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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024021765
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】正極電極材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/36 20060101AFI20240208BHJP
   H01G 11/86 20130101ALI20240208BHJP
   H01G 11/38 20130101ALI20240208BHJP
【FI】
H01M4/36 C
H01G11/86
H01G11/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022124837
(22)【出願日】2022-08-04
(71)【出願人】
【識別番号】000219576
【氏名又は名称】東海カーボン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新井 啓哲
(72)【発明者】
【氏名】小澤 政範
【テーマコード(参考)】
5E078
5H050
【Fターム(参考)】
5E078AA03
5E078AB02
5E078BA18
5E078BA27
5E078BA44
5E078BA47
5E078BA53
5E078BB33
5E078FA02
5E078FA03
5E078FA12
5H050AA12
5H050CA01
5H050DA10
5H050EA10
5H050FA18
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA15
5H050GA22
5H050HA00
5H050HA07
5H050HA10
(57)【要約】
【課題】十分に低い体積固有抵抗を発揮し得る正極電極材料の新規な製造方法を提供する。
【解決手段】正極電極材料を製造する方法であって、(1)窒素吸着比表面積が30~500m/g、DBP吸収量が60~200ml/100gのカーボンブラックを酸化処理して得られた酸化カーボンブラックを5~20質量%含む酸化カーボンブラック水性分散体の調製工程と、(2)前記酸化カーボンブラック水性分散体と正極活物質とを接触させて、前記正極活物質の表面に酸化カーボンブラックが被覆率60%~100%となるように被覆した酸化カーボンブラック被覆正極活物質の水性媒体浸漬物を得る被覆工程と、(3)前記酸化カーボンブラック被覆正極活物質の水性媒体浸漬物を乾燥して酸化カーボンブラック被覆正極活物質を得る乾燥工程とを順次施すことを特徴とする正極電極材料の製造方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極電極材料を製造する方法であって、
(1)窒素吸着比表面積が30~500m/g、DBP吸収量が60~200ml/100gのカーボンブラックを酸化処理して得られた酸化カーボンブラックを5~20質量%含む酸化カーボンブラック水性分散体の調製工程と、
(2)前記酸化カーボンブラック水性分散体と正極活物質とを接触させて、前記正極活物質の表面に酸化カーボンブラックが被覆率60%~100%となるように被覆した酸化カーボンブラック被覆正極活物質の水性媒体浸漬物を得る被覆工程と、
(3)前記酸化カーボンブラック被覆正極活物質の水性媒体浸漬物を乾燥して酸化カーボンブラック被覆正極活物質を得る乾燥工程と
を順次施すことを特徴とする正極電極材料の製造方法。
【請求項2】
前記調製工程で得られる酸化カーボンブラック水性分散体が、炭素数が1~3であるアルコール類を含み、25℃における粘度が1.0~10.0mPa・secであることを特徴とする請求項1に記載の正極電極材料の製造方法。
【請求項3】
さらに
(4)前記乾燥工程で得られた酸化カーボンブラック被覆正極活物質を還元処理して還元カーボンブラック被覆正極活物質を得る還元工程
を施すことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の正極電極材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極電極材料の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
二次電池、電気二重層キャパシタ、レドックスキャパシタおよびハイブリッドキャパシタなどの蓄電デバイスは、携帯電話やノート型パソコンなどの情報機器の電源、電気自動車やハイブリッド自動車などの低公害車のモーター駆動電源やエネルギー回生システムなどのために広く応用が検討されているデバイスであるが、これらの蓄電デバイスにおいて、高性能化、小型化の要請に応えるために、エネルギー密度およびサイクル寿命の向上が望まれている。
【0003】
これらの蓄電デバイスでは、電解質(電解液を含む)中のイオンとの電子の授受を伴うファラデー反応あるいは電子の授受を伴わない非ファラデー反応により容量を発現する正極活物質が、エネルギー貯蔵のために利用される。そして、これらの活物質は一般に導電剤との複合材料の形態で使用される。
導電剤としては、通常、天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンナノチューブ、カーボンブラック等の導電性カーボンが使用される(例えば、特許文献1参照)。
これらの導電性カーボンは、導電性の低い活物質と併用されて、複合材料に導電性を付与する役割を果たすが、これだけでなく、活物質の反応に伴う体積変化を吸収するマトリックスとしても作用し、また、活物質が機械的な損傷を受けても電子伝導パスを確保するという役割も果たす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003-308845号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記活物質と導電性カーボンとの複合材料は、一般に正極活物質の粉末粒子と導電性カーボンの粉末粒子とを混合する方法により製造される。
【0006】
例えば、特許文献1においては、空隙を有するカーボンブラック粉末に強い酸化処理を施し、得られた酸化処理カーボンブラック粉末と電極活物質粉末粒子とを混合することにより、酸化処理カーボンブラック粉末の少なくとも一部を糊状に変化させて上記電極活物質粉末の表面に付着することにより複合体化する方法が開示されている。
【0007】
しかしながら、本発明者等が検討したところ、特許文献1記載の方法で得られる複合体化した電極材料を用いた場合においても、得られた正極材は、必ずしも十分な導電性を示さない(必ずしも十分に低減された体積固有抵抗値を示さない)ことが判明した。
【0008】
正極電極材料の体積固有抵抗が十分に低減されていないと、電極に余分な抵抗を生じてエネルギー損失を招き易く、電池性能が低下し易くなる。
【0009】
従って、本発明は、十分に低い体積固有抵抗を発揮し得る正極電極材料の新規な製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
導電性カーボンは基本的に蓄電デバイスのエネルギー密度の向上に寄与しないため、高いエネルギー密度を有する蓄電デバイスを得るためには、単位体積あたりの導電性カーボン量を減少させて活物質量を増加させる必要があると考えられた。
