(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024021717
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】皮膚外用組成物およびエアゾール式皮膚外用剤
(51)【国際特許分類】
A61K 8/31 20060101AFI20240208BHJP
A61K 8/891 20060101ALI20240208BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
A61K8/31
A61K8/891
A61Q19/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022124754
(22)【出願日】2022-08-04
(71)【出願人】
【識別番号】592106155
【氏名又は名称】ジェイオーコスメティックス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】505090595
【氏名又は名称】株式会社佐野商会
(74)【代理人】
【識別番号】100089484
【弁理士】
【氏名又は名称】和田 靖郎
(72)【発明者】
【氏名】福田 豊
(72)【発明者】
【氏名】渡邉(白幡) 展佳
(72)【発明者】
【氏名】佐野 則夫
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AA112
4C083AC011
4C083AC012
4C083AC422
4C083AD021
4C083AD022
4C083AD151
4C083AD152
4C083AD532
4C083AD662
4C083BB12
4C083BB49
4C083CC02
4C083CC05
4C083DD08
4C083DD22
4C083DD30
4C083EE06
4C083EE12
(57)【要約】 (修正有)
【課題】皮膚閉塞性が高く、べたつきが少ない皮膚外用組成物を提供する。
【解決手段】ワセリン(A)と、シリコーンエラストマー(b-1)および該シリコーンエラストマーを膨潤させることが可能な低粘度油分(b-2)からなるシリコーンゲル組成物(B)を含み、前記(A)成分の割合が50~99.5質量%、前記(b-1)成分の割合が0.1~10質量%であり、前記(A)成分に対する前記(b-1)成分の質量比[(b-1)/(A)]が0.1/100~10/100である皮膚外用組成物、および該皮膚外用組成物および噴射剤を含有するエアゾール式皮膚外用剤である。さらに、シリコーンアクリレート皮膜形成剤を配合することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワセリン(A)と、シリコーンエラストマー(b-1)および該シリコーンエラストマーを膨潤させることが可能な低粘度油分(b-2)からなるシリコーンゲル組成物(B)を含み、前記(A)成分の割合が50~99.5質量%、前記(b-1)成分の割合が0.1~10質量%であり、前記(A)成分に対する前記(b-1)成分の質量比[(b-1)/(A)]が0.1/100~10/100であることを特徴とする皮膚外用組成物。
【請求項2】
さらに、シリコーンアクリレート皮膜形成剤(C)を0.1~10質量%の割合で含有する請求項1に記載の皮膚外用組成物。
【請求項3】
さらに、シリコーンアクリレート球状粒子(D)を0.1~10質量%の割合で含有する請求項1または2に記載の皮膚外用組成物。
【請求項4】
さらに、炭素原子数6~12のアルキル基を有するアルキル変性シリコーン(E)を0.1~20質量%の割合で含有する請求項1または2に記載の皮膚外用組成物。
【請求項5】
さらに、油溶性保湿成分(F)を含有する請求項1または2に記載の皮膚外用組成物。
【請求項6】
前記(b-1)成分が、未変性シリコーンエラストマーおよびアルキル変性シリコーンエラストマーから選ばれる1種または2種以上である請求項1または2に記載の皮膚外用組成物。
【請求項7】
