(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024021776
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】超伝導クライオモジュール
(51)【国際特許分類】
H05H 7/20 20060101AFI20240208BHJP
H05H 9/00 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
H05H7/20
H05H9/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022124853
(22)【出願日】2022-08-04
(71)【出願人】
【識別番号】309036221
【氏名又は名称】三菱重工機械システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高木 周
(72)【発明者】
【氏名】重岡 伸之
(72)【発明者】
【氏名】菅野 東明
(72)【発明者】
【氏名】原 博史
(72)【発明者】
【氏名】宮本 明啓
(72)【発明者】
【氏名】仙入 克也
(72)【発明者】
【氏名】松田 竜一
【テーマコード(参考)】
2G085
【Fターム(参考)】
2G085BA07
2G085EA02
(57)【要約】
【課題】小型化を実現することが可能な超伝導クライオモジュールを提供すること。
【解決手段】本開示に係る超伝導クライオモジュール1は、電子を加速するセル部122と、セル部122から電子の入射側に延びるビームパイプ部121Aと、セル部122で加速された電子を放出する放出部とを有する超伝導加速空洞12と、超伝導加速空洞12のビームパイプ部121Aの内部に位置し、かつ、超伝導加速空洞12のビーム軸BAと同軸上に位置し、セル部122に電子を放出する電子銃11と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子を加速するセル部と、前記セル部から電子の入射側に延びるビームパイプ部と、前記セル部で加速された電子を放出する放出部と、を有する超伝導加速空洞と、
前記超伝導加速空洞の前記ビームパイプ部の内部に位置し、かつ、前記超伝導加速空洞のビーム軸と同軸上に位置し、前記セル部に電子を放出する電子銃と、
を備える超伝導クライオモジュール。
【請求項2】
前記電子銃は、熱電子放出型電子銃であり、
前記電子銃は、電子を放出する陰極の周囲に、電子が通過するビームホールが形成され、前記陰極を囲って形成された複数の金属板を含む熱遮蔽板部を備える、
請求項1に記載の超伝導クライオモジュール。
【請求項3】
前記超伝導加速空洞に高周波電力を供給するRF入力カプラと、をさらに備え、
前記RF入力カプラは、
前記電子銃の最外殻に接続される中央部と、
前記ビームパイプ部に接続される外周部と、を備え、
前記ビームパイプ部が外導体、前記電子銃の最外殻が内導体をなすことで形成された同軸構造によって、前記超伝導加速空洞へ高周波電力を伝搬する、
請求項1又は2に記載の超伝導クライオモジュール。
【請求項4】
前記電子銃は、陽極に一部が切り抜かれた切り欠き部と、をさらに備え、
前記切り欠き部を介して、前記電子銃の陰極から放出される電子に対して電場を付与する高周波電力が供給され、
前記高周波電力を制御することで、前記電子銃の陰極から放出される電子の引き出し、及び加速が制御される、
請求項3に記載の超伝導クライオモジュール。
【請求項5】
前記電子銃は、陽極と熱遮蔽板部を構成する金属板の間に誘電体を備える、
請求項2又は4に記載の超伝導クライオモジュール。
【請求項6】
前記電子銃は、陽極と熱遮蔽板部を構成する金属板の間に誘電体を備える、
請求項3に記載の超伝導クライオモジュール。
【請求項7】
前記電子銃は、電界放射型電子銃であり、
エミッタと、引き出し電極と、加速電極とを備え、エミッタから放出された電子を、引き出し電圧により引き出し、加速電極による加速電圧により前記電子を加速する、
請求項1に記載の超伝導クライオモジュール。
【請求項8】
前記電子銃は、光電子放出型電子銃であり、
陰極にレーザ光を照射し、光電効果を利用して、電子を放出する、
請求項1に記載の超伝導クライオモジュール。
【請求項9】
