(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024021707
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】研削支援装置、研削盤制御装置、及びワーク変形量予測方法
(51)【国際特許分類】
G05B 19/404 20060101AFI20240208BHJP
B24B 49/14 20060101ALI20240208BHJP
B24B 7/02 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
G05B19/404 Z
B24B49/14
B24B7/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022124734
(22)【出願日】2022-08-04
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105887
【弁理士】
【氏名又は名称】来山 幹雄
(72)【発明者】
【氏名】市原 浩一
【テーマコード(参考)】
3C034
3C043
3C269
【Fターム(参考)】
3C034AA07
3C034DD20
3C043BA12
3C043CC03
3C043DD02
3C043DD04
3C043DD05
3C269AB07
3C269BB03
3C269BB05
3C269CC01
3C269EF10
3C269MN41
3C269QB02
3C269QC01
3C269QC03
3C269QD02
(57)【要約】
【課題】平面度を高めることができ、かつ研削の長時間化を抑制することが可能な研削支援装置を提供する。
【解決手段】研削対象のワークに関する情報及び研削条件を指定する情報が入力部に入力される。演算部が、入力部に入力されたワークに関する情報及び研削条件を指定する情報に基づいて、ワークの研削時に発生する熱によるワークの反りの大きさを求める。出力部が、演算部で求められたワークの反りの大きさを表す情報を出力する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
研削対象のワークに関する情報及び研削条件を指定する情報が入力される入力部と、
前記入力部に入力された前記ワークに関する情報及び研削条件を指定する情報に基づいて、前記ワークの研削時に発生する熱による前記ワークの反りの大きさを求める演算部と、
前記演算部で求められた前記ワークの反りの大きさを表す情報を出力する出力部と
を備えた研削支援装置。
【請求項2】
前記ワークに関する情報は、前記ワークの曲げ剛性を求めるために必要な情報を含み、
前記演算部は、
研削によって前記ワークの被加工面から前記ワークに流入する熱流束を求め、
前記被加工面から前記ワークに流入する熱流束に基づいて前記ワークの内部の温度分布を計算し、
前記ワークの内部の温度分布から前記ワークに発生する熱応力を計算し、
前記ワークに発生する熱応力、及び前記ワークの曲げ剛性から、前記ワークの反りの大きさを計算する請求項1に記載の研削支援装置。
【請求項3】
前記演算部は、
前記ワークの内部の温度分布として、前記被加工面からの深さ方向の温度分布を計算する請求項2に記載の研削支援装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の研削支援装置と、
前記ワークに砥石を接触させた状態で、前記砥石を回転させながら前記砥石を移動させて研削を行う研削装置の、前記ワークに対する前記砥石の移動の軌跡を制御する砥石頭運動真直度補正装置と
を備え、
前記砥石頭運動真直度補正装置は、前記研削支援装置から前記ワークの反りの大きさを表す情報を取得し、前記ワークの反りの大きさに応じて、前記砥石の移動の軌跡を決定する研削盤制御装置。
【請求項5】
研削対象のワークに関する情報及び研削条件を指定する情報を演算部に入力し、
入力された前記ワークに関する情報及び研削条件を指定する情報に基づいて、前記ワークの研削時に発生する熱による前記ワークの反りの大きさを、前記演算部が求めるワーク変形量予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研削支援装置、研削盤制御装置、及びワーク変形量予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