請求項1または2に記載の皮膚外用組成物および噴射剤を含有することを特徴とするエアゾール式皮膚外用剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚の閉塞性が高く、べたつきが少ない皮膚外用組成物、および、該皮膚外用組成物を含むエアゾール式皮膚外用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ワセリン(ペトロラタムともいう)は、高い皮膚閉塞性を有することから、アトピー性皮膚炎等の皮膚バリア機能障害や乾皮症等の症状において、皮膚の水分蒸散を抑え、皮膚を保護する目的で用いられている。しかし、ワセリンそのものを皮膚外用剤として使用すると、べたつき感が強く、また、塗布時および適用後に不快に感じるという問題があった。
【0003】
一方、シリコーンゲル組成物を皮膚外用剤の素材として使用することが知られており、 たとえば、特許文献1には、三次元架橋構造を有するシリコーン重合物と低粘度シリコーン油からなるシリコーンゲル組成物はそれ自体が化粧料であり、また、化粧料の素材としても有用であると記載されている。そして、その実施例4には、上記シリコーンゲル組成分88重量部とワセリン2重量部を含むハンドクリームが記載されている。しかし、シリコーンゲル組成物は、ワセリンに比較すると皮膚閉塞性に劣っている。
【0004】
また、シリコーンエラストマーとワセリンを組み合わせてパーソナルケア製品とすることも知られており、たとえば、特許文献2には、(i)炭化水素油と(ii)シリコーンエラストマーと溶媒とのブレンドを含むパーソナルケア組成物の発明が記載されている。この発明において炭化水素油の好ましい具体例はペトロラタム、すなわち、ワセリンであり、シリコーンエラストマーは疎水性基および/または親水性基をエラストマーの主鎖上にグラフとさせることによって改質されたシリコーンエラストマーであって、その好ましい具体例は、アルキル変性とフェニル変性を兼備した二重変性シリコーンエラストマーである旨記載されている(請求項1、段落0023および段落0007参照)。特許文献2には、シリコーンエラストマーと溶媒とのブレンド(固形分14.5重量%)とペトロラタムを混合したときに、二重変性シリコーンエラストマー(表1、表2においてDSEと表示)は、ペトロラタムの含有率が10~40重量%の範囲で安定であるが、非官能シリコーンエラストマー(表1、表2においてDC9045と表示)は、ペトロラタムの含有率が10~20重量%の範囲でしか安定でなかった旨記載されている(段落0083~0096、実施例1、表1および表2参照)。しかし、この組成物の場合、炭化水素油の好ましい含有率は全組成中の3~50重量%である(段落0024参照)ため、炭化水素油、とくにペトロラタムに期待されている皮膚の閉塞性という点においては必ずしも十分なものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平8-6035号公報
【特許文献2】特表2019-517466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような背景技術の下に完成したものであり、その目的は、ワセリンに特有の高い皮膚閉塞性を大きく損なうことなく、ワセリンの大きな欠点であるべたつきを顕著に抑制した皮膚外用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、ワセリンを主基材とし、これに特定量のシリコーンゲル組成物を含有させることにより、良好な皮膚閉塞性を維持しながらべたつきの少ない皮膚外用組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
かくして本発明によれば、ワセリン(A)と、シリコーンエラストマー(b-1)および該シリコーンエラストマーを膨潤させることが可能な低粘度油分(b-2)からなるシリコーンゲル組成物(B)を含み、前記(A)成分の割合が50~99.5質量%、前記(b-1)成分の割合が0.1~10質量%であり、前記(A)成分に対する前記(b-1)成分の質量比[(b-1)/(A)]が0.1/100~10/100である皮膚外用組成物、ならびに、該皮膚外用組成物および噴射剤を含有するエアゾール式皮膚外用剤が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の皮膚外用組成物は、ワセリンを単独で使用する場合とほぼ同等の皮膚閉塞性を有しており、保湿性と皮膚バリア機能に優れている。その一方で、ワセリンを用いる場合の大きな問題点であるべたつきが顕著に抑制されており、使用感が良好である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の皮膚外用組成物は、主基剤としてワセリン(A)を含有し、他の必須成分として、シリコーンエラストマー(b-1)および該シリコーンエラストマーを膨潤させることが可能な低粘度油分(b-2)からなるシリコーンゲル組成物(B)を含有してなり、且つ、好ましい任意成分としてシリコーンアクリレート(C)を含有している。
