(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024021762
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】評価方法
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/20 20120101AFI20240208BHJP
【FI】
G06Q50/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022124834
(22)【出願日】2022-08-04
(71)【出願人】
【識別番号】598096991
【氏名又は名称】学校法人東京農業大学
(72)【発明者】
【氏名】上田 智久
(72)【発明者】
【氏名】小川 繁幸
【テーマコード(参考)】
5L049
【Fターム(参考)】
5L049CC34
(57)【要約】
【課題】非認知能力を評価することができる。
【解決手段】人材における非認知能力を評価する評価方法であって、同一の評価項目において、評価対象者及び評価者各々の評価対象者の非認知能力に対する評価内容を、評価の実施前と実施後のそれぞれで比較して、評価対象者による評価内容と評価者による評価内容の差分を、複数の評価から得るステップと、複数の評価から得られた差分の変化から、評価者の評価対象者に対する実施の効果と評価者の評価の確度を設定するステップと、設定した評価者の評価の確度に基づいて、評価対象者の評価値を補正するステップと、を含む、ことを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
人材における非認知能力を評価する評価方法であって、
同一の評価項目において、評価対象者及び評価者各々の評価対象者の非認知能力に対する評価内容を、評価の実施前と実施後のそれぞれで比較して、評価対象者による評価内容と評価者による評価内容の差分を、複数の評価から得るステップと、
前記複数の評価から得られた差分の変化から、前記評価者の評価対象者に対する実施の効果と前記評価者の評価の確度を設定するステップと、
設定した前記評価者の評価の確度に基づいて、前記評価対象者の評価値を補正するステップと、
を含む、ことを特徴とする評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人材の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、評価対象者の能力を数値化可能な項目で評価をする教育評価が実施されている。その評価は、知識量や技能を客観的に点数として計測し、全体の総体的位置を偏差値などに位置づけて、評価対象者の能力として評価している。
【0003】
特許文献1に記載の技術では、学習者端末と指導者端末とを学校サーバを介して接続し、当該学校サーバにおいて学習者端末からの試験の回答結果を自動採点して、指導者端末に送信する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、人材教育においては、自動採点可能な知識量や技能のみならず、思考力、判断力、表現力、意欲、協調性といった非認知能力の評価が求められており、上述した特許文献1に記載の技術のように、数値化が可能な項目のみで評価を行うことでは、適切な人材の評価が行えないという問題があり、非認知能力を適切に評価することが求められる。
【0006】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、非認知能力を評価することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の一態様の評価方法は、人材における非認知能力を評価する評価方法であって、同一の評価項目において、評価対象者及び評価者各々の評価対象者の非認知能力に対する評価内容を、評価の実施前と実施後のそれぞれで比較して、評価対象者による評価内容と評価者による評価内容の差分を、複数の評価から得るステップと、複数の評価から得られた差分の変化から、評価者の評価対象者に対する実施の効果と評価者の評価の確度を設定するステップと、設定した評価者の評価の確度に基づいて、評価対象者の評価値を補正するステップと、を含む、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、人材評価において、非認知能力を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1の実施形態に係る人材の評価方法を示す図である。
