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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024000217
(43)【公開日】2024-01-05
(54)【発明の名称】二重鋼管コンクリート柱
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/30 20060101AFI20231225BHJP
   E04C 3/36 20060101ALI20231225BHJP
【FI】
E04B1/30 A
E04C3/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022098873
(22)【出願日】2022-06-20
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】591205536
【氏名又は名称】JFEシビル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】入江 千鶴
(72)【発明者】
【氏名】川田 侑子
(72)【発明者】
【氏名】宮川 和明
(72)【発明者】
【氏名】田村 淳一
(72)【発明者】
【氏名】木下 智弘
(72)【発明者】
【氏名】竹内 雅人
【テーマコード(参考)】
2E163
【Fターム(参考)】
2E163FA02
2E163FF13
2E163FF17
2E163FG01
(57)【要約】
【課題】自重や積載荷重に対する抵抗力や地震時の繰り返し荷重に対する耐力に優れ、且つ経済的な二重鋼管コンクリート柱を提供する。
【解決手段】 上下方向に延在して配置され、上端が上部構造体4に連結され、下端が下部構造体1に連結された内側鋼管5と、上端が上部構造体に連結されず、下端が下部構造体に連結されずに、内側鋼管の外側に同軸に配置された外側鋼管6と、内側鋼管の外側と外側鋼管の内側とで囲まれた環状空間に充填されている第1コンクリート7と、を備え、内側鋼管は等辺の角形鋼管で構成され、外側鋼管は円形鋼管で構成されている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下方向に延在して配置され、上端が上部構造体に連結され、下端が下部構造体に連結された内側鋼管と、
上端が前記上部構造体に連結されず、下端が前記下部構造体に連結されずに、前記内側鋼管の外側に同軸に配置された外側鋼管と、
前記内側鋼管の外側と前記外側鋼管の内側とで囲まれた環状空間に充填されている第1コンクリートと、を備え、
前記内側鋼管は等辺の角形鋼管で構成され、前記外側鋼管は円形鋼管で構成されている鋼管コンクリート柱。
【請求項2】
前記外側鋼管の外径をB、管厚をtとし、前記内側鋼管の外幅をB1、管厚をt1としたとき、
B/t ≦ 200 且つ B1/t1 ≦ 40
である請求項1記載の鋼管コンクリート柱。
【請求項3】
前記内側鋼管の内部空間に充填されている第2コンクリートを備えている請求項1記載の鋼管コンクリート柱。
【請求項4】
前記外側鋼管の外径をB、管厚をtとしたとき、
B/t ≦ 200
である請求項3記載の鋼管コンクリート柱。
【請求項5】
前記外側鋼管は、高さ方向に分割された複数の分割鋼管体で構成され、前記上部構造体及び前記下部構造体に隣接する所定の前記分割鋼管体の管厚が、前記上部構造体及び前記下部構造体に隣接しない他の分割鋼管体の管厚より大きく設定されている請求項1又は2に記載の鋼管コンクリート柱。
【請求項6】
前記上部構造体及び前記下部構造体に隣接する所定の前記分割鋼管体の高さは、鋼管コンクリート柱全体の高さの10%以上である請求項5記載の鋼管コンクリート柱。
【請求項7】
前記外側鋼管は、高さ方向に分割された複数の分割鋼管体で構成され、前記上部構造体及び前記下部構造体に隣接する所定の前記分割鋼管体の管厚が、前記上部構造体及び前記下部構造体に隣接しない他の分割鋼管体の管厚より大きく設定されている請求項3又は4に記載の鋼管コンクリート柱。
【請求項8】
前記上部構造体及び前記下部構造体に隣接する所定の前記分割鋼管体の高さは、鋼管コンクリート柱全体の高さの10%以上である請求項7記載の鋼管コンクリート柱。