【0011】
本発明に使用される(A)成分のワセリン(PETROLATUM)は、石油から得られた炭化水素類の混合物を精製したもので、融点が38~60℃(医薬部外品原料規格融点測定法第3法)であり、常温で半固体状の物質である。
【0012】
(A)成分の市販品の例としては、白色ワセリン(Witco社製)、サンホワイト P-150、サンホワイト P-200(以上、日興リカ社製)、White Petropet 1S、Perfecta(以上、Sonneborn社製)、クロラータムV(クローダジャパン社製)等を挙げることができる。
【0013】
本発明の皮膚外用組成物において、(A)成分の含有量は50~99.5質量%であり、好ましくは60~98質量%、より好ましくは70~97質量%である。(A)成分の含有量がこの範囲より少ない場合は皮膚閉塞性が低下し、十分な皮膚の保湿効果およびバリア効果を得ることができない。(A)成分の含有量がこの範囲より多い場合は、皮膚への適用後にべたつきが感じられるため良好な使用感触が得られない。
【0014】
本発明に使用される(b-1)成分および(b-2)成分からなるシリコーンゲル組成物(B)は、シリコーンエラストマーと該エラストマーを膨潤させることができる低粘度油分を常法にしたがって混合することによって調製することができる。具体的な調製法は、例えば、特許文献1として記載した特公平8-6035号公報に記載されている。
【0015】
(b-1:シリコーンエラストマー)
本発明に使用されるシリコーンゲル組成物を構成する(b-1)成分のシリコーンエラストマーは架橋構造を有するオルガノポリシロキサンであり、架橋型シリコーン、部分架橋型シリコーンとも称される、柔軟で変形可能なオルガノポリシロキサンである。
【0016】
シリコーンエラストマーの具体例として、たとえば、白金金属触媒の存在下でSiH基含有ジオルガノシロキサンと末端オレフィン性不飽和結合を有するオルガノポリシロキサン、またはα-ωジエン炭化水素を付加反応させることによって架橋構造を形成したオルガノポリシロキサン等を挙げることができるが、これらに限られない。
【0017】
シリコーンエラストマーであっても、ゲル状態ではなく、球形粒子として皮膚外用組成物にそのまま配合されるシリコーンエラストマー粉体は、本明細書においては、(b-1)成分には含まれない。
【0018】
シリコーンエラストマーは、一般に、乳化性シリコーンエラストマーと非乳化性シリコーンエラストマーに大別される。乳化性シリコーンエラストマーは、分子中に少なくとも1つのポリオキシアルキレン(例えば、ポリオキシエチレン又はポリオキシプロピレン)単位、ポリグリセリン単位等の親水性部分を有するシリコーンエラストマーを意味し、非乳化性シリコーンエラストマーは、分子中に前記の親水性部分を含まないシリコーンエラストマーを意味する。
【0019】
乳化性シリコーンエラストマーとしては、例えば、(ジメチコン/(PEG-10/15))クロスポリマー、(PEG-15/ラウリルジメチコン)クロスポリマー、(PEG-10/ラウリルジメチコン)クロスポリマー、(PEG-15/ラウリルポリジメチルシロキシエチルジメチコン)クロスポリマー等の(ジメチコン/PEG)クロスポリマー:(ジメチコン/ポリグリセリン-3)クロスポリマー、(ラウリルジメチコン/ポリグリセリン-3)クロスポリマー、(ポリグリセリル-3/ラウリルポリジメチルシロキシエチルジメチコン)クロスポリマー等の(ジメチコン/ポリグリセリル)クロスポリマー等が挙げられる。
【0020】
非乳化性シリコーンエラストマーとしては、例えば、(ジメチコン/ビニルジメチコン)クロスポリマー、ジメチコンクロスポリマー、ジメチコンクロスポリマー-3、ポリシリコーン-11等の未変性シリコーンエラストマー:(ビニルジメチコン/ラウリルジメチコン)クロスポリマー、(ラウリルポリジメチルシロキシエチルジメチコン)/ビスビニルジメチコン)クロスポリマー、セテアリルジメチコンクロスポリマー、アルキル(C30-45)セテアリルジメチコンクロスポリマー等のアルキル変性シリコーンエラストマー:(ジメチコン/フェニルビニルジメチコン)クロスポリマー等のフェニル変性シリコーンエラストマー:特許文献2に記載された式1の化合物等の二重(アルキルおよびフェニル)変性シリコーンエラストマー等が挙げられる。
