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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024021741
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】電極および二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20240208BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240208BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240208BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20240208BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240208BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/62 Z
H01M4/36 C
H01M10/0566
H01M10/052
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022124791
(22)【出願日】2022-08-04
(71)【出願人】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001357
【氏名又は名称】弁理士法人つばさ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 一顕
(72)【発明者】
【氏名】池澤 慶太
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ02
5H029AJ05
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL02
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL11
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM05
5H029AM07
5H029HJ07
5H029HJ12
5H050AA02
5H050AA07
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB02
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050DA02
5H050DA10
5H050EA08
5H050FA18
5H050HA07
5H050HA12
(57)【要約】
【課題】優れた電池特性を得ることが可能である二次電池を提供する。
【解決手段】二次電池は、電極と、電解液とを備える。電極は、集電体と、その集電体により支持された活物質層とを備える。活物質層は、活物質および導電剤を含む。導電剤は、活物質の表面を被覆すると共に繊維状炭素材料を含む第1導電剤と、その活物質の周辺に分散されると共に粒子状炭素材料を含む第2導電剤とを含む。集電体から遠い側に位置する活物質層の表面をラマン分光分析することにより、導電剤の存在領域をラマンマッピングすると共に、その導電剤の存在領域を第1導電剤の存在領域と第2導電剤の存在領域とに分離した際、その活物質の存在領域の面積に対する第1導電剤の存在領域の面積の割合は60%以上90%以下であり、その第2導電剤の存在領域の面積は1.0μm2 以上5.0μm2 以下である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体と、
前記集電体により支持された活物質層と
を備え、
前記活物質層は、活物質および導電剤を含み、
前記導電剤は、
前記活物質の表面を被覆すると共に繊維状炭素材料を含む第1導電剤と、
前記活物質の周辺に分散されると共に粒子状炭素材料を含む第2導電剤と
を含み、
前記集電体から遠い側に位置する前記活物質層の表面をラマン分光分析することにより、前記導電剤の存在領域をラマンマッピングすると共に、前記導電剤の存在領域を前記第1導電剤の存在領域と前記第2導電剤の存在領域とに分離した際、
前記活物質の存在領域の面積に対する前記第1導電剤の存在領域の面積の割合は、60%以上90%以下であり、
前記第2導電剤の存在領域の面積は、1.0μm2 以上5.0μm2 以下である、
電極。
【請求項2】
前記繊維状炭素材料は、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーおよびカーボンナノホーンのうちの少なくとも1種を含み、
前記粒子状炭素材料は、カーボンブラック、アセチレンブラックおよびケッチェンブラックのうちの少なくとも1種を含む、
請求項1に記載の電極。
【請求項3】
請求項1に記載の電極と、
電解液と
を備えた、二次電池。
【請求項4】
前記電極は、正極である、
請求項3に記載の二次電池。
【請求項5】
リチウムイオン二次電池である、
請求項3に記載の二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、電極および二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話機などの多様な電子機器が普及しているため、小型かつ軽量であると共に高エネルギー密度が得られる電源として二次電池の開発が進められている。この二次電池は、電極および電解液を備えており、その電極は、活物質および導電剤を含んでいる。
【0003】
二次電池の構成に関しては、様々な検討がなされている。具体的には、電極の合剤層が活物質および導電剤を含んでおり、その導電剤がカーボンナノチューブなどを含んでおり、その合剤層中における導電剤の分布(凝集度、分散度合および体積割合など)が規定されている(例えば、特許文献1~4参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2018-521450号公報
【特許文献2】特開2006-100222号公報
【特許文献3】特開2006-054174号公報
【特許文献4】特開2010-253406号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
二次電池の構成に関して様々な検討がなされているが、その二次電池の電池特性は未だ十分でないため、改善の余地がある。
【0006】
よって、優れた電池特性を得ることが可能である電極および二次電池が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本技術の一実施形態の電極は、集電体と、その集電体により支持された活物質層とを備えたものである。活物質層は、活物質および導電剤を含む。導電剤は、活物質の表面を被覆すると共に繊維状炭素材料を含む第1導電剤と、その活物質の周辺に分散されると共に粒子状炭素材料を含む第2導電剤とを含む。集電体から遠い側に位置する活物質層の表面をラマン分光分析することにより、導電剤の存在領域をラマンマッピングすると共に、その導電剤の存在領域を第1導電剤の存在領域と第2導電剤の存在領域とに分離した際、その活物質の存在領域の面積に対する第1導電剤の存在領域の面積の割合は60%以上90%以下であり、その第2導電剤の存在領域の面積は1.0μm2 以上5.0μm2 以下である。
【0008】
本技術の一実施形態の二次電池は、電極と、電解液とを備え、その電極が上記した本技術の一実施形態の電極の構成を同様の構成を有するものである。
【0009】
なお、「活物質の存在領域の面積」、「第1導電剤の存在領域の面積」および「第2導電剤の存在領域の面積」のそれぞれは、上記した活物質層の表面のラマン分光分析結果に基づいて算出される。算出手順の詳細に関しては、後述する。
【発明の効果】
【0010】
本技術の一実施形態の電極または二次電池によれば、その電極が集電体および活物質層を備えており、その活物質層が活物質および導電剤を含んでおり、その導電剤が第1導電剤および第2導電剤を含んでおり、その活物質の表面を被覆する第1導電剤が繊維状炭素材料を含んでおり、その活物質の周辺に分散される第2導電剤が粒子状炭素材料を含んでおり、その活物質層の表面をラマン分光分析(ラマンマッピング)した際、その活物質の存在領域の面積に対する第1導電剤の存在領域の面積の割合が60%以上90%以下であり、その第2導電剤の存在領域の面積が1.0μm2 以上5.0μm2 以下であるので、優れた電池特性を得ることができる。
【0011】
なお、本技術の効果は、必ずしもここで説明された効果に限定されるわけではなく、後述する本技術に関連する一連の効果のうちのいずれの効果でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本技術の一実施形態における電極の構成を表す断面図である。
図2図1に示した活物質層の構成を拡大して模式的に表す断面図である。
図3図1に示した活物質層の表面における導電剤の分布を模式的に表す図である。
図4】本技術の一実施形態における二次電池の構成を表す斜視図である。
