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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024002177
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】異形断面ポリエステル繊維
(51)【国際特許分類】
   D01F 6/84 20060101AFI20231228BHJP
   D01F 6/62 20060101ALI20231228BHJP
   D01D 5/092 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
D01F6/84 305C
D01F6/62 303F
D01D5/092 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022101223
(22)【出願日】2022-06-23
(71)【出願人】
【識別番号】000228073
【氏名又は名称】日本エステル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】592197315
【氏名又は名称】ユニチカトレーディング株式会社
(72)【発明者】
【氏名】天満 悠太
(72)【発明者】
【氏名】湯浅 徳嶺
(72)【発明者】
【氏名】小野 勝則
【テーマコード(参考)】
4L035
4L045
【Fターム(参考)】
4L035AA05
4L035BB31
4L035BB33
4L035BB55
4L035BB56
4L035BB61
4L035DD02
4L035DD20
4L035EE05
4L035EE09
4L035EE20
4L035FF08
4L035JJ04
4L035JJ26
4L045AA05
4L045BA43
4L045CA01
4L045CA25
4L045DA21
4L045DC03
(57)【要約】      (修正有)
【課題】常圧下でカチオン染料による染色が可能で、かつ外周部に凸部を有するような複雑な断面形状を有するポリエステル繊維を提供する。
【解決手段】全酸成分中に金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸と炭素数5~10の脂肪族ジカルボン酸を特定量含むポリエステル樹脂で構成されてなるポリエステル繊維であって、糸条長手方向に対して垂直な断面において、外周部に凸部を1個以上有している異形断面形状を呈し、かつ(a)アルカリ土類金属化合物とリン化合物を含む(b)繊維の強度が1.4cN/dtex以上(c)繊維の結晶化度が11~15%を満足する異形断面ポリエステル繊維。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルを構成する全酸成分の合計量を100モル%とするとき、テレフタル酸を80モル%以上、金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸を0.5~5モル%かつ炭素数5~10の脂肪族ジカルボン酸を2~18モル%含み、全グリコール成分の合計量を100モル%とするとき、エチレングリコールを80モル%以上含むポリエステル樹脂で構成されてなるポリエステル繊維であって、糸条長手方向に対して垂直な断面において、外周部に凸部を1個以上有している異形断面形状を呈し、かつ下記の(a)~(c)の特性をいずれも満足することを特徴とする異形断面ポリエステル繊維。
(a)アルカリ土類金属化合物とリン化合物を含む
(b)繊維の強度が1.4cN/dtex以上
(c)繊維の結晶化度が11~15%
【請求項2】
請求項1に記載の異形断面ポリエステル繊維を少なくとも一部に用いてなる繊維製品。
【請求項3】
請求項1に記載の異形断面ポリエステル繊維を製造する方法であって、アルカリ土類金属化合物をポリエステルを構成する酸成分1モルに対して5×10-4~70×10-4モル、リン化合物をポリエステルを構成する酸成分1モルに対して1×10-4~100×10-4モル含むポリエステル樹脂を用い、以下に示す工程を順に行うことを特徴とする、異形断面ポリエステル繊維の製造方法。
(1)口金ノズルから糸条を紡出する際の紡糸温度(口金温度)を280~300℃とし、溶融紡糸を行う。
(2)紡糸された糸条に口金ノズル下面から50~150mmの位置で20~30℃の冷却風を吹き付けることにより冷却する。
(3)2500~3500m/minで巻き取る。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、常圧でカチオン染料による染色が可能な異形断面ポリエステル繊維と、同ポリエステル繊維を使った繊維製品に関するものである。また、同ポリエステル繊維の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル繊維、特にポリエチレンテレフタレート繊維は、耐熱性、耐薬品性および機械的性質などに優れているので、衣料用途や産業用途に広く利用されている。しかしその反面、繊維構造が強固であるため、通常染色は高温高圧下で行わねばならない。
そこで、カチオン染料による染色が可能で、さらに常圧下でもカチオン染色が可能なポリエステル繊維を得るために、5-ナトリウムスルホイソフタル酸成分等のカチオン可染成分に加えて、アジピン酸、イソフタル酸等の第三成分を共重合する方法が特許文献1、2などで知られている。
【0003】
また、特許文献3では、5-ナトリウムスルホイソフタル酸とアジピン酸とを共重合させたポリエステル樹脂組成物を繊維化するにあたり、樹脂組成物にカルボン酸のアルカリ土類金属塩およびリン酸エステルから形成された内部粒子とゲルマニウム酸化物とを特定量含有させることで、カチオン染料で染色可能であり、単繊維繊度の小さいポリエステル繊維を操業性よく製造できることが示されている。
【0004】
一方、近年の消費者ニーズの多様化の中で、ポリエステル繊維は市場の要請に応じて、様々な断面形状を持つ繊維が要望されている。特に繊維表面に凸部を1つ以上有する特殊な異形断面形状を有する繊維は、織物や編物とすることで、汗の吸収性および拡散性を向上させ、優れた清涼感(シャリ感やドライ感)を奏することが可能となる。
しかしながら、5-ナトリウムスルホイソフタル酸とアジピン酸などの脂肪族ジカルボン酸を共重合したポリエステル樹脂組成物を用いてポリエステル繊維を製造する場合、樹脂組成物の結晶化度が低下しやすいためと推測されるが、上記のような特殊な異形断面形状を有する繊維は未だ提案されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭57-032139号公報
【特許文献2】特開平08-269820号公報
【特許文献3】特開2013-18802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記のような問題点を解決するものであり、常圧下でカチオン染料による染色が可能で、かつ外周部に凸部を1個以上有する複雑な断面形状を有するポリエステル繊維を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、前記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、ポリエステル繊維を溶融紡糸する際の製造条件をコントロールし、得られるポリエステル繊維の結晶化度を特定範囲のものとすることで目的とする繊維を得ることができることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、以下を要旨とするものである。