【請求項9】
前記第1コンクリートの内部に、柱補強筋が上下方向に延在して埋設されている請求項1又は2に記載の鋼管コンクリート柱。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上部構造体及び下部構造体の間に連結された二重鋼管コンクリート柱に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、内側鋼管及び外側鋼管の二重管構造とし、その内部や隙間にコンクリートを充填した二重鋼管コンクリート柱が提案されている(例えば特許文献1の柱、特許文献2のコンクリート充填鋼管)。
【0003】
これら特許文献1、2の二重鋼管コンクリート柱によると、外側鋼管が鉄筋としての強度を発揮できるのに加え、型枠の機能も有し、柱の配筋作業や型枠脱着作業を縮小できるので、施工期間の短縮化や省力化を向上することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-307702号公報
【特許文献2】特開2006-265851号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1、2の二重鋼管コンクリート柱は、柱に作用する鉛直荷重、水平荷重、曲げモーメントに対して、内側鋼管、外側鋼管及び充填されているコンクリートの合成柱構造としての抵抗力が明確にされておらず、構成部材の形状、寸法、板厚などが最適にできないため、自重や積載荷重に対する抵抗力や地震時の繰り返し荷重に対する耐力に優れ、且つ経済的な柱を提供することが困難であった。
【0006】
そこで、本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、自重や積載荷重に対する抵抗力や地震時の繰り返し荷重に対する耐力に優れ、且つ経済的な二重鋼管コンクリート柱を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の一態様に係る二重鋼管コンクリート柱は、上下方向に延在して配置され、上端が上部構造体に連結され、下端が下部構造体に連結された内側鋼管と、上端が上部構造体に連結されず、下端が下部構造体に連結されずに、内側鋼管の外側に同軸に配置された外側鋼管と、内側鋼管の外側と外側鋼管の内側とで囲まれた環状空間に充填されている第1コンクリートと、を備え、内側鋼管は等辺の角形鋼管で構成され、外側鋼管は円形鋼管で構成されている。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る二重鋼管コンクリート柱によると、自重や積載荷重に対する抵抗力や地震時の繰り返し荷重に対する耐力に優れ、且つ経済的な柱を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明に係る第1実施形態の鋼管コンクリート柱(充填被覆型柱)を示す図である。
図2図1のII-II線矢視図(第1実施形態の充填被覆型柱の横断面)を示す図である。
図3】第1実施形態の柱梁接合部を示す図である。
図4】本発明に係る第2実施形態の鋼管コンクリート柱(被覆型柱)の横断面を示す図である。
図5】鋼管コンクリート柱の曲げせん断実験で使用する水平方向正負交番載荷試験機の概要を示す図である。
図6】水平方向正負交番載荷試験機の水平交番載荷部で供試体に載荷する繰り返し載荷パターンを示す図である
図7】曲げせん断実験を行った供試体の水平荷重と柱頭部の部材角との関係を示したグラフである。
図8】曲げせん断実験を行った供試体の鉛直荷重と曲げモーメントの関係を示したグラフである。
図9】曲げせん断実験を行った供試体の内側鋼管の軸方向のひずみ分布と、外側鋼管の周方向のひずみ分布を示すグラフである。
図10】短柱圧縮実験で使用する載荷試験機の概要を示す図である。
図11】第1実施形態の充填被覆型柱を構成する外側鋼管の最適な径厚比B/tを設定するグラフである。
図12】第2実施形態の被覆型柱を構成する内側鋼管の最適な幅厚比B1/t1を設定するグラフである。