そこで、導電性カーボンの分散性をより一層向上させ、あるいは、導電性カーボンのストラクチャーを低下させることにより、活物質粒子間の距離を接近させて単位体積あたりの活物質量を増加させる必要があると考えられた。
【0011】
係る観点から、本発明者等がさらに検討を加えたところ、所定の酸化カーボンブラックを水性媒体中に分散させて、分散性に優れた酸化カーボンブラック水性分散体を調製した上で、これを正極活物質と接触させることにより、正極活物質表面に酸化カーボンブラックを薄くかつ均質に被覆できることを見出し、係る知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、
(i)正極電極材料を製造する方法であって、
(1)窒素吸着比表面積が30~500m/g、DBP(Dibutyl phthalate)吸収量が60~200ml/100gのカーボンブラックを酸化処理して得られた酸化カーボンブラックを5~20質量%含む酸化カーボンブラック水性分散体の調製工程と、
(2)前記酸化カーボンブラック水性分散体と正極活物質とを接触させて、前記正極活物質の表面に酸化カーボンブラックが被覆率60%~100%となるように被覆した酸化カーボンブラック被覆正極活物質の水性媒体浸漬物を得る被覆工程と、
(3)前記酸化カーボンブラック被覆正極活物質の水性媒体浸漬物を乾燥して酸化カーボンブラック被覆正極活物質を得る乾燥工程と
を順次施すことを特徴とする正極電極材料の製造方法、
(ii)前記調製工程で得られる酸化カーボンブラック水性分散体が、炭素数が1~3であるアルコール類を含み、25℃における粘度が1.0~10.0mPa・secであることを特徴とする上記(i)に記載の正極電極材料の製造方法、
(iii)さらに(4)前記乾燥工程で得られた酸化カーボンブラック被覆正極活物質を 還元処理して還元カーボンブラック被覆正極活物質を得る還元工程を施すことを特徴とする上記(i)または(ii)に記載の正極電極材料の製造方法
を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、十分に低い体積固有抵抗を発揮し得る正極電極材料の新規な製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に係る方法で得られた正極電極材料の一例を示す走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示す図である。
図2図1のEDX(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)写真を示す図である。
図3図2記載のEDX写真において正極活物質粒子の輪郭線1およびカーボンブラックにより被覆された被覆部2を付した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係る正極電極材料の製造方法は、正極電極材料を製造する方法であって、
(1)窒素吸着比表面積が30~500m/g、DBP吸収量が60~200ml/100gのカーボンブラックを酸化処理して得られた酸化カーボンブラックを5~20質量%含む酸化カーボンブラック水性分散体の調製工程と、
(2)前記酸化カーボンブラックの水性分散体と正極活物質とを接触させて、前記正極活物質の表面に酸化カーボンブラックが被覆率60%~100%となるように被覆した酸化カーボンブラック被覆正極活物質の水性媒体浸漬物を得る被覆工程と、
(3)前記酸化カーボンブラック被覆正極活物質の水性媒体浸漬物を乾燥して酸化カーボンブラック被覆正極活物質を得る乾燥工程と
を順次施すことを特徴とするものである。
以下、適宜図面を参照して、本発明の正極電極用材料の製造方法について説明する。
【0016】
(1)酸化カーボンブラック水性分散体の調製工程
本発明の製造方法においては、酸化カーボンブラックの原料として、窒素吸着比表面積(NSA)が30~500m/g、DBP吸収量が60~200ml/100gのカーボンブラックを使用する。
【0017】
原料として使用される上記カーボンブラックとしては、オイルファーネスブラック、サーマルブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チェンネルブラック、ガスブラック、プラズマブラックなどを挙げることができ、単独あるいは二種類以上を混合して用いてもよい。
【0018】
原料として使用される上記カーボンブラックは、窒素吸着比表面積(NSA)が、30~500m/gであるものであり、40~200m/gであるものが好ましく、50~170m/gであるものがより好ましい。
【0019】
なお、本出願書類において、窒素吸着比表面積(NSA)は、全自動表面積測定装置((株)島津製作所製 ジェミニ2375)を用い、JIS K 6217-2に規定される「ゴム用カーボンブラック-基本特性-第2部、比表面積の求め方-窒素吸着法、単点法」に従って測定した値を意味する。
【0020】
原料として使用される上記カーボンブラックの窒素吸着比表面積(NSA)が上記範囲内にあることにより、酸化処理した後に、正極活物質の表面への被覆性を好適に向上させることができる。
【0021】
原料として使用される上記カーボンブラックは、DBP(Dibutyl phthalate)吸収量が、60~200ml/100gであるものであり、100~190 ml/100gであるものが好ましく、150~180ml/100gであるものがより好ましい。
【0022】
原料として使用される上記カーボンブラックのDBP吸収量が上記範囲内にあることにより、カーボンブラックのストラクチャーの発達の程度が向上し、カーボンブラック同士が隣接し易くなって導通状態を容易に向上させることができる。
【0023】
なお、本出願書類において、DBP吸油量は、JIS K 6217-4に規定される「ゴム用カーボンブラック-基本特性-第4部、DBP吸収量の求め方」に従って測定した値を意味する。
【0024】
本発明においては、上記カーボンブラックを酸化処理して酸化カーボンブラックを得る。
【0025】
カーボンブラックを酸化処理する方法は、公知慣用手段から適宜選択することが好ましい。
例えば、カーボンブラックに対し、シナジストにより表面酸性処理したり、ジアゾカップリングにより表面に酸性基を導入したり、適宜酸化処理することにより表面にフェノール性水酸基やカルボキシル基などの酸性基を導入したり、表面処理により酸性にしたカーボンブラックをさらに対イオンで中和したり、酸性基を含む少なくとも一種の親水性基がカーボンブラックの表面に直接、若しくは他の原子団を介して結合させる方法を挙げることができる。
【0026】
上記酸化カーボンブラックとしては、カーボンブラックの表面に酸性基を付与したカーボンブラックをさらに対イオンで中和した自己分散型カーボンブラックが好ましい。
自己分散型カーボンブラックとは、酸性基を含む少なくとも一種の親水性基がカーボンブラックの表面に直接、若しくは他の原子団を介して結合したものであって、水中に懸濁して分散液とした際に界面活性剤や高分子化合物を添加することなく安定した分散状態を保持することができ、その分散液の表面張力がほとんど水と同等の値を示すものを意味する。
【0027】
カーボンブラック表面に導入される酸性基としては、特に制限されず、例えば、スルホン酸基、リン酸基、カルボキシル基、水酸基等から選ばれる一種以上を挙げることができる。これら酸性基の導入量は、例えば、以下に記述する気相酸化条件もしくは液相酸化条件を制御することにより制御することができる。
【0028】
カーボンブラック表面に酸性基を導入する酸化処理は、液相法、気相法およびこれ等を組み合わせた方法等の公知の方法により行うことができる。
【0029】