前記電子銃は、陰極の先端部が、前記セル部の入口部分よりも前記電子の移動方向の上流側に離れた位置に配置される、
請求項1に記載の超伝導クライオモジュール。
【請求項10】
前記超伝導加速空洞に接続され、前記超伝導加速空洞を冷却する冷却機と、をさらに備え、
前記冷却機は、前記超伝導加速空洞と接続する接続部を有し、
前記冷却機は、前記冷却機の中心軸と、前記超伝導加速空洞のビーム軸のなす角度が直角、かつ、ねじれの位置に配置される、
請求項1に記載の超伝導クライオモジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、超伝導クライオモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
超伝導加速器は、超伝導加速空洞の内側の空洞壁に超伝導薄膜を成膜することで、4K運転が可能となり、大規模な極低温冷却システムが不要となる。そのため、導入コスト低減、装置の小型化等を実現することができる。例えば、特許文献1には、ギフォード・マクマホン冷凍機の冷却ステージと超伝導加速空洞を伝熱部材で連結することで冷却する伝熱冷却方式を採用した超伝導加速高周波クライオモジュールが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の超伝導加速高周波クライオモジュールでは、入射ビーム管と出射ビーム管が超伝導加速空洞の外部に設けられることから超伝導加速高周波クライオモジュールのサイズが大きくなっている。本開示は上記課題を鑑み、小型化を実現することが可能な超伝導クライオモジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示に係る超伝導クライオモジュールは、電子を加速するセル部と、前記セル部から電子の入射側に延びるビームパイプ部と、前記セル部で加速された電子を放出する放出部とを有する超伝導加速空洞と、前記超伝導加速空洞の前記ビームパイプ部の内部に位置し、かつ、前記超伝導加速空洞のビーム軸と同軸上に位置し、前記セル部に電子を放出する電子銃と、を備える。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、小型化を実現することが可能な超伝導クライオモジュールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、本開示に係る超伝導クライオモジュールの超伝導加速空洞の全体図である。
【
図2】
図2は、本開示に係る超伝導クライオモジュールの超伝導加速空洞の
図1におけるA-A断面図である。
【
図3】
図3は、本開示に係る超伝導クライオモジュールの電子銃の構成例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、本開示の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態により本開示が限定されるものではない。
【0009】
(第1実施形態)
(超伝導クライオモジュールの構成)
図1は、本開示に係る超伝導クライオモジュールの構成例を示す模式図である。
図1に示すように、超伝導クライオモジュール1は、電子銃11と、超伝導加速空洞12と、熱シールド13と、磁気シールド14と、真空槽15と、RF(Radio Frequency)入力カプラ16と、真空バルブ17と、冷却機18を備える。
【0010】
電子銃11は、超伝導加速空洞12のビームパイプ部121の内部に位置し、かつ、超伝導加速空洞12のビーム軸BAと同軸上に位置し、セル部122に電子を放出する。本実施形態において、ビーム軸BAは、超伝導加速空洞12の中心軸である。超伝導加速空洞12において、電子は当該ビーム軸BAに沿って移動する。第1実施形態に係る超伝導クライオモジュール1においては、電子銃11には、熱電子放出型電子銃が用いられる。熱電子放出型電子銃は、陰極を加熱することで、陰極を形成する金属から自由電子を放出し、放出された電子を陽極に印加された電位によって引き出すことにより、電子を放出する。電子銃11の構成については後述して説明する。
【0011】