図13】本発明に係る第4実施形態の鋼管コンクリート柱(充填被覆型柱、被覆型柱)を示す横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、図面を参照して、本発明に係る実施形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることはもちろんである。
【0011】
また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
[第1実施形態の鋼管コンクリート柱]
【0012】
図1は、本発明に係る第1実施形態の二重鋼管コンクリート柱2の構造を示すものであり、1階の基礎コンクリート1から立ち上がり、最上部に設けた柱梁接合部3を介して鉄骨梁4が水平方向に延在して接合されている。
【0013】
本実施形態の二重鋼管コンクリート柱2は、図2に示すように、基礎コンクリート1から垂直に立ち上がる正方形断面の角形鋼管で構成した内側鋼管5と、内側鋼管5の外側に同軸に配置された円形鋼管で構成した外側鋼管6と、内側鋼管5の外側及び外側鋼管6の内側で囲まれた空間に充填された第1コンクリート7と、内側鋼管5の内部空間に充填された第2コンクリート8と、を備えている。外側鋼管6は円形鋼管であるが、周方向に分割された分割材を内側鋼管5の側面から建て込み、溶接やボルトなどで接合することで円形鋼管に一体化する構造であってもよい。ここで、第1実施形態の二重鋼管コンクリート柱2を、充填被覆型柱2と称する。
【0014】
充填被覆型柱2の内側鋼管5の下端開口はアンカープレートAPで閉塞されており、基礎コンクリート1の内部から立ち上がるアンカーボルト9が、アンカープレートAPに貫通して固定されている。また、基礎コンクリート1上には、床面を形成する床板コンクリート10が敷設されている。なお、この例はアンカーボルトがアンカープレートに貫通して固定されている形式を前提としているが、これに限定されるものではなく、埋込柱脚などの他の柱脚構造でも適用できるものである。
【0015】
柱梁接合部3は、図3に示すように、充填被覆型柱2の内側鋼管5の上部であり、外周に上下方向に離間して2枚の四角枠状のダイヤフラム12a,12bが溶接されている接合用鋼管11と、フランジ13a,13bがダイヤフラム12a,12bに溶接され、ウェブ13cが接合用鋼管11に溶接されて水平方向の互いに直交する四方に延在するH形鋼からなる4箇所の仕口13と、を備えている。また、仕口13のウェブ13cを貫通して接合用鋼管11の周囲にループ形状に延在する複数本の接合補強筋16が配置されているとともに、複数本の接合補強筋16を埋設する第3コンクリート17が充填されている。
【0016】
図1に戻り、柱梁接合部3の仕口13には、H形鋼からなる鉄骨梁4がボルト接合で連結される。そして、鉄骨梁4上に2階の床として床板コンクリート10が敷設され、柱梁接合部3の接合用鋼管11の上端に内側鋼管5の下端が溶接されている。この内側鋼管5を2階の充填被覆型柱2の構成部材として、1階の充填被覆型柱2と同一構造の柱が形成されている。
【0017】
図1の符号A1で示す1階の充填被覆型柱2を構成する外側鋼管6の下端と、1階の床板コンクリート10との間には所定の隙間(10~30mm程度)が設けられている。また、図1の符号A2で示す外側鋼管6の上端と、柱梁接合部3の仕口13に溶接した外套部材14との間にも所定の隙間が設けられている。さらに、図1の符号A3で示す2階の充填被覆型柱2を構成する外側鋼管6の下端と、2階の床板コンクリート10との間にも所定の隙間が設けられている。このように外側鋼管6の下端と1階及び2階の床板コンクリート10との間に隙間を設け、外側鋼管6の上端と柱梁接合部3の外套部材14との間に隙間を設けることで、外側鋼管6には曲げモーメント及び軸力が作用しない。
【0018】
1階の充填被覆型柱2の内側鋼管5と外側鋼管6の間及び2階の充填被覆型柱2の内側鋼管5と外側鋼管6の間の第1コンクリート7に埋設され、柱梁接合部3の第3コンクリート17に埋設された状態で直線状の柱補強筋15が配置されている(図2参照)。この柱補強筋15は、基礎コンクリート1から立ち上がる分割柱筋15aと、この分割柱筋15aに溶接されて上方に延在する分割柱筋15bと、この分割柱筋15bに溶接されて柱梁接合部3まで延在する分割柱筋15cと、この分割柱筋15cに溶接されて2階の充填被覆型柱2の内側鋼管5と外側鋼管6の間に延在する分割柱筋15dとを備えている。なお、溶接接合の例を示したが、これに限定するものではなく、機械式継ぎ手、重ね継ぎ手も想定するものとする。