【0008】
(イ) ポリエステルを構成する全酸成分の合計量を100モル%とするとき、テレフタル酸を80モル%以上、金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸を0.5~5モル%かつ炭素数5~10の脂肪族ジカルボン酸を2~18モル%含み、全グリコール成分の合計量を100モル%とするとき、エチレングリコールを80モル%以上含むポリエステル樹脂で構成されてなるポリエステル繊維であって、糸条長手方向に対して垂直な断面において、外周部に凸部を1個以上有している異形断面形状を呈し、かつ下記の(a)~(c)の特性をいずれも満足することを特徴とする異形断面ポリエステル繊維。
(a)アルカリ土類金属化合物とリン化合物を含む
(b)繊維の強度が1.4cN/dtex以上
(c)繊維の結晶化度が11~15%
(ロ) (イ)に記載の異形断面ポリエステル繊維を少なくとも一部に用いてなる繊維製品。
(ハ) (イ)に記載の異形断面ポリエステル繊維を製造する方法であって、アルカリ土類金属化合物をポリエステルを構成する酸成分1モルに対して5×10-4~70×10-4モル、リン化合物をポリエステルを構成する酸成分1モルに対して1×10-4~100×10-4モル含むポリエステル樹脂を用い、以下に示す工程を順に行うことを特徴とする、異形断面ポリエステル繊維の製造方法。
(1)口金ノズルから糸条を紡出する際の紡糸温度(口金温度)を280~300℃とし、溶融紡糸を行う。
(2)紡糸された糸条に口金ノズル下面から50~150mmの位置で20~30℃の冷却風を吹き付けることにより冷却する。
(3)2500~3500m/minで巻き取る。
【発明の効果】
【0009】
本発明の異形断面ポリエステル繊維は、特定量の金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸および炭素数5~10の脂肪族ジカルボン酸を含有するため、常圧条件下でカチオン染料による染色が可能である。そして、外周部に凸部を1個以上有する異断面形状を呈しており、かつ十分な強度を有しているため、異形断面形状が保持された加工糸や織編物を得ることができる。
このような本発明の異形断面ポリエステル繊維を用いた織編物は、汗の吸収性および拡散性を向上させ、優れた清涼感(シャリ感やドライ感)を奏することが可能となるため、衣料用途に好適であり、また発色性と嵩高性に優れるため、カーペット、カーテンなどのインテリア製品、各種産業資材製品などに広く使用することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の異形断面ポリエステル繊維(単糸)の横断面の一実施態様を示す模式図である。
図2】本発明の異形断面ポリエステル繊維(単糸)の横断面の一実施態様を示す模式図である。
図3】本発明の異形断面ポリエステル繊維(単糸)の横断面の一実施態様を示す模式図である。
図4】本発明の異形断面ポリエステル繊維(単糸)の横断面の一実施態様を示す模式図である。
図5】本発明の異形断面ポリエステル繊維(単糸)の横断面の一実施態様を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の異形断面ポリエステル繊維(以下、異形断面繊維と略することがある。)を構成するポリエステル樹脂組成物は、ポリエステル樹脂中に酸成分としてテレフタル酸を主成分とし、金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸と炭素数5~10の脂肪族ジカルボン酸を特定量含むものである。
金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸を共重合することにより、ポリエステル樹脂にカチオン染料可染性を付与することができる。
【0012】
本発明の異形断面繊維を構成するポリエステル樹脂組成物におけるポリエステル樹脂(以下、ポリエステル樹脂と称することがある。)は、全酸成分の合計量を100モル%とするとき、金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸が0.5~5モル%含むものである。金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸は共重合成分として含まれていることが好ましく、中でも0.8~3.0モル%共重合されていることが好ましい。金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸がカチオン染料に対する染着座席(カチオン染料と反応する反応基数)として機能することにより、本発明の異形断面繊維はカチオン染料による染色が可能となる。
金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸の含有量(共重合量)が0.5モル%未満であると、カチオン染料の染着座席が十分ではないため、得られる異形断面繊維はカチオン染料に対する十分な染色性を得られない。
一方、5モル%を超えると重縮合工程においてポリエステルの溶融粘度が高くなりすぎる傾向にあり、重合度を十分に上げることが困難となる場合があるため、繊維とした際に糸強度が低いものとなる。
【0013】
金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸としては、例えば、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、5-カリウムスルホイソフタル酸、5-リチウムスルホイソフタル酸、ナトリウムスルホナフタレンジカルボン酸、ナトリウムスルホフェニルジカルボン酸、5-ナトリウムスルホテレフタル酸等が挙げられるが、本発明においては、カチオン染料による発色性、溶融紡糸時の操業性およびコストの面から、5-ナトリウムスルホイソフタル酸が好ましく用いられる。また、これらの酸をそのまま使用してもよいが、エステル形成性誘導体を使用してもよく、中でも、操業性などの点から、エチレングリコールとのエステルが好ましく用いられる。
【0014】
さらに、ポリエステル樹脂を構成する酸成分中には、全酸成分の合計量を100モル%とするとき、炭素数5~10の脂肪族ジカルボン酸を2~18モル%含むものである。炭素数5~10の脂肪族ジカルボン酸は共重合成分として含まれていることが好ましく、中でも5.0~12.0モル%共重合されていることが好ましい。炭素数5~10の脂肪族ジカルボン酸を適量共重合することにより、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート)の結晶に乱れを生じさせ、非晶部の配向が低下することで、染料の繊維内部への浸透が容易になるため、異形断面繊維に常圧条件でのカチオン染料可染性を付与することができる。また、異形断面繊維の風合いをソフトにすることも可能となる。
炭素数5~10の脂肪族ジカルボン酸の含有量(共重合量)が2モル%未満であると常圧条件下での染色性が不十分となる。一方、18モル%を超えるとポリエステル樹脂の熱安定性が低下し、繊維とした際に糸強度が低いものとなる。
炭素数5~10の脂肪族ジカルボン酸としては、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、セバシン酸等が挙げられ、本発明においては、溶融紡糸時の操業性およびコストの点から、アジピン酸が好ましく用いられる。