【
図2】他の実施形態における教育プログラムの評価方法を示す図である。
【
図3】他の実施形態における教育プログラムの評価方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0011】
<実施形態>
従来の教育では、評価対象者の能力を数値化することを目的に教育評価が実施されてきた。その評価は、知識量や技能を客観的に点数として計測し、全体の総体的位置を偏差値などに位置づけて、評価対象者の能力として評価してきた。しかしながら、人材教育において、知識量や技能のみならず、思考力、判断力、表現力、意欲、協調性といった非認知能力の評価が求められており、従来の知識量や技能の評価システムに変わる非認知能力を評価するシステムが求められている。
【0012】
岩田ら(2021)によれば、「子どもの学習が認知能力と非認知能力で形作られるのであれば、教師はいずれの能力についても厳密に評価を実施する必要がある。しかし、子どもの非認知能力に対する教師の評価について妥当性と信頼性が十分に期待できるとは言えない」※1と指摘し、教師による非認知能力の評価傾向の特徴を明らかにした。岩田らによれば、「教師による非認知能力の評価には、評価の対象を内容・領域に特化することによって、もしくは、子どもと接する時間が増えるにともなって、子どもの行動や態度から非認知能力を評価する傾向が強まり、認知能力に対する評価を介して非認知能力を評価する傾向が弱まるという特徴があること」※1を明らかにした。この点からすると、非認知能力の評価においては、評価者が評価対象者の非認知能力を客観的に評価するシステムが必要である。
※1・・・岩田耕司、吉川厚、中川裕之、榎本哲士、宮崎樹夫「学教育の内容・領域に固有な非認知能力に対する教師による子どもの評価-非認知能力の評価を決定付ける媒介モデルの比較を通して-」『日本科学教育学会第45回年会論文集』日本科学教育学会,2021年より
【0013】
加えて、評価者が評価対象者の非認知能力を客観的に評価するシステムとしては、評価者の評価対象者に対する教育指導効果と指導者としての客観的な評価のズレを認識する教育評価システムが必要である。
【0014】
特開2002-099634号公報(以下、文献1という。)には、学習成果、能力到達の客観的な評価方法として「教育を施す側と教育を受ける側が事前に教育成果の評価について検討し、合意し、評価基準や評価項目などが含まれる統一の評価書を作成し」、この評価書にもとづいて、「教育を施す側と受ける側が評価結果を照らし合わせ、交渉の機会を持ち最終的な評価の決定と指導を行う。また、教育を施す側の評価者は2名以上とし、教育を施す側も自らの評価書を作成し、自己の教育内容を評価することでより高い公平性と教育を施す側のレベル向上を可能にする」評価システムが開示されている。
【0015】
この文献1の発明では、教育を施す側と教育を受ける側が事前に教育成果の評価について検討し、合意し、評価基準や評価項目などが含まれる統一の評価書を作成し、また、評価結果を照らし合わせ、交渉の機会を持ち最終的な評価の決定と指導を行うが、この過程においては、教育を受ける側は往々にして教育を施す側の意見を強く意識し、教育を受ける側と教育を施す側の統一評価基準は、教育を施す側の評価基準に偏る可能性がある。この点は企業経営においても同様の傾向が見られる。また、教育を施す側の評価者は2名以上とし、教育を施す側も自らの評価書を作成し、自己の教育内容を評価する点については、教育を施す側同士の評価を客観視することは可能であるが、教育を施す側の評価者は、いずれもそれぞれ教育を受ける側と統一評価基準を設けるため、教育を施す側の評価基準に偏った評価基準をベースとした評価基準となる可能性があり、教育を受ける側の能力の客観的評価においては、公平性を欠く可能性がある。
【0016】
本実施形態に係る技術は、評価対象者及び評価者それぞれの「評価対象者の非認知能力」に対する評価内容の比較を、プロジェクトの導入前後で実施し、これを継続的に実施することで、「評準に対する事前調整、合意形成は行わない)、評価対象者及び評価者が同一の評価項目によって「評価対象者の非認知能力」を評価するため、評価基準において、教育を施す側の評価基準に偏るという課題を解決することができる。また、評価対象者及び評価者それぞれの「評価対象者の非認知能力」に対する評価内容の比較を、プロジェクトの導入前後で実施し、これを継続的に実施することで、「評価対象者の能力」の変化と両者間における評価内容のズレの変化から、評価者の評価対象者に対する教育指導効果と指導者としての客観的な評価のズレを認識することで、より高い公平性と教育を施す側の指導力の向上を可能にする。