【0019】
本実施形態の充填被覆型柱2によると、内側鋼管5の両端が建物の構造部材である基礎コンクリート1及び鉄骨梁4と連結されており、これらと一体になって外力に対する抵抗力を発揮する。そして、内側鋼管5を中心として十字方向に鉄骨梁4を設置するため、内側鋼管5の端部に内側鋼管5と同一形状の接合用鋼管11(柱梁接合部3)が接続されているが、内側鋼管5及び接合用鋼管11を正方形断面の角形鋼管としたことで、十字方向の鉄骨梁4の設置を容易に行うことができ、経済的な柱構造とすることができる。
【0020】
また、充填被覆型柱2を構成する外側鋼管6の上下端部は、基礎コンクリート1や柱梁接合部3の仕口13には連結されておらず、10~30mm程度の隙間を有していることから、地震時などに基礎コンクリート1や柱梁接合部3に生じる応力や変形が外側鋼管6に伝達されず、外側鋼管6の鉛直方向に作用する応力が抑制され、座屈などの損傷の発生による耐力低下が防止されるので、外側鋼管6の管厚を過剰に大きくする必要が無く、経済的な柱構造とすることができる。
【0021】
また、外側鋼管6及び内側鋼管5の間に第1コンクリート7を充填した際には、外側鋼管6の内面に充填コンクリートの圧力が水平外方向に作用するが、外側鋼管6を円形鋼管にすることで充填コンクリートの圧力に対して外側鋼管6の外周方向の引張力によって抵抗するため、コンクリート充填時に必要な型枠として必要な外側鋼管6の板厚を最小限にすることができて経済性を向上できる。外側鋼管6の管厚を3mm以上に設定すれば、16m程度の長尺部材で使用しても、第1コンクリート7の充填時に型枠として十分に機能することができる。
【0022】
また、外側鋼管6は、荷重によって柱が変形した場合に、第1コンクリート7がせん断変形して微小なひび割れが生じて体積が膨張することを拘束し、第1コンクリート7の強度を向上させることができる。
【0023】
このように、第1コンクリート7から軸力が作用して体積が膨張しようとするのを外側鋼管6の軸方向圧縮抵抗力で拘束することを、外側鋼管6のコンファインド効果と称する。この場合も、外側鋼管6を円形鋼管とすることで、外側鋼管6の外周方向の引張力によって抵抗するため、外側鋼管6のコンファインド効果を発揮するために必要な外側鋼管6の板厚を最小限にすることができて経済性を向上できる。
[第2実施形態の鋼管コンクリート柱]
【0024】
次に、図4は、本発明に係る第2実施形態の二重鋼管コンクリート柱20の構造を示すものであり、第1実施形態の充填被覆型柱2と同様に、1階の基礎コンクリート1から立ち上がり、最上部に設けた柱梁接合部3を介して鉄骨梁4が水平方向に延在して接合されている。
【0025】
本実施形態の二重鋼管コンクリート柱20は、図4に示すように、基礎コンクリート1から垂直に立ち上がる正方形断面(等辺)の角形鋼管で構成した内側鋼管5と、内側鋼管5の外側に同軸に配置された円形鋼管で構成した外側鋼管6と、内側鋼管5の外側及び外側鋼管6の内側で囲まれた空間に充填された第1コンクリート7と、を備えている。そして、内側鋼管5の内部空間には第2コンクリート8が充填されていない点が、第1実施形態の充填被覆型柱2と異なる構造である。ここで、第2実施形態の二重鋼管コンクリート柱20を、被覆型柱20と称する。
【0026】
本実施形態の被覆型柱20も、第1実施形態の充填被覆型柱2と同様に、内側鋼管5及び接合用鋼管11を正方形断面の角形鋼管としたことで、十字方向の鉄骨梁4の設置を容易に行うことができ、経済的な柱構造とすることができる。
【0027】
また、被覆型柱20を構成する外側鋼管6の上下端部も、基礎コンクリート1や柱梁接合部3の仕口13には連結せず、10~30mm程度の隙間を有する構造にすると、地震時などに基礎コンクリート1や柱梁接合部3に生じる応力や変形が外側鋼管6に伝達されず、外側鋼管6の鉛直方向に作用する応力が抑制され、座屈などの損傷の発生による耐力低下が防止され、外側鋼管6の管厚を過剰に大きくする必要が無く、経済的な柱構造とすることができる。
【0028】