【0015】
ポリエステル樹脂は、全酸成分の合計量を100モル%とするとき、テレフタル酸を80モル%以上含有するものであり、85~97.5モル%であることが好ましい。テレフタル酸の割合が80モル%未満であると、ポリエステル樹脂の結晶性が低下し、かつ融点が低くなり、溶融紡糸や延伸において操業性が低下する場合がある。一方、テレフタル酸の割合が97.5モル%を超えると、金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸および炭素数5~10の脂肪族ジカルボン酸の共重合量が少なくなるため、常圧条件下でのカチオン染料による可染性の効果が小さくなる。
【0016】
ポリエステル樹脂における、テレフタル酸と金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸と炭素数5~10の脂肪族ジカルボン酸以外の酸成分としては、イソフタル酸、フタル酸、無水フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、ドデカン二酸、ダイマー酸、更には無水トリメリット酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、ダイマー酸等が挙げられる。これらを2種類以上併用してもよく、これらの酸のエステル形成性誘導体を使用してもよい。
【0017】
ポリエステル樹脂は、全グリコール成分の合計量を100モル%とするとき、エチレングリコールの含有量が80モル%以上であり、中でも85モル%以上であることが好ましい。エチレングリコールの割合が80モル%未満であると、ポリエステル樹脂の結晶性が低下し、かつ融点が低くなるため、溶融紡糸や延伸において操業性が低下する。
【0018】
ポリエステル樹脂は、全グリコール成分中にエチレングリコール以外のグリコール成分を含んでいてもよい。その具体例としては、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4-ブタンジオール、1,2-プロピレングリコール、1,5-ペンタンジオール、1,3-プロパンジオール、1,6-ヘキサメチレンジオール、ジエチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ダイマージオール、ブチルエチルプロパンジオール、2-メチル1,3-プロパンジオール、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール、ビスフェノールAまたはビスフェノールSのエチレンオキシド付加体等を用いることができる。
【0019】
本発明の異形断面ポリエステル繊維は、下記の(a)~(c)の特性をいずれも満足するものである。
(a)アルカリ土類金属化合物とリン化合物を含む
(b)繊維の強度が1.4cN/dtex以上
(c)繊維の結晶化度が11~15%
これらの特性を満足することによって、高強度であり、かつ複雑な断面形状を有するポリエステル繊維とすることができる。そして、本発明の異形断面ポリエステル繊維を用いて織編物とした場合には吸水拡散性に優れ、優れた清涼感(シャリ感やドライ感)を奏することが可能となる。これらの特性を満足する異形断面ポリエステル繊維は、後述する本発明の製造方法により得ることが可能となるものである。
【0020】
まず、(a)の条件として、異形断面ポリエステル繊維はアルカリ土類金属化合物とリン化合物を含むものである。本発明では異形断面繊維を構成するポリエステル樹脂組成物中にアルカリ土類金属化合物とリン化合物によって形成された生成粒子を含むことにより、紡糸・延伸工程、その後の後加工工程において優れた操業性を与え、複雑な異形断面を呈する、常圧条件下でカチオン染料による可染性を示す異形断面ポリエステル繊維を得ることができる。
【0021】
本発明における生成粒子とは、シリカ微粒子のような公知の不活性微粒子とは異なるものであり、後述のアルカリ土類金属化合物とリン化合物とをあらかじめ反応させずに個別にポリエステル樹脂組成物の製造段階(合成反応系)に添加することで、アルカリ土類金属化合物とリン化合物とが反応し形成される粒子である。
【0022】
[アルカリ土類金属化合物]
本発明におけるアルカリ土類金属化合物としては、特に、カルボン酸のアルカリ土類金属塩を用いることが好ましく、その具体例として、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム、シュウ酸マグネシウム、プロピン酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、安息香酸カルシウム、酢酸マンガン等が挙げられる。
【0023】
カルボン酸のマグネシウム塩を用いた場合は、ポリエステル樹脂中に形成される生成粒子の粒子径が比較的小さいので結果としてポリエステル繊維の製糸工程の安定性が良好となる上に、生成粒子の屈折率とポリエステル樹脂の屈折率が近くなるので、生成粒子を分散して含むポリエステル樹脂組成物の透明度が高くなるため好ましい。中でも、酢酸マグネシウムが取扱性およびコストの観点から特に好ましい。
【0024】
[リン化合物]
本発明におけるリン化合物は、前述のように、アルカリ土類金属化合物と反応して生成粒子を形成し、異形断面ポリエステル繊維の製糸工程の安定性に寄与する。リン酸、亜リン酸、ホスホン酸類、ホスフィン酸類等でも反応することが知られているが、本発明ではリン酸エステルを用いることが好ましい。リン酸エステルを用いることで、生成粒子の粒子径が比較的小さいものとなり、異形断面ポリエステル繊維の製糸工程における安定性が良好となる。また、生成粒子の屈折率とポリエステル樹脂の屈折率が近くなるため、生成粒子を含んでなるポリエステル樹脂組成物の透明度が高くなる。中でも、トリエチルホスフェート(リン酸トリエチル)を用いることが特に好ましい。
【0025】
本発明では、アルカリ土類金属化合物として酢酸マグネシウムと、リン化合物としてトリエチルホスフェートとを組み合わせて用いることが最も好ましい。
【0026】
本発明において、生成粒子の平均粒子径は、0.01~3.0μmであることが好ましく、0.02~1.5μmであることがより好ましい。平均粒子径が0.01μm以上であれば、生成粒子が微細過ぎず、繊維の易滑性や走行性を向上させることができるため、工程通過性が良好となる。また、平均粒子径が3.0μm以下であれば、異形断面ポリエステル繊維を紡糸する際に溶融ポリマーをろ過するフィルターが目詰まりすることもなく、圧力の上昇または糸切れを抑制することができる。
生成粒子の平均粒子径は、例えば、アルカリ土類金属化合物とリン化合物との組み合わせ、またはアルカリ土類金属化合物とリン化合物との添加量を好ましいものとすることで、上記の範囲に制御することができる。
【0027】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、アルカリ土類金属化合物およびリン化合物の他に、アルカリ金属化合物やゲルマニウム酸化物を含有していてもよい。
【0028】
アルカリ金属化合物とは、特に、カルボン酸のアルカリ金属塩であり、その具体例として、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、安息香酸リチウム、安息香酸ナトリウム、または安息香酸カリウムが挙げられる。中でも、生成粒子の平均粒子径が最適な範囲となり、ポリエステルの重合反応時の副生成物を抑制できることから、酢酸リチウムが好ましい。