液相法により酸化処理する場合は、酸化剤として、過酸化水素水、硝酸、硫酸、塩素酸塩、過硫酸塩、過炭酸塩など種々の酸化剤を用いることができ、例えば、上記酸化剤を含む水溶液中に、顔料を投入し、攪拌処理することにより、表面に酸性基を有する顔料を得ることができ、酸化剤の投入量および反応温度を制御することで、カーボンブラックの表面に酸性基を均一に導入することができる。
【0030】
また、気相法により酸化処理する場合、酸化剤としてオゾンや空気を用い、カーボンブラック等の顔料と接触させることにより、酸化する方法を挙げることができ、上記気相法によれば、乾燥コストがかからず、液相法に比べて容易に酸化処理することができる。
【0031】
さらに、カーボンブラックの表面にジアゾニウム塩によるカップリング反応によりスルホン酸基、リン酸基、カルボキシル基等の酸性基を導入したり、高温下で顔料と遊離酸素とを接触させることにより顔料表面に酸性基を導入したり、カーボンブラック表面を臭素および水によって常圧下または加圧下で処理することによりカーボンブラック表面に酸性基を導入する方法を挙げることができる。
【0032】
上記カーボンブラックの酸化方法のうち、カーボンブラック中に多量に存在する金属系不純物を除去するとともに、後述する精製処理後に得られる酸化カーボンブラックの親水性を向上させるために、カーボンブラックを酸性の溶媒中で湿式酸化処理する方法が好ましい。
【0033】
リチウム二次電池においては、金属不純物が存在することにより、金属成分の負極上での還元・析出による電池性能劣化や、短絡が発生する場合が考えられる。
例えば、金属成分による性能劣化や短絡の要因としては、製造工程において銅や鉄といった金属不純物が混入することや、正極、集電体、電池容器などに含まれる金属イオンが電解液中へ溶出した後に、負極上で還元・析出することや、正極の劣化により、正極活物質から金属イオンが溶出し、負極上で還元・析出すること等が考えられる。鉄のように磁性を有する金属に関しては、混入しても磁選工程などによりそれらの回収が可能であり、電池性能の低下や短絡を防ぐことができるが、銅のような磁選で回収し得ない金属については金属異物混入後の除去が難しい。
【0034】
上記事項を鑑みて鋭意検討した結果、本願のカーボンブラックの酸化処理においては、湿式による酸性の酸化剤による処理が適当であることを見出した。例えば、湿式酸化処理剤としては、重クロム酸アルカリ金属、過マンガン酸アルカリ金属なども使用することはできるが、重金属が残存することを軽減するためには、過硫酸塩、過硼酸塩、過炭酸塩などのアルカリ金属塩やアンモニウム塩などの塩類、次亜塩素酸アルカリ金属、亜塩素酸アルカリ金属などの金属類などや、過酸化水素水、硝酸水などが好ましい。
【0035】
これらの湿式酸化処理は、水中にカーボンブラックを添加して酸化することにより行われ、酸化剤水溶液の濃度、カーボンブラックの添加量、反応温度、反応時間などをその処理剤の特性に応じて適宜制御すればよい。
【0036】
湿式酸化処理した溶液中には、酸化したカーボンブラックと、酸化剤が還元した塩と、水とが存在している。この溶液中の塩の濃度は非常に高いので、カーボンブラック表面上に形成される酸性官能基のプロトンの乖離が塩析の影響で抑制されるため、著しくカーボンブラックの水中への分散性が低下する。
【0037】
そこで、カーボンブラックの湿式酸化処理を行う場合は、水中の塩濃度を低減することが好ましい。
水中の塩濃度を低減する方法としては、カーボンブラックの塩析による凝集を利用したデカンテーション法、水とカーボンブラック凝集物との膜分離法等を挙げることができ、膜分離法に使用される膜としては、限外濾過膜、精密ろ過膜、逆浸透膜等を挙げることができる。いずれの処理方法でも問題ないが、効率性を考慮すると限外濾過膜による膜分離法が適当である。
なお、上記塩濃度は、酸化処理などで形成された親水性官能基のプロトンの電離や塩の電離などした時の電気伝導度(mS/cm)により表される。
【0038】
酸化処理されたカーボンブラックは、表面にカルボキシル基やヒドロキシル基の親水性の酸性酸素含有表面官能基が形成されるため、カーボンブラックの水分子との親和性および水中への分散性が向上する。
【0039】
本発明の製造方法においては、カーボンブラックを酸化処理して得られる酸化カーボンブラック表面における酸性官能基量(酸性酸素含有表面官能基量)は、3.0μmol/m 以上であることが好ましく、4.0μmol/m以上であることがより好ましく、5.0μmol/m以上であることがさらに好ましい。
カーボンブラックが水中に分散する過程においては、カーボンブラックと水分子との接触界面に存在する親水性の官能基量が重要な機能を果たし、カーボンブラック単位重量当たりの官能基量では分散性の良否を的確に評価することはできないため、カーボンブラック単位表面積当たりに存在する酸性官能基量(酸性酸素含有表面官能基量)を指標とする。
【0040】
このようにして湿式酸化処理したカーボンブラックは、酸化剤溶液から濾過分離された後、純水で充分に洗浄することで付着している酸化剤の還元塩を水洗除去することが好ましい。
【0041】
さらに、高純度に精製するために、得られた酸化カーボンブラックを純水中に入れ、塩基性溶液によってpHを5~8に調整して酸化カーボンブラックを分散させたのち、電気透析あるいは限外濾過膜やルーズRO膜(逆浸透膜:Reverse Osmosis Membrane)などの分離膜で残塩を分離することにより精製処理することが好ましい。
上記精製処理することにより、自己分散型カーボンブラックを容易に調製することができる。
【0042】
上記塩基性溶液は、アルカリ金属系の水酸化物あるいはアンモニア、第四級アンモニウム塩(塩の部分は、水酸化物)などを水に溶解したものや、非プロトン性の塩基性有機溶媒であり、水との親和性が高いものであればよく、その中でもN-メチルピロリドン、ピリジンなどが好ましい。
【0043】
本発明においては、上述した方法により、酸化カーボンブラック水性分散体を得ることができる。
本発明において、酸化カーボンブラック水性分散体を構成する水性媒体としては、水や水溶性の有機溶媒を挙げることができるが、経済性や安全性の面から水、特に脱イオン水が好ましい。
【0044】
本発明においては、上述した方法により所望濃度を有する酸化カーボンブラック水性分散体を調製してもよいし、固形分濃度が例えば20質量%前後の高濃度の酸化カーボンブラック水性分散体を得た上で、所望濃度に濃度調整してもよい。
【0045】
様々な形状に加工または造粒された正極活物質の表面へ酸化カーボンブラックを被覆し、さらには内部へも含浸させるためには、酸化カーボンブラックの固形分濃度や粘度を最適な範囲に調製することが好ましい。
【0046】
本発明において、酸化カーボンブラック水性分散体は、炭素数が1~3、好ましくは炭素数が2~3であるアルコール類を含むものが好ましい。
上記アルコール類としては、エタノール、イソプロピリアルコール(IPA)、1-プロパノール、2-プロパノールから選ばれる一種以上を挙げることができる。
【0047】
本発明において、酸化カーボンブラック水性分散体が上記アルコール類を含むことにより、後述する被覆工程において正極活物質を被覆する際の表面張力を好適に低減して、正極活物質表面に均質に馴染ませることができ、このために酸化カーボンブラックを正極活物質の表面や内部に好適に付着させることができる。
また、本発明において、酸化カーボンブラック水性分散体が以下に示す水溶性樹脂を含む場合は、上記アルコール類を含むことにより、水溶性樹脂の溶解性を補助する役割を果たし、水溶性樹脂の水への溶解性を好適に向上させることができる。
