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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024021744
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】エンジン洗浄システム
(51)【国際特許分類】
   F02B 77/04 20060101AFI20240208BHJP
   F02D 19/12 20060101ALI20240208BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20240208BHJP
   F02D 41/22 20060101ALI20240208BHJP
   B60S 1/48 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
F02B77/04
F02D19/12 Z
F02D45/00 345
F02D45/00 368Z
F02D41/22
B60S1/48 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022124804
(22)【出願日】2022-08-04
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 凌
(72)【発明者】
【氏名】木谷 泰行
(72)【発明者】
【氏名】橋本 弘平
(72)【発明者】
【氏名】山本 絢香
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 彰則
【テーマコード(参考)】
3D225
3G092
3G301
3G384
【Fターム(参考)】
3D225AA01
3D225AD01
3D225AF03
3D225AF07
3G092AA01
3G092AA02
3G092AA05
3G092AA06
3G092AB16
3G092EC10
3G092FA15
3G092FA17
3G092FA24
3G092FB06
3G092GA06
3G092GA18
3G092HC03Z
3G092HE01Z
3G092HF08Z
3G092HG02Z
3G301HA01
3G301HA02
3G301HA04
3G301JA02
3G301JA15
3G301JA21
3G301JB09
3G301KA09
3G301KA25
3G301KA28
3G301LB04
3G301PA17Z
3G301PE01Z
3G384AA01
3G384AA03
3G384AA06
3G384CA07
3G384CA18
3G384CA23
3G384DA02
3G384DA42
3G384DA44
3G384FA06Z
3G384FA26Z
3G384FA30Z
3G384FA56Z
3G384FA75Z
3G384FA76Z
3G384FA77Z
(57)【要約】
【課題】燃焼室内のデポジットを洗浄すること。
【解決手段】エンジン洗浄システム20は、エンジン10と、吸気管2内または燃焼室C内に向けられた洗浄液インジェクタ23と、制御装置50と、を備える。制御装置50の記憶媒体52は、ピストン12の温度が所定の温度よりも高く、かつ、燃焼室C内のエンジンオイルの量が所定の量よりも少ない運転条件を記憶する。制御装置50のプロセッサ51は、記憶媒体52に記憶される命令にしたがって、エンジン10が上記の運転条件で所定の期間運転したか否かを判定することと、エンジン10が上記の運転条件で所定の期間運転した場合、洗浄液インジェクタ23から洗浄液を噴射することと、を実行するように構成される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、
吸気管内または燃焼室内に向けられた洗浄液インジェクタと、
前記エンジンおよび前記洗浄液インジェクタを制御する制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、少なくとも1つのプロセッサと、前記少なくとも1つのプロセッサによって実行される命令を記憶する少なくとも1つの記憶媒体と、を含み、
前記少なくとも1つの記憶媒体は、ピストンの温度が所定の温度よりも高く、かつ、前記燃焼室内のエンジンオイルの量が所定の量よりも少ない運転条件を記憶しており、