【0029】
ゲルマニウム酸化物の例としては、二酸化ゲルマニウム、水酸化ゲルマニウム、四塩化ゲルマニウム等が挙げられるが、安全性を考慮すると二酸化ゲルマニウムが好ましい。
【0030】
ゲルマニウム酸化物は、著しく大きな粒子の発生を抑えるので、異形断面ポリエステル繊維の製糸時の毛羽発生を抑制し、糸斑が軽減される。また、金属アンチモンの析出によるくすみが抑えられ、色調の良い樹脂組成物が得られる。その結果、得られる異形断面ポリエステル繊維もくすみが抑えられ、光沢感が高く色調の良いポリエステル繊維が得られる。
【0031】
本発明において、ゲルマニウム酸化物はエチレングリコール溶液として重縮合反応缶に添加することが好ましく、溶液の濃度は特に制限はないが、完全に溶解する濃度であることが好ましい。
【0032】
本発明におけるゲルマニウム酸化物の添加量は、ポリエステル樹脂組成物に対してゲルマニウム原子の量として、20ppm~150ppmとすることが好ましく、30ppm~120ppmであることがより好ましい。添加量を上記範囲とすることで、微細で均質な生成粒子が得られ、複雑な異形断面を有するポリエステル繊維であっても製糸性が良好なものとなる。
【0033】
(b)の条件として、繊維の破断強度が1.4cN/dtex以上であることが必要であり、1.5cN/dtex以上であることがより好ましい。破断強度が1.4cN/dtex以上であることによって、延伸、仮撚加工において毛羽や切れ糸が発生しにくく、実用に十分な強度となり、また異形断面繊維を用いて製織や製編する際にも糸切れを起こすことなく織物や編物を操業性よく得ることができる。
【0034】
破断伸度は120%以上であることが好ましく、中でも120~200%であることが好ましく、130~170%であることがより好ましい。破断伸度を上記範囲とすることで、例えば異形断面ポリエステル繊維を一部に用いて得られた織編物は、繊維同士のこすれに対して強く、破れにくくなり、耐久性に優れたものとすることが可能となる。
【0035】
(c)の条件として、繊維の結晶化度が11~15%であり、中でも12~14%であることがより好ましい。結晶化度がこの数値範囲内にあることにより、得られるポリエステル繊維が所望の異形断面を呈するものとすることが可能となり、さらに適度な強度を有するものとなる。そのため、得られる繊維に延伸や仮撚加工を施した場合にも、繊維の異形断面形状が保持された状態で加工糸や織編物を得ることができる。
結晶化度が11%未満であれば、繊維中の非晶部分が多くなり、ポリエステル樹脂が柔らかくなる結果だと推測されるが、異形断面ポリエステル繊維の強度が低下し、実用に適さないものとなる。一方、結晶化度が15%を超えると、所望の異形断面を呈する繊維を紡糸することが困難となり、また、得られる繊維を延伸や仮撚加工を施す際に毛羽や切れ糸が発生しやすく操業性に劣るものとなる。また、染色性に劣る場合がある。
本発明においては、異形断面ポリエステル繊維が上記範囲の結晶化度を満足することが重要であり、このような範囲の結晶化度を有するものとすることで、複雑な異形断面を有する繊維であっても、操業性や強度にも優れたものとなる。本発明では後述する製造方法を採用することにより、結晶化度を上記範囲のものとすることが可能となる。
なお、本発明における結晶化度とは、後述する測定方法により、異形断面ポリエステル繊維を用いて測定する、異形断面ポリエステル繊維の結晶化度をいう。
【0036】
本発明における結晶化度とは下記計算式により、結晶化度(Xc)を算出するものである。示差走査熱量計(パーキンエルマー社製 Diamond DSC)を用いて、試料(異形断面ポリエステル繊維)8.5mgを25℃から280℃まで20℃/minにて昇温し、得られた値と下記式を用いて算出する。
結晶化度(Xc)={(ΔHm-ΔHc)}/140.2}×100(%)
(ΔHmは融点の熱量、ΔHcは昇温結晶化での熱量をそれぞれ示す)
【0037】
本発明の異形断面ポリエステル繊維の単繊維繊度は、製糸性または取扱性などの観点から、例えば、0.3~4.0dtexであることが好ましく、0.6~3.0dtexであることがより好ましい。
【0038】
本発明の異形断面ポリエステル繊維を構成する単糸は、単糸の長手方向に対して垂直方向に切断した断面形状において、外周部に1個以上の凸部を有するものである。外周部に1個以上の凸部を有する断面形状としては、前記単糸の長手方向に対して垂直方向に切断した断面形状が、矢印型(図1)、片矢印型(図2)、Y字型(図3)や図4で示すような多葉断面形状、図5で示すような星形状、十字状のものが挙げられる。
当該断面形状においては、吸水拡散性の観点から、凸部を2個~10個有することが好ましく、2個~8個有することがより好ましい。
【0039】
本発明の異形断面ポリエステル繊維は、該繊維断面において、2.0~6.0の扁平度を有する扁平形状である基幹部と凸部とから構成され、前記凸部と基幹部の厚さの比である、(凸部の高さ)/(基幹部の短辺の長さ)が0.5~2.0である異形断面が好ましい。
【0040】
本発明における異形断面の好ましい形状について、図1図3を用いて、さらに説明する。
異形断面における長辺と短辺を有する扁平形状の基幹部1は、繊維断面における基幹となる部分である。異形断面における凸部2は、前記の基幹部に連結して凸形状を形成するものである。繊維の断面形状としては、図1図3に示されるように、矢印型(図1)、片矢印型(図2)、Y字型(図3)の他、多葉断面形状などが挙げられる。なお、図1図3において、3は基幹部の長辺を示し、4は基幹部の短辺を示し、5は凸部の高さを示すものである。凸部の高さ5は、繊維断面の扁平部から突起している部分の最も高い部分と扁平部との距離をいう。
【0041】
図1にて示される繊維断面は、長辺3と短辺4を有する扁平形状の基幹部1の一端に、一対の凸部2、2が互いに反対向きに突出する方向に形成されており、断面形状が矢印型となっている。図2にて示される繊維断面は、長辺3と短辺4を有する扁平形状の基幹部1の一端から、凸部が基幹部1の一端から、基幹部1の短辺方向に突出するように形成されており、断面形状が片矢印型となっている。図3にて示される繊維断面は、長辺3と短辺4を有する扁平形状の基幹部1の一端が、二股に分かれるように、一対の凸部2、2が形成されており、断面形状がY字型となっている。
【0042】
本発明においては、上述のように、異形断面における基幹部が、2.0~6.0の扁平度を有する扁平形状であることが好ましく、3.7~6.0がより好ましく、4.0~5.8の扁平度を有することがさらに好ましい。
本発明では単糸断面の外周部に1個以上の凸部を有し、また扁平度が2.0~6.0である異形断面ポリエステル繊維とすることで、繊維間に微細な間隙が形成されるものとなり、当該異形断面ポリエステル繊維を用いて織物や編物とした場合に、汗の吸収性および拡散性を向上させ、優れた清涼感(シャリ感やドライ感)を奏することが可能になる。
なお、扁平度は、下記式(1)により得られるものであり、基幹部の長辺の長さを短辺の長さで除した値をいう。
扁平度=(基幹部の長辺の長さ)/(基幹部の短辺の長さ)・・・(1)
【0043】
本発明においては、上述のように、前記異形断面ポリエステル繊維において、凸部と基幹部との厚さ比が0.5~2.0であることが好ましく、1.0~2.0であることがより好ましい。この凸部と基幹部との厚さ比を0.5~2.0とすることにより、凸部の高さがより適切な範囲となるため、より良好な吸水拡散性を得ることができる。上記の厚さ比は、基幹部の短辺の長さに対する凸部の高さの比であり、下記式(2)より導き出される凸部と基幹部との厚さ比をいう。