【0048】
本発明において、酸化カーボンブラック水性分散体が、上記アルコール類を含む場合、その含有割合は、20.0~39.0質量%が好ましく、25~35質量%がより好ましく、28~30質量%がさらに好ましい。
【0049】
本発明において、酸化カーボンブラック水性分散体は、水溶性樹脂を含むものが好ましい。
水溶性樹脂としては、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、CMC(カルボキシメチルセルロース)、水溶性スチレン樹脂、水溶性フェノール樹脂、水溶性メラミン樹脂、水溶性エポキシ樹脂等から選ばれる一種以上を挙げることができる。
本発明において、酸化カーボンブラック水性分散体が、水溶性樹脂を含むことにより、酸化カーボンブラックを正極活物質表面に定着させる際の定着剤(バインダー)として機能することができる。
【0050】
本発明において、酸化カーボンブラック水性分散体が、水溶性樹脂を含む場合、その含有割合は、0.5~5.0質量%が好ましく、1.0~4.0質量%がより好ましく、2.0~3.0質量%がさらに好ましい。
【0051】
本発明において、酸化カーボンブラック水性分散体中における酸化カーボンブラック濃度は、0.5~5.0質量%であり、1.0~4.0質量%であることがより好ましく、2.0~3.0質量%であることがさらに好ましい。
【0052】
水性分散体中における酸化カーボンブラック濃度が上記範囲内にあることにより、後述する被覆工程において酸化カーボンブラック水性分散体を正極活物質と接触させたときに、正極活物質との接触性が向上して、酸化カーボンブラックを正極活物質の表面に好適に被覆することができる。
【0053】
本発明において、酸化カーボンブラック水性分散体としては、例えば、酸化カーボンブラックを0.5~5.0質量%、水を60.0~70.0質量%、アルコール系溶媒を20.0~39.0質量%、水溶性樹脂を0.5~5.0質量%含むものを挙げることができる。
【0054】
本発明において、酸化カーボンブラック水性分散体は、表面張力低減の観点から、全固形分濃度が0.5~20.0質量%であることが好ましく、2.0~15.0質量%であることがより好ましく、5.0~10.0質量%であることがさらに好ましい。
本発明において、酸化カーボンブラック水性分散体の全固形分濃度が上記範囲内にあることにより、後述する被覆工程において正極活物質を被覆する際の表面張力を好適に低減して、正極活物質表面に均質に馴染ませることができ、このために酸化カーボンブラックを正極活物質の表面や内部に好適に付着させることができる。
【0055】
また、本発明において、酸化カーボンブラック水性分散体の粘度は、酸化カーボンブラックを正極活物質へ被覆したり含浸し易くするために、25℃の状態で、1.0~10.0mPa・secであることが好ましく、2.0~8.0mPa・secであることがより好ましく、3.0~6.0mPa・secであることがさらに好ましい。
本発明において、酸化カーボンブラック水性分散体の粘度が上記範囲内にあることにより、後述する被覆工程において正極活物質を被覆する際の表面張力を好適に低減して、正極活物質表面に均質に馴染ませることができ、このために酸化カーボンブラックを正極活物質の表面や内部に好適に付着させることができる。
【0056】
(2)被覆工程
本発明においては、被覆工程として、上記酸化カーボンブラック水性分散体と正極活物質とを接触させることにより、上記正極活物質の表面に酸化カーボンブラックが被覆率60%~100%となるように被覆した酸化カーボンブラック被覆正極活物質の水性媒体浸漬物を得る。
【0057】
本発明において、酸化カーボンブラック水性分散体と接触させる正極活物質としては、従来の蓄電デバイスにおいて正極活物質として使用されている活物質であれば特に限定なく使用することができる。また、これらの活物質は、単独の化合物であっても良く、2種以上の化合物の混合物であってもよい。
なお、本願における正極活物質とは、正極活物質の内、造粒された形態を有するものを意味する。
【0058】
本発明において、正極活物質としては、例えば、層状岩塩型LiMO 、層状LiMnO-LiMO固溶体、およびスピネル型LiM(式中のMは、Mn、Fe、Co、Niまたはこれらの組み合わせを意味する。)から選ばれる一種以上を挙げることができる。
【0059】
正極活物質として、具体的には、
LiCoO
LiNiO
LiNi4/5Co1/5
LiNi1/3Co1/3Mn1/3
LiNi1/2Mn1/2
LiFeO
LiMnO
LiMnO-LiCoO
LiMnO-LiNiO
LiMnO-LiNi1/3Co1/3Mn1/3
LiMnO-LiNi1/2Mn1/2
LiMnO-LiNi1/2Mn1/2-LiNi1/3Co1/3Mn1/3
LiMn
LiMn3/2Ni1/2
から選ばれる一種以上が挙げられる。
【0060】
また、イオウの他、
LiS 、
TiS
MoS
FeS
VS
Cr1/21/2 等の硫化物、
NbSe
VSe
NbSe 等のセレン化物、
Cr
Cr
VO


13 などの酸化物、
LiNi0.8Co0.15Al0.05
LiVOPO
LiV
LiV
MoV
LiFeSiO
LiMnSiO
LiFePO
LiFe1/2Mn1/2PO
LiMnPO
Li(PO等の複合酸化物
から選ばれる一種以上を挙げることができる。
【0061】
上記正極活物質のうち、より具体的には、水等の水性媒体との反応性が低いものが好ましく、LiFePO、LiFe1/2Mn1/2PO等のリン酸鉄系の化合物から選ばれる一種以上が適当である。
【0062】
正極活物質粒子の形状や粒径には特に制限はないが、正極活物質自体で電極密度を向上させる観点から、正極活物質粒子の平均粒子径は、2~25μmが好ましく、5~20μmがより好ましく、10~15μmがさらに好ましい。
正極活物質の平均粒子径が上記範囲内にあることにより、正極活物質の表面さらには内部にまで含浸させた酸化カーボンブラック同士の接触頻度が多くなる結果、電極密度が増加し、蓄電デバイスのエネルギー密度を容易に向上させることができる。
【0063】
また、正極活物質粒子としては、平均粒子径が0.01~2μmの微小粒子と、この微小粒子と同じ極の活物質として動作可能な平均粒子径が2~25μmの粗大粒子との混合物であってもよい。
粒径が小さい粒子は凝集しやすいとされているが、本発明の方法においては、酸化カーボンブラックが粗大粒子の表面ばかりでなく微小粒子の表面にも付着して表面を覆うため、正極活物質粒子の凝集を抑制することができ、また、正極活物質粒子と酸化カーボンブラックとの混合状態(被覆状態や含浸状態を含む。)を均一化させることができる。
【0064】
なお、本出願書類において、正極活物質の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル社製 UPA150)により測定された、体積基準積算粒度分布における積算粒度で50%の粒径(体積平均粒径D50)を意味する。
【0065】
本発明の方法においては、被覆工程において、酸化カーボンブラック水性分散体と、正極活物質とを接触させる際、水性分散体中の酸化カーボンブラックと正極活物質との接触比は、高いエネルギー密度を有する蓄電デバイスを得る観点から、固形分換算したときの質量比で、酸化カーボンブラック:正極活物質が、90.0:10.0~99.5:0.5の範囲であることが好ましく、95.0:5.0~99.0:1.0の範囲であることがより好ましい。
【0066】