【0021】
本発明においては、非乳化性シリコーンエラストマーが乳化性シリコーンエラストマーに比べ、皮膚に適用したときのべたつきが少なく、好ましく用いられる。とくに、未変性シリコーンエラストマーおよびアルキル変性シリコーンエラストマーは、フェニル変性シリコーンエラストマーや二重変性シリコーンエラストマーに比較してべたつきの抑制効果に優れており、好ましく用いられる。
【0022】
(b-2:低粘度油)
本発明に使用されるシリコーンゲル組成物を構成する(b-1)成分のシリコーンエラストマーを膨潤させることが可能な低粘度油分は、(b-1)成分を膨潤し得るものであればとくに限定されないが、25℃における動粘度が50mm2/s以下のものが好ましく用いられる。低粘度油分の具体例としては、たとえば、低粘度ジメチコン、メチルトリメチコン、カプリリルメチコン、シクロペンタシロキサン、シクロテトラシロキサン、低粘度フェニル変性シリコーン等のシリコーン油:イソヘキサデカン、イソドデカン、炭素数8~16の化合物を主成分とする水添ポリイソブテン等の炭化水素油:低粘度エステル油等を挙げることできる。(b-2)成分の低粘度油は、(b-1)成分を膨潤しやすく、均一なゲルを形成しやすいことから、シリコーン油または炭化水素油であることが好ましく、また、肌に適用後のべたつきが少ない点から、揮発性であることが好ましい。本明細書において、揮発性であるとは、常圧における沸点が60℃~260℃であるものを指す。
【0023】
本発明に使用される(b-1)成分および(b-2)成分からなるシリコーンゲル組成物(B)において、(b-1)成分と(b-2)成分との質量比(b-1):(b-2)は、1:99~60:40であることが好ましく、より好ましくは、3:97~50:50である。(b-1)の比率が過度に低い場合は、べたつき低減の効果が得にくくなり、(b-1)の比率が過度に高い場合は、シリコーンゲル組成物の粘度が高くなり、皮膚外用組成物中に均一に分散させることが困難になる。
【0024】
本発明に、用いられるシリコーンゲル組成物(B)は、市販品を用いることができる。非乳化性シリコーンエラストマーを含むシリコーンゲル組成物の市販品としては、信越化学工業社製のKSG-15((ジメチコン/ビニルジメチコン)クロスポリマーとシクロペンタシロキサンの混合物、エラストマー純分5質量%)、KSG-16((ジメチコン/ビニルジメチコン)クロスポリマーとジメチコン(6mm2/s)の混合物、エラストマー純分25質量%)、KSG-42A((ビニルジメチコン/ラウリルジメチコン)クロスポリマーとイソドデカンの混合物、エラストマー純分25質量%)、KSG-042Z((ラウリルポリジメチルシロキシエチルジメチコン/ビスビニルジメチコン)クロスポリマーとイソドデカンの混合物、エラストマー純分25質量%)、KSG-18A((ジメチコン/フェニルビニルジメチコン)クロスポリマーとジフェニルシロキシフェニルトリメチコンの混合物、エラストマー純分15質量%):ダウ・東レ社製のDOWSIL EL-9080 Silicone Elastomer Blend((ジメチコン/ビニルジメチコン)クロスポリマーとシクロペンタシロキサンの混合物、エラストマー純分13質量%)、DOWSIL EL-9048 Silicone Elastomer Blend(ジメチコンクロスポリマーとシクロペンタシロキサンの混合物、エラストマー純分13質量%)、DOWSIL EL-9048 ID Silicone Elastomer Blend(ジメチコンクロスポリマーとイソドデカンの混合物、エラストマー純分16質量%):Momentive社のSFE839((ジメチコン/ビニルジメチコン)クロスポリマーとシクロペンタシロキサンの混合物、エラストマー純分5.5質量%)、VELVESIL 125(セテアリルジメチコンクロスポリマーとシクロペンタシロキサンの混合物、エラストマー純分12.5質量%)、VELVESIL 034(アルキル(C30-45)セテアリルジメチコンクロスポリマーとカプリリルメチコンの混合物、エラストマー純分16質量%):Grant社製のGransil PC12(ポリシリコーン-11とイソドデカンの混合物、エラストマー純分11.5~14質量%)等を挙げることができる。