回転砥石で研削された被加工面の平面度を高める研削装置が公知である(特許文献1参照)。この研削装置においては、被加工面の研削終了後に、被加工面の平面度を計測し、計測結果に基づいて、再研削位置及び研削量を決定する。決定した再研削位置及び研削量に応じて、平面度が向上するように修正研削を実行する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
最初の研削後、平面度を高めるために修正研削を実行する方法では、研削に長時間を要する。本発明の目的は、平面度を高めることができ、かつ研削の長時間化を抑制することが可能な研削支援装置及び研削盤制御装置を提供することである。本発明の他の目的は、平面度を高めることができ、かつ研削の長時間化を抑制するために使用可能なワーク変形量予測方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一観点によると、
研削対象のワークに関する情報及び研削条件を指定する情報が入力される入力部と、
前記入力部に入力された前記ワークに関する情報及び研削条件を指定する情報に基づいて、前記ワークの研削時に発生する熱による前記ワークの反りの大きさを求める演算部と、
前記演算部で求められた前記ワークの反りの大きさを表す情報を出力する出力部と
を備えた研削支援装置が提供される。
【0006】
本発明の他の観点によると、
前記研削支援装置と、
前記ワークに砥石を接触させた状態で、前記砥石を回転させながら前記砥石を移動させて研削を行う研削装置の、前記ワークに対する前記砥石の移動の軌跡を制御する砥石頭運動真直度補正装置と
を備え、
前記砥石頭運動真直度補正装置は、前記研削支援装置から前記ワークの反りの大きさを表す情報を取得し、前記ワークの反りの大きさに応じて、前記砥石の移動の軌跡を決定する研削盤制御装置が提供される。
【0007】
本発明のさらに他の観点によると、
研削対象のワークに関する情報及び研削条件を指定する情報を演算部に入力し、
入力された前記ワークに関する情報及び研削条件を指定する情報に基づいて、前記ワークの研削時に発生する熱による前記ワークの反りの大きさを、前記演算部が求めるワーク変形量予測方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
演算部がワークの反りの大きさを計算することにより、反りの大きさを反映して研削時の砥石の移動の軌跡を決定することができる。これにより、冷却後のワークの被加工面の平面度を高めるように研削を行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施例による研削盤制御装置のブロック図、及び研削盤制御装置が制御する平面研削装置の斜視図である。
【
図3】
図3は、本実施例による研削支援装置(
図1)が実行する研削支援の手順を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、計算によって求められたワーク内部の温度の時間変化の一例を示すグラフである。
【
図5】
図5は、ワークの深さ方向の温度分布を示すグラフである。
【
図6】
図6は、熱応力の計算結果の一例を示すグラフである。
【
図7】
図7は、曲げモーメント及び反り量の一例を示すグラフである。
【
図8】
図8は、砥石頭運動真直度補正装置が砥石の移動を制御する手順を示すフローチャートである。
【
図9】
図9は、砥石の軌跡の計算結果を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1~
図9を参照して、実施例による研削支援装置、研削盤制御装置、及びワーク変形量予測方法について説明する。
【0011】
図1は、本実施例による研削盤制御装置20のブロック図、及び研削盤制御装置20が制御する平面研削装置10の斜視図である。研削盤制御装置20は、研削支援装置30及び砥石頭運動真直度補正装置21を含む。
【0012】