前記少なくとも1つのプロセッサは、前記命令にしたがって、
前記エンジンが前記運転条件で所定の期間運転したか否かを判定することと、
前記エンジンが前記運転条件で前記所定の期間運転した場合、前記洗浄液インジェクタから洗浄液を噴射することと、
を実行するように構成される、
エンジン洗浄システム。
【請求項2】
前記少なくとも1つの記憶媒体は、前記運転条件として、
所定の第1の負荷よりも高くかつ所定の第1の回転数よりも低い範囲に含まれる、第1の運転領域と、
所定の第2の負荷よりも高くかつ前記第1の回転数よりも高い所定の第2の回転数よりも高い範囲に含まれる、第2の運転領域と、
を記憶する、
請求項1に記載のエンジン洗浄システム。
【請求項3】
前記少なくとも1つの記憶媒体は、前記運転条件として、高速道路走行、登坂走行、および、牽引走行の少なくとも1つを記憶する、請求項1に記載のエンジン洗浄システム。
【請求項4】
前記洗浄液は、前記エンジンが停止したとき、前記洗浄液インジェクタから噴射される、請求項1に記載のエンジン洗浄システム。
【請求項5】
前記洗浄液を貯留し、かつ、第1の配管によって、窓ガラスに向けられたウォッシャーノズルに接続されるウォッシャータンクと、
前記ウォッシャータンクを前記洗浄液インジェクタに接続する第2の配管と、
を備える、
請求項1に記載のエンジン洗浄システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン洗浄システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンを洗浄するための様々なシステムが知られている。例えば、特許文献1は、エンジンの運転時間、負荷および回転数等の要因に基づいて、燃焼室内のデポジットの生成状態を推定することを開示する。デポジットが生成されていると推定される場合、インジェクタからアルコール含有燃料を噴射してデポジットを洗浄する。洗浄は、シフトポジションがNポジションであってかつエンジンがアイドル状態である場合に実行される。また、燃料に含まれるアルコールの度合いに基づいて、洗浄の頻度が決定される。
【0003】
特許文献2は、液化石油ガスを燃料として使用するエンジンを開示する。このエンジンでは、液化石油ガスの未揮発成分が、デポジットの洗浄に使用される。例えば、特許文献4は、低負荷・低回転領域では、燃焼室内にデポジットが堆積し易いこと、また、高負荷領域では、供給される燃料量が多く、未揮発成分が多く存在するので、デポジットの洗浄効果が大きいこと、を開示する。さらに、特許文献4は、冷却水または潤滑油の温度が低い領域では、未揮発成分が多く存在するので、デポジットの洗浄効果が大きいことを開示する。特許文献4では、これらの運転領域において、吸気バルブが開いた状態で液化石油ガスを吸気ポートに噴射してデポジットを洗浄する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-274801号公報
【特許文献2】特開2006-329166号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この技術分野では、燃焼室内のデポジットをよく洗浄することができる技術の開発がさらに望まれている。
【0006】
本発明は、燃焼室内のデポジットを洗浄することができるエンジン洗浄システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係るエンジン洗浄システムは、
エンジンと、
吸気管内または燃焼室内に向けられた洗浄液インジェクタと、
前記エンジンおよび前記洗浄液インジェクタを制御する制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、少なくとも1つのプロセッサと、前記少なくとも1つのプロセッサによって実行される命令を記憶する少なくとも1つの記憶媒体と、を含み、
前記少なくとも1つの記憶媒体は、ピストンの温度が所定の温度よりも高く、かつ、前記燃焼室内のエンジンオイルの量が所定の量よりも少ない運転条件を記憶しており、
前記少なくとも1つのプロセッサは、前記命令にしたがって、
前記エンジンが前記運転条件で所定の期間運転したか否かを判定することと、