次に、前述した充填被覆型柱2及び被覆型柱20の供試体に対して曲げせん断実験を行った結果について図5から図9に基づいて説明する。この曲げせん断実験は、図5で示す水平方向正負交番載荷試験機を採用した。この試験機では、高さ6m、外径1mの円形鋼管を外側鋼管6と想定した縮尺1/3.3の供試体で行った。供試体の断面は、内側鋼管5が正方形断面の角形鋼管120mm×120mm、管厚6mm、幅厚比20、降伏強度fy=449N/mm2で、外側鋼管6が外径300mm、管厚1.6mm、径厚比187.5、降伏強度fy=234N/mm2の円形鋼管である。
【表1】
【0029】
表1で示すように、5種類の供試体SC-1~SC-5を使用して、曲げせん断実験を行った。供試体SC-1~SC-4は、内側鋼管5の外側及び外側鋼管6の内側で囲まれた空間に第1コンクリート7が充填され、内側鋼管5の内部空間に第2コンクリート8が充填されている。また、供試体SC-5は、内側鋼管5の外側及び外側鋼管6の内側で囲まれた空間に第1コンクリート7が充填されているが、内側鋼管5の内部空間にコンクリート8が充填されていない供試体である。そして、供試体SC-1~SC-3は第1コンクリート7に鉄筋が配筋されておらず、供試体SC-4、SC-5は第1コンクリート7に柱補強筋15が配筋されている。
【0030】
図5に示すように、鉛直載荷部で供試体の頭部に鉛直荷重を一定載荷し、水平交番載荷部で供試体の頭部に、水平変位が段階的に増加する図6で示すような繰り返し載荷パターンで水平荷重を載荷している。
【0031】
表1で示した軸力比は、コンクリート(第1コンクリート7,第2コンクリート8)と内側鋼管5の両方が降伏するときの荷重(降伏鉛直荷重)の計算値に対する導入した鉛直荷重の比である。
【0032】
実際の鋼管コンクリート柱では、上下端ともに基礎コンクリート1及び鉄骨梁4によって拘束されているため、曲げモーメントは上下両端で大きくなり、中央部でゼロとなる。今回の実験では、柱の下半分をモデル化しており、供試体の頭部で曲げモーメントがゼロで、下端で曲げモーメントが最大になる。
【0033】
図7は、供試体SC-1についての水平荷重Qを縦軸にとり、柱頭部の部材角R(rad)を横軸にとったものである。荷重の増加によって降伏した後も、繰り返し荷重に対して安定したエネルギー吸収能を示す紡錘形状の履歴曲線を示しており、大地震に対して粘り強い柱であることを示している。
【0034】
図8は、鉛直荷重を縦軸にとり、曲げモーメントの最大値Mmaxを横軸にとって、供試体SC-1~SC-3の結果をプロットしたものであり、供試体SC-2、供試体SC-1、供試体SC-3の順で軸力比が大きくなると、曲げモーメントの最大値Mmaxが増大していることがわかる。ここで、図8において実線で示す線は、鉄骨鉄筋コンクリート柱(SRC柱)の理論計算値であり、実験値(供試体SC-1~SC-3)は、鉄骨鉄筋コンクリート柱(SRC柱)の理論計算値を上回った耐力値を示している。したがって、内側鋼管5の外側及び外側鋼管6の内側に第1コンクリート7が充填され、内側鋼管5の内部に第2コンクリート8が充填されている第1実施形態の充填被覆型柱2が、SRC柱よりも優れた耐力を有することがわかる。
【0035】
次に、図9(a)は、内側鋼管5の軸方向(鉛直方向)のひずみ分布であり、図9(b)は、外側鋼管6の円周方向(水平方向)のひずみ分布である。またRは柱高さに対する柱頭部の水平変位量の比であらわされる柱の傾斜角(%)である。これら図9(a)、(b)から、繰り返し水平荷重による変形が大きくなるに従って、内側鋼管5では鉛直方向ひずみが増加しており、柱に作用する曲げモーメントによって内側鋼管5に鉛直方向の軸方向応力が発生していることがわかる。これに対して、外側鋼管6では、特に柱基部(例えば柱高さ30mm)において水平方向ひずみが増大している。このことより、コンファインド効果は、外側鋼管6の柱基部の水平方向の引張抵抗力によって、内部に充填されている第1コンクリート7が拘束されて発揮されていることがわかる。
【0036】
また、図9(b)のひずみ分布の実験結果より、柱基部において外側鋼管6がコンファインド効果を顕著に発揮することがわかる。今回の実験の全ての供試体SC-1~SC-5は、柱の下半分のモデルであり、実際の鋼管コンクリート柱は、柱の下端及び上端で曲げモーメントが大きくなることから、鋼管コンクリート柱の基部および上部の2か所で外側鋼管6がコンファインド効果を発揮することになる。