図5図4に示した電池素子の構成を表す断面図である。
図6】二次電池の適用例の構成を表すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本技術の一実施形態に関して、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、説明する順序は、下記の通りである。

1.電極
1-1.構成
1-2.2種類の物性条件
1-3.動作
1-4.製造方法
1-5.作用および効果
2.二次電池
2-1.構成
2-2.動作
2-3.製造方法
2-4.作用および効果
3.変形例
4.二次電池の用途
【0014】
<1.電極>
まず、本技術の一実施形態の電極に関して説明する。
【0015】
この電極の用途は、特に限定されないため、任意に設定可能である。電極の用途の具体例は、二次電池およびキャパシタなどの電気化学デバイスである。
【0016】
電気化学デバイスに電極が用いられる場合において、その電極は、正極として用いられてもよいし、負極として用いられてもよいし、正極および負極のそれぞれとして用いられてもよい。
【0017】
以下では、二次電池に電極が用いられる場合に関して説明する。ここで説明する二次電池は、電極反応物質の吸蔵放出を利用して電池容量が得られる二次電池であり、電極と共に電解液を備えている。
【0018】
<1-1.構成>
図1は、本技術の一実施形態の電極である電極100の断面構成を表していると共に、図2は、図1に示した活物質層120の断面構成を拡大して模式的に表している。
【0019】
ただし、図2では、活物質層120の主要な構成要素である複数の活物質121および複数の導電剤122(複数の被覆導電剤122Xおよび複数の分散導電剤122Y)を示している。また、図2では、図示内容を簡略化するために、複数の活物質121および複数の導電剤122のそれぞれが規則的に配列された状態を示している。
【0020】
この電極100は、図1および図2に示したように、集電体110および活物質層120を備えている。
【0021】
[集電体]
集電体110は、図1に示したように、活物質層120が設けられる一対の面(上面および下面)を有しており、金属材料などの導電性材料を含んでいる。導電性材料の種類は、電極100の用途(正極または負極)などに応じて任意に選択可能であり、その導電性材料の詳細に関しては、後述する。
【0022】
[活物質層]
活物質層120は、図1および図2に示したように、集電体110の上に設けられているため、その集電体110により支持されている。この活物質層120は、活物質121および導電剤122を含んでいる。ただし、活物質層120は、さらに、結着剤などの他の材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。
【0023】
ここでは、活物質層120は、集電体110の両面に設けられているため、電極100は、2個の活物質層120を含んでいる。ただし、活物質層120は、集電体110の片面(上面または下面)だけに設けられているため、電極100は、1個の活物質層120だけを含んでいてもよい。活物質層120の形成方法は、特に限定されないが、具体的には、塗布法、気相法、液相法、溶射法および焼成法(焼結法)などのうちのいずれか1種類または2種類以上である。
【0024】
この活物質層120は、厚さ方向Tにおいて集電体110から遠い側に位置する表面Sを有している。この「厚さ方向T」とは、集電体110から活物質層120に向かう方向であり、すなわち図1中の縦方向である。
【0025】
ここでは、2個の活物質層120のうちの一方の活物質層120、より具体的には集電体110の上面に設けられている活物質層120に着目しているため、その活物質層120の上面を表面Sとしている。
【0026】
ただし、図1では、図示内容を簡略化するために符号を省略しているが、2個の活物質層120のうちの他方の活物質層120、より具体的には集電体110の下面に設けられている活物質層120に着目すれば、その活物質層120の下面を表面Sとしてもよい。すなわち、表面Sは、集電体110の上方に配置されている活物質層120の上面でもよいし、その集電体110の下方に配置されている活物質層120の下面でもよい。
【0027】
(活物質)
活物質121は、複数の粒子状である。複数の粒子状である活物質121のそれぞれは、電極反応物質を吸蔵放出するために、その電極反応物質を吸蔵放出可能である電極材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。電極材料の種類は、電極100の用途(正極または負極)などに応じて任意に選択可能であり、その電極材料の詳細に関しては、後述する。なお、活物質121の形状は、特に限定されないため、円形に限られずに他の形状でもよい。
【0028】
(導電剤)
導電剤122は、活物質層120の導電性を向上させるために導電性材料を含んでおり、より具体的には、その導電性材料として2種類の炭素材料を含んでいる。これにより、導電剤122は、被覆導電剤122Xおよび分散導電剤122Yを含んでいる。
【0029】
被覆導電剤122Xは、活物質121の表面を被覆する第1導電剤であり、複数の被膜状である。この被覆導電剤122Xは、1種類目の炭素材料である繊維状炭素材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。
【0030】
すなわち、被覆導電剤122Xは、活物質121の表面に位置しているため、分散導電剤122Yよりも活物質121に近い位置に配置されている。これにより、活物質121の表面では、電極反応物質の吸蔵放出性が担保されながら、被覆導電剤122Xを利用して導電性が向上している。
【0031】
繊維状炭素材料は、細長い繊維状の形状を有する炭素材料である。繊維状炭素材料の種類は、特に限定されないが、具体的には、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーおよびカーボンナノホーンなどである。後述する2種類の物性条件のうちの1種類目の物性条件(割合R)が満たされやすくなるからである。
【0032】
分散導電剤122Yは、活物質121の周辺に分散されている第2導電剤であり、複数の粒子状である。この分散導電剤122Yは、2種類目の炭素材料である粒子状炭素材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。
【0033】
すなわち、分散導電剤122Yは、互いに隣り合う2個以上の活物質121の間に位置しているため、被覆導電剤122Xよりも活物質121から遠い位置に配置されている。これにより、2個以上の活物質121は、1個以上の分散導電剤122Yを介して互いに電気的に接続されているため、その2個以上の活物質121の間では、その分散導電剤122Yを利用して導電性が向上している。
【0034】
粒子状炭素材料は、略粒子状の形状を有する炭素材料である。粒子状炭素材料の種類は、特に限定されないが、具体的には、カーボンブラック、アセチレンブラックおよびケッチェンブラックなどである。後述する2種類の物性条件のうちの2種類目の物性条件(面積M3)が満たされやすくなるからである。
【0035】
導電剤122が被覆導電剤122Xおよび分散導電剤122Yを含んでいるのは、その被覆導電剤122Xを利用して電極反応物質の吸蔵放出性が担保されながら活物質121の表面の導電性が向上すると共に、その分散導電剤122Yを利用して複数の活物質121間の導電性も向上するからである。これにより、活物質層120の導電性が著しく向上する。
【0036】
被覆導電剤122Xと分散導電剤122Yとの混合比(重量比)は、特に限定されないため、電極100の用途(正極または負極)などに応じて任意に設定可能である。
【0037】
ただし、導電剤122は、さらに、他の導電性材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。他の導電性材料の種類は、特に限定されないが、具体的には、金属材料および導電性高分子化合物などである。
【0038】
(結着剤)
結着剤は、複数の活物質121などを互いに結着させるために、合成ゴムおよび高分子化合物などのうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。合成ゴムおよび高分子化合物のそれぞれの種類は、電極100の用途(正極または負極)などに応じて任意に選択可能であり、その合成ゴムおよび高分子化合物のそれぞれの詳細に関しては、後述する。
【0039】
<1-2.2種類の物性条件>
電極100の物性に関しては、以下で説明する2種類の条件(以下、「2種類の物性条件」と呼称する。)が満たされている。
【0040】
図3は、図1に示した活物質層120の表面Sにおける導電剤122の分布を模式的に表している。この導電剤122は、上記したように、被覆導電剤122Xおよび分散導電剤122Yを含んでいる。
【0041】
以下では、活物質121の存在領域および導電剤122の存在領域のそれぞれの特定手順と、その導電剤122の存在領域の分離手順と、活物質121の存在領域の面積、被覆導電剤122Xの存在領域の面積および分散導電剤122Yの存在領域の面積のそれぞれの特定手順とに関して説明したのち、2種類の物性条件に関して説明する。