凸部と基幹部との厚さ比=(凸部の高さ)/(基幹部の短辺の長さ)・・・(2)
【0044】
本発明の異形断面ポリエステル繊維は金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸と炭素数5~10の脂肪族ジカルボン酸を特定量含むポリエステル樹脂で、さらにアルカリ土類金属化合物とリン化合物とが反応することにより形成される生成粒子を含有するポリエステル樹脂組成物を用いて紡糸することにより得られるが、後述する製造方法を採用し、結晶化度を好適な範囲のものとすることで、常圧下でカチオン可染性を示し、かつ強度等に優れ、単糸断面の外周部に1個以上の凸部を有する複雑な断面形状を呈する異形断面ポリエステル繊維とすることが可能となる。
【0045】
本発明の異形断面ポリエステル繊維の製造方法について、以下に述べる。
本発明の製造方法は、ジカルボン酸成分とジオール成分とをエステル化反応させて、ポリエステルオリゴマーを生成する工程(工程(I))、前記ポリエステルオリゴマーに、金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸、炭素数5~10の脂肪族ジカルボン酸、リン化合物、アルカリ土類金属化合物とを添加し、次いで重縮合反応を行ってポリエステル樹脂組成物を得る工程(工程(II))、前記ポリエステル樹脂組成物を紡糸して異形断面ポリエステル繊維を得る工程(工程(III))を含む。
【0046】
<工程(I)>
ジカルボン酸としては、主にテレフタル酸を用いることができる。本発明の効果を損なわない範囲で、目的に応じて他の成分が共重合されていてもよい。テレフタル酸以外の成分としては、イソフタル酸、フタル酸、無水フタル酸、5-テトラブチルホスホニウムスルホイソフタル酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸、p-ヒドロキシ安息香酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、または1,4-シクロヘキシルジカルボン酸などが挙げられる。
【0047】
ジオール成分としては、主にエチレングリコールを用いることができる。本発明の効果を損なわない範囲で、目的に応じて他の成分が共重合されていてもよい。エチレングリコール以外の成分としては、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ジエチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール(ネオペンチレングリコール)、ジプロピレングリコール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ジメチロールプロピオン酸、ポリ(エチレンオキシド)グリコール、またはポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールなどが挙げられる。
【0048】
工程(I)では、ジカルボン酸(テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸)とジオール(エチレングリコールを主成分とするジオール)とをエステル化反応させて、ポリエステルオリゴマーを得る。ここで、ポリエステルオリゴマーとはジカルボン酸成分およびジオール成分が、それぞれテレフタル酸およびエチレングリコールの場合には、ビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレートを含み、さらに、一分子内にエチレンテレフタレートの繰り返し単位を2以上含み、かつ、いまだポリエチレンテレフタレートと呼べるほど極限粘度・分子量・重合度が上がっておらず、末端がカルボキシル基またはヒドロキシエチル基である化合物を表す。そのようなポリエステルオリゴマーが生成するまで、例えば、250℃の温度で3~8時間エステル化反応を行うことができる。生成する水の量を測定することで、エステル化反応の反応率を測定することができる。
【0049】
ポリエステルオリゴマーにはトリメリット酸、トリメシン酸、無水トリメリット酸、ピロメリット酸、トリメリット酸モノカリウム塩などの多価カルボン酸、グリセリン、ペンタエリトリトール、ジメチロールエチルスルホン酸ナトリウム、ジメチロールプロピオン酸カリウムなどの多価ヒドロキシ化合物を、本発明の目的を達成する範囲内で共重合してもよい。
【0050】
<工程(II)>
上記のポリエステルオリゴマーに金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸、炭素数5~10の脂肪族ジカルボン酸、アルカリ土類金属化合物、リン化合物とを添加し、次いで重縮合反応を行って、ポリエステル樹脂組成物を得る。工程(II)においては、金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸および炭素数5~10の脂肪族ジカルボン酸が共重合され、また、重縮合反応とともに、リン化合物とアルカリ土類金属化合物との反応が起こり、ポリエステル樹脂組成物に不溶である上述したような生成粒子が形成する。
【0051】
金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸はポリエステル樹脂を合成する任意の段階で添加でき、例えば金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸として5-ナトリウムスルホイソフタル酸を用いる場合、テレフタル酸とエチレングリコールとのエステル化反応開始時に5-ナトリウムスルホイソフタル酸の粉体を添加する方法、およびテレフタル酸とエチレングリコールとのエステル化反応によって得た、ビスヒドロキシエチルテレフタレートに5-ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチルや5-ナトリウムスルホイソフタル酸エチレングリコールエステル等のアルキレングリコールエステルの分散液または溶液として添加する方法が一般的である。
【0052】
また、炭素数5~10の脂肪族ジカルボン酸はポリエステル樹脂を合成する任意の段階において添加できるが、例えば炭素数5~10の脂肪族ジカルボン酸としてアジピン酸を用いる場合は、テレフタル酸とエチレングリコールとのエステル化反応開始時にアジピン酸の粉体を添加する方法や、テレフタル酸とエチレングリコールとのエステル化反応によって得たビスヒドロキシエチルテレフタレートに、アジピン酸またはビス(2-ヒドロキシ)アジペートの分散液または溶液として添加する方法が一般的である。
【0053】
なお、ポリエステル組成物樹脂には、必要に応じて少量の添加剤、例えば艶消し剤、顔料、酸化防止剤、蛍光増白剤、帯電防止剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、難燃剤等が含有されていてもよい。
【0054】
リン化合物とアルカリ土類金属化合物の添加順については、リン化合物を先としてもよいし、リン化合物を後にしてもよく、また、リン化合物とアルカリ土類金属化合物とを混合して同時添加としてもよい。
【0055】