超伝導加速空洞12は、超伝導性を示す材料によって形成され、高周波電力を印加されることにより形成される電場により電子を加速する空洞である。超伝導加速空洞12は、例えば、高純度ニオブにより作製することが一般的である。高周波電力による電磁場のエネルギーは、超伝導加速空洞12の空洞壁を構成する金属の抵抗発熱により消費される。そのため、超伝導加速空洞12の空洞壁を構成する金属を超伝導状態とすることにより、抵抗発熱を抑制し、電磁場のエネルギー損失を抑制することができる。高純度ニオブは、9.2Kにおいて超伝導状態を示すことから、超伝導加速空洞12の材料として好適である。
【0012】
超伝導加速空洞12は、電子を加速するセル部122と、セル部122から電子の入射側に延びるビームパイプ部121Aと、セル部122で加速された電子を放出する放出部121Bと、を有する。ビームパイプ部121Aは、セル部122に接続され、内部に電子銃11がビーム軸BAと同軸上に配置される。ビームパイプ部121Aは、管形状であり、セル部122への電子の投入口としての役割を果たす。セル部122は、超伝導加速空洞12の空洞壁における高周波電力のエネルギー損失が小さくなるように形状が決定される。セル部122は、例えば、楕円形状に形成されてよい。放出部121Bは、セル部122に接続され、セル部122において加速された電子が流入し、流入した電子を外部に放出する。放出部121Bは、例えば、管形状に形成されてよい。
【0013】
熱シールド13は、室温雰囲気にある真空槽15などから超伝導加速空洞12へ放射される輻射熱を遮断する。熱シールド13は、無酸素銅によって構成されてよい。無酸素銅は、熱伝導率が391W/mKと高い値を示す。そのため、熱シールド13に、無酸素銅を用いると、輻射熱を吸収したとしても、熱シールド13に接続された冷却機18により、熱シールド13の温度を低温に保つことが可能となる。
【0014】
磁気シールド14は、磁場を吸収する材料で形成され、超伝導加速空洞12の外部に存在する環境磁場を吸収する。磁気シールド14は、例えば、熱シールド13の外部を覆うように形成されてもよい。磁気シールド14は、環境磁場となり得る磁場の磁束線を引き付け、不要な磁場を低温部から遠ざける役割を果たす。すなわち、磁気シールド14は、磁場の通り道を形成することで、磁気シールド14の外部から地磁気などの磁場が磁気シールド14の内部に流入しないように遮蔽する。磁気シールド14は、高い透磁率を有する金属を用いて形成される。磁気シールド14は、例えば、ニッケルを35から85%含むニッケル-鉄合金であるパーマロイなどを用いて形成されてよい。
【0015】
真空槽15は、内部が真空状態に保たれる真空容器である。真空槽15の内部には、超伝導加速空洞12と、熱シールド13と、磁気シールド14と、が、この順に真空槽15の内側から外側に向かって配置されている。真空槽15の内部を真空状態に保つことにより、真空槽15の外部から真空槽15の内部のこれらの構成への輻射熱、及び伝導熱を低減することが可能となる。
【0016】
RF入力カプラ16は、加速電力供給源に接続され、加速電力供給源から超伝導加速空洞12に高周波電力を供給する。RF入力カプラ16は、電子銃11の最外殻(外壁部117)に接続される中央部161と、ビームパイプ部121Aに接続される外周部162と、を備える。RF入力カプラ16は、ビームパイプ部121Aが外導体、電子銃11の最外殻が内導体をなすことで形成される同軸構造によって、加速電力供給源から超伝導加速空洞12へ高周波電力を伝搬する。加速電力供給源は、誘導電力管(IOT:Inductive Output Tubes)、クライストロン(Klystron)などの真空管によって高周波電力の増幅を実現する高周波電力供給源であってよい。また、加速電力供給源は、FET(Field Effect Transister)などの半導体増幅器によって高周波電力の増幅を実現されてもよい。また、加速電力供給源は、LLRF(Low Level Radio Frequency)制御システムに接続されて、高周波電力の周波数などを制御されてよい。また、超伝導加速空洞12から反射した高周波電力が戻らないようにポートが接続されたサーキュレータ(Circulator)を加速電力供給源とRF入力カプラ16の間に設けてもよい。すなわち、RF入力カプラ16と、加速電力供給源と、LLRF制御システムと、サーキュレータと、により加速電力供給機器が構成される。
【0017】