【0017】
また、特開2017-123123(以下、文献2という。)は、「プロジェクトに参加あるいは参加が予定される対象者の判断力及び行動力(以下、「実務力」)を向上させる実務力開発支援システム」である。評価方法については、「該対象者からの回答を受信する自己診断結果取得手段と、受信した回答を設問が属する分野毎に集計し、集計結果である現状レベルを現状レベルテーブルに登録する実務力診断手段と、目標レベルテーブルから読み出した目標レベルと現状レベルとを分野毎に対比して可視化表示データを作成する実務力評価手段と、現状レベルが目標レベルに達しない分野に対応する研修を研修情報データベースから読み出し、該対応者に推奨する研修を選定する研修選定手段と、を備えることを特徴とする実務力開発支援システム」とする。上記の点から、対象者の実務力を継続的に蓄積・分析することで、現状値と目標値との差を達成状況として客観的に分析・可視化することを特徴としている。この文献2の技術では、対象者の自己評価を前提としており、自らも認知しづらい非認知能力を客観的に評価していない可能性がある。
【0018】
本実施形態に係る技術は、評価対象者及び評価者それぞれの「評価対象者の非認知能力」に対する評価内容の比較を、プロジェクトの導入前後で実施し、これを継続的に実施することで、「評価対象者の能力」の変化と両者間における評価内容のズレの変化を可視化するため、現状値と目標値との差から達成状況を客観的に分析・可視化する際に、評価対象者から見た数値と比較することで、より客観的に評価することが可能である。
【0019】
本実施形態に係る技術では、
図1に示すように、まず、評価対象者及び評価者は、評価内容について統一せずに(評価基準に対する事前調整、合意形成は行わない)、評価対象者及び評価者が同一の評価項目によって「評価対象者の非認知能力」を評価する。
【0020】
同一の評価項目は分析する非認知能力の内容によって異なるが、標準的には20~50項目程度とし、各項目毎に5~10段階程度の評価を行う。なお、例えば非認知能力のうち、「やり抜く力」「社交性」「自制心(セルフコントロール)」といった特性的自己効力感に関する事項については、20~25項目程度について5段階評価を行う。また、「効果的に伝える力」「働きかける力」「強調する力」「考える力」といった社会人基礎力に関する事項についても。20~25項目程度について5段階評価を行う。
【0021】
そして、評価対象者、評価者それぞれの「評価対象者の非認知能力」に対する評価内容を比較し、評価対象者による評価内容と評価者による評価内容のズレをレーダーチャートなどのグラフで可視化する。
【0022】
評価対象者及び評価者それぞれの「評価対象者の非認知能力」に対する評価内容の比較を、プロジェクトの導入前後で実施し、これを継続的に実施することで、「評価対象者の能力」の変化と両者間における評価内容のズレの変化から、評価者の評価対象者に対する教育指導効果と指導者としての客観的な評価のズレを認識する。なお、評価者は複数名の方が「評価対象者の非認知能力」を客観的に評価する上では望ましい。例えば、1名の評価対象者の非認知能力を評価者(1)、評価者(2)によって評価する。その際、評価対象者及び評価者(1)、評価者(2)は同一の評価項目である。これにより、評価者の視点から見た評価対象者の非認知能力の評価を比較することが可能となり、「評価対象者の能力」の変化と評価者間における「評価対象者の能力」の評価内容のズレから、評価者の評価対象者に対する教育指導効果と指導者としての評価のズレをより客観的に認識することができる。
【0023】
本実施形態に係る技術により、従来の知識量や技能の評価システムに変わる非認知能力を客観的に評価することが可能となる。また、評価基準において、教育を施す側の評価基準に偏るという課題を解決することができる。そして、教育を施す側の指導力の向上を可能にする。この評価システムをもって「評価対象者の非認知能力」の開発を支援することができる。
【0024】
また、本実施形態に係る技術の具体的な効果として、本実施形態に係る技術を用いて評価対象者約25名の特性的自己効力感の変化を分析したところ、全体的に特性的自己効力感の7%の向上が見られた。社会人基礎力については、全体的に「効果的に伝える力」「働きかける力」「考える力」の向上が見られ、中でも「効果的に伝える力」は5%、「考える力」は4.6%の向上が見られた。