アルカリ土類金属化合物の添加量は、ポリエステルを構成する酸成分1モルに対して5×10-4~70×10-4モルであることが好ましく、より好ましくは20×10-4~60×10-4モルである。含有量が5×10-4以上であると、ポリエステル繊維の製糸工程の安定性を良好とするのに十分な個数の生成粒子が得られる。70×10-4モル以下であると、粗大粒子の発生を抑制できるので、紡糸する際に溶融したポリエステル樹脂組成物をろ過するフィルターの目詰まりが発生せず、異形断面ポリエステル繊維の製糸工程の安定性を良好に保つことができる。
【0056】
リン化合物の添加量は、ポリエステルを構成する酸成分1モルに対して1×10-4~100×10-4モルであることが好ましく、より好ましくは20×10-4~90×10-4モルである。含有量が1×10-4モル以上であると、ポリエステル繊維の製糸工程の安定性を良好とするのに十分な個数の生成粒子が得られる。100×10-4モル以下であると、粗大な生成粒子の発生を抑制できるので、紡糸する際に溶融したポリエステル樹脂組成物をろ過するフィルターの目詰まりが発生せず、異形断面ポリエステル繊維の製糸工程の安定性を良好に保つことができる。
なお、アルカリ土類金属化合物とリン化合物とのモル比は、製糸安定性の観点より、(アルカリ土類金属化合物)/(リン化合物)=0.5~1.5であることが好ましい。
【0057】
次いで、重縮合触媒(例えば、エチレングリコール溶液)を添加し重縮合反応を行って、ポリエステル樹脂組成物を得ることができる。重縮合反応系には、必要に応じて、共重合モノマーまたは着色防止剤のような添加剤を、エチレングリコール溶液または分散液として添加してもよい。この場合、エチレングリコールを留去(減圧下でエチレングリコールを除去)することによって重縮合反応を開始し、引き続き留去しながら反応を行った後、常法によってストランドを払い出し、チップ化することができる。ここで、生成粒子の生成は重縮合触媒が添加されてから開始される。そして、溶液が留去されるにつれて生成物の溶解度が低下し、この生成物が粒子として析出する。
【0058】
ポリエステル樹脂組成物の極限粘度(固有粘度)は、0.5~1.5dL/gであることが好ましい。極限粘度がこの範囲であると、樹脂組成物を紡糸して得られる異形断面ポリエステル繊維の物性が低下せず、ポリエステル樹脂組成物または異形断面ポリエステル繊維が製造し易い。
【0059】
<工程(III)>
次に、工程(II)で得られたポリエステル樹脂組成物を溶融紡糸し異形断面ポリエステル繊維を得る。本発明の製造方法においては、ポリエステル樹脂組成物を紡糸装置に供給して溶融紡糸を行い、以下(1)~(3)に示す工程を順に行うことが重要である。
(1)口金ノズルから糸条を紡出する際の紡糸温度(口金温度)を280~300℃とし、溶融紡糸を行う。
(2)紡糸された糸条に口金ノズル下面から50~150mmの位置で20~30℃の冷却風を吹き付けることにより冷却する。
(3)2500~3500m/minで巻き取る。
【0060】
まず、工程(II)で得られたポリエステル樹脂組成物を用い、必要に応じて乾燥等の処理を行ってチップ化し、通常の紡糸装置を用いて、例えばエクストルーダーで混練、溶融し、所望の異形断面の形状に応じた紡糸口金より押し出して溶融紡糸を行い、部分配向未延伸糸を得る。
【0061】
(1)の工程では、口金ノズルから糸条を紡出する際の紡糸温度(口金温度)を280~300℃とし、溶融紡糸を行う。紡糸温度(口金温度)は、中でも285~295℃であることが好ましい。紡糸温度が高すぎると樹脂が熱分解を起こし、スムーズな紡糸が困難になるとともに得られる異形断面ポリエステル繊維が強伸度等に劣るものとなりやすい。一方、紡糸温度が低すぎると未溶解物等が残存しやすく、紡糸時の糸切れの原因となりやすい。また、得られる異形断面ポリエステル繊維の強度や伸度が低いものとなりやすい。
【0062】
次に、(2)の工程では、口金ノズルから溶融紡糸された糸条に口金ノズル下面から50~150mmの位置で冷却風を吹き付けることにより冷却することが必要であり、口金ノズル下面から90~130mmの位置であることがより好ましい。本発明の製造方法では、口金ノズル下面から上記範囲の位置で冷却風を吹き付けることにより、紡糸された糸条が適度に結晶化されると考えられ、本発明で規定する結晶化度を満足する異形断面ポリエステル繊維を得ることが可能となる。すなわち、前記した口金ノズル下面からの位置で冷却風の吹き付けを行わないと、本発明で規定する結晶化度を満足する異形断面ポリエステル繊維を得ることが困難となり、複雑な異形断面を呈する繊維を紡糸できず、また本発明で規定する強度を有する繊維を得ることも困難となる。
【0063】
冷却風の温度は20~30℃が好ましく、22~27℃がより好ましい。冷却温度をあまり低くすると温度管理および作業性等に困難をきたし、高すぎると冷却不足となり、複雑な異形を呈するポリエステル繊維を得ることが難しくなる。
【0064】
(2)の工程後は、冷却した糸条を集束させオイリングを行うことが好ましい。また、オイリングを行った後にさらに必要に応じてインターレースノズルなどを用いて交絡処理を行ってもよい。
【0065】
本発明の製造方法においては、集束させてオイリングを行うことにより、紡糸張力が低くなり、異形断面ポリエステル繊維の紡糸性が向上する。油膜抵抗を軽減するため、濃度1~5質量%の油剤、さらに好ましくは2~4質量%の油剤を使用し、油剤成分の糸条全体に対する付着量が0.03~0.3質量%、さらに好ましくは0.04~0.2質量%の範囲で付与することが好ましい。
【0066】
油剤の濃度が1質量%未満であったり、油剤成分の糸条全体に対する付着量が0.03質量%未満であると、糸条の集束性が悪化し、後工程で擦過による単糸切れが多発したり、パッケージにたるみ糸が混在することがある。一方、油剤濃度が5質量%を超えたり、油剤成分の糸条全体に対する付着量が0.3質量%を超えると、油膜抵抗によって紡糸張力が高くなり、糸切れが多発したり、得られる繊維に繊度斑が生じることがある。
オイリングに用いる油剤としては鉱物油が挙げられ、さらに必要に応じて帯電防止剤などを添加したものを使用できる。
【0067】
(3)の工程では、(1)の工程を通過した糸条を2500~3500m/minで巻き取り、異形断面ポリエステル繊維を得る。中でも、巻き取り速度が2600~3300m/minであることが好ましい。巻き取り速度が2500m/min未満であると、得られた異形断面ポリエステル繊維は繊維の配向が低いものとなる。このため、その後、延伸工程を行う場合には高い倍率で延伸を行う必要があり、毛羽や切れ糸が発生しやすく操業性に劣る。また、巻き取り速度が3500m/minを超えると、繊維の配向や結晶化が進みすぎ、延伸や仮撚加工を施す際に毛羽や糸切れが生じやすくなる。
【0068】
(3)の工程で糸条を巻き取る前に、さらにオイリングを行うことが好ましい。ここでは、巻き取る際の糸条の集束性を高め、良好なパッケージに巻き取るため、および後加工での操業性をよくする目的で油剤を付与するものであり、濃度5~18質量%の油剤、さらに好ましくは7~15質量%の油剤を使用し、油剤成分の糸条全体に対する付着量が0.4~1.4質量%、さらに好ましくは0.7~1.2質量%となるように付与することが好ましい。なお、油剤の付着量は、上記(2)の冷却工程後のオイリング工程で付与された油剤と足し合わせた付着量である。
【0069】