真空バルブ17は、超伝導加速空洞12の内部を真空状態に維持するバルブである。真空バルブ17に真空ポンプを接続し、超伝導加速空洞12の内部の空気を、真空ポンプを用いて抜いて真空引きした後に、真空バルブ17のバルブを閉じることで、外部からの空気の流入を防ぎ、超伝導加速空洞12の内部の圧力を所定の圧力に維持する。
【0018】
冷却機18は、超伝導加速空洞12に接続されて超伝導加速空洞12を冷却する。冷却機18には、ギフォード・マクマホン冷凍機などの機械式冷凍機を用いることができる。ギフォード・マクマホン冷凍機は、圧縮機で圧縮されたヘリウムガスなどの冷媒をシリンダー内に送り、シリンダー内のディスプレーサの往復運動により、冷媒ガスの断熱膨張を繰り返すことにより冷却を達成する。これに対して、液化ヘリウム冷凍機は、ヘリウム液化機等の複雑な構成を有し、極めて大きな設備を必要とする。ギフォード・マクマホン冷凍機は、圧縮機やディスプレーサ等の機械式の簡易な構成を用いることにより、小型化が可能となる。
【0019】
ここで、冷却機18と超伝導加速空洞12の接続部について、
図2を用いて説明する。
図2は、本開示に係る超伝導クライオモジュールの超伝導加速空洞のA-A断面図である。
図2に示すように、冷却機18は、第1ステージ181と、第2ステージ182と、コールドヘッド183と、を備える。第1ステージ181は、冷却機18の温度低い方のステージを指し、第2ステージ182は、冷却機18の温度が高い方のステージを指す。コールドヘッド183は、圧縮機から供給される冷媒の膨張により冷却を得る部分である。
【0020】
図2に示すように、第1ステージ181には、接続部19が設けられ、接続部19により超伝導加速空洞12に接続されている。なお、接続部19は、フランジ形状に形成されてよい。
図2に示すように、冷却機18は、冷却機18の中心軸CAと、超伝導加速空洞12のビーム軸BAのなす角度が直角、かつ、ねじれの位置に配置される。つまり、冷却機18の中心軸CAと、超伝導加速空洞12のビーム軸BAは交わることがない位置に配置される。これにより、真空槽15の円筒半径をR、超伝導加速空洞12の半径をr、冷却機18の第1ステージ181と第2ステージ182の接続部との距離をdとすると、真空槽15の円筒半径Rは、次の式(1)を満たすことができる。
R<r+d…式(1)
そのため、真空槽15を小型化することが可能となる。
【0021】
(電子銃の構成)
次に、本開示に係る電子銃11の構成について、
図3を用いて説明する。
図3は、本開示に係る超伝導クライオモジュールの電子銃の第1態様を示す図である。
図3に示すように、電子銃11は、陰極111と、陽極112と、熱遮蔽板部113と、切り欠き部114と、電源115と、を備える。
【0022】
陰極111は、金属材料により形成され、加熱されることで自由電子を放出する。金属材料は、原子が安定な閉殻の正イオン状態と原子間を自由に移動できる外殻電子(自由電子)で構成される。金属材料の温度を上げていくと、自由電子のエネルギーが上がり、ポテンシャル障壁を超えて金属材料から自由電子が放出される。陰極111は、このような原理を利用して電子を放出する。また、陰極111は、その先端部が、セル部122の入口部分よりも電子の移動方向の上流側に離れた位置に配置される。これにより、電子銃11から適切にセル部122に電子を導入することができる。
【0023】
陽極112は、陰極111から放出された電子を電位により引き出して、電子銃11の外部に放出する。RF入力カプラ16から供給された高周波電力により、陽極112と熱遮蔽板部113の間に高周波電場が立ち、陰極111から放出された電子を加速する。
【0024】
熱遮蔽板部113は、電子を放出する陰極111の周囲に形成される複数の金属板を含む。熱遮蔽板部113が有する複数の金属板は、少なくとも二層の金属板によって形成されてよい。なお、熱遮蔽板部113を構成する金属板の数は、二層に限定されるものではなく、任意の枚数に設定されてよい。熱遮蔽板部113は、陰極111を覆うように、すなわち囲って形成される。例えば、熱遮蔽板部113は、陰極111が円筒状の形状である場合は、円筒状の形状に形成される。また、熱遮蔽板部113は、その先端部に電子が通過するビームホール113aが形成される。熱遮蔽板部113は、熱を遮蔽する役割を果たす材料を用いて形成されてよい。例えば、熱遮蔽板部113は、無酸素銅を用いて形成されてよい。