前記エンジンが前記運転条件で前記所定の期間運転した場合、前記洗浄液インジェクタから洗浄液を噴射することと、
を実行するように構成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、燃焼室内のデポジットを洗浄することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、第1実施形態に係るエンジン洗浄システムを示す概略図である。
図2図2は、ECUの機能ブロック図である。
図3図3は、ピストンの温度が高くかつ燃焼室内のエンジンオイルが少ない条件を示すグラフである。
図4図4は、ECUの動作を示すフローチャートである。
図5図5は、第2実施形態に係るエンジン洗浄システムを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す具体的な寸法、材料および数値等は、理解を容易にするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、明細書および図面において、実質的に同一の機能および構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。また、本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0011】
図1は、本発明の一実施形態に係るエンジン洗浄システム20を示す概略図である。エンジン洗浄システム20は、本開示において、単に「洗浄システム」とも称され得る。洗浄システム20は、例えば、HEV(Hybrid Electric Vehicle)、ガソリン自動車、または、ディーゼル自動車等、エンジン10を備える車両500に適用される。本実施形態では、車両500は、ガソリン自動車である。例えば、車両500は、エンジン10と、洗浄システム20と、水噴射システム30と、ECU(制御装置)50と、を備える。車両500は、その他の様々な構成要素をさらに備えてもよい。
【0012】
エンジン10は、シリンダブロック11と、ピストン12と、シリンダヘッド13と、を含む。シリンダブロック11、ピストン12およびシリンダヘッド13によって、燃焼室Cが画定される。ピストン12は、コネクティングロッドによってクランクシャフトに接続される(不図示)。
【0013】
エンジン10では、燃焼室Cにおいて、空気および燃料(ガソリン)の混合気が燃焼され、これによって、ピストン12がシリンダブロック11内を往復移動する。ピストン12の直線運動が、コネクティングロッドによってクランクシャフトに伝達され、クランクシャフトの回転運動に変換される。燃料の燃焼に伴って、ピストン12の冠面12aにはデポジットが堆積する。なお、より良い理解のために、図1は単一の気筒のみを示すが、エンジン10は複数の気筒を含むことができる。
【0014】
エンジン10は、吸気口14と、排気口15と、を含む。吸気口14には、吸気管2が接続され、排気口15には、排気管3が接続される。吸気口14には、吸気バルブ14aが設けられ、排気口15には、排気バルブ15aが設けられる。吸気バルブ14aおよび排気バルブ15aの各々の動作は、例えば、不図示のカムシャフトによって制御される。カムシャフトは、例えば回転ベルト等を介してクランクシャフトによって回転される。
【0015】
エンジン10は、燃料インジェクタ16を含む。燃料インジェクタ16は、燃焼室C内に向けられた噴射口を含む。燃料インジェクタ16は、燃焼室C内に燃料を噴射する(いわゆる、直接噴射)。他の実施形態では、燃料インジェクタ16は、吸気管2に設けられてもよい(いわゆる、予混合)。例えば、燃料インジェクタ16は、内蔵バルブを含む。燃料インジェクタ16は、ECU50と通信可能に接続される。ECU50は、燃料インジェクタ16の内蔵バルブを制御することによって、燃料の噴射を制御する。
【0016】
エンジン10は、点火プラグgを有する。点火プラグgは、燃焼室Cにおいて空気および燃料の混合気を着火する。点火プラグgは、ECU50と通信可能に接続される。ECU50は、点火プラグgの動作を制御する。
【0017】
洗浄システム20は、ウォッシャータンク21を含む。ウォッシャータンク21は、洗浄液を貯留する。ウォッシャータンク21は、例えば、エンジンルーム内に設けられる。
【0018】