【0042】
[導電剤の存在領域の特定手順]
導電剤122の存在領域を特定する場合には、ラマン分光分析法を用いて活物質層120の表面Sをラマン分光分析することにより、分析結果であるラマンスペクトル(図示せず)を取得する。この場合には、分析用の光源としてアルゴンレーザ光(波長=532nm)を用いる。また、活物質層120の表面Sの一部(図1に示した部分P)にレーザ光を照射することにより、分析範囲=72μm×33μmとする。
【0043】
このラマンスペクトルでは、波長が2400cm-1~2800cm-1である範囲内にG’バンドのピークが検出される。このピークは、2種類の炭素材料(繊維状炭素材料および粒子状炭素材料)を含んでいる導電剤122(被覆導電剤122Xおよび分散導電剤122Y)の存在に起因して発生するピークである。
【0044】
こののち、導電剤122の存在領域をラマンマッピングすることにより、図3に示したように、その導電剤122の分布が取得されるため、その導電剤122の存在領域が特定される。この分布は、ピークの強度に応じて導電剤122の存在量が色分けされたマップである。ただし、図3では、図示内容を簡略化するために、導電剤122の存在量を色分けしておらずに、その導電剤122の存在領域に網掛けを施している。
【0045】
[活物質の存在領域の特定手順]
図3に示した活物質層120の表面Sの一部(部分P)の範囲内には、複数の粒子状の活物質121が存在している。これにより、部分Pの範囲を活物質121の存在領域とする。すなわち、活物質121の存在領域は、分析範囲(=72μm×33μm)と等しい範囲である。
【0046】
なお、活物質層120は、上記したように、さらに、結着剤を含んでいてもよい。しかしながら、G’バンドのピークを用いた活物質層120の表面Sのラマン分光分析結果(ラマンマッピング)では、結着剤の存在を検出することができない。これにより、結着剤の存在は、活物質121の存在領域および導電剤122の存在領域のそれぞれの特定に関してほとんど影響を及ぼさない。よって、ここでは、活物質層120が結着剤を含んでいたとしても、その結着剤の存在領域を考慮しなくてよい。
【0047】
[導電剤の存在領域の分離手順]
図3に示した導電剤122の分布では、上記したように、ピークの強度に応じて導電剤122の存在量が色分けされている。これにより、ピークの強度に基づいて、導電剤122の存在領域を被覆導電剤122Xの存在領域と分散導電剤122Yの存在領域とに分離する。
【0048】
具体的には、導電剤122の分布では、活物質層120中における導電剤122の存在領域を特定できるが、被覆導電剤122Xの存在領域および分散導電剤122Yのそれぞれを特定できない。
【0049】
そこで、ピークの強度、すなわちピークの強度に基づいて設定される相対値(段階値)に基づいて、導電剤122の存在領域を被覆導電剤122Xの存在領域と分散導電剤122Yの存在領域とに区別する。
【0050】
ここでは、ピークの強度を101段階の段階値となるように段階分けする。この場合には、1段階目においてピークの強度が最も小さくなるため、その1段階目の段階値が最小値(=0)となるように設定される。また、101段階目においてピークの強度が最も大きくなるため、その101段階目の段階値が最大値(=100)となるように設定される。
【0051】
これにより、段階値が0~29である領域を分散導電剤122Yの存在領域とすると共に、段階値が30~100である領域を被覆導電剤122Xの存在領域とする。分散導電剤122Yの存在領域では、段階値(=0~29)が大きいほど分散導電剤122Y(粒子状炭素材料)の存在量が大きいことになる。被覆導電剤122Xの存在領域では、段階値(=30~100)が大きいほど被覆導電剤122X(繊維状炭素材料)の存在量が大きいことになる。
【0052】
よって、ピークの強度に応じて設定される段階値に基づいて、導電剤122の存在領域が被覆導電剤122Xの存在領域と分散導電剤122Yの存在領域とに分離される。
【0053】
[存在領域の面積の特定手順]
活物質121の存在領域の面積M1を特定する場合には、上記したラマンマッピングに基づいて、活物質121の存在領域(=分析範囲)に含まれているピクセルをカウントすることにより、その面積M1(μm2 )を特定する。
【0054】
被覆導電剤122Xの存在領域の面積M2を特定する場合には、上記したラマンマッピングに基づいて、被覆導電剤122Xの存在領域に含まれているピクセルをカウントすることにより、その面積M2(μm2 )を特定する。
【0055】
分散導電剤122Yの存在領域の面積M3を特定する場合には、上記したラマンマッピングに基づいて、分散導電剤122Yの存在領域に含まれているピクセルをカウントすることにより、その面積M3(μm2 )を算出する。
【0056】
[2種類の物性条件]
電極100に関しては、以下で説明する2種類の物性条件が満たされている。
【0057】
第1に、活物質121の存在領域の面積M1に対する被覆導電剤122Xの存在領域の面積M2の割合Rは、60%~90%である。この割合Rは、いわゆる活物質121の表面に対する被覆導電剤122Xの被覆率を表すパラメータである。ただし、割合Rは、小数点第一位の値が四捨五入された値とする。
【0058】
第2に、分散導電剤122Yの存在領域の面積M3は、1.0μm2 ~5.0μm2 である。この面積M3は、いわゆる活物質層120中に分散されている分散導電剤122Yの占有面積を表すパラメータである。ただし、面積M3は、小数点第二位の値が四捨五入された値とする。
【0059】
2種類の物性条件が満たされているのは、活物質層120が活物質121と共に導電剤122(被覆導電剤122Xおよび分散導電剤122Y)を含んでいる場合において、面積M1,M2,M3間の関係が相互に適正化されるからである。これにより、活物質層120において、電極反応物質の吸蔵放出性が担保されながら、導電性が著しく向上する。なお、ここで説明した理由の詳細に関しては、後述する。
【0060】
(算出手順)
上記した特定手順により、面積M1,M2,M3のそれぞれを特定したのち、その面積M1,M2に基づいて割合Rを特定する。すなわち、R=(M2/M1)×100という計算式に基づいて、割合Rを算出する。
【0061】
ただし、面積M1は、互いに異なる10箇所における活物質層120の表面S1の分析結果に基づいて算出される10個の面積の平均値である。このように10個の面積の平均値であることは面積M2,M3のそれぞれに関しても同様である。
【0062】
<1-3.動作>
電極100では、電極反応時において、活物質121から電極反応物質が放出されると共に、その活物質121において電極反応物質が吸蔵される。この場合には、電極反応物質がイオン状態で吸蔵放出される。
【0063】
<1-4.製造方法>
以下では、電極100の製造方法の一例として、結着剤を用いると共に、活物質層120の形成方法として塗布法を用いる場合に関して説明する。
【0064】
電極100を製造する場合には、最初に、粉末状の粒子状繊維材料と、粉末状の結着剤とを互いに混合させることにより、混合物を得る。続いて、溶媒に混合物を投入したのち、必要に応じて溶媒を撹拌することにより、ペースト状の混合スラリーを調製する。この溶媒は、水性溶媒でもよいし、有機溶剤でもよい。
【0065】
続いて、混合スラリーに粉末状の活物質121を投入したのち、その混合スラリーを撹拌することにより、ペースト状の合剤スラリーを調製する。この場合には、攪拌機を用いて混合スラリーを十分に撹拌してもよい。
【0066】
続いて、合剤スラリーに粉末状の繊維状炭素材料を投入したのち、その合剤スラリーを撹拌することにより、ペースト状の電極スラリーを調製する。この場合には、攪拌機を用いて合剤スラリーを十分に撹拌してもよい。
【0067】
続いて、集電体110の両面に電極スラリーを塗布したのち、その電極スラリーを乾燥させる。これにより、活物質121の表面に繊維状炭素材料を含む被覆導電剤122Xが形成されると共に、その活物質121の周辺に粒子状炭素材料を含む分散導電剤122Yが形成される。よって、活物質121および導電剤122(被覆導電剤122Xおよび分散導電剤122Y)を含む活物質層120が形成される。
【0068】
最後に、ロールプレス機などのプレス機を用いて活物質層120を圧縮成型してもよい。この場合には、活物質層120を加熱してもよいし、圧縮成型を複数回繰り返してもよい。
【0069】
これにより、図1および図2に示したように、集電体110および活物質層120を備えた電極100が完成する。
【0070】
この電極100を製造する場合には、混合スラリーおよび合剤スラリーのそれぞれの撹拌条件を変更すると共に、電極スラリーの乾燥条件を変更することにより、繊維状炭素材料および粒子状炭素材料のそれぞれの分布が変化する。これにより、所定の値となるように面積M1,M2,M3のそれぞれが設定されるため、所定の値となるように割合Rが設定される。
【0071】
<1-5.作用および効果>