【0025】
切り欠き部114は、陽極112の外壁部117の一部が切り抜かれた部分である。切り欠き部114は、陽極112のビームホール112aに電子が通過するタイミングで加速電力が供給できる位置に設けられる。切り欠き部114の形状は、穴であってもよいし、円筒状のスリットであってもよい。これにより、切り欠き部114から高周波電力が電子銃11の内部に誘引される。誘引された高周波電力は陽極112の内壁と熱遮蔽板部113の最外層との間に形成される同軸構造内を伝搬し、陽極112のビームホール112aと、熱遮蔽板部113のビームホール113aとの間の空間113bにおいて高周波加速電場を発生させる。これにより、初段加速された電子Eをセル部122へ導入する。
【0026】
電源115は、熱遮蔽板部113を構成する複数の金属板に電位を供給する。電源115は、例えば、DC(Direct Current)電源によって実現されてよい。電源115は、複数の金属板に、陰極111の電位に対して、正または負の電圧を印加する。これにより、陰極111から放出された電子を収束させながら引き出すことができる。すなわち、熱遮蔽板部113を構成する複数の金属板は、ウェーネルト電極および引き出しグリッドとしての役割を果たす。
【0027】
誘電体116は、陽極112と熱遮蔽板部113を構成する金属板の間に設けられる。誘電体116は、例えば、セラミック材料、ガラス材料、プラスチック材料などによって形成されてよい。誘電体116は、金属板の外周を覆うようにリング状に形成されてよい。誘電体116は、直流電流に対しては絶縁体として機能するが、高周波電源から供給される高周波電力に対しては電気を通す性質を示す。また、誘電体116を設けることにより、ビームホール112aに到達する高周波電力の伝達時間を制御することができる。
【0028】
上記のように構成された超伝導クライオモジュール1の動作を説明する。電子銃11の陰極111を加熱することで陰極111から電子E(
図3参照)が放出される。電源115が陰極111と金属板との間に電圧を印加することにより、放出された電子Eが電子銃11から出射される。熱遮蔽板部113が陰極111の周囲を囲んでいるため、陰極111の熱がセル部122に伝わることが抑制される。
【0029】
電子銃11から出射された電子Eは、ビーム軸BAに沿ってビームパイプ部121A内をセル部122に向けて移動する。セル部122に到達した電子Eは、セル部122においてRF入力カプラ16から供給される高周波電力により加速されて、放出部121Bから放出される。RF入力カプラ16から供給される高周波電力の一部は、切り欠き部114から電子銃11の内部に誘引される。これにより、陰極111から放出された電子Eが加速されて電子銃11の外部に引き出される。
【0030】
以上のように、第1実施形態に係る超伝導クライオモジュール1は、電子を加速するセル部122と、セル部122から電子の入射側に延びるビームパイプ部121Aと、セル部122で加速された電子を放出する放出部121Bとを有する超伝導加速空洞12と、超伝導加速空洞12のビームパイプ部121Aの内部に位置し、かつ、超伝導加速空洞12のビーム軸BAと同軸上に位置し、セル部122に電子を放出する電子銃11と、を備える。
【0031】
この構成によれば、超伝導クライオモジュール1の電子銃を超伝導加速空洞12のビームパイプ部121Aの内部に収めることができる。そのため、電子銃11を超伝導クライオモジュール1の外部に設けて接続する必要が無くなるため、装置全体を小型化することが可能となる。
【0032】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態に係る超伝導クライオモジュール1について説明する。第2実施形態に係る超伝導クライオモジュール1は、第1実施形態に係る超伝導クライオモジュール1に対して、電子銃11の構成が異なる以外は、同じ構成を有する。そのため、第2実施形態に係る超伝導クライオモジュール1の構成のうち、第1実施形態に係る超伝導クライオモジュール1とは異なる構成である電子銃11の構成について説明する。
【0033】