酸化カーボンブラック水性分散体と、正極活物質とを接触させる方法としては、特に制限されないが、酸化カーボンブラック水性分散体を電極正極活物質の表面へ被覆させ、さらには内部へも含浸させる上で、浸漬塗工方法、カーテンロール塗工方法、スプレー塗工方法等から選ばれる一種以上の方法を挙げることができる。
また、酸化カーボンブラック水性分散体と、正極活物質とを接触させる方法としては、酸化カーボンブラック水性分散体をスプレーで噴霧すると共に、正極活物質粉体を圧縮炭酸ガスなどで噴霧し、これらを密閉空間内で混合させる方法も挙げることができる。
【0067】
本発明の方法においては、被覆工程において、各接触方法に応じて条件を適宜設定することにより、正極活物質粒子表面に酸化カーボンブラックを被覆し、さらには正極活物質粒子の細孔部内にも酸化カーボンブラックを含浸させることができると考えられる。
【0068】
本発明の方法においては、被覆工程において、所定の酸化カーボンブラック水性分散体と正極活物質とを接触させることにより、正極活物質の表面に酸化カーボンブラックを、被覆率が60%~100%となるように被覆することができ、好適には被覆率が70%~95%となるように被覆することができ、より好適には被覆率が80%~90%となるように被覆することができる。
なお、本出願書類において、被覆率とは、正極活物質の外部表面におけるカーボンブラックの存在割合を意味し、(2)被覆工程で得られる、表面に酸化カーボンブラックを被覆した正極活物質の水性媒体浸漬物を100℃の温度下で撹拌しながら水性媒体を除去して乾燥させて得られた粉末状物を測定試料として、以下に示すにより測定される値を意味する。
【0069】
<被覆率の測定方法>
(2)被覆工程で得られた、表面に酸化カーボンブラックを被覆した正極活物質の水性媒体浸漬物を100℃の温度下で撹拌しながら水性媒体を除去して乾燥させ、得られた粉末状物を測定試料とする。
走査型電子顕微鏡(SEM)で、酸化カーボンブラック被覆正極活物質の表面を、1000~10000倍の倍率で50視野観察し、正極活物質の外部表面積の内、カーボンブラックが被覆している面積の割合を測定し、その平均値を算出することで測定する。
【0070】
具体的には、酸化カーボンブラック被覆正極活物質の表面を、エネルギー分散型X線分光装置(Oxford Instrument EBSD/EDX)を備えた走査型電子顕微鏡(SEM-EDX)にて1000倍~10000倍に拡大し、走査型電子顕微鏡(SEM)写真の画像解析により正極活物質粒子の輪郭線を特定し、輪郭線で囲まれた領域の面積(面積S)を算出する。
また、上記測定対象において、エネルギー分散型X線分光装置(EDX)により微量分析測定を行い、炭素検出部分の面積を計測することで、カーボンブラックの炭素で被覆された被覆部の面積(面積S)を算出する。
その上で、上記面積Sを面積Sで除した値の百分率((S/S)×100)を当該観察視野における被覆率として算出する。
同様にして、任意に選択されかつ互いに異なる50カ所以上の観察視野において被覆率を測定し、その算術平均を被覆率の測定結果として採用する。
【0071】
図1は、酸化カーボンブラック被覆正極活物質の一例において、その表面における走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示す図である。
図2は、図1に示す酸化カーボンブラック被覆正極活物質の一例において、元素としてC(炭素)に着目した正極活物質粒子の表面のEDX写真の一例である。
図3は、図2のEDX写真に正極活物質粒子の輪郭線1を付した模式図である。
図3に示すように、正極活物質粒子の輪郭線1の内側には、正極活物質粒子の表面がカーボンブラックにより被覆された被覆部2(図中白色の部分)が含まれる。
上述したように、被覆率の算出に際しては、正極活物質粒子の輪郭線1の内側の面積(S)と、カーボンブラックにより被覆された被覆部2の面積(S)とを各々求めた上で、上記面積Sを面積Sで除した値の百分率((S/S)×100)を当該観察視野における被覆率として算出する。
上記と同様の方法で、任意に選択されかつ互いに異なる50カ所の観察視野において被覆率を測定し、その算術平均を被覆率の測定結果として採用する。
【0072】
(3)乾燥工程
本発明の方法においては、(3)乾燥工程として、(2)被覆工程で得られた、表面に酸化カーボンブラックを被覆した正極活物質の水性媒体浸漬物を乾燥処理することにより、酸化カーボンブラック被覆正極活物質を得る。
【0073】
本発明の方法において、(3)乾燥工程で乾燥処理することにより、表面に酸化カーボンブラックを被覆した正極活物質の水性媒体浸漬物から水やアルコール類等を蒸発させ、乾燥させる。
【0074】
本発明の方法において、(3)乾燥工程で乾燥処理する際の温度は、70~110℃が好ましく、90℃~110℃がより好ましく、100℃~110℃がさらに好ましい。
【0075】
本発明の方法において、(3)乾燥工程で乾燥処理する際の雰囲気は、特に制限されず、不活性ガス雰囲気下で乾燥処理してもよいし、空気雰囲気下で乾燥処理してもよい。
【0076】
本発明の方法において、(3)乾燥工程で乾燥処理する際の乾燥時間は、乾燥対象となる水性分散体中の水性媒体を除去し得る時間から適宜選択すればよい。
【0077】
本発明の方法においては、表面に酸化カーボンブラックを被覆した正極活物質の水性媒体浸漬物が水溶性樹脂を含むものである場合、(3)乾燥工程を施すことにより、定着剤として添加している水溶性樹脂の硬化処理も同時に施すことができる。
このようにして水性分散体状の酸化カーボンブラック被覆正極活物質から粉末状の酸化カーボンブラック被覆正極活物質を得ることができる。
【0078】
本発明の方法においては、(3)乾燥工程を施すことにより得られた粉末状の酸化カーボンブラック被覆正極活物質は、そのまま正極電極材料として利用してもよいし、さらに以下に述べる(4)還元工程を施してもよい。
【0079】
(4)還元工程
本発明の方法においては、(4)還元工程として、(3)乾燥工程で得られた酸化カーボンブラック被覆正極活物質を還元処理して、還元カーボンブラック被覆正極活物質を得る工程を施すことが好ましい。
【0080】
本発明の方法において、(4)還元工程で還元処理する際の温度は、表面に形成された酸性官能基を除去し、十分な導電性を発揮する観点から、250℃以上が好ましく、500℃以上がより好ましく、エネルギーコスト等を考慮すると1000℃以下が好ましい。
【0081】
本発明の方法において、(4)還元工程で還元処理する際の雰囲気は、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等の不活性ガス雰囲気を挙げることができる。
【0082】
本発明の方法において、(4)還元工程で還元処理する際の時間は、処理対象となる酸化カーボンブラック被覆正極活物質の還元が十分に進行し得る時間から適宜選択すればよい。
【0083】
本発明の方法において、(3)乾燥工程で得られた酸化カーボンブラック被覆正極活物質の表面には、酸化カーボンブラックが高密度に被覆され、さらに内部にも含浸されているが、(4)還元工程として、不活性ガス雰囲気下で熱処理することにより、上記酸化カーボンブラックの表面に存在する酸性官能基を還元処理することが可能となり、カーボンブラックが従来有している導通性を容易に発揮することが可能となる。
【0084】
本発明の方法においては、(4)還元工程で還元処理することにより、(1)酸化カーボンブラック水性分散体を調製する工程で酸化処理してカーボンブラック表面に付与された酸性官能基の他、上記以外の工程でカーボンブラック表面に付与された酸性官能基を還元処理することもできる。