この電極100によれば、その電極100が集電体110および活物質層120を備えており、その活物質層120が活物質121および導電剤122を含んでおり、その導電剤122が被覆導電剤122X(繊維状炭素材料)および分散導電剤122Y(粒子状炭素材料)を含んでいる。また、活物質層120の表面Sのラマン分光分析結果(ラマンマッピング)に関して、2種類の物性条件(割合R=60%~90%および面積M3=1.0μm2 ~5.0μm2 )が満たされている。
【0072】
この場合には、上記したように、活物質層120が活物質121と共に導電剤122(被覆導電剤122Xおよび分散導電剤122Y)を含んでいる場合において、面積M1,M2,M3間の関係が相互に適正化される。
【0073】
これにより、第1に、被覆導電剤122Xが互いに集合(凝集)せずに活物質121の表面を被覆するように配置されやすくなるため、その活物質121の表面の電気抵抗が低下する。よって、活物質121の表面の導電性が向上すると共に、その活物質121において電極反応物質が吸蔵放出されやすくなる。
【0074】
第2に、分散導電剤122Yが互いに集合(凝集)せずに活物質121の周辺に分散されやすくなるため、その分散導電剤122Yを利用した導電パスが複数の活物質121間に形成されやすくなる。よって、複数の活物質121が分散導電剤122Yを介して互いに電気的に接続されやすくなるため、その複数の活物質121の間の導電性が向上する。
【0075】
この場合には、さらに、分散導電剤122Yを利用した導電パスが複数の活物質121と集電体110との間にも形成されやすくなる。よって、複数の活物質121と集電体110とが分散導電剤122Yを介して互いに電気的に接続されやすくなるため、その集電体110と活物質層120との間の導電性も向上する。
【0076】
第3に、分散導電剤122Yが分散されやすくなることに応じて、活物質121と共に電解液を用いた二次電池において、被覆導電剤122Xの存在が活物質層120に対する電解液の含浸を阻害しにくくなる。よって、被覆導電剤122Xを用いても活物質層120に電解液が含浸されやすくなるため、その活物質層120による電解液の保持量が担保される。
【0077】
これらのことから、活物質層120において、電極反応物質の吸蔵放出性が担保されながら、導電性が著しく向上する。よって、電極100を用いた二次電池において、優れた電池特性を得ることができる。
【0078】
これにより、電極100を用いた二次電池では、充電電圧の上限値を高くしても、より具体的には4.45V以上に到達するまで充電電圧の上限値を高くしても、優れた電池特性が得られるため、高容量化などが実現される。
【0079】
特に、繊維状炭素材料がカーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーおよびカーボンナノホーンのうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいると共に、粒子状炭素材料がカーボンブラック、アセチレンブラックおよびケッチェンブラックのうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいれば、2種類の物性条件が満たされやすくなる。よって、活物質層120において電極反応物質の吸蔵放出性が十分に向上すると共に導電性も十分に向上するため、より高い効果を得ることができる。
【0080】
<2.二次電池>
次に、上記した電極を用いた本技術の一実施形態の二次電池に関して説明する。
【0081】
ここで説明する二次電池は、上記したように、電極反応物質の吸蔵放出を利用して電池容量が得られる二次電池であり、電極と共に電解液を備えている。
【0082】
電極反応物質の種類は、特に限定されないが、具体的には、アルカリ金属およびアルカリ土類金属などの軽金属である。アルカリ金属の具体例は、リチウム、ナトリウムおよびカリウムなどであると共に、アルカリ土類金属の具体例は、ベリリウム、マグネシウムおよびカルシウムなどである。
【0083】
以下では、電極反応物質がリチウムであると共に、電極が正極として用いられる場合に関して説明する。リチウムの吸蔵放出を利用して電池容量が得られる二次電池は、いわゆるリチウムイオン二次電池であり、そのリチウムイオン二次電池では、リチウムがイオン状態で吸蔵放出される。
【0084】
この二次電池では、負極の充電容量が正極の放電容量よりも大きくなっている。すなわち、負極の単位面積当たりの電気化学容量は、正極の単位面積当たりの電気化学容量よりも大きくなるように設定されている。充電途中において負極の表面に電極反応物質が析出することを防止するためである。
【0085】
<2-1.構成>
図4は、二次電池の斜視構成を表していると共に、図5は、図4に示した電池素子20の断面構成を表している。ただし、図4では、外装フィルム10と電池素子20とが互いに分離された状態を示していると共に、XZ面に沿った電池素子20の断面を破線で示している。
【0086】
この二次電池は、図4および図5に示したように、外装フィルム10と、電池素子20と、正極リード31と、負極リード32と、封止フィルム41,42とを備えている。ここで説明する二次電池は、可撓性または柔軟性を有する外装部材(外装フィルム10)を用いたラミネートフィルム型の二次電池である。
【0087】
[外装フィルム]
外装フィルム10は、図4に示したように、電池素子20を収納する外装部材であり、その電池素子20が内部に収納された状態において封止された袋状の構造を有している。これにより、外装フィルム10は、後述する正極21および負極22と共に電解液を内部に収納している。
【0088】
ここでは、外装フィルム10は、1枚のフィルム状の部材であり、折り畳み方向Fに折り畳まれている。この外装フィルム10には、電池素子20を収容するための窪み部10U(いわゆる深絞り部)が設けられている。
【0089】
具体的には、外装フィルム10は、融着層、金属層および表面保護層が内側からこの順に積層された3層のラミネートフィルムであり、互いに対向する融着層のうちの外周縁部同士は、外装フィルム10が折り畳まれた状態において互いに融着されている。融着層は、ポリプロピレンなどの高分子化合物を含んでいる。金属層は、アルミニウムなどの金属材料を含んでいる。表面保護層は、ナイロンなどの高分子化合物を含んでいる。
【0090】
ただし、外装フィルム10の構成(層数)は、特に、限定されないため、1層または2層でもよいし、4層以上でもよい。
【0091】
[電池素子]
電池素子20は、図4および図5に示したように、正極21と、負極22と、セパレータ23と、電解液(図示せず)とを含む発電素子であり、外装フィルム10の内部に収納されている。
【0092】
この電池素子20は、いわゆる巻回電極体である。すなわち、正極21および負極22は、セパレータ23を介して互いに積層されていると共に、そのセパレータ23を介して互いに対向しながら巻回軸Pを中心として巻回されている。この巻回軸Pは、Y軸方向に延在する仮想軸である。
【0093】
電池素子20の立体的形状は、特に限定されない。ここでは、電池素子20の立体的形状は、扁平状であるため、巻回軸Pと交差する電池素子20の断面(XZ面に沿った断面)の形状は、長軸J1および短軸J2により規定される扁平形状である。長軸J1は、X軸方向に延在すると共に短軸J2の長さよりも大きい長さを有する仮想軸である。短軸J2は、X軸方向と交差するZ軸方向に延在すると共に長軸J1の長さよりも小さい長さを有する仮想軸である。ここでは、電池素子20の立体的形状は、扁平な円筒状であるため、その電池素子20の断面の形状は、扁平な略楕円形状である。
【0094】
(正極)
正極21は、電極100の構成と同様の構成を有している。具体的には、正極21は、図5に示したように、集電体110に対応する正極集電体21Aと、活物質層120に対応する正極活物質層21Bとを含んでいる。
【0095】
正極集電体21Aは、集電体110の構成と同様の構成を有している。この正極集電体21Aは、正極活物質層21Bが設けられる一対の面を有している。また、正極集電体21Aは、金属材料などの導電性材料を含んでおり、その導電性材料の具体例は、アルミニウムなどである。
【0096】
正極活物質層21Bは、活物質層120の構成と同様の構成を有している。すなわち、正極活物質層21Bは、正極21の活物質121である正極活物質と、その正極21の導電剤122(被覆導電剤122Xおよび分散導電剤122Y)である正極導電剤とを含んでいる。ただし、正極活物質層21Bは、さらに、正極21の結着剤である正極結着剤などの他の材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。正極活物質層21Bの形成方法に関する詳細は、電極100の製造方法と同様である。
【0097】
ここでは、正極活物質層21Bは、正極集電体21Aの両面に設けられている。ただし、正極活物質層21Bは、正極21が負極22に対向する側において正極集電体21Aの片面だけに設けられていてもよい。
【0098】
正極活物質の種類は、特に限定されないが、具体的には、リチウムを吸蔵放出するリチウム含有化合物などである。このリチウム含有化合物は、リチウムと共に1種類または2種類以上の遷移金属元素を構成元素として含む化合物であり、さらに、1種類または2種類以上の他元素を構成元素として含んでいてもよい。他元素の種類は、リチウムおよび遷移金属元素のそれぞれ以外の元素であれば、特に限定されないが、具体的には、長周期型周期表中の2族~15族に属する元素である。リチウム含有化合物の種類は、特に限定されないが、具体的には、酸化物、リン酸化合物、ケイ酸化合物およびホウ酸化合物などである。
