算術平均高さSaは、接触抵抗を低減するという点から、0.5~1.5μmが好ましく、0.6~1.5μmがより好ましい。
粗面化処理された表面の接触抵抗は、7.0mΩ・cm以下が好ましく、6.5mΩ・cm以下がより好ましい。なお、接触抵抗は、低い程好ましいが、その下限値は、通常3.0mΩ・cm程度である。
【0027】
また、上記粗面化処理がなされた本発明の燃料電池用セパレータは、粗面化処理された表面に残った研創材の残渣が少ないため、ガスケットとの密着性に優れるという特徴も有している。
ガスケットは、通常、粗面化処理された成形体のガス流路となる溝を有する面の周縁部(シール部)に形成される。
本発明において、ガスケットの材料としては、従来セパレータのガスケット材として用いられるものから適宜選択すればよく、その具体例としては、天然ゴム、シリコーンゴム、SIS共重合体、SBS共重合体、SEBS、エチレン-プロピレンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、水素化アクリロニトリル-ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、アクリルゴム、フッ素系ゴム、ブチルゴム、水添イソブチレンゴム、水添ブタジエンゴム等のゴム材料が挙げられる。
【0028】
ガスケットの形成法としては、例えば、予めシート状や板状に成形されたガスケットを成形体の上記周縁部(シール部)に接着したり、融着したりする方法、成形体の上記周縁部表面に、上記ゴム材料を含む組成物を塗布した後、これを硬化させてガスケットを形成する方法などが挙げられるが、塗布した後、硬化させる後者の手法が好ましい。
塗布法としては、特に限定されるものではなく、ドロップキャスト法、スピンコート法、ブレードコート法、ロールコート法、バーコート法、ダイコート法、インクジェット法、印刷法(フレキソ印刷、グラビア印刷、平版印刷、スクリーン印刷等)などが挙げられるが、印刷法が好ましく、スクリーン印刷法がより好ましい。
硬化法としては、加熱、電子線等の放射線照射などの従来公知の加硫方法から適宜選択すればよい。
【0029】
なお、溝を両面に有し、両面がガス流路面となるセパレータでは両面にガスケットを形成し、また、ガス流路面が片側のセパレータにおいて、反対側の面(冷却面)にもシール性が要求される場合は、必要に応じて冷却面の周縁部にガスケットを形成してもよい。両面にガスケットを形成する場合、片面ずつ順次ガスケットを形成しても、両面同時にガスケットを形成してもよい。
【0030】
ガスケットとの密着性に優れる本発明の燃料電池用セパレータを備えた燃料電池は、長期に亘って安定した発電効率を維持することができる。
一般的に固体高分子型燃料電池は、固体高分子膜を挟む一対の電極と、これらの電極を挟んでガス供給排出用流路を形成する一対のセパレータとから構成される単位セルが多数併設されてなるものであるが、これら複数個のセパレータの一部または全部として本発明の燃料電池用セパレータを用いることができる。
【実施例0031】
以下、実施例および比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。なお、実施例における各物性は以下の方法によって測定した。
【0032】
[1]黒鉛粉末およびエアブラスト用研創材の平均粒径d50
粒度分布測定装置(日機装(株)製 MT3000)を用い、レーザ回折法によりメジアン径を測定した。
[2]算術平均高さSa
ガスケット形成前の各セパレータサンプルのガス流路溝底部(凹部)および山頂部(凸部)の各表面について、レーザ顕微鏡(オリンパス(株)製、LEXT OLS5000)を用いて、ISO25178-2:2012で規定される算術平均高さSaを測定した。
[3]接触抵抗
(1)カーボンペーパー+セパレータサンプル
ガスケット形成前の各セパレータサンプルを2枚重ね合わせ、その上下にカーボンペーパー(東レ(株)製、TGP-H060)を配置し、さらにその上下に銅電極を配置し、上下方向に1MPaの面圧をかけ、4端子法により電圧を測定した。
(2)カーボンペーパー
カーボンペーパーの上下に銅電極を配置し、上下方向に1MPaの面圧をかけ、4端子法により電圧を測定した。
(3)接触抵抗算出方法
上記(1),(2)で求めた各電圧値よりセパレータサンプルとカーボンペーパーとの電圧降下を求め、下記式により接触抵抗を算出した。
[4]研創材残渣数(粒子数)
VDA19.2の直接的/間接的測定に準拠した表面清浄度パーティクルモニタ(inthecno製、PartSens)を用い、ガスケット形成前のセパレータのガス流路部、シール部および冷却流路部からそれぞれ1か所ずつ専用のテープリフトパッドで表面に付着した研創材を採取し、50~400μmの粒子数を測定した。表の値は、ガス流路、シール部および冷却流路部に付着した研創材粒子の総量である。
[5]ガスケットの剥がれ