まず、平面研削装置10の構成について説明する。平面研削装置10は、可動テーブル12、テーブル案内機構11、砥石ヘッド13、砥石14、案内レール15を含む。可動テーブル12はテーブル案内機構11によって水平面内の一方向に往復移動する。可動テーブル12の上に被研削物であるワーク18が支持される。
【0013】
砥石ヘッド13が案内レール15によって可動テーブル12に保持されたワーク18の上方に、昇降可能に支持されている。砥石ヘッド13は、水平面内で可動テーブル12の移動方向と直交する方向に移動可能である。可動テーブル12の移動方向をx軸方向とし、砥石ヘッド13の移動方向をy軸方向とし、鉛直下向きをz軸の正の向きとするxyz直交座標系を定義する。
【0014】
砥石ヘッド13の下端部に砥石14が取り付けられている。砥石14は円柱状の形状を有し、その中心軸がy軸方向と平行である。砥石14がワーク18に接触する程度まで砥石ヘッド13を下降させ、砥石14を回転させながらワーク18をx軸方向に移動させることにより、ワーク18の研削が行われる。砥石ヘッド13をy軸方向に移動させて同様の処理を繰り返すことにより、ワーク18の上面(被加工面)の全域を研削することができる。砥石14をワーク18に接触させてワーク18の一端から他端までx方向に移動させる手順を、「パス」という。
【0015】
砥石頭運動真直度補正装置21が、研削時の砥石14の移動を制御する。例えば、可動テーブル12をx軸方向に移動させている期間に、x軸方向の位置に応じて砥石ヘッド13をz軸方向に昇降させることにより、砥石14を切込方向に移動させる制御を行う。すなわち、砥石頭運動真直度補正装置21は、砥石14の、xz面内における移動の軌跡を制御する。
【0016】
研削支援装置30は、砥石頭運動真直度補正装置21が砥石14の移動を制御するために必要な情報を生成し、砥石頭運動真直度補正装置21に送信する。研削支援装置30は、入力部31、演算部32、出力部33、及び記憶部34を含む。記憶部34に、演算部32が実行するプログラム及び種々のデータが格納されている。
【0017】
入力部31に、研削対象のワーク18に関する情報及び研削条件を指定する情報が入力される。入力部31は、例えばキーボード、ポインティングデバイス、リムーバブルメディア読み取り装置、通信装置等で構成される。演算部32は、入力部31に入力されたワーク18に関する情報及び研削条件を指定する情報に基づいて、ワーク18の研削時に発生する熱によるワーク18の反りの大きさを求める。出力部33は、演算部32で求められたワーク18の反りの大きさを表す情報を、画面表示、または砥石頭運動真直度補正装置21に対して出力する。出力部33は、例えば通信装置等で構成される。
【0018】
平面研削装置10でワーク18を研削した後の被加工面は、幾何学的に理想的な平面であることが好ましい。ところが、実際には種々の要因で、加工後の被加工面のx軸方向の中央近傍が端部近傍に対して低くなったり高くなったりする。次に、
図2A~
図2Dを参照して、被加工面が平面からずれてしまう種々の要因について説明する。
【0019】
図2A~
図2Dは、ワーク18に対する砥石14の移動の軌跡19を示す模式図である。研削時は、ワーク18の被加工面18Aに砥石14を接触させ、砥石14を回転させながらワーク18に対して砥石14を相対的にx軸に平行な方向に移動させる。ワーク18の被加工面18Aに対して砥石14の外周面をやや低い位置に配置して空間的に干渉させ、ワーク18の表層部を研削する。砥石14の外周面とワーク18の被加工面18Aとの干渉量を切込深さという。なお、実際には、
図1に示すように砥石14に対してワーク18をx軸に平行な方向に移動させる。
【0020】
図2Aに示すように、ワーク18に対する砥石14の回転中心のxz面内における移動の軌跡19(以下、単に「砥石14の軌跡19」という場合がある。)が直線であり、ワーク18に歪みが発生していない場合には、研削後の被加工面18Aは理想的な平面になる。具体的には、被加工面18Aとxz面に平行な平面との交線の真直度(以下、単に「被加工面18Aの真直度」という場合がある。)が十分高くなる。ところが、種々の要因により実際の被加工面18Aの真直度が、破線で示すように低下してしまう。
【0021】