電子銃11は、電界放射型電子銃であり、エミッタと、引き出し電極と、加速電極とを備え、エミッタから放出された電子を、引き出し電圧により引き出し、加速電極による加速電圧により電子を加速する。電界放射型電子銃は、金属表面に高い電界を印加したときに起きる電界放出現象を利用して電子を放出する。具体的には、エミッタに対向する位置に置かれた引き出し電極に、数kVの電圧を印加すると、エミッタからトンネル効果により電子が放出される。そして、引き出し電極の中央に形成された孔を通過した電子に、加速電極に印加された加速電圧により所定のエネルギーの電子の放出を得ることができる。
【0034】
この構成によれば、超伝導加速空洞12の内部に電子銃11を設けることができるため、超伝導クライオモジュール1を小型化することが可能となる。
【0035】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態に係る超伝導クライオモジュール1について説明する。第3実施形態に係る超伝導クライオモジュール1は、第1実施形態に係る超伝導クライオモジュール1に対して、電子銃11の構成が異なる以外は、同じ構成を有する。そのため、第3実施形態に係る超伝導クライオモジュール1の構成のうち、第1実施形態に係る超伝導クライオモジュール1とは異なる構成である電子銃11の構成について説明する。
【0036】
電子銃11は、光電子放出型電子銃であり、陰極にレーザ光を照射し、光電効果を利用して、電子を放出する。光電効果は、物質が光子を吸入して、電子を放出する現象である。例えば、金属に短波長のレーザ光を照射すると、金属表面から電子が放出する。光電子放出型電子銃の陰極には、光電効果による光子と電子の変換効率を意味する量子効率が高い材料を用いることができる。
【0037】
この構成によれば、超伝導加速空洞12の内部に電子銃11を設けることができるため、超伝導クライオモジュール1を小型化することが可能となる。
【0038】
(構成と効果)
本開示の第1態様に係る超伝導クライオモジュールは、電子を加速するセル部122と、セル部122から電子の入射側に延びるビームパイプ部121Aと、セル部122で加速された電子を放出する放出部121Bとを有する超伝導加速空洞12と、超伝導加速空洞12のビームパイプ部121Aの内部に位置し、かつ、超伝導加速空洞12のビーム軸BAと同軸上に位置し、セル部122に電子を放出する電子銃11と、を備える超伝導クライオモジュール1である。
【0039】
この構成によれば、超伝導クライオモジュール1の電子銃を超伝導加速空洞12のビームパイプ部121Aの内部に収めることができる。そのため、電子銃11を超伝導クライオモジュール1の外部に設けて接続する必要が無くなるため、装置全体を小型化することが可能となる。
【0040】
本開示の第2態様に係る超伝導クライオモジュールは、第1態様に係る超伝導クライオモジュール1において、電子銃11が、熱電子放出型電子銃であり、電子を放出する陰極の周囲に、電子が通過するビームホールが形成され、陰極を囲って形成された複数の金属板を含む熱遮蔽板部113を備える。
【0041】
この構成によれば、熱電子放出型電子銃の陰極からの輻射熱が超伝導加速空洞12に伝わることを防ぐことが可能となる。そのため、超伝導加速空洞12の温度を低温に維持すること可能となることから、超伝導加速空洞12を超伝導状態に維持することが可能となり、超伝導クライオモジュール1の安定動作が可能となる。
【0042】
本開示の第3態様に係る超伝導クライオモジュール1は、第1態様又は第2態様に係る超電導クライオモジュールにおいて、超伝導加速空洞12に高周波電力を供給するRF入力カプラと、をさらに備え、RF入力カプラ16は、電子銃11の最外殻に接続される中央部161と、ビームパイプ部121Aに接続される外周部162と、を備え、ビームパイプ部121Aが外導体、電子銃11の最外殻が内導体をなすことで形成された同軸構造によって、超伝導加速空洞12へ高周波電力を伝搬する。
【0043】
この構成によれば、RF入力カプラ16からビームパイプ部121Aを外導体、電子銃11の最外殻を内導体とする同軸構造に対して高周波電力を供給することができる。そのため、電子銃11から放出された電子を高周波電力により加速し、セル部122に導入することが可能となる。
【0044】