ウォッシャータンク21に貯留される洗浄液は、窓ガラスWの洗浄およびエンジン10内のデポジットの除去の双方に使用可能な様々な液体であることができる。驚くべきことに、本発明者は、窓ガラスの洗浄に使用される市販のウォッシャー液が、エンジン10内のデポジットの除去にも有効に働くことを見出した。そのような新たな知見に基づき、洗浄液は、市販のウォッシャー液であってもよい。また、例えば、洗浄液は、界面活性剤と、エタノールまたはイソプロピルアルコール等のアルコールと、を含む液体であってもよい。
【0019】
ウォッシャータンク21は、第1の配管L1によって、ウォッシャーノズル22に接続される。第1の配管L1には、ポンプP1が設けられてもよい。ウォッシャーノズル22は、窓ガラスWの周りに配置される。例えば、窓ガラスWは、フロントガラスであってもよい。ウォッシャーノズル22は、窓ガラスWに向けられた噴射口を含む。ウォッシャーノズル22は、ウォッシャータンク21の洗浄液を、窓ガラスWに向けて噴射する。例えば、ウォッシャーノズル22は、内蔵バルブを含む。
【0020】
ポンプP1およびウォッシャーノズル22は、ECU50と通信可能に接続されてもよい。ECU50は、ポンプP1およびウォッシャーノズル22の内蔵バルブの動作を制御することによって、窓ガラスWに向けた洗浄液の噴射を制御してもよい。
【0021】
また、洗浄システム20は、洗浄液インジェクタ23と、第2の配管L2と、を含む。
【0022】
洗浄液インジェクタ23は、例えば、吸気管2に配置される。洗浄液インジェクタ23は、吸気管2内に向けられた噴射口を含む。他の実施形態では、洗浄液インジェクタ23は、シリンダヘッド13に配置されてもよく、燃焼室C内に向けられた噴射口を含んでもよい。
【0023】
洗浄液インジェクタ23は、第2の配管L2によってウォッシャータンク21に接続される。第2の配管L2には、ポンプP2およびバルブV1が設けられてもよい。洗浄液インジェクタ23は、ウォッシャータンク21の洗浄液を、吸気管2内に噴射する。例えば、洗浄液インジェクタ23は、内蔵バルブを含む。
【0024】
ポンプP2、バルブV1および洗浄液インジェクタ23は、ECU50と通信可能に接続されてもよい。ECU50は、ポンプP2、バルブV1および洗浄液インジェクタ23の内蔵バルブの動作を制御することによって、吸気管2内への洗浄液の噴射を制御してもよい。
【0025】
また、洗浄システム20は、フィルタFを含む。フィルタFは、例えば、第2の配管L2に配置される。例えば、フィルタFは、洗浄液からカルシウム等のミネラル成分を除去してもよい。例えば、フィルタFは、カチオンフィルタを含んでもよい。
【0026】
地域によっては、市販のウォッシャー液は、多量のミネラル成分を含む場合がある。そのようなウォッシャー液が直接的に吸気管2内に噴射されると、ミネラル成分が燃焼室C内のデポジットの堆積やプレイグニッションの発生を助長するおそれがある。第2の配管L2にフィルタFを設けることによって、そのようなデポジットの堆積やプレイグニッションの発生の助長を抑制することができる。
【0027】
水噴射システム30は、水タンク31を含む。水タンク31は、水を貯留する。水タンク31は、例えば、エンジンルーム内に設けられる。
【0028】
水噴射システム30は、上記の洗浄システム20の洗浄液インジェクタ23を共用する。したがって、洗浄液インジェクタ23は、水インジェクタとしても機能する。洗浄液インジェクタ23は、第3の配管L3によって水タンク31に接続される。第3の配管L3には、ポンプP3およびバルブV2が設けられてもよい。洗浄液インジェクタ23は、水タンク31の水を、吸気管2内に噴射する。
【0029】
ポンプP3およびバルブV2は、ECU50と通信可能に接続されてもよい。ECU50は、ポンプP3、バルブV2および洗浄液インジェクタ23の内蔵バルブの動作を制御することによって、吸気管2内への水の噴射を制御してもよい。
【0030】
バルブV1、バルブV2および洗浄液インジェクタ23の内蔵バルブの少なくとも1つは、技術的に矛盾が無い限りにおいて、設けられなくてもよい。
【0031】