例えば、原料となるカーボンブラックとしてファーネスブラックを使用した場合、ファーネスブラックは製造直後の状態では非常に嵩高いため、一般に水等の溶液を用いて造粒工程を施された後、乾燥工程を経て流通されているが、上記乾燥工程で多少酸化されてしまうことから、乾燥工程で生じた酸性官能基を還元処理することにより、本来の導通性を発揮することが可能となる。
【0085】
本発明の方法において、(4)還元工程で還元処理する方法として、具体的には、(3)乾燥工程で得られた酸化カーボンブラック被覆正極活物質を、アルミナ、ジルコニア、ムライトなどのセラミック製のルツボに投入し、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガス雰囲気下で加熱処理することにより還元処理する方法を挙げることができる。
また、上記セラミック製ルツボに代えて、熱処理最中に金属不純物が混入せず、且つ還元温度と室温のサイクルを繰り返しても容易に壊れない素材であれば、セラミック以外の素材からなるルツボを使用してもよい。
【0086】
本発明の方法においては、上記(1)酸化カーボンブラック水性分散体の調製工程、(2)被覆工程および(3)乾燥工程と、任意工程である(4)還元工程については、それぞれ独立に実施してもよいし、連続的に実施してもよい。
生産性向上の観点からは、上記各工程を連続的に実施することが好ましい。
【0087】
本発明の方法で得られた正極電極材料を用いて正極電極材を作製する場合、例えば以下の方法により作製することができる。
【0088】
(A)正極電極材料スラリーの調製
本発明の方法で得られた正極電極材料に、バインダおよび溶媒を混合して正極電極材料スラリーを調製する。
【0089】
上記バインダとしては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレンコポリマー、ポリフッ化ビニル、カルボキシメチルセルロースなどの公知のバインダから選ばれる一種以上が挙げられる。
【0090】
バインダの混合割合は、活物質層が十分な強度を有する観点からは、本発明の方法で得られた正極電極材料の総量に対して1質量%以上とすることが好ましく、電極の放電容量の低下を防止する観点からは6質量%以下とすることが好ましい。
【0091】
混合のための溶媒としては、N-メチルピロリドンなどの電極材料中の他の構成要素に悪影響を及ぼさない溶媒を特に限定なく使用することができる。混合物中の各構成要素が均一に混合されれば、溶媒の量には特に限定がなく、バインダは溶媒に溶解させた形態で使用することができる。
【0092】
(B)正極電極材の形成
蓄電デバイスの電極のための集電体としては、白金、金、ニッケル、アルミニウム、チタン、鋼、カーボンなどの導電材料を使用することができる。
集電体の形状は、膜状、箔状、板状、網状、エキスパンドメタル状、円筒状等の任意の形状を採用することができる。
上記集電体に対し、(A)で得られた正極電極材料スラリーを塗布した後、乾燥処理する。
正極活物質層の乾燥処理は、必要に応じて減圧・加熱処理を伴ってもよく、減圧・加熱処理することにより溶媒を効果的に除去することができる。
上記乾燥処理して集電体の表面に正極電極材料の塗膜層を設けた後、圧延処理を施して正極電極材を得る。
圧延処理により正極電極材料の塗膜層に加えられる圧力は、一般には50000~1000000N/cm、好ましくは100000~500000N/cmである。 また、圧延処理時の温度は特に制限されず、処理を常温で行ってもよいし加熱条件下で行ってもよい。
このようにして、本発明の方法で得られた正極電極材料を用いて正極電極材を作製することができる。
【0093】
本発明によれば、十分に低い体積固有抵抗を発揮し得る正極電極材料の新規な製造方法を提供することができる。
【0094】
(実施例)
以下に本発明の内容を具体的な例を比較例とともに挙げつつ説明するが、本発明はこれら例に限定されるものではない。
【0095】
(実施例1)
(1)自己分散型カーボンブラック水性分散体の調製工程
表1に示すように、原料となるカーボンブラックとして、窒素吸着比表面積(NSA)が58m/g、DBP吸油量が168ml/100gであるものを150g準備した。
上記カーボンブラックを3.0mol/lの濃度のペルオキソ二硫酸ナトリウムNa水溶液3000mlに入れ、温度60℃、回転数300rpmで5時間、攪拌混合し、酸化処理して酸化カーボンブラックを得た。
次いで、濾過により分離した酸化カーボンブラックを各々純水中に分散させて水酸化ナトリウム水溶液(濃度0.5mol/l)で中和し、限外濾過膜により精製処理して残存する塩を分離したのち、カーボンブラックの固形分濃度が20質量%で、電気伝導度が2mS/cm以下になるように精製することにより、自己分散型カーボンブラック水分散体(酸化カーボンブラック水分散体)を調製した。
【0096】
次いで、上記自己分散型カーボンブラック水分散体40gにイオン交換水90g、ソルミックAP-7(工業用アルコール)20g、アクリル樹脂(アサヒペン、水性つやだしニス)10gを加えて固形分濃度を5.0質量%に調整することにより、25℃における粘度が3.2mPa・secである自己分散型カーボンブラック水性分散体(酸化カーボンブラック水性分散体)を得た。
【0097】
(2)被覆工程
上記調製工程で得られた自己分散型カーボンブラック水性分散体を50g計量し、この水性分散体中に正極活物質として、表1に示す物性を有するLiFePO(LFP、(株)豊島製作所製)を92g浸漬させ、攪拌しながら、自己分散型カーボンブラック水性分散体を正極活物質の表面に被覆させるとともに、内部にまで含浸させることにより、表面に自己分散型カーボンブラックを被覆した正極活物質の水媒体浸漬物を得た。
【0098】
表面に自己分散型カーボンブラックを被覆した正極活物質の水媒体浸漬物の一部を採取し、以下の方法で被覆率を算出したところ、被覆率66%であった。結果を表1に示す。
【0099】
<被覆率の測定方法>
表面に自己分散型カーボンブラックを被覆した正極活物質の水媒体浸漬物を100℃の温度下で撹拌しながら水分を除去して乾燥させて得られた粉末状物(自己分散型カーボンブラック被覆正極活物質)を測定試料とする。
自己分散型カーボンブラック被覆正極活物質の表面を、エネルギー分散型X線分光装置(Oxford Instrument EBSD/EDX)を備えた走査型電子顕微鏡(SEM-EDX)にて1000倍~10000倍に拡大し、走査型電子顕微鏡(SEM)写真の画像解析により正極活物質粒子の輪郭線を特定し、輪郭線で囲まれた領域の面積(面積S)を算出する。
また、上記測定対象において、エネルギー分散型X線分光装置(EDX)により微量分析測定を行い、炭素検出部分の面積を計測することで、カーボンブラックの炭素で被覆された被覆部の面積(面積S)を算出する。
その上で、上記面積Sを面積Sで除した値の百分率((S/S)×100)を当該観察視野における被覆率として算出する。
同様にして、任意に選択されかつ互いに異なる50カ所以上の観察視野において被覆率を測定し、その算術平均を被覆率の測定結果として採用する。
【0100】
(3)乾燥工程
上記被覆工程で得られた、自己分散型カーボンブラックを被覆した正極活物質の水媒体浸漬物を100℃の温度下で撹拌しながら水分を除去して乾燥させることにより、粉末状物(酸化カーボンブラック被覆正極活物質)を得た。
【0101】
(4)還元工程