本開示の第4態様に係る超伝導クライオモジュールは、第3態様に係る超伝導クライオモジュール1において、電子銃11が、陽極に一部が切り抜かれた切り欠き部114と、をさらに備え、切り欠き部114を介して、電子銃11の陰極から放出される電子に対して電場を付与する高周波電力が供給され、高周波電力を制御することで、電子銃11の陰極から放出される電子の引き出し、及び加速が制御される。
【0045】
この構成によれば、切り欠き部114から高周波電力を供給することから、電子銃11の陰極から放出された電子に対して電場を付与することでビームの制御をすることが可能となる。
【0046】
本開示の第5態様に係る超伝導クライオモジュールは、第2態様から第4態様のいずかに係る超伝導クライオモジュール1において、電子銃11が、陽極112と熱遮蔽板部113を構成する金属板の間に誘電体116を備える。
【0047】
この構成によれば、誘電体116により高周波電力の伝達時間を制御することが可能となる。そのため、超伝導加速空洞12の高周波電力の周期変動に合わせて適切なタイミングで、電子銃11から電子を超伝導加速空洞12に放出することが可能となる。
【0048】
本開示の第6態様に係る超伝導クライオモジュールは、第1態様に係る超伝導クライオモジュール1において、電子銃11は、電界放射型電子銃であり、エミッタと、引き出し電極と、加速電極とを備え、エミッタから放出された電子を、引き出し電圧により引き出し、加速電極による加速電圧により前記電子を加速する。
【0049】
この構成によれば、超伝導クライオモジュール1の電子銃11を超伝導加速空洞12のビームパイプ部121の内部に収めることができる。そのため、電子銃11を超伝導クライオモジュール1の外部に設けて接続する必要が無くなるため、装置全体を小型化することが可能となる。
【0050】
本開示の第7態様に係る超伝導クライオモジュール1は、第1態様に係る超伝導クライオモジュール1において、電子銃11が、光電子放出型電子銃であり、陰極にレーザ光を照射し、光電効果を利用して、電子を放出する。
【0051】
この構成によれば、超伝導クライオモジュール1の電子銃11を超伝導加速空洞12のビームパイプ部121の内部に収めることができる。そのため、電子銃11を超伝導クライオモジュール1の外部に設けて接続する必要が無くなるため、装置全体を小型化することが可能となる。
【0052】
本開示の第8態様に係る超伝導クライオモジュールは、第1態様に係る超伝導クライオモジュール1において、電子銃11の陰極の先端部が、セル部122の入口部分よりも電子の移動方向の上流側に離れた位置に配置される。
【0053】
この構成によれば、電子銃11から放出された電子をセル部122に導入することができることから、高周波電力が印加されたセル部122において電子銃11から放出された電子を適切に加速することが可能となる。
【0054】
本開示の第9態様に係る超伝導クライオモジュール1は、第1態様に係る超伝導クライオモジュール1において、超伝導加速空洞12に接続され、超伝導加速空洞12を冷却する冷却機18と、をさらに備え、冷却機18は、超伝導加速空洞12と接続する接続部19を有し、冷却機18は、冷却機18の中心軸CAと、超伝導加速空洞12のビーム軸BAのなす角度が直角、かつ、ねじれの位置に配置される。
【0055】
この構成によれば、超伝導加速空洞12などを収納する真空槽15の高さ、及び幅を短縮することが可能となることから、超伝導クライオモジュール1を小型化することが可能となる。
【0056】
以上、本発明の実施形態を説明したが、この実施形態の内容により実施形態が限定されるものではない。また、前述した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、前述した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。さらに、前述した実施形態の要旨を逸脱しない範囲で構成要素の種々の省略、置換又は変更を行うことができる。
【符号の説明】
【0057】
1 超伝導クライオモジュール
11 電子銃
111 陰極
112 陽極
113 熱遮蔽板部
114 切り欠き部
115 電源
12 超伝導加速空洞
13 熱シールド
14 磁気シールド
15 真空槽
16 RF入力カプラ
17 真空バルブ
18 冷却機
181 第1ステージ
182 第2ステージ
183 コールドヘッド
19 接続部
BA ビーム軸
CA 中心軸