【0037】
全ての供試体SC-1~SC-5の柱高さが910mmであり、柱基部の水平方向ひずみが増大しているのは、高さ150mmより下の範囲であることから、鋼管コンクリート柱の上下端部において柱高さの10%以上の部分の外側鋼管6の管厚を大きくしておけば、コンファインド効果を効果的に発揮できるといえる。一方、ここでは図示していないが、外側鋼管6の軸方向のひずみは低く抑えられており、外側鋼管6の上下端部を構造体(基礎コンクリート1や柱梁接合部3)に連結していないことにより、柱の変形が進んでも外側鋼管6には軸方向の荷重伝達が少なく、座屈などの損傷が発生しないで、コンファインド効果による耐力増加を発揮していることが分かる。
【0038】
次に、前述した充填被覆型柱2及び被覆型柱20の供試体に対して短柱圧縮実験を行った結果について説明する。短柱圧縮実験の供試体の断面は、内側鋼管5が正方形断面の角形鋼管125mm×125mm、管厚6mmまたは3.2mm、管厚6mmの場合は降伏強度fy=397N/mm2、管厚3.2mmの場合は降伏強度fy=354N/mm2で、外側鋼管6が外径250mm、管厚1.6mmまたは2.3mm、管厚1.6mmの場合は降伏強度fy=230N/mm2、管厚3.2mmの場合は降伏強度fy=215N/mm2の円形鋼管で、縮尺率1/4の供試体である。この短柱圧縮実験は、図10に示す載荷試験機を採用しており、内側鋼管5と充填したコンクリート(第1コンクリート7又は第2コンクリート8)に鉛直荷重を載荷し、外側鋼管6には鉛直荷重をかけていない。また、外側鋼管6と底板は6mmのスリットで縁切りされている。
【表2】
【0039】
表2に示すように、6種類の供試体NO1~NO6を使用して短柱圧縮実験を行った。全ての供試体NO1~NO6は、内側鋼管5の外側及び外側鋼管6の内側で囲まれた空間に第1コンクリート7が充填されている。また、供試体NO1~NO3は、内側鋼管5の内部空間に第2コンクリート8が充填されているが、供試体NO4~NO6には、内側鋼管5の内部空間には第2コンクリート8が充填されていない。なお、内側鋼管5の外幅B1、管厚t1および外側鋼管6の外径B、管厚tは表2に記載した寸法である。
【0040】
表2の実験結果において供試体NO1及び供試体NO3の比較、供試体NO4及び供試体NO6の比較から明らかなように、内側鋼管5の管厚t1が大きいほど最大耐力Nmaxが大きく、内側鋼管5の断面積が耐力に大きく寄与していることがわかる。
【0041】
また、供試体NO1及び供試体NO2の比較、供試体NO4及び供試体NO5の比較から明らかなように、外側鋼管6には荷重をかけていないにも関わらず、外側鋼管6の管厚tが大きいほど最大耐力Nmaxが大きいことがわかる。このことから、外側鋼管6の径厚比B/tが小さいほど(管厚が大きいほど)、第1コンクリート7の拘束効果が大きく、コンファインド効果を発揮することがわかる。
【0042】
また、外側鋼管6のコンファインド効果を考慮しない計算値の最大耐力Ncalと、実験値の最大耐力Nmaxを比較すると、表2に示すように、いずれのケースでも実験値Nmaxが計算値Ncalを上回っており、コンファインド効果による耐力増加が確認される。
【0043】
ここで、内側鋼管5の管厚t1が3.2mmで、内側鋼管5の内部に第2コンクリート8が充填されている供試体NO3は、Nmax/Ncalが1.29であるのに対し、内側鋼管5内部に第2コンクリート8が充填されていない供試体NO6の場合は1.14であり、外側鋼管6の管厚tがともに1.6mmであるにも関わらず、供試体NO3の方が外側鋼管6のコンファインド効果が大きい。これは、内側鋼管5の内部に第2コンクリート8が充填されていない場合は、内側鋼管5の外面に作用する第1コンクリート7の水平方向の圧力によって内側鋼管5が内側に変形して拘束効果が低減するためである。
【0044】