【0025】
乳化性シリコーンエラストマーを含むシリコーンゲル組成物の市販品としては、信越化学工業社製のKSG-210((ジメチコン/(PEG-10/15))クロスポリマーとジメチコン(6mm2/s)の混合物、エラストマー純分24質量%)、KSG-320((PEG-15/ラウリルジメチコン)クロスポリマーとイソドデカンの混合物、エラストマー純分20~30質量%)、KSG-820((ラウリルジメチコン/ポリグリセリン-3)クロスポリマーとイソドデカンの混合物、エラストマー純分20~30質量%)等を挙げることができる。
【0026】
本発明の皮膚外用組成物において、(B)成分のシリコーンゲル組成物の含有量は、シリコーンエラストマー(b-1)純分として、0.1~10質量%であり、好ましくは0.1~8質量%、より好ましくは0.2~6質量%である。シリコーンゲル組成物の含有量が過度に低い場合はべたついた使用感となり、過度に高い場合は、皮膚閉塞性が低下し、十分な保湿効果が得られない。
【0027】
本発明において、高い皮膚閉塞性とべたつきのなさを両立させるためには、(A)成分と(B)成分を特定比率で組み合わせて用いることが重要である。(A)成分に対する(b-1)成分の質量比[(b-1)/(A)]は、0.1/100~10/100とすることが必要であり、好ましくは0.1/100~8/100、より好ましくは0.2/100~5/100である。この質量比[(b-1)/(A)]が過度に低い場合はべたついた使用感となり、過度に高い場合は皮膚閉塞性が低下し、十分な保湿効果が得られない。
【0028】
本発明の皮膚外用組成物においては、(A)成分、(B)成分に加えて、さらに(C)成分として、シリコーンアクリレート皮膜形成剤を含むことができる。ワセリンは、べたつき感の他に使用時に伸ばしにくいという弱点を有しているが、シリコーンアクリレート皮膜形成剤を適当な溶剤、たとえば、25℃における動粘度が50mm2/s以下の低粘度油分に溶解させて配合すると、皮膚外用組成物の粘度を低下させることができ、その弱点を改善することができる。また、シリコーンアクリレート皮膜形成剤が柔軟な被膜を形成することから、保湿効果の持続性を期待できる。
【0029】
シリコーンアクリレート皮膜形成剤としては、例えば、アクリル-シリコーン系グラフト共重合体、ポリアルキルアクリレート骨格とアルキルエステル側鎖にグラフトされるシロキサンデンドロン構造を有するコポリマー等を挙げることができる。アクリル-シリコーン系グラフト共重合体としては、化粧品表示名称(アクリレーツ/ジメチコン)コポリマーを挙げることができ、予め溶剤に溶解させた市販品として、信越化学工業社製KP-545(30質量%シクロペンタシロキサン溶液)、KP-550(40質量%イソドデカン溶液)等を挙げることができる。ポリアルキルアクリレート骨格とアルキルエステル側鎖にグラフトされるシロキサンデンドロン構造を有するコポリマーとしては、化粧品表示名称(アクリレーツ/メタクリル酸ポリトリメチルシロキシ)コポリマーを挙げることができ、予め溶剤に溶解させた市販品として、ダウ・東レ社製FA4001CM(30質量%シクロペンタシロキサン溶液)、FA4002ID(40質量%イソドデカン溶液)等を挙げることができる。
【0030】
シリコーンアクリレート皮膜形成剤を配合する場合、その含有量(溶剤を除く)は0.1~10質量%であることが好ましく、より好ましくは、0.1~8質量%、さらに好ましくは0.2~6質量%である。シリコーンアクリレート皮膜形成剤の含有量が過度に多い場合は、保湿効果が低下する。
【0031】
本発明の皮膚外用組成物においては、さらに(D)成分として、シリコーンアクリレート球状粒子を含むことができる。シリコーンアクリレート球状粒子含有することにより、さらさらとした感触を付与し、ワセリンのべたつき感をさらに抑制することができる。シリコーンアクリレート球状粒子としては、例えば、アクリル-シリコーン系グラフト共重合体の球状粒子を挙げることができる。
【0032】
シリコーンアクリレート球状粒子の体積平均粒子径は、0.5~70μmであることが好ましい。より好ましくは、1~50μm、特に好ましくは、3~40μmである。粒子径が過度に小さい場合には、べたつき感の抑制効果が乏しく、粒子径が過度に大きい場合は、ざらつきを感じる。体積平均粒子径は、レーザー回折/散乱粒度分布測定装置(例えば堀場製作所製LA-950)を用いて測定することができる。本明細書において、球状とは、真球度が0.7~1であることを意味し、真球度は、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した粒子の各粒子における、短径/長径比の平均値として求めることができる。