【0025】
<他の実施形態>
人材開発の評価の可視化システム(人材開発の評価の可視化システム及び可視化方法)
評価対象者本人による評価と評価者による評価のズレを客観的評価として可視化する。
【0026】
人材開発における評価をわかりやすい形式(可視化)して提供する。
これまで人材開発おける評価の可視化においては、客観的評価の方法としては、評価対象者と、その他の複数の評価対象者を比較・総合分析することで客観化する方法などが展開されてきた。しかし、そもそも評価対象者の客観的評価においては、評価対象者と評価対象者の評価のズレを意識して分析する(ズレの可視化)が重要である。
分析対象は、評価対象者及び評価者とし、それぞれが同様の評価項目にて分析する。
また、評価は評価対象者本人による評価と評価者による評価のズレをグラフ(レーダーチャート)によって可視化することで、コーチングプランの一助とする。
【0027】
即ち、組織集団における人材開発の評価の可視化システム(組織集団における人材開発の評価の可視化システム及び可視化方法)
ハード:バーナードの協働システムを実際に機能させる上で重要となる組織人(管理者)に求められる能力(「調整活動を現実的に行っていく能力」(「冷静さ」「柔軟さ」「機敏さ」「適用性」「勇気」)を可視化する。
ソフト: 評価対象者及び評価者それぞれが、評価対象者の組織人(管理者)に求められる能力を分析する。
評価対象者の組織人(管理者)に求められる能力を、評価対象者本人による評価と評価者による評価のズレをレーダーチャートによって可視化する。
【0028】
[背景]
組織集団(企業や学校など)における組織活動においては、協働が重要となる。特に、中高等教育において組織活動がうまく展開できないと組織人になれない。
【0029】
日本においては、学校教育課程において、社会において重要となる集団活動の基礎を学び、延いては多様な社会集団において組織活動が展開していくことが求められる。
【0030】
昨今においては、ICT(Information and Communication Technology)・IoT(Internet of Things)の情報技術の発展によって、空間的枠を越えた集団行動(オンライン会議・授業など)も可能になったことから、学習環境や労働環境も大きく変容したものの、組織集団の本質は変わっておらず、協働の重要性を再評価し、協働を存続・維持していくことが集団形成において重要となる。
【0031】
その協働において重要となるのが学力以外の力(非認知能力)である。ゆえに、学力以外の力(非認知能力)の評価と長期的な育成が重要である。
【0032】
[教育現場における人材開発の評価の可視化の必要性]
2020年度から新学習指導要領による教育が開始され、この指導要領に沿って新たな仕組みでの教育を展開することが求められるようになった。
【0033】
この新学習指導要領では、3つの柱(1「個別の知識・技能」、2「思考力・判断力・表現力等」、3「学びに向かう力・人間性等」)が重視されるようになったことで、学習状況評価(1「知識・技能」、2「思考・判断・表現」、3「主体的に学習に取り組む態度」)の方法も改善が求められている。
【0034】
特に、3「主体的に学習に取り組む態度」については、これまで定量的な評価方法が具体的に提示されてこなかった。また、新学習指導要領における「学びに向かう力・人間性等」の評価については、必ずしも学習状況評価の「主体的に学習に取り組む態度」と合致しているわけではないため、「学びに向かう力・人間性等」を評価する新たなシステムが求められている。また、「学びに向かう力・人間性等」は、学力以外の力(非認知能力)に関する評価軸であり、これら学力以外の力を把握・可視化できる仕組みが必要である。
【0035】
なお、この学力以外の力(非認知能力)は協働システムを実際に機能させる上で重要となる組織人(管理者)に求められる能力から分析していくことが有効である。即ち、この学力以外の力(非認知能力)は協働を実際に機能させる上で重要となる能力であり、この能力を客観的に評価し、育成していくことが必要である。
【0036】
ゆえに、学力以外の力(非認知能力)を客観的に可視化し、生徒一人ひとりに最適なコーチングプランを提供することは、今後の教育活動において重要であり、非認知能力の長期的な育成求められている。非認知能力を向上させることは、学習意欲、学習への取り組み、キャリアデザインなどの志向の向上などが期待される。