また、内側鋼管5の管厚t1が6mmの場合で、内側鋼管5の内部に第2コンクリート8が充填されている供試体NO1と、第2コンクリート8が充填されていない供試体NO4を比較すると、供試体NO1のNmax/Ncalが1.17に対して供試体NO4のNmax/Ncal が1.14であり、内部鋼管5の内部に第2コンクリート8を充填していない場合にも、第2コンクリート8を充填している場合と同等の拘束効果が示されていることがわかる。
[径厚比B/t、幅厚比B1/t1の設定について]
【0045】
次に、第1実施形態の充填被覆型柱2及び第2実施形態の被覆型柱20を構成する外側鋼管6の最適な径厚比B/t、および内側鋼管の最適な幅厚比B1/t1について説明する。
【0046】
図11は、充填被覆型柱2の外側鋼管6の最適な径厚比B/tを検討するグラフであり、縦軸に、外側鋼管6のコンファインド効果によるコンクリート強度上昇係数Kを示し、横軸に、外側鋼管6の径厚比B/tを示している。ここで、コンクリート強度上昇係数K1は、コンファインド効果による強度上昇を考慮したコンクリート強度をfc1とし、無拘束コンクリート強度をfp1とすると、K1=fc1/fp1の関係を有している。また、図11のグラフにおいて実線で示す曲線C1は、Richartらが提案し、論文(Richart, F. E. et al: A Study of the Failure of Concrete under Combined Compressive Stresses, University of Illinois, Engineering Experimental Station, Bulletin, No. 185, 1928.11)記載の円形鋼管横拘束高強度コンクリートの算出式に基づく理論計算値である。
【0047】
表2で示した充填被覆型柱2の供試体NO1,NO2,NO3について、実験値最大耐力から内側鋼管5の最大耐力値を差し引いてコンクリートのみの最大耐力を求めて、これを無拘束コンクリート強度で除した値を〇印でプロットしている。図11に示すように、〇印で示す実験値は、理論計算値C1を上回るコンクリート強度上昇係数K1を示している。また、充填被覆型柱2は、内側鋼管5の内部に第2コンクリート8が充填されていることから、内側鋼管5の幅厚比B1/t1を特定しなくても、第2コンクリート8が内側鋼管5の変形を拘束する。この理論式は内側鋼管5がないものを対象としたものであるが、今回の実験値の傾向から適応境界の設定を行うための参考として使用する。
【0048】
したがって、図11のグラフで示すように、第1実施形態の充填被覆型柱2は、径厚比B/t ≦ 200程度であれば、コンファインド効果が顕著に現れ、地震時の繰り返し荷重に対する耐力増加も達成できるといえる。
【0049】
一方、被覆型柱20の外側鋼管6の最適な径厚比B/tに関しては図11と同様である。ただし、被覆型柱20の内側鋼管5は、内部の第2コンクリート8による変形の拘束がないため、外力がかかった際に内側鋼管5が大きく変形し、コンファインド効果が低減する可能性が考えられる。そこで、被覆型柱20の最適な幅厚比B1/t1を図12により検討した。
【0050】
表2で示した被覆型柱20である供試体NO4,NO6について、実験値を図12の〇印で示し、実験値の近似曲線を実線で示す。図12により、幅厚比B1/t1 ≦ 40 であれば1割以上のコンファインド上昇効果が発揮されていることがわかる。
【0051】
したがって、第2実施形態の被覆型柱20は、図11で示すように外側鋼管6の径厚比B/t ≦ 200とし、図12に示すように幅厚比B1/t1 ≦ 40とすることで、コンファインド効果を高めることができるとともに、地震時の繰り返し荷重に対する耐力増加も達成できるといえる。
[第3実施形態:外側鋼管を軸方向に分割した構造]
【0052】
ここで、図9(a)、(b)のひずみ分布の実験結果において、柱の基部及び上部の2か所でコンファインド効果を発揮することが明らかになったことから、外側鋼管6を、互いに溶接やボルトなどで接合される軸方向に複数に分割された上部外側鋼管6a、中間外側鋼管6b、下部外側鋼管6cで構成し(図1の充填被覆型柱2において一点鎖線で示した部分を参照)、上部外側鋼管6a及び下部外側鋼管6cの管厚を、中間外側鋼管6bの管厚より大きく設定してコンファインド効果が発揮できるようにしてもよい。なお、上部外側鋼管6a、中間外側鋼管6b、下部外側鋼管6cは、溶接やボルトなどで接合される構造に限らず、例えば重ね合わせや突き合わせしてシールするような接合構造であってもよい。