【0099】
酸化物の具体例は、LiNiO2 、LiCoO2 、LiCo0.98Al0.01Mg0.012 、LiNi0.5 Co0.2 Mn0.3 2 およびLiMn2 4 などである。リン酸化合物の具体例は、LiFePO4 、LiMnPO4 およびLiFe0.5 Mn0.5 PO4 などである。
【0100】
正極結着剤は、合成ゴムおよび高分子化合物などのうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。合成ゴムの具体例は、スチレンブタジエン系ゴム、フッ素系ゴムおよびエチレンプロピレンジエンなどである。高分子化合物の具体例は、ポリフッ化ビニリデン、ポリイミドおよびカルボキシメチルセルロースなどである。
【0101】
(負極)
負極22は、図5に示したように、負極集電体22Aおよび負極活物質層22Bを含んでいる。
【0102】
負極集電体22Aは、負極活物質層22Bが設けられる一対の面を有している。この負極集電体22Aは、金属材料などの導電性材料を含んでおり、その導電性材料の具体例は、銅などである。
【0103】
負極活物質層22Bは、リチウムを吸蔵放出する負極活物質のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。ただし、負極活物質層22Bは、さらに、負極結着剤および負極導電剤などの他の材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。
【0104】
ここでは、負極活物質層22Bは、負極集電体22Aの両面に設けられている。ただし、負極活物質層22Bは、負極22が正極21に対向する側において負極集電体22Aの片面だけに設けられていてもよい。負極活物質層22Bの形成方法は、特に限定されないが、具体的には、塗布法、気相法、液相法、溶射法および焼成法(焼結法)などのうちのいずれか1種類または2種類以上である。
【0105】
負極活物質の種類は、特に限定されないが、具体的には、炭素材料および金属系材料などである。高いエネルギー密度が得られるからである。なお、負極活物質は、炭素材料だけを含んでいてもよいし、金属系材料だけを含んでいてもよいし、双方を含んでいてもよい。
【0106】
炭素材料の具体例は、易黒鉛化性炭素、難黒鉛化性炭素および黒鉛(天然黒鉛および人造黒鉛)などである。
【0107】
金属系材料は、リチウムと合金を形成可能である金属元素および半金属元素のうちのいずれか1種類または2種類以上を構成元素として含む材料であり、その金属元素および半金属元素の具体例は、ケイ素およびスズなどである。この金属系材料は、単体でもよいし、合金でもよいし、化合物でもよいし、それらの2種類以上の混合物でもよいし、それらの2種類以上の相を含む材料でもよい。金属系材料の具体例は、TiSi2 およびSiOx (0<x≦2、または0.2<x<1.4)などである。
【0108】
負極結着剤に関する詳細は、正極結着剤に関する詳細と同様である。負極導電剤は、炭素材料などの導電性材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでおり、その炭素材料の具体例は、黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラックおよびケッチェンブラックなどである。ただし、導電性材料は、金属材料および高分子化合物などでもよい。
【0109】
(セパレータ)
セパレータ23は、図5に示したように、正極21と負極22との間に介在している絶縁性の多孔質膜であり、その正極21と負極22との接触(短絡)を防止しながらリチウムイオンを通過させる。このセパレータ23は、ポリエチレンなどの高分子化合物を含んでいる。
【0110】
(電解液)
電解液は、液状の電解質である。この電解液は、正極21、負極22およびセパレータ23のそれぞれに含浸されており、溶媒および電解質塩を含んでいる。
【0111】
ここでは、溶媒は、非水溶媒(有機溶剤)のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでおり、その非水溶媒を含んでいる電解液は、いわゆる非水電解液である。この非水溶媒は、エステル類およびエーテル類などを含んでおり、より具体的には、炭酸エステル系化合物、カルボン酸エステル系化合物およびラクトン系化合物などを含んでいる。電解質塩の解離性およびイオンの移動度が向上するからである。
【0112】
炭酸エステル系化合物は、環状炭酸エステルおよび鎖状炭酸エステルである。環状炭酸エステルの具体例は、炭酸エチレンおよび炭酸プロピレンなどであると共に、鎖状炭酸エステルの具体例は、炭酸ジメチル、炭酸ジエチルおよび炭酸エチルメチルなどである。
【0113】
カルボン酸エステル系化合物は、鎖状カルボン酸エステルなどである。鎖状カルボン酸エステルの具体例は、酢酸エチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピルおよびトリメチル酢酸エチルなどである。
【0114】
ラクトン系化合物は、ラクトンなどである。ラクトンの具体例は、γ-ブチロラクトンおよびγ-バレロラクトンなどである。
【0115】
なお、エーテル類は、1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,3-ジオキソランおよび1,4-ジオキサンなどでもよい。
【0116】
電解質塩は、リチウム塩などの軽金属塩のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。リチウム塩の具体例は、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6 )、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4 )、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF3 SO3 )、ビス(フルオロスルホニル)イミドリチウム(LiN(FSO2 2 )、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(CF3 SO2 2 )、リチウムトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチド(LiC(CF3 SO2 3 )、ビス(オキサラト)ホウ酸リチウム(LiB(C2 4 2 )、モノフルオロリン酸リチウム(Li2 PFO3 )およびジフルオロリン酸リチウム(LiPF2 2 )などである。高い電池容量が得られるからである。
【0117】
電解質塩の含有量は、特に限定されないが、具体的には、溶媒に対して0.3mol/kg~3.0mol/kgである。高いイオン伝導性が得られるからである。
【0118】
なお、電解液は、さらに、添加剤のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。添加剤の種類は、特に限定されないが、具体的には、不飽和環状炭酸エステル、ハロゲン化環状炭酸エステル、スルホン酸エステル、リン酸エステル、酸無水物、ニトリル化合物およびイソシアネート化合物などである。
【0119】
不飽和環状炭酸エステルの具体例は、炭酸ビニレン、炭酸ビニルエチレンおよび炭酸メチレンエチレンなどである。ハロゲン化環状炭酸エステルの具体例は、モノフルオロ炭酸エチレンおよびジフルオロ炭酸エチレンなどである。スルホン酸エステルの具体例は、プロパンスルトンおよびプロペンスルトンなどである。リン酸エステルの具体例は、リン酸トリメチルおよびリン酸トリエチルなどである。酸無水物の具体例は、コハク酸無水物、1,2-エタンジスルホン酸無水物および2-スルホ安息香酸無水物などである。ニトリル化合物の具体例は、スクシノニトリルなどである。イソシアネート化合物の具体例は、ヘキサメチレンジイソシアネートなどである。
【0120】
[正極リードおよび負極リード]
正極リード31は、図4および図5に示したように、正極21の正極集電体21Aに接続されている正極端子であり、外装フィルム10の外部に導出されている。この正極リード31は、金属材料などの導電性材料を含んでおり、その導電性材料の具体例は、アルミニウムなどである。正極リード31の形状は、特に限定されないが、具体的には、薄板状および網目状などのうちのいずれかである。
【0121】
負極リード32は、図4および図5に示したように、負極22の負極集電体22Aに接続されている負極端子であり、外装フィルム10の外部に導出されている。この負極リード32は、金属材料などの導電性材料を含んでおり、その導電性材料の具体例は、銅などである。ここでは、負極リード32の導出方向および形状に関する詳細は、正極リード31の導出方向および形状と同様である。
【0122】
[封止フィルム]
封止フィルム41は、図4に示したように、外装フィルム10と正極リード31との間に挿入されている。封止フィルム42は、図4に示したように、外装フィルム10と負極リード32との間に挿入されている。ただし、封止フィルム41,42のうちの一方または双方は、省略されてもよい。