油剤濃度が5質量%未満であったり、油剤成分の糸条全体に対する付着量が0.4質量%未満であると、十分に糸条に油剤が付与されないため、集束性が低下し、後工程で擦過による単糸切れが多発したり、パッケージにたるみ糸が混在することがある。一方、油剤濃度が18質量%を超えると、溶剤への分散性が低下し、糸条に均一に付着させるのが困難になり、付着斑が生じ、後工程で糸切れが多発する。また、油剤成分の糸条全体に対する付着量が1.2質量%を超えると、付着量が多くなりすぎ、後工程において発煙やヒーター汚れなどが生じ、環境が悪化する。
【0070】
本発明の異形断面ポリエステル繊維を他の繊維との複合繊維としてもよい。また、本発明の異形断面ポリエステル繊維の形態は長繊維であっても短繊維であってもよく、必要に応じて捲縮加工、仮撚加工、または薬液による処理のような後加工が施されていてもよい。
【0071】
仮撚加工の方法は特に限定されず、従来公知の条件を採用して行うことができる。仮撚装置としては、ピンタイプやフリクションディスクタイプ、ベルトタイプ等が使用できる。仮撚加工における延伸倍率は、1.10~1.70倍であることが好ましく、1.2~1.6倍であることがより好ましい。
【0072】
仮撚数は2000~5000T/Mが好ましく、2200~4000T/Mがより好ましい。熱処理ヒーターの温度(仮撚温度)は170~250℃が好ましく、180~245℃がより好ましい。K値(T2/T1、T2;解撚張力、T1;加撚張力)は、0.7~3.0とすることが好ましい。
【0073】
複合する他の繊維としては、例えば、綿、麻、絹等の天然繊維、レーヨン等の再生繊維、アセテート等の半合成繊維、またはポリエステル繊維等の熱可塑性繊維等を用いることができる。また、それぞれの繊維を構成する単繊維の断面形状は特に限定されるものではなく、得られる繊維製品の風合いや光沢感を考慮して、菊型、円形、扁平、Y字型等の糸断面形状を適宜選択すればよい。また、前記他の繊維の単繊維繊度、染色特性等についても特に限定されない。さらに、本発明の異形断面ポリエステル繊維を撚糸してもよく、この場合の撚糸の撚り方向および撚り数に関しても特に限定されるものではなく、構成糸条の本数、撚り数等は目的の繊維製品の風合いや外観が得られる範囲で適宜選択すればよい。
【0074】
次に、本発明の織編物は、本発明の異形断面ポリエステル繊維を少なくとも一部に含有する織物または編物である。本発明の織編物中に含まれる本発明の異形断面ポリエステル繊維の含有量は、25質量%以上であることが好ましく、中でも35質量%以上であることが好ましい。
本発明の織編物は、特に組織など限定されない。織物としては、織、綾織(ツイル)、朱子織、ドビー織、二重織などが挙げられる。本発明の編物においても、編物の組織も特に限定されず、天竺、スムース、フライス、ピケ等の丸編、シングルトリコット、ハーフトリコット等の経編等が挙げられる。
【0075】
本発明の異形断面ポリエステル繊維は、上述したように単糸断面の外周部に1個以上の凸部を有するものであるため、当該異形断面ポリエステル繊維を用いて織物や編物とすることで、繊維間に微細な間隙が形成され、汗の吸収性および拡散性に優れた織物や編物が得られる。具体的には、本発明の異形断面ポリエステル繊維を織編物とした時の吸水拡散面積が5.0cm以上であることが好ましく、6.0cm以上であることがより好ましい。5.0cm以上であることで、織編物を衣料用として用いたときに汗や、その他の要因により衣服が濡れた際に織編物の一部分に吸水された水が拡散されやすく、乾燥が速くなるため、着用者が不快感を感じにくいものとなる。吸水拡散面積の測定方法の詳細は、実施例にて後述する。
【0076】
本発明の異形断面ポリエステル繊維は衣料用途に好適であり、また発色性と嵩高性に優れるため、カーペット、カーテンなどのインテリア製品、各種産業資材製品などにも使用できる。また、水着、スポーツインナー、ランジェリー、ファンデーション、エンブロイダリーレース等の繊維製品に用いる場合には、本発明の異形断面ポリエステル繊維を単独で用いても、他の繊維を含んでいてもよい。他の繊維と複合することにより、例えば、光沢感、清涼感、シャリ感、ウェット感といった風合いを繊維製品に付与することができる。
【実施例0077】
以下に実施例および比較例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されない。
なお、それぞれの物性の測定方法または評価方法は以下の通りである。
(1)破断強度および破断伸度
得られた異形断面ポリエステル繊維を試料とし、JIS-L-1013に従って、テンシロンRTC-1210(オリエンテック社製)を用い、試料糸長10cm、引っ張り速度10cm/minの条件で試料が伸長破断したときの強度および伸度を測定して求めた。
(2)結晶化度
異形断面ポリエステル繊維の結晶化度は、前記の方法で測定した。
(3)操業性
得られた異形断面ポリエステル繊維を仮撚加工する時の糸切れの状況を、24時間連続して仮撚加工を行った際の1錘あたりの糸切れ回数により、以下のように3段階で評価した。
○・・糸切れ回数が10回以下であった。
△・・糸切れ回数が11~19回であった。
×・・糸切れ回数が20回以上であった。
(4)凸部の数
得られた異形断面ポリエステル繊維を繊維の長手方向に対して垂直方向に切断し、透過型顕微鏡(「BH-2 UMA」、オリンパス(株)製)を用いて断面を100倍で観察し、凸部の数を求めた。
(5)ポリエステル繊維の扁平度
透過型顕微鏡(「BH-2 UMA」、オリンパス(株)製)を用いて、異形断面ポリエステル繊維の繊維横断面の基幹部の扁平度を、下記式を用いて計算した。なお、フィラメントの全本数について測定を行い、その平均値とした。
扁平度=(基幹部の長辺の長さ)/(基幹部の短辺の長さ)
(6)凸部と基幹部との厚さ比
透過型顕微鏡(オリンパス社製、「BH-2 UMA」)を用い、編地を構成するポリエステル繊維の断面の基幹部と凸部の厚さ比を、下記式を用いて計算した。なお、フィラメントの全本数について測定を行い、その平均値とした。
凸部と基幹部との厚さ比=(凸部の高さ)/(基幹部の短辺の長さ)
(7)吸水拡散面積
異形断面ポリエステル繊維を用いて10cm×10cmの筒編地を用意し、該筒編地を水平に静置したのち、該筒編地から0.5cmの高さからスポイトにて100μlの純水を滴下した。滴下1分後の拡散面積S(cm)を求め、吸水拡散面積とした。
(8)風合評価
(シャリ感)
得られた筒編地に対し、触感により、以下の基準で判断した。
〇:シャリ感に優れる
×:シャリ感に劣る
(ドライ感)
得られた筒編地に対し、触感により、以下の基準で判断した。
〇:ドライ感に優れる
×:ドライ感に劣る
【0078】
<ポリエステル樹脂組成物の製造>
エステル化反応器に、テレフタル酸(TPA)とエチレングリコール(EG)のスラリー(モル比がTPA:EG=1.6)を連続的に供給し、温度250℃、圧力50hPaの条件で反応させ、エステル化反応率95%のポリエステル低重合体を連続的に得た。このポリエステル低重合体46.5kg(80質量部)を重縮合反応缶に投入し、容器内を窒素で置換した。
次いで、炭素数5~10の脂肪族ジカルボン酸であるアジピン酸(以下、ADと略記する)の濃度が25質量%に調整されたEG分散液7.3kg(⇒6質量部)、およびカルボン酸のアルカリ土類金属塩である酢酸マグネシウムをポリエステルを構成する酸成分1モルに対して12.5×10-4モルとなるよう添加し、重縮合反応缶内の温度を270℃とし、5分間撹拌混合を行った。さらに、重縮合反応缶に、リン酸エステルであるトリエチルホスフェートをポリエステルを構成する酸成分1モルに対して14.5×10-4モル、および金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸である5-ナトリウムスルホイソフタル酸(以下、SIPと略記する)のEGエステルの濃度が35質量%となるように調整されたEG溶液5.6kg(⇒10質量部)を添加し、重縮合反応缶内の温度270℃とし、60分間撹拌混合を行った。さらに、重縮合反応缶に、重縮合触媒として三酸化アンチモンをポリエステルを構成する酸成分1モルに対して2.0×10-4モル添加した。