【0037】
<他の実施形態>
組織集団(企業や学校など)における組織人(管理者)としての人材開発における評価をわかりやすい形式(可視化)して提供する。
評価の可視化システムは、バーナードの組織論(協働システム)をベースとしながら、x個の評価項目(「特定自己効力感」と「社会人基礎力」の2軸をベース)をそれぞれ数値によって総合評価する。
分析対象は、評価対象者及び評価者とし、それぞれが同様の評価項目にて分析する。
また、評価は評価対象者本人による評価と評価者による評価のズレをレーダーチャートによって可視化することで、コーチングプランの一助とする。
【0038】
組織集団(企業や学校など)における組織活動においては、協働システムを機能させるが重要となる。特に、中高等教育において組織活動がうまく展開できないと組織人になれない。
【0039】
学力以外の力(非認知能力)を協働システムから分析・可視化し、生徒一人ひとりに最適なコーチングプランを提供することは、今後の教育活動において重要であり、非認知能力の長期的な育成求められている。
【0040】
非認知能力を向上させることは、学習意欲、学習への取り組み、キャリアデザインなどの志向の向上などが期待される。
【0041】
本システムでは、協働システムを実際に機能させる上で重要となる組織人(管理者)に求められる能力を計測するために5のトピックを設計し、各トピックのスコアを取得することで、学力以外の力を的確に把握することが可能となる。
【0042】
バーナードの組織論(協働システム)
人は限定された合理性に基づき行動をとるため、目的の程度によってはこの達成において協働行為が不可欠となる。そして、目的達成に向けた協働を形成する場が組織であり、バーナードは組織を「2人以上による協働システム」と定義した。
【0043】
また、組織成立の条件として、(1)協働意志(2)共通の目的(3)コミュニケーションの3要素を明示し、この均衡が組織の存続・維持に極めて重要であるとの見解を示している。
【0044】
協働意志とは、個人の努力を組織目的に寄与する行為であり、すなわち、個人人格的行動(自由)の放棄を意味する。組織が個人にもたらす誘因の度合いによって、放棄以上の価値を見いだすと個人が判断した場合、初めて組織への貢献として協働行為が生じる。次に共通の目的を見ると、これは組織成立の根底ともいえる。それは、目的なく協働行為が起きることは無いためである。
【0045】
しかしながら、どのような組織においても普遍的な共通の目的を設定することは皆無であり、内的・外的環境の変化など、組織が存続する条件に呼応し、目的は常に変更される。その際、共通目的の変更に対し、組織構成員から理解を求めるだけでなく「容認」されなければならない。そして目的の容認は、協働意志と密接な関係があり、これらは同時に発揮されうるものである。
【0046】
しかし、組織の共通目的とこれを容認させ、協働意志を引き出す過程を見ると両者は対局に位置する。共通目的の達成において、基本的に個人は組織人格的行動をとり、個人を犠牲にし、その集合が組織の目的達成につながる。したがって、共通目的と個人の貢献は対極に位置するのである。
【0047】
そして、共通目的と協働意志をつなげるものが、コミュニケーションである。手段としてのコミュニケーションがなければ、共通目的の受容を促すことは不可能である。また組織が目的を達成するために必要な情報を入手し、そのもとで出来る限り合理的な意思決定を下すことも難しくなる。したがってバーナードは、組織理論を突き詰めると、コミュニケーションが中心的位置を占めると指摘した。
【0048】
バーナードは、協働システムをコミュニケーション・システムと捉え、リーダーはコミュニケーション・センターであるとの指摘を行っている。しかしリーダーもまた人であるがゆえに、限定された合理性のもとで行動しなければならない。したがって、組織目的の達成に向けた情報の入手とこれを基にした調整活動も限定的にならざるを得ない。こうした制約のもと、目的を達成する中で組織規模が拡大し続けると、一元的指示系統のもとで組織をシステムとして機能させることには限界が生じる。その結果、制約以上に組織が成長すれば、必然的に新たな組織の形成が必要となり、組織再編が起きることになる。
【0049】