【0033】
シリコーンアクリレート球状粒子は、市販品を用いることもでき、例えば、日信化学工業社製シャリーヌ R-170S(体積平均粒子径30μm)、R-200(体積平均粒子径2μm)を挙げることができる。
【0034】
シリコーンアクリレート球状粒子を配合する場合、その含有量は、0.1~10質量%であることが好ましく、より好ましくは、0.1~8質量%、さらに好ましくは0.2~6質量%である。シリコーンアクリレート球状粒子の含有量が過度に少ない場合は、べたつき感の抑制効果が乏しく、過度に多い場合は、保湿効果が低下する。
【0035】
本発明の皮膚外用組成物においては、さらに(E)成分として、炭素原子数6~12のアルキル基を有する液状のアルキル変性シリコーンを含むことができる。アルキル変性シリコーンには、(A)成分のワセリンと(B)成分のシリコーンゲル組成物の相溶性を調整する機能があり、この(E)成分を用いることによって、製造時や保存時の外用剤の分離を防ぐことができる。好ましいアルキル変性シリコーンの具体例としてカプリリルメチコンを挙げることができ、これはダウ・東レ社によりDOWSIL FZ-3196Fluidとして市販されている。
【0036】
(E)成分を配合する場合、その含有量は皮膚外用組成物全体に対し、0.1~20質量%であることが好ましく、より好ましくは、1~10質量%である。(E)成分が過度に多い場合は、保湿効果が不十分となる。
【0037】
本発明の皮膚外用組成物は、連続相が油性成分で構成されており、実質水性成分を含まないもの、好ましくは無水形態のものである。水性成分を含む場合でも、その含有量は5質量%以下であることが好ましく、より好ましくは1質量%以下である。水性成分を過度に含む場合は、閉塞性が低下し、保湿効果が低下する。
【0038】
本発明の皮膚外用組成物は、さらに、油溶性保湿成分(F)を含有することが好ましい。油溶性保湿成分としては、トコフェロール、トコトリエノール等のビタミンEおよびその誘導体;テトラヘキシルデカン酸アスコルビル等の油溶性アスコルビン酸誘導体;パルミチン酸レチノール等のレチノイド;グリチルレチン酸ステアリル等のグリチルレチン酸エステル;ルテイン、アスタキサンチン等のカロチノイド;油溶性甘草末等の油溶性植物抽出物を挙げることができる。
【0039】
本発明の皮膚外用組成物は、上記の各成分の他に、通常の化粧料に用いられる成分、例えば、上記以外の油性成分、上記以外の粉体、界面活性剤、油性ゲル化剤、多価アルコール類、低級アルコール、紫外線吸収剤、紫外線散乱剤、着色剤、水溶性保湿剤、香料、酸化防止剤、防腐剤、消泡剤、繊維、水溶性植物抽出物等を本発明の効果を損なわない範囲で含有することができる。
【0040】
本発明の皮膚外用組成物は、常法にしたがって調製することができる。たとえば、全原料を融点以上に加熱し、均一に混合した後、撹拌しながら冷却し、皮膚外用組成物とすることができる。また加熱均一混合の後、溶融状態のまま容器に充填し、冷却固化し、皮膚外用組成物とすることもできる。前者の場合は、クリーム状の外観を呈し、後者の場合は、固形またはバーム状の外観を呈する。
【0041】
本発明の皮膚外用組成物は、そのまま使用することもできるが、液化ガス又は圧縮ガスなどの噴射剤を組み合わせ、エアゾール式皮膚外用剤として使用することもできる。噴射剤としては、通常のエアゾール化粧料で使用される公知の液化ガス又は圧縮ガスでよく、例えば液化天然ガス(LPG)、ジメチルエーテル(DME)、イソペンタン、これらの混合物が挙げられる。これらの噴射剤は、適度な噴射速度を得るため、エアゾール式皮膚外用剤に5~90質量%、特に10~80質量%配合するのが好ましい。また、充填後のエアゾール缶の内圧が0.1~1MPa(25℃)となるように調節することが好ましい。
【0042】
本発明の皮膚外用組成物の用途としては、顔用保湿クリーム、ハンドクリーム、全身用クリーム、リップクリーム、膝用クリーム、かかと用クリーム等の皮膚用化粧品として好適に使用することができ、また、乾皮症、しもやけ・あかぎれ治療薬等としても使用することができる。
【実施例0043】