図2Bに示すように、ワーク18に対する砥石14の軌跡19が、破線で示す理想的な直線からずれている場合、被加工面18Aの形状に軌跡19の直線からの誤差が反映されてしまい、被加工面18Aの真直度が低下してしまう。砥石14の軌跡19の、直線からのずれに応じて、被加工面18Aの中央部分が相対的に低くなったり、相対的に高くなったりする。
【0022】
研削時に発生する熱によって、
図2Cに示すようにワーク18が熱膨張することが想定される。さらに、ワーク18内に温度勾配が生じると、
図2Dに示すように、ワーク18に反りが発生することが想定される。いずれの場合にも、加工前の被加工面18Aに変形が生じる。この状態で研削を行うと、砥石14の軌跡19が直線であっても、ワーク18の表層部の除去量にムラが生じる。このため、ワーク18が冷却されてワーク18の熱変形が解消されると、被加工面18Aの真直度が低下してしまう。
【0023】
次に、砥石14の軌跡19の真直度誤差(
図2B)、ワーク18の熱膨張(
図2C)、及びワーク18の反り(
図2D)の影響の程度について考察する。
【0024】
経験的に、研削盤の砥石14の軌跡19の真直度誤差は、1mあたり数μm程度であり、軌跡19は高い真直度を有する。これに対して被加工面18Aの反り量(真直度誤差)は、軌跡19の真直度誤差をはるかに超える値である。したがって、加工後の被加工面18Aの真直度を高めるためには、ワーク18の熱変形による影響を低減させることが必要である。
【0025】
鋼材の線膨張係数は約12×10-6/℃である。ワーク18の厚さを100mmと仮定すると、ワーク18内の温度のx軸方向のばらつきが10℃のときに、被加工面18Aの高さに12μm程度のばらつきが生じる。ただし、実際には、ワーク18の底面側の温度上昇は、被加工面18Aの温度上昇に比べて小さいため、ワーク18の熱膨張量の、x軸方向に関するばらつきは、さらに小さくなる。
【0026】
さらに、経験的に、ワーク18内の温度がx軸方向に10℃程度ばらつくことは考えにくい。したがって、加工後の被加工面18Aの真直度の低下の大きな要因は、ワーク18の反り(
図2D)であると予測される。以下に説明する本実施例では、ワーク18の反りによる影響を低減させて、被加工面18Aの真直度を高めることができる。
【0027】
図3は、本実施例による研削支援装置30(
図1)が実行する研削支援の手順を示すフローチャートである。ユーザが入力部31(
図1)に、ワーク18に関する情報及び研削条件を指定する情報を入力すると、演算部32が、入力部31に入力されたワーク18に関する情報及び研削条件を指定する情報を取得する(ステップS1)。
【0028】
ワークに関する情報には、ワーク18の材質及び寸法を特定する情報が含まれる。ワーク18の材質を特定する情報には、ワーク18の種々の物性値、例えばヤング率、密度、比熱、線膨張係数、熱伝導率、温度伝導率(熱拡散率)等が含まれる。ワーク18の寸法を特定する情報には、ワーク18の長さ(x軸方向の寸法)、幅(y軸方向の寸法)、及び厚さ(z軸方向の寸法)が含まれる。ワーク18の物性値及び寸法には、ワーク18の曲げ剛性を計算するために必要な情報が含まれている。
【0029】
研削条件を指定する情報には、砥石14に関する情報、研削液(冷却液)に関する情報、ワーク18の初期温度、ワーク18の移動速度、砥石14の回転速度、切込深さ、研削パス回数等が含まれる。砥石14に関する情報には、砥石14の砥粒の材料及び寸法、砥粒の結合材の材料、砥石14の直径、幅(y方向の寸法)、砥石14のドレス条件(砥石14の外周面に形成されている溝の深さやピッチ)が含まれる。研削液に関する情報には、研削液の成分(水系、オイル系、エマルジョン系等の別)、温度等が含まれる。
【0030】
次に、演算部32は、研削時に発生する熱量(熱エネルギ)を計算する(ステップS2)。研削時に発生する熱量は、ワーク18の物性値、砥石14に関する情報、研削条件等に依存する。研削時に発生する熱量は、例えば種々の評価実験またはシミュレーションにより決定するとよい。次に、ワーク18に流入する熱流束を計算する(ステップS3)。種々の評価実験や、経験則から、研削時に発生した熱エネルギの約70%~80%がワーク18に流入すると考えられる。
【0031】