また、組織の再編は、新たな組織を管理・調整する管理者の存在を生みだすことになる。組織再編の過程にて、単一組織が細分化することで複合的組織(二つ以上の単位組織が集合)が誕生するとともに、そこで管理者が機能し、組織は目的を達成し、更なる規模拡大が可能となる。言わば、組織存続の条件として目的の達成とともに新たな目的の設定が必要となるため、これに応じて個人への受容が必要となり、管理者は組織目的を個人に理解させるとともに需要を促さなければならない。したがって管理者は二つの単位組織に属するコミュニケーション・センターになる。
【0050】
バーナードの組織論(協働システム)をベースとした評価項目
バーナードの協働システムなかでも「調整活動を現実的に行っていく能力」(「冷静さ」「柔軟さ」「機敏さ」「適用性」「勇気」)に着目し、この5つのトピックスを評価項目とし、この総合評価を「協働システムを実際に機能させる上で重要となる組織人(管理者)に求められる能力」と捉え、可視化する。
【0051】
他の実施形態として、
図2及び
図3に示すような教育プログラムにおける評価方法がある。本教育プログラムでは、例えば、生徒の主体性(責任感)の向上を目的に実施し、実施結果を評価するための項目を簡易に認識可能に可視化する。
【0052】
「主体性」の向上を目的とした教育プログラムとしては、以下のポイントがある。
(1)「主体性」の把握を「特性的自己効力感」と「社会人基礎力」という2つの視点から分析していること
(2)個人の主体性の変化を見える化すること
(3)生徒と教員それぞれが「主体性」を評価・分析することで、生徒と教育の主体性のズレを見える化し、教員の教育指導の参考となること
(4)主体性を向上させるためのツールとして、「基礎プログラム」「フィールドワークプログラム」「応用プログラム」を開発すること
【0053】
これまで人材開発おける評価の可視化においては、客観的評価の方法としては、評価対象者と、その他の複数の評価対象者を比較・総合分析することで客観化する方法などが展開されてきた。しかし、そもそも評価対象者の客観的評価においては、評価対象者と評価対象者の評価のズレを意識して分析する(ズレの可視化)が重要である。
人材開発における評価をわかりやすい形式(可視化)して提供する。
分析対象は、評価対象者及び評価者とし、それぞれが同様の評価項目にて分析する。
また、評価は評価対象者本人による評価と評価者による評価のズレをグラフ(レーダーチャート)によって可視化することで、コーチングプランの一助とする。
【0054】
研究者は組織集団(企業や学校など)における組織人(管理者)の人材開発での評価をわかりやすい形式(可視化)にして提供する。
具体的には、バーナードの組織論(協働システム)をベースとしながら、評価対象者及び評価者が検討した個の評価項目(「特定自己効力感」と「社会人基礎力」の2軸をベースとした評価項目(例:「冷静さ」、「柔軟さ」、機敏さ」、「適用性」、「勇気」等を数値化したもの))を比較して総合評価する評価可視化システムである。
このシステムについて、必ずしもバーナードの組織論だけを対象とする必要はなく、幅広く評価できる可視化システムを構築する。
【0055】
また、人材開発の評価可視化システムであり、評価対象者本人による評価と評価者による評価のズレを客観的評価として可視化するシステムに関する特許性の判断である。
具体的には、分析対象を評価対象者及び評価者とし、それぞれが同様の評価項目にて分析し、また、評価は評価対象者本人による評価と評価者による評価のズレをグラフ(レーダチャート)によって可視化することで、コーチングプランの一助となるシステムである。
【0056】
なお、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【0057】
以上、本発明のいくつかの実施形態について説明したが、これらの実施形態は、例示に過ぎず、本発明の技術的範囲を限定するものではない。本発明はその他の様々な実施形態を取ることが可能であり、さらに、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、省略や置換等種々の変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、本明細書等に記載された発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。また、本発明は、上述した各実施形態及び実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された学術文献及び特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。