上記乾燥工程で得られた各粉末状物(酸化カーボンブラック被覆正極活物質)をルツボ(アルミナ)に入れ、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/minで400℃まで昇温した後、同温度で30分間保持し、次いで冷却することにより、正極活物質の表面および内部に存在する酸化カーボンブラックを還元処理して、還元カーボンブラック被覆正極活物質からなる正極電極材料を得た。
【0102】
<圧縮電気抵抗の測定>
上述した方法により得られた正極電極材料を用いて、JIS K1469-2003の規定に従い、圧縮電気抵抗を測定した。結果を表1に示す。
【0103】
<体積固有抵抗の測定>
上述した方法により得られた正極電極材料を用いて、以下の方法により電極材を作成し、体積固有抵抗を測定した。結果を表1に示す。
(電極材(正極材)の作成)
質量比で、上述した方法により得られた正極電極材料:黒鉛粉末:PVDF(ポリフッ化ビニリデン)=94.5:2.5:3.0となるように、NMP(N-メチルピロリドン)溶媒中に上記各成分を添加した後、撹拌脱泡装置(シンキー社製、あわとり練太郎(登録商標)、ARE-310)にて混錬してスラリーを作製した。
このスラリーをアプリケーター(登録商標)(テスター産業(株)製、SA-204、幅150mm)を用いて、70±10μmとなるようにアルミ箔上に塗工した後、電気オーブン中で120±5℃で25分間加熱処理して塗膜を乾燥させ、次いで圧延処理を施して表面に電極膜を設けた正極材を作製した。
【0104】
(電極膜の体積固有抵抗の測定)
抵抗率計(三菱化学アナリテック社製、ロレスターGP MCP-T610)を用いて上記正極材表面に設けた電極膜の表面抵抗率(Ω/□)を測定した。
測定後、アルミ箔上に形成した電極合材層(電極膜)の厚みを掛けて、電極膜の体積固有抵抗(Ω・cm)を求めた。
電極合材層(電極膜)の厚みは、非接触式レーザー膜厚計を用いて電極全体の厚みとアルミ箔の膜厚を測定し、電極全体の厚みからアルミ箔の膜厚を引き算することで求めた。
表面抵抗率、電極全体の厚みおよびアルミ箔の膜厚は、いずれも3点を測定した平均値として求め、これらの平均値に基づいて電極膜の体積固有抵抗(Ω・cm)を求めた。
【0105】
<酸化カーボンブラックの酸化官能基量の測定>
測定試料として、調製工程で原料として使用したカーボンブラック(酸化処理前試料)および調製工程で原料であるカーボンブラックをペルオキソ二硫酸ナトリウムNa水溶液で酸化処理して得られた自己分散型カーボンブラック水分散体(酸化処理後試料)を用い、以下の方法によりカルボキシル基量およびヒドロキシル基量を測定し、両者の和を酸化官能基量(酸性酸素含有表面官能基量)として求めた。結果を表1に示す。
なお、酸化カーボンブラックの水分散体については乾燥処理して酸化カーボンブラック粉末とした上で各値を測定した。
【0106】
(カルボキシル基量)
0.967mol/l炭酸水素ナトリウム50ml中に測定試料(カーボンブラックまたは酸化カーボンブラック粉末)2~5gを添加して6時間振盪した後、測定試料を反応液から濾別し、濾液に0.05mol/l塩酸水溶液を加えたのち、pHが7.0になるまで0.05mоl/l水酸化ナトリウム水溶液にて中和滴定試験を行ってカルボキシル基を測定する。この測定値をカーボンブラックの窒素吸着比表面積(NSA:m/g)で除した値を、カーボンブラックの単位表面積当たりに形成されたカルボキシル基量(μmol/m )とする。
【0107】
(ヒドロキシル基量)
2、2’-Diphenyl-1-picrylhydrazyl(DPPH)を四塩化炭素中に溶解して濃度5×10-4mol/lの溶液を作成し、該溶液に測定試料(カーボンブラックまたは酸化カーボンブラック粉末)を0.1~0.6g添加し、60℃の恒温槽中で6時間撹拌する。その後、反応液から測定試料を濾別し、紫外線吸光光度計により濾液中のヒドロキシル基を測定する。このようにして測定した値をカーボンブラックの窒素吸着比表面積(NSA;m/g)で除した値を、カーボンブラックの単位表面積当たりに形成されたヒドロキシル基量(μmol/m )とする。
【0108】
<カーボンブラックの純度の測定>
(1)調製工程で原料として使用したカーボンブラックと、(1)調製工程で得られた自己分散型カーボンブラックを用い、(2)被覆工程を実施することなく上記(3)乾燥工程および(4)還元工程を順次実施して得られた還元カーボンブラックとを測定試料として、マイクロ波試料前処理装置(マイルストーンゼネラル社製、ETHOS1)を使用して酸分解し、金属分を抽出した後、マルチ型ICP発光分光分析装置((株)島津製作所製、ICPE-9820)を用いて分析を行い、抽出液に含まれる各金属元素濃度を測定した。結果を表2に示す。
【0109】
(実施例2)
表1に示すように、原料となるカーボンブラックとして、窒素吸着比表面積(NSA)が58m/g、DBP吸油量が168ml/100gであるものに代えて、窒素吸着比表面積(NSA)が225m/g、DBP吸油量が155ml/100gであるものを用いた以外は、実施例1と同様にして正極電極材料を作製した((1)調製工程で得られた自己分散型カーボンブラック水性分散体(酸化カーボンブラック水性分散体)の25℃における粘度は5.6mPa・secであった)。
このとき、実施例1と同様にして、(2)被覆工程で得られた表面に自己分散型カーボンブラックを被覆した正極活物質の水媒体浸漬物において、自己分散型カーボンブラックの被覆率を測定するとともに、上記酸化処理前後におけるカーボンブラックを測定試料として酸性官能基量を測定し、また、カーボンブラックの純度と、得られた正極電極材料の圧縮電気抵抗を測定し、さらに得られた正極電極材料を用いて実施例1と同様にして電極材(正極材)を作製して体積固有抵抗(Ω・cm)を求めた。結果を表1および表2に示す。
【0110】
(実施例3)
表1に示すように、原料となるカーボンブラックとして、窒素吸着比表面積(NSA)が58m/g、DBP吸油量が168ml/100gであるものに代えて、窒素吸着比表面積(NSA)が168m/g、DBP吸油量が105ml/100gであるものを用いた以外は、実施例1と同様に(1)~(4)工程を施して正極電極材料を作製した((1)調製工程で得られた自己分散型カーボンブラック水性分散体(酸化カーボンブラック水性分散体)の25℃における粘度は2.8mPa・secであった)。
このとき、実施例1と同様にして、(2)被覆工程で得られた表面に自己分散型カーボンブラックを被覆した正極活物質の水媒体浸漬物において、自己分散型カーボンブラックの被覆率を測定するとともに、上記酸化処理前後におけるカーボンブラックを測定試料として酸性官能基量を測定し、また、カーボンブラックの純度と、得られた正極電極材料の圧縮電気抵抗を測定し、さらに得られた正極電極材料を用いて実施例1と同様にして電極材(正極材)を作製して体積固有抵抗(Ω・cm)を求めた。結果を表1および表2に示す。
【0111】
(比較例1)
実施例1の調製工程(自己分散型カーボンブラック水性分散体の調製工程)において、カーボンブラックに酸化処理を施すことなく(自己分散化処理を施すことなく)、そのまま使用した以外は、実施例1と同様に(1)~(4)工程を施して正極電極材料を作製した。
このとき、実施例1と同様にして、(2)被覆工程で得られた表面に自己分散型カーボンブラックを被覆した正極活物質の水媒体浸漬物において、自己分散型カーボンブラックの被覆率を測定するとともに、上記酸化処理前におけるカーボンブラックの酸性官能基量を測定し、また、カーボンブラックの純度と、得られた正極電極材料の圧縮電気抵抗を測定し、さらに得られた正極電極材料を用いて実施例1と同様にして電極材(正極材)を作製して体積固有抵抗(Ω・cm)を求めた。結果を表3および表4に示す。
【0112】
(比較例2)