【0123】
この封止フィルム41は、外装フィルム10の内部に外気などが侵入することを防止する封止部材である。なお、封止フィルム41は、正極リード31に対して密着性を有するポリオレフィンなどの高分子化合物を含んでおり、そのポリオレフィンの具体例は、ポリプロピレンなどである。
【0124】
封止フィルム42の構成は、負極リード32に対して密着性を有する封止部材であることを除いて、封止フィルム41の構成と同様である。すなわち、封止フィルム42は、負極リード32に対して密着性を有するポリオレフィンなどの高分子化合物を含んでいる。
【0125】
<2-2.動作>
二次電池は、以下のように動作する。
【0126】
充電時には、電池素子20において、正極21からリチウムが放出されると共に、そのリチウムが電解液を介して負極22に吸蔵される。一方、放電時には、電池素子20において、負極22からリチウムが放出されると共に、そのリチウムが電解液を介して正極21に吸蔵される。これらの充放電時には、リチウムがイオン状態で吸蔵放出される。
【0127】
この場合には、特に、正極21が電極100の構成と同様の構成を有しているため、上記したように、充電時において充電電圧(リチウム金属基準)の上限値を高くすることが可能である。
【0128】
<2-3.製造方法>
二次電池を製造する場合には、以下で説明する一例の手順により、正極21および負極22のそれぞれを作製すると共に、電解液を調製したのち、その正極21、負極22および電解液を用いて二次電池を組み立てると共に、その組み立て後の二次電池に安定化処理を施す。
【0129】
[正極の作製]
電極100の作製手順と同様の手順により、正極集電体21Aおよび正極活物質層21Bを含む正極21を作製する。
【0130】
[負極の作製]
最初に、負極活物質、負極結着剤および負極導電剤が互いに混合された混合物(負極合剤)を溶媒に投入することにより、ペースト状の負極合剤スラリーを調製する。この溶媒は、水性溶媒でもよいし、有機溶剤でもよい。続いて、負極集電体22Aの両面に負極合剤スラリーを塗布することにより、負極活物質層22Bを形成する。最後に、ロールプレス機などを用いて負極活物質層22Bを圧縮成型してもよい。この場合には、負極活物質層22Bを加熱してもよいし、圧縮成型を複数回繰り返してもよい。これにより、負極集電体22Aの両面に負極活物質層22Bが形成されるため、負極22が作製される。
【0131】
[電解液の調製]
溶媒に電解質塩を投入する。これにより、溶媒中において電解質塩が分散または溶解されるため、電解液が調製される。
【0132】
[二次電池の組み立て]
最初に、溶接法などの接合法を用いて、正極21の正極集電体21Aに正極リード31を接続させると共に、溶接法などの接合法を用いて、負極22の負極集電体22Aに負極リード32を接続させる。
【0133】
続いて、セパレータ23を介して正極21および負極22を互いに積層させたのち、その正極21、負極22およびセパレータ23を巻回させることにより、巻回体(図示せず)を作製する。この巻回体は、正極21、負極22およびセパレータ23のそれぞれに電解液が含浸されていないことを除いて、電池素子20の構成と同様の構成を有している。続いて、プレス機などを用いて巻回体を押圧することにより、扁平形状となるように巻回体を成型する。
【0134】
続いて、窪み部10Uの内部に巻回体を収容したのち、外装フィルム10(融着層/金属層/表面保護層)を折り畳むことにより、その外装フィルム10同士を互いに対向させる。続いて、熱融着法などの接着法を用いて、互いに対向する融着層のうちの2辺の外周縁部同士を互いに接合させることにより、袋状の外装フィルム10の内部に巻回体を収納する。
【0135】
最後に、袋状の外装フィルム10の内部に電解液を注入したのち、熱融着法などの接着法を用いて融着層のうちの残りの1辺の外周縁部同士を互いに接合させる。この場合には、外装フィルム10と正極リード31との間に封止フィルム41を挿入すると共に、外装フィルム10と負極リード32との間に封止フィルム42を挿入する。
【0136】
これにより、巻回体に電解液が含浸されるため、巻回電極体である電池素子20が作製される。よって、袋状の外装フィルム10の内部に電池素子20が封入されるため、二次電池が組み立てられる。
【0137】
[二次電池の安定化]
組み立て後の二次電池を充放電させる。環境温度、充放電回数(サイクル数)および充放電条件などの各種条件は、任意に設定可能である。これにより、正極21および負極22のそれぞれの表面に被膜が形成されるため、二次電池の状態が電気化学的に安定化する。よって、二次電池が完成する。
【0138】
<2-4.作用および効果>
この二次電池によれば、正極21が上記した電極100の構成と同様の構成を有している。よって、電極100に関して説明した場合と同様の理由により、正極21においてリチウムの吸蔵放出性が担保されながら導電性が著しく向上するため、優れた電池特性を得ることができる。
【0139】
特に、二次電池がリチウムイオン二次電池であれば、リチウムの吸蔵放出を利用して十分な電池容量が安定に得られるため、より高い効果を得ることができる。
【0140】
この他、正極21によれば、その正極21が上記した電極100の構成と同様の構成を有している。よって、電極100に関して説明した場合と同様の理由により、正極21においてリチウムの吸蔵放出性が担保されながら導電性が著しく向上するため、優れた電池特性を得ることができる。
【0141】
二次電池および正極21のそれぞれに関する他の作用および効果は、上記した電極100に関する他の作用および効果と同様である。
【0142】
<3.変形例>
次に、上記した電極および二次電池のそれぞれの変形例に関して説明する。
【0143】
電極および二次電池のそれぞれ構成は、以下で説明するように、適宜、変更可能である。ただし、以下で説明する一連の変形例のうちの任意の2種類以上は、互いに組み合わされてもよい。
【0144】
[変形例1]
正極21が電極100の構成と同様の構成を有していた。しかしながら、正極21の代わりに負極22が電極100の構成と同様の構成を有していてもよい。また、正極21および負極22のそれぞれが電極100の構成と同様の構成を有していてもよい。
【0145】
負極22が電極100の構成と同様の構成を有している場合には、その負極22は、図5に示したように、集電体110に対応する負極集電体22Aと、活物質層120に対応する負極活物質層22Bとを含んでいる。
【0146】
負極22が電極100の構成と同様の構成を有している場合には、その負極22においてリチウムの吸蔵放出性が担保されながら導電性が著しく向上するため、同様の効果を得ることができる。
【0147】
また、正極21および負極22のそれぞれが電極100の構成と同様の構成を有している場合には、その正極21および負極22のそれぞれにおいてリチウムの吸蔵放出性が担保されながら導電性が著しく向上するため、より高い効果を得ることができる。
【0148】
[変形例2]
多孔質膜であるセパレータ23を用いた。しかしながら、ここでは具体的に図示しないが、高分子化合物層を含む積層型のセパレータを用いてもよい。
【0149】
具体的には、積層型のセパレータは、一対の面を有する多孔質膜と、その多孔質膜の片面または両面に設けられた高分子化合物層とを含んでいる。正極21および負極22のそれぞれに対するセパレータの密着性が向上するため、電池素子20の巻きずれが抑制されるからである。これにより、電解液の分解反応が発生しても、二次電池が膨れにくくなる。高分子化合物層は、ポリフッ化ビニリデンなどの高分子化合物を含んでいる。優れた物理的強度および優れた電気化学的安定性が得られるからである。
【0150】
なお、多孔質膜および高分子化合物層のうちの一方または双方は、複数の絶縁性粒子のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。二次電池の発熱時において複数の絶縁性粒子が放熱を促進させるため、その二次電池の安全性(耐熱性)が向上するからである。絶縁性粒子は、無機材料および樹脂材料などのうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。無機材料の具体例は、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、ベーマイト、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化マグネシウムおよび酸化ジルコニウムなどである。樹脂材料の具体例は、アクリル樹脂およびスチレン樹脂などである。
【0151】
積層型のセパレータを作製する場合には、高分子化合物および溶媒などを含む前駆溶液を調製したのち、多孔質膜の片面または両面に前駆溶液を塗布する。この場合には、多孔質膜に前駆溶液を塗布する代わりに、その前駆溶液中に多孔質膜を浸漬させてもよい。また、前駆溶液に複数の絶縁性粒子を添加してもよい。
【0152】
この積層型のセパレータを用いた場合においても、正極21と負極22との間においてリチウムイオンが移動可能になるため、同様の効果を得ることができる。この場合には、特に、上記したように、二次電池の安全性が向上するため、より高い効果を得ることができる。