以下に実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、以下の記載における処方中の配合量は、特に断りのない限り全量に対する質量%である。また、以下の実施例および比較例における皮膚外用組成物の評価方法は、以下のとおりである。
【0044】
(べたつきのなさ、伸ばしやすさ、保湿感)
40~70代の男性評価パネリスト5名に評価用皮膚外用組成物を手、足等の乾燥の気になる部位に塗布してもらい、べたつきのなさ、伸ばしやすさ、保湿感について下記基準にしたがって官能評価を行った。評点は、評価パネリスト5名の評点の平均値である。
【0045】
(評価基準)
5:とてもそう思う
4:そう思う
3:どちらともいえない
2:そう思わない
1:全くそう思わない
【0046】
(閉塞性試験)
セロファン紙(トーヨー社製、厚さ約20μm)に評価用皮膚外用組成物を2mg/cm2の厚さに均一に塗布し、一晩室温で自然乾燥させた。30mLスクリュー管(アズワン社製、口径14.5mmφ)に精製水15.00gを秤りとり、スクリュー管の口に試料を塗布したセロファン紙を乗せて密栓状態にして固定し、全体の重量を測定した。セロファン紙で密栓状態にしたスクリュー管を40℃の恒温槽内に24時間静置後、再び全体の重量を測定し、減少した重量を水分蒸発量とした。セロファン紙に試料を塗布せずに試験したときの水分蒸発量をブランクとし、下記式により水分蒸発抑制率を算出した。水分蒸発抑制率は皮膚閉塞性を示す指標であり、この値が大きいほど皮膚閉塞性が高いことを示している。
水分蒸発抑制率(%)=100×(ブランクの水分蒸発量-サンプルの水分蒸発量)/ブランクの水分蒸発量
【0047】
実施例1~5及び比較例1~3
(皮膚外用組成物)
表1に示す処方の皮膚外用組成物を下記の製造手順に従って調製し、べたつきのなさ、伸ばしやすさ、保湿感、閉塞性ついて上記の方法により評価を行った。評価結果は表1に示すとおりである。
【0048】
(製造手順)
(1)表1に示す成分すべてを約60℃に加熱し、均一に混合する。
(2)撹拌しながら室温まで冷却し、クリーム状の皮膚外用組成物を得た。
【0049】
【0050】
表1の結果から、(A)成分および(B)成分を特定比率で含有する実施例1~6の皮膚外用組成物は、水分蒸発抑制率が高く(すなわち、皮膚閉塞性に優れており)、保湿感に優れており、かつ、べたつきが顕著に抑制されていることがわかる。(B)成分を含有しない比較例1の皮膚外用組成物は、水分蒸発抑制率が高く保湿感に優れているものの、べたつきが激しく、使用感において満足できるものではなかった。また、[(b-1)/(A)]比が0.1/100未満の場合(比較例2)は、べたつきの抑制効果が十分でなく、逆に10/100超の場合(比較例3)は、水分蒸発抑制率および保湿感が劣っていた。
【0051】
実施例7~10
(皮膚外用組成物)
表2に示す処方の皮膚外用組成物を上記と同様の製造手順に従って調製し、べたつきのなさ、保湿感、閉塞性ついて上記の方法により評価を行った。評価結果は表2に示すとおりである。
【0052】
【0053】
表2の結果から、実施例7、8の皮膚外用組成物は、水分蒸発抑制率が高く、保湿感に優れており、かつ、べたつきが顕著に抑制されていることがわかる。また、(C)成分としてシリコーンアクリレート皮膜形成剤を含有する実施例9、10の皮膚外用組成物は、それを含まない他の実施例(実施例1~8)の組成物に比べ、伸ばしやすいものであった。
【0054】
実施例9~14及び比較例4
(皮膚外用組成物)
表3に示す処方の皮膚外用組成物を上記と同様の製造手順に従って調製し、べたつきのなさ、保湿感、閉塞性ついて上記の方法により評価を行った。評価結果は表3に示すとおりである。
【0055】
【0056】
表3の結果から、(A)成分および(B)成分を特定比率で含有する実施例9~12の皮膚外用組成物は、水分蒸発抑制率が高く、保湿感に優れており、かつ、べたつきが顕著に抑制されていることがわかる。(A)成分の含有量および(b-1)/(A)比が本発明の範囲外である比較例4の皮膚外用組成物は、保湿性および閉塞性において満足すべきものではなかった。
【0057】
実施例15
(エアゾール式皮膚外用剤)
実施例10の皮膚外用組成物50質量部および噴射剤としてLPG(液化天然ガス)50質量部をエアゾール容器に充填し、エアゾール式皮膚外用剤を得た。このものは、手足等の広い部分に塗布しやすく、保湿性とべたつきのない使用感に優れるものであった。