ECU50は、例えば、CPU等の少なくとも1つのプロセッサ51と、ROMおよびRAM等の少なくとも1つの記憶媒体52と、少なくとも1つのコネクタ53と、を含む。ECU50は、他の構成要素をさらに有してもよい。ECU50の構成要素は、バスによって互いに通信可能に接続される。記憶媒体52は、プロセッサ51によって実行される少なくとも1つのプログラムを記憶する。プログラムは、プロセッサ51に対する命令を含む。本開示に示されるECU50の動作は、記憶媒体52に記憶された命令をプロセッサ51で実行することによって、実現される。ECU50は、コネクタ53を介して車両500の構成要素と通信可能に接続される。
【0032】
図2は、ECU50の機能ブロック図である。プロセッサ51は、記憶媒体52に記憶された命令にしたがって、デポジットの堆積状態を推定する第1判定部54と、所定の運転条件でエンジン10が所定の期間運転したか否かを判定する第2判定部55と、デポジットの洗浄を実行する洗浄実行部56と、として機能する。
【0033】
第1判定部54として機能する場合、プロセッサ51は、エンジン10に関する少なくとも1つのパラメータに基づいて、デポジットの堆積状態を推定する。
【0034】
例えば、車両500の走行距離が増えると、冠面12a上のデポジットの堆積量が増える。したがって、プロセッサ51は、車両500がエンジンオイルを交換後に所定の距離を走行したか否かを判定してもよい。車両500がエンジンオイルを交換後に所定の距離を走行した場合、プロセッサ51は、冠面12aにデポジットが堆積していると判定してもよい。
【0035】
また、冠面12a上のデポジットの堆積量が増えると、燃料インジェクタ16上のデポジットの堆積量も増える。燃料インジェクタ16上のデポジットの堆積量が増えると、燃料噴射量が目標値からずれる。このずれは、空燃比に反映される。空燃比が目標値からずれる場合、プロセッサ51は、燃料噴射量を補正する。よって、プロセッサ51は、燃料噴射量の補正値が所定の値よりも増加したか否かを判定してもよい。燃料噴射量の補正値が所定の値よりも増加した場合、プロセッサ51は、冠面12aにデポジットが堆積していると判定してもよい。
【0036】
例えば、低品質の燃料が使用される場合、デポジットは、冠面12a上に早く堆積する。この場合、デポジットの堆積は、車両500の走行距離に基づいて正しく推測されない可能性がある。したがって、例えば、プロセッサ51は、車両500がエンジンオイルを交換後に所定の距離を走行した場合、および、燃料噴射量の補正値が所定の値よりも増加した場合の少なくとも一方において、冠面12aにデポジットが堆積していると判定してもよい。
【0037】
デポジットの堆積状態の推定に使用されるパラメータはこれらに限定されず、他のパラメータが使用されてもよい。
【0038】
第2判定部55として機能する場合、プロセッサ51は、デポジットが除去(剥離)されやすい所定の運転条件で、エンジン10が所定の期間(第1の期間)運転したか否かを判定する。
【0039】
具体的には、デポジットは、ピストン12の温度が高く、かつ、燃焼室C内のエンジンオイルが少ない場合に、洗浄液の界面活性によって冠面12aから剥離されやすい。また、デポジットは、このような運転条件が長く続くと、冠面12aから剥離されやすい。したがって、プロセッサ51は、ピストン12の温度が所定の温度より高く、かつ、燃焼室C内のエンジンオイルの量が所定の量より少ない所定の運転条件で、エンジン10が所定の期間(例えば、数分、十数分、数十分または数時間)運転したか否かを判定する。
【0040】
図3は、ピストン12の温度が高くかつ燃焼室C内のエンジンオイルが少ない運転条件を示すグラフである。図3において、横軸はエンジン10の回転数を示し、縦軸はエンジン10の負荷を示す。記憶媒体52は、ピストン12の温度が所定の温度より高く、かつ、燃焼室C内のエンジンオイルの量が所定の量より少ない所定の運転条件として、第1の運転領域Ar1および第2の運転領域Ar2を記憶する。
【0041】
具体的には、第1の運転領域Ar1に関して、エンジン10が低回転数、高負荷で運転する場合、ピストン摺動部から燃焼室C内へのエンジンオイルの流入量は少なく、また燃焼室C内の温度は高温になるため、デポジットが硬質化し剥離しやすくなる。また、回転数が増加するにつれて、ピストン12の温度を増加させるのに必要な負荷も増加する。よって、第1の運転領域Ar1の境界線Bd1は、回転数が増加するにつれて増加するように傾斜する。このような第1の運転領域Ar1は、所定の第1の負荷Ld1よりも高く、かつ、所定の第1の回転数R1よりも低い範囲に含まれる。記憶媒体52は、所定の運転条件として、第1の運転領域Ar1を記憶してもよい。