【0053】
すなわち、上部外側鋼管6a及び下部外側鋼管6cは、5.3 mm以上(供試体の管厚1.6mm×縮尺3.3=5.3 mm)とし、中間外側鋼管6bの管厚を、充填する第2コンクリート8の型枠として十分な管厚(3~6mm程度)とすることにより、耐力に優れ、且つ、経済的な充填被覆型柱2とすることができる。
【0054】
また、図9(a)、(b)のひずみ分布の実験結果において柱の上下端部において柱高さの10%以上の部分の外側鋼管6の管厚を大きくしておけば、コンファインド効果を十分に発揮できることが明らかになったことから、上部外側鋼管6a及び下部外側鋼管6cの高さを柱高さの10%以上とすることが望ましい。
【0055】
なお、図4で示した被覆型柱20においても同様に、外側鋼管6を上部外側鋼管6a、中間外側鋼管6b及び下部外側鋼管6cで構成し、上部外側鋼管6a及び下部外側鋼管6cの管厚を中間外側鋼管6bの管厚より大きく設定してコンファインド効果が発揮できるようにしてもよい。なお、外側鋼管6の分割数は3以上であればよい。
[第4実施形態:外側鋼管と第1コンクリートとの間に絶縁材を介在する]
【0056】
次に、図13(a)は、本発明に係る第4実施形態の充填被覆型柱2を示し、図13(b)は、本発明に係る第4実施形態の被覆柱2を示すものである。
【0057】
図13(a)に示す充填被覆型柱2は、外側鋼管6の内周面の全域に、ビニールシート、テフロンシートなどの樹脂シートや剥離剤などからなる絶縁材21が設けられており、外側鋼管6と内側鋼管5の間に第1コンクリート7を充填することで、外側鋼管6の内面と第1コンクリート7の外面との間に絶縁材21が介在している。
【0058】
外側鋼管6と第1コンクリート7の間に絶縁材21が介在していると、第1コンクリート7に軸力が発生しても、第1コンクリート7と外側鋼管6との間に介在している絶縁材21が外側鋼管6への軸力の伝達を阻止する。このため、外側鋼管6の管厚をさほど大きく設定しなくても、コンファインド効果を高めることができる。
【0059】
ここで、図11のグラフにおいて破線で示す曲線D1は、外側鋼管6と第1コンクリート7の間に絶縁材21が介在した充填被覆型柱2を、前述したRichartらが提案した円形鋼管横拘束高強度コンクリートの算出式に基づいて算出した理論計算値であり、絶縁材21が介在されていない充填被覆型柱2の理論計算値C1に対してコンファインド効果が一割程度上昇することがわかる。
【0060】
また、図13(b)に示す被覆型柱20も、外側鋼管6と内側鋼管5の間に第1コンクリート7を充填することで、外側鋼管6の内面と第1コンクリート7の外面との間に絶縁材21が介在している。この被覆型柱20も、第1コンクリート7に軸力が発生しても、第1コンクリート7と外側鋼管6との間に介在している絶縁材21が外側鋼管6への軸力の伝達を阻止するので、外側鋼管6の管厚をさほど大きく設定しなくても、コンファインド効果を高めることができる。
【符号の説明】
【0061】
1 基礎コンクリート(下部構造体)
2 充填被覆型柱(鋼管コンクリート柱)
3 柱梁接合部
4 鉄骨梁(上部構造体)
5 内側鋼管
6 外側鋼管
6a 上部外側鋼管(分割鋼管体)
6b 中間外側鋼管(分割鋼管体)
6c 下部外側鋼管(分割鋼管体)
7 第1コンクリート
8 第2コンクリート
AP アンカープレート
9 アンカーボルト
10 床板コンクリート
11 接合用鋼管
12a,12b ダイヤフラム
13 仕口
13a,13b フランジ
13c ウェブ
14 外套部材
15 柱補強筋
15a,15b,15d 分割柱筋
15c 分割柱筋
16 接合補強筋
17 第3コンクリート
20 被覆型柱(鋼管コンクリート柱)
21 絶縁材
図1
図2
図3
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図5
図6
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図10
図11
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図13