セパレータに接着されているシール(ガスケット)に対し、0.2MPaのエアを2秒吹きつけ、剥がれの有無を目視により評価した。
【0033】
[実施例1]
黒鉛粉末(人造黒鉛、平均粒径d50:23μm、平均高さ:8μm)100質量部に対し、エポキシ樹脂(o-クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、エポキシ当量198g/eq)20.4質量部、フェノール樹脂(ノボラック型フェノール樹脂、水酸基当量103g/eq)10.7質量部、および2-フェニルイミダゾール0.25質量部からなるエポキシ樹脂成分をヘンシェルミキサ内に投入し、800rpmで3分間混合して、組成物を調製した。
得られた組成物を燃料電池用セパレータ作製用の金型内に投入し、金型温度185℃、成形圧力36.6MPa、成形時間9秒の条件で圧縮成形し、ガス流路溝を有する240mm×240mm×2mmの成形体を得た。
次いで、得られた成形体の全表面に対し、コークス研創材(新モース硬度:4.5、平均粒径:d50=180μm)を用いて吐出圧力0.25MPa、搬送速度1.5m/分の条件でエアブラストによる粗面化処理を施し、燃料電池用セパレータを得た。
【0034】
続いて、粗面化処理された表面の周縁部(シール部)にエチレン-プロピレン-ジエンゴムをスクリーン印刷法により塗布した後、175℃で30分加熱加硫してガスケットを形成し、ガスケット付き燃料電池用セパレータを得た。
【0035】
[実施例2]
コークス研創材を、無煙炭研創材(新モース硬度:2.7、平均粒径:d50=60μm)に変更した以外は、実施例1と同様にしてガスケット付き燃料電池用セパレータを得た。
【0036】
[比較例1]
コークス研創材を、メラミン樹脂研創材(新モース硬度:4.0、平均粒径:d50=200μm)に変更した以外は、実施例1と同様にしてガスケット付き燃料電池用セパレータを得た。
【0037】
[比較例2]
コークス研創材を、アクリル樹脂研創材(新モース硬度:3.5、平均粒径:d50=150μm)に変更した以外は、実施例1と同様にしてガスケット付き燃料電池用セパレータを得た。
【0038】
[比較例3]
コークス研創材を、ガラスパウダ研創材(新モース硬度:6.5、平均粒径:d50=100μm)に変更した以外は、実施例1と同様にしてガスケット付き燃料電池用セパレータを得た。
【0039】
[比較例4]
コークス研創材を、ドライアイス研創材(新モース硬度:2.0、平均粒径:d50=3000μm)に変更した以外は、実施例1と同様にしてガスケット付き燃料電池用セパレータを得た。
【0040】
[比較例5]
コークス研創材を、天然黒鉛研創材(新モース硬度:1.5、平均粒径:d50=50μm)に変更した以外は、実施例1と同様にしてガスケット付き燃料電池用セパレータを得た。
【0041】
[比較例6]
コークス研創材を、アルミナ研創材(新モース硬度:12、平均粒径:d50=60μm)に変更した以外は、実施例1と同様にしてガスケット付き燃料電池用セパレータを得た。
【0042】
[比較例7]
コークス研創材を、ジルコニア研創材(新モース硬度:7.5、平均粒径:d50=60μm)に変更した以外は、実施例1と同様にしてガスケット付き燃料電池用セパレータを得た。
【0043】
[比較例8]
コークス研創材を、シリコンカーバイド研創材(新モース硬度:12、平均粒径:d50=60μm)に変更した以外は、実施例1と同様にしてガスケット付き燃料電池用セパレータを得た。
【0044】
上記実施例1,2および比較例1~8で得られたガスケット形成前の燃料電池用セパレータについて、算術平均高さSa、接触抵抗、研創材残渣数を測定評価するとともに、ガスケット付き燃料電池用セパレータについて、ガスケットの剥がれ性を評価した。それらの結果を表1に示す。
【0045】
【0046】
表1に示されるように、新モース硬度が2.5~7.0である炭素粉末でエアブラスト処理された実施例1,2の燃料電池用セパレータは、表面の粒子径50~400μmの研創材の残渣が500個以下であるとともに、算術平均高さSaが0.5~1.5μmに調整されているので、優れた接触抵抗を有し、さらに、ガスケットの剥離もないことがわかる。
一方、比較例1~3で得られた、メラミン樹脂、アクリル樹脂またはガラスパウダでエアブラスト処理をしたセパレータは、帯電した研創材がセパレータ表面に付着してしまい、結果として残渣が多く残り、ガスケットの密着性が悪いことがわかる。
比較例4,5で得られた、ドライアイスまたは天然黒鉛でエアブラスト処理をしたセパレータは、研創材の残渣は少ないものの、新モース硬度が低く、算術平均高さSaが小さく、接触抵抗の低下が不十分であることがわかる。
比較例6~8で得られた、アルミナ、ジルコニアまたはシリコンカーバイドでエアブラスト処理をしたセパレータは、研創材がセパレータに付着、めり込んでしまい、結果として残渣が多く残り、ガスケットの密着性が悪いことがわかる。