【0042】
第2の運転領域Ar2に関して、エンジン10が高回転数、高負荷で運転する場合、ピストン摺動部から燃焼室C内へのエンジンオイルの流入量は多いものの、シリンダブロック11およびピストン12の間で発生する摩擦熱に起因して、運転領域Ar1以上に燃焼室内が高温になるため、デポジットが硬質化し剥離しやすくなる。また、回転数が増加するにつれて、ピストン12の温度は増加する。したがって、回転数が増加するにつれて、ピストン12の温度を増加させるのに必要な負荷は低下する。よって、第2の運転領域Ar2の境界線Bd2は、回転数が増加するにつれて低下するように傾斜する。このような第2の運転領域Ar2は、所定の第2の負荷Ld2よりも高く、かつ、第1の回転数R1よりも高い所定の第2の回転数R2よりも高い範囲に含まれる。記憶媒体52は、所定の運転条件として、第2の運転領域Ar2を記憶してもよい。なお、図3では、第2の負荷Ld2は、第1の負荷Ld1と等しいが、他の実施形態では、第2の負荷Ld2は、第1の負荷Ld1と異なってもよい。
【0043】
例えば、プロセッサ51は、不図示のクランク角センサによって検出されるデータに基づいて、エンジン10の回転数を算出してもよい。また、例えば、プロセッサ51は、不図示のアクセルペダルの踏込み量に基づいて、エンジン10の負荷を算出してもよい。プロセッサ51は、これらの回転数および負荷が、第1の運転領域Ar1または第2の運転領域Ar2に含まれるか否かを判定してもよい。負荷Ld1,Ld2および回転数R1,R2は、車両500の様々な諸元に応じて変わり得るため、実験またはコンピュータシミュレーション等の手法によって求められてもよい。
【0044】
第1の運転領域Ar1に相当する運転条件は、例えば、登坂走行や牽引走行などを含む。したがって、例えば、記憶媒体52は、上記の領域Ar1,Ar2に代えてまたは加えて、所定の運転条件として、登坂走行や牽引走行時に主に使用されるエンジンの作動領域を記憶してもよい。例えば、プロセッサ51は、車速と空燃比の関係により、車両500が牽引のような走行をしているか否かを判定することができる。
【0045】
第2の運転領域Ar2に相当する運転条件は、例えば、高速道路走行を含む。したがって、例えば、記憶媒体52は、上記の領域Ar1,Ar2に代えてまたは加えて、所定の運転条件として、高速道路走行を記憶してもよい。例えば、プロセッサ51は、GPSから得られる車両500の位置情報に基づいて、車両500が高速道路を走行しているか否かを判定することができる。
【0046】
洗浄実行部56として機能する場合、プロセッサ51は、洗浄液インジェクタ23から洗浄液を噴射する。具体的には、冠面12aにデポジットが堆積しており、かつ、所定の運転条件でエンジン10が所定の期間運転した場合に、洗浄液インジェクタ23から洗浄液が噴射される。
【0047】
続いて、車両500の動作について説明する。
【0048】
図1を参照して、窓ガラスWを洗浄するときに、プロセッサ51は、ウォッシャーノズル22の内蔵バルブを開き、ポンプP1を動作させる。これによって、ウォッシャータンク21の洗浄液が、窓ガラスWに向けて噴射される。
【0049】
洗浄システム20を動作するとき、プロセッサ51は、例えば、洗浄液インジェクタ23の内蔵バルブおよびバルブV1を開き、バルブV2を閉じる。また、プロセッサ51は、ポンプP2を動作させる。これによって、ウォッシャータンク21の洗浄液が、洗浄液インジェクタ23から吸気管2内へ噴射される。洗浄液は、吸気と一緒に燃焼室Cに導かれる。燃焼室C内の壁、例えば、ピストン12の冠面12aに堆積したデポジットは、洗浄液の界面活性剤によって、壁から剥がれる。したがって、エンジン10内のデポジットを除去することができる。
【0050】
水噴射システム30を動作するとき、プロセッサ51は、例えば、洗浄液インジェクタ23の内蔵バルブおよびバルブV2を開き、バルブV1を閉じる。また、プロセッサ51は、ポンプP3を動作させる。これによって、水タンク31の水が、洗浄液インジェクタ23から吸気管2内へ噴射される。空気および燃料の混合気が水によって冷却され、これが燃費の向上およびNOxの低減に繋がる。
【0051】
続いて、ECU50の動作について説明する。
【0052】