次に、演算部32は、ワークに流入する熱流束に基づいてワーク18内の温度分布を計算する(ステップS4)。一般的な平面研削においては、熱源となる砥石14とワーク18との接触箇所の移動速度は500mm/s程度である。面積速度の次元を持つワーク18の温度伝導率は、熱源の移動速度に比べて十分小さい。このため、ワーク18内の温度分布を求めるに際して熱源の移動は無視することができる。ワーク18の被加工面18Aの長さ方向の全範囲から、研削時に発生した熱がワーク18に一様に流入すると近似することができる。このため、ワーク18内の温度は、厚さ方向のみに一次元的に分布すると仮定することができる。
【0032】
次に、演算部32は、ワーク18に流入する熱流束に基づいて、ワーク18内の温度分布を計算する(ステップS4)。
【0033】
図4は、計算によって求められたワーク18内部の温度の時間変化の一例を示すグラフである。横軸は時間を単位[s]で表し、縦軸は温度を単位[℃]で表す。ワーク18の長さを1000mmとし、ワーク18に対する砥石14の移動速度を500mm/sと仮定した。このとき、1回のパスを実行するための所要時間は2sである。1回のパスを終了した後、次のパスを開始するまでの時間を0.5sとした。パスの繰り返し回数を5回とした。
【0034】
図4に示した各曲線は、ワーク18の被加工面18Aから1mm刻みの深さの位置の温度を示す。深さ5mm程度までの浅い領域の温度は、パスを実行している2sの間に上昇し、パスの終了から次のパスの開始までの0.5sの間に下降する。深さ5mm程度より深い領域の温度は、被加工面18Aからの熱伝導によって緩やかに上昇する。
【0035】
図5は、ワーク18の深さ方向の温度分布を示すグラフである。横軸は被加工面18Aからの深さを単位[mm]で表し、縦軸は温度を単位[℃]で表す。
図5のグラフには、初期状態、から1回目のパス終了時点、2回目のパス終了時点、・・・、5回目のパス終了時点の温度分布が示されている。複数回のパスのそれぞれを終了した時点で、深さ方向に負の温度勾配が発生していることがわかる。この温度勾配によって、深さによって熱膨張に差が生じることがわかる。
【0036】
ワーク18内の温度分布が求まると、演算部32は、ワーク18内に発生する熱応力を計算する(ステップS5)。
【0037】
図6は、熱応力の計算結果の一例を示すグラフである。横軸は時間を単位[s]で表し、縦軸は応力を単位[MPa]で表す。
図6に示した各曲線は、ワーク18の被加工面18Aから1mm刻みの深さの位置に発生する応力のx軸方向の成分を示す。
【0038】
被加工面18A(深さ0mm)の応力は負であり、被加工面18Aには圧縮応力が加わることがわかる。深さ1mm以上の領域には、ほとんどの時間帯で引張応力が発生する。なお、パスの終了から次のパスの開始までの熱の流入が無い期間に、深さ1mmの領域に一時的に圧縮応力Aが発生している。これは、研削液によってワーク18が冷却されることにより、深さ1mmの領域の温度が深さ2mmの領域の温度より低くなるためである。
【0039】
ワーク18内に発生する応力が求まると、演算部32は、ワーク18に加わる曲げモーメントを計算する(ステップS6)。その後、曲げモーメントに基づいて、ワーク18の反りの大きさを計算する(ステップS7)。反りの大きさを表す指標として、被加工面18Aの両端の高さを基準としたときの中央の高さを採用する。
図2Dに示すように被加工面18Aが凸状に沿っている場合、反りの大きさを表す指標(反り量)は正になる。演算部32は、ワーク18の反りの大きさを表す情報、例えば反り量を出力する(ステップS8)。
【0040】
図7は、曲げモーメント及び反り量の一例を示すグラフである。横軸は時間を単位[s]で表し、縦軸は曲げモーメントを単位[Nm]で表すとともに、反り量を単位[μm]で表す。
図6のグラフ中の下側の曲線は曲げモーメントを示し、上側の曲線は反り量を示す。3回目以降のパス終了時点で、曲げモーメントは約-10MPaに達し、反り量は約13μmに達する。反り量は、3回目以降のパス終了時点で、ほぼ同じ値である。
【0041】
砥石14の軌跡19(
図2D)を直線にすると、ワーク18に反りが発生している状態で、加工後の被加工面18Aの真直度が高くなる。ワーク18が冷却されて反りが解消されると、被加工面18Aは、中央部が窪んだ形状になり、窪みの深さは約13μmに達する。
【0042】