【0153】
[変形例3]
液状の電解質である電解液を用いた。しかしながら、ここでは具体的に図示しないが、ゲル状の電解質である電解質層を用いてもよい。
【0154】
電解質層を用いた電池素子20では、セパレータ23および電解質層を介して正極21および負極22が互いに積層されていると共に、その正極21、負極22、セパレータ23および電解質層が巻回されている。この場合には、正極21とセパレータ23との間に電解質層が介在していると共に、負極22とセパレータ23との間に電解質層が介在している。ただし、正極21とセパレータ23との間だけに電解質層が介在していてもよいし、負極22とセパレータ23との間だけに電解質層が介在していてもよい。
【0155】
この電解質層は、電解液と共に高分子化合物を含んでおり、その電解液は、高分子化合物により保持されている。電解液の漏液が防止されるからである。電解液の構成は、上記した通りである。高分子化合物は、ポリフッ化ビニリデンなどを含んでいる。電解質層を形成する場合には、電解液、高分子化合物および溶媒などを含む前駆溶液を調製したのち、正極21および負極22のそれぞれの片面または両面に前駆溶液を塗布する。
【0156】
この電解質層を用いた場合においても、正極21と負極22との間において電解質層を介してリチウムイオンが移動可能になるため、同様の効果を得ることができる。この場合には、特に、上記したように、電解液の漏液が防止されるため、より高い効果を得ることができる。
【0157】
<4.二次電池の用途>
最後に、二次電池の用途(適用例)に関して説明する。
【0158】
二次電池の用途は、特に限定されない。電源として用いられる二次電池は、電子機器および電動車両などにおいて、主電源でもよいし、補助電源でもよい。主電源とは、他の電源の有無に関係なく、優先的に用いられる電源である。補助電源は、主電源の代わりに用いられる電源でもよいし、主電源から切り替えられる電源でもよい。
【0159】
二次電池の用途の具体例は、以下で説明する通りである。ビデオカメラ、デジタルスチルカメラ、携帯電話機、ノート型パソコン、ヘッドホンステレオ、携帯用ラジオおよび携帯用情報端末などの電子機器である。バックアップ電源およびメモリーカードなどの記憶用装置である。電動ドリルおよび電動鋸などの電動工具である。電子機器などに搭載される電池パックである。ペースメーカおよび補聴器などの医療用電子機器である。電気自動車(ハイブリッド自動車を含む。)などの電動車両である。非常時などに備えて電力を蓄積しておく家庭用または産業用のバッテリシステムなどの電力貯蔵システムである。これらの用途では、1個の二次電池が用いられてもよいし、複数個の二次電池が用いられてもよい。
【0160】
電池パックは、単電池を備えていてもよいし、組電池を備えていてもよい。電動車両は、駆動用電源として二次電池を用いて走行する車両であり、その二次電池以外の駆動源を併せて備えたハイブリッド自動車でもよい。家庭用の電力貯蔵システムでは、電力貯蔵源である二次電池に蓄積された電力を利用して家庭用の電気製品などを使用可能である。
【0161】
ここで、二次電池の用途の一例に関して具体的に説明する。以下で説明する構成は、あくまで一例であるため、適宜、変更可能である。
【0162】
図6は、二次電池の適用例である電池パックのブロック構成を表している。ここで説明する電池パックは、1個の二次電池を用いた電池パック(いわゆるソフトパック)であり、スマートフォンに代表される電子機器などに搭載される。
【0163】
この電池パックは、図6に示したように、電源51と、回路基板52とを備えている。この回路基板52は、電源51に接続されていると共に、正極端子53、負極端子54および温度検出端子55を含んでいる。
【0164】
電源51は、1個の二次電池を含んでいる。この二次電池では、正極リードが正極端子53に接続されていると共に、負極リードが負極端子54に接続されている。この電源51は、正極端子53および負極端子54を介して外部と接続されるため、充放電可能である。回路基板52は、制御部56と、スイッチ57と、熱感抵抗素子(いわゆるPTC素子)58と、温度検出部59とを含んでいる。ただし、PTC素子58は省略されてもよい。
【0165】
制御部56は、中央演算処理装置(CPU)およびメモリなどを含んでおり、電池パック全体の動作を制御する。この制御部56は、電源51の使用状態に関する検出および制御などを行う。
【0166】
なお、制御部56は、電源51(二次電池)の電圧が過充電検出電圧または過放電検出電圧に到達すると、スイッチ57を切断することにより、その電源51の電流経路に充電電流が流れないようにする。過充電検出電圧は、特に限定されないが、具体的には、4.20V±0.05Vであると共に、過放電検出電圧は、特に限定されないが、具体的には、2.40V±0.10Vである。
【0167】
スイッチ57は、充電制御スイッチ、放電制御スイッチ、充電用ダイオードおよび放電用ダイオードなどを含んでおり、制御部56の指示に応じて電源51と外部機器との接続の有無を切り換える。このスイッチ57は、金属酸化物半導体を用いた電界効果トランジスタ(MOSFET)などを含んでおり、充電電流および放電電流のそれぞれは、スイッチ57のON抵抗に基づいて検出される。
【0168】
温度検出部59は、サーミスタなどの温度検出素子を含んでいる。この温度検出部59は、温度検出端子55を用いて電源51の温度を測定すると共に、その温度の測定結果を制御部56に出力する。温度検出部59により測定される温度の測定結果は、異常発熱時において制御部56が充放電制御を行う場合および残容量の算出時において制御部56が補正処理を行う場合などに用いられる。
【実施例0169】
本技術の実施例に関して説明する。
【0170】
<実施例1~3および比較例1~3>
以下で説明するように、図1図3に示した電極100である正極21を作製したのち、図4および図5に示した二次電池(ラミネートフィルム型のリチウムイオン二次電池)を作製することにより、その二次電池の電池特性を評価した。
【0171】
(正極の作製)
最初に、粒子状炭素材料(アモルファス性炭素粉であるアセチレンブラック(デンカ株式会社製のアモルファス性炭素粉 デンカブラック(登録商標)))1質量部と、正極結着剤(ポリフッ化ビニリデン)3質量部とを互いに混合させることにより、混合物を得た。続いて、溶媒(有機溶剤であるN-メチル-2-ピロリドン)に混合物を投入したのち、その溶媒を撹拌することにより、ペースト状の混合スラリーを調製した。
【0172】
続いて、混合スラリーに正極活物質(コバルト酸リチウム(LiCoO2 ))95質量部を投入したのち、その混合スラリーを撹拌することにより、ペースト状の合剤スラリーを得た。この場合には、攪拌機(株式会社エスエヌディ製の卓上超音波洗浄機)を用いて混合スラリーを撹拌(超音波の周波数=38kHz,超音波の印加時間=15分間)することにより、その混合スラリー中において粒子状炭素材料を十分に分散させた。
【0173】
続いて、合剤スラリーに繊維状炭素材料(カーボンナノチューブ)1質量部を投入したのち、その合剤スラリーを撹拌することにより、ペースト状の正極スラリーを得た。この場合には、上記した攪拌機を用いて合剤スラリーを撹拌することにより、その合剤スラリーを十分に混錬した。
【0174】
続いて、コーティング装置を用いて正極集電体21A(厚さ=15μmであるアルミニウム箔)の両面に正極スラリーを塗布したのち、その正極スラリーを温風乾燥させることにより、正極活物質層21Bを形成した。続いて、ロールプレス機を用いて正極活物質層21Bを圧縮成型(ロール温度=130℃,線圧=0.7t/cm,プレス速度=10m/分)した。
【0175】
最後に、正極活物質層21Bが形成された正極集電体21Aを帯状(幅=48mm,長さ=300mm)となるように切断した。これにより、正極21が作製された。
【0176】
この正極21を製造する場合には、混合スラリーおよび合剤スラリーのそれぞれの撹拌(混錬)条件と、正極スラリーの乾燥条件とを変更することにより、表1に示したように、面積M1,M2,M3(μm2 )のそれぞれを変化させたと共に、割合R(%)を変化させた。
【0177】
(負極の作製)
最初に、負極活物質(炭素材料である人造黒鉛)90質量部と、ポリアミック酸を含むN-メチル-2-ピロリドン溶液(濃度=20重量%)10質量部とを互いに混合させたのち、そのN-メチル-2-ピロリドン溶液を撹拌することにより、ペースト状の負極スラリーを調製した。
【0178】
続いて、バーコータ(ギャップ=35μm)を用いて負極集電体22A(厚さ=15μmである銅箔)の両面に負極合剤スラリーを塗布したのち、その負極合剤スラリーの塗膜を乾燥(温度=80℃)させた。続いて、ロールプレス機を用いて塗膜を圧縮成型したのち、その塗膜を加熱(加熱時間=700℃,加熱時間=3時間)することにより、負極活物質層22Bを形成した。
【0179】
最後に、負極活物質層22Bが形成された負極集電体22Aを帯状(幅=50mm,長さ=310mm)となるように切断した。これにより、負極22が作製された。
【0180】
(電解液の調製)
溶媒(環状炭酸エステルである炭酸エチレンおよび鎖状炭酸エステルである炭酸エチルメチル)に電解質塩(六フッ化リン酸リチウム(LiPF6 ))を添加したのち、その溶媒を撹拌した。