実施例2の調製工程(自己分散型カーボンブラック水性分散体の調製工程)において、カーボンブラックに酸化処理を施すことなく(自己分散化処理を施すことなく)、そのまま使用した以外は、実施例2と同様に(1)~(4)工程を施して正極電極材料を作製した。
このとき、実施例1と同様にして、(2)被覆工程で得られた表面に自己分散型カーボンブラックを被覆した正極活物質の水媒体浸漬物において、自己分散型カーボンブラックの被覆率を測定するとともに、上記酸化処理前におけるカーボンブラックの酸性官能基量を測定し、また、カーボンブラックの純度と、得られた正極電極材料の圧縮電気抵抗を測定し、さらに得られた正極電極材料を用いて実施例1と同様にして電極材(正極材)を作製して体積固有抵抗(Ω・cm)を求めた。結果を表3および表4に示す。
【0113】
(比較例3)
実施例3の調製工程(自己分散型カーボンブラック水性分散体の調製工程)において、カーボンブラックに酸化処理を施すことなく(自己分散化処理を施すことなく)、そのまま使用した以外は、実施例3と同様に(1)~(4)工程を施して正極電極材料を作製した。
このとき、実施例1と同様にして、(2)被覆工程で得られた表面に自己分散型カーボンブラックを被覆した正極活物質の水媒体浸漬物において、自己分散型カーボンブラックの被覆率を測定するとともに、上記酸化処理前におけるカーボンブラックの酸性官能基量を測定し、また、カーボンブラックの純度と、得られた正極電極材料の圧縮電気抵抗を測定し、さらに得られた正極電極材料を用いて実施例1と同様にして電極材(正極材)を作製して体積固有抵抗(Ω・cm)を求めた。結果を表3および表4に示す。
【0114】
(比較例4)
表1に示すように、原料となるカーボンブラックとして、窒素吸着比表面積(NSA)が58m/g、DBP吸油量が168ml/100gであるものに代えて、窒素吸着比表面積(NSA)が65m/g、DBP吸油量が190ml/100gであるもの(イメリス社製カーボンブラックENSACO 260G)を用い、実施例1の調製工程(自己分散型カーボンブラック水性分散体の調製工程)において、カーボンブラックに酸化処理を施すことなく(自己分散化処理を施すことなく)、そのまま使用した以外は、実施例1と同様に(1)~(4)工程を施して正極電極材料を作製した。
このとき、実施例1と同様にして、(2)被覆工程で得られた表面に自己分散型カーボンブラックを被覆した正極活物質の水媒体浸漬物において、自己分散型カーボンブラックの被覆率を測定するとともに、上記酸化処理前におけるカーボンブラックの酸性官能基量を測定し、また、カーボンブラックの純度と、得られた正極電極材料の圧縮電気抵抗を測定し、さらに得られた正極電極材料を用いて実施例1と同様にして電極材(正極材)を作製して体積固有抵抗(Ω・cm)を求めた。結果を表3および表4に示す。
【0115】
(比較例5)
表1に示すように、原料となるカーボンブラックとして、窒素吸着比表面積(NSA)が58m/g、DBP吸油量が168ml/100gであるものに代えて、窒素吸着比表面積(NSA)が68m/g、DBP吸油量が175ml/100gであるもの(デンカ(株)製アセチレンブラックLi-100)を用い、実施例1の調製工程(自己分散型カーボンブラック水性分散体の調製工程)において、カーボンブラックに酸化処理を施すことなく(自己分散化処理を施すことなく)、そのまま使用した以外は、実施例1と同様に(1)~(4)工程を施して正極電極材料を作製した。
このとき、実施例1と同様にして、(2)被覆工程で得られた表面に自己分散型カーボンブラックを被覆した正極活物質の水媒体浸漬物において、自己分散型カーボンブラックの被覆率を測定するとともに、上記酸化処理前におけるカーボンブラックの酸性官能基量を測定し、また、カーボンブラックの純度と、得られた正極電極材料の圧縮電気抵抗を測定し、さらに得られた正極電極材料を用いて実施例1と同様にして電極材(正極材)を作製して体積固有抵抗(Ω・cm)を求めた。結果を表3および表4に示す。
【0116】
(比較例6~比較例8)
比較例6~8として、各々、実施例1~3と同様の方法で得られた自己分散型カーボンブラックについて、正極活物質粒子への被覆を行うことなく、窒素雰囲気下で500℃で加熱して乾燥・熱処理したカーボンブラックを正極電極材料として作製した。
このとき、実施例1と同様にして、(2)被覆工程で得られた表面に自己分散型カーボンブラックを被覆した正極活物質の水媒体浸漬物において、自己分散型カーボンブラックの被覆率を測定するとともに、上記酸化処理前におけるカーボンブラックの酸性官能基量を測定し、また、カーボンブラックの純度と、得られた正極電極材料の圧縮電気抵抗を測定し、さらに得られた正極電極材料を用いて実施例1と同様にして電極材(正極材)を作製して体積固有抵抗(Ω・cm)を求めた。結果を表3および表4に示す。
なお、表1~表4において、「ND」とは、検出下限値以下であることを意味する。
【0117】
【表1】
【0118】
【表2】
【0119】
【表3】
【0120】
【表4】
【0121】
表1より、実施例1~実施例3で得られた正極電極材料は、本発明に係る製造方法に係る、(1)特定の酸化カーボンブラック水性分散体を調製する工程と、(2)酸化カーボンブラックが特定の被覆率となるように正極活物質に被覆する被覆工程と、(3)特定の乾燥工程を施すことにより得られたものである。このため、電極材(正極材)としたときに、その体積固有抵抗が10(Ω・cm)オーダーに抑制され、優れた導電性を容易に発揮し得るものであることが分かる。
【0122】
また、表2より、実施例1~実施例3で使用した原料カーボンブラックは不純物金属量が非常に多いものであることが分かるが、これ等の実施例においては、調製工程で自己分散化処理した後(酸化処理した後)、(4)還元工程を施すことにより、アルカリ金属以外の不純物量が大幅に低減されていることが分かる。
【0123】
一方、表3より、比較例1~比較例8で得られた正極電極材料は、カーボンブラックを酸化処理することなくそのまま使用していたり(比較例1~比較例5)、酸化カーボンブラック水性分散体を乾燥し、不活性ガス雰囲気下で熱処理を施して酸性官能基が低減されたカーボンブラックを使用している(比較例6~比較例8)。このため、比較例1~比較例8で得られた正極電極材料は、本発明に係る製造方法で得られた正極電極材料と異なり、所定の被覆率を満たすことなく製造されたものとなり、電極材(正極材)としたときに、その体積固有抵抗が10 ~10(Ω・cm)オーダーの高い値を示し、導電性に劣ることが分かる。
【0124】
表1および表3より、圧縮電気抵抗が同程度のカーボンブラック粒子であっても、カーボンブラックの正極活物質粒子表面への被覆率が高い場合は、その電極膜の体積固有抵抗の値が大きく低下する傾向にあることが分かる。
圧縮電気抵抗が低いカーボンブラックを使用して電極膜を作製しても、電極膜の体積固有抵抗が低下しないのは、導電助剤であるカーボンブラックの分散性が低く偏在化するために、多くの正極活物質粒子同士を万遍なく接続させることが困難であるためと考えられる。
一方、本発明に係る製造方法により得られた正極電極材料は、正極活物質粒子同士を万遍なく接続させることができ、その電極膜の体積固有抵抗を低く抑制することが可能となるため、電池特性を大きく向上させることができる。
【0125】
本発明によれば、十分に低い体積固有抵抗を発揮し得る正極電極材料の新規な製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0126】
1 正極活物質粒子の輪郭線
2 カーボンブラックにより被覆された被覆部
図1
図2
図3