図8は、砥石頭運動真直度補正装置21(
図1)が砥石14の移動を制御する手順を示すフローチャートである。
【0043】
砥石頭運動真直度補正装置21は、研削支援装置30からワーク18の反りの大きさを表す情報、例えば反り量を取得する(ステップS10)。砥石頭運動真直度補正装置21は、取得した反り量に基づいて、被加工面18Aの反り量を補正するための砥石14の運動の軌跡19を計算する(ステップS11)。
【0044】
図9は、砥石14の軌跡19の計算結果を示す模式図である。砥石頭運動真直度補正装置21は、目標とする回数のパスを終了した時点の反り量と等しい寸法だけ、軌跡19の中央部分が上方に向かって凸形状になるように、軌跡19を決定する(この軌跡19を補正後の軌跡19という場合がある。)なお、
図5に示したように、複数のパスのそれぞれを実行した直後におけるワーク18の反りの大きさは、パスごとに異なっている。例えば、n回目のパスの実行直後の反りの大きさに基づいて、n回目のパスを実行するときの砥石14の軌跡19を決定してもよい。
【0045】
砥石頭運動真直度補正装置21は、求めた軌跡19に沿って砥石14が移動するように、砥石14の高さを制御しながら研削を実行する(ステップS12)。研削直後の被加工面18Aは、
図9に示すように、凸状に湾曲している。ワーク18が冷却されて反りが解消されると、被加工面18Aがほぼ平面に沿う形状になる。このため、被加工面18Aの真直度を高めることができる。
【0046】
次に、本実施例の優れた効果について説明する。
従来は、砥石14をほぼ直線状に移動させて研削を行うため、冷却後のワーク18の被加工面18Aが凹状に湾曲した形状になる。冷却後に被加工面18Aの真直度を測定し、真直度が許容範囲に収まるように、相対的に高い領域に対して修正研削を行っていた。本実施例では、修正研削を行う必要がなく、真直度の高い被加工面18Aを得ることができる。
【0047】
また、反り量は、ワーク18の材料や寸法、研削条件の影響を受けるため、予め反り量を想定して砥石14の軌跡19を決定することは困難である。適切な軌跡19を求めるためには、実際に加工するワーク18を用いて、同一の研削条件で試行錯誤するか、または適切な実験計画法を用いて評価実験を行わなければならない。このため、適切な軌跡19の決定に長時間を要する。本実施例による研削支援装置30を用いることにより、短時間に、適切な軌跡19を決定することが可能になる。
【0048】
次に、上記実施例の変形例について説明する。
上記実施例では、被加工面18A(
図2D)のx軸方向の中央における高さを、ワーク18の反りの大きさを表す指標として用いている。その他に、x軸方向の複数の位置における被加工面18Aの高さを、反りの大きさを表す指標として用いてもよい。または、
図9に示した補正後の軌跡19の曲線をx座標の関数z(x)で表し、補正後の軌跡19の座標点(x,z)を、ワーク18の反りの大きさを表す指標として用いてもよい。このように、複数箇所で求められた被加工面18Aの高さに応じて、砥石14の軌跡19を計算することにより、被加工面18Aの真直度をより高精度に制御することが可能になる。
【0049】
上記実施例では、研削支援装置30で求められたワーク18の反りの大きさを表す情報を、砥石頭運動真直度補正装置21に、通信装置を経由して送信する。その他の構成として、研削支援装置30で求められたワーク18の反りの大きさを表す情報を、リムーバブルメディア等を介して砥石頭運動真直度補正装置21に入力してもよい。または、研削支援装置30がワーク18の反りの大きさを表す情報を表示装置に表示し、ユーザが表示装置を読み取って、砥石頭運動真直度補正装置21に入力する構成としてもよい。
【0050】
上記実施例は例示であり、本発明は上述の実施例に制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【符号の説明】
【0051】
10 平面研削装置
11 テーブル案内機構
12 可動テーブル
13 砥石ヘッド
14 砥石
15 案内レール
18 ワーク
18A 被加工面
19 砥石の回転中心の軌跡
20 研削盤制御装置
21 砥石頭運動真直度補正装置
30 研削支援装置
31 入力部
32 演算部
33 出力部
34 記憶部