【0181】
この場合には、溶媒の混合比(重量比)を炭酸エチレン:炭酸エチルメチル=50;50としたと共に、電解質塩の含有量を溶媒に対して1mol/l(=1mol/dm3 )とした。これにより、電解液が調製された。
【0182】
(二次電池の組み立て)
最初に、正極21の正極集電体21Aに正極リード31(アルミニウム箔)を溶接したと共に、負極22の負極集電体22Aに負極リード32(銅箔)を溶接した。続いて、セパレータ23(厚さ=25μmである微多孔性ポリエチレンフィルム)を介して正極21および負極22を互いに積層させたのち、その正極21、負極22およびセパレータ23を巻回させることにより、巻回体を作製した。続いて、プレス機を用いて巻回体をプレスすることにより、扁平状となるように巻回体を成型した。
【0183】
続いて、窪み部10Uに収容された巻回体を挟むように外装フィルム10(融着層/金属層/表面保護層)を折り畳んだのち、その融着層のうちの2辺の外周縁部同士を互いに熱融着させることにより、袋状の外装フィルム10の内部に巻回体を収納した。外装フィルム10としては、融着層(厚さ=30μmであるポリプロピレンフィルム)と、金属層(厚さ=40μmであるアルミニウム箔)と、表面保護層(厚さ=25μmであるナイロンフィルム)とが内側からこの順に積層された防湿性のアルミラミネートフィルムを用いた。
【0184】
最後に、袋状の外装フィルム10の内部に電解液を注入したのち、減圧環境中において融着層のうちの残りの1辺の外周縁部同士を熱融着させた。この場合には、外装フィルム10と正極リード31との間に封止フィルム41(厚さ=5μmであるポリプロピレンフィルム)を挿入したと共に、その外装フィルム10と負極リード32との間に封止フィルム42(厚さ=5μmであるポリプロピレンフィルム)を挿入した。
【0185】
これにより、巻回体に電解液が含浸されたため、電池素子20が形成された。よって、外装フィルム10の内部に電池素子20が封入されたため、二次電池が組み立てられた。
【0186】
(二次電池の安定化)
常温環境中(温度=25℃)において二次電池を1サイクル充放電させた。充電時には、0.5Aの電流で電圧が4.5Vに到達するまで定電流充電したのち、その4.5Vの電圧で電流が初期値の1/10の値(=0.05A)になるまで定電圧充電した。放電時には、0.2Aの電流で電圧が3.0Vに到達するまで定電流放電した。これにより、正極21および負極22のそれぞれの表面に被膜が形成されたため、二次電池の状態が電気化学的に安定化した。よって、二次電池が完成した。
【0187】
[電池特性の評価]
電池特性としてサイクル特性および負荷特性を評価したところ、表1に示した結果が得られた。
【0188】
(サイクル特性)
最初に、常温環境中(温度=25℃)において二次電池を充放電させることにより、放電容量(1サイクル目の放電容量)を測定した。充放電条件は、上記した二次電池の安定化時の条件において二次電池を充放電させた場合に得られる放電容量を基準として、充電時の電流を1Cとしたと共に放電時の電流を0.5Cとしたことを除いて、二次電池の安定化時における充放電条件と同様にした。1Cとは、上記した放電容量を1時間で放電しきる電流値であると共に、0.5Cとは、上記した放電容量を2時間で放電しきる電流値である。
【0189】
続いて、恒温槽(温度=45℃)中において、サイクル数が300サイクルに到達するまで二次電池を繰り返して充放電させることにより、放電容量(300サイクル目の放電容量)を測定した。2サイクル目以降の充放電条件は、1サイクル目の充放電条件と同様にした。
【0190】
最後に、サイクル維持率(%)=(300サイクル目の放電容量/1サイクル目の放電容量)×100という計算式に基づいて、サイクル特性を評価するための指標であるサイクル維持率を算出した。
【0191】
(負荷特性)
最初に、常温環境中(温度=25℃)において二次電池を充放電させることにより、放電容量(1サイクル目の放電容量)を測定した。充放電条件は、充電時の電流を0.5Cとしたと共に放電時の電流を0.2Cとしたことを除いて、二次電池の安定化時における充放電条件と同様にした。0.2Cとは、上記した放電容量を5時間で放電しきる電流値である。
【0192】
続いて、同環境中において二次電池を充放電させることにより、放電容量(2サイクル目の放電容量)を測定した。充放電条件は、充電時の電流を0.5Cとしたと共に放電時の電流を1Cとしたことを除いて、二次電池の安定化時における充放電条件と同様にした。
【0193】
最後に、負荷維持率(%)=[2サイクル目の放電容量(放電時の電流=1.0C)/1サイクル目の放電容量(放電時の電流=0.2C)]×100という計算式に基づいて、負荷特性を評価するための指標である負荷維持率を算出した。
【0194】
【表1】
【0195】
[考察]
表1に示したように、サイクル維持率および負荷維持率のそれぞれは、正極21の構成に応じて大きく変動した。
【0196】
具体的には、2種類の物性条件(面積割合R=60%~90%,面積M3=1.0μm2 ~5.0μm2 )が満たされている場合(実施例1~3)には、高いサイクル維持率が得られたと共に、高い負荷維持率も得られた。
【0197】
これに対して、2種類の物性条件が満たされていない場合(比較例1~3)には、サイクル維持率および負荷維持率のうちの一方または双方が低下した。
【0198】
[まとめ]
表1に示した結果から、電極100(ここでは正極21)が集電体110および活物質層120を備えており、その活物質層120が活物質121および導電剤122を含んでおり、その導電剤122が被覆導電剤122X(繊維状炭素材料)および分散導電剤122Y(粒子状炭素材料)を含んでおり、その活物質層120の表面Sのラマン分光分析結果(ラマンマッピング)に関して2種類の物性条件(割合R=60%~90%および面積M3=1.0μm2 ~5.0μm2 )が満たされていると、高いサイクル維持率および高い負荷維持率が得られた。よって、二次電池において優れた電池特性(サイクル特性および負荷特性)を得ることができた。
【0199】
以上、一実施形態および実施例を挙げながら本技術に関して説明したが、その本技術の構成は、一実施形態および実施例において説明された構成に限定されないため、種々に変形可能である。
【0200】
具体的には、二次電池の電池構造がラミネートフィルム型である場合に関して説明した。しかしながら、二次電池の電池構造は、特に限定されないため、円筒型、角型、コイン型およびボタン型などでもよい。
【0201】
また、電池素子の素子構造が巻回型である場合に関して説明した。しかしながら、電池素子の素子構造は、特に限定されないため、積層型および九十九折り型などでもよい。この積層型では、正極および負極が互いに積層されていると共に、九十九折り型では、正極および負極がジグザグに折り畳まれている。
【0202】
さらに、電極反応物質がリチウムである場合に関して説明したが、その電極反応物質は、特に限定されない。具体的には、電極反応物質は、上記したように、ナトリウムおよびカリウムなどの他のアルカリ金属でもよいし、ベリリウム、マグネシウムおよびカルシウムなどのアルカリ土類金属でもよい。この他、電極反応物質は、アルミニウムなどの他の軽金属でもよい。
【0203】
本明細書中に記載された効果は、あくまで例示であるため、本技術の効果は、本明細書中に記載された効果に限定されない。よって、本技術に関して、他の効果が得られてもよい。
【0204】
なお、本技術は、以下のような構成を取ることもできる。

<1>
集電体と、
前記集電体により支持された活物質層と
を備え、
前記活物質層は、活物質および導電剤を含み、
前記導電剤は、
前記活物質の表面を被覆すると共に繊維状炭素材料を含む第1導電剤と、
前記活物質の周辺に分散されると共に粒子状炭素材料を含む第2導電剤と
を含み、
前記集電体から遠い側に位置する前記活物質層の表面をラマン分光分析することにより、前記導電剤の存在領域をラマンマッピングすると共に、前記導電剤の存在領域を前記第1導電剤の存在領域と前記第2導電剤の存在領域とに分離した際、
前記活物質の存在領域の面積に対する前記第1導電剤の存在領域の面積の割合は、60%以上90%以下であり、
前記第2導電剤の存在領域の面積は、1.0μm2 以上5.0μm2 以下である、
電極。
<2>
前記繊維状炭素材料は、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーおよびカーボンナノホーンのうちの少なくとも1種を含み、
前記粒子状炭素材料は、カーボンブラック、アセチレンブラックおよびケッチェンブラックのうちの少なくとも1種を含む、
<1>に記載の電極。
<3>
<1>または<2>に記載の電極と、
電解液と
を備えた、二次電池。
<4>
前記電極は、正極である、
<3>に記載の二次電池。
<5>
リチウムイオン二次電池である、
<3>または<4>に記載の二次電池。
【符号の説明】
【0205】
21…正極、21A…正極集電体、21B…正極活物質層、22…負極、22A…負極集電体、22B…負極活物質層、100…電極、110…集電体、120…活物質層、121…活物質、122…導電剤、122X…被覆導電剤、122Y…分散導電剤。
図1
図2
図3
図4
図5
図6