圧力を徐々に減じて1時間後に1.2hPa以下とした。この条件で攪拌しながら重縮合反応を4時間行った後、常法により払い出してペレット化し、極限粘度が0.55dL/gのポリエステル樹脂組成物を得た。
【0079】
実施例1
得られたポリエステル樹脂組成物を常用の溶融紡糸機に投入し、繊維の断面形状が図1となるよう設計された紡糸口金を用いて溶融紡糸を行った。このとき、紡糸温度は285℃であった。口金ノズルから溶融紡糸した糸条に口金ノズル下面から93mmの位置で冷却風(24℃)を吹き付けて冷却し、集束、オイリング装置(油剤供給装置)を通過させて、濃度4質量%の油剤を付与した。次いで、糸条を巻き取る前にさらに濃度14質量%の油剤を付与した後、引取ローラで3000m/分の速度で巻き取り、矢印型断面形状の部分配向未延伸糸(異形断面ポリエステル繊維)を得た(100dtex44f)。
続いて、得られた異形断面繊維を供給糸とし、フィラメント用フリクション仮撚機を使用して、延伸倍率1.575、非接触型ヒーター温度245℃、K値(T2/T1、T2;解撚張力、T1;加撚張力)0.84の条件で仮撚を実施し、仮撚加工糸を得た。
得られた仮撚加工糸のみを用いて、編機(英光産業社製、釜径:3.5インチ、針本数:260N)にて天竺組織として38ウェール/2.54cm、50コース/2.54cmの筒編生機を得た。得られた筒編生機を下記処方で精練、染色、吸水加工を行い、筒編地を得た。
<精練> 80℃×20分
界面活性剤「サンモールFL」(日華化学社製) 1g/L
<染色・吸水加工> 100℃×60分
・カチオン染料「アストラゾンブルー」(片山化学工業株式会社製) 0.5%o.m.f
・酢酸(48%) 0.2cc/l
・酢酸ナトリウム 0.2g/l
・ポリエステル系吸水加工剤「SR-1000」(高松油脂株式会社製) 2.0%omf
【0080】
実施例2
工程(1)の紡糸温度を295℃とした以外は実施例1と同様にして矢印型断面形状の部分配向未延伸糸(異形断面ポリエステル繊維)を得た(100dtex48f)。
次いで、実施例1と同様にして筒編生機を得た後、実施例1と同様にして精練、染色、吸水加工を行い、筒編地を得た。
【0081】
実施例3
得られたポリエステル樹脂組成物を常用の溶融紡糸機に投入し、繊維の断面形状が図4となるよう設計された紡糸口金を用いて溶融紡糸を行った。このとき、紡糸温度は280℃であった。口金ノズルから溶融紡糸した糸条に口金ノズル下面から113mmの位置で冷却風(24℃)を吹き付けて冷却し、集束、オイリング装置(油剤供給装置)を通過させて、濃度4質量%の油剤を付与した。次いで、糸条を巻き取る前にさらに濃度14質量%の油剤を付与した後、引取ローラで3000m/分の速度で巻き取り、多葉断面形状の部分配向未延伸糸(異形断面ポリエステル繊維)を得た(122dtex44f)。
次いで、実施例1と同様にして筒編生機を得た後、実施例1と同様にして精練、染色、吸水加工を行い、筒編地を得た。
【0082】
実施例4
工程(3)の巻き取り速度を3300m/分とした以外は実施例3と同様にして多葉断面形状の部分配向未延伸糸(異形断面ポリエステル繊維)を得た(122dtex48f)。
次いで、実施例1と同様にして筒編生機を得た後、実施例1と同様にして精練、染色、吸水加工を行い、筒編地を得た。
【0083】
比較例1
工程(1)の紡糸温度を275℃とした以外は実施例1と同様にして矢印型断面形状の部分配向未延伸糸(異形断面ポリエステル繊維)を得た(100dtex44f)。
次いで、実施例1と同様にして筒編生機を得た後、実施例1と同様にして精練、染色、吸水加工を行い、筒編地を得た。
【0084】
比較例2
工程(1)の紡糸温度を305℃とした以外は実施例1と同様にして矢印型断面形状の部分配向未延伸糸(異形断面ポリエステル繊維)を得た(100dtex48f)。
次いで、実施例1と同様にして筒編生機を得た後、実施例1と同様にして精練、染色、吸水加工を行い、筒編地を得た。
【0085】
比較例3
工程(2)の冷却風吹き付け位置を口金ノズル下面から30mmの位置とした以外は実施例1と同様にして矢印型断面形状の部分配向未延伸糸(異形断面ポリエステル繊維)を得た(122dtex44f)。
次いで、実施例1と同様にして筒編生機を得た後、実施例1と同様にして精練、染色、吸水加工を行い、筒編地を得た。
【0086】
比較例4
工程(2)の冷却風吹き付け位置を口金ノズル下面から200mmの位置とした以外は実施例1と同様にして矢印型断面形状の部分配向未延伸糸(異形断面ポリエステル繊維)を得た(122dtex48f)。
次いで、実施例1と同様にして筒編生機を得た後、実施例1と同様にして精練、染色、吸水加工を行い、筒編地を得た。
【0087】
比較例5
工程(2)の冷却温度を15℃とした以外は実施例1と同様にして矢印型断面形状の部分配向未延伸糸(異形断面ポリエステル繊維)を得た(100dtex44f)。
次いで、実施例1と同様にして筒編生機を得た後、実施例1と同様にして精練、染色、吸水加工を行い、筒編地を得た。
【0088】
比較例6
工程(2)の冷却温度を35℃とした以外は実施例1と同様にして矢印型断面形状の部分配向未延伸糸(異形断面ポリエステル繊維)を得た(100dtex48f)。
次いで、実施例1と同様にして筒編生機を得た後、実施例1と同様にして精練、染色、吸水加工を行い、筒編地を得た。
【0089】
比較例7
工程(3)の巻き取り速度を1800m/分とした以外は実施例1と同様にして矢印型断面形状の部分配向未延伸糸(異形断面ポリエステル繊維)を得た(122dtex44f)。
次いで、実施例1と同様にして筒編生機を得た後、実施例1と同様にして精練、染色、吸水加工を行い、筒編地を得た。
【0090】
比較例8
工程(3)の巻き取り速度を4000m/分とした以外は実施例1と同様にして矢印型断面形状の部分配向未延伸糸(異形断面ポリエステル繊維)を得た(122dtex48f)。
次いで、得られた異形断面繊維を供給糸とし、フィラメント用フリクション仮撚機を使用して、延伸倍率1.575、非接触型ヒーター温度245℃、K値(T2/T1、T2;解撚張力、T1;加撚張力)0.84の条件で仮撚を実施したが、得られた仮撚加工糸は毛羽や糸切れの数が多く、実用には不十分なものであった。
【0091】
結果を表1および表2に示す。
【0092】
【表1】
【0093】
【表2】
【0094】
表1および表2から明らかなように、実施例1~4は繊維の強度と伸度、結晶化度が規定の範囲内にあることから、操業性に優れており、また、得られた異形断面ポリエステル繊維を用いた織編物は、吸収性および拡散性に優れ、清涼感(シャリ感やドライ感)を奏するものであった。また、得られた筒編地は所望の色に染色されており、本発明の異形断面ポリエステル繊維は、常圧条件下でのカチオン染料に対する染色性に優れるものであった。
【符号の説明】
【0095】
1:基幹部
2:凸部
3:長辺
4:短辺
5:凸部の高さ
6:異形断面の内接円
7:異形断面の外接円
図1
図2
図3
図4
図5