図4は、ECU50の動作を示すフローチャートである。例えば、図4に示される動作は、エンジン10が始動された後に、エンジン10が停止されるまで、所定のインターバルで繰り返し実行されてもよい。
【0053】
ECU50のプロセッサ51は、デポジットが堆積しているか否かを判定する(ステップS100)。例えば、プロセッサ51は、車両500がエンジンオイルを交換後に所定の距離を走行したか否かを判定してもよい。代替的にまたは追加的に、プロセッサ51は、燃料噴射量の補正値が所定の値よりも増加したか否かを判定してもよい。
【0054】
ステップS100において、デポジットが堆積していない場合(NO)、プロセッサ51は、動作を終了する。
【0055】
ステップS100において、デポジットが堆積している場合(YES)、プロセッサ51は、エンジン10が所定の運転条件で所定の期間運転したか否かを判定する(ステップS102)。例えば、プロセッサ51は、エンジン10が、高負荷かつ低回転の第1の運転領域Ar1、または、高負荷かつ高回転の第2の運転領域Ar2で所定の期間運転したか否かを判定してもよい。代替的にまたは追加的に、プロセッサ51は、エンジン10が、高速道路走行、登坂走行または牽引走行で所定の期間運転したか否かを判定してもよい。
【0056】
ステップS102において、エンジン10が所定の運転条件で所定の期間運転していない場合(NO)、プロセッサ51は、動作を終了する。
【0057】
ステップS102において、エンジン10が所定の運転条件で所定の期間運転している場合(YES)、プロセッサ51は、洗浄液インジェクタ23から洗浄液を噴射し(ステップS104)、動作を終了する。
【0058】
図4では、プロセッサ51は、エンジン10が運転している間に、洗浄液インジェクタ23から洗浄液を噴射する(ステップS104)。他の実施形態では、ステップS100およびステップS102の後にエンジン10が停止した直後(イグニッションオフ時)に、ステップS104が実行されてもよい。この場合、噴射した洗浄液の揮発が抑制され、燃焼室内に堆積するデポジットに効果的に洗浄成分が含浸される。このため、次回のエンジン10の始動時(イグニッションオン時)に、デポジットが容易に剥離するようになる。
【0059】
以上のような洗浄システム20は、エンジン10と、吸気管2内に向けられた洗浄液インジェクタ23と、エンジン10および洗浄液インジェクタ23を制御するECU50と、を備える。ECU50は、少なくとも1つのプロセッサ51と、少なくとも1つのプロセッサ51によって実行される命令を記憶する少なくとも1つの記憶媒体52と、を含む。記憶媒体52は、ピストン12の温度が所定の温度より高く、かつ、燃焼室C内のエンジンオイルの量が所定の量より少ない運転条件を記憶する。プロセッサ51は、命令にしたがって、エンジン10が上記の運転条件で所定の期間運転したか否かを判定することと、エンジン10が上記の運転条件で所定の期間運転した場合、洗浄液インジェクタ23から洗浄液を噴射することと、を実行するように構成される。上記のように、ピストン12の温度が所定の温度より高く、かつ、燃焼室C内のエンジンオイルの量が所定の量より少ない運転条件では、デポジットは、冠面12aから剥離されやすい。したがって、このような構成によれば、燃焼室C内のデポジットを洗浄することができる。
【0060】
また、洗浄システム20では、記憶媒体52は、運転条件として、所定の第1の負荷Ld1よりも高くかつ所定の第1の回転数R1よりも低い範囲に含まれる、第1の運転領域Ar1と、所定の第2の負荷Ld2よりも高くかつ第1の回転数R1よりも高い所定の第2の回転数R2よりも高い範囲に含まれる、第2の運転領域Ar2と、を記憶する。上記のように、第1の運転領域Ar1および第2の運転領域Ar2では、ピストン12の温度は高く、かつ、燃焼室C内へのエンジンオイルの流入量は少ない。したがって、これらの領域では、デポジットが冠面12aから剥離されやすい。よって、このような構成によれば、燃焼室C内のデポジットを洗浄することができる。
【0061】
また、洗浄システム20では、記憶媒体52は、運転条件として、高速道路走行、登坂走行、および、牽引走行の少なくとも1つを記憶する。上記のように、これらの運転条件は、第1の運転領域Ar1および第2の運転領域Ar2に相当する。したがって、これらの運転条件では、デポジットが冠面12aから剥離されやすい。よって、このような構成によれば、燃焼室C内のデポジットを洗浄することができる。
【0062】
また、洗浄システム20では、洗浄液は、エンジン10が停止した直後(イグニッションオフ時)に、洗浄液インジェクタ23から噴射されてもよい。この場合、噴射した洗浄液の揮発が抑制され、燃焼室内に堆積するデポジットに効果的に洗浄成分が含浸される。このため、次回のエンジン10の始動時(イグニッションオン時)に、デポジットが容易に剥離するようになる。
【0063】
また、洗浄システム20は、洗浄液を貯留し、かつ、第1の配管L1によって、窓ガラスWに向けられたウォッシャーノズル22に接続されるウォッシャータンク21と、ウォッシャータンク21を洗浄液インジェクタ23に接続する第2の配管L2と、を備える。このような構成によれば、窓ガラスWの洗浄に使用される洗浄液が、エンジン10内のデポジットの除去にも使用される。したがって、デポジット除去専用の洗浄液を貯留するための追加のタンクが必要とされない。よって、洗浄システム20のスペースを低減することができる。
【0064】
続いて、他の実施形態について説明する。
【0065】
図5は、第2実施形態に係るエンジン洗浄システム20Aを示す概略図である。洗浄システム20Aは、洗浄液インジェクタ24および水インジェクタ25が別個に設けられる点で、第1実施形態に係る洗浄システム20と異なる。これに伴って、洗浄システム20Aは、バルブV1,V2を備えない。洗浄システム20Aは、その他の点については、第1実施形態に係る洗浄システム20と同じであってもよい。
【0066】
洗浄液インジェクタ24は、シリンダヘッド13に配置される。洗浄液インジェクタ24は、燃焼室C内に向けられた噴射口を含む。具体的には、噴射口は、ピストン12の冠面12aに向けられる。洗浄液インジェクタ24は、第2の配管L2によってウォッシャータンク21に接続される。洗浄液インジェクタ24は、内蔵バルブを含んでもよい。
【0067】
水インジェクタ25は、吸気管2に配置される。水インジェクタ25は、吸気管2内に向けられた噴射口を含む。水インジェクタ25は、第3の配管L3によって水タンク31に接続される。水インジェクタ25は、内蔵バルブを含んでもよい。
【0068】
このような洗浄システム20Aは、第1実施形態に係る洗浄システム20と略同様に動作することができる。特に、洗浄システム20Aでは、洗浄液インジェクタ24は、シリンダヘッド13に配置され、燃焼室C内に向けられる。したがって、洗浄液インジェクタ24は、ピストン12の冠面12aに直接的に洗浄液を噴射することができる。よって、冠面12aに堆積したデポジットを効率よく除去することができる。
【0069】
以上、添付図面を参照しながら実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。また、上記実施形態のECU50のステップは、上記の順番で実施されなくてもよく、技術的に矛盾が生じない限りにおいて、異なる順番で実施されてもよい。
【0070】
例えば、上記の実施形態では、窓ガラスの洗浄に使用されるウォッシャー液が、デポジットの除去にも使用される。他の実施形態では、洗浄システム20は、ウォッシャータンク21とは別個に、デポジットの除去に使用される洗浄液を収容するタンクを備えてもよく、洗浄液インジェクタ23は、このタンクに接続されてもよい。
【0071】
上記の実施形態では、車両500は、水噴射システム30を備える。他の実施形態では、車両500は、水噴射システム30を備えなくてもよい。
【0072】
第2実施形態に係る洗浄システム20Aでは、洗浄液インジェクタ24がシリンダヘッド13に配置され、水インジェクタ25が吸気管2に配置される。他の実施形態では、洗浄液インジェクタ24および水インジェクタ25は、逆の位置に配置されてもよい。
【符号の説明】
【0073】
2 吸気管
10 エンジン
12 ピストン
20 エンジン洗浄システム
20A エンジン洗浄システム
21 ウォッシャータンク
22 ウォッシャーノズル
23 洗浄液インジェクタ
24 洗浄液インジェクタ
50 ECU(制御装置)
51 プロセッサ
52 記憶媒体
Ar1 第1の運転領域
Ar2 第2の運転領域
C 燃焼室
Ld1 第1の負荷
Ld2 第2の負荷
R1 第1の回転数
R2 第2の回転数
図1
図2
図3
図4
図5